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特許7528870ウェーハマーキング方法及び窒化物半導体デバイスの製造方法並びに窒化物半導体基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ウェーハマーキング方法及び窒化物半導体デバイスの製造方法並びに窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240730BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240730BHJP
【FI】
H01L21/66 A
B23K26/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021095592
(22)【出願日】2021-06-08
(65)【公開番号】P2022187552
(43)【公開日】2022-12-20
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正三郎
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-101305(JP,A)
【文献】特開2009-021572(JP,A)
【文献】特開2011-258683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板の欠陥部分にレーザーを用いてレーザーマークを施すウェーハのマーキング方法であって、
前記欠陥部分にGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長である365nmの±10%以内の波長のレーザーを照射することで、前記GaN層の表面と前記単結晶シリコン基板表面に同時にマーキングを行うことを特徴とするウェーハマーキング方法。
【請求項2】
前記マーキングを行うレーザーの波長を、365nmの±5%以内とすることを特徴とする請求項1に記載のウェーハマーキング方法。
【請求項3】
前記窒化物半導体層を、前記GaN層に加えてAlN層及びAlGaN層を含むものとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウェーハマーキング方法。
【請求項4】
窒化物半導体基板上に窒化物半導体デバイスを製造する方法であって、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のウェーハマーキング方法によって前記窒化物半導体基板に前記レーザーマークを施す工程と、
該レーザーマークが施された窒化物半導体基板上に複数の窒化物半導体デバイスを作製する工程と、
前記複数の窒化物半導体デバイスが作製された窒化物半導体基板に対し、電気特性評価を行い、リークパス部を検出することで、前記欠陥部分を有する窒化物半導体デバイスを除去する工程と
を含むことを特徴とする窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項5】
単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層からなるエピタキシャル層を有する窒化物半導体基板の欠陥部分にレーザーマークが施された窒化物半導体基板であって、
前記レーザーマークが前記GaN層の表面と前記単結晶シリコン基板の表面の面内の同一位置に施されており、該単結晶シリコン基板のレーザーマークが施された箇所において、リークパス部が形成されているものであることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項6】
窒化物半導体基板上に窒化物半導体デバイスを製造する方法であって、
請求項5に記載の窒化物半導体基板上に複数の窒化物半導体デバイスを作製する工程と、
前記複数の窒化物半導体デバイスが作製された窒化物半導体基板に対し、電気特性評価を行い、前記リークパス部を検出することで、前記欠陥部分を有する窒化物半導体デバイスを除去する工程と
を含むことを特徴とする窒化物半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハマーキング方法及び窒化物半導体デバイスの製造方法に関し、また、窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN等の窒化物半導体をデバイス作製用の層とした半導体基板として、単結晶シリコン基板上に窒化物半導体層をエピタキシャル成長(ヘテロエピタキシャル成長)させた窒化物半導体基板(以下、このような構造を有するヘテロエピタキシャル基板を、単に「窒化物半導体基板」とも称する。)がある。
【0003】
