(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ウイルス増殖を抑制するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20240730BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20240730BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K35/747
A61K31/715
A61P31/14
(21)【出願番号】P 2019207413
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-11-04
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-10741
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】高井 祥子
(72)【発明者】
【氏名】狩野 宏
(72)【発明者】
【氏名】小川 美穂
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217350(WO,A1)
【文献】特開2018-177740(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065300(WO,A2)
【文献】牧野聖也,ヨーグルト乳酸菌が産生する菌体外多糖の利用と培養条件の影響,Jpn. J. Lactic Acid Bact.,2013年,Vol.24 No.1,10-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/744
A61K 31/715
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・デルブルッキー
・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073R-1(受託番号:FERM BP-10741)の菌体外多糖を含む、腸管感染性1本鎖RNAウイルスの増殖を抑制するための組成物。
【請求項2】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス
OLL1073R-1(受託番号:FERM BP-10741)を培養して得られる菌体外多糖を含む、腸管感染性1本鎖RNAウイルスの増殖を抑制するための組成物。
【請求項3】
培養が、乳を含む培地
で培養するものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
乳酸菌の菌体外多糖を含む、腸管感染性1本鎖RNAウイルスの増殖を抑制するための組成物であって、
菌体外多糖が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス
OLL1073R-1(受託番号:FERM BP-10741)が産生する中性多糖体、及び中性多糖体にリン酸基が付加した酸性多糖体を含む、組成物。
【請求項5】
乳酸菌の菌体外多糖を含む、腸管感染性1本鎖RNAウイルスの増殖を抑制するための組成物であって、
菌体外多糖が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス
OLL1073R-1(受託番号:FERM BP-10741)が産生するヘテロ多糖であって、ガラクトースとグルコースから構成される多糖を含む、組成物。
【請求項6】
ウイルスが、ノロウイルスである、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
INF-βの産生促進、RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのためのものである、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ラクトバチルス・デルブルッキー
・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073R-1(受託番号:FERM BP-10741)の菌体外多糖を含む、腸管感染性ウイルス感染時の、RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのための組成物。
【請求項9】
菌体外多糖が、乳を発酵して得られるものである、請求項1、2、及び
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
菌体外多糖を発酵乳又はその処理物として含む、請求項1から
9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
処理物が、粗精製物、培養濾液、培養上清液、濃縮物、又は濃縮物の乾燥物である、請求項
10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス増殖を抑制するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
感染性腸炎とは、主にウイルスなどの病原体を原因とする腸炎の総称であり、原因となるウイルスとして、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルスなどが知られている。ノロウイルスによる食中毒や感染症は一年を通じて発生しているが、例年、冬になると発生のピークを迎える。ノロウイルスは手指や食品などを介して、経口で感染し、ヒトの腸管で増殖し、おう吐、下痢、腹痛などを起こす。子どもや高齢者などでは重症化することがある。
