(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】硬化性有機ケイ素樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240801BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20240801BHJP
C08K 5/549 20060101ALI20240801BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240801BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240801BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240801BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20240801BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K5/5419
C08K5/549
C08L83/05
H01L23/30 F
H01L23/30 R
H01L33/56
(21)【出願番号】P 2019162945
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】水梨 友之
(72)【発明者】
【氏名】正田 沙和子
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-093468(JP,A)
【文献】特開昭64-051466(JP,A)
【文献】特開平10-158587(JP,A)
【文献】特開2021-042132(JP,A)
【文献】特開2021-042131(JP,A)
【文献】国際公開第2016/120294(WO,A1)
【文献】特開昭52-039751(JP,A)
【文献】特開昭58-058104(JP,A)
【文献】特開昭64-011160(JP,A)
【文献】特開平04-036292(JP,A)
【文献】特開平04-161459(JP,A)
【文献】特開平10-158586(JP,A)
【文献】米国特許第03445420(US,A)
【文献】特開平10-176110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C09D183/00-183/16
C09J183/00-183/16
C08G 77/00- 77/62
C07F 7/02- 7/21
H01L 23/28- 23/31
H01L 33/52- 33/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分を含む硬化性有機ケイ素樹脂組成物
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有し、アルキニル基を有さないオルガノポリシロキサン
(B)ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に少なくとも2個有し、アルキニル基を有さない、オルガノハイドロジェンポリシロキサン 前記(A)成分のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のSiH基の個数の比が0.1~4となる量
(C)白金族金属系触媒 触媒量、及び
(D)付加反応抑制剤 上記(A)成分100質量部に対して0.001~5質量部
であって、前記付加反応抑制剤が下記式(1)で示されるアルキニル基含有オルガノポリシロキサン及び/又は下記式(2)で示されるアルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンであることを特徴とする、前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基であり、R
3は互いに独立に、水素原子または炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、xは0~4の整数であり、nは夫々2又は3の整数であり、aは互いに独立に0~6の整数であり、及びbは互いに独立に0または1であり、xが0かつnが夫々3の場合を除いて1分子中に少なくとも1個の炭素数6~12の芳香族炭化水素基が存在する)
【化2】
(式中、R
4は互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、R
5は互いに独立に、水素原子又は下記式(i)で表される基であり、ただし、R
5のうち少なくとも1つは式(i)で表される基であり、pは3~6の整数である)
【化3】
(式中、R
6は互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、cは0~6の整数である。*で示す箇所はケイ素原子との結合手である)。
【請求項2】
前記式(1)において、xは1~4の整数であり、bはいずれも0である、請求項1記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)において、xが0である、請求項1記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項4】
上記式(2)で表される化合物が、ケイ素原子に結合する水素原子を少なくとも1つ有し、且つ、ケイ素原子に結合する前記式(i)で表される基を少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項1記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(i)において、c=0であり、R
6が水素原子又はメチル基である、請求項1または4記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)成分として、(A1)SiO
4/2単位及びR
7SiO
3/2単位のうち少なくともいずれかを有する、網目鎖状のアルケニル基含有レジン状オルガノポリシロキサン(ここで、R
7は炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基である)を含む、請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A1)成分が、全シロキサン単位の合計モルに対して、SiO
4/2単位を0~60mol%、R
7SiO
3/2単位を0~90mol%、(R
7)
2SiO
2/2単位を0~40mol%、及び(R
7)
3SiO
1/2単位を10~50mol%(式中、R
7は上述の通り)で有し、ここで、該SiO
4/2単位と前記R
7SiO
3/2単位の和が50mol%以上であり、重量平均分子量1,000~5,000を有し、ケイ素原子に結合した水酸基を0.001~1.0mol/100gで有し、及び、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を1.0mol/100g以下で有する、請求項6記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)成分として、(A2)JIS K 7117-1:1999に準拠して測定される25℃での粘度10~100,000mPa・sを有する、分岐鎖を有してよい直鎖状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含む、請求項1~7のいずれか1項記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項9】
前記(A)成分として、(A2)JIS K 7117-1:1999に準拠して測定される25℃での粘度10~100,000mPa・sを有する、分岐鎖を有してよい直鎖状のアルケニル基含有オルガノ
ポリシロキサンを任意的に含み、前記(A1)及び(A2)成分の合計質量部に対する(A1)成分の比率が5~100質量%である、請求項6または7記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項10】
さらに(E)成分として、下記式(3)で表される環状シロキサン
【化4】
(上記式中、R
