(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法、基板処理方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/31 20060101AFI20240801BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L21/31 C
H01L21/316 A
(21)【出願番号】P 2021161015
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(72)【発明者】
【氏名】井川 博登
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅則
(72)【発明者】
【氏名】舟木 克典
(72)【発明者】
【氏名】上田 立志
(72)【発明者】
【氏名】坪田 康寿
(72)【発明者】
【氏名】竹島 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】市村 圭太
(72)【発明者】
【氏名】山角 宥貴
(72)【発明者】
【氏名】岸本 宗樹
【審査官】原島 啓一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-091409(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054038(WO,A1)
【文献】特開2008-047884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/205
H01L 21/312-21/32
H01L 21/365
H01L 21/469-21/475
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を所定温度の基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する工程と、
(b)酸素及び水素を含有し、又は酸素を含有し且つ水素を非含有とし、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記所定温度の前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する工程と、
を有し、
前記所定温度は、(a)において前記第1処理ガスに含有される酸素及び水素における水素の比率を増大させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる温度が選択される、
基板処理方法。
【請求項2】
(a)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する工程と、
(b)酸素及び水素を含有し、又は酸素を含有し且つ水素を非含有とし、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する工程と、
を有し、
前記第1の比率は、(a)において前記基板の温度を減少させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる水素の比率が選択される、基板処理方法。
【請求項3】
前記第1の比率は60%以上95%以下である、請求項1又は2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記第2の比率は20%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記第2の比率は5%以上である、請求項4に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第2処理ガスは水素を非含有とするガスである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
(a)において前記第1の酸化層に改質される前記基板の表面は、シリコンを含有する下地により構成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記シリコンを含有する下地は、シリコン単体により構成されている、請求項7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記第1の酸化層の厚さは4nm以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記第2の酸化層に含まれる水素の濃度は、前記第1の酸化層に含まれる水素の濃度よりも低い、請求項1~9のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
(a)では、前記基板が収容された処理室内に供給された前記第1処理ガスをプラズマ励起し、
(b)では、前記処理室内に供給された前記第2処理ガスをプラズマ励起する、請求項1~10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記第1処理ガスは酸素ガスと水素ガスの混合ガスである、請求項1~11のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
(a)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を所定温度の基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する工程と、
(b)酸素及び水素を含有し、又は酸素を含有し且つ水素を非含有とし、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記所定温度の前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する工程と、
を有し、
前記所定温度は、(a)において前記第1処理ガスに含有される酸素及び水素における水素の比率を増大させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる温度が選択される、
