IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】イリジウム錯体
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20240730BHJP
   C07D 417/10 20060101ALI20240730BHJP
   C07D 237/28 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C07F15/00 E
C07D417/10
C07D237/28 CSP
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020018711
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021123568
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】梶山 良子
(72)【発明者】
【氏名】長山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】飯田 宏一朗
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-083587(JP,A)
【文献】特表2015-526427(JP,A)
【文献】特表2014-506571(JP,A)
【文献】特開2019-099511(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093369(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066583(WO,A1)
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry,2018年,Vol.26,pp.4804-4816
【文献】Analytical Chemistry,2016年,Vol.88,pp.1892-1899
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[上記式中、環A、環Cは、ベンゼン環を表す。
環Bは、ナフチリジン環を表す。
環Dは、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、
チアゾール環のいずれかを表す。
環A~Dは、置換基を有していても良く、置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子
、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数7~40の(ヘ
テロ)アラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数3~20の(ヘテロ)アリ
ールオキシ基、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、アリール基の炭
素数が6~20であるアリールシリル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素
数7~20のアリールカルボニル基、炭素数2~20のアルキルアミノ基、炭素数6~2
0のアリールアミノ基、または炭素数3~20の(ヘテロ)アリール基のいずれか、また
はこれらの組み合わせである。環Dに結合する隣り合う置換基どうしは結合してさらに環
を形成し、環Dと合わせて、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン
環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環を形成しても良
い。
は、直接結合または2価の芳香族連結基を表す。
は、3つ以上の単結合を介してZとN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を
つなぐ基を表す。]
【請求項2】
式(1)が式(2)で表される化合物である請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式(2)中、aは0~4の整数である。
は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~
40の(ヘテロ)アラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数3~20の(ヘ
テロ)アリールオキシ基、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、アリ
ール基の炭素数が6~20であるアリールシリル基、炭素数2~20のアルキルカルボニ
ル基、炭素数7~20のアリールカルボニル基、炭素数2~20のアルキルアミノ基、炭
素数6~20のアリールアミノ基、または炭素数3~20の(ヘテロ)アリール基を表す

環A、環B、環D、Z、Rは、式(1)における環A、環B、環D、Z、R
同義である。]
【請求項3】
式(2)が式(3)で表される化合物である請求項2に記載の化合物。
【化3】
[上記式中、a、環A、環B、Z、R、Rは、式(2)におけるa、環A、環B、
、R 、R と同義である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸、タンパク質、多糖などの生体物質に容易に導入することが可能なイリ
