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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 85/00 20060101AFI20240730BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20240730BHJP
   C08G 63/83 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08G85/00
C08G18/00 Z
C08G63/83
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024049349
(22)【出願日】2024-03-26
(62)【分割の表示】P 2023563849の分割
【原出願日】2023-07-13
(65)【公開番号】P2024079782
(43)【公開日】2024-06-11
【審査請求日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2022117126
(32)【優先日】2022-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】堤 大士
(72)【発明者】
【氏名】北田 満
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正紀
(72)【発明者】
【氏名】重廣 龍矢
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-34946(JP,A)
【文献】特開2016-60705(JP,A)
【文献】国際公開第2010/103945(WO,A1)
【文献】特開2001-114881(JP,A)
【文献】特開平7-10981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料として重合反応又は重縮合反応を行うポリマーの製造方法であって、
前記1,6-ヘキサンジオール組成物が、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方または両方、およびアルカリ金属元素を含有し、
前記1,6-ヘキサンジオール組成物の総量に対する、前記アルカリ金属元素の合計含有量が0.1~1000質量ppmの範囲であり、前記1,6-ヘキサンジオール組成物の酸価が0.001~1.0mgKOH/gの範囲であるポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記1,6-ヘキサンジオール組成物が有機酸をさらに含有し、前記有機酸の25℃におけるpKa値が4.0以上である請求項1記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記1,6-ヘキサンジオール組成物がバイオマス資源から誘導されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
1,6-ヘキサンジオール組成物を、イオン交換及び/又は蒸留により精製し請求項1に記載の1,6-ヘキサンジオール組成物を得る工程を含み、
前記工程により得られた1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料として重合反応又は重縮合反応を行う請求項1記載のポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記ポリマーがポリエステルであり、
前記1,6-ヘキサンジオール組成物及びカルボン酸を重縮合反応させる請求項1記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記ポリマーがポリウレタンであり、
1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリオール及びポリイソシアネートを反応原料として重合反応を行う請求項1記載のポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリオールがポリエステルポリオールである請求項6記載のポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,6-ヘキサンジオール組成物およびそれを用いたポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,6-ヘキサンジオール(1,6-HD)組成物は、ポリエステル、ポリウレタン等のポリマーの製造のために有用な中間生成物である。1,6-ヘキサンジオール組成物は一般的に、(1)アジピン酸若しくはアジピン酸含有フィード流の水素化によって、(2)ヒドロキシカプロン酸若しくはそのエステルの水素化によって、又は(3)カプロラクトンの水素化によって製造可能である。
【0003】
1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリエステル、ポリウレタン等のポリマーは、人工皮革などに広く活用されている。
ポリウレタンに関し、例えば、特許文献1には、ポリイソシアネートと、多価アルコールと、多価カルボン酸とを用いて固体酸触媒の存在下で製造されたポリエステルポリオールを含むことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物が、耐加水分解性に優れることが開示されているが、ポリエステルポリオール製造時に特殊な固体触媒を使用し、かつ固体触媒を回収する必要があり、他の技術の提供も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/035579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記他の技術として、1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリマーの耐加水分解性を改善できる1,6-ヘキサンジオール組成物、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アルカリ金属元素を特定量含有する特定の酸価の1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリマーが、良好な耐加水分解性を有することを見出して本発明を完成した。
即ち本発明は、以下の発明を提供するものである。
【0007】
[1]1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方または両方、およびアルカリ金属元素を含有する1,6-ヘキサンジオール組成物であって、前記組成物の総量に対する、前記アルカリ金属元素の合計含有量が0.1~1000質量ppmの範囲であり、且つ前記組成物の酸価が0.001~1.0mgKOH/gの範囲である1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0008】
[2]有機酸をさらに含有し、前記有機酸の25℃におけるpKa値が4.0以上である[1]の1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0009】
[3]前記1,6-ヘキサンジオール組成物がバイオマス資源から誘導されたことを特徴とする[1]または[2]の1,6-ヘキサンジオール組成物。
【0010】
[4][1]~[3]のいずれかの1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリマー。
【0011】
[5]ポリマーがポリエステルまたはポリウレタンである[4]のポリマー。
【0012】
[6]少なくとも1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料として重合反応又は重縮合反応を行うポリマーの製造方法であって、1,6-ヘキサンジオール組成物が、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方または両方、およびアルカリ金属元素を含有し、
前記1,6-ヘキサンジオール組成物の総量に対する、アルカリ金属元素の合計含有量が0.1~1000質量ppmの範囲であり、1,6-ヘキサンジオール組成物の酸価が0.001~1.0mgKOH/gの範囲であるポリマーの製造方法。
【0013】
[7]1,6-ヘキサンジオール組成物が有機酸をさらに含有し、有機酸の25℃におけるpKa値が4.0以上である[7]のポリマーの製造方法。
【0014】
[8]1,6-ヘキサンジオール組成物がバイオマス資源から誘導されたことを特徴とする[7]または[8]に記載のポリマーの製造方法。
【0015】
[9]1,6-ヘキサンジオール組成物を、イオン交換及び/又は蒸留により精製し請求項1に記載の1,6-ヘキサンジオール組成物を得る工程を含み、
前記工程により得られた1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料として重合反応又は重縮合反応を行う[6]~[8]のいずれかのポリマーの製造方法。
【0016】
[10]ポリマーがポリエステルであり、1,6-ヘキサンジオール組成物及びカルボン酸を重縮合反応させる[6]~[10]記載のポリマーの製造方法。
【0017】
[11]ポリマーがポリウレタンであり、1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリオール及びポリイソシアネートを反応原料として重合反応を行う[6]~[10]記載のポリマーの製造方法。