半導体装置の製造方法。
【請求項14】
(a)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する工程と、
(b)酸素及び水素を含有し、又は酸素を含有し且つ水素を非含有とし、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する工程と、
を有し、
前記第1の比率は、(a)において前記基板の温度を減少させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる水素の比率が選択される、半導体装置の製造方法。
【請求項15】
基板が収容される処理室と、
前記処理室内に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給系と、
前記処理室内に水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給系と、
前記処理室内に供給されるガスをプラズマ励起する励起部と、
(a-1)前記酸素含有ガスと前記水素含有ガスの混合ガスであって、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスを前記処理室内に供給する処理と、(a-2)前記第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を、前記処理室内に収容された所定温度の前記基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する処理と、(b―1)前記酸素含有ガスと前記水素含有ガスの混合ガス又は前記酸素含有ガスを含み前記水素含有ガスを非含有とするガスであって、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスを前記処理室内に供給する処理と、(b―2)前記第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記所定温度の前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する処理と、を行わせるように前記酸素含有ガス供給系、前記水素含有ガス供給系、及び前記励起部を制御することが可能なように構成された制御部と、
を有し、
前記所定温度は、(a―1)において前記第1処理ガスに含有される酸素及び水素における水素の比率を増大させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる温度が選択される、基板処理装置。
【請求項16】
基板が収容される処理室と、
前記処理室内に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給系と、
前記処理室内に水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給系と、
前記処理室内に供給されるガスをプラズマ励起する励起部と、
(a-1)前記酸素含有ガスと前記水素含有ガスの混合ガスであって、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスを前記処理室内に供給する処理と、(a-2)前記第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を、前記処理室内に収容された前記基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する処理と、(b―1)前記酸素含有ガスと前記水素含有ガスの混合ガス又は前記酸素含有ガスを含み前記水素含有ガスを非含有とするガスであって、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスを前記処理室内に供給する処理と、(b―2)前記第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する処理と、を行わせるように前記酸素含有ガス供給系、前記水素含有ガス供給系、及び前記励起部を制御することが可能なように構成された制御部と、
を有し、
前記第1の比率は、(a)において前記基板の温度を減少させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる水素の比率が選択される、基板処理装置。
【請求項17】
前記酸素含有ガスは水素を非含有とするガスである、請求項15又は16に記載の基板処理装置。
【請求項18】
(a)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を所定温度の基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する手順と、
(b)酸素及び水素を含有し、又は酸素を含有し且つ水素を非含有とし、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記所定温度の前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する手順と、
を有し、
前記所定温度は、(a)において前記第1処理ガスに含有される酸素及び水素における水素の比率を増大させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる温度が選択される手順を、コンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項19】
(a)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質する手順と、
(b)酸素を含有し、又は酸素を含有し且つ水素を非含有とし、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する手順と、
を有し、