【0003】
一方、乳酸菌又はその生産する菌体外多糖には、いくつかの効果が知られている。例えば、特許文献1は、L. bulgaricus OLL1073R-1およびS. thermophilus OLS3059をスターター菌として製造する、NK細胞活性化作用を有する発酵乳を提案する。ここでは、この発酵乳には、酸性多糖類、好ましくはリン酸化多糖類が含まれており、酸性多糖類を有効成分として含有するNK細胞活性化剤には、インフルエンザなどの感染症予防、癌の予防、進行の防止などの効果があると述べられている。
【0004】
また特許文献2は、菌体外多糖(EPS)を有効成分とする、サイトカイン産生制御剤、より特定すると、抗ウイルス性のサイトカインの上昇作用を有し、かつ炎症性のサイトカインの低下作用を有するサイトカイン産生制御剤を提案する。ここでは、ブタ腸上皮細胞にEPSを100μg/mLの濃度で48時間作用させた後、細胞を洗浄して、余分なEPSを除いている。その後にウイルス感染を想定して当該細胞をTLR3のリガンドであるPoly (I:C)で刺激し、抗ウイルス性サイトカインであるIFN-α、及びIFN-βの産生促進作用が見られ、かつ炎症性サイトカインであるIL-6の産生抑制作用が見られたことから、EPSのサイトカイン産生制御用途を提案している。
【0005】
さらに特許文献3は、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1および/またはその培養物を含有する、血液中の抗体価を向上させるためのワクチン用アジュバントを提案する。ここでは、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1の培養物を含む飲料とプラセボ飲料を用いた無作為二重盲検プラセボコントロール試験により、当該培養物の摂取群ではインフルエンザワクチンの接種により、新規のインフルエンザワクチンに対してより高い抗体価上昇効果を示す可能性が示唆されたこと、及び当該培養物を経口投与したマウスに卵白アルブミンを腹腔内投与したところ、補体活性化能およびT細胞、NK細胞、好中球、マクロファージなどのエフェクター細胞の活性化能を有するIgG2aおよびIgG2bの抗体産生が上昇したことから、当該培養物の摂取によって、感染症の全般的な予防や重症化の予防に繋がることが期待できる旨が述べられている。
【0006】
特許文献4は、受託番号NITE BP-1519で寄託されている、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)NTM048株又はその変異株であって、IgA産生促進作用を有する変異株から産生されるエキソポリサッカライド(EPS)を提案する。ここでは、マウス小腸パイエル板細胞懸濁液に、NTMO48(株)が産生したEPSを250μg/mLの濃度に調整して加え、IgA産生が高く誘導されたことから、このEPSを含む組成物は、腸管免疫活性剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤として使用することができる医薬品、食品等として使用することができる旨が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-194259号公報(特許第5177728号)
【文献】特開2018-177740号公報
【文献】国際公開WO2015/029967号公報(特許第6449771号)
【文献】国際公開WO2015/041299号公報(特許第6524468号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ウイルス感染は、一般に宿主細胞の表面へのウイルスの吸着、細胞内への侵入、ウイルス核酸の複製・ウイルスタンパク質の合成、ウイルス粒子の形成、宿主細胞外への放出のプロセスを経る。抗ウイルス薬はこのプロセスの一部を阻害するか、又は人体の抗ウイルス免疫機構に介入することでウイルスの増殖を抑制するものであるが、まだ少数しか開発されていない。また食素材による抗ウイルス効果についてはほとんど報告がない。
【0009】
本発明は、飲食品に由来する有効成分を用いた、気軽に摂取できる抗ウイルス作用を有する組成物を提供することを課題とする。また、このような組成物は、腸管感染性のあるウイルスに対して増殖抑制効果があることが好ましい。特にノロウイルスはワクチンがなく、治療は輸液などの対症療法に限られているため感染症の有効な処置が強く望まれるウイルスの一つであるから、組成物は、ノロウイルスに対して増殖抑制効果があることがより好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ネズミノロウイルスを感染させたマクロファージ細胞を乳酸菌が産生する菌体外多糖(EPS)の存在下で培養することで、放出されるウイルス量が有意に減少することを見出した。またそのメカニズムとして、抗ウイルスタンパク質として知られるIFN-βがEPSとウイルスの刺激によってより多く放出されていることを見出した。 これらの知見から、乳酸菌のEPSは同様のメカニズムでヒトのノロウイルス等、腸管感染性のあるウイルス全般にも効果を奏しうると考え、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下を提供する。
[1] 乳酸菌の菌体外多糖を含む、ウイルスの増殖を抑制するための組成物。
[2] ウイルスが、感染性腸炎の原因ウイルスである、1に記載の組成物。
[3] ウイルスが、ノロウイルスである、1又は2に記載の組成物。
[4] INF-βの産生促進、RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのためのものである、2又は3 に記載の組成物。
