(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】単結晶引上げ装置および単結晶引上げ方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/20 20060101AFI20240730BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20240730BHJP
C30B 30/04 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C30B15/20
C30B29/06 502G
C30B30/04
C30B29/06 502C
(21)【出願番号】P 2021010298
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】高野 清隆
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-184383(JP,A)
【文献】特開2017-210387(JP,A)
【文献】特開2015-124127(JP,A)
【文献】特開2003-313087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/20
C30B 29/06
C30B 30/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱ヒーター及び溶融した半導体原料が収容される坩堝が配置され中心軸を有する引き上げ炉と、該引き上げ炉の周囲に設けられ超電導コイルを有する磁場発生装置とを備え、前記超電導コイルへの通電により前記溶融した半導体原料に水平磁場を印加して、前記溶融した半導体原料の前記坩堝内での対流を抑制する単結晶引き上げ装置であって、
前記磁場発生装置の前記超電導コイルとして主コイルと副コイルを備えており、
前記主コイルとして、対向配置された超電導コイルの対が2組設けられており、
該対向配置された対の超電導コイルの中心同士を通る軸をコイル軸としたときに、前記主コイルである前記2組の超電導コイルの対における2本のコイル軸が同じ水平面内に含まれており、
該水平面内の前記中心軸における磁力線方向をX軸としたときに、該X軸を挟む前記2本のコイル軸間の中心角度αが100度以上120度以下となるように前記主コイルが配置されており、かつ、
前記副コイルとして、対向配置された超電導コイルの対が1組設けられており、該副コイルである前記1組の超電導コイルの対における1本のコイル軸と前記X軸が一致するように前記副コイルが配置されており、
前記主コイルと前記副コイルは、電流値を独立に設定可能なもので
あり、
前記主コイルおよび前記副コイルは、
レーストラック型形状と、楕円型形状と、前記引き上げ炉の外形と同じ向きに湾曲した鞍型形状のうちのいずれかであり、
鉛直方向の高さが水平方向の幅よりも短いものであることを特徴とする単結晶引き上げ装置。
【請求項2】
前記主コイルは、前記引き上げ炉の外形に沿った形状よりも大きい曲率で湾曲した鞍型形状であり、
前記引き上げ炉の外形に沿った形状の曲率に対する前記鞍型形状の主コイルの曲率の比が1.2以上2.0以下であることを特徴とする
請求項1に記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項3】
前記磁場発生装置は、鉛直方向に上下移動可能な昇降装置を具備するものであることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項4】
請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の単結晶引き上げ装置を用いて、半導体単結晶を引き上げることを特徴とする単結晶引き上げ方法。
【請求項5】
前記引き上げる半導体単結晶を、無欠陥領域単結晶とすることを特徴とする
請求項4に記載の単結晶引き上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体基板として使用されるシリコン単結晶等の単結晶の引き上げ装置および単結晶引き上げ方法に関し、より詳細には、水平磁場印加チョクラルスキー法(Horizontal Magnetic field application Czochralski method:HMCZ法ともいう)による単結晶引き上げ装置および単結晶引き上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンやガリウム砒素などの半導体は単結晶で構成され、小型から大型までのコンピュータのメモリ等に利用されており、記憶装置の大容量化、低コスト化、高品質化が要求されている。
