(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】粒子、粉体組成物、固体組成物、液体組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C01G 23/04 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
(21)【出願番号】P 2020062580
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】有村 孝
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祥史
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
(72)【発明者】
【氏名】土居 篤典
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-273236(JP,A)
【文献】特公昭47-047961(JP,B1)
【文献】特開2012-214348(JP,A)
【文献】特開2012-140309(JP,A)
【文献】特開2017-048077(JP,A)
【文献】特開2018-002577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのチタン化合物結晶粒を含み、要件1及び要件2を満た
し、
前記チタン化合物結晶粒が、コランダム構造を有するTiO
x
(x=1.30~1.66)である、粒子。
要件1:
150℃で、前記チタン化合物結晶粒の|dA(T)/dT|が
30ppm/℃以上を満た
し、dA(T)/dTは負である。
Aは(前記チタン化合物結晶粒のa軸(短軸)の格子定数)/(前記チタン化合物結晶粒のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記チタン化合物結晶粒のX線回折測定から得られる。
要件2:前記粒子が細孔を有し、前記粒子の断面において、前記細孔の平均円相当径が、0.8μm以上30μm以下であり、前記チタン化合物結晶粒の平均円相当径が、1μm以上70μm以下である。
【請求項2】
複数のチタン化合物結晶粒を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の粒子を含有する粉体組成物。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の粒子を含有する固体組成物。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の粒子を含有する液体組成物。
【請求項6】
複数の請求項1
又は2に記載の粒子又は請求項
3に記載の粉体組成物の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子、粉体組成物、固体組成物、液体組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体組成物の熱線膨張係数を低減させるために、熱線膨張係数の値が小さいフィラーを添加することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、負の熱線膨張係数を示すフィラーとしてのリン酸タングステンジルコニウムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の材料においては、必ずしも充分に熱線膨張係数を下げられているわけではない。
【0006】
また、各用途で使用する材料の種類に対応して、熱線膨張係数を制御できることが応用上重要である。例えば、無機材料及び有機材料のいずれの材料においても、熱線膨張係数を制御することができれば、用途に応じた複合材料を設計することが容易となる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、材料の種類が異なる場合においても、優れた熱線膨張係数の制御特性を発揮し得る粒子、並びにこれを用いた粉体組成物、固体組成物、液体組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明は、下記の発明を提供するものである。
【0009】
本発明に係る粒子は、少なくとも1つのチタン化合物結晶粒を含み、要件1及び要件2を満たす。
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で、前記チタン化合物結晶粒の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記チタン化合物結晶粒のa軸(短軸)の格子定数)/(前記チタン化合物結晶粒のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記チタン化合物結晶粒のX線回折測定から得られる。
要件2:前記粒子が細孔を有し、前記粒子の断面において、前記細孔の平均円相当径が、0.8μm以上30μm以下であり、前記チタン化合物結晶粒の平均円相当径が、1μm以上70μm以下である。
【0010】
前記粒子は、複数のチタン化合物結晶粒を含むことができる。
【0011】
前記チタン化合物結晶粒は、コランダム構造を有することができる。
【0012】
本発明に係る粉体組成物は、前記の粒子を含有する。
【0013】
本発明に係る固体組成物は、前記の粒子を含有する。
【0014】
本発明に係る液体組成物は、前記の粒子を含有する。
【0015】
本発明に係る成形体は、複数の前記の粒子又は前記の粉体組成物の成形体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、材料の種類が異なる場合においても、優れた熱線膨張係数の制御特性を発揮し得る粒子、並びにこれを用いた粉体組成物、固体組成物、液体組成物及び成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粒子の模式断面図である。
【
図2】実施例1及び実施例2のチタン化合物結晶粒におけるa軸長/c軸長の温度Tとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<粒子>
本実施形態に係る粒子は、少なくとも1つのチタン化合物結晶粒を含み、要件1及び要件2を満たす。
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で、前記チタン化合物結晶粒の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記チタン化合物結晶粒のa軸(短軸)の格子定数)/(前記チタン化合物結晶粒のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記チタン化合物結晶粒のX線回折測定から得られる。
要件2:前記粒子が細孔を有し、前記粒子の断面において、前記細孔の平均円相当径が、0.8μm以上30μm以下であり、前記チタン化合物結晶粒の平均円相当径が、1μm以上70μm以下である。
【0020】
本明細書において、上記細孔は閉鎖孔を意味する。
また、細孔が1つである場合には、細孔の平均円相当径は、細孔の円相当径を意味する。同様に、チタン化合物結晶粒が1つである場合には、チタン化合物結晶粒の平均円相当径は、チタン化合物結晶粒の円相当径を意味する。
【0021】
本実施形態に係る粒子は、少なくとも1つのチタン化合物結晶粒を含む。チタン化合物結晶粒は、チタン化合物の単結晶粒子である。
【0022】
本実施形態に係る粒子は、少なくとも1つのチタン化合物結晶粒を含み、複数のチタン化合物結晶粒がランダムに配列することによって形成される多結晶粒子を含んでいてもよい。
【0023】
本実施形態に係る粒子は、細孔を有する。細孔は、チタン化合物結晶粒の内部に形成される空孔でもよく、前記粒子に含まれる複数のチタン化合物結晶粒がランダムに配列することにより形成される多結晶粒子の内部に形成される空孔でもよい。チタン化合物結晶粒の内部に形成される空孔をチタン化合物結晶粒の細孔という。また、前記多結晶粒子の内部に形成される空孔をチタン化合物多結晶粒子の細孔という。
【0024】
本発明の粒子の一つの態様においては、少なくとも1つのチタン化合物結晶粒が細孔を有している。その他の態様においては、チタン化合物多結晶粒子が細孔を有している。また、その他の態様においてはチタン化合物結晶粒の少なくとも1つが細孔を有し、チタン化合物多結晶粒子が細孔を有している。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る粒子の模式断面図である。
