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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】岩盤固結用注入薬液組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/46 20060101AFI20240731BHJP
   C08G 18/18 20060101ALI20240731BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20240731BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20240731BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20240731BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20240731BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C09K17/46 P
C08G18/18
C08G18/32 003
C08G18/38 093
C08G18/73 050
C08G18/76 057
E02D3/12 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023083039
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2018212246の分割
【原出願日】2018-11-12
(65)【公開番号】P2023107792
(43)【公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】岸本 龍介
(72)【発明者】
【氏名】田中 一幸
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-273668(JP,A)
【文献】特開2006-265436(JP,A)
【文献】特開2001-303055(JP,A)
【文献】特開2001-303054(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016149(WO,A1)
【文献】特開2017-145336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00- 17/52
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分(A)と、ポリイソシアネート成分(B)とを含んでなる岩盤固結用注入薬液組成物(ただし、ポリオール成分(A)がグリセリンを含有する組成物、及び、ポリイソシアネート成分(B)が炭素数8~12の脂肪族アルコールとアジピン酸からなるエステル化合物を含有する組成物を除く。)であって、
ポリオール成分(A)が、
珪酸ナトリウム水溶液(A-1)、
官能基数が3以上且つ分子量200以下の有機ポリオール(A-2)、及び
活性水素を1つ有する3級アミン触媒(A-3)
を含み、
ポリイソシアネート成分(B)が、
ジフェニルメタンジイソシアネートとポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートとの混合物、及びその混合物とポリオールとの反応生成物を含み、
ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)との配合比が、ポリオール成分(A)100質量部に対し、ポリイソシアネート成分(B)が70~130質量部であること、
を特徴とする岩盤固結用注入薬液組成物。
【請求項2】
官能基数が3以上且つ分子量200以下の有機ポリオール(A-2)が、ジグリセリンからなる群より選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【請求項3】
ポリオール成分(A)と、ポリイソシアネート成分(B)とを含んでなる岩盤固結用注入薬液組成物(ただし、ポリイソシアネート成分(B)が炭素数8~12の脂肪族アルコールとアジピン酸からなるエステル化合物を含有する組成物を除く。)であって、
ポリオール成分(A)が、
珪酸ナトリウム水溶液(A-1)、
官能基数が3以上且つ分子量200以下の有機ポリオール(A-2)、及び
活性水素を1つ有する3級アミン触媒(A-3)
を含み、
ポリイソシアネート成分(B)が、
ジフェニルメタンジイソシアネートとポリフェニルポリメチレンポリイソシアネートとの混合物、及びその混合物とポリオールとの反応生成物を含み、
ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)との配合比が、ポリオール成分(A)100質量部に対し、ポリイソシアネート成分(B)が70~130質量部であること、並びに、
