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特許7527841燻煙処理穀粉、及びそれを含む加熱調理用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】燻煙処理穀粉、及びそれを含む加熱調理用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240729BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20240729BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240729BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L7/157
A23L5/10 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020088507
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021182869
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 明香
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126130(JP,A)
【文献】特開2020-000154(JP,A)
【文献】特開2011-062117(JP,A)
【文献】特開2012-090581(JP,A)
【文献】特開2017-018097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00 - 5/30
A23L 7/00 - 7/104
A23L 7/117 - 9/20
A23L 27/00 - 27/40
A23L 27/60
A23L 29/00 - 29/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燻煙処理穀粉を含む加熱調理用組成物を製造する方法であって、
原料穀粉を、CIELAB表色系における色差(ΔE * ab)が2.5~13.0となるように燻煙処理し、燻煙処理穀粉を製造する工程、
製造された前記燻煙処理穀粉を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含み、
前記加熱調理用組成物が、打ち粉、ブレッダー、及びバッターからなる群から選択される1種以上である加熱調理用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料穀粉が小麦粉及び/又は大豆粉である請求項1に記載の加熱調理用組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって製造された加熱調理用組成物を具材に付着させて加熱調理する加熱調理食品の製造方法。
【請求項4】
前記加熱調理が、油ちょう、焼成、蒸し、電子レンジ調理及び/又は過熱水蒸気調理である請求項に記載の加熱調理食品の製造方法。
【請求項5】
燻煙処理穀粉を含む加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤の製造方法であって、
原料穀粉を、CIELAB表色系における色差(ΔE * ab)が2.5~13.0となるように燻煙処理し、燻煙処理穀粉を製造する工程、
製造された前記燻煙処理穀粉を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含む加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤の製造方法。
【請求項6】
前記原料穀粉が小麦粉及び/又は大豆粉である請求項5に記載の加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法によって製造された加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤を具材に付着させて加熱調理する加熱調理食品に塩味を付与又は増強する方法。
【請求項8】
燻煙処理穀粉を含む加熱調理用組成物であって、
前記燻煙処理穀粉が燻煙処理小麦粉であり、CIELAB表色系におけるb*が10.0~18.0であり、
