(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、その製造方法、金属張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240730BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240730BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240730BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240730BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240730BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08G73/10
C08J5/18 CEZ
C08L101/00
C08L101/12
H05K1/03 610S
H05K1/03 610T
(21)【出願番号】P 2020102500
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 麻織人
(72)【発明者】
【氏名】柿坂 康太
(72)【発明者】
【氏名】平石 克文
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-319324(JP,A)
【文献】特開2007-081881(JP,A)
【文献】特開平11-144529(JP,A)
【文献】特開2005-194406(JP,A)
【文献】特開2007-118528(JP,A)
【文献】特開2003-200534(JP,A)
【文献】特開平01-259042(JP,A)
【文献】特開2018-140544(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0134087(KR,A)
【文献】特開2022-99777(JP,A)
【文献】特開2022-99776(JP,A)
【文献】特開2021-70824(JP,A)
【文献】特開2023-17308(JP,A)
【文献】特開2020-193244(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150336(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/085329(WO,A1)
【文献】特開平10-190174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08-15/14
B32B1/00-43/00
C08G73/00-73/26
C08J5/00-5/24
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
H05K1/03
3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)形状に異方性を有し、長軸の長さをX、その軸に対し
直交する軸の中で最も短い短軸の長さをYとしたときにX/Yが2.5以上である液晶ポリマーフィラー、
及び
(B)前記(A)成分を被覆し固定化するポリマー、
を含有
し、
前記(B)成分が、前記(A)成分を除いた組成の中で最も含有量が多い有機成分であって、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテル及びポリエーテルケトンよりなる群から選ばれる1種以上であるとともに、以下の条件(i)~(iii);
(i)250℃から100℃の平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/K以下であること、
(ii)23℃、50%RHの環境下で20GHzにおける誘電正接が0.003以下であること、
及び
(iii)23℃の純水に24時間浸漬した際の吸水率が0.2重量%以下であること、
を満たす樹脂フィルム。
【請求項2】
下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)形状に異方性を有し、長軸の長さをX、その軸に対し直交する軸の中で最も短い短軸の長さをYとしたときにX/Yが2.5以上である液晶ポリマーフィラー、
及び
(B)前記(A)成分を被覆し固定化するポリマー、
を含有し、
前記(B)成分が、原料もしくは硬化剤としてジアミン成分を用いるポリマーであって、前記ジアミン成分が、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を30モル%以上含有するとともに、以下の条件(i)~(iii);
(i)250℃から100℃の平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/K以下であること、
(ii)23℃、50%RHの環境下で20GHzにおける誘電正接が0.003以下であること、
及び
(iii)23℃の純水に24時間浸漬した際の吸水率が0.2重量%以下であること、
を満たす樹脂フィルム。
【請求項3】
下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)形状に異方性を有し、長軸の長さをX、その軸に対し直交する軸の中で最も短い短軸の長さをYとしたときにX/Yが2.5以上である液晶ポリマーフィラー、
及び
(B)前記(A)成分を被覆し固定化するポリマー、
を含有し、
前記(B)成分が、原料としてテトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分とを反応させてなるポリイミドであって、前記テトラカルボン酸無水物成分の100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で50モル部以上含有するとともに、以下の条件(i)~(iii);
(i)250℃から100℃の平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/K以下であること、
(ii)23℃、50%RHの環境下で20GHzにおける誘電正接が0.003以下であること、
及び
(iii)23℃の純水に24時間浸漬した際の吸水率が0.2重量%以下であること、
を満たす樹脂フィルム。
【化1】
[一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。]
【化2】
[上記式において、Zは-C
6
H
4
-、-(CH
2
)n-又は-CH
2
-CH(-O-C(=O)-CH
3
)-CH
2
-を示すが、nは1~20の整数を示す。]
【請求項4】
下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)形状に異方性を有し、長軸の長さをX、その軸に対し直交する軸の中で最も短い短軸の長さをYとしたときにX/Yが2.5以上である短繊維状、ミルドファイバー状、撚糸状、編物状又は板状の液晶ポリマーフィラー、
及び
(B)前記(A)成分を被覆し固定化するポリマー、
を含有し、
前記(B)成分が、前記(A)成分を除いた組成の中で最も含有量が多い有機成分であって、ポリエステルであるとともに、以下の条件(i)~(iii);
(i)250℃から100℃の平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/K以下であること、
(ii)23℃、50%RHの環境下で20GHzにおける誘電正接が0.003以下であること、
及び
(iii)23℃の純水に24時間浸漬した際の吸水率が0.2重量%以下であること、
を満たす樹脂フィルム。
【請求項5】
前記液晶ポリマーフィラーが、分子配向に異方性を有し、外形形状において互いに
直交する長軸、短軸及び中間軸からなる3軸方向でそれぞれに測定した平均線熱膨張係数のうち最大の値と最小の値の差が30ppm/K以上である請求項
1から4のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記液晶ポリマーフィラーの融点が290℃以上である請求項1から
5のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
前記液晶ポリマーフィラーの短軸の長さYが200μm未満である請求項1から
6のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
前記液晶ポリマーフィラーの23℃、50
%RHの環境下での20GHzにおける誘電正接が0.002以下である請求項1から
7のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
前記(A)成分を構成する液晶ポリマーがポリエステル構造を有する請求項1から
8のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
前記(A)成分の含有量が、2重量%以上80重量%以下の範囲内である請求項1から
9のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
ボンディングシートである請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法であって、
液晶ポリマーである第1のポリマーと、前記第1のポリマーと同一又は異なる第2のポリマーをそれぞれ準備する工程と、
前記第1のポリマーの分子を配向させる工程と、
前記第1のポリマーをフィラーとして前記第2のポリマーと複合化する工程と、
を含む樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする金属張積層板。
【請求項14】
単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された回路配線層と、を備えたプリント配線板であって、