[5] 乳酸菌の菌体外多糖を含む、RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのため の組成物。
[6] 乳酸菌が、ラクトバチルス属に分類されるものである、1から5のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスに分類されるものである、1から6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 菌体外多糖を発酵乳として含む、1から7のいずれか1項に記載の組成物。
[9] 乳酸菌の菌体外多糖を対象に投与することを含む、対象における腸管感染症の発症リスクの低減方法。
[10] ウイルスの増殖を抑制するための組成物の製造における、乳酸菌の菌体外多糖の使用。
[11] RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのための組成物の製造における、乳酸菌の菌体外多糖の使用。
[12] ウイルスの増殖を抑制するための方法における使用のための、乳酸菌の菌体外多糖又は乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物。
[13] RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのための方法における使用のための、乳酸菌の菌体外多糖又は乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物。
[14] 乳酸菌の菌体外多糖又は乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物を対象に投与することを含む、対象におけるウイルスの増殖を抑制する方法。
[15] 乳酸菌の菌体外多糖又は乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物を対象に投与することを含む、対象におけるRIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのための方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、食品由来の成分を有効成分とする、抗ウイルス作用を有する組成物が適用できる。またこの組成物により、ウイルスの増殖を抑制することができる。
本発明により、ノロウイルス等の腸管感染性のウイルスによる食中毒、及び感染症を処置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】培養上清中のウイルス量。*:Control群とEPS群で比較して有意差あり(p<0.05)。**:Control群とEPS群で比較して有意差あり(p<0.01)。
【
図2】培養上清中IFN-β。6hと12hと18hのControl群は検出限界以下。**:Control群とEPS群で比較して有意差あり。
【
図3】RIG-I mRNA転写量。**:Control群とEPS群で比較して有意差あり。
【
図4】RIG-I mRNA転写量。**:Control群とEPS群で比較して有意差あり。
【
図5】培養上清中IL-6濃度。*:Control群とEPS群で比較して有意差あり(p<0.05)。**:Control群とEPS群で比較して有意差あり。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、乳酸菌が産生する菌体外多糖(EPS)を有効成分とする組成物に関する。
【0015】
[有効成分]
本発明の組成物は、有効成分として乳酸菌のEPSを含む。乳酸菌とは、ブドウ糖を資化して対糖収率で50%以上の乳酸を生産する微生物の総称で、生理学的性質としてグラム陽性菌の球菌又は桿菌で、運動性なし、多くの場合胞子形成能なし(バシラス・コアギュランスのように胞子形成能のある乳酸菌もある。)、カタラーゼ陰性などの特徴を有しているものである。乳酸菌は古来、発酵乳等を介して世界各地で食されており、極めて安全性の高い微生物といえる。乳酸菌は、複数の属に分類される。本発明の組成物に含まれる乳酸菌のEPSは、好ましくはラクトバチルス(Lactobacillus)属に分類されるラクトバチルス属乳酸菌により産生されたものである。
【0016】
本発明の組成物に用いられるEPSは、目的の効果を有する限り、特に限定されない。乳酸菌が産生するEPSは、構造的に、ホモ多糖であるものとヘテロ多糖であるもの(例えば、ガラクトースとグルコースから構成されるもの)に分類され、リン酸化や硫酸化などの修飾を受けている場合もあるが、いずれも本発明の組成物の有効成分として用いることができる。好ましいEPSの例の一つは、中性多糖体、及び中性多糖体にリン酸基が付加した酸性多糖体の少なくとも一方を含むものである。このようなEPSは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)や、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)などによって産生されることが知られている。本発明に用いられるEPSは、1種でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
