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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】溶存ガス濃度測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 7/14 20060101AFI20240730BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G01N7/14
B01D61/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020159921
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053223
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森田 博志
(72)【発明者】
【氏名】岡村 忠行
(72)【発明者】
【氏名】木村 博美
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-071340(JP,A)
【文献】特開平11-290659(JP,A)
【文献】特開昭60-158335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存ガス濃度測定装置を用いて被検液中の溶存ガス濃度を測定する方法において、
該溶存ガス濃度測定装置は、
密閉容器内を気体透過膜で液相室と気相室とに区画した気体透過膜モジュールと、
該液相室に被検液を導入する液導入配管及び該液相室から被検液を排出する液排出配管と、
該気相室内の圧力を測定する圧力計とを有し、
該液相室に被検液が通水されているときの該気相室内の圧力の測定値から該被検液の溶存ガス濃度を求める溶存ガス濃度測定装置であって
該液相室及び気相室の容積が30mL以下であり、
該気相室に乾燥用ガスを導入するガス導入配管及び該気相室から乾燥用ガスを排出するガス排出配管が設けられている溶存ガス濃度測定装置であり、
前記液相室に被検液を通水し、該気相室の圧力を測定し、該被検液の溶存ガス濃度を求める測定工程と、
該液相室への被検液の通水を停止して該気相室に乾燥用ガスを通気する再生工程とを交互に行う溶存ガス濃度測定方法であって、
2台の気体透過膜モジュールを設置し、
一方の気体透過膜モジュールで測定工程を行っているときに他方の気体透過膜モジュールで再生工程を行うことにより被検液の溶存ガス濃度の測定を連続的に行うことを特徴とする溶存ガス濃度測定方法
【請求項2】
請求項1において、前記気相室の容積が0.5~30mLであり、液相室の容積が1~30mLであることを特徴とする溶存ガス濃度測定方法
【請求項3】
請求項1又は2において、前記気相室の容積Yと液相室の容積Yとの比Y/Yが0.3~2.5であることを特徴とする溶存ガス濃度測定方法
【請求項4】
請求項1又は2において、前記測定工程では、前記液相室に、単位時間当りの流量SV=5~50(h-1)にて被検液を通水し、
前記再生工程では、前記気相室に、単位時間当りの流量SV=10~200(h-1)にて通気することを特徴とする溶存ガス濃度測定方法。
【請求項5】
請求項又はにおいて、前記測定工程の時間と再生工程の時間との比が1:0.1~1であることを特徴とする溶存ガス濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に溶存するガスの濃度を簡便にかつ精度良く測定することができる液流通式の溶存ガス濃度測定装置及び測定方法に関する。本発明の溶存ガス濃度測定装置及び測定方法は、半導体用シリコンウェハなどの精密加工部品の洗浄工程で使用される超純水や洗浄水の水質管理などに有用である。
【背景技術】
【0002】
電子部品などの精密洗浄工程では、超音波洗浄が広く適用されている。超音波洗浄では、用いる洗浄水の溶存ガス濃度が洗浄効果に影響する。即ち、超音波洗浄に用いる洗浄水の溶存ガス濃度は飽和濃度付近であることが、高い洗浄効果と被洗浄物へのダメージ抑制の両面から望ましい。このため、超音波洗浄に用いる洗浄水およびリンス水の溶存ガス濃度を測定して所望の濃度に制御することが必要となる。
