IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

<>
  • 特許-水処理装置及び水処理方法 図1
  • 特許-水処理装置及び水処理方法 図2
  • 特許-水処理装置及び水処理方法 図3
  • 特許-水処理装置及び水処理方法 図4
  • 特許-水処理装置及び水処理方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】水処理装置及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/06 20230101AFI20240801BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20240801BHJP
【FI】
C02F3/06
C02F3/10 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020011966
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021115552
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】佃 勝二
(72)【発明者】
【氏名】及川 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】野原 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】日比野 忠史
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-131196(JP,A)
【文献】特開2015-029930(JP,A)
【文献】特開2005-152757(JP,A)
【文献】特開2005-036453(JP,A)
【文献】特開2003-053379(JP,A)
【文献】特開2007-136395(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1368480(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/10
E02B 15/00-15/10
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰より造粒された石炭灰造粒物が通過不能な大きさの複数の孔が設けられた網袋であって、前記孔を通して液体が前記網袋の内部に流入し、該液体が前記石炭灰造粒物の間を通過可能な筒状の前記網袋の前記内部に、該石炭灰造粒物を流入し、前記網袋の前後の開口を縮めることにより、前記石炭灰造粒物を前記網袋の内部に保持することで製造されている複数の石炭灰造粒物保持体と、
複数の前記石炭灰造粒物保持体のそれぞれの間に、該石炭灰造粒物保持体と交互に配置されるように連結された複数のフロート材と、
複数の前記石炭灰造粒物保持体と複数の前記フロート材が交互に連結された連結体の両端のそれぞれに、ロープの上端が取り付けられた長ロープと短ロープと、を備え、
前記短ロープの下端と、前記長ロープの下端とには、それぞれ錘が取り付けられている、
水処理装置。
【請求項2】
前記長ロープの途中には耐圧ブイが取り付けられている、
請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
石炭灰より造粒された石炭灰造粒物が通過不能な大きさの複数の孔が設けられた網袋であって、前記孔を通して液体が前記網袋の内部に流入し、該液体が前記石炭灰造粒物の間を通過可能な筒状の前記網袋の前記内部に、該石炭灰造粒物を流入し、前記網袋の前後の開口を縮めることにより、前記石炭灰造粒物を前記網袋の内部に保持することで製造されている複数の石炭灰造粒物保持体と、
複数の前記石炭灰造粒物保持体のそれぞれの間に、該石炭灰造粒物保持体と交互に配置されるように連結された複数のフロート材と、
複数の前記石炭灰造粒物保持体と複数の前記フロート材が交互に連結された連結体の両端のそれぞれに、ロープの上端が取り付けられた長ロープと短ロープと、を備え、
前記短ロープの下端と、前記長ロープの下端とには、それぞれ錘が取り付けられている、
水処理装置を、
下水が河川または海に排出される混合水吐出口を囲むように配置する、水処理方法。
【請求項4】
前記長ロープの途中には耐圧ブイが取り付けられている、
請求項3に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理設備として分流式と合流式がある。雨水と下水とを分離して下水だけ処理する分流式の下水設備は多額の公共投資費用が必要となる。このため、雨水と下水とを1本の合流管で排水する合流式の下水処理設備が多く用いられている。
合流式の下水処理設備は、雨水と下水とが混合された混合水が流れる合流管と、合流管より混合水が流入するポンプ場と、ポンプ場から混合水が送られて混合水の浄化が行われる水処理場と、ポンプ場から余剰の混合水が流出する混合水流出水路と、を備える。
合流式の下水処理設備において、大雨等により下水処理場の処理能力を上回る水が流れ込んだ場合、ポンプ場から未処理の下水を含む混合水が混合水流出水路より河川や海に放流される。
そうすると、下水は、有機物を多く含むため、有機物が粘土鉱物等に付着して有機泥となり、堆積した有機泥により、アオコが発生したり、悪臭が発生したりする。