図1に示す粒子10は、複数のチタン化合物結晶粒2を含む。チタン化合物結晶粒2は、単結晶粒子である。すなわち、
図1に示す粒子10は、複数の単結晶粒子を含む多結晶粒子の場合を示す。チタン化合物結晶粒2は、上記要件1を満たす。
【0026】
粒子10は、細孔1を有する。細孔1の具体例としては、1つのチタン化合物結晶粒2の内部に形成される細孔、つまりチタン化合物結晶粒の細孔1a及び複数のチタン化合物結晶粒2で形成される細孔、つまりチタン化合物多結晶粒子の細孔1bが挙げられる。細孔1、つまり細孔1a及び細孔1bは、周囲のすべてがチタン化合物結晶粒で囲まれている領域である。細孔1aは、あってもなくてもよい。すなわち、細孔1は、細孔1bのみからなっていてもよい。細孔1bは、あってもなくてもよい。すなわち、細孔1は、細孔1aのみからなっていてもよい。
【0027】
粒子10の断面において、細孔1の平均円相当径は0.8μm以上30μm以下であり、チタン化合物結晶粒2の平均円相当径は、1μm以上70μm以下である。粒子10が細孔1a及び細孔1bを有する場合、細孔1の平均円相当径は、細孔1a及び細孔1bを含む全ての細孔に基づき平均値を算出する。
【0028】
粒子10は、複数のチタン化合物結晶粒2を含んでいるが、本実施形態に係る粒子は、1つのチタン化合物結晶粒2からなるものであってもよい。すなわち、本実施形態に係る粒子は、細孔1aを有するチタン化合物結晶粒2であってもよい。この場合、粒子の断面において、細孔1aの平均円相当径が0.8μm以上30μm以下であり、チタン化合物結晶粒2の円相当径が1μm以上70μm以下である。
【0029】
Aの定義における格子定数は、粉末X線回折測定により特定される。解析法としてはRietveld法や、最小二乗法によるフィッティングによる解析がある。
【0030】
本明細書においては、粉末X線回折測定により特定された結晶構造において、最も小さい格子定数に対応する軸をa軸、最も大きい格子定数に対応する軸をc軸とする。結晶格子のa軸の長さとc軸の長さを、それぞれ、a軸長、c軸長とする。本明細書において、チタン化合物結晶粒のa軸の格子定数とは、前記a軸長であり、チタン化合物結晶粒のc軸の格子定数とは、前記c軸長である。
【0031】
A(T)は、結晶軸の長さの異方性の大きさを示すパラメータであり、温度T(単位は℃)の関数である。A(T)の値が大きいほど、a軸長がc軸長に対して大きく、Aの値が小さいほど、a軸長はc軸長に対して小さい。
【0032】
ここで、|dA(T)/dT|は、dA(T)/dTの絶対値を表し、dA(T)/dTは、A(T)のT(温度)による微分を表す。
ここで、本明細書においては、|dA(T)/dT|は、以下の(D)式により定義される。
|dA(T)/dT|=|A(T+50)-A(T)|/50 …(D)
【0033】
上述のように、本実施形態に係る粒子においては、-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で、チタン化合物結晶粒の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たすことが必要である。ただし、|dA(T)/dT|は、チタン化合物結晶粒が固体状態で存在する範囲内で定義される。したがって、(D)式におけるTの最高温度は、チタン化合物結晶粒の融点よりも50℃低い温度までである。すなわち、「-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1」の限定が付された場合、(D)式におけるTの温度範囲は-200~1150℃となる。
【0034】
-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で、チタン化合物結晶粒の|dA(T)/dT|は、20ppm/℃以上であることが好ましく、30ppm/℃以上であることがより好ましい。チタン化合物結晶粒の|dA(T)/dT|の上限は、1000ppm/℃以下であることが好ましく、500ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0035】
少なくとも一つの温度T1で、チタン化合物結晶粒の|dA(T)/dT|の値が10ppm/℃以上であることは、温度変化に伴う結晶構造の異方性の変化が大きいことを意味する。
【0036】
少なくとも一つの温度T1において、チタン化合物結晶粒のdA(T)/dTは正でも負でもよいが、負であることが好適である。
【0037】
チタン化合物結晶粒の種類によっては、或る温度範囲で構造相転移により結晶構造が変化する物が有る。本明細書においては或る温度における結晶構造において、最も小さい格子定数に対応する軸をa軸、最も大きい格子定数に対応する軸をc軸とする。三斜晶系、単斜晶系、直方晶系、正方晶系、六方晶系、菱面体晶系のいずれの晶系においても、a軸、c軸については上記の定義とする。
【0038】
チタン化合物結晶粒を構成するチタン化合物は、チタン酸化物であることが好ましい。
【0039】
より具体的には、チタン化合物結晶粒は、組成式としてTiOx(x=1.30~1.66)で表されるチタン化合物の結晶粒であることが好ましく、TiOx(x=1.40~1.60)という組成式で表されるチタン化合物の結晶粒であることが更に好ましい。
【0040】
なお、チタン化合物結晶粒を構成するチタン化合物は、チタン以外の金属原子を含んでもよい。チタン化合物の具体例は、TiOxにおいて、Ti原子の一部が他の金属又は半金属元素で置換された化合物を含む。該他の金属及び半金属元素としては、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、Mo、Sn、Sb、La、W等が挙げられる。また、このような化合物としては、例えば、LaTiO3が挙げられる。
【0041】
チタン化合物結晶粒は、ペロブスカイト構造又はコランダム構造を有することが好ましく、コランダム構造を有することがより好ましい。
【0042】
結晶系としては特に限定はされないが、菱面体晶系であることが好ましい。空間群としては、R-3cに帰属されることが好ましい。
【0043】
粒子の断面におけるチタン化合物結晶粒の平均円相当径及び細孔の平均円相当径は、粒子の断面について、後方散乱電子回折像を取得して解析する方法により特定できる。粒子の断面を得る方法及び粒子の断面について、後方散乱電子回折像を取得する方法の具体例を以下に説明する。
【0044】
まず、粒子を加工して断面を得る。断面を得る方法としては、例えば、本実施形態の粒子を用いて作製した固体組成物又は成形体の一部を切り取り、イオンミリング装置で加工し、固体組成物又は成形体に含まれる粒子の断面を得る方法が挙げられる。固体組成物又は成形体の大きさによっては、イオンミリング装置を用いた方法に代えて、研磨等の方法を用いてもよい。また、粒子を集束イオンビーム加工装置で加工して、断面を得ることもできる。試料へのダメージが少なく、また、一度に多くの粒子の断面を得られる観点から、イオンミリング装置で加工する方法が好ましい。
【0045】
後方散乱電子回折法は結晶方位集合組織の測定方法として汎用されており、通常、走査型電子顕微鏡に後方散乱電子回折法を搭載した形で用いられる。前記加工によって得た粒子の断面に電子線を照射して、その後方散乱電子の回折パターンを装置で読み取る。得られた回折パターンはコンピュータに取り込んで、結晶方位解析を同時に実施しながら試料表面を走査していく。これによって、各測定点での結晶の指数付けが行われて、結晶方位を求めることができる。この際、同じ結晶方位を有する領域を一つの結晶粒として定義し、結晶粒の分布に関するマッピング像を得る。このマッピング像をグレインマップと呼び、後方散乱電子回折像として取得することができる。なお、本願において一つの結晶粒を定義するにあたり、隣り合う結晶の結晶方位の角度差が10°以下の場合を同じ結晶方位とする。
【0046】
1つのチタン化合物結晶粒の円相当径は、上記の方法で定義された1つの結晶粒の面積加重平均により算出する。なお、円相当径とは、該当する領域の面積に相当する真円の直径のことを指す。
【0047】
なお、本手法を用いたチタン化合物結晶粒の円相当径の算出では、精度を高める観点から、100個以上の結晶粒を含む粒子について解析を行い、その平均値を用いた平均円相当径で判断することが好ましい。
【0048】
粒子の断面におけるチタン化合物結晶粒の平均円相当径は、例えば、3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよく、10μm以上であってもよい。粒子の断面におけるチタン化合物結晶粒の平均円相当径は、例えば、50μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。これにより、熱線膨張係数を更に下げることができる。
【0049】