前記第1の比率は、(a)において前記基板の温度を減少させるほど、前記基板の表面の酸化速度が大きくなる水素の比率が選択される手順を、コンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置の製造方法、基板処理方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板上に形成された膜の表面を、プラズマにより励起させたガスを用いて酸化層へ改質する処理が行われることがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、低い温度条件下においても、基板の表面を優れた特性を有する所望の厚さの酸化層へと改質することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
(a)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を基板に供給し、前記基板の表面を第1の酸化層に改質(酸化)する工程と、
(b)酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が前記第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種を前記基板に供給し、前記第1の酸化層を第2の酸化層に改質する工程と、
を有する技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、低い温度条件下においても、基板の表面を優れた特性を有する所望の厚さの酸化層へと改質することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置100の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
【
図2】本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置100におけるプラズマ生成原理を説明する説明図である。
【
図3】本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置100が備えるコントローラ221の概略構成図であり、コントローラ221の制御系をブロック図で示す図である。
【
図4】処理温度ごとにおける、処理ガス中に含まれる水素の比率と、改質処理により形成される酸化層の厚さの関係を示した図である。
【
図5】処理ガス中に含まれる水素の比率ごとにおける、処理温度と、改質処理により形成される酸化層の厚さの関係を示した図である。
【
図6】本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置100´の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、
図1~
図5を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0009】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、基板処理装置100は、基板としてのウエハ200を収容してプラズマ処理する処理炉202を備えている。処理炉202は、処理室201を構成する処理容器203を備えている。処理容器203は、第1の容器であるドーム型の上側容器210と、第2の容器である碗型の下側容器211とを備えている。上側容器210が下側容器211の上に被さることにより、処理室201が形成されている。上側容器210は、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)または石英(SiO
2)等の非金属材料により構成されており、下側容器211は、例えばアルミニウム(Al)により構成されている。
【0010】
下側容器211の下部側壁には、搬入出口(仕切弁)としてのゲートバルブ244が設けられている。ゲートバルブ244は、開くことにより、搬入出口245を介して、処理室201内外へウエハ200を搬入出することができる。ゲートバルブ244を閉じることにより、処理室201内の気密性を保持することができる。
【0011】
図2に示すように、処理室201は、プラズマ生成空間201aと、プラズマ生成空間201aに連通し、ウエハ200が処理される基板処理空間201bと、を有している。プラズマ生成空間201aはプラズマが生成される空間であって、処理室201の内、例えば共振コイル212の下端(
図1における一点鎖線)より上方の空間をいう。一方、基板処理空間201bは基板がプラズマで処理される空間であって、共振コイル212の下端より下方の空間をいう。
【0012】
処理室201の底側中央には、ウエハ200を載置する基板載置部としてのサセプタ217が配置されている。サセプタ217は例えば窒化アルミニウム(AlN)、セラミックス、石英等の非金属材料により構成されている。
【0013】
サセプタ217の内部には、加熱機構としてのヒータ217bが一体的に埋め込まれている。ヒータ電力調整機構276を介してヒータ217bに電力が供給されることにより、ウエハ200表面を、例えば25℃~1000℃の範囲内の所定の程度まで加熱することができる。
【0014】
サセプタ217は、下側容器211とは電気的に絶縁されている。サセプタ217内部にはインピーダンス調整電極217cが装備されている。インピーダンス調整電極217cは、インピーダンス調整部としてのインピーダンス可変機構275を介して接地されている。インピーダンス可変機構275は、コイルや可変コンデンサ等を備えており、コイルのインダクタンス、抵抗、可変コンデンサの容量値等を制御することにより、インピーダンス調整電極217cのインピーダンスを約0Ωから処理室201の寄生インピーダンス値の範囲内で変化させることが可能なように構成されている。これによって、インピーダンス調整電極217c及びサセプタ217を介して、プラズマ処理中のウエハ200の電位(バイアス電圧)を制御することが可能となる。
【0015】