【0003】
液体中の溶存ガス濃度の測定には、従来から多様なものが使用されているが、溶存ガス濃度、特に飽和付近の濃度を測定する際の正確性、多種類のガスに適用できる汎用性、コスト等、すべての面で要求特性を満たすものは提供されていなかった。
【0004】
この問題を解決するものとして、特許文献1には、密閉容器内に気体透過膜を設けて、一方の側を液相室、他方の側を気相室に区画してなる気体透過膜モジュールの液相室に被検液を流し、気相室に室内の真空度を測定する圧力計を設け、液相と平衡状態にある気相の真空度を測定することで、被検液の溶存ガス濃度を測定する装置が提案されている。
【0005】
図3は、特許文献1の溶存ガス濃度測定装置を示す系統図であり、10は溶存ガス濃度の測定対象となる被検液が流れる主配管であり、流量調整バルブ10Vを有する。1は気体透過膜モジュールを示す。この気体透過膜モジュール1は、密閉容器2内が気体透過膜3によって液相室4と気相室5とに区画されている。液相室4には、主配管10から被検液の一部を試料水として分取して液相室4に導入する採水配管11と、液相室4から水を排出する排出配管12が連結されている。これらの配管11,12にはそれぞれ開閉バルブ11V,12Vが設けられている。
【0006】
一方、気相室5には、気相室5内のガス圧力を測定するガス圧力計6が、開閉バルブ13Vを有するガス配管13を介して設けられている。
【0007】
このような溶存ガス濃度測定装置の溶存ガス濃度の測定原理は、以下の通りである。
【0008】
即ち、被検液が完全脱気水の場合、これを液相室4に通水すると密閉容器2内で気相室5内のガスが気体透過膜3を介して脱気水に吸引され、気相室5内の圧力(以下、「気相圧力」と称す場合がある。)は真空(ゲージ圧-101.3kPa)に近づく。逆に、大気圧下での飽和濃度に相当するガスを溶解した被検液の場合は、これを液相室4に通水すると気相室5内の圧力は大気圧(ゲージ圧±0kPa)付近で安定する。
【0009】
よって、-101.3~0kPaの気相圧力が、被検液の溶存ガス濃度0~飽和溶存ガス濃度、即ち、飽和度0~100%に相当するため、気相圧力の測定値から比例計算で被検液の溶存ガスの飽和度を求めることができ、溶存ガスが実質的に一種類であれば求めた飽和度(%)を、被検液中の溶存ガスの大気圧下での飽和濃度に乗じることで、当該被検液の溶存ガス濃度を求めることができる。
【0010】
特許文献1の測定装置であれば、簡易で安価な装置により、多種類のガスの溶存ガス濃度を精度良く測定することができるが、長期間連続して測定を行った場合、測定値に誤差を生じるようになり、測定精度の安定性に課題が残されていた。
【0011】
即ち、特許文献1の測定装置では、長期間連続して測定を行った場合、液相室から膜を介して気相室側に移動した水蒸気が気相室内で結露して溜まっていく。同時に膜表面の疎水性が失われていく。これらが原因となって、膜を介したガスの移動を妨げ、正確な濃度測定が阻害される。
【0012】
特許文献2には、かかる問題点を解決するために、気体透過膜によって液相と気相を分離して液相室に被検液を通液し、気相室の凝縮液を排出する操作を実施しつつ、液相と平衡状態にある気相の真空度を測定する溶存気体濃度の測定方法及び装置において、気相室に凝縮液を排出する凝縮液排出管を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2000-65710号公報
【文献】特開2006-71340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記従来技術の問題を解決し、密閉容器内を気体透過膜で液相室と気相室とに区画し、液相室に被検液を流し、気相室の圧力を測定することで被検液の溶存ガス濃度を測定する装置において、気相室内の水の増加、膜の親水化を防止して、長期間連続使用においても、溶存ガス濃度を常時正確に測定することができると共に、測定の応答性に優れた溶存ガス濃度測定装置及び測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下を要旨とする。
