(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240731BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20240731BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
C11D7/32
C11D7/50
(21)【出願番号】P 2020572339
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005810
(87)【国際公開番号】W WO2020166704
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019026054
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】荻野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】新城 徹也
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 涼
(72)【発明者】
【氏名】奥野 貴久
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0158888(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0087089(KR,A)
【文献】特開2007-109744(JP,A)
【文献】特開2004-000969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/32
C11D 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に残留するポリシロキサン系接着剤を除去するために用いられる洗浄剤組成物であって、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムと、有機溶媒とを含み、上記有機溶媒が、式(1)で表されるラクタム化合物と
、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物、環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物及びジ(環状アルキル)エーテル化合物から選択される少なくとも1種を含む環状構造含有エーテル化合物とを含むことを特徴とする洗浄剤組成物。
【化1】
(式中、R
101は、炭素数1~6のアルキル基を表し、R
102は、炭素数1~6のアルキレン基を表す。)
【請求項2】
上記ラクタム化合物が、N-メチル-2-ピロリドン及びN-エチル-2-ピロリドンから選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
上記環状構造含有エーテル化合物が
、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
上記フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムが、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム及びフッ化テトラブチルアンモニウムから選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
基体上に残留するポリシロキサン系接着剤を除去するために用いられる洗浄剤組成物であって、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムと、有機溶媒とを含み、上記有機溶媒が、式(1)で表されるラクタム化合物と、環状エーテル化合物、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物、環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物及びジ(環状アルキル)エーテル化合物から選択される少なくとも1種を含む環状構造含有エーテル化合物とを含み、
上記環状構造含有エーテル化合物と上記ラクタム化合物との比が、質量比で、上記環状構造含有エーテル化合物:上記ラクタム化合物=30:70~80:20である、
ことを特徴とする洗浄剤組成物。
【化2】
(式中、R
101
は、炭素数1~6のアルキル基を表し、R
102
は、炭素数1~6のアルキレン基を表す。)
【請求項6】
上記基体上に残留するポリシロキサン系接着剤が、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)を含む接着剤組成物から得られた接着層の接着剤残留物である請求項1~
5のいずれか1項記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項記載の洗浄剤組成物を用い、基体上に残存した接着剤残留物を除去することを特徴とする洗浄方法。
【請求項8】
半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する第1工程、
得られた積層体の半導体基板を加工する第2工程、
加工後に半導体基板を剥離する第3工程、及び
剥離した半導体基板上に残存する接着剤残留物を洗浄剤組成物により洗浄除去する第4工程
を含む、加工された半導体基板の製造方法において、
上記洗浄剤組成物として請求項1~
6のいずれか1項記載の洗浄剤組成物を用いることを特徴とする、加工された半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体基板上に形成されたポリシロキサン系接着剤を用いて得られる接着層による仮接着を剥離した後の接着剤残留物を除去するために用いる洗浄剤組成物及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来2次元的な平面方向に集積してきた半導体ウエハーは、より一層の集積化を目的に平面を更に3次元方向にも集積(積層)する半導体集積技術が求められている。この3次元積層はシリコン貫通電極(TSV:through silicon via)によって結線しながら多層に集積していく技術である。多層に集積する際に、集積されるそれぞれのウエハーは形成された回路面とは反対側(即ち、裏面)を研磨によって薄化し、薄化された半導体ウエハーを積層する。
【0003】
薄化前の半導体ウエハー(ここでは単にウエハーとも呼ぶ)が、研磨装置で研磨するために支持体に接着される。その際の接着は研磨後に容易に剥離されなければならないため、仮接着と呼ばれる。この仮接着は支持体から容易に取り外されなければならず、取り外しに大きな力を加えると薄化された半導体ウエハーは、切断されたり変形したりすることがあり、その様なことが生じない様に、容易に取り外される。しかし、半導体ウエハーの裏面研磨時に研磨応力によって外れたりずれたりすることは好ましくない。従って、仮接着に求められる性能は研磨時の応力に耐え、研磨後に容易に取り外されることである。例えば研磨時の平面方向に対して高い応力(強い接着力)を持ち、取り外し時の縦方向に対して低い応力(弱い接着力)を有する性能が求められる。また、加工工程で150℃以上の高温になることがあり、更に、耐熱性も求められる。
【0004】
このような事情の下、半導体分野においては、仮接着剤として、これらの性能を備え得るポリシロキサン系接着剤が主に用いられる。そして、ポリシロキサン系接着剤を用いたポリシロキサン系接着では、薄化した基板を剥離した後に基板表面に接着剤残留物が残存することがよくあるが、その後の工程での不具合を回避するために、この残留物を除去し、半導体基板表面の洗浄を行うための洗浄剤組成物に開発がなされてきており(例えば特許文献1、2)、昨今の半導体分野では、新たな洗浄剤組成物への要望が常に存在する。特許文献1には、極性非プロトン性溶剤と第四級アンモニウム水酸化物とを含むシロキサン樹脂の除去剤が開示され、特許文献2には、フッ化アルキル・アンモニウムを含む硬化樹脂除去剤が開示されているが、さらに効果的な洗浄剤組成物の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/092022号
【文献】米国特許第6818608号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、半導体基板等の基板の洗浄を行う際、ポリシロキサン系接着剤を用いて得られる接着層による仮接着を剥離した後の接着剤残留物に対して良好な洗浄性が得られると共に、基板を腐食することなく高効率で基板を洗浄することができる洗浄剤組成物及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリシロキサン系接着剤を用いて得られる接着層による仮接着を剥離した後の接着剤残留物が付着した半導体基板等の基板を洗浄するに際し、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムと、有機溶媒とを含み、上記有機溶媒が、式(1)で表されるラクタム化合物と、環状エーテル化合物、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物、環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物及びジ(環状アルキル)エーテル化合物から選択される少なくとも1種を含む環状構造含有エーテル化合物とを含む洗浄剤組成物を用いることで、簡便に、基板を腐食することもなく高効率に、良好に洗浄ができることを知見し、本発明を完成した。
