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特許7530441免疫染色方法、試料交換室、及び荷電粒子線装置
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  • 特許-免疫染色方法、試料交換室、及び荷電粒子線装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】免疫染色方法、試料交換室、及び荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20240731BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
H01J37/20 B
G01N33/53 Y
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022564993
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2020044477
(87)【国際公開番号】W WO2022113336
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高木 孝士
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】康 徳東
(72)【発明者】
【氏名】本田 一穂
(72)【発明者】
【氏名】坂上 万里
(72)【発明者】
【氏名】中村 恵
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-80108(JP,A)
【文献】国際公開第2008/044351(WO,A1)
【文献】特表2005-529341(JP,A)
【文献】特開2017-201289(JP,A)
【文献】特開2017-107877(JP,A)
【文献】特開2011-34895(JP,A)
【文献】特開2007-149571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
G01N 33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置に用いられる試料交換室であって、
試料が載置される基板を導入可能な容器と、
前記試料を染色する染色機構と、
前記試料を洗浄する洗浄機構と、
前記容器を真空排気する排気機構と、
前記容器の内部及び前記試料を殺菌する殺菌機構と、
を備える、
ことを特徴とする試料交換室。
【請求項2】
請求項1の試料交換室であって、
前記染色機構は、免疫染色した前記試料を重金属で染色する、
ことを特徴とする試料交換室。
【請求項3】
請求項1に記載の試料交換室であって、
前記染色機構、前記洗浄機構、前記殺菌機構を制御する制御装置を備える、
ことを特徴とする試料交換室。
【請求項4】
請求項1に記載の試料交換室であって、
前記染色機構は、前記試料の染色が可能となる特定溶液を前記容器に導入する特定溶液導入口を備える、
ことを特徴とする試料交換室。
【請求項5】
請求項1に記載の試料交換室であって、
前記洗浄機構は、前記試料の洗浄が可能となる洗浄液を導入する洗浄液導入口を備える、
ことを特徴とする試料交換室。
【請求項6】
請求項1に記載の試料交換室であって、
前記排気機構は、前記容器を真空排気する真空排気口を備える、
ことを特徴とする試料交換室。
【請求項7】
荷電粒子線装置であって、
試料室と、
試料が載置される基板を導入可能な容器と、前記試料を染色する染色機構と、前記試料を洗浄する洗浄機構と、前記容器を真空排気する排気機構と、前記容器の内部及び前記試料を殺菌する殺菌機構とを有する試料交換室と、
前記試料を大気暴露することなく、前記試料交換室と前記試料室の間において、前記試料を移送することができるオートローダ機構と、を備える、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項7に記載の荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線装置は、走査電子顕微鏡である、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項7に記載の荷電粒子線装置であって、
前記試料交換室の前記染色機構は、免疫染色した前記試料を重金属で染色可能である、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項7に記載の荷電粒子線装置であって、