前記活性水素を1つ有する3級アミン触媒(A-3)が、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチル-N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)アミノエタノール、N,N-ジメチルエトキシエタノール、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノール、6-ジメチルアミノ-1-ヘキサノール、N’,N-ジメチルエトキシ-N’-メチル-N’-エチルメタノール、N’’,N’’-ジメチルアミノ-N’-メチルエチルアミノ-N-メチル-2-プロパノール及びビス(2-ジメチルアミノエチルアミノ)-2-プロパノールからなる群より選択される少なとも一種を含むこと、
を特徴とする岩盤固結用注入薬液組成物。
【請求項4】
官能基数が3以上且つ分子量200以下の有機ポリオール(A-2)が、グリセリン及びジグリセリンからなる群より選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項3に記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【請求項5】
活性水素を1つ有する3級アミン触媒(A-3)が、ポリオール成分(A)中に0.1~5質量%含有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【請求項6】
珪酸ナトリウム水溶液(A-1)の固形分が30~50質量%であり、且つ固形分中のSiO/NaOのモル比が2.0~3.0であることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【請求項7】
ポリイソシアネート成分(B)が希釈剤を含む、請求項1乃至のいずれかに記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれかに記載の岩盤固結用注入薬液組成物から得られる岩盤を固結した成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湧水・漏水の多い環境下でも使用することができる注入薬液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不安定岩盤や不安定地盤の強化方法として、例えばロックボルト工法と呼ばれるトンネル掘削後の周辺地山の安定化を行う工法があり、ボルトを薬液にて固定・定着させることによって、トンネル構造物を保護することを目的として行われるものである。このような岩盤固結用の注入薬液として、高い強度を有するモルタルなどの無機系材料が使用されてきた。しかし、モルタルなどの無機系材料は、強度発現までに要する時間が長いことから作業効率が十分ではなく、また漏水や湧水が発生する場合には材料が水中に流出してしまうという問題があった。
【0003】
現在、漏水や湧水が発生しやすい地域でのトンネル掘削が行われている中、流水下での岩盤固結用の薬液を注入するケースが増加しており、薬液による流水の水質汚染や、薬液注入時の漏水がトンネル掘削作業の効率や安全性確保の障害となり、改善が求められつつある。
【0004】
そこでこれらの問題を解決するために無機-有機複合系の土壌安定化の為の薬液である水ガラスと称する珪酸塩水溶液とポリイソシアネート組成物との組み合わせから得られる注入薬液が使用されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、珪酸塩水溶液、3級アミン触媒を含有するポリオール成分と、オキシアルキレン鎖を有するジフェニルメタンジイソシアネートを含むイソシアネート成分とを岩盤固結用の注入薬液として用いることにより、短時間で硬化及び樹脂の強度発現ができ、低い発泡倍率のため高い樹脂強度がみとめられることが開示されている。しかしながら、当該ポリオール成分には、有機ポリオール成分が無いことから、ポリイソシアネートとの混合性に乏しいため、水中に溶出することによる水質汚染が懸念される。
【0006】
また、特許文献2では、珪酸塩水溶液、3級アミン触媒、及びポリオール成分としてグリセリンまたはアミノ基含有ポリオールを含有するポリオール成分と、ジフェニルメタンジイソシアネートを含むイソシアネート成分とを岩盤固結用の注入薬液として用いることにより、前記と同様に短時間で硬化及び強度発現できることが開示されている。しかしながら、当該ポリオール組成では発泡性が高いことによる高い樹脂強度の確保が難しく、流水下において、漏水の抑制ができず作業時の効率性および安全性が確保できないことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-318096号公報
【文献】特開2001-19959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、漏水や湧水が多い環境下においても水分に影響されることなく安定した作業性及び反応性が得られ、薬液注入時やトンネル掘削時における地盤補強のための発泡性制御による樹脂強度を確保した岩盤固結用注入薬液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、珪酸ナトリウム水溶液を含む特定のポリオール成分(A)と、ポリイソシアネート成分(B)とからなる岩盤固結用注入薬液組成物により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の[1]~[6]の実施形態を含むものである。
【0011】