本発明の組成物に用いられる特に好ましいEPSを産生する乳酸菌の例は、ラクトバチルス属乳酸菌である。ラクトバチルス属乳酸菌としては、例えば、ブルガリクス種、カゼイ種、アシドフィルス種、プランタラム種などが挙げられる。これらのラクトバチルス属乳酸菌の中でも、本発明では、ブルガリクス種に分類される乳酸菌(ブルガリクス菌とも称する)であることが好ましい。さらに、ラクトバチルス属乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)に分類されるものであることがより好ましい。特に好ましい態様においては、乳酸菌は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073 R-1菌(受託番号:FERM BP-10741)(「ブルガリクス菌R-1株」と称することがある。)である。すなわち、本発明の組成物に用いられるEPSの特に好ましい例の一つは、ブルガリクス菌R-1株が産生するEPSである。
【0018】
ブルガリクス菌R-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD,NITE)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)にブタペスト条約に基づき、国際寄託されている(寄託者:株式会社 明治、寄託日:2006年11月29日、受託番号:FERM BP-10741)。
【0019】
本発明の組成物に含まれる乳酸菌のEPSは、乳酸菌発酵物として含まれていてもよい。乳酸菌発酵物には、乳酸菌による発酵物自体のほか、その処理物が含まれる。乳酸菌発酵物自体には、例えば発酵乳(具体的には、ヨーグルト等)が含まれる。処理物には、例えば、粗精製物、発酵物をろ過、遠心分離、又は膜分離で除菌して得られた培養濾液や培養上清液、培養濾液・培養上清液を濃縮した濃縮物、濃縮物の乾燥物が含まれる。
【0020】
乳酸菌のEPSの調製方法は従来技術を利用することができ、より詳細な条件が必要な場合は、本明細書の実施例等を参照することができる。また、乳酸菌のEPSを乳酸菌発酵物として調製する場合は、EPSを産生する乳酸菌をスターターとして原料乳に添加し、発酵させ、EPSを発酵物中に産生させることで、EPSを含む発酵乳が製造できる。発酵の際の条件、例えば、原料乳、発酵温度、発酵時間は、用いる乳酸菌がEPSを産生することができれば特に制限されず、当業者であれば、適宜設定することができる。
【0021】
[用途]
乳酸菌のEPSを含む本発明の組成物は、抗ウイルス作用を有し、ウイルスの増殖を抑制するために用いることができる。また乳酸菌のEPSを含む本発明の組成物は、ウイルス感染症の処置のために用いることができる。ウイルス感染症にはウイルスによる食中毒が含まれる。
【0022】
処置は、対象となる疾患又は状態が発症・現れること(発現)を、抑制、阻害、又は低減すること、その発症・発現リスクを低減すること;対象となる疾患又は状態の発症・発現を治療すること;対象となる疾患又は状態の進行を抑制、阻害、又は遅延することを含む。処置には、医師及び医師の指示を受けた看護師、助産師などが行う医療行為と、医師以外の者、例えば薬剤師、栄養士(管理栄養士、スポーツ栄養士を含む)、保健師、助産師、看護師、臨床検査技師、スポーツ指導員、医薬品製造者、医薬品販売者、食品製造者、食品販売者等が行う、非治療的行為が含まれる。さらに処置には、特定の食品の摂取の推奨、栄養指導(傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導、及び健康の保持増進のための栄養の指導を含む)が含まれる。
【0023】
ウイルス感染は、一般に宿主細胞の表面へのウイルスの吸着、細胞内への侵入、ウイルス核酸の複製・ウイルスタンパク質の合成、ウイルス粒子の形成、宿主細胞外への放出のプロセスを経る。本発明の組成物に関して、ウイルスの増殖抑制というときは、特に記載した場合を除き、このプロセスの一部を阻害するか、又は人体の抗ウイルス免疫機構に介入することで、ウイルスの増殖を抑制するものをいう。
【0024】
本発明の組成物はまた、INF-βの産生促進、RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化からなる群より選択されるいずれかのために用いることができる。本発明の組成物は、RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化のために用いることが好ましく、MDA5の活性化のために用いることがより好ましい。
【0025】
IFN(インターフェロン)-βは、I型インターフェロンに分類され、ウイルスの攻
撃に応答して種々の細胞によって産生され、ウイルス増殖の阻止や細胞増殖の抑制、免疫系及び炎症の調節などの働きをするサイトカインの一種である。IFN-βは、医薬品としては、ウイルス性肝炎等の抗ウイルス薬として、多発性骨髄腫等の抗がん剤として用いられている。
【0026】
RIG-I(Retinoic acid-inducible gene-I)、及びMDA5 (Melanoma differentiation associated gene5)は、細胞内のウイルスRNAを認識するRIG-I様レセプター(RIG-I-like receptor : RLR)の一種である。RLRはC末端のRNAヘリカーゼ様ドメインによりウイルスRNAに結合することによりウイルスのセンサーとして作用する。
【0027】
RLRタンパク質は、N末端側にアダプター分子と相互作用するCARDを2つ有しており、I型インターフェロンを誘導するシグナル伝達経路を活性化する。RLRで最初に
発見されたのがRIG-Iであり、ウイルスゲノムの一本鎖RNAのキャッピング修飾を受けていない5’-三リン酸を認識する(インフルエンザウイルス、センダイウイルス、ニューキャッスル病ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、日本脳炎ウイルス等、様々なRNAウイルス)。
【0028】