前記加熱調理用組成物が、打ち粉、ブレッダー、及びバッターからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする加熱調理用組成物
【請求項9】
燻煙処理穀粉を含む加熱調理用組成物であって、
前記燻煙処理穀粉が燻煙処理大豆粉であり、CIELAB表色系におけるb*が19.0~27.0であり、
前記加熱調理用組成物が、打ち粉、ブレッダー、及びバッターからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする加熱調理用組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙処理穀粉に関し、特に揚げ物や焼き物等に用いられる加熱調理用組成物に適した燻煙処理穀粉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、肉類、魚介類、野菜類等の具材の揚げ物や焼き物等の加熱調理食品を製造する際に、小麦粉等の穀粉を含む打ち粉、ブレッダー、バッター等の加熱調理用組成物が使用されている。従来から、揚げ物や焼き物等の加熱調理食品の食感や風味の改善等を目的として、穀粉に加熱処理等を施した新たな素材の開発が行われている。例えば、特許文献1では、風味、食感などが一層向上した食品を得ることができる焙焼小麦粉、特に揚げ物用小麦粉として、衣の風味および食感を向上させ、さらに衣と揚げ物種との結着性も向上させることができる焙焼小麦粉を提供することを目的として、含有澱粉が実質的にα化されておらず、 グルテン・バイタリティーが、未処理小麦粉のグルテン・バイタリティーを100としたときに、70~90であり、白度が、未処理小麦粉の白度を100としたときに、90~100であることを特徴とする焙焼小麦粉が開示されている。また、特許文献2では、サクサク、カリッとした歯切れの良い食感のフライ食品の衣を得ることが出来るバッター組成物及びこれを使用したフライ食品を提供することを目的とし、品温80℃以上110℃以下で10分間以上40分間以下湿り蒸気で湿熱処理したうるち米粉をバッター組成物中に1質量%以上70質量%以下含むバッター組成物が開示されている。
【0003】
一方、燻煙処理により穀粉を処理する技術も開発されている。例えば、特許文献3では、合成保存料等を添加しなくとも食品の保存性を向上させることができる、新規な保存食品およびその製造方法並びに保存食品用食材パックを提供することを目的とし、保存性に優れた保存食品の製造方法であって、食材を燻煙で燻すことにより燻製にする燻製工程と、前記燻製工程で燻製にされた食材を含んで調理または加工することにより保存食品を得る調理/加工工程とを含むことを特徴とする、保存食品の製造方法が開示され、その一態様として、前記食材が小麦粉であり、前記調理/加工工程において該小麦粉を含んだ生地を加熱することにより前記保存食品としてパンを得る保存食品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-027325号公報
【文献】特開2013-106538号公報
【文献】特開2018-126130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2のように、穀粉自体を加工して得られた素材は、粒度や比重等の点で加熱調理用組成物に配合される穀粉と混合する際に均一に混合できる点で有利である。しかしながら、燻煙処理した穀粉については、特許文献3において、燻煙処理した小麦粉が保存性に優れたパンの製造用利用できることが開示されているものの、加熱調理用組成物に利用した場合、加熱調理食品の食感や風味に対して、如何なる効果があるのかについては未だ明らかになっていない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、加熱調理用組成物に用いる燻煙処理穀粉であって、加熱調理食品の食感や風味等を改善することが可能な燻煙処理穀粉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の条件で燻煙処理した穀粉を加熱調理用組成物に配合し、それらの効果について種々検討した結果、所定の条件で燻煙処理した穀粉を用いることで、加熱調理食品の食感の改善や風味の改善、特に塩味の付与又は増強ができることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、燻煙処理穀粉を含む加熱調理用組成物を製造する方法であって、原料穀粉を、CIELAB表色系における色差(ΔE * ab)が2.5~13.0となるように燻煙処理し、燻煙処理穀粉を製造する工程、製造された前記燻煙処理穀粉を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含み、前記加熱調理用組成物が、打ち粉、ブレッダー、及びバッターからなる群から選択される1種以上である加熱調理用組成物の製造方法、本発明の製造方法によって製造された加熱調理用組成物を具材に付着させて加熱調理する加熱調理食品の製造方法、燻煙処理穀粉を含む加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤の製造方法であって、原料穀粉を、CIELAB表色系における色差(ΔE * ab)が2.5~13.0となるように燻煙処理し、燻煙処理穀粉を製造する工程、製造された前記燻煙処理穀粉を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含む加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤の製造方法、本発明の製造方法によって製造された加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤を具材に付着させて加熱調理する加熱調理食品に塩味を付与又は増強する方法によって達成される。本発明において、「加熱調理用組成物」は、食肉類、魚介類、野菜類等の具材の揚げ物や焼き物等の加熱調理食品を製造する際に使用される小麦粉等の穀粉を含む打ち粉、ブレッダー、バッター等の粉粒体又は懸濁液を意味する。また、「加熱調理食品」は、食肉類、魚介類、野菜類等の具材に、前記加熱調理用組成物を付着させたものを油ちょう、焼成、蒸し、電子レンジ調理、過熱水蒸気調理等によって加熱調理した食品を意味し、具体的には、天ぷら、フリッター、から揚げ、竜田揚げ、パン粉付けフライ等の揚げ物、カツレツ、ピカタ、ソテー等の焼き物、蒸し調理された蒸し物、電子レンジ調理された食品、過熱水蒸気調理された食品等が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によって製造された燻煙処理小麦粉を加熱調理用組成物に用いることで、加熱調理食品の食感や風味の改善、特に塩味の付与又は増強ができるので、食感や風味が改善された加熱調理食品、特に減塩された加熱調理食品を容易に提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[燻煙処理穀粉の製造方法]
本発明の燻煙処理穀粉の製造方法は、加熱調理用組成物に用いる燻煙処理穀粉を製造する方法であって、原料穀粉を、CIELAB表色系における色差(ΔE*ab)が2.5~13.0となるように燻煙処理する工程を含むことを特徴とする。本発明において、CIELAB表色系における色差(ΔE*ab)は、下記の式(I)に従って算出される数値である。
【0011】
【数1】
【0012】
CIELAB表色系において、L*は、明度を表し、a*は、数値が大きい程、赤方向の色度が大きいことを表し、b*は、数値が大きい程、黄方向の色度が大きいことを表す。これらの数値から算出される色差(ΔE*ab)は、微妙な色の違いを数値化することができるので、燻煙処理の程度の指標になり得ると考えられる。本発明においては、原料穀粉を、上記範囲の色差(ΔE*ab)となるように燻煙処理して得られる燻煙処理穀粉を、加熱調理用組成物に配合することで、加熱調理食品の食感の改善(バッターに用いた場合は衣に歯脆さを付与し、打ち粉に使用した場合は食材である食肉類・魚介類の加熱後の食感を柔らかくする)や風味の改善、特に塩味の付与又は増強ができることが見出された。この作用機作は明確ではないが、燻煙処理により穀粉の表面に付着した樹脂成分や揮発性成分が、加熱調理食品の食感や風味に影響を与えるものと考えられる。後述する実施例で示す通り、上記色差(ΔE*ab)が、上記範囲に満たない場合、加熱調理食品の食感や風味の改善効果が認められず、上記範囲より大きい場合、加熱調理食品に焦げ臭が認められ、風味が悪化する。本発明において、上記色差(ΔE*ab)は、2.7~12.0が好ましく、3.0~10.0がさらに好ましい。なお、CIELAB表色系におけるL*、a*、b*は、分光測色計等を用いて測定できる。本発明においては、測定機器として、分光測色計CM-5(コニカミノルタジャパン株式会社製)を用い、SCE(正反射光除去)の条件で測定した。なお、試料は、付属シャーレに、照射光の透過を防止するため厚さ1cm以上となるように充填した。また分析データの解析には、機器付属の色彩管理ソフト(SpectraMagicNX)を用いた。
