(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ゲル状組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 29/231 20160101AFI20240729BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20240729BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20240729BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20240729BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20240729BHJP
A23L 9/10 20160101ALI20240729BHJP
A23L 21/10 20160101ALI20240729BHJP
【FI】
A23L29/231
A23L29/256
A23L29/269
A23L29/238
A23L29/262
A23L9/10
A23L21/10
(21)【出願番号】P 2020075188
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】石野 史歩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 章一
(72)【発明者】
【氏名】有馬 香苗
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-081420(JP,A)
【文献】特開2013-085508(JP,A)
【文献】特開2015-173609(JP,A)
【文献】特開平11-018723(JP,A)
【文献】特許第4583352(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0177176(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/20-29/294
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、ブリックス糖度が40
~70であり、かつ、ペクチン
及び微細化水不溶性食物繊維を含む、
ゼリー(グミ食品を除く)又はプディングであるゲル状組成物
であって、かたさ応力1000~16000N/m
2
、歪率70%以下、及び付着性150J/m
3
以下の1つ以上の特性を満たす、前記ゲル状組成物。
【請求項2】
寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン及びジェランガムから選択される少なくとも1種のゲル化剤を含む、請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
ゲル化剤が少なくとも寒天を含む、請求項2に記載のゲル状組成物。
【請求項4】
水分含有量が40~60質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項5】
1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、ブリックス糖度が40
~70で
あり、かたさ応力1000~16000N/m
2
、歪率70%以下、及び付着性150J/m
3
以下の1つ以上の特性を満たす、ゼリー(グミ食品を除く)又はプディングであるゲル状組成物の製造方法であって、ペクチン
及び微細化水不溶性食物繊維を加配する工程を含む、製造方法。
【請求項6】
寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン及びジェランガムから選ばれる少なくとも1種であるゲル化剤、並びに、ペクチン
及び微細化水不溶性食物繊維を含む基材を、ブリックス糖度30以下となる量の糖質を含む状態で加温水和してゲル化剤溶液を調製する工程を含む、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
ゲル化剤が少なくとも寒天を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ゲル状組成物の水分含有量が40~60質量%である、請求項5~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
ペクチン
及び微細化水不溶性食物繊維をゲル状組成物に加配する工程を含む、
1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、かつブリックス糖度が40~70のゼリー(グミ食品を除く)又はプディングであるゲル状組成物の食感を改善する方法。
【請求項10】
ペクチン
