IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特許7530568電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法
<>
  • 特許-電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法 図1
  • 特許-電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法 図2
  • 特許-電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法 図3
  • 特許-電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20240801BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01N27/04 A
G01N33/38
G01N27/04 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020163710
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055968
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】茂庭 柾彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸子
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-287473(JP,A)
【文献】特開2015-194449(JP,A)
【文献】特開2006-329801(JP,A)
【文献】特開2013-092471(JP,A)
【文献】特開2006-327910(JP,A)
【文献】特開2002-060283(JP,A)
【文献】特開2001-048291(JP,A)
【文献】特開2012-144771(JP,A)
【文献】特開2006-077433(JP,A)
【文献】特開2013-184859(JP,A)
【文献】特開2008-224649(JP,A)
【文献】鈴木 僚,測定環境条件が鉄筋コンクリートの電気化学的測定結果に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文集,2007年,Vol.29,No.2,pp.751-756
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/49
G01N 33/00 - G01N 33/46
G01N 17/00 - G01N 17/04
G01N 1/00 - G01N 1/44
G01R 27/00 - G01R 27/32
E04G 21/00 - E04G 23/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、または、アルミナセメントであるセメントと、必要に応じて細骨材と、を含むセメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した、水セメント比が27.5%以上70%以下であり、厚みが5mm以上40mm以下である試験体を、表面水分率が4.2%以上7%以下となるまで乾燥して乾燥状態の試験体を得る乾燥工程と、
JSCE G 581 2018のA法に準拠して乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定し、下記式(1)から該電気抵抗率を算出する乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、を備える、
電気抵抗率の測定方法。
ρ=(A/L)×(V/I)・・・(1)
(式(1)中、ρは電気抵抗率(kΩ・cm)であり、Aは試験体の断面積(cm )であり、Lは電位差電極間の距離(cm)であり、Vは電位差電極間の電位差(V)であり、Iは試験体に流れる電流(A))
【請求項2】
湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を更に備える、
請求項1に記載の電気抵抗率の測定方法。
【請求項3】
普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、または、アルミナセメントであるセメントと、必要に応じて細骨材と、を含むセメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した、水セメント比が27.5%以上70%以下であり、厚みが5mm以上40mm以下である試験体であって表面水分率が4.2%以上7%以下である乾燥状態の試験体を、JSCE G 581 2018のA法に準拠して測定し、下記式(1)から算出される電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有し、断面修復部を構成する厚みが1mm以上40mm以下のセメント硬化体が乾燥状態となった時の電気抵抗率を、推定する、電気抵抗率の推定方法。
ρ=(A/L)×(V/I)・・・(1)
(式(1)中、ρは電気抵抗率(kΩ・cm)であり、Aは試験体の断面積(cm )であり、Lは電位差電極間の距離(cm)であり、Vは電位差電極間の電位差(V)であり、Iは試験体に流れる電流(A))
【請求項4】
表面水分率が4.2%以上7%以下となるまで試験体を乾燥して乾燥状態の試験体を得る乾燥工程と、
乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、
を備える、
請求項3に記載の電気抵抗率の推定方法。
【請求項5】
湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、
湿った状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が湿った状態である時の電気抵抗率を推定する工程と、
を更に備える、
請求項3又は4に記載の電気抵抗率の推定方法。
【請求項6】
普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、または、アルミナセメントであるセメントと、必要に応じて細骨材と、を含むセメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した、水セメント比が27.5%以上70%以下であり、厚みが5mm以上40mm以下である試験体であって表面水分率が4.2%以上7%以下である乾燥状態の試験体を、JSCE G 581 2018のA法に準拠して測定し、下記式(1)から算出される電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有し、断面修復部を構成する厚みが1mm以上40mm以下のセメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を設定する、