【0013】
本発明において、原料穀粉としては、食用に用いられる穀粉であれば特に制限はない。例えば、小麦粉(薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等)、大豆粉、大麦粉、そば粉、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉等、及びこれらの穀粉の複数種の混合物が挙げられる。原料穀粉としては、加熱調理用組成物に配合し易い点で、小麦粉及び/又は大豆粉が好ましい。
【0014】
本発明において、燻煙処理工程は常法に従って行なうことができる。例えば、燻煙材を加熱した容器の上方に配置したトレーやドラム等に入れた原料穀粉を燻煙処理する方法でも良く、燻煙発生装置によって発生させた燻煙を燻煙室に導入し、そこに配置したトレーやドラム等に入れた原料穀粉を燻煙処理する方法でもよい。原料穀粉を均一に燻煙処理するために燻煙処理中に手動又は自動で原料穀粉を撹拌することが好ましい。燻煙の温度及び時間については特に制限はない。燻煙処理方法は、一般に、15℃~30℃で長時間(例えば2~3週間)の燻煙処理を行なう冷燻、30~80℃で数十分~数時間の燻煙処理を行う温燻、80℃以上で短時間(例えば10分以下)の燻煙処理を行う熱燻があるが、いずれの燻煙処理方法でもよい。本発明においては、温燻又は熱燻が好ましい。燻煙材としても特に制限はなく、一般的に用いられるサクラ、ブナ、クルミ、リンゴ、ナラ、ヒッコリー、メープル、ホワイトオーク等を1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明の製造方法によって得られる燻煙処理穀粉としては、上述した原料穀粉が、それぞれ燻煙処理されてなる燻煙処理小麦粉、燻煙処理大豆粉、燻煙処理大麦粉、燻煙処理そば粉、燻煙処理ライ麦粉、燻煙処理米粉、燻煙処理トウモロコシ粉等、及びこれらの燻煙処理穀粉の複数種の組み合わせが挙げられる。各燻煙熱処置穀粉自体のCIELAB表色系におけるL*、a*、b*は、用いる原料穀粉の種類によって変化するので、全ての燻煙処理穀粉に対して一律の範囲では規定できない。加熱調理用組成物に用いる好ましい燻煙処理穀粉としては、前記燻煙処理穀粉が燻煙処理小麦粉であり、CIELAB表色系におけるb*が9.8~18.0であることが好ましく、さらに好ましくは10.0~17.0であることを特徴とする燻煙処理穀粉、及び前記燻煙処理穀粉が燻煙処理大豆粉であり、CIELAB表色系におけるb*が19.0~27.0であることが好ましく、さらに好ましくは20.0~25.0であることを特徴とする燻煙処理穀粉が挙げられる。前記燻煙処理穀粉のCIELAB表色系におけるa*については、燻煙処理穀粉が、燻煙処理小麦粉である場合は、0.4~1.5が好ましく、0.6~1.3がさらに好ましく、燻煙処理穀粉が燻煙処理大豆粉である場合は、0.7~3.0が好ましく、1.0~2.2がさらに好ましい。また、前記燻煙処理穀粉のCIELAB表色系におけるL*については、燻煙処理穀粉が、燻煙処理小麦粉である場合は、90.0~95.0が好ましく、燻煙処理穀粉が燻煙処理大豆粉である場合は、80.0~86.0が好ましい。
【0016】
本発明の燻煙処理穀粉の製造方法において、燻煙処理の程度は、得られた燻煙処理穀粉の揮発性成分を分析することによっても把握することができる。燻煙処理穀粉の揮発性成分は、固相マイクロ抽出―ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME-GC/MS)、すなわち、固相マイクロ抽出法(SPME法)により、試料から揮発した成分をSPMEファイバーに吸着させ、吸着させた揮発性成分はガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)によって分析することができる。SPME-GC/MS分析により得られたクロマトチャートから、燻煙処理穀粉の揮発性成分の構成比(ピーク面積値としての構成比)を算出することで燻煙処理の程度の指標となり得る。例えば、揮発性成分の総ピーク面積値の25~70%がアルデヒド類であり、アルデヒド類のうち70%以上100%未満がフルフラール(2-フルフラール、5-メチル-2-フルフラール、3-フルフラール)であることが好ましく、揮発性成分の総ピーク面積値の7~20%がケトン類であり、ケトン類のうち80%以上100%未満がアセトール及びジアセチルで構成されることが好ましく、揮発性成分の総ピーク面積値の20~40%が酸類であり、酸類のうち70%以上100%未満が酢酸であることが好ましい。
