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特許7529433面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/10 20230101AFI20240730BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20240730BHJP
   H01F 10/32 20060101ALI20240730BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20240730BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240730BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20240730BHJP
   G11B 5/31 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H10N50/10 Z
H01F10/16 ZNM
H01F10/32
H01L29/82 Z
C23C14/34 A
G11B5/39
G11B5/31 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020081599
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021176184
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】タム キム コング
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 知成
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/166795(WO,A1)
【文献】特開2001-093130(JP,A)
【文献】特開2013-055281(JP,A)
【文献】特開2015-185183(JP,A)
【文献】国際公開第2012/004883(WO,A1)
【文献】特開2010-257565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/10
H01F 10/16
H01F 10/32
H01L 29/82
C23C 14/34
G11B 5/39
G11B 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、厚さが20nm以上80nm以下であり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有し、
当該面内磁化膜の磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は15nm以上30nm以下であることを特徴とする面内磁化膜。
【請求項2】
CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなることを特徴とする請求項1に記載の面内磁化膜。
【請求項3】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の面内磁化膜。
【請求項4】
前記面内磁化膜は、ホウ素を、金属成分の合計に対して0.5at%以上3.5at%以下含有していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の面内磁化膜。
【請求項5】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
結晶構造が六方最密充填構造である非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有しており、
当該面内磁化膜の磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は15nm以上30nm以下であり、
前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは20nm以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項6】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有しており、
当該面内磁化膜の磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は15nm以上30nm以下であり、
前記面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項7】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることを特徴とする請求項5または6に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項8】
前記面内磁化膜は、CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項9】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5~8のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項10】
前記面内磁化膜の1層あたりの厚さは、5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項5~9のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載の面内磁化膜または請求項5~10のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層。
【請求項12】
請求項11に記載のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを50at%以上85at%以下含有し、金属Ptを15at%以上50at%以下含有し、
当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有し、
形成する前記面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットに関し、詳細には、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板を加熱して行う成膜(以下、加熱成膜と記すことがある。)を行わずに実現することができるCoPt-酸化物系の面内磁化膜、CoPt-酸化物系の面内磁化膜多層構造、前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層に関するとともに、前記CoPt-酸化物系の面内磁化膜、前記CoPt-酸化物系の面内磁化膜多層構造または前記ハードバイアス層に関連する、磁気抵抗効果素子およびスパッタリングターゲットに関する。前記CoPt-酸化物系の面内磁化膜および前記Pt-酸化物系の面内磁化膜多層構造は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層に用いることができる。
【0002】
保磁力Hcが2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるハードバイアス層であれば、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層と比べて同等程度以上の保磁力および単位面積当たりの残留磁化を有していると考えられる。本願において、面内磁化膜の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜の厚さを乗じた値のことである。
【0003】
なお、本願において、ハードバイアス層とは、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(以下、フリー磁性層と記すことがある。)にバイアス磁界を加える薄膜磁石のことである。
【0004】
また、本願では、金属Coを単にCoと記載し、金属Ptを単にPtと記載し、金属Ruを単にRuと記載することがある。また、他の金属元素についても同様に記載することがある。
【0005】
また、本願において、ホウ素(B)は金属元素の範疇に含める。
【背景技術】
【0006】
現在多くの分野で磁気センサが用いられているが、汎用的に用いられている磁気センサの1つに磁気抵抗効果素子がある。
【0007】
磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(フリー磁性層)と、該磁性層(フリー磁性層)にバイアス磁界を加えるハードバイアス層と、を有してなり、ハードバイアス層には、所定以上の大きさの磁界を安定的にフリー磁性層に印加できることが求められている。
【0008】
したがって、ハードバイアス層には、高い保磁力および残留磁化が求められる。
【0009】
しかしながら、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力は、2kOe程度であり(例えば、特許文献1の図7)、これ以上の保磁力の実現が望まれている。
【0010】
また、単位面積当たりの残留磁化は、2memu/cm2程度以上であることが望まれている(例えば、特許文献2の段落0007)。
【0011】
これらに対応できる可能性のある技術として、例えば特許文献3に記載の技術がある。特許文献3に記載の技術は、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)とハードバイアス層との間に設けたシード層(Ta層と、そのTa層の上に形成され、面心立方(111)結晶構造または六方最密(001)結晶構造を有する金属層とを含む複合シード層)により、長手方向に容易軸を向かせるように磁性材料を配向させ、ハードバイアス層の保磁力の向上を試みた手法である。しかしながら、ハードバイアス層に望まれる前記磁気特性を満たしていない。また、この手法では、保磁力向上のため、センサ積層体とハードバイアス層との間に設けたシード層を厚くする必要がある。このため、センサ積層体中のフリー磁性層への印加磁場が弱くなるという問題も抱える構造である。