【0016】
[1] 密閉容器内を気体透過膜で液相室と気相室とに区画した気体透過膜モジュールと、該液相室に被検液を導入する液導入配管及び該液相室から被検液を排出する液排出配管と、該気相室内の圧力を測定する圧力計とを有し、該液相室に被検液が通水されているときの該気相室内の圧力の測定値から該被検液の溶存ガス濃度を求める溶存ガス濃度測定装置において、該液相室及び気相室の容積が30mL以下であり、該気相室に乾燥用ガスを導入するガス導入配管及び該気相室から乾燥用ガスを排出するガス排出配管が設けられていることを特徴とする溶存ガス濃度測定装置。
【0017】
[2] [1]において、前記気相室の容積が0.5~30mLであり、液相室の容積が1~30mLであることを特徴とする溶存ガス濃度測定装置。
【0018】
[3] [1]又は[2]において、前記気相室の容積Yと液相室の容積Yとの比Y/Yが0.3~2.5であることを特徴とする溶存ガス濃度測定装置。
【0019】
[4] [1]~[3]のいずれかにおいて、前記液相室への被検液の通水と、該液相室への被検液の非通水及び前記気相室への乾燥用ガスの通気とを切り換える切り換え手段を設けたことを特徴とする溶存ガス濃度測定装置。
【0020】
[5] [1]~[4]のいずれかの溶存ガス濃度測定装置を用い、前記液相室に被検液を通水したときの該気相室の圧力を測定することにより、該被検液の溶存ガス濃度を求める溶存ガス濃度測定方法であって、該液相室に被検液を通水する測定工程と、該液相室への被検液の通水を停止して該気相室に乾燥用ガスを通気する再生工程とを交互に行うことを特徴とする溶存ガス濃度測定方法。
【0021】
[6] [5]において、前記測定工程では、前記液相室に、単位時間当りの流量SV=5~50(h-1)にて被検液を通水し、前記再生工程では、前記気相室に、単位時間当りの流量SV=10~200(h-1)にて通気することを特徴とする溶存ガス濃度測定方法。
【0022】
[7] [5]又は[6]において、前記測定工程の時間と再生工程の時間との比が1:0.1~1であることを特徴とする溶存ガス濃度測定方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、密閉容器内を気体透過膜で液相室と気相室とに区画し、液相室に被検液を流し、気相室の圧力を測定することで被検液の溶存ガス濃度を測定する装置において、液相室に被検液を通水して溶存ガス濃度の測定を行う測定工程と、被検液の通水を停止して気相室に乾燥用ガスを通気する再生工程とを交互に行うことにより、気相室内の水の増加、気体透過膜の親水化を防止して、長期間連続使用においても、被検液の溶存ガス濃度を常時正確に測定することが可能となる。
【0024】
本発明では、気相室の容積を小さくしたことにより、気相室内の圧力が溶存ガス飽和度に対応した圧力になる応答性が向上する。また、気相室の容積が小さいので、乾燥用ガスの消費量が少なくなる。本発明では、液相室の容積を小さくしたことにより、排水量が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態の一例を示す系統図であり、測定工程のバルブ開閉を示す。
図1B】本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態の一例を示す系統図であり、再生工程のバルブ開閉を示す。
図2A】本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態の他の例を示す系統図であり、第1の気体透過膜モジュールの測定工程と第2の気体透過膜モジュールの休止工程のバルブ開閉を示す。
図2B】本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態の他の例を示す系統図であり、第1の気体透過膜モジュールの再生工程と第2の気体透過膜モジュールの測定工程のバルブ開閉を示す。