シリコン単結晶の主な製法であるチョクラルスキー法は、石英坩堝中のシリコン原料を溶融して融液を形成し、そこに種結晶を接触させ、回転させながら引き上げることで単結晶を得る製法である。現在において、直径300mm(12インチ)以上の大口径の結晶製造は、融液に磁場を印加して対流を抑制する磁場印加CZ法(以下、「MCZ法」と称する)が主流となっている。シリコン融液のような導電性を持つ流体は、磁場を印加することで対流を抑制することが可能である。対流が抑制されることで融液の温度変動を減少させることができ、操業面でも品質面でも安定した結晶の育成が可能となる。
【0003】
ここで、MCZ法の対流抑制機構について述べる。融液中に熱対流などによる垂直方向の流れが発生したとすると、フレミングの右手の法則により磁場と対流の双方に直交する水平方向に電場が発生する。この電場により誘導電流が流れると、フレミングの左手の法則によりローレンツ力が生じる。この力の向きが最初に発生した流れの逆向きとなり、対流が抑制される。
【0004】
ただし水平磁場を印加するHMCZ法の場合、石英坩堝壁面と磁力線が平行となる領域では、石英が絶縁体であるために誘導電流が流れず、対流が抑制されない。ここで
図13に従来の単結晶引き上げ装置110における1組の超電導コイル(コイル)の対の配置の平面図を示す。
図13のように単純に1組のコイルの対(104aと104b)を引き上げ装置110(109は引き上げ炉の中心軸)の外側に位置する磁場発生装置130の内部に配置するようなコイルの配置方法とした場合、坩堝106の壁面と磁力線107が平行となる領域が存在することは避けられず、その領域においては対流が十分に抑制されない。そして、その領域では坩堝壁面から結晶に向かう表面流速が相対的に高速となり、石英坩堝から融液中に溶解した酸素が表面で十分に蒸発されないまま結晶に到達することになる。その結果、結晶中の酸素濃度を狙い通りに下げられない場合がある。上記は特に4×10
17atoms/cm
3以下の酸素濃度の低い単結晶の製造において問題となりやすい。
【0005】
この対策として、例えば特許文献1に記載の技術では、引き上げ炉の中心軸における磁力線方向をX軸、それに垂直な方向をY軸としたときに、各軸上の磁束密度分布の形状と坩堝壁における相対強度を規定している。このようにすることで、熱対流をより効果的に抑制でき、結果として酸素濃度が低減された結晶を得ることができる。このような磁束密度分布を実現する手段として、2組のコイルの対の、それぞれのコイル軸(対向配置された対のコイルの中心同士を通る軸)の間の中心角度を規定した引き上げ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6436031号
【文献】特開2019-196289号公報
【文献】特開2004-051475号公報
【文献】特開2004-189559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の磁束密度分布を持つ引き上げ装置であれば、酸素濃度が低く成長縞の抑制された単結晶を育成することが可能である。しかしながら、このような磁束密度分布を達成するには磁力線を湾曲させるようにコイルを配置する必要があるため、磁力線の湾曲が少ないコイル配置に比べて、コイル電流値に対する中心磁束密度は小さくなる。よって、中心軸における磁束密度(中心磁束密度)という観点では非効率といえる。
【0008】
結晶引き上げ速度Vと結晶内温度勾配Gの比V/Gを適切な範囲に制御することで無欠陥領域単結晶が得られることが知られているが、結晶中心における温度勾配(G_ctr)を大きくするには、中心磁束密度を大きくすることが効果的である。G_ctrを大きくできれば無欠陥領域単結晶を得るための引き上げ速度Vも高くなり、より効率よく無欠陥領域単結晶を育成することが可能となる。
逆に、中心磁束密度が低い条件ではG_ctrも小さくなり、無欠陥結晶の育成効率は低下する。さらに、ある閾値を超えてG_ctrが小さくなると、結晶中心に存在するVoid欠陥を無欠陥化するためにVを下げても、その下げたVによって固液界面で発生する単位時間あたりの潜熱(凝固熱)が減少し、さらにG_ctrが低下する。その結果、結晶中心を完全に無欠陥化するにはVを大きく下げざるを得ず、結果として結晶外周の温度勾配G_edgとの釣り合いが取れなくなり、面内全域で無欠陥領域単結晶を得ることができなくなる場合もある。
【0009】
上記の現象は、無欠陥領域単結晶の育成を行う際には酸素濃度に関わらず問題となり得るが、特にメモリ向け等の製品で一般的である8×10
17atoms/cm
3以上の通常酸素濃度の育成において、特許文献1の技術では他のコイル配置に比べて生産性に劣る(あるいは製造ができない)という問題がある。その理由は、8×10
17atoms/cm
3以上の酸素濃度規格であれば特許文献1のような技術を用いて積極的に酸素濃度を下げる必要がなく、
図13のような中心磁束密度を効率的に高められるコイル配置のほうがより高い引き上げ速度で単結晶が製造可能なためである。