8は互いに独立に、水素原子、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、qは1もしくは2である)
を、前記(A)成分及び(B)成分の合計質量100質量部に対して0.1~30質量部で含み、組成物中に含まれるアルケニル基の合計個数に対するSiH基の合計個数の比は0.1~4である、請求項1~9のいずれか1項記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項11】
前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸亜鉛、及び硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の無機顔料をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物を硬化して成る硬化物と半導体素子とを備える半導体装置。
【請求項13】
前記半導体素子が発光素子である、請求項12記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性有機ケイ素樹脂組成物、及び該組成物の硬化物を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED用封止材には、耐熱性、耐光性、作業性、接着性、ガスバリア性、硬化特性に優れた材料が求められており、従来はエポキシ樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が多用されてきた。しかしながら、近年のLED発光装置の高出力化に伴い、長期にわたる高温環境下では、これらの熱可塑性樹脂を使用した場合に耐熱性、耐変色性の問題が発生することが分かってきた。
【0003】
また、最近では光学素子を基板に半田付けする際に、鉛フリー半田が使用されることが多くなっている。この鉛フリー半田は、従来の半田に比べ溶融温度が高く、通常260℃以上の温度をかけて半田付けを行う必要があるが、このような温度で半田付けを行った場合、上記のような従来の熱可塑性樹脂の封止材では変形が起こる、又は高温によって封止材が黄変する等の不具合が発生することも分かってきた。
【0004】
このように、LED発光装置の高出力化や鉛フリー半田の使用に伴い、封止材にはこれまで以上に優れた耐熱性が求められている。これまでに、耐熱性向上を目的として熱可塑性樹脂にナノシリカを充填した光学用樹脂組成物等が提案されてきたが(特許文献1、2)、熱可塑性樹脂では耐熱性に限界があり、十分な耐熱性が得られなかった。
【0005】
熱硬化性樹脂であるシリコーン樹脂は、耐熱性、耐光性、光透過性に優れることから、LED用封止材として検討されてきた(特許文献3~5)。しかしながら、車載用途など、過酷な条件で使用するLEDにおいては高温高湿条件下での信頼性が求められており、その為に高度加速寿命試験(HAST試験)が実施されている。シリコーン樹脂組成物のポットライフを増加させるために、硬化反応抑制剤を配合することは知られている。例えば、シリコーン樹脂の反応抑制剤として特許文献6にはアセチレンアルコール類が記載されている。また、特許文献7はアセチレンアルコール系反応抑制剤にアルキニルオキシ基含有オルガノポリシロキサンを組合せることにより、組成物の保存安定性及び硬化物の表面平滑性に優れた付加反応硬化型のオルガノポリシロキサン組成物を提供することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-214554号公報
【文献】特開2013-204029号公報
【文献】特開2006-213789号公報
【文献】特開2007-131694号公報
【文献】特開2011-252175号公報
【文献】特表2014-523938号公報
【文献】特開2005-146288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献6及び7に記載されるようなアセチレンアルコールは有機物であるため、HAST試験によって変色するという問題がある。また特許文献7記載の反応抑制剤は、比較的低温でしか反応抑制効果を有さないという問題もある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、高い反応抑制効果を示し、高温高湿条件下で安定な、特には高度加速寿命試験耐性(以下、耐HAST性という)を有する硬化物を与える、付加硬化型オルガノポリシロキサン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(1)又は(2)で表される特定構造を有するアルキニル基含有オルガノポリシロキサンが付加反応抑制効果に優れ、該シロキサンを含むことにより、ポットライフに優れ、且つ、高温高湿条件下で安定な硬化物を与える、付加反応硬化性有機ケイ素樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記(A)~(D)成分を含む硬化性有機ケイ素樹脂組成物であって、下記(A)~(D)成分を含む硬化性有機ケイ素樹脂組成物
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有し、アルキニル基を有さないオルガノポリシロキサン
(B)ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に少なくとも2個有し、アルキニル基を有さない、オルガノハイドロジェンポリシロキサン 前記(A)成分のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のSiH基の個数の比が0.1~4となる量
(C)白金族金属系触媒 触媒量、及び
(D)付加反応抑制剤 上記(A)成分100質量部に対して0.001~5質量部
であって、前記付加反応抑制剤が下記式(1)で示されるアルキニル基含有オルガノポリシロキサン及び/又は下記式(2)で示されるアルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンであることを特徴とする、前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基であり、R
3は互いに独立に、水素原子または炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、xは0~4の整数であり、nは夫々2又は3の整数であり、aは互いに独立に0~6の整数であり、及びbは互いに独立に0または1であり、xが0かつnが夫々3の場合を除いて1分子中に少なくとも1個の炭素数6~12の芳香族炭化水素基が存在する)
【化2】
(式中、R
4は互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、R
5は互いに独立に、水素原子又は下記式(i)で表される基であり、ただし、R
5のうち少なくとも1つは式(i)で表される基であり、pは3~6の整数である)
【化3】
(式中、R
6は互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、cは0~6の整数である。*で示す箇所はケイ素原子との結合手である)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物は優れた耐HAST性を有し、耐熱・耐湿試験等の信頼性試験において耐変色性に優れる硬化物を与えることができる。更には、室温での保存安定性に優れる組成物を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
[(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
(A)成分は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンであり、ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~5個有することを特徴とする。該オルガノポリシロキサンはアルキニル基を有さない。該(A)成分は、直鎖状オルガノポリシロキサン、分岐鎖状オルガノポリシロキサン、及びレジン状(網目鎖状)オルガノポリシロキサンのいずれでも良く、1種を単独で用いても2種以上を併用しても良い。特にはレジン状(網目鎖状)オルガノポリシロキサンが好ましい。以下、各シロキサンについて詳しく説明する。
【0014】