【0012】
また、特許文献4には、ハードバイアス層に用いる磁性材にFePtを用いることや、Pt又はFeシード層を有するFePtハードバイアス層、及びPt又はFeのキャッピング層が記載されており、この特許文献4では、焼なまし温度が約250~350℃である焼なましの間に、シード層及びキャッピング層内のPt又はFe、ならびにハードバイアス層内のFePtが互いに混ざり合う構造が提案されている。しかしながら、このハードバイアス層の形成に必要な加熱工程においては、既に積層されている他の膜への影響を考慮する必要があり、この加熱工程は可能な限り避けるべき工程である。
【0013】
特許文献5では、焼なまし温度の最適化が行われて、焼なまし温度を200℃程度まで下げることが可能であることが示され、ハードバイアス層の保磁力が3.5kOe以上であることが示されているが、単位面積当たりの残留磁化は1.2memu/cm2程度であり、ハードバイアス層に望まれている前記磁気特性を満たしていない。
【0014】
特許文献6には、長手記録用磁気記録媒体が記載されており、その磁性層は、六方最密充填構造を有する強磁性結晶粒と、それを取り巻く主に酸化物からなる非磁性粒界とからなるグラニュラ構造であるが、このようなグラニュラ構造が磁気抵抗効果素子のハードバイアス層へ用いられた事例は無い。また、特許文献6に記載の技術は、磁気記録媒体の課題である信号対雑音比の低減を目的としており、磁性層の層間に非磁性層を用いて磁性層を多層化させているが、その上下の磁性層同士は反強磁性結合を有しており、磁性層の保磁力の向上には適さない構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2008-283016号公報
【文献】特表2008-547150号公報
【文献】特開2011-008907号公報
【文献】米国特許出願公開第2009/027493A1号公報
【文献】特開2012-216275号公報
【文献】特開2003-178423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
実際の磁気抵抗効果素子への適用を視野に入れた場合、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)およびハードバイアス層は、できるだけ薄くすることが好ましく、また、加熱成膜は行わないことが好ましい。
【0017】
この条件を満たした上で、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力(2kOe程度)および単位面積当たりの残留磁化(2memu/cm2程度)を上回るハードバイアス層を得るためには、現状のハードバイアス層に用いられている元素や化合物とは異なる元素や化合物を探索していく必要があると本発明者は考え、また、酸化物をCoPt系の面内磁化膜に適用することが有望であるのではないかと本発明者は考えた。一方、CoPt-酸化物系の面内磁化膜中において磁性を発揮する部位は、酸化物で構成される結晶粒界ではなく、CoPt合金磁性結晶粒であるので、CoPt-酸化物系の面内磁化膜中の酸化物量は少ない方が、保磁力Hcや単位面積当たりの残留磁化Mrtといった磁気的特性を向上するのではないかと本発明者は考えた。
【0018】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜、面内磁化膜多層構造およびハードバイアス層を提供することを課題とし、併せて、前記面内磁化膜、前記面内磁化膜多層構造または前記ハードバイアス層に関連する、磁気抵抗効果素子およびスパッタリングターゲットを提供することも補足的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、以下の面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットにより、前記課題を解決したものである。
【0020】
即ち、本発明に係る面内磁化膜は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、厚さが20nm以上80nm以下であり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有し、当該面内磁化膜の磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は15nm以上30nm以下であることを特徴とする面内磁化膜である。
【0021】
ここで、本願発明に係る面内磁化膜およびそれに付随して存在する下地膜等の部材に関し、上下方向を観念する文言は、当該面内磁化膜が積層された下地膜が最も低い位置になるように該下地膜を水平方向に配置した状態を基準として、その意味内容を解釈するものとする。
【0022】
また、「面内磁化膜の磁性結晶粒の面内方向の平均粒径」は、[実施例]の欄の「(F)CoPt面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径の測定方法(実施例1~14、比較例1、2)」に記載した方法によって算出する。本願における他の箇所の同様の記載においても同様である。
【0023】
前記面内磁化膜は、CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなるように構成してもよい。
【0024】
ここで、結晶粒界とは、結晶粒の境界のことである。
【0025】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むものを用いてもよい。
【0026】
前記面内磁化膜は、ホウ素を、金属成分の合計に対して0.5at%以上3.5at%以下含有していてもよい。
【0027】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第1の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、結晶構造が六方最密充填構造である非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有しており、当該面内磁化膜の磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は15nm以上30nm以下であり、前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは20nm以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0028】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第2の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有しており、当該面内磁化膜の磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は15nm以上30nm以下であり、前記面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0029】
本願において、非磁性中間層とは、面内磁化膜同士の間に配置される非磁性層のことである。
【0030】
本願において、強磁性結合とは、非磁性中間層を挟んで隣り合う磁性層(ここでは、前記面内磁化膜)のスピンが平行(同じ向き)になっているときに働く交換相互作用に基づく結合のことである。
【0031】
また、本願において、面内磁化膜多層構造の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の厚さの合計の値を乗じた値のことである。
【0032】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることが好ましい。
【0033】
前記面内磁化膜多層構造において、前記面内磁化膜は、CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなるように構成してもよい。
【0034】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第1の態様および第2の態様において、前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むものを用いてもよい。
【0035】
前記面内磁化膜の1層あたりの厚さは、5nm以上30nm以下であることが標準的である。
【0036】
本発明に係るハードバイアス層は、前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層である。
【0037】
本発明に係る磁気抵抗効果素子は、前記ハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子である。
【0038】
本発明に係るスパッタリングターゲットは、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを50at%以上85at%以下含有し、金属Ptを15at%以上50at%以下含有し、当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有し、形成する前記面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜、面内磁化膜多層構造およびハードバイアス層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の第1実施形態に係る面内磁化膜10を、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図。