図2C】本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態の他の例を示す系統図であり、第1の気体透過膜モジュールの休止工程と第2の気体透過膜モジュールの測定工程のバルブ開閉を示す。
図2D】本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態の他の例を示す系統図であり、第1の気体透過膜モジュールの測定工程と第2の気体透過膜モジュールの再生工程のバルブ開閉を示す。
図3】従来の溶存ガス濃度測定装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の溶存ガス濃度測定装置及び測定方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
本発明では、容積30mL以下の液相室に被検液を通水して容積30mL以下の気相室のガス圧力を測定する測定工程と、液相室への被検液の通水を停止して気相室に乾燥用ガスを通気する再生工程とを交互に繰り返す。その切り換えタイミングは、単純なタイマー制御、気相室内に溜まる水を検知したときに切り換える制御などが適用できる。
【0028】
気体透過膜の親水化、気相室側に移動した水蒸気の結露には、様々な要因が関与する。
【0029】
主な要因は気体透過膜自体の特性、測定環境温度、被検液の溶存ガス濃度などである。例えば、以下のようなことが考えられる。
【0030】
水は通さないがガスを透過できる気体透過膜としては、ポリプロピレン等の疎水性の高分子材料の多孔性膜が望ましく、一般的に脱気目的で使われているものが好適である。このような気体透過膜が、長期通水や酸化性流体との接触などで表面の酸化(劣化)が進むと、本来の疎水性が低下してくる。疎水性の低下した気体透過膜では、液相室から気相室への水の移動が起こり易い。
【0031】
また、測定環境温度が低い場合、気相室内の水蒸気が結露し易くなる。
【0032】
被検液の溶存ガス濃度が低い場合は、気相室側のガスが気体透過膜を介して液相室側へ吸引されることで気相室の気圧が下がる。これに伴い液相室から気相室側に移動する水蒸気量が増える。
【0033】
これらの条件が組み合わさって、膜の親水化と気相室側の結露水増加が進む。
【0034】
どのような条件にも無駄なく対応するには、気相室側の結露水が所定量溜まったことを何らかの手段で検知して乾燥用ガスを通気する再生工程に移行する切り換えが考えられる。しかし、通水条件が小刻みに変わるようなことがなければ、その条件での測定値の変動傾向と結露水の増加傾向を見定めて、それが正しい測定に影響を及ぼさないうちに再生工程に切り換える単純なタイマー制御で十分に目的を達することができる。
【0035】
本発明によれば、気相室への乾燥用ガスの通気により気相室側の結露水を気相室外へ排出すると共に、それに加えて気体透過膜の気相室側表面を十分乾燥させることで気体透過膜の疎水性を回復させることができる。このため、乾燥用ガス通気による再生工程を挿入することで、気体透過膜の表面が親水化していない、いわば新品に近い状態が維持され、正しい測定値を容易に得ることができるようになる。
【0036】
再生工程は、上記のように結露水の排出と気体透過膜の疎水化が目的となるが、それが達成できる乾燥用ガスの通気工程であればよく、条件は一概に定められない。被検液を通水する測定工程を長くとり、ある程度の結露水が溜まってから再生工程に移る場合には、再生工程の条件を強くすることが望ましい。即ち、乾燥用ガスの流量を多めに、通気時間を長めにする。
【0037】
逆に、結露水の量が測定に影響を与えるほどでもない軽微な段階で再生工程に移行する場合は、再生工程の条件も軽め(即ち、乾燥用ガスの流量は少なめ、通気時間は短め)で所望の目的を達することができる。
【0038】
このようなことから、本発明における測定工程と再生工程のそれぞれの時間については、被検液の水質、気体透過膜の特性、測定環境温度等、周囲の環境条件等により異なり、一概に規定することはできないが、測定工程の時間と再生工程の時間との比が1:0.1~1であることが好適であり、一例として、例えば2~20時間の測定工程毎に0.2~6時間の再生工程を行うタイムスケジュールが挙げられる。