MDA5はRIG-Iと似た構造を持つが、二本鎖RNAを認識する。ただし、一本鎖RNAウイルスのピコルナウイルスはMDA5で認識されるなど、不明確な部分も多い。ノロウイルスは一本鎖RNAウイルスだが、MDA5がネズミノロウイルス感染の制御に必要であるとの報告がある(10 Oct 2008: McCartney SA, Thackray LB, Gitlin L, Gilfillan S, Virgin HW, et al. (2008) Correction: MDA-5 Recognition of a Murine Norovirus. PLOS Pathogens 4(10): 10.1371 )。
【0029】
RIG-Iの活性化は、RIG-Iをコードする遺伝子からのmRNAの転写量が上昇したこと、RIG-1の発現量が上昇したこと等により、評価することができる。MDA5の活性化についても同様である。
【0030】
本発明の組成物はまた、INF-βの産生促進、RIG-Iの活性化、及びMDA5の活性化の他、MAVSの活性化、Viperinの活性化、IRF7の活性化、IRF1の活性化、STAT1の活性化、及びISG15の活性化からなる群より選択されるいずれかのためにも、用いうる。
【0031】
[対象ウイルス]
本発明の組成物は、ウイルスのうち、特に腸管感染性であり、感染性胃腸炎の原因となるウイルスに対して好適に用いることができる。このようなウイルスの具体的な例は、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスである。好ましい例は、ノロウイルス、サポウイルス、アストロウイルスであり、より好ましい例は、ノロウイルス及びサポウイルスであり、さらに好ましい例は、ノロウイルスである。
【0032】
ノロウイルスは、カリシウイルス科のプラス1本鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子は直径27~32nmの小型球形である。電顕、PCR、ELISAなどにより検出できる。ノロウイルスは感染力が非常に強く、10~100個のウイルスでも感染が成立するため、大規模な食中毒や集団発生を引き起こしやすい。
【0033】
また、ノロウイルスのゲノムは変異に富んでおり、したがって抗原性が著しい多様性を有する。ノロウイルスは、塩基配列の相同性により分類され、現在のところグループI~Vが知られている。ヒトに感染するのはGI、GII及びGIVの3つである。ヒトの感染症や食中毒の原因となった食物から検出されるノロウイルスの大半はGIとGIIに属する。ノロウイルスの中で唯一培養細胞での増殖に成功しているネズミノロウイルスはGVに属する。本発明の組成物は、これらの遺伝子型のノロウイルスすべてに対して有効であると期待できる。
【0034】
サポウイルスは、ノロウイルスと同様、カリシウイルス科のプラス1本鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子は直径27~32nmの小型球形である。電顕、PCRなどにより検出できる。
【0035】
ロタウイルスはレオウイルス科の二本鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子の直径は約70nmである。ラテックス凝集反応、ELISA、逆受身赤血球凝集反応、電顕、PAGE、PCR、培養により、検出できる。
【0036】
アデノウイルスは、二重鎖直鎖状DNAウイルスであり、ウイルス粒子は直径約80nmの正20面体の球形である。ラテックス凝集反応、ELISA、電顕、PCRにより、検出できる。
【0037】
アストロウイルスはアストロウイルス科の一本鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子は直径27~32nmの小型球形である。電顕、PCR、ELISA、ラテックス凝集反応、培養などにより検出できる。
【0038】
本発明の組成物は、別の観点からはノロウイルスと同様に、エンベロープを有さないウイルスに対して好適に用いることができる。一般に、エンベロープを有さず、胃酸や胆汁などの消化酵素で破壊されにくく、腸管感染を起こしやすい。また、エンベロープを持たないため、アルコールやエーテルで不活性化されにくく、防御のためには強い酸化作用を持つ次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素などによる消毒が必要である。
【0039】
さらに別の観点からは、本発明の組成物は、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、及びこれらのウイルスと分類学上同じウイルスへの効果も期待できる。エボラウイルス、及びC型肝炎ウイルスは、RIG-Iの活性化により増殖が抑制されることが報告されている(RIG-I activation inhibits ebolavirus replication Virology Volume 392, 2009, pages 11-15、Innate immunity induced by composition-dependent RIG-I recognition of hepatitis C virus RNA Nature volume 454, pages 523-527(2008))。
【0040】
[従来技術との差異]
乳酸菌のEPSを含む本発明の組成物は、抗ウイルス作用を有し、ウイルスの増殖を抑制するために用いることができる。また乳酸菌のEPSを含む本発明の組成物は、ウイルス感染症の処置のために用いることができる。ウイルスは、好ましくは腸管感染性のウイルスであり、より好ましくはノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、又はアストロウイルスであり、さらに好ましくはノロウイルスである。
【0041】