図2】本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20を、磁気抵抗効果素子24のハードバイアス層26に適用している状態を模式的に示す断面図。
図3】薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を模式的に示す斜視図。
図4】走査透過電子顕微鏡を用いて撮像して取得した膜厚方向断面の観察像の一例(参考例7の観察像)。
図5】参考例7の面内磁化膜の厚さ方向に行った(図4中の黒線に沿って行った)線分析(元素分析)の結果。
図6】走査透過電子顕微鏡を用いて撮像して取得した面内方向断面の平面観察像の一例(実施例1の平面観察像)。
図7】平均粒径の測定方法を説明するための模式的な平面観察像。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(1)第1実施形態
(1-1)概要
図1は、本発明の第1実施形態に係る面内磁化膜10を、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図である。なお、図1においては、下地膜(面内磁化膜10は下地膜の上に形成される)の記載は省略している。
【0042】
ここでは、磁気抵抗効果素子12としてトンネル型磁気抵抗効果素子を念頭に置いて図1に示す構成の説明を行うが、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、トンネル型磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用に限定されるわけではなく、例えば巨大磁気抵抗効果素子、異方性磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用も可能である。
【0043】
磁気抵抗効果素子12(ここでは、トンネル型磁気抵抗効果素子)は、非常に薄い非磁性トンネル障壁層(以下、バリア層54)によって分離された2つの強磁性層(フリー磁性層16、ピン層52)を有する。ピン層52は、隣接する反強磁性層(図示せず)との交換結合により固定されることなどによって、その磁化方向が固定されている。フリー磁性層16は、外部磁界が存在する状態で、その磁化方向を、ピン層52の磁化方向に対して自由に回転させることができる。フリー磁性層16が外部磁界によってピン層52の磁化方向に対して回転すると、電気抵抗が変化するため、この電気抵抗の変化を検出することで、外部磁界を検出することができる。
【0044】
ハードバイアス層14は、フリー磁性層16にバイアス磁界を加えて、フリー磁性層16の磁化方向軸を安定させる役割を有する。絶縁層50は電気的な絶縁材料で形成されており、センサ積層体(フリー磁性層16、バリア層54、ピン層52)を垂直方向に流れるセンサ電流が、センサ積層体(フリー磁性層16、バリア層54、ピン層52)の両側のハードバイアス層14に分流するのを抑制する役割を有する。
【0045】
図1に示すように、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層16にバイアス磁界を加えることができる。ハードバイアス層14は、本第1実施形態に係る面内磁化膜10のみで構成されており、面内磁化膜10の単層で構成されている。
【0046】
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、酸化物を含有し、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力と比べて同等程度以上の保磁力(2.00kOe以上の保磁力)および単位面積当たりの残留磁化(2.00memu/cm2以上)を有する単層の面内磁化膜である。具体的には、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、CoPt-酸化物系の面内磁化膜であり、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有し、厚さが20nm以上80nm以下である。
【0047】
(1-2)面内磁化膜10の構成成分
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、前述したように、金属成分としてCoおよびPtを含有し、また、酸化物を含有する。
【0048】
金属Coおよび金属Ptは、スパッタリングによって形成される面内磁化膜において、磁性結晶粒(微小な磁石)の構成成分となる。
【0049】
Coは強磁性金属元素であり、面内磁化膜中の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して45at%以上80at%以下としている。また、同様の点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して45at%以上70at%以下であることが好ましく、45at%以上60at%以下であることがより好ましい。
【0050】
Ptは、所定の組成範囲でCoと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。一方、スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくして、面内磁化膜の保磁力を大きくするという機能を有する。面内磁化膜の保磁力を大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を調整するという観点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して20at%以上55at%以下としている。また、同様の点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して30at%以上55at%以下であることが好ましく、40at%以上55at%以下であることがより好ましい。
【0051】
また、本実施形態に係る面内磁化膜10の金属成分として、CoおよびPt以外に、ホウ素Bを0.5at%以上3.5at%以下含有させてもよい。後述する実施例で実証しているように、ホウ素Bを0.5at%以上3.5at%以下含有させることにより、面内磁化膜10の保磁力Hcをさらに向上させる効果がある。
【0052】
本第1実施形態に係る面内磁化膜10が含有する酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含む。そして、面内磁化膜10中において、前記のような酸化物からなる非磁性体によって、CoPt合金磁性結晶粒同士が仕切られており、グラニュラ構造が形成されている。即ち、このグラニュラ構造は、CoPt合金結晶粒とその周囲を取り囲む前記酸化物の結晶粒界とからなる。
【0053】
したがって、面内磁化膜10中の酸化物の含有量を多くした方が磁性結晶粒同士の間を確実に仕切りやすくなり、磁性結晶粒同士を独立させやすくなるので好ましい。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)を、3vol%以上にすることが標準的であり、また、同様の観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)は、4vol%以上であることが好ましく、5vol%以上であることがより好ましい。
【0054】
ただし、面内磁化膜10中の酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)が多くなりすぎると、酸化物がCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)中に混入してCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶性に悪影響を与えて、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)においてhcp以外の構造の割合が増えるおそれがある。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)を、25vol%以下にすることが標準的であり、また、同様の観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量は、21vol%以下であることが好ましく、16vol%以下であることがより好ましい。
【0055】
したがって、本第1実施形態においては、面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)を、3vol%以上25vol%以下にすることが標準的であり、また、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量(面内磁化膜10全体における酸化物の含有量の平均値)は、4vol%以上21vol%以下であることが好ましく、5vol%以上16vol%以下であることがより好ましい。
【0056】
また、酸化物としてWO3またはMoO3を含むと、面内磁化膜10の保磁力Hcが大きくなるので、酸化物としてWO3またはMoO3を含むことが好ましい。
【0057】
なお、現状の面内磁化膜では、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)同士を仕切る粒界材料として、Cr、W、Ta、B等の単体元素が用いられているため、粒界材料が、ある程度、CoPt合金に固溶すると考えられる。このため、現状の面内磁化膜のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)は、結晶性に悪影響を受けて飽和磁化および残留磁化が低減していると考えられ、現状の面内磁化膜は、その保磁力Hcおよび残留磁化の値が悪影響を受けていると考えられる。
【0058】
一方、本第1実施形態に係る面内磁化膜10においては、粒界材料が酸化物であるので、粒界材料がCr、W、Ta、B等の単体元素の場合と比べて、粒界材料がCoPt合金に固溶しにくい。このため、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の飽和磁化および残留磁化は大きくなり、また、本第1実施形態に係る面内磁化膜10の保磁力Hcおよび残留磁化は大きくなる。