(A1)レジン状(網目鎖状)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A1)レジン状(網目鎖状)オルガノポリシロキサンは、重量平均分子量(Mw)1,000~6,000を有することが好ましく、より好ましくは1,100~3,000である。重量平均分子量が1,000以上であれば組成物が脆くなる恐れがない。また、重量平均分子量が6,000以下であると組成物の粘度が高くなり流動しなくなる恐れがないため好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量(Mw)とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指す。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolomn SuperH-L
TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2000(6.0mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度0.5質量%のTHF溶液)
【0015】
(A1)レジン状オルガノポリシロキサンが有する、ケイ素原子結合アルケニル基の量は、通常0.01~0.5mol/100gであり、好ましくは0.05~0.3mol/100g、より好ましくは0.10~0.25mol/100gである。ケイ素原子に結合したアルケニル基の量が上記下限値以上であれば、組成物が固まるのに十分な架橋点を有し、上記上限値以下であれば、架橋密度が上がり過ぎて靱性を失ってしまう恐れがないため好ましい。
【0016】
(A1)成分において、ケイ素原子に結合した水酸基の量は、通常0.001~1.0mol/100gであることが好ましく、より好ましくは0.005~0.8mol/100g、更に好ましくは0.008~0.6mol/100gであるのがよい。ケイ素原子に結合した水酸基の量が上記下限値以上であれば、組成物が固まるのに十分な架橋点を有し、上記上限値以下であれば架橋密度が上がり過ぎて靱性を失ってしまう恐れがないため好ましい。
【0017】
(A1)成分において、ケイ素原子に結合したアルコキシ基の量は1.0mol/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.8mol/100g以下、更に好ましくは0.5mol/100g以下であるのがよい。該アルコキシ基とは、通常、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5を有する。アルコキシ基の量が上記上限値以下であれば、硬化時に副生成物のアルコールガスが発生しづらく、硬化物にボイドが残る恐れもない。尚、本発明におけるケイ素原子に結合した水酸基量、アルコキシ基量は1H-NMR及び29Si-NMRによって測定された値を指す。
【0018】
(A1)レジン状オルガノポリシロキサンは、SiO4/2単位(Q単位)を通常0~60mol%、好ましくは0~50mol%有し、R7SiO3/2単位(T単位)を通常0~90mol%、好ましくは30~80mol%有し、(R7)2SiO2/2単位(D単位)を通常0~50mol%、好ましくは0~20mol%有し、及び、(R7)3SiO1/2単位(M単位)を通常0~50mol%、好ましくは10~30mol%有することが好ましい。特には、SiO4/2単位とR1SiO3/2単位の和が50mol%以上であることが好ましく、60~90mol%であることがより好ましい。
【0019】
上記M単位、D単位、及びT単位中のR7は、互いに独立して、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~10、好ましくは炭素数2~5の置換または非置換の1価アルキル基、または炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8ののアリール基である。但し、アルキニル基ではない。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子やシアノ基等で置換した基、例えばクロロメチル基、シアノエチル基、及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも、メチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。より好ましくは、R7SiO3/2単位(T単位)に結合した置換基R7の少なくとも1つがフェニル基であるのがよく、(R7)3SiO1/2単位(M単位)に結合した置換基R1の少なくとも1つが炭素数2~10のアルケニル基であることが好ましい。
【0020】
SiO4/2単位(Q単位)を得るための材料としては、例えば、ケイ酸ソーダ、テトラアルコキシシラン、またはその縮合反応物等を例示できるが、これらに限定されない。
【0021】
R
7SiO
3/2単位(T単位)を得るための材料としては、例えば、下記構造式で表されるオルガノトリクロロシラン、オルガノトリアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物、又はこれらの縮合反応物等を例示できるが、これらに限定されない。
【化4】
【0022】
R
7
2SiO
2/2単位(D単位)を得るための材料としては、例えば、下記構造式で表されるジオルガノジクロロシラン、ジオルガノジアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物等を例示できるが、これらに限定されない。
【化5】
【化6】
【化7】
【0023】
R
7
3SiO
1/2単位(M単位)を得るための材料としては、例えば、下記構造式で表されるトリオルガノクロロシラン、トリオルガノアルコキシシラン、ヘキサオルガノジシロキサン等の有機ケイ素化合物等を例示できるが、これらに限定されない。
【化8】
【0024】
(A2)直鎖状または分岐鎖状アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A2)成分は、直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであり、炭素数2~10のアルケニル基を1分子中に2個以上有し、JIS K 7117-1:1999に準拠して測定される25℃での粘度10~100,000mPa・sを有するのがよい。本発明の硬化性組成物は(A2)直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含有することにより、用途に合わせて粘度及び硬度を調整することができる。
【0025】
直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンの構造及びシロキサン鎖長は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有し、上記粘度を有するものであれば特に制限されるものでない。炭素数2~10、好ましくは2~5のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、及びオクテニル基等が挙げられ、中でもビニル基が好ましい。前記アルケニル基は、1分子中に2個以上有することが好ましく、2~5個がより好ましい。
【0026】
アルケニル基以外の、ケイ素原子に結合する置換基としては、炭素数1~10、好ましくは炭素数2~5の置換または非置換の1価アルキル基、または炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8のアリール基であればよく、上記R7の為に例示した基が挙げられる。但し、アルキニル基ではない。好ましくは1分子中に1個以上のアルキル基またはアリール基を有するのがよく、2~100個のアルキル基またはアリール基を有するのがより好ましい。アルキル基としては特に好ましくはメチル基であり、アリール基として特に好ましくはフェニル基である。アルケニル基以外の置換基として特に好ましくはメチル基及びフェニル基である。
【0027】
直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンは、JIS K 7117-1:1999に準拠して測定される25℃での粘度10~100,000mPa・sを有することが好ましく、より好ましくは100~50,000mPa・s、更に好ましくは300~30,000mPa・s、さらに好ましくは1,000~20,000mPa・sを有するのがよい。粘度が10mPa・s以上であれば、組成物が脆くなる恐れがなく、100,000mPa・s以下であれば、作業性が悪くなる恐れがない。
