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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】アライメント装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20240730BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20240730BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20240730BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20240730BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240730BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20240730BHJP
   H01L 21/68 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C23C14/56 G
C23C14/24 J
C23C14/50 K
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14
H01L21/68 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023016126
(22)【出願日】2023-02-06
(62)【分割の表示】P 2018234885の分割
【原出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2023052925
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姫路 俊明
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-527455(JP,A)
【文献】特開2020-094261(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0086715(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H05B 33/10
H05B 33/14
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜される基板を保持して搬送するキャリアと、前記キャリアが移動する搬送路を構成する搬送モジュールと、を含む搬送機構と、
前記キャリアと前記搬送モジュールの一方に配置された複数のコイルに電流または電圧を印加することで、前記複数のコイルと、前記キャリアと前記搬送モジュールの他方に配置された複数の磁石との間に発生する磁力を制御し、前記キャリアを磁気浮上させた状態で、前記キャリアに保持された前記基板とマスクとの相対位置を調整するアライメント手段と、
を備え、
前記キャリアは、前記基板と相対位置の調整された前記マスクを前記キャリアに保持する保持手段と、前記保持手段とは別に、前記基板と相対位置の調整された前記マスクを前記キャリアに保持された前記基板に吸着する吸着手段と、を有し、
前記保持手段は、前記吸着手段で吸着された状態の前記マスクを保持する
ことを特徴とするライメント装置。
【請求項2】
前記吸着手段は、前記マスクを吸着するマグネットを有する
ことを特徴とする請求項に記載のアライメント装置。
【請求項3】
成膜される基板を保持して搬送するキャリアと、前記キャリアが移動する搬送路を構成する搬送モジュールと、を含む搬送機構と、
前記キャリアと前記搬送モジュールの一方に配置された複数のコイルに電流または電圧を印加することで、前記複数のコイルと、前記キャリアと前記搬送モジュールの他方に配置された複数の磁石との間に発生する磁力を制御し、前記キャリアを磁気浮上させた状態で、前記キャリアに保持された前記基板とマスクとの相対位置を調整するアライメント手段と、
を備え、
前記キャリアは、前記基板と相対位置の調整された前記マスクを前記キャリアに保持する保持手段を有し、
前記保持手段は、相対位置の調整を行う際に退避する退避位置と、前記マスクを保持す
る保持位置とに移動する
ことを特徴とするライメント装置。
【請求項4】
前記キャリアは、前記基板を吸着する静電チャックを有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアライメント装置。
【請求項5】
前記キャリアは、前記静電チャックに接続された制御部を有する
ことを特徴とする請求項に記載のアライメント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アライメント装置関する。

【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の成膜対象物に蒸着材料を蒸着して成膜を行う蒸着装置が用いられており、例えば有機ELパネルの製造時に有機層を蒸着する有機層蒸着装置が知られている。かかる蒸着装置には、いわゆるクラスタ式のものとインライン式のものが存在する。クラスタ式の蒸着装置では、ガラス基板に成膜が行われる蒸着室が、複数クラスタ状に配置され、ガラス基板が各蒸着室に順に搬送され蒸着されることで、複数層の膜が蒸着される。一方、インライン式の蒸着装置では、成膜用のガラス基板がライン状に搬送されながら蒸着室において成膜される。インライン式においては、ライン方向に複数の蒸着室があってもよい。
【0003】
特許文献1には、インライン式の有機層蒸着装置が記載されている。特許文献1の装置は、ライン方向に、ガラス基板が搬入されるローディング部、ガラス基板に膜を蒸着する蒸着部、およびガラス基板を搬出するアンローディング部からなる、第1循環部を有している。装置はまた、基板を搬送する静電チャックを備えた搬送キャリアを回収する第2循環部を有している。
【0004】
蒸着処理時には、まずガラス基板が、装置外部から、第1循環部のローディング部の第1ラックに搬入される。搬入されたガラス基板は、ロボットによって、第2循環部に配置されている搬送キャリアの上面に載置される。搬送キャリアは、ガラス基板を吸着保持する。続いて、基板が搬送キャリアごと第1反転ロボットで反転され、蒸着部に搬送される。この反転によってガラス基板は搬送キャリアの下面に配置される。蒸着部では、基板の下部に配置された蒸着源により、蒸着部に固定配置されたマスクを介して、基板が搬送されながら蒸着される。
【0005】
蒸着完了後、アンローディング室に搬送された、ガラス基板を保持した搬送キャリアは、第2反転ロボットにより再度反転される。反転後、ガラス基板を保持した搬送キャリアは、搬出ロボットにより第2循環部に搬出される。第2循環部に移動した搬送キャリアは、ガラス基板の保持を解消する。続いて、搬出ロボットによりガラス基板のみが排出室に搬送され、装置外部に搬出される。ガラス基板の保持を解消した搬送キャリアは、第2循環部を搬送されて、第1循環部のローディング部に対応する位置に戻り、新たなガラス基板保持に用いられる。なお、蒸着部における基板の搬送には、側面磁気浮上軸受が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-016491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、蒸着する際に使用するマスクが蒸着部に固定されて配置されている。一方、ガラス基板の位置は搬送の経過とともに変化するため、ガラス基板とマスクを高精度にアライメント(位置決め)することが困難である。また特許文献1で
は、ガラス基板とマスクとのアライメントを蒸着部にガラス基板が搬送された後に行わなければならないため、特に複数の蒸着室がある場合、アライメントに長時間を要することになる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インライン式の蒸着装置において、基板とマスクのアライメントを精度よく行う技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
成膜される基板を保持して搬送するキャリアと、前記キャリアが移動する搬送路を構成する搬送モジュールと、を含む搬送機構と、
前記キャリアと前記搬送モジュールの一方に配置された複数のコイルに電流または電圧を印加することで、前記複数のコイルと、前記キャリアと前記搬送モジュールの他方に配置された複数の磁石との間に発生する磁力を制御し、前記キャリアを磁気浮上させた状態で、前記キャリアに保持された前記基板とマスクとの相対位置を調整するアライメント手段と、
を備え、
前記キャリアは、前記基板と相対位置の調整された前記マスクを保持する保持手段と、前記保持手段とは別に、前記基板と相対位置の調整された前記マスクを前記キャリアに保持された前記基板に吸着する吸着手段と、を有し、
前記保持手段は、前記吸着手段で吸着された状態の前記マスクを保持する
ことを特徴とするアライメント装置である。
本発明は、また、以下の構成を採用する。すなわち、
成膜される基板を保持して搬送するキャリアと、前記キャリアが移動する搬送路を構成する搬送モジュールと、を含む搬送機構と、
前記キャリアと前記搬送モジュールの一方に配置された複数のコイルに電流または電圧を印加することで、前記複数のコイルと、前記キャリアと前記搬送モジュールの他方に配置された複数の磁石との間に発生する磁力を制御し、前記キャリアを磁気浮上させた状態で、前記キャリアに保持された前記基板とマスクとの相対位置を調整するアライメント手段と、
を備え、
前記キャリアは、前記基板と相対位置の調整された前記マスクを前記キャリアに保持する保持手段を有し、