サセプタ217の下方には、サセプタを昇降させるサセプタ昇降機構268が設けられている。サセプタ217には、貫通孔217aが設けられている。下側容器211の底面には、ウエハ200を支持する支持体としての支持ピン266が設けられている。貫通孔217aと支持ピン266とは互いに対向する位置に、少なくとも各3箇所ずつ設けられている。サセプタ昇降機構268によりサセプタ217が下降させられたときには、支持ピン266がサセプタ217とは非接触な状態で、貫通孔217aを突き抜けるようになっている。これにより、ウエハ200を下方から保持することが可能となる。
【0016】
処理室201の上方、つまり上側容器210の上部には、ガス供給ヘッド236が設けられている。ガス供給ヘッド236は、キャップ状の蓋体233と、ガス導入口234と、バッファ室237と、開口238と、遮蔽プレート240と、ガス吹出口239とを備え、を処理室201内へガスを供給できるように構成されている。バッファ室237は、ガス導入口234より導入される反応ガスを分散する分散空間として機能する。
【0017】
ガス導入口234には、水素(H)を含有する水素含有ガスを供給するガス供給管232aの下流端と、酸素(O)を含有する酸素含有ガスを供給するガス供給管232bの下流端と、不活性ガスを供給するガス供給管232cと、が合流するように接続されている。ガス供給管232aには、上流側から順に、水素含有ガス供給源250a、流量制御装置としてのマスフローコントローラ(MFC)252a、開閉弁としてのバルブ253aが設けられている。ガス供給管232bには、上流側から順に、酸素含有ガス供給源250b、流量制御装置としてのMFC252b、開閉弁としてのバルブ253bが設けられている。ガス供給管232cには、上流側から順に、不活性ガス供給源250c、流量制御装置としてのMFC252c、開閉弁としてのバルブ253cが設けられている。ガス供給管232aとガス供給管232bと供給管232cとが合流した下流側には、バルブ243aが設けられ、ガス導入口234の上流端に接続されている。バルブ253a~253c、243aを開閉させることによって、MFC252a~252cによりそれぞれのガスの流量を調整しつつ、ガス供給管232a、232b、232cを介して、水素含有ガス、酸素ガス含有ガス、不活性ガスのそれぞれ処理室201内へ供給することができる。
【0018】
主に、ガス供給ヘッド236(蓋体233、ガス導入口234、バッファ室237、開口238、遮蔽プレート240、ガス吹出口239)、ガス供給管232a、MFC252a、バルブ253a、243aにより、水素含有ガス供給系が構成される。また、主に、ガス供給ヘッド236、ガス供給管232b、MFC252b、バルブ253b、243aにより、酸素含有ガス供給系が構成される。また、主に、ガス供給ヘッド236、ガス供給管232c、MFC252c、バルブ253c、243aにより、不活性ガス供給系が構成される。
【0019】
下側容器211の側壁には、処理室201内を排気する排気口235が設けられている。排気口235には、排気管231の上流端が接続されている。排気管231には、上流側から順に、圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ242、バルブ243b、真空排気装置としての真空ポンプ246が設けられている。
【0020】
主に、排気口235、排気管231、APCバルブ242、バルブ243bにより、排気部が構成されている。真空ポンプ246を排気部に含めてもよい。
【0021】
処理室201の外周部、すなわち、上側容器210の側壁の外側には、処理室201を囲うように、螺旋状の共振コイル212が設けられている。共振コイル212には、RF(Radio Frequency)センサ272、高周波電源273および周波数整合器274(周波数制御部)が接続されている。共振コイル212の外周側には、遮蔽板223が設けられている。
【0022】
高周波電源273は、共振コイル212に対して高周波電力を供給するよう構成されている。RFセンサ272は、高周波電源273の出力側に設けられている。RFセンサ272は、高周波電源273から供給される高周波電力の進行波や反射波の情報をモニタするよう構成されている。周波数整合器274は、RFセンサ272でモニタされた反射波電力の情報に基づいて、反射波が最小となるよう、高周波電源273から出力される高周波電力の周波数を整合させるよう構成されている。
【0023】
共振コイル212の両端は、電気的に接地されている。共振コイル212の一端は、可動タップ213を介して接地されている。共振コイル212の他端は、固定グランド214を介して接地されている。共振コイル212のこれら両端の間には、高周波電源273から給電を受ける位置を任意に設定できる可動タップ215が設けられている。
【0024】
主に、共振コイル212、RFセンサ272、周波数整合器274により、水素含有ガス供給系および酸素含有ガス供給系から供給されるガス等の、処理室203内(プラズマ生成空間201a内)に供給されるガスを励起する励起部(プラズマ生成部)が構成されている。高周波電源273や遮蔽板223を励起部に含めてもよい。
【0025】
以下、励起部の動作や生成されるプラズマの性質について、
図2を用いて補足する。
【0026】
共振コイル212は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)電極として機能するよう構成されている。共振コイル212は、所定の波長の定在波を形成し、全波長モードで共振するように、その巻径、巻回ピッチ、巻数等が設定される。共振コイル212の電気的長さ、すなわち、アース間の電極長は、高周波電源273から供給される高周波電力の波長の整数倍の長さとなるように調整される。これらの構成や、共振コイル212に対して供給される電力、および、共振コイル212で発生させる磁界強度等は、基板処理装置100の外形や処理内容などを勘案して適宜決定される。一例として、共振コイル212のコイル直径は200~500mmとされ、コイルの巻回数は2~60回とされる。
【0027】