【0059】
(1-3)面内磁化膜10の厚さ
面内磁化膜10の厚さを薄くすると、単位面積当たりの残留磁化Mrtが小さくなる傾向があり、また、面内磁化膜10の厚さを厚くすると、保磁力Hcが小さくなる傾向があるので、両者を両立させる観点から、面内磁化膜10の厚さは、20nm以上80nm以下に設定することが標準的である。
【0060】
(1-4)面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径
面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が大きくなると、(CoPt合金磁性結晶粒の面内方向の長さ)/(CoPt合金磁性結晶粒の膜厚方向の長さ)が大きくなり、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の形状が扁平化する。これにより形状磁気異方性によって面内方向の反磁界が弱まり面内磁化膜10の保磁力Hcが向上する。
【0061】
また、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が大きいと、面内磁化膜10全体に対する結晶粒界の体積分率が小さくなり、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の体積分率が大きくなり、飽和磁化Msが向上し、残留磁化Mrが向上する。その結果、単位面積当たりの残留磁化Mrtが大きくなる。
【0062】
したがって、面内磁化膜10の保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtを大きくする観点から、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は15nm以上とするのが標準的であり、18nm以上とするのが好ましく、20nm以上とするのがより好ましい。
【0063】
一方、後述する実施例および比較例に示すように、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が30nmを超えるものは得ることができなかったので、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径の上限は30nmとする。
【0064】
なお、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が大きくなると、面内磁化膜10中の結晶粒界の体積が減少するため、面内磁化膜10において必要な酸化物量を減らすことができる。
【0065】
(1-5)下地膜
本第1実施形態に係る面内磁化膜10を形成する際に用いる下地膜としては、面内磁化膜10の磁性粒子(CoPt合金粒子)と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金からなる下地膜(以下、Ru系下地膜と記すことがある。)が適している。Ru系下地膜は、表面が凹凸状になっており、CoPt-酸化物スパッタリングターゲットでスパッタリングを行った場合、凸部に金属成分が堆積しやすく、凹部に酸化物が堆積しやすくなっている。下地膜に飛来するスパッタ粒子から見ると、下地膜の凹部は影になるため、下地膜の凸部に金属が凝固し易く、そのため酸化物は下地膜の凹部に析出するからである。
【0066】
このため、Ru系下地膜の表面の凸部の大きさが大きい場合、当該Ru系下地膜の凸部に成長するCoPt合金磁性結晶粒の大きさは、大きくなる傾向がある。一方、「(1-4)面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径」に記載したように、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径を大きくすることで、面内磁化膜10の保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtを大きくすることができるので、表面の凸部の大きさが大きいRu系下地膜を、本第1実施形態に係る面内磁化膜10を形成する際に用いることが好ましい。Ru系下地膜においては、厚さが20nm程度以上であれば、表面の凸部の大きさがある程度大きくなるので、厚さが20nm以上のものを用いるのが好ましく、25nm以上のものを用いるのがより好ましく、30nm以上のものを用いるのが特に好ましい。
【0067】
また、積層する面内磁化膜10中の磁性結晶粒(CoPt合金粒子)を整然と面内配向させるため、用いるRu下地膜またはRu合金下地膜の表面には、(10.0)面または(11.0)面が多く配置されるようにすることが好ましい。
【0068】
なお、本発明に係る面内磁化膜を形成する際に用いる下地膜は、Ru下地膜またはRu合金下地膜に限定されるわけではなく、得られる面内磁化膜のCoPt磁性結晶粒を面内配向させ、かつ、CoPt磁性結晶粒同士の磁気的な分離を促進させることができ、かつ、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径を大きくすることに適する下地膜であれば使用可能である。
【0069】
(1-6)スパッタリングターゲット
本第1実施形態に係る面内磁化膜10を作製する際に用いるスパッタリングターゲットは、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜10を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを50at%以上85at%以下含有し、金属Ptを15at%以上50at%以下含有し、当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物を3vol%以上25vol%以下含有し、形成する面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上である。後述する「(E)面内磁化膜の組成分析(参考例1~8)」に記載しているように、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-酸化物系の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成とはずれが生じるので、前記したスパッタリングターゲットに含まれる各元素の組成範囲は、本第1実施形態に係る面内磁化膜10に含まれる各元素の組成範囲とは一致していない。
【0070】
このスパッタリングターゲットの構成成分(金属Co、金属Ptおよび酸化物)についての説明は、前記「(1-2)面内磁化膜10の構成成分」に記載した面内磁化膜の構成成分についての説明と同様であるので、説明は省略する。
【0071】
(1-7)面内磁化膜10の形成方法
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、前記「(1-6)スパッタリングターゲット」に記載したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、所定の下地膜(前記「(1-5)下地膜」に記載した下地膜)の上に成膜して形成する。なお、この成膜過程で加熱することは不要であり、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、室温成膜で形成することが可能である。
【0072】
(2)第2実施形態
図2は、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20を、磁気抵抗効果素子24のハードバイアス層26に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【0073】
以下、本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20について説明するが、面内磁化膜10の構成成分、面内磁化膜10の厚さ、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径、面内磁化膜10を形成する際に用いる下地膜、面内磁化膜10を作製する際に用いるスパッタリングターゲット、および面内磁化膜10の形成方法については、すでに「(1)第1実施形態」において説明を行っているので、説明は省略する。
【0074】
図2に示すように、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20は、第1実施形態に係る面内磁化膜10の上に非磁性中間層22を備え、その非磁性中間層22の上に、面内磁化膜10が積み重ねられた構造になっている。図2では、面内磁化膜10を2層積み重ねただけであるが、非磁性中間層22を間に介在させて面内磁化膜10を3層以上積み重ねるように構成してもよい。
【0075】
面内磁化膜多層構造20において、面内磁化膜10の1層当たりの厚さは、標準的には5nm以上30nm以下であるが、面内磁化膜10の1層当たりの厚さは、保磁力Hcをより大きくする観点から、5nm以上15nm以下であることが好ましく、10nm以上15nm以下であることがより好ましい。また、面内磁化膜10の合計の厚さは、単位面積当たりの残留磁化Mrtを2.00meum/cm2以上にする観点から、標準的には20nm以上にする。また、面内磁化膜10の合計の厚さの上限に関しては、後述するように、非磁性中間層22が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜10同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜10の合計の厚さが大きくなっても、理論上は保磁力Hcは小さくならず、上限はない。実際に、後述する実施例によって、面内磁化膜10の合計の厚さが60nmまでは、保磁力Hcが2.00kOe以上となることを確認している。
【0076】
本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20は、磁気抵抗効果素子24のハードバイアス層26として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層28にバイアス磁界を加えることができる。