【0018】
[12]1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリオールがポリエステルポリオールである[11]記載のポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、酸価が0.001~1.0mgKOH/g、アルカリ金属元素の合計含有量が0.1~1000質量ppmであることで、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリマーは、良好な耐加水分解性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<1,6-ヘキサンジオール組成物>
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物(以下、単に組成物という)は、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方または両方、およびアルカリ金属元素を含有し、組成物の総量に対する、前記アルカリ金属元素の合計含有量が0.1~1000質量ppmの範囲であり、且つ前記組成物の酸価が0.001~1.0mgKOH/gの範囲である。
【0021】
<<1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール誘導体>>
本発明の組成物に含まれる1,6-ヘキサンジオールは、未変性の1,6-ヘキサンジオールであることが好ましいが、1,6-ヘキサンジオール誘導体であってもよい。即ち本発明の組成物は、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方を少なくとも含有する。
【0022】
本発明の組成物に含まれる1,6-ヘキサンジオール誘導体は、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物に含まれる1,6-ヘキサンジオールが有する二つの水酸基のうちの一方又は両方を変性させた化合物である。ここで、1,6-ヘキサンジオールが有する水酸基を変性する方法としては、水酸基を変性する公知の方法が使用でき、例えばエーテル化反応、エステル化反応、(メタ)アクリル酸による変性等が挙げられる。
【0023】
前記1,6-ヘキサンジオール誘導体としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、1,6-ヘキサンジオールモノアクリレートモノメタクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールモノビニルエーテル等のビニルエーテル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;6-プロピルオキシ-1-ヘキサノール、1,6-ジプロポキシ-ヘキサン、1,6-ヘキサンジオールメチルエーテル、1,6-ジメトキシヘキサン等の脂肪族アルキルエーテル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;プロピル6-ヒドロキシヘキサノエート、ジ-n-プロピルアジペート、メチル6-ヒドロキシカプロエート、ジメチルアジペート等の脂肪酸エステル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基、メタクリロイル基の一方又は両方を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレートの一方又は両方を意味する。
【0025】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、1,6-ヘキサンジオールおよび1,6-ヘキサンジオール誘導体のいずれか一方または両方の含有量は、好ましくは96.00~99.99質量%、より好ましくは99.00~99.99質量%、更に好ましくは99.50~99.99質量%である。アルカリ金属元素の合計含有量を上記範囲内、組成物の酸価を上記範囲内としつつ、1,6-ヘキサンジオール組成物の純度を上記範囲内とすることにより、本発明の効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、1,6-ヘキサンジオールの含有量は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)により測定される値である。
【0026】
<<アルカリ金属元素>>
本発明の組成物は、アルカリ金属元素を含有し、組成物の総量に対するアルカリ金属元素の合計含有量が0.1~1000質量ppmである。
【0027】
前記アルカリ金属元素は特に限定されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、ナトリウム、カリウムが好ましい。
【0028】
本発明の組成物に含まれるアルカリ金属元素の存在状態は特に限定されず、アルカリ金属単体、アルカリ金属化合物、アルカリ金属イオン等でも良い。
アルカリ金属化合物の具体例として、上記のアルカリ金属元素と酢酸、リン酸、硝酸等の酸の金属塩等が挙げられる。
【0029】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素およびカリウム金属元素のいずれか一方又は両方の合計含有量)は、上限は好ましくは1000質量ppm以下である。前記合計含有量の下限は特に限定されず、好ましくは0.1質量ppm以上、より好ましくは1質量ppm以上、更に好ましくは100質量ppm以上、特に好ましくは500質量ppm以上である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでも用いることができる。
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素およびカリウム金属元素のいずれか一方又は両方の合計含有量)は、0.1~1000質量ppmであるが、好ましくは1~1000質量ppm、より好ましくは100~1000質量ppm、更に好ましくは500~1000質量ppmである。本明細書において、アルカリ金属元素の合計含有量は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により測定される値である。
【0030】
<<本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物の酸価>>
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物の酸価は、上限は好ましくは1.0mgKOH/g以下、より好ましくは0.8mgKOH/g以下、更に好ましくは0.6mgKOH/g以下である。前記酸価の下限は特に限定されず、好ましくは0.001mgKOH/g以上、より好ましくは0.01mgKOH/g以上、更に好ましくは0.1mgKOH/g以上である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでも用いることができる。
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物の酸価は、0.001~1.0mgKOH/gであるが、好ましくは0.01~0.8mgKOH/g、より好ましくは0.1~0.6mgKOH/gである。
酸価が上記上限を超える場合は、1,6-ヘキサンジオール組成物を使用してポリマー(例えば、ポリエステル)とした場合に、設計したポリマー(例えば、ポリエステル)の性能を発現しなくなる恐れがある。また酸価が上記下限未満の場合は、1,6-ヘキサンジオール組成物を使用してポリマー(例えば、ポリエステルやポリウレタン)を合成する際に反応性が低下する恐れがある。範囲内であれば、ポリマー(例えば、ポリエステル)の加水分解反応の促進を好適に抑制できる。
本明細書において、酸価とは、JIS K 0070-1992により測定される値である。
【0031】
<<有機酸>>
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸をさらに含有することが好ましい。これにより、本発明の効果がより好適に得られる傾向がある。
【0032】
前記有機酸としては、25℃におけるpKa値が4.0以上であれば特に限定されず、例えば、酢酸(pKa値4.56)、コハク酸(pKa値4.00)、プロピオン酸(pKa値4.67)、アジピン酸(pKa値4.26)、吉草酸(pKa値4.64)、ピバル酸(pKa値5.03)、カテコール(pKa値9.23)、フェノール(pKa値9.82)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、酢酸、コハク酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
なお、有機酸の中には2個以上のpKa値を示す化合物があるが、本発明においては、その場合の化合物のpKa値とは、最も低い値である。
【0033】
前記有機酸の25℃におけるpKa値は4.0以上であるが、好ましくは4.0~10.0、より好ましくは4.0~8.0、更に好ましくは4.0~6.0、特に好ましくは4.0~5.0である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。本明細書において、有機酸の25℃におけるpKa値は、中和滴定により測定される値である。25℃でのpKaの値が4.0以上の有機酸としては、例えば、化学便覧(基礎編)改訂4版、II-317~II-321、丸善出版(1993年)に記載の有機酸が挙げられる。