電気化学的処置条件の設定方法。
ρ=(A/L)×(V/I)・・・(1)
(式(1)中、ρは電気抵抗率(kΩ・cm)であり、Aは試験体の断面積(cm )であり、Lは電位差電極間の距離(cm)であり、Vは電位差電極間の電位差(V)であり、Iは試験体に流れる電流(A))
【請求項7】
表面水分率が4.2%以上7%以下となるまで試験体を乾燥して乾燥状態の試験体を得る乾燥工程と、
乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、
を備える、
請求項6に記載の電気化学的処置条件の設定方法。
【請求項8】
湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を更に備える、
請求項6又は7に記載の電気化学的処置条件の設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成したセメント硬化体について、電気抵抗率を把握することが要求される場合がある。具体的には、セメント硬化体を備える構造物に対して、電気化学的な処置(例えば、電気防食工法や脱塩工法)を施す際の条件を設定するために、セメント硬化体の電気抵抗率を把握することが要求される場合がある。電気抵抗率を把握する方法としては、セメント硬化体と同じ配合を有する試験体を作成し、該試験体の電気抵抗率を測定することで、構造物を構成するセメント硬化体の電気抵抗率を推定する方法が考えられる。電気抵抗率を測定する方法としては、土木学会規準「四電極法によるコンクリートの電気抵抗率試験方法(案)」(JSCE G 581 2018のA法)が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「コンクリート標準示方書(規準編) 土木学会規準および関連規準」、発売所:丸善出版、発行所:公益社団法人 土木学会、平成30年10月 2018年制定・第1刷発行、P.437~444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の方法で電気抵抗率を測定する際には、試験体の含水状態が均一となるように所定の温度で水中養生したセメント硬化体を試験体として用いるのが標準とされている。一方で、構造物を構成するセメント硬化体は、周囲の温度や天候の影響で、乾燥した状態になることがある。このため、構造物を構成するセメント硬化体の方が試験体を構成するセメント硬化体よりも含水量が少なくなることがある。
このように、セメント硬化体の含水量が少なくなると、セメント硬化体の電気抵抗率が高くなるため、試験体で測定した電気抵抗率に基づいて電気化学的な処置の条件を設定しても、適切な処置を行うことができない虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を適切に設定することができる電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電気抵抗率の測定方法は、
セメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した試験体を、表面水分率が7%以下となるまで乾燥して乾燥状態の試験体を得る乾燥工程と、
乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、
を備える。
【0007】
斯かる構成によれば、乾燥工程で、試験体の表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥することで、試験体は、乾燥前よりも電気抵抗率が顕著に高い状態となる。そして、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。これにより、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が乾燥状態となった際の電気抵抗率を、乾燥した試験体の電気抵抗率から推定することができる。このため、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を、その推定した電気抵抗率に基づいて、適切に設定することができる。
【0008】
本発明に係る電気抵抗率の測定方法は、
湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を更に備えてもよい。
【0009】
斯かる構成よれば、湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、湿った状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。これにより、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が湿った状態である時の電気抵抗率を、湿った状態の試験体の電気抵抗率から推定することができる。このため、湿った状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値と乾燥状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値とから、セメント硬化体の乾燥に伴う電気抵抗率の上昇を把握することができる。このため、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件をより適切に設定することができる。
【0010】
本発明に係る電気抵抗率の推定方法は、
セメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した試験体であって表面水分率が7%以下である乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が乾燥状態となった時の電気抵抗率を推定する。
【0011】
斯かる構成によれば、表面水分率が7%以下である乾燥状態の試験体は、乾燥前よりも電気抵抗率が顕著に高い状態である。このため、乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が乾燥状態となった時の電気抵抗率を推定することで、その推定した電気抵抗率に基づいて、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を適切に設定することができる。
【0012】
本発明に係る電気抵抗率の推定方法は、
表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥して乾燥状態の試験体を得る乾燥工程と、
乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、
を備えてもよい。
【0013】