これに対し前掲特許文献1は、酸性多糖類を有効成分として含有するNK細胞活性化剤であり、インフルエンザなどの感染症予防にも効果がある旨が述べられているが、ウイルスに対する直接的な効果を確認したものではない。ここでの作用機序はNK細胞の活性化を介して病原体に感染した細胞を破壊することによるものであり、酸性多糖類はウイルスの増殖抑制のために用いられているとはいえない。本発明の組成物は、ウイルスの数自体を減じうる点で差異があるといえる。本発明の好ましい態様の一つにおいては、NK細胞活性化剤、又はNK細胞の活性化によるウイルス感染症を処置する方法が除かれる。
【0042】
またインフルエンザウイルスは上気道感染、オルトミクソウイルス科のマイナス1本鎖RNAウイルスであり、エンペローブを有する。一方、本発明の組成物を用いることが好ましいノロウイルスは、腸管感染、カリシウイルス科のプラス1本鎖RNAウイルスであり、エンペローブを有しない。ノロウイルスによる感染制御にはMDA5が重要だという報告がある。本発明の好ましい態様の一つにおいては、インフルエンザの感染予防剤が除かれ、またインフルエンザ感染症を処置する方法が除かれる 。
【0043】
前掲特許文献2は、EPSのIFN-α及びIFN-βの産生促進作用、かつ炎症性サイトカインであるIL-6の産生抑制作用を記載するが、実際にウイルスの増殖が抑制できることは確認されていない。
【0044】
また、ウイルスに感染すると、感染を認識したマクロファージからIL-6が産生される。すなわちIL-6産生は、ウイルス感染時はむしろ上昇する。またIL-6は、ウイルス感染時においては、急性期反応として炎症組織へのリンパ球遊走の促進、T細胞増殖の促進、液性免疫を増強するアジュバントとしての役割等がある(参考:IL-6の多様な作用自己免疫性疾患および炎症性疾患におけるIL-6の意義、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)144,172-177(2014))。そのためIL-6は、ウイルスを排除する点では抑制されないことが望ましい。本発明者らの検討によると、本発明の組成物は、ノロウイルス感染時のIL-6の産生を上昇させる。
【0045】
また特許文献2は、Poly(I:C)というTLR3のリガンドを作用させた場合のEPSによる作用を評価したことに基づくが、ノロウイルスはTLR3で認識されていない可能性が高い(TLR7 and 9 agonists are highly effective mucosal adjuvants for norovirus virus-like particle vaccines Human Vaccines & Immunotherapeutics Volume 10, 2014、MDA-5 Recognition of a Murine Norovirus PLoS Pathog 4(7), 2008)。本願においてはEPSで処理した細胞においてノロウイルス感染時のMDA5とRIG-IのmRNAの上昇が確認されている。そのため、本願でのEPSの作用機序は、TLR3を介してではなく、ミトコンドリアを介する系(ウイルスのRNAがRIG-IやMDA5により認識され、ミトコンドリア膜上のIFN-β promoterstimulator1(IPS-1)を介してIRF3やIRF7のリン酸化を誘導し、IFN-βが産生される(植松ら, ウイルス, 第 56 巻, 第1号,pp.1-8,2006)ものだと考えられる。本発明の好ましい態様の一つにおいては、TLR3を介してのウイルス感染処置剤が除かれ、またTLR3を介してのウイルス感染症を処置する方法が除かれる。
【0046】
前掲特許文献3は、乳酸菌培養物を含有する、血液中の抗体価を向上させるためのワクチン用アジュバントを提案するが、ワクチン用アジュバンドと述べていることからも明らかであるとおりワクチン等の抗原に対する抗体価を高める効果を主眼としており、ウイルス感染時又は感染後に摂取した場合のウイルスの増殖を抑制する効果を明らかにするものではないといえる。本発明の好ましい態様の一つにおいては、血液中の抗体価を向上させるためのワクチン用アジュバントが除かれ、また血液中の抗体価を向上させることによる方法が除かれる。
【0047】
[組成物]
(食品組成物等)
本発明の組成物は、食品組成物又は医薬組成物とすることができる。食品及び医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、及びスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0048】
(対象)
本発明の組成物は、ウイルスによる感染を処置することが好ましい対象に、摂取させる、又は投与するのに適している。このような対象には、乳幼児、子ども、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上)、病中病後の者、妊婦、産婦、男性、女性が含まれる。
【0049】
(投与経路等)
本発明の組成物は、それを非経口的に、例えば経管的(胃瘻、腸瘻)に投与してもよいし、経鼻的に投与してもよいし、経口的に投与してもよいが、経口的に投与することが好ましい。
【0050】
本発明の組成物は、ウイルス感染症に対し、発症前に予防的に用いることもでき、また発症後に治療的に用いることもできる。また感染の疑いのある時期に発症を抑えるために用いることもできる。本発明者らの行ったネズミノロウイルスを用いた実験では、乳酸菌のEPSは対象細胞に添加後、比較的早い段階で効果が表れた。詳細には、ネズミノロウイルスは細胞表面への吸着から約10時間後に、細胞内で増殖したウイルスが放出される。感染した細胞は時間と共に増えていき、最終的にはすべての細胞が感染し、培養上清中のウイルス量がプラトーに達する。実験では、ウイルス感染から9時間後から乳酸菌のEPSの供与による効果が見られた。このことから乳酸菌のEPSがウイルス感染の初期段階、例えば潜伏期間からウイルスの増殖を抑制しうると考えられる。
