(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】基板を加熱する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/324 20060101AFI20240730BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240730BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240730BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20240730BHJP
C23C 16/46 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01L21/324 T
H01L21/324 G
H01L21/324 K
H01L21/205
H01L21/68 N
H05B3/00 310D
C23C16/46
(21)【出願番号】P 2020151978
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 貴久
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-228230(JP,A)
【文献】国際公開第2010/098427(WO,A1)
【文献】特開平02-073413(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0870565(KR,B1)
【文献】特開2008-240003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 21/205
H01L 21/683
H05B 3/00
C23C 16/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱する装置であって、
前記基板が載置されると共に、前記基板を加熱する抵抗加熱式の加熱部が設けられたステージと、
前記加熱部により前記基板を加熱する加熱温度を検出する温度検出部と、
前記加熱部に供給されている電力の電流値及び電圧値から求めた当該加熱部の抵抗値に基づいて、前記加熱温度を算出する温度算出部と、
交流電源部から出力された電力に対し、位相制御とゼロクロス制御とを切り替えて適用して前記加熱温度を予め設定された設定温度に近づけるように前記加熱部に供給される電力の電力制御を行う電力制御部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記加熱温度が予め設定された切り替え温度より低温の範囲では、前記温度検出部による加熱温度の検出結果に基づいて、位相制御により電力制御を行い、前記切り替え温度より高温の範囲では、前記温度算出部による加熱温度の算出結果に基づいて、ゼロクロス制御により電力制御を行うように、前記電力制御部の電力制御を切り替えるように構成される、装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記切り替え温度に替えて、前記低温の範囲の上限温度である第1温度と、前記高温の範囲の下限温度であり、前記第1温度よりも高い温度である第2温度とを基準として前記電力制御部の電力制御を切り替えることと、
前記第1温度と前記第2温度との間の切り替え温度範囲では、前記温度検出部による加熱温度の検出結果と前記温度算出部による加熱温度の算出結果との間の温度である移行温度に基づいて、位相制御またはゼロクロス制御のいずれか一方により電力制御を行うように前記電力制御部を制御することと、を実行するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記移行温度は、前記温度検出部による加熱温度の検出結果と、前記温度算出部による加熱温度の算出結果との加重平均温度であって、当該加重平均温度が前記第1温度に近い程、前記温度検出部による加熱温度の検出結果の比率が大きく、当該加重平均温度が前記第2温度に近い程、前記温度算出部による加熱温度の算出結果の比率が大きくなるように、前記加重平均温度の重みを変化させて得られた温度である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ステージには、前記基板の中央側の領域である第1領域を加熱するための前記加熱部である第1加熱部と、前記第1領域とは異なる、前記基板の外周側の領域である第2領域を加熱するための、抵抗加熱式の第2加熱部とが設けられていることと、
前記電力制御部は、前記第2加熱部に対して、位相制御とゼロクロス制御とを切り替えて適用し、当該第2加熱部に供給される電力の電力制御を行うことと、
前記温度検出部は、前記第1領域の加熱温度を検出する位置に設けられていることと、
前記温度算出部は、前記第2加熱部に供給されている電力の電流値及び電圧値から求めた当該第2加熱部の抵抗値に基づいて、前記第2領域の加熱温度を算出することと、
前記制御部は、前記第2加熱部に対して、前記温度検出部により検出した前記第1領域の加熱温度が前記切り替え温度より低温の範囲では、前記第1加熱部に対する電力制御の結果に基づいて、位相制御により電力制御を行い、前記
第1領域の加熱温度が切り替え温度より高温の範囲では、前記温度算出部による前記第2領域の加熱温度の算出結果に基づいて、ゼロクロス制御により、前記第2領域の加熱温度を、当該第2領域に対して予め設定された他の設定温度に近づけるように電力制御を行うように、前記電力制御部の電力制御を切り替えるように構成されることと、を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記切り替え温度に替えて、前記低温の範囲の上限温度である第1温度と、前記高温の範囲の下限温度であり、前記第1温度よりも高い温度である第2温度とを基準として前記第2加熱部に対する前記電力制御部の電力制御を切り替えることと、
前記第1温度と前記第2温度との間の切り替え温度範囲では、前記第2加熱部に対し、前記温度検出部による前記第1領域の加熱温度の検出結果から得られた温度と前記温度算出部による第2領域の加熱温度の算出結果との間の温度である移行温度に基づいて、位相制御またはゼロクロス制御のいずれか一方により、前記移行温度を、前記他の設定温度に近づける電力制御を行うように前記電力制御部を制御することと、を実行するように構成される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記移行温度は、前記温度検出部による前記第1領域の加熱温度の検出結果から得られた温度と、前記温度算出部による前記第2領域の加熱温度の算出結果との加重平均温度であって、当該加重平均温度が前記第1温度に近い程、前記温度検出部による加熱温度の検出結果から得られた温度の比率が大きく、当該加重平均温度が前記第2温度に近い程、前記温度算出部による加熱温度の算出結果の比率が大きくなるように、前記加重平均温度の重みを変化させて得られた温度である、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
基板を加熱する方法であって、
ステージに載置された基板を、当該ステージに設けられた抵抗加熱式の加熱部により加熱する工程と、