【0039】
なお、本発明で用いる乾燥用ガスは、気相室側の結露水を気相室外へ排出すると共に気体透過膜の気相室側表面を十分乾燥させることが可能であれば特に制限はないが、窒素ガス、クリーンドライエアなどのドライガスが好適である。また、ドライガスが使用できない場合には、ドライガスに比べて再生効果(特に気体透過膜の気相室側表面を乾燥させる効果)は劣るが通常の空気を使用することもできる。
【0040】
以上のように、本発明では、測定工程と再生工程を交互に繰り返すことで、長期に亘り正しい測定値を安定的に得ることできる。
【0041】
本発明では、気相室の容積を小さくしたことにより、気相室内の圧力が溶存ガス飽和度に対応した圧力になる応答性が向上する。また、気相室の容積が小さいので、乾燥用ガスの消費量が少なくなる。なお、気相室の容積を小さくすることに伴って、接続配管内部の容積が相対的に大きくなる。そこで、その影響を小さくするために、接続配管をなるべく短くすることが望ましい。
【0042】
本発明では、液相室の容積を小さくしたことにより、排水量が少なくなる。
【0043】
気体透過膜モジュールが一つだけの場合は、再生工程中は測定停止状態となるので断続的な測定となるが、2つの気体透過膜モジュールを並列配置で設け、これらを交互に使用することにより、あるいは3つ以上の気体透過膜モジュールを並列配置で設け、これらをメリーゴーランド式に使いまわしていくことにより、装置全体として測定工程と再生工程を同時に行えるので、測定を中断することなく連続的な測定が可能となる。
【0044】
この複数の気体透過膜モジュールを並列で設けた場合には、通水気体透過膜モジュールへの通気(再生)と、再生済気体透過膜モジュールの通水(測定)との切り替えは、同時に行う必要はなく、通気から通水に移る切替を先行して、2以上の気体透過膜モジュールに同じ試料水を同時に通水するオーバーラップ時間を設け、あとから通水したモジュールの気相圧力が先行していたモジュールのそれと同等になった後に、先行通水気体透過膜モジュールの通水を通気に切り替えることにより、切り替え時の気相圧力の変動を回避して安定な連続測定が可能となる。
【0045】
本発明で用いる気体透過膜モジュールによる溶存ガス濃度の測定原理は前述の通りであるが、電子部品などの精密洗浄工程では、十分に脱気処理された超純水に単一ガスを溶解させたガス溶解水が汎用されているので、このように、実質的に被検液中の溶存ガスが一種類の場合、そのガスの常温大気圧下での飽和濃度(水素は約1.6mg/L、酸素は約40mg/L、窒素は約18mg/L)に飽和度(%)を乗じることで溶存ガス濃度を求めることができる。
【0046】
なお、予め、本発明の溶存ガス濃度測定装置で測定された気相圧力と被検液の溶存ガス飽和度又はこの溶存ガス飽和度から算出される溶存ガス濃度との検量線を作成しておくことで、測定された気相圧力から容易に被検液の溶存ガス濃度を求めることができる。
【0047】
この際試料水の水温に応じた水蒸気圧を気相圧力から差し引くことで、より精度高く溶存ガスの飽和度を求めることができる。特定ガスの飽和度から溶存濃度を算出する場合、飽和濃度の温度依存性を考慮することで、正確な算出が可能となる。
【0048】
本発明の溶存ガス濃度測定装置及び測定方法で測定される溶存ガスについては特に制限はなく、窒素、酸素、水素、アルゴン、これらの混合ガスおよび空気等が挙げられ、本発明は、半導体や電子ディスプレイ(液晶、プラズマディスプレイ、有機ELなど)といった電子材料の洗浄工程等で使用されるガス溶解水の溶存ガス濃度の測定に有用である。
【0049】
以下に、図面を参照して本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態をより具体的に説明する。
【0050】
図1A,1Bは本発明の溶存ガス濃度測定装置の実施の形態の一例を示す系統図であり、図2A,2B,2C,2Dは他の例を示す系統図である。これらの図において、図3に示す部材と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0051】
