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  • 特許-シート、容器形成用シート及び容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】シート、容器形成用シート及び容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240730BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240730BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240730BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240730BHJP
   B29C 51/02 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B7/022
B32B27/36
B65D65/40 D
B29C51/02
C08L101/16 ZBP
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020075408
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2020183117
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019085807
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 知彰
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-212682(JP,A)
【文献】特開2000-177072(JP,A)
【文献】特開2006-272712(JP,A)
【文献】特開2006-142812(JP,A)
【文献】特開2015-063598(JP,A)
【文献】特開2008-055694(JP,A)
【文献】特開2014-073650(JP,A)
【文献】特開2000-238194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C49/00-49/46
49/58-49/68
49/72-51/28
51/42
51/46
B32B1/00-43/00
C08L101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90℃での貯蔵弾性率(E’)が50MPa以上1000MPa以下である生分解性樹脂Aを主成分樹脂とする樹脂層Aの片面又は両面に、90℃での貯蔵弾性率(E’)が前記生分解性樹脂Aよりも10MPa以上低い生分解性樹脂Bを主成分樹脂とする樹脂層Bを備え、かつ、該樹脂層Bの外側にガスバリア層を備えた無延伸シートであって、前記ガスバリア層は、ビニルアルコール成分を含む共重合体を主成分樹脂として含有する無延伸シート。
【請求項2】
生分解性樹脂A及び生分解性樹脂Bが何れも融点を有し、生分解性樹脂Aの融点と、生分解性樹脂Bの融点との差の絶対値が80℃以下である請求項に記載のシート。
【請求項3】
生分解性樹脂Aは、生分解性脂肪族ポリエステル又は生分解性脂肪族芳香族ポリエステルである請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
生分解性樹脂Aが、ポリブチレン系生分解性ポリエステル樹脂である請求項1~の何れかに記載のシート。
【請求項5】
生分解性樹脂Bが、生分解性脂肪族ポリエステル又は生分解性脂肪族芳香族ポリエステルである請求項1~の何れかに記載のシート。
【請求項6】
樹脂層Aの厚みに対する樹脂層Bの厚みの比率(B/A)が1.0以上10.0以下である請求項1~の何れかに記載のシート。
【請求項7】
90℃での貯蔵弾性率が5MPa以上200MPa以下である、請求項1~の何れかに記載のシート。
【請求項8】
23℃での引張強度が20MPa以上である、請求項1~の何れかに記載のシート。
【請求項9】
請求項1~の何れかに記載のシートからなる容器形成用シート。
【請求項10】
請求項に記載の容器形成用シートからなる容器。
【請求項11】
鍔部と、収納部としての凹部とを備えた容器であって、
当該凹部は、該凹部の平面視縁形状が非円形状の場合はその最短幅、該凹部の平面視縁形状が円形状の場合はその直径に対する、凹部の深さの比率(深さ/最短幅又は直径)が0.1~5.0であって、
前記鍔部の肉厚が0.1mm~2.0mmであり、前記凹部の側壁部の平均肉厚が前記鍔部の肉厚の10~95%である請求項10に記載の容器。
【請求項12】
前記凹部の側壁部は、最大肉厚と最小肉厚との差が0.01mm~0.35mmである請求項10又は11に記載の容器。
【請求項13】
生分解性である請求項10~12の何れかに記載の容器。
【請求項14】
0℃、50%RHにおける酸素透過度が5.0cc/m2・day・atm以下である請求項10~13の何れかに記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有し、かつ比較的深底の容器であっても成形可能であるシート、容器形成用シート及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のプラスチックの廃棄処理問題などから、生分解性を有する種々のプラスチックシートの開発がなされている。
生分解性プラスチックシートの材料としては、例えばポリ乳酸(「PLA」とも称する)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などの脂肪族ポリエステル、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)などの芳香族脂肪族ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)などを挙げることができる。
【0003】
中でも、ポリ乳酸は、優れた生分解性を有するばかりか、延伸処理及び熱処理したポリ乳酸系延伸シートは、引張強度及び伸度に優れ、寸法安定性を有し、また高い光線透過率を示すことから、特に着目されている材料の一つである。
【0004】
