(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】波形抽出システム、波形抽出方法および海上地震探査方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/36 20060101AFI20240801BHJP
G01S 7/526 20060101ALI20240801BHJP
G01S 15/88 20060101ALI20240801BHJP
G01S 7/52 20060101ALI20240801BHJP
G01V 1/00 20240101ALI20240801BHJP
【FI】
G01V1/36
G01S7/526 Z
G01S15/88
G01S7/52 V
G01V1/00 C
(21)【出願番号】P 2020217557
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】鶴 哲郎
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185206(JP,A)
【文献】特開昭57-111485(JP,A)
【文献】国際公開第2019/112035(WO,A1)
【文献】米国特許第6256589(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第108845307(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-15/00;99/00
G01S 7/526
G01S 15/88
G01S 7/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出システムであって、
受振ケーブルに互いに間隔をあけて設けられ、前記振源から発振された音波を受振する複数の受振器と、
前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形を、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合する波形抽出部と、
を備えることを特徴とする波形抽出システム。
【請求項2】
釣支部材をさらに備え、
前記釣支部材の一端に、前記振源が設けられた発振ケーブルの上端が接続され、前記釣支部材の他端に、前記受振ケーブルの上端が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の波形抽出システム。
【請求項3】
前記釣支部材の前記一端および前記他端には浮力体が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の波形抽出システム。
【請求項4】
前記振源は、発振ケーブルに設けられ、前記発振ケーブルの移動に応じて移動可能に構成されており、
前記波形抽出部は、第1の位置にある前記振源から発振され前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形と、前記第1の位置と異なる第2の位置にある前記振源から発振され前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする請求項1に記載の波形抽出システム。
【請求項5】
前記複数の受振器は、前記受振ケーブルの移動に応じて移動可能に構成されており、
前記波形抽出部は、前記振源から発振され、一番上の受振器が第1の位置にある前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形と、前記振源から発振され、前記一番上の受振器が前記第1の位置と異なる第2の位置にある前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする請求項1に記載の波形抽出システム。
【請求項6】
前記複数の受振器は前記受振ケーブルに等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の波形抽出システム。
【請求項7】
前記振源と、前記受振ケーブルに設けられた前記複数の受振器のうち一番上の受振器との間の水平距離は、前記間隔よりも小さいことを特徴とする請求項6に記載の波形抽出システム。
【請求項8】
前記複数の受振器は前記受振ケーブルに不等間隔で配置されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の波形抽出システム。
【請求項9】
前記複数の受振器は、互いに素な間隔をあけて配置されていることを特徴とする請求項8に記載の波形抽出システム。
【請求項10】
前記振源から発振される音波は非パルス波であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の波形抽出システム。
【請求項11】
前記振源は、非爆破型であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の波形抽出システム。
【請求項12】
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出方法であって、
水中の互いに異なる位置に配置された複数の受振器が、前記振源から発振された音波を受振し、
波形抽出部が、前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形を、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする波形抽出方法。
【請求項13】
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出方法であって、
水中の互いに異なる位置に配置された複数の受振器が、前記振源から発振された第1の音波を受振し、その後、前記振源および/または前記複数の受振器が水中を移動し、