一方、火力発電所等から排出される石炭灰から造粒された石炭灰造粒物が、高い水処理能力を有するものとして注目されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-028682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記石炭灰造粒物を用いた水処理装置は、濾過筒内に石炭灰造粒物を充填し、その濾過筒内に下水を通すものである。したがって、濾過筒を備える設備が必要で、濾過筒の設置が容易ではなく、特に大量の下水を処理する場合、大規模な設備が必要となる。
【0005】
本発明は、大量の下水を処理する場合においても大規模な設備が不要で、容易に設置可能な水処理装置及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、石炭灰より造粒された石炭灰造粒物を内部に保持し、前記石炭灰造粒物が通過不能な大きさの複数の孔が設けられ、前記孔を通して液体が前記内部に流入し、該液体が前記石炭灰造粒物の間を通過可能な石炭灰造粒物保持体と、前記石炭灰造粒物保持体と連結されたフロート材と、を備える水処理装置を提供する。
【0007】
上記水処理装置は、前記石炭灰造粒物保持体と前記フロート材との連結体の両端に一端が取り付けられたロープと、前記ロープの他端に取り付けられた重し部材と、を備えることが好ましい。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第2の態様は、石炭灰より造粒された石炭灰造粒物を内部に保持し、前記石炭灰造粒物が通過不能な大きさの複数の孔が設けられ、前記孔を通して液体が前記内部に流入し、該液体が前記石炭灰造粒物の間を通過可能な石炭灰造粒物保持体と、前記石炭灰造粒物保持体と連結されたフロート材と、を備える水処理装置を、下水が河川または海に排出される混合水吐出口を囲むように配置する、水処理方法を提供する。
【0009】
上記水処理方法において、連結された前記石炭灰造粒物保持体と前記フロート材との両端にロープを取り付け、前記ロープの両端にさらに重り部材を取り付け、水面の鉛直位置によらず、前記水処理装置の位置を水面上に保つようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大量の下水を処理する場合においても大規模な設備が不要で、容易に設置可能な水処理装置及び水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の水処理装置1の構造を説明する概念図である。
図2】石炭灰造粒物保持体10の内部を説明する図である。
図3】水処理装置1を設置する設置場所を説明する図である。
図4】具体的な水処理装置1及びその設置状況を説明する図である。
図5】水位の変動時における水処理装置1の位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、実施形態の水処理装置1の構造を説明する概念図である。図示するように、水処理装置1は、内部に石炭灰造粒物11が保持された石炭灰造粒物保持体10と、フロート材20とが連結されている。図2は石炭灰造粒物保持体10の内部を説明する図である。図示するように石炭灰造粒物保持体10の内部には石炭灰造粒物11が充填されている。
【0013】
(石炭灰造粒物11)
石炭灰造粒物11は、火力発電所のボイラー内で燃焼させた石炭石から発生した石炭灰を、図示しない造粒物製造設備により、造粒したものであり、砂程度の粒径(~40mm)を有する。石炭灰造粒物11は、石炭灰(フライアッシュ、クリンカアッシュを含む)を主原料とし、例えば、固化剤として少量のセメント、水、およびリターン材を含む添加材を加えたものである。フライアッシュとは、燃焼ガスとともに吹き上げられるレベルの球状の微粒子で、電気集塵機などで回収されるもので、SiO、Al、Fe、CaOを含む。
【0014】
(石炭灰造粒物保持体10)
石炭灰造粒物保持体10は、実施形態では網袋の内部に石炭灰造粒物11が保持されたもので、網袋は、石炭灰造粒物11が外部へと流出しないように石炭灰造粒物11の径より細かい複数の孔10a(網目)を有する。
石炭灰造粒物保持体10は、筒状の網袋の内部に石炭灰造粒物11を流入し、網袋の前後の開口を縮めることにより、石炭灰造粒物11を網袋の内部に保持することで製造されている。網袋の材質は、これに限定されないが、水中でも劣化しない、プラスチック製が好ましい。大きさも限定されないが、例えば25リットル程度の内容積を有する。
ただし、石炭灰造粒物11を包むものは網袋に限定されず、石炭灰造粒物11が通過不能な大きさの複数の孔が設けられ、外側から、内部の石炭灰造粒物11へと液体が通過可能であればよい。
【0015】
(フロート材20)
フロート材20は、例えば発泡ポリスエチレン性の球形や俵形のブイである。フロート材20は、石炭灰造粒物保持体10と連結され、石炭灰造粒物保持体10を水面に浮遊させる浮力を有する。
【0016】
図3は水処理装置1を設置する設置場所を説明する図である。下水処理設備100は、雨水と下水とを混合して処理する合流式の下水処理設備100であり、水処理装置1は、下水処理設備100の下流側に設置される。
【0017】