なお、特許文献1,2には、本発明の洗浄剤組成物の具体的構成を教示・示唆する記載はない。
【0008】
すなわち、本発明は、
1.基体上に残留するポリシロキサン系接着剤を除去するために用いられる洗浄剤組成物であって、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムと、有機溶媒とを含み、上記有機溶媒が、式(1)で表されるラクタム化合物と、環状エーテル化合物、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物、環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物及びジ(環状アルキル)エーテル化合物から選択される少なくとも1種を含む環状構造含有エーテル化合物とを含むことを特徴とする洗浄剤組成物、
【化1】
(式中、R
101は、炭素数1~6のアルキル基を表し、R
102は、炭素数1~6のアルキレン基を表す。)
2.上記ラクタム化合物が、N-メチル-2-ピロリドン及びN-エチル-2-ピロリドンから選択される少なくとも1種を含む、1の洗浄剤組成物、
3.上記環状構造含有エーテル化合物が、環状エーテル化合物及び環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、1又は2の洗浄剤組成物、
4.上記フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムが、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム及びフッ化テトラブチルアンモニウムから選択される少なくとも1種を含む、1~3のいずれかの洗浄剤組成物、
5.上記環状構造含有エーテル化合物と上記ラクタム化合物との比が、質量比で、上記環状構造含有エーテル化合物:上記ラクタム化合物=30:70~80:20である、1~4のいずれかの洗浄剤組成物、
6.上記ラクタム化合物が、N-メチル-2-ピロリドン及びN-エチル-2-ピロリドンから選択される少なくとも1種を含み、
上記環状構造含有エーテル化合物が、環状エーテル化合物及び環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、
上記フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムが、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム及びフッ化テトラブチルアンモニウムから選択される少なくとも1種を含む、1の洗浄剤組成物、
7.上記環状構造含有エーテル化合物と上記ラクタム化合物との比が、質量比で、上記環状構造含有エーテル化合物:上記ラクタム化合物=30:70~80:20である、6の洗浄剤組成物、
8.上記基体上に残留するポリシロキサン系接着剤が、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)を含む接着剤組成物から得られた接着層の接着剤残留物である1~7のいずれかの洗浄剤組成物、
9.1~8のいずれかの洗浄剤組成物を用い、基体上に残存した接着剤残留物を除去することを特徴とする洗浄方法、
10.半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する第1工程、得られた積層体の半導体基板を加工する第2工程、加工後に半導体基板を剥離する第3工程、及び剥離した半導体基板上に残存する接着剤残留物を洗浄剤組成物により洗浄除去する第4工程を含む、加工された半導体基板の製造方法において、上記洗浄剤組成物として1~8のいずれかの洗浄剤組成物を用いることを特徴とする、加工された半導体基板の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄剤組成物によれば、ポリシロキサン系接着剤を用いて得られる接着層による仮接着を剥離した後の接着剤残留物が付着した半導体基板等の基板の洗浄を、短時間で、基板を腐食することもなく高効率に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明の洗浄剤組成物は、基体上に残留するポリシロキサン系接着剤を除去するために用いられる洗浄剤組成物であって、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムと、有機溶媒とを含み、上記有機溶媒が、式(1)で表されるラクタム化合物と、環状エーテル化合物、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物、環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物及びジ(環状アルキル)エーテル化合物から選択される少なくとも1種を含む環状構造含有エーテル化合物とを含む。
【0011】
【化2】
(式中、R
101は、炭素数1~6のアルキル基を表し、R
102は、炭素数1~6のアルキレン基を表す。)
【0012】
フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムにおける炭化水素基の具体例としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。
【0013】
本発明の好ましい一態様においては、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムは、フッ化テトラアルキルアンモニウムを含む。
フッ化テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、フッ化テトラブチルアンモニウムが好ましい。
なお、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムは、水和物を用いてもよい。また、フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0014】
フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムの量は、洗浄剤組成物に含まれる溶媒に溶解する限り特に制限されるものではないが、洗浄剤組成物に対して、通常0.1~30質量%である。
【0015】
上記式(1)において、炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル基等が挙げられ、炭素数1~6のアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
上記式(1)で表されるラクタム化合物の具体例としては、α-ラクタム化合物、β-ラクタム化合物、γ-ラクタム化合物、δ-ラクタム化合物等を挙げることができ、これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の好ましい一態様においては、上記式(1)で表されるラクタム化合物は、1-アルキル-2-ピロリドン(N-アルキル-γ-ブチロラクタム)を含み、より好ましい一態様においては、N-メチルピロリドン(NMP)又はN-エチルピロリドン(NEP)を含み、より一層好ましい一態様においては、N-メチルピロリドン(NMP)を含む。
【0018】
上記式(1)で表されるラクタム化合物の量は、洗浄剤組成物に対して、通常1~98.9質量%である。
【0019】
環状エーテル化合物は、環状炭化水素化合物の環を構成する炭素原子の少なくとも1つが、酸素原子に置換されたものである。
典型的には、鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素化合物がエポキシ化されたエポキシ化合物(すなわち、互いに隣り合う2つの炭素原子と酸素原子とが3員環を構成しているもの)や、炭素数が4以上の環状炭化水素化合物(但し、芳香族炭化水素化合物を除く。)の環を構成する炭素原子が酸素原子に置換されたエポキシ以外の環状エーテル化合物(エポキシ化合物は除かれる。以下同様。)が挙げられ、中でも、このような炭素数が4以上の環状炭化水素化合物としては、炭素数が4以上の環状飽和炭化水素化合物が好ましい。
【0020】
上記エポキシ化合物の炭素数は、特に限定されるものではないが、通常4~40であり、好ましくは6~12である。
エポキシ基の数は、特に限定されるものではないが、通常1~4であり、好ましくは1又は2である。
【0021】