前記振源および/または前記複数の受振器が移動した後、前記複数の受振器が、前記振源から発振された第2の音波を受振し、
波形抽出部が、前記複数の受振器により受振された前記第1の音波に係る複数の波形と、前記複数の受振器により受振された前記第2の音波に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする波形抽出方法。
【請求項14】
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出方法であって、
水中に配置された受振器が、前記振源から発振された第1の音波を受振し、その後、前記振源および/または前記受振器が水中を移動し、
前記振源および/または前記受振器が移動した後、前記受振器が、前記振源から発振された第2の音波を受振し、
波形抽出部が、前記受振器により受振された前記第1の音波に係る波形と、前記受振器により受振された前記第2の音波に係る波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする波形抽出方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれかに記載の波形抽出方法により抽出された前記振源の波形と、前記振源から発振され、前記受振器で受振された音波の波形との相互相関または畳み込み積分を計算することを特徴とする海上地震探査方法。
【請求項16】
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出システムであって、
前記振源から発振された音波を受振する受振器と、
前記受振器が第1の位置にあるときに受振された第1の音波に係る波形と、前記受振器が前記第1の位置と異なる第2の位置にあるときに受振された第2の音波に係る波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合する波形抽出部と、
を備えることを特徴とする波形抽出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形抽出システム、波形抽出方法および海上地震探査方法に関し、より詳しくは、振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出システムおよび波形抽出方法、ならびに、抽出された波形を用いる海上地震探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海上地震探査では、コンピュータで作成した波形(基本波形)の音波を振源から発振し、海底面等で反射された音波を受振器で受振する。受振した反射波に基づいて、海底下の地殻構造等の解析が行われる。精度の高い解析を行うには、振源から発振される音波の波形を正確に把握しておくことが重要である。
【0003】
なお、特許文献1には、海底地質の三次元データを効率良く取得するための調査システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際に振源から発振される波形には、振源の機械特性等による歪みが含まれている。高精度の解析を行うためには、振源から発振される音波を観測し、波形データを取得することが望ましい。しかし、観測には、振源から発振された波に反射波が干渉しないような環境が必要である。これについて、
図12(a),(b)を参照して説明する。
【0006】
図12(a)に示すように、船400のクレーンからケーブル300が垂下され、このケーブル300に振源100と受振器200が設けられている。振源100から、長さTの非パルス波が発振される。振源100から発振された音波のうち受振器200に直接到達する波(直達波)は時刻t1で受振器200に受振される。他方、振源100から発振された音波のうち海底面で反射した音波は時刻t2で受振器200に受振される。
【0007】
図12(b)に示すように、海底面が十分に深い場合には、受振器200が直達波を受振している間、反射波が受振器200に到達しないため、直達波と反射波は干渉しない。しかし、このような条件を満たすには、受振器を水深100メートルに設置すると仮定した場合、発振波の時間長が5秒のとき、水深約3850メートル以上、発振波の時間長が10秒のときは、水深約7600メートル以上の海で観測を行う必要がある。また、波浪等のノイズの影響を受けにくい場所での観測も望まれる。
【0008】
しかしながら、このような環境での観測には多大な時間とコストを要し、現実的でない場合も少なくない。このため、従来は発振波の観測を実施せず、発振波に歪みが含まれることを承知の上で、コンピュータで作成された、歪みを含まない発振波形を解析に用いざるを得なかった。
【0009】
本発明は、かかる技術認識に基づいてなされたものであり、その目的は、振源の波形を容易に精度良く抽出することが可能な波形抽出システムおよび波形抽出方法を提供することである。
【0010】
また、本発明は、上記の波形抽出システムおよび波形抽出方法により抽出された波形を用いる海上地震探査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る波形抽出システムは、
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出システムであって、
受振ケーブルに互いに間隔をあけて設けられ、前記振源から発振された音波を受振する複数の受振器と、
前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形を、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合する波形抽出部と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、前記波形抽出システムにおいて、
