(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ダイバーティングエージェント及びこれを用いた坑井の亀裂の閉塞方法
(51)【国際特許分類】
C09K 8/508 20060101AFI20240730BHJP
C09K 8/68 20060101ALI20240730BHJP
E21B 43/267 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C09K8/508
C09K8/68
E21B43/267
(21)【出願番号】P 2021529205
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026300
(87)【国際公開番号】W WO2021002471
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019124756
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】金森 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】平野 泰広
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/231236(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/026375(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031613(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131939(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/508
C09K 8/68
E21B 43/267
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径1,700μm以上の粒子を10~70質量%、粒子径500μm以上1,700μm未満の粒子を20~80質量%、及び粒子径250μm未満の粒子を5~40質量%含有し、
かつ10質量%以上が生分解性樹脂であるダイバーティングエージェント。
【請求項2】
前記ダイバーティングエージェント24gを、グアーガムの0.60質量%水溶液400mLに加えて23℃で60分間分散させ、ダイバーティングエージェント濃度が6質量%の分散液を得て、前記分散液を2mm幅のスリットを有する排水部を備えた加圧脱水装置を用いて0.4MPaの圧力で加圧脱水し、時間の平方根xに対する積算脱水量yを求め、横軸に前記時間の平方根xを、縦軸に前記積算脱水量yをとったグラフにプロットした散布図から最小二乗法により下記式(A)で表わされる回帰直線を算出したとき、下記式(A)の傾きaで表わされる透水係数が、0.0~4.0の範囲にある、請求項1に記載のダイバーティングエージェント。
y=ax+b ・・・(A)
(式(A)中、yは積算脱水量(g)、xは加圧開始から経過した時間(分)の平方根、a及びbは回帰直線の傾きと切片を表し、0<x≦2である。)
【請求項3】
前記生分解性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂を含む請求項1又は2に記載のダイバーティングエージェント。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が90モル%以上である、請求項3に記載のダイバーティングエージェント。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂が側鎖に一級水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂である、請求項3又は4に記載のダイバーティングエージェント。
【請求項6】
坑井に生成された亀裂を一時的に閉塞する方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載のダイバーティングエージェントを、坑井内の流体の流れに乗せて閉塞したい亀裂に流入させる坑井の亀裂の閉塞方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイバーティングエージェント(Diverting Agent)及びこれを用いた坑井の亀裂の閉塞方法に関し、更に詳しくは、水圧破砕法を用いる掘削工法の施工時に用いられるダイバーティングエージェント、及び該ダイバーティングエージェントを用いて坑井の亀裂を閉塞する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油やその他の地下資源の採取のために、地下の頁岩(シェール)層に高圧の水を注入して亀裂を生じさせる水圧破砕法が広く採用されている。水圧破砕法では、まず、ドリルで垂直に地下数千メートルの縦孔(垂直坑井)を掘削し、頁岩層に達したところで水平に直径十から数十センチメートルの横孔(水平坑井)を掘削する。垂直坑井と水平坑井内を流体で満たし、この流体を加圧することにより、坑井から亀裂(フラクチャ、fracture)を生成させ、かかる亀裂から頁岩層にある天然ガスや石油(シェールガス・オイル)等が流出してくるので、それを回収する。このような手法によれば、亀裂の生成により、坑井の資源流入断面が増大し、効率よく地下資源の採取を行うことができる。
【0003】
上記の水圧破砕法においては、流体加圧による亀裂の生成に先立って、水平坑井中でパーフォレーション(Perforation)と呼ばれる予備爆破が行われる。このような予備爆破により、坑井から生産層に穿孔を開ける。この後、この坑井内にフラクチュアリング流体を圧入することにより、これら穿孔に流体が流入し、これら穿孔に負荷が加えられることにより、これら穿孔に亀裂が生じ、資源の採取に好適な大きさの亀裂に成長していくこととなる。
【0004】
水圧破砕法では、既に生成している亀裂をより大きく成長させたり、さらに多くの亀裂を生成させたりするために、既に生成している亀裂の一部をダイバーティングエージェントと呼ばれる添加剤を用いて一時的に塞ぐことがなされる。亀裂の一部をダイバーティングエージェントで一時的に閉塞し、この状態で坑井内に充填されたフラクチュアリング流体を加圧することにより、他の亀裂内に流体が浸入していき、これにより、他の亀裂を大きく成長させるあるいは新たな亀裂を発生させることができる。