【0028】
前記直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンとしては、例えば以下のものを例示できるが、これらだけに限定されるものではない。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
(式中、x、y、zはそれぞれ0以上の整数であり、かつx+y≧1を満たす数であり、オルガノポリシロキサンの粘度が上記範囲を満たす値である)
【化15】
(上記式において、s、t、u、pはそれぞれ0以上の整数であり、かつs+t+u+p≧1を満たす数であり、オルガノポリシロキサンの粘度が上記範囲を満たす値である)
【0029】
本発明の組成物は(A1)レジン状オルガノポリシロキサンを単独で、又は上記(A2)直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンを単独で、あるいは(A1)レジン状オルガノポリシロキサンと(A2)直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンとを併せて含有するのがよい。好ましくは(A1)及び(A2)成分の合計質量部に対する(A1)成分の比率が5~100質量%であるのがよく、好ましくは10~95質量%であるのがよい。併用する場合、該(A2)成分の量は(A1)成分及び(A2)成分の合計100質量部に対して0.1~95質量部が好ましく、5~90質量部がより好ましい。
【0030】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分は、1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~5個のケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ヒドロシリル基を少なくとも2個(通常、2~200個)、好ましくは3個以上(通常、3~100個)含有する。(B)成分は上述した(A)成分と反応し、架橋剤として作用する。本組成物中において、該(B)成分の量は、前記(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分のSiH基の個数の比が0.1~4.0、好ましくは0.5~2.0、さらに好ましくは0.7~1.5となる量である。但し、該オルガノハイドロジェンポリシロキサンはアルキニル基を有さない。
【0031】
前記(B)成分は、ヒドロシリル基を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子構造は特に制限されず、例えば、線状、環状、分岐状、三次元網目状(レジン状)等の、いずれの分子構造であってもよい。(B)成分が線状構造を有する場合、ヒドロシリル基は、分子鎖末端および分子鎖側鎖のどちらか一方でのみケイ素原子に結合していても、その両方でケイ素原子に結合していてもよい。
【0032】
該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば下記平均組成式(4)で示される。
R9
aHbSiO(4-h-i)/2 …(4)
式(4)中、R9は、互いに独立に、非置換もしくは置換の、炭素数1~10の一価炭化水素基である。aおよびbは、好ましくは0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦3.0を満たす正数であり、より好ましくは1.0≦a≦2.0、0.01≦b≦1.0、かつ1.5≦a+b≦2.5を満足する正数である。
好ましくは、直鎖又は分岐状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであるのがよい。1分子中のケイ素原子の数(または重合度)は、通常、2~200個、好ましくは3~100個程度であり、室温(23℃)において液状又は固体状であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであればよい。
【0033】
上記式(4)においてR9は、非置換又は置換の、炭素数1~10の一価炭化水素基である。但し、アルキニル基ではない。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の飽和脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の飽和環式炭化水素基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などの芳香族炭化水素基、これらの基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えば、トリフルオロプロピル基、クロロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基などが挙げられる。これらの中では、炭素数1~5のメチル基、エチル基、プロピル基等の飽和炭化水素基、並びにフェニル基が好ましい。
【0034】
上記平均組成式(4)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)3SiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
【0035】
また、下記構造で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンも用いることができるが、これらだけに限定されるものではない。
【化16】
【化17】
【化18】
(前記式中、p、q、及びrは正の整数であり、好ましくは1分子中のケイ素原子の数が2~200個、好ましくは3~100個となる数である)
【0036】
本組成物中の(B)成分の量は、上記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数に対し(B)成分中のヒドロシリル基の個数の比が0.1~4、好ましくは0.5~2、より好ましくは0.7~1.5となる量である。(B)成分の量が、上記下限値未満では本発明の組成物の硬化反応が進行せず、得られる硬化物は架橋密度が低くなりすぎ、機械強度が不足し、耐熱性が悪影響を受ける恐れがあるため好ましくない。また(B)成分の量が上記上限値超であると、未反応のヒドロシリル基が硬化物中に多数残存するために、物性の経時変化の発現や硬化物の耐熱性の低下などを引き起こす恐れがある。更に、硬化物中に脱水素反応による発泡が生じる原因となるため好ましくない。
【0037】
[(C)白金族金属系触媒]
(C)白金族金属系触媒は、付加硬化反応を促進するものとして公知の触媒であればよい。例えば、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものが挙げられる。コスト等を考慮して、白金、白金黒、塩化白金酸などの白金系のもの、例えば、H2PtCl6・pH2O,K2PtCl6,KHPtCl6・pH2O,K2PtCl4,K2PtCl4・pH2O,PtO2・pH2O,PtCl4・pH2O,PtCl2,H2PtCl4・pH2O(ここで、pは、正の整数)等や、これらと、オレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を例示することができる。これらの触媒は1種単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0038】
本組成物において(C)触媒の量は、付加硬化反応を促進するための有効量でよい。通常、前記(A)成分及び(B)成分の合計量に対して白金族金属として質量換算で0.1~500ppm、特に好ましくは0.5~100ppmの範囲である。
【0039】
[(D)付加反応抑制剤]
本発明は付加反応抑制剤が、上記式(1)で表されるアルキニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン及び上記式(2)で表されるアルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンから選ばれる少なくとも1であることを特徴とする。以下、各シロキサンについて詳細に説明する。