【0010】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、低酸素濃度の単結晶製造が可能で、かつ同一装置で通常酸素濃度の無欠陥領域単結晶を高速に育成可能な単結晶引き上げ装置及び単結晶引き上げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、加熱ヒーター及び溶融した半導体原料が収容される坩堝が配置され中心軸を有する引き上げ炉と、該引き上げ炉の周囲に設けられ超電導コイルを有する磁場発生装置とを備え、前記超電導コイルへの通電により前記溶融した半導体原料に水平磁場を印加して、前記溶融した半導体原料の前記坩堝内での対流を抑制する単結晶引き上げ装置であって、
前記磁場発生装置の前記超電導コイルとして主コイルと副コイルを備えており、
前記主コイルとして、対向配置された超電導コイルの対が2組設けられており、
該対向配置された対の超電導コイルの中心同士を通る軸をコイル軸としたときに、前記主コイルである前記2組の超電導コイルの対における2本のコイル軸が同じ水平面内に含まれており、
該水平面内の前記中心軸における磁力線方向をX軸としたときに、該X軸を挟む前記2本のコイル軸間の中心角度αが100度以上120度以下となるように前記主コイルが配置されており、かつ、
前記副コイルとして、対向配置された超電導コイルの対が1組設けられており、該副コイルである前記1組の超電導コイルの対における1本のコイル軸と前記X軸が一致するように前記副コイルが配置されており、
前記主コイルと前記副コイルは、電流値を独立に設定可能なものであることを特徴とする単結晶引き上げ装置を提供する。
【0012】
単結晶引き上げ装置の磁場発生装置が上記のような構成であれば、製造する(引き上げる)製品品種に合わせて主コイルと副コイルの各電流値を適切な値に設定することで、低酸素濃度の単結晶製造と、通常酸素濃度の無欠陥領域単結晶の高速育成ができる単結晶引き上げ装置とすることができる。
【0013】
このとき、前記主コイルおよび前記副コイルは、
レーストラック型形状と、楕円型形状と、前記引き上げ炉の外形と同じ向きに湾曲した鞍型形状のうちのいずれかであり、
鉛直方向の高さが水平方向の幅よりも短いものとすることができる。
【0014】
このような形状のコイルであれば、円形コイルを用いた場合に比べてコイル軸の水平位置を磁場発生装置の筐体の端(上端側や下端側)に偏らせて配置することも可能となり、コイル軸の水平高さ(高さ位置)の設定できる範囲を拡大することができる。これにより、より低酸素濃度の単結晶を製造することも可能になる。
【0015】
また、前記主コイルは、前記引き上げ炉の外形に沿った形状よりも大きい曲率で湾曲した鞍型形状であり、
前記引き上げ炉の外形に沿った形状の曲率に対する前記鞍型形状の主コイルの曲率の比が1.2以上2.0以下のものとすることができる。
【0016】
このようなものであれば、引き上げ炉の外形に沿って湾曲させた鞍型コイルを用いた場合に比べてさらに低酸素濃度の単結晶製造が可能となる。
【0017】
また、前記磁場発生装置は、鉛直方向に上下移動可能な昇降装置を具備するものとすることができる。
【0018】
このようなものであれば、製造する単結晶の酸素濃度の狙い値ごとに適した磁場高さ(コイル軸の高さ位置)を選択することが可能となる。
【0019】
また、本発明は、上記の単結晶引き上げ装置を用いて、半導体単結晶を引き上げることを特徴とする単結晶引き上げ方法を提供する。
【0020】
このような単結晶引き上げ方法であれば、一台の単結晶引き上げ装置で、低酸素濃度の単結晶製造と、通常酸素濃度の無欠陥領域単結晶の高速育成の両方が可能となる。
【0021】
このとき、前記引き上げる半導体単結晶を、無欠陥領域単結晶とすることができる。
【0022】
本発明は無欠陥領域単結晶(特に通常酸素濃度のもの)を高速で育成することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の単結晶引き上げ装置及び単結晶引き上げ方法によれば、一台の単結晶引き上げ装置で、低酸素濃度の単結晶製造と、通常酸素濃度の無欠陥領域単結晶の高速育成の両方が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の単結晶引き上げ装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の装置における3組のコイルの対の配置の一例を示す平面図である。
【
図3】3組コイルにおける、主コイルの相対電流値(Im)・副コイルの相対電流値(Is)と中心磁束密度の関係の例を示すグラフである。
【
図4】3組コイルにおいて、Im・Isに対する坩堝周方向におけるB⊥分布の例を示すグラフである。
【
図5】3組コイルにおいて、中心磁束密度を1000Gに固定してImとIsの電流比を変化させた際の、坩堝周方向におけるB⊥分布の例を示すグラフである。
【
図6】レーストラック型形状のコイルの一例を示す側面図である。
【
図7】楕円型形状のコイルの一例を示す側面図である。
【
図8】引き上げ炉の外形と同じ向きに湾曲した鞍型形状の一例を示す斜視図である。
【