【0005】
ダイバーティングエージェントは、上記したように亀裂を一時的に閉塞するために用いられるものであるので、一定期間はその形状を維持でき、天然ガスや石油等を採取する際には加水分解して消失するものが使用される。例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸等の加水分解性樹脂をダイバーティングエージェントとして使用する技術が種々提案されている。
【0006】
特許文献1では、生分解性脂肪族ポリエステル系樹脂の中でも生分解性の高いポリグリコール酸を含有する坑井掘削用一時目止め剤が提案されている。
また、特許文献2では、生分解性樹脂であるポリ乳酸の粒子からなり、目開き500μmの篩にかけた際にパスしない粒子が50質量%以上、且つ、51度以上の安息角を有する粉体が提案されている。
そして、特許文献3では、ポリ乳酸中に該ポリ乳酸の加水分解性を調整するための生分解性の高いポリオキサレートの微細粒子が分布している分散構造を有している加水分解性粒子であって、平均粒径(D50)が300~1000μmの範囲にあり、短径/長径比が0.8以上の真円度を有する加水分解性粒子が提案されている。
そしてまた、特許文献4では、平均粒径(D50)が300~1000μmの範囲にあり、短径/長径比が0.8以上の真円度を有しているポリオキサレート粒子が提案されている。
【0007】
また、水溶性かつ生分解性樹脂であるポリビニルアルコール系樹脂の新たな利用として、本出願人は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するダイバーティングエージェントを開発し、提案している(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/072317号
【文献】日本国特開2016-056272号公報
【文献】日本国特開2016-147971号公報
【文献】日本国特開2016-147972号公報
【文献】国際公開第2019/031613号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水圧破砕法で亀裂を大きく成長させたり新たな亀裂を発生させたりするには、既に生成している亀裂を隙間なく塞ぐことが必要であり、亀裂の閉塞性が高いダイバーティングエージェントの更なる改良が求められていた。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、水への溶解性を備えて一定時間経過後は速やかに除去でき、坑井の亀裂に対する閉塞性に優れるダイバーティングエージェントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の粒径分布をもち、かつ生分解性樹脂を特定量以上含有するダイバーティングエージェントにより、上記の課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の(1)~(6)を特徴とする。
(1)粒子径1,700μm以上の粒子を10~70質量%、粒子径500μm以上1,700μm未満の粒子を20~80質量%、及び粒子径250μm未満の粒子を5~40質量%含有し、かつ10質量%以上が生分解性樹脂であるダイバーティングエージェント。
(2)前記ダイバーティングエージェント24gを、グアーガムの0.60質量%水溶液400mLに加えて23℃で60分間分散させ、ダイバーティングエージェント濃度が6質量%の分散液を得て、前記分散液を2mm幅のスリットを有する排水部を備えた加圧脱水装置を用いて0.4MPaの圧力で加圧脱水し、時間の平方根xに対する積算脱水量yを求め、横軸に前記時間の平方根xを、縦軸に前記積算脱水量yをとったグラフにプロットした散布図から最小二乗法により下記式(A)で表わされる回帰直線を算出したとき、下記式(A)の傾きaで表わされる透水係数が、0.0~4.0の範囲にある、前記(1)に記載のダイバーティングエージェント。
y=ax+b ・・・(A)
(式(A)中、yは積算脱水量(g)、xは加圧開始から経過した時間(分)の平方根、a及びbは回帰直線の傾きと切片を表し、0<x≦2である。)
(3)前記生分解性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂を含む、前記(1)又は(2)に記載のダイバーティングエージェント。
(4)前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が90モル%以上である、前記(3)記載のダイバーティングエージェント。
(5)前記ポリビニルアルコール系樹脂が側鎖に一級水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂である、前記(3)又は(4)に記載のダイバーティングエージェント。
(6)坑井に生成された亀裂を一時的に閉塞する方法であって、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載のダイバーティングエージェントを、坑井内の流体の流れに乗せて閉塞したい亀裂に流入させる坑井の亀裂の閉塞方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のダイバーティングエージェントは、特定量以上の生分解性樹脂粒子を含有し、また、特定の粒径分布をもつため、対象間隙への閉塞性に優れ、天然ガスや石油等の掘削作業で行われる水圧破砕法に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施形態の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
なお、用語「ポリビニルアルコール」は、単に「PVA」ということがある。
また、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0015】
また、本明細書において、(メタ)アリルとはアリル又はメタリル、(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートをそれぞれ意味する。
【0016】