ジウム錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
照明やディスプレイなど、有機電界発光素子を利用する各種電子デバイスが実用化され
ている。大型のディスプレイや照明に用いることのできる有機電界発光素子を効率よく製
造するプロセスとして、塗布法が研究されている。塗布法は、真空蒸着法に比べて安定し
た層を容易に形成できる利点があるため、ディスプレイや照明装置の量産化や大型デバイ
スへの適用が期待されている。有機電界発光素子を塗布法で製造するためには、発光ドー
パント使を含むすべての材料は溶解してインクとして使用できるものである必要がある。
【0003】
発光ドーパントとしては、その用途に合わせて、赤、緑、青のそれぞれの発光色が求め
られるが、赤色には、アリールキノリン誘導体やアリールイソキノリン誘導体を配位子と
するイリジウム錯体が用いられている。さらに、発光波長を調整したり、溶解性を高めた
りする目的で、N原子を2つ有するアリールキノキサリン誘導体、アリールキナゾリン誘
導体などのアリールナフチリジン誘導体を配位子としたイリジウム錯体も提案されている
(例えば、特許文献1)。
【0004】
近年、イリジウム錯体のもつ、励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差が起き
やすく、励起三重項状態から比較的長い減衰寿命で発光する特徴や、励起三重項状態が酸
素によって失活しやすい特徴を、生化学的な用途に応用することが試みられ、イリジウム
錯体を生体に投与する検討がなされている。イリジウム錯体を生体に投与する際には、核
酸、タンパク質、多糖などの生体物質にイリジウム錯体を結合させることが効率的であり
、これらの生体物質への結合部位として、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を用
いることが報告されている(例えば、非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-83587号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bioorganic & Madical Chemistry,2018年,26巻,4804-4816頁
【文献】Analytical Chemictry,2016年,88巻,1892-1899頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の先行技術では、発光や吸収の波長が短く、生体の窓と呼ばれる、
生体内の物質や水に吸収されにくい650-1000nmの波長域に対応していなかった
り、励起状態が熱的に失活されやすかったりするため、イリジウム錯体を生化学的用途に
用いた場合に十分な性能が得られていなかった。そのため、650-1000nmの波長
域に対応し、熱的に失活しにくく、かつ、生体物質に導入が容易なイリジウム錯体が求め
られていた。
【0008】
本発明は、生体の窓と呼ばれる波長域に対応し、励起状態が安定で、生体物質への結合
部位であるN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有するイリジウムを提供するもの
である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、含窒素複素環を含む縮合環にアリール
基が置換したアリールキノリン誘導体、アリールイソキノリン誘導体、アリールナフチリ
ジン誘導体を配位子として2つ有し、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基がスペー
サを介して、イリジウムに結合または配位するアリール基またはヘテロアリール基に連結
された配位子を1つ有するイリジウム錯体が、発光や吸収の波長を赤色から赤外に有し、
生体の窓と呼ばれる波長域に対応し、励起状態が熱的に失活しにくく、かつ、生体物質に
容易に導入可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明のイリジウム錯体は、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン、キナゾリン
、シンノリン等のキナゾリン環等の含窒素複素環を含む縮合環にアリール基が置換した配
位子を2つ有するため、赤色から赤外の比較的長波長に発光や吸収を示し、さらに、励起
状態が熱的に失活しにくい光物性を有する。また、本発明のイリジウム錯体は、N-ヒド
ロキシスクシンイミドエステル基を、イリジウム金属及び配位子のπ共役系構造から離れ
た位置に1つ有するため、生体物質内の第一級アミンに対して1つのイリジウム錯体を、
上記の優れた光物性を保ったまま、容易に導入することが可能である。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]下記式(1)で表される化合物。
【0012】
【化1】
【0013】
[上記式中、環A、環Cは、ベンゼン環を表す。
環Bは、キノリン環、イソキノリン環、ナフチリジン環のいずれかを表す。
環Dは、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、
チアゾール環のいずれかを表す。
環A~Dは、置換基を有していても良く、置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子
、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数7~40の(ヘ