下水処理設備100は、一般家庭や工場の水が流れる下水配管101と、雨水が流れる雨水配管102と、下水配管101と雨水配管102とが合流する合流ます103と、合流ます103おいて混合された混合水が流れる合流管104と、合流管104を流れる混合水が流入するポンプ場105と、ポンプ場105から混合水が送られて混合水の浄化が行われる下水処理場106と、ポンプ場105から余剰の混合水が流出する混合水流出水路107と、を備える。
【0018】
晴天時や小雨時等、混合水の量が下水処理場106での許容処理量以内の場合、全ての混合水はポンプ場105から下水処理場106へと送水される。そして、下水処理場106において混合水には消毒剤が注入され、汚物が沈殿され、浄化された水が河川や海110に放流される。
しかし、例えば、大雨時等の場合など、混合水の量が、下水処理場106での許容処理量を超えるときがある。そうすると、許容処理量を超えた混合水は、ポンプ場105から混合水流出水路107を経て、未処理の下水がそのまま河川や海110へ放流される。
【0019】
下水は有機物を多く含む。したがって、下水を含む未処理の混合水が河川や海110にそのまま流入し、以下に述べる本実施形態のような処理がなされないと、有機物が粘土鉱物等に付着して有機泥となる。有機泥は、例えば海水と混合するとフロック化して沈降し易くなる。堆積した有機泥が嫌気分解されると、酸性化、還元化が発生し、底生生物の生息環境を悪化させる原因となる。さらに堆積した有機泥からの栄養物が溶出し、アオコの発生原因となる。また、海水に含まれる陽イオンにより堆積した有機泥の油分がケン化してオイルボール(油分スカム)を形成して悪臭(硫化水素,アンモニア等)が発生する。
【0020】
そこで、実施形態の水処理装置1を、混合水吐出口108から流出される混合水が河川や海110と流れ込む部分を囲むように配置する。
図4は具体的な水処理装置1及びその設置状況を説明する図である。図4に示す水処理装置1は、約3mの亜鉛管30に、石炭灰造粒物11を内部に保持する3つの石炭灰造粒物保持体10と、自然石を内部に保持する3つの保持体40と、俵状である2つのフロート材20とが取り付けられている。
さらに亜鉛管30の両端からは、それぞれ長ロープ51と短ロープ52とが延びている。短ロープ52の下端には錘53が取り付けられて錘53は海底に沈んで定位置に留まっている。長ロープ51の下端にはアンカーとして土嚢袋54が取り付けられ、長ロープ51の途中には耐圧ブイ55が取り付けられ、土嚢袋54は海底に沈んで定位置に留まっている。
【0021】
実施形態によると、混合水吐出口108から流出された下水を含む混合水は、河川や海110の水処理装置1に囲まれた領域に流入し、石炭灰造粒物11を用いた礫間接触酸化法により浄化される。
礫間接触酸化法とは、礫の表面に付着する微生物を利用して、河川や海を直接浄化する方法である。石炭灰造粒物11の表面には、下水に含まれる有機物が付着し易い。河川や海110には、その有機物を餌とする微生物が生息している。この微生物が石炭灰造粒物11の表面に付着することにより、微生物によって下水に含まれる有機物を分解することができる。
さらに、石炭灰造粒物11は他の鉱物礫とは異なり、石炭灰造粒物11からCa2+、Fe2+等のミネラルやOHが溶出される。そうすると、酸化効果が増長され、好気性微生物のみならず嫌気性微生物も活性され、嫌気条件においても礫間接触酸化の効果が得られる。
ゆえに、実施形態の水処理装置1を通過した下水の浄化が促進され、底生生物の生息環境の悪化、アオコの発生、悪臭の発生が防止される。
【0022】
また、実施形態の水処理装置1において石炭灰造粒物保持体10はフロート材20が連結されている。このため、河川や海110の水面上や海面上を浮遊している。
図5は水位の変動時における水処理装置1の位置を説明する図である。例えば海面の場合、潮汐の干満により水位が変動する。図5の水面110aは大潮の平均高潮面位置で、水面110bは大潮の平均低潮面位置である。海面上を浮遊する水処理装置1は、海面の位置によって鉛直方向に移動するとともに、さらに水位が下がってロープ52に余裕ができると、海面上を水平方向にも移動可能である。
そして、このように水処理装置1は海面に沿って鉛直方向及び水平方向に移動すると、石炭灰造粒物保持体10の内部を、混合水吐出口108から流出された下水を含む混合水が流動しやすく、磯間接触が増幅し、下水の浄化がさらに促進される。
【0023】
さらに、例えば、水底に水処理装置を設置すると、時間が経過するにつれて水処理装置は有機泥を含むヘドロによって埋まってしまう。しかし、実施形態の水処理装置は、水面に設置されるため、ヘドロで埋まることがない。
【0024】
さらに、水処理装置1は、混合水吐出口108から下水が流出される箇所近傍であるので、有機物は沈降する前の水面を浮遊している状態の有機物を効果的に除去することができる。
【0025】
また、石炭灰造粒物11は、一般的に用いられている他のろ過砂材と比べて軽量であるので、浮き易い。
【0026】
実施形態の水処理装置1は、海底に水処理装置1自体を設置せずに、水面に浮かせて、錘及びアンカーで固定するので、大規模な設備が不要で、簡単に設置・撤去が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 水処理装置
10 石炭灰造粒物保持体
10a 孔
11 石炭灰造粒物
20 フロート材
100 下水処理設備
101 下水配管
102 雨水配管
103 合流ます
104 合流管
105 ポンプ場
106 下水処理場
107 混合水流出水路
108 混合水吐出口
110a 水面
110b 水面
図1
図2
図3
図4
図5