【0034】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸の含有量は、本発明の組成物の酸価が前記数値範囲内となる含有量であればよいが、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸の含有量は、上限は好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下である。前記含有量の下限は特に限定されず、好ましくは0.001質量ppm以上であることが、より好ましくは0.01質量ppm以上、更に好ましくは0.05質量ppm以上、特に好ましくは0.1質量ppm以上である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでも用いることができる。
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物がバイオマス資源由来の場合には、1,6-ヘキサンジオール組成物において、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸の含有量は、精製工程の経済性の理由から好ましくは1~2000質量ppm、更に好ましくは10~1000質量ppmである。本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸の含有量は、好ましくは0.001~2000質量ppm、より好ましくは0.001~1000質量ppm、更に好ましくは0.01~500質量ppm、特に好ましくは0.1~500質量ppmである。これにより、本発明の効果がより好適に得られる傾向がある。
ここで、有機酸の含有量は、複数の有機酸を含有する場合は合計含有量を意味する。他の成分の含有量も同様である。また、1,6-ヘキサンジオール組成物中における有機酸の含有量とは、原則遊離の有機酸の含有量を意味するが、塩を形成している有機酸の含有量を含んでいてもよい。
【0035】
1,6-ヘキサンジオール組成物中に、25℃におけるpKa値が4.0未満の有機酸が存在すると、このような有機酸は、酸化してアルデヒドになりやすく、ポリエステル等のポリマーが着色したり、臭気が発生したりする恐れがある。またバイオマス資源由来の1,6-ヘキサンジオールではpKa値が4.0未満の有機酸としてアミノ酸が残存し易く、これらアミノ酸が存在すると、ポリエステルやポリウレタン等のポリマーが着色する恐れがある。
よって、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、25℃におけるpKa値が4.0未満の有機酸の含有量は、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは0質量ppm(未配合)である。
本明細書において、有機酸の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により測定される値である。
【0036】
25℃におけるpKa値が4.0未満の有機酸としては、25℃におけるpKa値が4.0未満であれば特に限定されず、例えば、グリシン(pKa値2.36)、アラニン(pKa値2.30)、バリン(pKa値2.26)、ロイシン(pKa値2.35)、イソロイシン(pKa値2.21)、セリン(pKa値2.13)、システイン(pKa値1.88)、メチオニン(pKa値2.15)、アスパラギン酸(pKa値1.93)、アスパラギン(pKa値2.14)、グルタミン酸(pKa値2.18)、グルタミン(pKa値2.17)、アルギニン(pKa値2.05)、リシン(pKa値2.04)、ヒスチジン(pKa値1.70)、フェニルアラニン(pKa値2.26)、チロシン(pKa値2.17)、トリプトファン(pKa値2.35)、プロリン(pKa値1.90)等のアミノ酸;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記25℃におけるpKa値が4.0未満の有機酸を使用する場合は、窒素原子を含まず、可能な限りpKa値の高い有機酸を使用することが望ましい。
【0038】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、アルカリ金属元素の合計含有量が上記範囲内となるように製造すればよい。例えば、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物は、アルカリ金属元素の合計含有量が0.1質量ppm未満であるため、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物に、例えば酢酸、リン酸、硝酸などの酸とアルカリ金属の金属塩を添加し、アルカリ金属元素の合計含有量が上記範囲内となるようにすればよい。同様に、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物は、酸価が0であるため、市販品の1,6-ヘキサンジオール組成物に酸(好ましくは25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸)を添加し、酸価が上記範囲内となるようにすればよい。ここで、酸の添加量を増加すれば、酸価も上昇する。
【0039】
本発明の組成物におけるアルカリ金属元素の含有量及び酸価を上記範囲とすることで、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリマー(例えば、ポリエステルやエステル結合を有するポリウレタン等)は、良好な耐加水分解性を有する。このような作用効果が発揮される理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0040】
通常、ポリエステルを水の存在下で加熱すると、ポリエステルのエステル結合部分に脱水縮合反応時の触媒残渣が配位結合し、エステルの加水分解反応が生じるところ、アルカリ金属元素は触媒残渣がポリエステルのエステル部分に配位することを阻害する。これにより、ポリエステル及びエステル結合を有するポリウレタンの加水分解を好適に抑制でき、良好な耐加水分解性が得られる。
【0041】
一方、組成物がアルカリ金属元素を多く含有する場合、ポリエステル等のポリマーを合成する際、触媒に配位結合して、触媒本来の作用、つまり、重合反応の速度を増加させる作用を低下させるおそれがある。そこで本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物において、アルカリ金属元素を特定量しか含有しないようにすることにより、触媒本来の作用がアルカリ金属元素により過度に低下することを抑制できるため、ポリエステルまたはポリウレタン等のポリマーを合成する際にも悪影響を及ぼさない。
よって、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、特定の酸価を有し、特定量のアルカリ金属元素を含有するため、良好な耐加水分解性をポリマーに付与できると共に、ポリエステルやポリウレタンなどのポリマーを合成する際にも悪影響を及ぼさず、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリマー(例えば、ポリエステルやエステル結合を有するポリウレタン)は、良好な耐加水分解性を有する。
【0042】
<バイオマス資源から誘導された1,6-ヘキサンジオール組成物>
近年、環境意識が高まっており、地球温暖化に影響を及ぼす石油由来原料ではなく、植物等のバイオマス資源由来の原料が望まれている。バイオマス資源とは、動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源であり、好ましい資源としては、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバ、大豆、おから、バガス、植物油、油脂、古紙、製紙残渣などの植物資源である。これらのバイオマス資源は、一般に、窒素元素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの多くのアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素を含有する。またバイオマス資源からコリネ菌、大腸菌などの微生物を利用してバイオマス資源由来の原料を得る方法も開示されており、本発明においても、例えば、特開2020-114227号公報に記載の製造方法により得られたバイオマス資源由来の1,6-ヘキサンジオール組成物等のバイオマス資源から誘導された1,6-ヘキサンジオール組成物を好適に使用できる。微生物による発酵を利用する場合には、発酵を効率的に進めるために、通常、発酵液の水素イオン濃度(pH)を中和剤により調整する。中和剤や培養液中に多くのアルカリ金属元素、アルカリ土類金属を含有する。また、特開2020-114227号公報に記載の製造方法により得られたバイオマス資源由来の1,6-ヘキサンジオールには、不純物として酢酸やコハク酸等の有機酸が混入することが本発明者らの鋭意検討の結果判明した。これら不純物は不必要なものとしてコストの許す限り、精製方法を駆使して取り除かれる。しかしながら、有機酸及びアルカリ金属元素は、1,6-ヘキサンジオールと共存させる成分として不必要なものでなく、特定量の共存はむしろポリエステル等のポリマーの耐加水分解性を向上させる必須の成分であることが本発明者らの鋭意研究の結果判明した。公知の精製方法の組み合わせにより、アルカリ金属元素の合計含有量が上記範囲内、酸価が上記範囲内の1,6-ヘキサンジオール組成物を得ることができる。