温度検出部を用い、前記加熱部により前記基板を加熱する加熱温度を検出する工程と、
前記加熱部に供給されている電力の電流値及び電圧値から求めた当該加熱部の抵抗値に基づいて、前記加熱温度を算出する工程と、
交流電源部から出力された電力に対し、位相制御とゼロクロス制御とを切り替えて適用して前記加熱温度を予め設定された設定温度に近づけるように前記加熱部に供給される電力の電力制御を行う工程と、を含み、
前記電力制御を行う工程は、前記加熱温度が予め設定された切り替え温度より低温の範囲では、前記加熱温度を検出する工程における加熱温度の検出結果に基づいて、位相制御により電力制御を実施し、前記切り替え温度より高温の範囲では、前記加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果に基づいて、ゼロクロス制御により電力制御を実施する、方法。
【請求項8】
前記切り替え温度に替えて、前記低温の範囲の上限温度である第1温度と、前記高温の範囲の下限温度であり、前記第1温度よりも高い温度である第2温度とを基準として前記電力制御を行う工程の電力制御の切り替えを実施することと、
前記第1温度と前記第2温度との間の切り替え温度範囲では、前記電力制御を行う工程は、前記加熱温度を検出する工程における加熱温度の検出結果と、前記加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果との間の温度である移行温度に基づいて、位相制御またはゼロクロス制御のいずれか一方により電力制御を実施することと、を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記移行温度は、前記加熱温度を検出する工程における加熱温度の検出結果と、前記加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果との加重平均温度であって、当該加重平均温度が前記第1温度に近い程、前記加熱温度を検出する工程における加熱温度の検出結果の比率が大きく、当該加重平均温度が前記第2温度に近い程、前記加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果の比率が大きくなるように、前記加重平均温度の重みを変化させて得られた温度である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ステージには、前記基板の中央側の領域である第1領域を加熱するための前記加熱部である第1加熱部と、前記第1領域とは異なる、前記基板の外周側の領域である第2領域を加熱するための、抵抗加熱式の第2加熱部とが設けられ、前記加熱する工程では、前記第1加熱部に加え、前記第2加熱部による加熱を実施することと、
前記電力制御を行う工程では、前記第2加熱部に対して、位相制御とゼロクロス制御とを切り替えて適用し、当該第2加熱部に供給される電力の電力制御を実施することと、
前記加熱温度を検出する工程では、前記第1領域の加熱温度を検出することと、
前記加熱温度を算出する工程は、前記第2加熱部に供給されている電力の電流値及び電圧値から求めた当該第2加熱部の抵抗値に基づいて、前記第2領域の加熱温度を算出する工程を含むことと、
前記電力制御を行う工程では、前記第2加熱部に対して、前記加熱温度を検出する工程にて検出した前記第1領域の加熱温度が前記切り替え温度より低温の範囲では、前記第1加熱部に対する電力制御の結果に基づいて、位相制御により電力制御を実施し、前記
第1領域の加熱温度が切り替え温度より高温の範囲では、前記第2領域の加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果に基づいて、ゼロクロス制御により、前記第2領域の加熱温度を、当該第2領域に対して予め設定された他の設定温度に近づけるように電力制御を実施する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記切り替え温度に替えて、前記低温の範囲の上限温度である第1温度と、前記高温の範囲の下限温度であり、前記第1温度よりも高い温度である第2温度とを基準として前記第2加熱部に対し、前記電力制御を行う工程の電力制御の切り替えを実施することと、
前記第1温度と前記第2温度との間の切り替え温度範囲では、前記電力制御を行う工程は、前記加熱温度を検出する工程における前記第1領域の加熱温度の検出結果から得られた温度と、前記第2領域の加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果との間の温度である移行温度に基づいて、位相制御またはゼロクロス制御のいずれか一方により、前記第2加熱部に対し、前記移行温度を前記他の設定温度に近づける電力制御を実施することと、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記移行温度は、前記加熱温度を検出する工程における前記第1領域の加熱温度の検出結果から得られた温度と、前記第2領域の加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果との加重平均温度であって、当該加重平均温度が前記第1温度に近い程、前記加熱温度を検出する工程における加熱温度の検出結果から得られた温度の比率が大きく、当該加重平均温度が前記第2温度に近い程、前記第2領域の加熱温度を算出する工程における加熱温度の算出結果の比率が大きくなるように、前記加重平均温度の重みを変化させて得られた温度である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板を加熱する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、基板に対する加熱処理として、基板に膜を形成する成膜処理や、基板に形成された膜の改質処理等が行われている。この加熱処理は、例えばステージに基板を配置して、加熱部にて基板を加熱することにより実施される。加熱温度の制御は、例えば取得された温度検出値に基づいて、加熱部の出力を制御することにより行われる。
【0003】
特許文献1には、熱処理装置において、常温ないし低温域では熱電対にてウエハの温度をモニタし、高温域では放射温度計にてウエハの温度をモニタして、加熱出力を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、基板をステージに載置して、抵抗加熱式の加熱部により加熱するにあたり、広い温度範囲でステージの温度を高精度に制御する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
基板を加熱する装置であって、
前記基板が載置されると共に、前記基板を加熱する抵抗加熱式の加熱部が設けられたステージと、
前記加熱部により前記基板を加熱する加熱温度を検出する温度検出部と、
前記加熱部に供給されている電力の電流値及び電圧値から求めた当該加熱部の抵抗値に基づいて、前記加熱温度を算出する温度算出部と、