【0077】
非磁性中間層22は、面内磁化膜10同士の間に介在して、面内磁化膜10同士を分離し、面内磁化膜を多層化する役割を有する。非磁性中間層22を介在させて面内磁化膜を多層化することにより、残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させることができる。
【0078】
非磁性中間層22が介在することによって分離された面内磁化膜10同士は、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性中間層22が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜10同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜多層構造20は、残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcを向上させることができ、良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0079】
非磁性中間層22に用いる金属は、CoPt合金磁性結晶粒の結晶構造を損なわないようにする観点から、CoPt合金磁性結晶粒と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)の金属にする。具体的には、非磁性中間層22としては、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の結晶構造と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金を好適に用いることができる。
【0080】
非磁性中間層22に用いる金属がRu合金の場合の添加元素としては、具体的には例えば、Cr、Pt、Coを用いることができ、それらの金属の添加量の範囲は、Ru合金が六方最密充填構造hcpとなる範囲とするのがよい。
【0081】
アーク溶解を行ってRu合金のバルクサンプルを作製し、X線回折装置(XRD:(株)リガク製 SmartLab)によってX線回折のピーク解析を行ったところ、RuCr合金においては、Crの添加量が50at%のときに、六方最密充填構造hcpとRuCr2の混相が確認されたので、非磁性中間層22にRuCr合金を用いる場合、Crの添加量は50at%未満とするのが適当であり、40at%未満とすることが好ましく、30at%未満とすることがより好ましい。また、RuPt合金においては、Ptの添加量が15at%のときに、六方最密充填構造hcpとPt由来の面心立方構造fccの混相が確認されたので、非磁性中間層22にRuPt合金を用いる場合、Ptの添加量は15at%未満とするのが適当であり、12.5at%未満とすることが好ましく、10at%未満とすることがより好ましい。また、RuCo合金においては、Coの添加量に関わらず六方最密充填構造hcpを形成するが、Coを40at%以上添加すると磁性体となるため、Coの添加量は40at%未満とするのが適当であり、30at%未満とすることが好ましく、20at%未満とすることがより好ましい。
【0082】
また、非磁性中間層22の厚さは、0.3nm以上3nm以下が標準的である。
【実施例
【0083】
以下、本発明を裏付けるための実施例、比較例および参考例について記載する。
【0084】
以下の(A)では、CoPt-WO3面内磁化膜単層構造において、面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討しており、以下の(B)では、CoPt-WO3面内磁化膜多層構造において、面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討しており、以下の(C)では、CoPt-WO3面内磁化膜多層構造において、面内磁化膜中の酸化物含有量が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討している。さらに、以下の(D)では、CoPt-酸化物の面内磁化膜多層構造において、面内磁化膜10中の酸化物をB23にした場合、および、面内磁化膜10の金属成分としてホウ素Bを加えた場合について、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtを測定している。
【0085】
また、以下の(E)では、作製したCoPt-WO3面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-WO3面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成との間のずれの程度を確認するために、参考例1~8のCoPt-WO3面内磁化膜を取り上げて、組成分析を行った。その結果、作製された面内磁化膜の組成と当該面内磁化膜を作製するのに用いたスパッタリングターゲットの組成との間にずれが生じることが判明した。
【0086】
以下の(A)~(D)で記載する実施例および比較例におけるCoPt-酸化物の面内磁化膜の組成は、作製に用いたスパッタリングターゲットの組成に対して、以下の(E)で判明した組成のずれを補正する計算を施して、算出したものである。
【0087】
また、以下の(F)では、CoPt面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径の測定方法について具体的に説明している。
【0088】
<(A)CoPt-WO3面内磁化膜単層構造において、面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例1、比較例1)>
実施例1、比較例1では、(Co-30Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いて、厚さ30nmの (Co-34.7Pt)-11.0vol%WO3面内磁化膜単層構造を作製したが、用いたRu下地膜の厚さは、実施例1では30nmとし、比較例1では10nmとした。そして、実施例1、比較例1で作製した(Co-34.7Pt)-11.0vol%WO3面内磁化膜単層構造について、保磁力Hc、単位面積当たりの残留磁化Mrt、面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径を測定した。
【0089】
以下、具体的に説明する。
【0090】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wを用いてスパッタリング法により、厚さ30nm(実施例1)、厚さ10nm(比較例1)となるように形成した。なお、本願の実施例および比較例においてスパッタリングの際に用いたスパッタリング装置は、いずれの成膜(Ru下地膜、面内磁化膜、Ru非磁性中間層)においても株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wであるが、以下では装置名の記載は省略する。
【0091】
実施例1では、厚さ30nmのRu下地膜の上に、(Co-30Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いて、厚さ30nmの (Co-34.7Pt)-11.0vol%WO3面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、比較例1では、厚さ10nmのRu下地膜の上に、(Co-30Pt)-10vol%WO3スパッタリングターゲットを用いて、厚さ30nmの(Co-34.7Pt)-11.0vol%WO3面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成した。
【0092】
これらの成膜過程(Ru下地膜および面内磁化膜の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0093】
作製した実施例1および比較例1の面内磁化膜単層構造のヒステリシスループを振動型磁力計(VSM:(株)玉川製作所製 TM-VSM211483-HGC型)(以下、振動型磁力計と記す。)により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜単層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。
【0094】
また、実施例1および比較例1の面内磁化膜単層構造において、CoPt面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径を、以下の(F)に記載した測定方法により測定した。
【0095】
実施例1および比較例1の結果を、次の表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1からわかるように、実施例1の面内磁化膜は、金属Co、金属Pt、および酸化物を含有する厚さが30nmの面内磁化膜であって、金属成分(Co、Pt)の合計に対して、Coの含有量が45at%以上80at%以下で、Ptの含有量が20at%以上55at%以下であり、当該面内磁化膜の全体に対して酸化物の含有量が3vol%以上25vol%以下であり、当該面内磁化膜のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は20.4nmであって15nm以上30nm以下の範囲に入っている。したがって、実施例1の面内磁化膜は、本発明の範囲に含まれており、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0098】