【0043】
<ポリマー>
本発明のポリマーは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とする。
前記ポリマーは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位を有する重合体であれば特に限定されず、オリゴマーも含む。例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテル、前記エポキシ基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体を原料とするエポキシ系ポリマー、前記(メタ)アクリロイル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体を原料とするアクリル系ポリマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
なかでも、耐加水分解性の改善効果がより好適に発揮されやすいという理由から、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルが好ましく、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルがより好ましく、ポリエステル、ポリウレタンが更に好ましい。
なお、本発明のポリマーは、少なくとも本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位を有すると共に、1,6-ヘキサンジオール組成物由来のアルカリ金属元素や有機酸を含有する。ここで、本明細書において、本発明のポリマーが有機酸を含有するとは、本発明のポリマーが、遊離の有機酸を含有する態様の他に、ポリマー骨格中に有機酸由来の構造単位を有する態様も含まれる。有機酸等の酸は、重合中にポリマー骨格に取り込まれる場合もあるためである。
【0044】
本発明のポリマー100質量%中の本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位の含有量は、好ましくは10~100質量%、より好ましくは20~100質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、ポリマー中の各構造単位の含有量は、NMRにより測定される。
【0045】
本発明のポリマーにおいて、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素及びカリウム金属元素のいずれか一方又は両方の合計含有量)は、好ましくは0.05~500質量ppm、より好ましくは0.05~400質量ppm、更に好ましくは0.05~300質量ppmである。これにより、本発明の効果がより好適に得られる傾向がある。
【0046】
本発明のポリマーにおいて、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸の含有量は、好ましくは0.001~1000質量ppm、より好ましくは0.001~500質量ppm、更に好ましくは0.05~250質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
ここで、前記の通り、本明細書において、本発明のポリマーが酸を含有するとは、本発明のポリマーが、遊離の有機酸を含有する態様の他に、ポリマー骨格中に有機酸由来の構造単位を有する態様も含まれるため、有機酸の含有量には、遊離の有機酸の含有量、ポリマー骨格中に存在する有機酸由来の構造単位の含有量が含まれる。
【0047】
本発明のポリマーにおいて、25℃におけるpKa値が4.0未満の有機酸の含有量は、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは250質量ppm以下、特に好ましくは0質量ppm(未配合)である。これにより、ポリマーの着色を抑制できる。
【0048】
前記ポリマーは、変性されていてもよい。変性としては、特に限定されず、例えば、1,6-ヘキサンジオール誘導体において説明した変性等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、(メタ)アクリル酸による変性が好ましい。特に、前記ポリマーがポリエステルの場合、(メタ)アクリル酸による変性が施されていることが好ましい。
【0049】
本発明のポリマーの数平均分子量(Mn)は、500~1,000,000であることが好ましく、3,000~500,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、ポリマーの数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0050】
以下においては、前記ポリマーのうち、ポリエステル、ポリウレタンについて詳細を説明するが、前記ポリマーは、ポリエステル、ポリウレタンに限定されるものではない。
【0051】
<<ポリエステル>>
本発明のポリエステルは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とする化合物である。
具体的には、本発明のポリエステルは、カルボン酸とアルコールとを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された重縮合体であり、アルコールとして、少なくとも本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物が用いられる。従って、本発明のポリエステルは、カルボン酸とアルコールとの重縮合反応により得られる反応生成物(重縮合物)であり、本発明のポリエステルは、少なくとも本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位を有すると共に、1,6-ヘキサンジオール組成物由来のアルカリ金属元素や有機酸を含有する。
【0052】
本発明のポリエステルは、ポリエステルポリオールであることが好ましい。
ポリエステルポリオールとしては、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール等が挙げられる。縮合系ポリエステルポリオールは、例えば、低分子多価アルコール(エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール、(1,3-又は1,4-)ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1-トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,5-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオール、ソルビトール等の糖類等)と、多価塩基性カルボン酸(グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、オリゴマー酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4-シクロヘクサンジカルボン酸等)との反応生成物である。ラクトン系ポリエステルポリオールは、例えば、ε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、ε-メチル-ε-カプロラクトン等のラクトンを開環重合して得られるポリカプロラクトンポリオールである。
【0053】
前記カルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族多価カルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4-シクロヘクサンジカルボン酸等の脂環族多価カルボン酸;オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸;酢酸、プロピオン酸、2-エチルヘキサン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の脂肪族モノカルボン酸;安息香酸、p-タ―シャリーブチル安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸等の芳香族モノカルボン酸;大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、リノール酸、エイコサペンタエン酸等、各種動植物油由来脂肪酸;及び、これらの無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪族多価カルボン酸が好ましく、ドデカンジカルボン酸がより好ましい。
【0054】
本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物以外に使用できるアルコールは、水酸基(アルコール性水酸基又はフェノール性水酸基)を有する化合物であれば特に限定されない。前記アルコールとしては、エタノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール等の脂肪族モノアルコール;エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン等の脂肪族ポリオール;フェノール、クレゾール、ビスフェノール―A等の芳香族モノ/多価フェノール;及び、これらのエチレンオキサイド伸長物、水添化脂環族等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記アルコール100質量%中の本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物の含有量は、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0056】