交流電源部から出力された電力に対し、位相制御とゼロクロス制御とを切り替えて適用して前記加熱温度を予め設定された設定温度に近づけるように前記加熱部に供給される電力の電力制御を行う電力制御部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記加熱温度が予め設定された切り替え温度より低温の範囲では、前記温度検出部による加熱温度の検出結果に基づいて、位相制御により電力制御を行い、前記切り替え温度より高温の範囲では、前記温度算出部による加熱温度の算出結果に基づいて、ゼロクロス制御により電力制御を行うように、前記電力制御部の電力制御を切り替えるように構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、基板をステージに載置して、抵抗加熱式の加熱部により加熱するにあたり、広い温度範囲でステージの温度を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る成膜装置を示す縦断側面図である。
【
図2】前記成膜装置の制御系の構成例を示す第1のブロック図である。
【
図3】前記成膜装置に設けられる加熱部の抵抗温度係数の温度変化を示す特性図である。
【
図4】前記成膜装置で実施される位相制御を説明する特性図である。
【
図5】前記成膜装置で実施されるゼロクロス制御を説明する特性図である。
【
図6】前記成膜装置の作用を説明する第2のブロック図である。
【
図7】前記成膜装置の作用を説明する第3のブロック図である。
【
図8】前記成膜装置の作用を説明する第1のフローチャートである。
【
図9】前記成膜装置の作用を説明する第4のブロック図である。
【
図10】前記成膜装置の作用を説明する第5のブロック図である。
【
図11】前記成膜装置の作用を説明する第2のフローチャートである。
【
図12】前記成膜装置の作用を説明する第1の特性図である。
【
図13】前記成膜装置の作用を説明する第2の特性図である。
【
図14】前記成膜装置の作用を説明する第3の特性図である。
【
図15】前記成膜装置の作用を説明する第4の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の基板を加熱する装置(以下、「加熱装置」という)の一実施形態である成膜装置について、
図1を参照し説明する。成膜装置1は、基板例えば半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)Wを収容する処理容器10を備え、処理容器10の側壁にはウエハWを搬入、搬出するための搬入出口11が、ゲートバルブ12により開閉自在に形成される。また、処理容器10は真空排気路13を介して例えば真空ポンプよりなる真空排気部14に接続される。
【0010】
処理容器10の内部には、ウエハWが載置されるステージ2が設けられている。例えばステージ2は円板状に形成され、支持部材21を介して、処理容器10の下方に設けられた昇降機構22に接続され、昇降自在に構成されている。
また、処理容器10にはステージ2と対向するように、シャワーヘッド3が設けられ、ガス供給系31から供給された処理ガスが、シャワーヘッド3の下面に形成されたガス吐出孔30を介して処理容器10内に供給される。
【0011】
この例におけるガス供給系31は、原料ガスの供給源32、反応ガスの供給源33及び不活性ガスの供給源34、35を備え、これらはガス供給路321、331、341、351により処理容器10に夫々接続されている。
図1中、符号322、332、342、352は、夫々流量調整部を指し、符号V1、V2、V3、V4は、夫々バルブを指している。炭化ケイ素(SiC)膜を成膜する場合、原料ガスとしては、ケイ素プリカーサのガスであるジシラン(Si
2H
6)を用いることができる。また、反応ガスとしては、炭素プリカーサのガスであるビストリメチルシリルアセチレン(BTMSA)を用いることができる。また、不活性ガスとしては、例えばArガスが用いられる。
【0012】
ステージ2には、ウエハWを加熱するための抵抗加熱式の加熱部4が埋設されている。加熱部4は、窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス材料からなるステージ2の内部に、高融点金属からなる複数の抵抗発熱体を円環状又は円弧状に平面的に配置して構成されている。この例の加熱部4は、抵抗発熱体が設けられている領域に対応して、ウエハWの一部である第1領域22を加熱するための第1加熱部(インナーヒータ)41と、ウエハWの第2領域23を加熱するための第2加熱部(アウターヒータ)42と、に分けられている。第1領域22は、ウエハWの中央側の領域に対応して設定された領域である。また第2領域23は、ウエハWの中央側の領域とは異なる、外周側の領域に対応して設定された領域である。インナーヒータ41及びアウターヒータ42を構成する抵抗発熱体は、目的とするウエハWの加熱処理に応じて、例えばモリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)等から選択される。
【0013】
図2に示すように、ステージ2には熱電対(TC:Thermocouple)5が設けられている。この熱電対5は、ウエハWを加熱する加熱温度を検出する温度検出部をなすものである。熱電対5は、例えばステージ2の支持部材21の内部を介して、その先端がインナーヒータ41の下方側に位置するように配置され、こうして、第1領域22の加熱温度を検出する位置に設けられる。
【0014】
続いて、加熱部4の制御系について、
図2を参照して説明する。インナーヒータ41、アウターヒータ42は、夫々サイリスタ431、432及び変流器441、442を介して交流電源部45に接続されている。また、インナーヒータ41及びアウターヒータ42には夫々電力計461、462、及び電圧計471、472が接続されている。サイリスタ431、432は例えば交流電源部45からインナーヒータ41及びアウターヒータ42に供給される交流電力の電力制御を行うものである。
【0015】
第1領域22の加熱温度に応じて熱電対5にて生じた起電力は、変換部51を介して加熱制御部61出力設定部612に入力される。変換部51は、熱電対5の起電力を温度データに変換する機能を有し、この温度データが温度検出部(熱電対5)による加熱温度の検出結果(以降、「温度検出値」という)に相当する。加熱制御部61に入力された温度検出値は、加熱制御部61内に設けられている後述の出力設定部612に入力され、また、同じく後述のメイン制御部7に向けて出力される。
【0016】
加熱制御部61は、マイクロコンピュータにより構成され、温度算出部611と出力設定部612とを備えている。温度算出部611は、インナーヒータ41及びアウターヒータ42に供給されている電力の抵抗値に基づいて、これらヒータ41、42によりウエハWを加熱する加熱温度を算出する機能を有する。これらインナーヒータ41、アウターヒータ42によりウエハWを加熱する加熱温度とは、夫々第1領域22の加熱温度、第2領域23の加熱温度である。
【0017】
より詳細には、温度算出部611は、抵抗値から得られる抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient of Resistance)を利用して温度を算出するように構成されている。抵抗温度係数は、所定の基準温度(
図3に示す例では100℃)における抵抗値に対する、各温度における抵抗値の比である。金属により構成された加熱部4(インナーヒータ41、アウターヒータ42)の抵抗温度係数と温度との間には、
