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特許7529164低級オレフィン製造用ナフサ及びその製造方法、低級オレフィン製造用ナフサの判定方法、低級オレフィン組成物及びその製造方法、並びに、ポリオレフィン系重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】低級オレフィン製造用ナフサ及びその製造方法、低級オレフィン製造用ナフサの判定方法、低級オレフィン組成物及びその製造方法、並びに、ポリオレフィン系重合体
(51)【国際特許分類】
   C10G 9/00 20060101AFI20240730BHJP
   C07C 4/02 20060101ALI20240730BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20240730BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20240730BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20240730BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20240730BHJP
   C10G 3/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C10G9/00
C07C4/02
C07C11/04
C07C11/06
C07C11/08
C07C11/167
C10G3/00 Z
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2023550318
(86)(22)【出願日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2023029880
(87)【国際公開番号】W WO2024038914
(87)【国際公開日】2024-02-22
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2022131236
(32)【優先日】2022-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊克
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 雄祐
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-537174(JP,A)
【文献】特開2008-81417(JP,A)
【文献】国際公開第2011/012439(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 3/00
C10G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテルを含む低級オレフィン製造用ナフサにおいて、
炭素数7以上の炭化水素を含み、
該エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有し、
該炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上であり、
該エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下である、低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項2】
前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項3】
比重が0.6640g/cm以上である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項4】
前記エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で0.1質量ppm以上である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項5】
硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で180質量ppm以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項6】
前記炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、前記低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、42.0質量%以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項7】
前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、87.0g/mol以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項8】
比重が0.6695g/cm以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項9】
硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で1質量ppm以上である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項10】
前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサを含む、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項11】
前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサ単独物、又は、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物である、請求項10に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項12】
前記バイオ原料由来のナフサが、非可食性バイオマス及び/又は非化石燃料に由来するナフサである、請求項10に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項13】
前記エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
【請求項14】
前記エーテルがモノエーテルである、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項15】
前記エーテルのエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基の炭素原子である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項16】
前記低級オレフィンがプロピレンである、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の低級オレフィン製造用ナフサを分解する工程を含む、低級オレフィン組成物の製造方法。
【請求項18】
前記低級オレフィン製造用ナフサを分解して、低級オレフィン及びメタノールを含有する低級オレフィン組成物を製造する、請求項17に記載の低級オレフィン組成物の製造方法。
【請求項19】
前記低級オレフィン組成物に含有される前記低級オレフィンがプロピレンを含む、請求項18に記載の低級オレフィン組成物の製造方法。
【請求項20】
請求項1~16のいずれか1項に記載の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する低級オレフィン組成物。
【請求項21】
前記低級オレフィン組成物に含有される前記低級オレフィンが、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素である、請求項20に記載の低級オレフィン組成物。
【請求項22】
さらに、メタノールを含有する、請求項20に記載の低級オレフィン組成物。
【請求項23】
請求項20に記載の低級オレフィン組成物に含有される低級オレフィン及び/又はその誘導体を重合してなる、ポリオレフィン系重合体。
【請求項24】
バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合して、請求項1~16のいずれか一項に記載の低級オレフィン製造用ナフサを得ることを含む、低級オレフィン製造用ナフサの製造方法。
【請求項25】
低級オレフィンの製造に用いる低級オレフィン製造用ナフサの判定方法であって、
バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合して、混合ナフサを得、
得られた前記混合ナフサが、請求項1~16のいずれか一項に記載の低級オレフィン製造用ナフサに該当するときに、低級オレフィンの製造に用いるナフサ組成物として合格と判定し、熱分解処理に供することを含む、低級オレフィン製造用ナフサの判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級オレフィンの製造に用いられる低級オレフィン製造用ナフサ及びその製造方法に関する。
さらに、本発明は、前記低級オレフィン製造用ナフサから低級オレフィン組成物を製造する低級オレフィン組成物の製造方法に関する。
さらに、本発明は、前記低級オレフィン製造用ナフサから得られる低級オレフィン組成物に関する。
さらに、本発明は、前記低級オレフィン組成物を重合してなるポリオレフィン系重合体に関する。
さらに、本発明は、低級オレフィン製造用ナフサの判定方法に関する。
【0002】
本発明において、「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を意味し、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
低級オレフィンの代表的な製造方法としては、化石燃料由来のナフサ(30~230℃程度の沸点範囲をもつ原油由来の炭化水素混合物)を水蒸気の存在下に熱分解(スチーム・クラッキング)する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
近年、持続可能な開発目標(SDGs)を達成すべく、化石燃料以外の再生可能な有機資源(植物など)を工業製品の原料に用いる取り組みが行われている。その一つの手段としてバイオマス由来原料の活用が提案されている。しかしながら、ナフサのクラッキングプロセスに、バイオマス由来原料、例えばバイオマス由来のナフサを用いる技術は詳細には知られていない。
【0005】
スチーム・クラッキング法では、一度原料ナフサが選定されると、その原料ナフサの組成や性状、製品の要求に応じて、基本的に固有の熱分解条件と固有の熱分解装置が必要となる。このため、原料ナフサ及び製品の選択性が乏しく、融通性に欠けるという難点がある。
【0006】