一方、比較例1の面内磁化膜は、組成および厚さは、実施例1の面内磁化膜と同じであるが、比較例1の面内磁化膜のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は11.4nmであって15nm以上30nm以下の範囲に入っておらず、比較例1の面内磁化膜は、本発明の範囲に含まれていない。比較例1の面内磁化膜は、保磁力Hcが1.81kOeで2.00kOe未満であり、また、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.31memu/cm2で2.00memu/cm2未満である。比較例1の面内磁化膜のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は11.4nmと小さかったため、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtが小さくなったものと考えられる。
【0099】
<(B)CoPt-WO3面内磁化膜多層構造において、面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例2、3、比較例2)>
実施例2、3、比較例2で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt-WO3面内磁化膜を、厚さ2nmのRu非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた多層構造であるが、用いたRu下地膜の厚さを30nm(実施例2)、100nm(実施例3)、10nm(比較例1)と変化させており、実施例2、3、比較例2の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が異なるようにして実験データを取得した実施例および比較例である。
【0100】
以下、具体的に説明する。
【0101】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nm(実施例2)、100nm(実施例3)、10nm(比較例1)となるように形成した。
【0102】
そして、形成したRu下地膜の上に、厚さ15nmとなるように(Co-34.7Pt)-11.0vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmの(Co-34.7Pt)-11.0vol%WO3面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2nmとなるように形成し、形成した厚さ2nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmとなるように(Co-34.7Pt)-11.0vol%WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、これを繰り返して所定の組成のCoPt面内磁化膜が4層積み重ねられた面内磁化膜多層構造を作製した。
【0103】
これらの成膜過程(Ru下地膜、CoPt面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0104】
作製した実施例2、3、比較例2の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜多層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。
【0105】
また、実施例2、3、比較例2の面内磁化膜多層構造において、Si基板側から数えて4層目のCoPt面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径を、以下の(F)に記載した測定方法により測定した。
【0106】
実施例2、3、比較例2の結果を、次の表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
表2からわかるように、実施例2、3の面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、厚さ2nmのRu非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた面内磁化膜多層構造であり、実施例2、3の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜は、金属成分(Co、Pt)の合計に対して、Coの含有量が45at%以上80at%以下で、Ptの含有量が20at%以上55at%以下であり、当該面内磁化膜の全体に対して酸化物の含有量が3vol%以上25vol%以下であり、当該面内磁化膜のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が18.9nm、22.3nmであって15nm以上30nm以下の範囲に入っていて、実施例2、3の面内磁化膜多層構造は、本発明の範囲に含まれており、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0109】
一方、比較例2の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜は、組成、厚さ、および層数については、実施例2、3の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜と同じであるが、比較例2の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径は10.8nmであって15nm以上30nm以下の範囲に入っておらず、比較例2の面内磁化膜多層構造は、本発明の範囲に含まれておらず、保磁力Hcが1.27kOeで2.00kOe未満である。比較例2の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が10.8nmと小さかったため、保磁力Hcが小さくなったものと考えられる。
【0110】
<(C)CoPt-WO3面内磁化膜多層構造において、面内磁化膜中の酸化物含有量が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例4~11、14)>
実施例4~11、14で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt-WO3面内磁化膜を、厚さ2nmのRu非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた多層構造であり、面内磁化膜多層構造中のCoPt-WO3面内磁化膜の酸化物(WO3)含有量を3.0vol%から20.6vol%まで変化させて実験データを取得した実施例である。
【0111】
以下、具体的に説明する。
【0112】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0113】
そして、形成したRu下地膜の上に、厚さ15nmとなるようにCoPt-WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt-WO3面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2nmとなるように形成し、形成した厚さ2nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmとなるようにCoPt-WO3面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、これを繰り返して所定の組成のCoPt-WO3面内磁化膜が4層積み重ねられた面内磁化膜多層構造を作製した。
【0114】
これらの成膜過程(Ru下地膜、CoPt面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0115】
作製した実施例4~11、14の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製した面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜多層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。
【0116】
また、実施例4~11、14の面内磁化膜単層構造において、Si基板側から数えて4層目のCoPt面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径を、以下の(F)に記載した測定方法により測定した。
【0117】
実施例4~11、14の結果を、次の表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
表3からわかるように、実施例4~11、14の面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、厚さ2nmのRu非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた面内磁化膜多層構造であり、実施例4~11、14の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜は、金属成分(Co、Pt)の合計に対して、Coの含有量が45at%以上80at%以下で、Ptの含有量が20at%以上55at%以下であり、当該面内磁化膜の全体に対して酸化物の含有量が3vol%以上25vol%以下であり、当該面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が16.7nm~25.9nmであって15nm以上30nm以下の範囲に入っていて、実施例4~11、14の面内磁化膜多層構造は、本発明の範囲に含まれており、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0120】
実施例4~11、14の面内磁化膜多層構造は、本発明の範囲に含まれるが、表3からわかるように、酸化物(WO3)含有量が3.0~20.6vol%の範囲では、酸化物(WO3)含有量が小さい方が、保磁力Hcが大きくなる傾向がある。これは、酸化物(WO3)含有量が小さい方が、面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径が大きくなる傾向があることに起因していると考えられる。
【0121】