前記試料室と、前記試料交換室と。前記オートローダ機構を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記試料の移送および撮像を自動で行うことができる、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫染色方法、染色機構を有する試料交換室、及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病理診断では生物組織をホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE:Formalin fixed paraffin embedded)標本にし、目的の細胞成分を様々な染色方法を用いて染め分け、形態と色調の差で組織を識別し診断を行う。この染色手法の一つである免疫染色は、主にタンパクなどの抗原物質と抗体の特異反応である抗原抗体反応を利用して特定遺伝子の発現や各種マーカータンパク質を可視化することで、組織の機能や小器官を同定する手技で、病理診断や研究に必要不可欠である。
【0003】
この手技を応用した免疫電子顕微鏡法は非常に要望が高いが、顕微鏡の分解能に依存するため、主に透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)が用いられる。TEMは分解能が高く、微細な細胞の構造観察に適しており、病理診断や研究で利用されているが、広い施設や高額な予算が求められるため、所有できる機関が限られる。また、超薄切片の作製等の煩雑な前処理に時間と手間がかかる上、線源に電子線を使用するため観察像は白黒で表示されるので、光学顕微鏡のように細胞成分を色によって識別することもできない。このため観察画像の理解にも専門知識を要し習熟度を要する。
【0004】
このように病理診断にTEMを使用する際には多々の問題があるが、この問題解消のために、近年、光学顕微鏡用のFFPE標本をTEMよりも安価で、省スペースで使用できる走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察して病理診断を行う手法が期待されている。これに伴い、SEMを用いた免疫電顕の要望も高まり、より簡便で病理診断支援も可能となる手法が求められている。関連する先行技術として、例えば、大気中に配置された試料の表面の拡大画像を生成するSEMを開示する特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-92952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
免疫電顕の要望は非常に高いが、下記の2つの理由から一般的ではない。
(1)光学顕微鏡試料作製、免疫染色で使用する固定液、透徹剤、賦活法などは、電子顕微鏡の観察に重要な組織の微細構造の形態保持を悪くするために使用する試薬に制限がある。
(2)微細構造の保持をよくするための電子顕微鏡試料作製の前・後固定液、エポキシ樹脂は試料の抗原性を低下させ免疫反応を阻害する。
【0007】
上記の問題を改善した免疫電顕法には、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP:Horseradish peroxidase)を目的抗原の標識抗体として使用し、その陽性部位をDAB発色させ、さらにオスミウムを反応させて生成されたオスミウムブラックをTEMで観察する方法か、5~15nm程度の金粒子を標識した2次抗体を用いて陽性部位の金粒子をTEMや一般的では無いがSEMで観察する2つの方法がある。しかし、どちらも通常の免疫染色に比べて手技が煩雑なうえ染色の安定性も弱い。また、SEMはオスミウムブラックや微小な金粒子の観察が困難である。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、より簡便で安定した新規免疫染色をTEMよりも安価であり、省スペースで使用できるSEMを用いて病理診断や研究に利用可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明においては、新規免疫染色方法の開発に基づき、荷電粒子線装置に用いられる試料交換室であって、試料が載置される基板を導入可能な容器と、試料を染色する染色機構と、試料を洗浄する洗浄機構と、容器を真空排気する排気機構と、容器の内部及び試料を殺菌する殺菌機構と、を備える構成の試料交換室を提供する。
【0010】