前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とするプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば回路基板材料として有用な樹脂フィルム、その製造方法、金属張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル回路基板(Flexible Printed Circuit Board;FPC)は、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大し、多くの分野の機器へ搭載されている。それに伴い、FPCが使用される環境の多様化が進み、要求される性能も高度化している。例えば、情報処理や情報通信においては、大容量情報を伝送・処理するために伝送周波数を高くする取り組みが行われており、回路基板についても、絶縁樹脂層の誘電特性の改善による伝送損失の低減が強く求められている。
【0003】
絶縁樹脂層の誘電特性を改善するための一つのアプローチとして、絶縁樹脂層を構成する母材自体を誘電正接が低い樹脂により構成することが検討されている。例えば、液晶ポリマーは、低誘電率、低誘電正接を特徴とする樹脂であり、これを母材とすることによって、絶縁樹脂層の誘電特性を大きく改善することができる。しかし、液晶ポリマーを母材とするフィルムは、耐熱性や金属箔との接着性が低いという問題があり、回路基板材料として要求される特性のすべてを満足するものではない。
また、誘電特性に優れた樹脂材料として、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステルなども知られている。しかし、これらの樹脂は、線熱膨張係数が非常に大きく、絶縁樹脂層に使用した場合に回路基板の寸法安定性が著しく損なわれる、という問題があった。
【0004】
また、別のアプローチとして、絶縁樹脂層を構成する母材に、誘電率や誘電正接を低下させ得るフィラーや不織布を複合化することが提案されている(特許文献1~3)。
【0005】
特許文献1では、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂に液晶性ポリマー粒子を配合することが提案されている。ただし、特許文献1では、液晶ポリマー粒子の形状について検討がされていない。
【0006】
特許文献2では、パラ配向芳香族ポリアミドからなる連続相に、低誘電率のポリテトラフルオロエチレン微粒子フィラーを添加して低誘電率化することが提案されている。しかし、特許文献2では、高周波信号の伝送損失に深く関係する誘電正接の制御については検討されておらず、また、機械的物性を改善する目的でポリテトラフルオロエチレン微粒子フィラーとともにアラミド短繊維を添加しており、組成が複雑である。
【0007】
特許文献3では、プリント配線基板における薄型化、低コスト化、レーザ加工性、銅マイグレーション耐性などを考慮しながら、低吸水性、低誘電率、低誘電正接を実現するため、ビスマレイミドトリアジン樹脂やエポキシ樹脂などからなるマトリックス樹脂を溶融液晶性ポリエステル繊維からなる不織布によって補強することが提案されている。しかし、特許文献3は、今後益々重要となる20GHz以上の高周波信号伝送への対応を想定したものではなく、高周波信号の伝送損失に深く関係する誘電正接の低減に関する検討が不十分である。
【0008】
一方、樹脂フィルムの熱膨張係数の制御に関して、例えば非特許文献1では、エポキシ樹脂に炭素繊維などの無機フィラーを複合化させることが検討されている。しかし、無機フィラーの添加によって、樹脂フィルムの柔軟性や靭性が低下し、回路基板材料として必要な物性が損なわれるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6295013号公報
【文献】特開平10-338809号公報
【文献】特開2002-64254号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】日本機械学会論文集(A編)74巻740号(2008-4)、論文No.07-0770
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、柔軟性や靭性などの物性を損なうことなく、誘電特性と寸法安定性が両立されている樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、母材となる樹脂中に形状異方性を有する液晶ポリマーフィラーを配合することによって、樹脂フィルムの物性を損なうとこなく、誘電特性と寸法安定性を同時に改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の樹脂フィルムは、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)形状に異方性を有し、長軸の長さをX、その軸に対し直交する軸の中で最も短い短軸の長さをYとしたときにX/Yが2.5以上である液晶ポリマーフィラー、
及び
(B)前記(A)成分を被覆し固定化するポリマー、
を含有する。そして、本発明の樹脂フィルムは、以下の条件(i)~(iii);
(i)250℃から100℃の平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/K以下であること、
(ii)23℃、50%RHの環境下で20GHzにおける誘電正接が0.003以下であること、
及び
(iii)23℃の純水に24時間浸漬した際の吸水率が0.2重量%以下であること、
を満たすものである。
【0014】
本発明の樹脂フィルムは、前記(B)成分が、前記(A)成分を除いた組成の中で最も含有量が多い有機成分であって、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエーテルケトン及びポリエステルよりなる群から選ばれる1種以上であってもよい。
【0015】
本発明の樹脂フィルムは、前記液晶ポリマーフィラーが、分子配向に異方性を有し、外形形状において互いに直交する長軸、短軸及び中間軸からなる3軸方向でそれぞれに測定した平均線熱膨張係数のうち最大の値と最小の値の差が30ppm/K以上であってもよい。
【0016】
本発明の樹脂フィルムは、前記液晶ポリマーフィラーの融点が290℃以上であってもよい。
【0017】
本発明の樹脂フィルムは、前記液晶ポリマーフィラーの短軸の長さYが200μm未満であってもよい。
【0018】
本発明の樹脂フィルムは、前記液晶ポリマーフィラーの23℃、50%RHの環境下での20GHzにおける誘電正接が0.002以下であってもよい。
【0019】
本発明の樹脂フィルムは、前記(A)成分を構成する液晶ポリマーがポリエステル構造を有するものであってもよい。
【0020】
本発明の樹脂フィルムは、前記(A)成分の含有量が、2重量%以上80重量%以下の範囲内であってもよい。
【0021】
本発明の樹脂フィルムは、前記(B)成分が、原料もしくは硬化剤としてジアミン成分を用いるポリマーであって、前記ジアミン成分が、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を30モル%以上含有するものであってもよい。
【0022】
本発明の樹脂フィルムは、前記(B)成分が、原料としてテトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分とを反応させてなるポリイミドであって、前記テトラカルボン酸無水物成分の100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で50モル部以上含有するものであってもよい。
【0023】
【0024】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0025】
【0026】
上記式において、Zは-C6H4-、-(CH2)n-又は-CH2-CH(-O-C(=O)-CH3)-CH2-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0027】
本発明の樹脂フィルムは、ボンディングシートであってもよい。
【0028】
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、上記のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法であって、
液晶ポリマーである第1のポリマーと、前記第1のポリマーと同一又は異なる第2のポリマーをそれぞれ準備する工程と、
前記第1のポリマーの分子を配向させる工程と、
前記第1のポリマーをフィラーとして前記第2のポリマーと複合化する工程と、
を含んでいる。
【0029】
本発明の金属張積層板は、単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、上記のいずれかに記載の樹脂フィルムからなるものである。
【0030】
本発明の金属張積層板は、単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された回路配線層と、を備えたプリント配線板であって、
前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、上記のいずれかに記載の樹脂フィルムからなるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の樹脂フィルムは、形状に異方性を有する液晶ポリマーフィラーを含有するため、樹脂フィルムに必要な柔軟性や靭性などの物性を損なうことなく、優れた誘電特性と寸法安定性が両立されている。本発明の樹脂フィルムは、低い誘電正接によって高周波信号(特に20GHz以上の高周波信号)の伝送損失が効果的に低減され、寸法安定性にも優れることから、各種の電子機器におけるFPC等の回路基板材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0033】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)形状に異方性を有し、長軸の長さをX、その軸に対し直交する軸の中で最も短い短軸の長さをYとしたときにX/Yが2.5以上である液晶ポリマーフィラー、
及び
(B)前記(A)成分を被覆し固定化するポリマー、
を含有するとともに、後述する条件(i)~(iii)を満たすものである。ここで、(A)成分と(B)成分は、同種類のポリマーであってもよく、例えば(A)成分が液晶性ポリエステルであり、(B)成分が非液晶性ポリエステルであるような組み合わせも含まれる。
【0034】
本実施の形態の樹脂フィルムは、樹脂フィルムの全体が条件(i)から(iii)を満たすものであれば、単層でもよいし、複数層から構成されていてもよい。例えば、樹脂フィルムの全体が(A)成分及び(B)成分を含有する層であってもよいし、(A)成分及び(B)成分を含有する層以外の任意の樹脂層を含んでいてもよい。ただし、(A)成分及び(B)成分を含有する層は、樹脂フィルムの主たる層であることが好ましい。ここで、「主たる層」とは、樹脂フィルムの全体厚みに対して50%を超える厚みを有する層を意味する。
