(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】がんの治療のためのEGFR阻害剤
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20240731BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240731BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240731BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C07D487/04 138
C07D487/04 CSP
A61K31/5377
A61P35/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021576032
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2020067076
(87)【国際公開番号】W WO2020254562
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-15
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ドレンテ, コジモ
(72)【発明者】
【氏名】ゴアグラー, アニック
(72)【発明者】
【氏名】ヘウィングス, デーヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ジェスキー, ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】クーン, ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ナゲル, イボンヌ アリス
(72)【発明者】
【氏名】オブスト ザンダー, ウルリーケ
(72)【発明者】
【氏名】リッチ, アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ルーハー, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シュタイナー, サンドラ
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/115218(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220149(WO,A1)
【文献】特表2022-537191(JP,A)
【文献】特表2022-537769(JP,A)
【文献】特表2022-538055(JP,A)
【文献】特表2022-537772(JP,A)
【文献】特表2022-537771(JP,A)
【文献】特許第7411588(JP,B2)
【文献】NATURE,2016年,534(7605),p.129-132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/04
A61K 31/5377
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
の化合物、またはその薬学的に許容さ
れる塩。
【請求項2】
式(I)
の化合物である、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含む、治療的に活性な物質として使用するための
組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化合物と、治療的に不活性な担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物を含む、がんの治療または予防において使用するための組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の化合物を含む、非小細胞肺がんの治療または予防において使用するための
組成物。
【請求項7】
請求項1もしくは2に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、がんを治療または予防するための
医薬。
【請求項8】
請求項1もしくは2に記載の化合物または
その薬学的に許容さ
れる塩
を含む、非小細胞肺がんを治療または予防するための
医薬。
【請求項9】
がんを治療または予防するための医薬を調製するための、請求項1または2に記載の化合物の使用。
【請求項10】
非小細胞肺がんを治療または予防するための医薬を調製するための、請求項1または2に記載の化合物の使用。
【請求項11】
有効量の請求項1または2に記載の化合物
を含む、がんを治療または予防するための
医薬。
【請求項12】
有効量の請求項1または2に記載の化合物
を含む、非小細胞肺がんを治療または予防するための
医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGFR突然変異体を含むT790M/L858R、T790M/L858R/C797S、L858R、L858R/C797Sの選択的アロステリック阻害剤である化合物、それらの製造、それらを含有する薬学的組成物、および治療的に活性な物質としてのそれらの使用を提供する。