前記保持手段は、相対位置の調整を行う際に退避する退避位置と、前記マスクを保持する保持位置とに移動する
ことを特徴とするアライメント装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インライン式の蒸着装置において、基板とマスクのアライメントを精度よく行う技術を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】有機ELパネルの製造ラインを示す概略図
図2】有機ELパネルの製造ラインの制御ブロック図
図3】搬送ユニットを示す概略図であり、(a)は全体図、(b)は要部の拡大図、(c)は搬送キャリアの側面図
図4】搬送キャリアの分解斜視図
図5】(A)はマスクチャックを示す概略図、(B)は搬送キャリアの概略図
図6】アライメント室を示す概略図であり、(A)は全体図、(B)は要部の拡大図、(C)は平面図
図7】マグネットによる搬送の様子を示す図
図8】(A)搬送キャリアの斜視図、(B)はマグネットの配置構成を示す図
図9】アライメントのプロセスを示すフロー図
図10】アライメントの進行の各段階を示す概略図
図11】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
図12】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
図13】アライメントの説明図であり、(a)、(b)は基板とマスク上のアライメントマークの概念図、(b)はアライメント系の概念図
図14】制御ボックスについて説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置、あるいは装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0014】
本発明は、成膜対象物に蒸着による成膜を行う蒸着装置に好適であり、典型的には有機ELパネルを製造するためにガラス基板に対して有機材料等を蒸着して成膜する蒸着装置に適用できる。成膜対象物たる基板の材料は、静電チャック可能な材料であればよく、ガラス以外にも、高分子材料のフィルム、金属などの材料を選択することができる。基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。蒸着材料としても、有機材料以外に、金属性材料(金属、金属酸化物など)などを選択してもよい。本発明はまた、蒸着装置の制御方法や蒸着方法、薄膜を形成する成膜装置およびその制御方法、ならびに成膜方法としても捉えられる。本発明はまた、有機ELパネルを用いた電子デバイスの製造装置や電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0015】
(製造ライン全体構成)
図1は、有機ELパネルの製造ライン100の全体構成を示す概念図である。概略、製造ライン100は、蒸着処理工程搬送路100a、リターン搬送路100b、マスク受渡機構100c、キャリアシフタ100d、マスク受渡機構100e、および、キャリアシフタ100fを備える、循環型搬送路を構成する。循環型搬送路を構成する各構成要素、例えば基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105、減速室106、マスク分離室107、反転室108、ガラス基板排出室109などには、搬送路を構成するための搬送モジュール301が配置されている。詳しくは後述するが、本図には、製造プロセスの各エ程においてガラス基板G、マスクMおよび静電チャック308(符号C)がどのように搬送路上を搬送されるかが示される。
【0016】
蒸着処理工程搬送路100aでは、概略、外部よりガラス基板Gが搬送方向(矢印A)に搬入され、ガラス基板GとマスクMが搬送キャリア上に位置決めされて保持され、搬送キャリア302とともに搬送路上を移動しながら蒸着処理を施された後、成膜済みのガラス基板Gが排出される。リターン搬送路100bでは、蒸着処理完了後に分離されたマスクMと、ガラス基板排出後の搬送キャリア302が、基板搬入室側へと復帰する。
【0017】
マスク受渡機構100cでは、蒸着処理完了後に搬送キャリアから分離されたマスクMが、リターン搬送路へと移動される。リターン搬送路に移動したマスクMは、基板を排出して空になった搬送キャリアに302再び載置される。キャリアシフタ100dでは、ガラス基板Gを次工程へと排出した空の搬送キャリア302がリターン搬送路100bへと乗せ換えられる。マスク受渡機構100eでは、リターン搬送路100bを搬送されてきた搬送キャリアから分離されたマスクMが、蒸着処理工程搬送路100a上のマスク装着
位置P2へと搬送される。キャリアシフタ100fでは、マスクM分離後の空の搬送キャリアが、リターン搬送路100bから蒸着処理工程搬送路100aの始点のガラス基板搬入位置P1へと搬送される。製造ライン100を用いた製造プロセスの詳細については後述する。
【0018】
図2は、製造ライン100の制御ブロックの概念図である。制御ブロックは、製造ライン100の全体の稼働情報を管理する稼働管理制御部700と、運行コントローラ20を含む。また、製造ライン100を構成する基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105等の各室(各装置)には、各室内部の駆動機構を制御する駆動制御部が設けられている。すなわち、基板搬入室101には基板搬入室制御部701a、反転室102には反転室制御部701b、アライメント室103にはアライメント室制御部701c、加速室104には加速室制御部701d、蒸着室105には蒸着室制御部701eが設けられている。上記以外の各装置(各室)にも、それぞれ制御部701Nが設けられている。これらの駆動制御部と全体を管理する稼働管理制御部700は、制御手段に含めて考えてもよい。また運行コントローラ20も、制御手段に含めて考えてもよい。
【0019】
また、基板搬入室101には搬送モジュールa(301a)、反転室102には搬送モジュールb(301b)、アライメント室103には搬送モジュールc(301c)、加速室104には搬送モジュールd(301d)、蒸着室105には搬送モジュールe(301e)が設けられている。上記以外の各室にも、それぞれ搬送モジュール301Nが設けられている。詳しくは後述するが、各装置に配置されている搬送モジュール301には、ガラス基板Gおよび搬送キャリア302の搬送方向に沿って、複数の駆動用コイルがライン状に配置されている。各搬送モジュール301に設けられたエンコーダの値に応じて、各駆動用コイルに流れる電流もしくは電圧を制御することにより、搬送キャリア302の駆動が制御される。搬送キャリア302にライン状に配置された磁石と、搬送モジュール301に搬送キャリア302の磁石に対向するように配置されたコイルが協働して基板を搬送することから、搬送キャリア302と搬送モジュール301を合わせて搬送ユニット300(搬送機構)と考えてもよい。
【0020】
各搬送モジュール301には、搬送キャリア302の位置を検出するエンコーダが設置されている。エンコーダの検出値に応じて、稼働管理制御部700が、各室の駆動制御部に指示を送信し、各室の駆動機構の制御を開始または停止させたり、制御状態を変化させたりする。なお、制御のトリガはエンコーダ検出値に限られず、制御に用いるのであれば任意のセンサを利用できる。
【0021】
(搬送モジュールの構成)
搬送モジュール301は、搬送キャリア302が通過するための開口を有するメインフレームを備え、搬送キャリア302の搬送方向に沿ってライン状に、搬送方向に対して左右に対になるように、駆動用コイル306とコイルドライバを備える。搬送キャリア302が移動する各搬送路は、複数の搬送モジュール301が、開口同士が合わさるように直列に配列されることによって構成される。また搬送モジュール301は、搬送キャリア302を搬送方向にガイドするガイド機構と、磁力によって搬送キャリア302の駆動および姿勢制御を行う駆動系を備えている。これにより、搬送キャリア302が、複数の搬送モジュール301で構成される搬送路上を、連続的に、かつ軌道から外れることなく走行可能となる。また搬送キャリア302は送路上に複数個同時に走行させることができる。
【0022】
搬送ユニット300は、リニアモータ制御により搬送を行い、典型的にはムービングマグネット型リニアモータを用いる。図2に示したように、搬送ユニット300は、N台の搬送モジュール301a~301Nおよび運行コントローラ20を備えている。搬送モジ
ュール301a~301Nは、連続して並べて配置されて、1つの搬送路を構成する。搬送キャリアは、搬送モジュール301a~301Nで構成された搬送路上を移動する。
【0023】
運行コントローラ20は、リニアモータ制御システムに存在するすべての搬送キャリア302に対して、時間と目標位置の対応付けを示した駆動指令としての駆動プロファイルを送信する。運行コントローラ20は、製造ライン上の搬送キャリア302を一斉に動かすように、搬送モジュール301a~301Nに一群搬送指令としてのスタート信号を送信する。また、搬送モジュール301a~301Nの動作が異常になった場合、運行コントローラ20は搬送モジュール301a~301Nからエラー信号を受信し、全ての搬送モジュール301a~301Nを停止する等の制御を行う。
【0024】
(リニアモータ制御)
ここで、図7を参照してリニアモータの推進制御について説明する。本図は、製造ラインが複数備える搬送モジュール301の一つと、その制御手段のうち、リニアモータ制御に関連する部分を示した概略構成図である。なお、本図はムービングマグネットのリニアモータの推進制御の原理を説明するためのものであり、以下の説明における各部材の配置関係や数(例えば、コイルと磁石の上下関係、キャリア搬送方向、制御ブロックの構成)などはあくまでも例示である。図7において、X軸は搬送キャリア302が移動する進行方向、Y軸は水平面においてX軸と交差する方向、Z軸はコイルユニット1501から見て鉛直方向と定義する。
