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特許7529208対象物推定方法及びコーン指数推定システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】対象物推定方法及びコーン指数推定システム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240730BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
G01N21/27 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020101790
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2021196765
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.tc-iaip.org/dia/2020/php/reg_login/index.php 掲載日 令和2年3月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://edas.info/index.php?c=25900 掲載日 令和1年10月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 GCCE2019 千里ライフサイエンスセンター(大阪府豊中市新千里東町1-4-2) 開催日 令和1年10月18日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://confit.atlas.jp/guide/event/ssii2019/subject/IS1-14/detail 掲載日 令和1年6月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 SSII2019 パシフィコ横浜アネックスホール(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1) 開催日 令和1年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 拓史
(72)【発明者】
【氏名】山本 新吾
(72)【発明者】
【氏名】山内 統広
(72)【発明者】
【氏名】淺間 一
(72)【発明者】
【氏名】山下 淳
(72)【発明者】
【氏名】永谷 圭司
(72)【発明者】
【氏名】筑紫 彰太
(72)【発明者】
【氏名】田村 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山川 博司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩光
【審査官】佐藤 実
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチスペクトルカメラによって対象物の画像を撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで撮像された画像から分光反射率スペクトルのベクトルを導出する導出ステップと、
前記ベクトルと、マルチスペクトルカメラによって予め撮像された前記対象物の種類毎の画像に基づいて学習済みのニューラルネットワークと、に基づいて前記対象物を推定する対象物推定ステップと、を含み、
前記ベクトルのうち、350[nm]から450[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をαとし、700[nm]から750[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をβとした場合にα×10>βが成立するベクトルを前記対象物推定ステップで利用しない
対象物推定方法。
【請求項2】
前記ニューラルネットワークの中間層のノード数が、当該ニューラルネットワークの入力層の数よりも少ない
請求項1に記載の対象物推定方法。
【請求項3】
土の画像を撮像するマルチスペクトルカメラと、
前記土の画像に基づき、前記土のコーン指数を推定する情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、前記土の画像分光反射率スペクトルのベクトルを導出し、前記ベクトルとマルチスペクトルカメラによって予め撮像された前記土の種類毎の画像に基づいて学習済みのニューラルネットワークとに基づいて前記土の種類を推定し、前記土のコーン指数の推定に関する情報として推定された前記土の種類を示す情報を利用する演算部を備え
前記ベクトルのうち、350[nm]から450[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をαとし、700[nm]から750[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をβとした場合にα×10>βが成立するベクトルは利用されない
コーン指数推定システム。
【請求項4】
記マルチスペクトルカメラは、車両に搭載される
請求項3に記載のコーン指数推定システム
【請求項5】
記マルチスペクトルカメラは、無人航空機に搭載される
請求項3に記載のコーン指数推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物推定方法、コーン指数推定システム、車両及び無人航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
災害等が発生した地域において、災害対応のための車両や建設機械を当該地域に派遣する場合、当該地域の地盤に関する情報を事前に得る必要がある。例えば特許文献1には、土質判定装置の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/136231号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の土質判定装置では、センサを対象土に接触させる必要がある。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、非接触で高精度に対象物を推定できる対象物推定方法、コーン指数推定システム、車両及び無人航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の対象物推定方法は、マルチスペクトルカメラによって対象物の画像を撮像する撮像ステップと、前記撮像ステップで撮像された画像から分光反射率スペクトルのベクトルを導出する導出ステップと、前記ベクトルと、マルチスペクトルカメラによって予め撮像された前記対象物の種類毎の画像に基づいて学習済みのニューラルネットワークと、に基づいて前記対象物を推定する対象物推定ステップと、を含む。
【0007】
対象物推定方法の望ましい態様として、前記ベクトルのうち、350[nm]から450[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をαとし、700[nm]から750[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をβとした場合にα×10>βが成立するベクトルを前記対象物推定ステップで利用しない。
【0008】
対象物推定方法の望ましい態様として、前記ニューラルネットワークの中間層のノード数が、当該ニューラルネットワークの入力層の数よりも少ない。
【0009】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様のコーン指数推定システムは、土の画像を撮像するマルチスペクトルカメラと、前記土の画像に基づき、前記土のコーン指数を推定する情報処理装置と、を備え、前記情報処理装置は、前記土の画像分光反射率スペクトルのベクトルを導出し、前記ベクトルとマルチスペクトルカメラによって予め撮像された前記土の種類毎の画像に基づいて学習済みのニューラルネットワークとに基づいて前記土の種類を推定し、前記土のコーン指数の推定に関する情報として推定された前記土の種類を示す情報を利用する演算部を備える。
【0010】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の車両は、上述に記載のコーン指数推定システムに用いられ、前記マルチスペクトルカメラが搭載される。
【0011】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の無人航空機は、上述に記載のコーン指数推定システムに用いられ、前記マルチスペクトルカメラが搭載される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、非接触で高精度に対象物を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、推定システムの主要構成例を示すブロック図である。
図2図2は、第1撮像装置と第2撮像装置が搭載されたバックホウの例を示す図である。
図3図3は、可視光線に対応するRGB画像と、マルチスペクトル画像との比較例を示す模式図である。
図4図4は、推定システムの機能ブロック図である。
図5図5は、10種類の土の各々の可視光画像の例を示す図である。
図6図6は、図5に示す10種類のうち3種類の土の各々の500[nm]から900[nm]までの波長帯における分光反射率スペクトルを示すグラフである。
図7図7は、指定された撮像画像のスペクトルの数と土の種類の判別精度との関係の一例を示すグラフである。
図8図8は、マルチスペクトル画像とニューラルネットワークの入出力との関係の一例を示す模式図である。
図9図9は、土の種類の推定に係る検証実験環境の一例を示す模式図である。
図10図10は、バッチサイズを128とし、エポック数を12としてニューラルネットワークの学習を行った場合の土の種類の推定精度を示す混同行列である。
図11図11は、土の含水比の説明図である。
図12図12は、土の含水比と分光反射率スペクトルとの関係の一例を示す模式的なグラフである。
図13図13は、第1分光反射率と、第2分光反射率と、第1分光反射率と第2分光反射率との差と、土の含水比との関係の一例を示すグラフである。
図14図14は、図13に示す第1分光反射率と第2分光反射率との差とを表すプロットが付されたグラフである。
図15図15は、図14におけるプロットに基づいて生成されたフィッティングカーブを示すグラフである。
図16図16は、土の含水比の推定に係る検証実験環境の一例を示す模式図である。
図17図17は、図16における撮像対象の構成例を示す模式図である。
図18図18は、種類A、種類B、種類D、種類F、種類Gの各々のフィッティングカーブの例を示すグラフである。
図19図19は、第1前処理が適用される第1部分領域及び第1前処理が適用されない第2部分領域を含むマルチスペクトル画像と、これらの部分領域の分光反射率スペクトルの比較の一例を示すグラフと、の関係を示す図である。
図20図20は、第2前処理が行われた場合に土の含水比の推定に係る処理で採用されるマルチスペクトル画像と採用されないマルチスペクトル画像の例を示す図である。
図21図21は、マルチスペクトル画像において校正シートが撮像された部分画像の輝度値の変動係数のグラフと、土の含水比の推定に係る含水比推定部による処理における採用の可否との関係の一例を示す図である。
図22図22は、土の含水比とコーン指数との関係の一例を示すグラフである。
図23図23は、補間処理の具体例を示す図である。
図24図24は、実施形態で情報処理装置が行うコーン指数の推定に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図25図25は、図24に示す土の種類の推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図26図26は、図24に示す土の含水比の推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図27図27は、図24に示すコーン指数の推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図28図28は、検証実験におけるバックホウと撮像範囲の関係を示す模式図である。
図29図29は、図28を参照して説明した検証実験で掘削されて埋め戻された土の含水比とコーン指数との関係を示すグラフである。
図30図30は、3つのパターンの土の含水比及びコーン指数の実測値と推定値との関係を示す表である。
図31図31は、3つのパターンのコーン指数の実測値と推定値との関係を示すグラフである。
図32図32は、図30に示す3つのパターンで推定されたコーン指数に基づいて行われたバックホウの走破性の判定結果の一例を示す表である。
