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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】TiO2-SiO2ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20240730BHJP
   C03C 3/06 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C03C3/097
C03C3/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020208683
(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公開番号】P2022095387
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】安間 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小池 章夫
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115072(JP,A)
【文献】特開2008-037743(JP,A)
【文献】国際公開第2011/068064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、SiO 75~95%、TiO 1~14%、Al 0.1~10%、及びP 0.1~10%を含有し、アルカリ土類金属酸化物アルカリ金属酸化物、B 及びSを実質的に含有しない、TiO-SiOガラス。
【請求項2】
酸化物基準のモル%表示でのAl及びPの含有量の合計が14%以下である、請求項1に記載のTiO-SiOガラス。
【請求項3】
熱膨張係数が0ppb/℃となるクロスオーバー温度が-100~100℃の範囲にある、請求項1又は2に記載のTiO-SiOガラス。
【請求項4】
ガラス粘性が1010dPa・sとなる温度が1300℃以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のTiO-SiOガラス。
【請求項5】
示差走査熱量測定で得られる曲線上の変曲点が740℃以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のTiO-SiOガラス。
【請求項6】
酸化物基準のモル%表示でのTiO、Al及びPの含有量が、{4×(TiO-6.5)/|Al-P|}≧0.5の関係を満たす、請求項1~のいずれか1項に記載のTiO-SiOガラス。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のTiO-SiOガラスを用いたEUVリソグラフィ用光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiOを含有するシリカガラス(以下、TiO-SiOガラスと称する。)に関する。特にEUV(極端紫外;Extreme Ultra Violet)リソグラフィ用の露光装置の光学部材として好適に用いられるTiO-SiOガラスに関する。なお、本明細書におけるEUV光とは、軟X線領域または真空紫外領域の波長帯の光を意味し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。
【背景技術】
【0002】
従来、光リソグラフィ技術においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く利用されている。集積回路の高集積化及び高機能化に伴い、集積回路の微細化が進んでいる。また、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウェハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。
【0003】
露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)に対し、さらなる短波長化からArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられ始めている。また、このArFエキシマレーザを用いた技術として、回路パターンの線幅が70nm以下となる次世代の集積回路に対応するための液浸露光技術や二重露光技術が有力視されている。しかしながら、これらも線幅が45nm程度の世代までしかカバーできないと見られている。
【0004】
このような流れにあって、露光光源としてEUV光のうち代表的には波長13nmの光を用いたリソグラフィ技術が、線幅が32nm以下の複数世代にわたって適用可能と見られ注目されている。
EUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と称することがある。)の像形成原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のフォトリソグラフィーと同じである。しかし、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料が無いために、屈折光学系は使用できず、光学系はすべて反射光学系となる。
【0005】
EUVL用露光装置の光学部材(以下、「EUVL用光学部材」と称することがある。)はフォトマスクやミラーなどである。これらは、(1)基材、(2)基材上に形成された反射多層膜、及び(3)反射多層膜上に形成された吸収体層、から基本的に構成される。
反射多層膜としては、Mo層とSi層とを交互に積層させたMo/Si反射多層膜を形成することが検討されている。吸収体層としては、成膜材料として、TaやCrが検討されている。基材としては、EUV光照射下でも歪みが生じないよう低熱膨張係数を有する材料が必要とされ、低熱膨張係数を有するガラス等が検討されている。
【0006】
TiO-SiOガラスは、石英ガラスよりも小さい熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion;CTE)を有する超低熱膨張材料として知られている。またガラス中のTiO含有量によって熱膨張係数を制御できるために、熱膨張係数が0に近いゼロ膨張ガラスが得られる。したがって、TiO-SiOガラスは、上記基材として、具体的には、EUVL用露光装置の光学系部材に用いる材料としての可能性がある。
【0007】
しかしながら、TiO-SiOガラスをEUVL用光学部材に用いる際、脈理を有することが懸念される。脈理とは、材料中の物性・組成の不均質を意味し、EUVL用光学部材の光透過性に悪影響を及ぼすために抑制する必要がある。具体的には、マスクのパターンを半導体ウェハに転写してパターンを形成するにあたって光の反射を用いるため、EUVL用光学部材中の脈理により膨張特性も不均一となると、プロセス中で温度変化が発生した場合にパターンずれが生じ、悪影響を及ぼす。なお、脈理は数ppb/℃の熱膨張係数の変動と相関する組成変動を測定するマイクロプローブにより測定できる。
【0008】
TiO-SiOガラスを用いたEUVL用光学部材において、表面粗さ(PV値)を数ナノメートルのレベルに仕上げる際に脈理が強く影響する場合があることがわかった。EUVL用光学部材の光学面は、表面粗さ(PV値)を非常に小さく仕上げる必要があるので脈理の存在が問題となるおそれがある。ここで、EUVL用光学部材の光学面とは、該EUVL用光学部材を用いてフォトマスクやミラーを作製する際に、反射多層膜が形成される成膜面を指す。なお、該光学面の形状は、EUVL用光学部材の用途によって異なる。例えば、フォトマスクの製造に用いられるEUVL用光学部材の場合、該光学面は通常平面である。一方、ミラーの製造に用いられるEUVL用光学部材の場合、該光学面は曲面であることが多い。
【0009】
上記理由により、TiO-SiOガラスをEUVL用光学部材に用いるためには、脈理を低減させることが必要となる。
【0010】
特許文献1には、TiOを5~10質量%含有するTiO-SiOガラスにB、P及びSのうち、少なくとも1つを合計含有量で50質量ppb~5質量%含有させることにより、脈理の発生を抑えられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2011/068064号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、TiO-SiOガラスにおいて、B及びSは高温における揮発性が高い元素である。そのため、ガラス成形時の高温でのプロセス過程でB及びSがTiO-SiOガラスから揮散し、脈理の原因となり得る。また、PはTiO-SiOガラスに添加された場合には、分相を促進し、かかる分相に起因した脈理の原因となる。
【0013】
上記に鑑み、本発明は、従来と同程度の低膨張率を維持しつつ、脈理の発生が抑制されたTiO-SiOガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、Pが分相を促進して脈理を発生し得るのは、単独で添加された場合であることが分かった。PをAlと共に添加することで、かかる分相が促進されず、脈理の発生要因とはならない。その結果、低膨張率を維持したまま、ガラスの粘性を低下させ、かつ揮散しやすい成分を含まないことで、脈理の発生が抑制され、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち本発明及びその一態様は、下記[1]~[8]に関するものである。
