(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】熱式流量計、流量制御装置、熱式流量測定方法、及び、熱式流量計用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01F 1/696 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01F1/696 Z
(21)【出願番号】P 2022533028
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046330
(87)【国際公開番号】W WO2022004001
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2020114762
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】江村 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】岡野 浩之
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/138941(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/023614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00-9/02
G05D 7/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の流体が流れるセンサ流路と、
前記センサ流路に設けられた上流側電気抵抗素子と、
前記センサ流路において前記上流側電気抵抗素子よりも下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、
前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含む流量検出回路から出力される電圧に基づいて、測定対象の流体の流量に応じたセンサ出力を生成するセンサ出力生成器と、
前記センサ流路の姿勢に応じて前記センサ出力に生じる傾斜影響を少なくとも測定対象の流体のプラントル数に基づいて推定する傾斜影響推定器と、
前記センサ出力から前記傾斜影響を補正して、測定対象の流体の流量を算出する流量算出器と、を備えたことを特徴とする熱式流量計。
【請求項2】
前記傾斜影響推定器が、測定対象の流体のヌセルト数、グラスホフ数、及び、プラントル数に基づいて前記傾斜影響を推定するように構成された請求項1記載の熱式流量計。
【請求項3】
ヌセルト数をNu、グラスホフ数をGr、プラントル数をPr、比例定数をA、指数をnをとした場合に、前記傾斜影響推定器が、Nu=A(Gr×Pr)
nに基づいて前記傾斜影響を算出するように構成された請求項2記載の熱式流量計。
【請求項4】
前記上流側電気抵抗素子を含む回路から出力される上流側電圧をVu、前記下流側電気抵抗素子を含む回路から出力される下流側電圧をVdとした場合に、前記センサ出力生成器が、前記センサ出力として(Vu-Vd)/(Vu+Vd)を出力するように構成されており、
前記傾斜影響が、前記センサ流路内の対流によって生じる電圧差(Vu0-Vd0)であり、前記傾斜影響推定器が、ヌセルト数Nuと電圧差(Vu0-Vd0)との間の関係式と、Nu=A(Gr×Pr)
nとから算出されるヌセルト数Nuの値から電圧差(Vu0-Vd0)を推定するように構成されており、
前記流量算出器が、前記センサ出力の分子(Vu-Vd)から電圧差(Vu0-Vd0)を差し引いて前記傾斜影響を補正するように構成された請求項3記載の熱式流量計。
【請求項5】
指数nが2である請求項4記載の熱式流量計。
【請求項6】
前記センサ流路の内径をL、前記上流側電気抵抗素子又は前記下流側電気抵抗素子の抵抗値をR、測定対象の流体の熱伝導率をλ、測定対象の流体の定圧モル比熱をCp、測定対象の流体の粘性をη、測定対象の流体の密度をρ、重力加速度をg、測定対象の流体の体積膨張率をβ、前記上流側電気抵抗素子又は前記下流側電気抵抗素子と測定対象の流体との温度差をΔTとした場合に、
Nu=L×{((Vu0-Vd0)
2/R)/L
2×ΔT)}/λ
Pr=Cpη/λ
Gr=ρgL
3βΔT/η
2
である請求項4又は5記載の熱式流量計。
【請求項7】
前記傾斜影響推定器が、
測定対象の流体の圧力Pを取得する圧力取得部と、
前記上流側電気抵抗素子又は前記下流側電気抵抗素子と測定対象の流体との温度差ΔTを取得する温度差取得部と、
取得された圧力P及び温度差ΔTに基づいて、グラスホフ数Gr、プラントル数Prを算出し、各値をNu=A(Gr×Pr)
nに代入してヌセルト数Nuの値を算出するヌセルト数算出部と、
算出されたヌセルト数Nuの値から電圧差(Vu0-Vd0)を算出するゼロ点出力算出部と、を備えた請求項2乃至6いずれかに記載の熱式流量計。
【請求項8】
前記流量検出回路が、
前記上流側電気抵抗素子を含むブリッジ回路を有する上流側定温度制御回路と、