図33図33は、実施形態の変形例が適用されたバックホウの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示に係る推定システムについて実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施形態の記載に限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態における構成要素は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。以下の実施形態では、本開示に係る推定システムの実施形態を例示する上で、必要となる構成要素を説明し、その他の構成要素を省略する。
【0015】
図1は、推定システム1の主要構成例を示すブロック図である。推定システム1は、マルチスペクトルカメラ10と、情報処理装置20とを備える。マルチスペクトルカメラ10は、例えば、第1撮像装置11と第1撮像装置12とを含む。
【0016】
図2は、第1撮像装置11と第2撮像装置12が搭載されたバックホウ100の例を示す図である。バックホウ100は、推定システム1に用いられる車両の一例である。第1撮像装置11と第2撮像装置12は、例えばバックホウ100の屋根部101の上側に設けられる。第1撮像装置11と第2撮像装置12は、例えばバックホウ100においてアーム102が延出する前方側の地面GRを撮像範囲SUB内に収めるよう設けられる。なお、図2では、屋根部101に立てられた支持部材13によって第1撮像装置11と第2撮像装置12が支持されるよう設けられ、第2撮像装置12が第1撮像装置11よりも上側に位置しているが、これはあくまで設置例の一例であってこれに限られるものでなく、適宜変更可能である。
【0017】
図2のバックホウ100は、あくまでマルチスペクトルカメラ10を搭載可能であって移動可能な構成の具体例であってこれに限られるものでない。後述する航空機のように、マルチスペクトルカメラ10は、他の構成に設けられてもよい。
【0018】
マルチスペクトルカメラ10は、ヒトの可視光に対応したスペクトルの光を検知して当該波長帯全域を含む1つの撮像画像を生成する機能に限定された一般的な撮像装置と異なり、予め指定された特定のスペクトルの光を検知して撮像画像を生成する機能を有する撮像装置である。ここで、指定可能な特定のスペクトルの種類は、複数である。また、実施形態のマルチスペクトルカメラ10は、ヒトの不可視光を含むスペクトルの光を検知して撮像画像を生成できる。
【0019】
以下、「撮像画像のスペクトル」と記載した場合、マルチスペクトルカメラ10が撮像画像を生成する際に当該マルチスペクトルカメラ10が検知するよう指定された光のスペクトルをさす。また、「α[nm]の撮像画像」と記載した場合、マルチスペクトルカメラ10が「撮像画像のスペクトル」としてα[nm]を検知するよう指定された状態で生成された撮像画像をさす。αは、光の波長又は光の波長帯を表す数値である。また、「マルチスペクトル画像」と記載した場合、マルチスペクトルカメラ10によって撮像された撮像画像全般を包括する。
【0020】
第1撮像装置11と第2撮像装置12とは、検知可能な光のスペクトルが異なる。実施形態では、第1撮像装置11は、350[nm]から1100[mm]までの範囲内で5[nm]刻みで撮像画像のスペクトルを指定可能に設けられたマルチスペクトルカメラ10である。また、第2撮像装置12は、490[nm]、570[nm]、671[nm]、800[nm]、900[nm]及び950[nm]の6つの波長ならびに900[nm]から1700[mm]までの波長帯の計7種類のスペクトルを指定可能に設けられたマルチスペクトルカメラ10である。実施形態で例示している第1撮像装置11と第2撮像装置12が検知可能な光のスペクトルはあくまで一例であってこれに限られるものでなく、本実施形態と同様の効果を奏するためにこれらのスペクトルが必須であることを示すものでない。
【0021】
図3は、可視光線に対応するRGB画像と、マルチスペクトル画像との比較例を示す模式図である。図3に示すx軸方向及びy軸方向は撮像面を示し、z軸方向は撮像に際して検知される光のスペクトルを示す。図3における上側がより短波長であり、下側がより長波長である。
【0022】
RGB画像は、赤(R)、緑(G)、青(B)の3波長帯の光の強さを示す記録が1つの画像に合成された画像である。これに対し、マルチスペクトル画像は、赤(R)、緑(G)、青(B)の3波長帯に限られない、より多くの種類のスペクトルを撮像画像のスペクトルとして指定可能である。図3において「マルチスペクトル画像」として図示したイメージでz軸方向に積層された各撮像面が、撮像画像のスペクトルとして指定されたそれぞれの光のスペクトルに対応した画像(スペクトル画像)を示す。マルチスペクトル画像は、係るスペクトル画像を複数含む。各撮像面は、x軸方向とy軸方向に沿って二次元方向に複数の画素が配置された画像データとみなせる。より具体的には、当該画像データは、例えばx軸方向に640の画素が並び、y軸方向に480の画素が並ぶ二次元画像データであるが、これに限られるものでなく、具体的な画素数については適宜変更可能である。係る画像データの各画素の階調値は、撮像範囲SUBを撮像したマルチスペクトルカメラ10の撮像素子が当該画素の位置で検知した光の分光反射率に対応した値になる。すなわち、各撮像面は、同じ撮像範囲SUBを撮像したスペクトル画像であってそれぞれ異なるスペクトルでの分光反射率を階調値として記録した画像データとして扱える。また、各撮像面は、対応する光のスペクトルの分光反射率に特化していることから、各撮像面の各画素は、対応する光のスペクトルの光の強さを階調値で表すことになる。従って、各撮像面は、対応する光のスペクトルで撮像範囲SUBを撮像した所謂グレースケール状の画像データのようになる。また、マルチスペクトル画像は、光の波長範囲についてRGB画像よりも多い情報量を取得可能な画像として機能する。また、マルチスペクトル画像で採用可能な光の波長範囲は、可視光と不可視光の両方の波長範囲を含む。
【0023】
このようなマルチスペクトル画像は、マルチスペクトルカメラ10によって撮像された地面GRの性質の推定に利用できる。マルチスペクトル画像に基づいて推定できる地面GRの性質として、当該地面GRを覆う土の種類と、当該土の含水比とが挙げられる。実施形態では、マルチスペクトル画像に基づいて推定された土の種類と当該土の含水比とに基づいたコーン指数の推定が行われる。
【0024】
コーン指数は、土質パラメータの1つであり、コーンペネトロメータのコーンを土中に押し込む際の貫入抵抗力度である。なお、土質パラメータとは、土の性質の程度を示す指標をさす。具体的なコーンペネトロメータの構成例として、長さ91.4[cm]、直径0.95[cm]のシャフトの一端側に円錐状のコーンを付け、他端側に土の抵抗を測定するためのゲージとハンドルを搭載したものが知られる。コーンの円錐は、例えば先端角30[°]、底面積1.61[cm]である。コーンの円錐の底面側がシャフトの一端に付けられる。係るコーンペネトロメータの使用方法例として、使用者が一端側を地面に向けてシャフトが鉛直になるよう構え、コーンの先端を地面に付けて土中に押し込むように力を掛けた場合に土からコーンに働く抵抗力を上部のゲージで読み取る方法が知られている。係る抵抗力の値をコーンの底面積で除し、一定の係数をかけることでコーン指数が算出される。なお、ここで例示したコーンペネトロメータの諸元は1948年にアメリカ陸軍工兵隊で開発されたコーンペネトロメータのものであるに過ぎず、コーン指数の算出が係る諸元のコーンペネトロメータを用いるものに限定されることを示すものでない。
【0025】
コーン指数は、移動可能な建設機械の走破性の高さを示す指標として利用できる。一般的に、図2に示すような無限軌道103を備えた建設機械は、コーン指数が200以上の地面を走行できるよう製造されている。従って、係る建設機械の移動経路を決定する際、移動経路の候補となる地面のコーン指数を予め測定したいという需要がある。
【0026】
一方、コーンペネトロメータを用いて地面のコーン指数を求めようとする作業を行う場合、当該地面にコーンペネトロメータの使用者が赴く必要がある。このため、例えば災害等で進入に危険を伴う地域内では当該使用者がコーンペネトロメータを持ち込むことが困難になることで、コーン指数の算出が困難になる。また、コーンペネトロメータを用いて求められた地面のコーン指数は、コーンが貫入した位置における点的なコーン指数である。このため、より広い範囲の地面のコーン指数を求めようとすると、複数個所でコーンを貫入させる作業が必要になる。
【0027】
そこで、実施形態では、上述のように、マルチスペクトル画像に基づいて推定された土の種類と当該土の含水比とに基づいたコーン指数の推定を行う。これによって、コーンペネトロメータを持ち込むことが困難な地域内でもコーン指数の推定を行える。また、マルチスペクトル画像によって面的に地面GRを撮像範囲SUB内に収めることで、撮像範囲SUBに含まれる地面GR全体の面的なコーン指数の推定を行える。実施形態のマルチスペクトルカメラ10は、地面GRを撮像対象としてマルチスペクトル画像の撮像を行う。情報処理装置20は、マルチスペクトルカメラ10が撮像したマルチスペクトル画像に基づいたコーン指数の推定に係る各種の処理を行う。
【0028】
具体的には、マルチスペクトル画像は、撮像された土の分光反射率スペクトルを反映する。分光反射率スペクトルとは、物質に入射してくる光のエネルギーに対して、その物質が反射した光のエネルギーの割合を波長ごとに並べたものである。
【0029】
分光反射率スペクトルを示すは、以下の式(1)のように表せる。式(1)において、ρ(λ)は物質の分光反射率を示す。また、L(λ)は物質が反射する光の強さを示す。また、L(λ)は物質に入射する光の強さをそれぞれ示す。また、λは波長を示す。
【0030】
【数1】
【0031】
物質は、その分子や原子の構造、または物質を構成する微粒子の大きさや形、表面の凹凸によって、光の波長ごとの反射、散乱、吸収及び放射の度合いが異なる。光の波長ごとの反射、散乱、吸収及び放射の度合いが異なるということは、分光反射率スペクトルが異なるということである。
【0032】
分光反射率スペクトルに影響を与える土質パラメータとして、土の粒子の鉱物組成、土の有機物含有量、土の粒度分布、土を構成する粒子の球形率、土の含水比等が挙げられる。このうち、土の粒子の鉱物組成と、土の有機物含有量と、土の粒度分布と、土を構成する粒子の球形率との組み合わせは、係る土の種類毎に特有の土質パラメータは、土の種類毎の粒子の材質や直径の分布、形、表面の粗さ等に反映され、土の種類毎に特有の土質パラメータとして機能する。マルチスペクトルカメラ10によって撮像された地面GRを覆う土の種類に応じた当該組み合わせによって、分光反射率スペクトルに与えられる影響が異なる。より具体的には、図3において「マルチスペクトル画像」として図示したイメージでz軸方向に積層された各撮像面は、それぞれ異なる光のスペクトルの分光反射率を反映する。ここで、各撮像面がz軸方向に沿ってスペクトル順に並んでいる「マルチスペクトル画像」は、マルチスペクトルカメラ10によって撮像された地面GRを覆う土の分光反射率スペクトルを反映する。従って、マルチスペクトル画像に基づいて、マルチスペクトルカメラ10によって撮像された地面GRを覆う土の種類を推定できる。
【0033】
また、土質パラメータのうち、土の含水比は、土の種類から独立した土質パラメータとして機能する。詳細は後述するが、同種の土であっても土の含水比が異なる場合、分光反射率スペクトルは異なるものになる。このように、土の含水比は、分光反射率スペクトルに影響を与える。すなわち、マルチスペクトルカメラ10によって撮像された地面GRを覆う土の含水比によって、マルチスペクトル画像から得られる分光反射率スペクトルに与えられる影響が異なる。従って、マルチスペクトル画像に基づいて、マルチスペクトルカメラ10によって撮像された地面GRを覆う土の含水比を推定できる。これは、地面GRに対して非接触で当該地面GRを覆う土の種類と当該土の含水比を推定できることを示す。土の種類と当該土の含水比とは、当該土で構成された地面GRのコーン指数に大きな影響を与える。従って、地面GRを覆う土の種類と当該土の含水比とを推定することで、コーン指数を推定できる。
【0034】
撮像画像のスペクトルとされる光の波長帯は、土の含水比の影響を受けない又は相対的により受けにくい波長と、含水比の影響が相対的により受けやすい波長とを含む。土の種類の推定に用いるマルチスペクトル画像の撮像においては、土の含水比の影響を受けない又は相対的により受けにくい波長が撮像画像のスペクトルとされる。また、土の含水比の影響を受けない又は相対的により受けにくい波長と含水比の影響が相対的により受けやすい波長との両方が撮像画像のスペクトルとされる。
【0035】
