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特許7529017誘電体、誘電体組成物及びその使用、電気装置並びに供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】誘電体、誘電体組成物及びその使用、電気装置並びに供給方法
(51)【国際特許分類】
   H02B 13/055 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
H02B13/055 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022514136
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2021015084
(87)【国際公開番号】W WO2021206174
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020071155
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】速水 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】チン曽我 環
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
(72)【発明者】
【氏名】中村 允彦
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/210938(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/233159(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/196932(US,A1)
【文献】特開2004-256666(JP,A)
【文献】特表2018-529783(JP,A)
【文献】特表2012-528922(JP,A)
【文献】特表2014-504675(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/261095(US,A1)
【文献】特表2010-512639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02B 13/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンを含み、質量基準の水分含有量が、6000ppm以下である誘電体。
【請求項2】
前記ハロゲン化オレフィンが、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(E)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジフルオロエチレン、(Z)-1,2-ジフルオロエチレン、(E)-1,2-ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の誘電体。
【請求項3】
前記ハロゲン化オレフィンが、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方を含有する請求項1又は請求項2に記載の誘電体。
【請求項4】
炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンと、希釈ガスと、を含有し、前記希釈ガスが二酸化炭素を含み、質量基準の水分含有量が、6000ppm以下である誘電体組成物。
【請求項5】
炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンと、希釈ガスと、を含有し、前記希釈ガスが空気を含み、質量基準の水分含有量が、800ppm以下である誘電体組成物。
【請求項6】
気相状態であるときの前記ハロゲン化オレフィンの含有率が、70体積%以下である請求項4又は請求項5に記載の誘電体組成物。
【請求項7】
前記ハロゲン化オレフィンが(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方を含み、
気相状態であるときの(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合計量が、70体積%以下である請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
【請求項8】
凝縮温度が、0℃以下である請求項4~請求項7のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
【請求項9】
前記希釈ガスの質量基準の水分含有量が、2.0ppm~6000.0ppmである請求項4~請求項8のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
【請求項10】
電気的絶縁媒体及び電気的アーク消弧媒体の少なくとも一方として用いられる請求項4~請求項9のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
【請求項11】
電機部品と、請求項4~請求項10のいずれか1項に記載の誘電体組成物を収容した密閉容器と、を備える電気装置。
【請求項12】
サーキットブレーカー、電流遮断設備、ガス絶縁送電線、ガス絶縁変圧器、ガス絶縁変電所、ガス絶縁開閉器、ガス絶縁断路器又はガス絶縁負荷開閉器である請求項11に記載の電気装置。
【請求項13】
請求項4~請求項10のいずれか1項に記載の誘電体組成物を、請求項11又は請求項12の電気装置に供給する供給方法。
【請求項14】