前記下流側電気抵抗素子を含むブリッジ回路を有する下流側定温度制御回路と、を備えた請求項1乃至7いずれかに記載の熱式流量計。
【請求項9】
前記流量検出回路が、
前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含むブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路に定電流を供給する定電流回路と、を備えた請求項1乃至7いずれかに記載の熱式流量計。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の熱式流量計と、
流体制御バルブと、
設定流量と前記熱式流量計の出力する測定対象の流体の流量との偏差に基づいて、前記流体制御バルブの開度を制御するバルブ制御器と、を備えた流量制御装置。
【請求項11】
測定対象の流体が流れるセンサ流路と、前記センサ流路に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記センサ流路において前記上流側電気抵抗素子よりも下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、を備えた熱式流量計を用いた流量測定方法であって、
前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含む流量検出回路から出力される電圧に基づいて、測定対象の流体の流量に応じたセンサ出力を生成することと、
前記センサ流路の姿勢に応じて前記センサ出力に生じる傾斜影響を少なくとも測定対象の流体のプラントル数に基づいて推定することと、
前記センサ出力から前記傾斜影響を補正して、測定対象の流体の流量を算出することと、を備えたことを特徴とする熱式流量測定方法。
【請求項12】
測定対象の流体が流れるセンサ流路と、前記センサ流路に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記センサ流路において前記上流側電気抵抗素子よりも下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、を備えた熱式流量センサに用いられるプログラムであって、
前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含む流量検出回路から出力される電圧に基づいて、測定対象の流体の流量に応じたセンサ出力を生成するセンサ出力生成器と、
前記センサ流路の姿勢に応じて前記センサ出力に生じる傾斜影響を少なくとも測定対象の流体のプラントル数に基づいて推定する傾斜影響推定器と、
前記センサ出力から前記傾斜影響を補正して、測定対象の流体の流量を算出する流量算出器と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする熱式流量計用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の流体が流れるセンサ流路に設けられた上流側電気抵抗素子及び下流側電気抵抗素子から得られる出力に基づいて、測定対象の流量を測定する熱式流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造プロセスでは、各種ガスを所望の一定流量で供給するために熱式のマスフローコントローラが用いられる。熱式のマスフローコントローラは、ガスが概略所定方向に沿って流される内部流路が形成されたブロック体と、ブロック体に対して設けられた熱式流量計及び流体制御バルブと、流体制御バルブの制御等を司る制御ボードと、を備えたものである。
【0003】
熱式流量計は、メイン流路である内部流路から分岐して再び内部流路に合流する概略U字状のキャピラリーであるセンサ流路を具備している。このセンサ流路においてブロック体内の内部流路と流体(ガス)の流れ方向がほぼ同じ向きとなる部分には、上流側電気抵抗素子と下流側電気抵抗素子が設けられている。これらの電気抵抗素子の温度が一定となるように各電気抵抗素子に印加される電圧が制御される。各電気抵抗素子に印加される電圧差はセンサ流路に流れるガスの流量に応じて変化するので、電圧差からガスの流量を算出できる。
【0004】
ところで、
図10(a)において矢印によって示すように、マスフローコントローラのようなパッケージ化された流量制御装置はガスが概略水平方向に流れるように横置きされることを基準として設計されている。このため、
図10(b)において矢印によって示すようにガスが鉛直方向に流れるように流量制御装置が縦置きされると、いわゆるサーマルサイフォン現象によって取り付け向きとガスの封入圧力に応じて熱式流量計のゼロ点出力がずれてしまう。すなわち、流量制御装置の出力としてゼロの値が出力されるべきところが、サーマルサイフォン現象によりセンサ流路内に生じる対流によってゼロ以外の値が出力されてしまう。このことに起因して測定誤差が生じてしまう。
【0005】
このような測定誤差を低減するために特許文献1では、流量制御装置にジャイロセンサを設け、検出される姿勢に応じたゼロ点出力の補正を行うことが示唆されている。