図9】コイル形状が鞍型で、主コイルの曲率を変化させたときの、Im:Is=1:0とした場合のB⊥分布と周角度との関係を示すグラフである。
【
図10】コイル形状が鞍型(引き上げ炉の外形に沿った形状で湾曲している)の、3組のコイルの対の配置の一例を示す平面図である。
【
図11】実施例1と比較例1における、無欠陥領域単結晶となる成長速度の相対値を比較したグラフである。
【
図12】コイル形状が鞍型(主コイルが引き上げ炉の外形に沿った形状よりも大きい曲率で湾曲しており、副コイルが引き上げ炉の外形に沿った形状で湾曲している)の、3組のコイルの対の配置の一例を示す平面図である。
【
図13】従来の単結晶引き上げ装置における1組のコイルの対の配置の一例を示す平面図である。
【
図14】従来の単結晶引き上げ装置における2組のコイルの対の配置の一例を示す平面図である。
【
図15】2組コイルにおける、コイル軸間角度αと中心磁束密度の関係の一例を示す図である。
【
図16】1組コイルにおける、坩堝周方向におけるB⊥分布の一例を示すグラフである。
【
図17】2組コイルにおける、坩堝周方向におけるB⊥分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1に本発明の単結晶引き上げ装置10の一例を示す。また、
図2に、本発明の装置における3組のコイルの対の配置を示す。
図1に記載の単結晶引き上げ装置10は、MCZ法(より具体的にはHMCZ法)によるものであり、加熱ヒーター8と、溶融した半導体原料(以下、「融液」と称する)5が収容される石英製の坩堝6が配置され、坩堝6の回転の中心軸9(引き上げ炉1の中心軸でもある)を有する引き上げ炉1と、引き上げ炉1の周囲に設けられ超電導コイル(以下、「コイル」とも言う)を有する磁場発生装置30とを備えており、超電導コイルへの通電により融液5に水平磁場を印加して、融液の坩堝内での対流を抑制しながら、単結晶3(例えば、シリコン単結晶など)を引き上げ方向に引き上げる構成になっている。
【0026】
なお、コイルとしては、
図2に示すように主コイル4mと副コイル4sを備えている。主コイル4mとしては対向配置されたコイルの対が2組設けられている(4aと4cの対と、4bと4dの対)。また副コイル4sとしては対向配置されたコイルの対が1組設けられている(4eと4fの対)。
ここで、対向配置された対のコイルの中心同士を通る軸をコイル軸12としたとき、主コイル4mである2組のコイルの対における2本のコイル軸と、副コイル4sである1組のコイルの対における1本のコイル軸は、全て1つの同じ水平面11内に含まれるように、コイル4a~4fが配置されている。
しかも、主コイル4mに関しては、水平面11内での中心軸9における磁力線方向をX軸としたときに、該X軸を挟む、主コイル4mの2本のコイル軸間の中心角度αが100度以上120度以下となるように配置されている。中心角度αが120度以下になるように主コイル4mが配置されていることで、隣接する主コイル4m同士(すなわち、4aと4b同士、4cと4d同士)がぶつかることなく、かつ、100度以上であるため、低酸素濃度の単結晶の育成の場合、効果的に大幅に酸素濃度の低減を図ることができる。一方で副コイル4sに関しては、その1本のコイル軸とX軸とが一致するように配置されている。
図2に示す例では、コイル4aとコイル4dの間にコイル4eが配置されており、コイル4cとコイル4bとの間にコイル4fが配置される構成となっている。
なお、符号7は磁力線を示している。
【0027】
以下、本発明の単結晶引き上げ装置10について(特にはコイルについて)、従来の単結晶引き上げ装置における構成と比較しつつ、さらに詳細に説明する。
ここでまず、
図14に従来の単結晶引き上げ装置210における2組のコイルの対(204aと204cの対、204bと204dの対)を配置した平面図を示す。
図14に示すように、
図14における中心角度α(209は中心軸)を100~120°の範囲にすれば、特許文献1で開示されたコイル配置となる。
図15に、各コイルの電流値を一定にした状態でαを変化させたときの、中心磁束密度の相対値を示す。αが大きくなるほど中心磁束密度の相対値が小さくなっているが、これはαが大きくなるほど各コイル軸とX軸との角度(α/2)が大きくなり、各コイルから発生する磁力線のX方向成分が小さくなるためである。このように、中心磁束密度を基準に考えれば特許文献1で開示されたコイル配置は効率的とはいえず、その結果、上述したように無欠陥領域単結晶となる成長速度が遅くなったり、場合によっては無欠陥領域単結晶が得られなくなったりする場合がある。
【0028】
本発明ではこの点に鑑み、
図2に示すように、また、前述したように、コイル軸12がX軸と一致するようにもう1組のコイルの対(副コイル4s:4eと4fの対)を追加し、副コイル4sの電流値を、追加する前の2組のコイルの対(主コイル4m:4aと4cの対、4bと4dの対)に対して独立に設定可能なものとすることを考案した。例えば、主コイル4m、副コイル4sに対して別々に配線されており、コンピュータ等の設定により、各々独立して所望の電流値で通電できるような構成とすることができる。