粒子の断面における細孔は、上記方法にて得られたグレインマップにおいて、結晶方位が付されず、かつ、周囲の全てが結晶粒で囲まれた領域として観察できる。この領域は、チタン化合物結晶粒の細孔及びチタン化合物多結晶粒子の細孔を含む。
【0050】
1つの細孔の円相当径は、上記の方法で定義された1つの細孔の面積加重平均により算出する。
【0051】
本実施形態の粒子は、20個以上の細孔を有することが好ましい。
【0052】
粒子の断面における細孔の平均円相当径は、例えば、1.0μm以上であってもよく、1.5μm以上であってもよく、1.7μm以上であってもよい。粒子の断面における細孔の平均円相当径は、例えば、15μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよい。これにより、熱線膨張係数を更に下げることができる。
【0053】
本実施形態の粒子に含まれる細孔の割合、すなわち粒子の細孔含有率は、上記解析から得られた細孔とチタン化合物結晶粒の面積値から算出する。具体的には、以下の式(X)から細孔含有率を算出する。
(粒子の細孔含有率)=(粒子中の細孔の面積値)/(チタン化合物結晶粒の面積値+粒子中の細孔の面積値) …(X)
【0054】
なお、本手法を用いて前記細孔含有率は、上記グレインマップ中にその全てのチタン化合物結晶粒が含まれる粒子について当該全てのチタン化合物結晶粒の解析を行い算出するが、少なくとも20個以上のチタン化合物結晶粒を粒子が存在するグレインマップについて解析を行うことが好ましい。
【0055】
本実施形態の粒子の細孔含有率は0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、3%以上であることが更に好ましく、10%以上であることが特に好ましい。本実施形態の粒子の細孔含有率は40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましく、20%以下であることが特に好ましい。上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、上記範囲であることによって、本実施形態の粒子を含む固体組成物又は成型体の熱線膨張係数を充分に下げることができる。
【0056】
細孔の平均円相当径やチタン化合物結晶粒の平均円相当径が上記要件を満たすと、熱線膨張係数を充分に下げることのできる粒子となり得る。熱線膨張係数が充分に下がるメカニズムについては、温度を上げた時に、チタン化合物結晶粒に含まれる細孔が潰れるように変化するため、粒子全体としては収縮する形で変化する、と推測される。また、材料の種類によらず熱線膨張係数を充分に下げることができる理由は、このようなメカニズムに基づくためであると考えられる。
【0057】
本実施形態の粒子におけるチタン化合物結晶粒の含有量は、粒子の全質量に対して、例えば、75質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0058】
<粒子の製造方法>
本実施形態に係る粒子の製造方法は特に限定はされない。以下に、本実施形態の粒子の製造方法の一例について、説明する。
【0059】
本実施形態の粒子は、例えば、下記工程1、工程2及び工程3を含む方法により製造できる。工程1、工程2及び3を有することにより、要件1を満たすチタン化合物結晶粒を形成し易い傾向にある。
【0060】
工程1:TiO2中のTi原子のモル数とTiのモル数との比R(TiO2中のTi原子のモル数/Tiのモル数)が、2.0<R<3.0となるように、TiO2とTiとを混合する工程。
工程2:前記工程1で得られる混合物を粉体密度ρ(g/mL)が0.9<ρとなるように焼成容器に充填する工程。
工程3:前記工程2で得られる混合物を、不活性雰囲気の下、1130℃以上の温度で焼成する工程。
【0061】
(工程1:混合工程)
(TiO2中のTi原子のモル数とTiのモル数との比R)
TiO2中のTi原子のモル数とTiのモル数との比Rは、TiO2とTiとの混合比を表す。
【0062】
Rは、本実施形態の粒子を製造し易い観点から、例えば、2.9以下であってもよい。同様の観点から、Rは、例えば、2.1~2.9であってもよく、2.2~2.9であってもよく、2.3~2.9であってもよく、2.5~2.9であってもよい。
【0063】
混合に用いるTiO2及びTiの粒子径を制御すること、並びに後述の充填工程における粉体密度ρを調整することにより、要件2を満たす粒子を製造し易い傾向にある。すなわち、最終的に得られる粒子中に含まれる細孔やチタン化合物結晶粒の平均円相当径は、混合に用いるTiO2とTiの粒子径及び後述の粉体密度ρに依存すると考えられる。混合に用いるTiO2及びTiの粒子径は、例えば、混合に用いるTiO2とTiを事前に解砕、ふるい分け、粉砕等することにより調整できる。
【0064】
混合工程においては、例えば、原料のTiO2粉末とTi粉末とを混合して原料混合粉を得る。混合には、例えば、ボールミル、乳鉢、容器回転型混合機等を用いることができる。
【0065】
ボールミルとしては、混合容器を自転させて内容物のTiO2粉末とTi粉末とボールとを流動させる回転円筒式ボールミルが好ましい。
【0066】
ボールはTiO2粉末とTi粉末とを混合するための混合媒体である。平均粒子径の大きな混合媒体をビーズと呼称することがあるが、本明細書では、平均粒子径によらず固体の混合媒体をボールと呼称する。ボールは、混合容器の自転と重力によって、混合容器内を流動する。これにより、TiO2粉末とTi粉末とが流動して混合が促進される。
【0067】
ボールの形状は、ボールの摩耗に起因した不純物の混入を低減する観点から、球状又は楕円体状が好ましい。
【0068】
ボールの直径は、TiO2粉末の粒子径及びTi粉末の粒子径より充分大きいものが好ましい。このようなボールを用いることで、TiO2粉末及びTi粉末の粉砕を防ぎながら、混合を促進することができる。ここで、ボールの直径は、ボールの平均粒子径をいう。
【0069】
ボールの直径は、例えば、1mm~15mmである。ボールの直径がこの範囲であると、原料であるTiO2粉末及びTi粉末の粒子径を変えることなく混合できる。混合容器に入れるボールの直径は均一でもよく、異なっていてもよい。
【0070】
ボールの材質としては、例えば、ガラス、メノウ、アルミナ、ジルコニア、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド、炭化ケイ素及び窒化ケイ素が挙げられる。これらの材質のボールによれば、効率的に粉体が混合されると考えられる。中でも、比較的高い硬度を有しているため摩耗し難いことから、ジルコニアが好ましい。
【0071】
ボールの充填率は、混合容器の容積の10体積%以上74体積%以下であることが好ましい。
【0072】
容器回転型混合機は、二つの円筒容器をV字型に組み合わせたV型容器を混合容器としたV型混合機であってもよいし、二つの円錐台の間に円筒を設けたW(ダブルコーン)容器を混合容器としたW型混合機であってもよい。
【0073】
容器回転型混合機の容器では、容器の対称軸と平行な方向に回転させ、重力と遠心力でTiO2粉末とTi粉末とを流動させる。
【0074】
ボールミルや容器回転型混合機を用いた混合において、TiO2粉末及びTi粉末の充填率は、混合容器の容積の10体積%以上60体積%以下が好ましい。混合容器内でTiO2粉末とTi粉末と混合媒体とが存在しない空間があることで、TiO2粉末とTi粉末と混合媒体とが流動して混合が促進される。
【0075】
混合時間は、均一にTiO2粉末とTi粉末とを混合する観点から、好ましくは0.2時間以上であり、より好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは2時間以上である。
【0076】
混合に伴って発熱する場合があることから、混合装置の運転中は、混合容器の内部を一定の温度範囲に維持するように混合容器を冷却してもよい。
【0077】
混合において、混合容器内の温度は、好ましくは0℃~100℃であり、より好ましくは5℃~50℃である。
【0078】
(工程2:充填工程)
(粉体密度)
混合物の粉体密度ρ(g/mL)は、充填された混合物の見掛け体積(mL)に対する質量(g)((充填された混合物の質量(g))/(充填された混合物の見掛け体積(mL)))をいう。見掛け体積は、混合物の実体積に加えて、粒子間の隙間の体積を含む。
【0079】
粉体密度は、例えば、焼成容器に入れた原料混合粉の重量と、焼成容器の公称値から求められる底面積と、原料混合粉の充填高さとに基づいて、重量/(底面積×充填高さ)として算出することができる。
【0080】
焼成容器は、焼成用に用いられる容器である。焼成容器としては、角サヤ、円筒サヤ、ボート、るつぼ等を用いることができる。
【0081】