[1]ポリオール成分(A)と、ポリイソシアネート成分(B)とを含んでなる岩盤固結用注入薬液組成物であって、ポリオール成分(A)が、珪酸ナトリウム水溶液(A-1)、官能基数が3以上、且つ分子量200以下の有機ポリオール(A-2)、及び活性水素を1つ有する3級アミン触媒(A-3)を含み、ポリイソシアネート成分(B)が、ジフェニルメタンジイソシアネートとポリフェニルポリフェニレンポリイソシアネートとの混合物、及びその混合物とポリオールとの反応生成物を含むことを特徴とする岩盤固結用注入薬液組成物。
【0012】
[2]官能基数が3以上且つ分子量200以下の有機ポリオール(A-2)が、グリセリンであることを特徴とする上記[1]に記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【0013】
[3]活性水素を1つ有する3級アミン触媒(A-3)が、ポリオール成分(A)中に0.1~5質量%含有することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【0014】
[4]珪酸ナトリウム水溶液(A-1)の固形分が30~50質量%であり、且つ固形分中のSiO/NaOのモル比が2.0~3.0であることを特徴とする、上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【0015】
[5]ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)の質量比が、ポリオール成分(A)/ポリイソシアネート成分(B)=100/50~100/150であることを特徴とする、上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の岩盤固結用注入薬液組成物。
【0016】
[6]上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の岩盤固結用注入薬液組成物から得られる成形体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の岩盤固結用注入薬液組成物によれば、トンネル掘削中に発生する漏水や湧水が多い環境下においても水分に影響されることなく安定した作業性及び反応性が得られ、薬液注入時やトンネル掘削時における地盤補強のための発泡性制御による樹脂強度を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明における岩盤固結用注入薬液組成物は、ポリオール成分(A)(以下単に「成分(A)」とも言う。)と、ポリイソシアネート成分(B)(以下単に「成分(B)」とも言う。)とを含んでなるものである。
【0020】
まず、ポリオール成分(A)について説明する。
【0021】
本発明における成分(A)は、珪酸ナトリウム水溶液(A-1)(以下単に(A-1)とも言う。)、官能基数が3以上且つ分子量が200以下の有機ポリオール(A-2)(以下単に(A-2)とも言う。)、及び活性水素を1つ有する3級アミン触媒(A-3)(以下単に(A-3)とも言う。)を含むものである。
【0022】
珪酸ナトリウム水溶液(A-1)としては、通常市販されている珪酸ナトリウム水溶液を用いることができる。この珪酸ナトリウムは一般式でNaO・xSiO・nHOで表される。ここでxはSiO(二酸化珪素)とNaO(酸化ナトリウム)とのモル比を表し、本発明においては2.0~3.0が好ましく、2.0~2.5がより好ましく、2.0~2.4が最も好ましい。xが2.0未満の場合、成分(A)と成分(B)とを混合し硬化させる際の硬化性が悪化する場合がある。3.0を超えると、珪酸ナトリウム水溶液の粘度が高くなり、成分(B)との混合性が悪化するほか、低温時の作業性が低下する場合がある。
【0023】
また、(A-1)の固形分は30~50質量%が好ましく、35~42質量%がより好ましく、36~41質量%がさらに好ましく、37~41質量%が最も好ましい。珪酸ナトリウム水溶液の固形分が高すぎる場合は、水で希釈して調整することができる。固形分が30質量%より低いと、成分(A)と成分(B)とを混合し硬化させた際に、硬化性を確保できない上、硬化後の成形体機械強度が低下する場合がある。50質量%を超えると、珪酸ナトリウム水溶液の粘度が高くなり、成分(B)との混合性が悪化するほか、低温時での作業性が低下する恐れがある。
【0024】
なお、本発明における(A-1)の固形分とは、(A-1)の水以外の成分の全体中の比率を表わす。
【0025】
官能基数が3以上で分子量が200以下の有機ポリオール(A-2)としては、例えば、グリセリン、ブタントリオール、ペンタントリオール、シクロペンタントリオール、ヘキサントリオール、シクロヘキサントリオール、ヘプタントリオール、オクタントリオール、シクロオクタントリオール、ヘプタントリオール、ノナントリオール、デカントリオールなどの脂肪族、脂環族トリオール類、トリヒドロキシベンゼンなどの芳香族トリオール類、エーテル系トリオール類、エリスリトール、ジグリセリン、ペンタンテトラオール、ヘキサンテトラオールなどの脂肪族テトラオール類、テトラヒドロキシベンゼンなどの芳香族テトラオールなどが挙げられ、グリセリンが好ましい。本発明の(A-2)における官能基数は3以上であり、3未満であると注入薬液が発泡し、十分な樹脂強度が得られない。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0026】