すなわち、バイオマス由来のナフサは、化石燃料由来のナフサと、組成や性状が異なる。このため、既存の熱分解装置を用いてバイオマス由来のナフサの単独物、又はバイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物をスチーム・クラッキング法で熱分解する場合、エネルギー原単位を改善する等の観点から、低級オレフィンの製造収率を向上することが要求されている。
【0007】
ナフサには、含酸素化合物が含まれており、ナフサを熱分解して各種低級オレフィンを製造する際、含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールが生成する場合がある。
ナフサに含まれる含酸素化合物は種々存在するが、それら含酸素化合物からメタノールが生成する割合は一定ではなく、その詳細は明らかにされていない。
【0008】
含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールは、プロピレン等の製品低級オレフィンに混入すると、プロピレン等の低級オレフィンを重合する際に用いる触媒の性能を低下させるという問題があった。
【0009】
このため、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度がナフサの品質の良否の判断基準とされている。
通常、ナフサの購入者は、ナフサ中に種々存在する含酸素化合物の含有濃度を確認して購入している。
ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度はナフサ価格にも反映される。含酸素化合物の含有濃度の高いものは安価であり、低いものは高価格で販売されている。
【0010】
以上のような背景から、ナフサの購入者は、通常、購入した含酸素化合物含有量が多いナフサに、含酸素化合物含有濃度が低いナフサをブレンドし、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度を低減してから、低級オレフィンの製造に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2009-40913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のとおり、従来、ナフサに含まれる含酸素化合物の種類と、該含酸素化合物の熱分解に由来するメタノールの生成量との関係についての詳細は明らかにされていなかった。
そのため、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度からナフサの良否を判定しても、必ずしもその含有濃度に、実際に熱分解により低級オレフィンを製造した際のメタノール生成濃度が比例するとは限らなかった。
即ち、メタノール生成濃度の低い良質なナフサを的確に判定する方法はこれまで知られていなかった。
さらに、従来の化石燃料由来のナフサとは組成や性状が異なる、バイオ原料由来のナフサを用いて、メタノール生成濃度の低い良質なナフサを的確に判定する方法はこれまで知られていなかった。
【0013】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、メタノール生成濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で得ることができる低級オレフィン製造用ナフサ、その製造方法、及びその判定方法を提供することを課題とする。
本発明はまた、この低級オレフィン製造用ナフサを用いた低級オレフィン組成物の製造方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、該低級オレフィン組成物の製造方法により製造した、メタノール含有量の少ない低級オレフィン組成物、及びこの低級オレフィン組成物を重合してなるポリオレフィン系重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
(1) 含酸素化合物の中でもエーテル結合の酸素原子に対して非対称構造を有する特定のエーテルが、ナフサの熱分解工程において分子中の特定の結合が選択的に分解し易く、特に、分解によりメタノールを生成し易い。
(2) 該非対称構造を有する特定のエーテル、より好ましくは非対称構造を有する特定のエーテルの、エーテル結合の酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の値の差の絶対値ΔE[単位:e]が所定値以上であるエーテルに由来する酸素原子の含有量が所定値以下であり、且つ、炭素数7以上の炭化水素の含有割合が所定値以上である低級オレフィン製造用ナフサを用いることで、メタノール生成濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で得ることができる。
(3) 特に、原料ナフサとして、バイオ原料由来のナフサを用いた低級オレフィン製造用ナフサにおいて、この効果はより顕著になる。
【0015】
本発明者らは、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0016】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0017】
[1] エーテルを含む低級オレフィン製造用ナフサにおいて、
炭素数7以上の炭化水素を含み、
該エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有し、
該炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上であり、
該エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下である、低級オレフィン製造用ナフサ。
【0018】
[2] 前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上である、[1]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0019】
[3] 比重が0.6640g/cm以上である、[1]又は[2]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0020】
[4] 前記エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で0.1質量ppm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0021】
[5] 硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で180質量ppm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0022】
[6] 前記炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、前記低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、42.0質量%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0023】
[7] 前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、87.0g/mol以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0024】
[8] 比重が0.6695g/cm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0025】
[9] 硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で1質量ppm以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0026】
[10] 前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサを含む、[1]~[9]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0027】
[11] 前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサ単独物、又は、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物である、[10]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0028】
[12] 前記バイオ原料由来のナフサが、非可食性バイオマス及び/又は非化石燃料に由来するナフサである、[10]又は[11]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0029】
[13] 前記エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上である、[1]~[12]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
【0030】
[14] 前記エーテルがモノエーテルである、[1]~[13]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0031】
[15] 前記エーテルのエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基の炭素原子である、[1]~[14]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0032】
[16] 前記低級オレフィンがプロピレンである、[1]~[15]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0033】
[17] [1]~[16]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサを分解する工程を含む、低級オレフィン組成物の製造方法。
【0034】
[18] 前記低級オレフィン製造用ナフサを分解して、低級オレフィン及びメタノールを含有する低級オレフィン組成物を製造する、[17]に記載の低級オレフィン組成物の製造方法。
【0035】
[19] 前記低級オレフィン組成物に含有される前記低級オレフィンがプロピレンを含む、[18]に記載の低級オレフィン組成物の製造方法。
【0036】
[20] [1]~[16]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する低級オレフィン組成物。
【0037】
[21] 前記低級オレフィン組成物に含有される前記低級オレフィンが、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素である、[20]に記載の低級オレフィン組成物。
【0038】
[22] さらに、メタノールを含有する、[20]又は[21]に記載の低級オレフィン組成物。
【0039】