原料混合粉の底部から表面までの深さは、定規、ノギス、デプスゲージ等を用いて測定することができる。基準を一定にできることから、原料混合粉の底部を基準とできる定規を用いることが好ましい。
【0082】
原料混合粉の充填高さは、焼成容器に入れた原料混合粉を任意の回数タップした後に測定してもよい。焼成容器に入れた原料混合粉を任意の回数タップすることで、原料混合粉の充填高さを任意に変更することができ、同一の原料混合粉であっても粉体密度を変更することができる。
【0083】
原料混合粉は、プレス機で圧力をかけることで粉体密度を高めてもよい。圧力をかけた原料混合粉がペレット形状である場合、原料混合粉を原料混合ペレットと呼んでもよい。
【0084】
原料混合ペレットは、ハンドプレス機や冷間静水等方圧プレス機で原料混合粉に圧力をかけることによって得ることができる。
【0085】
原料混合ペレットの粉体密度は、例えば、原料混合ペレットの重量、原料混合ペレットの直径及び直径と垂直方向の厚みに基づいて算出することができる。
【0086】
原料混合ペレットの直径及び直径と垂直方向の厚みは、定規、ノギス等を用いて測定することができる。測定精度が高いことから、ノギスを用いることが好ましい。
【0087】
ρは、本実施形態の粒子を製造し易い観点から、例えば、1.0g/mL以上であってもよく、1.1g/mL以上であってもよく、1.2g/mL以上であってもよい。ρは、本実施形態の粒子を製造し易い観点から、例えば、4.1g/mL以下であってもよく、3.5g/mL以下であってもよく、2.9g/mL以下であってもよい。これらの観点から、ρは、例えば、1,0~4.1g/mLであってもよく、1.1~3.5g/mLであってもよく、1.2~2.9g/mLであってもよい。
【0088】
(工程3:焼成工程)
焼成は、電気炉で行われることが好ましい。電気炉の構造の例は、箱型、るつぼ型、管状型、連続型、炉底昇降型、ロータリーキルン、台車型等がある。箱型電気炉としては、例えばFD-40×40×60-1Z4-18TMP(ネムス株式会社製)がある。管状型電気炉としては、例えば炭化珪素炉(株式会社モトヤマ製)がある。
【0089】
上述のとおり、焼成工程における焼成温度は1130℃以上であってよい。焼成温度は、本実施形態の粒子を製造し易い観点から、例えば、1150℃以上であってもよく、1170℃以上であってもよく、1200℃以上であってもよい。焼成温度は、例えば、1700℃以下であってもよい。
【0090】
不活性雰囲気を構成する気体は、例えば、第18族元素を含む気体であることができる。
【0091】
第18族元素は特に限定されないが、入手が容易であることから、He、Ne、Ar、又はKrが好ましく、Arがより好ましい。
【0092】
不活性雰囲気を構成する気体は、水素と第18族元素との混合気体であってもよい。水素の含有量は、爆発下限界以下であることが好ましいことから、混合気体の4体積%以下であることが好ましい。
【0093】
焼結工程の後、必要に応じ、粒子径分布を調整する。これにより、本実施形態に係る粒子の群を得ることができる。粒子径分布は、例えば、解砕、ふるい分け、粉砕等により調整できる。
【0094】
本実施形態の粒子及びこの粒子の群は、例えば、固体組成物の熱線膨張係数の値を制御するためのフィラーとして好適に利用することができる。
【0095】
<上記粒子を含む粉体組成物>
本発明の一実施形態は、上記の粒子及び他の粒子を含有する粉体組成物であり、粉体組成物は粉体状の組成物である。このような粉体組成物は、後述する固体組成物の熱線膨張係数を制御するためのフィラーとして好適に利用することができる。粉体組成物における上記の粒子の含有量に限定はなく、含有量に応じて熱線膨張係数を制御する機能を発揮することができる。熱線膨張係数を効率よく制御する観点から、上記の粒子の含有量は75質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。
粉体組成物における、上記粒子以外の他の粒子の例としては、要件1を満たすチタン化合物結晶粒を含み要件2を満たさない粒子;及び、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、クレー、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウイスカー、ガラスバルーン、カーボンブラック、黒鉛、アルミナ、窒化アルミ、窒化ホウ素、酸化ベリリウム、フェライト、酸化鉄、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ゼオライト、鉄粉、アルミ粉、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、赤燐、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、酸化アンチモン、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、炭酸亜鉛、TiO2、TiO等の粒子が挙げられる。
【0096】
粉体組成物において、レーザー回折散乱法により得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度を粒子径の小さい方から計算して、累積頻度が50%となる粒子径をD50としたとき、D50は、例えば、0.5μm以上60μm以下であってもよい。D50が60μm以下であると、塗工性が向上し易い傾向にある。D50が0.5μm以上であると、固体組成物中又は成型体中で凝集し難く、樹脂などのマトリックス材料と混錬した際の均一性が向上し易い傾向にある。
【0097】
レーザー回折散乱法による体積基準累積粒子径分布曲線の測定方法の一例を以下に示す。
【0098】
前処理として、粉体組成物1重量部に対して水を99重量部加えて希釈し、超音波洗浄機により超音波処理を行う。超音波処理時間は10分間とする。超音波洗浄機としては、株式会社日本精機製作所製のNS200-6Uを用いることができる。超音波の周波数としては、28kHz程度で実施する。
【0099】
続いて、レーザー回折散乱法により体積基準の粒子径分布を測定する。測定には、例えば、Malvern Instruments Ltd.製 レーザー回折式粒度分布測定装置 Mastersizer 2000を用いることができる。
【0100】
チタン化合物結晶粒がTi2O3結晶粒である場合、Ti2O3結晶粒の屈折率を2.40として測定することができる。
【0101】
粉体組成物において、D50は、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。
【0102】
粉体組成物のBET比表面積は、0.1m2/g以上10.0m2/g以下であることが好ましく、0.2m2/g以上5.0m2/g以下であることがより好ましく、0.22m2/g以上1.5m2/g以下であることが更に好ましい。粉体組成物のBET比表面積がこのような範囲であると、樹脂などのマトリックス材料と混錬した際の均一性が向上し易い傾向にある。
【0103】
BET比表面積の測定方法の一例を以下に示す。
【0104】
前処理として窒素雰囲気中で200℃、30分間乾燥した後、測定を実施する。測定法としてはBET流動法を用いる。測定条件としては、窒素ガス及びヘリウムガスの混合ガスを用いる。混合ガス中の窒素ガスの割合は30体積%とし、混合ガス中のヘリウムガスの割合は70体積%とする。測定装置としては、例えばBET比表面積測定装置 Macsorb HM-1201(株式会社マウンテック製)を用いることができる。
【0105】
粉体組成物の製造方法は特に限定はされないが、例えば、上記の粒子と、他の粒子とを混合し、必要に応じて、解砕、ふるい分け、粉砕等により粒子径分布を調整すればよい。
【0106】
<成形体>
本実施形態にかかる成形体は、複数の上記粒子又は粉体組成物の成形体である。本実施形態における成形体は、複数の上記粒子又は粉体組成物の焼結により得られる焼結体であってよい。
【0107】
通常、複数の上記粒子又は粉体組成物を焼結することにより成形体を得る。この場合、上記粒子の結晶構造が維持される温度範囲で焼結を行うことが好適である。
【0108】
焼結体を得るためには公知の種々の焼結方法を適用できる。焼結体を得る方法としては、通常の加熱、ホットプレス、放電プラズマ焼結などの方法が採用できる。
【0109】
なお、本実施形態にかかる成形体は、焼結体に限られず、例えば、複数の上記粒子又は粉体組成物の加圧成形により得られた圧粉体であってもよい。
【0110】
本実施形態に係る複数の上記粒子又は粉体組成物の成形体によれば、熱線膨張係数の低い部材を提供することができ、温度変化した際の部材の寸法変化を極めて小さくできる。したがって、温度による寸法変化に特に敏感な装置に用いられる種々の部材に好適に利用できる。また、本実施形態に係る複数の上記粒子又は粉体組成物の成形体によれば、体積抵抗率の高い部材を提供することができる。