なお、一般的に、土は地下方向に深い位置にあるものほど、より地面側に位置する上側の土の質量からの圧力を受けることでより固くなる傾向がある。言い換えれば、露出する地面は、土の積層構造において最も軟らかい部分であることが多い。また、同じ場所ならば、地面に露出する土もより地下方向に深い位置にある土も同じ種類の土であることが多い。また、コーン指数は、軟らかい土ほど低くなる傾向がある。これらの事情から、地面を覆う土から推定されたコーン指数が当該土で覆われた地盤のコーン指数を超えることはほとんどない。従って、マルチスペクトルカメラ10によって撮像された地面GRを覆う土のコーン指数を推定できれば、当該土で覆われた地盤の走破性を推定するための十分な情報を得られる。なぜなら、地面GRで露出する一番軟らかい土のコーン指数が建設機械の重量に耐えられるならば、より地下方向に深い部分にある固い土のコーン指数も当然建設機械の重量に耐えられることになるからである。すなわち、地面GRで露出する一番軟らかい土のコーン指数に基づいた当該建設機械の走破性の判定を行えば、当該地面GRの走破性の判定として十分であると考えられる。
【0036】
情報処理装置20は、マルチスペクトル画像に基づいた土の種類の推定、土の含水比の推定及びコーン指数の推定に係る処理を行う。図1に示すように、情報処理装置20は、演算部21と、記憶部22と、インタフェース23と、入力部24と、出力部25とを備える。
【0037】
演算部21は、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)のような演算装置を備える。演算部21は、記憶部22に記憶されているソフトウェア・プログラム及びデータ等を読み出して実行処理する。以下、単にプログラムと記載した場合、演算部21に読み出されるソフトウェア・プログラム及び当該ソフトウェア・プログラムの実行処理に際して参照されるデータ等をさす。
【0038】
記憶部22は、プログラムを記憶する二次記憶装置を含む。具体的には、記憶部22は、図1に示すように、土種類推定プログラム221、含水比推定プログラム222及びコーン指数推定プログラム223を記憶する。係る二次記憶装置の具体的な構成例として、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ、フラッシュメモリーその他の不揮発性記憶装置が挙げられる。実施形態の記憶部22は、これらのうち1つ以上を備える。また、記憶部22は、演算部21が行うプログラムの実行処理に際して記憶領域として利用されるRAM(Random access memory)として機能する一次記憶装置を含む。係る一時記憶装置の具体的な構成例として、DRAM(Dynamic Random Access Memory)として機能する半導体メモリ等が挙げられる。
【0039】
インタフェース23は、情報処理装置20とマルチスペクトルカメラ10とを接続する。具体的には、インタフェース23は、マルチスペクトルカメラ10の出力形態に対応したインタフェースである。例えば、第1撮像装置11及び第2撮像装置12のうち少なくとも一方の入出力インタフェースがUSB(Universal Serial Bus)である場合、インタフェース23は、USBケーブルの端子を接続可能なUSBインタフェースを含む。また、第1撮像装置11及び第2撮像装置12のうち少なくとも一方が通信を介したデータ出力を行う場合、インタフェース23は、当該通信の規格に対応したネットワークインタフェースを含む。当該通信の経路は、有線によるものであってもよいし、無線によるものであってもよいし、有線と無線とが混在するものであってもよい。また、通信経路の一部又は全部がインターネット等の公共通信回線を利用するものであってもよいし、通信経路の一部又は全部が実施形態専用に設けられたものであってもよい。これら例示したインタフェースの具体的形態はマルチスペクトルカメラ10と情報処理装置20との接続形態を限定するものでなく、マルチスペクトルカメラ10が撮像して生成した撮像画像を情報処理装置20に伝送可能な形態であればよい。
【0040】
なお、情報処理装置20は、バックホウ100に搭載されていてもよいし、バックホウ100の外部に設けられて有線又は無線を介してバックホウ100に設けられたマルチスペクトルカメラ10と接続されるようにしてもよい。
【0041】
入力部24は、例えばタッチパネル、キーボード、マウス、複数のスイッチ等、情報処理装置20に対する入力を受け付けるための入力装置を含む。出力部25は、例えばディスプレイ、プリンタ等、情報処理装置20の処理結果に対応した出力を行うための構成を含む。
【0042】
図4は、推定システム1の機能ブロック図である。図4に示すように、情報処理装置20は、取得部31、土種類推定部32、含水比推定部33、コーン指数推定部34及び出力部35として機能する。実施形態の情報処理装置20は、図1を参照して説明した各構成を備え、図4を参照して説明する各種の機能を奏する情報処理装置であるが、これに限られるものでない。情報処理装置20は、図4を参照して説明する各種の機能を奏する専用の装置であってもよい。
【0043】
取得部31は、マルチスペクトル画像を取得する。具体的には、取得部31は、マルチスペクトルカメラ10から出力され、インタフェース23を介して情報処理装置20に入力されたマルチスペクトル画像を取得部31が取得することで実現される。
【0044】
土種類推定部32は、マルチスペクトルカメラ10で撮像された地面GRを覆う土の種類を推定する。具体的には、土種類推定部32は、演算部21が土種類推定プログラム221を実行処理することで実現する。含水比推定部33は、マルチスペクトルカメラ10で撮像された地面GRを覆う土の含水比を推定する。具体的には、含水比推定部33は、演算部21が含水比推定プログラム222を実行処理することで実現する。コーン指数推定部34は、マルチスペクトルカメラ10で撮像された地面GRのコーン指数を推定する。具体的には、コーン指数推定部34は、演算部21がコーン指数推定プログラム223を実行処理することで実現する。土種類推定部32、含水比推定部33、コーン指数推定部34の各々の機能の詳細については後述する。
【0045】
出力部35は、コーン指数推定部34が推定したコーン指数を示す出力を行う。具体的には、出力部35は、出力部25が備えるディスプレイによる表示出力、プリンタによる画像形成出力、スピーカによる音、音声の少なくともいずれか1つ以上によって当該コーン指数を示す出力を行う。
【0046】
以下、土種類推定部32による土の種類の推定と、含水比推定部33による土の含水比の推定と、コーン指数推定部34によるコーン指数の推定の各々の詳細について順次説明する。
【0047】
(土の種類の推定)
マルチスペクトル画像に基づいた土の種類の推定では、土の種類に応じてそれぞれ別の分光反射率スペクトルを持つことを利用する。土の種類の推定の際には、水分子が吸収しない波長における分光反射率スペクトルの詳細な形状が必要になる。従って、土の種類の推定のために指定される撮像画像のスペクトルの数(第1指定数)をより多くすることで、土の種類の推定精度をより高められる。実施形態では、当該第1指定数は、含水比の推定のために指定される撮像画像のスペクトルの数(第2指定数)に比して大きい。なお、撮像画像のスペクトルが実施形態における第1指定数のように非常に多いマルチスペクトル画像のことを、マルチスペクトル画像の中でも特にハイパースペクトル画像ということがある。
【0048】
図5は、10種類の土の各々の可視光画像の例を示す図である。図6は、図5に示す10種類のうち3種類の土の各々の500[nm]から900[nm]までの波長帯における分光反射率スペクトルを示すグラフである。図6のグラフにおいて、縦軸は分光反射率を示し、横軸は波長を示す。図6における線L1は、種類Aの分光反射率スペクトルを示す。図6における線L2は、種類Bの分光反射率スペクトルを示す。図6における線L3は、種類Cの分光反射率スペクトルを示す。
【0049】
図5では、日本国内のそれぞれ異なる場所で採取された10種類の土を例示している。当該10種類の土のうち5種類は、土を構成する土粒子のうち半分以上の直径が0.075[mm]以上75[mm]未満の粗粒土である。また、他の5種類は、土を構成する土粒子のうち半分以上の直径が0.075[mm]未満の細粒土である。また、他の5種類の細粒土は、さらにその土の起源によって、粘性土と火山灰質粘性土に分けられる。具体的には、図5に示す種類A、種類D及び種類Gは、粘性土である。また、図5に示す種類B及び種類Fは、火山灰質粘性土である。また、図5に示す種類C、種類E、種類H、種類I及び種類Jは、粗粒土である。
【0050】
図6に示すように、線L3(種類C)は、500[nm]から900[nm]までの波長帯の全般に渡って、分光反射率スペクトルが線L1(種類A)及び線L2(種類B)とは異なる。従って、撮像画像のスペクトルを500[nm]から900[nm]までの波長帯の範囲内で指定すれば、マルチスペクトル画像に基づいて種類Cを種類A及び種類Bと判別できる。
【0051】
これに対し、種類Aの分光反射率スペクトルと種類Bの分光反射率スペクトルとを比較した場合、600[nm]から700[nm]までの波長帯では差がほとんどない。一方、500[nm]の波長では、種類Aの分光反射率の方が種類Bの分光反射率よりも高い。また、700[nm]を超えた波長帯でも、種類Aの分光反射率が種類Bの分光反射率よりも高い。このように、500[nm]の波長や700[nm]を超えた波長帯が撮像画像のスペクトルとして指定されていれば、マルチスペクトル画像に基づいて種類Aと種類Bとを判別できる。
【0052】
なお、粗粒土、粘性土又は火山灰質粘性土のいずれかであるかという観点で同種のものに分類されるとしても、図5で例示した10種類の土の各々は、第1撮像装置11で指定可能な撮像画像のスペクトルの範囲内においてそれぞれ異なる分光反射率スペクトルを示す。
【0053】
図6を参照して説明したように、指定された撮像画像のスペクトルが仮に600[nm]から700[nm]までの波長帯に限定されていた場合、種類Aと種類Bとの判別の難易度が高くなる。このような土の種類と分光反射率スペクトルとの関係を考慮し、指定される撮像画像のスペクトルの数と撮像画像のスペクトルが含む波長帯とはより大きいことが望ましい。
【0054】
図7は、指定された撮像画像のスペクトルの数と土の種類の判別精度との関係の一例を示すグラフである。以下、「指定数」と記載した場合、特筆しない限り、撮像画像のスペクトルとして指定された光の波長又は光の波長体の種類の数をさす。図7では、指定数が3である場合と、指定数が6である場合と、指定数が151である場合の各々の土の種類の判別精度の高さを例示している。図7に示すように、指定数が151である場合、指定数が3である場合及び指定数が6である場合に比して、土の種類の判別をより高精度に行える。また、指定数が6である場合、指定数が3である場合に比して、土の種類の判別をより高精度に行える。このように、指定数がより大きいほど、土の種類の判別精度をより高めやすい。したがって、指定数が大きいほど好ましく、限定はされない。
【0055】
実施形態の第1撮像装置11は、上述のように、350[nm]から1100[mm]までの範囲内で5[nm]刻みで撮像画像のスペクトルを指定可能に設けられたマルチスペクトルカメラ10である。すなわち、第1撮像装置11は、350[nm],355[nm],360[nm],…,1100[nm]のように、5[nm]刻みで撮像画像のスペクトルを指定することで、最大151種類の光の波長に対する撮像画像を取得可能である。実施形態では、このように広範囲のスペクトル毎の撮像画像を取得することで、土の種類の判別精度を確保している。
【0056】
第1撮像装置11は、上述のように、151種類の光の波長を撮像画像のスペクトルとして指定される。第1撮像装置11は、係る指定条件下で地面GR(図2参照)を撮像する。演算部21は、第1撮像装置11が撮像したマルチスペクトル画像を取得する。土種類推定部32は、当該マルチスペクトル画像に基づいて、第1撮像装置11が撮像した地面GRを覆う土の種類を推定する。具体的には、土種類推定部32は、ニューラルネットワークNNを利用して当該土の種類を推定する。
【0057】
図8は、マルチスペクトル画像とニューラルネットワークNNの入出力との関係の一例を示す模式図である。土種類推定部32は、マルチスペクトル画像を、単位領域Cr単位で抽出し、単位領域Crが示す分光反射率スペクトルのベクトルに含まれる成分を個別にニューラルネットワークNNへの入力とする。ここで、単位領域Crにおいてz軸方向に並ぶ複数の撮像面の各々の階調値が示す分光反射率をz軸方向の一端側(長波長側)から他端側(短波長側)に並べた行ベクトルは、単位領域Crが示す分光反射率スペクトルのベクトルとして機能する。すなわち、より具体的には、土種類推定部32は、各単位領域Crにおける複数の撮像面の各々の階調値を要素とするベクトルを各単位領域Crが示す分光反射率スペクトルのベクトルとして導出し、導出されたベクトルをニューラルネットワークNNへの入力とする。
【0058】
実施形態における分光反射率スペクトルのベクトルは、第1撮像装置11が撮像するマルチスペクトル画像において撮像画像のスペクトルとして指定されたスペクトルの数の成分を持つベクトルとなる。各成分が、マルチスペクトル画像の各撮像面における単位領域Crの位置の階調値で表される。なお、成分は、0以上1以下の値となるよう変換される。具体的には、各撮像面で階調値がhビットのデータとして扱われる場合、当該hビットのデータの最低値を0とし、最高値を1として扱う。一例として、h=16である場合、階調値が0である場合に成分が0になり、階調値が65535である場合に成分が1になる。
【0059】