例えば特許文献1には、耐熱性、耐衝撃性にも優れた生分解性熱成形用シート状物として、ポリ乳酸系重合体に、ガラス転移温度が0℃以下、融点が80℃以上の脂肪族ポリエステルを20重量%以上配合した樹脂組成物を主成分とするベース基材の少なくとも一方の面に、ポリ乳酸系重合体からなる層を設けてなる構成を備えた生分解性熱成形用シート状物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリ乳酸を主材として用いた成形容器として、ポリ乳酸系樹脂層(B)、接着性樹脂層(C)、及びシール性樹脂層(F)を少なくとも有し、全体の厚み(t)に対するポリ乳酸系樹脂層(B)の厚み(a)の比〔a/t〕が0.75以上0.97以下である複合フィルム、及び該複合フィルムにより形成された深絞り成形容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-289069号公報
【文献】特開2010-111094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリ乳酸は、融点が比較的高く、延伸や熱処理によって結晶化させることで優れた耐熱性を得ることができる。しかしその反面、結晶化が促進されると、二次成形加工性が悪くなるという問題を抱えていた。例えば比較的深底の容器を成形するような場合、容器の側壁部分などに偏肉を生じやすいといった問題を抱えていた。
他方、結晶化度の低い無延伸ポリ乳酸シートを二次成形加工した容器では、耐熱性に劣るため、例えば100℃に加熱すると収縮してしまうという問題を抱えていた。
このような問題は、ポリ乳酸(PLA)に限らない問題であり、他の生分解性樹脂も似たような問題を抱えていた。また、ポリ乳酸を用いた容器ではガスバリア性が不十分であるため、内容物の劣化などが問題とされていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、生分解性を有する樹脂シートに関し、比較的深底の容器であってもシート成形可能であり、かつ、耐熱性、ガスバリア性にも優れた、新たな容器形成用シート及びこれを用いてなる容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、90℃での貯蔵弾性率(E’)が50MPa以上1000MPa以下である生分解性樹脂Aを主成分樹脂とする樹脂層Aの片面又は両面に、90℃での貯蔵弾性率(E’)が前記生分解性樹脂Aよりも10MPa以上低い生分解性樹脂Bを主成分樹脂とする樹脂層Bを備え、かつ、該樹脂層Bの外側にガスバリア層を備えたシートを提案する。
また、本発明は、生分解性樹脂Aを主成分樹脂とする樹脂層Aの片面又は両面に、生分解性樹脂Bを主成分樹脂とする樹脂層Bを備え、該樹脂層Bの外側に生分解性ガスバリア層を備えたシートであり、前記生分解性ガスバリア層が、繰り返し単位としてビニルアルコール構造単位を分子鎖中に含む共重合体を主成分樹脂として含有する、シートを提案する。
【0010】
本発明はまた、上記容器形成用シートからなる容器を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提案する容器形成用シートは、比較的深底の容器であっても、シート成形可能であり、しかも、均一な厚さの容器を形成可能であるばかりか、耐熱性及びガスバリア性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例の一例に係る容器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<<本シート1>>
本発明の実施形態の一例に係るシート(「本シート1」と称する)は、90℃での貯蔵弾性率(E’)が50MPa以上1000MPa以下である生分解性樹脂Aを主成分樹脂とする樹脂層Aの片面又は両面に、90℃の貯蔵弾性率(E’)が前記生分解性樹脂Aよりも10MPa以上低い生分解性樹脂Bを主成分樹脂とする樹脂層Bを備え、該樹脂層Bの外側にガスバリア層を備えたものである。
本シート1は無延伸シートであっても延伸シート(延伸フィルム)であってもよいが、二次成形加工性の観点から無延伸シートであることが好ましい。
【0015】
本シート1は、二次成形加工性に優れており、比較的深底の容器であってもシート成形可能であり、しかも、均一な厚さの容器を形成可能であるばかりか、耐熱性にも優れている。
ここで、「二次成形加工」とは、シートを別の形状に変形させたり、別の形状を付与したりする加工を意味し、加工方法としては、真空成形、圧空成形などの熱成形方法を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0016】
ここで、本発明において、貯蔵弾性率を定める温度を90℃とした理由を以下に述べる。
本実施例における二次成形加工は、昇温と変形が同時に起こる加工で、かつ昇温速度も160℃/min程度と大きいため、実際の加工時のシート温度は、二次成形加工時の設定温度よりも低くなると考えられる。また、ポリ乳酸などの昇温過程で冷結晶化をおこし、かつ結晶化速度の遅い材料においては、160℃/minの昇温速度で加熱した場合、冷結晶化が完了する温度が粘弾性測定の貯蔵弾性率のデータ(昇温速度3℃/min)よりも高温側にシフトする。これにより、実際の二次成形加工温度では、結晶化が完了していない分、粘弾性測定のデータよりも低い貯蔵弾性率を示すと考えられるため、冷結晶化が始まる前の温度、この場合90℃程度の貯蔵弾性率で判断するのが合理的である。よって、90℃の貯蔵弾性率で判断した。
【0017】
本発明において、90℃での貯蔵弾性率(E’)は以下の方法で測定できる。
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製「DVA-200」)を用いると共に引張治具を使用して、測定温度-100~250℃、周波数10Hz、昇温速度3℃/minにおける貯蔵弾性率を測定する。得られた測定結果から、90℃における貯蔵弾性率(E’)を読み取る。
【0018】
本発明において「生分解性」とは、微生物の働きで最終的に水と二酸化炭素に分解される性質を言い、好ましくは、ISO16929又はJIS K6952記載の58℃の好気的コンポスト環境下、パイロットスケールで、12週間以内で100mm角のフィルムが2mmのフルイ残りが10%以内になることを満足する性質である。
【0019】
<樹脂層A>
樹脂層Aは、90℃での貯蔵弾性率(E’)が50MPa以上1000MPa以下である生分解性樹脂Aを主成分樹脂とするのが好ましい。