さらに、(A-2)は分子量が200以下であり、好ましくは180以下、より好ましくは160以下である。分子量が200を超えると、硬化後の成形体機械強度が低下する。また、(A-2)のOH基の少なくとも一つは1級OH基であることが好ましい。(A-2)のOH基がすべて2級または3級の場合、ポリイソシアネートとの反応が遅くなり、硬化性を確保できず、水中へ薬液成分が流出する恐れがある。
【0027】
本発明における3級アミン触媒(A-3)は、分子中に活性水素を1つ有しているものである。活性水素を1つ有する官能基としては、例えばヒドロキシ基、2級アミノ基等が挙げられる。活性水素を2つ以上有している場合や1級アミノ基の場合、成分(B)との反応の際、架橋剤としてはたらくため、反応性を制御できず、注入機閉塞による充填不良が発生する恐れがある。
【0028】
ヒドロキシ基を有する3級アミンとしては、例えばN,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチル-N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)アミノエタノール、N,N-ジメチルエトキシエタノール、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノール、6-ジメチルアミノ-1-ヘキサノール、N’,N-ジメチルエトキシ-N’-メチル-N’-エチルメタノール、N’’,N’’-ジメチルアミノ-N’-メチルエチルアミノ-N-メチル-2-プロパノール、ビス(2-ジメチルアミノエチルアミノ)-2-プロパノール等が挙げられる。
【0029】
2級アミノ基を有する3級アミンとしては、例えばN’-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N,N-ジメチルエチレンジアミン、3,3-イミノビス(N,N-ジメチル-1-プロパンアミン)、N’-[2-(ジメチルアミノ)メチル]-N,N-ジメチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルジエチレントリアミン、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]-N-[2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エチル]-エタンアミン等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、反応性や発泡性の観点から、N-メチル-N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)アミノエタノール、N’,N-ジメチルエトキシ-N’-メチル-N’-エチルメタノールが好ましい。
【0031】
本発明における(A-3)の含有量は、ポリオール成分(A)中に0.1~5質量%含有することが好ましい。
【0032】
本発明においては、成分(A)の分散安定性、成分(A)と成分(B)の相溶性を向上させるために界面活性剤等の添加剤を使用してもよい。界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0033】
陰イオン界面活性剤としては、例えばアルキルカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル等を挙げることができる。
【0034】
陽イオン界面活性剤としては、例えば塩化ベンザルコニウム等のアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0035】
非イオン界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステルや、アルキルポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシド等を挙げることができる。
【0036】
これら界面活性剤は単独で使用、または併用しても良い。
【0037】
その他、成分(A)には本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、消泡剤、希釈剤、酸化防止剤、反応調整剤等を添加しても良い。
【0038】
次に、ポリイソシアネート成分(B)について説明する。
【0039】
本発明における成分(B)は、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと言う。)及びポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート(以下ポリメリックMDIと言う。)の混合物と、ポリオールとの反応生成物である。
【0040】
なお、本発明にけるMDIは、4,4’-MDI、2,4’-MDI、2,2’-MDIの各種異性体を含むものであり、ポリメリックMDIは、それらMDIにさらにイソシアネート基を有するフェニル基がメチレン基を介し一つ以上付加したものを意味する。
【0041】
また、MDIとポリメリックMDIの質量比は、MDI/ポリメリックMDI=20/80~80/20が好ましく、30/70~70/30がより好ましい。
【0042】
本発明においては、MDI、及びポリメリックMDIの混合物とポリオールとを、イソシアネート基(以下NCO基と言う。)とOH基の当量比(NCO基/OH基)が、好ましくは2~300、より好ましくは5~100の範囲となるように公知の方法で反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーであることが好ましい。