単結晶シリコン基板上にGaNのエピタキシャル成長を行うと、ピラミッド状の欠陥(以降では、「ピラミッド欠陥」と称する。実態はバンプであり、通常、高さ100~200nm、直径200~300μmである。)が発生することがある。図1にはピラミッド欠陥の光学顕微鏡写真を示した。図2には、ピラミッド欠陥の断面形状を示した。図2中のグラフは、図2中の右上の画像の破線部分をスキャンした高さプロファイルを示している。窒化物半導体基板の表面上にピラミッド欠陥が存在すると、デバイスメーカー等でのデバイス作製プロセスにおいて、フォトリソグラフィー工程でデフォーカスになり、デバイス作製後、デバイスの信頼性が保証できないため、ピラミッド欠陥部分に作製したデバイスは不良となってしまう。
【0004】
また、単結晶シリコン基板上にGaNのエピタキシャル成長させる際に通常形成するバッファ層では、バッファ層が成長中に割れてできる内部クラック(図3参照)が存在した場合も同様にその箇所に作製したデバイスが不良となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-142541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの問題の対策として、窒化物半導体基板上のピラミッド欠陥及び内部クラック等の欠陥が存在する箇所(欠陥部分)にレーザーによるマーキングを行うことが挙げられる。このようなレーザーマーキングにより、デバイス作製プロセスの工程にて、欠陥部分を有するチップ(窒化物半導体デバイス)を除去することができ、不良チップが市場に流出するのを防止することができると考えられた。
【0007】
窒化物半導体基板に限らない、一般的な半導体ウェーハに対するレーザーマーキングの例として、特許文献1には、パーティクルカウンタにより検出したパーティクルの周辺にレーザーマーカによりマークを付すことが記載されている。
【0008】
ところで、一般的に半導体にレーザーマークをする場合、半導体のバンドギャップよりエネルギーの大きい波長(波長は短い)のレーザーを照射する必要がある。但し、半導体のバンドギャップよりエネルギーの大きい波長のレーザーの場合、表面を溶融するだけで、エピタキシャル層自体に電気測定時に検出するリークパスを作製することができないため、電気特性評価によって欠陥を有するチップを除去することができない。
【0009】
また、半導体のバンドギャップよりエネルギーの小さい波長(波長は長い)のレーザーを照射すると、半導体は透明体とみなされレーザー光が透過して、下地の基板に到達し、その基板が熱せられ溶融し、気化したガスが表層のエピタキシャル層を破裂(爆発、爆裂)させ、マーキング周辺にヒュームを飛び散らかしてしまうといった問題があった。図4にGaNに対するレーザー光の波長と透過率の関係を示す。また、図5にAlNに対するレーザー光の波長と透過率の関係を示す。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板における欠陥部分に対してレーザーマーキングする際に、GaN層表面及び単結晶シリコン基板表面に同時にマーキングすることができるレーザーマーキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板の欠陥部分にレーザーを用いてレーザーマークを施すウェーハのマーキング方法であって、前記欠陥部分にGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長である365nmの±10%以内の波長のレーザーを照射することで、前記GaN層の表面と前記単結晶シリコン基板表面に同時にマーキングを行うことを特徴とするウェーハマーキング方法を提供する。
【0012】
このような本発明のウェーハマーキング方法では、欠陥部分にGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長である365nmの±10%以内の波長(すなわち、328.5~401.5nm)のレーザーを照射することで、GaN層の表面と単結晶シリコン基板表面(窒化物半導体層との界面)に同時にマーキングを行うことができる。このように、単結晶シリコン基板表面にもマーキングすることで、界面近傍にリークパスを形成することができる。このようなリークパスを形成することで電気特性評価により、欠陥部分を検出することができる。
【0013】
このとき、前記マーキングを行うレーザーの波長を、365nmの±5%以内とすることが好ましい。
【0014】
このような、よりGaNのバンドギャップエネルギーに近い範囲の波長のレーザーを照射することにより、より確実にGaN層の表面と単結晶シリコン基板表面に同時にマーキングを行うことができる。
【0015】
また、本発明のウェーハマーキング方法では、前記窒化物半導体層を、前記GaN層に加えてAlN層及びAlGaN層を含むものとすることができる。