[23] [20]~[22]のいずれかに記載の低級オレフィン組成物に含有される低級オレフィン及び/又はその誘導体を重合してなる、ポリオレフィン系重合体。
【0040】
[24] バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合し、[1]~[16]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサを得ることを含む、低級オレフィン製造用ナフサの製造方法。
【0041】
[25] 低級オレフィンの製造に用いる低級オレフィン製造用ナフサ組成物の判定方法であって、
バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合して、混合ナフサを得、得られた前記混合ナフサが、[1]~[16]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサに該当するときに、低級オレフィンの製造に用いるナフサ組成物として合格と判定し、熱分解処理に供することを含む、低級オレフィン製造用ナフサの判定方法。
【発明の効果】
【0042】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、熱分解におけるメタノール生成量が少ないため、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造することができる。
【0043】
本発明によれば、原料ナフサとして、特に、バイオ原料由来のナフサを含有する低級オレフィン製造用ナフサにおいて、該低級オレフィン製造用ナフサ中の特定のエーテル、具体的にはエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上であるエーテルに由来する酸素原子の含有量から、ナフサの低級オレフィン原料としての良否を的確に判定し、このような低級オレフィン製造用ナフサを容易に実現することができる。
このため、例えば、含酸素化合物の含有濃度が高いために安価なナフサの中から、ΔEが0.05[単位:e]以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量の低いナフサを選択して、安価な原料ナフサを用いた上でメタノール生成濃度を抑えて高純度の低級オレフィンを製造することができる。また、含酸素化合物の含有濃度が高いナフサであっても、ΔEが0.05e[単位:e]以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量が低いものであれば、含酸素化合物含有濃度の低いナフサをブレンドすることなく、そのまま原料ナフサとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、各種エーテルのΔE[単位:e]とメタノール生成比率Bとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0046】
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0047】
本発明において、「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を意味する。低級オレフィンは、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
【0048】
[低級オレフィン製造用ナフサ]
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、エーテル及び炭素数7以上の炭化水素を含み、該エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有し(以下、このようなエーテルを「非対称エーテル」と称す場合がある。)、該炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上であり、該エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下であることを特徴とするものである。
このような低級オレフィン製造用ナフサは、熱分解におけるメタノール生成量が少ないため、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造することができる。本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、低級オレフィンとして、特にプロピレンの製造に好適である。
ここで、「エーテル酸素原子」とは、エーテル中に含まれるエーテル結合に関与する酸素原子を指す。
【0049】
<炭素数7以上の炭化水素>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサに含有される炭素数7以上の炭化水素は、主としてバイオマス由来のナフサに含まれるエチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素類;ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルデカン等の脂肪族炭化水素類;メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等のナフテン類等である。これらの炭化水素類の炭素数の上限は、通常は15以下である。
【0050】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、これらの炭素数7以上の炭化水素の1種のみを含有するものであってもよく、2種以上を含有するものであってもよい。
【0051】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、これらの炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して14.0質量%以上である。炭素数7以上の炭化水素の含有割合が14.0質量%以上であれば、低級オレフィン製造用ナフサ中の非対称エーテルの含有量の上限を規定することによる効果を有効に得ることができ、具体的には、メタノール含有濃度のより低い低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造することができる。
この観点から、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の下限は、14.0質量%以上であり、16.0質量%が好ましく、18.0質量%以上がより好ましく、20.0質量%以上がさらに好ましい。
【0052】
一方で、ナフサ中の高炭素数の割合が増加し過ぎるとエチレンやプロピレン等の低級オレフィン収率が低下するという問題がある。この観点から、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の上限は、42.0質量%以下が好ましく、38.0質量%以下がより好ましく、35.0質量%以下がさらに好ましい。
【0053】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、14.0質量%以上42.0質量%以下が好ましく、16.0質量%以上38.0質量%以下がより好ましく、18.0質量%以上35.0質量%以下がさらに好ましく、20.0質量%以上35.0質量%以下が特に好ましい。
【0054】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサにおいて、炭素数7以上の炭化水素の含有割合が14.0質量%以上、且つ、非対称エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下であれば、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造できるという効果が顕著に奏される。この理由は定かではないが、以下のように推察される。
即ち、ナフサ中に炭素数7以上の炭化水素という、比較的分子量の大きい炭化水素を含むことで、この炭化水素の分圧が低くなる傾向がある。その結果として、非対称エーテルからメタノールを生成する副反応が抑制される。このため、熱分解時のメタノールの生成量を低減することができると推察される。
【0055】
低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、後述の実施例の項に記載の方法で分析することができる。
【0056】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭化水素の平均分子量の下限は、特に限定されるものではないが、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造する観点から、80.0g/mol以上が好ましく、81.5g/mol以上がより好ましく、83.0g/mol以上がさらに好ましい。一方、前記平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、ナフサ中の高炭素数の割合が増加し過ぎるとエチレンやプロピレン等の低級オレフィン収率が低下する傾向がある。このため、この上限値は、87.0g/mol以下が好ましく、86.5g/mol以下がより好ましく、86.0g/mol以下がさらに好ましい。
【0057】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭化水素の平均分子量は、特に限定されるものではないが、80.0g/mol以上87.0g/mol以下が好ましく、81.5g/mol以上86.5g/mol以下がより好ましく、83.0g/mol以上86.0g/mol以下がさらに好ましい。
【0058】
低級オレフィン製造用ナフサ中の炭化水素の平均分子量は、後述の実施例の項に記載の方法で分析することができる。
【0059】
<非対称エーテル>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、エーテル結合を構成している酸素原子(以下、「エーテル酸素原子」と称す場合がある。)に対して非対称構造を有する非対称エーテルの含有量がエーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下であるものである。
【0060】
低級オレフィン製造用ナフサ中の非対称エーテルの含有量がエーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下であれば、後述する理由により、この低級オレフィン製造用ナフサを熱分解して得られた低級オレフィン組成物中のメタノールの含有量を低減することができる。
【0061】
本発明において、該非対称エーテルがエーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1[単位:e]と他方の炭素原子の電荷E2[単位:e]との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上で、且つ、該非対称エーテルの含有量をエーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下とすることで、後述する理由により、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを熱分解して得られた低級オレフィン中のメタノールの含有量をより効果的に低減することができる。