また、上記の目的を達成するため、本発明においては、荷電粒子線装置であって、試料室と、試料が載置される基板を導入可能な容器と、試料を染色する染色機構と、試料を洗浄する洗浄機構と、容器を真空排気する排気機構と、容器の内部及び試料を殺菌する殺菌機構とを有する試料交換室と、試料交換室と試料室の間において、大気暴露することなく試料を移送することができるオートローダ機構と、を備える構成の荷電粒子線装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料室において染色に係る作業からSEMによる観察、特性X線分析、結果の解析まで自動化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る試料交換室の一構成例を示す図である。
図2】実施例1に係る荷電粒子線装置の一構成例を示す模式図である。
図3】実施例1に係る荷電粒子線装置の動作を示すフローチャートである。
図4】実施例1に係る新規染色方法の手順を示すフローチャートである。
図5】実施例1に係る病理切片の染色の一例を示す図である。
図6】実施例1に係る染色方法で染色した病理切片を特性X線分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【実施例1】
【0014】
実施例1は、試料が載置される基板を導入可能な容器と、試料を染色する染色機構と、試料を洗浄する洗浄機構と、容器を真空排気する排気機構と、容器の内部及び試料を殺菌する殺菌機構と、を備える試料交換室、並びにそれを用いた荷電粒子線装置の実施例である。
【0015】
図1は、実施例1に係る荷電粒子線装置に用いられる試料交換室の一構成図である。試料交換室1は、容器2と、チューブ付きの特定溶液導入口3、洗浄液導入口4、真空排気口5、廃液口6、および殺菌機構7を有する。この試料交換室1には、各構成要素を制御する制御回路なども含まれるが、ここではそれらの図示を省略している。特定溶液導入口3は試料を染色する染色機構を構成する。洗浄液導入口4は試料を洗浄する洗浄機構を構成する。真空排気口5は容器を真空排気する排気機構を構成する。殺菌機構7は、容器の内部及び試料を殺菌する殺菌機構である。
【0016】
容器2は、その内部に試料が載置された基板を複数導入できる構造を有する、例えばカセット型容器である。なお、容器2には、基板を導入したときに、基板に載置された試料が、容器2や他の基板と接触しない十分な空間が保持される。
【0017】
チューブ付きの特定溶液導入口3は、開閉可能であり、試料交換室1あるいは容器2に接続される。特定溶液は、例えば試料の増感反応に用いられる、銀や金などの重金属である。同図に示すように、特定溶液導入口3にはチューブが接続され、チューブの他端は試料交換室1の外部に設置された特定溶液用容器8に取り付けられる。チューブを通して、容器2内の試料が染色される充分な量の特定溶液が、試料交換室1あるいは容器2内に導入できる。
【0018】
特定溶液導入口3同様、チューブ付きの洗浄液導入口4は、開閉可能であり、試料交換室1あるいは容器2に接続される。洗浄液は、例えば水である。洗浄液導入口4にはチューブが接続され、チューブの他端は試料交換室1外部に設置された洗浄液用容器9に取り付けられる。チューブを通して、洗浄液を試料交換室1あるいは容器2内に導入し、試料上の特定溶液を洗い流す。
【0019】
真空排気口5は、試料交換室1を真空排気するため、試料交換室1外のポンプ10に接続される。チューブ付きの廃液口6は、試料交換室1外の廃液容器11に接続される。廃液口6は特定溶液や洗浄液を試料交換室1あるいは容器2から廃液容器11に排出できる。
【0020】
殺菌機構7は、試料交換室1内に取り付けられ、試料交換室1内を殺菌する機能を有する、例えば紫外線(UV)照射機である。試料中に毒性のあるウイルスを含む場合、固定後にも活性が落ちない場合もあるが、試料交換室1内で殺菌できることにより、大気および荷電粒子線装置内にウイルスが暴露しない。すなわち、固定により不活性化できないウイルスが、作業者などに影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0021】
図2は、図1に示した本実施例の試料交換室1を荷電粒子線装置21に適用した様子を示す図である。荷電粒子線装置21は、例えば試料の観察画像を撮像する走査電子顕微鏡(SEM)として構成することができる。走査電子顕微鏡における切片試料は、光学顕微鏡用の厚さ数μm程度で十分であることから、切片作製が容易になる。従って、前処理をより簡便・迅速に行うことができる。
【0022】
図2に示されるように、荷電粒子線装置21は、装置本体22と、試料交換室1と、オートローダ機構23と、制御装置24を備える。