及び微細化水不溶性食物繊維を含む、
1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、かつブリックス糖度が40~70のゼリー(グミ食品を除く)又はプディングであるゲル状組成物の食感改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質を多く含み高カロリーであるとともに、食感に優れたゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、病気を治療するための食事療法が医療界で注目されており、各種の医療食が開発されている。これらの医療食では、必要な栄養成分が補強されると共に、患者が食べやすい食事として提供されることが重要である。特に、病気や高齢等の理由により体力や食欲が低下している患者については、エネルギーを確保するために糖質や脂質を十分補強する必要があり、例えば、食べやすいデザートとしてカロリー(糖質)を補強できる生菓子タイプの高カロリーゼリーが開発されている。
【0003】
高カロリーゼリーとしては、例えば特許文献1に記載されるエネルギー補給用ゼリーが報告されている。しかしながら、ゼリー等のゲル状組成物についてさらにカロリーを上げるために糖度を上げようとすると、原料液中の糖質の含有量が高くなると共に水分含有量が減ることによりべたついた性質となり、ゲル化剤の量を増やしても、弾力、付着性、硬さ等の点で全体としてゼリーとしての食感が大きく劣化する問題点がある。
すなわち、特許文献1の実施例1に記載された種類の原料によって、例えば、ブリックス糖度45のエネルギー補給用ゼリーを調製した場合、ゼリーの食感及び粘り等は、ある程度喫食可能なものとなる(本明細書の比較例1を参照)。しかし、マルトオリゴ糖を増やして、原料の水分が減り、ブリックス糖度55のさらに高カロリーのゼリーを調製した場合には、ゼリーの食感が硬くなったり、唇等にゼリーが付着したり、ベタつく等の問題が発生し、喫食に不適なものとなる(本明細書の比較例2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高エネルギーで、かつ、食感の優れたゲル状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、糖分等を多量に含めることにより高カロリーとしたゲル状組成物において、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を含むものとすることによって優れた食感が得られることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、ブリックス糖度が40以上であり、かつ、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を含む、ゲル状組成物を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、ブリックス糖度が40以上であるゲル状組成物の製造方法であって、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を加配する工程を含む、製造方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維をゲル状組成物に加配する工程を含む、ゲル状組成物の食感を改善する方法を提供する。
さらに、本発明は、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を含む、ゲル状組成物の食感改善剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、糖質を多く含み高カロリーで、食感に優れたゲル状組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のゲル状組成物は、1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、ブリックス糖度が40以上であり、かつ、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を含む。
【0012】
本発明のゲル状組成物は、好ましくは経口により摂取される経口組成物であり、典型的には一般に菓子やデザートとして認識されるゼリー、プディング等として提供されるものである。また、本発明のゲル状組成物は、通常の市販のゼリー等と比較して高カロリーのものであり、例えば医療用に、効率的なエネルギー補給を可能とするエネルギー補給用ゼリーとしての使用に適している。
【0013】
本発明のゲル状組成物は、1g当たりのカロリーが1.5kcal以上、好ましくは1.8kcal以上、さらに好ましくは2.0kcal以上である。1g当たりのカロリーの上限は、ゲル状組成物の製造条件下で適切に添加できる糖質の量に応じて当業者が適宜調整することが可能であるが、例えば3.0kcal以下、好ましくは2.5kcal以下、さらに好ましくは2.2kcal以下等とすることできる。