【0040】
[アルキニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン]
アルキニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンは下記式(1)で表される。
【化19】
(式中、R
1及びR
2は、互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基であり、R
3は互いに独立に、水素原子または炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、xは0~4の整数であり、nは夫々1~3の整数であり、aは互いに独立に0~6の整数であり、及びbは互いに独立に0または1であり、ただし、nのうち少なくともひとつが1又は2の場合、R
1及びR
2のうち少なくとも1個は炭素数6~12の芳香族炭化水素基である)。
【0041】
R1及びR2は、互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基であり、ただし、少なくとも1のnが1又は2の場合、R1及びR2のうち少なくとも1個は炭素数6~12の芳香族炭化水素基である。好ましくは炭素数1~3の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数6~8の芳香族炭化水素基から選ばれる基である。また特には、nが1~3の何れの場合においても、少なくとも1の芳香族炭化水素基を有するのが好ましい。飽和脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基、などが挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、及びビフェニル基等のアリール基や、ベンジル基、フェニルエチル基、及びフェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基が好ましい。
【0042】
R3は、互いに独立に、水素原子または炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、好ましくは水素原子または炭素数1~3の飽和脂肪族炭化水素基である。飽和脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基、などが挙げられる。これらの中でもメチル基が好ましく、全てのR3がメチル基であるのが最も好ましい。R3がメチル基であることにより、反応抑制効果を向上することができる。
【0043】
xは0~4の整数であり、nは夫々1~3の整数であり、bは0または1である。ここで、xが0の場合、nは夫々2または3が好ましく、xが1~4の場合、bはいずれも0であるのが好ましい。aは0~6の整数であり、好ましくは0~3の整数である。さらに好ましくは、nは夫々2又は3であるのがよく、近接するアセチレン基を有することにより、アセチレン基のキレート作用による付加反応抑制効果をより向上することができる。
【0044】
x=1~4の場合は、下記の構造が挙げられる。
【化20】
(xは1~4の整数であり、好ましくは1又は2であり、aは0~6の整数であり、好ましくはaは0である。R
1、R
2、及びR
3は上記の通りであり、好ましくは少なくとも1のR
1が芳香族炭化水素基であるのがよく、より好ましくはフェニル基であり、R
2は好ましくは飽和脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはメチル基であり、R
3は好ましくは水素原子又はメチル基であり、より好ましくはメチル基である)
【0045】
x=0の場合は、下記の構造が挙げられる。
【化21】
(aは0~6の整数であり、好ましくはaは0であり、bは0または1であり、R
2及びR
3は上記の通りであり、R
2の少なくとも1は芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基であり、R
3は好ましくは水素原子又はメチル基であり、より好ましくはメチル基である)
【0046】
上記アルキニル基含有オルガノポリシロキサンとしてより詳細には、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化22】
【化23】
【0047】
上記アルキニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンは、例えば、トリスペンタフルオロボラン等の触媒存在下に、アセチレンアルコールとヒドロシリル基含有オルガノシロキサンとを脱水素反応させることにより製造することができる。ボラン触媒を用いた上記脱水素反応による製造方法では、オルガノポリシロキサン鎖の望まない分子量の増大を防ぐことができ、目的とするアルキニル基含有オルガノポリシロキサンを高収率で得られるため望ましい。脱水素反応の条件は、適宜調整されればよい。例えば、ヒドロシリル基とアセチレンアルコールとの反応比はmol比で1:1.1である。
【0048】
[アルキニル基含有環状オルガノポリシロキサン]
アルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンは下記式(2)で表される。
【化24】
(式中、R
4は互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基から選ばれる基であり、R
5は互いに独立に、水素原子又は下記式(i)で表される基であり、ただし、R
5のうち少なくとも1つは式(i)で表される基であり、pは3~6の整数である)
【化25】
(式中、R
6は互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、cは0~6の整数である。
*で示す箇所はケイ素原子との結合手である)。
【0049】
R4は、互いに独立に、炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基、または炭素数6~12の芳香族炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~3の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数6~8の芳香族炭化水素基から選ばれる基である。飽和脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基、などが挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、及びビフェニル基等のアリール基や、ベンジル基、フェニルエチル基、及びフェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基が好ましい。R4として最も好ましくはメチル基である。
【0050】
R5は、互いに独立に、水素原子又は前記式(i)で表される基であり、ただし、R5のうち少なくとも1つは前記式(i)で表される基である。式(i)において、cは0~6の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
【0051】
R6は互いに独立に、水素原子または炭素数1~6の飽和脂肪族炭化水素基であり、好ましくは水素原子または炭素数1~3の飽和脂肪族炭化水素基である。飽和脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基、などが挙げられる。これらの中でも、R6はメチル基が好ましく、全てのR6がメチル基であるのが最も好ましい。R6がメチル基であることにより、アセチレン基のキレート作用による付加反応抑制効果をより向上することができ、保存安定性に優れる組成物を与えることができる。
【0052】
上記式(1)においてpはシロキサン単位の数である。該pは3~6の整数であり、好ましくは3~5の整数である。好ましくは、R5で示される基のうち1以上、好ましくは2以上が上記式(i)で表されるアルキニル基含有有機基であり、且つ、少なくとも1のR5は水素原子であるのがよい。
【0053】
好ましくは、前記式(i)において、c=0であり、R
6が水素原子又はメチル基であるのがよく、最も好ましくは下記式(a)又は(b)で表されるアルキニル基含有有機基であり、保存安定性の観点より最も好ましくは下記式(b)で表される基である。
