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特許7529426セメント組成物及びその製造方法、並びに、耐久性向上混合材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法、並びに、耐久性向上混合材
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/14 20060101AFI20240730BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240730BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20240730BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240730BHJP
   B09B 3/30 20220101ALI20240730BHJP
【FI】
C04B7/14
C04B22/08 Z
C04B14/28
C04B18/14 A
C04B18/14 Z
B09B3/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020064354
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160985
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】長井 正明
(72)【発明者】
【氏名】小西 和夫
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164411(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077251(WO,A1)
【文献】特開2016-088767(JP,A)
【文献】特開2019-172497(JP,A)
【文献】特開2014-058431(JP,A)
【文献】各種クリンカーを細骨材として用いたコンクリートの自己治癒性能評価に関する研究,コンクリート工学年次論文集,日本,2019年,Vol.41, No.1,p. 1415-1420,https://data.jci-net.or.jp/data_html/41/041-01-1231.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーと、
石膏と、
混合材と、を含有し、
前記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、
前記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、
前記混合材の含有量が2.0~30.0質量%であり、
前記無機粉末の含有量が1.0~29.0質量%であり、且つ、
前記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%である、セメント組成物。
【請求項2】
前記混合材100質量%を基準とする前記無機粉末の含有量が5.0~95.0質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記無機粉末における前記化学組成がMgOを更に含み、
前記無機粉末の全量を基準とする前記MgO量が5.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記無機粉末における前記化学組成がSOを更に含み、
前記無機粉末の全量を基準とする前記SO量が1.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記無機粉末のブレーン比表面積が2000~10000cm/gである、請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
前記無機粉末が石炭ガス化スラグの粉砕物を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項7】
前記セメントクリンカーは、Bogue式によって算出されるCS量が35.0~75.0質量%であり、CA量が8.0~14.0質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項8】
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO換算で0.5~3.0質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項9】
前記セメントクリンカーがSO及びROを含み、
前記セメントクリンカー100質量%における、SO量が0.10~2.00質量%であり、且つ
O量は全アルカリ量を示し、RO[%]=NaO[%]+0.658×KO[%]で算出される前記全アルカリ量が0.10~2.00質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項10】
硬化促進剤を更に含有し、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量100質量部に対する前記硬化促進剤の含有量が0.1~20.0質量部である、請求項1~9のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項11】
前記無機粉末の全量を基準として、前記無機粉末の前記非晶質相中におけるCaO量が6.0~40.0質量%であり、SiO量が35.0~75.0質量%であり、Al量が14.0~25.0質量%である、請求項1~10のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項12】
セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を混合する工程を備え、
前記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、
前記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記工程において、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする前記混合材の含有量が2.0~30.0質量%となり、前記無機粉末の含有量が1.0~29.0質量%となり、前記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材を混合する、セメント組成物の製造方法。
【請求項13】