【0035】
また、樹脂フィルムは、例えば接着剤層として絶縁樹脂層の一部分を構成していてもよいし、フィルムの状態で、例えばボンディングシートとしての利用が可能である。ここで、「ボンディングシート」とはフィルム同士、フィルムと金属、及び、金属と金属などを接着する目的に使用されるものである。その使用形態はフィルム状態で積層接着させることに限定されず、例えばワニス状で接着剤層として塗布し硬化させることもできる。
【0036】
[(A)成分:液晶ポリマーフィラー]
(A)成分の液晶ポリマーフィラーを構成する液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer)は、溶融時に液晶性を示す樹脂であり、全芳香族系液晶ポリマーでも半芳香族系液晶ポリマーでもよい。(A)成分の液晶ポリマーフィラーは、形状異方性を有する。本発明における形状異方性とは、液晶ポリマーフィラーの長軸の長さ(X)と短軸の長さ(Y)との比(X/Y)が2.5以上であることを意味する。ここで、直線状に伸ばした状態での液晶ポリマーフィラーに外接する仮想の直方体を想定したとき、該直方体の互いに垂直な3辺の長さのうち、最も短い辺の長さを短軸の長さ、最も長い辺の長さを長軸の長さ、残りの1辺の長さを中間軸の長さとする。
さらに、液晶ポリマーフィラーは、好ましくはX/Yが4.5以上、より好ましくはX/Yが15.0以上、さらに好ましくはX/Yが30.0以上である。X/Yが2.5未満である場合は、液晶ポリマーフィラーが樹脂フィルム中で無秩序に配置され易くなりCTE改善効果が低減する。また、液晶ポリマーフィラー同士が凝集しやすくなるといった不具合が発現する。
【0037】
液晶ポリマーフィラーの短軸の長さ(Y)のは、例えば0.1μm以上200μm未満の範囲内が好ましく、1μm以上150μm以下の範囲内がより好ましい。短軸の長さ(Y)が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを形成したときの表面平滑性を悪化させることがなく、外観良好な樹脂フィルムが得られる。
【0038】
液晶ポリマーフィラーの長軸の長さ(X)は、液晶ポリマーフィラーと(B)成分との複合化手法により適宜選択できるが、例えば液晶ポリマーフィラーを(B)成分に分散させるようにして配合する手法であれば、0.5μm以上5000μm以下の範囲内が好ましく、5μm以上2500μm以下の範囲内がより好ましい。また、例えば液晶ポリマーフィラーに(B)成分を含侵させる手法であれば、1cm以上が好ましく、3cm以上がより好ましい。長軸の長さ(X)が上記範囲内であれば、ハンドリング性を損なうことなく、樹脂フィルムを形成したときの表面平滑性を悪化させることがなく、外観良好な樹脂フィルムが得られる。
【0039】
液晶ポリマーフィラーにおいて、液晶ポリマー分子鎖は、フィラー長軸方向に強く配向していることが好ましく、結果として長軸方向(X軸方向)と直交する軸の中で最も短い軸方向(Y軸方向)の熱膨張係数に異方性を有することが好ましい。特にX軸方向の熱膨張係数が負である場合、Y軸方向に対する伸び量よりもX軸方向に対する収縮量が大きくなり樹脂フィルムのCTEを低減することが可能となるため、より好ましい。同様の観点から、分子鎖の配向によって、液晶ポリマーフィラーの外形形状において互いに直交する長軸、短軸及び中間軸からなる3軸方向でそれぞれに測定した平均線熱膨張係数のうち最大の値と最小の値の差が30ppm/K以上であることが好ましく、50ppm/K以上であることがより好ましい。また、最小の値は50ppm/K以下であることが好ましく、20ppm/K以下であることがより好ましく、5ppm/K以下であることがさらに好ましい。
【0040】
異方性を有する液晶ポリマーフィラーを製造する方法として種々考えられるが、一例として、剛直な構造の主鎖を有し、側鎖に剛直な置換基や嵩高い構造を有しない高分子に剪断力をかける製造方法がある。これにより、剪断方向に高い配向性を有するフィラーを得ることができる。剛直な構造の主鎖を有し、側鎖に剛直な置換基や嵩高い構造を有しない高分子の例として、複数のフェニル基、メソゲン基、炭素数6を超えるような飽和もしくは不飽和脂肪族鎖や脂環式構造などが側鎖に存在しないポリエステル、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド(別称:アラミド)、芳香族ポリアミドイミド、フッ素樹脂が挙げられるが、フィラーの誘電特性、難燃性、回路基板製造プロセスにおける熱的安定性、吸湿性、およびCTEの観点から、芳香族ポリエステルを用いることが好ましい。但し、本発明においてポリアリレートはポリエステルの一つとして見做す。
【0041】
液晶ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)~(4)に分類される化合物及びその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステル及びポリエステルアミドなどのポリエステル構造を有するものが好ましい。
(1)芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物
(2)芳香族又は脂肪族ジカルボン酸
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸
【0042】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として、下記式(a)~(n)に示す構造単位から選ばれる2つ以上の組み合わせを有する共重合体であって、式(a)で示す構造単位又は式(e)で示す構造単位のいずれかを含む共重合体が好ましく、特に、式(a)で示す構造単位と式(e)で示す構造単位とを含む共重合体がより好ましい。また、液晶ポリマー中の芳香環が多くなるほど、誘電特性と難燃性を向上させる効果が期待できることから、上記(1)として芳香族ジヒドロキシ化合物を、上記(2)として芳香族ジカルボン酸を含むものが好ましい。
【0043】
【0044】
剪断力をかける製造方法としては、溶融紡糸、溶融押出、溶液キャスティング方法、流延方法等、様々な方法があるが、効果的に液晶ポリマー分子を配向させるためには、溶融工程と押出工程による成形を経ることが好ましく、特に、次式によって求められる押出時の最大剪断速度uを、好ましくは102sec-1以上、より好ましくは104sec-1以上とすることがよい。
u= 4Q/{π×(d/2)3}
[但し、Qは押出吐出口断面を単位時間当たりに通過するポリマー吐出量(cm3/sec)、dは押出吐出口断面の最も短い径の長さ(cm)を示すが、例えばチューブ状ノズルや細孔等の円形の押出吐出口の場合はその直径(cm)とする。]
このような最大剪断速度であると、液晶ポリマー分子の配向が十分となり、液晶ポリマーフィラーとして用いた際のCTEの制御性が得られやすくなる。
【0045】
特に細孔より樹脂を吐出することで液晶ポリマー分子が強く長軸方向へ配向した液晶ポリマー繊維が得られる。細孔とは例えば口金の孔径(直径)が1mm以下のものを指し、より好ましくは0.5mm以下のものを指す。
【0046】
得られた繊維は、複数組合せた結合物としてもよい。結合物としては、撚糸、織物、編物、不織布が例示される。結合物は、裁断、粉砕等により、細分し使用してもよい。また、形状異方性を示すフィラーを複数組合せた凝集物としてもよい。例えば、加熱または化学的な作用により凝集物を作成してもよい。凝集物は、裁断、粉砕等により、細分し使用してもよい。なお、結合物や凝集物については、それらの全体形状ではなく、繊維の状態で形状異方性を把握できればよい。
【0047】
例えば上記の方法で製造された液晶ポリマー繊維を束ねて所定の長さに切断することで、短繊維状(チョップドファイバー状、カットファイバー状とも呼ばれる)の液晶ポリマーフィラーを得ることが出来る。さらに、粉砕することによってミルドファイバー状のフィラーを製造することができる。このとき繊維は凍結させても良く、凍結させることにより効率よく液晶ポリマーフィラーを細分することが出来る。
【0048】
また、繊維状とせずに、液晶ポリマー分子の配向度を高めた成型物を粉砕することによっても液晶ポリマーフィラーを製造することができる。この時、粉砕工程は複数回経ても良く、風力や浮力、篩による分級を行っても良い。
【0049】
液晶ポリマーフィラーの具体的形状としては、例えば上述の繊維状(針状を含む)、板状などを挙げることができる。板状としては、円盤状、扁平状、平板状、薄片状、鱗片状、短冊状等が例示される。また、液晶ポリマーフィラーの断面形状は円形に限られず、星型や花型、十字型、中空型でもよい。液晶ポリマーフィラーの断面形状を変えることで、液晶ポリマーフィラーの表面積を調整してポリイミドとの接着性を制御することや、樹脂溶液の粘度を制御することが出来る。
【0050】
また、液晶ポリマーフィラーの形状は、樹脂フィルム中で変形させても良い。例えば、球状や不定形の液晶ポリマーフィラーを含有する樹脂フィルムを延伸することで、樹脂フィルム中で液晶ポリマーフィラーに形状異方性を発現させることが出来る。
【0051】
液晶ポリマーフィラーは、分散性や(B)成分との密着性を向上させる目的で、表面改質処理がなされていてもよい。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コーティング処理などを挙げることができる。また、液晶ポリマーフィラーは、多重相構造や芯鞘型構造であってもよい。多重層構造としては例えば中空状の液晶ポリマーフィラーや多孔質状態の液晶ポリマーフィラー、芯鞘型構造としては、例えば芯部分が液晶ポリマーで、鞘部分が(B)成分と接着性が高い樹脂であるものが好ましい。(B)成分と接着性が高い樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミド、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂が好適である。
【0052】