単位領域Crとは、予め定められた1画素以上を含む画素領域である。実施形態では、単位領域Crは、1画素である。なお、単位領域Crは、x軸方向に1画素分の領域であって、かつ、y軸方向に撮像面の一端側から他端側までに渡る画素列領域であってもよい。また、単位領域Crは、y軸方向に1画素分の領域であって、かつ、x軸方向に撮像面の一端側から他端側までに渡る画素行領域であってもよい。また、単位領域Crは、撮像面をx軸方向及びy軸方向に複数に分割した領域の各々であってもよい。
【0060】
なお、実施形態の第1撮像装置11は、撮像範囲SUBを走査するように撮像するマルチスペクトルカメラ10である。具体的には、実施形態の第1撮像装置11は、マルチスペクトル画像を構成する単位領域Cr毎に入射光を分光させて得た分光反射率スペクトルを記録し、それを終えると、次の単位領域Crの入射光を分光して分光反射率スペクトルの記録を開始する処理を最初の単位領域Crから最後の単位領域Crまで順次行う。このため、実施形態の第1撮像装置11は単位領域Cr毎に、撮像時にその単位領域Cr内に映し出された物質の分光反射率スペクトルが記録されている。従って、土種類推定部32が行う処理において第1撮像装置11が撮像するマルチスペクトル画像から分光反射率スペクトルを取得するには、単位領域Crごとに取得する。
【0061】
ニューラルネットワークNNは、入力層と、出力層と、中間層とを含む。入力層、出力層及び中間層は、それぞれ複数のノードを有する。実施形態のニューラルネットワークNNは、土種類推定部32によって導出された分光反射率スペクトルを示すベクトルを入力層とする。すなわち、ニューラルネットワークNNの入力層のノードの数は、第1撮像装置11によるマルチスペクトル画像の撮像において指定される「撮像画像のスペクトル」の数に対応する。図8の「ニューラルネットワーク」欄で示す単位領域Crを構成する矩形の列の各々は、分光反射率スペクトルを示すベクトルに含まれる複数の成分の各々である。
【0062】
また、ニューラルネットワークNNは、マルチスペクトル画像として撮像された地面GRの土が、予め定められたi種類の土のうちいずれの種類の土に該当するかを推定するためのニューラルネットワークである。従って、ニューラルネットワークNNの出力層(j class)のノードの数(j)は、ニューラルネットワークを利用した推定において区別可能な土の種類の数に対応する。
【0063】
ニューラルネットワークNNの中間層のノード数は、当該ニューラルネットワークNNの入力層のノード数より少ないことが好ましい。より好ましくは、当該中間層のノード数は、当該入力層のノード数の半分以下であることが好ましい。なお、実施形態では、ニューラルネットワークNNの中間層のノードの数(i)を入力層のノードの約半分の数としているが、これは一例であってこれに限られるものでなく、適宜変更可能である。より具体的には、実施形態では、ニューラルネットワークNNの入力層のノードの数(単位領域Cr)が151であり、中間層のノードの数(i)が65であり、出力層のノードの数(j)が10(図5参照)である。
【0064】
中間層のノードは、入力層のノードと出力層のノードとの間に介在する。中間層のノードの各々には、全ての入力層のノードから入力が行われる。すなわち、中間層のノードの各々には、1つの単位領域Crにおける分光反射率スペクトルのベクトルが入力される。また、中間層のノードの各々には、全ての出力層のノードが接続される。中間層のノードの各々は、重み付けの結果を示す値を各出力層のノードへ出力する。
【0065】
より具体的な例を挙げると、中間層のノードは、例えば、分光反射率スペクトルのベクトルが種類Aの土のものである可能性が高い場合に、種類Aの土であるという推定結果に対応する出力層のノードにより高い重み付け値を出力するノードを含む。また、中間層のノードは、例えば、分光反射率スペクトルのベクトルが種類Bの土のものである可能性が高い場合に、種類Bの土であるという推定結果に対応する出力層のノードにより高い重み付け値を出力するノードを含む。このようなノードが、土の種類毎に設けられる。また、単純な土の種類A、種類B、…、に限られず、土の種類毎の粒子の材質や直径の分布、形、表面の粗さ等の土質パラメータに基づいた重み付けで土の種類の推定結果の確からしさをより高めるノードがさらに設けられていてもよい。また、粗粒土と、細粒土と、細粒土のうち粘性土と、細粒土のうち火山灰質粘性土と、を区別するようなより粗い区別によって土の種類の推定結果の確からしさをより高めるノードがさらに設けられていてもよい。これらは中間層のノードの一例であってこれに限られるものでなく、実施形態では、土の種類の推定結果の確からしさをより高めるために利用可能な重み付け処理に対応したノードを中間層のノードとして設定できる。
【0066】
このように、区別可能な土の種類に対応した出力層のノードの各々に対して、中間層のノードの各々によって行われた重み付け処理の結果を示す値が出力される。第1撮像装置11による1回の撮像に対して、理想的にはマルチスペクトル画像に含まれる単位領域Crの数だけ入力層に対する入力が繰り返され、各入力に対する重み付け処理が中間層によって行われ、出力層には土の種類の推定結果の確からしさを示す値が与えられる。ここで、例えば出力層の各ノードのうち、推定結果が種類Aであることを示すノードの値が他の出力層のノードの値よりも高い場合、土種類推定部32は、第1撮像装置11によって撮像された地面GRを覆う土の種類が種類Aであると推定する。また、出力層の各ノードのうち、推定結果が種類Bであることを示すノードの値が他の出力層のノードの値よりも高い場合、土種類推定部32は、第1撮像装置11によって撮像された地面GRを覆う土の種類が種類Bであると推定する。このように、実施形態の土種類推定部32は、ニューラルネットワークNNを利用して土の種類を推定する。
【0067】
なお、理想的には、と記載したのは、実際には単位領域Crの一部又は全部から取得される分光反射率スペクトルのベクトルが土の種類の推定に適さないベクトルになる可能性があるためである。実施形態では、土種類推定部32は、係る土の種類の推定に適さないベクトルをニューラルネットワークNNに対する入力から除外し、土の種類の推定に適したベクトルをニューラルネットワークNNへ入力する前処理(第1前処理)を行う。係る第1前処理の詳細については後述する。実施形態では、土種類推定部32は、1回の撮像で得られたマルチスペクトル画像から土の種類の推定に適したベクトルが所定数以上得られた場合、当該マルチスペクトル画像に基づいた土の種類の推定を行う。当該所定数は例えば100であるが、これに限られるものでなく、適宜変更可能である。
【0068】
土種類推定プログラム221は、演算部21が土種類推定プログラム221を実行処理することでニューラルネットワークNNとして機能するためのプログラム等である。また、土種類推定プログラム221は、図6を参照して説明したような、土の種類毎に固有の分光反射率スペクトルを示すデータを含む。当該データは、ニューラルネットワークNNの中間層のノードで行われる重み付け処理で参照される。この他、土種類推定プログラム221は、中間層の各ノードが重み付け処理のために参照するデータをさらに含む。
【0069】
より具体的な形態について説明すると、実施形態では、ニューラルネットワークNNにおける中間層のノードの活性化関数としてReLU(Rectified Linear Unit)を使用する。また、ニューラルネットワークNNにおける出力層のノードの活性化関数としてソフトマックス関数(Softmax function)を使用する。また、ニューラルネットワークNNにおける中間層と出力層の間ではドロップアウトを行い、ドロップアウトする割合は0.2に設定する。また、ニューラルネットワークNNの最適化にはRMSpropを使用し、学習率は0.001に設定する。実施形態の土種類推定プログラム221は、例えばこれらの活性化関数、ドロップアウトの割合、最適化手法及び学習率を実現したニューラルネットワークNNとして機能するためのプログラム等である。これらの活性化関数、ドロップアウトの割合、最適化手法及び学習率はあくまで一例であってこれに限られるものでなく、適宜変更可能である。
【0070】
図9は、土の種類の推定に係る検証実験環境の一例を示す模式図である。図9では、土が入れられた鉢状の容器CAを中心とし、当該容器CAの上部開口部から露出する土を照明する3つのハロゲンランプHLを配置した構成例を示している。図2で例示したような建設機械に設けられた第1撮像装置11によるマルチスペクトル画像の撮像時には屋外で太陽光を光源とするが、検証実験では、太陽光に似たスペクトルを持っているハロゲンランプHLを光源としてマルチスペクトル画像を撮像することにした。これにより、太陽光を光源とした場合と似た分光反射率スペクトルをマルチスペクトル画像から取得することができる。さらに、当該検証実験環境によれば、雨天や曇り空等、環境の条件の変化による光量の不足等の悪条件の発生を抑制でき、十分な光量が得られる環境下でマルチスペクトル画像の撮像を行える。
【0071】
図9で例示するような検証実験環境を利用することで、土の種類毎の分光反射率スペクトルを得られる。すなわち、容器CA内の土の種類をそれぞれ異ならせた条件下で第1撮像装置11による撮像を個別に行うことで、土の種類毎の分光反射率スペクトルを得られる。このようにして得られた土の種類毎の分光反射率スペクトルを示すデータは、ニューラルネットワークNNにおける中間層のノードが行う重み付け処理で参照されるデータとして利用可能である。実施形態では、係る検証実験環境で土の種類毎のマルチスペクトル画像を第1撮像装置11によって撮像し、バッチサイズを128とし、エポック数を12とし、ニューラルネットワークNNの学習を行っている。バッチサイズとは、データ全体(データセット)を複数の分割データ(サブセット)に分割し、ニューラルネットワークNNが処理を行う場合の分割データの大きさである。エポック数は、同じデータセットを利用したニューラルネットワークNNによる処理の繰り返し回数を示す。なお、実施形態において図9の検証実験環境で撮像された土は、含水比を0%とするよう統一されているが、これは必須条件でなく、土の種類毎に異なる条件での撮像とならないよう行われた対処に過ぎない。
【0072】
図10は、バッチサイズを128とし、エポック数を12としてニューラルネットワークNNの学習を行った場合の土の種類の推定精度を示す混同行列である。当該混同行列は、縦軸が第1撮像装置11によって撮像されたマルチスペクトル画像の各画素の分光反射率スペクトルが示す実際の土の種類を示し、横軸がその分光反射率スペクトルに基づいて土種類推定部32がニューラルネットワークNNを利用して土の種類を推定した結果を示す。縦軸及び横軸のアルファベット(A,B,…,J)は、図5を参照して説明した土の種類の符号に付されているアルファベットに対応する。第1撮像装置11によって実際の土の種類と、土種類推定部32によって推定された土の種類が一致した場合、混同行列の対角成分の部分の確率が高くなる。この混同行列における確率は、高くなるほど濃い色になる。図10では、混同行列における確率と色の濃さの対応関係を混同行列の右側のカラーバーで示している。
【0073】
図10に示すように、第1撮像装置11によって撮像されたマルチスペクトル画像から得られた分光反射率スペクトルに基づいて図5を参照して例示した10種類の土全てにおいて高い確率で実際の土の種類を推定識別できている。土種類推定部32は、光源をハロゲンランプHLから太陽光に変更しても同様の推定精度で土の種類を推定可能である。
【0074】
(含水比の推定)
図11は、土の含水比の説明図である。含水比は,固体に含まれる水の量を示す。土の含水比は、水の重量を土の個体成分(土の粒子)の重量で除し、土に含まれる水分の割合[%]を示す土質パラメータである。土の含水比をw[%]とすると、wは、以下の式(2)で求められる。図11及び式(2)のmは、土に含まれる水の質量を示す。また、図11及び式(2)のmは、土の個体成分(土の粒子)の質量を示す。ここで、図11に示すように、m+mが土の質量になる。
【0075】
w=m/m×100…(2)
【0076】
なお、土は、個体成分と水分に加えて、土の粒子間の空気(m)をさらに含む。係る空気(m)は、土の質量に含まれず、含水比の算出に関わらない。
【0077】
土の含水比は、当該土のコーン指数に大きく影響する土質パラメータである。含水比推定部33は、土の含水比を推定する。
【0078】
図12は、土の含水比と分光反射率スペクトルとの関係の一例を示す模式的なグラフである。図12では、縦軸が土による光の分光反射率を示し、横軸が光の波長を示す。図12で示す線L4、線L5、線L6は同じ土の種類の分光反射率スペクトルである。なお、図12に示す線L4は、相対的に土の含水比が低い場合の分光反射率スペクトルを示す。図12に示す線L6は、相対的に土の含水比が高い場合の分光反射率スペクトルを示す。図12に示す線L5は、土の含水比が、線L4が示す場合と線L6が示す場合の間の含水比である場合の分光反射率スペクトルを示す。
【0079】