【0051】
したがって、本発明の組成物は、感染の疑いが生じたときに直ちに摂取することで腸管の細胞を刺激し、感染初期から増殖を抑えて発症を抑えるため、また感染し、発症したとしても症状を軽くできると期待できる。
【0052】
(有効成分の含有量・用量)
本発明の組成物における、乳酸菌のEPSの含有量は、目的の効果が発揮される量であればよい。組成物は、その被験体の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、その投与量又は摂取量を適宜設定することができるが、一日量あたりの乳酸菌のEPSの量は、例えば0.1 mg以上とすることができ、0.6 mg以上とすることが好ましく、1 mg以上とすることがより好ましく、3 mg以上とすることが特に好ましい。一日量あたりのEPSの量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、500 mg以下とすることができ、300 mg以下とすることが好ましく、250 mg以下とすることが特に好ましい。
【0053】
1投与又は1食あたり、すなわち一回量あたりの乳酸菌のEPSの量は、例えば0.03 mg以上とすることができ、0.2 mg以上とすることが好ましく、1 mg以上とすることがより好ましい。一回量あたりのEPSの量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、200 mg以下とすることができ、100 mg以下とすることが好ましく、70 mg以下とすることがより好ましく、30 mg以下とすることが特に好ましい。
【0054】
本発明の組成物における、乳酸菌のEPSを発酵乳のような組成物として用いる場合、組成物としての一日量は、例えば30 g以上とすることができ、50 g以上とすることが好ましく、60 g以上とすることがより好ましく、100 g以上とすることが特に好ましい。発酵乳としての一日量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば1500 g以下とすることができ、1200 g以下とすることが好ましく、900 g以下とすることがより好ましく、600 g以下とすることがより好ましい。
【0055】
組成物としての一回量は、例えば10 g以上とすることができ、20 g以上とすることが好ましく、30 g以上とすることがより好ましい。組成物としての一回量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば500 g以下とすることができ、400 g以下とすることが好ましく、200 g以下とすることがより好ましく、125 g以下とすることが特に好ましい。
【0056】
組成物は、一日1回の投与・摂取としてもよいし、一日複数回、例えば食事毎の3回の投与としてもよい。組成物は、食経験豊富な乳酸菌のEPSを有効成分としている。そのため、本発明の組成物は、有効成分が食経験の長いEPSであるため、長期間の摂取に適している。そのため繰り返し、又は長期間にわたって摂取してもよく、例えば3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、特に好ましくは1カ月以上、続けて投与・摂取することができる。
【0057】
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、食品又は医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸及びニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0058】
また組成物は、食品又は医薬として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。より具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上で許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、リン酸、酢酸、果汁、野菜汁等である。
【0059】
(剤型・形態)
本発明の医薬組成物は、経口投与に適した、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤型にすることができる。
【0060】
本発明の食品組成物は、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明に係る食品組成物は、乳製品、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。より具体的には、本発明の組成物は、乳飲料、清涼飲料、乳酸菌飲料、乳性飲料、発酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、タブレット、チョコレート、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、液体ミルク、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。
【0061】
(その他)
本発明の組成物の製造において、乳酸菌のEPSの配合の段階は、適宜選択することができる。乳酸菌のEPSの特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、EPSを産生する乳酸菌を培養して得られたEPSを含む培養物やその粗精製物、精製物を原材料に混合して配合することができる。あるいは、本発明の組成物を発酵乳として実施する場合は、EPSを含む培養物やその粗精製物、精製物を原材料や発酵後の発酵乳に混合して配合するか、EPSを産生する乳酸菌をスターターとして原料乳に添加し、発酵させ、EPSを産生させることで、EPSを含む発酵乳が製造できる。