非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む、耐久性向上混合材であって、
前記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
セメントクリンカー、石膏及び前記耐久性向上混合材の合計量を100質量%として、前記無機粉末の含有量が1.0~29質量%となり、前記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように、セメントクリンカー及び石膏とともに配合して用いる、耐久性向上混合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメント組成物及びその製造方法、並びに、耐久性向上混合材に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止及び低炭素化の観点から、製造時のCO排出量の多いセメントクリンカーに代えて、セメント組成物における混合材の含有量を増加させることが望まれる。混合材としては、セメント組成物とともに利用した場合に反応性に優れる無機粉末が利用されてきた。これらの無機粉末は非晶質を多く含み、例えば、高炉スラグやフライアッシュ等が利用されている。しかし、さらなる混合材の利用拡大を図る上では、利用できる無機粉末の選択肢を拡大することも望まれる。
【0003】
これまで混合材としての利用が少ない無機粉末として、例えば、石炭ガス化スラグの粉砕物が挙げられる。石炭ガス化スラグは、石炭ガス化複合発電において、燃焼後の石炭中の灰分が溶融して固化したCaO量の多い、非晶質の無機粉末である。石炭ガス化複合発電は、従来の石炭火力発電よりも発電効率に優れ、CO排出量も少ないため、今後の普及が期待される。しかし、同時に副産される石炭ガス化スラグの有効利用方策も検討する必要がある。特許文献1には、ビーライトを40質量%含むセメントとフライアッシュ及び/又は石炭ガス化スラグ粉からなるセメント組成物が常温での強さ発現及びフロー値を改善することが開示されている。しかし、石炭ガス化スラグ粉使用時の高温環境下での強さ発現などは分かっていない。
【0004】
近年、セメント硬化体の耐久性に関連して、高温環境下でのコンクリート構造物や蒸気養生の二次製品等での遅延エトリンガイト形成(DEF)及びDEFに伴うセメント硬化体の劣化が問題視されている(例えば、非特許文献1)。DEFとは、以下のようなエトリンガイトの再生成現象のことをいう。まず、初期の高温養生及びセメント組成物の発熱によって、コンクリート内部の温度が著しく上昇することで、本来初期に生成するべきエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HOで表される化合物)の分解が発生する。その後、コンクリートの供用中に水分が供給されることによって、エトリンガイトが再生成する現象が生じる。またエトリンガイトは結晶化に伴い膨張することが知られており、DEFが原因となって硬化体組織に膨張が生じ、コンクリートにひび割れ等の深刻な劣化を引き起こしている。
【0005】
DEFを抑制する方策として、非特許文献2では、石炭灰(フライアッシュ)を25質量%添加することで、DEFを生じやすい条件でも膨張を抑制できるという結果が報告されている。しかし、スラグやフライアッシュ以外の混合材で、石炭ガス化スラグ粉のように非晶質を多く含む無機粉末がDEFに及ぼす影響を記載した文献は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-139860号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】川端雄一郎、松下博通,「高温上記養生を行ったコンクリートにおけるDEF膨張に関する検討」,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),2011,Vol.67,No.4,p.549-563
【文献】浅本晋吾他,「遅延エトリンガイト生成に及ぼす炭酸イオンの影響に関する検討」,コンクリート工学年次論文集,2016,Vol.28,No.1,p.819-824
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、混合材の含有量が多い場合であっても、DEFに伴う膨張を抑制し、且つ高温環境下における十分な圧縮強度発現性を有するセメント組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、上述のようなセメント組成物を製造するために使用可能な耐久性向上混合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面は、セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を含有し、上記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、上記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、上記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO 量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%であり、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準とする上記混合材の含有量が2.0~30.0質量%であり、上記無機粉末の含有量が1.0~29.0質量%であり、且つ、上記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%である、セメント組成物を提供する。
【0010】
上記セメント組成物は、セメントクリンカーと、石膏と、特定の化学組成を有し、非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを、特定の配合で有することから、混和材を含有するものの、DEFに伴う膨張を抑制し、且つ高温環境下における圧縮強さに優れるセメント硬化体を調製することができる。
【0011】
上記混合材100質量%を基準とする上記無機粉末の含有量が5.0~95.0質量%であってよい。混合材の含有量が上記範囲内であることによって、セメント製造時のCO削減効果と、セメント硬化体の圧縮強さを十分に両立することができる。
【0012】
上記無機粉末における上記化学組成がMgOを更に含み、上記無機粉末の全量を基準とする上記MgO量が5.0質量%以下であってよい。MgO量が上記範囲内であることによって優れた強度発現性が得られる。
【0013】