本発明のポリエステルは、公知のポリエステルの製造方法により得ることができる。具体的には、反応温度150~280℃で、生成する水を系外へ取り除きながら、前記カルボン酸と前記アルコールを反応させる製造方法にて合成できる。また、合成時に反応触媒、酸化防止剤等を併用しても構わない。
【0057】
本発明のポリエステル100質量%中の本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位の含有量は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~70質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。本明細書において、ポリエステル中の各構造単位の含有量は、NMRにより測定される。
【0058】
本発明のポリエステルにおいて、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素およびカリウム金属元素のいずれか一方または両方の合計含有量)は、好ましくは0.05~500質量ppm、より好ましくは0.05~400質量ppm、更に好ましくは0.05~300質量ppmである。
これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0059】
本発明のポリエステルにおいて、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸の含有量は、好ましくは0.001~1000質量ppm、より好ましくは0.001~500質量ppm、更に好ましくは0.05~250質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0060】
本発明のポリエステルにおいて、25℃におけるpKa値が4.0未満の有機酸の含有量は、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは250質量ppm以下、特に好ましくは0質量ppm(未配合)である。これにより、着色を抑制できる。ここで、前記の通り、本明細書において、本発明のポリマーが酸を含有するとは、本発明のポリマーが、遊離の有機酸を含有する態様の他に、ポリマー骨格中に有機酸由来の構造単位を有する態様も含まれるため、有機酸の含有量には、遊離の有機酸の含有量、ポリマー骨格中に存在する有機酸由来の構造単位の含有量が含まれる。
【0061】
本発明のポリエステルの数平均分子量(Mn)は、500~120,000であることが好ましく、3,000~50,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、ポリエステルの数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0062】
<<ポリウレタン>>
本発明のポリウレタンは、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる反応生成物である。さらに必要に応じて、1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料としないポリオール、鎖伸長剤、鎖停止剤、架橋剤等を本発明のポリウレタンの反応原料として併用してもよい。
よって、本発明のポリウレタンは、ポリオール由来の構造単位及びポリイソシアネート由来の構造単位を有し、少なくとも本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位を有すると共に、場合により本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物に含まれるアルカリ金属や有機酸を含有する。
【0063】
前記ポリオールとして、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等のポリオールが挙げられる。これらポリオールは1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料としても、しなくても良く、本発明のポリウレタンは1,6-ヘキサンジオール組成物を反応原料とするポリオールを少なくとも反応原料として使用すればよい。
【0064】
ポリカーボネートポリオールは、グリコールとカーボネートの反応により得られるポリオールである。グリコールとして、例えば、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物、ジエチレングリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、オクタンジオール、1,4-ブチンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル1,3-プロパンジオール等の飽和もしくは不飽和の各種グリコール類、1,4-シクロヘキサンジグリコール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール類が挙げられる。
またカーボネートとして、例えば、ジアルキルカーボネート(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等)、エチレンカーボネート、及びジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0065】
ポリエーテルポリオールは、例えば、各種グリコールを開始剤に、アルキレンオキサイドを付加重合したポリエーテルポリオールである。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。各種グリコールとしては、上記ポリカーボネートジオールのグリコールと同様のものが挙げられる。
【0066】
前記ポリオールとしては、前記したもの以外にも、ポリカプロラクトンポリオール、ポリアクリルポリオール、ダイマージオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0067】
鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレンググリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ポリオール化合物;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等の芳香族ポリオール化合物;水;エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、ヒドラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス (2-クロロアニリン)等のアミン化合物を用いることができる。これらの鎖延長剤についても、バイオマス資源由来のものを用いることもできる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なかでも、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、トリメチロールプロパン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス (2-クロロアニリン)がより好ましい。
【0068】
前記ポリオールとして本発明の組成物を原料とするポリエステルポリオールを使用することが特に好ましく、ポリオール100質量%中の本発明の組成物を原料とするポリエステルポリオールの含有量は、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%である。
【0069】
ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-及び1,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-3,5-フェニレンジイソシアネート、1-エチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-イソプロピル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-4,6-フェニレンジイソシアネート、1,4-ジメチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアネート、1-メチル-3,5-ジエチルベンゼンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ジエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、1,3,5-トリエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、1-メチル-ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、ナフタレン-2,7-ジイソシアネート、1,1-ジナフチル-2,2’-ジイソシアネート、ビフェニル-2,4’-ジイソシアネート、ビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3-3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4-ジイソシアネート、トルエンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;1,3-シクロペンチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート等を使用することができる。これらのポリイソシアネートについても、バイオマス資源由来のものを用いることもできる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートがより好ましい。