[1] 酸化物基準のモル%表示で、SiO 75~95%、TiO 1~14%、Al 0.1%以上、及びP 0.1%以上を含有し、アルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物の含有量の合計が12%以下であるTiO-SiOガラス。
[2] 酸化物基準のモル%表示でのAl及びPの含有量の合計が14%以下である、前記[1]に記載のTiO-SiOガラス。
[3] 酸化物基準のモル%表示でのLiOの含有量が5%以下である、前記[1]又は[2]に記載のTiO-SiOガラス。
[4] 熱膨張係数が0ppb/℃となるクロスオーバー温度が-100~100℃の範囲にある、前記[1]~[3]のいずれか1に記載のTiO-SiOガラス。
[5] ガラス粘性が1010dPa・sとなる温度が1300℃以下である、前記[1]~[4]のいずれか1に記載のTiO-SiOガラス。
[6] 示差走査熱量測定で得られる曲線上の変曲点が740℃以下である、前記[1]~[5]のいずれか1に記載のTiO-SiOガラス。
[7] 酸化物基準のモル%表示でのTiO、Al及びPの含有量が、{4×(TiO-6.5)/|Al-P|}≧0.5の関係を満たす、前記[1]~[6]のいずれか1に記載のTiO-SiOガラス。
[8] 前記[1]~[7]のいずれか1に記載のTiO-SiOガラスを用いたEUVリソグラフィ用光学部材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低膨張率を維持しつつ、脈理の発生も抑制されたTiO-SiOガラスを提供できる。このTiO-SiOガラスをEUVL用光学部材に用いることにより、脈理の発生に伴うパターンずれの要因となる膨張特性の不均一が抑制されることから、半導体中の微細なパターン形成が可能であり、きわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、TiO-SiOガラスの熱膨張係数(CTE)と温度の関係をプロットした、説明のためのグラフである。
図2図2は、図1のCTE=0付近を拡大したグラフである。
図3図3は、TiO-SiOガラスのDSC曲線であり、「DSC曲線上の変曲点」を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。本明細書で、特に断りない場合、単なる「%」表示はモル%を、単なる「ppm」表示はモルppmをそれぞれ意味する。
【0019】
本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、酸化物基準で、SiOを75~95%、TiOを1~14%、Alを0.1%以上、及びPを0.1%以上含有する。また、アルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物の合計の含有量は12%以下である。
【0020】
TiO-SiOガラスの膨張特性の指標として、(i)TiO-SiOガラスの熱膨張係数(CTE)が0ppb/℃となる温度、すなわちクロスオーバー温度(Cross-over Temperature;COT)、(ii)TiO-SiOガラスの22℃やCOTといった各温度における熱膨張係数の傾きCTE slope、(iii)CTEが極大を示す温度CTE極大温度、及び(iv)TiO-SiOガラスの熱膨張係数(CTE)が0±5ppb/℃となる温度幅ΔT等を参考とできる。
【0021】
上記(i)~(iv)は、TiO-SiOガラスにおける公知の測定方法により求められる。例えば、レーザー干渉式熱膨張計を用いてCTEを-100~+200℃の範囲で測定し、図1に示すように、CTEと温度の関係をプロットする。図2は、図1のCTE=0付近を拡大したグラフである。
【0022】
図1において、CTE曲線においてX軸の交点が熱膨張係数(CTE)が0ppb/℃となる点であり、その温度がCOTである。
CTE slopeは、図1のCTE曲線を所定の温度において微分した傾きである。具体的には、CTE曲線を22℃において微分した傾きが22℃におけるCTE slopeであり、CTE曲線をCOTにおいて微分した傾きがCOTにおけるCTE slopeである。このCTE slopeの値が小さいほど、広い温度範囲でゼロ膨張を発揮できることを意味する。
CTE極大温度は、上に凸の二次曲線状の曲線となるCTE曲線が極大値を取る温度である。CTE極大温度におけるCTE slopeは0であり、CTE極大温度がCOTに近いほど、COTにおけるCTE slopeを低下させ、広い温度範囲でゼロ膨張を発揮できることを意味する。
【0023】
ΔTは熱膨張係数(CTE)が0±5ppb/℃となる温度幅である。具体的には、図2においてCTE=5ppb/℃となる温度をT、CTE=-5ppb/℃となる温度をT-5としたとき、ΔT=T-T-5の式から求められる値である。ΔTの値が大きいほど、広い温度範囲でゼロ膨張を発揮できることを意味する。
【0024】
上記膨張特性は、例えばTiO含有量や仮想温度等により調整できる。例えば、TiO含有量を増加させると、図1のCTE曲線を下方向、すなわち低CTE側にシフトさせ、その結果、COTを上昇出来る。また、仮想温度を低下させると、図1のCTE曲線を左方向、すなわち低温側にシフトさせ、その結果、COTを低下できる。これと同時に、上に凸の形状を取るCTE曲線のCTE極大温度をCOTに近づけ、COTにおけるCTE slopeを低下させ、ΔTを増加出来る。
【0025】
TiO-SiOガラスが低熱膨張係数を有することが必要となるのは、EUVL用光学部材として使用する際に該TiO-SiOガラスが経験し得る温度域である。この点において、該TiO-SiOガラスは、熱膨張係数(CTE)が0ppb/℃となる温度、すなわちクロスオーバー温度(Cross-over Temperature;COT)は-100℃以上が好ましく、より好ましくは-60℃以上、さらに好ましくは-30℃以上、よりさらに好ましくは-15℃以上、ことさらに好ましくは0℃以上、特に好ましくは15℃以上である。また、COTは100℃以下が好ましく、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40℃以下、特に好ましくは30℃以下である。COTが-100~100℃の範囲にあれば、TiO-SiOガラスは室温付近でゼロ膨張であると言える。
【0026】
TiO-SiOガラスにおいて、熱膨張係数(CTE)が0±5ppb/℃となる温度幅ΔTは1℃以上が、広い温度範囲でゼロ膨張であると言えるため、好ましい。これにより、TiO-SiOガラスをEUVL用光学部材として使用した場合に、EUV光照射時の温度でも、光学部材の熱膨張を抑制しやすい。ΔTは、より好ましくは2℃以上、さらに好ましくは3℃以上、よりさらに好ましくは4℃以上、ことさらに好ましくは5℃以上、なおさらに好ましくは7℃以上、特に好ましくは9℃以上、最も好ましくは15℃以上である。ΔTは大きいほど好ましく、上限は特に制限されないが、通常は30℃以下となる。
【0027】
TiO-SiOガラスにおいて、22℃における熱膨張係数の傾きCTE slopeは5.0ppb/℃/℃以下が好ましい。これにより、TiO-SiOガラスをEUVL用光学部材に使用した場合に、EUV光照射時の光学部材の熱膨張をより好適に抑制できる。22℃におけるCTE slopeは、より好ましくは4.0ppb/℃/℃以下、さらに好ましくは3.5ppb/℃/℃以下、よりさらに好ましくは3.0ppb/℃/℃以下、ことさらに好ましくは2.5ppb/℃/℃以下、なおさらに好ましくは2.0ppb/℃/℃以下、特に好ましくは1.5ppb/℃/℃以下である。CTE slopeは小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、通常は0.1ppb/℃/℃以上である。
【0028】
同様の理由から、COTにおける熱膨張係数の傾きCTE slopeは、6.0ppb/℃/℃以下が好ましく、4.0ppb/℃/℃以下がより好ましく、3.0ppb/℃/℃以下がさらに好ましい。また、下限は特に限定されないが、通常は0.1ppb/℃/℃以上である。
【0029】
TiO-SiOガラスにおいて、上に凸の二次曲線状の曲線となるCTE曲線が極大値を取るCTE極大温度は、先述したように、COTに近いほど、COTにおけるCTE slopeを低下させ、広い温度範囲でゼロ膨張を発揮できるため好ましい。CTE極大温度とCOTとの差は、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。また、CTE極大温度はCOTと同じ温度、すなわち、上記温度の差は0℃であってもよい。
【0030】
TiO-SiOガラスをEUVL用光学部材として用いる場合、その使用時の温度における熱膨張係数(CTE)が0±5ppb/℃が好ましい。
【0031】
TiO-SiOガラスの熱膨張係数は、例えばTiO含有量により変化できることが知られている(P.C.Schultz and H.T.Smyth,in:R.W.Douglas and B.Ellis,Amorphous Materials,Willey,New York,p.453(1972).参照)。したがって、例えば、TiO-SiOガラスのTiO含有量を調節することによって、該TiO-SiOガラスのCOT及びΔTといった膨張特性を調節できる。但し、本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、Alを0.1%以上かつPを0.1%以上含有する点に留意する必要がある。
【0032】
