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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】タリウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 61/00 20060101AFI20240801BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20240801BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C22B61/00
C22B3/08
C22B3/44 101Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020148757
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043470
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】加地 伸行
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-122722(JP,A)
【文献】特開2018-162479(JP,A)
【文献】特開2008-156687(JP,A)
【文献】特開平05-025561(JP,A)
【文献】特開昭55-115934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化タリウムと、硫化カドミウムとを含む混合硫化物又は前記混合硫化物を含む水溶液に硫酸を添加して、タリウムが分配された硫酸溶液の液体部と、カドミウムが分配された浸出残渣の固体部からなる浸出スラリーのpHを-0.5~1.5の範囲に調整し、前記浸出スラリーに固液分離処理を施し、前記タリウムが分配された硫酸溶液の液体部を浸出液として得る浸出工程と、
前記浸出工程で得た前記浸出液に、少なくとも、塩化物イオンを遊離する塩化物、または、塩化物イオンを含む溶液のいずれか一方を添加して、前記浸出液中のタリウムを塩化タリウムの沈殿物として含む塩化物スラリーを形成且つ該塩化物スラリーの塩化物イオン濃度を0.5g/L以上の範囲に調整し、前記塩化物スラリーに固液分離処理を施し、前記塩化タリウムの沈殿物を回収するタリウム回収工程と、
を含むことを特徴とするタリウム回収方法。
【請求項2】
前記タリウム回収工程における前記塩化物スラリーの塩化物イオン濃度が6.7g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のタリウム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タリウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等から不純物を分離回収して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。この粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストから還元焙焼処理を経て得ることができ、資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。
【0003】
一方で、このような鉄鋼ダスト由来の粗酸化亜鉛には、その主成分である酸化亜鉛以外に、塩素やフッ素等のハロゲン成分及びカドミウム等の不純物が高い割合で含有されている。これらの不純物のうち、特にカドミウムについては有害金属であるため、酸化亜鉛の製造プラントにおいては、カドミウムの分離回収が一般的に行われている。
【0004】
さて、このカドミウムの分離回収は、粗酸化亜鉛を酸に付してカドミウムを浸出させた浸出液に、例えば、中和処理や亜鉛セメンテーション処理などの複数の処理を組み合わせた湿式処理によって行うことができる。しかし、粗酸化亜鉛には微量のタリウムが含まれており、このタリウムは、前記の湿式処理において系外へ除去されることなく、次第に蓄積されていくため、湿式処理の系内にタリウムが蓄積され続けると、タリウムの分離が不十分となり金属カドミウムの品位に悪影響を及ぼす懸念があった。
【0005】
タリウムを湿式処理の系外へ排出する方法として、例えば、前記の中和処理において発生する中和処理液に硫化処理を施して製錬中間物を生成し、この製錬中間物を介してタリウムを系外へ排出する、タリウムの排出方法が知られている。しかし、この製錬中間物には、タリウムのほかにカドミウムが含まれており、製錬中間物が系外へ排出される際に、タリウムだけでなくカドミウムも系外へ排出されてしまうため経済的ではなかった。製錬中間物からカドミウムを分離して、タリウムを回収することができれば、タリウムのみを系外に排出することができるので経済的であり、より有利である。