土の含水比は、土の分光反射率スペクトルに影響を与える。従って、同種の土であっても土の含水比が異なる場合、分光反射率スペクトルは異なるものになる。具体的には、水分子は、水分子を構成する酸素原子と水素原子の間の振動収縮と変角運動によって光を吸収する。ここで、水分子は、一部のスペクトルの光を他のスペクトルに比してより顕著に吸収する。具体的には、水分子は、赤外光をより顕著に吸収することが知られている。
【0080】
土の含水比が高まると、土粒子の隙間に水が入り込む割合が高くなる。このように土粒子の隙間に水が入り込む割合が高まると、土と、土の上方の空気との間の屈折率の差が減少する。係る屈折率の差が減少するということは、空気中から土への入射光が反射せずに土の中に屈折して進入する割合が高まることである。従って、一般的に、土の含水比が高まる程、土が反射する光の分光反射率スペクトルは全体的に低くなる傾向を示す。この傾向に加えて、上述のように、水分子は、赤外光をより顕著に吸収する。従って、土が反射する光の分光反射率スペクトルは、土の含水比が高まる程、赤外線の波長帯の分光反射率が他の波長帯の分光反射率に比してより顕著に低くなる傾向を示す。
【0081】
図12では、可視光線に該当するスペクトルw1と、赤外光に該当するスペクトルw2とをピックアップし、スペクトルw1における分光反射率とスペクトルw2における分光反射率との差を示している。差dは、線L4が示す分光反射率スペクトルにおける当該差を示す。差dは、線L5が示す分光反射率スペクトルにおける当該差を示す。差dは、線L6が示す分光反射率スペクトルにおける当該差を示す。
【0082】
線L4が示す分光反射率スペクトルでは、スペクトルw1における分光反射率SP1に比してスペクトルw2における分光反射率SP4が相対的に高い。このため、差dは、正の値になる。これに対し、線L5が示す分光反射率スペクトルでは、スペクトルw1における分光反射率SP2に比してスペクトルw2における分光反射率SP5が相対的に低い。これは、線L5の場合が線L4の場合に比して土の含水比が相対的に高い場合であるため、スペクトルw2の光が土に含まれる水分子により顕著に吸収されたことによる。このため、差dは、負の値になる。従って、差dの値は、差dの値よりも小さい。また、線L6が示す分光反射率スペクトルでは、スペクトルw1における分光反射率SP3に比してスペクトルw2における分光反射率SP6が相対的に低い。このため、差dは、負の値になる。さらに、分光反射率SP3と分光反射率SP6との乖離の度合いは、分光反射率SP2と分光反射率SP5との乖離の度合いよりも大きい。これは、線L6の場合が線L5の場合に比して土の含水比が相対的に高い場合であるため、スペクトルw2の光が土に含まれる水分子により顕著に吸収されたことによる。従って、差dの値は、差dの値よりもさらに小さい。つまり、d>d>dが成立する。このように、土の含水比が高まると、土に含まれる水が光をより顕著に吸収する赤外線の波長帯の分光反射率から他の波長帯(例えば、可視光線に該当する波長帯)の分光反射率を引いた差の値が減少することが分かる。含水比推定部33は、このような土の分光反射率スペクトルの傾向に基づいて、土の含水比を推定する。なお、実施形態の説明では、他の波長帯として可視光線に該当する波長帯(例えば、後述する570[nm]を含む波長帯)が採用されているが、他の波長帯は赤外線よりも短波長の光の波長帯であればよい。例えば、他の波長帯は、紫外線の波長帯であってもよい。
【0083】
図12では説明を分かりやすくする目的で、赤外線の波長帯IRに含まれるスペクトルw2をピックアップした説明を行っているが、土の含水比が赤外線の波長帯の光の吸収の度合いに与える影響をより高精度に求めるためには、より広い範囲で赤外線の波長帯の光を取得するスペクトル画像を用いる必要がある。単一の波長によって取得されたスペクトル画像を用いることが好ましいが、実施形態では、赤外線に該当する波長帯の光を撮像画像のスペクトルとして指定できるマルチスペクトルカメラ10を第2撮像装置12として採用し、同等の効果を得ている。実施形態では、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像において、赤外線に該当する900[nm]から1700[mm]までの波長帯を撮像画像のスペクトルとして指定する。また、実施形態では、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像において、赤外線に該当しない撮像画像のスペクトルとして570[nm]を指定する。これら例示した第2撮像装置12の撮像画像のスペクトルはあくまで一例であり、赤外線に該当するスペクトルの範囲及び赤外線に該当しない他のスペクトルをこの例に限定するものでない。なお、570[nm]の波長は、第2撮像装置12で取得できる波長範囲において、赤外線の波長帯(900[nm]から1700[mm])から十分離れており、さらに、土の含水比の高まりによって赤外線の波長帯の分光反射率と可視光の波長帯の分光反射率との差が単調減少するデータを他の可視光波長(490[nm]、570[nm]、671[nm]、800[nm])に比して最も多く取得できたため採用されている。
【0084】
以下の説明で第1スペクトルと記載した場合、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像における赤外線に該当する撮像画像のスペクトルをさす。また、以下の説明で第2スペクトルと記載した場合、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像における赤外線に該当しない撮像画像のスペクトルをさす。また、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像から得られた第1スペクトルの分光反射率を第1分光反射率と記載する。また、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像から得られた第2スペクトルの分光反射率を第2分光反射率と記載する。
【0085】
図13は、第1分光反射率と、第2分光反射率と、第1分光反射率と第2分光反射率との差と、土の含水比との関係の一例を示すグラフである。図13では、縦軸が含水比を示し、横軸が分光反射率を示す。図13に示すプロットSP11は、相対的に土の含水比が低い場合の第2分光反射率を示す。図13に示すプロットSP31は、相対的に土の含水比が高い場合の第2分光反射率を示す。図13に示すプロットSP21は、土の含水比が、プロットSP11が示す場合とプロットSP31が示す場合の間(相対的中間)の含水比である場合の第2分光反射率を示す。図13に示すプロットSP41は、相対的に土の含水比が低い場合の第1分光反射率を示す。図13に示すプロットSP61は、相対的に土の含水比が高い場合の第1分光反射率を示す。図13に示すプロットSP21は、土の含水比が、相対的中間の含水比である場合の第1分光反射率を示す。
【0086】
差d11は、プロットSP11とプロットSP41との差の値を示す。すなわち、差d11は、相対的に土の含水比が低い場合の第1分光反射率と第2分光反射率との差の値を示す。差d21は、プロットSP21とプロットSP51との差の値を示す。すなわち、差d21は、土の含水比が、相対的中間の含水比である場合の第1分光反射率と第2分光反射率との差の値を示す。差d31は、プロットSP31とプロットSP61との差の値を示す。すなわち、差d31は、土の含水比が、相対的に土の含水比が高い場合の第1分光反射率と第2分光反射率との差の値を示す。
【0087】
図14は、図13に示す第1分光反射率と第2分光反射率との差とを表すプロットが付されたグラフである。図14では、縦軸が含水比を示し、横軸が第1分光反射率と第2分光反射率との差の値の大きさを示す。図14に示すプロットSP71は、相対的に土の含水比が低い場合の第1分光反射率と第2分光反射率との差の値を示す。図14に示すプロットSP81は、土の含水比が、相対的中間の含水比である場合の第1分光反射率と第2分光反射率との差の値を示す。図14に示すプロットSP91は、相対的に土の含水比が高い場合の第1分光反射率と第2分光反射率との差の値を示す。
【0088】
図15は、図14におけるプロットSP71,SP81,SP91に基づいて生成されたフィッティングカーブFC1を示すグラフである。以下、図13から図15を参照して、含水比推定部33が土の含水比の推定に利用する参照データの作成の仕組みについて説明する。以下の説明では、係る参照データの作成に含水比推定部33が利用されているが、参照データの作成専用のプログラムを別途用意してもよい。
【0089】
まず、同一の種類の土について、土の含水比が相対的に低い場合と、土の含水比が相対的中間の含水比である場合と、土の含水比が相対的に高い場合と、の各々の場合で第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像が行われる。係るマルチスペクトル画像の撮像における撮像画像のスペクトルは、第1スペクトルと第2スペクトルである。
【0090】
含水比推定部33は、第2撮像装置12によってマルチスペクトル画像のうち、第1スペクトルに対応するスペクトル画像からプロットSP11,SP21,SP31を取得する。また、含水比推定部33は、第2撮像装置12によってマルチスペクトル画像のうち、第2スペクトルに対応するスペクトル画像からプロットSP41,SP51,SP61を取得する。含水比推定部33は、プロットSP11とプロットSP41との差d11と、プロットSP21とプロットSP51との差d21と、プロットSP31とプロットSP61との差d31とを算出する。
【0091】
含水比推定部33は、図14に示すように、同一の原点位置に対する差d11,d21,d31の大きさを示すプロットSP71,SP81,SP91として差d11,d21,d31を管理する。そして、含水比推定部33は、曲線あてはめ処理を行い、図15に示すように、プロットSP71とプロットSP81とプロットSP91に対応するフィッティングカーブFC1を導出する。係るフィッティングカーブFC1が示す土の含水比と第1分光反射率と第2分光反射率との差の値との関係は、プロットSP11,SP21,SP31,SP41,SP51,SP61が得られたマルチスペクトル画像で撮像された土の含水比を推定するための参照データとして機能する。
【0092】
なお、曲線あてはめ処理であてはめられる曲線は、例えば指数近似線であるが、これに限られるものでなく、適宜変更可能である。また、曲線あてはめ処理の具体的な手法については、例えば最小二乗法による最適関数の推定等、周知の手法を利用可能であるため、その詳細については省略する。
【0093】
なお、図13及び図14で示すプロットSP11,SP21,SP31,SP41,SP51,SP61,SP71,SP81,SP91は、ほぼ同じ位置に重なるように2つのプロットが図示されているものを含んでいるが、等条件下の撮像でも完全に一致するプロットが必ずしも得られない必然的な誤差を示すものであって、それ以上のものでない。プロットに基づいたフィッティングカーブFC1の導出においては、ほぼ同じ位置に重なる全てのプロットを考慮(平均等)してもよいし、代表値として扱われるプロットを限定してもよい。
【0094】
次に、上述の含水比推定部33による参照データの生成が可能な検証実験環境について、図16及び図17を参照して説明する。図16は、土の含水比の推定に係る検証実験環境の一例を示す模式図である。図17は、図16における撮像対象SSの構成例を示す模式図である。図16に示すように、第2撮像装置12は、撮像対象SSを撮像範囲に含むよう設置され、マルチスペクトル画像の撮像を行う。係るマルチスペクトル画像の撮像における撮像画像のスペクトルは、第1スペクトルと第2スペクトルである。
【0095】
図17に示すように、撮像対象SSは、第1サンプルSS1と、第2サンプルSS2と、第3サンプルSS3と、校正シートPRSとを含む。第1サンプルSS1は、土の含水比が相対的に低い土である。第2サンプルSS2は、土の含水比が、相対的中間の含水比である土である。第3サンプルSS3は、土の含水比が相対的に高い土である。なお、第1サンプルSS1と、第2サンプルSS2と、第3サンプルSS3は、同じ種類の土である。
【0096】
一例を挙げると、第1サンプルSS1は、土の含水比が10[%]の土である。第2サンプルSS2は、土の含水比が25[%]の土である。第3サンプルSS3は、土の含水比が40[%]の土である。これら例示した含水比はあくまで一例であってこれに限られるものでなく、適宜変更可能である。また、図17に示すように、第1サンプルSS1、第2サンプルSS2及び第3サンプルSS3は、例えば第2撮像装置12側が開放された皿又は鉢状の容器に入れた状態で撮像対象SS内に設置される。係る皿又は容器の形状は、土の含水比の相違によらず共通であることが望ましい。
【0097】
校正シートPRSは、撮像時の明るさに関する条件を示すデータを取得するためのシート状の部材である。校正シートPRSは、少なくとも第2撮像装置12に面する側の一面の分光反射率がほぼ一様であって、既知の分光反射率を示す。
【0098】