ここで、カロリーの測定は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、栄養表示基準(平成15年4月24日 厚生労働省告示第176号)別表第2の第3欄記載の方法、すなわち修正アトウォーター法で算出することができる。
【0014】
本発明のゲル状組成物のブリックス糖度は40以上、より好ましくは45以上、さらに好ましくは50以上であり、例えば、51以上、52以上、53以上、54以上、55以上等とすることができる。また、ブリックス糖度の上限に制限はないが、好ましくは70以下であり、さらに好ましくは68以下とすることができる。ブリックス糖度は好ましくは40~70、より好ましくは43~68、例えば、45~65、48~63、50~60の範囲とすることができ、53~58の範囲が最も好ましい。なお、本明細書において、ブリックスとは、20°Cにおける屈折率を測定し、純蔗糖溶液(サッカロース)の重量/重量パーセントに換算(国際砂糖分析法標準化委員会の換算表を使用)した値をいう。
【0015】
本発明においては、上記のブリックス糖度を得るのに必要な量の糖質が添加される。本発明の方法に使用される糖質は何れの糖質でもよいが、一般に高カロリーのゼリーには大量の糖質が加えられることになるため、特に還元糖等の低甘味性の糖質が好ましい。砂糖と比べた場合の甘味が1/2以下程度、例えば1/4以下程度の糖質が好ましく、マルトース、直鎖オリゴ糖、還元分岐オリゴ糖、マルトオリゴ糖(デキストリン)、マルトデキストリン、グラニュー糖、酵素糖化水あめ等を単独あるいは適宜組み合せて使用することが好ましい。上記の糖質によって、甘味がやわらかに感じられて、しかも高カロリーのゼリーが得られるため、本発明の効能が最大限発揮される。
【0016】
糖質の使用量は求めるゼリーの糖度(ブリックス)に応じて当業者が容易に設定することが可能である。また、他の原料に糖質が含まれるのであれば、その量も勘案して量を設定することができる。例えば、前記の糖質(砂糖と比べた場合の甘味が1/2以下程度のもの)を用いる場合は、乾燥重量として25~68%程度を使用することで、概ねゼリーに好ましいブリックスが得られる。
【0017】
本発明のゲル状組成物の水分含有量に制限はなく、具体的な水分量は通常、他の成分との合計においてゲル状組成物全体が100質量%となるような残量として決定することができる。ただし、本発明の所定のカロリー及びブリックス糖度を満たすゲル状組成物は、通常は糖質を多く含むものであるため、含み得る水分量は、糖質及び他の成分の含有量に応じて必然的に制限される。この場合でも、本発明によって、低水分含有量に拘らず、高カロリーであるとともに、食感に優れたゲル状組成物を得ることが可能となる。ゲル状組成物の水分含有量は、例えば60質量%以下であり、より好ましくは40~60質量%であり、特に好ましくは45~50質量%である。
【0018】
本発明のゲル状組成物は、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を含む。ペクチンとは、ガラクチュロン酸を主成分とする一般に知られる複合多糖類であり、ガラクチュロン酸のカルボキシル基がメチルエステル化されたものをいう。本発明においては、ペクチンを構成する全ガラクチュロン酸のうち、メチル化ガラクチュロン酸の占める割合(エステル化度、DE値ともいう)が50%以上のもの(HMペクチン)が好ましい。さらに、HMペクチンのなかでもエステル化度が約60以上のものが好ましく、約60~80のものがより好ましい。このようなエステル化度の高いペクチンを使用することにより、エステル化度がより低い、所謂LMペクチンと比較して、更に高い食感改善効果を達成することができる。ペクチンのエステル化度は、食品添加物公定書第8版に収録されているペクチンの試験法に記載の方法に従って測定することができる。ペクチンを添加する場合、その含有量は組成物全体に対して0.001~0.5質量%、好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.01~0.1質量%、さらに好ましくは0.02~0.05質量%とすることができる。
【0019】