上記無機粉末における上記化学組成がSOを更に含み、上記無機粉末の全量を基準とする上記SO量が1.0質量%以下であってよい。SO量が上記範囲内であることによって、DEFに伴うセメント硬化体の膨張を抑制することができる。
【0014】
上記無機粉末のブレーン比表面積が2000~10000cm/gであってよい。無機粉末のブレーン比表面積が上記範囲内であることによって、DEFに伴うセメント硬化体の膨張をより抑制することができる。
【0015】
上記無機粉末100質量%中の上記非晶質相量が80.0~100.0質量%であってよい。無機粉末における非晶質相量が上記範囲内であることによって、反応性を高め、優れた強度発現性を得ることができる。
【0016】
上記無機粉末が石炭ガス化スラグの粉砕物を含有してもよい。無機粉末が石炭ガス化スラグの粉砕物を含有することによって、DEFに伴うセメント硬化体の膨張の抑制効果と優れた強度発現性を得ることができる。
【0017】
上記セメントクリンカーは、Bogue式によって算出されるCS量が35.0~75.0質量%であり、CA量が8.0~15.0質量%であってよい。セメントクリンカーが上述のような鉱物組成を有することによって、クリンカー原料に使用される廃棄物の使用量を増加することができる。また、DEFに伴うセメント硬化体の膨張を抑制することができる。
【0018】
上記セメントクリンカーと上記石膏との合計量を基準とする、上記石膏の含有量がSO量換算で0.5~3.0質量%であってよい。石膏の含有量が上述の範囲内であることによって、DEFの発生を抑制しつつ、可使時間を十分に確保することができる。
【0019】
上記セメントクリンカーがSO及びROを含み、上記セメントクリンカー100質量%における、SO量が0.10~2.0質量%であり、且つRO量が0.10~2.0質量%であってよい。セメントクリンカー中のSO量及びRO量が上記範囲内であることによって、セメントクリンカー焼成時に使用する廃棄物量をより増加させることが可能であり、当該セメントクリンカーを含むセメント組成物から得られるセメント硬化体におけるDEFをより抑制することができる。
【0020】
上記セメント組成物が、硬化促進剤を更に含有し、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対する上記硬化促進剤の含有量が0.1~20.0質量部であってよい。硬化促進剤を含有し、その含有量が上述の範囲内であることによって、硬化促進効果を十分に発揮させると共に、凝結の促進及び流動性の低下などを抑制することができる。
【0021】
上記無機粉末の全量を基準として、上記無機粉末の上記非晶質相中におけるCaO量が6.0~40.0質量%であり、SiO量が35.0~75.0質量%であり、Al量が14.0~25.0質量%であってよい。無機粉末の上記化学組成が非晶質相における化学組成であることによって、DEFに伴うセメント硬化体の膨張の抑制効果と優れた強度発現性が得られる。
【0022】
本開示の一側面は、セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を混合する工程を備え、上記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、上記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、上記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO 量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%であり、上記工程において、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準とする上記混合材の含有量が2.0~30.0質量%となり、上記無機粉末の含有量が1.0~29.0質量%となり、上記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材を混合する、セメント組成物の製造方法を提供する。
【0023】
上記セメント組成物の製造方法は、セメントクリンカーと、石膏と、特定の化学組成を有し、非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを、特定の配合で有する工程を含むことで、混和材を含有するものの、DEFに伴う膨張を抑制し、且つ高温環境下における圧縮強さに優れるセメント硬化体を調製することが可能なセメント組成物を製造できる。
【0024】
本開示の一側面は、非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む、耐久性向上混合材であって、上記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、上記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%であり、セメントクリンカー、石膏及び上記耐久性向上混合材の合計量を100質量%として、上記無機粉末の含有量が1.0~29質量%となり、上記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように、セメントクリンカー及び石膏とともに配合して用いる、耐久性向上混合材を提供する。
【0025】
上記耐久性向上混合材は、特定の無機粉末及び石灰石を含み、セメントクリンカー及び石膏に対して所定の配合割合となるように混合して用いることから、上述のようなセメント組成物を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示によれば、混合材の含有量が多い場合であっても、DEFに伴う膨張を抑制し、且つ高温環境下における十分な圧縮強度発現性を有するセメント組成物及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述のようなセメント組成物を製造するために使用可能な耐久性向上混合材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0028】
セメント組成物の一実施形態は、セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を含有する。
【0029】
上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%とする上記石膏の含有量が、SO換算で0.5~3.5質量%であってよい。石膏の含有量が上記範囲内であることによって、当該セメント組成物の硬化に伴うDEFの発生をより低減することができる。石膏の含有量が上記範囲内であることによってまた、当該セメント組成物を用いて調製されるセメント硬化体の圧縮強さを更に向上させることができる。