<(D)酸化物にB23を用いた場合および金属成分にホウ素Bを含有させた場合についての検討(実施例12、13)>
実施例12では、実施例7の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜を作製する際に用いた(Co-40Pt)-8vol%WO3スパッタリングターゲットの酸化物をWO3からB23に置き替えた(Co-40Pt)-8vol%B23スパッタリングターゲットを用いた以外は実施例7と同様にして面内磁化膜多層構造を作製して、実施例7と同様に測定を行った。
【0122】
実施例13では、実施例12の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜を作製する際に用いた(Co-40Pt)-8vol%B23スパッタリングターゲットに、金属成分としてホウ素Bを3at%含有させた(Co-40Pt)-3B-8vol%B23スパッタリングターゲットを用いた以外は実施例12と同様にして面内磁化膜多層構造を作製して、実施例12と同様に測定を行った。
【0123】
それらの結果を、実施例7の結果とともに、次の表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
表4からわかるように、実施例7の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜を作製する際に用いた(Co-40Pt)-8vol%WO3スパッタリングターゲットの酸化物をWO3からB23に置き替えた(Co-40Pt)-8vol%B23スパッタリングターゲットを実施例12で用いることにより、得られる面内磁化膜多層構造の保磁力Hcは1.3%程度向上し、単位面積当たりの残留磁化Mrtは24%程度向上した。
【0126】
また、実施例12の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜を作製する際に用いた(Co-40Pt)-8vol%B23スパッタリングターゲットに、金属成分としてホウ素Bを3at%含有させた(Co-40Pt)-3B-8vol%B23スパッタリングターゲットを実施例13で用いることにより、得られる面内磁化膜多層構造の保磁力Hcは0.8%程度向上し、単位面積当たりの残留磁化Mrtは6%程度減少した。
【0127】
<(E)面内磁化膜の組成分析(参考例1~8)>
参考例1~8の面内磁化膜の組成分析を行って、作製したCoPt-WO3面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-WO3面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成との間のずれの程度を確認した。以下、参考例7の面内磁化膜に対して行った組成分析の手法の手順について概要を説明した後、各手順の内容を具体的に説明する。
【0128】
[手順の概要]面内磁化膜の厚さ方向に組成分析のための線分析を行い、面内磁化膜の厚さ方向断面の線分析実施箇所から、組成の変動の少ない箇所を選び出す(手順1~4)。そして、その組成の変動の少ない箇所に含まれる任意の測定点を含むように、組成分析を行う面内磁化膜の面内方向に左右に補助線を引き、その補助線上100nmの直線領域について、組成分析のための線分析を行う(手順5)。そして、検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度の平均値を算出して、面内磁化膜の組成を決定する(手順6)。以下、手順1~6の内容を具体的に説明する。
【0129】
[手順1]組成分析の対象となる面内磁化膜を面内方向と直交する方向(面内磁化膜の厚さ方向)に、平行な2面で切断するとともに、得られた2つの平行な切断面の間の距離が30nm程度となるまで、FIB法(μ-サンプリング法)により薄片化処理を行う。この薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を、図3に模式的に示す。図3に示すように、薄片化サンプル80の形状は概ね直方体形状である。前記2つの平行な切断面の間の距離が30nm程度であり、直方体形状の薄片化サンプル80の面内方向の1辺の長さは30nm程度であるが、他の2辺の長さは、走査透過電子顕微鏡による観察が可能であれば、適宜に定めてよい。
【0130】
[手順2]手順1で得られた薄片化サンプル80の切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)を、100nmの長さを2cmまで拡大観察可能な(20万倍まで拡大観察可能な)走査透過電子顕微鏡を用いて撮像し、観察像を取得する。得られる観察像は長方形であるが、観察対象の面内磁化膜の最上面と切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)とが交わる部位の線が、長方形の観察像の長手方向になるように撮像する。得られた観察像の一例(参考例7の観察像)を図4に示す。面内磁化膜の観察像の取得においては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H-9500を用いた。
【0131】
[手順3]手順2で得られた観察像から、面内磁化膜に含まれる任意の点を選び(図4において黒丸82で示す)、その点から、観察像の長手方向に左右10nmの位置に点をそれぞれ付す(図4において白丸84で示す)。そして、黒丸82の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行うとともに、白丸84の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行って、3つの直線(黒丸82の点を通る厚さ方向の1つの直線および白丸84の点を通る厚さ方向の2つの直線)について、面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のための線分析(上から下に向かう方向に走査)を行う。この元素分析のための線分析を行うに際し、前記3直線の線分析の走査範囲を、原則として面内磁化膜の厚さ方向の全範囲(組成分析の対象が面内磁化膜多層構造の場合は、最上層の面内磁化膜から最下層の面内磁化膜までの全範囲)とすることができるように、1つの黒丸82の点および2つの白丸84の点を選び出すことが必要である。
【0132】
面内磁化膜の組成分析においては、元素分析手法としてエネルギー分散型X線分析法(EDX)を採用し、元素分析装置として日本電子株式会社製JEM-ARM200Fを用いた。そして、具体的な分析条件を次のようにした。即ち、X線検出器をSiドリフト検出器とし、X線取出角を21.9°とし、立体角を約0.98srとし、各元素に応じ一般的に適切な分光結晶を用い、測定時間1秒/点とし、走査点間隔を0.6nmとし、照射ビーム径を約0.2nmφとした。以下、本段落に記載の条件を、「手順3の分析条件」と記すことがある。
【0133】
図4(参考例7の観察像)中の黒線(黒丸82の点を通る面内磁化膜の厚さ方向の線)に沿って行った線分析(元素分析)の結果を図5に示す。図5において、縦軸は各元素についての検出強度、横軸は走査位置である。図5内の凡例に示す各元素は、十分な検出強度を確認できた元素であり、この参考例7の場合、十分な検出強度を確認できた元素は、Co、Pt、W、O、Ruであった。また、この参考例7の組成分析においては、Co、Oの検出にはKα1線を選択し、Pt、Ru、Wの検出にはLα1線を選択した。また、各検出強度においては、事前に測定したブランク測定における検出強度を差し引く補正を施した。図4の線分析の最終端(最下端)は、Si基板である。この箇所は理論上Siおよび表面酸化によるO以外は検出されない。そのため、この箇所で検出されたSi、O以外の検出値は当該装置における不可避な検出誤差値と考えられるので、この値より検出強度が大きな値を示した場合にのみ、当該元素の存在を示すものとした。
【0134】
参考例7は面内磁化膜単層構造であり、組成が(Co-30Pt)-10vol%WO3であるスパッタリングターゲットを用いて、厚さ30nmの面内磁化膜を成膜した。また、最上層には面内磁化膜の酸化防止を目的としてTa層を10nm設け、この層の成膜には100at%Taのスパッタリングターゲットを用いた。
【0135】
図5に示す線分析の結果からわかるように、面内磁化膜においては主にCo、Pt、W、Oが確認され、下地膜においては主にRu、酸化防止層には主にTaが確認された。面内磁化膜と接する各層の界面には、成膜中におけるスパッタ熱によって、上下に隣り合う各層の元素がお互いに拡散している状態が一部に確認されるが、面内磁化膜の各主要元素の分布をみる限り、おおよそ設計した通りの成膜が行われていることを確認することができた。
【0136】
[手順4]手順3で行った線分析(面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のために行った線分析)の結果から、組成の変動の少ない測定点の集合箇所を選び出す。組成の変動の少ない測定点の集合箇所は、次の条件a~cを満たす測定点の集合箇所のことである。
【0137】
条件a)手順3で行った3つの直線の線分析のうちのいずれかについての測定点であって、CoおよびPtの検出強度の合計が300カウントを超える測定点であること。
【0138】
条件b)当該測定点でのCoおよびPtの検出強度の合計をXカウント、当該測定点での測定を行った後の次の測定点(当該測定点から0.6nm下方に離れて隣り合う測定点)でのCoおよびPtの検出強度の合計をYカウントとしたとき、
Y/X-1<0.05
を満たすこと。
【0139】
条件c)条件aおよびbを満たす5点以上の連続する測定点であること。
【0140】
条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、5点以上の連続する測定点であるので、0.6nm×4=2.4nm以上の直線領域となる。したがって、条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、2.4nm以上の範囲で、安定してCoおよびPtのうちの少なくともいずれか一方が検出される直線領域である。