【0111】
また、この複数の上記粒子又は粉体組成物の成形体を正の熱線膨張係数を有する他の材料と組み合わせることにより、部材全体としての熱線膨張係数を低く制御することができる。例えば、棒材の長さ方向の一部に本実施形態の複数の上記粒子又は粉体組成物の成形体を用い、他の部分に正の熱線膨張係数を有する材料の部材を用いると、棒材の長さ方向の熱線膨張係数を、2つの材料の存在割合に応じて自在に制御することができる。例えば、実質的に棒材の長さ方向の熱線膨張係数をゼロとすることも可能である。
【0112】
<固体組成物>
本実施形態に係る固体組成物は、上記粒子を含有する。この固体組成物は、例えば、上記の粒子と第一の材料とを含む。この固体組成物は、例えば、複数の上記粒子又は粉体組成物と、第一の材料とを含んでいてもよい。
【0113】
[第一の材料]
第一の材料としては、特に限定はされないが、樹脂、アルカリ金属珪酸塩、セラミックス、金属などを挙げることができる。第一の材料は、上記の粒子同士を結合させるバインダ材料、又は、上記の粒子を分散状態で保持するマトリクス材料であることができる。
【0114】
樹脂の例は、熱可塑性樹脂、及び、熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化物である。
【0115】
熱可塑性樹脂の例は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ABS樹脂、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6など)、ポリアミドイミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテサルフォン、ポリケトン、ポリスチレン、及びポリエーテルエーテルケトンである。
【0116】
熱硬化型樹脂の例は、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂(ノボラック樹脂、レゾール樹脂など)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、及びメラミン樹脂等である。
活性エネルギー線硬化型樹脂の例は、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂であり、例えば、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリルアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、フェノールメタクリレート樹脂であることができる。
【0117】
第一の材料は、上記樹脂を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0118】
耐熱性を高くできる観点から、第一の材料は、エポキシ樹脂、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーンであることが好ましい。
【0119】
アルカリ金属珪酸塩としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが挙げられる。第一の材料は、アルカリ金属珪酸塩を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの材料は耐熱性が高いので好ましい。
【0120】
セラミックスとしては、特に限定はされないが、アルミナ、シリカ(珪素酸化物、シリカガラスを含む)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックスが挙げられる。第一の材料は、セラミックスを1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
セラミックスは、耐熱性を高くできるので好ましい。放電プラズマ焼結などによって焼結体を作ることができる。
【0121】
金属としては特に限定はされないが、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、モリブデン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、銅、銀、金、プラチナ、鉛、錫、タングステン、等の金属単体、ステンレス鋼(SUS)等の合金、及びこれらの混合物を挙げることができる。第一の材料は、金属を1種含んでいてもよく2種以上含んでいてもよい。このような金属は、耐熱性を高くできるので好ましい。
【0122】
本実施形態の固体組成物は、好ましくは、上記粒子と、アルカリ金属珪酸塩の硬化物又は熱硬化型樹脂の硬化物とを含む。
【0123】
[その他の成分]
固体組成物は、第一の材料及び上記の粒子又は粉体組成物以外のその他の成分を含んでいてもよい。この成分としては、例えば、触媒が挙げられる。触媒としては、特に限定はされないが、酸性化合物触媒、アルカリ性化合物触媒、有機金属化合物触媒などが挙げられる。酸性化合物触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、燐酸、蟻酸、酢酸、蓚酸等の酸を用いることができる。アルカリ性化合物触媒としては、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等を用いることができる。有機金属化合物触媒としては、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、チタン又は亜鉛を含むもの等が挙げられる。
【0124】
固体組成物中の上記粒子の含有量は特に限定されず、含有量に応じて熱線膨張係数を制御する機能を発揮できる。固体組成物中の上記粒子の含有量は、例えば、1重量%以上とすることができ、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよく、20重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。上記粒子の含有量が高くなると、熱線膨張係数の低減効果が発揮され易い。固体組成物中の上記粒子の含有量は、例えば、99重量%以下とすることができる。固体組成物中の上記粒子の含有量は、95重量%以下であってもよく、90重量%以下であってもよい。
【0125】
固体組成物中の第一の材料の含有量は、例えば、1重量%以上とすることができる。固体組成物中の第一の材料の含有量は、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよい。固体組成物中の第一の材料の含有量は、例えば、99重量%以下とすることができる。固体組成物中の第一の材料の含有量は、97重量%以下であってもよく、95重量%以下であってもよく、90重量%以下であってもよく、80重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよく、30重量%以下であってもよい。
【0126】
本実施形態に係る固体組成物は、本実施形態に係る粒子を含むことにより、充分に低い熱線膨張係数を有することができる。この固体組成物によれば、温度変化した際の寸法変化が極めて少ない部材を得ることができる。したがって、温度による寸法変化に特に敏感な光学部材や半導体製造装置用部材に好適に利用できる。
【0127】
特に、上記の粒子は最大となる負の熱線膨張係数の絶対値が十分に大きいため、負の熱線膨張係数を有する固体組成物(材料)を得ることもできる。負の熱線膨張係数を有するとは、熱線膨張に伴って体積が収縮することを意味する。負の熱線膨張係数を有する固体組成物の板の端面(側面)に、正の熱線膨張係数を有する他の材料の板の端面を接合した板では、板全体における厚み方向と直交する方向の熱線膨張係数を実質的にゼロにすることが可能である。
【0128】
さらに、上記の粒子は最大の絶対値の負の熱線膨張係数を発現する温度を比較的低く、例えば、190℃未満とすることができる。したがって、190℃未満の温度範囲での固体組成物の熱線膨張係数を小さくすることができる。
【0129】
<液体組成物>
本実施形態に係る液体組成物は、上記粒子を含有する。この液体組成物は、例えば、上記の粒子と第二の材料とを含む。この液体組成物は、例えば、複数の上記粒子又は粉体組成物と、第二の材料とを含んでいてもよい。液体組成物は25℃において流動性を有する組成物である。この液体組成物は、上記の固体組成物の原料であることができる。
【0130】
[第二の材料]
第二の材料は液状であり、上記の粒子又は粉体組成物を分散させられるものであってよい。第二の材料は、第一の材料の原料であることができる。