釣支部材をさらに備え、
前記釣支部材の一端に、前記振源が設けられた発振ケーブルの上端が接続され、前記釣支部材の他端に、前記受振ケーブルの上端が接続されているようにしてもよい。
【0013】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記釣支部材の前記一端および前記他端には浮力体が設けられているようにしてもよい。
【0014】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記振源は、発振ケーブルに設けられ、前記発振ケーブルの移動に応じて移動可能に構成されており、
前記波形抽出部は、第1の位置にある前記振源から発振され前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形と、前記第1の位置と異なる第2の位置にある前記振源から発振され前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合するようにしてもよい。
【0015】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記複数の受振器は、前記受振ケーブルの移動に応じて移動可能に構成されており、
前記波形抽出部は、前記振源から発振され、一番上の受振器が第1の位置にある前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形と、前記振源から発振され、前記一番上の受振器が前記第1の位置と異なる第2の位置にある前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合するようにしてもよい。
【0016】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記複数の受振器は前記受振ケーブルに等間隔に配置されているようにしてもよい。
【0017】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記振源と、前記受振ケーブルに設けられた前記複数の受振器のうち一番上の受振器との間の水平距離は、前記間隔よりも小さいようにしてもよい。
【0018】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記複数の受振器は前記受振ケーブルに不等間隔で配置されているようにしてもよい。
【0019】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記複数の受振器は、互いに素な間隔をあけて配置されているようにしてもよい。
【0020】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記振源から発振される音波は非パルス波であるようにしてもよい。
【0021】
また、前記波形抽出システムにおいて、
前記振源は、非爆破型であるようにしてもよい。
【0022】
本発明の第1の態様に係る波形抽出方法は、
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出方法であって、
水中の互いに異なる位置に配置された複数の受振器が、前記振源から発振された音波を受振し、
波形抽出部が、前記複数の受振器により受振された音波に係る複数の波形を、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする。
【0023】
本発明の第2の態様に係る波形抽出方法は、
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出方法であって、
水中の互いに異なる位置に配置された複数の受振器が、前記振源から発振された第1の音波を受振し、その後、前記振源および/または前記複数の受振器が水中を移動し、
前記振源および/または前記複数の受振器が移動した後、前記複数の受振器が、前記振源から発振された第2の音波を受振し、
波形抽出部が、前記複数の受振器により受振された前記第1の音波に係る複数の波形と、前記複数の受振器により受振された前記第2の音波に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする。
【0024】
本発明の第3の態様に係る波形抽出方法は、
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出方法であって、
水中に配置された受振器が、前記振源から発振された第1の音波を受振し、その後、前記振源および/または前記受振器が水中を移動し、
前記振源および/または前記受振器が移動した後、前記受振器が、前記振源から発振された第2の音波を受振し、
波形抽出部が、前記受振器により受振された前記第1の音波に係る波形と、前記受振器により受振された前記第2の音波に係る波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る海上地震探査方法は、
前記波形抽出方法により抽出された前記振源の波形と、前記振源から発振され、前記受振器で受振された音波の波形との相互相関または畳み込み積分を計算することを特徴とする。
【0026】
本発明の別の態様に係る波形抽出システムは、
振源から発振された音波の波形を抽出するための波形抽出システムであって、
前記振源から発振された音波を受振する受振器と、