電気的絶縁媒体及び電気的アーク消弧媒体の少なくとも一方としての、請求項4~請求項10のいずれか1項に記載の誘電体組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電体、誘電体組成物及びその使用、電気装置並びに供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中電圧又は高電圧の電気装置では、これらの電気装置の密閉容器の内部に封入されるガスにより、電気的絶縁及び必要に応じて電気的アーク消弧が、通常は行われている。現在、最もしばしば使用されているガスは、六フッ化硫黄(SF)である。六フッ化硫黄の絶縁耐力は比較的高く、良好な熱伝導率を有し、誘電損失が少ない。六フッ化硫黄は化学的に不活性で、ヒトや動物に対する毒性がなく、電弧により分離された後すぐに、ほぼ完全に再結合する。さらに、不燃性であり、その価格は今日でもなお低廉である。
しかしながら、SFは、地球温暖化指数(GWP)が100年間にわたりCOを基準として23,500であり、大気中での残留期間が3200年であるため、強い地球温暖化力を持つガスの1種として知られている。
【0003】
六フッ化硫黄の代替物として、六フッ化硫黄に比較して環境に対する負荷の小さい空気又は窒素などの自然由来のガスを使用することが知られている。しかし、自然由来のガスが有する絶縁耐力は六フッ化硫黄よりも小さいため、中電圧又は高電圧の電気装置において電気的絶縁又は電気的アーク消弧のために自然由来のガスを用いるには、電気装置の体積又はガスの充填圧力を大幅に増大させる必要がある。そのため、六フッ化硫黄の代替物としての自然由来のガスの使用は、外形寸法がますます縮小される小型電気装置を開発するために過去数十年にかけてなされてきた努力に相反するものである。
【0004】
電気的な特徴及びGWPの観点から、代替物としてトリフルオロヨードメタンといったヨードカーボン類が有望である。しかしヨードカーボン類は、ヨウ素原子と炭素原子との結合エネルギーが他のハロゲン原子と炭素原子との結合エネルギーに比べると極めて小さいため、ヨウ素原子と炭素原子との結合が容易に切断されやすく、分解しやすい問題がある。
六フッ化硫黄と窒素又は二酸化窒素等の他のガスとの混合物が、環境に対する六フッ化硫黄の影響を制限するために使用されている。しかし、六フッ化硫黄のGWPが高いために、これらの混合物のGWPも依然として非常に高いままである。そのため、たとえば、体積比10/90の六フッ化硫黄と窒素との混合物が有する絶縁耐力は、交流電圧(50Hz)で六フッ化硫黄の絶縁耐力の59%であるが、そのGWPは約8000~8650である。したがって、環境に対する影響を少なくするためのガスとしてこのような混合物を使用することは、望ましくないと考えられる。
【0005】
六フッ化硫黄の代替物の他の一例として、各種誘電性ガス状化合物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2010-512639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の各種誘電性ガス状化合物の中でも、ハロゲン化オレフィン類はGWPが低く、且つ、ヒトや動物に対する毒性が低いため、六フッ化硫黄の代替物として有望な化合物の一つに挙げられる。
しかしながら、ハロゲン化オレフィン類は、水分の混入により安定性が低下し、経時により分解が起こることがある。また、ハロゲン化オレフィン類が分解することにより、フッ素や塩素などのハロゲン原子を含む分解生成物が生じ、電気装置の金属材料などを腐食させる可能性がある。さらに、水分は、絶縁機器の絶縁性能、遮断性能、及び通電性能にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、製品の品質管理の要素の一つとしての水分管理、電気設備への充填工程での水分管理、及び電気設備内での水分管理は重要である。
本開示は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、安定性に優れる誘電体及び誘電体組成物、並びに、誘電体組成物の使用、誘電体組成物を用いた電気装置及び誘電体組成物の供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンを含み、質量基準の水分含有量が、6000ppm以下である誘電体。
<2> 前記ハロゲン化オレフィンが、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(E)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジフルオロエチレン、(Z)-1,2-ジフルオロエチレン、(E)-1,2-ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する<1>に記載の誘電体。
<3> 前記ハロゲン化オレフィンが、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方を含有する<1>又は<2>に記載の誘電体。
<4> 炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンと、希釈ガスと、を含有し、前記希釈ガスが二酸化炭素を含み、質量基準の水分含有量が、6000ppm以下である誘電体組成物。
<5> 炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンと、希釈ガスと、を含有し、前記希釈ガスが空気を含み、質量基準の水分含有量が、800ppm以下である誘電体組成物。
<6> 気相状態であるときの前記ハロゲン化オレフィンの含有率が、70体積%以下である<4>又は<5>に記載の誘電体組成物。
<7> 前記ハロゲン化オレフィンが(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方を含み、
気相状態であるときの(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合計量が、70体積%以下である<4>~<6>のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
<8> 凝縮温度が、0℃以下である<4>~<7>のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