図3に示すように、温度上昇に連れて抵抗温度係数が上昇するという対応関係がある。従って、インナーヒータ41、アウターヒータ42の抵抗値に基づいて、各領域22、23の加熱温度を演算により取得することができる。即ち、温度算出部611は、熱電対5が設けられていない第2領域23の加熱温度も算出することができる。ここでは、加熱部4の抵抗値に基づいて算出された加熱温度の算出結果を「TCR算出温度」と称する。
【0018】
この例では、インナーヒータ41、アウターヒータ42に供給されている電力の電流値及び電圧値は、夫々変流器441、442、電圧計471、472により検出され、電力制御部62に入力される。そして、電力制御部62にて、各ヒータ41、42の抵抗値(電圧値/電流値)を演算して、温度算出部611に出力する。そして、温度算出部611では、
図3に示すように、ヒータ41、42の材質に応じて規定される抵抗温度係数の温度との関係に基づいて、TCR算出温度を算出する。なお、各ヒータ41、42の抵抗値の計算は、温度算出部611(加熱制御部61)側で実行してもよい。
【0019】
この図に示すように、金属の種類によって、抵抗温度係数の温度変化に対する変化量(傾き)が異なる。そこで、加熱処理の処理温度の制御に求められる精度等に応じた十分な解像度のTCR算出温度を得られる金属が、加熱部4の抵抗発熱体を構成する金属として選択される。この例では、モリブデンを抵抗発熱体として用いている。
なお、
図3に示す例では、モリブデンは、ニッケルやタングステンよりも温度-抵抗温度係数の傾きが小さく、TCR算出温度を算出する際の解像度は小さい。一方で、ニッケルやタングステンは、
図3に示す範囲よりも高温の温度範囲にて、温度-抵抗温度係数の傾きが次第に変化することを把握している。この点、本例では、広い温度範囲に亘って温度-抵抗温度係数の傾きの変化が少なく、TCR算出温度を算出時の解像度が安定しているモリブデンを採用している。
【0020】
出力設定部612は、既述の温度検出値やTCR算出温度に基づいて、インナーヒータ41、アウターヒータ42に供給される電力(供給電力値)を設定するように構成される。このとき出力設定部612は、加熱温度が予め設定された切り替え温度より低温の範囲では、熱電対5を利用した温度検出値が予め設定された加熱温度の設定温度に近づくように、供給電力値を設定する機能を有する。また、加熱温度が切り替え温度より高温の範囲では、抵抗温度係数(抵抗値)を利用したTCR算出温度が予め設定された加熱温度の設定温度に近づくように供給電力値を設定する機能を有する。
【0021】
電力制御部62は、加熱制御部61からの指令に基づき、交流電源部45から出力された電力に対し、位相制御とゼロクロス制御とを切り替えて適用して電力制御を行うように、サイリスタ431、432に対して制御信号を出力する。
【0022】
位相制御とゼロクロス制御との切り替えに当たっては、加熱制御部61から電力制御部62に対して、供給電力値の設定信号と共に、いずれか一方の制御を選択する信号を出力するように構成してもよい。または、加熱制御部61から出力される供給電力値の値が制御の切り替え信号の役割を兼ねてもよい。この場合は、供給電力値が予め設定されたしきい値以下の範囲では、位相制御を実行し、供給電力値が前記しきい値よりも大きい範囲では、ゼロクロス制御を実行するように、電力制御部62側で切り替えの判断を行う場合を例示することができる。以下の説明では、後者の手法により位相制御とゼロクロス制御とを切り替える場合について説明する。
上述の機能の観点において、出力設定部612を備えた加熱制御部61は、温度検出値及びTCR算出温度に基づいて、電力制御部62の電力制御を切り替えるように構成された、本開示の制御部に相当する。
【0023】
位相制御は、サイリスタ431、432を用い、
図4に示すように、例えば交流電流の周期ごとに、交流電源部45からの電力供給のオン時間の割合を変化させることにより、供給する電力量を制御する方式である。
図4では、斜線のハッチングを付した時間が電力を供給するオン時間、電圧が「ゼロ」の時間がオフ時間であって、オン時間の割合を増加させることにより、加熱部4への電力供給量が多くなる。つまり、
図4では、オン時間が50%であるため、電力供給量が50%となり、オン時間の増減により電力供給量が精密に制御される。
【0024】
また、ゼロクロス制御は、サイリスタ431、432を用い、
図5に示すように、振幅がゼロの位置を始点とする1波長又は半波長を単位として、電力供給のオンとオフとを設定し、電力供給を行う供給区間と、行わない停止区間とを設けることによって、供給する電力量を制御する方式である。
図5のモデルは、振幅がゼロの位置を始点とする1波長を単位として、電力供給のオンとオフとを設定する場合において、4波長の電力供給量を100%としている。従って、夫々の電力供給量は、
図5(a)は3波長であるので75%、
図5(b)は2波長であるので50%、
図5(c)は1波長であるので25%となる。但し、
図5は説明上のモデルであり、より高周波の波数を増減することにより、さらに精密な出力調整が行うことができる。
【0025】
さらに、成膜装置1は、メイン制御部7を備えている。メイン制御部7は、CPUと記憶部とを備えたコンピュータにより構成され、成膜装置1の各部を制御するものである。記憶部にはステージ2の加熱などのウエハWの処理に必要な動作を実行するためのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカードなどの記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0026】
また、メイン制御部7は、熱電対5の温度検出値、及び温度算出部611にて算出されたTCR算出温度に基づいて、加熱制御部61に制御指令を出力し、加熱部4(ヒータ41、42)の加熱制御を行うように構成される。なお、加熱制御部61、電力制御部62が実行する制御の内容については、後述する作用と共に詳述する。
【0027】
さらに、メイン制御部7は、加熱部4(ヒータ41、42)の設定温度や、後述するヒータ41、42の供給電力の固定比率等が入力できるように構成されている。設定温度は、加熱処理時の処理温度に加え、処理温度に昇温するまでの昇温過程、処理温度から降温させるときの降温過程を含めて温度制御を行う場合には、各時点における温度や昇温・降温速度を含んでもよい。設定温度は、例えばウエハWの加熱処理のレシピに応じて予め設定され、メイン制御部7から出力設定部612へと供給される。
【0028】
ここで、成膜装置1にて実施される、本開示の加熱処理である成膜処理の一例について、簡単に記載する。なお、インナーヒータ41、アウターヒータ42への供給電力制御の詳細については後述する。先ず、ゲートバルブ12を開いて、外部の不図示の搬送アームによりウエハWを搬入出口11から処理容器10内に搬入し、ステージ2に載置する。そして、ゲートバルブ12を閉じた状態で真空排気部14により真空排気を行い、処理容器10内の圧力を成膜処理時の圧力に調節する。
【0029】