ここで、前記「主成分樹脂」とは、樹脂層Aを構成する樹脂の中で含有量(質量%)が最も高い樹脂を意味する。該主成分樹脂の樹脂層A中の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)であってもよい。
【0020】
(生分解性樹脂A)
生分解性樹脂Aの、90℃での貯蔵弾性率(E’)が50MPa以上であれば、耐熱性の点で好ましい。その一方、1000MPa以下であれば、二次成形加工性の点で好ましい。
かかる観点から、生分解性樹脂Aの、90℃での貯蔵弾性率(E’)は50MPa以上であるのが好ましく、中でも100MPa以上、その中でも200MPa以上であるのがさらに好ましい。その一方、1000MPa以下であるのが好ましく、中でも700MPa以下、その中でも500MPa以下であるのがさらに好ましい。
生分解性樹脂Aは、生分解性樹脂の種類、共重合成分の種類及び含有率、分子量を適宜選択、調整することによって、90℃での貯蔵弾性率(E’)を50MPa以上とすることができる。
【0021】
生分解性樹脂Aは結晶性を有する、すなわち融点を有することが好ましい。生分解性樹脂Aが結晶性である場合、その融点(Tm)は100℃以上であれば、耐熱性の点で好ましい。その一方、250℃以下であれば、二次成形加工性の点で好ましい。
かかる観点から、生分解性樹脂Aの融点(Tm)は、100℃以上であるのが好ましく、中でも120℃以上、その中でも140℃以上であるのがさらに好ましい。その一方、250℃以下であるのが好ましく、中でも200℃以下、その中でも180℃以下であるのがさらに好ましい。
ここで、融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、樹脂約10mgを加熱速度10℃/分で-40℃~200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で-40℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときに測定されたサーモグラムから求めた結晶融解ピーク温度である。
【0022】
生分解性樹脂Aとしては、生分解性ポリエステル、天然高分子等が挙げられる。
生分解性ポリエステルとしては、例えばポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート(PES)、PHBHなどの生分解性脂肪族ポリエステル;ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)などの生分解性脂肪族芳香族ポリエステルが挙げられる。
天然高分子としては、例えばデンプンやセルロース等が挙げられる。
生分解性樹脂Aとして、これらのうちの1種又は2種以上の組合せからなる混合物を用いることができる。但し、生分解性樹脂Aをこれらに限定するものではない。
【0023】
中でも、生分解性樹脂Aは、生分解性ポリエステルが好ましく、生分解性脂肪族ポリエステル又は生分解性脂肪族芳香族ポリエステルであるのがより好ましい。
【0024】
中でも、生分解性樹脂Aは、ポリブチレン系生分解性ポリエステル樹脂が好ましく、ポリブチレンサクシネート系樹脂がより好ましい。好ましい樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートに共重合成分を共重合させたブチレンサクシネート共重合体、又は、主成分としてのポリブチレンサクシネート(PBS)と、他の生分解性脂肪族ポリエステルとの混合樹脂が挙げられる。
ポリブチレンサクシネート(PBS)は、ポリエチレンに近い融点(Tm)や機械的性質を有する生分解性樹脂である。
【0025】
前記ブチレンサクシネート共重合体において、ポリブチレンサクシネート(PBS)に共重合する共重合成分としては、例えばε-カプロラクトン(CL)、グリコリド(GA)、L-ラクチド(LLA)、テレフタル酸(TPA)、アジピン酸、セバシン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタエリスリトール、3-アルコキシ-1,2-プロパンジオールなどを挙げることができる。
例えば、生分解性樹脂Aとしてテレフタル酸共重合ポリブチレンサクシネートを使用することで、樹脂層A及び本シートの融点が高くなり、これによって本容器、すなわち本シートの成形品における耐熱性を高めることができる。
【0026】
樹脂層Aは、無機粒子などの粒子を含有していてもよい。
樹脂層Aが無機粒子を含有することによって、本シートの貯蔵弾性率を上げたり、本シートの耐熱性を高めたりすることができる。
当該無機粒子の種類は、特に限定するものではない。例えばタルク、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、アルミナ、シリカ、カオリン、二酸化チタン、硫酸バリウム、ゼオライト等を挙げることができる。中でも、貯蔵弾性率、透明性を向上させる観点でタルクがより好ましい。
【0027】
<樹脂層B>
樹脂層Bは、前記樹脂層Aの片面又は両面に積層されている層である。
【0028】
樹脂層Bは、90℃での貯蔵弾性率(E’)が、前記生分解性樹脂Aよりも10MPa以上低い生分解性樹脂Bを主成分樹脂とするのが好ましい。
ここで、「主成分樹脂」とは、樹脂層Bを構成する樹脂の中でも含有量(質量%)が最も高い樹脂を意味する。該主成分樹脂の樹脂層B中の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)であってもよい。
【0029】
(生分解性樹脂B)
生分解性樹脂Bの、90℃での貯蔵弾性率(E’)が、前記生分解性樹脂Aのそれよりも10MPa以上低ければ、二次成形加工性の点で好ましい。その一方、両者の差が600MPa以下であれば耐熱性の点で好ましい。
かかる観点から、生分解性樹脂Bの、90℃での貯蔵弾性率(E’)は、前記生分解性樹脂Aのそれよりも10MPa以上低いことが好ましく、中でも30MPa以上低い、その中でも100MPa以上低いことがさらに好ましい。その一方、両者の差は、600MPa以下であるのが好ましく、中でも500MPa以下、その中でも400MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0030】
かかる観点から、生分解性樹脂Bの、90℃での貯蔵弾性率(E’)が1MPa以上であれば、二次成形加工の際に分子鎖間で応力の伝達が起こり延伸可能となる点で好ましい。その一方、100MPa以下であれば、二次成形加工の際に分子鎖間力が適度に働き応力が伝達することで均一な厚み制御が可能である点で好ましい。