<9> 前記希釈ガスの質量基準の水分含有量が、2.0ppm~6000.0ppmである<4>~<8>のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
<10> 電気的絶縁媒体及び電気的アーク消弧媒体の少なくとも一方として用いられる<4>~<9>のいずれか1項に記載の誘電体組成物。
<11> 電機部品と、<4>~<10>のいずれか1項に記載の誘電体組成物を収容した密閉容器と、を備える電気装置。
<12> サーキットブレーカー、電流遮断設備、ガス絶縁送電線、ガス絶縁変圧器、ガス絶縁変電所、ガス絶縁開閉器、ガス絶縁断路器又はガス絶縁負荷開閉器である<11>に記載の電気装置。
<13> <4>~<10>のいずれか1項に記載の誘電体組成物を、<11>又は<12>の電気装置に供給する供給方法。
<14> 電気的絶縁媒体及び電気的アーク消弧媒体の少なくとも一方としての、<4>~<10>のいずれか1項に記載の誘電体組成物の使用。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、安定性に優れる誘電体及び誘電体組成物、並びに、誘電体組成物の使用、誘電体組成物を用いた電気装置及び誘電体組成物の供給方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0011】
本開示において、「中電圧」とは、ACでは1000ボルト以上であり、DCでは1500ボルト以上であるが、ACでは52000ボルトを越えず、DCでは75000ボルトを超えない電圧を意味する。
本開示において、「高電圧」とは、ACでは52000ボルト以上であり、DCでは75000ボルト以上である電圧を意味する。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
【0012】
<誘電体>
本開示の誘電体は、炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンを含み、質量基準の水分含有量が、6000ppm以下とされたものである。以下、炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンを特定オレフィンと称することがある。
本開示の誘電体は、質量基準の水分含有量が6000ppm以下であるため、水に起因する特定オレフィンの分解が抑制される傾向にある。そのため、本開示の誘電体は、安定性に優れると推察される。
【0013】
本開示において、誘電体及び希釈ガスの水分含有量は、25℃において液状の誘電体及び希釈ガスについては、カールフィッシャー法により測定された値をいう。25℃において気体の誘電体及び希釈ガスについては、露点法により測定された値をいう。
【0014】
誘電体の質量基準の水分含有量は、安定性の観点から1000ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましく、750ppm以下がさらに好ましく、600ppm以下が特に好ましい。なお、誘電体の質量基準の水分含有量は、500ppm以下、420ppm以下、370ppm以下、300ppm以下、150ppm以下、120ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、25ppm以下、又は20ppm以下であってもよい。
また、製造コストの観点から、誘電体の質量基準の水分含有量は、0.1ppm以上が好ましく、1.0ppm以上がより好ましい。
【0015】
特定オレフィンとしては、炭素数が2以上4以下であり、且つ、分子中に炭素-炭素二重結合及び少なくとも一つのハロゲン原子を含むものであれば特に限定されるものではない。
特定オレフィンには、環境影響が小さく、絶縁及び消弧特性に優れる観点からフッ素原子が含まれていることが好ましい。
特定オレフィンの絶縁性能を向上する観点からは、分子中にハロゲン原子が多いほうがよく、フッ素原子よりも塩素原子のほうが好ましい。
ただし、特定オレフィンにフッ素原子及び塩素原子が含まれている場合、特定オレフィンの沸点を誘電体用途に適切な範囲とする観点から、塩素原子は、2個以下が好ましく、1個がより好ましい。
特定オレフィンは、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
特定オレフィンのGWPは、500以下であってもよく、200以下であってもよく、150以下であってもよく、100以下であってもよく、50以下であってもよく、20以下であってもよく、15以下であってもよく、10以下であってもよく、7以下であってもよく、5以下であってもよく、4以下であってもよく、3以下であってもよい。
GWPは、「The scientific assessment of ozone depletion,2002,a report of the World Meteorological Association’s Global Ozone Research and Monitoring Project(オゾン層破壊の科学的評価、2002年、世界気象協会グローバルオゾン研究及びモニタリングプロジェクト)」に記載された方法で二酸化炭素に対して、また100年間に対して定義される。
【0017】
特定オレフィンの具体例としては、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(E)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジフルオロエチレン、(Z)-1,2-ジフルオロエチレン、(E)-1,2-ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(E)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方がさらに好ましく、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが特に好ましい。以下、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの混合物を、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと称することがある。