【0023】
装置本体22は鏡筒25と試料室26が一体化されて構成されている。鏡筒25は電子銃27、コンデンサレンズ28、偏向コイル29および対物レンズ30を有する。コンデンサレンズ28および対物レンズ30は、コイルを有する電磁石であり、各々から発生する電磁場が、電子銃27から照射される電子線に集束作用を与え、電子ビームEBとするレンズとして機能する。なお、鏡筒25には各構成を制御する制御回路なども含まれるが、ここではそれらの図示を省略している。
【0024】
電子ビームEBが試料台33上の試料に対して照射されることにより、例えば、2次電子や反射電子、特性X線等が発生する。検出器31は、鏡筒25内または試料室26内の適当な位置に配置され、各信号を検出する。
【0025】
試料室26は、開閉可能な導入/導出口32を備え、試料台33が収容される構造を有する。試料は試料台33上に載置される。
【0026】
試料室26の導入/導出口32にはオートローダ機構23が接続される。オートローダ機構23はさらに、試料交換室1に接続される。オートローダ機構23は、試料を大気暴露することなく、試料交換室1から試料室26へ、試料室26から試料交換室1へ移送できる機構を有する。オートローダ機構23も真空排気されていることで、試料を試料室26と試料交換室1を移送する際の、真空排気および大気開放の時間を短縮できる。
【0027】
制御装置24は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)などで構成され、装置本体22、試料交換室1、オートローダ機構23におけるすべての動作を制御できる機能を有する。例えば、ユーザが事前に設定することにより、複数試料において、撮像時の輝度・焦点の調整、撮像、特性X線分析を自動で実行でき、同時に陽性部位の同定ができる。試料交換室1においては、染色・洗浄の有無や回数、殺菌の有無やタイミングを設定・自動実行できる。
【0028】
図3は、ユーザの試料導入から荷電粒子線装置21が試料を撮像するまでの装置の動作を示すフローチャートである。下記に図3の各ステップについて説明する。
図3:ステップS1)
ユーザは、試料を載置した基板を試料交換室1内の容器2に搭載する。基板を搭載した後に、制御装置24であるPCに試料交換室1、オートローダ機構23、および荷電粒子線装置21に対する指示を入力することで自動化が可能となる。入力する指示は、例えば、試料交換室1における染色、洗浄、殺菌の有無や順序、時間、撮像設定、特性X線分析による陽性部位の同定などがある。
図3:ステップS2~S3)
試料交換室1は、ユーザが入力した指示に従い、特定溶液を試料交換室1または容器2内に注入し、試料を増感染色する(ステップS2)。特定溶液は、染色完了後に廃液口6から排出される(ステップS3)。
図3:ステップS4~S5)
試料交換室1は、ユーザが入力した指示に従い、洗浄液を試料交換室1または容器2内に注入し、試料を洗浄する(ステップS4)。洗浄液は、洗浄完了後に廃液口6から排出される(ステップS5)。
図3:ステップS6)
試料交換室1は、真空排気を行う。
図3:ステップS7~S10)
試料交換室1内の複数の試料は、オートローダ機構23により、一枚ずつ順に試料室26に導入され、試料台33に載置される(ステップS7)。荷電粒子線装置21は、ユーザによって事前に入力された、例えば、撮像範囲や撮像条件などの指示に従い、試料を撮像、特性X線分析を実施する(ステップS8)。
【0029】
撮像、分析が完了した試料は、オートローダ機構23により試料室26から試料交換室1に移送され、容器2内の元の位置に戻される(ステップS9)。殺菌機構7が試料の殺菌を行う(ステップS10)。試料は、試料交換室1内で、毒性や感染性があるウイルスが不活性になるのに十分な時間(ステップS1において設定済み)殺菌される。なお、ステップS10の殺菌は試料を試料室26に導入する前に、試料交換室1内で実施することも可能である。以降、ユーザが指示した数の試料の撮像が完了するまで、ステップS7~S10を繰り返す。
【0030】
本実施例では、試料交換室1と、オートローダ機構23と、荷電粒子線装置本体22が一体であることにより、染色から撮像までの作業をすべて自動化できる。すなわち、これまでユーザが行っていた、染色、洗浄、試料の導入、撮像、試料の導出を自動化できる。従って、ユーザの工程数を大幅に削減することができる。
【0031】