このような撮像対象SSを第2撮像装置12によって撮像したマルチスペクトル画像に基づいて、図13から図15を参照して説明したようなフィッティングカーブFC1を導出できる。すなわち、係るマルチスペクトル画像において第1サンプルSS1が撮像された領域から、プロットSP11,SP41を取得できる。また、係るマルチスペクトル画像において第2サンプルSS2が撮像された領域から、プロットSP21,SP51を取得できる。係るマルチスペクトル画像において第3サンプルSS3が撮像された領域から、プロットSP31,SP61を取得できる。
【0099】
なお、実施形態で行われている土の分光反射率を導出する処理をより具体的に説明すると、第2撮像装置12で地面GRを覆う土(又は第1サンプルSS1等のサンプル)と分光反射率スペクトルが既知の校正シートPRSを撮像し、赤外線の波長帯において土が写っている部分の輝度値を校正シートPRSが写っている部分の輝度値で除す。さらに、係る除算後の値に、当該赤外線の波長帯における校正シートの分光反射率の平均を乗ずる。これによって、土の分光反射率を算出できる。
【0100】
また、図16及び図17を参照して説明した検証実験環境における光源は太陽光であるが、第1スペクトル及び第2スペクトルの光を十分に照射可能な専用の光源を利用してもよい。
【0101】
図18は、種類A、種類B、種類D、種類F、種類Gの各々のフィッティングカーブFC1,FC2,FC3,FC4,FC5の例を示すグラフである。図13から図17を参照してある一種類の土の含水比に関する参照データについて説明したが、実施形態では、第1サンプルSS1、第2サンプルSS2及び第3サンプルSS3として採用される土の種類を変更し、同様のマルチスペクトル画像の撮像及びフィッティングカーブの導出に係る処理を行うことで、図18で例示するように、複数種類の土の含水比に関する参照データを生成できる。無論、図18で例示されていない他の種類の土についても同様に、マルチスペクトル画像に基づいてフィッティングカーブを導出できる。
【0102】
このような、土の含水比と第1分光反射率と第2分光反射率との差の値との関係を示すフィッティングカーブを参照データとして、含水比推定部33は、第2撮像装置12によって撮像された地面GRを覆う土の含水比を推定できる。すなわち、含水比推定部33は、第2撮像装置12によって撮像されたマルチスペクトル画像から第1分光反射率と第2分光反射率を求め、求められた第1分光反射率と第2分光反射率の差の値を参照データが示すフィッティングカーブにあてはめて、当該差の値がフィッティングカーブ上で一致する含水比を推定された含水比として導出する。
【0103】
ただし、土の含水比の推定において、第2撮像装置12によって撮像されたマルチスペクトル画像は、校正シートPRSを利用した前処理(第2前処理)を適用される。係る第2前処理については後述する。
【0104】
なお、マルチスペクトル画像の中でも取得する波長帯の数が第1撮像装置11に比して相対的に少ない第2撮像装置12のようなマルチスペクトルカメラでは、一般的に、それぞれ異なるスペクトルの光を透過させる光学フィルタを装着した複数の撮像素子を用いて各波長帯の分光反射率を記録する方式が採用されることがある。
【0105】
従って、第2撮像装置12の具体的構成によっては、撮像画像のスペクトルの種類によって撮像する場所が異なるという事象が生じる。このような事象が生じる場合では、赤外線に該当する撮像画像のスペクトルで撮像を行う撮像素子と他の撮像画像のスペクトルで撮像を行う撮像素子とが個別に撮像を行い、各々の撮像画像で重複する撮像範囲を抽出するようにしてもよい。係る抽出には、所謂パターンマッチングのような画像処理を適用可能であるし、このようなパターンマッチングをより高精度に行うために図示しないニューラルネットワークを利用してもよい。具体例を挙げると、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を係る抽出に利用できる。
【0106】
上述の事象が生じる場合、含水比推定部33は、第2撮像装置12が複数の撮像素子で撮像した各々の撮像画像で重複する撮像範囲を抽出する。含水比推定部33は、抽出された撮像範囲で各々の撮像素子が撮像したスペクトル画像の分光反射率を係るスペクトル画像の画素の階調値から取得、計算する。そして、各々の撮像素子が撮像したスペクトル画像の分光反射率同士の差に基づいて、撮像された地面GRを覆う土の含水比を推定する。なお、第2撮像装置12が、第1撮像装置11と同様に1つの撮像素子で、それぞれ異なる撮像画像のスペクトルの各々に対応したスペクトル画像を複数撮像する形態のマルチスペクトルカメラ10である場合、抽出に係る処理は省略される。
【0107】
(前処理)
次に、前処理について、第1前処理、第2前処理の順に説明する。まず、第1前処理について、図19を参照して説明する。
【0108】
図19は、第1前処理が適用される第1部分領域AA1及び第1前処理が適用されない第2部分領域AA2を含むマルチスペクトル画像と、これらの部分領域の分光反射率スペクトルの比較の一例を示すグラフと、の関係を示す図である。なお、図19に示すマルチスペクトル画像は、第1撮像装置11によって撮像されたマルチスペクトル画像である。また、グラフにおける線L11は、第1部分領域AA1に含まれる複数の画素の分光反射率スペクトルの平均を示す。また、グラフにおける線L12は、第2部分領域AA2に含まれる複数の画素の分光反射率スペクトルの平均を示す。
【0109】
上述のように、土種類推定部32は、土の種類の推定に適さないベクトルをニューラルネットワークNNに対する入力から除外し、土の種類の推定に適したベクトルをニューラルネットワークNNへ入力する前処理(第1前処理)を行う。具体的には、土種類推定部32は、第1撮像装置11によって撮像されたマルチスペクトル画像の単位領域Cr毎に、350[nm]から450[nm]までの波長帯の分光反射率の平均(第1平均)と、700[nm]から750[nm]までの波長帯の分光反射率の平均(第2平均)を算出する。ここで、第1平均をαとし、第2平均をβとすると、土種類推定部32は、αを10倍した値がβより大きい関係(α×10>β)が成立する単位領域Crを土の種類の推定に適さないベクトルとして扱い、ニューラルネットワークNNに対する入力から除外する。言い換えると、土種類推定部32は、αを10倍した値がβ以下である関係(α×10≦β)が成立する単位領域Crを土の種類の推定に適するベクトルとして扱い、ニューラルネットワークNNに対する入力として採用する。
【0110】
より具体例な例を挙げると、図19のマルチスペクトル画像における第1部分領域AA1は、土粒子の影が撮像されている部分領域である。第1部分領域AA1に含まれる複数の画素の分光反射率スペクトルの平均は、グラフの線L11が示すように、第1平均と第2平均とにほとんど差がなく、横軸に対して扁平なグラフになっている。これに対し、影になっている部分がほとんどない第2部分領域AA2に含まれる複数の画素の分光反射率スペクトルの平均は、グラフの線L12が示すように、第1平均に対して第2平均が有意に高く、山なりのグラフになっている。土の種類の推定は、第2部分領域AA2のように、第1平均に対して第2平均が有意に高く、βがαを10倍した値以上になる(α×10≦β)部分領域の分光反射率スペクトルに基づくことが望ましい。従って、実施形態では、第1部分領域AA1のように、αを10倍した値がβより大きい関係(α×10>β)が成立する部分領域に含まれる画素を、ニューラルネットワークNNに対する入力から除外する。
【0111】
なお、図19を参照した説明では、第1部分領域AA1及び第2部分領域AA2を複数の画素を含む部分領域として説明したが、第1部分領域AA1及び第2部分領域AA2は1つの単位領域Crであってもよい。
【0112】
次に、第2前処理について、図20及び図21を参照して説明する。実施形態では、第2前処理を行う場合、第2撮像装置12で撮像範囲SUBを撮像する場合、撮像範囲SUB内に校正シートPRSを置き、地面GRと校正シートPRSとが同時に撮像されるようにする。
【0113】
図20は、第2前処理が行われた場合に土の含水比の推定に係る処理で採用されるマルチスペクトル画像と採用されないマルチスペクトル画像の例を示す図である。第2前処理では、第2撮像装置12が撮像したマルチスペクトル画像において校正シートPRSが撮像された部分画像の輝度値と校正シートPRS以外が撮像された部分画像の輝度値との平均が、所定の下限値から所定の上限値で定められた範囲内に収まらない画像を土の含水比の推定に係る処理で用いられるマルチスペクトル画像として採用しないようにする。ここで、当該平均が所定の下限値を下回るマルチスペクトル画像は、図20に示す「不採用(暗すぎ)」のように、暗すぎる画像であるものとして不採用とされる。また、当該平均が所定の上限値を上回るマルチスペクトル画像は、図20に示す「不採用(明るすぎ)」のように、明るすぎる画像であるものとして不採用とされる。当該平均が所定の下限値から所定の上限値で定められた範囲内に収まるマルチスペクトル画像は、土の含水比の推定に係る含水比推定部33による処理において採用される。なお、所定の下限値及び所定の上限値は、第2撮像装置12の撮像素子が性能上検知可能な最高輝度値を100[%]とした場合の値として表せる。所定の下限値は、例えば7.62[%]であるが、これに限られるものでなく、適宜変更可能である。また、所定の上限値は、例えば91.6[%]であるが、これに限られるものでなく、適宜変更可能である。
【0114】
明るすぎによるホワイトアウトや暗すぎによるブラックアウトをマルチスペクトルの画像の閾値で判定するようにしてもよい。その場合、ホワイトアウトとされる輝度値の閾値は例えば16ビットの階調値でマルチスペクトル画像の画素の階調値の平均値が60000を上回ることである。また、ブラックアウトとされる輝度値の閾値は例えば16ビットの階調値でマルチスペクトル画像の画素の階調値の平均値が5000を下回ることである。これらの閾値の例はあくまで一例に過ぎず、任意に設定可能である。
【0115】
なお、第2前処理で輝度値と記載しているものは、第2撮像装置12が撮像したマルチスペクトル画像の画素の階調値が示す分光反射率の高さである。
【0116】
また、第2前処理では、第2撮像装置12が撮像したマルチスペクトル画像において校正シートPRSが撮像された部分画像における輝度値の変動係数に基づいて、所定採用条件を満たさないマルチスペクトル画像を土の含水比の推定に係る含水比推定部33による処理において採用しないようにする。以下、単に「変動係数」と記載した場合、校正シートPRSが撮像された部分画像における輝度値の変動係数をさす。また、「所定採用条件」と記載した場合、変動係数に基づいたマルチスペクトル画像の採用条件をさす。
【0117】
図21は、マルチスペクトル画像において校正シートPRSが撮像された部分画像の輝度値の変動係数のグラフと、土の含水比の推定に係る含水比推定部33による処理における採用の可否との関係の一例を示す図である。具体的には、実施形態における所定採用条件は、変動係数が0.05未満であることである。変動係数が0.05以上である場合、実施形態では、含水比推定部33は、校正シートPRSの適切な分光反射率を取得できていないマルチスペクトル画像が撮像されたと判定し、当該マルチスペクトル画像を土の含水比の推定に係る含水比推定部33による処理において採用しない。
【0118】
所定採用条件を満たすマルチスペクトル画像が撮像された場合、例えば、図21の「採用」欄の「グラフ」で示すように、校正シートPRSが撮像された部分画像の輝度値のピークが単一箇所であり、かつ、輝度値のピークを中心とした輝度値の分散の度合いが極めて小さい突出した輝度値のピークが得られる。これに対し、所定採用条件を満たさないマルチスペクトル画像が撮像された場合、例えば、図21の「不採用」欄の「グラフ」で示すように、校正シートPRSが撮像された部分画像の輝度値のピークが複数箇所となって輝度値に明確な起伏が生じ、かつ、輝度値のピークを中心とした輝度値の分散の度合いが「採用」の場合に比して大きい輝度値が得られる。このように所定採用条件が満たされない場合として、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像範囲内に二次光源として機能するような光の反射体が含まれる場合が挙げられる。図21の「不採用」欄の「マルチスペクトル画像」では、校正シートPRSのすぐそばに草が生えており、この草が太陽光を反射する二次光源として機能してしまったことで輝度値のピークが複数個所になる起伏が発生したものと考えられる。
【0119】
なお、前処理は、第1前処理も第2前処理も必須でないが、これらの一部又は全部を行うことで、マルチスペクトル画像に基づいた各種の推定の精度をより高めやすくなる。
【0120】
(コーン指数の推定)
図22は、土の含水比とコーン指数との関係の一例を示すグラフである。図22のグラフにおけるプロットCP11,CP12,…,CP19の各々は、コーンペネトロメータを用いて測定されたコーン指数の測定値を示す。プロットCP11,CP12,…,CP19の各々は、共通の種類の土が積層され、かつ、それぞれ異なる含水比である状態の地面で測定された測定値を示す。すなわち、図22に示すコーン指数は、ある一種類の土の含水比とコーン指数との関係を示す。
【0121】