一方、ステージ2を、加熱部4により、予め設定された昇温プロファイルに基づいて、例えば第1温度T1以下の温度例えば常温から成膜処理時の温度である例えば500℃まで徐々に昇温する。加熱部4によりウエハWを加熱する加熱温度が処理温度に到達すると、ウエハWの成膜処理を実施する。この成膜処理では、処理容器10へ原料ガスであるジシランガスを供給し、ウエハWにジシランを吸着させる吸着工程と、ジシランガスの供給を停止し、処理容器10内にArガスを供給してパージする工程を実施する。そして、処理容器10に反応ガスであるBTMSAガスを供給し、ウエハWに吸着したジシランとBTMSAとを反応させる反応工程と、BTMSAの供給を停止し、処理容器10内にArガスを供給してパージする工程とを実施する。そして、この吸着工程と反応工程とを交互に複数回繰り返すことにより、ALD(Atomic layer deposition)法によりSiC膜を形成する。
【0030】
こうして、ウエハWの成膜処理を実施した後、例えば予め設定された降温プロファイルに基づいて、加熱部4を降温させる。そして、予め設定された温度まで低下したら、処理容器10内の圧力をウエハWの搬送動作実行時の圧力に調節した後、ゲートバルブ12を開く。しかる後、外部の搬送アームを進入させ、搬入時とは反対の経路でウエハWを搬出する。
【0031】
続いて、加熱部4の供給電力の制御について、加熱制御部61や電力制御部62の機能も合わせて説明する。先ず、
図6を用いて、インナーヒータ41による、第1温度以下の温度範囲の制御について説明する。第1温度とは、切り替え温度よりも低温の範囲の上限温度である。
図6では、当該インナーヒータ41の電力制御に関するラインを太字の実線及び破線にて示している。なお、後述する
図7、
図9、
図10においても、説明対象となる電力制御に関するラインを太字の実線及び破線にて示している。
【0032】
本開示では、加熱部4に供給される電力の電力制御を位相制御とゼロクロス制御とで切り替えており、この切り替えを切り替え温度に基づいて行っている。切り替え温度とは、電力制御を切り替える判定基準となる温度であり、切り替え温度よりも低温の範囲では位相制御が選択され、切り替え温度よりも高温の範囲ではゼロクロス制御が選択される。切り替え温度は、加熱処理の種別や、加熱部4を構成する抵抗発熱体の材質に応じて、加熱処理毎に設定される温度である。
【0033】
加熱制御部61は、第1温度以下の温度範囲では、熱電対5の温度検出値Taに基づいて位相制御により電力制御を行う指令を、電力制御部62に出力する。
加熱部4を構成する抵抗発熱体は、抵抗温度係数が大きいため、
図3に示すように、低温時には抵抗値が低いことから、大電流が流れることを抑制するために、加熱制御方式としては位相制御が好ましい。但し、この位相制御では、
図4に示すように、出力電圧が非正弦波となるため、抵抗温度係数を利用したTCR算出温度の測定精度が低くなってしまう。一方、第2領域23に設けられていない点(第2領域23の温度検出値を直接取得できない点)を除き、熱電対5の温度検出値Taは、広範な温度範囲で測定精度が高い。そこで、位相制御が必要な低温の範囲では、熱電対5により温度を検出して、この温度検出値Taに基づいてインナーヒータ41の電力制御を行っている。例えば常温から300℃程度までの温度範囲では位相制御を用いた方が精密な温度制御が可能な場合には、切り替え温度より低温の範囲の上限温度である第1温度は、前述の300℃に設定される。
【0034】
この場合の制御動作について、
図6を参照しながら説明すると、加熱制御部61の出力設定部612には、熱電対51の温度検出値Taが入力され、この温度検出値をメイン制御部7に出力する。出力設定部612は、温度検出値Taと予め設定された設定温度とを比較し、温度検出値Taが設定温度に近付くように、インナーヒータ41の供給電力値を設定する。この供給電力の設定値P1が電力制御部62に出力されると、電力制御部62は、この設定値P1が位相制御を実行する設定値の範囲内であることを判断し、当該設定値P1に基づいて、サイリスタ431の動作制御を行う。
【0035】
詳細には、電力制御部62は、サイリスタ431を用い、位相制御により、変流器441出口の電力検出値が、前記設定値P1に近付くようにインナーヒータ41に供給される電力をフィードバック制御する。この結果、熱電対5の温度検出値Taが設定温度に近付くように、インナーヒータ41に供給される電力が制御される。
【0036】
続いて、
図7を用いて、インナーヒータ41による、第2温度以上の温度範囲の制御について説明する。第2温度とは、切り替え温度よりも高温の範囲の下限温度であり、第1温度よりも高い温度である。
加熱制御部61は、第2温度以上の温度範囲では、温度算出部611による第1領域22の加熱温度の算出結果(TCR算出温度Tb)に基づいて、ゼロクロス制御により電力制御を行う指令を電力制御部62に出力する。
【0037】
例えば、300℃以上の温度範囲では、
図3に示すように、加熱部4の抵抗値が高くなり、大電流が流れるおそれが小さく、ゼロクロス制御を採用しても精密な温度制御が可能となる。また、ゼロクロス制御では、
図5に示すように、出力電圧が正弦波であるため、抵抗値の測定精度が高く、抵抗値に基づいて高精度に温度を算出することもできる。これらの理由から、高温の範囲では加熱制御方式として、ゼロクロス制御を採用し、TCR算出温度Tbに基づいて電力制御を行うことが可能となる。そこで、この例では、既述の第1温度(300℃)に対して、切り替え温度範囲(Δ50℃)を加えた第2温度を350℃に設定し、第2温度以上の温度範囲では、TCR算出温度Tbに基づいてゼロクロス制御により電力制御を行っている。
【0038】
この場合には、
図7に示すように、インナーヒータ41に供給されている電力について、変流器441にて電流値I1、電圧計471にて電圧値V1を夫々検出して、電力制御部62に出力する。そして、電力制御部62ではインナーヒータ41の抵抗値R1(電圧値V1/電流値I1)を求め、加熱制御部61の温度算出部611において、この抵抗値R1に基づいてTCR算出温度Tbを算出する。TCR算出温度Tbは、インナーヒータ41によりウエハWを加熱する加熱温度(第1領域22の加熱温度)であり、この値は出力設定部612及びメイン制御部7に出力される。
【0039】
出力設定部612では、TCR算出温度Tbと予め設定された設定温度とを比較し、TCR算出温度Tbが設定温度に近付くように、インナーヒータ41の供給電力値を設定する。この供給電力の設定値P1が電力制御部62に出力されると、電力制御部62は、この設定値P1がゼロクロス制御を実行する設定値の範囲内にあることを判断し、当該設定値P1に基づいて、サイリスタ431の動作制御を行う。
【0040】
詳細には、電力制御部62は、サイリスタ431を用い、ゼロクロス制御により、変流器441出口の電力検出値が、前記設定値P1に近付くようにインナーヒータ41に供給される電力をフィードバック制御する。この結果、TCR算出温度Tbが設定温度に近づくように、インナーヒータ41に供給される電力が制御される。
【0041】
以上に説明した制御動作の流れについて、
図8のフローチャートを参照して、インナーヒータ41の昇温時の加熱制御について説明する。先ず、加熱制御部61では、熱電対5の温度検出値Taに基づいて、熱電対5を単独で使用する温度範囲か否か、つまり第1温度(この例では300℃)以下か否かを判断する(ステップS101;YES)。温度検出値Taが第1温度以下であれば、ステップS102に進む。そして、
図6を参照して説明したように、インナーヒータ41の供給電力値を算出し、この供給電力値に基づき、位相制御を実行する(ステップS103)。