かかる観点から、生分解性樹脂Bの、90℃での貯蔵弾性率(E’)は1MPa以上であるのが好ましく、中でも2MPa以上、その中でも3MPa以上であるのがさらに好ましい。その一方、100MPa以下であるのが好ましく、中でも60MPa以下、その中でも30MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
生分解性樹脂Bは結晶性を有する、すなわち融点を有することが好ましい。生分解性樹脂Bが結晶性である場合、その融点は、生分解性樹脂Aの融点との差の絶対値が80℃以下であれば、樹脂層Aと樹脂層Bとを共押出することが可能である点で好ましい。よって、生分解性樹脂Bの融点は、生分解性樹脂Aの融点(Tm)との差の絶対値が80℃以下であるのが好ましく、中でも50℃以下、その中でも30℃以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
なお、生分解性樹脂Bの融点と、生分解性樹脂Aの融点は、どちらが高温であってもよい。
【0033】
生分解性樹脂Bは、上述の生分解性樹脂Aと同様のものが挙げられる。中でも、生分解性樹脂Bは、生分解性ポリエステルが好ましく、生分解性脂肪族ポリエステル又は生分解性脂肪族芳香族ポリエステルであるのがより好ましい。
【0034】
中でも、生分解性樹脂Bは、ポリ乳酸系樹脂が好ましい。好ましい樹脂としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸(PLA)に共重合成分を共重合させた共重合体、ポリ乳酸(PLA)に他の成分が複合してなる共重合体、又は、主成分としてのポリ乳酸(PLA)と、他の生分解性脂肪族ポリエステルとの混合樹脂が挙げられる。
当該ポリ乳酸(PLA)に共重合する共重合成分としては、例えばε-カプロラクトン(CL)、グリコリド(GA)、L-ラクチド(LLA)、テレフタル酸(TPA)、アジピン酸、セバシン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタエリスリトール、3-アルコキシ-1,2-プロパンジオールなどを挙げることができる。
【0035】
前記ポリ乳酸(PLA)の中でも、成形品の耐熱性を考慮すると、特に100℃以上に加熱される用途を考慮すると、結晶性がより高いポリ乳酸が好ましい。
かかる観点から、D-乳酸とL-乳酸との構成比が、D-乳酸:L-乳酸=100:0~85:15であるポリ乳酸であるか、又はD-乳酸:L-乳酸=0:100~15:85であるポリ乳酸であることが好ましく、中でも、D-乳酸:L-乳酸=99.5:0.5~95:5、又は、D-乳酸:L-乳酸=0.5:99.5~5:95であるポリ乳酸がさらに好ましい。D-乳酸とL-乳酸の構成割合が100:0若しくは0:100であるポリ乳酸は結晶性樹脂となり融点も高く、耐熱性、機械的物性に優れる傾向となる。一方、DL-乳酸の共重合体の場合、その光学異性体の割合が増えるに従って結晶性が低下することが知られている。従って、上記記載の範囲にて結晶性を調整することによって良好な成形安定性を得ることが可能となる。
【0036】
後述するガスバリア層との密着性をあげるために、コロナ処理やサンドブラスト法などの表面処理を、樹脂層Bに施してもよい。
【0037】
<ガスバリア層>
本シート1は、樹脂層Bの外側にガスバリア層を備えることが好ましい。ここで「ガスバリア」とは、広義には任意のガスの透過抑制を意味するが、より限定的には、酸素や香りの透過の抑制を意味する。
ガスバリア層は、ビニルアルコール成分を含む共重合体(「PVA共重合体」と称する)を主成分樹脂として含有するのが好ましい。
ここで、「ビニルアルコール成分を含む」とは、繰り返し単位としてビニルアルコール構造単位を分子鎖中に含むことをいう。また、「主成分樹脂」とは、ガスバリア層を構成する樹脂の中でも含有量(質量%)が最も高い樹脂を意味する。ガスバリア層中の該主成分樹脂の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)であってもよい。
【0038】
本シート1において、ガスバリア層の主成分樹脂としてPVA共重合体を用いることで、二次成形加工性を保持しつつ優れたガスバリア性を付与することができる。また、PVA共重合体は生分解性を有するため、これをガスバリア層に用いれば、本シート1全体が生分解性を有することとなる。そのため、本シート1及び本シート1から得られる容器は完全分解型(生分解した後に残渣が残らない)とすることも可能となる。
かかる観点から、本シート1におけるガスバリア層の主成分樹脂としては、PVAに他の共重合成分を共重合させたPVA共重合体が好ましい。例えば、1,2-ブテンジオールを共重合したPVA共重合体や、エチレン又は変性エチレンを共重合したPVA共重合体を挙げることができる。
これらのPVA共重合体を主成分樹脂としてガスバリア層を形成すれば、後述するように、本シート1に優れたガスバリア性を付与することができる。
【0039】
PVA共重合体の重合度は、基材への追従性の観点から、300~3000であるのが好ましく、その中でも350以上あるいは2500以下、その中でも400以上あるいは2000以下であるのがさらに好ましい。
また、PVA共重合体の4%水溶液20℃粘度(ヘプラー粘度計)は、コーティング加工性の観点から、3.0~60mPa・sであるのが好ましく、その中でも3.5mPa・s以上あるいは40mPa・s以下、その中でも4.5mPa・s以上あるいは30mPa・s以下であるのがさらに好ましい。
また、PVA共重合体のケン化度は、ガスバリア性の観点から、98.0~99.9mol%であるのが好ましく、その中でも99.0mol%以上あるいは99.9mol%以下、その中でも99.5mol%以上あるいは99.9mol%以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
<<本シート2>>
本発明の実施形態の別の一例に係るシート(「本シート2」と称する)は、生分解性樹脂Aを主成分樹脂とする樹脂層Aの片面又は両面に、生分解性樹脂Bを主成分樹脂とする樹脂層Bを備え、かつ、該樹脂層Bの外側にガスバリア層を備えたものである。
本シート2は無延伸シートであっても延伸シート(延伸フィルム)であってもよいが、二次成形加工性の観点から無延伸シートであることが好ましい。
【0041】
本シート2は、二次成形加工性に優れており、比較的深底の容器であってもシート成形可能であり、しかも、均一な厚さの容器を形成可能であるばかりか、耐熱性にも優れている。