【0030】
セメントクリンカーの鉱物組成はBogue式によって算出することができる。ここで、Bogue式とは、化学組成の含有比率からセメントクリンカー中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、セメントクリンカー中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO,CSで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO,CSで示す。)、及びアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al,C3Aで示す。)の含有量を算出することができる。なお、下記式中の「%」は「質量%」を意味する。化学式は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0031】
<Bogue式>
S[%]=(4.07×CaO[%])-(7.60×SiO[%])-(6.72×Al[%])-(1.43×Fe[%])-(2.85×SO[%])
S[%]=(2.87×SiO[%])-(0.754×CS[%])
A[%]=(2.65×Al[%])-(1.69×Fe[%])
AF[%]=3.04×Fe[%]
【0032】
セメントクリンカーにおけるCS量の下限値は、好ましくは35.0質量%以上であり、より好ましくは40.0質量%以上であり、更に好ましくは45.0質量%以上であり、特に好ましくは50.0質量%以上である。CS量の下限値が上記範囲内であることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。セメントクリンカーにおけるCS量の上限値は、好ましくは75.0質量%以下であり、より好ましくは70.0質量%以下であり、更に好ましくは、65.0質量%以下であり、更により好ましくは60.0質量%以下であり、特に好ましくは55.0質量%以下である。CS量の上限値が上記範囲内であることによって、セメント組成物の硬化時における発熱をより抑制しエトリンガイトの分解を抑制することができ、DEFの発生を更に抑制することができる。なお、CS量が75.0質量%を超えるとセメントクリンカーの調製も難しくなる。
【0033】
セメントクリンカーにおけるCA量の下限値は、好ましくは8.0質量%以上であるが、より好ましくは9.0質量%以上であり、更に好ましくは9.5質量%以上であり、特に好ましくは10.0質量%以上である。CA量の下限値を上記範囲内とすることによって、セメントクリンカー原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。セメントクリンカーにおけるCA量の上限値は、14.0質量%以下であるが、好ましくは13.0質量%以下であり、より好ましくは12.0質量%以下であり、更に好ましくは11.0質量%であり、特に好ましくは10.5質量%未満である。CA量は上述の範囲内で適宜調整することができ、例えば、8.0~14.0質量%であってよい。CA量の上限値を上記範囲内とすることによって、セメント組成物の硬化に伴うエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HOで表される化合物)の生成量を適度なものとすることができる。またセメント組成物の硬化時における断熱温度上昇の増加をより低減しエトリンガイトの分解を抑制することができ、またDEFに伴うセメント硬化体の膨張を更に抑制することができる。
【0034】
本明細書におけるCA量、及びCS量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定されたセメントクリンカーの化学分析値を用いて、Bogue式によって算出される値を意味する。
【0035】
セメントクリンカーがSO及びROを含んでよい。
【0036】
セメントクリンカー中のSO量は、セメントクリンカー100質量%を基準として、好ましくは0.10~2.00質量%であり、より好ましくは0.20~1.60質量%であり、さらに好ましくは0.30~0.70質量%である。SO量が上述の範囲内であることによって、セメントクリンカー焼成時に使用する廃棄物量をより増加させることが可能であり、当該セメントクリンカーを含むセメント組成物から得られるセメント硬化体におけるDEFをより抑制することができる。
【0037】
セメントクリンカー中のSO量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定したセメントクリンカーの化学分析値を意味する。
【0038】
セメントクリンカー中のRO量は、セメントクリンカー100質量%を基準として、好ましくは0.10~2.00質量%であり、より好ましくは0.20~1.60質量%であり、更に好ましくは0.25~1.25質量%であり、特に好ましくは0.30~0.70質量%である。RO量が上述の範囲内であることによって、セメントクリンカー焼成時に使用する廃棄物量をより増加させることが可能であり、当該セメントクリンカーを含むセメント組成物から得られるセメント硬化体におけるDEFをより抑制することができる。
【0039】
セメントクリンカー中のRO量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定したセメントクリンカーの化学分析値を用い、下記式から算出される値を意味する。なお、RO量はセメント中の全アルカリ量として、品質規格などに利用されている。
O[%]=NaO[%]+0.658×KO[%]
【0040】
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏を使用することができる。石膏は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。セメント組成物における石膏の含有量は、上記セメントクリンカー及び上記石膏の合計の含有量を100質量%として、SO換算で、好ましくは0.5~3.0質量%であり、より好ましくは0.7~2.5質量%であり、更に好ましくは0.9~2.0質量%であり、特に好ましくは1.1~1.6質量%である。石膏の含有量が上述の範囲内であることによって、DEFの発生を抑制しつつ、可使時間を十分に確保することができる。石膏の含有量が上述の範囲内であることによって、セメント硬化体の圧縮強さを向上できる。
【0041】
混合材は、少なくとも非晶質相を含む無機粉末及び石灰石を含む。混合材として、上記無機粉末を含むことで、DEFに伴うセメント硬化体の膨張の抑制及び長期の高温養生後の圧縮強さの向上に寄与する。混合材として、石灰石を含有することによってセメント製造時のCO排出量の低減や高温養生後のセメント硬化体の圧縮強さ向上に寄与する。