図22では、プロットCP11,CP12,…,CP19と、これらのプロット同士を結ぶ直線とによってコーン指数を表している。当該直線は、プロットCP11,CP12,…,CP19のうち2つのプロットであって、測定時の含水比がより近しい2つのプロット同士を結ぶ直線である。
【0122】
図22で例示するように、同じ種類の土であっても、土の含水比の変動に応じてコーン指数は変動する。コーン指数推定部34は、図22を参照して説明したようなコーンペネトロメータを用いて実際に測定されたコーン指数と土の含水比との関係を示すデータ(コーン指数データ)を、土の種類毎に記憶している。土の含水比とコーン指数との関係は、土の種類毎に異なる。
【0123】
そこで、実施形態では、マルチスペクトルカメラ10が撮像したマルチスペクトル画像に基づいて、土種類推定部32が土の種類を推定し、含水比推定部33が土の含水比を推定する。そして、コーン指数推定部34は、土種類推定部32が推定した土の種類に対応するコーン指数データを参照し、含水比推定部33が推定した土の含水比に対応するコーン指数を特定する。コーン指数推定部34は、このように特定されたコーン指数を、推定されたコーン指数として扱う。
【0124】
なお、含水比推定部33が推定した土の含水比に直接対応するデータがコーン指数データにおけるプロットCP11,CP12,…,CP19のような直接的な測定値であるとは限らない。そこで、実施形態では、上述のプロットCP11,CP12,…,CP19同士を結ぶ直線で表されているような補間処理を行うことで、直接的な測定値に対応しない土の含水比に対応するコーン指数を推定する。
【0125】
図23は、補間処理の具体例を示す図である。コーン指数推定部34は、補間処理に際して図22におけるプロットCP11,CP12,…,CP19のようにコーンペネトロメータを用いて実際に測定された測定値が得られた際の土の含水比のうち、2つの含水比をピックアップする。当該2つの含水比の一方は、含水比推定部33が推定した土の含水比(推定含水比)未満であって最も推定含水比に近い1つの含水比である。また、当該2つの含水比の他方は、推定含水比を超え、最も推定含水比に近い1つの含水比である。コーン指数推定部34は、当該2つの含水比間を推定含水比が内分する比率mw:nwを求める。コーン指数推定部34は、プロットCP11,CP12,…,CP19のような測定値のうち、当該2つの含水比に対応する2つの測定値同士の間を結ぶ直線を、mw:nw=mqc:nqcとなる内分比率mqc:nqcで内分する点VPが示すコーン指数を、推定されたコーン指数として特定する。図23では、土の含水比が低い側から順にCPq,CP(q+1),CP(q+2),CP(q+3)の順で並ぶコーン指数の測定値のうち、CP(q+1)とCP(q+2)が、ピックアップされた2つの含水比に対応する2つの測定値として扱われている例を示している。qは、自然数である。
【0126】
なお、コーンペネトロメータによって測定されるコーン指数には、誤差が生じ得る。係る誤差の具体例として、コーンを土に押し込む速度や力の大きさ等、コーンペネトロメータの使用者を原因とした誤差がある。また、係る誤差の他の具体例として、コーンが押し込まれた土の中にたまたま石や空洞があった場合等、土の状況を原因とした誤差がある。これらの誤差を完全に除外することは困難であるが、コーンペネトロメータによるコーン指数の測定回数を十分に多くし、測定されたコーン指数の平均値を記録することで、コーン指数の測定精度を確保できる。
【0127】
以上、土種類推定部32による土の種類の推定と、含水比推定部33による土の含水比の推定と、コーン指数推定部34によるコーン指数の推定について説明した。次に、実施形態で情報処理装置20が行うコーン指数の推定に係る処理の流れについて、図24から図27を参照して説明する。
【0128】
図24は、実施形態で情報処理装置20が行うコーン指数の推定に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。情報処理装置20が行うコーン指数の推定に係る処理では、まず、土種類推定部32が土の種類の推定処理を行う(ステップST1)。次に、含水比推定部33が、土の含水比の推定処理を行う(ステップST2)。そして、コーン指数推定部34が、コーン指数の推定処理を行う(ステップST3)。
【0129】
図25は、図24に示す土の種類の推定処理(ステップST1)の流れの一例を示すフローチャートである。土の種類の推定処理では、まず、第1撮像装置11によるマルチスペクトル画像の撮像が行われる(ステップST11)。次に、土種類推定部32が、ステップST11で撮像されたマルチスペクトル画像に含まれる複数の単位領域Crの各々から分光反射率スペクトルのベクトルを導出する(ステップST12)。土種類推定部32が、第1前処理を行う。すなわち、土種類推定部32は、ステップST12で取得されたベクトルのうち、上述のα×10>βを満たすベクトルを除外する(ステップST13)。また、土種類推定部32は、ステップST11で撮像されたマルチスペクトル画像に含まれる複数の単位領域Crから土の種類の推定に適した分光反射率スペクトルのベクトルが所定数以上得られたか判定する(ステップST14)。ここで、当該ベクトルが所定数以上得られていないと判定された場合(ステップST14;No)、ステップST11に移行する。すなわち、再度第1撮像装置11によるマルチスペクトル画像の撮像が行われる。一方、当該ベクトルが所定数以上得られていると判定された場合(ステップST14;Yes)、土種類推定部32は、マルチスペクトル画像から得られた分光反射率スペクトルのベクトルとニューラルネットワークNNを利用した土の種類の推定を行う(ステップST15)。すなわち、土種類推定部32は、マルチスペクトル画像から得られた分光反射率スペクトルのベクトルをニューラルネットワークNNに入力し、ニューラルネットワークNNの出力層のノードの値に基づいて土の種類を推定する。
【0130】
図26は、図24に示す土の含水比の推定処理(ステップST2)の流れの一例を示すフローチャートである。まず、第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像が行われる(ステップST21)。次に、含水比推定部33が、第2前処理を行う。すなわち、含水比推定部33は、ステップST21で撮像されたマルチスペクトル画像に含まれる校正シートPRSの部分画像を利用した輝度値に係る判定を行い、係る輝度値に係る判定結果によって当該マルチスペクトル画像が土の含水比の推定に適切なマルチスペクトル画像であることを示すかチェックする(ステップST22)。より具体的には、校正シートPRSの部分画像を利用した輝度値に係る判定とは、例えば図20を参照して説明した判定と図21を参照して説明した判定の一方であってもよいし両方であってもよい。図20を参照して説明した判定とは、第2撮像装置12が撮像したマルチスペクトル画像において校正シートPRSが撮像された部分画像の輝度値と校正シートPRS以外が撮像された部分画像の輝度値との平均が、所定の下限値から所定の上限値で定められた範囲内に収まるかの判定をさす。図21を参照して説明した判定とは、第2撮像装置12が撮像したマルチスペクトル画像において校正シートPRSが撮像された部分画像における輝度値の変動係数が所定採用条件を満たすかの判定をさす。
【0131】
ステップS22において、土の含水比の推定に適切なマルチスペクトル画像でないと判定された場合(ステップST22;No)、ステップST21に移行する。すなわち、再度第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像が行われる。一方、ステップS22において、土の含水比の推定に適切なマルチスペクトル画像であると判定された場合(ステップST22;Yes)、含水比推定部33は、マルチスペクトル画像の赤外線波長帯と可視光波長帯の各々の分光反射率を取得する(ステップST23)。含水比推定部33は、マルチスペクトル画像の赤外線波長帯と可視光波長帯の各々の分光反射率の差に基づいた土の含水比の推定を行う(ステップST24)。ここで、実施形態では、ステップST1で推定された土の種類に対応する参照データを用いて土の含水比の推定を行う。
【0132】
図27は、図24に示すコーン指数の推定処理(ステップST3)の流れの一例を示すフローチャートである。コーン指数推定部34は、ステップST1の処理で推定された土の種類に対応したコーン指数データを読み出す(ステップST31)。係るコーン指数データは、コーン指数推定部34に予め含まれる。コーン指数推定部34は、ステップST2の処理で推定された土の含水比に対応するコーン指数をコーン指数データに基づいて特定し(ステップST32)、特定されたコーン指数を推定されたコーン指数として扱う。
【0133】
なお、図25及び図26を参照した説明では、マルチスペクトル画像の撮像が1回であるが、より高精度な推定を行う目的でマルチスペクトル画像を複数回撮像し、これによって得られた複数のマルチスペクトル画像を用いて複数回(k)に渡る分割交差検証を行うようにしてもよい。kは、2以上の自然数である。具体的には、kは例えば5であるがこれに限られるものでなく、4以下であってもよいし6以上であってもよい。
【0134】
次に、コーン指数の推定に係る検証実験について、図28から図31を参照して説明する。図28は、検証実験におけるバックホウ100と撮像範囲SUB(図2参照)の関係を示す模式図である。バックホウ100の前方に位置する撮像範囲SUBの、前後方向の奥行きSUB1は、例えば5[m]である。また、地面GRに沿い、奥行きSUB1に直交する方向の撮像範囲SUBの幅SUB2は、例えば3[m]である。検証実験では、このような寸法の撮像範囲SUBを地下方向に0.5[m]掘削した後、掘削によって生じた土に水を加えて含水比を調整した土で埋め戻した。
【0135】
図29は、図28を参照して説明した検証実験で掘削されて埋め戻された土の含水比とコーン指数との関係を示すグラフである。図29では、コーンペネトロメータを用いて測定されたコーン指数を示すプロットCP21,CP22,…,CP30と、これらのプロット同士を結ぶ直線とによってコーン指数を表している。なお、図示しないが、予め検証実験で掘削されて埋め戻された土の参照データは含水比推定部33に含まれている。また、土種類推定部32は、当該土の種類を推定可能な機械学習を実施済みである。
【0136】
検証実験では、土の含水比がそれぞれ異なる3つのパターンの撮像範囲SUBを作成し、係る3つのパターンの撮像範囲SUBをそれぞれマルチスペクトルカメラ10で撮像して個別にコーン指数を推定する処理を行った。なお、検証実験では、晴天下で十分に太陽光が得られる環境下で撮像を行った。
【0137】
図30は、3つのパターンの土の含水比及びコーン指数の実測値と推定値との関係を示す表である。図30に示すように、パターン1の土の含水比の実測値は38.8[%]であった。これに対し、第2撮像装置12によって撮像されたマルチスペクトル画像に基づいて含水比推定部33が推定したパターン1の土の含水比は42[%]であった。従って、パターン1では、土の含水比の実測値と推定値との誤差は3.3[%]であった。また、パターン2の土の含水比の実測値は46.2[%]であった。これに対し、第2撮像装置12によって撮像されたマルチスペクトル画像に基づいて含水比推定部33が推定したパターン1の土の含水比は47.4[%]であった。従って、パターン1では、土の含水比の実測値と推定値との誤差は1.2[%]であった。また、パターン3の土の含水比の実測値は45.3[%]であった。これに対し、第2撮像装置12によって撮像されたマルチスペクトル画像に基づいて含水比推定部33が推定したパターン1の土の含水比は48.5[%]であった。従って、パターン1では、土の含水比の実測値と推定値との誤差は3.2[%]であった。また、土の含水比の実測値と推定値との3つのパターンの平均誤差は約2.6[%]であった。
【0138】
また、パターン1のコーン指数の実測値は461[kN/m]であった。これに対し、コーン指数推定部34が推定したパターン1のコーン指数の推定値は233[kN/m]であった。従って、パターン1では、土の含水比の実測値と推定値との誤差は228[kN/m]であった。また、パターン2のコーン指数の実測値は72.1[kN/m]であった。これに対し、コーン指数推定部34が推定したパターン1のコーン指数の推定値は71.7[kN/m]であった。従って、パターン1では、土の含水比の実測値と推定値との誤差は0.4[kN/m]であった。また、パターン3のコーン指数の実測値は64.1[kN/m]であった。これに対し、コーン指数推定部34が推定したパターン1のコーン指数の推定値は71.4[kN/m]であった。従って、パターン1では、土の含水比の実測値と推定値との誤差は7.3[kN/m]であった。また、コーン指数の実測値と推定値との3つのパターンの平均誤差は約79[kN/m]であった。
【0139】