TiO-SiOガラスのCTEやΔT、COTといった膨張特性は、ガラスの組成だけでなく、そのガラスが経験する熱履歴によっても大きく変化する。特に、徐冷条件を最適化して仮想温度を低下させることで、COTを低下させたり、ΔTを増大させたりできる。
【0033】
TiO-SiOガラスは、PをAlと共に添加することにより低膨張率を維持したままガラスの粘性を低下できる。粘性低下による好ましい効果は以下の3つが挙げられる。
(i)ガラスを成形するために必要な温度を低下させることで成形工程における揮散を抑制し、脈理が低減される。
(ii)ガラスの脈理は組成分布に起因する。そこで、ガラスの粘性を低下させることでガラスを製造する過程で実施される加熱工程において、ガラス中の各種成分の拡散が助長されて組成分布が小さくなり、脈理が低減される。
(iii)ガラスの仮想温度を低下しやすくし、望ましい膨張特性が得られる。
【0034】
本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、SiO含有量が75~95%である。SiO含有量が少なすぎると、COTが-100℃未満となる傾向があるため、SiO含有量は75%以上とする。SiO含有量は好ましくは80%以上、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上、よりさらに好ましくは87%以上、ことさらに好ましくは89%以上、特に好ましくは91%以上である。
一方、SiO含有量が多すぎると、粘性が高くなり泡が残りやすくなる可能性があることから、95%以下とする。このような微小な泡の残留が特に懸念される用途に関しては、SiO含有量は好ましくは94%以下、より好ましくは93%以下、さらに好ましくは92%以下、よりさらに好ましくは91%以下、ことさらに好ましくは90%以下、特に好ましくは89%以下である。
【0035】
TiO-SiOガラスは、TiO含有量が1~14%である。TiO含有量が少なすぎると、COTが-100℃未満となる傾向があるため、TiO含有量は1%以上とする。TiO含有量は好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上、よりさらに好ましくは5.5%以上、ことさらに好ましくは6%以上、特に好ましくは7%以上である。
一方、TiO含有量が多過ぎると、COTが100℃超となる傾向がある。また、ルチルなどの結晶が析出しやすくなったり、泡が残りやすくなる可能性がある。そのため、TiO含有量は14%以下とし、さらに、微小な結晶や泡などの異物の残留が特に懸念される用途に関しては、TiO含有量は好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下、よりさらに好ましくは8%以下、ことさらに好ましくは7%以下、なおさらに好ましくは6.5%以下、なお一層好ましくは6%以下、特に好ましくは5.5%以下である。
【0036】
Al及びPはガラスの粘性を下げ、脈理の発生を抑制させるために必須の成分である。Alが0.1%以上、かつPが0.1%以上となるように含有させる。ガラスの粘性を下げる成分として、Al及びPを共に含有させることにより、ガラスの脈理が低減しやすくなる。ガラスの粘性が低下すると、同一の徐冷プロセスであっても仮想温度が下がりやすくなり、CTE slopeが低下する。Pを単独で含有させるとガラスの分相が促されるが、Alと共に含有させることで、かかる分相は抑制され、上記効果が得られるようになる。
【0037】
Al及びPは、それ自身がガラスのネットワークを形成する成分である。そのため、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物等とは異なり、ガラスの成形工程において、SiOの結晶相であるクリストバライト(cristobalite)の成長、または、TiOの結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長を起こさない。そのため、失透の問題が解消される。さらにAl及びPは、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物のようにガラスの膨張係数の増大を引き起こす影響も少ない。また、製造されるTiO-SiOガラス中に微小な結晶や泡などの異物が生じにくい。
【0038】
TiO-SiOガラスにおいて、Al含有量を0.1%以上とすることで、ガラスの粘性を下げる効果が十分に得られ、脈理の発生を好適に抑制する。Al含有量は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、よりさらに好ましくは2.0%以上、ことさらに好ましくは3.0%以上、なおさらに好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4.0%以上である。
一方、Al含有量を10%以下とすることで、熱膨張係数が大きくなり過ぎるのを防ぎ、COTを-100℃以上とできる。特に小さい熱膨張係数が好ましい場合には、Al含有量は好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下、よりさらに好ましくは4%以下、ことさらに好ましくは3.5%以下、特に好ましくは3%以下である。
【0039】
TiO-SiOガラスにおいて、P含有量を0.1%以上とすることで、ガラスの粘性を下げる効果が十分に得られ、仮想温度を低下できる。P含有量は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、よりさらに好ましくは2.0%以上、ことさらに好ましくは2.5%以上、特に好ましくは3.0%以上である。
一方、P含有量を10%以下とすることで、熱膨張係数が大きくなり過ぎるのを防ぎ、COTを-100℃以上とできる。P含有量は好ましくは8.0%以下、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、よりさらに好ましくは2.0%以下、ことさらに好ましくは1.5%以下、なおさらに好ましくは1.0%以下、特に好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.3%以下である。
【0040】
AlとPの合計の含有量が大きいとガラスが失透しやすくなる。そのため、合計の含有量は14%以下が好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下、なお好ましくは8%以下、よりさらに好ましくは7%以下、ことさらに好ましくは6%以下、なおさらに好ましくは5%以下、一層好ましくは4.5%以下、より一層好ましくは4%以下、さらに一層好ましくは3.5%以下、特に好ましくは3%以下、最も好ましくは2.5%以下である。一方、合計の含有量は0.2%以上である。
【0041】
TiO-SiOガラスにおいて、P量とAl量が等しい場合、Al及びPはAlPOユニットを形成する。これに対し、Al量に対してP量が過剰の場合、過剰となったPは重合度の小さいPユニットを形成する。重合度の小さいPユニットは、熱膨張係数を上昇させ、COTが-100℃未満の値へと下げ過ぎるおそれがある。具体的には、Al量に対するP量の比率P/Alは、0.50以上が好ましく、1.00に近いほど好ましい。また、P/Alは4.50以下が好ましく、より好ましくは3.00以下、さらに好ましくは2.00以下、よりさらに好ましくは1.50以下である。
【0042】
また、P量に対してAl量が過剰の場合、過剰となったAlは配位数の大きいAl四面体を形成する。配位数の大きいAl四面体は粘性を低下させる効果があるが、一方で熱膨張係数を若干上昇させる。そのため低い熱膨張係数を実現し、COTを-100~100℃の範囲内とするためにはTiOの増量が有効である。またAl量に対してP量が過剰の場合は、上述したように、重合度の小さいPユニットにより熱膨張係数が上昇する。この場合も、低い熱膨張係数を実現し、COTを-100~100℃の範囲内とするためにはTiOの増量が有効である。
【0043】
以上から、TiO、Al及びPの含有量を用いて表される関係式:{4×(TiO-6.5)/|Al-P|}で表される値は0.5以上が好ましい。なお関係式中、|Al-P|は、Al量とP量の差分の絶対値である。上記関係式で表される値は、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.2以上、よりさらに好ましくは1.5以上、ことさらに好ましくは1.9以上、なおさらに好ましくは2.3以上、特に好ましくは3.0以上である。また、上記関係式で表される値の上限は特に限定されないが、通常5.0以下である。
【0044】
TiO-SiOガラスにおいて、Bは高温における揮発性が高い成分である。高温でのプロセス過程でBがTiO-SiOガラスから揮散することで脈理の原因となるため、ガラス中に含有させる場合には、Bの含有量は900ppm未満が好ましく、より好ましくは800ppm以下、さらに好ましくは700ppm以下、よりさらに好ましくは600ppm以下、ことさらに好ましくは500ppm以下、なおさらに好ましくは300ppm以下、なお好ましくは100ppm以下、特に好ましくは50ppm以下であり、実質的に含有しないことが最も好ましい。なお、本明細書において実質的に含有しないとは、不可避不純物を除き含有しないことを意味する。
【0045】