上記エポキシ化合物の具体例としては、1,2-エポキシ-n-ブタン、1,2-エポキシ-n-ペンタン、1,2-エポキシ-n-ヘキサン、1,2-エポキシ-n-ヘプタン、1,2-エポキシ-n-オクタン、1,2-エポキシ-n-ノナン、1,2-エポキシ-n-デカン、1,2-エポキシ-n-エイコサン等のエポキシ鎖状又は分岐状飽和炭化水素化合物、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロヘプタン、1,2-エポキシシクロオクタン、1,2-エポキシシクロノナン、1,2-エポキシシクロデカン、1,2-エポキシシクロエイコサン等のエポキシ環状飽和炭化水素化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
上記エポキシ以外の環状エーテル化合物の炭素数は、特に限定されるものではないが、通常3~40であり、好ましくは4~8である。
酸素原子(エーテル基)の数は、特に限定されるものではないが、通常1~3であり、好ましくは1又は2である。
【0023】
上記エポキシ以外の環状エーテル化合物の具体例としては、オキサシクロブタン(オキセタン)、オキサシクロペンタン(テトラヒドロフラン)、オキサシクロヘキサン等のオキサ環状飽和炭化水素化合物、1,3-ジオキサシクロペンタン、1,3-ジオキサシクロヘキサン(1,3-ジオキサン)、1,4-ジオキサシクロヘキサン(1,4-ジオキサン)等のジオキサ環状飽和炭化水素化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物は、環状アルキル基と鎖状アルキル基と両者を連結するエーテル基とからなるものであり、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常4~40であり、好ましくは5~20である。
環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物は、環状アルキル基と分岐状アルキル基と両者を連結するエーテル基とからなるものであり、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常6~40であり、好ましくは5~20である。
ジ(環状アルキル)エーテル化合物は、2つの環状アルキル基と、両者を連結するエーテル基とからなるものであり、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常6~40であり、好ましくは10~20である。
中でも、上記エポキシ以外の環状エーテル化合物としては、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物、環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物が好ましく、環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物がより好ましい。
【0025】
鎖状アルキル基は、直鎖状脂肪族炭化水素の末端の水素原子を取り除いて誘導される基であり、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常1~40であり、好ましくは1~20である。
その具体例としては、メチル基、エチル基、1-n-プロピル基、1-n-ブチル基、1-n-ペンチル基、1-n-ヘキシル基、1-n-ヘプチル基、1-n-オクチル基、1-n-ノニル基、1-n-デシル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
分岐状アルキル基は、直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素の水素原子を取り除いて誘導される基であって、鎖状アルキル基以外のものであり、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常3~40であり、好ましくは3~40である。
その具体例としては、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
環状アルキル基は、環状脂肪族炭化水素の環を構成する炭素原子上の水素原子を取り除いて誘導される基であり、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常3~40であり、好ましくは5~20である。
その具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘプチル基、シクロヘキシル等のモノシクロアルキル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-イル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-イル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-7-イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1-イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン-7-イル基等のビシクロアルキル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
環状アルキル鎖状アルキルエーテル化合物の具体例としては、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、シクロペンチルエチルエーテル、シクロペンチルプロピルエーテル、シクロペンチルブチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルエチルエーテル、シクロヘキシルプロピルエーテル、シクロヘキシルブチルエーテル等を挙げることができるが、これらに限定されない。
環状アルキル分岐状アルキルエーテル化合物の具体例としては、シクロペンチルイソプロピルエーテル、シクロペンチルt-ブチルエーテル等を挙げることができるが、これらに限定されない。
ジ(環状アルキル)エーテル化合物の具体例としては、ジシクロペンチルエーテル、ジシクロヘキシルエーテル、シクロペンチルシクロヘキシルエーテル等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0029】
以上説明した環状構造含有エーテル化合物の量は、洗浄剤組成物に対して、通常1~98.9質量%である。
【0030】
環状構造含有エーテル化合物と上記式(1)で表されるラクタム化合物との比率(質量比)は、任意であるが、好ましくは、環状構造含有エーテル化合物:上記式(1)で表されるラクタム化合物=30:70~80:20であり、より好ましくは35:65~76:24、より一層好ましくは40:60~73:27、更に好ましくは45:55~70:30である。
【0031】
本発明においては、洗浄剤組成物が含む溶媒として有機溶媒のみを用いることにより、水に起因する金属汚染や金属腐食等の発生を低減して基板を再現性よく好適に洗浄することが可能となる。従って、本発明の洗浄剤組成物は、通常、溶媒として有機溶媒のみを含む。なお、「有機溶媒のみ」とは、意図して溶媒として用いられるものが有機溶媒のみという意味であり、有機溶媒やその他の成分に含まれる水の存在までをも否定するものではない。
【0032】
本発明の好ましい一態様においては、本発明の洗浄剤組成物は、有機溶媒として上記式(1)で表されるラクタム化合物と上記環状構造含有エーテル化合物のみを含む。
【0033】
本発明においては、上記フッ化テトラ(炭化水素)アンモニウムは、洗浄剤組成物に含まれる溶媒に溶解している。
【0034】
本発明の洗浄剤組成物は、上述したフッ化テトラ(炭化水素)アンモニウム、上記式(1)で表されるラクタム化合物、上記環状構造含有エーテル化合物及び必要によりその他の成分を混合することで得られるものであり、各成分の混合する順序については、本発明の目的が達成できないような沈澱や液の分離等の不具合が発生する等の問題が生じない限り、任意の順序で混合することができる。即ち、洗浄剤組成物の全ての成分のうち、一部を予め混合し、次いで残りの成分を混合してもよく、或いは、一度に全部の成分を混合してもよい。また、必要があれば、洗浄剤組成物をろ過してもよい。更に、用いる成分が、例えば吸湿性や潮解性がある場合は、洗浄剤組成物の調製の作業の全部又は一部を不活性ガス下で行ってもよい。
【0035】
以上説明した本発明の洗浄剤組成物は、ポリシロキサン系接着剤に対する洗浄性が良好であり、洗浄速度と洗浄持続力がともに優れる。
具体的には、洗浄速度については、室温(23℃)において、接着剤組成物から得られる接着層を本発明の洗浄剤組成物に5分間接触させた場合において接触の前後で膜厚減少を測定し、減少した分を洗浄時間で割ることにより算出されるエッチングレート[μm/min]が、通常5.0[μm/分]以上であり、好ましい態様においては7.0[μm/分]以上、より好ましい態様においては7.5[μm/分]以上、より一層好ましい態様においては8.0[μm/分]以上、更に好ましい態様においては9.0[μm/分]以上である。