【0006】
しかしながら、サーマルサイフォン現象は流量制御装置の姿勢だけでなく、測定対象のガスの圧力や熱伝導率や比熱等の熱物性値にも影響を受けるため特許文献1の補正方法では十分な精度で補正を実現することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、従来よりもサーマルサイフォン現象に起因する誤差を精度よく補正できる熱式流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る熱式流量計は、測定対象の流体が流れるセンサ流路と、前記センサ流路に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記センサ流路において前記上流側電気抵抗素子よりも下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含む流量検出回路から出力される電圧に基づいて、測定対象の流体の流量に応じたセンサ出力を生成するセンサ出力生成器と、前記センサ流路の姿勢に応じて前記センサ出力に生じる傾斜影響を少なくとも測定対象の流体のプラントル数に基づいて推定する傾斜影響推定器と、前記センサ出力から前記傾斜影響を補正して、測定対象の流体の流量を算出する流量算出器と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る熱式流量測定方法は、測定対象の流体が流れるセンサ流路と、前記センサ流路に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記センサ流路において前記上流側電気抵抗素子よりも下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、を備えた熱式流量計を用いた流量測定方法であって、前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含む流量検出回路から出力される電圧に基づいて、測定対象の流体の流量に応じたセンサ出力を生成することと、前記センサ流路の姿勢に応じて前記センサ出力に生じる傾斜影響を少なくとも測定対象の流体のプラントル数に基づいて推定することと、前記センサ出力から前記傾斜影響を補正して、測定対象の流体の流量を算出することと、を備えたことを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、前記傾斜影響推定器が、測定対象の流体の物性に応じて定まり、流体の圧力や熱伝導性の影響を受ける値であるプラントル数に基づいて前記傾斜影響を推定するので、それらの影響も加味した前記姿勢影響の推定が可能となる。このため、従来よりもサーマルサイフォン現象に起因する測定誤差をより精度良く補正することが可能となる。また、ハードウェア的には通常の熱式流量計から変更することなく、ソフトウェアの変更のみでサーマルサイフォン現象による測定誤差を補正することも可能となる。
【0012】
前記センサ流路内において生じる対流の大きさに関連する影響も補正できるようにしつつ、前記傾斜影響を前記上流側抵抗素子及び前記下流側電気抵抗素子に印加される各電圧と関連付けられるようにして、センサ出力に含まれる前記傾斜影響を演算により容易に補正できるようにするには、前記傾斜影響推定器が、測定対象の流体のヌセルト数、グラスホフ数、及び、プラントル数に基づいて前記傾斜影響を推定するように構成されたものであればよい。
【0013】
前記傾斜影響を推定するための各パラメータの具体的な使用態様としては、ヌセルト数をNu、グラスホフ数をGr、プラントル数をPr、比例定数をA、指数をnをとした場合に、前記傾斜影響推定器が、Nu=A(Gr×Pr)nに基づいて前記傾斜影響を算出するように構成されたものが挙げられる。
【0014】
ヌセルト数について直接測定せずに演算により求められるようにして、前記傾斜影響を算出できるようにするには、前記上流側電気抵抗素子を含む回路から出力される上流側電圧をVu、前記下流側電気抵抗素子を含む回路から出力される下流側電圧をVdとした場合に、前記センサ出力生成器が、前記センサ出力として(Vu-Vd)/(Vu+Vd)を出力するように構成されており、前記傾斜影響が、前記センサ流路内の対流によって生じる電圧差(Vu0-Vd0)であり、前記傾斜影響推定器が、ヌセルト数Nuと電圧差(Vu0-Vd0)との間の関係式と、Nu=A(Gr×Pr)nとから算出されるヌセルト数Nuの値から電圧差(Vu0-Vd0)を推定するように構成されており、前記流量算出器が、前記センサ出力の分子(Vu-Vd)から電圧差(Vu0-Vd0)を差し引いて前記傾斜影響を補正するように構成されたものが挙げられる。
【0015】
熱式流量計に用いられる前記センサ流路に適し、グラスホフ数Gr及びプラントル数Prから正確にヌセルト数Nuを算出できるようにするには、実験に基づいて算出した指数nを用いるようにすればよく、例えば指数nが2の算出式Nu=A(Gr×Pr)2を用いればよい。
【0016】