【0016】
AlNやAlGaNは、GaNよりバンドギャップエネルギーが大きいのでGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長のレーザーはAlN層やAlGaN層を透過して、単結晶シリコン表面及びその近傍を溶融させることができる。そのため、本発明は、窒化物半導体層がGaN層だけでなくAlN層及びAlGaN層を含むものにも適用することができる。
【0017】
また、本発明は、窒化物半導体基板上に窒化物半導体デバイスを製造する方法であって、上記のウェーハマーキング方法によって前記窒化物半導体基板に前記レーザーマークを施す工程と、該レーザーマークが施された窒化物半導体基板上に複数の窒化物半導体デバイスを作製する工程と、前記複数の窒化物半導体デバイスが作製された窒化物半導体基板に対し、電気特性評価を行い、リークパス部を検出することで、前記欠陥部分を有する窒化物半導体デバイスを除去する工程とを含むことを特徴とする窒化物半導体デバイスの製造方法を提供する。
【0018】
上記の通り本発明のウェーハマーキング方法により単結晶シリコン基板の表面近傍にリークパスを形成することができるので、本発明の窒化物半導体デバイスの製造方法では、電気特性評価によって、欠陥部分を検出することができる。
【0019】
また、本発明は、単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層からなるエピタキシャル層を有する窒化物半導体基板の欠陥部分にレーザーマークが施された窒化物半導体基板であって、前記レーザーマークが前記GaN層の表面と前記単結晶シリコン基板の表面の面内の同一位置に施されており、該単結晶シリコン基板のレーザーマークが施された箇所において、リークパス部が形成されているものであることを特徴とする窒化物半導体基板を提供する。
【0020】
このような窒化物半導体基板であれば、レーザーマークがGaN層の表面と単結晶シリコン基板表面の面内の同一位置に施されており、マーキングされた単結晶シリコン表面近傍にリークパスが形成されている。そのため、デバイス作製プロセスにおいて、電気特性評価により容易に欠陥部分を有するチップを除去することができる。
【0021】
また、本発明は、窒化物半導体基板上に窒化物半導体デバイスを製造する方法であって、上記の窒化物半導体基板上に複数の窒化物半導体デバイスを作製する工程と、前記複数の窒化物半導体デバイスが作製された窒化物半導体基板に対し、電気特性評価を行い、前記リークパス部を検出することで、前記欠陥部分を有する窒化物半導体デバイスを除去する工程とを含むことを特徴とする窒化物半導体デバイスの製造方法を提供する。
【0022】
このように、電気特性評価により、リークパス部を検出することで欠陥部分を有するチップを除去することで極めて迅速に不良チップを除去することができるため、窒化物半導体デバイスの生産性とコスト面で有利な窒化物半導体デバイスの製造方法となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のウェーハマーキング方法では、欠陥部分にGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長である365nmの±10%以内の波長のレーザーを照射することで、GaN層の表面と単結晶シリコン基板表面(窒化物半導体層との界面)に同時にマーキングを行うことができる。このように、単結晶シリコン基板表面にもマーキングすることで、界面近傍にリークパスを形成することができる。これにより、レーザーマークがGaN層の表面と単結晶シリコン基板表面の面内の同一位置に施されている窒化物半導体基板とすることができる。また、このようにマーキングされた単結晶シリコンの表面近傍にリークパスを形成することができる。このようなリークパスを形成することで、電気特性評価により、欠陥部分を検出することができる。また、これにより、窒化物半導体デバイスの作製プロセスにおいて、極めて迅速に不良チップを除去することができるため、窒化物半導体デバイスの生産性とコスト面で有利な窒化物半導体デバイスの製造方法となる。また、このような波長のレーザーを用いることにより、レーザーマーキング時の破裂等が抑制され、ヒュームの発生等が抑えられるため、表面を清浄に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ピラミッド欠陥の光学顕微鏡写真である。
図2】ピラミッド欠陥の光学顕微鏡写真と、ピラミッド欠陥の断面形状の測定結果を示すグラフである。
図3】バッファ層が成長中に割れてできる内部クラックを示す光学顕微鏡写真である。
図4】GaNに対するレーザー光の波長と透過率の関係を示すグラフである。
図5】AlNに対するレーザー光の波長と透過率の関係を示すグラフである。