また、洗浄持続力については、室温(23℃)において、接着剤組成物から得られる接着性固体1gを、本発明の洗浄剤組成物2gに接触させた場合において、本発明の洗浄剤組成物は、通常12~24時間で接着性固体の大部分を溶解し、好ましい態様においては2~12時間で接着性固体を溶解し切り、より好ましい態様においては1~2時間で接着性固体を溶解し切る。
【0036】
本発明によれば、上記洗浄剤組成物を用いて半導体基板等の基板上に残留するポリシロキサン系接着剤を洗浄除去することにより、上記基板を短時間で洗浄することが可能となり、高効率で良好な半導体基板等の基板の洗浄が可能である。
本発明の洗浄剤組成物は、半導体基板等の各種基板の表面を洗浄するために用いられるものであり、その洗浄の対象物は、シリコン半導体基板に限定されるものではなく、例えば、ゲルマニウム基板、ガリウム-ヒ素基板、ガリウム-リン基板、ガリウム-ヒ素-アルミニウム基板、アルミメッキシリコン基板、銅メッキシリコン基板、銀メッキシリコン基板、金メッキシリコン基板、チタンメッキシリコン基板、窒化ケイ素膜形成シリコン基板、酸化ケイ素膜形成シリコン基板、ポリイミド膜形成シリコン基板、ガラス基板、石英基板、液晶基板、有機EL基板等の各種基板をも含む。
【0037】
半導体プロセスにおける本発明の洗浄剤組成物の好適な使用方法としては、TSV等の半導体パッケージ技術に用いられる薄化基板の製造方法における使用が挙げられる。
具体的には、半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する第1工程、得られた積層体の半導体基板を加工する第2工程、加工後に半導体基板を剥離する第3工程、及び剥離した半導体基板上に残存する接着剤残留物を洗浄剤組成物により洗浄除去する第4工程を含む製造方法において、洗浄剤組成物として本発明の洗浄剤組成物が使用される。
【0038】
第1工程において接着層を形成するために用いられる接着剤組成物としては、典型的には、シリコーン系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリアミド系、ポリスチレン系、ポリイミド系及びフェノール樹脂系の少なくとも1種から選ばれる接着剤を使用し得るが、特にポリシロキサン系接着剤を洗浄するために、本発明の洗浄剤組成物を採用することは有効であり、中でも、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)を含むポリシロキサン系接着剤の接着剤残留物の洗浄除去に、本発明の洗浄剤組成物は効果的である。
従って、以下、ヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)を含むポリシロキサン系接着剤(接着剤組成物)と本発明の洗浄剤組成物とを用いた薄化基板の製造方法について説明するが、本発明は、これに限定されるわけではない。
【0039】
まず、半導体基板と、支持基板と、接着剤組成物から得られる接着層とを備える積層体を製造する第1工程について説明する。
接着剤組成物が含むヒドロシリル化反応により硬化する成分(A)は、例えば、SiO2で表されるシロキサン単位(Q単位)、R1R2R3SiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)、R4R5SiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)及びR6SiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の単位を含むポリシロキサン(A1)と、白金族金属系触媒(A2)とを含み、上記ポリシロキサン(A1)は、SiO2で表されるシロキサン単位(Q’単位)、R1’R2’R3’SiO1/2で表されるシロキサン単位(M’単位)、R4’R5’SiO2/2で表されるシロキサン単位(D’単位)及びR6’SiO3/2で表されるシロキサン単位(T’単位)からなる群より選ばれ1種又は2種以上の単位を含むとともに、上記M’単位、D’単位及びT’単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリオルガノシロキサン(a1)と、SiO2で表されるシロキサン単位(Q”単位)、R1”R2”R3”SiO1/2で表されるシロキサン単位(M”単位)、R4”R5”SiO2/2で表されるシロキサン単位(D”単位)及びR6”SiO3/2で表されるシロキサン単位(T”単位)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の単位を含むとともに、上記M”単位、D”単位及びT”単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリオルガノシロキサン(a2)とを含む。
【0040】
R1~R6は、ケイ素原子に結合する基又は原子であり、互いに独立に、アルキル基、アルケニル基又は水素原子を表す。
R1’~R6’は、ケイ素原子に結合する基であり、互いに独立に、アルキル基又はアルケニル基を表すが、R1’~R6’の少なくとも1つは、アルケニル基である。
R1”~R6”は、ケイ素原子に結合する基又は原子であり、互いに独立に、アルキル基又は水素原子を表すが、R1”~R6”の少なくとも1つは、水素原子である。
【0041】
アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常1~40であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、より一層好ましくは10以下である。
【0042】
直鎖状又は分岐鎖状アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
中でも、メチル基が好ましい。
【0043】
環状アルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、シクロペンチル基、1-メチル-シクロブチル基、2-メチル-シクロブチル基、3-メチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロプロピル基、2,3-ジメチル-シクロプロピル基、1-エチル-シクロプロピル基、2-エチル-シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1-メチル-シクロペンチル基、2-メチル-シクロペンチル基、3-メチル-シクロペンチル基、1-エチル-シクロブチル基、2-エチル-シクロブチル基、3-エチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロブチル基、1,3-ジメチル-シクロブチル基、2,2-ジメチル-シクロブチル基、2,3-ジメチル-シクロブチル基、2,4-ジメチル-シクロブチル基、3,3-ジメチル-シクロブチル基、1-n-プロピル-シクロプロピル基、2-n-プロピル-シクロプロピル基、1-i-プロピル-シクロプロピル基、2-i-プロピル-シクロプロピル基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピル基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピル、2-エチル-3-メチル-シクロプロピル基等のシクロアルキル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等のビシクロアルキル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
アルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、その炭素数は、特に限定されるものではないが、通常2~40であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、より一層好ましくは10以下である。
【0045】