本明細書において、「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
【0062】
前記2つの炭素原子の電荷の値は、前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い算出される。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用し、解析方法としてMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いることができる。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX」(TURBOMOLE社製)を使用できる。
【0063】
一般的に、前記ΔEが大きいエーテルは、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する、非対称エーテルである。本発明者らは、非対称エーテルは、熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い傾向があることを見出した。
さらに本発明者らは、エーテルのΔEが大きいほど、エーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子間に電荷の偏りがあるため、このようなエーテルは熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い傾向があることを見出した。
【0064】
さらに、本発明者らは、前記エーテルとして、非対称エーテル、より好ましくは前記ΔE[単位:e]が0.05以上である非対称エーテルを用い、且つ、ナフサに含まれる非対称エーテルの含有量をエーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下とすることで、前記ナフサを熱分解して得られた低級オレフィン組成物中のメタノールの含有濃度を低減できることを見出した。
【0065】
例えば、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する非対称エーテルとして、2-メトキシブタン(CHCHCH(CH)-O-CH)、メトキシシクロペンタン(C-O-CH)、1-メトキシプロパン(CHCHCH-O-CH)は、ΔE[単位:e]がそれぞれ0.181、0.151、0.084であり、ΔEが大きく、電荷の偏りが大きい。このため、分子中の特定の結合が選択的に分解され易い。その結果、これらのエーテルを含有するナフサの熱分解工程において、前記エーテルはメタノールを生成し易い。
【0066】
一方、エーテル酸素原子に対して対称構造を有するエーテル(以下、「対称エーテル」という。)として、ジメチルエーテル(CH-O-CH)、ジエチルエーテル(CH-CH-O-CH-CH)、ジイソプロピルエーテル((CHCH-O-CH(CH)、ジプロピルエーテル(CH-CH-CH-O-CH-CH-CH)は、ΔE[単位:e]がそれぞれ0.004、0.001、0.010、0.000であり、ΔEが小さく、電荷の偏りが小さい。このため、分子中の特定の結合が選択的に分解されるということが起こりにくい。その結果、これらの対称エーテルを含有するナフサの熱分解工程において、前記対称エーテルはメタノールを生成し難い。
【0067】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、非対称エーテルの含有量が所定値以下であるため、これを熱分解して得られる低級オレフィン組成物中の生成メタノールの含有量を低減できる。
【0068】
前記非対称エーテルは、得られる低級オレフィン組成物中の生成メタノールの含有量を効果的に低減できることから、分子中にエーテル酸素原子を1つのみ有するモノエーテルであることが好ましい。
【0069】
前記ΔE[単位:e]が0.05以上の非対称エーテルは、分子中の少なくとも1つのエーテル結合のΔEの値が0.05以上のものである。ΔEの値とメタノールの生成量との相関性が高い。得られる低級オレフィン組成物中の生成メタノールの含有量を効果的に低減できることから、分子中にエーテル酸素原子を1つのみ有するモノエーテルであることが好ましい。
【0070】
前記非対称エーテル、好ましくは、前記ΔEが0.05以上の非対称エーテルは、2-メトキシブタン、メトキシシクロペンタン、1-メトキシプロパンのように、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基の炭素原子であることが好ましい。このような非対称エーテルであれば、得られる低級オレフィン組成物中の生成メタノールの含有量をより効果的に低減できる。
【0071】
エーテルが、1分子中に2以上のエーテル結合を有する場合には、各エーテル結合部のΔEは各々のエーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の差の絶対値として求められる。前記エーテルのΔEは、2以上のΔEの中で最も大きい値のことをいう。
【0072】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサにおいて、非対称エーテルの含有量の上限は、このナフサを熱分解して得られる低級オレフィン組成物におけるメタノール生成量を抑制する観点から、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下であり、10,000質量ppm以下が好ましく、1,000質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下がさらに好ましく、50質量ppm以下が特に好ましく、30質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0073】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサに含まれる非対称エーテルの含有量の下限は、特に限定されるものではないが、前記非対称エーテルを低減するための製造コストの観点や、一般的な分析機器であるGC及びGC/MS測定による定量精度の観点から、エーテル酸素原子換算で、通常は0.1質量ppm以上であり、0.3質量ppm以上が好ましく、1.0質量ppm以上がより好ましく、3.0質量ppm以上がさらに好ましく、7.0質量ppm以上が特に好ましく、12.0質量ppm以上であることが最も好ましい。
【0074】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサに含まれる非対称エーテルの含有量は、特に限定されるものではないが、エーテル酸素原子換算で通常0.1質量ppm以上20,000質量ppm以下であり、0.3質量ppm以上10,000質量ppm以下が好ましく、1.0質量ppm以上1,000質量ppm以下がより好ましく、3.0質量ppm以上100質量ppmがさらに好ましく、7.0質量ppm以上50質量ppm以下が特に好ましく、12.0質量ppm以上30質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0075】
低級オレフィン製造用ナフサ中の非対称エーテルのエーテル酸素原子換算の含有量は、該ナフサに含まれる非対称エーテルに基づき、一般的な分析機器であるGC及びGC/MS測定などで求めることができる。
【0076】
<硫黄含有化合物>
ナフサには、通常、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、チオール化合物等の硫黄含有化合物が含有されている。本発明の低級オレフィン製造用ナフサにおいて、硫黄含有化合物の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造できることから、硫黄原子換算で180質量ppm以下が好ましく、150質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下がさらに好ましく、30質量ppm以下が特に好ましく、10質量ppm以下が最も好ましい。
硫黄含有化合物の含有量は少ない程好ましく、その下限には特に制限はないが、前記硫黄含有化合物を低減するための製造コストの観点から、通常1質量ppm以上が好ましく、3質量ppm以上がより好ましく、5質量ppm以上がさらに好ましく、7質量ppm以上が特に好ましくい。
硫黄含有化合物の含有量が少ないほど、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造できる理由は、定かではないが、硫黄含有化合物が副反応を促進するためと推察される。
【0077】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの硫黄含有化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、硫黄原子換算で1質量ppm以上180質量ppmが好ましく、3質量ppm以上150質量ppm以下がより好ましく、5質量ppm以上100質量ppm以下がさらに好ましく、7質量ppm以上30質量ppm以下が特に好ましく、7質量ppm以上10質量ppm以下が最も好ましい。
【0078】
上記ジスルフィド化合物としては、具体的にはジメチルジスルフィド、メチルエチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド等が挙げられる。
上記スルフィド化合物としては、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド等が挙げられる。
上記チオール化合物としては、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール等の炭素数2~10のチオール化合物が挙げられる。
【0079】
低級オレフィン製造用ナフサ中には、これらの硫黄含有化合物の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0080】
<比重>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサの比重は、特に限定されるものではない。ナフサ密度とナフサの組成には相関関係があることが知られている。メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造できることから、前記比重の下限は、0.6640g/cm以上であることが好ましく、0.6650g/cm以上であることがより好ましい。
前記比重の上限は、エチレンやプロピレン等の低級オレフィン収率を良好に維持できることから、0.6695g/cm以下であることが好ましく、0.6680g/cm以下であることがより好ましい。