TiO-SiOガラスにおいて、Sは高温における揮発性が高い元素である。高温でのプロセス過程でSがTiO-SiOガラスから揮散することで脈理の原因となるため、ガラス中に含有させる場合には、Sの含有量は1000ppm未満が好ましく、より好ましくは800ppm以下、さらに好ましくは700ppm以下、よりさらに好ましくは600ppm以下、ことさらに好ましくは500ppm以下、なおさらに好ましくは300ppm以下、特に好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下であり、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0046】
TiO-SiOガラスにおいて、アルカリ土類金属酸化物やアルカリ金属酸化物の添加は、Al及びPの添加と同様に、ガラスの粘性を下げる効果を有し、脈理の発生の抑制に寄与する。一方で、アルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物はガラスの膨張係数を増大させるとともに結晶化を促進する成分である。そのため、アルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物の合計の含有量は12%以下である。
本明細書におけるアルカリ土類金属酸化物とは、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、RaO、ZnOを指す。また、アルカリ金属酸化物とは、LiO、NaO、KO、RbO、CsO、FrOを指す。
【0047】
アルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物の合計の含有量を12%以下とすることにより、ガラスの膨張係数を低減できる。合計の含有量は、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下、なお好ましくは4%以下、よりさらに好ましくは3%以下、ことさらに好ましくは2%以下、なおさらに好ましくは1%以下、一層好ましくは0.5%以下、より一層好ましくは0.3%以下、なお一層好ましくは0.2%以下である。
また、特にガラスの結晶化を抑制し欠点の少ないガラスを得ることが必要な場合には、アルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物の合計の含有量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm、さらに好ましくは300ppm、よりさらに好ましくは100ppm以下、ことさらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは10ppm以下であり、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0048】
上記に加え、アルカリ土類金属酸化物の合計の含有量は、ガラスの結晶化を抑制する観点から、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、よりさらに好ましくは2%以下、なおさらに好ましくは1%以下、ことさらに好ましくは0.5%以下、より一層好ましくは0.3%以下、なお一層好ましくは0.2%以下であり、実質的に含有しないことが最も好ましい。
また、アルカリ金属酸化物の合計の含有量は、膨張係数を低減する観点から、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、よりさらに好ましくは2%以下、なおさらに好ましくは1%以下、ことさらに好ましくは0.5%以下、より一層好ましくは0.3%以下、なお一層好ましくは0.2%以下であり、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0049】
アルカリ金属酸化物の中でも、LiOは、ガラスの結晶化を抑制し欠点の少ないガラスを得る観点から、5%以下が好ましく、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、なお好ましくは2%以下、よりさらに好ましくは1%以下、ことさらに好ましくは0.5%以下、なおさらに好ましくは1000ppm以下、より一層好ましくは500ppm、さらに一層好ましくは100ppm以下、なお一層好ましくは50ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0050】
本実施形態に係るTiO-SiOガラスにおいて、TiO、Al、P、B、S、アルカリ土類金属酸化物、及びアルカリ金属酸化物を除いた残部は典型的にはSiOであるが、それら以外のその他成分を含有させてもよい。その他成分の一例としては、FやClなどのハロゲンが挙げられる。その他成分の合計の含有量は多くとも1%以下が好ましく、順に、0.5%以下、0.3%以下、1000ppm以下、900ppm以下、800ppm以下、700ppm以下、600ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、350ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、200ppm以下、100ppm以下、50ppm、10ppm以下、と少ないほど好ましい。
【0051】
ハロゲンの添加は、Al及びPの添加と同様に、ガラスの粘性を下げる効果を有し、脈理の発生の抑制に寄与する。また、ハロゲンの添加は、膨張特性を良化させる。具体的には、膨張係数が小さくなる、ΔTが広くなる等の効果を有する。ハロゲンの中では、粘性を下げる効果の高いF及びClの少なくとも一方を用いることが好ましい。
但し、ハロゲンはBほどではないが揮発する性質を持っており、それによって組成分布を形成する可能性がある。そのため、FやClの揮発による組成分布形成を防ぐためには、FおよびClの含有量の合計は1000ppm未満が好ましく、順に、900ppm以下、800ppm以下、700ppm以下、600ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、350ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、200ppm以下、100ppm以下と、少ないほど好ましい。
【0052】
FやClの含有量は公知の方法を用いて測定でき、Fの含有量は、例えば、以下の手順で測定できる。
TiO-SiOガラスを無水炭酸ナトリウムにより加熱融解し、得られた融液に蒸留水及び塩酸を加えて試料液を調製する。蒸留水及び塩酸は、融液に対する体積比でそれぞれ1ずつとする。
得られた試料液の起電力をFイオン選択性電極及び比較電極としてラジオメータトレーディング社製No.945-220及びNo.945-468をそれぞれ用いてラジオメータにより測定し、Fイオン標準溶液を用いてあらかじめ作成した検量線に基づいて、F含有量を求める(日本化学会誌、1972(2),350参照)。なお本法による検出限界は10ppmである。
また、Clの含有量は、例えば、上記Fの含有量の測定におけるFイオン選択性電極及びFイオン標準溶液を、それぞれClイオン選択性電極及びClイオン標準溶液に変更した方法により測定できる。
【0053】
TiO-SiOガラス中のOH濃度が高いと、仮想温度分布が生じやすくなる傾向がある。これは、OHは、ガラスの網目構造においてネットワークを切断する終端基であるOH基として存在するためであり、終端基が多いほどガラスの構造緩和は容易になると考えられる。つまり、OH濃度が高いほど構造緩和の時間は短くなるので、仮想温度は、冷却時に生じるTiO-SiOガラス中の温度分布の影響を受け易くなる。
上記の理由から、TiO-SiOガラスは、OH濃度が2000ppm以下が好ましく、順に、1600ppm以下、1200ppm以下、1000ppm以下、900ppm以下、800ppm以下、700ppm以下600ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、350ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、200ppm以下、100ppm以下と、低いほど好ましい。
【0054】
一方で、TiO-SiOガラス中のOH濃度が低いと、ガラスの粘性が高くなることで泡抜きのために必要な温度が上昇し、ガラスの仮想温度分布が生じやすくなる傾向がある。
【0055】
TiO-SiOガラスのOH濃度は公知の方法を用いて測定できる。例えば、赤外分光光度計による測定を行い、2.7μm波長での吸収ピークからOH濃度を求められる(J.P.Williams et.al.,American Ceramic Sciety Bulletin,55(5),524,1976参照)。本法による検出限界は0.1ppmである。
【0056】
TiO-SiOガラスにおける粘性の低下は、T10の値で確認できる。本明細書において、T10とは、ガラスの粘性ηが1010dPa・sとなる温度をいう。なお、T10を求めるにあたり、粘度は市販の広範囲粘度計(オプト企業製、WRVM-313)を用いて、下記文献に記載の原理に従って、1050~1600℃の温度範囲で粘性測定を行うことにより求める。
参考文献:貫入法,平行板変形-回転法の組合せによる広域粘度計の開発:白石裕、長崎誠三、山城道康、日本金属学会誌第60巻第2号(1996)184~191
なお、装置校正用の参照試料は、NBS710及びNIST717aを使用する。
【0057】
本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、T10が1300℃以下が脈理の抑制という点から好ましく、1275℃以下がより好ましく、1250℃以下がさらに好ましく、1225℃以下がなお好ましく、1200℃以下がよりさらに好ましく、1175℃以下がことさらに好ましく、1150℃以下がなおさらに好ましく、1100℃以下が一層好ましく、1050℃以下がより一層好ましく、1000℃以下が特に好ましい。T10の下限は特に限定されないが、通常800℃以上である。