図31は、3つのパターンのコーン指数の実測値と推定値との関係を示すグラフである。検証実験で掘削されて埋め戻された土は、40[%]前後(38[%]から42[%])の含水比の範囲で1[%]程度の含水比の変動でコーン指数が50以上変動している。このため、土の含水比が40[%]前後である当該土をコーン指数の推定の対象としたパターン1では、土の含水比の実測値と推定値との誤差がコーン指数の実測値と推定値との誤差に与える影響の度合いが大きい。パターン1の検証実験結果は、このような影響が極めて顕著に表れた例であった。一方、当該土は、45[%]を超えたあたりから、含水比が変動してもコーン指数がほとんど変動しない。このため、土の含水比が45[%]を超えた当該土をコーン指数の推定の対象としたパターン2及びパターン3では、土の含水比の実測値と推定値との誤差がコーン指数の実測値と推定値との誤差に与える影響の度合いが小さい。パターン2及びパターン3の検証実験結果は、このことを裏付ける例であった。
【0140】
以上、コーン指数の推定について説明したが、推定システム1は、コーン指数の推定に基づいたバックホウ100の走破性の判定をさらに行うようにしてもよい。具体的には、コーン指数推定部34は、推定されたコーン指数と、バックホウ100の走破に要求されるコーン指数とを比較し、バックホウ100の走破に要求されるコーン指数以上のコーン指数が推定された場合にバックホウ100の走破が可能であると推定し、そうでない場合にバックホウ100の走破が困難又は不可能であると推定する機能をさらに有していてもよい。この場合、コーン指数推定プログラム223は、当該機能に対応するプログラム等をさらに含む。
【0141】
図32は、図30に示す3つのパターンで推定されたコーン指数に基づいて行われたバックホウ100の走破性の判定結果の一例を示す表である。例えば、バックホウ100が所謂超湿地ブルドーザに分類される建設機械である場合、バックホウ100は、コーン指数が200[kN/m]以上の地面であれば走破できる。従って、コーン指数推定部34は、図32に示すように、228[kN/m]のコーン指数が推定されたパターン1の地面について、バックホウ100が走破可能(可)であると判定する。一方、コーン指数推定部34は、71.7[kN/m]のコーン指数が推定されたパターン2の地面及び71.4[kN/m]のコーン指数が推定されたパターン3の地面について、バックホウ100の走破が困難であると判定する。
【0142】
なお、コーン指数の推定及び推定されたコーン指数に基づいた走破性の判定において、コーン指数を推定する土の種類を限定するようにしてもよい。例えば、砂質土や礫質土が、含水比の増減にほとんど関係なく建設機械の走破が可能な程度のコーン指数を維持する一方で、火山灰質粘性土も含む粘性土は、含水比が上昇すると建設機械の走破が困難になるほどコーン指数を低下させる傾向を示す土であることが知られている。そこで、土種類推定部32が推定した土の種類が粘性土であった場合に含水比の推定及びコーン指数の推定を行い、土種類推定部32が推定した土の種類が粘性土でない場合に含水比の推定及びコーン指数の推定を省略するようにしてもよい。含水比の推定及びコーン指数の推定が省略された場合、走破性の判定では自動的に走破可能であると判定される。また、含水比の推定及びコーン指数の推定が行われた場合、推定されたコーン指数に基づいて走破性の判定が行われるようにしてもよい。
【0143】
以上、実施形態の対象物推定方法は、マルチスペクトルカメラ(例えば、第1撮像装置11)によって対象物の画像を撮像する撮像ステップ(ステップST11)と、当該撮像ステップで撮像された画像から分光反射率スペクトルのベクトルを導出する導出ステップ(ステップST12)と、当該ベクトルと、当該マルチスペクトルカメラによって予め撮像された対象物の種類毎の画像に基づいて学習済みのニューラルネットワークNNと、に基づいて対象物を推定する対象物推定ステップ(ステップST15)と、を含む。これによって、非接触で撮像の対象物の推定等を行える。学習済みのニューラルネットワークNNを利用することで、対象物の推定の精度をより高められる。
【0144】
また、対象物推定ステップ(ステップST15)において、分光反射率スペクトルのベクトルのうち、350[nm]から450[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をαとし、700[nm]から750[nm]までの波長帯の分光反射率の平均をβとした場合にα×10>βが成立するベクトルを対象物の推定に係る処理で利用しないことで、対象物の推定の精度をより高められる。
【0145】
また、対象物の画像に含まれる単位領域から分光反射率スペクトルのベクトルを導出し、当該ベクトルと、マルチスペクトルカメラ(例えば、第1撮像装置11)によって予め撮像された対象物の種類毎の画像に基づいて学習済みのニューラルネットワークNNと、に基づいて対象物を推定する処理を演算部21が実現するので、所謂ソフトウェア処理によって非接触での撮像の対象物の推定に係る処理を実現できる。
【0146】
また、ニューラルネットワークNNの中間層のノード数が、ニューラルネットワークNNの入力層の数よりも少ないことで、より低負荷で対象物の推定に係る処理を実現できる。
【0147】
また、バックホウ100等の車両にマルチスペクトルカメラ10が搭載されることで、車両が走破する見込みの地面を撮像する等、車両に関わる対象物に関する推定を非接触で行える。
【0148】
さらに、実施形態の含水比推定方法は、マルチスペクトルカメラ(例えば、第2撮像装置12)によって対象物の画像を撮像する撮像ステップ(ステップST21)と、当該画像に基づき、対象物の赤外線波長帯の分光反射率である第1分光反射率と対象物の他の波長帯(例えば、可視光線の波長帯)の分光反射率である第2分光反射率とを取得する分光反射率取得ステップ(ステップST23)と、第1分光反射率と第2分光反射率との差に基づき対象物の含水比を推定する含水比推定ステップ(ステップST24)と、を含む。これによって、非接触で高精度に対象物の含水比を推定できる。
【0149】
さらに、上述の含水比推定ステップでは、予め記憶された対象物の種類毎の第1分光反射率と第2分光反射率との差と、含水比と、の対応関係を示すデータ(例えば、上述の参照データ)に基づいて対象物の含水比を推定する。これによって、対象物の含水比の推定精度をより高められる。
【0150】
さらに、実施形態の含水比推定方法は、既知の分光反射率を示す校正シートPRSに基づいて第2撮像装置12が撮像したマルチスペクトル画像の明るさが適切であるかを判定する判定ステップ(ステップST22)を含み、明るさが適切でないマルチスペクトル画像に基づいた対象物の含水比の推定を行わない。これによって、対象物の含水比の推定精度をより高められる。
【0151】
さらに、実施形態において、対象物は、土で覆われた地面GRである。実施形態のコーン指数推定方法は、推定された土の種類と、上述の含水比推定ステップで推定された含水比とに基づいて、当該地面GRのコーン指数を推定するコーン指数推定ステップ(ステップST32)を含む。従って、土で覆われた地面GRを撮像することで、当該地面GRのコーン指数を推定できる。
【0152】
さらに、上述のコーン指数推定ステップでは、予め記憶された土の種類毎の含水比とコーン指数との対応関係を示すデータに基づいて地面GRのコーン指数を推定する。これによって、コーン指数の推定精度をより高められる。
【0153】
なお、推定システム1を適用した具体的な態様は、バックホウ100にマルチスペクトルカメラ10を設ける態様に限られない。例えば、飛行する航空機から下方の地面を撮像できるようにマルチスペクトルカメラ10を設けてもよい。これによって、航空機が飛行した地域における地面を覆う土の種類、土の含水比及びコーン指数の推定情報を得られる。従って、災害等に対処するために建設機械等を進入させることが求められる地域において、非接触で当該地域における建設機械等の走破性に関する情報を得られる。なお、航空機は、所謂ドローンと呼ばれる無人航空機も含む。また、航空機に代えて人工衛星にマルチスペクトルカメラ10を設けるようにしてもよい。
【0154】
一例として、所定範囲(例えば、10[m]×10[m])の推定情報をマルチスペクトル画像に基づいて取得できる場合、当該所定範囲についてバックホウ100等の機械の走行の可能または不可能を判断することができる。異なる例として、マルチスペクトル画像を複数の分割領域に分けて分割領域毎に推定を行うようにしてもよい。例えば、所定範囲のマルチスペクトル画像を、x軸方向に100分割、y軸方向に100分割して10000の分割領域を設定する。これによって、各分割領域についてバックホウ100等の車両の走行の可能または不可能を判断することができる。
【0155】
なお、分割領域の数は、限定されず、分割領域の最小単位は1画素とすることができ、最大単位は制限がない。マルチスペクトルカメラ10が撮像を行う際の地面に対する高度と角度によってマルチスペクトル画像に含まれる面積が決定されていれば、分割領域単位で推定可能な地面の面積範囲を容易に判断できる。従って、推定情報を得ようとする分割領域をより小さな領域とすることで、走行ルートをよりきめ細かにより適切に選択できる。また、推定情報を得ようとする分割領域をより小さな領域とすることは、無限軌道を含む車両に設けられたマルチスペクトルカメラ10またはより高高度に位置する航空機や人工衛星に設けられたマルチスペクトルカメラ10によって撮像されたマルチスペクトル画像に基づいた推定を行うのに適している。このように、地上を走行する車両に比してより高高度からのマルチスペクトル画像をより広範囲で撮像することが容易な航空機等を利用可能な構成について、図33を参照して説明する。
【0156】
図33は、実施形態の変形例が適用されたバックホウ100の構成例を示す図である。図33に示すバックホウ100は、図2に示すマルチスペクトルカメラ10に代えて飛行体発着部105が屋根部101の上側に設けられる。飛行体発着部105は、航空機200が発着可能な平面部を有する台状の構造物である。
【0157】
航空機200は、筐体201によって回転可能に支持された複数のロータ202を回転させることで飛行可能な無人航空機である。図33に示すように、航空機200は、マルチスペクトルカメラ10を搭載して飛行し、マルチスペクトルカメラ10の画角を下方に向けることで撮像範囲SUBを撮像する飛行体として機能する。なお、図33に示す撮像装置14は、上述の第1撮像装置11と第2撮像装置12の両方の機能を奏するマルチスペクトルカメラ10である。マルチスペクトルカメラ10がバックホウ100に固定されている場合に比して、航空機200は、より広い範囲の撮像範囲SUBをより容易に撮像できる。従って、撮像範囲SUBを覆う土の種類、当該土の含水率及びコーン指数ならびに当該バックホウ100が撮像範囲SUBする場合の走破性に関する情報をより迅速に得られる。また、図33に示す航空機200は、バックホウ100とケーブル205を介して接続されている。図33に示す構成によれば、当該ケーブル205を介して、撮像装置14による撮像で得られたマルチスペクトル画像のデータをリアルタイムにバックホウ100側に伝送できる。なお、ケーブル205はマルチスペクトル画像のデータの伝送に限らず、ロータ201を回転させるための電力供給に利用されてよいし、さらに他の目的で利用されてもよい。また、航空機200からバックホウ100へのマルチスペクトル画像のデータの伝送経路は、その一部又は全部が無線によるものであってもよい。また、ケーブル205を電力供給に利用することで、航空機200へのバッテリーの搭載が不要になる。従って、航空機200の最大離陸重量に対して、当該航空機200に搭載されるマルチスペクトルカメラ10が占めることができる重量により余裕を持たせられる。
【0158】
また、マルチスペクトルカメラ10の撮像対象は、土に限られない。例えば、コンクリートをマルチスペクトルカメラ10で撮像し、セメントの含水比を推定するようにしてもよい。これによって、コンクリート等、セメント水和物に混ぜられた水の量が適当であるかを推定できる。また、セメントに限られず、含水比が品質に影響を与える物質であれば、当該物質をマルチスペクトルカメラ10の撮像対象とすることで、当該物質の品質に関する推定情報を得られる。
【0159】
また、マルチスペクトルカメラ10の具体的形態は、第1撮像装置11と第2撮像装置12に限られない。例えば、第1撮像装置11と第2撮像装置12の両方の機能を備える1台のマルチスペクトルカメラをマルチスペクトルカメラ10として採用するようにしてもよい。その場合、上述の第1撮像装置11又は第2撮像装置12によるマルチスペクトル画像の撮像は、係る1台のマルチスペクトルカメラによるマルチスペクトル画像の撮像とすることができる。
【0160】
また、バックホウ100に限らず、無限軌道や車輪で走行する他の車両も図3図33を参照して説明したバックホウ100と同様、マルチスペクトルカメラ10を搭載して推定システム1によるコーン指数推定方法及び当該コーン指数推定方法に含まれる各種の推定方法を利用できる。
【符号の説明】
【0161】
1 推定システム
10 マルチスペクトルカメラ
11 第1撮像装置
12 第2撮像装置
20 情報処理装置
21 演算部
31 取得部
32 土種類推定部
33 含水比推定部
34 コーン指数推定部
100 バックホウ
PRS 校正シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33