【0081】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの比重は、特に限定されるものではないが、0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下が好ましく、0.6650g/cm以上0.6680g/cm以下がより好ましい。
【0082】
低級オレフィン製造用ナフサの比重が前記数値範囲内にあれば、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造できる理由は、定かではないが、ナフサ密度が高いほど、ナフサ中に含まれる炭化水素の炭素数が増加する傾向にあり、その結果ナフサがオレフィンに効率的に分解されるためと推察される。
【0083】
ナフサの比重は、JIS K2249-1:2011を用いて測定できる。
【0084】
<原料ナフサ>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、バイオ原料由来のナフサを含むことが、不純物として含有する、非対称エーテルより生成するメタノールの生成を抑制でき、且つ、高い低級オレフィン収率を得ることができる観点から好ましい。
【0085】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、バイオ原料由来のナフサ単独物、又は、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であることが、不純物として含有する、非対称エーテルより生成するメタノールの生成を抑制でき、且つ、高い低級オレフィン収率を得ることができる観点から好ましい。
【0086】
ここで、バイオ原料由来のナフサとは、非可食性バイオマス及び/又は非化石燃料に由来するナフサである。
【0087】
本発明において、非可食性バイオマスとは、非可食性の草や樹木を原料とした資源のことをいう。具体的には、針葉樹や広葉樹などの木質系バイオマスから得られるセルロース、ヘミセルロース、リグニン等や、トウモロコシやサトウキビの茎、ダイズやナタネなどの草本系バイオマスから得られるバイオエタノールやバイオディーゼル;植物由来の廃油;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本発明において、非化石燃料とは、例えば、水素、又は、化石燃料や非可食性バイオマスに由来しない動植物由来の有機物のことをいう。具体的には、薪、炭、乾燥した家畜糞等から得られる、メタン、糖エタノール等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0089】
本発明において、化石燃料由来のナフサとは、石油由来のナフサ、石炭由来のナフサ、天然ガス由来のナフサから選ばれる少なくとも1種のことをいう。
【0090】
<低級オレフィン製造用ナフサの製造方法>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサを製造する方法は、特に限定されるものではない。具体的な実施形態として、バイオ原料由来ナフサと化石燃料由来ナフサと混合する方法が挙げられる。
【0091】
より具体的には、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合して、混合ナフサを得、この混合ナフサとして、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ、即ち、前記混合ナフサが、エーテルとして、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有する非対称エーテルを含み、該非対称エーテルの含有量、炭素数7以上の炭化水素の含有割合、更に好ましくはナフサの比重及び硫黄含有化合物の含有量が、前述の好適範囲にある、低級オレフィン製造用ナフサを製造する方法が挙げられる。
【0092】
この場合において、非対称エーテルの含有量を前述の好適範囲にする方法として、以下の方法が挙げられる。
(1) 非対称エーテルの含有量がエーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下の、化石燃料由来ナフサ又はバイオ原料由来ナフサを購入又は入手する。
(2) 購入又は入手したナフサの非対称エーテルの含有量が多い場合は、これに非対称エーテルの含有量が少ないナフサ等を混合して該含有量を低下させる。
【0093】
炭素数7以上の炭化水素の含有割合を前述の好適範囲にするために、バイオ原料由来のナフサに、化石燃料由来のナフサを適宜混合することができる。
【0094】
低級オレフィン製造用ナフサの比重を前述の好適範囲にするために、バイオ原料由来のナフサに、化石燃料由来のナフサと適宜混合することができる。
【0095】
硫黄含有化合物の含有量を前述の好適範囲にするために、バイオ原料由来のナフサに、化石燃料由来のナフサと適宜混合することができる。
【0096】
[低級オレフィン製造用ナフサの判定方法]
本発明の一実施形態である低級オレフィン製造用ナフサの判定方法は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを製造するにあたり、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合して、混合ナフサを得、次いで、得られた前記混合ナフサが、上述した本発明の低級オレフィン製造用ナフサに該当するとき、該混合ナフサを、低級オレフィンの製造に用いるナフサ組成物として合格と判定し、熱分解処理に供することを含む、ナフサの判定方法である。
【0097】
より具体的には、前記混合ナフサが、エーテルとして、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有する非対称エーテルを含み、該非対称エーテルの含有量、炭素数7以上の炭化水素の含有割合、更に好ましくはナフサの比重及び硫黄含有化合物の含有量が、前述の好適範囲にあるとき、該混合ナフサを、低級オレフィンの製造に用いるナフサ組成物として合格と判定し、熱分解処理に供することを含む、ナフサの判定方法である。
【0098】
[低級オレフィン組成物の製造方法]
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを分解する工程を含む。
低級オレフィン製造用ナフサを熱分解することで、低級オレフィン及びメタノールを含有する低級オレフィン組成物が製造される。
この低級オレフィン組成物の製造方法において、熱分解に供する低級オレフィン製造用ナフサとして本発明の低級オレフィン製造用ナフサを用いることで、前述の通り、メタノール生成量を著しく低減することができる。
【0099】
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを用いること以外は、常法に従って、低級オレフィン組成物を製造することができる。
即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ(以下、単に「ナフサ」と称す場合がある。)を、水蒸気の存在下、700~1000℃の温度において熱分解(スチーム・クラッキング)させることにより低級オレフィン組成物を得る。
【0100】
熱分解の条件のうち、ナフサと水蒸気との比率は、ナフサ100質量部に対して水蒸気20~100質量部であることが好ましく、30~70質量部であることが更に好ましく、35~60質量部であることが特に好ましい。水蒸気量が20質量部未満の場合には、熱分解炉内に設置された分解反応を行うための配管への炭素質物質の沈着が多くなる傾向にある。他方、水蒸気量が100質量部を超える場合には、水蒸気に与える熱量が増大し、装置にかかるエネルギー負荷が過大なものとなる。
【0101】
熱分解の反応温度は、通常700~1000℃であり、好ましくは750~950℃である。反応温度が700℃未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する。反応温度が1000℃を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
【0102】
熱分解の反応時間は、好ましくは0.01~1秒、より好ましくは0.04~0.7秒である。反応時間が0.01秒未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。反応時間が1秒を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
【0103】
熱分解の反応圧力は、好ましくは0.01~1.5MPa(ゲージ圧力)、より好ましくは0.05~0.5MPa(ゲージ圧力)、さらに好ましくは0.07~0.2MPa(ゲージ圧力)である。
【0104】
熱分解の反応域を出た反応生成物は、急冷することによって、過剰な分解の進行を抑制することができる。冷却温度は、特に限定されないが、例えば、工業的スケールで実施する場合は、好ましくは200~700℃、より好ましくは250~650℃である。パイロットや実験室等の小スケールで実施する場合は、好ましくは0~100℃、より好ましくは3~40℃である。
【0105】
このようにして得られる低級オレフィンを含む反応生成物については、常法に従って、精製、分画等の処理を行うことができる。これにより、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の低級オレフィン、芳香族炭化水素類、その他の炭化水素類がそれぞれ得られる。
エタン、プロパン等の飽和炭化水素は、回収して再び熱分解に供することができる。
低級オレフィンのうちブテン及びブタジエンは、通常、ブタンとの混合物として得られる。そのため、別工程にてブタジエンを溶媒抽出により単離する。抽出残であるブテン及びブタンの混合物については別工程で重合、精留等により利用、分画することが好ましい。
【0106】
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法において、前記ΔE[単位:e]、及び、得られた低級オレフィンにおけるメタノール生成比率Bが、下記式(1)及び(2)を満たすことが好ましい。これにより、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの熱分解で、メタノールの含有量がより低減された低級オレフィン組成物を得ることができる。
0.05≦ΔE 式(1)
B≦1.25×ΔE+0.10 式(2)
【0107】
前述のとおり、メタノールは、低級オレフィンを重合する際の重合触媒に悪影響を与える。前記式(1)及び(2)を満たす条件で、ナフサを熱分解して得られた低級オレフィンは、メタノールの含有量が低減されている。このため、プロピレン等の低級オレフィンを製造する場合に有効である。
【0108】
前記式(2)は、B≦1.25×ΔE+0.05を満たす条件であることがより好ましい。
【0109】
前記メタノール生成比率Bは、ナフサを熱分解する際に生成するメタノールの生成割合を示す指標であり、「ナフサに含まれるエーテル中の酸素原子数」に対する、「凝縮水に含まれるメタノール中の酸素原子数」の比率を意味する。