【0042】
<樹脂層A>
本シート2における樹脂層Aは、生分解性樹脂Aを主成分樹脂とする。
当該生分解性樹脂Aは、90℃での貯蔵弾性率(E’)が50MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。
当該生分解性樹脂Aの好ましい実施形態は、<<本シート1>>の<樹脂層A>で説明したものと同じである。
【0043】
<樹脂層B>
本シート2における樹脂層Bは、前記樹脂層Aの片面又は両面に積層されている層であり、生分解性樹脂Bを主成分樹脂とする。
当該生分解性樹脂Bは、90℃での貯蔵弾性率(E’)が、前記生分解性樹脂Aよりも10MPa以上低いことが好ましい。
当該生分解性樹脂Bの好ましい実施形態は、<<本シート1>>の<樹脂層B>で説明したものと同じである。
【0044】
<ガスバリア層>
本シート2におけるガスバリア層は、繰り返し単位としてビニルアルコール構造単位を分子鎖中に含む共重合体(「PVA共重合体」と称する)を主成分樹脂として含有する。
【0045】
本シート2において、ガスバリア層の主成分樹脂としてPVA共重合体を用いることで、二次成形加工性を保持しつつ優れたガスバリア性を付与することができる。また、PVA共重合体は生分解性を有するため、これをガスバリア層に用いれば、生分解性ガスバリア層を得ることができ、本シート2全体が生分解性を有することとなる。そのため、本シート2及び本シート2から得られる容器は完全分解型(生分解した後に残渣が残らない)とすることも可能となる。
【0046】
PVA共重合体は、ビニルエステル系単量体及び各種単量体を共重合して得られるポリビニルエステル系共重合体をケン化して得られる樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位と、ビニルエステル構造単位とを分子鎖中に含む。
【0047】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。中でも、経済的に酢酸ビニルを好ましく用いることができる。
【0048】
ビニルエステル系単量体との共重合に用いられる各種単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物等の誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類並びにその塩、モノエステル、及びジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類及びその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等を挙げることができる。
【0049】
PVA共重合体中の上記各種単量体に由来する構成単位の含有量は、1~20mol%であることが好ましく、中でも2mol%以上あるいは10mol%以下の範囲が好ましい。
【0050】
本シート2におけるガスバリア層の主成分樹脂としては、後変性によって各種官能基を導入した変性PVA共重合体を用いることが好ましい。
当該変性PVA共重合体としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するPVA共重合体、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するPVA共重合体、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するPVA共重合体、及び各種官能基を有するアルデヒド化合物を反応させて得られるPVA共重合体等を挙げることができる。
中でも、溶融成形性の観点から、側鎖に一級水酸基を有するPVA共重合体又はエチレン変性PVA共重合体が好ましい。例えば、1,2-ブテンジオールを共重合したPVA共重合体や、エチレン又は変性エチレンを共重合したPVA共重合体を挙げることができる。
側鎖に一級水酸基を有するPVA共重合体としては、側鎖にヒドロキシアルキル基又は1,2-ジオール構造を有するPVA共重合体が好ましく、側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA共重合体がより好ましい。
これらのPVA共重合体を主成分樹脂としてガスバリア層を形成すれば、後述するように、本シートに優れたガスバリア性を付与することができる。
【0051】
側鎖に一級水酸基を有するPVA共重合体を用いる場合、側鎖に1,2-ジオール構造を有する構造単位の含有量は、0.1~20mol%であるのが好ましく、中でも1mol%以上或いは10mol%以下であるのがより好ましく、その中でも2mol%以上或いは8mol%以下であるのが更に好ましい。
また、エチレン変性PVA共重合体を用いる場合、エチレン構造単位の含有量は、0.1~20mol%であるのが好ましく、中でも1mol%以上或いは15mol%以下であるのがより好ましく、その中でも3mol%以上或いは10mol%以下であるのが更に好ましく、その中でも4mol%以上或いは9mol%以下であるのがより更に好ましい。
【0052】
PVA共重合体の重合度は、基材への追従性の観点から、300~3000であるのが好ましく、その中でも350以上あるいは2500以下、その中でも400以上あるいは2000以下であるのがさらに好ましい。
また、PVA共重合体の4%水溶液20℃粘度(ヘプラー粘度計)は、コーティング加工性の観点から、3.0~60mPa・sであるのが好ましく、その中でも3.5mPa・s以上あるいは40mPa・s以下、その中でも4.5mPa・s以上あるいは30mPa・s以下であるのがさらに好ましい。
また、PVA共重合体のケン化度は、ガスバリア性の観点から、98.0~99.9mol%であるのが好ましく、その中でも99.0mol%以上あるいは99.9mol%以下、その中でも99.5mol%以上あるいは99.9mol%以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
<<本シートの構成>>
本シート1及び2は、前記樹脂層Aの片面又は両面に前記樹脂層Bを備え、かつ、該樹脂層Bの外側にガスバリア層を備えていればよい。
樹脂層Bが樹脂層Aの両面にある場合、前記ガスバリア層は、樹脂層Aの一方の面にある樹脂層Bの外側にのみ設けられてもよく、樹脂層Aの両方の面にある樹脂層Bの外側にそれぞれ設けられてもよい。本シート1又は2から容器を作製するときに、ガスバリア層が内容物と接触することを防ぐ点からは、樹脂層Aの一方の面にある樹脂層Bの外側にのみガスバリア層が設けられることが好ましい。