【0017】
[加熱調理用組成物の製造方法]
本発明の加熱調理用組成物の製造方法は、本発明の製造方法によって製造された燻煙処理穀粉を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含む。前記加熱調理用組成物は、加熱調理食品を製造するための打ち粉、ブレッダー、バッター用のプレミックスタイプの加熱調理用組成物として製造されてもよく、加熱調理食品を製造する際に、打ち粉、ブレッダー、バッター等としてその場で製造されてもよい。本発明の製造方法によって製造された加熱調理用組成物を用いることにより、加熱調理食品の食感や風味の改善、特に塩味の付与又は増強ができる。本発明の加熱調理用組成物の製造方法において、前記燻煙処理穀粉の配合量は、加熱調理用組成物の形態(粉体、懸濁液など)や種類(打ち粉等の下処理用の組成物、天ぷら粉やから揚げ粉等の衣材用の組成物など)、加熱調理食品の種類、加熱調理食品への使用方法等によって適宜設定することができる。例えば、前記燻製処理穀粉を打ち粉として使用する場合は、そのまま使用してもよく、原料粉体中に、5~95質量配合することができ、バッター、ブレッダー等の衣材として使用する場合は、原料粉体中に、好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%配合することができる。
【0018】
本発明の加熱調理用組成物の製造方法において、その他の材料については、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、通常の加熱調理用組成物に用いられる材料を配合することができる。例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等の小麦粉、米粉、大麦粉、大豆粉、そば粉、ライ麦粉、ホワイトソルガム粉、トウモロコシ粉、及びこれらの穀粉を加熱処理した加熱処理穀粉等の穀粉類;コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、ワキシータピオカ澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉等の澱粉、及びこれらの澱粉に物理的、化学的な加工を単独又は複数組み合わせて施した加工澱粉等の澱粉類が挙げられる。また、副資材としては、例えば、デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、ショ糖、マルトース、トレハロース等の糖質類;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;卵白粉、卵黄粉、全卵粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材;重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤;カードラン、キサンタンガム、グアガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、及びカラギーナン等の増粘剤;食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料;酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;その他、かぼちゃ粉、色素、香料、香辛料、酵素、種々の品質改良剤等が挙げられる。加熱調理用組成物がバッター、ブレッダー等の衣材である場合は、一般的な衣材よりも少ない塩分含有量となるように、食塩、粉末醤油等の塩分を含む素材を配合することが好ましい。
【0019】
[加熱調理食品の製造方法]
本発明の加熱調理食品の製造方法は、本発明の製造方法によって製造された燻製処理穀粉、又は本発明の製造方法によって製造された加熱調理用組成物を具材に付着させて加熱調理するものである。前記燻煙処理穀粉は、上述の通り、単独で加熱調理用組成物として使用することができる。本発明の製造方法によって製造された燻煙処理穀粉を含む加熱調理用組成物を用いることで、食感や風味が改善された加熱調理食品、特に塩味が付与又は増強された加熱調理食品を製造することができる。本発明の加熱調理食品の製造方法において、加熱調理用組成物は、常法に従って用いることができる。