(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、不燃性を有する。そのため、特定オレフィンとして(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとその他の特定オレフィンとを混合して使用すると、特定オレフィン全体として燃焼抑制効果に優れる。
例えば、特定オレフィンとして(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとを併用した場合、燃焼抑制効果を向上するためには、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンと、の総量に占める、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有率が、24.8体積%以上であればよい。
また、特定オレフィンとして(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを併用した場合、燃焼抑制効果を向上するためには、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、の総量に占める、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有率が、16.1体積%以上であればよい。
【0018】
特定オレフィンが(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む場合、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合計に占める(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上が特に好ましい。
【0019】
本開示の誘電体は、塩素、フッ化水素、塩化水素、酢酸、フッ化カルボニル、ホスゲン、トリフルオロ酢酸フルオリド、塩化アセチル、一酸化炭素、塩化ホルミル及びクロロホルムからなる群より選択される少なくとも1種の微量成分を含有してもよい。以下、これら微量成分を第一の特定微量成分と称することがある。
第一の特定微量成分は、それ自体が金属材料と反応したり、水に溶解して金属材料と接触したりすると、金属材料の劣化や脆化を引き起こす懸念がある。そのため、本開示の誘電体が第一の特定微量成分を含有する場合、第一の特定微量成分の質量基準の含有量は、5000ppm以下、3000ppm以下、1000ppm以下、500ppm以下、250ppm、100ppm以下、50ppm以下、又は20ppm以下が好ましい。
一方、第一の特定微量成分の含有量は、0ppmが好ましいが、5ppm以上、又は10ppm以上でもよい。
【0020】
本開示の誘電体は、特定オレフィンと、フルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のフルオロオレフィン、特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のクロロフルオロオレフィン、特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のクロロオレフィン、クロロフルオロアルキン、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種の微量成分と、を含有するものであってもよい。以下、これら微量成分を第二の特定微量成分と称することがある。
本開示の誘電体が特定オレフィンと第二の特定微量成分とを含有する場合、特定オレフィンとしては、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン及び(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方がより好ましい。
【0021】
本開示において、フルオロカーボンとは、分子中にハロゲン原子としてフッ素原子を含むが塩素原子を含まない飽和炭化水素化合物をいう。フルオロカーボンは、分子中に水素原子を含んでもよいし含まなくともよい。
本開示において、クロロフルオロカーボンとは、分子中にハロゲン原子としてフッ素原子及び塩素原子を含む飽和炭化水素化合物をいう。クロロフルオロカーボンは、分子中に水素原子を含んでもよいし含まなくともよい。
本開示において、フルオロオレフィンとは、分子中にハロゲン原子としてフッ素原子を含むが塩素原子を含まないエチレン系炭化水素化合物をいう。フルオロオレフィンは、分子中に水素原子を含んでもよいし含まなくともよい。
本開示において、クロロフルオロオレフィンとは、分子中にハロゲン原子としてフッ素原子及び塩素原子を含むエチレン系炭化水素化合物をいう。クロロフルオロオレフィンは、分子中に水素原子を含んでもよいし含まなくともよい。
本開示において、クロロオレフィンとは、分子中にハロゲン原子として塩素原子を含むエチレン系炭化水素化合物をいう。クロロオレフィンは、分子中に水素原子を含んでもよいし含まなくともよい。
本開示において、クロロフルオロアルキンとは、分子中にハロゲン原子としてフッ素原子及び塩素原子を含むアセチレン系炭化水素化合物をいう。クロロフルオロアルキンは、分子中に水素原子を含んでもよいし含まなくともよい。
【0022】
第二の特定微量成分は、フルオロカーボンを含有してもよい。フルオロカーボンは、例えば、1,1,1,2-テトラフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロプロパン、テトラフルオロメタン、Cで示されるフッ化炭化水素、トリフルオロメタン及びフルオロエタンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。Cで示されるフッ化炭化水素としては、例えば、1,1,2,3-テトラフルオロブタンが挙げられる。