高周波電源273は、電源制御手段と増幅器とを備えている。電源制御手段は、操作パネルを通じて予め設定された電力や周波数に関する出力条件に基づいて、所定の高周波信号(制御信号)を増幅器に対して出力するよう構成されている。増幅器は、電源制御手段から受信した制御信号を増幅することで得られた高周波電力を、伝送線路を介して共振コイル212に向けて出力するよう構成されている。
【0028】
周波数整合器274は、反射波電力に関する電圧信号をRFセンサ272から受信し、反射波電力が最小となるように、高周波電源273が出力する高周波電力の周波数(発振周波数)を増加または減少させるような補正制御を行う。
【0029】
以上の構成により、プラズマ生成空間201a内に励起される誘導プラズマは、処理室201の内壁やサセプタ217等との容量結合が殆どない良質なものとなる。プラズマ生成空間201a中には、電気的ポテンシャルの極めて低い、平面視がドーナツ状のプラズマが生成されることとなる。
【0030】
図3に示すように、制御部としてのコントローラ221は、CPU(Central Processing Unit)221a、RAM(Random Access Memory)221b、記憶装置221c、I/Oポート221dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM221b、記憶装置221c、I/Oポート221dは、内部バス221eを介して、CPU221aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ221には、入出力装置225として、例えばタッチパネル、マウス、キーボード、操作端末等が接続されていてもよい。コントローラ221には、表示部として、例えばディスプレイ等が接続されていてもよい。
【0031】
記憶装置221cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、CD-ROM等で構成されている。記憶装置221c内には、基板処理装置100の動作を制御する制御プログラム、基板処理の手順や条件などが記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理工程における各手順を、コンピュータとして構成されたコントローラ221により基板処理装置100に実行させ、所定の結果を得ることが出来るように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、このプロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単にプログラムともいう。なお、本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、プロセスレシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、その両方を含む場合がある。RAM221bは、CPU221aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0032】
I/Oポート221dは、上述のMFC252a~252c、バルブ253a~253c、243a、243b、ゲートバルブ244、APCバルブ242、真空ポンプ246、ヒータ217b、RFセンサ272、高周波電源273、周波数整合器274、サセプタ昇降機構268、インピーダンス可変機構275等に接続されている。
【0033】
CPU221aは、記憶装置221cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置225からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置221cからプロセスレシピを読み出すように構成されている。そして、
図1に示すように、CPU221aは、読み出したプロセスレシピの内容に沿うように、I/Oポート221d及び信号線Aを通じてAPCバルブ242の開度調整動作、バルブ243bの開閉動作、及び真空ポンプ246の起動・停止を、信号線Bを通じてサセプタ昇降機構268の昇降動作を、信号線Cを通じてヒータ電力調整機構276による温度センサに基づくヒータ217bへの供給電力量調整動作(温度調整動作)やインピーダンス可変機構275によるインピーダンス値調整動作を、信号線Dを通じてゲートバルブ244の開閉動作を、信号線Eを通じてRFセンサ272、周波数整合器274及び高周波電源273の動作を、信号線Fを通じてMFC252a~252cによる各種ガスの流量調整動作、及びバルブ253a~253c、243aの開閉動作を、それぞれ制御することが可能なように構成されている。
【0034】
なお、コントローラ221は、専用のコンピュータとして構成されている場合に限らず、汎用のコンピュータとして構成されていてもよい。例えば、上述のプログラムを格納した外部記憶装置(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスク、CDやDVD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリやメモリカード等の半導体メモリ)226を用意し、かかる外部記憶装置226を用いて汎用のコンピュータにプログラムをインストールすること等により、本実施形態に係るコントローラ221を構成することができる。なお、コンピュータにプログラムを供給するための手段は、外部記憶装置226を介して供給する場合に限らない。例えば、インターネットや専用回線等の通信手段を用い、外部記憶装置226を介さずにプログラムを供給するようにしてもよい。なお、記憶装置221cや外部記憶装置226は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成される。以下、これらを総称して、単に記録媒体ともいう。なお、本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置221c単体のみを含む場合、外部記憶装置226単体のみを含む場合、または、その両方を含む場合がある。