なお、10Vは流量調整バルブ、11V,12V,13V,14V,15V,11aV,11bV,12aV,12bV,13aV,13bV,14aV,14bV,15aV,15bVは開閉バルブを示すが、図中、白ぬきのバルブは「開」とされているバルブを示し、黒塗りのバルブは「閉」とされているバルブを示す。また、実線で示す配管は液体流路を示し、点線で示す配管は気体流路を示す。
【0052】
図1A,1Bは、1台の気体透過膜モジュール20により、液相室4に被検液を通水する測定工程と、液相室4への被検液の通水を停止して気相室5に乾燥用ガスを通気する再生工程とを交互に行うことで、測定工程で気相室5内に溜まった水を気相室5から排出すると共に気体透過膜3を乾燥させて疎水性を回復させるものであり、気体透過膜モジュール20の気相室5には、乾燥用ガスを導入するためのガス導入配管14と、導入された乾燥用ガスを気相室5から排出するためのガス排出配管15が設けられている。14V,15Vは各々の配管14,15に設けられた開閉バルブである。
【0053】
液相室4の容積は30mL以下であり、好ましくは1~30mL特に好ましくは1~25mLである。気相室5の容積は30mL以下であり、好ましくは0.5~30mLである。
【0054】
気相室5の容積Yと液相室4の容積Yとの比Y/Yは0.3~2.5特に0.5~1.6が好ましい。
【0055】
このように構成された気体透過膜モジュール20により被検液の溶存ガス濃度を測定するには、まず、図1Aに示すように、開閉バルブ11V,12V,13Vを開、開閉バルブ14V,15Vを閉として、配管11で採取した試料水を液相室4に通水し、このときの気相室5内の圧力をガス圧力計6で測定する。測定された気相圧力から前述の原理で試料水の溶存ガス濃度を求める。
【0056】
なお、配管12からの試料水は、系外へ排出してもよいし、一点鎖線で示す戻り配管により、被検液の主配管10に戻してもよい。
【0057】
液相室4への単位時間当りの通水量SVは5~50(h-1)特に10~35(h-1)が好ましい。
【0058】
所定時間の測定を行った後、或いは測定誤差が大きくなってきたことが検出されたときには、開閉バルブの切り換えで図1Bに示す通り、再生工程を行う。
【0059】
即ち、開閉バルブ14V,15Vを開、開閉バルブ11V,12V,13Vを閉として、試料水の採水を停止して液相室4への通水を止め、代りにガス導入配管14から乾燥用ガスを気相室5内に通気してガス排出配管15から排出することで、気相室5内の水を排出すると共に気体透過膜3の気相室側を乾燥させて気体透過膜3を疎水化する。なお、開閉バルブ12Vは本実施形態では閉としているが開のままでもよい。また、場合によっては開閉バルブ11V,12Vを両方開として、通水を継続しながら気相室側の再生を行ってもよい。
【0060】
乾燥用ガスの単位時間当りの通気量SVは、10~200(h-1)特に20~100(h-1)が好ましい。
【0061】
この再生工程を経た後は、再び、図1Aに示すように通水工程に切り換え、以降再生工程と通水工程を交互に行う。
【0062】
この開閉バルブ11V~15Vの開閉操作はタイマー制御にて自動的に行うことができる。
【0063】
図1A,1Bに示す溶存ガス濃度測定装置に対して、図2A~2Dに示す通り、2台の気体透過膜モジュール20A,20Bを設けた溶存ガス濃度測定装置では、測定を行う気体透過膜モジュールと再生を行う気体透過膜モジュールとを交互に切り換えることで連続的な測定を行える。
【0064】
図2A~2Dにおいて、20Aは第1の気体透過膜モジュールであり、密閉容器2a内が気体透過膜3aにより液相室4aと気相室5aとに区画され、液相室4aに被検液の採水配管11から分岐した配管11aと排出配管12aが設けられ、排出配管12aは配管12に連結されている。気相室5aにはガス圧力計6aが配管13aを介して設けられると共に、乾燥用ガスの導入配管14に分岐した配管14aと排出配管15aが設けられている。
【0065】