【0042】
一方、温度検出値Taが第1温度よりも高い場合には(ステップS101;NO)、ステップS104に進み、抵抗温度係数単独使用温度範囲か否か、つまりTCR算出温度Tbが第2温度(この例では350℃)以上か否かを判断する。TCR算出温度Tbが第2温度以上であれば(ステップS104;YES)、ステップS108に進む。そして、
図7を参照して説明したように、インナーヒータ41の供給電力値を算出し、この供給電力値に基づき、ゼロクロス制御を実行する(ステップS107)。
【0043】
また、TCR算出温度Tbが第2温度より低い場合には(ステップS104;NO)、ステップS105に進み、温度検出値Ta、TCR算出温度Tbに基づく加重平均温度を算出する。そして、この加重平均温度からインナーヒータ41の供給電力値を算出し(ステップS106)、当該供給電力値に基づき、ゼロクロス制御を実行する(ステップS107)。ステップS105、S106の加重平均温度に基づく制御については後述する。
【0044】
続いて、
図9~
図11を参照して、熱電対5を備えていない第2領域23に設けられているアウターヒータ42に対する供給電力の制御について説明する。先ず、
図9を用いて、第1温度以下の温度範囲における制御について述べる。加熱制御部61は、第1温度以下の温度範囲では、インナーヒータ41に対する電力制御の結果に基づいて、アウターヒータ42に対して位相制御により電力制御を行う指令を電力制御部62に出力する。
【0045】
本例において「インナーヒータ41に対する電力制御の結果に基づいて」とは、
図6にて説明したインナーヒータ41の供給電力の設定値P1に対して固定比率αを乗じた設定値α・P1を、アウターヒータ42の供給電力値として設定するということである。この例では、第2領域23に対応する領域には熱電対5を配置していないので、当該領域23の温度検出値Taを得ることはできない。一方で、位相制御を実行している期間中は、測定精度が低いTCR算出温度Tbを利用することも困難である。
【0046】
そこで、位相制御の実行期間中は、熱電対5により検出された第1領域22の加熱温度の検出結果を利用して、アウターヒータ42の制御を行う。第1領域22の加熱温度と、第2領域23の加熱温度との間には相関関係があり、熱電対5の温度検出値に固定比率を乗じることにより、第2領域23の加熱温度を推定することができる。従って、予め前記固定比率αを取得することによって、「インナーヒータ41対する電力制御の結果に基づいて」、アウターヒータ42の供給電力値を設定することができる。
【0047】
電力制御部62では、この設定値α・P1が位相制御を実行する設定値の範囲内であることを判断し、当該設定値α・P1に基づいて、サイリスタ432の動作制御を行う。即ち、電力制御部62は、サイリスタ432を用い、位相制御により、変流器442出口の電力検出値が前記設定値α・P1に近づくようにアウターヒータ42に供給される電力をフィードバック制御する。
【0048】
続いて、
図10を用いて、アウターヒータ42による、第2温度以上の温度範囲における制御について説明する。加熱制御部61は、第2温度以上の温度では、温度算出部611による第2領域23の加熱温度の算出結果(TCR算出温度Tb)に基づいて、ゼロクロス制御により電力制御を行う指令を電力制御部62に出力する。この電力制御では、第2領域23の加熱温度を予め設定された設定温度に近付けるように制御される。
【0049】
この場合には、アウターヒータ42に供給されている電力について、変流器442と電圧計472により、夫々検出された電流値I2、電圧値V2を電力制御部62に出力し、アウターヒータ42の抵抗値R2を求める。次いで、温度算出部611において、この抵抗値R2に基づいて第2領域23の加熱温度(TCR算出温度Tb)を算出し、出力設定部612及びメイン制御部7に出力する。
【0050】
出力設定部612では、TCR算出温度Tbと予め設定された設定温度とを比較し、TCR算出温度Tbが設定温度に近付くように、アウターヒータ42の供給電力値を設定する。この供給電力の設定値P2が電力制御部62に出力されると、電力制御部62は、この設定値P2がゼロクロス制御を実行する設定値の範囲内にあることを判断し、当該設定値P2に基づいて、サイリスタ432の動作制御を行う。
【0051】
詳細には、電力制御部62は、サイリスタ432を用い、ゼロクロス制御により、変流器442出口の電力検出値が、前記設定値P2に近付くようにアウターヒータ42に供給される電力をフィードバック制御する。この結果、TCR算出温度Tbが設定温度に近づくように、アウターヒータ42に供給される電力が制御される。
【0052】
以上に説明した制御動作の流れについて、
図11のフローチャートを参照して、アウターヒータ42の昇温時の加熱制御について説明する。先ず、加熱制御部61では、熱電対5の温度検出値Taに基づいて、熱電対5を単独で使用する温度範囲内であるか、つまり第1温度以下であるか否かを判断する(ステップS201;YES)。温度検出値Taが第1温度以下であれば、ステップS202に進む。そして、
図9を参照して説明したように、インナーヒータ41の供給電力値に対して出力比を乗じたアウターヒータ42用の供給電力値を算出し、この供給電力値に基づいて位相制御を実行する(ステップS203)。
【0053】
一方、温度検出値Taが第1温度よりも高い場合には(ステップS201;NO)、ステップS204に進み、抵抗温度係数単独使用温度範囲内か否か、つまりTCR算出温度Tbが第2温度以上であるか否かを判断する。TCR算出温度Tbが第2温度以上であれば(ステップS204;YES)、ステップS208に進む。そして、
図10を参照して説明したように、アウターヒータ42の供給電力値を算出し、この供給電力値に基づき、ゼロクロス制御を実行する(ステップS207)。
【0054】
また、TCR算出温度Tbが第2温度より低い場合には(ステップS204;NO)、ステップS205に進み、温度検出値TaとTCR算出温度Tbから加重平均温度を算出する。そして、この加重平均温度に基づき、アウターヒータ42用の供給電力値を算出し(ステップS206)、この供給電力値に基づいて、ゼロクロス制御を実行する(ステップS207)。
【0055】
この例の加熱制御部61は、第1温度と第2温度との間の切り替え温度範囲では、移行温度に基づいて、例えばゼロクロス制御により電力制御を行うように電力制御部62を制御する。移行温度は、熱電対51の温度検出値Taと、温度算出部611より算出されたTCR算出温度Tbとの間の温度であり、例えば温度検出値TaとTCR算出温度Tbとの加重平均温度である。
【0056】
続いて、温度算出部611にて算出される加重平均温度について、インナーヒータ41を例にして説明する。温度算出部611は、温度検出値Taが第1温度T1より高く、TCR算出温度Tbが第2温度T2よりも低い場合に、温度検出値Taと、TCR算出温度Tbの加重平均温度を出力する。このとき、加重平均温度が第1温度に近い程、温度検出値Taの比率が大きく、加重平均温度が第2温度に近い程、TCR算出温度Tbの比率が大きくなるように、加重平均温度の重みを変化させる。
【0057】