第二の特定微量成分は、クロロフルオロカーボンを含有してもよい。クロロフルオロカーボンは、例えば、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、及びクロロトリフルオロメタンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
第二の特定微量成分は、特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のフルオロオレフィンを含有してもよい。特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のフルオロオレフィンは、例えば、Cで示されるフッ化炭化水素及びテトラフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。Cで示されるフッ化炭化水素としては、例えば、1,3,4,4-テトラフルオロ-1-ブテン、3,4,4,4-テトラフルオロ-1-ブテン、1,1,2,3-テトラフルオロ-1-ブテン、2,4,4,4-テトラフルオロ-1-ブテンが挙げられる。
第二の特定微量成分は、特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のクロロフルオロオレフィンを含有してもよい。特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のクロロフルオロオレフィンは、例えば、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(Z)-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(E)-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ1-フルオロエテン及び1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
第二の特定微量成分は、特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のクロロオレフィンを含有してもよい。特定オレフィンの具体例として挙げられた化合物以外のクロロオレフィンは、例えば、1,1,2,2-テトラクロロエテンが挙げられる。
第二の特定微量成分は、クロロフルオロアルキンを含有してもよい。クロロフルオロアルキンは、例えば、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロピンが挙げられる。
【0023】
第二の特定微量成分は、理由は明らかになっていないが、特定オレフィンの分解を抑制して安定化させる機能を発すると考えられる。
【0024】
本開示の誘電体が特定オレフィンと第二の特定微量成分とを含有する場合、第二の特定微量成分の質量基準の含有量は、さらなる安定性の確保の観点から、15000ppm以下が好ましく、10000ppm以下がより好ましい。
一方、第二の特定微量成分の含有量は、0ppmが好ましいが、4ppm以上でもよく、50ppm以上でもよく、100ppm以上でもよい。
【0025】
本開示の誘電体は、特定オレフィンと第一の特定微量成分と第二の特定微量成分とを含有してもよい。本開示の誘電体が第一の特定微量成分及び第二の特定微量成分を含有する場合、これらの含有量の好ましい範囲は、各々、上述の通りである。
【0026】
本開示の誘電体が(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方と第二の特定微量成分と上述の第一の特定微量成分とを含有する場合、第一の特定微量成分についての質量基準の含有量の望ましい範囲は、上述のとおりである。
【0027】
本開示の誘電体の保管状態は、25℃において気体であってもよく、液体であってもよく、気体と液体とが共存したものであってもよい。
【0028】
<誘電体組成物>
本開示の第一の誘電体組成物は、本開示の誘電体と希釈ガスとを含有する。
本開示の第二の誘電体組成物は、炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンと、希釈ガスと、を含有し、前記希釈ガスが二酸化炭素を含み、質量基準の水分含有量が、6000ppm以下のものである。
本開示の第三の誘電体組成物は、炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンと、希釈ガスと、を含有し、前記希釈ガスが空気を含み、質量基準の水分含有量が、800ppm以下のものである。
第二の誘電体組成物及び第三の誘電体組成物に含有される炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンの詳細は、本開示の誘電体の項で挙げられた化合物と同様である。なお、第二の誘電体組成物及び第三の誘電体組成物で用いられる炭素数が2以上4以下のハロゲン化オレフィンに含まれる質量基準の水分含有量は、特に限定されるものではない。
以下、第一の誘電体組成物と第二の誘電体組成物と第三の誘電体組成物とを合わせて、単に「誘電体組成物」と称することがある。
本開示の第二の誘電体組成物は、質量基準の水分含有量が6000ppm以下であるため、水に起因する特定オレフィンの分解が抑制される傾向にある。そのため、第二の誘電体組成物は、安定性に優れると推察される。
また、本開示の第三の誘電体組成物は、質量基準の水分含有量が800ppm以下であるため、水に起因する特定オレフィンの分解が抑制される傾向にある。そのため、第三の誘電体組成物は、安定性に優れると推察される。
本開示の第一の誘電体組成物は、本開示の誘電体と希釈ガスとを混合して得られるものである。
本開示の第二または第三の誘電体組成物は、特定オレフィンと希釈ガスとを混合して得られるものである。
本開示の第二または第三の誘電体組成物は、第一の特定微量性分及び第二の特定微量成分の少なくとも一方を含有してもよい。本開示の第二または第三の誘電体組成物が第一の特定微量性分及び第二の特定微量成分の少なくとも一方を含有する場合、これらの含有量の好ましい範囲は、各々、上述の通りである。