テロ)アラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数3~20の(ヘテロ)アリ
ールオキシ基、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、アリール基の炭
素数が6~20であるアリールシリル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素
数7~20のアリールカルボニル基、炭素数2~20のアルキルアミノ基、炭素数6~2
0のアリールアミノ基、または炭素数3~20の(ヘテロ)アリール基のいずれか、また
はこれらの組み合わせである。また、環A~Dに結合する隣り合う置換基どうしが結合し
てさらに環を形成しても良い。
【0014】
は、直接結合または2価の芳香族連結基を表す。
は、3つ以上の単結合を介してZとN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を
つなぐ基を表す。]
[2]式(1)が式(2)で表される化合物である[1]に記載の化合物。
【0015】
【化2】
【0016】
[式(2)中、aは0~4の整数である。
は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~
40の(ヘテロ)アラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数3~20の(ヘ
テロ)アリールオキシ基、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、アリ
ール基の炭素数が6~20であるアリールシリル基、炭素数2~20のアルキルカルボニ
ル基、炭素数7~20のアリールカルボニル基、炭素数2~20のアルキルアミノ基、炭
素数6~20のアリールアミノ基、または炭素数3~20の(ヘテロ)アリール基を表す
【0017】
環A、環B、環D、Z、Rは、式(1)における環A、環B、環D、Z、R
同義である。]
[3]式(2)が式(3)で表される化合物である[2]に記載の化合物。
【0018】
【化3】
【0019】
[上記式中、a、環A、環B、環D、Z、R、Rは、式(2)における環A、環B
、環D、Z、Rと同義である。]
【発明の効果】
【0020】
本発明により、赤色から赤外の比較的長波長に発光や吸収を示し、励起状態が熱的に失
活しにくいイリジウム錯体を、生体物質内の第一級アミンに、その物性を保ったまま、容
易に導入することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定さ
れるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
なお、本明細書において(ヘテロ)アラルキル基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘ
テロ)アリール基とは、それぞれヘテロ原子を含んでいてもよいアラルキル基、ヘテロ原
子を含んでいてもよいアリールオキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよいアリール基、を
表す。「ヘテロ原子を含んでいてもよい」とは、アリール基、アラルキル基又はアリール
オキシ基の主骨格を形成する炭素原子のうち1又は2以上の炭素原子がヘテロ原子に置換
されていることを表し、ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、
ケイ素原子等が挙げられ、中でも耐久性の観点から窒素原子が好ましい。
本発明のイリジウム錯体は下記式(1)で表される。
【0022】
【化4】
【0023】
[上記式中、環A、環Cは、ベンゼン環を表す。
環Bは、キノリン環、イソキノリン環、ナフチリジン環を表す。
環Dは、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、
チアゾール環を表す。
環A~Dは、置換基を有していても良く、置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子
、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数7~40の(ヘ
テロ)アラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数3~20の(ヘテロ)アリ
ールオキシ基、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、アリール基の炭
素数が6~20であるアリールシリル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素
数7~20のアリールカルボニル基、炭素数2~20のアルキルアミノ基、炭素数6~2
0のアリールアミノ基、または炭素数3~20の(ヘテロ)アリール基のいずれか、また
はこれらの組み合わせである。また、環A~Dに結合する隣り合う置換基どうしが結合し
てさらに環を形成しても良い。
は、直接結合または2価の芳香族連結基を表す。
は、3つ以上の単結合を介してZとN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を
つなぐ基を表す。]
【0024】
<環A~D>
環A、環Cは、置換基を有していても良いベンゼン環を表す。環A、環Cに結合する隣
り合う置換基どうしが結合してさらに環を形成しても良い。さらに環を形成した場合、環