【0054】
本シート1及び2において、前記樹脂層Aと樹脂層Bとの間、樹脂層Bとガスバリア層との間、さらには、樹脂層Bの外側、あるいはガスバリア層の外側には、「他の層」を備えていてもよい。また、前記樹脂層Aの片面(一側面)に樹脂層Bを備える場合、樹脂層Aの他側面に「他の層」を備えていてもよい。
【0055】
ここで、前記「他の層」としては、例えばアンカーコート層、ヒートシール層、接着層、印刷層、ラミネート層、保護層などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0056】
<<本シートの厚み>>
本シート1及び2の厚みは、二次成形加工後の厚みの観点から、0.1mm以上であるのが好ましく、中でも0.5mm以上、その中でも0.9mm以上であるのがさらに好ましい。その一方、二次成形加工性の観点から、2.0mm以下であるのが好ましく、中でも1.5mm以下、その中でも1.2mm以下であるのがさらに好ましい。
【0057】
樹脂層Aの厚みに対する樹脂層Bの厚みの比率(B/A)は、二次成形加工性の観点から、1.0以上であるのが好ましく、中でも1.5以上、その中でも2.0以上であるのがさらに好ましい。その一方、耐熱性の観点から、10.0以下であるのが好ましく、中でも8.0以下、その中でも6.0以下であるのがさらに好ましい。
【0058】
本シート1及び2におけるガスバリア層の厚みは、ガスバリア性の観点から、0.5μm以上であるのが好ましく、中でも0.8μm以上、その中でも1.0μm以上であるのがさらに好ましい。その一方、コーティング加工性の観点から、30μm以下であるのが好ましく、中でも20μm以下、その中でも10μm以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
<<本シートの物性>>
本シート1及び2は次のような物性を得ることができる。
【0060】
(生分解性)
本シート1及び2は、ISO16929又はJIS K6952記載の58℃の好気的コンポスト環境下で、パイロットスケールで、12週間以内で100mm角のフィルムが2mmのフルイ残りが10%以内になることを満足する生分解性を有することができる。また、本シート1及び2は、完全分解型(生分解した後に残渣が残らない)とすることも可能である。
【0061】
(貯蔵弾性率)
本シート1及び2は、二次成形加工性の観点から、90℃における貯蔵弾性率が5MPa以上であるのが好ましく、中でも8MPa以上、その中でも10MPa以上であるのがさらに好ましい。その一方、二次成形加工性の観点から、200MPa以下であるのが好ましく、中でも100MPa以下であるのがより好ましい。
【0062】
(酸素透過度)
本シート1及び2は、酸素バリア性の観点から、0℃、50%RHにおける酸素透過度が5.0cc/m2・day・atm以下であるのが好ましく、中でも4.0cc/m2・day・atm以下、その中でも3.0cc/m2・day・atm以下であるのがさらに好ましい。酸素透過度は小さいほど好ましく、実現可能な下限としては0.01cc/m2・day・atm以上が好ましい。
本シート1及び2の前記酸素透過度は、例えばガスバリア層の種類や厚みを調整することによって調整することができる。但し、これらの要因に限定されるものではない。
【0063】
(引張特性)
本シート1及び2は、耐久性の観点から、23℃における引張強度が20MPa以上であるのが好ましく、中でも25MPa以上、その中でも30MPa以上であるのがさらに好ましい。
【0064】
本シート1及び2は、耐久性の観点から、23℃における引張弾性率が1GPa以上であるのが好ましく、中でも1.5GPa以上、その中でも2.5GPa以上であるのがさらに好ましい。その一方、タフネスの観点から5GPa以下であるのが好ましく、中でも4GPa以下、その中でも3GPa以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
本シート1及び2は、二次成形加工性の観点から、23℃における引張破断伸びが2%以上であるのが好ましい。
【0066】
<<本容器>>
本発明の実施形態の一例に係る容器(「本容器」)は、本シート1又は2から形成してなるものである。
【0067】
本シート1及び2は、上述のように、二次成形加工性に優れており、比較的深底の容器であっても成形可能であり、しかも、比較的均一な厚さの容器を形成可能であるばかりか、耐熱性にも優れている。よって、本シート1及び2は、容器形成用シートとして好適である。
【0068】
次に、本容器の一例として、図1に示すように、鍔部(1)と、収納部としての凹部(2)とを備えた容器を挙げることができる。
本容器は、後述する実施例1と同様に、本シート1又は2を真空成形することにより作製することができる。
【0069】
鍔部(1)の肉厚は、凹部の耐久性の観点から0.1mm以上であるのが好ましく、中でも0.5mm以上、その中でも0.9mm以上であるのがさらに好ましい。その一方、シート時における二次成形加工性の観点から、2.0mm以下であるのが好ましく、中でも1.5mm以下、その中でも1.2mm以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
凹部(2)は、側壁部(3)と底面部(4)を有し、凹部(2)の上縁部(2a)の平面視形状が非円形状の場合はその最短幅L、該凹部(2)の上縁部(2a)の平面視形状が円形状の場合はその直径Lに対する、凹部(2)の深さDの比率(深さD/最短幅又は直径L)は、浅絞りの容器として使用される0.1以上であるのが好ましく、中でも0.2以上、その中でも0.5以上であるのがさらに好ましい。その一方、深絞りの容器として使用される、5.0以下であるのが好ましく、中でも3.0以下、その中でも2.0以下であるのがさらに好ましい。
【0071】
凹部(2)の側壁部(3)の肉厚の平均値(「平均肉厚」とも称する)は、深絞り成型による、本容器すなわち成形品の肉厚が均一であることにより、厚みによるガスバリア性のムラを小さくして、ガスバリア性のより高い(酸素透過度の低い)包装容器を得るという観点から、前記鍔部(1)の肉厚の15%以上であるのが好ましく、中でも18%以上、その中でも20%以上であるのがさらに好ましい。他方、浅絞り容器における厚みの均一性観点から、前記鍔部(1)の肉厚の95%以下であるのが好ましく、中でも90%以下、その中でも80%以下であるのがさらに好ましい。