【0035】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置100を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板としてのウエハ200を処理する基板処理シーケンス例、具体的には、ウエハ200の表面に形成された膜の表面を改質して酸化層を形成するシーケンス例について説明する。以下の説明において、基板処理装置100を構成する各部の動作はコントローラ221により制御される。
【0036】
本態様における基板処理シーケンスでは、
酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種をウエハ200に供給し、ウエハ200の表面を第1の酸化層に改質(酸化)するステップaと、
酸素及び水素を含有し、酸素に対する水素の比率が第1の比率よりも小さい第2の比率である第2処理ガスをプラズマ励起することにより生成される反応種をウエハ200に供給し、第1の酸化層を第2の酸化層に改質するステップbと、
を実施する。
【0037】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0038】
(ウエハ搬入)
サセプタ217を所定の搬送位置まで降下させた状態で、ゲートバルブ244を開き、処理対象のウエハ200を、搬送ロボット(図示せず)により処理室201内へ搬入する。処理室201内へ搬入されたウエハ200は、サセプタ217の表面から突出した支持ピン266上に水平姿勢で支持される。処理室201内へのウエハ200の搬入が完了した後、処理室201内から搬送ロボットのアーム部を退去させ、ゲートバルブ244を閉じる。その後、サセプタ217を所定の処理位置まで上昇させ、処理対象のウエハ200を、支持ピン266上からサセプタ217上へと移載させる。なお、ウエハ搬入は、処理室201内を不活性ガス等でパージしながら行ってもよい。
【0039】
なお、改質処理対象となるウエハ200の表面は、一例として、Si単体(単結晶Si、多結晶Si、またはアモルファスシリコン)の下地により構成されている。すなわち、ウエハ200の表面は、一例として、Siを含有する下地により構成されている。ここで「下地」とは、例えば、膜状である場合や、基体としてのウエハの表面が露出したものである場合等を含む。
【0040】
(圧力調整および温度調整)
続いて、処理室201内が所望の処理圧力となるように、真空ポンプ246によって真空排気される。処理室201内の圧力は圧力センサで測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ242がフィードバック制御される。また、ウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ217bによって加熱される。処理室201内が所望の処理圧力となり、また、ウエハ200の温度が所望の処理温度に到達して安定したら、後述する窒化処理を開始する。真空ポンプ246は、後述するウエハ搬出が終了するまで作動させておく。
【0041】
その後、次のステップa,bを順次実行する。
【0042】
[ステップa:第1酸化層形成工程]
ステップaでは、
酸素含有ガス及び水素含有ガスを処理室201内に供給するステップa-1と、
処理室201内に供給された酸素含有ガス及び水素含有ガスを含むガスをプラズマ励起し、プラズマ励起することにより生成される反応種を、ウエハ200に供給することでウエハ200の表面を第1の酸化層に改質(酸化)するステップa-2と、
を行う。
【0043】
具体的には、バルブ253aを開き、ガス供給管232a内へ水素含有ガスを流すとともに、バルブ253bを開き、ガス供給管232b内へ酸素含有ガスを流す。水素含有ガス及び酸素含有ガスは、MFC252a,252bによりそれぞれ流量調整され、バッファ室237を介して処理室201内へ供給され、排気口235より排気される。このとき、処理室201内には、水素及び酸素を含有する第1処理ガスとして、水素含有ガスと酸素含有ガスの混合ガスが供給される(第1処理ガス供給)。なお、この際にバルブ243cを開き、バッファ室237を介して処理室201内へ不活性ガスを同時に供給するようにしてもよい。
【0044】
水素含有ガスとしては、例えば、水素(H2)ガス、重水素(D2)ガス、水蒸気(H2Oガス)、過酸化水素(H2O2)ガス等を用いることができる。水素含有ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0045】
酸素含有ガスとしては、例えば、酸素(O2)ガス、亜酸化窒素(N2O)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO2)ガス、オゾン(O3)ガス、水蒸気(H2Oガス)、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO2)ガス等を用いることができる。酸素含有ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。なお、酸素含有ガスとしてH2OガスやH2O2ガスなどの水素を含有するガスを用いる場合は、水素含有ガスとしてこれらのガス以外のガスを用いることが好ましい。
【0046】
不活性ガスとしては、例えば、N2ガスや、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。この点は、後述する各ステップにおいても同様である。
【0047】
このとき、第1処理ガスに含まれる酸素と水素の比率に関して、酸素に対する水素の比率が第1の比率となるように、MFC252a,252bにより水素含有ガスと酸素含有ガスの流量調整が行われる。このように、水素含有ガス供給系と酸素含有ガス供給系を個別に備えて、個別に流量調整することが可能なように構成することにより、水素含有ガスと酸素含有ガスの混合比を調整して、処理ガス中の水素の比率を制御することが容易となる。
【0048】
なお、本明細書においては、ガスに含まれる「酸素に対する水素の比率」とは、主に、ガスに含まれる酸素の原子数と水素の原子数の合計に対する水素の原子数の比率のことを意味している。
【0049】