本発明のダイバーティングエージェントは、粒子径1,700μm以上の粒子を10~70質量%、粒子径500μm以上1,700μm未満の粒子を20~80質量%、及び粒子径250μm未満の粒子を5~40質量%含有する粒子混合物であり、かつ全体の10質量%以上が生分解性樹脂である。
【0017】
本発明で使用される粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球状、粉末状、楕円球状、円柱状(ペレット)、板状、立方体状、直方体状、角柱状、多角面体状等が挙げられる。本発明の効果がより高まるという観点から、形状の異なる粒子を組み合わせて用いることが好ましく、例えば、円柱状粒子と粉体とを組み合わせた混合物であることが好ましい。
【0018】
円柱状(ペレット)粒子を用いる場合、その平均粒子径は、軸方向と直交する断面の直径が500μm~5.0mmであることが好ましく、より好ましくは1.0mm~4.0mm、更に好ましくは1.85mm~3.0mmであり、厚み(軸方向の長さ)が500μm~5.0mmであることが好ましく、より好ましくは1.0mm~4.0mm、更に好ましくは1.85mm~3.0mmである。
球状粒子を用いる場合、粉末状とすることが好ましく、その平均粒子径は、10μm~2000μmであり、好ましくは100μm~1500μmである。
【0019】
なお、各粒径範囲の質量、平均粒子径は、乾式ふるい分け試験方法(JIS Z 8815:1994参考)の方法により測定することができる。本明細書において、粒子径とは、乾式ふるい分け試験方法で粒径別の体積分布を測定し、積算値(累積分布)が50%になる粒子径のことである。
【0020】
ダイバーティングエージェントの粒子径を測定する際、包装袋の中などで粒子が不均一化している場合は、包装袋中の異なる10以上の場所から測定試料を採取し、それぞれの粒子径を求め、得られた測定値を平均する。
【0021】
粒子の種類としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂ともいう。)、ポリグリコール酸系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、その他脂肪族ポリエステル系樹脂等の生分解性樹脂;砂、炭酸カルシウム、雲母、シリカ、アルミナ、石英、長石等の無機鉱物;鉄等の金属等が挙げられる。
【0022】
本発明では、ダイバーティングエージェントを粒子径1,700μm以上の粒子、粒子径500μm以上1,700μm未満の粒子、粒子径250μm以上500μm未満の粒子及び粒子径250μm未満の粒子に分けたときに、粒子径1,700μm以上の粒子(以下、粒子群Aともいう。)が10~70質量%の範囲、粒子径500μm以上1,700μm未満の粒子(以下、粒子群Bともいう。)が20~80質量%の範囲、及び粒子径250μm未満の粒子(以下、粒子群Cともいう。)が5~40質量%の範囲で含有されている。
粒子群Aの含有量が10~70質量%、粒子群Bの含有量が20~80質量%、且つ粒子群Cの含有量が5~40質量%であると、対象間隙において粒子径の大きい粒子群Aがブリッジを形成し、粒子群Bがブリッジ形成で縮小された隙間に詰まり、さらに縮小された隙間を粒子径の小さい粒子群Cが埋めるので、優れた閉塞性を発揮することができる。粒子混合物中、粒子群Aは20~50質量%、粒子群Bは25~60質量%、粒子群Cは10~30質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明のダイバーティングエージェントは、10質量%以上の生分解性樹脂を含有し、かかる含有量は20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上が特に好ましい。これにより対象間隙を閉塞し、一定時間が経過した後には閉塞状態が崩れ、再び流体の流通が可能となる。
【0024】
かかる生分解性樹脂としては、先に例示したものを用いることができ、使用する環境、例えば温度条件などに応じて、適宜、分解速度を調整したものを選定すればよい。
特に、低い温度条件(具体的に、40~60℃)での塞栓、および分解による塞栓解除が必要な場合には、生分解性であるとともに水溶性であるPVA系樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
かかるPVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系重合体をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位と未ケン化部分の酢酸ビニル構造単位を有するものである。
本発明では、PVA系樹脂としては、未変性PVA系樹脂の他に、ビニルエステル系樹脂の製造時に各種モノマーを共重合させ、これをケン化して得られる変性PVA系樹脂や、未変性PVA系樹脂に後変性によって各種官能基を導入した各種の後変性PVA系樹脂等が挙げられる。かかる変性は、PVA系樹脂の水溶性が失われない範囲で行うことができる。また、場合によっては、変性PVA系樹脂を更に後変性させてもよい。
【0026】
PVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726:1994に準拠して測定)は、60~100モル%であることが好ましい。ケン化度は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。かかるケン化度が低すぎると水溶性が低下する傾向がある。また、上限は99.8モル%以下がより好ましく、更に好ましくは99.5モル%以下である。
【0027】
PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726:1994に準拠して測定)は、100~3500であることが好ましく、より好ましくは150~3000、更に好ましくは200~2500、特に好ましくは300~2000である。かかる平均重合度が大きすぎると製造が困難となる傾向がある。
【0028】
PVA系樹脂の融点は、140~250℃であることが好ましく、より好ましくは150~245℃、更に好ましくは160~240℃、特に好ましくは170~230℃である。
なお、融点は、示差走査熱量計(DSC)で昇降温速度10℃/minで測定した値である。
【0029】
PVA系樹脂は、上記したように、例えば、ビニルエステル系モノマーを重合して得られたポリビニルエステル系重合体をケン化することにより得られる。