A、環Cのベンゼン環と合わせて、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、
ピレン環、ペリレン環、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチ
オフェン環等のベンゼン環構造を有する縮合環を形成する。
【0025】
環A、環Cは、溶解性の観点からは、置換基どうしが結合してさらに環を形成しないこ
とが好ましい。一方、発光や吸収波長をより長波長にできる観点からは、置換基どうしが
結合してさらに環を形成することが好ましい。環A、環Cを含む縮合環としては、励起状
態が熱的に失活しにくい点で、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレ
ン環、ペリレン環、フルオレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフ
ェン環が好ましく、ナフタレン環、フルオレン環がさらに好ましい。
【0026】
環Bは、置換基を有していても良いキノリン環、イソキノリン環、ナフチリジン環のい
ずれかを表す。ナフチリジン環の2つの窒素原子の位置はいずれでもよいが、1,4-ナ
フチリジン(キノキサリン環)、1,3-ナフチリジン(キナゾリン環)、1,2-ナフ
チリジン(シンノリン環)、1,5-ナフチリジンが、より励起状態が熱的に失活しにく
く好ましい。
【0027】
環Bに結合する隣り合う置換基どうしが結合してさらに環を形成しても良い。さらに環
を形成した場合、環Bと合わせて、アザアントラセン環、ジアザアントラセン環、アザフ
ェナントレン環、ジアザフェナントレン環、アザトリフェニレン環、ジアザトリフェニレ
ン環等を形成する。環Bは、溶解性の観点からは、置換基どうしが結合してさらに環を形
成しないことが好ましい。一方、発光や吸収波長をより長波長にできる観点からは、置換
基どうしが結合してさらに環を形成することが好ましい。環Bを含む縮合環としては、励
起状態が熱的に失活しにくい点で、アザアントラセン環、ジアザアントラセン環、アザフ
ェナントレン環、ジアザフェナントレン環、アザトリフェニレン環、ジアザトリフェニレ
ン環がさらに好ましい。
【0028】
環Dは、置換基を有していても良いピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾ
ール環、オキサゾール環、チアゾール環のいずれかを表す。環Dに結合する隣り合う置換
基どうしが結合してさらに環を形成しても良い。さらに環を形成した場合、環Dと合わせ
て、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、ベンゾイミダゾール
環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環を形成する。環Bを含む縮合環としては
、励起状態が熱的に失活しにくい点で、アザアントラセン環、ジアザアントラセン環、ア
ザフェナントレン環、ジアザフェナントレン環、アザトリフェニレン環、ジアザトリフェ
ニレン環が好ましく、ベンゾチアゾール環がさらに好ましい。
【0029】
環A~Dが有しても良い置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1~20
のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数7~40の(ヘテロ)アラルキル
基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数3~20の(ヘテロ)アリールオキシ基、ア
ルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、アリール基の炭素数が6~20で
あるアリールシリル基、炭素数2~20のアルキルカルボニル基、炭素数7~20のアリ
ールカルボニル基、炭素数2~20のアルキルアミノ基、炭素数6~20のアリールアミ
ノ基、または炭素数3~20の(ヘテロ)アリール基のいずれか、またはこれらの組み合
わせである。
環A~Dが有しても良い置換基は、溶解性の点から、炭素数1~20のアルキル基、炭
素数7~40の(ヘテロ)アラルキル基であることが好ましい。
【0030】
<Z
は、直接結合または2価の芳香族連結基を表す。Zは、製造が容易な点で、直接
結合であることが好ましい。Zは、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基をイリジ
ウム金属から遠ざけることができる点で、2価の芳香族連結基であることが好ましく、励
起状態が熱的に失活しにくい点で、フェニレン基、ビフェニレン基、テルフェニレン基、
フルオレンジイル基のいずれかが好ましい。
【0031】
<R
は、3つ以上の単結合を介してZとN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を
つなぐ基を表す。Rは、下記式(4)で表されることが好ましい。
【0032】
【化5】
【0033】
[式中、Qは、―CR―、―O―、―CO―、―NR―、及び―S―からなる群
より選ばれるいずれかの基を表し、nは2以上、30以下の整数を表す。
~Rは、各々独立して、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~2
0のアルキル基を表す。
n個のQは、同じでもよく、また異なっていてもよい。]
中でも、化学的な耐久性に優れる点で、―CR―を含むことが好ましい。
【0034】