図6】実施例において形成したレーザーマークの光学顕微鏡観察写真である。
図7】実施例において形成したレーザーマークの断面TEM画像である。
図8】本発明のレーザーマークを行うことができる窒化物半導体ウェーハの一例を示す概略断面図である。
図9】本発明のレーザーマークを行うことができる窒化物半導体ウェーハの別の一例を示す概略断面図である。
図10】比較例1において形成したレーザーマークの光学顕微鏡観察写真である。
図11】比較例1において形成したレーザーマークの断面TEM画像である。
図12】比較例2においてピラミッド欠陥周辺に形成したレーザーマークの光学顕微鏡観察写真である。
図13】比較例2においてクラック周辺に形成したレーザーマークの光学顕微鏡観察写真である。
図14】比較例2において形成したレーザーマークの断面TEM画像である。
図15】比較例3において形成したレーザーマークの光学顕微鏡観察写真である。
図16】実施例において形成したレーザーマークの箇所における電気特性評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前述のように単結晶シリコン基板上にGaNのエピタキシャル成長を行うと、ピラミッド状の欠陥が発生することがあった。このようなピラミッド欠陥があると、デバイス作製プロセスにおいて、フォトリソグラフィー工程でデフォーカスになり、デバイス作製後の信頼性が保証できないため、不良となってしまう。
【0026】
また、単結晶シリコン基板上にGaNのエピタキシャル成長させる際に通常形成するバッファ層について、バッファ層が成長中に割れてできる内部クラックが存在した場合も同様に不良となってしまう。
【0027】
その対策として、ピラミッド欠陥及び内部クラック等の欠陥部分にレーザーによるマーキングを行うことで、デバイスメーカー等におけるデバイス作製工程にて、欠陥部分を有するチップを除去し、不良チップが市場に流出するのを防止することができる。
【0028】
一般的に半導体にレーザーマークをする場合、半導体のバンドギャップよりエネルギーの大きい波長のレーザーでマーキングを行う。従って、一般的には、単結晶シリコン基板上にGaNを含む窒化物半導体をエピタキシャル成長させた基板では、GaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長は365nmなので、例えば266nmといったエネルギーの大きな波長のレーザーを照射してマーキングを行う。その場合、GaN表面で吸収・溶融されマーキングが行われる。しかしながら、このような場合、リークパスが形成されていないのでデバイス製造工程で欠陥部分を有するチップを除去する際、電気特性評価により除去することができない。
【0029】
また、GaNのバンドギャップよりエネルギーの小さい波長のレーザーを照射した場合には、窒化物半導体は透過して単結晶シリコン基板で吸収・溶融され、窒化物半導体表面はマーキングされない。
【0030】
本発明者らが、欠陥部分にマーキングすると同時にデバイス工程において電気特性評価によって欠陥部分を有するチップを除去できるウェーハマーキング方法について検討を重ねたところ、欠陥部分にGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長の±10%以内(365nmの±10%以内)の波長のレーザーを照射することで、GaN層の表面と単結晶シリコン基板表面に同時にマーキングを行うことができ、単結晶シリコン基板表面近傍にリークパスが形成されるため、電気特性評価によって欠陥部分を有するチップを除去できることが判り、本発明を完成させた。
【0031】
以下、本発明のウェーハマーキング方法について図面を参照して説明する。なお、以下の窒化物半導体基板の構造は一例であって、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明は、単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板の欠陥部分にレーザーを用いてレーザーマークを施すウェーハのマーキング方法であって、前記欠陥部分にGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長である365nmの±10%以内の波長のレーザーを照射することで、前記GaN層の表面と前記単結晶シリコン基板表面に同時にマーキングを行うことを特徴とするウェーハマーキング方法である。
【0033】
また、本発明のウェーハマーキング方法によって、欠陥部分にレーザーマークが施された窒化物半導体基板を作製することができる。すなわち、この窒化物半導体基板は、単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層からなるエピタキシャル層を有する窒化物半導体基板の欠陥部分にレーザーマークが施された窒化物半導体基板であって、レーザーマークがGaN層の表面と単結晶シリコン基板の表面の面内の同一位置に施されている。さらに、該単結晶シリコン基板のレーザーマークが施された箇所において、リークパス部が形成されているものである。