【0030】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等を用いることができるが、価格や入手の容易さの観点で、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0031】
また、本発明の効果を阻害しない程度に、上記ビニルエステル系モノマーとこのビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることもできる。このような共重合モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、そのモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド;アリルトリメチルアンモニウムクロライド;ジメチルアリルビニルケトン;N-ビニルピロリドン;塩化ビニル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン[1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル]エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン;ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類あるいはそのアシル化物等の誘導体を挙げることができる。
【0032】
また、前記ビニルエステル系モノマーとの共重合に用いられる共重合モノマーとしては、上記の他に、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオールを有する化合物などが挙げられる。
【0033】
ビニルエステル系モノマーの重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。なかでも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。溶液重合の溶媒としては、通常はアルコールが用いられ、好ましくは炭素数1~3の低級アルコールが用いられる。
【0034】
得られた重合体のケン化についても、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち、重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。
【0035】
ケン化反応の反応温度は、通常20~60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80~150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒でも短時間で、高ケン化度のものを得ることが可能である。
【0036】
粒子群A及び粒子群Bに用いられるPVA系樹脂粒子を形成するPVA系樹脂(以下、粒子群A及び粒子群BのPVA系樹脂という。)は、種々形状の粒子へ成形することを考慮して、溶融成形用PVA系樹脂であることが好ましい。
なかでも、溶融成形用PVA系樹脂としては、官能基が導入された変性PVA系樹脂が好ましく、変性PVA系樹脂は未変性のものより水への溶解性が高いため、対象間隙を閉塞した後に溶解除去しやすいという利点も有する。変性PVA系樹脂としては、例えば、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂や、エチレン変性PVA系樹脂が挙げられ、特に、溶融成形性に優れる点で、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が好ましい。側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂における一級水酸基の数は、通常1~5個であり、好ましくは1~2個であり、特に好ましくは1個である。また、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。
【0037】
このような側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂としては、例えば、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有する変性PVA系樹脂、側鎖にヒドロキシアルキル基構造単位を有する変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、特に下記一般式(1)で表される、側鎖に1,2-ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(以下、「側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂」と称することがある。)を用いることが好ましい。
なお、1,2-ジオール構造単位以外の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位である。
【0038】
【0039】
(式(1)中、R1~R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。)
【0040】
上記一般式(1)において、R1~R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。R1~R4は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば炭素数1~4のアルキル基であってもよい。当該アルキル基としては特に限定しないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が好ましく、当該アルキル基は必要に応じてハロゲノ基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0041】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合鎖であり、熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で、単結合であることが好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。