本開示の誘電体組成物は誘電体単体と比較して、例えば-20℃程度の比較的低温であっても凝縮されず、作動温度域が広がる。その結果、低温においても絶縁性が得られる。
また、本開示の誘電体組成物をガス遮断器等に適用した場合、電子付着性の高いフッ素原子を大きな流速で流すことができ、結果として遮断性能を効率的に高められる。
【0029】
希釈ガスとしては、本開示の誘電体の沸点よりも低い沸点を有し、同様に絶縁耐力がたとえば20℃の基準温度で本開示の誘電体より低い化合物である。
希釈ガスとしては、空気、窒素、メタン、酸素、亜酸化窒素、ヘリウム、キセノン及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、空気、窒素、酸素及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0030】
第二の誘電体組成物は、希釈ガスとして二酸化炭素を含む。第二の誘電体組成物において、希釈ガスに含まれる二酸化炭素の割合は、70体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましく、99体積%以上がさらに好ましく、100体積%が特に好ましい。
第二の誘電体組成物において、希釈ガスに含まれる二酸化炭素以外の成分は特に限定されるものではなく、酸素、水等が挙げられる。第二の誘電体組成物にさらに酸素が共存する場合には、希釈ガスに含まれる酸素の割合は、30体積%以下が好ましく、10体積%以下がより好ましい。
第三の誘電体組成物は、希釈ガスとして空気を含む。第三の誘電体組成物において、希釈ガスに含まれる空気の割合は、70体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましく、99体積%以上がさらに好ましく、100体積%が特に好ましい。
第三の誘電体組成物において、希釈ガスに含まれる空気以外の成分は特に限定されるものではなく、水等が挙げられる。
【0031】
希釈ガスの質量基準の水分含有量は、2.0ppm~6000.0ppmが好ましく、2.0ppm~2600.0ppmがより好ましく、2.0ppm~1100.0ppmがさらに好ましく、2.0ppm~400.0ppmが特に好ましい。
希釈ガスの水分含有量は、希釈ガスを誘電体と混合する前の状態における水分含有量をいう。
【0032】
誘電体組成物が気相状態であるときの誘電体組成物に占める誘電体又は特定オレフィンの含有率は特に限定されるものではなく、誘電体組成物が気相状態のみで存在するために必要な凝縮温度を実現する観点から、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、40体積%以下、30体積%以下、25体積%以下、20体積%以下、15体積%以下、10体積%以下、又は5体積%以下が好ましい。誘電体組成物が気相状態であるときの誘電体組成物に占める誘電体又は特定オレフィンの含有率は、絶縁性能及び消弧性能の観点から、1体積%以上、2体積%以上又は3体積%以上が好ましい。
【0033】
誘電体が特定オレフィンとして(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方を含有する場合、誘電体組成物が気相状態であるときの誘電体組成物に占める(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合計量は、誘電体組成物が気相状態のみで存在するために必要な凝縮温度を実現する観点から、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、40体積%以下、30体積%以下、25体積%以下、20体積%以下、15体積%以下、10体積%以下、又は5体積%以下が好ましい。誘電体組成物が気相状態であるときの誘電体組成物に占める(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合計は、絶縁性能及び消弧性能の観点から、1体積%以上、2体積%以上、又は3体積%以上が好ましい。
【0034】
誘電体組成物の凝縮温度は、誘電体組成物を気相状態のみで存在させる観点から、0℃以下が好ましく、-70~0℃がより好ましく、-70~-10℃がさらに好ましく、-70~-20℃が特に好ましく、-70~-30℃が極めて好ましい。誘電体組成物の凝縮温度は、経済性の観点から、-70℃以上であってもよい。
【0035】
第一の誘電体組成物における、誘電体と希釈ガスとの望ましい組み合わせとしては、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも一方と、空気、窒素、酸素及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1種との組み合わせ等が挙げられる。
【0036】
第一の誘電体組成物の質量基準の水分含有量は、安定性の観点から、6000ppm以下、5000ppm以下、4000ppm以下、3000ppm以下、2500ppm以下、1000ppm以下、800ppm以下、500ppm以下、420ppm以下、370ppm以下、300ppm以下、150ppm以下、120ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、25ppm以下、又は20ppm以下が好ましい。誘電体組成物の質量基準の水分含有量は、経済性の観点から、3ppm以上、5ppm以上、7ppm以上、10ppm以上、又は15ppm以上が好ましい。
第二の誘電体組成物の質量基準の水分含有量は、安定性の観点から、6000ppm以下、5000ppm以下、4000ppm以下、3000ppm以下、2500ppm以下、1000ppm以下、800ppm以下、500ppm以下、420ppm以下、370ppm以下、300ppm以下、150ppm以下、120ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、25ppm以下、又は20ppm以下が好ましい。第二の誘電体組成物の質量基準の水分含有量は、経済性の観点から、3ppm以上、5ppm以上、7ppm以上、10ppm以上、又は15ppm以上が好ましい。