【化26】
【化27】
【0054】
上記式(1)で表されるアルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記式で表される化合物があげられる。
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【0055】
上記アルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンは、例えば、トリスペンタフルオロボラン等の触媒存在下に、アセチレンアルコールとヒドロシリル基含有環状オルガノシロキサンとを脱水素反応させることにより製造することができる。ボラン触媒を用いた上記脱水素反応による製造方法では、オルガノポリシロキサン鎖の望まない分子量の増大を防ぐことができ、目的とするアルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンを高収率で得られるため望ましい。脱水素反応の条件は、適宜調整されればよい。例えば、ヒドロシリル基とアセチレンアルコールとの反応比はmol比で1:1.1である。
【0056】
本発明の付加反応抑制剤は上記アルキニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン及びアルキニル基含有環状オルガノポリシロキサンのうち1種単独であっても、2種以上を併用してもよい。硬化性組成物中の付加反応抑制剤の量は、前記(A)成分100質量部に対し、0.001~5質量部であることが好ましく、0.01~3質量部であることがより好ましい。
【0057】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は上記(A)~(D)成分に加えて、下記(E)成分及び(F)成分を含有することができる。
【0058】
[(E)環状ポリシロキサン]
(E)成分は、下記式(3)で示される環状ポリシロキサンである。この環状ポリシロキサンは、本発明の組成物に添加することによって粘度、硬化性及び硬化特性の調整効果を付与するものである。
【化32】
(上記式中、R
8は互いに独立に、水素原子、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、qは1もしくは2である)
【0059】
R8で示される炭素数1~10、好ましくは1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。炭素数2~10、好ましくは2~5のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、及びオクテニル基等が挙げられる。炭素数6~10、好ましくは6~8の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、及びフェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。中でもR8としては、水素原子、ビニル基、メチル基、及びフェニル基が好ましい。但し、1分子中に、水素原子とアルケニル基を共に有するものでないのがよい。
【0060】
本組成物において(E)環状ポリシロキサンの量は、前記(A)成分100質量部と(B)成分の合計100質量部に対し、好ましくは0.1~30質量部であり、より好ましくは0.2~20質量部である。さらには、前記(E)成分が、ケイ素原子に結合するアルケニル基またはケイ素原子に結合する水素原子を有する場合は、本組成物における全アルケニル基の個数に対する、全ヒドロシリル基の個数の比が0.1~4、好ましくは0.5~2となる量であることを同時に満たすのが好ましい。
【0061】
上記式(3)で表される環状オルガノポリシロキサンとしては、例えば下記式で示されるが、これらに限定されるものではない。
【化33】
【0062】
[(F)蛍光体]
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、更に(F)蛍光体を含有してもよい。本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は耐候性に優れるため、蛍光体を含有する場合であっても、従来のような蛍光特性の著しい低下が起こる恐れがない。蛍光体の量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、0~500質量部が好ましく、0~300質量部がより好ましい。
【0063】
蛍光体は従来公知のものであればよく、特に制限されるものでない。例えばEu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に賦活されるアルカリ土類金属ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体、アルカリ土類金属硫化物蛍光体、アルカリ土類金属チオガレート蛍光体、アルカリ土類金属窒化ケイ素蛍光体、ゲルマン酸塩蛍光体、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される希土類アルミン酸塩蛍光体、希土類ケイ酸塩蛍光体又はEu等のランタノイド系元素で主に賦活される有機及び有機錯体蛍光体、Ca-Al-Si-O-N系オキシ窒化物ガラス蛍光体等が挙げられる。
【0064】
更に、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、無機白色顔料等のその他の添加剤を含むことができる。該無機白色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸亜鉛、及び硫酸バリウムなどが挙げられる。無機白色顔料の量は、上記(A)~(D)成分の合計100質量部当たり600質量部以下(例えば0~600質量部、通常、1~600質量部、好ましくは10~400質量部)の量で適宜調整されればよい。
【0065】
上記無機白色顔料以外のその他の添加剤としては、例えば、シリカ、グラスファイバー、及びヒュームドシリカ等の補強性無機充填材、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、セリウム脂肪酸塩、バリウム脂肪酸塩、セリウムアルコキシド、及びバリウムアルコキシド等の非補強性無機充填材、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化鉄(FeO2)、四酸化三鉄(Fe3O4)、酸化鉛(PbO2)、酸化すず(SnO2)、酸化セリウム(Ce2O3、CeO2)、酸化カルシウム(CaO)、四酸化三マンガン(Mn3O4)、及び酸化バリウム(BaO)などのナノフィラーが挙げられる。該添加剤の配合量は、従来公知の付加反応硬化型組成物に応じて適宜選択されればよい。好ましくは、無機白色顔料及び充填剤の合計量が、上記の(A)~(D)成分の合計100質量部に対して、600質量部以下(例えば0~600質量部、通常、1~600質量部、好ましくは10~400質量部)の量であるのがよい。
【0066】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、用途に応じて所定の基材に塗布した後、硬化させることができる。硬化条件は、常温(23℃)でも十分に硬化するが、必要に応じて加熱して硬化してもよい。加熱する場合の温度は、例えば、60~200℃とすることができる。
【0067】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、厚さ1mmで加熱硬化したときの硬化物が、波長400~800nm、特には波長450nmにおける直達光透過率が70%以上、好ましくは80%以上を有することができる。なお、直達光透過率の測定には、例えば日立製分光光度計U-4100を用いることができる。また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、JIS K 7142:2014 A法によって測定した589nmにおける23℃での屈折率1.43~1.57の範囲を有することができる。このような直達光透過率や屈折率を有する硬化物は透明性に優れるため、LEDの封止材などの光学用途に特に好適に用いることができる。さらには、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、機械特性、透明性、耐クラック性、及び耐熱性に優れた硬化物を与えることができる。