前記傾斜影響推定器において用いることができる具体的な演算式としては、前記センサ流路の内径をL、前記上流側電気抵抗素子又は前記下流側電気抵抗素子の抵抗値をR、測定対象の流体の熱伝導率をλ、測定対象の流体の定圧モル比熱をCp、測定対象の流体の粘性をη、測定対象の流体の密度をρ、重力加速度をg、測定対象の流体の体積膨張率をβ、前記上流側電気抵抗素子又は前記下流側電気抵抗素子と測定対象の流体との温度差をΔTとした場合に、Nu=L×{((Vu0-Vd0)2/R)/L2×ΔT)}/λ、Pr=Cpη/λ、Gr=ρgL3βΔT/η2が挙げられる。
【0017】
前記傾斜影響推定器の具体的な構成例としては、前記傾斜影響推定器が、測定対象の流体の圧力Pを取得する圧力取得部と、前記上流側電気抵抗素子又は前記下流側電気抵抗素子と測定対象の流体との温度差ΔTを取得する温度差取得部と、取得された圧力P及び温度差ΔTに基づいて、グラスホフ数Gr、プラントル数Prを算出し、各値をNu=A(Gr×Pr)nに代入してヌセルト数Nuの値を算出するヌセルト数算出部と、算出されたヌセルト数Nuの値から電圧差(Vu0-Vd0)を算出するゼロ点出力算出部と、を備えたものが挙げられる。
【0018】
本発明に係る熱式流量計と、流体制御バルブと、設定流量と前記熱式流量計の出力する測定対象の流体の流量との偏差に基づいて、前記流体制御バルブの開度を制御するバルブ制御器と、を備えた流量制御装置であれば、サーマルサイフォン現象による測定誤差が補正された流量に基づき、正確な流量制御を実現できる。
【0019】
前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子の温度が一定に保たれるようにして、その時の上流側電圧及び下流側電圧の変化から流量を算出できるようにするには、前記上流側電気抵抗素子を含むブリッジ回路を有する上流側定温度制御回路と、前記下流側電気抵抗素子を含むブリッジ回路を有する下流側定温度制御回路と、を備えたものであればよい。このようなものであれば、前述した補正方法によって傾斜影響によるゼロ点出力の誤差を好適に補正できる。
【0020】
本発明に係る補正方法が適用可能な別の方式の熱式流量センサとしては、前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含むブリッジ回路と、前記ブリッジ回路に定電流を供給する定電流回路と、を備えたものが挙げられる。
【0021】
既存の熱式流量計についてプログラムを更新するだけで本発明に係る熱式流量計と同様の効果が享受できるようにするには、測定対象の流体が流れるセンサ流路と、前記センサ流路に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記センサ流路において前記上流側電気抵抗素子よりも下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、を備えた熱式流量センサに用いられるプログラムであって、前記上流側電気抵抗素子の変化に応じて出力される上流側電圧、及び、前記下流側電気抵抗素子の変化に応じて出力される下流側電圧に基づいて、測定対象の流体の流量に応じたセンサ出力を生成するセンサ出力生成器と、前記センサ流路の姿勢に応じて前記センサ出力に生じる傾斜影響を少なくとも測定対象の流体のプラントル数に基づいて推定する傾斜影響推定器と、前記センサ出力から前記傾斜影響を補正して、測定対象の流体の流量を算出する流量算出器と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする熱式流量計用プログラムを用いればよい。
【0022】
なお、熱式流量計用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明に係る熱式流量計は測定対象の流体のプラントル数に基づいて傾斜影響を推定しているので、傾斜影響に対する流体の熱伝導率の違いや圧力影響も考慮できる。したがって、サーマルサイフォン現象による流量の測定誤差を従来よりも精度よく補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態における熱式流量計を備えたマスフローコントローラの模式的斜視図。
【
図2】同実施形態におけるマスフローコントローラの模式図。
【
図3】同実施形態における熱式流量計のセンシング機構を示す模式図。
【
図4】同実施形態における熱式流量計及びマスフローコントローラの機能ブロック図。
【
図5】同実施形態におけるセンサ出力に対する傾斜影響の補正を示す概念図。
【
図6】同実施形態におけるヌセルト数、グラスホフ数、プラントル数との間の関係を示す測定結果。
【
図7】グラスホフ数のみとヌセルト数との間の関係を示す測定結果。
【
図8】同実施形態におけるプラントル数及びグラスホフ数から算出されたヌセルト数に基づいてゼロ点出力を補正した場合の実験結果。
【
図9】プラントル数を用いずにグラスホフ数のみを用いて算出されたヌセルト数に基づいてゼロ点出力を補正した場合の実験結果。
【
図10】マスフローコントローラの取り付け向きについて示す模式図。