【0070】
得られるポリウレタンの分子量を制御する目的で、必要に応じて1個の活性水素基を持つ鎖停止剤を使用することもできる。これらの鎖停止剤としては、水酸基を有するメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びヘキサノール等の脂肪族モノヒドロキシ化合物、並びにアミノ基を有するモルホリン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等の脂肪族モノアミンが例示される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
得られるポリウレタンの耐熱性や強度を上げる目的で、必要に応じて3個以上の活性水素基やイソシアネート基を持つ架橋剤を使用することができる。
【0072】
本発明のポリウレタンは、公知のポリウレタンの製造方法により得ることができる。具体的には、例えば、前記ポリオールと前記ポリイソシアネートと前記鎖伸長剤とを仕込み、反応させることによって製造する方法が挙げられる。これらの反応は、例えば、50~100℃の温度で、3~10時間行うことが好ましい。また、前記反応は、有機溶剤中で行ってもよい。
【0073】
有機溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソブチル、酢酸第2ブチル等のエステル溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等アルコール溶剤等を用いることができる。またこれら有機溶剤はバイオマス資源から誘導されたものを使用しても良い。これらの有機溶剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0074】
ポリウレタンが本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物を原料とするポリエステルポリオールを原料とする場合、ポリウレタン100質量%中の本発明のポリエステルポリオール由来の構造単位の含有量は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~90質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
また、本発明のポリウレタン100質量%中の本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物由来の構造単位の含有量は、好ましくは1~63質量%、より好ましくは2~63質量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、ポリウレタン中の各構造単位の含有量は、NMRにより測定される。
【0075】
本発明のポリウレタンにおいて、アルカリ金属元素の合計含有量(好ましくはナトリウム金属元素およびカリウム金属元素のいずれか一方または両方の合計含有量)は、好ましくは0.05~500質量ppm、より好ましくは0.05~400質量ppm、更に好ましくは0.05~300質量ppmである。
【0076】
本発明のポリウレタンにおいて、25℃におけるpKa値が4.0以上の有機酸の含有量は、好ましくは0.001~1000質量ppm、より好ましくは0.001~500質量ppm、更に好ましくは0.05~250質量ppmである。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0077】
本発明のポリウレタンにおいて、25℃におけるpKa値が4.0未満の有機酸の含有量は、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは250質量ppm以下、特に好ましくは0質量ppm(未配合)である。これにより、着色を抑制できる。ここで、前記の通り、本明細書において、本発明のポリマーが酸を含有するとは、本発明のポリマーが、遊離の有機酸を含有する態様の他に、ポリマー骨格中に有機酸由来の構造単位を有する態様も含まれるため、有機酸の含有量には、遊離の有機酸の含有量、ポリマー骨格中に存在する有機酸由来の構造単位の含有量が含まれる。
【0078】
本発明のポリウレタンの数平均分子量(Mn)は、5,000~1,000,000であることが好ましく、10,000~500,000であることがより好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。なお、本明細書において、ポリウレタンの数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0079】
本発明のポリマーは、様々な用途に使用できる。具体的には、人工皮革、合成皮革、靴、熱可塑性樹脂、発泡樹脂、熱硬化性樹脂、塗料、ラミネート接着剤、弾性繊維、ウレタン原料、自動車部品、スポーツ用品、防振材、制振材、繊維処理剤、バインダーなど、広範囲な用途に使用できる。
【0080】
本発明のポリエステルは、様々な用途に使用できる。具体的には、溶剤系、水系、粉体、金属用、自動車用、木工用、プラスチック用塗料;包装材料・容器用、光学フィルム用、成形品用改質剤;人工皮革、合成皮革の表皮層、中間層、発泡層、接着層;ラミネート接着剤等の接着剤;靴、熱可塑性樹脂、発泡樹脂、熱硬化性樹脂、弾性繊維、ポリウレタン原料、自動車部品、スポーツ用品など、広範囲な用途に使用できる。
【0081】
本発明のポリウレタンは、様々な用途に使用できる。具体的には、人工皮革、合成皮革の表皮層、中間層、発泡層、接着層;塗料用、金属表面処理剤、フィルムプライマー等の各種コーティング剤;インクジェット用、インキ用、捺染用、ガラス繊維集束剤用バインダー;靴、熱可塑性樹脂、発泡樹脂、熱硬化性樹脂、ラミネート接着剤等の接着剤、防振材、制振材、自動車部品、スポーツ用品、繊維処理剤など、広範囲な用途に使用できる。
【0082】
前記エポキシ基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体を原料とするエポキシ系ポリマーは、様々な用途に使用できる。具体的には、塗料用、金属表面処理剤等の各種コーティング剤;風車用マトリックス樹脂等の成形物など、広範囲な用途に使用できる。
【0083】
前記(メタ)アクリロイル基含有1,6-ヘキサンジオール誘導体を原料とするアクリル系ポリマーは、様々な用途に使用できる。具体的には、塗料用、金属表面処理剤、フィルムコーティング等の各種コーティング剤;インキ用、UVインクジェット用のバインダーなど、広範囲な用途に使用できる。
【0084】
また、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、添加することにより、PBS樹脂、PET樹脂、PTT樹脂、PBT樹脂等の改質をすることもできる。
【0085】
なお、本明細書において「~」の表記は、「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。また、本明細書において、ある特性などについて、複数の数値範囲が「~」の表記により開示されている場合、各数値範囲の上限と下限はいずれの組み合わせでも用いることができる。例えば、ある化合物の含有量について、0.001~500質量ppm、0.05~250質量ppmの2つの数値範囲が開示されている場合、0.001~500質量ppm、0.05~250質量ppm以外にも、0.001~250質量ppm、0.05~500質量ppmの数値範囲も開示されていることを意味する。
【実施例
【0086】
以下、実施例と比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0087】
(実施例1:1,6-ヘキサンジオール組成物1(1,6-HD組成物 1)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素含有量がナトリウム0.02質量ppm、酸価0mgKOH/gであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、カリウムが1.7質量ppmになるように酢酸カリウムを添加し、更に酢酸15質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物1を得た。1,6-ヘキサンジオール組成物1の酸価は0.02mgKOH/gであった。
【0088】
(実施例2:1,6-ヘキサンジオール組成物2(1,6-HD組成物 2)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素含有量がナトリウム0.02ppm、酸価0mgKOH/gであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、ナトリウムが995質量ppmになるように酢酸ナトリウムを添加し、更に酢酸400質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物2を得た。1,6-ヘキサンジオール組成物2の酸価は0.48mgKOH/gであった。