アルケニル基の具体例としては、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-1-エテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-n-プロピルエテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-エチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1-i-プロピルエテニル基、1,2-ジメチル-1-プロペニル基、1,2-ジメチル-2-プロペニル基、1-シクロペンテニル基、2-シクロペンテニル基、3-シクロペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-2-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1-メチル-4-ペンテニル基、1-n-ブチルエテニル基、2-メチル-1-ペンテニル基、2-メチル-2-ペンテニル基、2-メチル-3-ペンテニル基、2-メチル-4-ペンテニル基、2-n-プロピル-2-プロペニル基、3-メチル-1-ペンテニル基、3-メチル-2-ペンテニル基、3-メチル-3-ペンテニル基、3-メチル-4-ペンテニル基、3-エチル-3-ブテニル基、4-メチル-1-ペンテニル基、4-メチル-2-ペンテニル基、4-メチル-3-ペンテニル基、4-メチル-4-ペンテニル基、1,1-ジメチル-2-ブテニル基、1,1-ジメチル-3-ブテニル基、1,2-ジメチル-1-ブテニル基、1,2-ジメチル-2-ブテニル基、1,2-ジメチル-3-ブテニル基、1-メチル-2-エチル-2-プロペニル基、1-s-ブチルエテニル基、1,3-ジメチル-1-ブテニル基、1,3-ジメチル-2-ブテニル基、1,3-ジメチル-3-ブテニル基、1-i-ブチルエテニル基、2,2-ジメチル-3-ブテニル基、2,3-ジメチル-1-ブテニル基、2,3-ジメチル-2-ブテニル基、2,3-ジメチル-3-ブテニル基、2-i-プロピル-2-プロペニル基、3,3-ジメチル-1-ブテニル基、1-エチル-1-ブテニル基、1-エチル-2-ブテニル基、1-エチル-3-ブテニル基、1-n-プロピル-1-プロペニル基、1-n-プロピル-2-プロペニル基、2-エチル-1-ブテニル基、2-エチル-2-ブテニル基、2-エチル-3-ブテニル基、1,1,2-トリメチル-2-プロペニル基、1-t-ブチルエテニル基、1-メチル-1-エチル-2-プロペニル基、1-エチル-2-メチル-1-プロペニル基、1-エチル-2-メチル-2-プロペニル基、1-i-プロピル-1-プロペニル基、1-i-プロピル-2-プロペニル基、1-メチル-2-シクロペンテニル基、1-メチル-3-シクロペンテニル基、2-メチル-1-シクロペンテニル基、2-メチル-2-シクロペンテニル基、2-メチル-3-シクロペンテニル基、2-メチル-4-シクロペンテニル基、2-メチル-5-シクロペンテニル基、2-メチレン-シクロペンチル基、3-メチル-1-シクロペンテニル基、3-メチル-2-シクロペンテニル基、3-メチル-3-シクロペンテニル基、3-メチル-4-シクロペンテニル基、3-メチル-5-シクロペンテニル基、3-メチレン-シクロペンチル基、1-シクロヘキセニル基、2-シクロヘキセニル基、3-シクロヘキセニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
中でも、エテニル基、2-プロペニル基が好ましい。
【0046】
上述の通り、ポリシロキサン(A1)は、ポリオルガノシロキサン(a1)とポリオルガノシロキサン(a2)を含むが、ポリオルガノシロキサン(a1)に含まれるアルケニル基と、ポリオルガノシロキサン(a2)に含まれる水素原子(Si-H基)とが白金族金属系触媒(A2)によるヒドロシリル化反応によって架橋構造を形成し硬化する。
【0047】
ポリオルガノシロキサン(a1)は、Q’単位、M’単位、D’単位及びT’単位からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位を含むとともに、上記M’単位、D’単位及びT’単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。ポリオルガノシロキサン(a1)としては、このような条件を満たすポリオルガノシロキサンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
Q’単位、M’単位、D’単位及びT’単位からなる群から選ばれる2種以上の好ましい組み合わせとしては、(Q’単位とM’単位)、(D’単位とM’単位)、(T’単位とM’単位)、(Q’単位とT’単位とM’単位)、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
また、ポリオルガノシロキサン(a1)に包含されるポリオルガノシロキサンが2種以上含まれる場合、(Q’単位とM’単位)と(D’単位とM’単位)との組み合わせ、(T’単位とM’単位)と(D’単位とM’単位)との組み合わせ、(Q’単位とT’単位とM’単位)と(T’単位とM’単位)との組み合わせが好ましいが、これらに限定されない。
【0050】
ポリオルガノシロキサン(a2)は、Q”単位、M”単位、D”単位及びT”単位からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位を含むとともに、上記M”単位、D”単位及びT”単位からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。ポリオルガノシロキサン(a2)としては、このような条件を満たすポリオルガノシロキサンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
Q”単位、M”単位、D”単位及びT”単位からなる群から選ばれる2種以上の好ましい組み合わせとしては、(M”単位とD”単位)、(Q”単位とM”単位)、(Q”単位とT”単位とM”単位)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
ポリオルガノシロキサン(a1)は、そのケイ素原子にアルキル基及び/又はアルケニル基が結合したシロキサン単位で構成されるものであるが、R1’~R6’で表される全置換基中におけるアルケニル基の割合は、好ましくは0.1モル%~50.0モル%、より好ましくは0.5モル%~30.0モル%であり、残りのR1’~R6’はアルキル基とすることができる。
【0053】
ポリオルガノシロキサン(a2)は、そのケイ素原子にアルキル基及び/又は水素原子が結合したシロキサン単位で構成されるものであるが、R1”~R6”で表される全ての置換基及び置換原子中における水素原子の割合は、好ましくは0.1モル%~50.0モル%、より好ましくは10.0モル%~40.0モル%であり、残りのR1”~R6”はアルキル基とすることができる。
【0054】
ポリシロキサン(A1)は、ポリオルガノシロキサン(a1)とポリオルガノシロキサン(a2)とを含むものであるが、本発明の好ましい一態様においては、ポリオルガノシロキサン(a1)に含まれるアルケニル基とポリオルガノシロキサン(a2)に含まれるSi-H結合を構成する水素原子とのモル比は、1.0:0.5~1.0:0.66の範囲である。
【0055】
ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)の重量平均分子量は、それぞれ、通常500~1,000,000であるが、好ましくは5,000~50,000である。
【0056】
なお、重量平均分子量は、例えば、GPC装置(東ソー(株)製EcoSEC,HLC-8320GPC)及びGPCカラム(昭和電工(株)製Shodex(登録商標),KF-803L、KF-802及びKF-801)を用い、カラム温度を40℃とし、溶離液(溶出溶媒)としてテトラヒドロフランを用い、流量(流速)を1.0mL/分とし、標準試料としてポリスチレン(シグマアルドリッチ社製)を用いて、測定することができる。
【0057】
かかる接着剤組成物に含まれるポリオルガノシロサン(a1)とポリオルガノシロサン(a2)は、ヒドロシリル化反応によって、互いに反応して硬化膜となる。従って、その硬化のメカニズムは、例えばシラノール基を介したそれとは異なり、それ故、いずれのシロキサンも、シラノール基や、アルキルオキシ基のような加水分解によってシラノール基を形成することができる官能基を含む必要は無い。
【0058】
成分(A)は、白金族金属系触媒(A2)を含む。
このような白金系の金属触媒は、ポリオルガノシロキサン(a1)のアルケニル基とポリオルガノシロキサン(a2)のSi-H基とのヒドロシリル化反応を促進するための触媒である。
【0059】
白金系の金属触媒の具体例としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒が挙げられるが、これらに限定されない。
白金とオレフィン類との錯体としては、例えばジビニルテトラメチルジシロキサンと白金との錯体が挙げられるが、これに限定されない。
【0060】
白金族金属系触媒(A2)の量は、通常、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)の合計量に対して、1.0~50.0ppmの範囲である。
【0061】
成分(A)は、重合抑制剤(A3)を含んでもよい。すなわち、接着剤組成物に重合抑制剤を含めることで、貼り合せ時の加熱による硬化を好適に制御可能となり、接着性と剥離性に優れる接着層を与える接着剤組成物を再現性よく得ることができる。
【0062】
重合抑制剤は、ヒドロシリル化反応の進行を抑制できる限り特に限定されるものではないが、その具体例としては、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール等のアリール基で置換されていてもよいアルキニルアルキルアルコール等が挙げられるが、これに限定されない。
【0063】
重合抑制剤の量は、ポリオルガノシロキサン(a1)及びポリオルガノシロキサン(a2)に対して、通常、その効果を得る観点から1000.0ppm以上であり、ヒドロシリル化反応の過度な抑制を防止する観点から10000.0ppm以下である。
【0064】
かかる接着剤組成物は、エポキシ変性ポリオルガノシロキサンを含む成分、メチル基含有ポリオルガノシロキサンを含む成分及びフェニル基含有ポリオルガノシロキサンを含む成分からなる群から選択される少なくとも1種を含む成分(B)を含んでいてもよい。このような成分(B)を接着剤組成物に含めることで、得られる接着層を再現性よく好適に剥離することができるようになる。