【符号の説明】
【0025】
200・・・流量制御装置(マスフローコントローラ)
IN ・・・流入口
1 ・・・ブロック体
V ・・・制御バルブ
C ・・・制御装置
2 ・・・メイン流路
3 ・・・分流素子
100・・・熱式流量計
SP ・・・流量検出回路
Ru ・・・上流側電気抵抗素子
Rd ・・・下流側電気抵抗素子
4 ・・・センサ流路
5 ・・・センサ出力生成器
6 ・・・傾斜影響推定器
7 ・・・流量算出器
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態の熱式流量計100及びこの熱式流量計100を備えた流量制御装置200は、例えば半導体製造プロセスにおいて真空チャンバ内に対して例えばSF6等の成分ガスを含む複数各種ガスを設定流量で供給するために用いられるものである。
【0027】
流量制御装置200は、
図1に示すように概略薄型直方体状の形状をなし、成分ガスの流れるラインに接続して用いられる。
図2に示すように流量制御装置200はガスの流れるラインに接続されて、そのラインの一部をなすメイン流路2が内部流路として形成されたブロック体1と、ブロック体1の部品取付面に取り付けられた熱式流量計100と、熱式流量計100の下流側に取り付けられた制御バルブVと、少なくとも制御バルブVの制御を司る制御装置Cと、を備えている。すなわち、流量制御装置200は、ブロック体1、熱式流量計100、制御バルブV、及び、制御装置Cといった流量制御に必要な機器がパッケージ化された、いわゆるマスフローコントローラである。
【0028】
ここで、流量制御装置200は
図2に示すようにブロック体1は概略長尺直方体形状をなしており、その長尺方向に沿ってメイン流路2が形成されている。流量制御装置200は、ブロック体1の長手方向が水平方向と一致するように取り付けられた場合を基準姿勢として設計されている。言い換えると、
図10(b)に示されるようにメイン流路2内のガスが鉛直方向に沿って流れるように流量制御装置200が縦置きされている場合には、熱式流量計100から出力される流量のゼロ点出力にはサーマルサイフォン現象による誤差が発生する。本実施形態の熱式流量計100はサーマルサイフォン現象によるゼロ点出力の誤差である傾斜影響を補正するための構成を備えている。
【0029】
制御装置Cは、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力手段を備えたいわゆるコンピュータであって、メモリに格納されているプログラムが実行されて、各機器が協業することにより熱式流量計100の演算器CALとしての機能と、制御バルブの開度を制御するバルブ制御器9としての機能を発揮するように構成されている。バルブ制御器9は熱式流量計の演算器CALから出力される測定流量とユーザにより設定される設定流量の偏差が小さくなるように制御バルブVの開度をフィードバック制御するものである。
【0030】
次に熱式流量計100の詳細について説明する。
この熱式流量計100は、
図2に示すように、ガスが流れるメイン流路2から分岐し、その分岐点よりも下流側の合流点においてメイン流路2に再び合流する概略U字状のセンサ流路4と、ガスの流量を検出する流量検出回路SPと、メイン流路2における分岐点と合流点との間に設けられた抵抗体としての分流素子3とを具備したものである。
【0031】
分流素子3は、メイン流路2及びセンサ流路4の所定の分流比で分流するものであり、定流量特性を有するバイパス素子等の抵抗部材から構成されている。この分流素子3としては、複数本の細い管を外管の内部に挿入して形成したものや、多数の貫通孔を形成した薄い円板を複数枚積層して形成したもの等を用いることができる。
【0032】
センサ流路4は
図2に示すように、金属製(例えばステンレス製)の概略U字状のキャピラリーとして形成されたものである。センサ流路4においてメイン流路2の流れ方向、すなわち、ブロック体1の長尺方向と平行となるように設けられている部分においてガスの流量の検出を行うための流量検出回路SPの一部が設けられている。流量検出回路SPは、センサ流路4に分流されたガスの流れによる熱の移動を利用してガスの流量を検出する。
【0033】
図3に示すように流量検出回路SPは、温度の変化に伴って電気抵抗値が増減する発熱抵抗線であり、センサ流路4を形成する細管の外周面に巻き付けられたコイルである上流側電気抵抗素子Ruと、センサ流路4において上流側電気抵抗素子Ruよりも下流側に巻きつけられたコイルである下流側電気抵抗素子Rdとからなる。ここで、上流側電気抵抗素子と下流側電気抵抗素子はヒータと温度センサとを兼ねるものである。
【0034】
さらにこの流量検出回路SPは、定温度駆動方式のものであり、
図3に示すように上流側電気抵抗素子Ruを一部とするブリッジ回路によって上流側定温度制御回路CTuを構成してあるとともに、下流側電気抵抗素子Rdを一部とするとブリッジ回路によって下流側定温度制御回路CTdを構成してある。
【0035】