また、「微細化水不溶性食物繊維」とは、水に溶解しない(水不溶性)食物繊維であって、細かく調製された食物繊維のことをいう。「微細化水不溶性食物繊維」としては、当技術分野で通常使用される食物繊維を特に制限されることなく採用することができるが、例えば、セルロース、レモン・ライム由来の食物繊維であるヘルバセルAQプラスCF(大日本住友製薬株式会社製)、難消化性デキストリン、ヘミセルロース、水不溶性海草多糖類、水不溶性ペクチン質、キチン、キトサン、及びリグニンからなる群から選択される少なくとも1種又はそれらを含む混合物であってもよく、好ましくは、粉末セルロース及び/又は結晶セルロースである。粉末セルロース又は結晶セルロースは、例えば食品添加物公定書で規格された粉末セルロース又は微結晶セルロースである。前記微細化水不溶性食物繊維の精製の程度は特に限定されず、結晶セルロースのような高純度のものだけでなく、小麦ファイバー、ニンジンパルプ、又はリンゴパルプ等の純度の低いものも使用することができる。前記微細化水不溶性食物繊維の形態は、特に限定されず、単成分の粉末であってもよく、増粘剤(例えばデンプン)等との混合粉末であってもよい。また、上記のセルロースは、セルロース複合体の一部として配合されてもよい。「セルロース複合体」とは、例えば、セルロースと水溶性ガムからなり、セルロースの表面が、水素結合等の化学結合により、前記水溶性ガムで被覆されたものである。当該水溶性ガムとして含まれるペクチンを、前記のペクチンとして用いてもよい。なお、微細化水不溶性食物繊維は、水溶性の難消化性食物繊維とは別異のもので、後者では、本発明の効果を達成することができない(比較例1及び比較例2を参照)。
【0020】
微細化水不溶性食物繊維を添加する場合、その含有量は組成物全体に対して0.001~3質量%、好ましくは0.005~1質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%、さらに好ましくは0.02~0.1質量%とすることができる。また、前記微細化水不溶性食物繊維の粒子径は、約100μm以下であってもよく、好ましくは約85μm以下、より好ましくは約50μm以下であるか、又は、約5μm以上であってもよく、好ましくは約10μm以上、より好ましくは約35μm以上である。セルロース複合体等の製剤の場合は、これらに含まれるセルロース等の微細化水不溶性食物繊維の含有量及び粒子径を、前記の範囲内とすればよい。
【0021】
本発明は、上記のペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維以外に、一般的に使用される周知のゲル化剤を適宜含んでもよい。使用し得る周知のゲル化剤としては、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム等が挙げられ、これらを組み合わせて使用してもよい。寒天は当該技術分野に知られるどのようなものを使用してもよいが、即溶性寒天であることが好ましい。上記の周知のゲル化剤を添加する量は当業者が適宜決定することができるが、例えば、組成物全体に対して、寒天を0.05~0.5質量%、好ましくは0.08~0.2質量%、ローカストビーンガムを0.01~0.05質量%、好ましくは0.02~0.04質量%、キサンタンガムを0.01~0.07質量%、好ましくは0.03~0.06質量%、カラギーナンを0.01~2質量%、好ましくは0.1~1質量%、ジェランガムを0.01~2質量%、好ましくは0.1~1質量%含めることができる。なお、本明細書において、上記のゲル化剤の重量は乾燥重量に基づく。
【0022】
さらに、本発明のゲル状組成物は、周知の他の添加剤を適宜添加することができる。そのような他の添加剤としては、難消化性食物繊維、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、各種色素、香料等が挙げられる。
上記の「難消化性食物繊維」としては、水溶性の難消化性デキストリン、イソマルトデキストリンが挙げられる。
【0023】
また、本発明のゲル状組成物は、好ましくはカリウム含量が0.5~50mg/100gであり、より好ましくは1~20mg/100g、特に好ましくは3~5mg/100gである。特にカリウム含量を抑えることによって、腎臓病患者に適した製品とすることも可能となる。
【0024】
本発明のゲル状組成物は当業者が周知の方法によって製造することができ、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を加配する工程を含む。ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維は、上記の寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン及びジェランガムから選ばれる少なくとも1種であるゲル化剤と一緒に加温水和してゲル化剤溶液を調製してもよいし、上記のゲル化剤とは別に加温水和した上で、他の原料と一緒に、上記のゲル化剤と水を含むゲル化剤溶液に加えてもよい。好ましくは、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維は、他と一緒に加温水和されてゲル化剤溶液が調製される。
【0025】
また、上記のゲル状組成物の製造方法において、糖度が低い状態、好ましくは糖質を実質的に含まない状態で、上記のゲル化剤を含む基材を加温水和してゲル化剤溶液を調製し、その後に残りの糖質を加えることが好ましい。上記の糖度が低い状態としては、例えばブリックス糖度30以下となる量の糖質を含む状態を採用することができる。また、上記の“糖質を実質的に含まない状態”とは、本発明に使用される前記の糖質が単独の原料として加えられていない状態を含む。