【0002】
本発明は、式(I)
の新規化合物、またはその薬学的に許容され得る塩を提供する。
【背景技術】
【0003】
HERファミリ受容体チロシンキナーゼは、細胞増殖、分化、および生存のメディエータである。この受容体ファミリには、4つの異なるメンバ、すなわち、上皮増殖因子受容体(EGFR、ErbB1、またはHER1)、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4)が含まれる。リガンドが結合すると、受容体はホモ二量体およびヘテロ二量体を形成し、続く内因性チロシンキナーゼ活性を活性化することにより、受容体の自己リン酸化および下流シグナル伝達分子が活性化される(Yarden,Y.,Sliwkowski,MX.Untangling the ErbB signalling network.Nature Review Mol Cell Biol.2001 Feb;2(2):127-37)。過剰発現または突然変異によるEGFRの脱調節は、結腸直腸がん、膵臓がん、神経膠腫、頭頸部がん、および肺がんを含む多くの種類のヒトがん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)に関係しており、いくつかのEGFR標的化剤が長年にわたって開発されている((Ciardiello,F.,およびTortora,G.(2008).EGFR antagonists in cancer treatment.The New England journal of medicine 358,1160-1174)。EGFRチロシンキナーゼの可逆的阻害剤であるエルロチニブ(タルセバ(登録商標))は、再発NSCLCの治療として数多くの国で承認されている。
【0004】
腫瘍が体細胞キナーゼドメイン変異を有するNSCLC患者の一部では、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の顕著な単剤活性が観察されるが、野生型EGFR患者における臨床的有益性は大幅に低下する(Paezら)(2004)。EGFR mutations in lung cancer:correlation with clinical response to gefitinib therapy.Science(New York,NY304,1497-1500)。EGFRの最も一般的な体細胞変異は、最も一般的な突然変異であるデルタ746~750によるエキソン19欠失、および最も高頻度な変異であるL858Rによるエキソン21アミノ酸置換である(Sharma SV,Bell DW,Settleman J,Haber DA.Epidermal growth factor receptor mutations in lung cancer.Nat Rev Cancer.2007Mar;7(3):169-81)。
【0005】
治療抵抗性は高頻度で発生し、受容体のATP部位内の二次的T790M変異に起因することが多い。いくつかの開発された変異選択的不可逆性阻害剤はT790M変異体に対して高度に活性であるが、これらの有効性は、鍵となる共有結合をこれらが形成するシステイン残基であるC797Sの後天性変異によって損なわれる可能性がある(Thress,K.S.ら.Acquired EGFR C797S mutation mediates resistance to AZD9291 in non-small cell lung cancer harboring EGFR T790M.Nat.Med.21,560-562(2015))C797S変異は、T790M標的化EGFR阻害剤に対する耐性の有力なメカニズムであることがWangによってさらに報告された(Wangら.EGFR C 797 S mutation mediates resistance to third-generation inhibitors in T790M-positive non-small cell lung cancer,J Hematol Oncol.2016;9:59)。オシメルチニブに対する耐性を引き起こす更なる突然変異は、Yangによって説明されており、たとえば、NSCLC治療におけるEGFRL858R/T790MおよびEGFRL858R/T790M/C797S耐性変異の標的化に関する総説におけるL718Qの報告がある(Yangら,Investigating Novel Resistance Mechanisms to Third-Generation EGFR Tyrosine Kinase Inhibitor Osimertinib in Non-Small Cell Lung Cancer Patients,Clinical Cancer Research,DOI:10.1158/1078-0432.CCR-17-2310)Luら(Targeting EGFRL858R/T790M and EGFRL858R/T790M/C797Sresistance mutations in NSCLC:Current developments in medicinal chemistry,Med Res Rev2018;1-32)。