加重平均温度に関し、例えば温度算出部611は、以下の(1)式に基づいて、加重平均温度T’を算出する。(1)式は、熱電対5の温度検出値Taの変化に応じて線形的に加重平均温度の重みを変化させる例である。
T’={1-(Ta-T1)/(T2-T1)}Ta
+{(Ta-T1)/(T2-T1)}Tb・・・(1)
Ta:熱電対の温度検出値(温度検出部の加熱温度の検出結果)
Tb:TCR算出温度(温度算出部による加熱温度の算出結果)
T1:第1温度
T2:第2温度
【0058】
(1)式では、温度検出値Taが第1温度T1に近い程、Taの係数が大きく、Tbの係数が小さくなり、Taとして第1温度T1を代入すると、T’=Taとなる。また、温度検出値Taが第2温度T2に近い程、Taの係数が小さく、Tbの係数が大きくなり、Taとして第2温度T2を代入すると、T’=Tbとなる。このように、(1)式では、加重平均温度T’が第1温度T1に近い程、温度検出値Taの比率が大きく、加重平均温度T’が第2温度T2に近い程、TCR算出温度Tbの比率が大きくなるように、加重平均温度の重みが変化している。
【0059】
図8のフローチャートにて説明したように、温度算出部611は、第1温度より高く、第2温度より低い温度範囲では、加重平均温度を移行温度として出力設定部612に出力する(ステップS105)。また、出力設定部612は、この移行温度が設定温度に近付くように供給電力値を算出し、ゼロクロス制御により電力制御を行う指令を電力制御部62に指令を出力する(ステップS106)。こうして、算出されたインナーヒータ41用の供給電力値に基づいて、ゼロクロス制御が実行される(ステップS107)。
【0060】
また、アウターヒータ42の加熱制御については、切り替え温度範囲では、出力設定部612は、移行温度が設定温度に近づくように供給電力値を算出し、例えばゼロクロス制御により、電力制御を行う指令を出力する。移行温度とは、熱電対5による第1領域22の温度検出値Taから得られた温度と、第2領域23のTCR算出温度Tbとの間の温度であり、例えば温度検出値Taから得られた温度とTCR算出温度Tbの加重平均温度である。また、温度検出値Taから得られた温度とは、この例では、第1領域22の温度検出値Taであるが、温度検出値Taに予め把握された固定係数を乗じた温度であってもよい。
【0061】
そして、インナーヒータ41の場合と同様に、温度算出部611は、温度検出値Taが第1温度より高く、TCR算出温度Tbが第2温度よりも低い場合に、加重平均温度を出力するように構成されている。加重平均温度は、温度検出値Taから得られた温度が温度検出値Taである場合には、既述の(1)式に基づいて算出される。
【0062】
そして、
図11に示すフローチャートにて説明したように、温度算出部611は、既述の温度範囲において、加重平均温度を移行温度として出力設定部612に出力する(ステップS205)。そして、出力設定部612は、この移行温度が設定温度に近づくように供給電力値を算出し、ゼロクロス制御により電力制御を行う指令を電力制御部62に指令を出力する(ステップS206)。こうして、算出された供給電力値に基づいてゼロクロス制御が実行される(ステップS207)。
【0063】
以上に説明した例において、切り替え温度範囲にてゼロクロス制御により制御を実行するのは、より精密な電力制御を実施するためである。即ち、第1温度よりも高い温度範囲では、ゼロクロス制御、及び抵抗値に基づくTCR算出温度Tbの取得が可能となる。そこで、固定比率αを利用したアウターヒータ42側の推定による電力制御を終了し、加熱温度の取得法、電力制御法を切り替える。この切り替えに対応して、インナーヒータ41においても、加重平均温度に基づくゼロクロス制御への切り替えを行う。
以上では、加熱部4の昇温時の供給電力の制御について説明したが、加熱部4の降温時においても同様に供給電力の制御を行うようにしてもよい。
【0064】
ここで
図12~
図15には、(1)式を用いて算出された加重平均温度T’に基づいて加熱部4の出力制御を行う例について模式的に示してある。
図12~
図15中、横軸は時間、縦軸は温度であり、実線は制御温度T
C、一点鎖線は温度検出値Ta、破線はTCR算出温度Tbを夫々示す。制御温度T
Cとは、予め設定された設定温度と、温度検出値Ta又はTCR算出温度Tbとに基づいて加熱部4の供給電力の制御を行うときに、設定温度に近付くようにメイン制御部7から出力設定部612に対して設定される目標温度である。
【0065】
図12は、時間の経過につれて直線的に設定温度を昇温させる場合において、温度検出値TaがTCR算出温度Tbより低く検出される例を示す。温度検出値Taが第1温度T1よりも低い温度範囲では、温度検出値Taに基づいて、この温度検出値Taが設定温度に近付くように加熱部4の供給電力が制御される。また、TCR算出温度Tbが第2温度T2よりも高い温度範囲では、TCR算出温度Tbに基づいて、このTCR算出温度Tbが設定温度に近付くように加熱部4の供給電力が制御される。
【0066】
加熱部4による加熱の応答が十分に速い場合には、温度検出値Ta、TCR算出温度Tbと制御温度T
Cとはほぼ一致する。このような理想的な場合を想定して、
図12~
図15では、応答遅れが無く、これら温度Ta、Tbが制御温度T
Cと一致している状態を模式的に示している。これらの図によれば、第1温度T1よりも低い温度範囲では温度検出値Taに基づいて電力
制御が行われ、第2温度T2よりも高い温度範囲ではTCR算出温度Tbに基づいて電力制御が行われることが分かる。
【0067】
一方、温度検出値Taが第1温度T1より高く、TCR算出温度Tbが第2温度T2より低い温度範囲内にある場合には、(1)式を用いて算出された加重平均温度T’に基づいて加熱部4の供給電力が制御される。既述のように加重平均温度の重みが調整されているので、第1温度T1から第2温度T2まで、制御温度TCを線形的に昇温させながら加熱部4の供給電力が制御される。
【0068】
図13は、時間の経過に連れて直線的に設定温度を降温させる場合において、温度検出値TaがTCR算出温度Tbより低く検出される例を示す。
図14は、時間の経過に連れて直線的に設定温度を昇温させる場合において、温度検出値TaがTCR算出温度Tbより高く検出される例を示す。
図15は、時間の経過に連れて直線的に設定温度を降温させる場合において、温度検出値TaがTCR算出温度Tbより高く検出される例を示す。
【0069】
これらの例においても、TCR算出温度Tbが第2温度T2よりも高い温度範囲では、TCR算出温度Tbに基づいて、温度検出値Taが第1温度T1よりも低い温度範囲では、温度検出値Taに基づいて、夫々加熱制御が行われる。そして、加重平均温度が第1温度T1から第2温度T2までの温度範囲では、(1)式を用いて算出された、この加重平均温度T’に基づいて加熱部4の供給電力が制御される。これにより、第1温度T1と第2温度T2との間で、制御温度TCを線形的に昇温・降温させながら加熱部4の供給電力が制御される。
【0070】
この実施形態によれば、ウエハWをステージ2に載置して、加熱部4により加熱して加熱処理を行うにあたり、広い温度範囲でステージ2の温度を高精度に制御することができる。この例では、切り替え温度よりも低温の範囲では、温度検出部(熱電対5)による加熱温度の検出結果(温度検出値)に基づいて位相制御により電力制御を行っている。既述のように、前記低温の範囲では、制御方式は位相制御であることが好ましく、温度検出値の精度が高い。