【0006】
製錬中間物からタリウムを回収する方法として、例えば、特許文献1に示す方法を挙げることができる。この方法は、製錬中間物からタリウムを回収することを可能にしているが、製錬中間物に空気または窒素ガスを吹き込みながら硫酸浸出し、次いで亜鉛末を加えてスポンジタリウムを還元析出し、このスポンジタリウムにさらに硫酸浸出や中和処理を複数適用させるなどの複雑な処理工程を経ることが必要であり、効率的ではなかった。
このように、製錬中間物から効率的にカドミウムを分離し、タリウムを回収できるタリウム回収方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭60-122722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、このような状況を解決するため、製錬中間物から効率的にカドミウムを分離し、タリウムを回収できるタリウム回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の発明は、硫化タリウムと、硫化カドミウムとを含む混合硫化物又は前記混合硫化物を含む水溶液に硫酸を添加して、タリウムが分配された硫酸溶液の液体部と、カドミウムが分配された浸出残渣の固体部からなる浸出スラリーのpHを-0.5~1.5の範囲に調整し、前記浸出スラリーに固液分離処理を施し、前記タリウムが分配された硫酸溶液の液体部を浸出液として得る浸出工程と、前記浸出工程で得た前記浸出液に、少なくとも、塩化物イオンを遊離する塩化物、または、塩化物イオンを含む溶液のいずれか一方を添加して、前記浸出液中のタリウムを塩化タリウムの沈殿物として含む塩化物スラリーを形成且つ該塩化物スラリーの塩化物イオン濃度を0.5g/L以上の範囲に調整し、前記塩化物スラリーに固液分離処理を施し、前記塩化タリウムの沈殿物を回収するタリウム回収工程と、を含むことを特徴とするタリウム回収方法である。
【0010】
また、本発明の第の発明は、第1の発明のタリウム回収工程における前記塩化物スラリーの塩化物イオン濃度が、6.7g/Lであること、を特徴とするタリウム回収方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のタリウム回収方法は、製錬中間物から効率的にカドミウムを分離し、タリウムを回収することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のタリウム回収方法は、硫化タリウムと、硫化カドミウムとを含む混合硫化物を出発物質として、タリウムを分離回収する、タリウム回収方法である。その方法は、浸出工程とタリウム回収工程から構成されており、上記の工程を経ることによって、タリウムを塩化タリウムとして分離し回収することができる。
以下、それぞれの工程を説明する。
【0013】
<浸出工程>
浸出工程は、硫化タリウムと、硫化カドミウムとを含む混合硫化物、又は、その混合硫化物を含む水溶液に硫酸を添加し、その混合硫化物を含む硫酸溶液を形成し、その硫酸溶液のpH範囲を、混合硫化物に含まれるタリウムを浸出液となる硫酸溶液の液体部に優先的に浸出させ、一方で、その混合硫化物に含まれるカドミウムを浸出残渣となる固体部へと分配させるpH範囲に調整し、この浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成した後、これを固液分離してタリウムを含む浸出液を得る工程である。
【0014】
ここで、使用する混合硫化物は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉由来の鉄鋼ダストから酸化亜鉛鉱を製造する過程で発生するタリウムやカドミウムを含む廃液に中和処理を行い、この中和処理によって得た処理液に対し、さらに硫化処理を施すなどの方法によって生成することができる。硫化処理を施すことにより、硫化物を形成しない不純物を処理液中に残存させることができ、硫化物を形成するタリウムやカドミウムを、硫化タリウムや硫化カドミウムとして生成することができる。
【0015】
ところで、上記のような浸出スラリーを形成する際、浸出スラリーのpHは、例えば、pHが-0.5~1.5となる範囲に調整すればよい。これにより、混合硫化物の硫化タリウムからタリウムを硫酸溶液中に優先的に浸出させる一方で、カドミウムを浸出残渣、つまり、硫化カドミウムへと分配させることができる。pHが-0.5より低くなるとカドミウムの浸出率が増加し、pHが1.5を超えるとタリウムの浸出率が低下する。
【0016】
この場合、さらにpHを0.5~1.5となる範囲に調整することによって、後述のタリウム回収工程において、タリウムが分離された後の処理液に含まれる遊離酸量の増加を抑制することができる。これにより、この処理液を、例えば、金属カドミウムを製造するための原料溶液としてリサイクルする場合に、リサイクルプラントで用いられるアルカリの使用量を抑制することができる。
【0017】