【0026】
すなわち、好ましい一態様において、本発明のゲル状組成物の製造方法は、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン及びジェランガムから選ばれる少なくとも1種であるゲル化剤、並びに、ペクチン及び/又は微細化水不溶性食物繊維を含む基材を、ブリックス糖度30以下となる量の糖質を含む状態で加温水和してゲル化剤溶液を調製する工程を含む。上記の態様において、最終のゲル状組成物に必要な糖質及び他の成分は、加温水和して調製した上記ゲル化剤溶液に後から追加される。
【0027】
ゲル化剤を加温水和させるための条件は、上記水和が達成される限り制限はなく、使用するゲル化剤の溶解温度以上であればよいが、本発明においては、例えば約70~100℃、好ましくは約75~90℃、例えば80℃で、0(達温)~20分間程度、好ましくは5~15分間、例えば10分とするのが、ゲル化剤の溶解性を高め、ゼリーのゲル化を好適に達成する上で好ましい。水和の際使用する水の量は特に制限されない。尚、前記本発明における各態様の条件を満たす限り、ゲル化剤を分けて加温水和してもよく、他の原料を加えた状態で水和させてもよい。加温水和は適宜撹拌条件下で行い得る。ゲル化剤は乾燥粉末(各種製剤を含む)、あるいは一旦液化したもの等何れの態様で用いてもよい。上記の製造方法においては、調製されたゲル化剤溶液に糖質及び必要に応じて他の原料を加えてゲル状組成物の基材が調製される。
【0028】
ゲル化剤溶液に添加する糖質及び他の原料は、乾燥粉末あるいは液化したもの等の何れでもよいが、糖質については、溶解が容易であるため液化したもの(シロップ)を用いることが望ましい。また、予め糖質及び他の原料を加温水和したものをゲル化剤溶液に加えることもでき、この場合糖質は約50~80℃の温度に加温水和することが好ましい。
【0029】
粉末状の糖質等を用いる場合は、ゲル化剤を加温水和してゲル化剤溶液を得た後、これに上記の原料を加えて更に加熱を続けて水和させることができる。これらの各処理は適宜撹拌条件下で行い得る。各原料の溶解混合を効率的に行うために、ゲル化剤溶液の調製から糖質等の添加までの工程を連続的に加熱しながら行うことができる。
【0030】
なお、このように調製した基材に、必要により酸原料を加えてpHを調整することができる。基材のpHを、酸味料等によって例えばpH3.0~4.6の範囲に調整することにより、より安定にゲル化したゲル状組成物を製造することが可能となる。この基材を適当な容器に充填し、次に冷却固化を行う。なお、この段階で必要に応じてシール、密封して、加熱殺菌を行ってもよい。加熱殺菌は、容器に充填したゼリー基材を温水層に入れて、ゼリー基材の温度を75~95℃にしてから10~30分間保持することにより行われる。このように、必要により加熱殺菌処理を施すことにより、最終製品の常温流通が可能となる。
【0031】
固化温度は、使用するゲル化剤の種類、含有量、比率に応じて当業者が任意に設定することが可能であるが、本発明においては例えばゲルの温度が20~50℃、好ましくは20~40℃になるまで冷却することにより固化させることができる。
【0032】
本発明のゲル状組成物は、好ましくは、かたさ応力1000~16000N/m2、歪率70%以下、及び付着性150J/m3以下の1つ以上の特性を満たす。かたさ応力、歪率及び付着性は、下記の実施例で記載した方法により求められる物性値である。かたさ応力は、より好ましくは1000~10000N/m2、より好ましくは2000~7000N/m2である。また、歪率は70%以下であることが好ましく、60%以下であることがさらに好ましく、55%以下であることが特に好ましい。例えば、歪率は30~60%とすることができる。また、付着性は150J/m3以下であることが好ましく、80J/m3以下であることがより好ましく、50J/m3以下であることがさらに好ましく、40J/m3以下であることが特に好ましい。
【0033】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本願発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
(実施例1~10、比較例1~2)
下記表に示したゲル組成の配合に従い、寒天(即溶性寒天)、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ペクチン(比較例1、2を除く)、セルロース複合体(微細化水不溶性食物繊維として結晶セルロース80質量%を含む)(比較例1、2を除く)、難消化性食物繊維、及びクエン酸三ナトリウムを水に加え、85℃に加熱溶解してゲル化剤を水和させ、ゲル化剤溶液を得た。各ゲル化剤溶液のブリックス糖度は約9であった。