【0034】
上記のように、本発明のレーザーマーキング方法の対象は、単結晶シリコン基板上に少なくともGaN層を含む窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板である。本発明のレーザーマーキング方法の対象となる窒化物半導体基板には、窒化物半導体層として、GaN層だけでなく、AlN層を含んでいたり、AlGaN層を含んでいたりしてもよい。特に、本発明は、GaN層に加えてAlN層及びAlGaN層を含む窒化物半導体層を有する窒化物半導体基板に対しても適用することができる。
【0035】
図8及び図9に本発明のレーザーマークを行うことができる窒化物半導体基板の例を示す。図8は単結晶シリコン基板上に中間層としてAlGaN層をAlの組成を例えば50%、25%、10%と徐々に下げる傾斜バッファ構造で形成し、その上にデバイス層としてGaN層、AlGaN層、GaN層を順に形成する。図9は中間層がGaN層とAlGaN層またはAlN層とAlGaN層が交互に積層させた超格子構造(SLs)若しくは間欠超格子バッファ構造となっている。
【0036】
このような単結晶シリコン基板上にGaN層を含む窒化物半導体がエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板のピラミッド欠陥或いはクラック等の欠陥を顕微鏡等により検出し、欠陥の近傍にレーザーを照射してマーキングを行う。このレーザー波長は、365nm±10%以内の波長(すなわち、328.5~401.5nm)とする。また、好ましくは365nm±5%以内(すなわち、346.75~383.25nm)の波長とする。このような波長のレーザーを照射することで、後述の実施例における図6及び図7(a)(b)に示すようにGaN層の表面と単結晶シリコン基板表面に同時にマーキングを行うことができる。このように、単結晶シリコン基板の表面(窒化物半導体層との界面)にマーキングすることで界面近傍にリークパスを形成することができる。リークパスを形成することで電気特性評価により、欠陥部分を検出することができる。したがって、デバイス製造工程で不良チップを容易に除去することができるため、窒化物半導体デバイスの生産性を向上させ、コストを低減することができる。
【0037】
すなわち、窒化物半導体基板上に窒化物半導体デバイスを製造する方法では、まず、本発明のウェーハマーキング方法によって、窒化物半導体基板の欠陥部分にレーザーマークを施す。次に、デバイスメーカー等におけるデバイス作製プロセスにおいて、このようにレーザーマークが施された窒化物半導体基板上に複数の窒化物半導体デバイスを作製する。このような複数の窒化物半導体デバイスが作製された窒化物半導体基板に対し、電気特性評価を行ってリークパス部を検出することで、欠陥部分を有する窒化物半導体デバイスを迅速かつ容易に発見することができ、不良となる窒化物半導体デバイスを除外することができる。
【0038】
なお、365nmの波長とは、上記のように、GaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長である。AlNやAlGaNは、GaNよりバンドギャップエネルギーが大きいのでGaNのバンドギャップエネルギーに相当する波長のレーザーはAlN層やAlGaN層を透過して、単結晶シリコン表面及びその近傍を溶融させることができる。そのため、本発明は、窒化物半導体層がGaN層だけでなくAlN層及びAlGaN層を含むものにも適用することができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0040】
(実施例)
図9に示すような単結晶シリコン基板上に全厚6.5μmの間欠バッファ層を有する窒化物半導体をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板を準備した。この窒化物半導体基板において表面に存在するピラミッド欠陥を光学顕微鏡を用いて検出し、その欠陥部分に対し、フォトニックインストゥルメンツ社製レーザーマーカーでGaNのバンドギャップと同じエネルギーの波長(吸収端365nm)のレーザーをGaN層表面に照射してマーキングを行った。
【0041】