【0065】
エポキシ変性ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、R210R220SiO2/2で表されるシロキサン単位(D200単位)、好ましくはR11R12SiO2/2で表されるシロキサン単位(D10単位)を含むものが挙げられる。
【0066】
R11は、ケイ素原子に結合する基であり、アルキル基を表し、R12は、ケイ素原子に結合する基であり、エポキシ基又はエポキシ基を含む有機基を表し、アルキル基の具体例としては、上述の例示を挙げることができる。
【0067】
また、エポキシ基を含む有機基におけるエポキシ基は、その他の環と縮合せずに、独立したエポキシ基であってもよく、1,2-エポキシシクロヘキシル基のように、その他の環と縮合環を形成しているエポキシ基であってもよい。
【0068】
エポキシ基を含む有機基の具体例としては、3-グリシドキシプロピル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明において、エポキシ変性ポリオルガノシロキサンの好ましい一例としては、エポキシ変性ポリジメチルシロキサンを挙げることができるが、これに限定されない。
【0069】
エポキシ変性ポリオルガノシロキサンは、上述のシロキサン単位(D10単位)を含むものであるが、D10単位以外に、上記Q単位、M単位及び/又はT単位を含んでいてもよい。
【0070】
好ましい一態様においては、エポキシ変性ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D10単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D10単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D10単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0071】
エポキシ変性ポリオルガノシロキサンは、エポキシ価が0.1~5であるエポキシ変性ポリジメチルシロキサンが好ましく、その重量平均分子量は、通常1,500~500,000であるが、接着剤組成物中での析出抑制の観点から、好ましくは100,000以下である。
【0072】
エポキシ変性ポリオルガノシロキサンの具体例としては、式(A-1)で表される商品名CMS-227(ゲレスト社製、重量平均分子量27,000)、式(A-2)で表される商品名ECMS-327(ゲレスト社製、重量平均分子量28,800)、式(A-3)で表される商品名KF-101(信越化学工業(株)製、重量平均分子量31,800)、式(A-4)で表される商品名KF-1001(信越化学工業(株)製、重量平均分子量55,600)、式(A-5)で表される商品名KF-1005(信越化学工業(株)製、重量平均分子量11,500)、式(A-6)で表される商品名X-22-343(信越化学工業(株)製、重量平均分子量2,400)、式(A-7)で表される商品名BY16-839(ダウコーニング社製、重量平均分子量51,700)、式(A-8)で表される商品名ECMS-327(ゲレスト社製、重量平均分子量28,800)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
【化3】
(m及びnはそれぞれ繰り返し単位の数である。)
【0074】
【化4】
(m及びnはそれぞれ繰り返し単位の数である。)
【0075】
【化5】
(m及びnはそれぞれ繰り返し単位の数である。Rは炭素数1~10のアルキレン基である。)
【0076】
【化6】
(m及びnはそれぞれ繰り返し単位の数である。Rは炭素数1~10のアルキレン基である。)
【0077】
【化7】
(m、n及びoはそれぞれ繰り返し単位の数である。Rは炭素数1~10のアルキレン基である。)
【0078】
【化8】
(m及びnはそれぞれ繰り返し単位の数である。Rは炭素数1~10のアルキレン基である。)
【0079】
【化9】
(m及びnはそれぞれ繰り返し単位の数である。Rは炭素数1~10のアルキレン基である。)
【0080】
【化10】
(m及びnはそれぞれ繰り返し単位の数である。)
【0081】
メチル基含有ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、R210R220SiO2/2で表されるシロキサン単位(D200単位)、好ましくはR21R21SiO2/2で表されるシロキサン単位(D20単位)を含むものが挙げられる。
【0082】
R210およびR220は、ケイ素原子に結合する基であり、互いに独立して、アルキル基を表すが、少なくとも一方はメチル基であり、アルキル基の具体例としては、上述の例示を挙げることができる。
R21は、ケイ素原子に結合する基であり、アルキル基を表し、アルキル基の具体例としては、上述の例示を挙げることができる。中でも、R21としては、メチル基が好ましい。
メチル基含有ポリオルガノシロキサンとの好ましい一例としては、ポリジメチルシロキサンを挙げることができるが、これに限定されない。
【0083】
メチル基含有ポリオルガノシロキサンは、上述のシロキサン単位(D200単位又はD20単位)を含むものであるが、D200単位及びD20単位以外に、上記Q単位、M単位及び/又はT単位を含んでいてもよい。
【0084】
ある一態様においては、メチル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D200単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D200単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D200単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
好ましい一態様においては、メチル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D20単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D20単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D20単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0085】
メチル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、ワッカー社製 WACKER(登録商標 SILICONE FLUID AK シリーズ)や、信越化学工業(株)製ジメチルシリコーンオイル(KF-96L、KF-96A、KF-96、KF-96H、KF-69、KF-965、KF-968)、環状ジメチルシリコーンオイル(KF-995)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
メチル基含有ポリオルガノシロキサンの粘度は、通常1,000~2,000,000mm2/sであるが、好ましくは10,000~1,000,000mm2/sである。なお、メチル基含有ポリオルガノシロキサンは、典型的には、ポリジメチルシロキサンからなるジメチルシリコーンオイルである。この粘度の値は、動粘度で示され、センチストークス (cSt)=mm2/sである。動粘度は、動粘度計で測定することができる。また、粘度(mPa・s)を密度(g/cm3)で割って求めることもできる。すなわち、25℃で測定したE型回転粘度計による粘度と密度から求めることができる。動粘度(mm2/s)=粘度(mPa・s)/密度(g/cm3)という式から算出することができる。
【0087】
フェニル基含有ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、R31R32SiO2/2で表されるシロキサン単位(D30単位)を含むものが挙げられる。
【0088】
R31は、ケイ素原子に結合する基であり、フェニル基又はアルキル基を表し、R32は、ケイ素原子に結合する基であり、フェニル基を表し、アルキル基の具体例としては、上述の例示を挙げることができるが、メチル基が好ましい。
【0089】
フェニル基含有ポリオルガノシロキサンは、上述のシロキサン単位(D30単位)を含むものであるが、D30単位以外に、上記Q単位、M単位及び/又はT単位を含んでいてもよい。
【0090】
好ましい一態様においては、フェニル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、D30単位のみからなるポリオルガノシロキサン、D30単位とQ単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とQ単位とM単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサン、D30単位とQ単位とM単位とT単位とを含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0091】