メタノール生成比率Bの具体的な測定方法は後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0110】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサを用いた低級オレフィン組成物の製造方法によれば、低級オレフィンを含有し、さらにメタノールの生成が抑えられた、即ち、メタノール含有量の少ない低級オレフィン組成物を製造することができる。
【0111】
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法を用いることで、プロピレン及びメタノールを含有するプロピレン組成物を製造することができる。
より詳しくは、本発明の低級オレフィン組成物の製造方法を用いることで、プロピレンを含有し、さらにメタノールの生成が抑えられた、即ち、メタノール含有量の少ないプロピレン組成物を製造することができる。
【0112】
前述のとおり、メタノールは、低級オレフィン又はプロピレンを重合する際の重合触媒に悪影響を与える。従って、本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、プロピレン等の低級オレフィンを製造する場合に有効である。
【0113】
<低級オレフィン組成物>
本発明の低級オレフィン組成物は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する組成物である。
【0114】
前記「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素である。具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエンが挙げられる。中でも、エチレン、プロピレン、1-ブテン及び2-ブテンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0115】
前記「その誘導体」、すなわち「低級オレフィンの誘導体」とは、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを分解する際に生成する化合物であってもよいし、或いは又、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である低級オレフィンを用いて得られた化合物であっても良い。
前記「低級オレフィンの誘導体」は、特に限定されるものではないが、例えば、下記のエチレンの誘導品、プロピレンの誘導品、及びブテンの誘導品が挙げられる。
【0116】
a)エチレンの誘導品:
エチレンの酸化反応によるエチレンオキサイド、エチレングリコール、エタノールアミン、グリコールエーテル等
エチレンの塩素化による塩化ビニルモノマー、1,1,1-トリクロロエタン、塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等
エチレンの重合により得られたα-オレフィン、更に、該α-オレフィンを原料としてオキソ反応それに続く水素化反応により得られる高級アルコール等
エチレンの重合により得られた、低密度ないし高密度のポリエチレン等
エチレンと酢酸との反応により得られた酢酸ビニル等
エチレンのワッカー反応により得られたアセトアルデヒド及びその誘導体である酢酸エチル等
【0117】
b)プロピレンの誘導品:
プロピレンのアンモ酸化により得られたアクリロニトリル等
プロピレンの選択酸化により得られたアクロレイン、アクリル酸及びアクリル酸エステル等
プロピレンのオキソ反応により得られたノルマルブチルアルデヒド、2-エチルへキサノール等のオキソアルコール等
プロピレンの重合により得られたポリプロピレン等
プロピレンの選択酸化によるプロピレンオキサイド及びプロピレングリコール、プロピレンの水和によるイソプロピルアルコール等
プロピレンのワッカー反応により得られたアセトン、更に、アセトンより得られたメチルイソブチルケトンやアセトンシアンヒドリンや、アセトシアンヒドリンから得られたメチルメタクリレート等
【0118】
c)ブテンの誘導品:
ブテンの酸化脱水素により得られたブタジエン
ブタジエンのアセトキシ化、水素化、加水分解を経て得られた、1,4-ブタンジオールや、これを原料として得られた、γ-ブチ口ラクトン、Ν-メチルピロリドン等のピロリドン類等
ピロリドン類の脱水反応により得られた、テトラヒドロフラン、ポリテトラメチレングリコール等
ブタジエンを用いて得られた種々の合成ゴム
【0119】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサを用いることにより、上述した理由により、低級オレフィンを含有し、さらにメタノールの生成が抑えられた、即ち、メタノール含有量の少ない低級オレフィン組成物を製造することができる。
【0120】
本発明の低級オレフィン組成物において、前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる前記エーテルは、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する非対称エーテルである。
【0121】
本発明の低級オレフィン組成物において、前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる前記エーテルは、得られた低級オレフィン中の生成メタノールの含有量をより効果的に低減できることから、分子中にエーテル酸素原子を1つのみ有するモノエーテルが好ましい。
【0122】
本発明の低級オレフィン組成物において、前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる前記エーテルは、得られた低級オレフィン中の生成メタノールの含有量をより効果的に低減できることから、2-メトキシブタン、メトキシシクロペンタン、1-メトキシプロパンのように、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基の炭素原子であるエーテルが好ましい。
【0123】
前記エーテルが、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基の炭素原子であるエーテルの場合、本発明の低級オレフィン組成物はメタノールを含有する。
【0124】
前記低級オレフィン組成物中の低級オレフィンの含有割合は、特に限定されないが、前記低級オレフィン組成物の総質量100%に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95%質量%以上、とりわけ好ましくは98質量%以上である。前記低級オレフィン組成物中の低級オレフィンの含有割合は、100質量%であってもよい。
【0125】
前記低級オレフィン組成物中のメタノールの含有量は、特に限定されないが、前記低級オレフィン組成物の総質量に対して、好ましくは10,000質量ppm以下であり、より好ましくは1,000質量ppm以下、さらに好ましくは100質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下、とりわけ好ましくは5質量ppm以下であり、最も好ましくは1質量ppm以下である。
低級オレフィン中のメタノールの含有量はガスクロマトグラフィー法によって測定することができる。
【0126】
このような低級オレフィン組成物は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサのクラッキングを行うことにより、得ることができる。
【0127】
<ポリオレフィン系重合体>
本発明のポリオレフィン系重合体は、本発明の低級オレフィン組成物に含有される低級オレフィン及び/又はその誘導体を、公知の重合方法を用いて重合してなるポリオレフィン系重合体である。本発明のポリオレフィン系重合体は、オレフィンに由来する繰り返し単位(以下、「低級オレフィン単位」という。)又はその誘導体に由来する繰り返し単位(以下、「低級オレフィン誘導体単位」という。)を含む。
【0128】
本発明のポリオレフィン系重合体は、低級オレフィン単位のみを含む重合体であっても良いし、低級オレフィン単位と低級オレフィン誘導体単位を含む重合体であっても良いし、低級オレフィン誘導体単位のみ含む重合体であっても良い。
【0129】
前記「繰り返し単位」とは、低級オレフィン及び/又はその誘導体の重合反応によって直接形成された単位を意味し、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
【0130】
本発明のポリオレフィン系重合体は、本発明の低級オレフィン組成物に含有されるメタノールを、蒸留等の公知のメタノール分離方法により除去したものを重合してなるポリオレフィン系重合体であってもよい。
或いは又、本発明のポリオレフィン系重合体は、本発明の低級オレフィン組成物をそのまま重合してなるポリオレフィン系重合体であってもよい。この場合、上述した理由により前記低級オレフィン組成物中のメタノール含有量が少ないため、低級オレフィンを重合する際に用いる触媒の性能がメタノールにより実質的に損なわれず、得られたポリオレフィン系重合体は、分子量分布や不純物等の観点から品質的に優れている。
【実施例
【0131】
以下に実施例に代わる実験例及び比較実験例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。これらは単に説明のためであって本発明を何ら制限するものではない。
【0132】
実験例及び比較実験例で使用した化合物の名称は以下のとおりである。
2-メトキシブタン(東京化成工業(株)製)
メトキシシクロペンタン(東京化成工業(株)製)
1-メトキシプロパン(東京化成工業(株)製)
ジメチルエーテル(小池化学(株)製)
ジエチルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジイソプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
【0133】
<評価方法>
(1) ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の測定
ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、ガスクロマトグラフ測定装置(GC装置)を用いて、以下の条件で測定した。
<GC測定条件>
GC装置:GC-2010 Plus(装置名、島津製作所社製)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
キャリアガス:窒素(流量0.8ml/分)
カラム:キャピラリーカラム CBP1-M50-025(島津製作所社製、サイズ:0.22mmφ×50m、膜厚:0.25μm)
カラム温度:0℃(保持時間5分)→3℃/分で昇温→200℃(保持時間なし)→10℃/分で昇温→250℃(保持時間10分)
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
サンプル量:0.5μL(スプリット比:1/60)
定量方法:絶対検量線法
【0134】
GC測定用試料としては、ナフサを前処理せずそのまま使用した。
ガスクロマトグラムのピーク面積から、炭化水素の含有割合を算出するための検量線は、ガスクロマトグラムから同定された炭素数1~15の炭化水素の各成分として、予めナフサから分取・精製した化合物、市販品の化合物、及び予め合成した化合物を、正確に秤量、希釈したものを標準溶液に用いて作成した。