【0131】
例えば、第一の材料がアルカリ金属珪酸塩である場合には、第二の材料は、アルカリ金属珪酸塩、及び、アルカリ金属珪酸塩を溶解又は分散することができる溶媒を含むことができる。第一の材料が熱可塑性樹脂である場合には、第二の材料は、熱可塑性樹脂、及び、熱可塑性樹脂を溶解又は分散することができる溶媒を含むことができる。第一の材料が、熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化物である場合には、第二の材料は、硬化前の熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂である。
【0132】
硬化前の熱硬化型樹脂は、室温で流動性を有し、加熱すると架橋反応などにより硬化する。硬化前の熱硬化型樹脂は、樹脂を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0133】
硬化前の活性エネルギー線硬化型樹脂は、室温で流動性を有し、光(UVなど)又は電子線などの活性エネルギー線の照射により、架橋反応などが起こり硬化する。硬化前の活性エネルギー線硬化型樹脂は、硬化性モノマー及び/又は硬化性オリゴマーを含み、必要に応じて、さらに、溶媒、及び/又は、光開始剤を含むことができる。硬化性モノマー及び硬化性オリゴマーの例は、光硬化性モノマー及び光硬化性オリゴマーである。光硬化性モノマーの例は単官能又は多官能アクリレートモノマーである。光硬化性オリゴマーの例は、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、アクリルアクリレート、ポリエステルアクリレート、フェノールメタクリレートである。
【0134】
溶媒の例は、アルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、グリコール溶媒、炭化水素溶媒、非プロトン性極性溶媒などの有機溶媒、水が挙げられる。また、アルカリ金属珪酸塩の場合の溶媒は例えば水である。
【0135】
本実施形態の液体組成物は、好ましくは、上記粒子と、アルカリ金属珪酸塩又は硬化前の熱硬化型樹脂とを含む。
【0136】
[その他の成分]
本実施形態の液体組成物は、第二の材料及び上記の粒子又は粉体組成物以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、第一の材料で挙げたその他の成分を含むことができる。
【0137】
液体組成物中の上記粒子の含有量は特に限定されず、硬化後の固体組成物における熱線膨張係数の制御の観点から適宜設定できる。具体的には、固体組成物中の上記粒子の含有量と同様にすることができる。
【0138】
<液体組成物の製造方法>
液体組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、上記の粒子又は粉体組成物と、第二の材料とを攪拌混合することで液体組成物を得ることができる。攪拌混合方法としては、例えばミキサーによる攪拌混合が挙げられる。あるいは、超音波処理により、粒子を第二の材料中に分散させることが可能である。
【0139】
混合工程に用いられる混合方法としては、例えば、ボールミル法、自転・公転ミキサー、インペラ旋回法、ブレード旋回法、旋回薄膜法、ローター/ステーター式ミキサー法、コロイドミル法、高圧ホモジナイザー法、超音波分散法が挙げられる。混合工程においては、複数の混合方法を順番に行っても、同時に複数の混合方法を行ってもよい。
混合工程において組成物を均質化するとともに、せん断を与えることで、組成物の流動性及び変形性を高めることができる。
【0140】
<固体組成物の製造方法>
上記の液体組成物を所望の形状に成形した後、液体組成物中の第二の材料を第一の材料に転化することにより、上記の粒子と第一材料とを複合化した固体組成物を製造することができる。
【0141】
例えば、第二の材料が、アルカリ金属珪酸塩、及び、アルカリ金属珪酸塩を溶解又は分散することができる溶媒を含む場合、及び、熱可塑性樹脂、及び、熱可塑性樹脂を溶解又は分散することができる溶媒を含む場合には、液体組成物を所望の形状にした上で、液体組成物から溶媒を除去することにより、上記の粒子と第一の材料(アルカリ金属塩又は熱可塑性樹脂)を含む固体組成物を得ることができる。
【0142】
溶媒の除去方法は、自然乾燥、真空乾燥、加熱などにより溶媒を蒸発させる方法を適用できる。粗大な気泡の発生を抑制する観点から、溶媒を除去する際には、混合物の温度を溶媒の沸点以下に維持しつつ溶媒を除去することが好適である。
【0143】
第二の材料が、硬化前の熱又は活性エネルギー線硬化型樹脂である場合には、液体組成物を所望の形状にした上で、熱又は活性エネルギー線(UV等)により液体組成物の硬化処理を行えばよい。
【0144】
液体組成物を所定の形状にする方法の例は、型内に注ぎ込むこと、及び、基板表面に塗布してフィルム形状とすることである。
【0145】
また、第一の材料がセラミックス又は金属の場合には、以下のようにすることができる。第一の材料の原料粉と、上記の粒子との混合物を調製し、混合物を熱処理して第一の材料の原料粉を焼結することにより、焼結体としての第一の材料と、上記の粒子と、を含む固体組成物が得られる。必要に応じて、アニーリング等の熱処理により、固体組成物の細孔の調整を行うことができる。焼結方法としては、通常の加熱、ホットプレス、放電プラズマ焼結などの方法が採用できる。
【0146】
放電プラズマ焼結とは、第一の材料の原料粉と、上記の粒子との混合物を加圧しながら、混合物にパルス状の電流を通電させる。これにより、第一の材料の原料粉間で放電が生じ、第一の材料の原料粉を加熱させて焼結させることができる。
【0147】
得られる化合物が空気と触れて変質することを防止するために、プラズマ焼結工程は、アルゴン、窒素、真空などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0148】
プラズマ焼結工程における加圧圧力は、0MPaを超え100MPa以下の範囲が好ましい。高密度の第一の材料を得るため、プラズマ焼結工程における加圧圧力は10MPa以上とすることが好ましく、30MPa以上とすることがより好ましい。
【0149】
プラズマ焼結工程の加熱温度は、目的物である第一の材料の融点よりも十分に低いことが好ましい。
【0150】
さらに、得られた固体組成物の熱処理によって、細孔の大きさや分布などの調整を行うことができる。
【0151】
本発明者らは、少なくとも1つのチタン化合物結晶粒を含む粒子において、要件1及び要件2を具備することにより、材料の種類が異なる場合においても、優れた熱線膨張係数の制御特性を発揮し得ることを見出した。このような粒子によれば、材料の種類によらず、これらの熱線膨張係数の値を充分に低く制御し得る。
【0152】
本実施形態の粒子は、複数のチタン化合物結晶粒を含むことが好ましい。これにより、熱線膨張係数が更に低減され易い傾向にある。
【0153】
本実施形態の粒子は、チタン化合物結晶粒がコランダム構造を有することが好ましい。これにより、熱線膨張係数が更に低減され易い傾向にある。
【実施例】
【0154】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。
【0155】
<チタン化合物結晶粒の結晶構造解析>
25℃における結晶構造の解析として、粉末X線回折測定装置X’Pert PRO(スペクトリス株式会社製)を用いて、以下の条件で、実施例及び比較例のチタン化合物結晶粒を粉末X線回折測定し、粉末X線回折パターンを得た。得られた粉末X線回折パターンに基づいて、PDXL2(株式会社リガク製)ソフトウェアを用い、最小二乗法による格子定数の精密化を行い、2つの格子定数、すなわち、a軸長及びc軸長を求めた。
測定装置:粉末X線回折測定装置X’Pert PRO(スペクトリス株式会社製)
X線発生器:CuKα線源 電圧45kV、電流40mA
スリット:1°
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:10-90deg
スキャンスピード:4deg/min
X線検出器:一次元半導体検出器
測定雰囲気:大気雰囲気
試料台:専用のガラス基板SiO2製
【0156】
150℃と200℃における結晶構造の解析として、粉末X線回折測定装置SmartLab(株式会社リガク製)を用いて、下記の条件で、温度を変えて、実施例及び比較例のチタン化合物結晶粒を粉末X線回折測定し、粉末X線回折パターンを得た。得られた粉末X線回折パターンに基づいて、PDXL2(株式会社リガク製)ソフトウェアを用い、最小二乗法による格子定数の精密化を行い、2つの格子定数、すなわち、a軸長及びc軸長を求めた。
測定装置:粉末X線回折測定装置SmartLab(株式会社リガク製)