本発明のイリジウム錯体は、式(1)中のZが環Cであるベンゼン環に結合すること
が好ましい。すなわち、式(2)で表されることが溶解性の観点から好ましい。
【0035】
【化6】
【0036】
[式(2)中、aは0~4の整数である。
は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~
40の(ヘテロ)アラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数3~20の(ヘ
テロ)アリールオキシ基、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、アリ
ール基の炭素数が6~20であるアリールシリル基、炭素数2~20のアルキルカルボニ
ル基、炭素数7~20のアリールカルボニル基、炭素数2~20のアルキルアミノ基、炭
素数6~20のアリールアミノ基、または炭素数3~20の(ヘテロ)アリール基を表す
【0037】
環A、環B、環D、Z、Rは、式(1)における環A、環B、環D、Z、R
同義である。]
は、溶解性の点から、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~40の(ヘテロ)
アラルキル基であることが好ましい。
本発明のイリジウム錯体は、式(2)中の環Dが、置換基どうしが結合してベンゼン環
を形成したチアゾール環、すなわち、ベンゾチアゾール環である、すなわち、式(3)で
表されることが、励起状態が熱的に失活しにくい点で好ましい。
【0038】
【化7】
【0039】
[式(3)中、a、環A、環B、環D、Z、R、Rは、式(2)における環A、環
B、環D、Z、Rと同義である。]
以下に、本発明のイリジウム錯体の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定さ
れるものではない。
【0040】
【化8】
【実施例
【0041】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。本発明は以下の実施例に
限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる

[反応1]
【0042】
【化9】
【0043】
300mLナスフラスコに、中間体1(WO2016194784A記載の方法にて合
成した。3.8g)、3-クロロシンノリン(1.0g)、[テトラキス(トリフェニル
ホスフィン)パラジウム(0)](0.15g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(13m
L)、トルエン(26mL)およびエタノール(13mL)を加え、105℃のオイルバ
スで5時間撹拌した。室温まで冷却後、水相を除去し、残りの液を減圧濃縮して得られた
残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=
1/4)で精製したところ、淡黄色固体として中間体2を2.6g得た。
【0044】
[反応2]
【化10】
【0045】
500mLナスフラスコに、2-(3-ブロモフェニル)ベンゾチアゾール(11.3
g)、ビス(ピナコラート)ジボロン(11.4g)、酢酸カリウム(11.4g)、ジ
クロロ(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム・ジクロロメ
タン付加物(1.0g)及びジメチルスルホキシド(100mL)を入れ、85℃で3.
5時間撹拌した。室温まで冷却後、水(300mL)およびジクロロメタン(300mL
)を加えて分液洗浄した。油相を回収し減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムク
ロマトグラフィー(中性シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製したと
ころ、3-[ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-
1,3,2-ジオキサボロランを11.9g得た。
【0046】
[反応3]
【化11】
【0047】
500mLナスフラスコに、3-[ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル-4,4,
5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(12.9g)、3-ブロモ-3
‘-ヨード-1,1’-ビフェニル(14.4g)、[テトラキス(トリフェニルホスフ
ィン)パラジウム(0)](2.0g)、2Mリン酸三カリウム水溶液(50mL)、ト
ルエン(100mL)およびエタノール(35mL)を加え、105℃のオイルバスで5
時間撹拌した。室温まで冷却後、水相を除去し、残りの液を減圧濃縮して得られた残渣を
シリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1
/1)で精製したところ、淡褐色固体として中間体3を15.8g得た。これ以上の精製
はせずに次の反応を行った。
【0048】
[反応4]
【化12】
【0049】
下部に側管が付いたジムロートを備えた300mLナスフラスコに、中間体3(15.
8g)、塩化イリジウムn水和物(フルヤ金属社製、5.6g)、水(30mL)および
2-エトキシエタノール(130mL)を入れ、オイルバスの温度135℃で4時間撹拌
し、その後145℃に昇温しさらに1.5時間撹拌した。この間側管から凝結した溶媒液