【0025】
搬送モジュール301は、複数のコイルユニット1501~1504を備えている。複数のコイルユニット1501~1504を連続して配置することによって、搬送キャリア302の搬送路が形成される。例えば、搬送キャリア302が備えるガイド溝に搬送モジュール301に取り付けられたローラベアリングが挿入されることにより、搬送キャリア302の軌道が規定される。搬送キャリア302はそれぞれ、可動子となる磁石1514~1516を備える。
【0026】
コイルユニット1501~1504は、複数相、つまりU相、V相、W相からなる3相駆動を可能とするように複数のコイルを有している。本図の例のコイルユニット1501~1504はそれぞれ、U相、V相、W相のそれぞれの相のコイルを2個ずつ直列接続した6個のコイルから構成される。コイルユニット1501は、複数のコイルと電磁鋼板で形成したコアとを組合せることにより構成されているが、コアを用いない構成であっても良い。1つのコイルユニット1501の長さは、例えば100mmで形成されていてもよいが、これに限られない。また、コイルユニット1501の直列接続数を限定するものではなく、コイルユニット1501は、U相、V相、W相の3相を形成する3個のコイルで構成されていても良い。
【0027】
電流制御器1521~1524は、対応するそれぞれのコイルユニット1501~1504と電力電線等の電線路によって電気的に接続されており、U相のコイルにU相の電流Iu、V相のコイルにV相の電流Iv、W相のコイルにW相の電流Iwをそれぞれ供給する。この結果、各コイルがそれぞれ通電により励磁され、コイルユニット1501~1504のそれぞれが搬送キャリア302を制御可能となる。
【0028】
電流制御器1521~1524は電流情報セレクタ1525に接続されており、電流情報セレクタ1525によって選択された電流制御器が、対応するコイルユニットに駆動電流を供給する。電流情報セレクタ1525は、モータコントローラ1530、1540、1550と接続されている。電流情報セレクタ1525は、モータコントローラ1530、1540、1550から送信される電流制御情報交換信号に基づいて、モータコントローラが出力する電流制御情報の入力先として電流制御器1521~1524のいずれか1
つもしくは複数選択して切り替える。電流制御情報交換信号とは、電流情報セレクタ1525が、制御対象の搬送キャリア302を制御するためのコイルユニットに電流を供給する1つまたは複数の電流制御器を選択するための信号である。以下にモータコントローラ1530について説明するが、モータコントローラ1530、1540、1550はそれぞれ同じ構成である。
【0029】
モータコントローラ1530は、搬送キャリア302の運行制御を行う位置指令器1531と、制御偏差算出器1532、および位置制御器1533とを備えている。位置指令器1531は、制御対象の搬送キャリア302の目標位置となる位置指令情報を制御偏差算出器1532に出力する。位置指令器1531は、運行コントローラ20が送信した駆動プロファイルに基づき搬送キャリア302の位置指令情報を制御偏差算出器1532に出力する。制御偏差算出器1532は、位置指令器1531から出力された位置指令情報と、複数の光学式エンコーダ1561~1564のうちのいずれかのエンコーダから出力される搬送キャリア302の位置との差を算出し、求めた差を制御偏差情報として出力する。
【0030】
位置制御器1533は、制御偏差算出器1532で算出された制御偏差情報によってPID(Proportional Integral Derivative Controller)制御を行い、電流制御信号としての電流制御情報を出力する。なお、モータコントローラ1530が出力する電流制御情報交換信号は、位置制御器1533が生成するようにしてもよい。同様に、モータコントローラ1540は位置指令器1541、制御偏差算出器1542、及び位置制御器1543を備え、モータコントローラ1550は位置指令器1551、制御偏差算出器1552、及び位置制御器1553を備えており、機能についても同様である。本図では、モータコントローラの数を3つとしたが、制御対象となる搬送キャリア302の数に対応したモータコントローラを設けてよい。また、運行コントローラ20が各モータコントローラ1530、1540、1550に送信した駆動プロファイルは、各位置指令器1531、1541、1551がアクセス可能なメモリ(図示せず)に記憶されるようにしてもよい。
【0031】
光学式エンコーダ1561~1564はそれぞれ、コイルユニット1501~1504の制御領域に対応するように配置されている。光学式エンコーダ1561~1564は、搬送キャリア302に配置されたスケールの位置を検出して位置を特定する。なお、搬送キャリア302が搬送路上のいずれの場所にあっても位置検出が可能なように、複数の光学式エンコーダ1561~1564が配置される位置と、スケール205の長さとを決定することが好ましい。また、光学式エンコーダ1561~1564は、1カウントあたり数μmの分解能を有していることが好ましい。なお、光学式エンコーダ1561~1564の配置や個数は、図示例に限定されない。また、位置検出機構として、磁気式エンコーダなどを用いても良い。また、光学式エンコーダ1561~1564としては、アブソリュート型やインクリメント型の何れを用いてもよい。
【0032】
位置情報セレクタ1565は、光学式エンコーダ1561~1564にそれぞれ接続している。位置情報セレクタ1565から伸びる矢印に付された符号a、b、cはそれぞれ、モータコントローラ1530、1540、1550の符号a、b、cと対応する。つまり、位置情報セレクタ1565は、モータコントローラ1530、1540、1550が備えている制御偏差算出器1532、1542、1552と接続されている。コントローラ制御器1570は、位置情報セレクタ1565と、モータコントローラ1530、1540、1550に接続されている(図示せず)。コントローラ制御器1570は、光学式エンコーダ1561~1564が検出した搬送キャリア302をモータコントローラ1530、1540、1550のいずれかへ割り当て、その割り当てに関する情報である位置情報選択信号を位置情報セレクタ1565へと送信する。位置情報セレクタ1565は、
コントローラ制御器1570から送信される位置情報選択信号によって、モータコントローラ1530、1540、1550のいずれかと、光学式エンコーダ1561~1564のいずれかを通信可能に組合せる。コントローラ制御器1570は、各モータコントローラ1530、1540、1550から、搬送キャリア302を制御中なのか、制御をしていない休止状態なのかを示す制御状態情報を受信する。コントローラ制御器1570は、休止状態のモータコントローラに対して光学式エンコーダが検出した搬送キャリア302の位置を送信可能となるように、図示しないメモリ等に制御状態情報を記憶する。
【0033】
このような構成により、制御システムが各搬送キャリア302の位置を検出し、対応するコイルユニットに印加する電流または電圧を制御して、搬送キャリアを制御することが可能になる。
【0034】
(搬送キャリアの構成)
図3(a)は固定部としての搬送モジュール301、可動部としての搬送キャリア302からなる搬送ユニット300を図1の矢印Aで示す搬送方向から見た正面図である。図3(b)は図3(a)における枠Sで囲む要部の拡大図、図3(c)は搬送キャリア302を側面図、図4は搬送キャリアの分解斜視図である。搬送モジュール301は、製造ライン100の全域にわたって複数個配列されて搬送路を構成する。各搬送モジュール301の駆動用コイルに供給する電流を制御することにより、複数の搬送モジュール全体を1つの搬送路として制御し、搬送キャリア302を連続して移動させることができる。
【0035】
図において、搬送キャリア302のキャリア本体302Aは、矩形状のフレームで構成され、その左右両側面には搬送方向Aに平行な断面コ字形状に開くガイド溝303a,303bがそれぞれ形成されている。一方、搬送モジュール301側の側板3011a,3011b内面には、複数のローラ列からなるローラベアリング(ガイドローラ)304a,304bが回転自在に取り付けられている。そして、各ガイド溝303a,303b内に、ローラベアリング304a,304bがそれぞれ挿入されることによって、搬送キャリア302が搬送モジュール301に対して、矢印A方向(搬送方向)に移動自在に支持される。
【0036】
搬送キャリア302のキャリア本体302Aの両側部のガイド溝303a,303bの形成位置における上面には、複数のマグネットを所定のパターンで配列した駆動用マグネット305a,305b(磁石列)が、基板の搬送方向(進行方向)に平行に、リニアに配置されている。また、搬送モジュール301側には、複数のコイルを所定のパターンで配列した駆動用コイル306a,306b(コイル列)が配置されている。そして、駆動用マグネット305a,305bと、駆動用コイル306a,306bは、搬送モジュール301に搬送キャリア302が支持されたときに、それぞれ互いに対向して近接するように配置されている。搬送キャリア302側の駆動用マグネット305a,305bと、搬送モジュール301側の駆動用コイル306a,306bとの間に作用する電磁力によって、搬送キャリア302を浮上させたり、矢印Aの方向(搬送方向)に走行させたりできる。
【0037】
なお、搬送キャリア側のガイド溝303a,303bはローラベアリング304a、304bの転動面を挟むように上下一対の平行なガイド面を備えており、ガイド面間の開口幅303Wは、搬送モジュール側の各ローラベアリング304a,304bの直径304Rよりも、クリアランスCLだけ広く形成されている(303W=304R+CL)。この構成により、ガイド溝内において、ローラベアリング304a,304bが所定のクリアランスCLの範囲内で浮上できる。