このような構成にすれば、副コイルの電流値をある程度高く設定することにより、中心磁束密度を向上させ、無欠陥領域単結晶となる成長速度を上げることができる。また、低酸素濃度の結晶を製造する際は、副コイルの電流値をゼロまたは低い値に設定することで特許文献1と類似の磁場分布を発生させることができ、低酸素濃度の結晶製造が可能である。
このように、主コイルと副コイルの電流値を互いに独立に設定できるような構成にすることで、磁場による対流抑制力をよりきめ細かく制御することができ、より多様な品質の単結晶を製造することが可能となる。
【0029】
中心磁束密度を高くすることで無欠陥領域単結晶となる成長速度が速くなることについては、実際の結晶製造において効果が確認されているが、その作用は以下のように考えられる。
まず中心磁束密度が低い場合では、磁場によって対流がそれほど強く抑制されないため、融液内の流路は、坩堝側壁にて上昇し、融液表面を中央に向かって流れ、中央部で下降するという比較的単純なものとなる。坩堝底部が側壁部に比べて低温となるような温度分布とした場合、底部から側壁部に向かう自然対流は発生しないので、上記流路は側壁部より上方のみを循環するものとなり、底部には低温の融液が溜まると考えられる。固液界面の直下にこのような低温の融液が存在していると、固液界面へ熱が十分に供給されないので、固液界面が下方(融液側)に向かって凸形状となりやすく、結晶中心の結晶内温度勾配G_ctrが低下してしまうと考えられる。
【0030】
一方、中心磁束密度が高い場合では、磁場により対流が強く抑制される環境でありながら結晶回転による強制対流も存在するため、安定した流路が形成されず、特に固液界面直下の対流は複雑になると考えられる。その結果、底部の融液が攪拌されて界面直下の融液が均熱化し、中心磁束密度が低いときに比べて固液界面に熱が供給されるのでG_ctrが増加すると考えられる。
【0031】
続いて、低酸素濃度の結晶製造で特に問題となる、磁場分布と酸素濃度の関係についてより詳細に述べる。
上述した磁場による対流抑制機構の通り、融液5の熱対流を抑制する力は、磁力線が坩堝壁と平行となる領域では働かない。このことから、磁束密度成分を坩堝内壁に垂直な成分の磁束密度(以下、「B⊥」と称する)と平行な成分の磁束密度(以下、「B∥」と称する)の2つに分解したとき、対流抑制に寄与するのはB⊥成分のみとなる。このことは特許文献2に詳細が述べられている。
【0032】
図16には、
図13において中心磁束密度を1000Gとしたときの坩堝周方向のB⊥分布を示す。また、
図17には、
図14にてコイル軸間の中心角度αを120°、中心磁束密度を1000Gとしたときの坩堝周方向のB⊥分布を示す。横軸のθは、
図13および
図14の中に示したように、坩堝内周上の点と中心軸109、209とを結んだ線分がX軸となす角度である。
図13、
図14いずれのコイル配置でも、θ=90、270°の位置ではB⊥がゼロになっており、対流抑制力が働いていないことがわかる。これは、コイル配置がY軸について対称であるために、Y軸上の点ではY成分が必ずゼロになることに起因するものであり、Y軸対称である以上どのような配置にしても避けられない。しかしながら、
図14(
図17)では
図13(
図16)に比較してゼロからの立ち上がりが急峻であり、ゼロ付近の値となる範囲が非常に狭いことから、実質的には十分に対流が抑制されているといえる。このように、
図14のコイル配置はメルト全体の対流を抑制するのに適したものだといえる。
【0033】
ここで、本発明のコイル配置(
図2)における磁場分布について詳細に考える。以降の説明では、主コイルと副コイルがすべて同一形状で、かつα=120°の場合についての結果を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
図3には、主コイルの相対電流値(Im)、副コイルの相対電流値(Is)と中心磁束密度B_ctrとの関係を示す。相対電流値は、4個の主コイルのみに電流を流した際に中心磁束密度が1000Gとなる電流値を1としており、0、0.5、1の範囲で主・副コイルの電流値をそれぞれ変化させた結果を示している。
図3から読み取れるように、主コイルと副コイルによって発生する中心磁束密度の大きさはそれぞれが独立に寄与しており、総合的な中心磁束密度は、主・副コイルそれぞれの電流値から求められる中心磁束密度を合計することで求められる。なお、副コイルだけに電流値1を流した結果(Im,Is)=(0,1)も中心磁束密度が1000Gとなっているが、これは主コイルとX軸との角度が60°、副コイルとX軸との角度が0°であり、主コイル4個の磁束密度の合計(4×B×cos(60°))と、副コイル2個の合計(2×B×cos(0°))が等しくなるためである。
【0034】
図4には、Imを1に固定し、Isを変化させた際のB⊥分布の計算結果を90°~270°の範囲で示す。
Isが0または0.25のときのB⊥分布は2組コイルの分布(