上流側定温度制御回路CTuは、前記上流側電気抵抗素子Ru及び当該上流側電気抵抗素子Ruに対して直列に接続された温度設定用抵抗R1からなる直列抵抗群と、2つの固定抵抗R2、R3を直列に接続した直列抵抗群とを並列に接続してなる上流側ブリッジ回路と、上流側電気抵抗素子Ruと温度設定用抵抗R1の接続点の電位及び2つの固定抵抗の接続点での電位の差(Vu)を上流側ブリッジ回路にフィードバックし、上流側ブリッジ回路の平衡を保つようにするオペアンプからなる帰還制御回路とからなる。
【0036】
下流側定温度制御回路CTdも上流側定温度制御回路CTuと同様に、下流側電気抵抗素子Rd及び当該下流側電気抵抗素子Rdに対して直列に接続された温度設定用抵抗R1からなる直列抵抗群と2つの固定抵抗R2、R3を直列に接続した直列抵抗群とを並列に接続してなる下流側ブリッジ回路と、下流側電気抵抗素子Rdと温度設定用抵抗R1の接続点の電位及び2つの固定抵抗の接続点の電位の差(Vd)を下流側ブリッジ回路にフィードバックし、下流側ブリッジ回路の平衡を保つようにするオペアンプからなる帰還制御回路とからなる。
【0037】
ここで、上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdは、同じ抵抗温度係数の材料を用いている。そして、上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdは、各帰還制御回路によって温度設定用抵抗R1と同抵抗値となるようにフィードバック制御される。すなわち、抵抗値が一定で保たれるので、上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdの温度も一定に保たれるように各電圧Vu、Vdは制御される。本実施形態では、Vu、Vdが上流側電気抵抗素子Ru、下流側電気抵抗素子Rdを発熱させるために印加される電圧である上流側電圧Vu、下流側電圧Vdとして用いられる。
【0038】
熱式流量計100は
図4に示すように流量検出回路SPから出力される上流側電圧Vu、下流側電圧Vdからガスの流量を算出する前述した演算器CALをさらに備えている。演算器CALは、(Vu-Vd)/(Vu+Vd)をセンサ出力とし流量制御装置200が例えば縦置きされた場合に発生するサーマルサイフォン現象によるゼロ点出力の誤差を補正するように構成されている。
【0039】
ここで、演算器CALによるゼロ点出力の補正機能の概略は
図5に示すようになる。流量制御装置200が縦置きされ、ガスの流入口INが下向きとなっている場合には、流量制御装置200へのガスの流出入が無い場合でも、センサ流路4内に発生するガスの対流により上流側電気抵抗素子Ruから下流側電気抵抗素子Rdに向かってガスの流れが発生する。このため、ガスの流入口INが下向きの場合には補正前のセンサ出力には正の値の誤差が発生する。また、補正前のセンサ出力には流量制御装置200内に封入されているガスの圧力が高くなるほど、ゼロ点出力の誤差が大きくなる。同様に流量制御装置200の流入口INが上向きとなっている場合には、対流により下流側電気抵抗素子Rdから上流側電気抵抗素子Ruへの流れが検知されるため、補正前のセンサ出力は負の値となって誤差が生じる。この場合も流量制御装置200内に封入されているガスの圧力が高くなるほどゼロ点出力の誤差が大きくなる。
【0040】
演算器CALは各状態におけるゼロ点出力の誤差である傾斜影響を推定し、補正前のセンサ出力から傾斜影響を補正することで実際の流量に近づけるように構成されている。
【0041】
以下に演算器CALの詳細な構成について
図4の機能ブロック図を参照しながら説明する。
【0042】
演算器CALは、少なくともセンサ出力生成器5、傾斜影響推定器6、流量算出器7、受付部8としての機能を発揮するものである。
【0043】
センサ出力生成器5は上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdに印加される電圧である上流側電圧Vu、下流側電圧Vdが入力され、(Vu-Vd)/(Vu+Vd)をセンサ出力として演算して出力するように構成されている。ここで、電圧差(Vu-Vd)はセンサ流路4に流れるガスの流量に応じて変化する値であり、電圧和(Vu+Vd)はセンサ流路4に流れるガスの温度指標に相当する。センサ出力は電圧差を電圧和で割ることにより、流量に対する温度影響を補正した形にしてある。
【0044】
傾斜影響推定器6は、センサ流路4の姿勢に応じてセンサ出力に生じる傾斜影響を少なくとも測定対象のガスのプラントル数に基づいて推定するものである。本実施形態では傾斜影響推定器6は、プラントル数だけでなく、ガスのヌセルト数、グラスホフ数に基づいて傾斜影響を推定する。また、傾斜影響推定器6には流量制御装置200内に設けられた各種センサ又は別途半導体製造プロセス中に設けられた各種センサから得られるガスの圧力、及び、温度が入力され、傾斜影響推定器6はこれらの値に基づいて傾斜影響を出力する。
【0045】