液晶ポリマーは非常に優れた誘電特性を有し、これをフィラーとして配合することによって、樹脂フィルムの誘電特性の悪化を防ぐことができる。液晶ポリマーフィラーは、単体として、23℃、50%RHの環境下での20GHzにおける比誘電率が、好ましくは2~3.5の範囲内、より好ましくは、2.7~3.2の範囲内であり、誘電正接が、好ましくは0.002以下であり、より好ましくは0.0015以下であるものを用いることがよい。この範囲内とすることで、液晶ポリマーフィラーを用いた場合に組成物の誘電特性の悪化を防ぐことが出来る。
【0053】
液晶ポリマーフィラーの誘電特性の測定方法としては、液晶ポリマーフィラーのみをそのまま集合体として、もしくは溶融成型することによって測定が可能である。樹脂フィルムから液晶ポリマーフィラーと液晶ポリマーフィラー以外の成分とを分離する必要がある場合は、分離方法としては液晶ポリマーフィラー及び液晶ポリマーフィラー以外の成分の融点の差や溶解度の差を適宜選択して利用できる。例えば液晶ポリマーフィラーが不溶かつ液晶ポリマーフィラー以外の成分が可溶な溶剤へ樹脂フィルムを溶解し、不要物をろ過、および遠心分離によって分離することが出来る。樹脂フィルムを粉砕し、液晶ポリマーフィラーのみが融解する温度で処理することによっても液晶ポリマーフィラーを分離することが出来る。
【0054】
液晶ポリマーの融点は、液晶転移温度や液晶化温度と称される場合があるが、290℃以上が好ましい。より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは310℃以上である。融点が290℃を下回ると電子機器等の製造過程で融解し、特性の変化をきたすおそれがある。
【0055】
[(B)成分:(A)成分を被覆し固定化するポリマー]
(B)成分のポリマーは、(A)成分の液晶ポリマーフィラーを構成する液晶ポリマーと同一であっても異なっていてもよく、(A)成分の一部又は全部を被覆し固定化するポリマーであって、樹脂フィルムから液晶ポリマーフィラーを除いた組成の中で最も含有量が多い有機成分である。(B)成分のポリマーとしては、特に限定されないが、良好な誘電特性および低吸水性を有する樹脂フィルムを得るという観点から、例えば、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエステルなどであることが好ましい。これらは二種以上を使用してもよい。また、製造プロセスの途中段階では、(B)成分の前駆体と液晶ポリマーフィラーを複合化しても良い。(B)成分のポリマーは、樹脂フィルムにおけるマトリクス樹脂であってもよい。また、誘電特性やCTEを制御する目的で、(B)成分中に気泡を混入させて多孔質化してもよい。
【0056】
[フッ素樹脂]
フッ素樹脂は、フッ素を含有するモノマーを重合させて得られるポリマーであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、及び一つ以上の水素基がフッ素基に置換されたエチレンを原料の一部として重合されたポリマーを挙げることができる。例えばテトラフルオロエチレンとオレフィンとの共重合体等が好ましく、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。耐熱性、誘電特性、低吸水性に優れたフッ素樹脂が良い。
【0057】
フッ素樹脂フィルムは一般に耐熱性、誘電特性、低吸水性に優れ、特に誘電特性は液晶ポリマーのみからなるフィルム以上に優れた特性を示す。しかしながら、線熱膨張係数が100ppm/Kを超えるため、異種材料、特に金属材料と組み合わせて使用する場合に、温度変化による応力の発生に起因する反りや剥離、ずれが生じやすい。液晶ポリマーフィラーと複合化することで、前記特性を維持したまま低CTE化することが可能となる。
【0058】
[ポリオレフィン]
ポリオレフィンは、ポリエチレンに代表例され、炭素-炭素二重結合を有するオレフィンが重合したポリマーを指す。モノマーとしてはエチレン、プロピレン、エイコセン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン等の鎖状もしくは環状のオレフィンが好ましく使用でき、単体もしくは複数のオレフィンの共重合体でも良い。
【0059】
ポリオレフィンフィルムは一般に誘電特性、低吸水性に優れ、特に誘電特性は液晶ポリマーのみから成るフィルム以上に優れた特性を示す。しかしながら、線熱膨張係数が高く、異種材料、特に金属材料と組み合わせて使用する場合に、温度変化による応力の発生に起因する反りや剥離、ずれが生じやすい。液晶ポリマーフィラーと複合化することで、前記特性を維持したまま低CTE化することが可能となる。
【0060】
[ポリスチレン]
ポリスチレンは、スチレン、ジビニルベンゼンに代表される芳香環及びそれに直接、もしくは間接的に結合した炭素‐炭素二重結合を有する化合物が付加重合したポリマーを指す。
【0061】
[ポリイミド]
ポリイミドは、下記一般式(3)で表されるイミド基を有するポリマーである。さらにアミド基やエーテル結合を有する場合にはポリアミドイミドやポリエーテルイミドと呼称されることがあるが、本明細書では、これらを総じてポリイミドと記載する。このようなポリイミドは、例えば、マレイミド成分とジアミンもしくはトリアミン成分とを重合させる方法や、ビスマレイミドと芳香族シアン酸エステルを架橋させる方法、ジアミン成分と酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、有機極性溶媒中で重合させる方法などの公知の方法によって製造することができる。この時、加熱を行っても良い。この場合、粘度を所望の範囲とするために、ジアミン成分に対する酸二無水物成分のモル比を調整してもよく、その範囲は、例えば0.98~1.03のモル比の範囲内とすることが好ましい。
【0062】
【0063】
一般式(3)において、Ar1はテトラカルボン酸二無水物残基を含む酸無水物から誘導される4価の基を示し、R2はジアミンから誘導される2価のジアミン残基を示し、nは1以上の整数である。
【0064】
酸二無水物としては、例えば、O(OC)2-Ar1-(CO)2Oによって表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、下記芳香族酸無水物残基をAr1として与えるものが例示される。
【0065】
【0066】
また、全テトラカルボン酸無水物成分の100モル部に対して、特に、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で50モル部以上含有することが好ましく、80モル部以上含有することがより好ましい。
【0067】
【0068】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0069】
【0070】
上記式において、Zは-C6H4-、-(CH2)n-又は-CH2-CH(-O-C(=O)-CH3)-CH2-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0071】
ジアミンとしては、例えば、H2N-R2-NH2によって表されるジアミンが好ましく、下記ジアミン残基をR2として与えるジアミンが例示される。
【0072】
【0073】
これらのジアミンの中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、パラフェニレンジアミン(p-PDA)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、ダイマー酸(二量体脂肪酸)の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミン、及びそれを主成分とするダイマージアミン組成物が好適なものとして例示される。
【0074】
特に、ダイマージアミン組成物は、低誘電正接化だけでなく、樹脂フィルムの靭性を高めることができるため、全ジアミン成分に対し、ダイマージアミン組成物を30モル%以上、好ましくは40モル%以上含有するジアミン成分から誘導される構造単位を含有することがよい。ここで、ダイマージアミン組成物は、下記の成分(a)を主成分として含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されている精製物である。
(a)ダイマージアミン
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く)
【0075】
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、1級のアミノメチル基(-CH2-NH2)又はアミノ基(-NH2)に置換されてなるジアミンを意味し、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0076】
ダイマージアミン組成物は、市販品が利用可能であり、(a)成分のダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましく、例えば(a)で成分を96重量%以上とすることが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。ダイマージアミン組成物の市販品としては、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0077】
合成されたポリアミド酸又はポリイミドは、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換して樹脂組成物を形成することができる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0078】
また、ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(以下、「架橋形成用アミノ化合物」と記すことがある)のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有するポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0079】
架橋形成用アミノ化合物としては、(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができるので好ましい。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ二酸ジヒドラジド、4,4-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0080】
ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物とを架橋形成させる場合は、ポリイミドを含む樹脂溶液に、上記架橋形成用アミノ化合物を加えて、ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、架橋形成用アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル~1.5モル、好ましくは0.005モル~1.2モルとすることができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるような架橋形成用アミノ化合物の添加量では、架橋形成用アミノ化合物による架橋が十分ではないため、硬化後の耐熱性が発現しにくい傾向となり、架橋形成用アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応の架橋形成用アミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着剤層としての耐熱性を低下させる傾向がある。
【0081】
架橋形成のための縮合反応の条件は、ポリイミドにおけるケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又はポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120~220℃の範囲内が好ましく、140~200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましい。反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0082】
以上、ポリイミドの耐熱性付与のため、イミン結合の形成によって架橋構造とした架橋ポリイミドの例を挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、ポリイミドの硬化方法として、例えばエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、マレイミド、活性化エステル樹脂、スチレン骨格を有する樹脂等の不飽和結合を有する化合物等を配合し硬化することも可能である。
【0083】
ポリイミドフィルムは一般に耐熱性に優れ、低線熱膨張係数化されたポリイミドフィルムも存在する。しかしながらイミド構造の極性によって誘電正接及び吸水性が高く、樹脂組成の設計上、低線熱膨張係数化と低誘電化及び低吸水化はトレード・オフとなる。液晶ポリマーフィラーと複合化することで、前記特性を維持したまま低誘電化及び低吸水化することが可能となる。更に液晶ポリマーのみからなるフィルムよりも耐熱性の向上が見込める。
【0084】
[ポリアミド]
ポリアミドは、特に限定されるものではなく、骨格内にアミド結合(-CO-NH-)を有するポリマーである。このようなポリアミドは、ラクタムの開環反応や、ジアミン成分とジカルボン酸誘導体との重合、及びアミノ基を有するカルボン酸誘導体からの重合等、公知の方法で製造することができる。耐熱性の観点から、芳香族骨格で構成されるポリアミド(アラミドとも総称される)が好ましい。
【0085】
ポリアミドは一般に耐熱性に優れ、低線熱膨張係数化されたポリアミドフィルムも存在する。しかしながらアミド構造の極性によって誘電正接及び吸水性が高く、樹脂組成の設計上、低誘電化及び低吸水化は線熱膨張係数の増大や、耐熱性の低下を引き起こす。液晶ポリマーフィラーと複合化することで、前記特性を維持したまま低誘電化及び低吸水化することが可能となる。更に液晶ポリマーのみからなるフィルムよりも耐熱性の向上が見込める。
【0086】
[ポリエーテル]
ポリエーテルは、特に限定されるものではなく、骨格内にエーテル結合(-O-)を有するポリマーである。このようなポリエーテルは、フェノール類のラジカル重合等、公知の方法で製造することができる。耐熱性の観点から、芳香族骨格で構成されるポリフェニレンエーテル(別称:ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンオキサイド)が好ましい。
【0087】
ポリフェニレンエーテルは一般に加工性、機能性を高めるため他の合成樹脂とアロイ化され使用され、変性ポリフェニレンエーテルと呼ばれる。変性ポリフェニレンエーテルは耐熱性に優れ、液晶ポリマーフィラーと複合化することで、低線熱膨張係数化、低誘電化及び低吸水化することが可能となる。更に液晶ポリマーのみからなるフィルムよりも耐熱性の向上が見込める。
【0088】
[ポリエーテルケトン]
ポリエーテルケトンは、特に限定されるものではなく、骨格内にエーテル結合(-O-)及びカルボニル(-CO-)を有するポリマーである。ポリエーテルケトンはその結合配置からポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンやエステル結合を含むポリエーテルケトンエステル等と呼称されることが一般的である。耐熱性の観点から、芳香族骨格で構成されることが好ましい。
【0089】
ポリエーテルエーテルケトンフィルムは一般に耐熱性に優れ、低線熱膨張係数化されたフィルムも存在する。しかしながら誘電正接はケトン構造を有することから下げることが難しい。液晶ポリマーフィラーと複合化することで、前記特性を維持したまま低誘電化することが可能となる。更に液晶ポリマーのみからなるフィルムよりも耐熱性の向上が見込める。
【0090】
[ポリエステル]
ポリエステルは、特に限定されるものではなく、骨格内にエステル結合(-COO-)を有するポリマーである。このようなポリエステルは、ジオール類とジカルボン酸誘導体からの重合、フェノールアセテートとカルボン酸のエステル交換等、公知の方法で製造することができる。耐熱性の観点から、2価のフェノール類等、芳香族骨格で構成されるポリエステルが好ましい。
【0091】
(B)成分としてのポリエステルは液晶ポリマーフィラーの融点よりも低い融点を有することが好ましい。そうすることによって液晶ポリマーフィラーの状態を維持したまま複合化することが可能となる。
【0092】
[他のポリマー]
前述のダイマージアミン組成物は、低誘電正接化だけでなく、樹脂フィルムの靭性を高めることができるため、(B)成分のポリマーとして、原料もしくは硬化剤としてジアミン成分を用いるポリマーであって、全ジアミン成分に対し、ダイマージアミン組成物を30モル%以上、好ましくは40モル%以上含有する熱可塑性ビスマレイミド樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂などを挙げることができる。これらのポリマーに、(A)成分の液晶ポリマーフィラーを配合することによって、優れた誘電特性と寸法安定性を両立させることが可能となり、回路基板材料として適した樹脂フィルムを形成できる。
【0093】
[前駆体]
(B)成分のポリマーとして、上記例示のポリマーの前駆体を用いることができる。前駆体とは、ある物質について、その物質が生成する前の段階の物質のことを指し、本明細書においては樹脂の前駆体として、オリゴマー体も含める。前駆体を用いることが好ましい場合としては、溶剤へ不溶なポリマーにおいても、その前駆体は可溶である場合などが挙げられる。具体的には全芳香族ポリイミドの多くは汎用溶剤へ不溶であるが、その前駆体のポリアミド酸はアミド系溶剤に容易に溶解する。また、ポリエステルは、高分子量体では溶剤に不溶な場合でもそのオリゴマー体は溶剤可溶性と成り得る。一般に、オリゴマー体とは重合度の低いポリマーを指し、本明細書においては、反復数が2~50の範囲内で分子量が5000以下であるものを指す。オリゴマー体は活性点を持つ場合、加熱等のエネルギーを与えること、溶液濃度を上昇させること、活性化剤や架橋剤を添加することによって、反応し、重合度を上げることが可能である。
【0094】
[添加剤]
(B)成分は、添加剤として、例えば、触媒、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、硬化剤、硬化促進剤及び難燃剤、断熱材などを含んでも良い。これらの添加剤は、単独で、又は、組み合わせて用いることができる。ここで、可塑剤としては特に限定されず、樹脂の種類に応じた可塑剤を用いることができる。好ましい可塑剤としては、トリメリット酸エステル、フタル酸エステル、低分子ポリエステル、リン酸エステル、水添されたスチレン系又は/及び水添されたブタジエン系のエラストマー、ゴム粒子、イミダゾール化合物、酸無水物、ジシアンジアミド、ヒドラジド、アミン付加物、スルホニウム塩、ホルムアルデヒド、ケチミン、三級アミン、有機ホスフィン化合物が例示される。
【0095】
添加剤の含有量は、特に限定されず、用いる樹脂成分及びプロセス条件に応じて適宜選択することができるが、例えば、(B)成分の含有量に対して110重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましい。
【0096】
[配合比]
樹脂フィルムにおいて、(A)成分と(B)成分の配合比は、これらの種類に応じて適宜設定できるが、(A)成分及び(B)成分の合計量に対する(A)成分の含有量が、例えば2重量%以上80重量%以下の範囲内であることが好ましく、5重量%以上60重量%以下の範囲内であることがより好ましく、10重量%以上50重量%以下の範囲内であることが最も好ましい。(A)成分の含有量が2重量%未満では、発明の効果が発現しにくく、80重量%を超えると、フィルム表面に液晶ポリマーフィラーが露出し、平滑性が損なわれることがある。
【0097】
[任意成分]
樹脂フィルムは、発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分および(B)成分の他に、無機成分として顔料、難燃剤、放熱剤等を含有しても良い。無機成分としては、例えば非晶性シリカ、結晶性シリカ(例えば石英シリカ、クリストバライトシリカ)、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム、ホスフィン酸金属塩等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0098】
以上の組成を有する本実施の形態の樹脂フィルムは、下記の条件(i)、(ii)及び(iii)を具備する。
【0099】
[条件(i):平均線熱膨張係数(CTE)]