【0089】
(実施例3:1,6-ヘキサンジオール組成物3(1,6-HD組成物 3)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素含有量がナトリウム0.02質量ppm、酸価0mgKOH/gであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、カリウムが998質量ppmになるように酢酸カリウムを添加し、更にコハク酸200質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物3を得た。1,6-ヘキサンジオール組成物3の酸価は0.11mgKOH/gであった。
【0090】
(製造例1)(遺伝子組み換え大腸菌の作成)
シトロバクター・フレウンディ(Citrobacter freundii)由来のグリセロールデヒドラターゼα、β、γサブユニット遺伝子、及びデヒドラターゼ再活性因子遺伝子をpACYC184(ニッポンジーン社)のBamHI、HindIII制限酵素切断サイト間に導入したプラスミドAを作成した。
4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸アルドラーゼとしてエシェリヒア・コリ由来のHpaI遺伝子、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸4-デヒドラターゼとしてエシェリヒア・コリ由来のHpcG遺伝子、6-ヒドロキシ-3,4-デヒドロ-2-オキソヘキサン酸3-レダクターゼとしてシロイヌナズナ(アラビドプシス・タリアナ)由来のNADPH-dependent oxidoreductase 2-alkenal reductase(GenBank:CAC01710.1)遺伝子、6-ヒドロキシ-2-オキソヘキサン酸2- レダクターゼとしてラクトコッカス・ラクティスのPanE遺伝子、2,6-ジヒドロキシ-ヘキサン酸CoA-トランスフェラーゼかつ6-ヒドロキシヘキサノイル-CoA-トランスフェラーゼとしてクロストリジウム・ディフィシル由来のHadA遺伝子をpUC19(ニッポンジーン社)のマルチクローニングサイト(MCS)のBamHI、EcoRI制限酵素切断サイト間に導入したプラスミドBを作成した。
2-ヒドロキシイソカプロイル-CoAデヒドラターゼのα、βサブユニット遺伝子としてクロストリジウム・ディフィシル由来のHadB、HadC遺伝子、2-ヒドロキシイソカプロイル-CoAデヒドラターゼ活性化酵素としてクロストリジウム・ディフィシル由来のHadI遺伝子、6-ヒドロキシ-2,3-デヒドロ-ヘキサノイル-CoA2,3-レダクターゼとしてトレポネーマ・デンティコラ由来のtrans-2-enoyl-CoA reductase(GenBank: AE017248)遺伝子、6-ヒドロキシヘキサン酸1-レダクターゼとしてノカルジア・イオウェンシス由来のカルボン酸還元酵素(GenBank:AAR91681.1)遺伝子、6-ヒドロキシヘキサナール1-レダクターゼとしてロドコッカス属由来の6-ヒドロキシヘキサン酸デヒドロゲナーゼ(GenBank:AAN37489.1)遺伝子をpCOLADuet-1(Novagen社)にHadB、HadC、HadI遺伝子をMCS1にそれ以外の遺伝子をMCS2に導入したプラスミドCを作成した。
本項における遺伝子とは各酵素をコードする終止コドンを含んだオープンリーディングフレームを指し、各遺伝子はその上流にT7プロモーターとリボソーム結合サイトを含んだ配列を、下流にT7ターミネーターを含んだ配列が存在するような様態でそれぞれプラスミドに導入される。各遺伝子は適切な発現誘導によってT7RNAポリメーラーゼが発現するようなホスト株のエシェリヒア・コリ内で大量発現されることができる。
プラスミドA,B,Cを順次ケミカルコンピテントセル化したBL21 Star(DE3)(Invitrogen社)にヒートショック法によって形質転換させ、適当な抗生物質を含んだLBプレート上で選抜した。その結果、プラスミドA,B,Cを全て含んだBL21 Star(DE3)株を取得した。これにより、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸アルドラーゼ(特許6680671号公報の図中の2A)、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-ヘキサン酸4-デヒドラターゼ(特許6680671号公報の図中の2B)、6-ヒドロキシ-3,4-デヒドロ-2-オキソヘキサン酸3-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の2C)、6-ヒドロキシ-2-オキソヘキサン酸2-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の2D)、2,6-ジヒドロキシ-ヘキサン酸CoA-トランスフェラーゼ(特許6680671号公報の図中の2E)、2,6-ジヒドロキシ-ヘキサノイル-CoA2-デヒドラターゼ(特許6680671号公報の図中の2F)、6-ヒドロキシ-2,3-デヒドロ-ヘキサノイル-CoA2,3-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の2G)、6-ヒドロキシヘキサノイル-CoA-トランスフェラーゼ(特許6680671号公報の図中の4F3)、6-ヒドロキシヘキサン酸1-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の5R)、及び6-ヒドロキシヘキサナール1-レダクターゼ(特許6680671号公報の図中の5S)からなる1,6-ヘキサンジオール経路の10酵素をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリを作成した。
【0091】
(実施例4:1,6-ヘキサンジオール組成物4(1,6-HD組成物 4)の調製)
オートクレーブ滅菌した培地(炭素源:グルコース、グリセリン、窒素源:酵素抽出物、無機塩類:リン酸カリウム、水酸化カリウム、ビタミンB12、抗生物質:カルベニシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、pH:7.0、前記成分の中で、グルコース、グリセリンがバイオマス資源由来の原料である)に前記エシェリヒア・コリを植菌し、30℃で2~3時間、好気性条件下で培養を行った。その後、エシェリヒア・コリの600 nmにおける光学密度が0.3~0.6となったところでイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを終濃度0.5mM、硫酸鉄(II)を終濃度10μMとなるように加え、更に30℃で3時間培養を行い、1,6-HD経路の酵素を発現させた。発現後、炭素源(グルコース、グリセリン)を適当量加え、培養器内を窒素雰囲気下とすることで嫌気性条件下とした。この条件下で30℃、48時間培養を行い、1,6-ヘキサンジオールを生産させた。培養液を、4℃、20分間遠心を行い、上清を回収後、適当なポアサイズが0.2~0.4μmのメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、ろ液として1,6-ヘキサンジオール組成物を得た。
【0092】
〔1,6-ヘキサンジオール組成物の精製〕
<工程(a):陽イオンを除去するイオン交換>
1,6-ヘキサンジオール組成物に含まれる陽イオンを除去した。工程(a)はバッチ式にて陽イオン交換を行った。陽イオン交換樹脂と接触させる温度は40℃に設定し、1,6-ヘキサンジオール組成物中に、陽イオン交換樹脂として三菱ケミカル社製DIAION SK1BHを加え、3時間撹拌させた。撹拌後、濾過を行い、ろ液として1,6-ヘキサンジオール組成物Aを得た。
<工程(b):陰イオンを除去するイオン交換>
1,6-ヘキサンジオール組成物A中に含まれる陰イオンを除去した。工程(b)はバッチ式にて陰イオン交換を行った。陰イオン交換樹脂と接触させる温度は40℃に設定し、1,6-ヘキサンジオール組成物中に、陰イオン交換樹脂として三菱ケミカル社製DIAION SA10AOHを加え、3時間撹拌させた。撹拌後、濾過を行い、ろ液として1,6-ヘキサンジオール組成物Bを得た。
【0093】
<工程(c):水を除去する工程>
1,6-ヘキサンジオール組成物に含まれる水を除去した。工程(c)の装置として、薄膜式蒸留器を使用した。ジャケット温度を70℃に設定し、1,6-ヘキサンジオール含有組成物を連続的に導入し、頂部から水分を留出させた。水分の留出と同時に、底部から脱水された1,6-ヘキサンジオール組成物Cを缶出液として連続的に抜き出した。この1,6-ヘキサンジオール組成物C中の水分濃度は0.020質量%(200質量ppm)であった。
【0094】
<工程(d):低沸点成分の蒸留分離>
1,6-ヘキサンジオール組成物Cに含まれる1,6-ヘキサンジオールよりも低沸点の成分を連続蒸留塔で除去した。工程(d)の蒸留塔として、オルダーショウ蒸留塔を使用した。工程(c)で得られた1,6-ヘキサンジオール組成物Cを蒸留塔に連続的に供給して、塔頂温度を240℃の一定の温度に制御した。塔頂部から連続留出を行い、塔底から連続抜き出しを行い、1,6-ヘキサンジオール組成物C中の低沸点成分の除去を行い、塔底から1,6-ヘキサンジオールよりも低沸点の成分を除去した1,6-ヘキサンジオール組成物Dを取り出した。