【0068】
<半導体装置>
本発明はさらに上記硬化性有機ケイ素樹脂組成物を硬化して成る硬化物で半導体素子が封止された半導体装置を提供する。上述の通り、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物から得られる硬化物は透明性や耐熱性に優れるため、発光半導体装置のレンズ用素材、保護コート剤、モールド剤等に好適であり、特に青色LEDや白色LED、紫外LED等のLED素子封止用として有用なものである。また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物から得られる硬化物は耐熱性に優れるため、シリケート系蛍光体や量子ドット蛍光体を添加して波長変換フィルム用素材として使用する際にも、高湿下での長期信頼性が確保でき、耐湿性、長期演色性が良好な発光半導体装置を提供することができる。
【0069】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物でLED等の発光半導体素子を封止する場合は、例えば熱可塑性樹脂からなるプレモールドパッケージに搭載されたLED素子上に本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物を塗布し、LED素子上で組成物を硬化させることにより、LED素子を硬化性有機ケイ素樹脂組成物の硬化物で封止することができる。また、組成物をトルエンやキシレン、PGMEA等の有機溶媒に溶解させて調製したワニスの状態で、LED素子上に塗布することができる。
【0070】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物から得られる硬化物は、その優れた耐熱性、耐紫外線性、透明性、耐クラック性、及び長期信頼性等の特性から、ディスプレイ材料、光記録媒体材料、光学機器材料、光部品材料、光ファイバー材料、光・電子機能有機材料、及び半導体集積回路周辺材料等の光学用途に最適な素材である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、部は質量部を示し、Meはメチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を示す。
【0072】
[
参考例1]
(A1)PhSiO
3/2単位75mol%、及びViPhMeSiO
1/2単位25mol%からなる分岐鎖状フェニルメチルポリシロキサンレジン(Mw=2,500、ケイ素原子に結合した水酸基量0.04mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.06mol/100g)を30部、
(B)下記式(5)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化34】
上記(A1)成分中のケイ素原子結合ビニル基の個数に対する当該(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の個数の比(以下、SiH/SiVi比と表す)が1.0となる量、
(C)塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、及び
(D)下記式(6)で表されるアルキニル基含有直鎖状シロキサン 0.05部をステンレス製のプラネタリーミキサーに入れ、
【化35】
よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。
【0073】
[実施例2]
(A1)上記参考例1と同じオルガノポリシロキサンレジンを30部、
(B)上記参考例1と同じオルガノハイドロジェンポリシロキサン
上記(A)成分及び下記(E)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)が1.0となる量、
(C)塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)下記式(7)で示されるアルキニル基含有直鎖状シロキサン 0.05部、及び
【化36】
(E)下記式(8)で示される環状ポリシロキサン 2部
【化37】
をステンレス製のプラネタリーミキサーに加え、よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。
尚、上記の組成にて得られる(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)は1.43である。
【0074】
[実施例3]
(A1)SiO
4/2単位50mol%、ViPhMeSiO
1/2単位25mol%、及びMe
3SiO
1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のフェニルメチルポリシロキサンレジン(Mw=3,900、ケイ素原子に結合した水酸基量0.001mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.05mol/100g)を30部、
(B)
参考例1と同じオルガノハイドロジェンポリシロキサン
上記(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する当該(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)が1.0となる量、
(C)塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、及び
(D)下記式(9)で表されるアルキニル基含有環状シロキサン 0.05部
【化38】
をステンレス製のプラネタリーミキサーに加え、よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。
【0075】
[実施例4]
(A1)SiO
4/2単位55mol%、ViMeSiO
2/2単位7mol%、及びMe
3SiO
1/2単位38mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサンレジン(Mw=5,600、ケイ素原子に結合した水酸基量0.2mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.02mol/100g)30部、
(A2)下記式(10)で表されるアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(JIS K 7117-1:1999に準拠して測定される25℃での粘度は300mPa・s)を50部、
【化39】
(B)下記式(11)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
上記(A1)成分、(A2)成分、及び(E)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する当該(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)が1.0となる量
(C)塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)下記式(12)で表されるアルキニル基含有環状シロキサン 0.01部、及び
【化40】
(E)上記式(8)で表される環状ポリシロキサン 1部
をステンレス製のプラネタリーミキサーに加え、よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。
尚、上記の組成にて得られる(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)は1.59である。
【0076】
[実施例5]
(A1)SiO
4/2単位5mol%、PhSiO
3/2単位70mol%、ViMeSiO
2/2単位5mol%、及びViMe
2SiO
1/2単位20mol%からなる分岐鎖状フェニルメチルポリシロキサンレジン(Mw=2,600、ケイ素原子に結合した水酸基量0.2mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量1.0mol/100g)30部、
(A2)成分として、下記式(13)で表されるアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(JIS K 7117-1:1999に準拠して測定される25℃での粘度は500mPa・s)を10部、