かかる結合鎖としては、特に限定されず、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基等の炭化水素基(これらの炭化水素基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等で置換されていてもよい。)の他、-O-、-(CH2O)m-、-(OCH2)m-、-(CH2O)mCH2-、-CO-、-COCO-、-CO(CH2)mCO-、-CO(C6H4)CO-、-S-、-CS-、-SO-、-SO2-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-、-HPO4-、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi(OR)2O-、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等が挙げられる。Rは各々独立して水素原子又は任意の置換基であり、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1~4のアルキル基)が好ましい。また、mは自然数であり、好ましくは1~10、特に好ましくは1~5である。結合鎖は、これらのなかでも、製造時の粘度安定性や耐熱性等の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは-CH2OCH2-が好ましい。
【0042】
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における特に好ましい構造は、R1~R4がすべて水素原子であり、Xが単結合である。
【0043】
かかる変性PVA系樹脂中の変性率、すなわち共重合体中の各種モノマーに由来する構造単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、官能基の種類によって特性が大きく異なるため一概には言えないが、通常、0.1~20モル%である。
例えば、PVA系樹脂が側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂である場合の変性率は、通常、0.1~20モル%であり、好ましくは0.5~10モル%、より好ましくは1~8モル%、特に好ましくは1~3モル%である。かかる変性率が高すぎると、一時的に閉塞できなくなり、低すぎると一定期間後の溶解性が悪化する場合がある。
【0044】
なお、PVA系樹脂中の1,2-ジオール構造単位の含有率(変性率)は、ケン化度100モル%のPVA系樹脂の1H-NMRスペクトル(溶媒:DMSO-d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができる。具体的には1,2-ジオール構造単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、及びメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出することができる。
【0045】
PVA系樹脂がエチレン変性PVA系樹脂である場合の変性率は、通常、0.1~15モル%であり、好ましくは0.5~10モル%、更に好ましくは1~10モル%、特に好ましくは5~9モル%である。かかる変性率が高すぎると水溶性が低下する傾向があり、低すぎると溶融成形が困難となる傾向がある。
【0046】
本発明で用いられるPVA系樹脂の主鎖の結合様式は1,3-ジオール結合が主であり、1,2-ジオール結合の含有量は1.5~1.7モル%程度であるが、ビニルエステル系モノマーを重合する際の重合温度を高温にすることによって1,2-ジオール結合の含有量を増やすことができ、その含有量を1.8モル%以上、更には2.0~3.5モル%に増やすことができる。
【0047】
上記した側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、日本国特開2002-284818号公報、日本国特開2004-285143号公報、日本国特開2006-95825号公報に記載されている方法により製造することができる。すなわち、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示されるビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、製造することができる。
【0048】
【0049】
(式(2)中、R1~R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表し、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子又はR9-CO-(式中、R9は炭素数1~4のアルキル基である。)を表す。)
【0050】
【0051】
(式(3)中、R1~R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。)
【0052】
【0053】
(式(4)中、R1~R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表し、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0054】
式(2)~式(4)中のR1~R4及びXの具体例、好ましい例示は、上記式(1)の場合と同様であり、また、R7~R11の炭素数1~4のアルキル基の具体例、好ましい例示も式(1)の場合と同様である。
【0055】
上記方法のうち、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で、(i)の方法が好ましく、特に、上記一般式(2)で示される化合物は、R1~R4が水素原子、Xが単結合、R7、R8がR9-CO-であり、R9が炭素数1~4のアルキル基である3,4-ジアシロキシ-1-ブテンが好ましく、その中でも特にR9がメチル基である3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましく用いられる。
【0056】