【0043】
上記ポリオールとしては、例えばブタンジオール等をはじめとする有機ジオール、前述したグリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビトールやショ糖等のポリオールやモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン及びこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0044】
また、成分(B)に粘度調整を目的とした希釈剤を併用してもよい。希釈剤としては、成分(B)との相溶性や減粘性、混合安定性に優れたものとして、例えばプロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルキルエーテル類が挙げられる。これらは作業環境、安全面の観点から、添加量は成分(B)に対して1~5質量%が好ましい。
【0045】
本発明における岩盤固結用注入薬液は、成分(A)と成分(B)の配合比を成分(A)100質量部に対し、成分(B)を50~150質量部とすることが好ましく、70~130質量部とすることがより好ましい。成分(B)が50質量部を下回ると、ウレタン化が不十分となり固化物の強度が不足する恐れがあり、150質量部を上回ると、水中硬化時に水の濁りや泡立ちが強くなる恐れがある。
【0046】
本発明の岩盤固結用注入薬液組成物は、従来公知の無機-有機複合系の岩盤固結用注入薬液が有していた欠点を改良したものである。すなわち、本発明の岩盤固結用注入薬液組成物は、ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)との相溶性が高く、均一な成形体を得ることができ、漏水や湧水が多く発生する環境下でも水分に影響されることなく安定した強化土壌を発現できる。
【実施例
【0047】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、実施例中の「%」は質量基準である。
【0048】
<ポリイソシアネート成分の調製>
<調製例1>
攪拌機、温度計、冷却器及び窒素ガス導入管のついた容量:1Lの反応器に、ポリイソシアネート3を952.0g、PPG-4000を38.0g仕込み、80℃まで昇温した。温度を維持したまま攪拌羽根で均一に混合しながら3時間ウレタン化反応を行った。反応後、50℃まで冷却して整泡剤を10.0g添加し、ポリイソシアネート組成物(S-2)(NCO含量30.2%、粘度110mPa・s at25℃)を得た。
【0049】
<調製例2>
攪拌機、温度計、冷却器及び窒素ガス導入管のついた容量:1Lの反応器に、ポリイソシアネート2を972.0g、PPG-400を18.0g仕込み、80℃まで昇温した。温度を維持したまま攪拌羽根で均一に混合しながら3時間ウレタン化反応を行った。反応後、50℃まで冷却して整泡剤10.0g、希釈剤としてプロピレンカーボネート50gを添加し、ポリイソシアネート組成物(S-3)(NCO含量28.6%、粘度160mPa・s at25℃)を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
表1における各原料は以下の通りである。
・ポリイソシアネート1:ポリメリックMDI(商品名:MR-200、東ソー社製)、MDI/ポリメリックMDI=39/61(PA比)、NCO含量31.1%
・ポリイソシアネート2:MDI/ポリメリックMDI=68/32(PA比)、NCO含量32.9%、MDI(商品名:ミリオネートNM、東ソー社製)とポリメリックMDI(商品名:MR-200、東ソー社製)を21/79(質量比)の割合で混合したもの
・ポリイソシアネート3:MDI/ポリメリックMDI=46/54(PA比)、NCO含量32.2%、MDI(商品名:ミリオネートNM、東ソー社製)とポリメリックMDI(商品名:MR-200、東ソー社製)を12/88(質量比)の割合で混合したもの
・PPG-4000 :ポリプロピレングリコール 分子量4000、官能基数2(商品名:PP-4000、三洋化成工業社製)
・PPG-400 :ポリプロピレングリコール 分子量400、官能基数2(商品名:PP-400、三洋化成工業社製)
・整泡剤 :シロキサン‐ポリアルキレンオキシド共重合体(商品名:NIAX SILICONE Y-16136、MOMENTIVE社製)
・希釈剤 :プロピレンカーボネート(商品名:プロピレンカーボネートS、BASF社製)
なお、ポリイソシアネート1、ポリイソシアネート2、ポリイソシアネート3の、MDI/ポリメリックMDIの比率は、GPC測定で得られるピーク面積の比率(PA比)であり、(MDIモノマーピーク面積)/(MDIモノマー以外のMDIオリゴマーのピーク面積の総和)を表す。
【0052】
GPC測定条件は以下の通り。
(1)測定器:HLC-8220(東ソー社製)
(2)カラム:TSKgel(東ソー社製)
・G3000H-XL
・G2500H-XL
・G2000H-XL
・G1000H-XL
(3)キャリア:THF(テトラヒドロフラン)
(4)検出器:RI(屈折率)検出器
(5)温度:40℃
(6)流速:1.000ml/min
(7)検量線:標準ポリスチレン(東ソー社製)
・F-80(分子量:7.06×105、分子量分布:1.05)
・F-20(分子量:1.90×105、分子量分布:1.05)