【化41】
(B)下記式(14)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化42】
(A1)成分、(A2)成分及び(E)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)が1.0となる量、
(C)塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)上記式(12)で示されるアルキニル基含有
環状シロキサンを0.3部、及び
(E)上記式(8)で示される環状ポリシロキサン 2部
をステンレス製のプラネタリーミキサーに加え、よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。
尚、上記の組成にて得られる(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)は1.34である。
【0077】
[実施例6]
(A1)SiO4/2単位50mol%、ViPhMeSiO
1/2
単位10mol%、及びMe3SiO1/2単位40mol%からなる分岐鎖状のメチルフェニルポリシロキサン(Mw=5,300、ケイ素原子に結合した水酸基量1.0mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.001mol/100g)30部、
(A2)上記式(10)で表されるアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンを10部、
(B)上記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
上記(A1)成分、(A2)成分及び(E)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)が1.0となる量、
(C)塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)上記式(12)で示されるアルキニル基含有環状シロキサン0.01部、及び
(E)上記式(8)で示される環状ポリシロキサン 1部
をステンレス製のプラネタリーミキサーに加え、よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。
尚、上記の組成にて得られる(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)は1.28である。
【0078】
[実施例7]
(A2)上記式(10)で表されるアルケニル基含有直鎖状シロキサンを30部、
(B)上記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
上記(A2)成分及び下記(E)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)が1.0となる量、
(C)塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)上記式(12)で示されるアルキニル基含有環状シロキサンを0.01部、及び
(E)上記式(8)で示される環状ポリシロキサン 1部、
をステンレス製のプラネタリーミキサーに加え、よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。
尚、上記の組成にて得られる(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi比)は3.11である。
【0079】
[比較例1]
参考例1で用いた(D)成分の代わりに、2-メチル-3-ブチン-2-オール0.05部を用いたこと以外は、参考例1を繰り返して硬化性有機ケイ素樹脂組成物を得た。
【0080】
[比較例2]
参考例1で用いた(D)成分の代わりに、1-エチニル1-シクロヘキサノール0.02部を用いたこと以外は、参考例1を繰り返して硬化性有機ケイ素樹脂組成物を得た。
【0081】
[比較例3]
参考例1で用いた(D)成分の代わりに、下記式(15)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化43】
を0.5
部用いたこと以外は、
参考例1を繰り返して硬化性有機ケイ素樹脂組成物を得た。
【0082】
上記実施例及び比較例で得た各組成物について、下記の方法に従い、流動性、ポットライフを評価した。また、各組成物について、150℃にて4時間加熱成形して硬化物(120mm×110mm×1mm)を得た。該硬化物について、下記の方法に従い、機械的特性及び耐HAST性を評価した。結果を表1及び2に示す。
(1)性状
各組成物の流動性を以下の方法で評価した。
100mlのガラス瓶に50gの組成物を加え、ガラスビンを横に倒して23℃で10分間静置した。その間に樹脂が流れ出せば液状であると判断した。
(2)屈折率
硬化前の各組成物の屈折率はATAGO製デジタル屈折計RX-9000αを用いて波長589nmの光の屈折率を23℃で測定した。
(3)ポットライフ
各組成物の23℃での粘度を、JIS K 7117-1:1999に準拠する方法で測定した。また、23℃×8時間放置後に再び粘度を測定し、初期粘度に対する8時間後の粘度増加率を以下の式を用いて算出した。
ポットライフ=(8時間後の粘度[Pa・s])/(初期粘度[Pa・s])
(4)硬さ(タイプD)
各組成物を上記条件にて硬化して得られた硬化物の硬さを、JIS K 6249:2003に準拠して、デュロメータD硬度計を用いて測定した。
(5)切断時伸び及び引張強さ
各組成物を上記条件にて硬化して得られた硬化物の切断時伸び及び引張強さを、JIS K 6249:2003に準拠して測定した。
(6)耐HAST性
・硬化物外観
各組成物を上記条件にて硬化して得られた硬化物(厚さ1mm)の色と透明性を目視にて確認した。
次いで該硬化物の耐熱・耐湿性試験(HAST試験)を135℃、85%RH条件下で30時間行い、HAST試験後の硬化物の外観を確認した。耐熱・耐湿性試験は、株式会社平山製作所製の不飽和型高加速寿命試験装置(装置名:HASTEST PC-242HSR2)を用いて行った。
・透過率
各組成物を上記条件にて硬化し、厚さ5mmの硬化物を得た。該硬化物の波長450nmにおける光透過率を、日立製分光光度計U-4100を用いて23℃で測定した(初期透過率)。
次いで該硬化物のHAST試験を135℃、85%RH条件下で30時間行い、HAST試験後の硬化物の光透過率を測定し、初期透過率と比較して、耐変色性を評価した。なお、透過率は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計(装置名:U-4100)を用いて測定した。
硬化物外観と透過率の結果から、耐HAST性を以下の基準に従い判定した。
(判定基準)
○:外観が変色せず、初期透過率に対して試験後の透過率が97%以上である
×:外観が変色している又は初期透過率に対して試験後の透過率が97%未満である
【0083】
【0084】
【0085】
表2に示す通り、本発明の(D)付加反応抑制剤に替えてアセチレンアルコールを含有する比較例1および2の組成物から得られる硬化物は耐熱・耐湿性に劣り、硬化物外観や透過率が低下した。また本発明の(D)成分に替えて、末端ではなく側鎖にアルキニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンを使用した比較例3の組成物から得られる硬化物は耐HAST性は良好だったが、組成物はポットライフに劣り、経時で粘度が大幅に増加した。
これに対して、表1に示す通り、本発明の(D)付加反応抑制剤を含有する硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、ポットライフに優れ保存安定性が良好であり、且つ、得られる硬化物は、機械的特性が良好であり、無色透明であり、更に、耐HAST性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、十分なポットライフを有し、耐HAST性に優れる硬化物を与えることができる。本発明の組成物は、LEDなどの光半導体素子封止用組成物等として有用であり、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。