【0141】
[手順5]手順4で選び出した測定点の集合から任意の1つの測定点を選択して、面内磁化膜の組成分析のための基準点とする(図4において二重白丸86で示す)。そして、その基準点を含むように、組成分析を行う面内磁化膜の面内方向(図4の観察像の長手方向)に左右に補助線(図4において黒破線88)を引き、その補助線上の100nmの直線領域(図4において白破線90で示す。)について、手順3の分析条件と同様の分析条件で、組成分析を行う。組成分析の対象部位となる白破線90は、先に行った厚さ方向の線分析によって生じたコンタミネーションを避ける観点から、厚さ方向の線分析の箇所(図4において白線84Aに対し10nm以上離れた距離(図4において両端に矢印を付した白線92で示す。)となるように設定した。この組成分析では、100nmの直線領域について、線分析を、走査点間隔0.6nmで行うので、合計で167点の測定点における分析結果が得られる。
【0142】
[手順6]検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度(カウント数)の平均値を算出する。検出された各元素の検出強度(カウント数)の平均値の比が、当該面内磁化膜の各元素の組成比となる。
【0143】
なお、EDXにおける分析においては、酸素(O)等の軽元素の蛍光X線が、白金(Pt)等の重元素の蛍光X線に吸収されることは避けられないが、本発明に係る面内磁化膜においては、酸素(O)等の軽元素と白金(Pt)等の重元素とが混在する。このため、酸素(O)に関しては、酸化物として存在する金属(参考例7ではW)が全て適切に酸化した状態(参考例7ではWO3)になっているものとして、当該面内磁化膜の組成を決定した。
【0144】
参考例1~8の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成と、参考例1~8の面内磁化膜についての組成分析の結果を、次の表5に示す。
【0145】
【表5】
【0146】
表5に示すように、スパッタリングターゲットの組成と、当該スパッタリングターゲットを用いて作製した面内磁化膜の組成との間にずれが生じるので、このずれを補正して、前記(A)~(C)で記載した実施例および比較例におけるCoPt-WO3面内磁化膜の組成を決定している。
【0147】
なお、実施例12、13では、面内磁化膜にホウ素(B)やB23を添加しているが、ホウ素(B)は原子番号の小さい軽元素であるため、EDXにおける分析では検出することができない。このため、実施例12、13における面内磁化膜の組成は、CoおよびPtの組成比は確定できるが、ホウ素(B)やB23の含有量は確定できない。
【0148】
また、図4において、符号82、84、84A、86、88、90、92で示す丸印や直線等は、組成分析の方法を説明するために便宜的に付したものであり、実際に測定を行った箇所と対応しているわけではない。
【0149】
<(F)CoPt面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径の測定方法(実施例1~14、比較例1、2)>
実施例1~14、比較例1、2において、CoPt面内磁化膜中のCoPt合金磁性結晶粒の面内方向の平均粒径の測定を行った。以下、行った測定の手法の手順について概要を説明した後、各手順の内容を具体的に説明する。ここでは実施例1における測定結果に基づいて説明する。ここでの説明においては、CoPt合金磁性結晶粒を「磁性粒子」と記して説明を行う。
【0150】
[手順の概要]面内磁化膜の厚さ方向に組成分析のための線分析を行い、面内磁化膜の厚さ方向断面の線分析実施箇所から、組成の変動の少ない箇所を選び出す(手順1~4)。そして、その組成の変動の少ない箇所が最表層となるように薄片化処理を行う(最表層となる面は面内方向の面である。)。その最表層の面内方向の面の2箇所以上について走査透過電子顕微鏡で平面観察像を取得する(手順5)。得られた各平面観察像に、1辺の長さが50nmの正方形が9つ描かれるように長さ150nmの直線を縦横に4本ずつ引き、合計で8本の直線に対して、切断法による粒径測定を行う。この粒径測定を2箇所以上の平面観察像に対して行い、全ての平面観察像についての粒径測定の結果を平均した粒径を面内方向の平均粒径とする(手順6)。
【0151】
手順1~4によって組成の変動の少ない箇所を選び出す手法は、前述した「(E)面内磁化膜の組成分析(参考例1~8)」の手順1~4と同様であるので、以下、手順5、6の内容を具体的に説明する。
【0152】
[手順5]手順1~4によって選び出した組成の変動の少ない箇所(面内磁化膜の厚さ方向の箇所)が最表層となるように薄片化処理を行う。薄片化処理を行った後の面内磁化膜の厚さが10~20nm程度となっている箇所の最表層の面内方向の面を、30nmの長さを2cmまで拡大するように走査透過電子顕微鏡を用いて撮像し、30nmを472ピクセル(画素)で示す画素数に変換して、平面観察像のデジタルデータを得る。この平面観察像のデジタルデータは、薄片化処理を行った同一サンプルの少なくとも2箇所以上で取得する。得られた平面観察像の一例(実施例1の平面観察像)を図6に示す。面内磁化膜の平面観察像の取得においては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H-9500を用い、加速電圧200kVにて観察を行った。なお、非磁性粒界材である酸化物は、軽元素である酸素を多く含むため比較的白色に撮像されやすく、重元素であるPtを多く含む磁性層は比較的黒色に撮像されやすいので、これらのことを考慮して、コントラストおよび明度を適切に調整する。コントラストおよび明度を適切に調整することにより、例えば図6に示すような平面観察像を取得することができる。
【0153】
[手順6]手順5で得られた各平面観察像に、1辺の長さが50nmの正方形が9つ描かれるように長さ150nmの直線300を縦横に4本ずつ引き、合計で8本の直線300(図6においては白破線で示す。)それぞれに対して、後述する切断法による粒径測定を行い、これら8本の直線300に対してそれぞれ平均粒径を求め、8本の直線300に対してそれぞれ求めた平均粒径を平均した平均粒径をこの平面観察像(図6)における平均粒径とする。そして、手順5で取得した平面観察像の全てに対して前述の粒径測定を行い、手順5で取得した平面観察像の平均粒径の全てを平均した平均粒径をこのサンプルの面内磁化膜における面内方向の平均粒径とする。
【0154】
切断法について、図7に示す平面観察像の模式図を用いて具体的に説明する。
【0155】
まず、図7に示す平面観察像中に存在する磁性粒子302を後述の方法で特定し、平面観察像中の領域を、磁性粒子302および磁性粒子302以外(つまり粒界材の部位)に分類する。そして、直線300(図7においては黒線で示す。)に接触している磁性粒子302の数nで直線300の長さLを除した値を、その直線300についての面内方向の平均粒径とする。
【0156】
磁性粒子の特定には、画像解析ソフトImageJ1.44pを用いる。平面観察像(図6)の画像データを前記画像解析ソフトに読み込ませ、平面観察像(図6)中の1ピクセル四方毎の明暗強度を0から255段階に篩い分け(0を白色、255を黒色とする。)、明暗強度が90以上である箇所を磁性粒子の一部と判断する2値化処理(磁性粒子の一部と判断された画素(明暗強度が90以上である画素)を「1」とし、明暗強度が89以下である画素を「0」とする処理)を行う。
【0157】
次に、前記2値化処理を行った平面観察像に、図6に示すように、1辺の長さが50nmの正方形が9つ描かれるように長さ150nmの直線300を縦横に4本ずつ引き、合計で8本の直線300を引く。そして、直線300と接触している画素について、2値化処理をした値(1または0)を取得する。
【0158】
そして、最後に補正として、「1」から「0」になった画素を含み、連続して「0」が7画素以上続く場合のみ、それらの画素の値を「0」のままに維持し、連続して「0」が7画素以上続かない場合は、それらの画素の値を「0」から「1」に変更する補正を行う。これは、隣接する磁性粒子302同士の間の間隔(即ち、非磁性材料による結晶粒界の幅)304が、6画素分の長さ((30nm/472ピクセル)×6ピクセル=約0.38nm)以下の場合、隣接する磁性粒子302同士は磁気的に結合するという考え(隣接する磁性粒子302同士の間の間隔304が、約0.38nm以下の場合、隣接する磁性粒子302同士は磁気的には1つの粒子とみなせるという考え)に基づくものである。
【0159】
なお、図6において、符号300で示す直線は、磁性粒子の平均粒径の測定方法を説明するために便宜的に付したものであり、実際に測定を行った箇所と対応しているわけではない。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明に係る面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットは、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができ、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0161】
10…面内磁化膜
12、24…磁気抵抗効果素子
14、26…ハードバイアス層
16、28…フリー磁性層
20…面内磁化膜多層構造
22…非磁性中間層
40…下地膜
50…絶縁層
52…ピン層
54…バリア層
80…薄片化サンプル
82…黒丸(面内磁化膜に含まれる任意の点)
84…白丸(黒丸82から観察像の長手方向に左右10nmの位置の点)
84A…白線
86…二重白丸(面内磁化膜の組成分析のための基準点)
88…黒破線(二重白丸86(基準点)から観察像の長手方向に引いた補助線)
90…白破線(黒破線88(補助線)上の100nmの直線領域)
92…両端に矢印を付した白線(白線84Aに対し10nm以上離れた距離を示す)
300…直線
302…磁性粒子
304…隣接する磁性粒子302同士の間の間隔(非磁性材料による結晶粒界の幅)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7