【0042】
上記セメント組成物における上記混合材の合計の含有量は、低炭素化の観点からは多い方が望ましく、一方でセメント硬化体の物性(例えば、圧縮強さ等)向上の観点からは少ない方が望ましい。上記セメント組成物における上記混合材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、2.0~30.0質量%含むが、好ましくは4.0~25.0質量%であり、より好ましくは5.5~20質量%であり、更に好ましくは6.5~15.0質量%であり、特に好ましくは7.5~12.5質量%である。混合材の含有量が上述の範囲内であることによって、セメント製造時のCO削減効果と、セメント硬化体の圧縮強さを十分に両立することができる。
【0043】
上記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有する。上記無機粉末の化学組成は、CaO、SiO及びAlに加えて、例えば、MgO及びSO等を更に含んでもよい。上記無機粉末の化学組成は、上記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO 量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%である。上記の組成であることで、優れたDEF抑制効果と、十分な高温養生時の圧縮強さが得られる。
【0044】
CaO量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは7.0~35質量%であり、より好ましくは8.0~30.0質量%であり、更に好ましくは10.0~25.0質量%であり、更により好ましくは12.0~20.0質量%であり、特に好ましくは14.0~18.0質量%である。
【0045】
SiO量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは40.0~70.0質量%であり、より好ましくは45.0~65.0質量%であり、更に好ましくは50.0~60.0質量%である。
【0046】
Al量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは15.0~24.0質量%であり、より好ましくは16.0~22.0質量%であり、更に好ましくは17.0~21.0質量%であり、特に好ましくは18.0~20.0質量%である。
【0047】
上記無機粉末の化学組成においてMgOが含まれる場合、MgO量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは0.2~4.5質量%であり、更に好ましくは0.4~4.0質量%であり、特に好ましくは0.6~2.0質量%である。
【0048】
上記無機粉末の化学組成においてSOが含まれる場合、SO量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下であり、更に好ましくは0.6質量%以下であり、特に好ましくは0.4質量%以下である。DEF抑制の観点からは無機粉末のSO量が低い方が良い。
【0049】
上記無機粉末としては非晶質を多く含むものがより好ましい。上記無機粉末100質量%中の非晶質相量は、好ましくは80.0~100.0質量%であり、より好ましくは85.0~100.0質量%であり、更に好ましくは90.0~100.0質量%であり、特に好ましくは95.0~100.0質量%である。上述の化学組成は、非晶質相中の組成であることが望ましい。
【0050】
上記無機粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2000~10000cm/gであり、より好ましくは3000~10000cm/gであり、更に好ましくは3500~8000cm/gであり、特に好ましくは4000~6000cm/gである。上記無機粉末のブレーン比表面積が低いとDEFの抑制効果が低く、ブレーン比表面積が高すぎるハンドリングが悪くなり得る。ブレーン比表面積は、例えば、無機粉末を分級・破砕して調整することができる。また、粉砕した無機粉末と分級した無機粉末とを混合して調整してもよい。無機粉末の分級は、例えば、空気分級、静電分級、篩い分級、重力場分級、及び遠心力場分級等で行うことができる。無機粉末の粉砕方法は特に限定されず、例えば、ボールミル、ジェットミル、ロッドミル、ブレードミル、及び竪ミル等の機器を使用することができる。
【0051】
本明細書における「ブレーン比表面積」は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値を意味する。
【0052】
無機粉末としては、例えば、石炭火力発電所から排出される石炭ガス化スラグの粉砕物を好適に使用できる。石炭ガス化スラグは、石炭ガス化複合発電において、燃焼後の石炭中の灰分が溶融して固化したCaO量の多い非晶質の無機粒子である。石炭ガス化スラグの粉砕は、例えば、ボールミル、ジェットミル、ロッドミル、ブレードミル、及び竪ミル等を用いて行ってよく、粉砕することで石炭ガス化スラグ粉末が得られる。石炭ガス化スラグは、石灰石やセメントクリンカー等と同時に粉砕してもよく、別々に粉砕してもよい。
【0053】
石炭ガス化スラグの粉砕物以外の無機粉末としては、例えば、石炭火力発電所の発電ボイラ燃料として、主燃料である石炭と、木屑、やし殻、下水汚泥等由来のバイオマス燃料とを混焼した場合に得られる灰などが挙げられる。その他に、火山灰等の天然ポゾラン、クリンカーアッシュ、及び塩素バイパスダストなどを使用することもできる。
【0054】
単独では使用できない材料であっても、混合粉砕する等して成分を調整し、上記無機粉末の要件を充足させたものであれば、使用してもよい。例えば、石炭ガス化スラグ粉、バイオマス燃焼灰、天然ポゾラン、クリンカーアッシュ、塩素バイパスダスト、石炭灰、及び高炉スラグ微粉末等の単独では上記無機粉末として使用できない材量であっても、混合粉砕し、成分を調整することで無機粉末として使用できる。
【0055】
上記無機粉末の含有量の下限値は、混合材100質量%を基準として、好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは12.5質量%以上であり、更に好ましくは35.0質量%以上であり、特に好ましくは60.0質量%以上である。上記無機粉末の含有量の上限値は、混合材100質量%を基準として、好ましくは95.0質量%以下であり、より好ましくは92.5質量%以下であり、更に好ましくは90.0質量%以下であり、特に好ましくは87.5質量%以下である。上記無機粉末の含有量は上述の範囲内で適宜調整することができ、混合材100質量%を基準として、例えば、5.0~95.0質量%であってよい。上記無機粉末の含有量が上述の範囲内であり、上記無機粉末を多く含むことでDEFの抑制効果が向上できる。石灰石を適量含むことで、高温養生後の強さ向上に寄与する。