【0006】
最も利用可能なEGFRチロシンキナーゼ阻害剤はキナーゼのATP部位を標的とするので、例えば薬剤耐性EGFR変異体を標的とすることによる、異なる働きをする新しい治療剤が必要である。
【0007】
最近の研究では、意図的にアロステリック部位を標的にすることにより、変異選択的阻害剤につながる可能性があることが示唆されている(JiaらOvercoming EGFR(T790M)and EGFR(C797S)resistance with mutant-selective allosteric inhibitors,June2016,Nature534,129-132)。
【0008】
がんの治療処置および/または予防処置に有用なEGFR変異体を含有するT790M/L858R、T790M/L858R/C797S、L858R、L858R/C797S、特にEGFR突然変異体を含有するT790MおよびC797Sを特異的に阻害する選択的分子の生成が、まさに必要とされている。
【0009】
国際公開第WO2009158369号には、ある特定の複素環式抗菌剤が記載されている。国際公開第WO2016183534号には、EBNA1阻害剤として好適なある特定の複素環式化合物が記載されている。国際公開第WO2011128279号には、mGluR5修飾物質として好適なある特定の複素環式化合物が記載されている。
【発明の概要】
【0010】
「薬学的に許容され得る塩」との用語は、生物学的にまたは別様に望ましくないものではない、遊離塩基または遊離酸の生物学的有効性および特性を保持する塩を指す。塩は、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など、特に塩酸、ならびに有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、N-アセチルシステインなどにより形成される。また、これらの塩は、遊離酸に無機塩基や有機塩基を添加して調製してもよい。無機塩基に由来する塩には、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウム塩などが含まれるがこれらに限定されない。有機塩基に由来する塩には、第一級、第二級、および第三級アミン、天然に存在する置換アミンを含む置換アミン、環式アミンおよび塩基性イオン交換樹脂、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、リジン、アルギニン、N-エチルピペリジン、ピペリジン、ポリイミン樹脂などの塩が含まれるがこれらに限定されない。式(I)の化合物の特に薬学的に許容され得る塩としては、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩等が挙げられる。
【0011】
略語のuMはマイクロモルを意味し、記号μMに相当する。
【0012】
略語のuLはマイクロリットルを意味し、記号μLに相当する。
【0013】
略語のugはマイクログラムを意味し、記号のμgに相当する。
【0014】
式(I)の化合物は、数個の不斉中心を含み得、光学的に純粋なエナンチオマー、例えばラセミ体などのエナンチオマーの混合物、光学的に純粋なジアステレオ異性体、ジアステレオ異性体の混合物、ジアステレオ異性のラセミ体またはジアステレオ異性のラセミ体の混合物として存在し得る。
【0015】
Cahn-Ingold-Prelog則によれば、不斉炭素原子は、「R」または「S」立体配置のものであり得る。
【0016】
また、本発明の一実施形態は、本明細書に記載の式(I)の化合物、およびその薬学的に許容され得る塩であり、より詳細には本明細書に記載の式(I)の化合物である。
【0017】
本明細書に記載の式(I)の化合物を製造するための工程も本発明の対象である。
【0018】
本発明における式Iの化合物を官能基で誘導体化して、インビボで親化合物に変換して戻し得る誘導体を提供し得ることが、理解されるであろう。
【0019】
本発明のある特定の実施形態は、治療的に活性な物質として使用するための、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関する。
【0020】
本発明のある特定の実施形態は、がん、特に非小細胞肺がんの治療および/または予防治療で使用するための、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関する。
【0021】
本発明のある特定の実施形態は、非小細胞肺がんの治療および/または予防治療で使用するための、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関する。
【0022】
本発明のある特定の実施形態は、がん、特に非小細胞肺がんの治療および/または予防治療のための薬品を製造するための、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関する。
【0023】
本発明のある特定の実施形態は、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩、および薬学的に許容され得る補助物質を含む、薬学的組成物に関する。
【0024】