なお、T10が1300℃以下であることは、仮想温度が下がりやすくなるという点でも好ましい。
【0058】
TiO-SiOガラスにおける粘性の低下は、DSC(示差走査熱量計)による測定でも簡易的に確認出来る。
400μm以下に粉砕したTiO-SiOガラス粉のDSC曲線をDSC装置(後述する実施例では、ブルカー社製DSC3300を使用。)にて取得する。温度プロファイルは、1400℃まで10℃/minで昇温とする。DSC曲線は、図3に示すように、室温からある温度まで単調に減少し、ある温度で極小値をとった後に、単調に増加する。極小値を取る温度を温度Oとする。温度Oから約200℃低温の温度AでDSC曲線の低温側部分に対応する接線を引く。また温度Oから約300℃高温の温度BでDSC曲線の高温側部分に対応する接線を引く。この2本の接線の交点を「DSC曲線上の変曲点」と呼ぶ。
【0059】
本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、上記示差走査熱量測定で得られる曲線、すなわちDSC曲線上の変曲点が740℃以下が粘性の低下による脈理抑制の点から好ましく、700℃以下がより好ましく、680℃以下がさらに好ましく、660℃以下がなお好ましく、640℃以下がよりさらに好ましく、620℃以下がことさらに好ましく、600℃以下がなおさらに好ましく、580℃以下が一層好ましく、560℃以下が特に好ましい。変曲点の下限は特に限定されないが、通常400℃以上である。
なお、DSC曲線上の変曲点が740℃以下であることは、仮想温度が下がりやすくなるという点でも好ましい。
【0060】
TiO-SiOガラスに対し、組成ごとの脈理の発生しやすさを評価するために、以下の揮散試験を行い、BやPといった揮散しやすい揮散元素の残存率を比較できる。
TiO-SiOガラスを破砕して得たカレットを各10g秤量して35mLのPt皿に入れ、1600℃に保持した電気炉の中に配置し、大気雰囲気中で24時間熱処理を行う。熱処理後のガラスを熱処理中のガラス表面が残るように10mm×10mm×2mmの大きさに切り出し、後述の方法で揮散試験後のガラス表面の重心にあたる中央のBまたはPの濃度を測定する。同様の方法で熱処理前のTiO-SiOガラスのカレット中のBまたはPの濃度を測定する。得られた各濃度を用いて、下記式により揮散元素の残存率が算出できる。
(揮散元素の残存率、%)={(揮散試験後のガラス表面の中央のBまたはPの濃度)/(熱処理前のガラスカレット中のBまたはPの濃度)}×100
【0061】
揮散元素の残存率が高いほど、TiO-SiOガラス中の揮散元素は揮散しにくく、脈理の発生が抑制しやすい。揮散元素の残存率は好ましくは7%以上、より好ましくは9%以上、さらに好ましくは11%以上、よりさらに好ましくは15%以上、ことさらに好ましくは19%以上、なおさらに好ましくは24%以上、特に好ましくは30%以上である。残存率の上限は特に限定されないが、通常80%以下である。
【0062】
ガラス表面の重心にあたる中央のB及びPの濃度は、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(Laser Ablation-Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry:LA-ICP-MS)にて求める。
TiO-SiOガラスをレーザーアブレーション装置内へ搬送し、ガラスの表面の中央付近にレーザーを照射する。発生したエアロゾルを誘導結合プラズマ質量分析装置に導入して、11B及び31Pの強度を測定する。内標準として29Siの強度も併せて測定する。測定された強度から得られる、各試料の11B/29Si強度比、31P/29Si強度比それぞれが、各レーザー照射部位のB濃度、P濃度である。
レーザーアブレーション装置はイー・エス・アイ社製NWR213、誘導結合プラズマ質量分析装置はパーキンエルマー社製 ELAN DRCIIをそれぞれ使用する。
【0063】
LA-ICP-MSの測定条件は以下の通りである。
レーザーエネルギー密度:2.2J/cm
レーザー照射周期:10Hz
レーザー照射径:100×100μm
レーザー照射軌道:直線
スキャン速度:20μm/sec
【0064】
TiO-SiOガラスは、COTが-100℃以上となり、ΔTの値が5℃以上となりやすくなる点から、仮想温度は1100℃以下が好ましい。仮想温度はより好ましくは1000℃以下、さらに好ましくは950℃以下である。ΔTの値をより広くする点からは、仮想温度は900℃以下が好ましく、850℃以下がより好ましく、800℃以下がさらに好ましく、750℃以下がなお好ましく、700℃以下がよりさらに好ましく、650℃以下がことさらに好ましく、600℃以下がなおさらに好ましく、550℃以下が特に好ましい。仮想温度の下限は特に限定されないが、通常400℃以上である。
【0065】
TiO-SiOガラスの仮想温度は公知の手順で測定できる。後述する実施例では、以下の手順でTiO-SiOガラスの仮想温度を測定した。
鏡面研磨されたTiO-SiOガラスについて、吸収スペクトルを赤外分光計(後述する実施例では、Nikolet社製Magna760を使用。)を用いて取得する。この際、データ間隔は約0.5cm-1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値を用いる。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm-1付近に観察されるピークがTiO-SiOガラスのSi-O-Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。
あるいは、表面の反射スペクトルを同様の赤外分光計を用いて、同様に測定する。このようにして得られた赤外反射スペクトルにおいて、約1120cm-1付近に観察されるピークがTiO-SiOガラスのSi-O-Si結合による伸縮振動に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。
なお、ガラス組成の変化によるピーク位置のシフトは、検量線の組成依存性から外挿できる。
【0066】
TiO-SiOガラスは、仮想温度のばらつきが50℃以内が好ましく、より好ましくは30℃以内である。仮想温度のばらつきが大きいと、場所により、熱膨張係数に差を生じるおそれがある。仮想温度のばらつきの下限は特に限定されず、小さいほど好ましい。
本明細書において、「仮想温度のばらつき」とは、TiO-SiOガラスの少なくとも1つの面内における30mm×30mm内での、仮想温度の最大値と最小値の差である。
具体的には、仮想温度のばらつきは以下のように測定できる。
所定のサイズに成形したTiO-SiOガラスをスライスし、30mm×30mm×1mmのTiO-SiOガラスブロックとする。このTiO-SiOガラスブロックの30mm×30mm面について、10mmピッチの間隔で前述の方法に従い仮想温度の測定を行い、その最大値と最小値との差から、TiO-SiOガラスの仮想温度のばらつきを求める。
【0067】
TiO-SiOガラスにおける脈理の応力の標準偏差(dev[σ])は、少なくとも一つの面内における30mm×30mmの範囲で0.03MPa以下が好ましい。これにより、研磨後の表面粗さが大きくなるのを抑制し、表面平滑度(rms)≦1nmといった超高平滑性を得やすい。脈理の応力の標準偏差は、より好ましくは0.02MPa以下、特に好ましくは0.01MPa以下である。標準偏差の下限は特に限定されず、0に近いほど好ましい。
【0068】
TiO-SiOガラスにおける脈理の応力の最大値と最小値との差(Δσ)は、少なくとも一つの面内における30mm×30mmの範囲で0.20MPa以下が好ましい。これにより、ガラス中の組成が均一で、ガラス中に機械的物性及び化学的物性が異なる部位が生じにくく、研磨レートが一定となりやすい。そのため、研磨後の表面の粗さが小さくなり、表面平滑度(rms)≦1nmといった超高平滑性を得やすい。脈理の応力の最大値と最小値との差は、より好ましくは0.17MPa以下、さらに好ましくは0.15MPa以下、特に好ましくは0.10MPa以下である。応力の差の下限は特に限定されず、0に近いほど好ましい。
【0069】
TiO-SiOガラスにおける脈理の応力レベルの二乗平均平方根(RMS)は、少なくとも一つの面内における30mm×30mmの範囲で0.20MPa以下が好ましい。これにより、研磨後の表面の粗さが小さくなり、表面平滑度(rms)≦1nmといった超高平滑性を得やすい。脈理の応力レベルの二乗平均平方根は、より好ましくは0.17MPa以下、さらに好ましくは0.15MPa以下、特に好ましくは0.10MPa以下である。応力レベルの二乗平均平方根の下限は特に限定されず、0に近いほど好ましい。
【0070】
TiO-SiOガラスの脈理の応力は公知の方法、例えば、複屈折顕微鏡を用いて、1mm×1mm程度の領域を測定することで求めたレタデーションを用いた、以下の式から求められる。
Δ=C×F×n×d
上記式中、Δはレタデーション、Cは光弾性定数、Fは応力、nは屈折率、dはサンプル厚である。
【0071】