図17)と類似しており、これらの条件では低酸素濃度の結晶が製造可能である。ここからさらにIsを増加させると、θ=180°付近のB⊥が増加し、B⊥分布はより均一化する。このようなB⊥分布では融液全体の対流が十分に抑制されるため、一見すると低酸素濃度の結晶製造により有利に働くように思える。
しかしながら、実際に結晶製造を行ったところ、例えば(Im,Is)=(1,1)のような条件では、必ずしも酸素濃度が低下せず、逆に酸素濃度が上昇する場合があることが明らかになった。これは、坩堝壁面での対流が全体的に抑制されることで、坩堝壁に接している融液が坩堝回転とともに連れ回りしにくくなり、坩堝と融液の相対速度が増加することで融液への酸素溶出が促進されたためと考えられる。また、対流抑制により熱輸送が減少し、坩堝壁面の温度が結晶に対して高温化することで坩堝の溶出が促進された効果も考えられる。対流抑制には、融液の表面流速減少によって酸素を下げる(=酸素の蒸発時間を長くする)効果もあるが、上記の条件では酸素溶出促進効果のほうがより強く働き、酸素濃度の上昇という結果につながったと考えられる。
【0035】
一方、中心磁束密度を1000Gに固定してImとIsの電流比を変化させた際のB⊥分布を
図5に示す。図中のImとIsは、相対電流値そのものではなく電流値の比であり、例えばIm:Is=1:1の場合の実際の相対電流値は、(Im,Is)=(0.5,0.5)となる。
これらの条件で結晶製造を行った結果、Isの電流比が大きいIm:Is=1:1等の条件では、Im:Is=1:0に比べて酸素濃度が上昇することが分かった。これは、θ=90°からのB⊥の立ち上がりがなだらかになるため、対流が十分に抑制されずに酸素蒸発が不十分な融液が結晶に到達した結果と考えられる。
【0036】
以上のように、主コイルの電流値Imを固定した場合と、中心磁束密度を固定した場合のいずれにおいても、副コイルの電流Isを増加しすぎると酸素濃度が高くなってしまうことが分かった。そのため、低酸素濃度の結晶を含む様々な品種を作り分けるためには、Isを可変とし、品種によってIm、Isそれぞれの電流値を独立に制御する必要がある。
【0037】
なお、特許文献3の
図12に、3組のコイルの対を配置した磁場発生装置が例示されている。このコイル配置は本発明と類似しているが、当該文献にはコイルの電流値を独立に制御できるという記述がなく、また発明の目的が均一な磁束密度分布を発生させることであることから、各コイルの電流値はすべて同じであるものと考えられる。よってこの構成では、上述の通り低酸素濃度の結晶製造ができないため、本発明とは技術的に差異のあるものである。
【0038】
ところで、本発明における主コイル4mおよび副コイル4sの形状については特に限定されないものの、例えば、よく使用されているような円形コイルとすることができる。
あるいは、レーストラック型形状と、楕円型形状と、引き上げ炉の外形と同じ向きに湾曲した鞍型形状のうちのいずれかであり、鉛直方向の高さが水平方向の幅よりも短いものとすることができる。
図6、
図7に上記のようなレーストラック型形状、楕円型形状の側面図の一例を示す。また、
図8に上記鞍型形状の斜視図の一例を示す。
これにより、円形コイルを用いた場合に比べてコイル軸の水平位置を磁場発生装置の筐体の端に偏らせて配置することが可能となる。すなわち、形状として、円形コイルに比べて高さが低いコイルとなるため、筐体の端側(上端側や下端側)に寄せやすく、そのため、コイル軸の水平位置をより高く、あるいはより低く設定することができる。特許文献4に示されるように、コイル軸の水平位置を変更することによって酸素濃度を制御することが可能であるが、特に、コイル軸の水平位置を高くしておけば、低酸素濃度の単結晶を製造する場合に有利である。
【0039】
鞍型形状の主コイルのより具体的な一形態として、例えば、引き上げ炉の外形に沿った形状の曲率に対する上記鞍型形状の主コイルの曲率の比(曲率比)が1.2以上2.0以下のものが挙げられる。すなわち、引き上げ炉の外径に沿った形状の曲率を1としたときに、コイルの肉厚中心で1.2以上2.0以下の曲率を有するものである。このような鞍型形状であれば、さらに低酸素濃度の単結晶製造が可能となる。
【0040】
図9は、コイル形状が鞍型で、主コイルの曲率を変化させたときの、Im:Is=1:0とした場合(すなわち、4つの主コイルのみ通電した場合)のB⊥分布を周角度に対してプロットしたものだが、引き上げ炉の外形に沿った形状を基準として、そこから曲率比を大きくしていくと、各コイルの中心領域付近に相当する125°と235°付近のB⊥が緩和されていることがわかる。本発明の磁場分布であれば、X軸に平行な断面と垂直な断面における対流抑制力の差は従来の水平磁場に比べて小さくはなっているが、それでも全周で4か所あるこの角度領域(主コイルにおけるコイル軸付近の角度領域)では特に坩堝に直交する磁束密度成分が強いことから、ルツボ壁近傍における酸素の拡散境界層が薄くなるために、他の角度領域に比べて石英ルツボから酸素が溶解しやすくなっている。コイルから離れた場所の磁束密度はコイルまでの距離の2乗に反比例することから、コイルの曲率を大きくすることでこれらの角度領域における磁束密度を低下させることが可能である。上記曲率比の適正な範囲としては、、コイル軸付近の角度領域における磁束密度の低下の効果のため1.2以上が良く、またコイルを収める筐体の外形が大きくなりすぎるのを防いだり、中心磁場強度が低下して最大磁場強度の低下を招いてしまうのを防ぐことから、2.0以下が好ましい。