【0072】
前記凹部(2)の側壁部(3)は、最大肉厚と最小肉厚との差は、ガスバリア性のムラが小さくなり、ガスバリア性の高い(酸素透過度の低い)包装容器が得られる観点から、0.35mm以下であるのが好ましく、中でも0.30mm以下、その中でも0.25mm以下であるのがさらに好ましい。最大肉厚と最小肉厚との差はバリア性の観点で小さければ小さいほどよく、実現可能な範囲で0.01mm以上が好ましい。
なお、本容器は、図1における底面部(4)を有さず、凹部(2)が側壁部(3)のみで構成されていてもよい。
【0073】
本容器は、生分解性を有することができ、かつ、ガスバリア性及び耐熱性に優れたものとすることができるから、酸素気密性包装容器、食品包装容器、中でも、カプセル式コーヒーメーカー用のコーヒー豆容器(所謂「コーヒーカプセル」)として好適に用いることができる。
また、本シート1又は2を本容器の鍔部(1)を被覆する蓋材とすることもできる。本シート1又は2を蓋材として本容器と一体化することにより、全体として生分解性を有することができ、かつ、ガスバリア性及び耐熱性に優れたものとすることができる。このような態様の場合は、本容器あるいは蓋材のうち少なくとも一方の表面にはヒートシール層を設けることが好ましい。
なお、本容器に用いられる蓋材は本シート1及び2に限定されるものではなく、任意の樹脂製、金属製、紙製、及びこれらの積層体等から選択して用いることができる。
【0074】
本シート1及び2並びに本容器は生分解性が良好であるため、前述の通り、好気的コンポスト環境下での分解特性が良好である。また、好気的コンポスト環境下のみならず、例えば河川や海洋中を滞留する際の自然分解や、鳥類や海洋生物などが誤食して体内に蓄積する問題への対策としても有効な手段となり得るため、その効果は大きい。
【0075】
<<語句の説明>>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)あるいは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」あるいは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例
【0076】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
本発明で用いた測定法及び評価方法は次のとおりである。
【0077】
<貯蔵弾性率測定>
次のようにして、実施例・比較例で得た樹脂層A、樹脂層B及び生分解性積層シート(サンプル)それぞれの貯蔵弾性率を測定した。
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製「DVA-200」)を用いると共に引張治具を使用して、測定温度-100~250℃、周波数10Hz、昇温速度3℃/minにおける、貯蔵弾性率を測定した。そしてこの測定結果から、90℃における貯蔵弾性率(E’)を読み取った。
【0078】
<引張強度、引張破断伸び>
JIS C2133記載の方法に準じて、下記条件の下、実施例・比較例で得た生分解性積層シート(サンプル)の引張強度(MPa)を測定した。
試験長(つかみ具間距離):50mm
試験幅:4mm
速度:200 mm/min
試験温度:23±2 ℃
試験湿度:50±10 %
【0079】
<引張弾性率>
下記条件の下、実施例・比較例で得た生分解性積層シート(サンプル)の引張弾性率(GPa)を測定した。
試験長(つかみ具間距離):50mm
試験幅:3mm
速度:5 mm/min
試験温度:23±2℃
試験湿度:50±10%
【0080】
<酸素透過度>
実施例・比較例で用いた各樹脂原料から各厚みの単層フィルムを形成し、JIS K7126B法に準拠して、23℃、0%RH雰囲気で前記各単層フィルムの酸素透過度(OTR)を測定した。その結果を下記に示した。
そして、実施例・比較例で得た生分解性積層シート(サンプル)の酸素透過度を、各単層フィルムの酸素透過度と、各層の積層比や厚みから、算出した。
【0081】
・PLA(Ingeo NW4032D):厚み99μm,酸素透過度154.9cc/m2・day・atm
・PBS(Forzeas):厚み117μm、酸素透過度55.58cc/m2・day・atm
・PVA(G-polymer):厚み1μm、酸素透過度0.3033cc/m2・day・atm
・PVA(エクセバール):厚み1μm、酸素透過度0.5408cc/m2・day・atm
【0082】
<耐熱性試験>
容器をコーヒーカプセルなどの用途に用いる場合、70~100℃の熱湯でコーヒーを抽出するため、この温度域での耐熱性を評価する必要がある。
そこで、70~100℃に調製した温水バス中に、生分解性包装容器(サンプル)を1分間浸漬させて、耐熱温度を測定した。
この際、70℃から10℃刻みで評価を行い、試験後の形状が試験前の形状から変形した場合は、「耐熱性がない」と評価した。その際、変形しなかった最高温度を耐熱温度とした。例えば70℃でサンプルが変形した場合、耐熱温度は「70℃未満」、100℃でもサンプルが変化しなかった場合、耐熱温度は「100℃以上」とした。
【0083】
<生分解性包装容器(サンプル)の厚み測定>
実施例・比較例で得た生分解性包装容器(サンプル)について、厚み測定器を用いて側壁部各部位の厚みを測定した。
図1の(3a)(3b)(3c)の部分を各3点ずつ測定し、それらの平均値を側壁部の平均厚みとして表1に示した。また、側壁部の厚みの最大値と最小値の差を「側壁部の厚み範囲」として表1に示した。
【0084】
[実施例1]
(生分解性積層シートの作製)
以下の方法で、ポリブチレンサクシネート系樹脂(生分解性樹脂A)を主成分樹脂とする樹脂層Aの表裏両面に、ポリ乳酸(生分解性樹脂B)を主成分樹脂とする樹脂層Bを備えた、樹脂層B/樹脂層A/樹脂層Bの2種3層構成からなる生分解性積層シートを作製した。
【0085】
生分解性樹脂Bとしてポリ乳酸(Nature Works社製、Ingeo NW4032D、密度1.24g/cm3、融点169℃)を用い、オーブンで70℃で5時間保持するように予備加熱した後、押出機(シリンダー温度200℃)へ供給して溶融した。
他方、生分解性樹脂Aとしてポリブチレンサクシネート系生分解性ポリエステル樹脂(三菱ケミカル(株)製、Forzeas TEST H-01、密度1.39g/cm3、融点145℃)を用い、オーブンで70℃で5時間保持するように予備加熱した後、押出機(シリンダー温度160℃)へ供給し溶融させた。