斯かる構成によれば、試験体の表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥する乾燥工程を行うことで、試験体は、乾燥前よりも電気抵抗率が顕著に高い状態となる。そして、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。これにより、その把握した乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が乾燥状態となった時の電気抵抗率を推定することで、その推定した電気抵抗率に基づいて、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件をより適切に設定することができる。
【0014】
本発明に係る電気抵抗率の推定方法は、
湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、
湿った状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が湿った状態である時の電気抵抗率を推定する工程と、
を更に備えてもよい。
【0015】
斯かる構成よれば、湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、湿った状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。そして、その把握した湿った状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が湿った状態である時の電気抵抗率を推定することで、湿った状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値と乾燥状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値とから、セメント硬化体の乾燥に伴う電気抵抗率の上昇を把握することができる。このため、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件をより適切に設定することができる。
【0016】
本発明に係る電気化学的処置条件の設定方法は、
セメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した試験体であって表面水分率が7%以下である乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を設定する。
【0017】
斯かる構成によれば、表面水分率が7%以下である乾燥状態の試験体は、乾燥前よりも電気抵抗率が顕著に高い状態である。このため、乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を設定することで、その条件を適切に設定することができる。
【0018】
本発明に係る電気化学的処置条件の設定方法は、
表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥して乾燥状態の試験体を得る乾燥工程と、
乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、
を備えてもよい。
【0019】
斯かる構成によれば、試験体の表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥する乾燥工程を行うことで、試験体は、乾燥前よりも電気抵抗率が顕著に高い状態となる。そして、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。そして、その把握した乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を設定することで、その条件をより適切に設定することができる。
【0020】
本発明に係る電気化学的処置条件の設定方法は、
湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を更に備えてもよい。
【0021】
斯かる構成よれば、湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、湿った状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。これにより、湿った状態の試験体の電気抵抗率と、乾燥状態の試験体の電気抵抗率とから、セメント硬化体の乾燥に伴う電気抵抗率の上昇を把握することができる。このため、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件をより適切に設定することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】普通ポルトランドセメントを使用したモルタルの表面水分率と電気抵抗率との関係
図2】普通ポルトランドセメントを使用したペーストの表面水分率と電気抵抗率との関係
図3】早強ポルトランドセメントを使用したペーストの表面水分率と電気抵抗率との関係
図4】アルミナセメントを使用したペーストの表面水分率と電気抵抗率との関係
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
本実施形態に係る電気抵抗率の測定方法は、セメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した試験体を乾燥して乾燥状態の試験体を得る乾燥工程と、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、を備える。
【0026】
セメント組成物に含まれるセメントとしては、特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントや、超速硬セメント、アルミナセメント等を挙げることができる。また、ポルトランドセメントにフライアッシュ、高炉スラグなどを混合した各種混合セメントも使用することができる。これらのセメントのうち、特には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、または、アルミナセメントを用いることができる。
【0027】
また、セメント組成物を構成する他の材料としては、特に限定されず、例えば、粗骨材、細骨材等の骨材、混和材等の粉体成分、鋼繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維等の繊維、ポリマーディスパージョン、収縮低減剤、防錆剤、減水剤、遅延剤等の液体又は粉体成分等が挙げられる。なお、試験体を作製する際には、セメントと他の粉体材料とを混合しておき、これに水及び他の液体材料を混合して混錬してもよい。
【0028】
セメント組成物と混練される水としては、特に限定されず、例えば、上水道水等を用いることができる。水セメント比(W/C)としては、20%~40%であってもよく、40%~80%であってもよい。
【0029】
試験体の形状としては、特に限定されず、例えば、直方体状(具体的には、長方形状の板状)とすることができる。試験体の厚みとしては、特に限定されず、例えば、5mm以上40mm以下であってもよく、40mm~100mmであってもよく、乾燥工程を迅速に完了する観点から、試験体を形成できる限度において可能な限り薄い方が好ましい。