【0056】
上記無機粉末の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、1.0~29.0質量%であるが、好ましくは3.0~20.0質量%であり、より好ましくは5.5~15.0質量%であり、更に好ましくは5.0~9.0質量%である。
【0057】
石灰石としては、例えば、一般に販売されている石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
【0058】
石灰石のブレーン比表面積は、好ましくは2500~10000cm/gであり、より好ましくは4000~9000cm/gであり、更に好ましくは6000~8000cm/gである。石灰石のブレーン比表面積が2500cm/g以上であることで、セメント組成物の反応性を向上させることができる。石灰石のブレーン比表面積が10000cm/g以下であることで、ハンドリング性の低下を抑制できる。
【0059】
石灰石の含有量は、DEF抑制の観点からは少ない方が望ましく、一方で、セメント組成物の製造におけるCO発生量低減を含む低炭素化の観点からは多い方が望ましい。石灰石の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、1.0~10.0質量%であるが、好ましくは2.0~9.0質量%であり、より好ましくは2.4~12.5質量%であり、更に好ましくは.5~10.0質量%である。石灰石の含有量が上述の範囲内であることで、セメント組成物の水和に伴う発熱を低減しエトリンガイトの分解をより抑制でき、セメント硬化体の強度もより増進することができる。石灰石の含有量が上述の範囲内であることで、セメント硬化体の初期及び長期の強度発現性をより向上させることができる。
【0060】
上述のセメント組成物に細骨材、粗骨材、水及び/又は混和剤、硬化促進剤等を加えることによってモルタル組成物又はコンクリート形成用組成物を製造することができる。上述のセメント組成物を用いて形成されるモルタル及びコンクリートは、優れた断熱温度上昇抑制、強度増進、及びDEF抑制効果を発揮し得る。
【0061】
細骨材は、JIS A 5005「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の細骨材等を用いることができる。細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、硬質高炉スラグ細骨材、高炉スラグ細骨材、銅スラグ細骨材、及び電気炉酸化スラグ細骨材等が挙げられる。細骨材は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。上述のセメント組成物における細骨材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、例えば、50~500質量部であってよい。
【0062】
粗骨材は、JIS A 5005「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の粗骨材等を用いることができる。粗骨材としては、例えば、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、及び電気炉酸化スラグ粗骨材等が挙げられる。粗骨材は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。上述のセメント組成物における粗骨材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは50~500質量部である。
【0063】
水としては、例えば、水道水、蒸留水、及び脱イオン水等が挙げられる。上述のセメント組成物における水の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上60質量部以下である。セメント組成物における水の含有量を上述の範囲内とすることで、所定のフレッシュ性状(流動性、空気量等)及び成形性を十分に確保することができ、得られるセメント硬化体の圧縮強さ及び耐久性の低下も十分抑制することができる。
【0064】
混和剤としては、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、及び増粘剤等が挙げられる。混和剤は、求められる性能に応じて、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。上述のセメント組成物における混和剤の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部である。
【0065】
硬化促進剤としては、例えば、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、無水石膏、生石灰、消石灰、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、アルミン酸アルカリ、炭酸アルカリ、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ギ酸カルシウム、無水マレイン酸、ロダン酸カルシウム、C-S-Hナノ粒子、及びチオシアン酸カルシウム等が挙げられる。硬化促進剤は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
上述のセメント組成物における硬化促進剤の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~20.0質量部であり、より好ましくは3.0~15.0質量部であり、更に好ましくは6.0~10.0質量部以下である。硬化促進剤の含有量が上述の範囲内であることで、硬化促進効果を十分に発揮させると共に、凝結の促進及び流動性の低下などを抑制することができる。
【0067】
上述のセメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは3000~5000cm/gであり、より好ましくは3100~4500cm/gであり、更に好ましくは3150~4000cm/gである。ブレーン比表面積が3000cm/g以上であると、脱型時の強度発現性が向上し、5000cm/g以下であると初期の水和発熱が低下し、DEFをより抑制することができる。
【0068】