このような構成により、上述したムービングマグネット型のリニアモータ制御を実施できる。すなわち、駆動系を構成する駆動用コイル306a,306bを構成する複数のコ
イルそれぞれに供給する電流を制御することにより、搬送キャリア302の進行方向における推進力を発生させたり、搬送モジュール301に対する磁気浮上力を発生させたりすることができる。なお、搬送機構が備える搬送モジュールと搬送キャリアの一方にコイルを、他方に磁石を配置する構成であればよく、ムービングコイル方式であっても搬送キャリアの浮上アライメントを行うことができる。
【0038】
さらに、図3に示したような搬送モジュール301と搬送キャリア302の構成によれば、ローラベアリング304a,304bを用いて、搬送キャリア302をローラで支持しながら搬送することも可能である。すなわち、搬送キャリア302が磁気浮上していない状態(搬送キャリア302が自重で沈み、ガイド溝303a、303bがローラベアリング304a、304bに接触支持されている状態)で搬送キャリア302を移動させることができる。
【0039】
(搬送モードの選択)
搬送キャリア302を移動させる際には、ローラ搬送モードと磁気浮上搬送モードの何れかを選択可能である。ローラ搬送モードは、搬送キャリア302のガイド溝303a,303bと搬送モジュール301側のローラベアリング304a,304bの当接によって搬送キャリア302を支持した状態で、マグネットとコイルとの間に発生する電磁力により進行方向の駆動力を発生させて、搬送キャリア302を搬送するモードである。磁気浮上搬送モードは、搬送キャリアを磁気浮上させ、ガイド溝303a,303bとローラベアリング304a,304bが非接触の状態で、電磁力により進行方向の駆動力を発生させて搬送キャリア302を搬送するモードである。磁気浮上搬送モードでは、機械的な接触部分がないため、塵や摩擦による粉体等の発生が抑制される。そのため、特に真空蒸着処理を行う際の蒸着品質劣化の防止に好適である。一方、塵や摩擦による粉体が比較的問題とならない蒸着室外などでは、ローラ搬送モードを用いることができる。
【0040】
なお、図3では、ガイド溝303a,303b内にローラベアリング304a,304bを挿入している支持構造を採用している。そのため、磁気浮上搬送中に停電や故障等が発生した際に、搬送キャリア302が搬送路上に落下して機構を破損したり、搬送路を逸脱したりするようなトラブルを防止する効果もある。
【0041】
また、駆動用マグネット305a,305bを構成する複数のマグネットの配列パターン、駆動用コイル306a,306bを構成する複数のコイルの配列パターン、および、各コイルに供給する電流または電圧を制御することにより、磁気浮上搬送モードにおいて、搬送キャリア302の位置や姿勢を様々に制御できる。位置や姿勢とは例えば、搬送キャリア302の進行方向(X軸)における位置、進行方向と同一平面(ガラス基板Gの平面と平行な面)内で直交する方向(Y軸)における位置(すなわち進行方向に対する左右位置)、搬送モジュール301に対する高さ方向(Z軸)における位置、さらに、X軸まわりの回転位置、Y軸まわりの回転位置、Z軸まわりの回転位置、等である。搬送キャリア302の位置や姿勢は、搬送モジュールと搬送キャリア間に配された位置センサ310(リニアエンコーダ、距離センサ、スケール等)によって検出された位置情報に基づいて、搬送キャリアの位置を補正するように制御することができる。マグネットの配列パターンとしては、例えば図8のような方式がある。なお、詳しくは後述するが、マグネットとコイルを用いた位置姿勢制御は、搬送キャリア302に保持されたガラス基板Gに対するマスクMのアライメント動作にも使用できる。
【0042】
図8(B)に示すように、搬送キャリア302の搬送方向をX軸、ガラス基板Gの平面と平行な面内でX軸と直交方向をY軸、X軸およびY軸と直交する方向をZ軸とすると、駆動用マグネット305a,305bは、左右に2列ずつ配置され、基本的にS極とN極の磁極がX軸方向に沿って交互に配置されX軸方向への推進力を得るためのX軸磁極配置
305xとなっている。その他に、S極とN極の磁極がY軸方向に配置されY軸方向への推進力を得るためのY軸磁極配置305yを備えている。このY軸磁極配置は、左右の駆動用マグネット305a,305bにそれぞれX軸方向に離れた位置に2か所ずつ、計4か所に設けられている。Y軸磁極配置305yが設けられるのは、左右の2列ずつ設けられるマグネットの内の1列である。
なお、詳しくは後述するが、駆動用マグネット305a,305bと駆動用コイル306a,306bを用いた位置姿勢制御は、搬送キャリア302に保持されたガラス基板Gに対するマスクMのアライメント動作にも使用できる。
【0043】
(搬送キャリア上のガラス基板GとマスクMの保持機構)
次に、搬送キャリア302にガラス基板Gを保持する機構と、ガラス基板上にマスクMを保持する機構について説明する。本発明によれば、ガラス基板は静電吸着手段である静電チャック308によって、マスクは磁気吸着手段としての磁気吸着チャック307によってそれぞれ搬送キャリアに重ねて保持されるように構成されている。
【0044】
図4において、矩形フレーム状の搬送キャリア302のキャリア本体302A下面には、マスクMを磁気的に吸着する磁気吸着チャック307、ガラス基板Gを静電力によって吸着する静電チャック308を重ねて収納したチャックフレーム309が取り付けられており、キャリア本体302Aの矩形フレーム上面には、静電チャック308に電荷を帯電させる制御部が内蔵された静電チャック制御ユニット(制御ボックス312)が配されている。
この制御ボックス312を動作させてチャックフレーム309内の静電チャック308を帯電させることにより、ガラス基板Gを吸着して保持することができる。
【0045】
磁気吸着チャック307は、図3に示すように、チャック本体307xと、チャック本体302xの背面(ガラス基板Gと反対側)からキャリア本体302側にZ軸方向に延びる2本のガイドロッド307aとを有している。このガイドロッド307aがキャリア本体302Aのフレームに設けられた筒状ガイド307bに摺動自在に挿入され、チャックフレーム309内を上下に移動可能となっている。
【0046】
磁気吸着チャック307は、外部に設けられた駆動源側の連結端部の駆動側連結端部に設けられた駆動側フック307gに係脱可能な連結部である連結フック307cを有している。この連結フック307cが駆動側フック307gと係合することによって、ガイドロッド302aを介して、チャック本体307xを上下方向に駆動させる。駆動側フック307gは、装置外部に配置される流体圧シリンダやボールねじを用いた駆動装置等のアクチュエータ307hによって制御される。
【0047】
図示例では、ガイドロッド307aの先端部に固定されたキャップ307iに連結フック307cが設けられると共に、キャップ307iの側面に側方に延びる位置決め片307dが設けられている。一方、キャリア本体302A側には、この位置決め片307dが、チャック本体307xの上端位置にて当接する上端ロック片307fと、下端位置をロックする下端ストッパ307eとに選択的に係合可能となっている。上端ロック片307fは水平方向に移動可能となっており、上端位置にて位置決め片307dの下面に係合する係合位置と、位置決め片307dから離れる退避位置間を移動可能となっており、退避位置において、位置決め片307dが下方に移動可能となり、下端ストッパ307eに当接して下降位置が規制される。この下降限は、マスクMを磁気吸着する位置であるが、チャック本体307xと静電チャック308との間には若干隙間を設けている。これによって、磁気吸着チャック307の重量が静電チャック308に作用するのを回避している。
【0048】
この上端ロック片307の駆動も外部駆動力によって駆動されるもので、たとえば、回
転駆動のアクチュエータ307mで先端に設けたピニオンを回転駆動させ、搬送上端ロック片307または、直線ガイドの可動部材に設けたラックに噛合うようにすれば、水平移動させることができる。
上端ロック片307fは、図4に示すように、キャリア本体302Aに設けられた台座307jの上面に、所定間隔離間した一対の直線ガイド307kを介してスライド自在に支持されている。直線ガイド307kの間の台座307j上面には、下端ストッパ307eが突設されており、位置決め片307dは直線ガイド307kの間を通過可能な幅に構成されており、上端ロック片307fが退避位置に移動すると、下方への移動が可能となり、下端ストッパ307eに当接する。
【0049】
そして、チャックフレーム309の静電チャック308にガラス基板Gを保持した状態で、マスクMをガラス基板Gに対してアライメントを行いながら接近させ、マスクMがガラス基板Gに当接した状態で、磁気吸着チャック307をマスクM側へと移動させることによって、マスクMがガラス基板Gおよび静電チャック308を挟んで磁気的に吸着される。これによって、ガラス基板とマスクが相互に位置合わせされた状態で、チャックフレーム309にチャックされ、結果として搬送キャリア302に保持されることとなる。
【0050】
次に、図4を参照して、静電チャック308及び磁気吸着チャック307の形状について説明する。チャックフレーム309は、キャリア本体302Aより一回り小さい矩形状の部材で、静電チャック308の外周縁を保持し、磁気吸着チャック307と上記格子状の格子状の支持フレームの4辺をガイドするガイド壁を構成している。