【0030】
乾燥工程を行う方法としては、特に限定されず、例えば、試験体を乾燥炉内に配置して温風等で加熱する方法であってもよく、天日に曝す方法であってもよい。試験体を加熱して乾燥する際の温度としては、特に限定されず、例えば、35℃~105℃とすることができる。
【0031】
また、乾燥工程は、試験体の表面水分率が7%以下(好ましくは、5%以下)となるまで行う。具体的には、試験体を構成するセメントとして普通および早強ポルトランドセメントを用いる場合、乾燥工程は、試験体の表面水分率が7%以下となるまで行うことが好ましく、5%以下となるまで行うことがより好ましい。また、試験体を構成するセメントとしてアルミナセメントを用いる場合、乾燥工程は、試験体の表面水分率が6%以下となるまで行うことが好ましく、5%以下となるまで行うことがより好ましい。試験体の表面水分率は、下記の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程は、土木学会規準「四電極法によるコンクリートの電気抵抗率試験方法(案)」(JSCE G 581 2018のA法)に準拠して行うことができる。具体的には、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程では、下記の実施例に記載の方法で電気抵抗率を求めることができる。
【0033】
また、本実施形態に係る電気抵抗率の測定方法では、湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を更に備えてもよい。斯かる工程は、乾燥工程の前に行ってもよく、乾燥工程の後で行ってもよい。湿った状態の試験体を得る方法としては、試験体と水とを接触させる方法が挙げられる。具体的には、湿った状態の試験体を得る方法としては、特に限定されず、例えば、試験体を水中に浸漬する方法であってもよく、水を含侵させたシートで試験体に貼り付けて覆う方法であってもよい。湿った状態とは、試験体の表面水分率が、8%~12%であること、好ましくは10%~12%であることをいう。また、湿った状態の試験体の容積準質量含水率としては、特に限定されず、例えば、10%~15%であってもよく、8%~10%であってもよい。容積準質量含水率は、JIS A 1476に準拠して求めることができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る電気抵抗率の推定方法について説明する。斯かる電気抵抗率の推定方法は、セメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した試験体であって表面水分率が7%以下である乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が乾燥した時の電気抵抗率を推定するものである。試験体の構成としては、上記の電気抵抗率の測定方法における試験体と、同様の構成とすることができる。
【0035】
セメント硬化体は、単独で構造物を構成するものであってもよく、他の部材と共に構造物を構成するものであってもよい。具体的には、セメント硬化体としては、既設のコンクリートと共に構造物を構成するものであってコンクリートの表面に形成された、所謂断面修復部を構成するものが挙げられる。セメント硬化体の厚みとしては、特に限定されず、例えば、1mm以上40mm以下であってもよく、1mm以上2mm以下であってもよい。
【0036】
乾燥状態の試験体は、表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥する乾燥工程を行うことで得ることができる。また、乾燥状態の試験体の電気抵抗率は、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を行うことで得ることができる。乾燥工程、及び、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程は、上記の電気抵抗率の測定方法における乾燥工程、及び、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、同様の構成とすることができる。
【0037】
セメント硬化体が乾燥した時の電気抵抗率を推定する際には、乾燥状態の試験体の電気抵抗率をそのまま、セメント硬化体が乾燥状態となった時の電気抵抗率の推定値としてもよく、セメント硬化体の周囲の環境条件を加味して、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を増減した値を、乾燥状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値としてもよい。
【0038】
また、本実施形態に係る電気抵抗率の推定方法では、湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、湿った状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が湿った状態である時の電気抵抗率を推定する工程とを更に備えてもよい。湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程は、上記の電気抵抗率の測定方法における湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、同様の構成とすることができる。
【0039】
湿った状態のセメント硬化体の電気抵抗率を推定する工程では、湿った状態の試験体の電気抵抗率をそのまま、湿った状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値としてもよく、セメント硬化体の周囲の環境条件を加味して、湿った状態の試験体の電気抵抗率を増減した値を、湿った状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値としてもよい。
【0040】
次に、本実施形態に係る電気化学的処置条件の設定方法について説明する。斯かる電気化学的処置条件の設定方法は、セメント組成物と水とを混練して硬化させることで形成した試験体であって表面水分率が7%以下である乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を設定するものである。
【0041】
乾燥状態の試験体は、表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥する乾燥工程を行うことで得ることができる。また、乾燥状態の試験体の電気抵抗率は、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を行うことで得ることができる。乾燥工程、及び、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程は、上記の電気抵抗率の測定方法における乾燥工程、及び、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、同様の構成とすることができる。