前記受振器が第1の位置にあるときに受振された第1の音波に係る波形と、前記受振器が前記第1の位置と異なる第2の位置にあるときに受振された第2の音波に係る波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、前記タイムシフトされた複数の波形を重合する波形抽出部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、振源の波形を容易に精度良く抽出することができる波形抽出システムおよび波形抽出方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記の波形抽出システムおよび波形抽出方法により抽出された波形を用いる海上地震探査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1の実施形態に係る波形抽出システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【
図3】(a)は振源から発振される非パルス波の波形を示し、(b)は各受振器で受振された波形を示し、(c)はタイムシフトされた受振波形を示し、(d)は重合波形を示す図である。
【
図4】(a)は振源から発振されるパルス波の波形を示し、(b)は各受振器で受振された波形を示し、(c)はタイムシフトされた受振波形を示し、(d)は重合波形を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る波形抽出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る波形抽出システムの概略的な構成を示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【
図8】第2の実施形態に係る波形抽出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図9】第2の実施形態の変型例に係る波形抽出システムの概略的な構成を示す図である。
【
図10】実施形態に係る海上地震探査方法を説明するためのフローチャートである。
【
図11】波形抽出の意義を説明するための図である。
【
図12】比較例に係る波形抽出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1を参照して、第1の実施形態に係る波形抽出システム1について説明する。この波形抽出システム1は、以下に説明するように、振源から発振された音波の波形(機械特性等を含んだ波形)を抽出するように構成されている。
【0031】
波形抽出システム1は、水中において音波を発振する振源2と、複数の受振器3と、発振ケーブル4と、受振ケーブル5と、釣支部材6と、浮力体7と、情報処理装置10と、船30と、クレーン31と、を備えている。
【0032】
振源2は、海上地震探査用の音波を発振する。本実施形態では、振源2は非パルス波を出力する。ここで、「非パルス波」とは、パルス状の波でない波のことであり、より正確には、周波数、位相および振幅のうち少なくともいずれか一つが連続的あるいはランダムに変化する波のことである。たとえば、位相が連続的に変化する擬似ランダム波、あるいは周波数が連続的に変化するスイープ波は非パルス波である。なお、以下の説明では、振源2から発振される音波の波形ことを「基本波形」と呼ぶことがある。
【0033】
振源2は、本実施形態では、非爆破型の振源であり、圧電素子、超磁歪素子、水中スピーカ、電磁バイブレータまたは油圧式バイブレータ等から構成される。非爆破型の振源を用いることで、海洋性ほ乳類や魚類への影響を軽減することができ、海洋生物の生活環境に配慮した海底地質探査を行うことができる。なお、振源2は、パルス波を発生するエアガン等の爆破型の振源であってもよい。
【0034】
振源2は、
図1に示すように、発振ケーブル4に設けられており、使用状態において水中の所定の深さDsに配置される。
【0035】
複数の受振器3は、
図1に示すように、受振ケーブル5に互いに間隔をあけて設けられている。本実施形態では、複数の受振器3(ここでは10個)は、受振ケーブル5に互いに等間隔(所定の間隔Rint)に配置されている。
【0036】
受振器3の数はこれに限られるものではなく、任意の複数個の受振器3が受振ケーブル5に設けられてよい。ただし、一般的には、受振器3の数が多いほど、大きな重合効果(後述)が得られ、波形抽出精度を向上させることができる。
【0037】
複数の受振器3は、それぞれ、振源2から発振された音波を受振する。各受振器3が受振する音波には、振源2から受振器3に直接到達する直達波(直接波)だけでなく、海水面、海底面、および海底下の地層境界面等で反射した反射波も含まれる。すなわち、受振器3は、これらの波が合成された合成波を受振する。
【0038】
発振ケーブル4の上端は、棒状の釣支部材6の一端(
図1では左端)に接続されている。これにより、発振ケーブル4は使用状態において水中に垂下され、振源2は発振ケーブル4の長さに応じた所定の深さ(Ds)に配置される。
【0039】
受振ケーブル5の上端は、釣支部材6の他端(
図1では右端)に接続されている。これにより、受振ケーブル5は使用状態において水中に垂下されて、複数の受振器3のうち一番上の受振器は受振ケーブル5の長さに応じた所定の深さ(Dr)に配置される。深さDrは、
図1では振源2の深さDsとほぼ同じであるが、これに限られず、深さDsと異なる深さであってもよい。
【0040】
なお、発振ケーブル4および受振ケーブル5は通常、ロープのように柔軟性を有するものであるが、金属棒のように剛性を有するものであってもよい。
【0041】
釣支部材6は、発振ケーブル4(振源2)および受振ケーブル5(受振器3)を釣支するための部材である。この釣支部材6の長さは、振源2と受振器3間の所望の水平距離とほぼ等しい。釣支部材6はステンレス等、剛性を有する材料からなる。釣支部材6の所定の位置(重心など)に、クレーン31の先端から垂下されたケーブル32が接続されている。なお、釣支部材6の形状は、棒状に限られず、板状、円盤状、リング状などであってもよい。
【0042】
図1に示すように、釣支部材6の両端(一端および他端)に、ブイ等の浮力体7が設けられてもよい。これにより、釣支部材6の位置が安定し、振源2および受振器3の水深を一定に保ちやすくすることができる。