その結果、基板表面を光学顕微鏡で観察した様子を図6に、また、断面のTEM画像を図7(a)に、更に断面の詳細な画像を図7(b)に示す。図7からわかるように、エピタキシャル層表面でレーザー光を吸収し、表面が溶融してピットになっており、転位はピットの最低部の下で止まっている。なお、表面にはヒュームによる飛散物はなかった。更にレーザー光はエピタキシャル層を透過し、単結晶シリコン基板とバッファ層との界面周辺を溶融し空隙が形成されている。バッファ層の下部から上部へ向けて白い空隙部2か所、右側の白い空隙部から上に転位が伸長して、GaN層で止まっている。その上、単結晶シリコン基板とバッファ層との界面周辺が溶融気化し、バッファ層の一部に亀裂が入り、リークパスが形成されていた。
【0042】
このようにしてマーキングしたウェーハをデバイスプロセス工程に流し、一辺300μmの四角形状の窒化物半導体デバイス(チップ)を作製(電極Al/Ti)して電気特性評価(縦耐圧測定)を行った。レーザーマーキングが行われ、該当したチップの特性は、図16の「レーザーマーク」に示すように、低電圧の所からリーク電流が生じ、電気特性評価にて、一目で不良品であることが確認できた。なお、レーザーマークのない通常の箇所は、図16の「通常」に示すように、リーク電流は生じていない。
【0043】
(比較例1)
まず、図9に示すような単結晶シリコン基板上に全厚6.5μmの間欠バッファ層を有する窒化物半導体をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板を準備した。タカノ社製レーザーマーカー(25mW)を用いてGaNのバンドギャップよりエネルギーの大きな266nmの波長のレーザーでエピタキシャル層表面に螺旋状に多数レーザー照射したこと以外は実施例と同様な条件でレーザーマーキングを行った。
【0044】
その結果、基板表面を光学顕微鏡で観察した様子を図10に、また、断面のTEM画像を図11に示す。GaNに対して266nmの波長は、透過率が極めて低い。そのため、図11から判るように、ウェーハ表面(GaN層の表面)で吸収し表面溶融されマーキングされた。シリコン基板表面にはレーザーマークは形成されなかった。また、レーザーマークの周辺へのヒュームの飛び散りがなく綺麗にマーキングできた。また、断面のTEM画像にて表面および断面観察すると、表面にシャローなピットが形成されているだけで、エピタキシャル層内部に際立った変化は観られなかった。
【0045】
また、実施例と同様に、マーキングしたウェーハをデバイスプロセス工程に流し、電気特性評価まで行った。その結果、単結晶シリコン基板のレーザーマークが施された箇所において、リークパス部は形成されておらず、電気特性評価では欠陥部分を有する窒化物半導体デバイスは検出できなかった。
【0046】
(比較例2)
まず、図9に示すような単結晶シリコン基板上に全厚6.5μmの間欠バッファ層を有する窒化物半導体をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板を準備した。フォトニックインストゥルメンツ社製レーザーマーカーを用いてGaNのバンドギャップよりエネルギーの小さい435nmの波長のレーザーでピラミッド欠陥周辺及びクラック周辺のエピタキシャル層表面にレーザー照射したこと以外は実施例と同様な条件でレーザーマーキングを行った。
【0047】
その結果、基板表面を光学顕微鏡で観察した様子を図12(画像中央がピラミッド欠陥である。)、図13(円周状のレーザーマークに囲まれた部分にクラックが見える。)に示す。また、断面のTEM画像を図14に示す。これらの図から判るようにGaNのバンドギャップよりエネルギーの小さい435nm波長のレーザーでは、エピタキシャル層表面には、溶融の痕跡はなくGaNの吸収端より長い波長の光は、物理原則通り透過し、単結晶シリコン基板がレーザー光を吸収・溶融され、空隙ができていた。GaN層表面にはマーキングはされなかった。図12図13で見えているレーザーマークは単結晶シリコン基板上のレーザーマークが透けているものである。
【0048】
(比較例3)
まず、図9に示すような単結晶シリコン基板上に全厚6.5μmの間欠バッファ層を有する窒化物半導体をエピタキシャル成長させた窒化物半導体基板を準備した。ミヤチテクノス社製レーザーマーカーを用いてGaNのバンドギャップよりエネルギーの小さな波長532nmレーザーでマーキングを行ったこと以外は実施例と同様な条件でレーザーマーキングを行った。
【0049】
その結果、図15に示すようにGaN層を透過し、単結晶シリコン基板の表面で吸収・溶融され蒸気圧により破裂を起こし、マーキングされた。この場合、マーキング周辺にフュームが飛散するのと、破裂時にエピタキシャル層が捲り上げられ、浮いたような状態になった。ヒュームなので、焼き付いて洗浄しても取れない。光学顕微鏡だけでマーキングの様子が観察できた。ヒュームの飛散はデバイス作製において問題となる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
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