例えば、魚介類及び水産加工品類、畜肉類及び畜肉加工品類、野菜類を必要に応じて加工成形した具材、又はさらに必要に応じて調味液に浸漬した前記具材に、前記加熱調理用組成物を打ち粉として付着させてもよく、ブレッダーとしてまぶして付着させてもよい。また、前記加熱調理用組成物を、適切な加水率で、水やその他の液体(ビール、炭酸水、調味液等)を含むバッターとして調製し、前記バッターに前記具材を浸漬する、又は前記バッターを前記具材に塗布する等により前記バッターを前記具材に付着させてもよい。また、前記打ち粉や前記ブレッダーを付着させた後、バッターを付着させてもよく、前記バッターを付着させた後に、前記ブレッダーやパン粉をまぶしてもよい。本発明においては、上述のように具材に付着させる打ち粉、ブレッダー、及びバッターに用いる加熱調理用組成物の少なくとも1種が、前記燻煙処理穀粉を含んでいればよく、全ての加熱調理用組成物が、前記燻煙処理穀粉を含んでいてもよい。前記加熱調理用組成物を、バッターとして調製する際、加水率は、加熱調理食品の種類に応じて、適宜調整することができる。例えば加熱調理食品が、天ぷらの場合は、加熱調理用組成物100質量部に対して、80~180質量部が好ましく、から揚げであれば80~120質量部が好ましく、パン粉付けフライであれば150~1000質量部が好ましい。その後、前記加熱調理用組成物が付着した具材を、油ちょう、焼成、蒸し、電子レンジ調理、過熱水蒸気調理等の適切な加熱調理方法で加熱調理し、加熱調理食品を製造する。前記加熱調理は、本発明の効果がよく発揮される点で、油ちょう、焼成、電子レンジ調理及び/又は過熱水蒸気調理であることが好ましい。加熱調理食品としては、具体的には、天ぷら、フリッター、から揚げ、竜田揚げ、パン粉付けフライ等の揚げ物、カツレツ、ピカタ、ソテー等の焼き物、電子レンジ調理や過熱水蒸気調理によるノンフライ揚げ物用食品等が挙げられる。本発明においては、加熱調理する前に冷凍保存していてもよく、加熱調理後の加熱調理食品を冷蔵保存して、さらに加熱調理して製造してもよい。本発明の製造方法によって製造された加熱調理食品は、上述の通り、食感や風味が改善された加熱調理食品、特に塩味が付与又は増強された加熱調理食品である。
【0020】
上述の説明から理解できる通り、本発明は、本発明の製造方法によって製造された燻煙処理穀粉を、必要に応じてその他の材料と混合する工程を含む加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤の製造方法に関する。さらに、本発明の製造方法によって製造された加熱調理食品用塩味付与剤又は塩味増強剤を具材に付着させて加熱調理する加熱調理食品に塩味を付与又は増強する方法に関する。これにより、加熱調理食品の塩分を抑制することができるので、減塩された加熱調理食品を容易に提供することができる。
【実施例
【0021】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.燻煙処理穀粉の製造
表1に示した原料穀粉を用いて、表2に示した条件で燻煙処理を行い、各燻煙処理穀粉を製造した。燻煙処理は、市販のスモーカー(ユニフレーム社製フォールディングスモーカーFS-600)を用い、庫内の上段及び下段に設置したトレー上で処理した。加熱にはシングルバーナー(ユニフレーム社製テーブルトップバーナー)を用いた。また、各原料穀粉、及び得られた燻煙処理穀粉のCIELAB表色系におけるL*、a*、b*を表1及び表2に示す。なお、表2には、上記式(I)によって算出された各燻煙処理穀粉の色差(ΔE*ab)も示す。CIELAB表色系におけるL*、a*、b*は分光測色計(CM-5:コニカミノルタジャパン株式会社製)を用いて、SCE(正反射光除去)の条件で測定した。さらに、原料穀粉として小麦粉を用いた燻煙処理穀粉の内、試験1-1、試験3-1及び試験7-1については、SPME-GC/MS法に従い分析した揮発性成分の構成比(ピーク面積の構成比)の燻煙処理前後の変化を表3に示した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
表2に示した通り、原料穀粉及び製造された燻煙処理穀粉のCIELAB表色系におけるL*、a*、b*から算出された色差(ΔE*ab)は、1.67~14.20であった。ただし、色差(ΔE*ab)が14.20及び13.50の試験9-1及び試験9-2の燻煙処理小麦粉は、好ましくない焦げ臭を感じた。また、色差(ΔE*ab)が14.03の試験11-2の燻煙処理大豆粉は、燻煙臭が強くなり過ぎて調理用素材としては好ましくなかった。したがって、加熱調理用組成物に用いる燻煙処理穀粉のCIELAB表色系における色差(ΔE*ab)は13.0以下であることが必要であることが示唆された。