【0042】
セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を設定する際には、乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、乾燥状態のセメント硬化体の電気抵抗率を推定し、斯かる推定値に基づいて、電気化学的な処置を施す際の条件を設定する。乾燥状態のセメント硬化体の電気抵抗率を推定する方法としては、上記の電気抵抗率の推定方法と同様の構成とすることができる。
【0043】
電気化学的な処置としては、特に限定されず、例えば、電気防食工法や脱塩工法等が挙げられる。これらの方法では、セメント硬化体を備える構造物中の鋼材と、構造物に設置された陽極材との間でセメント硬化体を介して電流を流すため、セメント硬化体の電気抵抗率を推定し、その推定値に基づいて電流量や電圧等(電気化学的な処置条件)を設定する。
【0044】
また、本実施形態に係る電気化学的処置条件の設定方法では、湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程を更に備えてもよい。斯かる工程は、乾燥工程の前に行ってもよく、乾燥工程の後で行ってもよい。斯かる工程は、上記の電気抵抗率の測定方法における湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定する工程と、同様の構成とすることができる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法は、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を適切に設定することができる。
【0046】
即ち、試験体の表面水分率が7%以下となるまで試験体を乾燥する乾燥工程を行うことで、試験体は、乾燥前よりも電気抵抗率が顕著に高い状態となる。そして、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、乾燥状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。これにより、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が乾燥状態となった際の電気抵抗率を、乾燥した試験体の電気抵抗率から推定することができる。このため、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を、その推定した電気抵抗率に基づいて、適切に設定することができる。
【0047】
また、湿った状態の試験体の電気抵抗率を測定することで、湿った状態の試験体の電気抵抗率を把握することができる。これにより、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が湿った状態である時の電気抵抗率を、湿った状態の試験体の電気抵抗率から推定することができる。このため、湿った状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値と乾燥状態のセメント硬化体の電気抵抗率の推定値とから、セメント硬化体の乾燥に伴う電気抵抗率の上昇を把握することができる。このため、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件をより適切に設定することができる。
【0048】
なお、本発明に係る電気抵抗率の測定方法、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0049】
例えば、上記実施形態では、電気抵抗率の推定方法、及び、電気化学的処置条件の設定方法は、乾燥工程、及び、電気抵抗率を測定する工程を備えているが、これに限定されず、例えば、試験体における各種の電気抵抗率を事前に把握できれば、乾燥工程、及び、電気抵抗率を測定する工程を行わないように構成してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、電気化学的処置条件の設定方法は、試験体の電気抵抗率に基づいて、セメント硬化体の電気抵抗率を推定しているが、これに限定されず、例えば、試験体の電気抵抗率に基づいて直に、電気化学的な処置を施す際の条件を設定してもよい。
【実施例
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
<使用材料>
・普通ポルトランドセメント(N)(住友大阪セメント社製)
・早強ポルトランドセメント(H)(住友大阪セメント社製)
・アルミナセメント(A)(AGCセラミックス社製、品名:AC-1)
・細骨材(珪砂 青森県産)
【0053】
<試験体の作製>
上記の材料を用いて下記表1の配合で、厚みが「5mm」「10mm」「20mm」「40mm」「100mm」の試験体(縦40mm×横160mm)を作製した。試験体の作製は、20℃の恒温室内で行い、試験体を脱型するまでは表面にラップを被せることで乾燥を防いだ。各試験体は、打込み3日後に脱型した。
その後、脱型した試験体を1体ずつ濡れた布で包んだ後,ビニル袋に入れ湿封状態で20℃の恒温室内に25日間静置して養生した。
【0054】
【表1】
【0055】
養生後の試験体を乾燥槽に入れ、35℃で乾燥した。この際、乾燥に伴う試験体の表面水分率と電気抵抗率とを求めた。表面水分率と電気抵抗率との関係については、下記表2,3,4,5、および、図1,2,3,4に示す。
【0056】
電気抵抗率は、土木学会規準「四電極法によるコンクリートの電気抵抗率試験方法(案)」(JSCE G 581 2018のA法)に準拠して測定を行い、測定後は,下記(1)を用いて各試験体の電気抵抗率を算出した。なお,測定では,電位差電極間8cm、交流電圧25V、周波数73.3Hzとし、測定環境は20℃の室内とした。

ρ=(A/L)×(V/I)・・・(1)

ρ:電気抵抗率(kΩ・cm)
A:試験体の断面積(cm
L:電位差電極間の距離(cm)
V:電位差電極間の電位差(V)
I:試験体に流れる電流(A)
【0057】
表面水分率は、電気抵抗率を測定する毎に行った。表面水分率の測定は、高周波容量式水分計(ケツト科学研究所社製、品名:HI500)を用いて行った。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
<まとめ>
図1,2のグラフを見ると、試験体の厚さに関わらず、表面水分率が7%以下の領域(乾燥に伴う表面水分率の低下が殆ど生じない領域)で、電気抵抗率が急激に上昇することが認められる。このため、表面水分率が7%以下である乾燥状態の試験体の電気抵抗率に基づいて、試験体と同じ配合を有するセメント硬化体が乾燥状態となった時の電気抵抗率を推定することができる。これにより、その推定した電気抵抗率に基づいて、セメント硬化体を備える構造物に電気化学的な処置を施す際の条件を適切に設定することができる。
図1
図2
図3
図4