X線発生器:CuKα線源 電圧45kV、電流200mA
スリット:スリット幅2mm
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:5-80deg
スキャンスピード:10deg/min
X線検出器:一次元半導体検出器
測定雰囲気:Ar 100mL/min
試料台:専用のガラス基板SiO2製
【0157】
[a軸長とc軸長の温度依存変化]
実施例1及び実施例2のチタン化合物結晶粒について、25℃、150℃、200℃でそれぞれX線回折測定を行った。上記各温度におけるa軸長、c軸長及びc軸長に対するa軸長の比(a軸長/c軸長)について、実施例1を表1に、実施例2を表2にまとめる。また、a軸長/c軸長の温度Tとの関係、すなわちA(T)を
図2に示す。
【0158】
【0159】
【0160】
得られたa軸長とc軸長を用いて、以下の(D)式により、実施例1及び実施例2のチタン化合物結晶粒のT1=150℃における|dA(T)/dT|を求めた。
|dA(T)/dT|=|A(T+50)-A(T)|/50 … (D)
【0161】
実施例1のチタン化合物結晶粒のT1=150℃におけるdA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50は、-36ppm/℃であった。また、T1=150℃において、|dA(T)/dT|は、36ppm/℃であった。
実施例2のチタン化合物結晶粒のT1=150℃におけるdA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50は、-37ppm/℃であった。また、T1=150℃において、|dA(T)/dT|は、37ppm/℃であった。
また、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のチタン化合物結晶粒はいずれもコランダム構造のTi2O3に帰属され、空間群はR-3cであった。
【0162】
<粉体の粒子径分布測定>
実施例及び比較例の粉体について、以下の方法により粒子径分布について測定した。
前処理:粉末1重量部に対して水を99重量部加えて希釈し、超音波洗浄機により超音波処理を行った。超音波処理時間は10分間とし、超音波洗浄機としては、株式会社日本精機製作所製のNS200-6Uを用いた。超音波の周波数としては、約28kHzで実施した。
測定:レーザー回折散乱法により、体積基準の粒子径分布を測定した。
測定条件:Ti2O3粒子の屈折率を2.40とした。
測定装置:Malvern Instruments Ltd.製 レーザー回折式粒度分布測定装置 Mastersizer 2000
【0163】
これにより得られた体積基準累積粒子径分布曲線から、粒子径の小さい方から計算して累積頻度が50%となる粒子径D50を算出した。
【0164】
<粉体のBET比表面積測定>
実施例及び比較例の粉体について、以下の方法により、BET比表面積を測定した。
前処理:窒素雰囲気中で200℃、30分間乾燥を行った。
測定:BET流動法により測定した。
測定条件:窒素ガス及びヘリウムガスの混合ガスを用いた。混合ガス中の窒素ガスの割合は30体積%とし、混合ガス中のヘリウムガスの割合は70体積%とした。
測定装置:BET比表面積測定装置 Macsorb HM-1201(株式会社マウンテック製)
【0165】
<熱線膨張係数の制御特性(珪酸ソーダ複合材料)の評価>
以下の方法により、珪酸ソーダとの複合材料を作製し、熱線膨張係数の制御特性を評価した。
実施例及び比較例の粉体80重量部と、富士化学株式会社製の一号珪酸ソーダ20重量部と、純水10重量部とを混合することで混合物を得た。
得られた混合物をポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に入れ、以下の硬化プロファイルで硬化させた。
80℃まで15分で昇温、80℃で20分保持、その後、150℃まで20分で昇温、150℃で60分保持する。
さらに、その後320℃まで昇温させ10分保持し、降温する処理を行った。
【0166】
以上の工程から得られた固体組成物、すなわち珪酸ソーダ複合材料の熱線膨張係数を、以下の装置を用いて測定した。
測定装置:Thermo plus EVO2 TMAシリーズ Thermo plus 8310
温度領域:25℃~320℃とし、代表値として190~210℃における熱線膨張係数の値を算出した。
リファレンス固体:アルミナ
固体組成物の測定試料の典型的な大きさとしては、15mm×4mm×4mmとした。
15mm×4mm×4mmの固体組成物について、最長辺を試料長Lとして温度T℃における試料長L(T℃)を測定した。30℃の試料長(L(30℃))に対する寸法変化率ΔL(T℃)/L(30℃)を下記の(Y)式により算出した。
ΔL(T℃)/L(30℃)=(L(T℃)-L(30℃))/L(30℃) …(Y)
寸法変化率ΔL(T℃)/L(30℃)をTの関数として(T-10)℃から(T+10)℃において最小二乗法により線形近似した場合の傾きを、T℃における熱線膨張係数α(1/℃)とした。
【0167】
200℃における熱線膨張係数αの値を求めた。
【0168】
続いて、比較対照試料として、下記珪酸ソーダ材料を作製した。
(比較対照試料(珪酸ソーダ材料))
富士化学株式会社製の一号珪酸ソーダ3.0gをポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に入れ、80℃まで15分で昇温、80℃で20分保持、その後、150℃まで20分で昇温、150℃で60分保持する硬化プロファイルで硬化させ、珪酸ソーダ材料を得た。
【0169】
珪酸ソーダ複合材料と同様の方法により、珪酸ソーダ材料の、200℃における熱線膨張係数αを求めた。
【0170】
実施例及び比較例の粉体について、珪酸ソーダとの複合材料における熱線膨張係数の低減率を以下の計算式により算出した。
(珪酸ソーダとの複合材料における熱線膨張係数の低減率(%))=100×|P-Q|/Q(%)
【0171】
ここで、Pは珪酸ソーダ複合材料の200℃における熱線膨張係数αを示し、Qは珪酸ソーダ材料(比較対照試料)の200℃における熱線膨張係数αを示す。
【0172】
珪酸ソーダとの複合材料における熱線膨張係数の低減率(%)の値が100%以上である場合良好であるとした。
【0173】
<熱線膨張係数の制御特性(エポキシ樹脂複合材料)の評価>
以下の方法により、エポキシ樹脂との複合材料を作製し、熱線膨張係数の制御特性を評価した。
実施例及び比較例の粉体50重量部と、エポキシ樹脂2088E(株式会社スリーボンド製、商品名)50重量部とを混合することで混合物を得た。
得られた混合物をポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に入れ、以下の硬化プロファイルで硬化させた。
150℃まで20分で昇温、150℃で60分保持する。
【0174】
以上の工程から得られた組成物、すなわちエポキシ樹脂複合材料の熱線膨張係数を、以下の装置を用いて測定した。
測定装置:Thermo plus EVO2 TMAシリーズ Thermo plus 8310
温度領域:25℃~220℃とし、代表値として30℃~220℃までの寸法変化率の値を算出した。
リファレンス固体:アルミナ
固体組成物の測定試料の典型的な大きさとしては、15mm×4mm×4mmとした。
15mm×4mm×4mmの固体組成物について、最長辺を試料長Lとして温度T℃における試料長L(T℃)を測定した。30℃の試料長(L(30℃))に対する寸法変化率ΔL(T℃)/L(30℃)を下記の(Y)式により算出した。
ΔL(T℃)/L(30℃)=(L(T℃)-L(30℃))/L(30℃) …(Y)
【0175】
200℃での寸法変化率ΔL(200℃)/L(30℃)を求めた。
【0176】
また、寸法変化率ΔL(T℃)/L(30℃)をTの関数として(T-10)℃から(T+10)℃において最小二乗法により線形近似した場合の傾きを、T℃における熱線膨張係数α(1/℃)とした。
【0177】
続いて、比較対照試料として、下記エポキシ樹脂材料を作製した。
(比較対照試料(エポキシ樹脂材料))
エポキシ樹脂2088E(株式会社スリーボンド製)3.0gをポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に入れ、150℃まで20分で昇温、150℃で60分保持する硬化プロファイルで硬化させ、エポキシ樹脂材料を得た。
【0178】
エポキシ樹脂複合材料と同様の方法により、エポキシ樹脂材料について、200℃での寸法変化率ΔL(200℃)/L(30℃)と、200℃における熱線膨張係数αとを求めた。
【0179】
(寸法変化率の低減率)
実施例及び比較例の粉体について、エポキシ樹脂との複合材料における寸法変化率の低減率を以下の計算式により算出した。