第三の誘電体組成物の質量基準の水分含有量は、安定性の観点から、800ppm以下、500ppm以下、420ppm以下、370ppm以下、300ppm以下、150ppm以下、120ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、25ppm以下、又は20ppm以下が好ましい。第三の誘電体組成物の質量基準の水分含有量は、経済性の観点から、3ppm以上、5ppm以上、7ppm以上、10ppm以上、又は15ppm以上が好ましい。
誘電体組成物の水分含有量は、露点法により測定された値をいう。例えば、International Electrotechnical Commission(IEC)60376:2005に記載されている方法で測定する。
【0037】
本開示の誘電体組成物は、電気的絶縁媒体及び電気的アーク消弧媒体の少なくとも一方として用いられる。特に、中電圧又は高電圧の電気装置のための電気的絶縁媒体及び電気的アーク消弧媒体に好適である。
本開示の誘電体組成物の状態は、25℃において気体であってもよく、液体であってもよく、気体と液体とが共存したものであってもよい。電気設備供給前及び電気設備内の状態としては、気体であることが望ましい。
【0038】
本開示の誘電体組成物の使用温度は、気相状態の誘電体組成物が凝縮することを防ぐために、誘電体組成物の凝縮温度よりも高いことが好ましい。気候及び使用環境の観点から、-30℃以上、-25℃以上、-20℃以上、-15℃以上、-10℃以上、-5℃以上、0℃以上、5℃以上、又は10℃以上が好ましい。また、機器の設計圧力の観点から、50℃以下、40℃以下、30℃以下、25℃以下、又は20℃以下が好ましい。
なお、「使用温度」とは、誘電体組成物を収容した密閉容器内におけるガスの温度であり、この温度は、特に気候条件又は環境条件に応じて経時的に変動しうる。
【0039】
なお、本開示の誘電体組成物は、計画された使用温度範囲全体に対して凝縮されないことが望ましい。希釈ガスを使用することによって、計画された使用温度範囲全体で、本開示の誘電体の飽和蒸気圧に到達するのを回避できる。
本開示の誘電体組成物の使用圧力は、中電圧及び高電圧の電気装置ともに、誘電体組成物の凝縮を抑制する観点から、ゲージ圧力で0.1MPa~0.15MPa、0.15MPa~0.3MPa、0.3MPa~0.5MPa、0.5MPa~0.7MPa、0.7MPa~0.9MPa、0.9MPa~1MPa、又は1MPa~1.5MPaにできる。
【0040】
<電気装置>
本開示の電気装置は、電機部品と、本開示の誘電体組成物を収容した密閉容器と、を備える。
電気装置の具体例としては、サーキットブレーカー、電流遮断設備、ガス絶縁送電線、ガス絶縁変圧器、ガス絶縁変電所、ガス絶縁開閉器、ガス絶縁断路器又はガス絶縁負荷開閉器が挙げられる。
電気装置は、誘電体組成物の誘電特性、熱特性、及び遮断特性が規格又は所望の温度範囲で充分になるようにするため、電気装置と組み合わせて加熱装置を使用することが有利である。加熱装置は、誘電体組成物の温度、圧力又は密度に応じて使用される。
たとえば、理想的には、凝縮された液体が重力により装置内部の様々な部品に収束する地点である電気装置の最下点に配置される発熱抵抗体を、加熱装置として使用できる。
このようにして、規格により定められた評価試験時の電気装置内のガス圧である試験圧力を上回るガス圧力が保証される。
同じ理由で、電気装置の壁を断熱し、必要に応じて電気装置又は電気装置を収容する建物を断熱し、さらには、必要に応じて電気装置又はこれらの建物を暖房するのが有利である。
【0041】
<供給方法>
本開示の供給方法は、本開示の誘電体組成物を、本開示の電気装置に供給するものである。本開示の供給方法では、誘電体組成物を電気装置に備えられた密閉容器内に供給すればよい。本開示の誘電体組成物を供給する際の誘電体組成物の状態は、液体と気体の一方または両方が存在してよく、臨界状態でもよい。
誘電体組成物を密閉容器内に供給する場合、誘電体組成物として充填してもよく、誘電体又は特定オレフィンと希釈ガスとを各々充填してもよい。
【実施例
【0042】
以下、実験例を示して本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は下記実験例により限定されるものではない。
【0043】
(誘電体評価(1))
誘電体としては、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとして、純度99.75%、Z体とE体とのモル比であるZ/E比=99.4/0.6のもの、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンとして、純度99.91%のもの、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとして、純度99.97%のものを用いた。
内容積200cc(mL)で最高使用温度300℃、最高使用圧力はゲージ圧力で20MPaのSUS316製耐圧容器内に、予め重量を計測したパイレックス(登録商標)製の内挿管を挿入した。この内挿管にはあらかじめ表1に記載の量(質量基準)の水分を添加した。金属片として、鉄片である冷間圧延鋼板及び鋼帯であるSPCC、銅片、並びにアルミニウム片を1つずつ準備し、まとめて内挿管の上部から吊るした。各金属片のサイズは25mm×30mm×2mmである。耐圧容器を密閉した後、容器を冷却して水分を固化し、容器内の真空排気を行った。次に、上記耐圧容器内に誘電体を50g充填し、容器を恒温槽内に設置し、150℃で120時間保持した。120時間経過後、恒温槽から耐圧容器を取り出し、次のように評価した。
【0044】
(酸分量の測定)