【0071】
一方、前記高温の範囲では、TCR算出温度Tbに基づいてゼロクロス制御により電力制御を行っている。既述のように、高温の範囲では、制御方式はゼロクロス制御であることが好ましく、熱電対5が設けられていない第2領域23についても、TCR算出温度を用いて精度良く温度制御を実施することができる。このように、切り替え温度よりも低温の範囲と高温の範囲との間で、加熱温度の取得方式と、加熱部4への供給電力の制御方式を変えている。このため、温度範囲に応じて、より精度の高い加熱温度の取得と、加熱部4への供給電力制御が実施でき、結果として、広い温度範囲でステージ2の温度を高精度に制御することができる。
【0072】
また、切り替え温度に変えて、第1温度と第2温度を基準として電力制御を切り替える場合には、加熱温度が第1温度より低温の範囲では、温度検出値に基づいて位相制御により電力制御を行い、第2温度よりも高温の範囲では、TCR算出温度に基づいてゼロクロス制御により電力制御を行っている。さらに、第1温度と第2温度との間の切り替え温度範囲においては、温度検出値とTCR算出温度との間の移行温度に基づいて、ゼロクロス制御により電力制御を行っている。このように前記切り替え温度範囲に移行温度を設定しているので、第1温度と第2温度との間の切り替え時の電力制御が安定する。
【0073】
つまり、温度検出部と、温度算出部とでは、高い精度で温度測定できる温度領域が異なり、何らの対応もせずに、これらを切り替えると、両者の間で取得温度にずれが発生することがある。このように、取得温度にずれが生じていると、加熱部4の出力が激しくハンチングする場合があることを把握している。例えば温度検出部の温度検出値より温度算出部のTCR算出温度が低いときには、TCR算出温度を設定温度に合わせるために加熱部4の出力が急激に増大する。これに伴い、TCR算出温度が急上昇すると、設定温度に合わせるために加熱部4の出力が急激に減少し、TCR算出温度が安定するまで、このような加熱部4の出力の大きな変動が繰り返される。この加熱部の出力のハンチングが起こると、ステージ2に繰り返し熱応力が発生し、損傷や破損を引きおこす原因となる。
【0074】
さらに、本開示では、移行温度として、温度検出値とTCR算出温度との加重平均温度を採用し、この加重平均温度に基づいて加熱部4の出力制御を行なっている。この加重平均温度は、第1温度に近い程、温度検出値の比率が大きく、加重平均温度が第2温度に近い程、TCR算出温度の比率が大きくなるように重みが変化するように設定される。従って、第1温度から第2温度に、徐々に制御温度である加重平均温度が移行していくので、制御温度の急激な変化が抑えられる。このため、加熱部4の出力にハンチングが発生するおそれが小さく、加熱部4の出力制御を安定して行うことができる。また、ハンチングによる熱応力が原因となるステージ2のダメージの発生を抑制することができる。こうして、第1温度より低い温度から第2温度よりも高い温度まで、加熱部4の出力制御を安定して行うことができ、ステージ2の温度を高精度に制御できる。
【0075】
さらに、上記の(1)式のように、加重平均温度の重みを線形的に変化させる場合には、第1温度と第2温度との間の温度範囲において、加重平均温度が直線的に変化する。このため、制御温度の移行がよりスムーズになり、加熱部の出力制御をより一層安定して行うことができる。
【0076】
さらにまた、アウターヒータ42に対して、第1領域22の加熱温度が切り替え温度より低温の範囲では、インナーヒータ41に対する電力制御の結果に基づいて、位相制御により電力制御を行っている。ステージ2の材質や構造によっては、その熱電対5の設置箇所が中央部に限定される場合もあるが、このような場合であっても、アウターヒータ42の供給電力を高精度に制御することができる。また、温度検出部を第1領域22のみに設ける構成であるため、温度検出部の増加を抑えて、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0077】
以上において、例えば温度算出部611は、以下の(2)式に基づいて、加重平均温度T’を算出するように構成してもよい。(2)式は、TCR算出温度Tbの変化に応じて線形的に加重平均温度の重みを変化させる例である。この場合においても、加重平均温度が第1温度T1に近い程、温度検出値Taの比率が大きく、加重平均温度が第2温度T2に近い程、TCR算出温度Tbの比率が大きくなるように、加重平均温度の重みが変化する。
T’={1-(Tb-T1)/(T2-T1)}Ta
+{(Tb-T1)/(T2-T1)}Tb・・・(2)
【0078】
上述の例では、温度算出部611は、線形的に加重平均温度の重みを変化させるように構成したが、加重平均温度の算出は(1)式、(2)式に限るものではない。例えば加重平均温度は、曲線などに沿って非線形的に重みを変化させるようにしてもよい。
また、第1温度から第2温度までの温度範囲における、加熱部4の供給電力の制御は、加熱処理において基板を加熱するときの少なくとも昇温時に実施すればよい。
【0079】
また、加熱部によりウエハWを加熱する加熱温度を検出する温度検出部は熱電対には限らず、加熱処理の処理温度に応じて適宜選択される。例えば温度検出部として、熱放射の感知結果に基づき温度を測定するパイロメータ(Pyrometer)などを用いることができる。
【0080】
また、必ずしも、切り替え温度よりも低温の範囲と高温の範囲との間で、移行温度を設定する必要はない。例えば既述のハンチングの問題が小さい場合においては、切り替え温度を基準として、加熱温度の取得方式と、電力の制御方式とを切り替えるようにしてもよい。さらに、移行温度に基づいて制御を行う場合には、加熱処理の処理温度によっては、ゼロクロス制御に変えて、位相制御にて加熱部4への供給電力の制御を実行するようにしてもよい。
【0081】
また、既述の
図3に、加熱部4を構成する抵抗発熱体の抵抗温度係数の温度変化を示したが、抵抗発熱体は、
図3に示した金属以外の金属により構成してもよい。さらに、インナーヒータを構成する金属と、アウターヒータを構成する金属とは、異なる種類であってもよい。
図3に示す抵抗温度係数の温度変化では、抵抗温度係数の温度変化に対する変化量(傾き)が大きい程、解像度が高く、抵抗値の測定精度が高くなる。この例では、ニッケルの傾きが最も大きいが、既述のようにさらに高温領域にて、温度―温度抵抗係数曲線の傾きが緩やかになる傾向がある。このため、このような温度領域にて、タングステンやモリブデンの傾きの方が大きくなる場合には、これらニッケル以外の金属を用いてアウターヒータを構成してもよい。
【0082】
本開示の基板を加熱する装置は、上述の実施形態の装置には限定されず、加熱部の構成も適宜設定可能である。また、基板に対して実施される加熱処理は、成膜処理、改質処理以外に、エッチング処理等も含まれる。さらに本開示を適用可能な基板は、半導体ウエハWに限定されるものではない。例えば、FPD(Flat Panel Display)のガラス基板であってもよい。
【0083】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0084】
2 ステージ
4 加熱部
45 交流電源部
5 熱電対(温度検出部)
61 加熱制御部(制御部)
611 温度算出部
62 電力制御部
W 半導体ウエハ