また、後反応によって官能基が導入された後変性PVA系樹脂としては、例えば、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVA系樹脂と反応させて得られたもの等を挙げることができる。
【0057】
なお、PVA系樹脂は、ケン化度、粘度平均重合度、融点、官能基の種類、変性率、架橋度、結晶化度、溶解度等の性質の異なる樹脂を組み合わせて用いることができる。
【0058】
本発明において、粒子群Aと粒子群Bは、質量比で、粒子群A:粒子群Bが10:90~70:30となるように含有されていることが好ましい。粒子群Aと粒子群Bの含有比が前記範囲であると、粒子群Aと粒子群Bとで形成された隙間に粒子群Cが詰まりやすくなり、対象間隙への閉塞性を高めることができる。粒子群Aと粒子群Bの含有比は、20:80~65:35がより好ましい。
【0059】
また、粒子群Cには、対象間隙を効率的に充填し且つ最密な充填構造を形成する観点から水への溶解性の低い粒子を用いることが好ましい。例えば、未変性のPVA系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、砂等を用いることが好ましい。
【0060】
本発明のダイバーティングエージェントには、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記した材料以外の添加材(剤)を配合することができる。その他の添加材(剤)としては、例えば、セラミック、おが屑、木片、種子殻等が挙げられる。
かかる添加材(剤)の配合量は、ダイバーティングエージェント全体に対して、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0061】
本発明のダイバーティングエージェントは、ダイバーティングエージェント24gを、グアーガムの0.60質量%水溶液400mLに加えて23℃で60分間分散させ、ダイバーティングエージェント濃度が6質量%の分散液を得て、前記分散液を2mm幅のスリットを有する排水部を備えた加圧脱水装置を用いて0.4MPaの圧力で加圧脱水し、時間の平方根xに対する積算脱水量yを求め、横軸に前記時間の平方根xを、縦軸に前記積算脱水量yをとったグラフにプロットした散布図から最小二乗法により下記式(A)で表わされる回帰直線を算出したとき、下記式(A)の傾きaで表わされる透水係数が、0.0~4.0の範囲であることが好ましい。
y=ax+b ・・・(A)
(式(A)中、yは積算脱水量(g)、xは加圧開始から経過した時間(分)の平方根、a及びbは回帰直線の傾きと切片を表し、0<x≦2である。)
【0062】
加圧脱水装置としては、例えば、Fann Instrument社の「HPHT Filter Press 500CT」(商品名)等が挙げられる。
【0063】
上記式(A)において、xは加圧開始から経過した時間(分)の平方根であり、yは積算脱水量(g)である。a及びbは回帰直線の傾きと切片である。傾きaは透水係数を示し、該透水係数はダイバーティングエージェント分散液中の水の流れやすさを表す。切片bは傾きaにより定まる変数であって、加圧開始0分における脱水量の目安となる値である。
【0064】
透水係数aが0.0~4.0の範囲であると、対象隙間に対する閉塞性が高いと言える。透水係数は0.0~3.0の範囲であることがより好ましく、0.0~2.0が更に好ましい。
【0065】
本発明のダイバーティングエージェントは、石油や天然ガスなどの掘削において、水圧破砕法を用いる場合に、坑井に生成された亀裂や割れ目の中に入り、その亀裂や割れ目を一時的に閉塞することにより、新たな亀裂や割れ目を形成することができる。亀裂や割れ目の閉塞方法としては、本発明のダイバーティングエージェントを坑井内の流体の流れに乗せて閉塞したい亀裂に流入させればよい。
【0066】
また、本発明のダイバーティングエージェントは、その10質量%以上が生分解樹脂であり、該生分解樹脂は使用後は速やかに水に溶解し除去され、その後生分解されるため、環境負荷が小さく、非常に有用である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量を基準とする。
【0068】
以下の製造例に従い、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂粒子(PVA1~PVA5)を製造した。
【0069】
〔製造例1:円柱状PVA系樹脂粒子(PVA1)の製造〕
1.粉末状PVA系樹脂の製造
還流冷却器、滴下装置、及び撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル20部(全体の20%を初期仕込みに使用)、メタノール32.5部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン0.8部(全体の20%を初期仕込みに使用)を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、沸点に到達した後、アセチルパーオキサイドを0.093部投入し、重合を開始した。
さらに、重合開始から0.4時間後に酢酸ビニル80部と3,4-ジアセトキシ-1-ブテン3.2部を11時間かけて等速で滴下した。酢酸ビニルの重合率が91%となった時点で、m-ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0070】
ついで、上記溶液をメタノールで希釈し、固形分濃度を55%に調整して、溶液温度を45℃に保ちながら、水酸化ナトリウム2%メタノール溶液(ナトリウム換算)を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、ケーキ状となった時点で粉砕した。その後、中和用の酢酸を水酸化ナトリウム1当量あたり0.3当量添加し、濾別し、メタノールで良く洗浄して熱風乾燥器中で乾燥し、粉末状の側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVAを得た。
【0071】
得られた側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVAのケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニル及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.0モル%であった。また、粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて分析を行ったところ、530であった。