傾斜影響推定器6は、ガスの温度、圧力、各物性値からプラントル数及びグラスホフ数からヌセルト数を算出する。そして、ヌセルト数の値とセンサ出力の一部を構成する電圧差(Vu-Vd)との間の関係式に基づき、流れがない状態での電圧差(Vu0-Vd0)を傾斜影響として推定する。このような機能を実現するために傾斜影響推定器6は、少なくとも温度取得部61、圧力取得部62、物性値記憶部63、ヌセルト数算出部64、ゼロ点出力算出部65を備えている。
【0046】
温度取得部61は、例えば流量制御装置200のブロック体1に設けられた温度センサ(図示しない)の出力信号をガスの温度として取得し、その温度をヌセルト数算出部64に出力する。なお、流量制御装置200が接続されているラインに設けられる別の温度センサの情報を温度取得部61が取得してもよい。
【0047】
圧力取得部62は、流量制御装置200のメイン流路内に存在するガスの圧力を測定する圧力センサ(図示しない)の出力信号を取得する。圧力センサは、例えば流量制御装置200自体に設けられてメイン流路を流れるガスの圧力を測定するものであってもよいし、流量制御装置200の前段及び後段にそれぞれ設けられる開閉バルブ(図示しない)と流量制御装置200との間を接続する流路上に設けられたものであってもよい。圧力取得部62は例えば各開閉バルブが閉止されており、流量制御装置200へのガスの流出又は流入が存在しない状態で取得される圧力を流量制御装置200内に封入されているガスの圧力としてヌセルト数算出部64に出力する。
【0048】
ヌセルト数算出部64は、ヌセルト数をNu、グラスホフ数をGr、プラントル数をPr、比例定数をA、指数をnをとした場合に、Nu=A(Gr×Pr)
nに基づきヌセルト数Nuの値を算出する。ここで、本実施形態では比例定数A=1、指数n=2としている。これは、
図6に示す実験結果から上記のような値を採用した場合に、グラスホフ数Gr及びプラントル数Prの積からヌセルト数Nuを算出できることを本願発明者らが見出したからである。
【0049】
ここで、プラントル数Prを用いない場合のヌセルト数Nuの推定精度について
図7に示す測定結果に基づいて説明する。なお、
図6及び
図7のグラフはそれぞれ比較可能とするために各軸の補助線の間隔は、ほぼ同じ単位量に揃えてある。
図7に示すようにヌセルト数Nuとグラスホフ数Grとの間には相関関係はあるものの、グラスホフ数Grの値が小さい領域ではグラスホフ数Grに対するヌセルト数Nuのばらつきが大きくなる。すなわち、グラスホフ数Grとヌセルト数Nuとの間で近似直線を算出して、この近似直線に基づきグラスホフ数Grからヌセルト数Nuを推定したとしても、本実施形態のように(Gr×Pr)
2からヌセルト数Nuを推定する場合と比較して推定精度が大きく劣ることになる。
図6及び
図7の比較結果から本実施形態の熱式流量計100の構成に適したヌセルト数Nuの算出方法は、(Gr×Pr)
2を用いたものであることが確認できる。
【0050】
本実施形態のヌセルト数Nuの算出方法についてさらに詳述する。センサ流路4の内径をL、上流側電気抵抗素子Ru又は下流側電気抵抗素子Rdの抵抗値をR、測定対象の流体の熱伝導率をλ、測定対象の流体の定圧モル比熱をCp、測定対象の流体の粘性をη、測定対象の流体の密度をρ、重力加速度をg、測定対象の流体の体積膨張率をβ、上流側電気抵抗素子Ru又は下流側電気抵抗素子Rdと測定対象の流体との温度差をΔTとした場合に、グラスホフ数Gr、プラントル数Prはそれぞれ以下のように表される。
Pr=Cpη/λ
Gr=ρgL3βΔT/η2
【0051】
ヌセルト数算出部64は、受付部8がユーザから受け付けたガス種等の情報や、圧力取得部62及び温度取得部61が取得した圧力及び温度に基づいて、物性値記憶部63に記憶されている定圧モル比熱Cp、体積膨張率β、密度ρ等を読み出す。そして、ヌセルト数算出部64は、読み出された各物性値と、取得された圧力及び温度を上記のグラスホフ数Gr及びプラントル数Prの算出式に代入して各値を算出する。最後にヌセルト数算出部64は、グラスホフ数Grとプラントル数Prの積の二乗をヌセルト数Nuとして算出する。算出されたヌセルト数Nuはゼロ点出力算出部65に出力される。
【0052】
ゼロ点出力算出部65は、傾斜影響である流れがない状態での電圧差(Vu0-Vd0)とヌセルト数Nuとの間の関係式に基づき、傾斜影響を算出する。具体的にはセンサ流路4の内径をL、上流側電気抵抗素子Ru又は下流側電気抵抗素子Rdの抵抗値をR、測定対象の流体の熱伝導率をλ、上流側電気抵抗素子Ru又は下流側電気抵抗素子Rdと測定対象の流体との温度差をΔTとした場合に、
Nu=L×{((Vu0-Vd0)2/R)/L2×ΔT)}/λ
に基づいて、ゼロ点出力算出部65は電圧差(Vu0-Vd0)を算出する。ここで、(Vu0-Vd0)の正負については流量制御装置200のガスの入り口が下側にある場合には正となり、ガスの入り口が上側にある場合には負となる。
【0053】