樹脂フィルムは、250℃から100℃の平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/K以下であり、好ましくは30ppm/K以下であることがよい。平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/K以下であれば、加熱時の寸法変化率を抑えることができるため、配線板等の配線同士の接合時の位置ずれを防止することができる。さらに、平均線熱膨張係数の絶対値が30ppm/K以下であれば配線をより精細化することが可能となる。また、平均線熱膨張係数の絶対値が50ppm/Kを超えると、金属などの異種材料と接着した時や張り合わせた際に界面に応力が発生し脆弱性が生まれやすくなる。
なお、条件(i)における平均線熱膨張係数は樹脂フィルムの長手方向(MD方向)における線熱膨張係数を意味する。
【0100】
[条件(ii):誘電正接]
樹脂フィルムは、例えば、回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、高周波信号の伝送時における誘電損失を低減するために、フィルム全体として、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により23℃、50%RHの環境下で測定したときの20GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.003以下であり、0.002以下であることが好ましい。回路基板の伝送損失を改善するためには、特に絶縁樹脂層の誘電正接を制御することが重要であり、誘電正接を上記範囲内とすることで、伝送損失を下げる効果が増大する。従って、例えば高周波回路基板の絶縁樹脂層として樹脂フィルムを適用する場合、伝送損失を効率よく低減できる。20GHzにおける誘電正接が0.003を超えると、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。20GHzにおける誘電正接の下限値は特に制限されないが、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合の物性制御を考慮する必要がある。
【0101】
[条件(iii):吸水率]
樹脂フィルムは、例えばプリント配線板等の回路基板に使用した際の湿気による影響を低減するために、吸水率が、0.2重量%以下であり、好ましくは0.1重量%以下がよい。ここで、吸水率は、23℃の純水中に浸漬させ、24時間経過後の吸水率を意味する(本明細書において同様の意味である)。吸水率が0.2重量%を超えると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、湿度の影響を受けやすくなり、高周波信号の伝送速度の変動などの不都合が生じやすくなる。つまり、樹脂フィルムの吸水率が上記範囲を上回ると、誘電率の高い水を吸収しやすくなるので、誘電率及び誘電正接の上昇を招き、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0102】
[作用]
従来の樹脂フィルムでは、条件(i)と条件(ii)を両立させることは困難であったが、本実施の形態の樹脂フィルムは、(A)成分の液晶ポリマーフィラーのX/Y比を2.5以上とすることによって、条件(i)と条件(ii)を同時に充足することが可能となった。その理由は、未だ完全には解明されていないが、低い誘電正接を有する液晶ポリマーフィラーのX/Y比が2.5以上であると、液晶ポリマーフィラーの製造過程で剪断力が加わるため、液晶ポリマー分子鎖が同じ方向に配向し、その結果、液晶ポリマーフィラーを配合した樹脂フィルムの平均線熱膨張係数(CTE)を大きく低下させるものと推測される。このように、フィラーの形状異方性を利用して樹脂フィルムの平均線熱膨張係数(CTE)を制御できることは、本発明によって初めて見いだされたものである。
【0103】
[厚み]
樹脂フィルム全体の厚さは、例えば15~250μmの範囲内であることが好ましく、25~200μmの範囲内がより好ましい。樹脂フィルムの厚みが15μmに満たないと、フィルムの表面平滑性が悪化する可能性があり、金属張積層板の製造時の搬送工程で金属箔にシワが入り、また樹脂フィルムが破れるなどの不具合が生じやすくなる。反対に、樹脂フィルムの厚みが250μmを超えると樹脂フィルムの折り曲げ性が低下するなどの点で不利になる傾向となる。
【0104】
[樹脂フィルムの製造方法]
樹脂フィルムの製造方法は、(A)成分の液晶ポリマーフィラーの形状と、(B)成分の組合せに応じて適宜選択できるため、特段限定されるものではないが、好ましい方法として、例えば以下の(1)から(3);
(1)(A)成分の液晶ポリマーフィラーと(B)成分と、必要に応じて溶剤又は分散媒の混合物を任意の基材上に塗布して乾燥等を行いフィルム状成型する方法、
(2)(A)成分の液晶ポリマーフィラーを(B)成分を含む液へ浸漬させ、フィルム状に成型する方法、
(3)(A)成分の液晶ポリマーフィラーとフィルム状に成型された(B)成分とを積層し、圧着させる方法、
などが挙げられる。
【0105】
好ましい溶剤又は分散媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール、水等が挙げられる。これらの溶剤又は分散媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。溶剤又は分散媒の含有量としては特に制限されるものではないが、5~70重量%程度になるような量に調整して用いることが好ましい。
【0106】
長軸の長さが10mm以下の液晶ポリマーフィラーを含有する樹脂溶液を、基材に塗布する際、樹脂溶液にせん断応力が発生することによりフィラーの長軸方向が樹脂の流れ方向へと揃い、このためフィルム特性に面内異方性ができることがある。この面内異方性を抑えるために、例えばスプレーコーター、カーテンコーターなどの特定方向へのせん断応力が発生しにくい塗布方法を用いてもよい。また、塗布後に電磁場等の作用を用いたり、得られたフィルムを特定方向へ延伸させたりして、向きの揃ったフィラーを乱す方法を用いても良い。さらに、面内異方性のあるフィルム同士を特定の角度ずらして積層させてもよい。
【0107】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であり、絶縁樹脂層の少なくとも1層が上記樹脂フィルムからなる。金属張積層板は、絶縁樹脂層の片面側のみに金属層を有する片面金属張積層板であってもよいし、絶縁樹脂層の両面に金属層を有する両面金属張積層板であってもよい。
【0108】
[絶縁樹脂層]
絶縁樹脂層は単層又は複数層から構成され、上記樹脂フィルムからなる層を含んでいる。例えば、上記樹脂フィルムが、機械特性や熱物性を担保するための絶縁樹脂層の主たる層としての非熱可塑性層を形成していてもよい。また、上記樹脂フィルムが、銅箔などの金属層との接着強度を担う接着剤層としての熱可塑性樹脂層を形成していてもよい。なお、「主たる層」とは、絶縁樹脂層の総厚みの50%超を占める層を意味する。また、本実施の形態の金属張積層板は、樹脂フィルムと金属箔とを接着するための接着剤を用いることを除外するものではない。ただし、絶縁樹脂層の両面に金属層を有する両面金属張積層板において接着剤層を介在させる場合には、接着剤層の厚みは、誘電特性を損なわないように、全絶縁樹脂層の厚みの30%未満とすることが好ましく、20%未満とすることがより好ましい。また、絶縁樹脂層の片面のみに金属層を有する片面金属張積層板において接着剤層を介在させる場合には、接着剤層の厚みは、誘電特性を損なわないように、全絶縁樹脂層の厚みの15%未満とすることが好ましく、10%未満とすることがより好ましい。また、接着剤層は絶縁樹脂層の一部を構成するので、(B)成分からなる層であることが好ましい。
絶縁樹脂層の層厚みは、高周波回路用には、35μm以上、200μm以下の範囲内が好ましく、50μm以上、150μm以下の範囲内がより好ましい。この範囲内であれば、金属張積層板のフレキシブル性と、回路基板にしたときの高周波信号の伝送損失の抑制の両立が可能である。
【0109】
樹脂フィルムを絶縁樹脂層とする金属張積層板を製造する方法としては、例えば、金属箔上に(A)成分及び(B)成分を含有する樹脂溶液を塗布し真空及び/又は加熱処理を行う方法や、樹脂フィルムに直接、又は任意の接着剤を介して金属箔を加熱圧着する方法、金属蒸着等の手法によって樹脂フィルムに金属層を形成する方法などを挙げることができる。なお、両面金属張積層板は、例えば、片面金属張積層板を形成した後、互いに樹脂層を向き合わせて熱プレスによって圧着し形成する方法や、片面金属張積層板の樹脂層に金属箔を圧着し形成する方法等により得ることができる。
【0110】
[金属層]
金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、特に銅、銀又はそれらの合金が好ましい。特に金属層に銅を用いた銅張積層板(CCL)は、電気伝導度やコストの観点から好ましい。金属層は、金属箔からなるものであってもよいし、フィルムに金属蒸着したもの、ペースト等を印刷したものであってもよい。また、(A)成分及び(B)成分を含有する樹脂溶液を直接塗布可能な点から、金属箔でも金属板でも使用可能であり、銅箔若しくは銅板が好ましい。
【0111】
金属層の厚みは、金属張積層板の使用目的に応じて適宜設定されるため特に限定されないが、例えば5μm~3mmの範囲内が好ましく、12μm~1mmの範囲内がより好ましい。金属層の厚みが5μmに満たないと、金属張積層板の製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがある。反対に金属層の厚みが3mmを超えると硬くて加工性が悪くなる。金属層の厚みについては、一般的に、車載用回路基板などの用途では厚いものが適し、LED用回路基板などの用途などでは薄い金属層が適する。
【0112】
[プリント配線板]
プリント配線板は、金属張積層板の金属層を導体として回路を形成してなるものである。すなわち、プリント配線板は、単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された回路配線層と、を備え、絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、上記樹脂フィルムからなる。特に回路配線に銅を用いると、電気伝導度やコストの観点から好ましい。高周波信号による伝送損失を考慮すると、銅と絶縁樹脂層の界面にある銅側の粗度Rzは1.5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。ここで、高周波とは20GHz以上の周波数を指す。