を一部抜出続けた。その後室温まで冷却し、析出した固体をろ取し、メタノール(300
mL)で洗浄したところ、橙色固体の中間体を15.2g得た。
【0050】
[反応5]
【化13】
【0051】
300mLナスフラスコに、中間体4(7.0g)、2-エトキシエタノール(84m
L)、炭酸ナトリウム(8.7g)、アセチルアセトン(3.2g)を入れ、135℃で
30分間撹拌した。その後室温まで冷却した後溶媒を減圧下除去し、得られた残渣をシリ
カゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1
)で精製したところ、橙色固体の中間体5を7.3g得た。
【0052】
[反応6]
【化14】
【0053】
500mLナスフラスコに、4-(4-ブロモフェニル)酪酸(10.6g)、メタノ
ール(200mL)を入れ、撹拌しながら濃硫酸(2.5mL)を滴下した後、90℃の
オイルバスに浸し、3時間撹拌した。室温まで冷却した後水(200mL)とジクロロメ
タン(150mL)を加え分液洗浄した。油相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過後減
圧濃縮したところ、無色油状の4-(4-ブロモフェニル)酪酸メチルを11.2g得た
【0054】
[反応7]
【化15】
【0055】
500mLフラスコに、4-(4-ブロモフェニル)酪酸メチル(11.2g)、ビス
(ピナコラート)ジボロン(12.7g)、酢酸カリウム(12.8g)、ジクロロ(1
,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム・ジクロロメタン付加物
(1.1g)及びジメチルスルホキシド(100mL)を入れ、85℃で5時間撹拌した
。室温まで冷却後、水(300mL)およびジクロロメタン(150mL)を加えて分液
洗浄し、さらにジクロロメタン(100mL)で抽出した。油相を回収し減圧濃縮して得
られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル、酢酸エチル/ヘキ
サン=1/4)で精製したところ、無色油状の4-(4,4,5,5-テトラメチル-1
,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル酪酸メチルを11.9g得た。
【0056】
[反応8]
【化16】
【0057】
200mLナスフラスコに、中間体5(4.3g)、中間体2(2.8g)およびフェ
ニルシクロヘキサン(0.5mL)を入れ、230℃に予熱されたオイルバスに浸し2時
間撹拌した後、240℃に昇温しさらに5時間撹拌した。途中、240℃で1時間撹拌時
にジイソプロピルエチルアミン(0.2mL)を加えた。室温まで冷却した後シリカゲル
カラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=6/4)で精
製を行い、暗赤色固体の中間体6を0.65g得た。
【0058】
[反応9]
【化17】
【0059】
100mLナスフラスコに、中間体6(0.65g)、4-(4,4,5,5-テトラ
メチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル酪酸メチル(0.51g)
、[テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)](0.1g)、2Mリン
酸三カリウム水溶液(5mL)、トルエン(5mL)およびエタノール(5mL)を加え
、100℃のオイルバスで3時間撹拌した。室温まで冷却後、減圧濃縮して得られた残渣
を水(100mL)およびジクロロメタン(150mL)で分液洗浄した。油相を硫酸マ
グネシウムで乾燥後、ろ過し溶媒を減圧除去した。得られた残渣を1,2-ジメトキシエ
タン(20mL)に室温で溶解し、この溶液にメタノール(200mL)を撹拌しながら
滴下した。析出した固体をろ取し、メタノール(50mL)で洗浄し乾燥したところ、茶
色固体として中間体7を0.60g得た。
【0060】
[反応10]
【化18】
【0061】
100mLナスフラスコに、中間体7(0.60g)、テトラヒドロフラン(60mL
)を入れ、これに水(60mL)に水酸化ナトリウム(0.195g)を溶かした水溶液
を加え、45℃のオイルバスで2時間撹拌した。その後、水(6mL)に水酸化ナトリウ
ム(4.0g)を溶かした水溶液を滴下し、さらに4時間撹拌した。室温まで冷却した後
、1N塩酸で中和したのち、ジクロロメタン(100mL)で抽出した。減圧下溶媒を除
去して得られた残渣に、1,2-ジメトキシエタン(8mL)を加えて溶解させた得た溶
液に、メタノール(150mL)を室温で加え20分間撹拌した。その後、析出した固体
をろ過し、メタノール(50mL)で洗浄し乾燥したところ、濃茶色固体の中間体8を0
.59g得た。
【0062】
[反応11]
【化19】
【0063】
100mLナスフラスコに、中間体8(0.59g)、N-ヒドロキシフタルイミド(
62mg)及び乾燥ジクロロメタン(2.5mL)を入れ、氷水浴に浸し撹拌しながら、
ジシクロヘキシルカルボジイミド(111mg)を投入し、2時間撹拌した。その後反応
液をそのままシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル、ジクロロメタンの
み)で精製した。得られた粗体は1,2-ジメトキシエタン(8mL)に溶解させ、この
溶液にメタノール(100mL)を室温で滴下して得られた固体をろ過し乾燥させた。濃
茶色固体として化合物1を0.57g得た。