また、第1処理ガスの供給開始と同時、若しくは供給開始後に、共振コイル212に対して、高周波電源273から高周波(RF)電力を印加する。これにより、プラズマ生成空間201a内における共振コイル212の上下の接地点及び電気的中点に相当する高さ位置にそれぞれ、平面視がドーナツ状である誘導プラズマが励起される。誘導プラズマの励起により、水素及び酸素を含有する第1処理ガスが活性化され、酸化種を含む反応種が生成される。反応種には、酸化種として作用する励起状態のO原子(O*)、イオン化されたO原子、励起状態のOH基(OH*)、および、O及びHを含むイオンのうち、少なくともいずれかが含まれる。さらに、反応種には、H原子を含む反応種として、励起状態のH原子(H*)、およびイオン化されたH原子の少なくともいずれかが含まれる。H原子を含む反応種を酸化種の一部として捉えることもできる。
【0050】
なお、本実施形態のように、処理室201内に供給された処理ガスをプラズマ励起することで反応種を生成し、ウエハ200に対して反応種を直接供給することで、処理室201の外において生成された反応種をウエハ200に供給する場合に比べて、生成した反応種を効率的にウエハ200に供給し、ウエハ200の表面に対する酸化や改質の効率を向上させることができる。
【0051】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:室温~300℃、好ましくは100~200℃
処理圧力:1~1000Pa、好ましくは100~200Pa
第1処理ガス中の酸素に対する水素の比率:60~95%、好ましくは70~95%
第1処理ガス供給流量:0.1~10slm、好ましくは0.2~0.5slm
第1処理ガス供給時間:60~400秒、好ましくは120~400秒
不活性ガス供給流量:0~10slm
RF電力:100~5000W、好ましくは500~3500W
RF周波数:800kHz~50MHz
が例示される。
【0052】
なお、本明細書における「100~200℃」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「100~200℃」とは「100℃以上200℃以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。また、本明細書における処理温度とはウエハ200の温度または処理室201内の温度のことを意味し、処理圧力とは処理室201内の圧力のことを意味する。また、ガス供給流量:0slmとは、そのガスを供給しないケースを意味する。これらは、以下の説明においても同様である。
【0053】
上述の処理条件下でウエハ200に対して第1処理ガスをプラズマで励起させて供給することにより、ウエハ200の表面に対して酸化種を含む反応種が供給される。供給された反応種により、ウエハ200の表面が酸化され、表面の少なくともが第1の酸化層に改質される。
【0054】
ここで、本ステップにおいて例示した処理温度のように、比較的低い処理温度下においてプラズマ励起された酸素含有ガスを用いて基板の表面を酸化し、表面に酸化層を形成する場合、従来の条件では、所望の酸化速度が得られず、また、所望の厚さの酸化層を形成することが困難となることがある。これは、低温条件下では、プラズマ励起によって生成される酸化種が基板表面の改質処理対象(例えばSi単体下地)中に拡散しにくくなることや、低温条件下では、プラズマ励起によって酸化種が生成されにくくなること(すなわち、酸化種の生成量が低下すること)、などが要因と考えられる。
【0055】
このような課題に対しては、処理温度を高くすることによって、酸化種の拡散を促進したり、酸化種の生成を促進したりするなどの対応が考えられる。しかし、処理温度を高くすることは、ウエハ200上に形成されたデバイス構造への熱履歴(サーマルバジェット)など好ましくない場合が多く、処理温度を比較的低温に維持したまま改質処理を行う手段が要求されることがある。
【0056】
そこで本ステップでは、プラズマ励起される処理ガス中に含まれる水素の比率である第1の比率を所定の比率以上とすることにより、比較的低い処理温度下において、酸化速度の向上及び/又は酸化層の厚さの増大を実現させるものである。
【0057】
以下、より具体的に、
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は、処理温度を100℃、300℃、500℃、700℃としたそれぞれの場合における、処理ガス中に含まれる酸素に対する水素の比率と、改質処理により形成される酸化層の厚さの関係を示した図である。
図5は、処理ガス中に含まれる酸素に対する水素の比率を、0%(すなわち水素非含有)、5%、30%、50%、70%、95%としたそれぞれの場合における、処理温度と、改質処理により形成される酸化層の厚さの関係を示した図である。これらの改質処理の条件は、処理温度、及び処理ガス中に含まれる水素の比率以外は、ステップaにおける上述の条件の範囲内の同一の条件とし、改質処理対象も同一(すなわちSi単体の下地)としている。
【0058】
図4で示されるように、処理温度が100℃や300℃などの比較的低い条件下で改質処理を行った場合、処理ガス中の水素の比率が60%以上95%以下の高比率の領域においては、それよりも低比率の領域に比べて、改質処理により形成される酸化層の厚さが増大する傾向が得られる。また、
図5で示されるように、処理ガス中の水素の比率が70%や95%などの高比率の条件下で改質処理を行った場合、処理温度が300℃以下の領域においては、それよりも高い温度領域に比べて、改質処理により形成される酸化層の厚さが増大する傾向が得られる。
【0059】
このように、低温条件下において、処理ガス中の水素の比率を高くすることにより酸化速度又は酸化層の厚さが増大する理由としては、処理ガス中のH及び/又はHを含有する反応種によって酸化種による酸化作用が促進(アシスト)されることや、低温条件下では、改質処理対象(下地等)の中に拡散したH及び/又はHを含有する反応種が、改質処理対象の中から脱離しにくく残留しやすくなること、などが考えられる。
【0060】