本発明のある特定の実施形態は、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩を患者に投与することによる、がん、特に非小細胞肺がんの治療および/または予防治療のための方法に関する。
【0025】
本発明のある特定の実施形態は、がん、特に非小細胞肺がんに罹患したEGFR活性化突然変異を有する患者の治療処置および/または予防処置において薬品として使用するための、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関し、該患者におけるEGFR活性化突然変異状態を決定し、次いで、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩を該患者に投与することを含む。
【0026】
本発明のある特定の実施形態は、がん、特に非小細胞肺がんに罹患したEGFR突然変異T790M/L858R、T790M/L858R/C797S、L858R、および/またはL858R/C797Sを有する患者の治療および/または予防治療において薬品として使用するための、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関し、該患者におけるEGFR活性化突然変異状態を決定し、次いで、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩を該患者に投与することを含む。
【0027】
本発明のある特定の実施形態は、がん、特に非小細胞肺がんに罹患した、cobas(登録商標)EGFR変異検出キットv2.0で決定されたEGFR活性化突然変異を有する患者の治療および/または予防治療において薬品として使用するための、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関し、該患者におけるEGFR活性化突然変異状態を決定し、次いで、本明細書に記載の式Iの化合物またはその薬学的に許容され得る塩を該患者に投与することを含む。
【0028】
更に、本発明は、適用可能な場合はいつでも、式Iの化合物の対応する重水素化形態のすべての置換基を含む。
【0029】
式Iの化合物は、1つ以上の不斉中心を含み得、したがって、ラセミ体、ラセミ混合物、単一鏡像異性体、ジアステレオ異性混合物、および個々のジアステレオマとして生じ得る。分子上の種々の置換基の性質に応じて、付加的な不斉中心が存在してもよい。このような不斉中心の各々は独立して2つの光学異性体を生成し、混合物および純粋または部分的に精製された化合物として可能性のある光学異性体およびジアステレオマの全てが、本発明に含まれることが意図される。本発明は、これらの化合物のそのような異性体形態の全てを包含することを意味する。これらのジアステレオマの独立した合成またはそれらのクロマトグラフィによる分離は、本明細書で開示された方法を適切に修正することで、当技術分野で公知のように達成することができる。それらの絶対立体化学は、結晶生成物または結晶中間体のX線結晶学によって決定することができ、これらは、必要であれば、既知の絶対配置の不斉中心を含む試薬で誘導体化される。所望であれば、化合物のラセミ混合物を分離して、個々の鏡像異性体を単離し得る。分離は、化合物のラセミ混合物を鏡像異性的に純粋な化合物にカップリングさせてジアステレオ異性混合物を形成し、続いて、分別再結晶化またはクロマトグラフィのような標準的方法によって個々のジアステレオマを分離するような、当該技術分野で公知の方法で行うことができる。
【0030】
一実施形態では、光学的に純粋な鏡像異性体が提供される場合、光学的に純粋な鏡像異性体とは、化合物が所望の異性体を90重量%超、具体的には所望の異性体を95重量%超、またはより具体的には所望の異性体を99重量%超含有することを意味し、該重量パーセントは、化合物の異性体の全重量を基準とする。キラル的に純粋なまたはキラルに富む化合物は、キラル選択的合成によって、または鏡像異性体の分離によって調製し得る。鏡像異性体の分離は、最終生成物で、または代替的に好適な中間体に対して行うことができる。
【0031】
また、本発明の一実施形態は、記載された工程のいずれか1つにより製造された場合、本明細書に記載された式(I)の化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
アッセイ手順
HTRF Phospho EGFR TMLRCSアッセイ(細胞)
細胞株および培地
BaF3-TMLRCS細胞株を、Crownbio(米国カリフォルニア州サンディエゴ)から得た。細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco)を補充したRPMI ATCC(Gibco 31870)+2mMグルタミン+ピューロマイシン0.5μg/mL中にて、37℃、5%CO2で維持した。
【0033】
プロトコル