【0135】
ナフサのガスクロマトグラムの一例として、実験例C-1で使用した石油由来ナフサとバイオ原料由来ナフサの混合物について、ガスクロマトグラムから同定された、当該ナフサ中に含まれる炭化水素の各成分のリテンションタイム(分)と種類、炭素数を、表Aに示した。
表Aに示されるように、炭化水素の各成分は全て、リテンションタイム3.570~39.021分の間に観察され、当該炭化水素の炭素数は3~10の範囲内であった。
ここでは実験例C-1のナフサ混合物を例にして説明しているため、表Aに示される結果となっている。しかし、ナフサの由来や産地、若しくは製造条件等によって、ナフサ中に含まれる炭化水素の各成分の種類や炭素数は異なるものとなる。
【0136】
【表A】
【0137】
以下の手順に従って、ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合を算出した。
まず、上記のGC測定条件を用いて得られたガスクロマトグラムにおいて、リテンションタイム1分~100分の間に観察されたピークから、炭素数1~15の炭化水素の各成分について、ピーク面積を読み取り、絶対検量線法により、前記各成分の含有割合(単位:質量%)を算出した。
次いで、炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値をB1、及び、炭素数7~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値をA1として、下記式からナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合を算出した。
【0138】
炭素数7以上の炭化水素の含有割合(質量%)=A1/B1×100
A1:炭素数7~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
B1:炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
【0139】
(2) ナフサ中の炭化水素の平均分子量の算出
上述した「(1)ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合」の測定方法を用いて算出した、B1、並びに、炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合Sn及び相対分子質量Mnを用いて、ナフサ中の炭化水素の平均分子量を、下記式から算出した。
【0140】
ナフサ中の炭化水素の平均分子量=(S1×M1+S2×M2+・・・・・S15×M15)/B1
Sn(nは1~15の整数):炭素数nの炭化水素の含有割合(質量%)
Mn(nは1~15の整数):炭素数nの炭化水素の相対分子質量
B1:炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
【0141】
相対分子質量とは、物質1分子の質量の統一原子質量単位に対する比であり、分子中に含まれる原子量の総和のことをいう。
ある炭素数を有する炭化水素は、相対分子質量が異なる複数の炭化水素成分から構成されることもある。例えば、炭素数5の炭化水素は、イソペンタン、2-メチル-1-ブテン、ノルマルペンタン、2-ペンテン、2-メチル-2-ブテン、及びシクロペンタンの6種類の炭化水素から構成される。
【0142】
(3) ナフサ中の硫黄含有化合物の含有量の分析
ナフサ中の硫黄含有化合物の硫黄含有量として、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)を用いて、硫黄原子に換算した硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算の含有量)を測定した。
まず、ICP-OES測定用試料を、以下の手順に従って作成した。
テフロン製容器中で、前記ナフサ1mlと硝酸8mlを混合した後、マイクロ波分解装置(装置名:MultiwavePRO、アントンパール社製)を用いて、下記の条件で加熱分解処理した後、超純水で25mlに定容し、これをICP-OES測定用試料とした。
マイクロ波分解条件:Ramp(500W/10分)→Hold(500W/10分)→Ramp(1300W/10分)→Hold(1300W/30分)
前記測定用試料について、ICP-OES(装置名:iCAP6500型、サーモフィッシャー社製、波長:S=180.731nm)を用いて、ナフサ中の硫黄原子の含有濃度(単位:質量ppm)を測定し、これを硫黄原子換算の硫黄含有化合物の含有量とした。
検量線の作成は、Sulfur Stndard for ICP(製品名、アルドリッチ製)を用いて絶対検量線法で行った。
【0143】
(4) ΔEの計算方法
実験例及び比較実験例に用いたエーテルについて、該エーテル中のエーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の差の絶対値ΔE[単位:e]を下記の手順に従って計算した。
前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い、前記2つの炭素原子の電荷の値を算出した。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用した。解析方法はMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いた。
次いで、前記エーテル中のエーテル結合の酸素原子に結合する2つの炭素原子について、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)(単位:e)を算出した。
「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。例えば、ΔEが0.05[単位:e]である場合、これをSI系単位で表すと、ΔE=0.05×1.602176634×10-19[単位:C]である。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE ver7.2」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX ver4.4.1」(TURBOMOLE社製)を使用した。
【0144】
(5) メタノール生成比率Bの算出
ナフサの熱分解に由来して生成したメタノールは、実質的に、実験例及び比較実験例で得られた凝縮水に含まれ、ガス成分及び油分には含まれない。このことから、実験例及び比較実験例で得られた凝縮水のメタノール生成比率Bを、ガスクロマトグラフィー質量分析測定装置(GC/MS装置)(装置名:GCMS-QP2010Ultra、(株)島津製作所製)を用いて、下記の条件で測定した。
実験例及び比較実験例に用いたブランクナフサからはメタノールが生成しないことを事前に確認した。
<GC/MS測定条件>
キャリアガス: ヘリウム、線速40cm/sec
カラム: SUPELCOWAX-10(Supelco社製、内径0.32mm×長さ60m×膜厚0.25μm)
温度(昇温条件): 50℃(保持時間5分)→20℃/分で昇温→200℃(保持時間2.5分)
注入口温度: 200℃
MSインターフェース温度: 200℃
イオン源温度: 200℃
サンプル量: 0.5μL
スプリット比: 1:5
測定モード: SIM(m/z=31)
【0145】
実験例及び比較実験例で得られた凝縮水から熱分解生成物であるメタノールの生成量を定量し、濃度既知のメタノールの標準溶液を用いて予め作成した検量線に基づいて、下記式より添加したエーテルに対するメタノール生成比率Bを求めた。
【0146】
[メタノール生成比率B]=[凝縮水中のメタノール中の酸素原子数]÷[ブランクナフサに添加したエーテル中の酸素原子数]
【0147】
つまり、メタノール生成比率Bが1.00の場合は、添加したエーテルがすべてメタノールとして定量されたことを意味する。
ここで添加したエーテル中に含まれる酸素原子の数は、エーテル化合物1分子当たり1酸素原子である。
【0148】
(6) 低級オレフィン収率の測定
原料ナフサを熱分解したときの低級オレフィン収率を、SUS310S製反応管を備えたナフサ流通評価装置を用いて、以下の方法で測定した。
「低級オレフィン」とは、上述したようにエチレン,プロピレン,ブテン(1-ブテン,2-ブテン及びイソブテン),ブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
前記反応管(内径4mm×外径6mm)に、後述する実験例及び比較実験例のナフサ及びスチームを、前記反応管の下部から供給し、反応温度810℃、反応圧力0.1MPaG、滞留時間0.6秒、スチーム/ナフサの質量比率(S/O比率)を0.4の条件で、ナフサを熱分解させ、前記反応管の上部から生成物を抜き出した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPaG下、5℃の条件で気液分離して、分離ガスと分離液を得た。
【0149】
得られた分離ガスについて、ナフサの熱分解生成物である水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素、並びに炭化水素として、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、プロパジエン、イソブタン、ノルマルブタン、アレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、メチルアセチレン、イソペンタン、ノルマルペンタン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロペンタン、2-メチルー1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、シクロペンテン、イソプレン、ペンタジエン、シクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、エチルベンゼン、スチレン、ノルマルヘプタン及びノルマルオクタン(以下、「炭化水素類」という。)のそれぞれを個別のガスクロマトグラフ測定装置を用いて定量した。
具体的には、水素の定量にはガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-8A、島津製作所社製)を用いた。
一酸化炭素、二酸化炭素、及び前記炭化水素類の定量にはガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-2014、島津製作所社製)を用いた。
このように測定した水素、一酸化炭素、二酸化炭素、炭化水素類、及び低級オレフィンの定量値を、それぞれX(水素)、X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)、X(炭化水素類)、X(低級オレフィン)(単位:g)とした。
【0150】
油水分離で油分として分離された分離液について、ガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-2014、島津製作所社製)を用いて、油分側の分離液中に含まれる、ナフサの熱分解生成物として、低級オレフィンを定量し、その定量値をY(低級オレフィン)(単位:g)とした。