フェニル基含有ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、通常1,500~500,000であるが、接着剤組成物中での析出抑制の観点等から、好ましくは100,000以下である。
【0092】
フェニル基含有ポリオルガノシロキサンの具体例としては、式(C-1)で表される商品名PMM-1043(Gelest,Inc.製、重量平均分子量67,000、粘度30,000mm2/s)、式(C-2)で表される商品名PMM-1025(Gelest,Inc.製、重量平均分子量25,200、粘度500mm2/s)、式(C-3)で表される商品名KF50-3000CS(信越化学工業(株)製、重量平均分子量39,400、粘度3000mm2/s)、式(C-4)で表される商品名TSF431(MOMENTIVE社製、重量平均分子量1,800、粘度100mm2/s)、式(C-5)で表される商品名TSF433(MOMENTIVE社製、重量平均分子量3,000、粘度450mm2/s)、式(C-6)で表される商品名PDM-0421(Gelest,Inc.製、重量平均分子量6,200、粘度100mm2/s)、式(C-7)で表される商品名PDM-0821(Gelest,Inc.製、重量平均分子量8,600、粘度125mm2/s)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
【化11】
(m及びnは繰り返し単位の数を示す。)
【0094】
【化12】
(m及びnは繰り返し単位の数を示す。)
【0095】
【化13】
(m及びnは繰り返し単位の数を示す。)
【0096】
【化14】
(m及びnは繰り返し単位の数を示す。)
【0097】
【化15】
(m及びnは繰り返し単位の数を示す。)
【0098】
【化16】
(m及びnは繰り返し単位の数を示す。)
【0099】
【化17】
(m及びnは繰り返し単位の数を示す。)
【0100】
かかる接着剤組成物は、成分(A)と成分(B)とを任意の比率で含み得るが、接着性と剥離性のバランスを考慮すると、成分(A)と成分(B)との比率は、質量比で、好ましくは99.995:0.005~30:70、より好ましくは99.9:0.1~75:25である。
【0101】
かかる接着剤組成物は、粘度の調整等を目的に、溶媒を含んでいてもよく、その具体例としては、脂肪族炭化水、芳香族炭化水素、ケトン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
より具体的には、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、イソドデカン、メンタン、リモネン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、MIBK(メチルイソブチルケトン)、酢酸ブチル、ジイソブチルケトン、2-オクタノン、2-ノナノン、5-ノナノン等が挙げられるが、これらに限定されない。このような溶媒は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0103】
かかる接着剤組成物が溶媒を含む場合、その含有量は、所望の接着剤組成物の粘度、採用する塗布方法、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、接着剤組成物全体に対して、10~90質量%程度の範囲である。
【0104】
かかる接着剤組成物の粘度は、25℃で、通常500~20,000mPa・s、好ましくは1,000~5,000mPa・sであり、用いる塗布方法、所望の膜厚等の各種要素を考慮して、用いる有機溶媒の種類やそれらの比率、膜構成成分濃度等を変更することで調整可能である。なお、ここで、膜構成成分とは、溶媒以外の成分を意味する。
【0105】
本発明で用いる接着剤組成物は、膜構成成分と溶媒を混合することで製造できる。ただし、溶媒が含まれない場合、膜構成成分を混合することで、本発明で用いる接着剤組成物を製造することができる。
【0106】
第1工程は、具体的には、半導体基板又は支持基板の表面に上記接着剤組成物を塗布して接着剤塗布層を形成する前工程と、上記半導体基板と上記支持基板とを上記接着剤塗布層を介して合わせ、加熱処理及び減圧処理の少なくとも一方を実施しながら、上記半導体基板及び上記支持基板の厚さ方向の荷重をかけることによって、上記半導体基板と上記接着剤塗布層と上記支持基板と密着させ、その後、後加熱処理を行う後工程と、を含む。後工程の後加熱処理により、接着剤塗布層が最終的に好適に硬化して接着層となり、積層体が製造される。
【0107】
ここで、例えば、半導体基板がウエハーであり、支持基板が支持体である。接着剤組成物を塗布する対象は、半導体基板と支持基板のいずれか一方でも又は両方でもよい。
ウエハーとしては、例えば直径300mm、厚さ770μm程度のシリコンウエハーやガラスウエハーが挙げられるが、これらに限定されない。
支持体(キャリア)は、特に限定されるものではないが、例えば直径300mm、厚さ700μm程度のシリコンウエハーを挙げることができるが、これに限定されない。
【0108】
上記接着剤塗布層の膜厚は、通常5~500μmであるが、膜強度を保つ観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、より一層好ましくは30μm以上であり、厚膜に起因する不均一性を回避する観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、より一層好ましくは120μm以下、更に好ましくは70μm以下である。
【0109】
塗布方法は、特に限定されるものではないが、通常、スピンコート法である。なお、別途スピンコート法等で塗布膜を形成し、シート状の塗布膜を添付する方法を採用してもよく、これも塗布又は塗布膜という。
【0110】
加熱処理の温度は、通常80℃以上であり、過度の硬化を防ぐ観点から、好ましくは150℃以下である。加熱処理の時間は、仮接着能を確実に発現させる観点から、通常30秒以上、好ましくは1分以上であるが、接着層やその他の部材の変質を抑制する観点から、通常10分以下、好ましくは5分以下である。
【0111】
減圧処理は、2つの基体及びそれらの間の接着剤塗布層を10~10,000Paの気圧下にさらせばよい。減圧処理の時間は、通常1~30分である。
【0112】
本発明の好ましい態様においては、2つの基体及びそれらの間の層は、好ましくは加熱処理によって、より好ましくは加熱処理と減圧処理の併用によって、貼り合せられる。
【0113】
上記半導体基板及び上記支持基板の厚さ方向の荷重は、上記半導体基板及び上記支持基板とそれらの間の層に悪影響を及ぼさず、且つこれらをしっかりと密着させることができる荷重である限り特に限定されないが、通常10~1,000Nの範囲内である。
【0114】
後加熱温度は、十分な硬化速度を得る観点から、好ましくは120℃以上であり、基板や接着剤の変質を防ぐ観点から、好ましくは260℃以下である。加熱時間は、硬化によるウエハーの好適な接合を実現する観点から、通常1分以上であり、さらに接着剤の物性安定化の観点等から、好ましくは5分以上であり、過度の加熱による接着層への悪影響等を回避する観点から、通常180分以下、好ましくは120分以下である。加熱は、ホットプレート、オーブン等を用いて行うことができる。なお、後加熱処理の一つの目的は、成分(A)をより好適に硬化させることである。
【0115】
次に、以上説明した方法で得られた積層体の半導体基板を加工する第2工程について説明する。
本発明で用いる積層体に施される加工の一例としては、半導体基板の表面の回路面とは反対の裏面の加工が挙げられ、典型的には、ウエハー裏面の研磨によるウエハーの薄化が挙げられる。このような薄化されたウエハーを用いて、シリコン貫通電極(TSV)等の形成を行い、次いで支持体から薄化ウエハーを剥離してウエハーの積層体を形成し、3次元実装化される。また、それに前後してウエハー裏面電極等の形成も行われる。ウエハーの薄化とTSVプロセスには支持体に接着された状態で250~350℃の熱が負荷されるが、本発明で用いる積層体が含む接着層は、その熱に対する耐熱性を有している。
例えば、直径300mm、厚さ770μm程度のウエハーは、表面の回路面とは反対の裏面を研磨して、厚さ80μm~4μm程度まで薄化することができる。
【0116】
次に、加工後に半導体基板からなる半導体基板を剥離する第3工程について説明する。
本発明で用いる積層体の剥離方法は、溶剤剥離、レーザー剥離、鋭部を有する機材による機械的な剥離、支持体とウエハーとの間で引きはがす剥離等が挙げられるが、これらに限定されない。通常、剥離は、薄化等の加工の後に行われる。
第3工程では、必ずしも接着剤が完全に支持基板側に付着して剥離されるものではなく、加工された基板上に一部取り残されることがある。そこで、第4工程において、残留した接着剤が付着された基板の表面を、本発明の洗浄剤組成物で洗浄することにより、基板上の接着剤残留物を十分に洗浄除去することができる。
【0117】
最後に、剥離した半導体基板からなる半導体基板に残存する接着剤残留物を洗浄剤組成物により洗浄除去する第4工程について説明する。