(エポキシ樹脂との複合材料における寸法変化率の低減率(%))=100×|R-S|/S(%)
【0180】
ここで、Rはエポキシ樹脂複合材料の200℃における寸法変化率を示し、Sはエポキシ樹脂材料(比較参照試料)の200℃における寸法変化率を示す。
【0181】
この寸法変化率の低減率(%)が25%以上である場合を良好であると判断した。
【0182】
(熱線膨張係数の低減率)
実施例及び比較例の粉体について、エポキシ樹脂との複合材料における熱線膨張係数の低減率を以下の計算式により算出した。
(エポキシ樹脂との複合材料における熱線膨張係数の低減率(%))=100×|R’-S’|/S’(%)
【0183】
ここで、R’はエポキシ樹脂複合材料の200℃における熱線膨張係数αを示し、S’はエポキシ樹脂材料(比較参照試料)の200℃における熱線膨張係数αを示す。
【0184】
この熱線膨張係数の低減率(%)が20%以上である場合を良好であると判断した。
【0185】
<粒子の断面におけるチタン化合物結晶粒の平均円相当径及び細孔の平均円相当径の測定>
上記の方法で得られた粉体とエポキシ樹脂との複合材料である実施例及び比較例の固体組成物をイオンミリング装置で加工し、固体組成物に含まれる粒子の断面を得た。なお、イオンミリングの加工条件は以下のとおりであった。
装置:IB-19520CCP(日本電子株式会社製)
加速電圧:6kV
加工時間:5時間
雰囲気:大気
温度:-100℃
【0186】
次に、走査型電子顕微鏡を用いて、前記加工によって得た粒子の断面における、後方散乱電子回折像を取得した。なお、後方散乱電子回折像の取得条件は以下のとおりであった。
装置(走査型電子顕微鏡):JSM-7900F(日本電子株式会社製)
装置(後方散乱電子回折検出器):Symmetry(オックスフォード・インストゥルメント株式会社製)
加速電圧:15kV
電流値:4.5nA
【0187】
装置に読み込まれた後方散乱電子の回折パターンをコンピュータに取り込んで、結晶方位解析を実施しながら試料表面を走査した。これによって、各測定点での結晶の指数付けが行われて、各測定点での結晶方位を求めた。この際、同じ結晶方位を有する領域を一つの結晶粒として定義し、結晶粒の分布に関するマッピング像、つまりグレインマップを後方散乱電子回折像として取得した。なお、一つの結晶粒を定義するにあたり、隣り合う結晶の結晶方位の角度差が10°以下の場合を同じ結晶方位とした。
【0188】
1つのチタン化合物結晶粒の円相当径は、上記の方法で定義された1つの結晶粒の面積加重平均により算出した。100個以上の結晶粒について解析を行い、その平均値を用いた平均円相当径を算出した。
【0189】
上記方法にて得られたグレインマップにおいて、結晶方位が付されず、かつ、周囲の全てが結晶粒で囲まれた領域を、粒子の断面における細孔とした。1つの細孔の円相当径は、上記の方法で定義された1つの細孔の面積加重平均により算出した。20個以上の細孔について解析を行い、その平均値を用いた平均円相当径を算出した。
【0190】
上記解析から、チタン化合物結晶粒と粒子中の細孔の面積値もそれぞれ算出することができる。そこで、粒子の細孔含有率を以下の式(X)から算出した。
(粒子中の細孔含有率)=(粒子中の細孔の面積値)/(チタン化合物結晶粒の面積値+粒子中の細孔の面積値) …(X)
なお、20個以上のチタン化合物結晶粒について解析を行った。
【0191】
<実施例1>
(工程1:混合工程)
プラスチック製の1Lポリボトル(外径97.4mm)に、1000gの2mmφジルコニアボールと、161gのTiO2(石原産業株式会社製、CR-EL)と、38.7gのTi(株式会社高純度化学研究所製、<38μm)とを入れて、ボールミル架台に1Lポリボトルを載せて回転数60rpmでボールミル混合を4時間行い、200gの粉1を作製した。前記操作を5回繰り返して、1000gの原料混合粉1を作製した。
(工程2:充填工程)
1000gの原料混合粉1を、焼成容器1(株式会社ニッカトー製、SSA-Tサヤ150角)に入れ、100回タップして粉体密度を1.3g/mLとした。
【0192】
(工程3:焼成工程)
原料混合粉1を入れた焼成容器1を電気炉1(ネムス株式会社製、FD-40×40×60-1Z4-18TMP)に入れ、電気炉1内の雰囲気をArで置換して、原料混合粉1を焼成した。焼成プログラムを、0℃から1500℃まで15時間で昇温させ、1500℃で3時間保持させ、1500℃から0℃まで15時間で降温させる設定にした。焼成プログラム作動中は2L/分でArガスを流した。焼成後、本実施形態の粒子の群としての粉体A1を得た。
【0193】
<実施例2>
(工程1:混合工程)
メノウ製乳鉢と、メノウ製乳棒とを用いて、1.29gのTiO2(石原産業株式会社製、CR-EL)と、0.309gのTi(株式会社高純度化学研究所製、<38μm)とを15分間混合して1.6gの原料混合粉2を作製した。
【0194】
(工程2:充填工程)
1.6gの原料混合粉2をφ13mmのシリンダーに入れ、ハンドプレス機1(株式会社島津製作所製、SSP-10A)で15kNの力で1分間圧縮して、粉体密度を2.6g/mLとした原料混合ペレット2を作製した。原料混合ペレット2を焼成容器2(ニッカトー株式会社製、SSA-Sボート#6A)に載せた。
【0195】
(工程3:焼成工程)
原料混合ペレット2を載せた焼成容器2を電気炉2(炭化珪素炉、株式会社モトヤマ製)に入れ、電気炉2内の雰囲気をArで置換して、原料混合ペレット2を焼成した。焼成プログラムを、0℃から1300℃まで4時間20分で昇温させ、1300℃で3時間保持させ、1300℃から0℃まで4時間20分で降温させる設定にした。焼成プログラム作動中は100mL/分でArガスを流した。焼成後のペレットをメノウ製乳鉢とメノウ製乳棒とを用いて粉末化させ、本実施形態の粒子の群としての粉体A2を得た。
【0196】
<比較例1>
Ti2O3粉(株式会社高純度化学研究所製、150μmPass、純度99.9%)を比較例1の粉体B1とした。
【0197】
<比較例2>
TiO2(テイカ株式会社製、JR-800)を用いたこと以外は実施例2と同様の条件で混合工程を行い、1.6gの原料混合粉3を作製した。1.6gの原料混合粉3を実施例2と同様の条件で充填工程と焼成工程とを行い、粉体B2を得た。
【0198】
実施例及び比較例の粉体について、T1(150)℃における|dA(T)/dT|(ppm/℃)、粒子径D50(μm)及びBET比表面積(m2/g)の評価結果を表3に、細孔の平均円相当径(μm)、チタン化合物結晶粒の平均円相当径(μm)及び細孔含有率(%)の評価結果を表4に、それぞれまとめる。
【0199】
【0200】
【0201】
熱線膨張係数の制御特性の評価結果について表5にまとめる。
【0202】
【0203】
実施例1及び実施例2の粉体は、珪酸ソーダとの複合材料については、珪酸ソーダ複合材料の珪酸ソーダ材料に対する200℃における熱線膨張係数の低減率(%)が100%以上であり、良好であった。エポキシ樹脂との複合材料については、エポキシ樹脂複合材料のエポキシ樹脂材料に対する寸法変化率ΔL(200℃)/L(30℃)の低減率(%)は25%以上であり、またエポキシ樹脂複合材料のエポキシ樹脂材料に対する200℃における熱線膨張係数の低減率(%)は20%以上であり、良好であった。
【0204】
比較例1の粉体は、珪酸ソーダとの複合材料については、珪酸ソーダ複合材料の珪酸ソーダ材料に対する200℃における熱線膨張係数の低減率(%)は100%以上であり、良好であったが、エポキシ樹脂との複合材料については、エポキシ樹脂複合材料のエポキシ樹脂材料に対する寸法変化率ΔL(200℃)/L(30℃)の低減率(%)は25%より小さく、またエポキシ樹脂複合材料のエポキシ樹脂材料に対する200℃における熱線膨張係数の低減率(%)は20%より小さかった。
【0205】
比較例2の粉体は、エポキシ樹脂との複合材料において、エポキシ樹脂複合材料のエポキシ樹脂材料に対する寸法変化率ΔL(200℃)/L(30℃)の低減率(%)は25%以上であり、またエポキシ樹脂複合材料のエポキシ樹脂材料に対する200℃における熱線膨張係数の低減率(%)は20%以上であり、良好であったが、珪酸ソーダとの複合材料については、珪酸ソーダ複合材料の珪酸ソーダ材料に対する200℃における熱線膨張係数の低減率(%)は100%より小さかった。
【0206】
実施例の粒子を含む珪酸ソーダ複合材料及びエポキシ樹脂複合材料は、いずれも熱線膨張係数が充分に低減されており、実施例の粒子は熱膨張制御特性に優れることを確認した。すなわち、本実施形態に係る粒子は、材料の種類が異なる場合においても、優れた熱線膨張係数の制御特性を発揮し、各種材料に適用できることがわかる。
【符号の説明】
【0207】
1a,1b,1…細孔、2…チタン化合物結晶粒、10…粒子。