【0113】
以上のように、樹脂フィルム及び金属張積層板は、(A)成分の液晶ポリマーフィラーと(B)成分のポリマーを含有することにより、優れた誘電特性と寸法安定性が両立されている。従って、樹脂フィルム及び金属張積層板は、高周波信号伝送における損失が低減され、寸法安定性も維持できることから、各種の電子機器におけるFPC等の回路基板材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0114】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0115】
[吸水率の測定]
樹脂フィルムの試験片(幅4cm×長さ25cm)を2枚用意し、80℃で1時間乾燥した。乾燥後直ちに23℃の純水に入れ、24時間静置し、その前後の重量変化から次式により求めた。
吸水率(重量%)=[(吸水後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0116】
[アミン価の測定方法]
約2gのダイマージアミン組成物を200~250mLの三角フラスコに秤量し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、溶液が薄いピンク色を呈するまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液を滴下し、中和を行ったブタノール約100mLに溶解させる。そこに3~7滴のフェノールフタレイン溶液を加え、サンプルの溶液が薄いピンク色に変わるまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で攪拌しながら滴定する。そこへブロモフェノールブルー溶液を5滴加え、サンプル溶液が黄色に変わるまで、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液で攪拌しながら滴定する。
アミン価は、次の式(1)により算出する。
アミン価={(V2×C2)-(V1×C1)}×MKOH/m ・・・(1)
ここで、アミン価はmg-KOH/gで表される値であり、MKOHは水酸化カリウムの分子量56.1である。また、V、Cはそれぞれ滴定に用いた溶液の体積と濃度であり、添え字の1、2はそれぞれ0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液を表す。さらに、mはグラムで表されるサンプル重量である。
【0117】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
GPCは、20mgのダイマージアミン組成物を200μLの無水酢酸、200μLのピリジン及び2mLのTHF(テトラヒドロフラン)で前処理した100mgの溶液を、10mLのTHF(1000ppmのシクロヘキサノンを含有)で希釈し、サンプルを調製した。調製したサンプルを東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPCを用いて、カラム:TSK-gel G2000HXL,G1000HXL,G1000HXL、 フロー量:1mL/min、カラム(オーブン)温度:40℃、注入量:50μLの条件で測定した。なお、シクロヘキサノンは流出時間の補正のために標準物質として扱った。
【0118】
このとき、シクロヘキサノンのメインピークのピークトップがリテンションタイム27分から31分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのメインピークのピークスタートからピークエンドが2分になるように調整し、シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークトップが18分から19分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークスタートからピークエンドまでが2分から4分30秒となる条件で、各成分(a)~(c);
(a)メインピークで表される成分;
(b)メインピークにおけるリテンションタイムが遅い時間側の極小値を基準にし、それよりも遅い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
(c)メインピークにおけるリテンションタイムが早い時間側の極小値を基準にし、それよりも早い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
を検出した。
【0119】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いた。
【0120】
[誘電特性の評価]
<液晶ポリマーフィラー>
固形分30重量%に調整した液晶ポリマーフィラーのジメチルアセトアミド分散液を銅箔の平滑面に塗布し、120℃で10分間乾燥した。その後、200℃から液晶ポリマーの融点+20℃まで10分間かけて段階的に昇温し、得られた積層体の銅箔をエッチングして除去することで、液晶性高分子のフィルムを得た。
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、得られた液晶性高分子フィルムを温度;23℃、湿度;50%の条件下で、24時間放置した後、20GHzの周波数における比誘電率および誘電正接を測定した。
【0121】
<樹脂フィルム>
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびSPDR共振器を用いて温度160℃、圧力3.5MPa、時間60分間の条件でプレスした樹脂フィルムを温度;23℃、湿度;50%の条件下で、24時間放置した後、20GHzの周波数における比誘電率および誘電正接を測定した。
【0122】
[CTEの測定方法]
樹脂フィルムを3mm×20mmのサイズに切り出し、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、引張モードで長手方向に5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から260℃まで昇温させ、さらにその温度で10分保持した後、5℃/minの速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)CTEを求めた。樹脂フィルムの厚み方向(ND)のCTEは、厚さ1mmに積層し、圧縮モードにて50gの荷重をかけ、昇温速度10℃/minで150℃ まで昇温した後、降温速度5℃/minの50℃まで降温し150℃から50℃までの平均熱膨張係数を求めた。
【0123】
[融点の測定]
示差走査熱量分析装置(DSC、SII社製、商品名;DSC-6200))を用いて、不活性ガス雰囲気中、室温から450℃まで1.5℃/minで昇温し、融点の測定を行った。
【0124】
[平均長軸の長さ及び平均短軸の長さの測定方法]
フィラーを取り出し、実体顕微鏡を用いて、独立に観察し、取り出したフィラーそれぞれについて長軸の長さ及び短軸の長さを測定した。
【0125】
[真比重の測定]
連続自動粉体真密度測定装置(セイシン企業社製、商品名;AUTO TRUE DENSERMAT‐7000)を用いて、ピクノメーター法(液相置換法)による真比重の測定を行った。
【0126】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
PFA:テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体
PS:ポリスチレン
PI:ポリイミド
PEEK:ポリエーテルエーテルケトン
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DDA:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(a成分;99.2重量%、b成分:0%、c成分;0.8%、アミン価:210mgKOH/g)
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
液晶ポリマー1:ポリエステル構造を有する液晶ポリマー、融点(Tm);350℃、真比重;1.4、比誘電率;3.1、誘電正接;0.0010
液晶ポリマー2:ポリエステル構造を有する液晶ポリマー、融点(Tm);330℃、真比重;1.4、比誘電率; 3.4、誘電正接;0.0020
液晶ポリマー3:ポリエステル構造を有する液晶ポリマー粒子、融点(Tm);320℃、真比重;1.4、比誘電率;3.4、誘電正接;0.0010
形状1:短繊維状、長軸の長さ;1mm、短軸の長さ;28μm、製造方法;溶融紡糸後、裁断
形状2:短繊維状、長軸の長さ;0.5mm、短軸の長さ;28μm、製造方法;溶融紡糸後、裁断
形状3:織物、織物組成;平織、(繊維46本束の撚糸)、糸密度(縦);14本/cm、糸密度(横);14本/cm、10cm角に裁断、長軸の長さ;10cm、短軸の長さ;28μm、目付;63g/m2、製造方法;溶融紡糸後、平織
形状4:不定形状、短軸の長さ;8μm、長軸の長さ;14μm、製造方法;ペレットの粉砕
形状5:板状、短軸の長さ;2μm、長軸の長さ;20μm、製造方法;フィルムの粉砕
【0127】
[実施例1]
PTFE微粒子が40重量%分散したNMP100gへ形状1の液晶ポリマー1を40g添加し、樹脂組成物分散液1を得た。得られた樹脂組成物分散液1を銅箔1(電解銅箔、厚み;12μm)に塗布し、80℃で15分間乾燥させ、片面CCL1を得た。得られた片面CCL1の樹脂組成物層側へ銅箔2(電解銅箔、厚み;12μm)を重ね、310℃、6MPaで10分間加熱加圧し、両面CCL1を得た。得られた両面CCL1の銅箔をエッチング除去することにより樹脂フィルム1を得た。得られた樹脂フィルム1を評価したところ、厚み;53μm、CTE;42ppm/K、誘電正接;0.0007、吸水率;0.03wt%であった。
【0128】
[実施例2]
PFA微粒子が30重量%分散したDMAc200gへ形状2の液晶ポリマー1を20g添加し、樹脂組成物分散液2を得た。得られた樹脂組成物分散液2を銅箔1に塗布し、100℃で15分間乾燥させ、その後330℃まで段階的に20分間加熱処理し、片面CCL2を得た。得られた片面CCL2の銅箔をエッチング除去することにより樹脂フィルム2を得た。得られた樹脂フィルム2を評価したところ、厚み;50μm、CTE;20ppm/K、誘電正接;0.0007、吸水率;0.02wt%であった。
【0129】
[実施例3]