【0043】
本実施形態では、釣支部材6の長さにより、振源2と受振器3との間の水平距離が定められる。この水平距離は、受振波のS/N比を上げて波形抽出精度を向上させるために、受振器3間の間隔(Rint)よりも小さいことが望ましい。たとえば、水平距離を2メートル、受振器3間の間隔を5メートルとする。振源2と受振器3間の水平距離を短くすることで、受振器3に到達する直達波の到達走時(t1)と反射波の到達走時(t2)との差が大きくなり、直達波がより認識されやすくなるため、波形抽出のためのデータ処理が容易になる。一方、受振器3間の間隔を大きくすることで、複数の受振器3が受振する反射波の位相差が大きくなるため、重合効果が高まり、波形抽出精度を向上させることができる。
【0044】
次に、
図2を参照して、情報処理装置10について説明する。この情報処理装置10は、複数の受振器3で受振された音波の波形データを取得し、基本波形の抽出処理を行うための装置である。本実施形態では、情報処理装置10は、船30に配置されており、複数の受振器3と通信可能に接続されている。
【0045】
情報処理装置10、
図2に示すように、制御部11と、通信部12と、記憶部13と、入力部14と、出力部15と、を備えている。この情報処理装置10は、たとえば、パソコン、タブレット端末、スマートフォン等である。
【0046】
制御部11は、複数の受振器3で受信された音波の波形データを取得する波形データ取得部111と、取得された複数の波形データに基づいて振源2の発振波の波形を抽出する波形抽出部112とを有している。波形抽出部112の詳細は別途後述する。本実施形態では、制御部11の各部は、情報処理装置10内のプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現される。制御部11の各部のうち少なくとも一つがハードウェアにより構成されてもよい。
【0047】
通信部12は、受振器3等の外部装置との間で情報(波形データ等)を送受信するためのインターフェースである。なお、無線方式や通信規格は特に限定されない。
【0048】
記憶部13は、半導体メモリ、ハードディスクドライブ等から構成される。この記憶部13には、制御部11で実行されるプログラム、受振器3から受信した波形データ、および波形抽出処理により得られた基本波形データなどが記憶される。
【0049】
入力部14は、情報処理装置10の使用者が情報や命令を入力するための手段であり、キーボード、マウス、タッチパネル等である。
【0050】
出力部15は、情報処理装置10による処理結果(抽出された波形など)を出力するための手段であり、具体的には、液晶パネル等のディスプレイである。
【0051】
ここで、波形抽出部112の詳細について詳しく説明する。
【0052】
波形抽出部112は、複数の受振器3により受振された音波(直達波だけでなく各種反射波を含む合成波)に係る複数の波形を、最も早く受振される直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトする。そして、波形抽出部112は、タイムシフトされた複数の波形を重合する。この重合処理により、位相が揃った波(直達波)は強調され、位相がずれた波(反射波)は打ち消し合う。その結果、機械特性等を含んだ振源2の発振波の波形を精度良く抽出することができる。
【0053】
上記の波形抽出処理について、
図3(a)~
図3(d)に示すシミュレーション波形を参照して、具体的に説明する。
【0054】
図3(a)は、振源2から発振される非パルス波の波形を示している。この図において、Tは非パルス波の長さ(発振時間長)を示している。
【0055】
図3(b)は、複数の(ここでは10個の)受振器3で受振された音波の波形をそれぞれ示している。縦軸の到達走時は、受振器3が音波を受振した時刻(受振時刻)を示し、横軸の数字1,2,3,・・・,10は、受振器3の識別番号を示している。すなわち、“1”が一番上の受振器3(振源2から最も近く、海底面から最も遠い受振器)であり、“10”が一番下の受振器3(振源2から最も遠く、海底面から最も近い受振器)である。また、時刻t1は直達波の受振時刻であり、時刻t2は反射波(海底面で反射した波)の受振時刻である。
【0056】
図3(c)はタイムシフトした受振波形を示しており、より詳しくは、直達波の受振時刻を所定の時刻に揃えた受振波の波形を示している。ここでは、直達波の受振時刻が時刻0になるように各波形についてタイムシフトを行っている。なお、ある波形の受振時刻を基準として、他の波形をタイムシフトしてもよい。
【0057】
図3(d)は、タイムシフトされた複数の波形を重合して得られた波形を示している。すなわち、
図3(c)に示す10個の波形を重ね合わせた波形を示している。
【0058】
図3(a)~
図3(d)から分かるように、波形抽出部112は、直達波の受振時刻が揃うように各受振器3が受振した音波の波形をタイムシフトし、タイムシフトされた複数の波形を重合することにより、振源2の発振波の波形を抽出する。
【0059】
直達波についてはタイムシフトにより位相が揃うため、タイムシフトされた複数の波形を重合することで直達波が強調されることになる。他方、海底面からの反射波についてはタイムシフトにより位相がずれるため、重合により互いに打ち消し合うことになる。このように、タイムシフトおよび重合によって、直達波のみが強調される。したがって、本実施形態によれば、振源2の波形(機械的特性等を含んだ波形)を高精度に、高いS/N比で抽出することができる。なお、受振器3の数(重合される波形の数)が多いほど、重合効果が大きくなり、波形抽出精度を向上させることができる。
【0060】