上記の方法で応力のプロファイルを求め、そこから標準偏差(dev[σ])、最大値と最小値との差(Δσ)、及び二乗平均平方根(RMS)を求められる。より具体的には、TiO-SiOガラスから、例えば30mm×30mm×1mm程度のブロックを切り出し、両面から同程度の研磨を行うことで、30mm×30mm×0.5mmのTiO-SiOガラス板を得る。複屈折顕微鏡にて、得られたガラス板の30mm×30mmの面にヘリウムネオンレーザ光を垂直にあて、脈理が十分観察可能な倍率に拡大して、面内のレタデーション分布を調べ、応力分布に換算する。脈理のピッチが細かい場合は測定するTiO-SiOガラス板の厚さを薄くする。
【0072】
TiO-SiOガラスにおける、少なくとも一つの面内における30mm×30mmの範囲の屈折率の変動幅(Δn)は、4×10-4以下が好ましい。これにより、研磨後の表面の粗さが小さくなり、表面平滑度(rms)≦1nmといった超高平滑性が得られやすい。屈折率の変動幅は、より好ましくは3.5×10-4以下、さらに好ましくは3×10-4以下である。特に超高平滑性(表面粗さ(rms)≦0.5nm)とするためには、屈折率の変動幅(Δn)は、より好ましくは2×10-4以下、さらに好ましくは1×10-4以下、特に好ましくは0.5×10-4以下である。
【0073】
屈折率の変動幅Δnの測定方法は公知の方法、例えば、光干渉計を用いることで測定できる。
具体的には、TiO-SiOガラスから、例えば30mm×30mm×1mm程度のブロックを切り出し、両面から同程度の研磨を行うことで30mm×30mm×0.2mmのTiO-SiOガラス板を得る。小口径フィゾー干渉計にて、得られたガラス板の30mm×30mmの面に、白色光からフィルターを用いてある特定の波長の光だけを取り出した光を垂直にあて、脈理が十分観察可能な倍率に拡大して、面内の屈折率分布を調べ、屈折率の変動幅Δnを測定する。脈理のピッチが細かい場合は測定する板状TiO-SiOガラス板の厚さを薄くする。
【0074】
上記複屈折顕微鏡や光干渉計を用いて脈理の評価をする場合、CCD(Charge-Coupled Device)における1画素の大きさが脈理の幅に比べて十分小さくない可能性があり、脈理を検出できない場合がある。この場合、30mm×30mmの範囲全域を、例えば1mm×1mm程度の複数の微小領域に分割し、各微小領域で測定を実施することが好ましい。
【0075】
TiO-SiOガラスは、1つの面における30mm×30mmの範囲のTiO濃度の変動幅、すなわち、TiO濃度の最大値と最小値の差が0.06%以下が好ましい。これにより、研磨後の表面の粗さが小さくなり、表面平滑度(rms)≦1nmといった超高平滑性が得られやすい。同様に、Al濃度の変動幅、及びP濃度の変動幅も、それぞれ0.06%以下が好ましい。
TiO濃度、Al濃度及びP濃度の変動幅は、より好ましくは0.04%以下、さらに好ましくは0.03%以下、なお好ましくは0.025%以下、よりさらに好ましくは0.02%以下、ことさらに好ましくは0.015%以下、なおさらに好ましくは0.01%以下、一層好ましくは0.008%以下、特に好ましくは0.005%以下である。濃度の変動幅は小さいほど好ましい。
【0076】
TiO-SiOガラスをEUVL用光学部材として使用する場合の、光学使用面におけるTiO濃度、Al濃度及びP濃度の変動幅は、それぞれ0.13%以下が好ましく、いずれも0.13%以下がより好ましい。これにより、CTEのばらつきを小さくできる。
各濃度の変動幅は、より好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.06%以下、なお好ましくは0.03%以下、よりさらに好ましくは0.025%以下、ことさらに好ましくは0.02%以下、なおさらに好ましくは0.015%以下、一層好ましくは0.01%以下、より一層好ましくは0.008%以下、特に好ましくは0.005%以下である。濃度の変動幅は小さいほど好ましい。
TiO濃度、Al濃度及びP濃度の変動幅は、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)により組成分布を求め、その最大値と最小値から計算する。
【0077】
TiO-SiOガラスの製造方法としては複数の方法がある。いずれの製造方法においても、加熱してガラスを得た後の冷却工程で徐冷することで、仮想温度を下げ、COTを低くし、ΔTの値を大きくできる。すなわち、これら特性は、ガラス組成のみで決定されるものではなく、徐冷等の条件によっても変わり得る。
【0078】
TiO-SiOガラスは、徐冷速度が0.1℃/min以下が好ましく、より好ましくは0.08℃/min以下、さらに好ましくは0.06℃/min以下、よりさらに好ましくは0.05℃/min以下、ことさらに好ましくは0.03℃/min以下、特に好ましくは0.01℃/min以下である。徐冷速度の下限は特に限定されないが、製造にかかる時間を短縮する観点から0.0001℃/min以上が好ましい。
また、徐冷開始温度は、徐冷による効果を得る観点から、800℃以上が好ましく、840℃以上がより好ましく、890℃以上がさらに好ましい。徐冷開始温度の上限は特に限定されないが、ガラスの結晶化を抑制する観点から1100℃以下が好ましく、1000℃以下がより好ましい。
【0079】
TiO-SiOガラスの製造方法のひとつに、スート法が挙げられる。スート法はその作り方により、MCVD法、OVD法、及びVAD法などがある。
スート法では例えば、ガラス原料となるシリカ前駆体とチタニア前駆体を、火炎加水分解もしくは熱分解させることでTiO-SiOガラス微粒子(スート)を得る。得られたTiO-SiOガラス微粒子(スート)を堆積、成長させて、多孔質TiO-SiOガラス体を得る。次いで、得られた多孔質TiO-SiOガラス体を減圧下、あるいはヘリウム雰囲気下にて緻密化温度以上まで加熱し、さらに透明ガラス化温度以上まで加熱することで、TiO-SiOガラスが得られる。
【0080】
シリカ前駆体としては、SiCl、SiF等を使用できる。チタニア前駆体としては、TiCl、TiF等を使用できる。
本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、TiO及びSiOに加えて、Al及びPを含有する。そのため、ガラス原料となるシリカ前駆体とチタニア前駆体に、さらにAl前駆体及びP前駆体を同時に混合して供給し、TiO-SiOガラス微粒子(スート)を作製する。
Al前駆体としては、AlCl、AlF等を使用できる。P前駆体としては、POClなどのオキシハロゲン化リンや、P(CHO)などのリン酸トリアルキル等を使用できる。
【0081】
脈理の小さいTiO-SiOガラスを得るためには、原料を搬送する配管、特にチタニア前駆体、Al前駆体、P前駆体を搬送する配管の温度をしっかりと管理することが好ましい。チタニア前駆体をバブリングにより高濃度気化する場合、配管の温度はバブリング温度より高くし、バーナーへと進むにつれて温度が上昇していくように設定することが、脈理低減に効果的である。
【0082】
また、配管温度の揺らぎが脈理の原因となる可能性がある。例えば、TiClを0.5m/secで搬送する配管において、配管の長さ2mの部分におけるガスの温度が130℃±1.5℃で30秒周期で変動した場合、0.1%の組成揺らぎが発生する。そのため、脈理の小さいTiO-SiOガラスを得るためには、チタニア前駆体、Al前駆体、P前駆体が搬送される配管はPID(Proportional-Integral-Differential)制御によって、温度を変動幅±1℃以内とすることが好ましい。より好ましくは、温度変動幅は±0.5℃以内である。
【0083】
チタニア前駆体が搬送される配管だけでなく、シリカ前駆体が搬送される配管の温度もPID制御によって温度変動幅を±1℃以内とすることが好ましく、±0.5℃以内とすることがさらに好ましい。
配管を加温するにはリボンヒータやラバーヒータなどのフレキシブルなヒータを配管に巻きるけることが配管を均一に加温するために好ましい。より均一にするためには、アルミホイルで配管及びヒータを覆うことが好ましい。また、最表層はウレタンや耐熱ファイバークロスなどの断熱材で覆うことが好ましい。
配管中のガス流速を速めることで、組成揺らぎを減少できる。ガス流速は、その温度における大気圧換算時の容積で0.1m/sec以上が好ましく、より好ましくは0.3m/sec以上、さらに好ましくは0.5m/sec以上、特に好ましくは1m/sec以上である。ガス流速の上限は特に限定されないが、通常100m/sec以下である。
【0084】
ガスを均一に供給するために、ガラス原料となる各種前駆体をバーナーに供給する前に、ガスの撹拌機構を設けることが好ましい。撹拌機構としては、スタティックミキサーやフィルターなどの部品でガスを細分化して合流させる機構と、大きな空間にガスを導入することで細かい変動をならして供給させる機構の2種類が考えられる。脈理の小さいTiO-SiOガラスを得るためには、上記撹拌機構のうち、少なくとも一方の機構を用いてガラスを作製することが好ましく、両方の機構を用いることがより好ましい。また、ガスを細分化して合流させる機構においては、スタティックミキサーとフィルターの両方を用いることが好ましい。
【0085】
TiO-SiOガラスの別の製造方法として、直接法が挙げられる。直接法は、ガラス原料となるシリカ前駆体とチタニア前駆体を1800~2000℃の酸水素火炎中で加水分解・酸化させることで、TiO-SiOガラスを得る方法である。本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、TiO及びSiOに加えてAl及びPを含有する。そのため、上記シリカ前駆体とチタニア前駆体のみならず、Al前駆体及びP前駆体も同時に混合して供給し、TiO-SiOガラスを得る。
【0086】