静電チャック308はセラミック等の板状部材で、内部電極に電圧を印加し、ガラス基板Gとの間に働く静電力によってガラス基板Gを吸着するもので、チャックフレーム309の下側縁に上下に移動不能に固定されている。静電チャック308は、図4に示すように、複数のチャック板308aに分割されており(図では6枚)、各チャック板308aの辺同士が複数のリブ309bによって固定されている。リブ309bは、磁気吸着チャック307の支持枠が干渉しないように複数に分かれている。
【0051】
磁気吸着チャック307のチャック本体307xは、矩形状の枠体307x1にマスクMに形成された遮蔽パターンに対応するパターンの格子状の支持フレーム307x2と、支持フレーム307x2に取り付けられる不図示の吸着マグネットと、を備えた構成となっている。吸着マグネットは、支持フレーム307x2にヨーク板307x3を介して格子に沿ってS極、N極のマグネットが交互にライン状に配列されている。
【0052】
また、搬送キャリア302下面のチャックフレーム309の周囲複数箇所(実施例では10箇所)には、磁気吸着チャック307とは別に、マスクMを保持するマスク保持手段としてのマスクチャック311が設けられている。このマスクチャック311は、外部からの駆動力で駆動される構成で、搬送キャリア302には駆動源は搭載されていない。
【0053】
図5には、このマスクチャック311の構造が示されている。マスクチャック311は、図示のように、搬送キャリア下面に4本の支柱311dによって取り付けられたベース311aに、マスクM周縁のマスクフレームMFを上下より挟持するチャック片311b,311cを備えている。上側のチャック片311bはマスクMの周縁のマスクフレームMFの上面に当接する位置に配され、下側のチャック片311cは、回転軸311fによって矢印311g方向に回転駆動可能となっている。すなわち、下側のチャック片311cは、上側チャック片311bとともにマスクフレームMFを挟持する図示の挟持位置と、マスクフレームMFから離間し、マスクフレームの上下動を妨げない311hで示す退避位置に移動可能である。これらの移動は、外部に配置されるアクチュエータ311m(図3(A)参照)からチャンバ内部に延びる駆動側の連結端部311jに、連結部311iが連結されることによって回転軸311fを回転駆動することによって行われる。
【0054】
また回転軸311fは、チャック片311bとともにマスクフレームMFを挟持した状態で、チャック片311cを搬送キャリア側へと弾性的に付勢する付勢部材311kを備えている。この付勢部材311kの付勢力によって、マスクMを確実に搬送キャリア302に保持し、位置ずれを防止することができる。
【0055】
マスクチャック311は、マスク装着前は、上記退避位置に移動されており、マスクMが後述の昇降装置によって搬送キャリア302下面へと上昇し、ガラス基板Gに当接された状態となると、図3に示すアクチュエータによって連結部311iを介して駆動され、チャック片311cがマスク及びガラス基板側へと回転し、マスクの周縁部分を係止し、弾性的に搬送キャリア302にチャックした状態となる。
【0056】
なお、マスクチャック311は、マスクMの周縁のマスクフレームMFを係止することによって、ガラス基板Gを挟んで保持しているため、以後、ガラス基板Gに対する静電チャック308、マスクMに対する磁気吸着チャック307を解除しても、ガラス基板GとマスクMを重ねて装着保持した状態を維持することができる。
【0057】
図5(b)は、この搬送キャリアを簡略化して概念的に示した図である。図3(a)と同一の機能部分に、同一の符号を付している。
すなわち、搬送キャリア302へのガラス基板Gの保持には静電チャック308が用いられ、マスクMの保持には磁気吸着チャック307が用いられ、両チャックともチャックフレーム309内に組み込まれている。磁気吸着チャック307によるマスクMの保持は、チャックフレーム309内における磁気吸着チャック307の昇降動作によって動作される。なお、図3では、上端ロック片を水平移動させているが、図5では、回転駆動させる構成としている。ロック、アンロックができればよく、水平移動でもよいし、回転移動でもよい。磁気吸着チャック307が完了した後は、機械式のマスクチャック311により、マスクフレームMFがキャリア本体302Aに保持される。マスクチャック311には与圧用スプリング等の付勢部材311kが組み込まれており弾性的に保持される。これら、静電チャック308、磁気吸着チャック307及びマスクチャック311の3種のチャックが搬送キャリア302にコンパクトに組み込まれている。
【0058】
また、ガラス基板Gの静電チャック308を制御する制御ボックス312は、充電式の電源とともに搬送キャリア302に組み込まれており、また制御系からの指令を通信する無線通信手段を備えており、製造プロセス全工程において、外部より電源供給ケーブル、通信ケーブル等の接続を行う必要がないように考慮されている。
【0059】
(制御ボックス)
図14を参照して、静電チャックの制御ボックスの構成と機能を説明する。静電チャックを利用するためには、静電チャックに対して電力を供給するとともに、制御信号を送信する必要がある。しかし、給電や通信に有線ケーブルを用いる場合、搬送キャリアの移動自由度が低下するおそれがある。そこで搬送キャリア302は、静電チャックに対して非接触で給電及び制御信号送信を行うための制御ボックスを備える。
【0060】
図14は蒸着装置における制御ボックスの配置と構成の概略を示す。搬送キャリア302は、所定の真空度に保たれた真空チャンバ1430内を搬送モジュール301によって搬送される。ここで真空チャンバ1430は、製造ライン100内の何れのチャンバでもよい。搬送キャリア302は、ガラスキャリアフレーム1420によって保持された静電チャック308を備えている。そして、図14のように基板の被成膜面が下側を向いているときに搬送キャリアを上から見ると、搬送キャリア上部には制御ボックス1400を含む種々の構造物が配置されている。制御ボックス内部は大気圧に維持されており、真空チ
ャンバ1430からはシールされている。制御ボックス1400は、制御回路1401、電池1402、赤外線通信ユニット1403、無線通信ユニット1404、無線通信用アンテナ導入端子1405、ビューポート1406、非接触受電用コイル1407、電源1408などを含む。
【0061】
また、真空チャンバ側には、制御ボックス側に電力を供給するために、電源1431、非接触給電用コイル1432が備えられる。また通信のために、無線通信ユニット1433、無線通信用アンテナ導入端子1434、ビューポート1435、赤外線通信ユニット1436が備えられる。
【0062】
外部から制御ボックス1400への給電は、コイルを用いた電磁誘導方式や磁界共振方式などの非接触給電方式により行われる。真空チャンバ外部に配置された電源1431(例えばDC24V電源)が非接触給電用コイル1432に電流を流すことにより磁界が変化し、制御ボックス内部の非接触受電用コイル1407に電流が発生して、電池1402(例えばリチウムイオン充電池)に蓄積される。これにより、静電チャック用の電源1408(例えば、2kV高圧電源)の動作に必要な電力を確保できる。非接触給電を実現するにはコイル間の距離をある程度以下に近づける必要があるため、孔部1430gを設けるなどして、搬送キャリアに可及的に近い位置に非接触給電用コイル1432を配置するとよい。
【0063】
なお、制御ボックス1400内には、静電チャック回路の短絡等のトラブル時に静電容量の変化を検出しインターロックするための静電容量センサや、制御ボックスからの大気のリークを検出しインターロックするための気圧計などを配置することも好ましい。真空チャンバ側の電源1431および非接触給電用コイル1432は、製造ライン上の様々な箇所に配置しておくことが好ましく、特に搬送キャリアが待機するような位置に配置するとよい。
【0064】
また、外部と制御ボックス1400の間の通信も、赤外線や無線通信など非接触の方式で行われる。無線通信のための構成として、制御ボックス側には無線通信ユニット1404、無線通信用アンテナ導入端子1405が、真空チャンバ側にも無線通信用ユニット14033、無線通信用アンテナ導入端子1434が備えられている。赤外線通信のための構成として、制御ボックス側には赤外線通信ユニット1403、ビューポート1406が、真空チャンバ側にも赤外線通信ユニット1436、ビューポート1435が備えられている。各ビューポートは、赤外線通信のための開口部であり、赤外線を透過させる材質で構成されている。また、各無線通信用アンテナ導入端子は、真空チャンバ内部または制御ボックス内部の圧力を維持するようなシール構成を有する。これにより、静電チャックの動作を遠隔通信により操作可能となる。かかる構成の制御ボックスを用いることで、静電チャックへの給電や通信を非接触で行うことができるので、搬送キャリアの移動自由度の低下や接続部分のトラブルを回避できる。
【0065】
(製造プロセス)
次に実際にガラス基板GにマスクMを固定し、蒸着室において有機EL発光材料を真空蒸着して排出するプロセスについて説明する。
【0066】
図1は、上述したように、有機ELパネルの製造ライン100における各製造プロセスエ程に対してガラス基板G、マスクMを搬送する搬送キャリア302(静電チャック308)の移動位置を示す。図では理解を容易とするため、製造プロセスエ程における制御上の各移動位置に搬送キャリアを描いているが、実際に図示した数だけ搬送キャリアが搬送路上に導入されているとは限らない。同時に導入される台数は、製造プロセスの設計、タクトタイムによって決定される。また、図では製造ライン上を搬送キャリア等が紙面上で
反時計回りに移動しているが、この方向には限定されない。
【0067】
製造ライン100において、搬送キャリア302の搬送方向への推進力としては磁気駆動方式(リニアモータ方式)が採用される。また搬送キャリア302の鉛直方向の支持には、磁気による浮上とローラによるガイドの支持のいずれかが用いられる。上述したように、搬送キャリア302を磁気浮上させて搬送する場合、ゴミやチリの発生が少ないため、有機ELパネルの製造のような高い真空度やクリーン度が要求される装置での搬送に非常に有効である。