前記炭化水素類及び沸点150℃以上280℃以下の炭化水素を定量し、これらの定量値を合わせてY(炭化水素化合物)(単位:g)とした。
【0151】
低級オレフィン収率(単位:質量%)は、ナフサの熱分解開始後60~420分の間に上述した方法で測定したX(水素)、X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)、X(低級オレフィン)、X(炭化水素類)、Y(低級オレフィン)及びY(炭化水素化合物)を用いて、下記式により算出した。
低級オレフィン収率(単位:重量%)=(X(低級オレフィン)+Y(低級オレフィン))/(X(水素)+X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)+X(炭化水素類)+Y(炭化水素化合物))×100
【0152】
[比較実験例A-1-1]
原料として使用する石油由来のナフサ(サウジアラビア産オープンスペックナフサ、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:13.1質量%、炭化水素の平均分子量:79.2g/mol、比重:0.6636g/cm、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):190質量ppm)に対し、2-メトキシブタンをエーテル由来の酸素原子の含有量として50質量ppmとなるように添加し、次いで、水蒸気の存在下に熱分解炉を用いて下記熱分解条件で熱分解した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPa(ゲージ圧力)下、5℃の条件で気液分離して、ガス成分と分離液を得た。
さらに前記分離液を、分液ロートを用いて大気圧下、室温の条件で油分と凝縮水とに油水分離した。
【0153】
<熱分解条件>
ナフサ流量:83.1g/hr
水蒸気/ナフサ質量比:0.4
滞留時間:0.6秒
熱分解温度:810℃
熱分解圧力:0.1MPa(ゲージ圧力)
【0154】
上述した方法により前記凝縮水のメタノール生成比率Bを測定し、ΔEの値と共に、表1に示した。また、ΔEとメタノール生成比率Bの関係を図1に示した。
【0155】
[比較実験例A-1-2~A-1-3]
エーテル酸素原子換算の含有量を表1記載のとおりに変更した以外は、比較実験例A-1-1と同様の条件で評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0156】
[比較実験例A-0]
2-メトキシブタンを不使用とした以外は、比較実験例A-1-1と同様の条件で評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0157】
[比較実験例A-2~A-7]
エーテルの種類及び該エーテルのエーテル酸素原子換算の含有量を表1記載のとおりに変更した以外は、比較実験例A-1と同様の条件で評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0158】
比較実験例A-1は、表1記載の比較実験例A-1-1乃至比較実験例A-1-3である。
比較実験例A-2は、表1記載の比較実験例A-2-1乃至比較実験例A-2-3である。
比較実験例A-3は、表1記載の比較実験例A-3-1乃至比較実験例A-3-3である。
【0159】
以下の表1~表3において、添加エーテルのエーテル酸素原子換算の含有量を「酸素原子濃度」と記載する。
【0160】
【表1】
【0161】
[実験例B-1~B-3、比較実験例B-4及びB-7]
比較実験例A-1における石油由来のナフサのかわりにバイオ原料由来ナフサ(AltAir Paramount社製、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:43.9質量%、炭化水素の平均分子量:88.3g/mol、比重:0.6700g/cm、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):1質量ppm)を用い、且つ、エーテルの種類及び該エーテル由来のエーテル酸素原子換算の含有量を表2記載のとおりに変更した以外は、比較実験例A-1と同様の条件で評価を行った。評価結果を表2に示した。
実験例B-2は、表1記載の実験例B-2-1乃至実験例B-2-3である。
【0162】
[実験例B-0]
2-メトキシブタンを不使用とした以外は、実験例B-1と同様の条件で評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0163】
【表2】
【0164】
[実験例C-1]
比較実験例A-1における石油由来ナフサのかわりに、該石油由来ナフサと前記バイオ原料由来ナフサの混合物(質量比1:1)(炭素数7以上の炭化水素の含有割合:30.6質量%、炭化水素の平均分子量:84.14g/mol、比重:0.6667g/cm、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):100質量ppm)を用い、且つ、エーテルの種類及び該エーテル由来のエーテル酸素原子換算の含有量を表3記載のとおりに変更した以外は、比較実験例A-1と同様の条件で評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0165】
[実験例C-0]
2-メトキシブタンを不使用とした以外は、実験例C-1と同様の条件で評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0166】
【表3】
【0167】
図1には、実験例B-1、B-2-1、B-3及び実験例C-1、並びに、比較実験例A-1-1、A-2-1、A-3-1、A-4、A-7、B-4及びB-7をプロットした。
【0168】
実験例B-1~B-3及び比較実験例B-4及びB-7と、比較実験例A-1~A-7との対比から、バイオ原料由来のナフサは、化石燃料由来のナフサと比較すると、メタノール生成比率Bが低く、メタノールを生成し難いことが分かる。
その理由は、定かではないが、以下の通り推察される。
バイオ原料由来のナフサは、化石燃料由来のナフサと比較すると、ナフサ中に含まれる炭化水素の分子量が全体的に大きく、該炭化水素の分圧が低くなる傾向がある。その結果として、バイオ原料由来のナフサでは、非対称エーテルからメタノールを生成する副反応が抑制される。このため、化石燃料由来のナフサと比べると、熱分解条件下で熱分解してもメタノールが生成し難い。
さらに、いずれのナフサにおいても、ΔEが0.05以上のエーテルは、ΔEの値が大きいほどメタノールを多く生成する傾向があることが分かる。
【0169】
実験例B-1~B-3及び比較実験例B-4及びB-7の対比、並びに、比較実験例A-1~A-7の対比から、エーテルのΔEの値とメタノール生成比率Bとには相関があり、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルは、メタノール生成比率Bが高く、メタノールを生成し易いことが分かる。さらに、ΔEが0.05以上のエーテルは、ΔEの値が大きいほどメタノールを多く生成する傾向があることが分かる。
【0170】
表2の実験例B-2より、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルは、エーテル酸素原子換算の濃度が20,000質量ppm以下の条件において、エーテル酸素原子換算の濃度を50質量ppm、500質量ppm、5,000質量ppmとしたところ、メタノール生成比率がほぼ同等の値であった。
その理由は、以下の通り推察される。
非対称構造を有するエーテルは、ΔEが大きいため、エーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子間において電荷の偏りが大きく、熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い。
【0171】
比較実験例A-1-1、実験例B-1及び実験例C-1の低級オレフィン収率(単位:質量%)の内訳を表4に示した。
本評価において、「低級オレフィン」とは、前述のとおり、エチレン,プロピレン,ブテン(1-ブテン,2-ブテン及びイソブテン),ブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
【0172】
【表4】
【0173】
表4から、ナフサ中のバイオ由来ナフサの含有割合が大きいほど、いずれの低級オレフィンについても収率が高くなることが分かる。
従って、原料ナフサとして、例えばバイオ原料由来のナフサを含有することにより、炭素数7以上の炭化水素の含有割合が所定値以上で、且つ、エーテルの中でもエーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルのエーテル酸素原子換算の濃度を所定値以下としたナフサを用いることで、メタノール生成濃度を抑えて製品価値の高い低級オレフィンを製造することができることが分かる。
【0174】
[参考実験例D-1~D-3]
比較実験例C-1における石油由来ナフサとバイオ原料由来ナフサの混合物(質量比1:1)において、前記石油由来ナフサのかわりに石油由来ナフサB(日本国産ナフサ、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:16.3質量%、炭化水素の平均分子量:80.4g/mol、比重:0.6656g/cm)、及び、前記バイオ原料由来ナフサのかわりにバイオ原料由来ナフサB(AltAir Paramount社製、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:38.6質量%、炭化水素の平均分子量:88.6g/mol、比重:0.6712g/cm)を用い、且つ、エーテルの種類及び該エーテル由来のエーテル酸素原子換算の含有量を表5記載のとおりに変更した以外は、該石油由来ナフサと該バイオ原料由来ナフサの混合物(質量比1:1)(炭素数7以上の炭化水素の含有割合:32.1質量%、炭化水素の平均分子量:85.0g/mol、比重:0.6692g/cm)を得た。
【0175】
【表5】
【0176】
表5に示した、石油由来ナフサとバイオ原料由来ナフサの混合物であって、炭素数7以上の炭化水素の含有割合が所定値以上で、且つ、エーテルの中でもエーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルのエーテル酸素原子換算の濃度を所定値以下とした原料ナフサを用いることで、メタノール生成濃度を抑えて、低級オレフィンの収率が高い、製品価値の高い低級オレフィンを製造することができると期待できる。
【0177】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、発明の効果が奏される範囲内で様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2022年8月19日付で出願された日本特許出願2022-131236に基づいており、その全体が引用により援用される。

図1