【0041】
また、
図1に示すように、磁場発生装置30は、鉛直方向に上下移動可能な昇降装置31を具備したものとすることができる。例えば磁場発生装置30は昇降装置31の上に設置されているものであることが好ましい。例として、上記のようにコイル形状を円形以外にしてコイル軸の水平高さを高くした場合は、低酸素濃度の結晶製造には適するものの、酸素濃度を高くすることは難しくなる。そこで磁場発生装置を昇降装置により上下に移動できるようにすれば、狙いの酸素濃度によって最適なコイル軸の水平高さを選択することができ、対応可能な品種の幅を拡大できる。
【0042】
次に、
図1を参照しながら、本発明の単結晶引き上げ方法の実施態様の一例を説明する。本発明の単結晶引き上げ方法は、上記で説明した
図1の単結晶引き上げ装置を用いて、シリコン単結晶等の半導体単結晶を引き上げるものである。
具体的には、以下のようにして半導体単結晶を引き上げる。まず、単結晶引き上げ装置10において、石英坩堝6内に半導体原料を入れて加熱ヒーター8により加熱し、半導体原料を溶融させる。次に、超電導コイル4a~4fへの通電により、融液5に磁場発生装置30によって発生させた水平磁場を印加して、融液5の石英坩堝6内での対流を抑制する。
前述したように、磁場発生装置30としては、
図2に示すように、それぞれ対向配置された超電導コイルの対4a~4dをそれぞれのコイル軸12が同じ水平面内に含まれるように2組設けている。そして、コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを100°以上120°以下とする主コイル4m(4a~4d)を配置し、さらに、副コイル4sとしてコイル軸がX軸と一致するように1組の超電導コイルの対(4eと4f)を配置している。コイル形状については、
図2では円形としているが、
図8や
図10(3組のコイルの対の配置の一例を示す平面図)に示す鞍型や、
図7の楕円型、
図6のレーストラック型等の形状としてもよい。また、磁場発生装置30は昇降装置31の上に載せて上下方向に動かせるようにしてもよい。上記のようにコイル形状を変更したり、昇降装置を用いたりすることでコイル軸の水平高さを調節できるので、製造できる酸素濃度の範囲をより広げることができる。
【0043】
主コイルと副コイルの電流値、および磁場発生装置のコイル軸の水平高さは、製造する単結晶の狙いとする酸素濃度やgrown-in欠陥領域によって変更することができる。例えば、酸素濃度4×1017atoms/cm3(old ASTM)以下の低酸素濃度の結晶を引き上げる場合には、主コイルに対する副コイルの電流比Is/Imを0~0.25程度の小さい比率とすれば、製造することが可能である。このとき、コイル軸の水平高さをできるだけ高くして融液面付近に近づける条件とすることで、より酸素濃度を下げやすくなる。
【0044】
なお、低酸素濃度の無欠陥領域単結晶を製造する場合には、例えば、副コイルの電流比をある程度高くする(例えばIs/Im=0.5等)か、あるいは電流比0~0.25のままで中心磁束密度を高くすることで、従来技術に比べて育成速度の高速化が可能である。ただし、欠陥領域の指定がない場合に比べると、前記条件変更を行うことで製造可能な酸素濃度の下限は多少増加することとなる。
【0045】
一方、酸素濃度8×1017atoms/cm3以上の酸素濃度の結晶を無欠陥領域単結晶として引き上げる場合は、例えば、副コイルの電流比Is/Imが0.5以上となるように副コイル比率を大きくし、中心磁束密度を例えば2000G以上と高くすることで、無欠陥領域単結晶となる成長速度が速い条件で製造が可能となる。このとき、コイル軸の水平高さを融液面から下方に遠ざける条件とすることで、より高酸素濃度の結晶製造が容易となる。
【0046】
上記のように、製造する単結晶の狙い酸素濃度やgrown-in欠陥領域によって適したコイル電流値や磁場高さを設定したら、次に、融液5中に種結晶2を、例えば石英坩堝6の中央部上方から下降させて静かに挿入し、引き上げ機構(不図示)により種結晶2を回転させながら、所定の速度で引き上げ方向に引上げていく。これにより、固体・液体境界層に単結晶が成長し、半導体単結晶3が生成される。
このような単結晶引き上げ方法であれば、無欠陥領域単結晶を高い引き上げ速度で製造したり、低酸素濃度を含む様々な酸素濃度範囲の単結晶を製造したりすることが1台の装置で可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示す単結晶引き上げ装置10において、磁場発生装置30として