【0068】
図中、各構成要素の位置関係が変化する部位には、以下に示すようなP1~P8の符号を付す。
P1:搬送キャリア上にガラス基板Gを保持するガラス基板搬入位置
P2:搬送キャリア上のガラス基板GにマスクMを装着するマスク装着位置
P3:蒸着処理後のガラス基板GからマスクMを分離するマスク分離位置
P4:蒸着処理後のガラス基板Gを搬送キャリア302から分離して排出する基板排出位置
P5:ガラス基板Gを排出した空の搬送キャリア302をリターン搬送路へと受け渡すキャリア受渡位置
P6:蒸着処理後に分離したマスクMをリターン搬送路上の搬送キャリア302に装着するマスク受渡位置
P7:リターン搬送路上を搬送中の搬送キャリア302からマスクMを分離して、マスク装着位置P2へと搬送するマスク復帰位置
P8:マスクMを分離した搬送キャリア302をリターン搬送路から蒸着処理用搬送路上のガラス基板搬入位置P1へとシフトさせるキャリア復帰位置(リターン搬送路終点)
【0069】
製造ライン100を搬送モジュール301によって搬送キャリア302が移動する間に、製造ライン上の様々な位置において、ガラス基板G、マスクM、および、搬送キャリアが備える静電チャック308などの積層関係が変化したり、反転処理によって上下が180°逆転したりする。そこで図1では、ガラス基板G、マスクM、および、静電チャック308の上下関係の理解を助けるために、主な位置ごとに符号を示している。すなわち、ガラス基板Gの成膜される側の面(被成膜面)が一番上に来る場合は符号G1、成膜されない側の面が一番上に来る場合は符号G2で示す。また、静電チャック308の基板吸着側が一番上に来る場合は符号C1、基板を吸着しない側が一番上に来る場合は符号C2で示す。また、マスクMの成膜側の面が一番上に来る場合は符号M1、成膜されない側が一番上に来る場合は符号M2で示す。符号は、各反転室では反転後の状態を示し、搬入室や排出室では搬入後・排出後の状態を示す。
【0070】
<搬入プロセス>
ガラス基板搬入位置P1において、外部のストッカより、蒸着処理工程搬送路100a上の基板搬入室101にガラス基板Gが搬入され、搬送キャリア302上の所定の保持位置において、静電チャックによって保持される。ガラス基板搬入位置P1においては、搬送キャリア302とこれを支持する搬送モジュール301は、搬送モジュール301が下側となるように配置されている。このとき、搬送キャリア302のガラス基板保持面(チャック面)が上を向いた姿勢である。ガラス基板Gは、ガラス基板搬入位置P1に上方より搬入され、当該チャック面に載置される。
【0071】
続いて、ガラス基板を保持した搬送キャリア302がガラス基板搬入位置P1から反転室102へ搬送される。この搬送はローラ搬送モードで行われる。すなわち、搬送キャリア302は、ガイド溝303がガイドとなるローラベアリング304a、304bに接触しながら、電流または電圧を印加された駆動用コイル306a、306bと駆動用マグネ
ット305a、305bとの間に発生する磁力により、進行方向に進む。
【0072】
<反転・モード切換えプロセス>
反転室102において、回転支持機構が、ガラス基板を保持した搬送キャリア302を支持した搬送モジュール301を、進行方向に対して180度回転させる。これにより搬送キャリア302および搬送モジュール301の上下関係が反転し、ガラス基板Gが下面側となる。回転支持機構は、搬送モジュール301を搬送キャリア302ごと進行方向に180度単位で回転できる。回転動作中に搬送キャリア302と搬送モジュール301の位置ずれを起こさないように、重心位置に回転軸が位置するように構成することが好ましい。図中では、搬送キャリア302と搬送モジュール301の進行方向での反転を、矢印Rで示す。なお、搬送モジュール301と搬送キャリア302を機械的にロックするロック機構を使用することも好ましい。
【0073】
ここで、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと回転する理由の1つは、搬送キャリア302をガイドするために、搬送キャリアのガイド溝303a,303b内に搬送モジュールの両側に配列されたローラベアリング304a,304bが挿入されていることによる。もう1つの理由は、搬送キャリア側のマグネットと搬送モジュール側のコイルが互いに対向する位置関係にあるため、搬送キャリアのみを反転する構造とすると、反転重量は軽くなるものの、搬送キャリア側のマグネットの配置や搬送モジュールとのガイド機構が複雑になることによる。
【0074】
反転室での反転処理後、駆動用コイルに印加される電流または電圧が制御されて、搬送キャリア302の支持方法が、ローラベアリング304a,304bとガイド溝303a,303bの当接から、磁気浮上に切換えられる。これにより、制御モードとして、ローラ搬送モードから磁気浮上搬送モードに移行する。続いて、搬送キャリア302が磁気浮上搬送モードでアライメント室103(マスク装着位置P2)へと移動される。
【0075】
<アライメントプロセス>
図6(a)~(c)はアライメント室103内で行われるマスクチャック動作を行うマスク昇降装置、およびその動作を説明するための図である。
【0076】
アライメント室103内においては、搬送モジュール301がチャンバ内のメインフレーム200に固定され、搬送キャリア302は、静電チャックによって保持されたガラス基板Gを下方に向けた状態で、磁気浮上によって搬送モジュール301に吊り下げられた状態に維持されている。
【0077】
同図に示すように、搬送キャリア302の下方には、マスクMを保持して昇降する昇降装置202が配されている。昇降装置は、ジャッキ203a,203b,203c,203dによってそれぞれ上下動する昇降ロッド204a,204b,204c,204dにより、前後左右の4点を支持して、マスクトレイ205を昇降制御するように構成されている。
【0078】
また図6(c)に示すように、マスクトレイ205はマスクMの周縁のマスクフレームMF上を複数のマスク支持部206で支持するように構成されている。
【0079】
以上の構成により、マスクトレイ205上に載置されたマスクMは、ジャッキ203a~203dによって上昇され、磁気浮上している搬送キャリア302に保持されたガラス基板Gへと接近し、所定の近接距離になると、ガラス基板GとマスクMに対してアライメント動作が行われる。
【0080】
アライメント動作は、アライメントカメラによって、ガラス基板とマスクに予め形成されているアライメントマークを撮像して両者の位置ずれ量及び方向を検知し、磁気浮上している搬送キャリア302の搬送駆動系によって搬送キャリアの位置を微動しながら位置合わせ(アライメント)を行い、ガラス基板とマスクの位置が正確に位置合わせされた状態で、磁気吸着チャックによってマスクMが吸着され、搬送キャリアに保持される。
【0081】
この保持状態は、前述のように10カ所のマスクチャック311によってロックされ、以後、静電チャック、磁気吸着チャックを解除しても、ガラス基板とマスクがアライメントされた状態で搬送キャリアに保持された状態が維持される。
【0082】
ここで、アライメントの際に、搬送キャリア302が磁気浮上した状態で、搬送モジュール301に対する位置を微調整するようにしている。そのため、アライメント専用の微動調整機構を別途設けることなく、搬送キャリア駆動系によってアライメントを実施できるので、搬送キャリア302の構成の簡略化、軽量化にも有効である。
【0083】
(アライメントの詳細)
上述した、アライメントマークを撮像してアライメントする方法について詳説する。図13(a)はガラス基板Gの概略図、図13(b)はガラス基板GとマスクMの隅部に設けられたアライメントマークの拡大図である。図13(a)に示すガラス基板Gの四隅には、アライメントカメラ視野範囲1301が設定されている。図13(b)は一つのアライメントカメラ視野範囲1301においてガラス基板GとマスクMを重ねて撮像した様子を示し、ガラス基板側アライメントマークと1304と、ガラスを透過して撮像されるマスク側アライメントマーク1305が表示されている。
【0084】
図13(c)は、アライメント系の概念図である。アライメント室のチャンバの天板1311に、アライメントカメラ1310が配置されている。アライメントカメラは光学撮像可能なカメラであればよく、例えばセンササイズ2/3インチのものを利用できる。チャンバの天板1311には、アライメントカメラ1310の光軸方向に撮像に用いる光を透過可能なビューポート1313が設けられる。アライメントカメラはステージ1312に設置されており、位置の微調整が可能である。ステージとして例えば6軸調整ステージを利用できる。カメラは、構成要素として他にも、レンズ1315、擬似同軸証明1316、リング照明1317など、撮像に必要な種々の部材を備えていてよい。
【0085】
制御手段としては、図のようにアライメント室制御部701cを用いてもよいし、他の制御装置を用いてもよい。アライメント室制御部701cは、アライメントカメラ1310により撮像された画像データに基づいてアライメント処理を行う。すなわち、画像データからマスク側アライメントマーク1305とガラス基板側アライメントマーク1304を画像処理によって抽出し、両者の位置ずれ量や位置ずれ方向を算出する。位置ずれ量や位置ずれ方向が所定の範囲内でなければ、算出された位置ずれ量等に基づいて、磁力を用いて搬送キャリア302の位置を微調整し、ガラス基板GとマスクMを位置合わせする。
【0086】
(磁石の構成)