【0062】
本発明の組成物には、ウイルスの増殖抑制のため、ウイルス感染症の処置のため、食中毒の処置のため、食中毒の予防のため、腸管感染症の発症リスクの低減のため等に用いることができる旨を表示することができ、また特定の対象に対して摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0063】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
[試験物質Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1が菌体外に産生する多糖(EPS)の調製]
10質量%脱脂粉乳培地でLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1を培養して得た培養物中のEPSを精製した。すなわち、37℃で18時間培養した培養物に、終濃度10質量%になるようトリクロロ酢酸を加えて変性タンパク質を除去し、冷エタノールを加えて4℃で翌日まで静置してEPSを含む沈殿物を得た。これを、透析膜(分画分子量6,000 - 8,000)を用いてMilliQ水に対して透析し、核酸とタンパク質を酵素分解した後、再度エタノール沈殿を行って沈殿物を得た。これをMilliQ水に溶解し、再度透析を行った後に凍結乾燥を行ってEPSを精製した。
【0065】
[試験材料及び方法]
1)使用細胞
RAW264.7(マウスマクロファージ由来株)(ATCC 、TIB-71TM、https://www.atcc.org/products/all/TIB-71.aspx)
【0066】
2)群構成
Control:ネズミノロウイルス感染+通常培地
EPS:ネズミノロウイルス感染+EPS入り培地
【0067】
3)試験系の概要
マウスマクロファージ株RAW264.7を12Wellプレートに5×105cells/mlで播種し、24時間後、ネズミノロウイルス(MNV)で感染(MOI≧1.0)させた後、培地をすべて交換し、EPSの存在下(200μg/ml・D-MEM)又は非存在下(D-MEM(Wako)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/048-29763.html)で36時間培養した(n=3)。培養の間、3時間毎に培養上清と細胞を回収した。
【0068】
培養上清からはRNAを抽出し、上清中に放出されたウイルス量を論文(Development and application of a broadly reactive real-time reverse transcription-PCR assay for detection of murine noroviruses, Journal of Virological Methods, Volume 169, Issue 2, November 2010, Pages 269-273)に従い、定量PCR(qPCR)で測定した。また、産生されたIFN-βをELISA法 (R&D Systems,Inc. Mouse IFN-beta Quantikine ELISA kit #MIFNB0)で定量した。
【0069】
感染初期段階の12時間までの細胞からRNAを抽出し、IFN-β応答に関与する種々の分子(RIG-I、MDA5、MAVS、Viperin、IRF7、IRF1、STAT1、ISG15)について、mRNA転写量をqPCR(初期変性95℃30秒、2step PCR サイクル数40、変性 95℃5秒、伸長反応60℃31秒 、融解曲線95℃15秒,60℃1分,95℃15秒)で測定した。
【0070】
4)統計学的処理方法
測定値は、平均値±標準偏差で示した。データはエクセルで、F検定による等分散の検定後、T検定によって検定した。有意水準は5%とした。
【0071】
[結果]
結果を
図1~4に示した。EPS存在下ではControlと比較して有意にウイルスの増殖を抑えた(
図1)。なお、TCID50(Median tissue culture infectious dose)は、ウイルス感染価を確認する際に用いられる測定方法の1つである。予め細胞を培養して付着させた試験管やウェルプレート上にウイルス希釈液を接種し、50%の細胞に対して感染する濃度のことを指す。
【0072】
また、EPS存在下では、培養上清中のIFN-β量がControlと比較して有意に上昇した(
図2)。さらにEPS存在下では、細胞中のMDA5のmRNA転写量が感染9時間後、Controlと比較して有意に上昇した(
図3)。MDA5は、ウイルスの侵入を感知するセンサーとして機能することが知られており、EPSはMDA5の活性化を介して、IFN-βの産生を促進することが考えられた。加えて、EPS存在下では、細胞中のRIG-1のmRNA転写量が感染9時間後、Controlと比較して有意に上昇した。RIG-1も、ウイルスの侵入を感知するセンサーとして機能することが知られており、EPSはRIG-1の活性化を介して、IFN-βの産生を促進することが考えられた。
【0073】
[参考:IL-6産生に対する影響]
上の実験で得た培養上清中のIL-6 の濃度を測定した。IL-6 の測定には、市販のキット、Bio-Plex Pro Mouse Cytokine 1 10plx EXP(Bio-Rad)を使用し、キットに付属のプロトコルに則り、測定した。統計解析を上の実験と同様に行った。
【0074】
結果を
図5に示した。EPS存在下では、細胞中のIL-6発現量が感染30時間以降、Controlと比較して有意に上昇した。