PFA微粒子が30重量%分散したDMAcへステンレス製枠に固定した形状3の液晶ポリマー2を10分間浸漬させた後、液だれが生じなくなるまで傾けて静置した。型に固定したまま100℃で15分間乾燥させ、その後330℃まで段階的に20分間加熱処理を行った。型から取り外し樹脂フィルム3を得た。得られた樹脂フィルム3を評価したところ、厚み;140μm、CTE;30ppm/K、誘電正接;0.0028、吸水率;0.02wt%であった。
【0130】
[実施例4]
銅箔1、PFAフィルム(厚み;75μm)、形状3の液晶ポリマー2、PFAフィルム(厚み;75μm)及び銅箔2をこの順に積層し、真空雰囲気のもと320℃、7.5MPaで20分間加熱加圧を行い、両面CCL4を得た。得られた両面CCL4の銅箔をエッチング除去することにより樹脂フィルム4を得た。得られた樹脂フィルム4を評価したところ、厚み;200μm、CTE;40ppm/K、誘電正接;0.0025、吸水率;0.02wt%であった。
【0131】
[実施例5]
実施例4のPFAフィルムの代わりにPSフィルム(厚み;75μm)を用いて、320℃を250℃に変えた以外は実施例4と同様にして、樹脂フィルム5を得た。得られた樹脂フィルム5を評価したところ、厚み;185μm、CTE;35ppm/K、誘電正接;0.0025、吸水率;0.10wt%であった。
【0132】
(合成例1)
500mLのセパラブルフラスコに、酸無水物として33.84gのBTDA(0.1048モル)、ジアミンとして56.16gのDDA(0.1051モル)、126gのNMP及び84gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、8時間加熱、攪拌することでイミド化を完結し、64gのキシレンを加え希釈したポリイミド溶液1(固形分;30重量%、重量平均分子量;58,500)を調製した。このポリイミド組成をPI1とする。
【0133】
(合成例2~3)
酸無水物およびジアミンを表1のように変えた以外は、合成例1と同様にしてポリイミド溶液2及び3を調製した。このポリイミド組成をPI2及びPI3とする。
【0134】
【0135】
[実施例6]
合成例1で得られたポリイミド溶液1に30重量%の形状1の液晶ポリマー1、架橋剤として3.5重量%のN-12を配合し、固形分が15重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス1を調製した。
【0136】
調製したポリイミドワニス1をアルミニウム基材に流延し、80℃で60分間乾燥を行った後、剥離することによって、樹脂フィルム6(厚さ;100μm)を調製した。
樹脂フィルム6の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.7、誘電正接;0.0015、CTE;4ppm/K,吸水率;0.15wt%
【0137】
[実施例7]
ポリイミド溶液1の代わりにポリイミド溶液2を使用し、形状1の液晶ポリマー1の添加量を35重量%に変えた以外は実施例6と同様に樹脂フィルム7(厚さ;100μm)を調製した。
樹脂フィルム7の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.7、誘電正接;0.0013、CTE;2ppm/K,吸水率;0.18wt%
【0138】
[実施例8]
ポリイミド溶液1の代わりにポリイミド溶液3を使用し、形状1の液晶ポリマー1の添加量を50重量%に変えた以外は実施例6と同様に樹脂フィルム8(厚さ;100μm)を調製した。
樹脂フィルム8の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0015、CTE;1ppm/K,吸水率;0.12wt%
【0139】
[実施例9]
合成例1で得られたポリイミド溶液1に、架橋剤として3.5重量%のN-12を配合し、固形分が15重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス1aを調製した。
調製したポリイミドワニス1aを離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、80℃で15分間、120℃で5分間乾燥を行った後、剥離することによって、ポリイミドフィルム1a(厚さ;25μm)を調製した。
得られたポリイミドフィルム1aを2枚積層し、厚み50μmとし、実施例4のPFAフィルム75μmの代わりに用いて、加熱加圧条件を真空雰囲気のもと160℃、5Mpaで60分間に変えたこと以外は実施例4と同様にして樹脂フィルム9を得た。得られた樹脂フィルム9を評価したところ、厚み;157μm、CTE;-20ppm/K、誘電正接;0.0027、吸水率;0.15wt%であった。
【0140】
[実施例10]
PFAフィルムの代わりにPEEKフィルム(厚み;75μm)を用いたこと以外は実施例4と同様にして樹脂フィルム10を得た。得られた樹脂フィルム10を評価したところ、厚み;190μm、CTE;5ppm/K、誘電正接;0.0025、吸水率;0.05wt%であった。
【0141】
[実施例11]
p-ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸由来の骨格を有するポリエステル微粒子が30重量%分散したDMAcにステンレス枠へ固定した形状3の液晶ポリマー2を10分間浸漬させた後、液だれが生じなくなるまで傾けて静置した。型に固定したまま100℃で15分間乾燥させ、その後330℃まで段階的に20分間加熱処理を行った。型から取り外し樹脂フィルム11を得た。得られた樹脂フィルム11を評価したところ、厚み;145μm、CTE;10ppm/K、誘電正接;0.0015、吸水率;0.10wt%であった。
【0142】
[実施例12]
p-ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸由来の骨格を有し、融点が300℃であるポリエステル微粒子が30重量%分散した水100gへ形状5の液晶ポリマー3を30g混合し、ポリイミドフィルム基材へ流延塗布した。100℃で15分間乾燥させ、その後310℃まで段階的に20分間加熱処理を行い、ポリイミドフィルム基材から剥離することによって樹脂フィルム12を得た。得られた樹脂フィルム12を評価したところ、厚み;85μm、CTE;14ppm/K、誘電正接;0.0020、吸水率;0.11wt%であった。
なお、形状5の液晶ポリマー3は、以下の方法で調製した。
まず、液晶ポリマー3を溶融押出成形し、厚み:0.4mm、10cm角のシートを準備した。押出方向(MD方向)のCTEは-40ppm/K、厚み方向(ND方向)のCTEは150ppm/K、押出方向と厚み方向から成る面と垂直な方向(TD方向)のCTEは130ppm/Kであった。次に、前記シートを破砕機によって細分化し、板状の液晶ポリマーフィラーを得た。
【0143】
(比較例1)
形状1の液晶ポリマー1を添加しなかったこと以外、実施例1と同様に樹脂フィルムAを調製した。得られた樹脂フィルムAを評価したところ、厚み;50μm、CTE;250ppm/K、誘電正接;0.0003、比誘電率;2.1、吸水率;0.01wt%であった。
【0144】
(比較例2)
形状2の液晶ポリマー1を添加しなかったこと以外、実施例2と同様に樹脂フィルムBを調製した。得られた樹脂フィルムBを評価したところ、厚み;50μm、CTE;296ppm/K、誘電正接;0.0009、比誘電率;2.0、吸水率;0.01wt%であった。
【0145】
(比較例3)
形状3の液晶ポリマー2を積層しなかったこと以外、実施例5と同様に樹脂フィルムCを調製した。得られた樹脂フィルムCを評価したところ、厚み;145μm、CTE;80ppm/K、誘電正接;0.0005、吸水率;0.12wt%であった。
【0146】
(比較例4)
形状1の液晶ポリマー1を添加しなかったこと以外は実施例6と同様に樹脂フィルムD(厚さ;100μm)を調製した。
樹脂フィルムDの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0017、CTE;150ppm/K、吸水率;0.10wt%
【0147】
(比較例5)
形状1の液晶ポリマー1を添加しなかったこと以外は実施例7と同様に樹脂フィルムE(厚さ;100μm)を調製した。
樹脂フィルムEの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0014、CTE;109ppm/K、吸水率;0.08wt%
【0148】
(比較例6)
形状1の液晶ポリマー1を添加しなかったこと以外は実施例8と同様に樹脂フィルムF(厚さ;100μm)を調製した。
樹脂フィルムFの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.7、誘電正接;0.0017、CTE;115ppm/K、吸水率;0.12wt%
【0149】
(比較例7)
形状1の液晶ポリマー1の代わりに形状4の液晶ポリマー3を用いたこと以外、実施例6と同様に樹脂フィルムGを調製した。得られた樹脂フィルムGを評価したところ、厚み;56μm、CTE;70ppm/K、誘電正接;0.0013、比誘電率;3.2、吸水率;0.12wt%であった。
【0150】
(比較例8)
形状3の液晶ポリマー2を積層しなかったこと以外、実施例10と同様に樹脂フィルムHを調製した。得られた樹脂フィルムHを評価したところ、厚み;98μm、CTE;40ppm/K、誘電正接;0.0040、比誘電率;3.1、吸水率;0.07wt%であった。
【0151】
(比較例9)
形状5の液晶ポリマー3を添加しなかったこと以外、実施例12と同様に樹脂フィルムIを調製した。得られた樹脂フィルムIを評価したところ、厚み;74μm、CTE;90ppm/K、誘電正接;0.0010、吸水率;0.05wt%であった。
【0152】
以上の結果をまとめて表2に示した。
【0153】
【0154】
表2から、(B)成分のポリマーに(A)成分の液晶ポリマーフィラーを複合化させた実施例1~12の樹脂フィルムは、小さな線熱膨張係数と低誘電正接との両立が可能であり、高周波信号伝送への対応と同時に寸法安定性も確保できることが示された。それに対し、液晶ポリマーフィラーを配合しなかった比較例1~6、8、9の樹脂フィルムは、線熱膨張係数が大きいか、誘電正接が高く、液晶ポリマーフィラーの形状異方性(X/Y)が2.5未満の比較例7は、線熱膨張係数が大きい結果となった。
【0155】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。