実際の受振波は、海底面からの反射波以外に、海水面、船30およびその他の障害物(防波堤など)からの反射波を含むが、これらの波も海底面からの反射波と同様に、タイムシフトにより位相がずれるため、重合により互いに打ち消し合うこととなる。波浪等の環境ノイズについても同様である。
【0061】
このようにして、直達波以外の受振波成分はノイズとしてタイムシフトおよび重合処理により取り除かれる。よって、本実施形態によれば、直達波の波形(すなわち、振源2の発振波)を高精度に抽出することができる。
【0062】
さらに、本実施形態によれば、大水深域でなくても、たとえば、係留場などの沿岸域でも、振源2の波形(機械特性等の影響を含む実際の波形)を容易に抽出することができる。また、波浪等の環境ノイズが存在する環境であっても、振源2の波形を精度良く抽出することができる。
【0063】
本実施形態に係る波形抽出方法は発振時間長が比較的長い非パルス波の場合において効果的であるが、振源2の発振波がパルス波であっても、同様の手法により波形抽出を行うことができる。これについて
図4(a)~
図4(d)を参照して説明する。
図4(a)は、振源2から発振されるパルス波(長さT)の波形を示している。
図4(b)は、10個の受振器3の各々で受振された音波の波形を示している。
図4(c)はタイムシフトされた波形を示しており、
図4(d)は重合により得られた波形を示している。
【0064】
図4(a)~
図4(d)から分かるように、パルス波の場合についても、反射波成分が互いに打ち消し合い、振源2のパルス波形を精度良く抽出することができる。
【0065】
上記の波形抽出システム1では、波形抽出処理を行う波形抽出部112は船内の情報処理装置10に設けられていたが、これに限られず、たとえば、受振ケーブル5内に設けられてもよいし、あるいは陸上の解析局に設けられてもよい。受振ケーブル5内に設けられる場合、波形抽出部112は、たとえば、デジタルストリーマーのA/D変換器を構成するICチップ上で動作するプログラムにより実現される。陸上の解析局に設けられる場合は、波形抽出部112は、たとえば、解析局に設けられたコンピュータ上で動作するプログラムにより実現される。なお、陸上のコンピュータと船30を無線で通信接続し、当該コンピュータで波形抽出処理を行ってもよい。
【0066】
また、波形抽出部112は、受振波のタイムシフトを行うタイムシフト処理部と、タイムシフトされた波形の重合を行う重合処理部とから構成されてもよい。この場合、タイムシフト処理部と重合処理部は異なる情報処理装置により実行されてもよい。
【0067】
なお、本実施形態の波形抽出システム1では、複数の受振器3が1本の受振ケーブル5に設けられているがこれに限られない。すなわち、複数本の受振ケーブルの各々に受振器3が設けられてもよい。たとえば、2本の受振ケーブル(第1の受振ケーブルおよび第2の受振ケーブル)を用意し、10個の受振器3について、第1の受振ケーブルに1番目~5番目の受振器3を設け、第2の受振ケーブルに6番目~10番目の受振器3を設けるようにしてもよい。この場合、受振波の位相を異ならせるために、第1の受振ケーブルの受振器の深さ位置と、第2の受振ケーブルの受振器の深さ位置が互いに異なることが好ましい。
【0068】
また、発振ケーブル4および受振ケーブル5は、水中に垂直に垂れ下がる場合に限られず、船30により曳航されるなどして、斜めに垂れ下がってもよいし、あるいは水平に配置されてもよい。このように複数の受振器3は、垂直方向に並ぶ場合に限られず、斜め方向、水平方向など任意の方向に沿って並んでもよい。さらに一般的に言えば、複数の受振器3が所定の方向に並ぶことは振源2の波形抽出を行う上で必須ではなく、複数の受振器3は水中の互いに異なる位置に配置されればよい。
【0069】
また、複数の受振器3は、受振ケーブル5に不等間隔で配置されてもよい。たとえば、2メートル、2.5メートル、3メートル・・・のように間隔が互いに異なるように複数の受振器3を配置する。あるいは、互いに素な間隔(2メートル、3メートル、5メートルなど)をあけて複数の受振器3を配置してもよい。あるいは、ランダムな間隔で複数の受振器3を配置してもよい。このように複数の受振器3を不等間隔で配置することで、各受振器3が受振する音波の位相がより分散されて重合効果が向上し、よりS/N比の高い波形抽出処理を行うことができる。
【0070】
<第1の実施形態に係る波形抽出方法>
次に、
図5のフローチャートを参照して、第1の実施形態に係る波形抽出方法の一例について説明する。
【0071】
まず、振源2を水中の所定の深さに配置する(ステップS11)。具体的には、振源2が所定の深さに位置するように、振源2が設けられた発振ケーブル4を水中に垂下させる。
【0072】
次に、複数の受振器3を振源2から所定の水平距離だけ離れた水中に配置する(ステップS12)。本ステップでは、複数の受振器3のうち一番上の受振器3が所定の深さに配置されるように、受振ケーブル5を水中に垂下させる。なお、釣支部材6の長さが所定の水平距離と等しいため、振源2と受振器3との間の水平距離は自動的に所定の水平距離にほぼ等しくなる。
【0073】
ステップS12について、より一般的に言えば、複数の受振器3が水中の互いに異なる位置に配置されればよい。すなわち、振源2と、複数の受振器3の各々との間の位置関係が互いに異なるように、複数の受振器3が配置されればよい。このため、前述のように、1本の受振ケーブルにすべての受振器3を設ける場合に限られず、複数本の受振ケーブルに分散して受振器3を設けてもよい。
【0074】
上記のようにして複数の受振器3が配置された後、振源2が音波を発振する(ステップS13)。そして、複数の受振器3が振源2から発振された音波(合成波)を受振する(ステップS14)。
【0075】
その後、波形抽出部112が、複数の受振器3によりステップS14で受振された音波に係る複数の波形を、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、タイムシフトされた複数の波形を重合する(ステップS15)。本ステップの処理により、