さらに溶融法によってもTiO-SiOガラスを製造できる。溶融法は、ガラス原料を1600℃以上の電気炉内で熱することで、TiO-SiOガラスを得る方法である。本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、TiO及びSiOに加えて、Al及びPを含有する。そのため、ガラス原料としてシリカ前駆体、チタニア前駆体、Al前駆体、及びP前駆体を同時に混合し、TiO-SiOガラスを得る。Al前駆体、P前駆体としてはAl、P、AlPO等を使用できる。
【0087】
また、ゲルキャスト法によってもTiO-SiOガラスを製造できる。ゲルキャスト法は、例えば下記工程1~工程8を含む製造方法である。
工程1:原料粉末を溶媒に分散して分散液を作製する分散液調製工程
工程2:工程1で得た分散液に硬化性樹脂、硬化剤、硬化触媒、界面活性剤を添加して原料粉末と硬化性樹脂の混合液を作製する混合液調製工程
工程3:工程2で得た混合液を型に流し込んで充填させる成形工程
工程4:混合液を型の中で硬化させる硬化工程
工程5:硬化した成形体を型から取り外す脱型工程
工程6:乾燥した成形体に含有する硬化性樹脂等の有機物を焼失させる脱脂工程
工程7:脱脂した成形体を焼結してTiO-SiOガラスを得る焼成工程
工程8:焼結した成形体をガス雰囲気中で加熱する熱処理工程
各工程の詳細について以下に記載する。
【0088】
(工程1)
工程1は、原料粉末を溶媒に分散して分散液を作製する分散液調製工程である。
工程1で使用する原料粉末の純度は99.0%以上が好ましく、より好ましくは純度99.5%以上、さらに好ましくは純度99.9%以上である。
原料粉末としては、シリカ粉末、チタニア粉末、アルミナ粉末や、Si、Ti、Al及びPから選ばれる1以上を含む複合酸化物粉末等を使用できる。複合酸化物粉末は、例えば三酸化りん酸三チタン、リン酸アルミニウム等が挙げられる。
原料粉末は、平均粒子径が5nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、12nm以上がさらに好ましい。一方、平均粒子径は400nm以下が好ましく、350nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましい。
【0089】
工程1で原料粉末を溶媒に分散させる方法は、原料粉末の凝集を解離できれば特に限定されないが、例えば超音波ホモジナイザーや超音波洗浄機を使用出来る。また、シリカ粉末の凝集を解離し、より分散させるため、pH調整剤、界面活性剤、高分子分散剤などを、適宜選択して添加できる。pH調整剤、界面活性剤、高分子分散剤などは、後述の硬化性樹脂のゲル化に悪影響を与えないものが好ましい。また、溶媒としては、例えば純水が挙げられる。
【0090】
塩基性のpH調整剤には、塩基性有機物質を使用できる。例えば、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、コリン、グアニジン類、またテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドなどの4級アンモニウム塩などが挙げられる。
酸性のpH調整剤には、無機酸及び有機酸やその塩類を使用できる。例えば、リン酸、硝酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等やその塩類、アミノ酸類などの両性塩類などが挙げられる。
【0091】
界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、脂肪族あるいは芳香族第4級アンモニウム塩類、ピリジニウム、イミダゾリウム等の複素環第4級アンモニウム塩類、脂肪族または複素環を含むホスホニウムまたはスルホニウム塩類、アセチレングリコール等が挙げられる。
高分子分散剤としては、ポリマー主鎖または側鎖に第1~3級アミン、第4級アンモニウム塩基、または第4級ホスホニウム塩基などを有する高分子、アクリル酸又はその塩の単独重合体、水溶性アミノカルボン酸系重合体、あるいは、アクリル酸エステルの(共)重合体などが挙げられる。
これらのpH調整剤、界面活性剤、高分子分散剤は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、分散液中に残存する凝集物を除去するためにフィルタリングを実施してもよい。
【0092】
(工程2)
工程2は、上記工程1で得た分散液に硬化性樹脂、硬化剤、硬化触媒、界面活性剤を添加して原料粉末と硬化性樹脂の混合液を作製する混合液調製工程である。
工程2では溶媒を使用することが好ましい。溶媒の使用により混合液の粘度を調整してスラリー状にでき、工程3での型への充填が容易になる。この目的で使用する溶媒としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等の純水、及びそれらとアルコール類、エーテル類、アミド類、エタノールアミン類等の混合物である水系溶剤、アセトン、ヘキサン等の有機溶媒が使用できる。溶媒には消泡や脱泡を目的として界面活性剤を添加することも出来る。その中でも、製造コストや環境負荷の観点からイオン交換水、純水、水系溶剤などの水系溶媒が好ましい。
【0093】
工程2で使用する硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は成形体の保形性が高く、大気雰囲気下で硬化するという点で好ましく、アクリル樹脂は室温で反応が迅速に進行する点で好ましい。
【0094】
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のビスフェノール類のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、メチルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロヘキセンオキサイド型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
反応してアクリル樹脂となるモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸アミド、メタクリル酸、メトキシ(ポリエチレングリコール)モノメタクリレート、n-ビニルピロリドン、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、アルキルメタクリルアミド、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシアルキルアクリルアミド、ヒドロキシアルキルメタクリルアミド、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、メタクリラトエチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、p-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0095】
硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を使用する場合、平均分子量は20~30000が好ましい。エポキシ樹脂の平均エポキシ官能基数は2~10が好ましい。これにより、工程5での脱型時に一定の強度が得られ、かつ工程3の成形時に十分な可使時間も確保できる。
上述したように、製造コストや環境負荷の観点から溶媒は水系溶剤が好ましく、そのため、硬化性樹脂も水溶性が好ましい。水溶性エポキシ樹脂においては水溶率が70~100%が好ましい。
硬化性樹脂は単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。硬化性樹脂の合計の配合量は適宜選択でき、シリカ粉末に対する重量比が0.1以上1.0以下が好ましい。
【0096】
工程2で使用する硬化剤は、硬化性樹脂を硬化させるものであり、使用する硬化性樹脂に応じて選択する。エポキシ樹脂の硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤等が挙げられる。アミン系硬化剤は反応が迅速であるという点で好ましく、酸無水物系硬化剤は耐熱衝撃性に優れた硬化物が得られるという点で好ましい。
アミン系硬化剤としては、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン、変性ポリアミノアミド、変性脂肪族ポリアミン等が挙げられ、モノアミン、ジアミン、トリアミン、ポリアミンのいずれも使用できる。
酸無水物系硬化剤としてはメチルテトラヒドロ無水フタル酸、2塩基酸ポリ無水物等が挙げられる。
【0097】
アクリル樹脂の硬化剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過酸化物、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等のアゾ化合物などが挙げられる。
カチオン性重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ケタール化合物、ベンゾフェノン化合物、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩等が挙げられる。
【0098】
工程2で使用する硬化触媒は、硬化性樹脂の硬化を促進させるものであり、使用する硬化性樹脂に応じて選択する。この硬化触媒としては、第三アミン類、イミダゾール類等が挙げられる。
第三アミン類としては、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