このようにして得られた各ゲル化剤溶液に、マルトオリゴ糖を加えてさらに60℃で2分間混合し、さらにクエン酸、色素、香料を加えてゼリー基材を調製した。各ゼリー基材のブリックス糖度、カロリー、カリウム含有量、及びpHは、表に示したとおりであった。
各ゼリー基材を55°Cまで冷却した後、容量60ccの容器に充填し、シールし、密封し、温水層で80℃の温度にして20分間殺菌を行った。その後35℃にまで冷却してゲル状組成物を得た。
【0035】
(実施例11~13)
下記表に示したゲル組成の配合に従い、全ての原料を一括で混合した後に、85℃に加熱溶解してゲル化剤を水和させ、ゲル化剤溶液を得た。このようにして得られた各ゲル化剤溶液(ゼリー基材)より、他の実施例と同様に冷却してゲル状組成物を得た。
【0036】
使用した原料の一部の詳細は以下の通りである。
<ペクチン>
「ペクチンAYD5110SB」(シトラス由来HMペクチン)(ユニテックフーズ)
<セルロース複合体>
「セオラスRC-N81」(旭化成ケミカルズ)
組成:結晶セルロース80%、カラヤガム10%、デキストリン10%
繊維長:約8~10μm
<難消化性食物繊維>
「ファイバーソル2H」(還元型難消化性デキストリン)(松谷化学)
【0037】
調製した各ゲル状組成物について、下記の評価基準に従って評価した。
<食感の弾力>
◎:軽さがあり、ほどよい弾力のある食感
○:重さを感じにくく、弾力のある食感
△:重さが感じられ、弾力も弱い
×:羊羹のように硬い、弾力のない食感である
<食感の付着性、口どけ>
◎:ベタつかず、口どけが良い
○:口どけは良いが、ややくちびるにベタつきを感じる
△:くちびるにベタつきが残り、口どけも悪い
×:くちびるにベタつき重い
【0038】
また、実施例2、11~13についてかたさ応力(N/m2)、歪率(%)及び付着性(J/m3)を測定した。
山電株式会社製RHEONER II RE2-33005Bを用い、各試料のゲル状組成物(品温20±2℃)を直径40mmの容器に高さ15mmに充填して、直線運動による圧縮操作を2回繰り返して測定した(ロードセル:20N、プランジャー:Φ16mmの円柱型、サンプル圧縮速度:1mm/s、クリアランス:試料の厚さの30%)。
【0039】
【0040】
<試験結果>
1.実施例1と比較例1の結果から、ブリックス糖度が約45で、1g当たりのカロリーが1.6kcalのゼリーでは、ペクチン及びセルロース複合体(微細化水不溶性食物繊維として結晶セルロース80質量%を含む)を含むことで、高カロリーであるとともに、より弾力性のある、付着性の低い、口どけが滑らかなゼリーが得られる。これらを含まないものは、明らかに前記の性能に劣る。
2.実施例2~4と比較例2の結果から、ブリックス糖度が約55で、1g当たりのカロリーが2kcalである、より高カロリーのゼリーにおいても、ペクチン及びセルロース複合体を含むことで、ペクチン及びセルロース複合体のいずれも含まない場合の、喫食に適さないレベルのものと比べて、弾力性、付着性、口どけが、大幅に改善される。
3.実施例5~8の結果から、ブリックス糖度が約55のゼリーについて、ペクチンの含有量を0.01~0.1質量%、セルロース複合体の含有量を0.01~1質量%(結晶セルロースの含有量を0.008~0.8質量%)の範囲でそれぞれ変動させても、食感の弾力及び付着性が改善される。
4.実施例9~10の結果から、ブリックス糖度が約62で、1g当たりのカロリーが2.27kcal又はブリックス糖度が約65で、1g当たりのカロリーが2.4kcalの、さらに高カロリーのゼリーにおいても、ペクチン及びセルロース複合体を含むことで、食感の弾力及び付着性が改善される。
5.実施例11~13の結果から、ゲル化剤と他の原料を含む全ての原料を混合した後に、加熱溶解してゲル化剤を水和させて製造した場合であっても、食感の弾力及び付着性が改善された高カロリーゼリーを得ることができる。
6.実施例2、11~13の結果から、本発明を実施すると共に、寒天の量を適宜調整することによって、特定のかたさ応力、歪率及び付着性を有する高カロリーゼリーを得ることができる。
この場合に、大よそ、かたさ応力1000~16000N/m2、歪率70%以下、及び付着性150J/m3以下の特性を満たす高カロリーゼリーが、軟らかさのある、求めるゼリーの食感を有するものとなる。
なお、実施例2と実施例11は、いずれも同じ組成の原料を用い、前者は、低ブリックス糖度のゲル化剤溶液を調製する工程を含み、後者は、全ての原料を一括で混合する工程をとる。
実施例11~13で、原料を一括で混合する工程をとる場合、ゲル状組成物は、弾力の緩い、軟らかなゲルとなる傾向がある。一方で、これらの場合にも、ペクチン及び微細化水不溶性食物繊維を含み、ゲル状組成物の物性値を、前記の好適範囲内にすることにより、ペクチン及び微細化水不溶性食物繊維を含まない比較例1のものと比べて、食感の弾力、付着性が改善される。