流量算出器7は、センサ出力生成器5から出力される補正前のセンサ出力(Vu-Vd)/(Vu+Vd)について傾斜影響推定器6が推定する傾斜影響を補正し、補正されたセンサ出力に基づいてガスの流量を算出する。すなわち、流量算出器7は補正前の電圧差(Vu-Vd)から傾斜影響である(Vu0-Vd0)を差し引くことでゼロ点出力のずれを補正し、補正されたセンサ出力{(Vu-Vd)-(Vu0-Vd0)}/(Vu+Vd)を所定の流量算出関数に代入して流量を算出する。より具体的には流量をF、流量算出関数Sens(X)とすると、F=Sens({(Vu-Vd)-(Vu0-Vd0)}/(Vu+Vd))で流量に変換される。
【0054】
このように構成された熱式流量計100及び流量制御装置200によれば、
図8のグラフに示すようにセンサ出力に対して現れる傾斜影響を精度よく補正して正確な流量を得られる。ここで、
図8に示す実測結果は複数種類のガス種について流入口INを上向き又は下向きにした場合の2通りの測定結果を示している。
図8(a)に示すようにガス種によっては流量制御装置200内の封止圧力が高いほどゼロ点出力のズレ量が顕著に大きくなっていたところ、
図8(b)に示すように本実施形態の補正方法を用いることにより、ガス種及び封止圧力によらずゼロ点出力のズレ量を大きく低減できている。これは傾斜影響推定器6が流体の圧力や熱伝導性の影響を受ける値であるプラントル数に基づいて傾斜影響を推定しているので、サーマルサイフォン現象による対流の大きさそのものだけでなく、ガス種による熱の伝わりやすさの違いがゼロ点出力に与える影響も補正できているためであると考えられる。
【0055】
ここで、比較例として
図7に示したようにプラントル数Prを用いずにグラスホフ数Grのみを用いてヌセルト数Nuを算出し、ゼロ点出力を補正した結果を
図9に示す。なお、
図8及び
図9のグラフはそれぞれ比較可能とするために各軸の補助線の間隔は、ほぼ同じ単位量に揃えてある。
図9(a)に示す何も補正しない場合のゼロ点出力と比較して、
図9(b)に示すようにグラスホフ数Grだけを用いた場合でもある程度はゼロ点出力を補正できる。しかしながら、
図8(b)及び
図9(b)を比較すれば分かるように、本実施形態のようにプラントル数Prも用いた場合のほうが、特に封入されている圧力が高い領域での補正精度が向上させられていることが確認できる。このように本実施形態の熱式流量計100であれば、ガス種や封入されているガスの圧力によらず、高精度にゼロ点出力を補正できる。
【0056】
また、傾斜影響推定器6はガスの圧力及び温度とガスの各物性値に基づいて傾斜影響の大きさを算出でき、流量制御装置200の取り付け向きに関する情報が設定されればゼロ点出力として現れる正負についても決定できるので、ジャイロセンサ等の流量制御装置200には通常用いられないような付加的なセンサを用いる必要がない。
【0057】
すなわち、ハードウェアとしては通常の熱式流量計から変更することなく、ソフトウェアの変更のみでサーマルサイフォン現象による測定誤差を精度よく補正できる。
【0058】
その他の実施形態について説明する。
【0059】
傾斜影響推定器の構成は前記実施形態において説明したものに限られない。すなわち、傾斜影響推定器は少なくとも流体のプラントル数に基づいて傾斜影響を推定するものであってもよい。例えば傾斜影響推定器がプラントル数とゼロ点出力の誤差を示す電圧差(Vu0―Vd0)との間の関係式に基づいて傾斜影響を推定するものであってもよい。あるいは傾斜影響推定器がグラスホフ数は用いずに、ヌセルト数とプラントル数と間の関係式に基づいて傾斜影響を推定するように構成してもよい。
【0060】
傾斜影響の表し方は電圧差(Vu0―Vd0)に限られるものではない。例えば上流側電圧Vu、下流側電圧Vdのそれぞれを個別に補正できるようにゼロ点出力Vu0、Vd0をそれぞれ個別に算出するようにしてもよい。このようなものであれば、温度指標Vd+Vuについても補正できる。
【0061】
流量制御装置の取り付け向きや測定対象となる流体(ガス)の種類については、受付部によってユーザが予め設定していたが、これらの情報については流量制御装置が自動で取得するようにしてもよい。例えば流量制御装置がジャイロセンサを備えており、流体の入り口の向きやセンサ流路の姿勢を取得するようにして、傾斜影響の正負を自動的に設定できるようにしてもよい。加えて、傾斜角度に応じて傾斜影響の補正量を変化させてもよい。また、温度指標Vu+Vdから流れている流体の熱伝導率を推定できるので、このような値から流体の種類を同定し、他の必要な物性値を得るようにしてもよい。
【0062】
本発明の熱式流量計の補正方法は定温度駆動方式のものに限られず、例えば定電流駆動方式のものやその他の方式にものにも適用可能である。例えば定電流駆動方式の熱式流量計は、流量検出回路が、前記上流側電気抵抗素子、及び、前記下流側電気抵抗素子を含むブリッジ回路と、前記ブリッジ回路に定電流を供給する定電流回路と、を備えたものであればよい。
【0063】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態同士の組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、傾斜影響に対する流体の熱伝導率の違いや圧力影響も考慮してサーマルサイフォン現象による流量の測定誤差を従来よりも精度よく補正することが可能な熱式流量計を提供できる。