【0086】
溶融した生分解性樹脂B及び生分解性樹脂Aを、Tダイからシート状に2種3層(B層/A層/B層)で共押出し、キャストロールで50℃に急冷して厚み1100μm(B層/A層/B層:440μm/220μm/440μm)の無延伸積層シートを得た。
【0087】
得られた無延伸積層シートの片面に100W・min/m2でコロナ放電処理を施した。
次に、ポリエチレンイミン(平均分子量70000)30質量%水溶液とエタノールとを1:49の質量割合で混合し、ポリエチレンイミン固形分濃度0.6質量%溶液を作製し、先に作製した無延伸積層シートのコロナ放電処理面上に#4バーコーター(8μmの厚みで塗布)を用いてその溶液をコーティングした。次いで、オーブンで70℃を1分間保持するように加熱し、ドライ厚み0.048μmのアンカーコート層を前記無延伸積層シートに形成した。
【0088】
次に、ガスバリア層として、PVA共重合体(三菱ケミカル(株)製、G-polymer BVE8049Q、4%水溶液での20℃粘度4.5mPa・s(ヘプラー粘度計)、推定重合度450、ケン化度99.0mol%以上)の15質量%水溶液を、上記アンカーコート層の面に、#4バーコーター(8μmの厚みで塗布)を用いてコーティングし、次いで、オーブンで70℃を15分保持するように加熱し、ドライ厚み1.2μmの乾燥ポリビニルアルコール共重合体被膜(ガスバリア層)を備えた生分解性積層シート(サンプル)を作製した。
【0089】
(生分解性包装容器の作製)
得られた生分解性積層シート(サンプル)を、真空成形機を用いて二次成形加工(深絞り成形)した。すなわち、該生分解性積層シート(サンプル)を真空成形機の上下のヒーター(上 500℃、下450℃、40s)で急速に昇温し、シート温度が145℃となったところで、プラグアシストと真空成形によって、次に説明するカプセル形状に成形して、生分解性包装容器(サンプル)を作製した。得られた包装容器の物性測定結果を表1に示す。
作製した生分解性包装容器は、図1に示すようなカプセル容器状を呈し、円環状の鍔部(1)と、該鍔部(1)内に、収納部としての凹部(2)とを備えた容器であって、該凹部(2)は、側壁部(3)と円状の底面部(4)とを有し、深さD45mm、上縁部径L145mm、底面部径L237mmであり、鍔部の幅は0.9mmであった。
【0090】
作製した生分解性包装容器を計測したところ、鍔部(1)の肉厚は0.91mm、底面部(4)の肉厚は0.48mm、側壁部の最大肉厚は0.42mm、最小肉厚は0.23mmであった。
また、作製した生分解性包装容器は、ISO16929又はJIS K6952記載の58℃の好気的コンポスト環境下、パイロットスケールで、12週間以内で100mm角のフィルムが2mmのフルイ残りが10%以内になるものであり、完全分解型であった。
【0091】
[実施例2]
実施例1において、ガスバリア層として、PVA共重合体((株)クラレ製、エクセバール)を用いた以外は、実施例1と同様にして、生分解性積層シート(サンプル)及び生分解性包装容器(サンプル)を作製した。
作製した生分解性包装容器を計測したところ、鍔部(1)の肉厚は0.84mm、底面部(4)の肉厚は0.37mm、側壁部の最大肉厚は0.37mm、最小肉厚は0.21mmであった。
また、作製した生分解性包装容器は、ISO16929又はJIS K6952記載の58℃の好気的コンポスト環境下、パイロットスケールで、12週間以内で100mm角のフィルムが2mmのフルイ残りが10%以内になるものであり、完全分解型であった。
【0092】
[比較例1]
ガスバリア層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、生分解性積層シート(サンプル)及び生分解性包装容器(サンプル)を作製した。得られた生分解性積層シートは、ガスバリア層を有していないため、酸素透過度が非常に大きくなった。
作製した生分解性包装容器を計測したところ、鍔部(1)の肉厚は0.76mm、底面部(4)の肉厚は0.47mm、側壁部の最大肉厚は0.38mm、最小肉厚は0.16mmであった。
【0093】
[比較例2]
実施例1で生分解性樹脂Bとして用いたポリ乳酸(Nature Works社製、Ingeo NW4032D、密度1.24g/cm3、融点169℃)から、厚み1200μmの単層シートを作製した以外は、実施例1と同様にして、生分解性積層シート(サンプル)及び生分解性包装容器(サンプル)を作製した。
作製した生分解性包装容器を計測したところ、鍔部(1)の肉厚は1.05mm、底面部(4)の肉厚は0.20mm、側壁部の最大肉厚は0.66mm、最小肉厚は0.20mmであった。得られた生分解性包装容器は、最大肉厚と最小肉厚との差が大きいため、ガスバリア性のムラなどの問題が生じるおそれがある。
【0094】
[比較例3]
実施例1で生分解性樹脂Aとして用いたポリブチレンサクシネート系生分解性ポリエステル樹脂(三菱ケミカル(株)製、Forzeas TEST H-01、密度1.39g/cm3、融点145℃)から単層シートを作製した以外は、実施例1と同様にして、生分解性積層シート(サンプル)及び生分解性包装容器(サンプル)を作製した。
作製した生分解性包装容器を計測したところ、鍔部(1)の肉厚は0.99mm、底面部(4)の肉厚は0.81mm、側壁部の最大肉厚は0.21mm、最小肉厚は0.074mmであった。得られた生分解性包装容器は、側壁部(3)の肉厚が小さく、特に鍔部(1)の肉厚に対する側壁部(3)の平均肉厚の割合が小さいため、ガスバリア性のムラなどの問題が生じるおそれがある。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
ポリ乳酸(PLA)単層の比較例2の生分解性包装容器(サンプル)では、側壁部の厚み範囲(最大値と最小値の差)が0.45mmであったのに対し、実施例1及び2では、それぞれ0.19mm、0.16mmであり、側壁部の偏肉が大幅に改善されていることを確認できた。
これら実施例1及び2では、90℃での貯蔵弾性率(E’)が所定範囲に入るように各層の樹脂構成を設計した。
【0098】
実施例及び比較例の結果並びに本発明者がこれまで行ってきた試験結果より、PLAの単層シートである比較例2に比べて、実施例1及び2のように、90℃での貯蔵弾性率(E’)を目安として適宜生分解性樹脂を選択して積層シートとすることにより、深絞り成形しても厚みムラを抑制することができる成形性を確保でき、しかも、耐熱性を高めることができることが分かった。
図1