【0026】
2.加熱調理食品の調理
1.で製造した各燻煙処理穀粉を用い、表4に示した配合で種々の加熱処理用組成物を調製し、表4に示した各種加熱調理食品を調理した。なお、表4において、加熱調理食品の( )内は各加熱調理用組成物の使用方法を示す。
【0027】
【表4】
【0028】
3.加熱調理食品の評価
各加熱調理食品について、訓練を受けた専門のパネル5名が試食し、食感・風味とともに、対照区に比べて各加熱調理食品に特徴をもたらしているかを評価した。評価結果は、5名の個人評価を基に話し合いにより決定した。
(1)から揚げ(ブレッダー衣)の評価
燻煙処理小麦粉又は燻煙処理大豆粉を含むから揚げ粉を用いた実施例1、2及び3のから揚げは、調味料を用いていないにもかかわらず、対照区1のから揚げに比べて、味が濃く、塩味を強く感じた。燻煙処理小麦粉の配合量が多い、実施例2のから揚げの方が、味の濃さ、塩味共に、より強く感じられた。食感は、対照区1のから揚げに比べて、実施例1、2及び3のから揚げは、サクサクとした歯脆さがあり、さらには冷めてもこの食感が残っており、好ましかった。比較例1のから揚げは、焦げたような風味を感じて、好ましくなかった。また比較例2のから揚げは、対照区1のから揚げと比べて、僅かに香りの違いを感じるが、味(濃さ、塩味)や食感は明確な差はなく同等の評価であった。したがって、加熱調理用組成物に用いる燻煙処理穀粉のCIELAB表色系における色差(ΔE*ab)は2.5以上であることが必要であることが示唆された。
(2)から揚げ(バッター衣)の評価
燻煙処理小麦粉を含むから揚げ粉を用いた実施例4のから揚げは、調味料を用いていないにもかかわらず、対照区2のから揚げに比べて、味が濃く、塩味を強く感じた。食感は、対照区2のから揚げに比べて、実施例4のから揚げは、サクサクとした歯脆さがあり、さらには冷めてもこの食感が残っており、好ましかった。また、調味料を含む市販から揚げ粉の一部を燻煙処理小麦粉に置き換えて用いた実施例5のから揚げは、対照区3のから揚げと比べて、味が濃く、塩味を強く感じた。食感は、対照区3のから揚げに比べて、実施例5のから揚げは、サクサクとした歯脆さがあり、さらには冷めてもこの食感が残っており、好ましかった。
(3)とんかつの評価
燻煙処理小麦粉を打ち粉として用いた実施例6及び7のとんかつは、対照区4のとんかつに比べて、肉が柔らかく、歯切れが良かった。また、調味料を用いていないにもかかわらず、実施例6及び7のとんかつでは、明確に塩味が感じられた。
(4)豚肉のソテーの評価
燻煙処理小麦粉をまぶして焼いた実施例8の豚肉は、対照区5の豚肉に比べて柔らかく、塩味が強く感じられた。比較例3の豚肉は、焦げたような風味を感じて、好ましくなかった。
(5)豚肉の生姜焼きの評価
燻煙処理小麦粉をまぶして調理した実施例9の豚肉は、対照区6に比べて柔らかく、味付けが濃く感じられた。また対照区6の豚肉では、たれの甘味が強く感じられたが、実施例9の豚肉では、甘みと塩味のバランスが良いとの意見が多数であった。
(6)えび天ぷらの評価
燻煙処理小麦粉を含む打ち粉を用いた実施例10のえび天ぷらは、対照区7のえび天ぷらに比べて、えびの臭みが弱く、生臭さを感じることがなかった。また衣は、サクサクとして、歯切れが良かった。そして、実施例10のえび天ぷらは、対照区7のえび天ぷらに比べて、塩味が強く感じられた。さらに、燻煙処理大豆粉を含む打ち粉を用いた実施例11のえび天ぷらは、対照区8のえび天ぷらに比べて、えびの臭みが弱く、生臭さを感じることがなかった。また衣は、サクサクとして、歯切れが良かった。そして、実施例11のえび天ぷらは、対照区8のえび天ぷらに比べて、塩味が強く感じられた。比較例4の天ぷらは、燻煙臭を強く感じて、好ましくなかった。
【0029】
以上により、原料穀粉を、CIELAB表色系における色差(ΔE*ab)が2.5~13.0となるように燻煙処理することによって得られる燻煙処理穀粉を、加熱調理用組成物に配合することで、加熱調理食品の食感や風味の改善、特に塩味の付与又は増強ができることが示された。
【0030】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の製造方法によって製造された燻煙処理小麦粉を加熱調理用組成物に用いることで、加熱調理食品の食感や風味の改善、特に塩味の付与又は増強ができるので、食感や風味が改善された加熱調理食品、特に減塩された加熱調理食品を容易に提供できる。