ここで、磁力によるアライメント動作を可能にするための構成を説明する。図8に、搬送キャリア302の上面に配置された駆動用マグネット305a、305bの詳細を示す。駆動用マグネット305a、305bは、搬送方向に対して左右に対になるように配置されている。駆動用マグネット305a、305bは、基本的にはN極のマグネットとS極のマグネットが交互にライン状に配置された磁石列をなす構成である。また図示例では、左右で対となっている駆動用マグネット305a、305bは、それぞれ、2列のマグネットの列を含んで設けられている。この2列のマグネット列のそれぞれにおいては、基本的にはN極とS極が交互にライン状に配置されており、図中のX方向(搬送方向)の制
御に用いられる。またマグネット列の一部には、N極とS極の両方が搬送モジュール301との対向面に露出するように配置されており、X方向だけでなく図中のY方向(搬送方向と交差する方向)の制御に用いられる。
【0087】
搬送キャリア302の各マグネットの列に対向する位置には、複数の駆動用コイル306a、306bからなる列が設けられ、各コイルの電流もしくは電圧を制御することで、搬送キャリア302を図8のX軸(搬送方向)、Y軸(搬送方向と交差する方向)およびZ軸(搬送キャリアと搬送モジュールが対向する方向)の各方向、ならびに各軸回りの回転方向に移動することが可能である。特にY軸方向およびZ軸回りの回転方向を制御するためには、駆動用マグネット305a、305bの少なくとも一方は複数列となるように配置することが有効である。
【0088】
(処理フロー)
図9のフローチャートと、図10図12を参照して、アライメント室103におけるアライメント動作の詳細を説明する。図10(a)~図12(d)はそれぞれ、図9のステップS1~S5,S7~S12に対応する。
【0089】
まずステップS1において、図10(a)のように、マスクMがマスク受渡機構100eによりプリアライメント室100gから搬入される。アライメント室制御部は、アライメント室103に設けられたセンサにより搬入の完了を検知する。
【0090】
次にステップS2において、図10(b)のように、反転室102からアライメント室103に、基板を保持した搬送キャリア302が磁気浮上搬送モードで搬入される。ここでの搬送方向Aは、奥から手前に向かう方向とする。アライメント室制御部は、搬送モジュール301のエンコーダの値から位置を検出し、所定のアライメント位置で搬送キャリア302を停止させる。このときのマスクMとガラス基板Gのクリアランス(隙間)を、CLS2とする。例えばCLS2=68mmである。
【0091】
次にステップS3において、図10(c)のように、昇降装置202(ジャッキ203a~203d、昇降ロッド204a~204d)によりマスクMを上昇させ、ガラス基板Gに接触する直前で停止する。停止位置は、次のステップS4において、アライメントカメラが、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークを同時に計測可能な位置となる。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS3とすると、例えばCLS3=3mmである。
【0092】
次にステップS4において、図10(d)のように、アライメントカメラ1310により、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークが同時に計測される。なお、搬送キャリア302には、アライメントカメラの光軸方向に沿って貫通孔が設けられている。アライメントカメラは、この貫通孔を介して、ガラス基板GとマスクMに設けられたアライメントマークを計測することができる。また、アライメントマーク計測を可能にする構成であれば、貫通孔ではなく、例えば切欠きなどを用いてもよい。
【0093】
次にステップS5において、図11(a)のように、アライメント室制御部は、S4における計測結果からガラス基板GとマスクMの位置ズレ量を算出し、位置ずれの値が所定の許容範囲に収まるように、ガラス基板Gを保持した搬送キャリア302の位置を調整する。位置調整の際には、符号331で示すように、駆動用コイル306a、306bに印加される電流または電圧を制御して、駆動用マグネット305a,305bとの間の磁力を調整する。このように本ステップのアライメント動作は、搬送キャリア302を浮上させた状態で行われる。次にステップS6において、アライメントカメラが再度計測を行い、アライメント室制御部が位置ずれの値が所定の範囲内かどうかを判定する。もし範囲外
であればS5に戻り、位置ずれ値が範囲内に収まるまでアライメントを繰り返す。
【0094】
以上述べたように、本フローのアライメント動作は、搬送キャリアおよびそれに保持されるガラス基板Gが磁気浮上した状態で、磁力により搬送キャリアの位置を調整することで行われる。この構成では搬送キャリアと搬送モジュールが非接触であるため、摩擦等の影響が抑制され、また高精度な位置決めが可能になる。また、アライメントに搬送キャリアを搬送するための駆動用コイルと駆動用マグネットにより発生する磁力を用いるため、アライメント用に別の駆動手段を設ける必要がない。その結果、装置の構成を簡易化するとともにコストを低減することが可能である。
【0095】
アライメント動作が完了すると、マスクMを磁気吸着する行程に入るが、この実施形態では、まず、マスクチャック311によって、マスクフレームMFをチャックする。
すなわち、S7において、図11(b)のように、マスクMを上昇させてガラス基板Gに近接させる。マスクMの上昇時には、昇降装置202によってマスクトレイ205を上昇させることにより、マスク支持部206によって支持されているマスクMが上昇する。マスクM自体は、模式的に示すように撓んでおり、マスク支持部206に支持されたマスクフレームMFが上昇し、ガラス基板Gと所定の隙間まで近接する。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS71とすると、例えばCLS71=0.5mmである。また、搬送キャリア302が磁気浮上していることから、キャリアスタンド部302A1の下端とマスクトレイ205の間にはクリアランスCLS72が存在する。
【0096】
次に、S8において、図11(c)のように、磁気浮上制御をOFFとし、搬送キャリア302をマスクトレイ205に着座させる。磁気浮上制御がOFFとなることによって、浮上力をなくした搬送キャリア302が自重によって落下し、マスクトレイ205に着座する。図示例では、キャリア本体302Aに設けられたキャリアスタンド部302A1の下端が当接するようになっている。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS8とすると、例えばCLS8=0.3mmである。
【0097】
次に、S9において、図11(d)のように、マスクチャックを実施する。
すなわち、外部の駆動装置の駆動によって、回転軸311fが回転駆動され、チャック片311cがマスクフレームMFに係合してチャックされる。図示例では、上側のチャック片311bを省略している。この時点で、マスクフレームMFが固定される。この状態は静電チャック308、磁気吸着チャック307を解除しても維持される。
【0098】
次に、S10において、図12(a)のように、マスクチャック311でマスクMが保持された状態で、搬送キャリア302を浮上開始位置まで上昇させる。搬送キャリア302の上昇はマスクトレイの昇降装置によって行う。浮上開始位置は、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305の間隔が、搬送キャリア302を浮上させることができる程度の吸引力となる距離である。本ステップでは例えば、搬送キャリア302を0.7mm程度上昇させる。
【0099】
次に、S11において、図12(b)のように、磁気浮上制御をONとし、マスクトレイ205から、マスクMが保持された搬送キャリア302を浮上させる。すなわち、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305間の吸引力によって、搬送キャリア302がマスクトレイ205から所定量浮上する。上昇量は、たとえば、0.5mm程度である。すなわち、このときのマスクトレイ205と、搬送キャリア302のキャリアスタンド部302A1の下端の間のクリアランスをCLS11とすると、例えばCLS11=0.5mmである。
【0100】
次に、S12において、図12(c)のように、磁気吸着チャック307を下降させて
マスクMを磁気吸着させる。すなわち、上昇端でロックされていたロック片が外部のアクチュエータによって回転駆動されて、退避位置に移動して下降方向へのロックが外れ、磁気吸着チャック307がガラス基板Gを保持する静電チャック308に向けて下降し、静電チャック308及びガラス基板Gを挟んで、磁気吸着チャック307の吸着マグネットとマスクMが磁気吸着されて保持される。これによって、アライメントされた状態のマスクMがガラス基板Gの成膜面に全面的に密着して保持される。なお、磁気吸着チャック307の下方への移動は、搬送キャリア302の外部からの駆動力によって実現している。このときの磁気吸着チャックの下降量は、例えば30mmである。
【0101】
次に、S13において、図12(d)のように、搬送キャリア302が搬送方向Aに向かって、アライメント室103から加速室104に搬出される。
【0102】
以上のフローにより、静電チャック308によって保持されたガラス基板Gの成膜面に、アライメントされたマスクMが磁気吸着チャック307によって保持され、さらにマスクチャック311によってマスクフレームMFがチャックされた状態で、搬送キャリア302が搬出される。
【0103】
<蒸着プロセス>
図1に戻り、説明を続ける。アライメント動作を完了し、アライメント室103より排出された搬送キャリアは、上述したように加速室104で加速され、蒸着室105へと搬入される。搬送キャリアを蒸着室105に搬入する前に加速することにより、アライメント室103における高精度アライメント処理に要した時間の遅れを補償し、タクトタイムの低下を抑えることができる。