また、側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA中の前記式(1)で表される1,2-ジオール構造単位の含有量(変性量)は、1H-NMR(300MHz プロトンNMR、d6-DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、2モル%であった。
【0072】
2.円柱状PVA系樹脂の製造
上記で得られた側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA、およびステアリン酸マグネシウムと12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを該PVAに対してそれぞれ500ppmとなるように押出機に投入し、下記の条件で溶融混練し、押出し後、空冷凝固させた後、カッターを用いてカッティングした(ストランドカッティング方式)。その後、乾燥し、直径2.6mm、軸方向長さ3mmの円柱状のPVA系樹脂粒子(PVA1)を得た。
(溶融混練条件)
押出機:テクノベル社製 15mmφ L/D=60
回転数:200rpm
吐出量:1.2~1.5kg/h
押出温度(℃):C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/200/215/215/220/225/225/225
【0073】
〔製造例2:粉末状PVA系樹脂粒子(PVA2)の製造〕
上記製造例1の「1.粉末状PVA系樹脂の製造」において、酢酸ビニルを100部、メタノール32.5部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン2部に変更して、粉末状の側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA2)を得た。得られた側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA2)は、平均粒子径が745μmの球状粒子であった。
【0074】
側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA2)のケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニル及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.0モル%であった。また、粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて分析を行ったところ、450であった。
また、側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA2)中の前記式(1)で表される1,2-ジオール構造単位の含有量(変性量)は、1H-NMR(300MHz プロトンNMR、d6-DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、1モル%であった。
【0075】
〔製造例3:粉末状PVA系樹脂粒子(PVA3)の製造〕
製造例2で得たPVA系樹脂粒子(PVA2)を篩目が250μmであるステンレス製の電動式ふるい器で30分間乾式ふるい分けして、粒子径250μm未満の微粉のみを回収し、側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA3)を得た。得られた側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA3)は、平均粒子径が201μmの球状粒子であった。
【0076】
〔製造例4:粉末状PVA系樹脂粒子(PVA4)の製造〕
上記製造例1の「1.粉末状PVA系樹脂の製造」において、酢酸ビニルを100部、メタノール18部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン3部に変更し、重合率が96%となった時点で重合を終了させて、粉末状の側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA4)を得た。得られた側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA4)は、平均粒子径が1113μmの球状粒子であった。
【0077】
側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA4)のケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニル及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.3モル%であった。また、粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて分析を行ったところ、600であった。
また、側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA(PVA4)中の前記式(1)で表される1,2-ジオール構造単位の含有量(変性量)は、1H-NMR(300MHz プロトンNMR、d6-DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、1.5モル%であった。
【0078】
〔製造例5:粉末状PVA系樹脂粒子(PVA5)の製造〕
還流冷却器、滴下装置、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル20部(全体の20%を初期仕込みに使用)、メタノール34.5部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、沸点に到達した後、アセチルパーオキサイドを0.068部投入し、重合を開始した。
さらに、重合開始から0.4時間後に酢酸ビニル80部を9.5時間かけて等速滴下した。酢酸ビニルの重合率が89%となった時点で、ヒドロキノンモノメチルエーテルを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し酢酸ビニル重合体のメタノール溶液を得た。