第4工程は、剥離後の基板に残存する接着剤残留物を、本発明の洗浄剤組成物により洗浄除去する工程であり、具体的には、例えば、接着剤が残留する薄化基板を本発明の洗浄剤組成物に浸漬し、必要があれば超音波洗浄等の手段も併用して、接着剤残留物を洗浄除去するものである。
超音波洗浄を用いる場合、その条件は、基板の表面の状態を考慮して適宜決定されるものであるが、通常、20kHz~5MHz、10秒~30分の条件で洗浄処理することにより、基板上に残る接着剤残留物を十分取り除くことができる。
【0118】
本発明の薄化基板の製造方法は、上述の第1工程から第4工程までを備えるものであるが、これらの工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、第4工程では、本発明の洗浄剤組成物による洗浄の前に、必要に応じて、基板を各種の溶媒により浸漬したり、テープピーリングをしたりして、接着剤残留物を除去してもよい。
【0119】
また、第1工程から第4工程に関する上記構成要素及び方法的要素については、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々変更しても差し支えない。
【実施例】
【0120】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるわけではない。なお、本発明で用いた装置は次の通りである。
(1)攪拌機(自転公転ミキサー):(株)シンキー製 自転公転ミキサー ARE―500
(2)粘度計:東機産業(株)製 回転粘度計TVE-22H
(3)撹拌機:アズワン製 ミックスローターバリアブル 1―1186-12
(4)撹拌機H:アズワン製 加温型ロッキングミキサー HRM-1
(5)接触式膜厚計:(株)東京精密製 ウエハー厚さ測定装置 WT-425
【0121】
[1]接着剤組成物の調製
[調製例1]
自転公転ミキサー専用600mL撹拌容器に(a1)として粘度200mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサンとビニル基含有MQ樹脂からなるベースポリマー(ワッカーケミ社製)150g、(a2)として粘度100mPa・sのSiH基含有直鎖上ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)15.81g、(A3)として1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ワッカーケミ社製)0.17gを添加し、自転公転ミキサーで5分間撹拌した。
得られた混合物に、スクリュー管50mLに(A2)として白金触媒(ワッカーケミ社製)0.33gと(a1)として粘度1000mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)9.98gを自転公転ミキサーで5分間撹拌して得られた混合物から0.52gを加え、自転公転ミキサーで5分間撹拌し、得られた混合物をナイロンフィルター300メッシュでろ過し、接着剤組成物を得た。なお、回転粘度計を用いて測定した接着剤組成物の粘度は、9900mPa・sであった。
【0122】
[調製例2]
自転公転ミキサー専用600mL撹拌容器に(a1)としてビニル基含有MQ樹脂(ワッカーケミ社製)95g、溶媒としてp-メンタン(日本テルペン化学(株)製)93.4g及び1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール(東京化成工業(株)製)0.41gを添加し、自転公転ミキサーで5分間撹拌した。
得られた混合物に、(a2)として粘度100mPa・sのSiH基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)、(a1)として粘度200mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)29.5g、(B)として粘度1000000mm2/sのポリオルガノシロキサン(ワッカーケミ社製、商品名AK1000000)、(A3)として1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ワッカーケミ社製)0.41gを加え、自転公転ミキサーで更に5分間撹拌した。
その後、得られた混合物に、スクリュー管50mLに(A2)として白金触媒(ワッカーケミ社製)0.20gと(a1)として粘度1000mPa・sのビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサン(ワッカーケミ社製)17.7gを自転公転ミキサーで5分間撹拌して別途得られた混合物から14.9gを加え、自転公転ミキサーで更に5分間撹拌し、得られた混合物をナイロンフィルター300メッシュでろ過し、接着剤組成物を得た。なお、回転粘度計を用いて測定した接着剤組成物の粘度は、4600mPa・sであった。
【0123】
[2]洗浄剤組成物の調製
[実施例1]
テトラブチルアンモニウムフルオリド3水和物(関東化学(株)製)5gに、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン脱水(関東化学(株)製)47.5g及びテトラヒドロフラン(関東化学(株)製)47.5gの混合溶媒を加え、得られた混合物を撹拌し、洗浄剤組成物を得た。
【0124】
[実施例2]
テトラヒドロフランの代わりに、シクロペンチルメチルエーテルを用いた以外は、実施例1と同法の方法で、洗浄剤組成物を得た。
【0125】
[実施例3]
テトラヒドロフランの代わりに、テトラヒドロピラン(東京化成工業(株)製)を用いた以外は、実施例1と同法の方法で、洗浄剤組成物を得た。
【0126】
[実施例4]
テトラヒドロフランの代わりに、1,4-ジオキサン(東京化成工業(株)製)を用いた以外は、実施例1と同法の方法で、洗浄剤組成物を得た。
【0127】
[実施例5]
テトラヒドロフランの代わりに、1,2-エポキシシクロヘキサン(東京化成工業(株)製)を用いた以外は、実施例1と同法の方法で、洗浄剤組成物を得た。
【0128】
[実施例6]
テトラヒドロフランの代わりに、1,2-エポキシデカン(東京化成工業(株)製)47.5gを用いた以外は、実施例1と同法の方法で、洗浄剤組成物を得た。
【0129】
[比較例1]
溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン脱水95gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、洗浄剤組成物を得た。
【0130】
[比較例2]
市販のシリコーンクリーナー 「KSR-1」(関東化学(株)製)を洗浄液組成物として使用した。
【0131】
[3]洗浄剤組成物の性能評価
優れた洗浄剤組成物は、接着剤残留物と接触した直後からそれを溶解させる高い洗浄速度と、それを持続する優れた洗浄持続力が必要であることから、以下の評価を行った。より高い洗浄速度とより優れた洗浄持続力を兼ね備えることで、より効果的な洗浄が期待できる。
[3-1]エッチングレートの測定
得られた洗浄剤組成物の洗浄速度を測定するためにエッチングレートの測定を行った。調製例1で得られた接着剤組成物をスピンコーターで12インチシリコンウエハーに厚さ100μmとなるように塗布し、150℃/15分、次いで190℃/10分で硬化した。成膜後のウエハーを4cm角のチップに切り出し、接触式膜厚計を用いて膜厚を測定した。その後、チップを直径9mのステンレスシャーレに入れ、得られた洗浄剤組成物7mLを添加して蓋をした後、撹拌機Hに載せて、23℃で5分間撹拌・洗浄した。洗浄後、チップを取り出し、イソプロパノール、純水で洗浄して150℃で1分間、ドライベークをしたのち、再度、接触式膜厚計で膜厚を測定し、洗浄の前後で膜厚減少を測定し、減少した分を洗浄時間で割ることによりエッチングレート[μm/min]を算出し、洗浄力の指標とした。結果は表1に示す。
【0132】
[3-2]溶解性の評価
得られた洗浄剤組成物の洗浄持続力を測定するために接着剤の溶解試験を行った。調製例2で得られた接着剤組成物をスピンコーターで12インチシリコンウエハーに塗布し、120℃/1.5分、次いで200℃/10分で硬化した。その後、カッターの刃を使用して、12インチウエハーから接着剤組成物の硬化物を削り出した。9mLのスクリュー管に接着剤組成物の硬化物1gを量り取り、その後、得られた洗浄剤組成物2gを添加して、23℃で硬化物の溶解状況を確認した。1~2時間で硬化物を完全に溶かし切る場合を「Excellent」、2~12時間で硬化物を完全に溶かし切る場合を「Very Good」、12~24時間で硬化物の大部分を溶かす場合を「Good」、時間をかけても硬化物の大部分が溶け残る場合を「Bad」と表記した。結果は表1に示す。
【0133】
【0134】
表1に示される通り、本発明の洗浄剤組成物は、比較例の洗浄剤組成物と比較し、優れた洗浄速度と優れた持続性を示した。
【0135】
[3-3]腐食性の評価
実施例1~6で得られた各洗浄剤組成物に、シリコンウエハーを5分間浸漬した結果、いずれの組成物を用いた場合も、シリコンウエハーの腐食は確認されなかった。