図2に示す構造の3組の円形コイルの対(主コイルとして、4aと4cの対と、4bと4dの対。副コイルとして、4eと4fの対)を使用し、X軸を挟むコイル軸間の中心角度αを120°とした磁場発生装置を用いる構成とした。このような単結晶引き上げ装置を用いて、以下に示す条件で、シリコン単結晶の引き上げを行った。このときの狙い酸素濃度は9×10
17atoms/cm
3とした。
使用坩堝 :直径800mm
半導体原料のチャージ量 :400kg
育成する単結晶 :直径306mm
中心磁束密度 :2000G
コイル電流比(主:副) :1:1
単結晶回転速度 :11rpm
坩堝回転速度 :0.5rpm
コイル軸の水平高さ :融液面の200mm下方
このようにして育成した半導体単結晶において、無欠陥領域単結晶となる成長速度を求めた。その結果の相対値を
図11に示す。
【0048】
(比較例1)
図14に示す2組の円形コイルの対(204aと204cの対と、204bと204dの対)で、X軸を挟むコイル軸間の中心角度αを120°とした磁場発生装置を使用した以外は、実施例1と同じ構成の単結晶引き上げ装置を用いて、実施例1と同一条件にてシリコン単結晶の引き上げを行った。この条件に関して、比較例1ではコイルは上記のように2組の対であり、主と副の区別はなく、その2組の対で中心磁束密度が実施例1と同様に2000Gとなるようにした。
育成したシリコン単結晶において無欠陥領域単結晶となる成長速度の相対値を
図11に示す。
【0049】
上記のように本発明における単結晶引き上げ装置を用いた実施例1と、従来の単結晶引き上げ装置を用いた比較例1の結果を比較したところ、
図11の通り、比較例1では実施例1に比較して無欠陥領域単結晶となる成長速度は5.4%低かった。このように本発明の装置を用いれば、
図14の2組のコイルの対だけの従来構成のものを用いた場合に比べ、酸素濃度が通常レベルの無欠陥領域単結晶の引き上げをより高速で行うことができ、生産性を向上させることができることが分かる。
【0050】
(実施例2)
実施例1の磁場発生装置を使用し、以下に示す条件以外は実施例1と同じ条件にて、シリコン単結晶の引き上げを行った。
中心磁束密度 :1000G
コイル電流比(主:副) :1:0.25
坩堝回転速度 :0.03rpm
コイル軸の水平高さ :融液面の120mm下方
育成したシリコン単結晶の酸素濃度を調査したところ、3.2~3.9×1017atoms/cm3となった。
【0051】
(実施例3)
コイル電流比(主:副)を1:1にしたこと以外は実施例2と同一条件にてシリコン単結晶の引き上げを行った。
育成したシリコン単結晶の酸素濃度を調査したところ、4.0~4.9×1017atoms/cm3となった。
【0052】
実施例2と実施例3を比較すると、実施例2では実施例3に比較して酸素濃度の低いシリコン単結晶を得ることができた。主コイルと副コイルの電流値の独立設定により、それらの比を適宜設定するだけで、実施例3のようなやや低い程度のレベルの酸素濃度の単結晶のみならず、実施例2のように4.0×1017atoms/cm3未満という、さらに低酸素濃度の単結晶を得ることもできる。このように本発明の単結晶引き上げ装置および引き上げ方法により、種々のレベルの酸素濃度の単結晶を簡便に引き上げることが可能である。
【0053】
(実施例4)
図10に示す3組の鞍型コイルの対で、X軸を挟むコイル軸間の中心角度αを120°とした磁場発生装置を使用し、コイル軸の水平高さを融液面と同じ高さに設定し、その他の条件は実施例2と同一にしてシリコン単結晶の引き上げを行った。
育成したシリコン単結晶の酸素濃度を調査したところ、2.5~3.2×10
17atoms/cm
3となり、鞍型コイルを用いてコイル軸の水平高さを上昇させることで、実施例2よりも、さらに酸素濃度の低いシリコン単結晶が得られた。
【0054】
(実施例5)
図12に、コイル形状が鞍型の、3組のコイルの対の配置の一例を示す。より具体的には、主コイルが引き上げ炉の外形に沿った形状よりも大きい曲率で湾曲しており(曲率比1.8)、副コイルが引き上げ炉の外形に沿った形状で湾曲している態様である。このような
図12に示す3組の鞍型コイルの対を有する磁場発生装置を使用し、以下に示す条件以外は実施例4と同じ条件にて、シリコン単結晶の引き上げを行った。
育成したシリコン単結晶の酸素濃度を調査したところ、2.2~3.0×10
17atoms/cm
3となり、曲率の大きい鞍型コイルを用いてコイル軸の水平高さを上昇させることで、実施例4よりも、さらに酸素濃度の低いシリコン単結晶が得られた。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0056】
1…引き上げ炉、 2…種結晶、 3…単結晶、 4a~4f…超電導コイル、
4m…主コイル、 4s…副コイル、 5…半導体原料(融液)、
6…坩堝、 7…磁力線、 8…加熱ヒーター、 9…中心軸、
10…本発明の単結晶引き上げ装置、 11…コイル軸を含む水平面、
12…コイル軸、 30…磁場発生装置、 31…昇降装置。