図3および
図4を参照して説明したように、振源2の発振波の波形を得ることができる。
【0076】
なお、上記の波形抽出方法は、一例に過ぎない。たとえば、ステップS11とステップS12を入れ替えてもよいし、あるいは同時に行ってもよい。また、ステップS15は、タイムシフト処理ステップと、重合処理ステップとに分割して行ってもよい。
【0077】
(第2の実施形態)
次に、
図6を参照して、第2の実施形態に係る波形抽出システム1Aについて説明する。
図6においては、第1の実施形態と同じ構成要素については
図1と同じ符号を付している。
【0078】
本実施形態と第1の実施形態との相違点の一つは、振源2を移動させて、各振源位置において受振器3が音波を受振することである。これにより、波形抽出処理において使用可能な波形の数を増やすことができる。以下、第1の実施形態との相違点を中心に第2の実施形態について説明する。
【0079】
波形抽出システム1Aは、
図6に示すように、水中において音波を発振する振源2と、複数の受振器3と、発振ケーブル4と、受振ケーブル5と、ウインチ8と、情報処理装置10Aと、船30と、クレーン31A,31Bと、を備えている。なお、ウインチ8には、発振ケーブル4用のものと、受振ケーブル5用のものとが船30に設けられている。
【0080】
発振ケーブル4はウインチ8から巻き出され、クレーン31Aの先端から垂下されている。受振ケーブル5は別のウインチ8から巻き出され、クレーン31Bの先端から垂下されている。ウインチ8から巻き出される発振ケーブル4の長さを制御することで、振源2の深さ位置を調整可能としている。同様に、ウインチ8から巻き出される受振ケーブル5の長さを制御することで受振器3の深さ位置を調整可能である。
【0081】
本実施形態では、振源2は、発振ケーブル4の上下動に応じて深さ方向に移動可能に構成されている。同様に、複数の受振器3は、受振ケーブル5の上下動に応じて深さ方向に移動可能に構成されている。なお、移動方向は深さ方向に限定されるものではない。発振ケーブル4や受振ケーブル5が上下動以外の方向に移動することで、振源2や受振器3が当該方向に沿って移動するようにしてもよい。たとえば、発振ケーブル4および受振ケーブル5が船30により曳航されて斜めに垂れ下がった状態においてウインチ8から巻き出されるケーブル長を変化させることで、振源2や受振器3を斜め方向に移動させてもよい。なお、発振ケーブル4および受振ケーブル5の曳航により振源2と受振器3が水中を移動する場合、船速が一定の条件下では両者の相対的な位置関係は変化しないため、直達波の観測に影響はない。したがって、このような場合においても、本実施形態により波形抽出を行うことが可能である。
【0082】
情報処理装置10Aは、
図7に示すように、制御部11が移動制御部113をさらに有する点で第1の実施形態で説明した情報処理装置10と異なる。この移動制御部113は、振源2および/または受振器3の位置を制御するように構成されている。本実施形態では、移動制御部113は、ウインチ8を制御することで、発振ケーブル4を上下方向に移動させ、振源2の深さ位置を変更する。
【0083】
波形抽出部112は、第1の深さに位置する振源2から発振され複数の受振器3により受振された音波(合成波)に係る複数の波形と、第1の深さと異なる第2の深さに位置する振源2から発振され複数の受振器3により受振された音波(合成波)に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトする。そして、波形抽出部112は、タイムシフトされた複数の波形を重合する。
【0084】
たとえば、波形抽出部112は、振源2が第1の深さにあるときに受振器3により受振された10個の波形と、振源2が第2の深さにあるときに受振器3により受振された10個の波形との計20個の波形をタイムシフトして重合する。
【0085】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態に比べて、重合する波形の数が増えることから、重合効果をより大きくすることができる。これにより、受振器3の数を増やすことなく、振源2の波形の抽出精度を向上させることができる。
【0086】
<第2の実施形態に係る波形抽出方法>
図8のフローチャートを参照して、第2の実施形態に係る波形抽出方法の一例について説明する。
【0087】
まず、振源2を水中の第1の深さに配置する(ステップS21)。具体的には、振源2が第1の深さに配置されるように、移動制御部113がウインチ8を制御して発振ケーブル4を所定の長さだけ巻き出す。
【0088】
次に、複数の受振器3を振源2から所定の水平距離だけ離れた水中に配置する(ステップS22)。本ステップでは、複数の受振器3のうち一番上の受振器3が所定の深さに配置されるように、移動制御部113がウインチ8を制御して受振ケーブル5を所定の長さだけ巻き出す。本実施形態では、クレーン31Aとクレーン31Bの先端位置を調整しておくことで、振源2と一番上の受振器3との間の水平距離を所定の水平距離にほぼ等しくなるようにする。
【0089】
その後、振源2が音波を発振する(ステップS23)。そして、複数の受振器3が振源2から発振された音波を受振する(ステップS24)。
【0090】
次に、振源2を水中の第2の深さに配置する(ステップS25)。詳しくは、振源2が第1の深さとは異なる第2の深さに配置されるように、移動制御部113がウインチ8を制御して発振ケーブル4を所定の長さだけ巻き出す。その後、振源2が音波を発振する(ステップS26)。振源2はステップS13と同じ波形の音波を出力する。その後、複数の受振器3が振源2から発振された音波を受振する(ステップS27)。
【0091】