図4に本実施例の新規染色方法のフローチャートを示す。なお、本願発明者等は当該新規染色方法をTakaki法と呼ぶ場合がある。すなわち、試料を免疫染色し、免疫染色された試料に重金属増感染色を行う。新規染色方法41において、組織の採取から免疫染色までは従来のHRPなどを目的抗原の標識抗体として使用し、その陽性部位をDAB発色する一般的な免疫染色法と同様の手法である。
【0032】
次いで、1%四酸化オスミウムによるオスミウム染色S42は必要に応じて行うが、これは省いても構わない。このステップは免疫反応をより強固にする場合に使用する。
【0033】
重金属増感染色S43ではThiosemicarbazide、金、銀、ナトリウムなどの重金属を組み合わせて染色される。例えば、1%重亜硫酸水ナトリウムで1分間処理(室温)した後、メセナミン銀に試料を15分放置(60℃)し増感する。ここで使用するメセナミン銀の濃度は観察部位によって最適な濃度に変更する。その後、塩化金で3分間処理(室温)し、5%チオ硫酸ナトリウムで試料を定着させる(1分間)。最後に、水で洗浄し乾燥させ、撮像する。重金属増感染色S43を加えることにより、陽性部位が増感される。さらに、SEMでも十分に陽性部位を判別できる明瞭なコントラストを得られる。
【0034】
例えば、撮像した試料において、増感染色された部位の面積が閾値を超えない試料が続いた場合には染色の失敗をアラートする設定を指示すれば、試料交換室1に搭載したすべての試料を撮像する前に、再染色の作業に戻ることが可能になり、時間的ロスを防ぐことが可能となる。なお、増感された部位の面積は、画像のコントラスト差あるいは特性X線分析の結果から自動で導出できる。
【0035】
また、撮像した画像は、例えば、制御装置24を構成するPCで二値化することにより、陽性部位の面積率を求められる。求めた面積率は、疾患の判定、特定細胞の認識、ウイルスの有無の判定に用いることができる。また、例えば試料の特性X線分析の結果から、増感染色に用いた元素のみを表示することで、増感染色された部位を同定できる。これにより、光学顕微鏡では感知できない微小な陽性部位を判別可能となる。従って、図4の新規染色方法41では、画像解析が可能となることから、熟練度にかかわらず判定可能となる。
【0036】
図5は、病理切片を前記新規染色方法41により染色した病理切片の一例を従来法の場合と比較して示している。同図の下段は、上段の一部を拡大したものである。同図の(a)に示すように、従来法のオスミウムブラック法では、目的部のみを染色することが困難である。さらに、染色できた場合も過染色となってしまう頻度が高く、前処理に時間と熟練度が必要であった。また、SEMでは染色部位とその他の部位の鑑別が困難となる。
【0037】
しかし、同図の(b)に示すように、新規染色方法41では陽性部位を重金属で増感しており、明色で示される。このように本実施例の場合、明瞭なコントラストが得られるため、同図の(c)に示すように、免疫反応した微小細胞内組織を簡易に可視化することができる。
【0038】
図6は、新規染色方法41の重金属増感染色S43で染色した病理切片を特性X線分析した結果を示す図である。同図の(a)に反射電子の信号による映像を示し、同図の(b)に特性X線分析により、増感染色に用いた金を感知して陽性部位を可視化した映像を示す。このように、新規染色方法41では微小な陽性部位も明瞭となり、より迅速な病理診断が可能となる。
【0039】
以上詳述した本発明によれば、試料室において染色に係る作業からSEMによる観察、特性X線分析、結果の解析まで自動化できることから、試料前処理に要する時間と工程数を削減できる。また、試料交換室に、試料を殺菌できる機構を有することで、毒性や感染性のあるウイルス等を大気及び装置内に暴露することなく観察できる。
【0040】
また、本発明によれば、各切片を数μm程度の厚さにでき、切片作製に要する手間と熟練度が必要なく、免疫染色後に重金属で陽性部位を増感することで高いコントラストを得ることができる。今まで困難であったSEMを用いた免疫電顕観察でも簡易に免疫陽性反応が可視化できる。更に、同部位を特性X線分析することで陽性部位のより正確な部位同定と面積比による定量が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1 試料交換室
2 容器
3 特定溶液導入口
4 洗浄液導入口
5 真空排気口
6 廃液口
7 殺菌機構
8 特定溶液用容器
9 洗浄液用容器
10 ポンプ
11 廃液容器
21 荷電粒子線装置
22 装置本体
23 オートローダ機構
24 制御装置
25 鏡筒
26 試料室
27 電子銃
28 コンデンサレンズ
29 偏向コイル
30 対物レンズ
31 検出器
32 導入/導出口
33 試料台
41 新規染色方法
図1
図2
図3
図4
図5
図6