上述のセメント組成物における混合材は、それ自体、セメント硬化体の耐久性を向上させるために使用することができ、耐久性向上混合材ということもできる。耐久性向上混合材は、非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む。上記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、上記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%である。そして、上記耐久性向上混合材は、セメントクリンカー、石膏及び上記耐久性向上混合材の合計量を100質量%として、上記無機粉末の含有量が1.0~29質量%となり、上記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように、セメントクリンカー及び石膏とともに配合して用いる。
【0069】
上述のセメント組成物は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。セメント組成物の製造方法の一実施形態は、セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を混合する工程(混合工程)を備える。上記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、上記無機粉末は、CaO、SiO及びAlを含む化学組成を有し、上記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO 量が35.0~75.0質量%、及びAl量が14.0~25.0質量%であり、上記工程において、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準とする上記混合材の含有量が2.0~30.0質量%となり、上記無機粉末の含有量が1.0~29.0質量%となり、上記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材を混合する。
【0070】
混合工程における各種成分の混合順序は適宜調整してよく、例えば、セメントクリンカー及び石膏を先に混合しベースセメントを調製し、その後に混合材を混合してもよく、セメントクリンカー、石膏及び混合材を一度に混合してもよい。混合工程は、各種成分を粉砕する粉砕工程を兼ねてもよい。例えば、上記製造方法は、セメントクリンカー、石膏、及び混合材を粉砕機に投入し混合及び粉砕する混合工程を備えてもよい。混合工程がセメントクリンカー、石膏、及び混合材を混合及び粉砕する工程であることで、DEFの抑制効果により優れるセメント組成物を製造することができる。
【0071】
混合工程における各種成分の混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、リボンミキサー等の混合機を用いて行ってよい。
【0072】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[ベースセメント(セメントクリンカー及び石膏の混合物)の調製]
表1に後述する実施例及び比較例で使用したベースセメント(NC1~NC3)を示す。ベースセメント(NC1~NC3)は、いずれも少量添加成分の混和材を添加せずに、まずセメントクリンカーに二水石膏を添加し、ブレーン比表面積が3300±100cm/gとなるようにボールミルで粉砕して調製した。ベースセメント中の全SO量が1.9質量%±0.1質量%となるように二水石膏量を調整して添加した。
【0075】
表1には、ベースセメントのブレーン比表面積、化学成分、及びBogue式によって算出されるセメントクリンカーの鉱物組成を示した。ベースセメントのブレーン比表面積はJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に基づき求めた。ベースセメントの化学組成、及びセメントクリンカーの鉱物組成はJIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」の蛍光X線分析法に基づき、分析を行なった。蛍光X線分析には株式会社リガク製のSimultix12を用いた。
【0076】
【表1】
【0077】
[無機粉末(石炭ガス化スラグ:IGCCスラグ)]
表2及び表3に後述する実施例及び比較例で使用した無機粉末(IG1及びIG2)を示す。無機粉末は、火力発電所から採取した同一の石炭ガス化スラグをボールミルで粉砕したうえで用いた。
【0078】
[石灰石]
表2に後述する実施例及び比較例で使用した石灰石(CC)を示す。石灰石は、宇部マテリアルズ株式会社製の325メッシュ品(45μmふるい通過分)を用いた。当該325メッシュ品は、ブレーン比表面積が7470cm/g、炭酸カルシウム含有量が90質量%以上、酸化アルミニウム含有量が1.0質量%以下であり、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」の少量混合成分に適合するものを用いた。
【0079】
[高炉スラグ微粉末]
表2及び表3に後述する実施例及び比較例で使用した高炉スラグ微粉末(BS)を示す。高炉スラグ微粉末(BS)は、市販の高炉スラグ微粉末(ブレーン比表面積4180cm/g)を用いた。
【0080】
表2には、混合材(無機粉末、石灰石、及び高炉スラグ微粉末)のブレーン比表面積、及び化学組成を示した。ブレーン比表面積はJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に基づき求めた。化学組成はJIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」の蛍光X線分析法に基づき、分析を行なった。蛍光X線分析には株式会社リガク製のSimultix12を用いた。
【0081】
【表2】
【0082】
表3には、混合材(無機粉末及び高炉スラグ微粉末)の非晶質量、及び混合材全量を基準とし、非晶質相中における化学組成の比率を示した。無機粉末(石炭ガス化スラグ)は、X線回折測定による結晶質に対応するピークが観測されなかったことから、全量が非晶質相である(非晶質量が100質量%)と判断した。高炉スラグ微粉末は、X線回折測定結果において二水石膏以外のピークが観測されなかったことから、SO成分をすべて二水石膏由来と仮定し、二水石膏の質量割合を差し引くことで非晶質量を求めた。X線回折装置はD2PHASER(ブルカー・エイエックスエス社)を用いた。
【0083】
【表3】
【0084】
[細骨材]
DEF試験及び活性度指数測定では、細骨材として、セメント協会(一社)のセメント強さ試験用標準砂を用いた。
【0085】
(実施例1~6、比較例1~6、及び参考例1)