【0095】
<工程(e):高沸点成分の蒸留分離>
1,6-ヘキサンジオール組成物D中に含まれる1,6-ヘキサンジオールよりも高沸点の成分を連続蒸留塔で除去した。工程(e)の蒸留塔として、オルダーショウ蒸留塔を使用した。工程(d)で得られた1,6-ヘキサンジオール組成物Dを蒸留塔に連続的に供給して、塔底温度を260℃で一定となるように制御した。塔底から連続抜き出しを行い、1,6-ヘキサンジオール組成物D中の高沸点成分の除去を行った。塔頂から1,6-ヘキサンジオールよりも高沸点の成分を除去した1,6-ヘキサンジオール組成物Eを得た(塔頂留出液)。1,6-ヘキサンジオール組成物Eに、ICP-MS分析においてカリウム金属元素濃度が110質量ppmになるように酢酸カリウムと、ナトリウム金属元素濃度が190質量ppmになるように酢酸ナトリウムを添加した1,6-ヘキサンジオール組成物4(1,6-HD組成物 4)を調製した。
【0096】
(実施例5:1,6-ヘキサンジオール組成物5(1,6-HD組成物 5)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppm、酸価0mgKOH/gであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、カリウムが500質量ppmになるように酢酸カリウムを添加し、更に酢酸1000質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物5を得た。1,6-ヘキサンジオール組成物5の酸価は0.95mgKOH/gであった。
【0097】
(比較例1:1,6-ヘキサンジオール組成物6(1,6-HD組成物 6)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02ppm、酸価0mgKOH/gであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールをそのまま使用した。使用した1,6-ヘキサンジオールはガスクロマトグラフィー分析で純度99.93%であり、1,6-ヘキサンジオール以外のピークは観測されなかった。
【0098】
(比較例2:1,6-ヘキサンジオール組成物7(1,6-HD組成物 7)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppm、酸価0mgKOH/gであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、ナトリウムが997質量ppmになるように水酸化ナトリウムを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物7を得た。1,6-ヘキサンジオール組成物7の酸価は0mgKOH/gであった。
【0099】
(比較例3:1,6-ヘキサンジオール組成物8(1,6-HD組成物 8)の調製)
実施例4の1,6-ヘキサンジオール組成物Eに、カリウム金属元素濃度が610質量ppmになるように酢酸カリウムと、ナトリウム金属元素濃度が190質量ppmになるように酢酸ナトリウムを添加した以外は、実施例4と同様にして、1,6-ヘキサンジオール組成物8(1,6-HD組成物 8)を得た。
【0100】
(比較例4:1,6-ヘキサンジオール組成物9(1,6-HD組成物 9)の調製)
ICP-MS分析でアルカリ金属元素量がナトリウム0.02質量ppm、酸価0mgKOH/gであった宇部興産株式会社製の1,6-ヘキサンジオールを80℃で加温溶融し、コハク酸200質量ppmを添加、混合したものを冷却し、1,6-ヘキサンジオール組成物9を得た。1,6-ヘキサンジオール組成物9の酸価は0.11mgKOH/gであった。
【0101】
前記実施例、比較例により得られた1,6-ヘキサンジオール組成物の分析結果を表1、2に示した。
また、表1、2において、カリウム金属元素、ナトリウム金属元素の検出限界はそれぞれ、0.003質量ppm、0.003質量ppmであった。
【0102】
【表1】








【0103】
【表2】

【0104】
<ポリエステル合成例>
(ポリエステル(A-1)の合成)
攪拌棒、温度センサー、精留管を有する反応容器に、1,6-ヘキサンジオール組成物1を1048.5質量部、ドデカン二酸(INVISTA製)2093.4質量部を仕込み、乾燥窒素を反応容器にフローさせ撹拌しながら、常圧下、190~210℃で生成する水を系外に留去しながら脱水縮合反応を行った。反応物の酸価が30以下になった時点で、テトライソプロピルチタネート16mgを加え、200~100mmHgに減圧しながら反応を続けた。酸価が1.0になった時点で真空ポンプにより徐々に真空度を上げ、反応を完結させた。このようにして水酸基価37.4mgKOH/g、酸価0.01mgKOH/g、数平均分子量(Mn)は3000のポリエステルA-1を得た。
(ポリエステルA-2~9の合成)
1,6-HD組成物 2~9に関しても同様の手法でポリエステルA-2~9を合成した。1,6-HD組成物 7、8を用いたものは、反応がうまく進まなかったため、反応を中止した。
【0105】
前記実施例、比較例により得られたポリエステルの分析結果を表3、4に示した。
【0106】
(ポリエステルの耐加水分解性評価[耐加水分解性])
得られたポリエステルを100℃熱水中に4日間浸漬し、加水分解による酸価の増大を求めることにより、耐加水分解性を評価した。








【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
<ポリウレタン合成例>
(ポリウレタン(A-3)の合成)
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口を備えた四口フラスコに、ポリエステルA-3を300.00質量部(0.100mol)、ネオペンチルグリコール(NPG)を20.83質量部(0.200mol)を仕込み、溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を395.9質量部仕込み、溶解させた。次いで、40℃で4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を75.08質量部(0.300mol)、コロネートT-80を34.8質量部(0.200mol)を添加し、90℃でNCO%が0.1%以下になるまで反応させ、不揮発分50.0質量%のポリウレタン(A-3)のDMF溶液を得た。A-3、NPG、MDIの割合は、A-3:NPG:MDI=1:2:3である。
(ポリウレタンA-4、A-6、A-9の合成)
ポリエステル A-4、A-6、A-9に関しても同様の手法でポリウレタンA-4、A-6、A-9を合成した。
【0110】
前記実施例、比較例により得られたポリウレタンの分析結果を表5、6に示した。
【0111】
(ポリウレタンの耐加水分解性評価)
得られたポリウレタンにポリイソシアネート架橋剤配合後(ポリウレタン固形分/架橋剤固形分=10/1質量比)、直ちにワーナーマチスで70℃で1分間予備乾燥し、その後120℃で2分間乾燥を行いポリウレタン皮膜を得た。この皮膜を40℃で2日間エージングを実施して後、23℃、65%RHの環境下にてオートグラフ(島津製作所製)で皮膜物性(初期;破断強度)を測定した。また、耐加水分解性試験として、同ポリウレタン皮膜を70℃、95%RHの条件下で1週間放置し、更に常温で1日水分を乾燥させた後、初期と同様の皮膜物性を測定し、皮膜の劣化度合いを測定した。
耐加水分解性を、破断強度における初期値からの保持率により以下の基準により評価した。
結果を表5、6に示した。

〇:破断強度の保持率90%以上
△:破断強度の保持率80%以上90%未満
×:破断強度の保持率80%未満
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
表1~6より、本発明の1,6-ヘキサンジオール組成物は、酸価が0.001~1.0mgKOH/g、アルカリ金属元素の合計含有量が0.1~1000質量ppmであるため、該1,6-ヘキサンジオール組成物を反応させて得られるポリマー(例えば、ポリエステル、該ポリエステルを反応させて得られるポリウレタン)は、良好な耐加水分解性を有す
ることが分かった。
【0115】
なお、本明細書において、ポリエステルの数平均分子量(Mn)は下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
測定装置 ;東ソー株式会社製 HLC-8320GPC
カラム ;東ソー株式会社製 TSKgel 4000HXL、TSKgel 3000HXL、TSKgel 2000HXL、TSKgel 1000HXLを直列に接続して使用した。
検出器 ;RI(示差屈折計)
データ処理;東ソー株式会社製 マルチステーションGPC-8020modelII
測定条件 ;カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 0.1ml/分
標準 ;単分散ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.2%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0116】
また、本明細書において、ポリウレタンの数平均分子量(Mn)は下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0117】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」