20Bは第2の気体透過膜モジュールであり、密閉容器2b内が気体透過膜3bにより液相室4bと気相室5bとに区画され、液相室4bに被検液の採水配管11から分岐した配管11bと排出配管12bが設けられ、排出配管12bは配管12に連結されている。気相室5bにはガス圧力計6bが配管13bを介して設けられると共に、乾燥用ガスの導入配管14に分岐した配管14bと排出配管15bが設けられている。
【0066】
この溶存ガス濃度測定装置により、被検液の連続測定を行うには、まず、図2Aの通り、開閉バルブ11aV,12aV,13aVを開、その他の開閉バルブを閉として、配管11で採水した試料水を配管11aを介して液相室4aに通水し、このときの気相室5a内の圧力をガス圧力計6aで測定する(第1の気体透過膜モジュール20Aの測定工程、第2の気体透過膜モジュール20Bの休止工程)。
【0067】
第1の気体透過膜モジュール20Aにおける測定工程を所定時間行った後は、図2Bの通り、開閉バルブ11bV,12bV,13bVと、開閉バルブ14aV,15aVを開、その他の開閉バルブを閉として、試料水の送給先を第2の気体透過膜モジュール20Bに切り換え、第2の気体透過膜モジュール20Bで同様に測定を行うと共に、第1の気体透過膜モジュール20Aでは、気相室5aに乾燥用ガスを通気して水の排出、気体透過膜3aの乾燥を行う(第1の気体透過膜モジュール20Aの再生工程、第2の気体透過膜モジュール20Bの測定工程)。
【0068】
第1の気体透過膜モジュール20Aの再生工程を所定時間行った後は、図2Cの通り、開閉バルブ14aV,15aVを閉じ、開閉バルブ11bV,12bV,13bVのみ開とし、第2の気体透過膜モジュール20Bによる測定を継続したまた、第1の気体透過膜モジュール20Aについては通水、通気をすべて停止する(第1の気体透過膜モジュール20Aの休止工程、第2の気体透過膜モジュール20Bの測定工程)。
【0069】
第2の気体透過膜モジュール20Bにおける測定工程を所定時間行った後は、図2Dの通り、開閉バルブ11aV,12aV,13aVと、開閉バルブ14bV,15bVを開、その他の開閉バルブを閉として、試料水の送給先を第1の気体透過膜モジュール20Aに切り換え、第1の気体透過膜モジュール20Aでの測定を再開すると共に、第2の気体透過膜モジュール20Bの再生工程を行う(第1の気体透過膜モジュール20Aの測定工程、第2の気体透過膜モジュール20Bの再生工程)。
【0070】
以降、図2A~2Dを同様に順次行う。これにより第1の気体透過膜モジュール20Aで測定を行っている間に、第2の気体透過膜モジュール20Bで再生を行い、第1の気体透過膜モジュール20Aの再生時には第2の気体透過膜モジュール20Bで測定を行うようにすることで、被検液の溶存ガス濃度の測定を連続的に行うことが可能となる。
【0071】
なお、上述した図2A~2Dに示す実施の形態においては、図2Aから図2Bへ、図2Cから図2Dへの切替に際しては、11aV、12aV、11bV、12bVのバルブがいずれも開で、両方のモジュールに同じ試料水が通水されるオーバーラップ時間を設けることで、より安定な連続測定を可能とすることができる。
【0072】
なお、図2A~2Dにおいても、図1A,1Bにおけると同様に、液相室4a,4bから排出された試料水は、系外へ排出してもよいし、被検液の主配管10に戻してもよい。
【0073】
なお、より精密な溶存ガスの飽和度を求める場合には、被検水の水温を測定し、気相室の圧力から被検水のその水温における飽和蒸気圧分の気圧を差し引く必要がある。さらに飽和度から溶存ガス濃度に換算する際も、水温の値に基づく気体の飽和濃度を計算に用いる必要がある(例えば、水の飽和蒸気圧は20℃で2.3kPa、25℃で3.2kPaであり、溶存ガスがNの場合、飽和濃度は20℃で18.9mg/L、25℃で17.3mg/Lである)。
【実施例
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0075】
[実施例1、比較例1]