【0079】
ついで、上記溶液をメタノールで希釈し、固形分濃度を50%に調整して、かかるメタノール溶液をニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウム2%メタノール溶液(ナトリウム換算)を酢酸ビニル構造単位1モルに対して4.8ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、さらに水酸化ナトリウム2%メタノール溶液(ナトリウム換算)を酢酸ビニル構造単位1モルに対して7.5ミリモル追加しケン化を行った。その後、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの0.8当量を添加し、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、粉末状の未変性PVA(PVA5)を得た。得られた未変性PVA(PVA5)は、平均粒子径が612μmの球状粒子であった。
【0080】
未変性PVA(PVA5)のケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニルの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、98.9モル%であった。また、粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて分析を行ったところ、500であった。
【0081】
製造例1~5で得られたPVA1~PVA5のケン化度、粘度平均重合度、変性種、変性度を纏めると表1のとおりである。
【0082】
【0083】
また、以下のポリ乳酸と砂を準備した。
・ポリ乳酸(PLA):ネイチャーワークス社製のポリ乳酸から乾式ふるい分けにより、250μm未満のものを抽出した。
・砂:アメリカ合衆国より入手したプロパント(Proppant)として使用される無機鉱物を、40/80メッシュで篩い分けし、メッシュをパスしたものを使用した。粒子形状は、球状及び多角体の混合であった。
【0084】
(実施例1)
PVA1を30.0%、PVA2を59.2%、PVA3を10.8%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0085】
(実施例2)
PVA1を30.0%、PVA2を51.8%、PVA3を18.2%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0086】
(実施例3)
PVA1を20.0%、PVA2を59.2%、PVA3を20.8%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0087】
(実施例4)
PVA1を30.0%、PVA2を51.8%、PLAを18.2%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0088】
(実施例5)
PVA1を30.0%、PVA2を51.8%、砂を18.2%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0089】
(実施例6)
PVA1を20.0%、PVA2を59.2%、PVA5を20.8%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0090】
(実施例7)
PVA1を30.0%、PVA2を51.8%、PVA5を18.2%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0091】
(実施例8)
PVA1を50.0%、PVA2を37.0%、PVA5を13.0%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0092】
(実施例9)
PVA1を30.0%、PVA4を50.3%、PLAを19.7%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0093】
(比較例1)
PVA1を30.0%、PVA2を70.0%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0094】
(比較例2)
PVA1を30.0%、PVA4を70.0%の割合で均一に混合して、粒子混合物を作製した。
【0095】
<粒子混合物の構成:粒子径ごとの含有比率(%)>
各例で作製した粒子混合物を、乾式ふるい分け試験法により粒子径を測定し、粒子径1,700μm以上の粒子と、粒子径500μm以上1,700μm未満の粒子と、粒子径250μm未満の粒子の含有割合を測定した。測定結果を表2に示す。
【0096】
<透水係数の測定>
各例の粒子混合物24gを、グアーガムの0.60質量%水溶液400mLに加えて、23℃で60分間撹拌して分散させ、粒子混合物の濃度が6質量%の分散液を得た。得られた分散液を2mm幅のスリットを有する排水部を備えた加圧脱水装置(Fann Instrument社製「HPHT Filter Press 500CT」(商品名))を用いて0.4MPaの圧力で加圧脱水し、30秒後の脱水量及び1分間毎の継時脱水量を記録した。得られた脱水量を元に時間の平方根xに対する積算脱水量yを求め、横軸に前記時間の平方根xを、縦軸に前記積算脱水量yをとったグラフにプロットした散布図から最小二乗法により下記式(A)で表わされる回帰直線を算出した。
y=ax+b ・・・(A)
(式(A)中、yは積算脱水量(g)、xは加圧開始から経過した時間(分)の平方根、a及びbは回帰直線の傾きと切片を表し、0<x≦2である。)
得られた回帰直線より、透水係数を式(A)の傾きaとして得た。
【0097】
結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
表2の結果より、実施例1~9は透水係数が比較例1、2に比べて小さく、優れた一次目止め効果を有することがわかった。
【0100】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年7月3日出願の日本特許出願(特願2019-124756)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。