【0104】
蒸着室では、搬送キャリアを所定の蒸着速度で磁気浮上した状態で矢印B方向に移動しながら、有機EL発光材料を真空蒸着する。このように、搬送キャリアをアライメント室から加速室および蒸着室に搬入するときや、蒸着室内を移動させるときに、磁気浮上搬送モードを用いることで、塵の発生や摩擦による粉体の発生を防止できるので、高品質な成膜が可能となる。
【0105】
<分離・搬出プロセス>
蒸着処理を終え蒸着室105より排出された搬送キャリアは、減速室106で減速され、マスク分離位置P3にあるマスク分離室107へと搬送されて所定位置で停止する。ここでマスクチャック311によるマスクMのロック状態が解除され、マスクMがガラス基板より分離される。
【0106】
分離されたマスクMは、図6のマスク昇降装置と同様の機構によって下降される。マスク受渡機構100cは、下降されたマスクMを保持フレームで受け取って保持し、蒸着処理工程搬送路100aとリターン搬送路100bの間の退避位置へと搬送する。そして、リターン搬送路上のマスク受取位置P6に、基板排出後の空の搬送キャリア302が移動して来ると、搬送キャリアの下方位置へとマスクMを移動させる。そして、マスク昇降装置と同様の機構によってマスクMを搬送キャリア下面へと上昇させ、磁気チャックに保持させる。このようにマスクMを保持した搬送キャリア302は、供給側へとリターン搬送される。
【0107】
一方、マスク分離室107でマスクMを分離済みの搬送キャリア302は、マスクチャックの係止部によってガラス基板Gを保持したまま反転室108へと移動する。反転室108内では、供給側の反転室102と同様の回転支持機構が、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと、進行方向に180度回転する。これにより、ガラス基板Gが上面となる。
【0108】
反転室108で反転された後、搬送キャリア302の搬送モードが、磁気浮上搬送モードから再びローラ搬送モードに切り換えられる。続いて、搬送キャリア302は、ローラ搬送により、基板排出位置P4のガラス基板排出室109へと搬送される。基板排出位置P4では、ガラス基板Gのマスクチャックが解除され、ガラス基板Gは不図示の排出機構によって次工程へと搬送される。
【0109】
ガラス基板排出室109でガラス基板Gを排出して空の状態となった搬送キャリア302は、搬送モジュール301とともに、図で見ると反時計まわりに90度回転される。そのためにガラス基板排出室109は、搬送モジュールを平面方向で回転させる方向変換機構を備える。続いて搬送キャリア302は、搬送モジュール301からキャリアシフタ100dに受け渡され、リターン搬送路100b始点であるキャリア受渡位置P5へと搬送される。一方、搬送キャリア302をキャリアシフタ100dへと受け渡した後の搬送モジュール301は、時計まわりに90度回転され元の方向に戻る。これにより搬送モジュール301は、次に反転室108より搬出される搬送キャリアを受け入れ可能な状態に復帰する。
【0110】
キャリアシフタ100dは、搬送モジュール301と同様の搬送用機構を持つ。キャリアシフタ100dは、ガラス基板排出室109で90度回転された搬送モジュール301から、基板を排出して空になった搬送キャリア302を受け取り、リターン搬送路100bの始点(キャリア受渡位置P5)に配置された方向変換機構(方向変換用の搬送モジュール)110へと引き渡す。方向変換機構110は搬送キャリアを、平面視で反時計回りに90度回転し、リターン搬送路100bを構成する搬送モジュールヘと搬送する。搬送完了後、方向変換機構110は時計まわりに90度回転して元の位置に復帰し、キャリアシフタ100dより次の搬送キャリアを受け取り可能な状態になる。
【0111】
<リターンプロセス>
搬送キャリア302は、リターン搬送路上をローラ搬送モードで移動する。反転室111において、回転支持機構が、搬送キャリア302を搬送モジュールごと進行方向に180度回転する。これにより搬送キャリア302は、静電チャック308のマスク装着面が下面側となった状態でマスク受取位置P6に搬入される。続いて搬送キャリア302は、マスク受渡機構100cからマスクMを受け取って磁気吸着チャック307で吸着し、マスクチャック311で保持する。続いて搬送キャリア302は、マスクMをマスクチャック311で保持しながら、引き続きローラ搬送モードで矢印C方向へと移動する。
【0112】
搬送キャリア302は、マスク分離位置P7まで移動したのち停止し、マスクチャック311を解除してマスクMを分離する。分離されたマスクMは、マスク受渡機構100eへと受け渡される。マスク受渡機構100eは、蒸着処理工程搬送路100aとリターン搬送路100bの間のプリアライメント室100gにおいてマスクMを粗くアライメントしたのち、アライメント室103へと搬送する。
【0113】
一方、マスク分離位置P7においてマスクMを分離した搬送キャリア302は、反転室113において進行方向に180度回転される。これにより静電チャック308のガラス基板保持面が上面側に向いた状態となる。そして搬送キャリア302は、リターン搬送路100bの終点であるキャリア復帰位置P8にある方向変換機構114によって、時計まわりに90度回転される。続いてキャリアシフタ100fヘと引き渡され、蒸着処理工程搬送路100aの始点である、ガラス基板搬入位置P1にある基板搬入室101へと搬送される。方向変換機構114は、搬送キャリア302を引き渡したあとで反時計回りに90度回転して元の状態に戻る。一方、基板搬入室101内に搬入された搬送キャリア302は、さらに反時計まわりに90度回転され、外部より搬入される次のガラス基板Gを保
持可能な初期位置へと復帰する。
【0114】
以上の処理を行うことによって、順次搬入されるガラス基板上に有機EL発光材料を蒸着する一連の処理を滞りなく実行することができる。
【0115】
また、搬送キャリア302を磁気浮上方式で搬送することにより塵や摩擦による粉体の発生を抑制できるので、特に蒸着室内部や蒸着室への搬出入などにおいて有効である。さらに、図示例によれば、ガラス基板Gが製造ライン100に搬入された後、アライメント及び蒸着を経て排出されるまでの過程において、ガラス基板Gは一方向に搬送されるのみであり、かつ、進行方向で上下反転する必要はあるものの、ロボット等により平面方向で旋回する必要はない。したがって、塵や粉体が基板に付着する可能性をさらに低減できる。
【0116】
さらに、図示例では、ガラス基板Gの成膜面を上向きにした状態で製造ラインに搬入する。そのため、搬送キャリア302上へのガラス基板装着時に成膜面を保護する点でも有効である。
【0117】
ここで、蒸着室では真空中で蒸着材料をPVDあるいはCVDで気化あるいは昇華させて成膜処理を行うため、蒸着材料を下方に配置する必要がある。そこで蒸着時には、ガラス基板の被成膜面を下向きに位置させた姿勢に制御する必要がある。本発明の構成によれば、マスクMは、搬送キャリア302に保持されたガラス基板Gの成膜面が下面側を向いている状態で、下側から当該成膜面に向かって上昇され、アライメント工程を経てガラス基板Gに装着される。そのため、マスクMを装着した時点で、上記の蒸着材料を蒸着可能な姿勢となっている。
【0118】
搬送キャリア302へのガラス基板保持には静電チャックが用いられ、マスク保持には磁気吸着チャックおよび機械式のマスクチャックが用いられる。静電チャックおよび磁気吸着チャックはチャックフレーム内に組み込まれており、磁気吸着チャックは、チャックフレーム内におけるマグネットの昇降動作によってチャック、非チャック状態を切り替えることができる。マスクは、まず機械式のマスクチャックにより、ガラス基板を挟んで搬送キャリア302に弾性的に保持される。その後、磁気吸着チャックを下降させることで、マスクのチャックを完了する。本発明の構成によれば、これら3種のチャックを搬送キャリア302にコンパクトに組み込むことができる。
【0119】
本発明の静電チャックを制御する静電チャック制御部は、充電式の電源や、制御系からの指令を通信する無線通信手段とともに制御ボックスに格納され、搬送キャリアに組み込まれている。そのため、製造プロセスにおいて、外部より搬送キャリア302に電源供給ケーブルや通信ケーブル等を接続する必要がなくなる。
【0120】
上述の実施形態では、駆動用マグネット305a、305bは搬送キャリア302の上面に設けられ、搬送モジュール301に上に駆動用マグネット305a、305bに対向するように配置された駆動用コイル306a、306bによって上部から吸引される構成となっている。しかしながら磁石ユニットとコイルユニットの配置はこれに限られず、搬送キャリア302の側面に駆動用マグネットを配置し、駆動用マグネットに対向する搬送モジュール301上の位置に複数のコイルを配置し、搬送キャリア302の側面から磁気浮上により保持することも可能である。
【0121】
本発明によれば、搬送キャリア302によりガラス基板GとマスクMを保持した状態で、蒸着室において蒸着される前に、アライメント室において磁気により浮上した状態で、磁気の力によりアライメントされる。これにより、高精度な位置決めが可能となる。また
、搬送キャリアの搬送手段であるコイルへの電流もしくは電圧により制御するため、アライメント用に別の手段を設ける必要がなく、装置をシンプルでかつ低コストで実現することが可能である。
【符号の説明】
【0122】
103:アライメント室、300:搬送ユニット、301:搬送モジュール、302:搬送キャリア、305:駆動用マグネット、306:駆動用コイル、700:稼働管理制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14