セメント、無機粉末(石炭ガス化スラグ)、石灰石、及び高炉スラグ微粉末を表4に示す配合割合(質量%)で、混合及び粉砕することによって、セメント組成物を調製した。
【0086】
【表4】
【0087】
実施例及び比較例で調製した各セメント組成物を用いて、DEF試験及び圧縮強さの測定を行った。
【0088】
[DEF試験]
(モルタル組成物の調製)
まず、実施例及び比較例で調製した各セメント組成物に対して、細骨材としてのセメント協会(一社)のセメント強さ試験用標準砂、及び水を配合し、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠してモルタル組成物を調製した。モルタル組成物の配合は表5に示した。
【0089】
【表5】
【0090】
(DEF試験)
DEF試験は、上述のモルタル組成物に対して、硬化促進剤として硫酸カリウムを加え、セメント組成物中の全SO量が6質量%となるように調整し、更に90℃の高温での前養生を施すことで、DEFを生じやすい条件の下で行った。これは、高温養生及びSO量の増加が無い場合には、DEFによる膨張を生じない場合があり得、観測を容易なものとするために、上述の調整を行った。
【0091】
より具体的には、まずモルタル組成物に硬化促進剤を添加した後、練り混ぜ及び型詰めを行った。次に、型枠を封かん状態にして恒温槽に入れ、20℃において4時間かけて養生し、2時間かけて90℃まで上昇させ、90℃において12時間保持した。12時間経過後、4時間かけて20℃まで温度を下げ、20℃において2時間養生した。その後、脱型し、モルタル硬化体を得た。
【0092】
上述の方法で調製されたモルタル硬化体について、20℃の恒温室にて水中養生を行い、各水準について3本のモルタル硬化体の長さ変化量を測定した。長さ変化量の測定方法は、JIS A 1129-3:2010「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」の記載に準拠して、ダイヤルゲージを用いて、脱型時を基長として、水中養生材齢7日目、14日目、28日目、その後は28日間経過毎にモルタル硬化体を水中から取り出して、長さ変化量を測定した。3本のモルタル硬化体の表裏の6か所にて、長さ変化量を測定し、その平均値を、対象とするモルタル硬化体の長さ変化量とした。得られた長さ変化量をストレインゲージの間隔(100mm)で除した値を、モルタル硬化体の膨張率とし、水中養生材齢112日目のモルタル硬化体について以下の基準でDEF及びDEFにともなうモルタル硬化体の膨張抑制の程度を評価した。結果を表6及び表7に示す。
A:モルタル硬化体の膨張率が0.05%以下である。
B:モルタル硬化体の膨張率が0.05%超0.10%以下である。
C:モルタル硬化体の膨張率が0.10%超0.25%以下である。
D:モルタル硬化体の膨張率が0.25%超である。
【0093】
(圧縮強さ測定)
各モルタル硬化体の圧縮強さの測定は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に準拠して行った。圧縮強さ測定用のモルタル硬化体の作製は、まず、表3及び表4の配合で調製したモルタル組成物を35℃の恒温室にてモルタルとして練り混ぜて型詰めを行い、型枠を湿気箱内に貯蔵して24時間養生をした。24時間養生の後に脱型し、モルタル硬化体を得た。得られたモルタル硬化体は、材齢28日まで35℃の恒温室で水中養生を行った後に、圧縮強さを測定した。各モルタル硬化体について、下記の基準で評価した。結果を表6及び表7に示す。
A:圧縮強さが55MPa以上である。
B:圧縮強さが53MPa以上55MPa未満である。
C:圧縮強さが52MPa以上53MPa未満である。
D:圧縮強さが50MPa以上52MPa未満である。
E:圧縮強さが50MPa未満である。
【0094】
【表6】
【0095】
表6に示されるとおり、本開示に係るセメント組成物の要件を充足することによってDEFに伴う膨張の抑制効果と、圧縮強さとを実用上十分に両立できることが確認された。まず、表6に示される比較例1~3の組成物と、実施例1~3のモルタル組成物とは、表5に示される組成のとおり、ベースセメントはNC1で共通し、混和材の合計含有量も10質量%と共通している。一方、比較例1~3の組成物と、実施例1~3のモルタル組成物とは、混和材の種類及び組成比が異なる。表6に示すとおり、比較例1~3の組成物及び実施例1~3のモルタル組成物の結果から、混和材が石灰石のみであるとDEFに伴う膨張を抑制できず(比較例2)、混和材が無機粉末のみであると圧縮強さが低下する(比較例3)ことが確認され、混和材として、無機粉末と石灰石との併用が必要であることが確認された。比較例1及び実施例2の結果から、特定の化学成分を有する無機粉末を混合材として含むことによって、DEFに伴う膨張の抑制効果と、圧縮強さとを実用上十分に両立できることが確認できる。
【0096】
【表7】
【0097】
表7に示されるとおり、ベースセメントがNC2の場合であっても、ベースセメントがNC1の場合と同様の傾向を有することが確認された。なお、同一の混合材でベースセメントの異なる試料を比較した場合(例えば、比較例2及び6、又は実施例1及び4の比較)、ベースセメントの種類によって、DEFに伴う膨張率が異なり、ベースセメントのCS量及びCA量が大きいほど、DEFに伴う膨張率が増加する傾向が確認された。また、CA量が大きいほど、35℃での圧縮強さが低下する傾向がみられた。このことからベースセメントの種類に応じて、DEFに伴う膨張の抑制効果及び圧縮強さに求める程度に応じて、配合を調整することが望ましいことが確認された。
【0098】
比較例4は石灰石を5質量%添加し、JIS R 5201に規定される普通ポルトランドセメントを模擬した試料であるがDEFに伴う膨張率が大きかった。さらに石灰石を10質量%まで増加させた場合、又は石灰石5質量%に高炉スラグ微粉末を添加した場合にはDEFに伴う膨張率の増加がみられた。これに対して、実施例の試料はいずれもDEF抑制効果が高く、十分な圧縮強さを有することが確認された。
【0099】
参考例1と実施例2とを比較すると、同一のセメントクリンカー及び同一の配合であるが、使用した石炭ガス化スラグによってDEFに伴う膨張率が異なる。石炭ガス化スラグのブレーン比表面積が高いほどDEFに伴う膨張率が小さい傾向が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示によれば、混合材の含有量が多い場合であっても、DEFに伴う膨張を抑制し、且つ高温環境下における圧縮強さに優れるセメント硬化体を提供可能なセメント組成物及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述のようなセメント組成物を製造するために使用可能な耐久性向上混合材を提供できる。