プレートが、12.5nlの試験される化合物(用量反応)のDMSO溶液またはDMSOのみで予め充填された後、12.5μlの増殖培地/ウェル中において、20,000細胞/ウェルでGreiner Bio-Oneの第784-08号マイクロタイタープレートに上記のように細胞を移す。プレートを300×gで30秒間回転させた後、細胞を4時間、37℃、5%CO2、湿度95%でインキュベートした。細胞を、4μl/ウェルの補充された溶解緩衝液(Cis-bio、リン酸化EGFR HTRFキット、64EG1PEH)の化合物混合物に添加することによって溶解し、続いて、振盪しながら(400rpm)30分間室温でインキュベートした。次いで、プレートを凍結し、-80℃で一晩保存した。翌日、プレートを解凍した後に、補充した検出緩衝液中で調製した抗リン酸化EGFRクリプテートと抗リン酸化EGFR-d2抗体溶液との混合物4μLを、各ウェルに加えた。次いで、蓋をしたプレートを4時間室温でインキュベートし、その後、Envisionリーダ(PerkinElmer)を用いて616および665nmでの蛍光発光を読み取った。データは、665対616の信号の正規化された比に10,000を乗じて、上記と同様の方法で分析した。
【0034】
【0035】
式(I)の化合物およびその薬学的に許容され得る塩は、医薬(例えば薬学的調製物の形態の)として使用し得る。本発明の医薬製剤は、経口投与(例えば、錠剤、被覆錠剤、ドラジェ、硬軟ゼラチンカプセル、溶液、乳剤または懸濁液の形)、経鼻投与(例えば、鼻スプレーの形)、直腸投与(例えば、座薬の形)、または眼局所投与(例えば、溶液、軟膏、ゲルまたは水溶性高分子挿入剤の形)などの内服投与が可能である。しかしながら、投与は、筋肉内、静脈内、眼内などの非経口的に(例えば、滅菌注射液の形で)行うこともできる。
【0036】
式(I)の化合物およびその薬学的に許容され得る塩は、錠剤、コーティングされた錠剤、糖衣錠、硬ゼラチンカプセル、注射液または局所製剤の製造のために、薬学的に不活性な、無機または有機アジュバントで処理し得る。ラクトース、コーンスターチまたはその誘導体、タルク、ステアリン酸またはその塩などは、錠剤、糖衣錠および硬ゼラチンカプセルのためのそのようなアジュバントとして、使用し得る。
【0037】
軟質ゼラチンカプセルに適したアジュバントとしては、例として、植物油、ワックス、油脂、半固形物、液体ポリオール等が挙げられる。
【0038】
液剤およびシロップ剤の生産に適したアジュバントは、例えば、水、ポリオール、サッカロース、転化糖、グルコースなどである。
【0039】
注射液に適したアジュバントは、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油などである。
【0040】
座剤に適したアジュバントは、例えば、天然または硬化油、ワックス、脂肪、半固体または液体ポリオールなどである。
【0041】
眼部外用剤形のための適切なアジュバントは、例として、シクロデキストリン、マンニトール、または当技術分野で知られている多くの他の担体および賦形剤である。
【0042】
さらに、医薬製剤は、防腐剤、可溶化剤、粘度増加物質、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、着香剤、浸透圧を変化させるための塩、緩衝剤、マスキング剤、または酸化防止剤を含むことができる。また、さらに他の治療上有用な物質を含有することもできる。
【0043】
投与量は広範に変化させることができ、当然、各特定の症例における個々の要件に適合させる。一般に、経口投与の場合、体重1kgあたり約0.1mg~20mg、好ましくは体重1kgあたり約0.5mg~4mg(例えば、1人あたり約300mg)を1日量として、好ましくは1~3回に分けて個別に投与し、適切であれば、例えば、同量で構成し得る。局所投与の場合、製剤は、0.001%~15重量%の薬剤を含み得、0.1~25mgの間であり得る必要量は、1日あたりの単回投与でも、1週間あたりの単回投与でも、1日あたりの複数回の投与(2~4回)でも、1週間あたりの複数回の投与でもよい。ただし、これが示されている場合は、ここに記載されている上限または下限を超える可能性があることは明らかである。
【0044】
本発明の化合物を含む薬学的組成物の調製
以下の組成の錠剤は、通常の方法で製造される。
【0045】
製造手順
1.成分1、2、3および4を混合し、精製水で造粒する。
2.顆粒を50℃で乾燥させる。
3.顆粒を適切な粉砕装置に通す。
4.材料5を加えて3分間混合し、適当なプレス機で圧縮する。
【0046】
【0047】
製造手順
1.材料1、2、3を適当なミキサーで30分間混合する。
2.材料4および5を加えて3分間混合する。
3.適切なカプセルに充填する。
【0048】
式Iの化合物、乳糖およびコーンスターチを、まずミキサーで混合し、次に粉砕機で混合する。混合物をミキサーに戻し、そこにタルクを加えてまんべんなく混合する。この混合物を、機械によって適当なカプセル、例えば硬質ゼラチンカプセルに充填する。
【0049】
【0050】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
分取例がエナンチオマーの混合物として得られる場合、純粋なエナンチオマーは、本明細書に記載されている方法、または当技術分野の当業者に知られている方法、例えばキラルクロマトグラフィーまたは結晶化によって得ることができる。
【実施例】
【0052】
実施例1
2-[4,7-ジクロロ-6-(4-モルホリノフェニル)インダゾール-2-イル]-2-[(6R)-6-フルオロ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]-N-チアゾール-2-イル-アセトアミド