次に、波形抽出部112が、第1の深さに位置する振源2から発振され複数の受振器3により受振された第1の音波(合成波)に係る複数の波形と、第2の深さに位置する振源2から発振され複数の受振器3により受振された第2の音波(合成波)に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトし、タイムシフトされた複数の波形を重合する(ステップS28)。
【0092】
上記第2の実施形態に係る波形抽出方法によれば、振源2の発振波の波形を精度良く抽出することができる。
【0093】
なお、上記の方法では振源2を上下方向に移動させたが、振源2の移動方向はこれに限られず、水平方向または斜め方向等、任意の方向であってよい。
【0094】
また、受振器3を移動させて、振源2と受振器3との位置関係を変化させてもよい。この場合について、第2の実施形態の変型例として、
図9を参照して説明する。
【0095】
本変型例では、受振ケーブル5が水平方向に移動可能に構成されている。たとえば、クレーン31Bの先端位置を動かすことにより、受振ケーブル5を水平方向に移動させる。第1の実施形態のように釣支部材6を使用する場合は、伸縮可能な釣支部材6を用いて受振ケーブル5を水平方向に移動させてもよい。
【0096】
本変型例に係る波形抽出方法は、
図8のフローチャートとほぼ同様であるが、ステップS25では、受振ケーブル5を移動させて、複数の受振器3の配置位置を変更する。また、ステップS28では、波形抽出部112が、振源2から発振され、水平移動前の複数の受振器3により受振された第1の音波(合成波)に係る複数の波形と、振源2から発振され、水平移動後の複数の受振器3により受振された第2の音波(合成波)に係る複数の波形とを、直達波の受振時刻が所定の時刻になるようにタイムシフトする。そして、タイムシフトされた複数の波形を重合する。
【0097】
なお、複数の受振器3の移動方向は水平方向に限られず、垂直方向(深さ方向)であってもよい。この場合、移動制御部113がウインチ8から巻き出される受振ケーブル5の長さを制御することで、複数の受振器3の深さを変更する。
【0098】
また、ステップS25において、振源2および複数の受振器3の両方を移動させて両者の位置関係を変更してもよい。
【0099】
また、振源2と複数の受振器3を交互に動かしながら波形を取得してもよい。たとえば、
図6のように振源2を垂直方向に一単位移動させて受振波を取得し、その後、
図9のように複数の受振器3を水平方向に一単位移動させて受振波を取得することを所定の回数だけ繰り返してもよい。
【0100】
また、第2の実施形態の場合、受振器3の数が1個の場合であっても、基本波形の抽出処理に用いるための波形を複数取得することが可能である。よって、受振器3の数は1つであってもよい。
【0101】
<海上地震探査方法>
以上説明した波形抽出方法により、機械特性等を含む振源2の発振波形を抽出することができる。抽出された波形を用いることで精度の高い海上地震探査を行うことが可能となる。海上地震探査方法について、
図10を参照して説明する。
図10は、実施形態に係る海上地震探査方法を説明するためのフローチャートである。
【0102】
まず、水中に配置された振源2が音波を発振する(ステップS101)。そして、受振器3が、振源2から発振された音波(合成波)を受振する(ステップS102)。次に、前述の波形抽出方法により事前に抽出された振源2の波形と、ステップS102で受振された音波の波形との相互相関を計算する(ステップS103)。機械特性等を含む波形を使用することにより、地層の境界面を明りょうに識別できる等、海底地質探査を高精度に実施できるようになる。本ステップでは、相互相関を計算する場合に限られず、抽出された波形と受振波との畳み込み積分を計算してもよい。
【0103】
なお、ステップS103は、情報処理装置10,10Aの制御部11に相互相関計算部(図示せず)を設け、情報処理装置10,10Aにより行ってもよい。この場合、波形抽出処理は海上地震探査の前処理として実施することができる。詳しくは、ステップS102とステップS103の間に、本発明に係る波形抽出方法を海上地震探査の前処理として行ってもよい。第1の実施形態において
図5を参照して説明した波形抽出方法を行う場合は、ステップS15の後にステップS103を行ってもよい。この際、ステップS103では、ステップS15で抽出された波形を用いる。
【0104】
ここで、
図11(a)~(d)を参照して、コンピュータで作成された波形ではなく、振源2から実際に発振された波形を海上地震探査の解析に用いる意義について具体的に説明する。
【0105】
図11(a)は、コンピュータで作成された振源2の波形(機械特性の影響を含まない波形)を示す。
図11(b)は、振源2の機械特性を加味した波形を示す。図中の矢印が機械特性を加味して歪んだ部分を示している。
図11(c)は、
図11(a)の波形と、受振器3が受振した音波の波形との相互相関を計算した結果を示している。
図11(d)は、
図11(b)の波形と、受振器3が受振した音波の波形との相互相関を計算した結果を示している。
【0106】
図11(c)および
図11(d)の比較から分かるように、機械特性が加味された波形を用いる方が、S/N比の高いパルスを得ることができる。したがって、海底の地質の境界面を明りょうに識別することが可能になる。
【0107】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0108】
1,1A,1B 波形抽出システム
2 振源
3 受振器
4 発振ケーブル
5 受振ケーブル
6 釣支部材
7 浮力体
8 ウインチ
10 情報処理装置
11 制御部
111 波形データ取得部
112 波形抽出部
113 移動制御部
12 通信部
13 記憶部
14 入力部
15 出力部
30 船
31,31A,31B クレーン
32 ケーブル
100 振源
200 受振器
300 ケーブル
400 船
Ds (振源の)深さ
Dr (一番上の受振器の)深さ