ところで、浸出スラリーを形成する際、浸出スラリーの温度は高いほど、タリウムの浸出性が向上し、カドミウムとの分離性が向上するが、10℃~80℃の範囲内であれば、特段の温度調整をする必要はない。
【0018】
こうして得られる浸出残渣は、浸出スラリーに静置分離やろ過方法などの固液分離法、或いは、工業的には加圧濾過、吸引濾過、遠心分離などの固液分離法を適用することによって、タリウムを含む浸出液と分離される。分離された浸出残渣は、タリウムが十分に低減されたものとなっているため、例えば、金属カドミウムや、酸化亜鉛鉱を製造するための原材料としてリサイクルすることができる。
【0019】
<タリウム回収工程>
タリウム回収工程は、前工程の浸出工程で得たタリウムを含む浸出液に、少なくとも、塩化物イオンを遊離する塩化物、または、塩化物イオンを含む溶液のいずれか一方を添加して、タリウムを塩化タリウムとして固体形態に分配し、その他の元素を液中に残置分配した塩化物スラリーを形成後、これを固液分離して混合硫化物に含まれていたタリウムを塩化タリウムとして分離、回収する工程である。
【0020】
ここで、添加することのできる塩化物イオンを遊離する塩化物としては、例えば、塩化ナトリウムなどを挙げることができ、添加することのできる塩化物イオンを含む溶液としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液などを挙げることができる。
【0021】
さて、塩化物スラリーを形成する際、前記の塩化物イオンを遊離する塩化物や、前記の塩化物イオンを含む溶液の添加量は、塩化タリウム生成後の塩化物スラリーの塩化物イオン濃度が、例えば、0.5g/L以上の範囲となるように調整すればよい。
これにより、効果的に塩化タリウムを生成してタリウムを固体形態に分配し、その他の元素を液中に分配することができる。塩化物イオン濃度が0.5g/L未満である場合、塩化タリウムの生成量が低下する。
【0022】
こうして得られる塩化タリウムは、先述の固液分離法を適用することによって、液中から分離される。塩化タリウムが分離された後の処理液は、タリウムが十分に低減されたものとなっているため、例えば、金属カドミウムや、酸化亜鉛鉱を製造するための原料溶液としてリサイクルすることができる。
【実施例
【0023】
以下、実施例を用いて本発明を詳述する。
【0024】
鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉由来の鉄鋼ダストから酸化亜鉛鉱を製造する過程で発生する廃液に中和処理を行い、この中和処理によって得た処理液を硫化工程に供して生成した表1に示す組成の混合硫化物6gに、215mlの純水を加え、60℃に加温し、撹拌しながら64%硫酸を18ml添加してpH0.0となるように調整し、この状態を60分間保持して浸出スラリーを形成した。
【0025】
【表1】
【0026】
次に、この浸出スラリーをメンブレン濾紙で濾過し、浸出残渣と濾液とを分離した後、浸出残渣を分析した。その結果を表2に示した。
さらに、濾液に含まれるタリウムと、カドミウムの濃度を測定し、その結果から、タリウムの浸出率とカドミウムの浸出率を求めた。タリウムとカドミウムの濃度測定結果を表3に、タリウムとカドミウムの浸出率を表4に示した。
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
浸出残渣のタリウム含有量が、浸出前の混合硫化物のタリウム含有量に比して大きく減少する一方で、カドミウムの大部分は浸出残渣に残留しており、タリウムを選択的に浸出できることを確認できた。
また、表2に示すように、この浸出残渣はタリウムが低減された浸出残渣となっており、金属カドミウムや、酸化亜鉛鉱を製造するための原材料としてリサイクルできることが確認できた。
【0031】
次に、前記の濾液300mlを上記の手順を繰り返すことにより準備し、撹拌しながら360g/Lの塩化ナトリウム溶液11mlを加え、この状態を室温で120分間保持して塩化物スラリーを形成した。ここで、塩化タリウム生成後の塩化物スラリーの塩化物イオン濃度は、6.7g/Lであった。
【0032】
次に、この塩化物スラリーをメンブレン濾紙で濾過し、沈殿物と濾液とを分離した後、この濾液を分析し、その結果から、タリウムの回収率を求めた。
その濾液の分析結果を表5に、タリウム回収率を表6に示した。
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
濾液のタリウム濃度は大きく低減しており、浸出前の混合硫化物に含まれるタリウムの93%を塩化タリウムとして回収できることが確認できた。また、表5に示すように、この濾液はタリウムが低減された濾液となっており、金属カドミウムや、酸化亜鉛鉱を製造するための原料溶液としてリサイクルできることが確認できた。
このように、本発明のタリウム回収方法は、製錬中間物から効率的にカドミウムを分離し、タリウムを回収することができることが確認できた。