工程1:4-ブロモ-3,6-ジクロロ-2-フルオロベンズアルデヒド
テトラヒドロフラン(70ml)中の1-ブロモ-2,5-ジクロロ-3-フルオロベンゼン(9.41g、38.6mmol)の溶液を、ドライアイス/アセトン浴中で冷却した。THF中、2mol/lのLDA(21.2ml、42.5mmol、1.1当量)を加え、混合物を-75℃で20分間攪拌した。N,N-ジメチルホルムアミド(2.82g、3.0ml、38.6mmol、1当量)を滴下して加え、1時間攪拌した。エーテル中の酢酸溶液(1:1、10ml)を加えた。混合物を一晩室温まで温めた。水を加えた後、混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、乾燥し(MgSO
4)、フィルタにかけ、減圧濃縮し、未精製の標題化合物(定量収率)を淡黄色固体として得た。化合物は、さらに精製せずに次の工程で使用した。
【0053】
工程2:6-ブロモ-4,7-ジクロロ-1H-インダゾール
ジオキサン(50ml)中の4-ブロモ-3,6-ジクロロ-2-フルオロベンズアルデヒド(実施例1、工程1)(10.5g、38.6mmol)の溶液に、ヒドラジン水和物(3.86g、3.78ml、77.2mmol、2.0当量)を加えた。混合物を室温で3日間撹拌した。ヒドラジン水和物(386mg、0.38ml、7.72mmol、0.2当量)を加え、混合物を70℃で7時間暖めた。室温まで冷却した後、水を加え、沈殿した固体をろ過により収集した。固体に少量のアセトニトリルを加え、2時間攪拌した。ろ過により固体を収集し、少量のアセトニトリルで洗浄し、乾燥し、標題の化合物(7.8g、収率76%)を灰色がかった白色固体として得た。m/z267.0/269.0、[M+H]
+、ESI pos、Br同位体。
【0054】
工程3:エチル2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)アセテート
N,N-ジメチルアセトアミド(11.5mL)中の6-ブロモ-4,7-ジクロロ-1H-インダゾール(実施例1、工程2)(7.84g、29.5mmol、1当量)の溶液に、エチル2-ブロモアセテート(9.85g、6.53ml、59mmol、2.0当量)を加えた。反応混合物を100℃で16時間撹拌した。氷を加え、沈殿した固体をろ過により収集し、水で洗浄した。化合物を沸騰エタノールから結晶化した。固体をろ過により収集し、少量のエタノールで洗浄し、乾燥し、標題の化合物を白色固体として得た(7.5g、収率70%)。m/z353.0,355.0,[M+H]
+,ESI pos,Br同位体。
【0055】
工程4:tert-ブチル(2S,4R)-2-[2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)-3-エトキシ-3-オキソ-プロパノイル]-4-フルオロ-ピロリジン-1-カルボキシレート
テトラヒドロフラン(11ml)中の(2S,4R)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-フルオロピロリジン-2-カルボン酸(2.34g、10mmol、1.55当量)の溶液を氷浴中で冷却した。カルボニルジイミダゾール(1.63g、10mmol、1.55当量)を加えた。冷却浴を取除き、混合物を3時間攪拌し、溶液Aを得た。テトラヒドロフラン(11ml)中のエチル2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)アセテート(Example1、工程3)(2.28g、6.5mmol)の溶液を-70℃まで冷却した。テトラヒドロフラン中2mol/lのLDA(5.0ml、10mmol、1.55当量)を5分以内に滴下して加えた。混合物を-70℃で30分間撹拌した。溶液Aを5分以内に滴下して加えた。混合物を冷却浴中で一晩室温まで温めた。飽和NH
4Cl水溶液を添加した後、混合物を酢酸エチルで2回抽出した。有機層を水で洗浄し、混合し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮乾固し、未精製の標記化合物(定量的収率)を得、これをさらに精製することなく次の工程に使用した。m/z566.1/568.1,[M+H]
+,ESI pos、Br同位体。
【0056】
工程5:エチル2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)-2-[(6R)-6-フルオロ-3-チオキソ-2,5,6,7-テトラヒドロピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]アセテート
ジオキサン(11ml)中の4M HCl中のtert-ブチル(2S,4R)-2-[2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)-3-エトキシ-3-オキソ-プロパノイル]-4-フルオロ-ピロリジン-1-カルボキシレート(実施例1、工程4)(4.23g、6.41mmol)の溶液を室温で1時間撹拌した。混合物を濃縮乾固した。残渣をエタノール(37ml)に溶解し、チオシアン酸カリウム(829mg、8.53mmol、1.33量)およびエタノール中1M HCl(12.8ml)を添加し、室温で40時間撹拌した。水を加えた後、混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、フィルタにかけ、濃縮乾固し、未精製の標題化合物(2.5g、収率76%)を得、これをさらに精製することなく次の工程に使用した。m/z509.0/511.0,[M+H]