・F-10(分子量:9.64×104、分子量分布:1.01)
・F-2(分子量:1.81×104、分子量分布:1.01)
・F-1(分子量:1.02×104、分子量分布:1.02)
・A-5000(分子量:5.97×103、分子量分布:1.02)
・A-2500(分子量:2.63×103、分子量分布:1.05)
・A-500(分子量:5.0×102、分子量分布:1.14)
(8)サンプル溶液濃度:0.5%THF溶液。
【0053】
【表2】
【0054】
表2における各原料は以下の通り。
・珪酸ナトリウム水溶液1:固形分44.5%、モル比(SiO/NaO)=2.0(商品名:1号ケイ酸ソーダK0、東曹産業社製)
・珪酸ナトリウム水溶液2:固形分40.5%、モル比(SiO/NaO)=2.0(商品名:1号ケイ酸ソーダO0、東曹産業社製)
・珪酸ナトリウム水溶液3:固形分40.5%、モル比(SiO/NaO)=2.6(商品名:2号ケイ酸ソーダO6、東曹産業社製)
・1,3-BG:1,3-ブタンジオール、分子量90、官能基数2(商品名:1,3-ブタンジオール、KHネオケム社製)
・トリエチレングリコール:分子量106、官能基数2(商品名:トリエチレングリコール、三菱ケミカル社製)
・グリセリン:分子量92、官能基数3(商品名:精製グリセリン、阪本薬品工業社製)
・ジグリセリン:分子量166、官能基数4(商品名:ジグリセリン、阪本薬品工業社製)
・ポリエーテル1:ポリプロピレンオキシド、分子量250、官能基数3(商品名:GP-250、三洋化成工業社製)
・ポリエーテル2:ポリプロピレンオキシド、分子量650、官能基数3(商品名:GP-600、三洋化成工業社製)
・アミン触媒1:N,N,N’-トリメチル-N’-ヒドロキシエチルビスアミノエチルエーテル(商品名:TOYOCAT RX10、東ソー社製)
・アミン触媒2:N-メチル-N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)アミノエタノール(商品名:TOYOCAT RX5、東ソー社製)
・アミン触媒3:N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン(商品名:TOYOCAT MR、東ソー社製)
・アミン触媒4:トリエチレンジアミン(商品名:TEDA L-33、東ソー社製)。
【0055】
<反応挙動の評価方法>
上記ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)とを用い、表3に示す配合にて発泡試験を行った(液温:20℃、撹拌条件:スリーワンモーターを使用し300rpm×10秒)。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
反応性試験における「自由発泡」とはポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)とを1Lカップにて配合、混合撹拌し、そのままカップ内で発泡させたものであり、「水中発泡」とはポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)を1Lカップにて配合、混合撹拌した直後、配合液100mlを素早く水500mlの入った別の1Lカップに投入し、撹拌棒で水を30秒間強くかき混ぜて発泡させたものである。
【0058】
・クリームタイム :ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)とを混合撹拌し始めてから、その配合液がクリーム状に白濁し液面が立ち上がってくるまでの時間(秒)を表す。
【0059】
・ライズタイム :ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)とを混合撹拌しはじめてから、その配合液が発泡して最高の高さに達するまでの時間(秒)を表す。但し、発泡倍率が1.0の場合、樹脂のタックがなくなり硬化した時間を示す。水中でのライズタイムが、自由発泡でのライズタイムに対して20秒以内であれば水中での反応性が良好と言える。
【0060】
・発泡倍率 :自由発泡時の発泡倍率を以下の式により算出する。
発泡倍率(倍)=発泡後の成形体体積(cm)/発泡前の配合液の体積(cm
発泡倍率が2.0以下であれば良好と言える。
【0061】
・発泡後の水濁り :水中発泡性試験においてライズタイム終了後の水質汚染の指標として水の濁りを濁度計(TURBIDIMETER 2100N、HACH社製)にて測定した。20以下であれば良好と言える。
【0062】
・発泡後の水泡立ち:水中発泡性試験においてライズタイム終了後の水質汚染の指標として水の泡立ちを測定。水中発泡性試験に用いたライズタイム終了後の水125mlを容量250mlのポリエチレンの瓶に入れ、密栓後10秒間強く振り混ぜてから静置し、泡が水表面から消えるまでの時間(秒)を表す。60秒以下であれば良好と言える。
【0063】
・発泡後の水のpH:水中発泡性試験においてライズタイム終了後の水質汚染の指標として、水中発泡試験に用いた水のpHを測定。試験はpH試験紙にて0.5刻みで測定した値を表す。9.5以下であれば良好と言える。
【0064】
・圧縮強度 :JIS K 7220(硬質発泡プラスチックの圧縮試験方法)に準じて測定し、10MPa以上をA、10MPa未満をCと評価した。評価Aであれば掘削時における樹脂強度が十分と言える。