上記試験後の耐圧容器を室温(25℃、以下同様)になるまで静置した。室温になった耐圧容器に、吸収瓶4本にそれぞれ純水を100ml収容し、各吸収瓶を導管で直列に連結したものをつなぎ、徐々に耐圧容器の弁を開放して、誘電体を吸収瓶の水中に導入し、酸分を抽出した。抽出後の吸収瓶のうち上流側から1本目及び2本目の吸収瓶に収容された水を混合して指示薬としてBTB(ブロモチモールブルー)を1滴加え、1/100N-NaOHアルカリ標準液を用いて滴定した。吸収瓶のうち上流側から3本目及び4本目の吸収瓶に収容された水を混合して同様に滴定し、測定ブランクとした。これら測定値と測定ブランクの値から、酸分の質量基準の濃度をHCl濃度として求めた。
その後、金属片を容器内から取り出し、外観を目視により観察し、下記基準に基づいて外観の変化を評価した。評価結果を表1に示す。表1における例1-1~例1-9、例1-11~例1-13、例1-15~例1-17が実施例に該当し、例1-10、例1-14、例1-18が比較例に該当する。
【0045】
(酸分の評価基準)
A:0.5ppm(検出下限)未満
B:0.5ppm以上1.0ppm未満
C:1.0ppm以上10.0ppm未満
D:10.0ppm以上
(目視観察の評価基準)
A:全ての金属において表面に変化なし
B:一部の金属において表面が若干変色
C:一部の金属において金属表面が明らかに変色
D:全ての金属において金属表面が顕著に変色
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、水分濃度が500ppmまでは、酸分及び金属片の外観観察の結果に対して水分の影響が確認されなかった。水分濃度が750ppm~5000ppmで水分の影響が徐々に現れた。10000ppmでは水分の影響が顕著に確認された。これは、誘電体と水分とが共存することにより誘電体が加水分解されて酸分が生じ、金属片を腐食したためと考えられる。
また、表1に示す誘電体以外のその他の特定オレフィンを用いても、上記実験例と同様の結果が得られる。
【0048】
(誘電体評価(2)及び誘電体組成物評価)
誘電体としては、例1-1~例1-18で用いられたものを用いた。
希釈ガスとしては、空気又は二酸化炭素を用いた。
内容積200cc(mL)で最高使用温度300℃、最高使用圧力はゲージ圧力で20MPaのSUS316製耐圧容器内に、予め重量を計測したパイレックス(登録商標)製の内挿管を挿入した。この内挿管にはあらかじめ表2~表9に記載の量(質量基準)の水分を添加した。金属片として、鉄片である冷間圧延鋼板及び鋼帯であるSPCC、銅片、並びにアルミニウム片を1つずつ準備し、まとめて内挿管の上部から吊るした。各金属片のサイズは25mm×30mm×2mmである。耐圧容器を密閉した後、容器を冷却して水分を固化し、容器内の真空排気を行った。次に、上記耐圧容器を恒温槽内に設置し、25℃で3時間保持した。3時間経過後、耐圧容器内圧力からゲージ圧力で0.45MPaまでを全圧として、表2~表9に記載の組成になるように分圧で前記誘電体2種又は前記誘電体と希釈ガスを充填した。その後、恒温槽内温度を150℃とし、120時間保持した。120時間経過後、恒温槽から耐圧容器を取り出し、次のように評価した。
【0049】
(金属片の外観観察)
上記試験後の耐圧容器を室温になるまで静置した。室温になった耐圧容器内から金属片を取り出し、外観を目視により観察し、既述の(目視観察の評価基準)に基づいて外観の変化を評価した。評価結果を表2~表9に示す。
表2における例2-1、例2-3、例2-5、例2-7が実施例に該当し、例2-2、例2-4、例2-6、例2-8が比較例に該当する。
表3における例3-1~例3-12が実施例に該当し、例3-13が比較例に該当する。
表4における例4-1~例4-3、例4-5~例4-7、例4-9~例4-11が実施例に該当し、例4-4、例4-8、例4-12が比較例に該当する。
表5における例5-1~例5-12が実施例に該当し、例5-13が比較例に該当する。
表6における例6-1~例6-3、例6-5~例6-7、例6-9~例6-11が実施例に該当し、例6-4、例6-8、例6-12が比較例に該当する。
表7における例7-1~例7-12が実施例に該当し、例7-13が比較例に該当する。
表8における例8-1~例8-3、例8-5~例8-7、例8-9~例8-11が実施例に該当し、例8-4、例8-8、例8-12が比較例に該当する。
表9における例9-1、例9-3、例9-5、例9-7が実施例に該当し、例9-2、例9-4、例9-6、例9-8が比較例に該当する。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
表2に示すように、水分濃度が10000ppmでは水分の影響が顕著に確認された。
これは、例2-1~例2-8のうちの比較例に該当するものについては、誘電体と水分とが共存することにより誘電体が加水分解されて酸分が生じ、水分濃度が10000ppmの場合に金属片が過度に腐食したためと考えられる。
【0059】
表3~表9に示すように、誘電体組成物の希釈ガスが二酸化炭素の場合、二酸化炭素の含有率が75体積%以下では、水分濃度が5000ppmで水分影響が現れ、10000ppmでは水分の影響が顕著に確認された。これは例3-1~例3-13、例5-1~例5-13、例7-1~例7-13のうち、実施例に該当するものについては、二酸化炭素を混合することで誘電体の加水分解が抑制された効果だと考えられる。
表3~表9に示すように、誘電体組成物の希釈ガスが空気の場合、空気の含有率に関わらず、水分濃度が500~750ppmで水分の影響が徐々に現れた。1000ppmでは水分の影響が顕著に確認された。これは例4-1~例4-12、例6-1~例6-12、例8-1~例8-12については、空気を混合することで誘電体の加水分解が促進された効果だと考えられる。
また、表2~表9に示す誘電体の組み合わせ以外のその他の特定オレフィンの組み合わせを用いても、上記実験例と同様の結果が得られる。さらに、表2~表9に示す誘電体以外のその他の特定オレフィンと希釈ガスとの組み合わせを用いても、上記実験例と同様の結果が得られる。
【0060】
2020年4月10日に出願された日本国特許出願2020-071155号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。