+,ESI pos、Br同位体
【0057】
工程6:エチル2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)-2-[(6R)-6-フルオロ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]アセテート
酢酸(10ml)中のエチル2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)-2-[(6R)-6-フルオロ-3-チオキソ-2,5,6,7-テトラヒドロピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]アセテート(実施例1、工程5)(1.46g、2.88mmol)を10℃まで冷却した。過酸化水素、35%(1.12g、1.01ml、11.5mmol、4当量)を滴下して加えた。反応混合物を室温で1時間撹拌した。飽和亜硫酸ナトリウム溶液を添加して、過剰の過酸化水素を分解した。若干量の水(すべての塩を溶解するのに十分な量)および酢酸エチルを添加した後、混合物に固体炭酸ナトリウムを慎重に添加することによってpH9にした。混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、濃縮した。生成物をクロマトグラフィ(SiO
2、ヘプタン中0~100%酢酸エチル)によって精製し、標題化合物(0.81g、収率58%)を淡褐色固体として得た。m/z475.0/477.0,[M+H]
+、ESI pos、Br同位体。
【0058】
工程7:エチル2-[4,7-ジクロロ-6-(4-モルホリノフェニル)インダゾール-2-イル]-2-[(6R)-6-フルオロ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]アセテート
エチル2-(6-ブロモ-4,7-ジクロロ-インダゾール-2-イル)-2-[(6R)-6-フルオロ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]アセテート(実施例1、工程6)(100mg、0.21mmol)、(4-モルホリノフェニル)ボロン酸(130mg、0.63mmol、3当量)および炭酸セシウム(205mg、0.63mmol、3当量)をトルエン(3.0ml)と混合し、超音波処理下で混合物にアルゴンを通気することによって脱気した。[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(15mg、0.02mmol、0.1当量)を加え、混合物を、封管中、110℃で30分間攪拌した。混合物を室温まで冷却し、酢酸エチルで希釈し、半濃縮炭酸ナトリウム溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮した。未精製の材料をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2、酢酸エチル中0~40%メタノール)によって精製し、標題化合物(82mg、収率69%)を淡褐色非晶体として得た。m/z558.4,[M+H]
+、ESI pos、Br同位体。
【0059】
工程8:2-[4,7-ジクロロ-6-(4-モルホリノフェニル)インダゾール-2-イル]-2-[(6R)-6-フルオロ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]-N-チアゾール-2-イル-アセトアミド
テトラヒドロフラン(1.1ml)中のエチル2-[4,7-ジクロロ-6-(4-モルホリノフェニル)インダゾール-2-イル]-2-[(6R)-6-フルオロ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[1,2-c]イミダゾール-1-イル]アセテート(実施例1、工程7)(40mg、0.071mmol)の溶液に、1MのLiOH(101μl、0.10mmol、1.5当量)および水(400μl)を添加した。混合物を室温で30分間撹拌した。混合物を濃縮し、乾燥させた。残渣をN,N-ジメチルホルムアミド(1.1ml)に溶解した。チアゾール-2-アミン(9mg、0.086mmol、1.2当量)、HATU(33mg、0.086mmol、1.2当量)およびヒューニッヒ塩基(28mg、0.037ml、0.21mmol、3当量)を添加した後、混合物を室温で1時間攪拌した。水を加えた後、混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、硫酸ナトリウム上で乾燥し、フィルタにかけ、濃縮した。未精製の材料をフラッシュクロマトグラフィー(SiO
2、酢酸エチル中0%~40%メタノール)によって精製し、標題化合物(22mg、収率50%)を淡褐色固体として得た。m/z612.4,[M+H]
+,ESI pos。