イミダゾール類としては2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、N-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0099】
工程2で各成分を混合する手段は特に限定されないが、後述する実施例では自転公転ミキサーを用いた。
工程2で各成分を混合する際には、脱泡も行うことが好ましい。脱泡することにより、工程4の硬化工程において、成形体中にスラリー中の泡に起因したポアが入ることを防止できる。脱泡は真空式自転公転ミキサーを用いて各成分を混合しながら実施できる。
【0100】
(工程3)
工程3は、上記工程2で得た混合液を型に流し込んで充填させる成形工程である。ここで使用する型の種類や形状は特に限定されず、製造する石英ガラスに応じて適宜選択できる。例えば、金属製の型や樹脂製の型、シリコーンゴム製の型を使用できる。
【0101】
(工程4)
工程4は、混合液を型の中で硬化させる硬化工程である。混合液を硬化させる条件は特に限定されず、使用する硬化性樹脂、硬化剤、硬化触媒に応じて適宜選択できる。後述する実施例では、型に充填した混合液を室温で静置して硬化させた。
【0102】
(工程5)
工程5は、硬化した成形体を型から取り外す脱型工程である。型から取り外した成形体は乾燥させてから、工程6を実施することが好ましい。
【0103】
(工程6)
工程6は、乾燥した成形体に含有する硬化性樹脂等の有機物を焼失させる脱脂工程である。乾燥させた成形体を電気炉等の加熱炉を用いて、所定の温度で所定時間を保持して、成形体に含有する硬化性樹脂等の有機物を焼失させる。加熱温度及び当該温度に保持する時間は特に限定されない。
【0104】
(工程7)
工程7は、脱脂した成形体を焼結してTiO-SiOガラスを得る焼成工程である。上記工程6で脱脂した成形体を焼結させて石英ガラスを得る。焼結条件は特に限定されない。
【0105】
(工程8)
工程8は、焼結した成形体をガス雰囲気中で加熱する熱処理工程である。焼結したTiO-SiOガラスの透過率特性を調整するためにガス雰囲気中で熱処理してもよい。透過率特性を調整する必要がない場合は省いてもよい。雰囲気ガスの種類や熱処理条件は特に限定されない。
【0106】
本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、ゾルゲル法によって製造することもできる。例えば、上記スート法により、ガラス原料となるシリカ前駆体とチタニア前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させてTiO-SiOガラス微粒子(スート)を得る。その後、ゾルゲル法により、Al前駆体及びP前駆体が溶解した溶媒を用いてゾルにし、ゾルのゲル化によって成形、次いで固結することでTiO-SiOガラスが得られる。
【0107】
TiO-SiOガラスは、ガラスの粘性を低下させる成分として、Al及びPを含有することにより、脈理の発生が抑制されている。そのため、EUVL用光学部材に好適に使用できる。
また、本実施形態に係るガラスは、EUVL用光学部材のみならず、極低膨張性と平滑な研磨表面の両立が求められる望遠鏡向け光学部材、精密機器用標準基材、リングレーザージャイロ基材、半導体装置用部材、半導体プロセス部材、耐熱部材などにも好適である。
【実施例
【0108】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。例1~例9及び例11は実施例であり、例10及び例12~例14は比較例である。
【0109】
[評価]
得られたTiO-SiOガラスの各成分の含有量のうち、TiOは蛍光X線(Rigaku社製、ZSX Primus IV)を用いてファンダメンタルパラメータ(FP)法により求めた。その他の成分、すなわち、Al、P、LiO、SiO、B、CaO、KO、Sbの含有量はICP質量分析法(Agilent Technologies製、Agilent 8800)により求めた。
結果を表1に示す。表中の含有量の単位は酸化物基準のモル%であり、「-」は、含有量が検出限界値未満であったことを意味する。
【0110】
TiO-SiOガラスの結晶化の有無、分相の有無、及び包含された泡の個数(泡数、個/cm)は、目視により確認及び計測した。結果を表2及び表3に示す。表中の空欄は未測定であることを意味する。
【0111】
TiO-SiOガラスの粘性低下を示す指標となる特性について、上述の方法により、ガラス粘性が1010dPa・sとなる温度T10、DSC曲線上の変曲点及び揮散元素として揮散試験後のP及びBの残存率を測定した。結果を表2及び表3に示す。表中の空欄は未測定であることを意味する。また、揮散試験後のP及びBの残存率が「-」は、残存率が検出限界未満であったことを意味する。
【0112】
TiO-SiOガラスの膨張特性の評価として、上述の方法により、22℃におけるCTE(ppb/℃)、22℃におけるCTE slope(ppb/℃/℃)、CTE極大温度(℃)、CTEが0ppb/℃となる温度(COT、℃)、COTにおけるCTE slope(ppb/℃/℃)及びΔT(℃)を求めた。結果を表2及び表3に示す。
【0113】
[例1]
表1の組成になるようにガラス原料であるSiO、TiO、Al、リン酸アルミニウム(AlPO)及び三酸化リン酸三チタン水和物(Ti(PO・nHO+Ti(PO・nHO)を調合し、よく混合した。これを白金坩堝に入れて、大気中1700℃に設定した電気炉中で96時間保持した。その後、電気炉から取り出して、坩堝のまま水に浸けて急冷することで、徐冷なしのTiO-SiOガラス(例1a)を得た。
この例1aのTiO-SiOガラスを、雰囲気制御可能な電気炉に設置し、窒素フロー中で徐冷開始温度である900℃まで昇温し、この温度で24時間保持した。その後0.05℃/minで500℃まで降温し、大気放冷することで徐冷後のTiO-SiOガラス(例1b)を得た。
【0114】
上記で得られたTiO-SiOガラスの個々の成分の含有量を表1に示す。なお、例1aと例1bは冷却速度の違いのみで、組成は同一であることから、表1ではまとめて「例1」と表記している。例2以降についても同様である。
【0115】
[例2~例9及び例11]
ガラス原料の割合を変更した以外は例1と同様にして、徐冷なしのTiO-SiOガラス(例2a~例9a及び例11)を得た。次いで、例2a、例3a及び例6a~例9aについては、表2及び表3に記載の徐冷開始温度から0.05℃/minで500℃まで降温した以外は例1bと同様にして、TiO-SiOガラス(例2b、例2c、例3b、例3c、例6b、例7b、例8b及び例9b)を得た。
【0116】
[例10]
ガラス原料として、Al、リン酸アルミニウム(AlPO)及び三酸化リン酸三チタン水和物(Ti(PO・nHO+Ti(PO・nHO)を用いなかった以外は例1と同様にして、徐冷なしのTiO-SiOガラス(例10a)を得た。
【0117】
[例12]
ガラス原料として、Al、リン酸アルミニウム(AlPO)及び三酸化リン酸三チタン水和物(Ti(PO・nHO+Ti(PO・nHO)を用いず、Bを用いた以外は例1と同様にして、徐冷なしのTiO-SiOガラスを得た。
【0118】
[例13]
特開2001-19482号公報の実施例2に記載の手順と同様にして、徐冷なしのTiO-SiOガラスを得た。
【0119】
[例14]
ガラス原料として、Al及びリン酸アルミニウム(AlPO)を用いなかった以外は例1と同様にして、徐冷なしのTiO-SiOガラスを得た。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
表1から明らかなように、ガラスの粘性を下げる成分として、Al及びPを含有させた例1~例9のTiO-SiOガラスは、Al及びPを含有しない例10のTiO-SiOガラスより、T10、DSC上の変曲点及び泡数のうち少なくとも1つが低下した。そのためAl及びPの添加によりガラスの粘性を低下させる効果が確認された。このことから例1~例9のTiO-SiOガラスは、成形や徐冷といったプロセスに必要な温度を低下させることで揮散による脈理を抑制できるため、結果として膨張特性の不均一が起きにくくなる。
【0124】
例12の徐冷なしのTiO-SiOガラスでは、失透の原因となるガラスの結晶化が見られた。例14の徐冷なしのTiO-SiOガラスでは、失透の原因となるガラスの分相が確認された。これらに対し、例1~例9のTiO-SiOガラスではガラスの結晶化が見られなかった。また、例13のTiO-SiOガラスではアルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物の合計の含有量が多い。そのために、ガラスの膨張係数が他のTiO-SiOガラスと比べて大きいものと推測される。
【0125】
また例12のTiO-SiOガラスは揮散試験後の揮散元素(B)の残存率が6%と低いのに対し、例2,3、5、6のTiO-SiOガラスでは非常に揮散しやすい元素であるBが含まれておらず、揮散元素(P)の残存率は10%以上と高かった。これらから、脈理の発生しにくい組成であることが確認された。このことから実施例のガラスは膨張特性の不均一が起きにくい組成であると言える。
【0126】
表2及び表3から明らかなように、例1a~例9bのTiO-SiOガラスは、いずれもCOTが-100~100℃の範囲にあり低膨張性を示すことが確認された。
【0127】
以上の評価結果から、本実施形態に係るTiO-SiOガラスは、EUVL用光学部材に用いる材料として好適であることが確認された。
図1
図2
図3