以下の実施例及び比較例において、気体透過膜モジュールとしては、外形の大きさ30mm×50mm×13mmの密閉容器内に中空糸気体透過膜を設けて気相室(容積Y=0.69mL)と液相室(容積Y=1.22mL)とに区画したものを用いた。なお、Y/Y=0.57である。ガス圧力計としては、長野計器(株)製「GC67デジタル圧力計」を用いた。
【0076】
この気体透過膜モジュールに脱気処理水(実施例1-1)と飽和度90%のガス溶解水(実施例1-2)とを用い通水を行った。被検液は中空糸の外側に通水し、ガスを中空糸内に透過させた。
【0077】
乾燥用ガスとしては、水分濃度0%の高純度Nガスを用いた。
【0078】
また、被検液の溶存ガス濃度に対する測定誤差は、下記式で算出した。
【0079】
【数1】
【0080】
[実施例1-1:脱気処理水の溶存ガス濃度測定]
脱気処理により溶存Nガス濃度が1mg/L未満(オービスフェア液相溶存N濃度計により測定した値)とされた超純水を被検液として、図1A図1Dに示す通り、1台の気体透過膜モジュール20を用いて測定工程と再生工程を交互に行うことで、連続通水にて溶存ガス濃度の測定を行った。
【0081】
各気体透過膜モジュール20における再生工程は、18時間の測定工程毎に6時間行った。測定工程における被検液の通水流量はSV24.6h-1とし、再生工程における乾燥用ガスの通気流量は43.5h-1とした。30日間の連続測定における測定誤差を求め、結果を表1に示した。
【0082】
[実施例1-2:飽和度90%ガス溶解水の溶存ガス濃度測定]
脱気処理により溶存Nガス濃度が1mg/L未満とされた超純水にNガスを飽和度90%濃度(15.8mg/L:オービスフェア液相N計による測定値)に溶解させたガス溶解水を被検液としたこと以外は、実施例1-1と同様に30日間の連続測定における測定誤差を求め、結果を表1に示した。
【0083】
[比較例1-1:脱気処理水の溶存ガス濃度測定]
脱気処理により溶存Nガス濃度が1mg/L未満とされた超純水を被検液として、図3に示す従来の溶存ガス濃度測定装置により、溶存ガス濃度の測定を行った。ここで用いた気体透過膜モジュールは、乾燥用ガスの通気手段がないこと以外は、実施例1-1で用いた気体透過膜モジュールと同様の構成とされており、再生工程を行うことなく、30日間の連続測定を行った。このときの測定誤差を求め、結果を表1に示した。
【0084】
[比較例1-2:飽和度90%ガス溶解水の溶存ガス濃度測定]
実施例1-2と同様の飽和度90%のNガス溶解水を被検液としたこと以外は、比較例1-1と同様に30日間の連続測定における測定誤差を求め、結果を表1に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
表1より明らかなように、乾燥用ガス通気による再生工程を行わない比較例1-1では、連続測定を行うと、測定精度が低下して測定誤差が大きくなる。特に、被検液が脱気処理水の場合は、前述の通り、気相室のガスが気体透過膜を介して液相室に吸引されることで、気相室内の気圧が下がり、この結果液相室側から気相室側へ移動する水蒸気が増えるため、再生工程のない比較例1-1では気相室に水が溜まり易く、この結果、測定誤差が大きくなる。
【0087】
これに対して、気相室への乾燥用ガスの通気手段を設け、測定工程と再生工程とを交互に行った実施例1-1では、30日間の連続測定でも、測定誤差は全くなく、精度よく測定することができる。
【0088】
[実施例2、比較例2]
密閉容器として、外形寸法が30mmΦ×長さ180mmのものを用いた。中空糸膜として、長さ140mm、内径0.4mmのものを1400本設け、気相室容積25mL、液相室容積16mL、Y/Y=1.56のモジュールを製作した。通水SV=31.3h-1、通気SV=20.0h-1として実施例1-1,1-2、比較例1-1,1-2と同様の測定を行ったところ、実施例2では精度よく測定できることが認められた。
【符号の説明】
【0089】
2,2a,2b 密閉容器
3,3a,3b 気体透過膜
4,4a,4b 液相室
5,5a,5b 気相室
6,6a,6b ガス圧力計
20,20A,20B 気体透過膜モジュール
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3