したがって、本ステップでは、処理温度として、本ステップにおいて処理ガスに含有される水素の比率を増大させた場合においてウエハ200の表面に対する酸化速度(酸化層の形成速度)が大きくなる温度、又は形成される酸化層の厚さが大きくなる温度を選択する。このような処理温度を選択することにより、低温条件下においても、第1処理ガス中の水素の比率を大きくすることにより、酸化速度又は酸化層の厚さを維持又は向上させることができる。
【0061】
また、本ステップでは、第1処理ガス中に含有される水素の比率である第1の比率として、本ステップにおいて処理温度が増大するほどウエハ200の表面に対する酸化速度が小さくなるような比率、又は形成される酸化層の厚さが小さくなる比率が選択される。換言すると、本ステップでは、第1の比率として、本ステップにおいて処理温度を減少させるほどウエハ200の表面の酸化速度が大きくなる(増大する)ような水素の比率が選択される、このような水素の比率を選択することにより、低温条件下においても、酸化速度又は酸化層の厚さを維持又は向上させることができる。
【0062】
より具体的には、本ステップでは、処理温度を室温以上300℃以下、好ましくは100℃以上200℃以下とするとともに、第1処理ガス中の水素の比率を60%以上95%以下、好ましくは70%以上95%以下としている。
【0063】
処理温度を300℃以下とすることにより、水素の比率が高い処理ガスを用いて本ステップを行う場合であっても、酸化速度又は酸化層の厚さを維持することができる。処理温度を300℃超とする場合、水素の比率が高い処理ガスを用いて本ステップを行うと、酸化速度又は酸化層の厚さを維持することができないことがあり、また、ウエハ200上のデバイス構造への熱履歴の影響などが顕著となることがある。さらに、処理温度を200℃以下とすることにより、水素の比率が高い処理ガスを用いて本ステップを行い、酸化速度又は酸化層の厚さを向上させることができる。なお、処理温度を室温以上とすることで、ウエハ200を冷却する手段を不要とし、処理温度を100℃以上とすることで、ウエハ200の温度を安定させることが容易となる。
【0064】
また、第1処理ガス中の水素の比率を60%以上95%以下とすることにより、例えば300℃以下のような低温条件下においても、酸化速度又は酸化層の厚さを維持又は向上させることができる。60%未満の場合、低温条件下において、酸化速度又は酸化層の厚さを維持することが困難となることがある。95%を超える場合、プラズマ励起により生成される酸化種の量が顕著に減少し、実用的な酸化速度又は酸化層の厚さを維持することが困難となることがある。
【0065】
なお、本ステップにおいてウエハ200の表面に形成される酸化層の厚さは、4nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。4nm以上の厚さの酸化層を形成することにより、当該酸化層を絶縁層として用いる場合であっても、絶縁性を確保することができる。また、例えば
図5に示されているように、処理温度が例えば200℃以下の低温領域においては、処理ガス中の水素の比率が70%未満の場合、厚さが4nm以上の酸化層を形成することが困難な場合がある。したがって、低温領域において4nm以上の酸化層を形成するためには、本ステップにおける処理条件により改質処理を行うことが好適である。
【0066】
ここで、本ステップでは、ウエハ200の表面に形成される第1の酸化層中に処理ガス中に含まれるHが残留することによって、第1の酸化層の加工耐性(ウェットエッチング耐性やドライエッチング耐性等)や電気特性などの酸化層の特性が低下することが考えられる。そこで本実施形態では、本ステップ(ステップa)の後に更に後述するステップbを実施することで、中の水素濃度を低下させるように第1の酸化層を改質し、その特性を向上させる。
【0067】
上述の改質処理が完了した後、バルブ253a,253bを閉じ、処理室201内への水素含有ガス及び酸素含有ガスの供給を停止するとともに、共振コイル212へのRF電力の供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する。このとき、バルブ253cを開き、処理室201内へ不活性ガスを供給する。不活性ガスはパージガスとして作用し、これにより、処理室201内がパージされる(パージ)。
【0068】
なお、本実施形態では、ステップaの改質処理とステップbの間に上述のパージ工程を行うが、このようなパージ工程を行わずに、ステップaの改質処理終了後に、共振コイル212に対するRF電力の印加を継続するとともに、連続してステップbを開始するようにしてもよい。そのような場合、処理室201内への水素含有ガスと酸素含有ガスの供給流量や流量比(すなわち処理ガス中の水素の比率)をステップ状に変化させてもよく、また、所定の時間の間に徐々に変化させるようにしてもよい。
【0069】
[ステップb:第2酸化層形成工程]
ステップbでは、
酸素含有ガス及び水素含有ガスを処理室201内に供給するステップb-1と、
処理室201内に供給された酸素含有ガス及び水素含有ガスを含むガスをプラズマ励起し、プラズマ励起することにより生成される反応種を、ウエハ200に供給することで、第1の酸化層を第2の酸化層に改質するステップb-2と、
を行う。
【0070】
具体的には、バルブ253aを開き、ガス供給管232a内へ水素含有ガスを流すとともに、バルブ253bを開き、ガス供給管232b内へ酸素含有ガスを流す。水素含有ガス及び酸素含有ガスは、MFC252a,252bによりそれぞれ流量調整され、バッファ室237を介して処理室201内へ供給され、排気口235より排気される。このとき、処理室201内には、水素及び酸素を含有する第2処理ガスとして、水素含有ガスと酸素含有ガスの混合ガスが供給される(第2処理ガス供給)。なお、ステップaと同様に、処理室201内へ不活性ガスを同時に供給するようにしてもよい。
【0071】
このとき、第2処理ガスに含まれる酸素と水素の比率に関して、酸素に対する水素の比率が第1の比率よりも小さい第2の比率となるように、MFC252a,252bにより水素含有ガスと酸素含有ガスの流量調整が行われる。
【0072】
また、第2処理ガスの供給開始と同時、若しくは供給開始後に、共振コイル212に対して、高周波電源273からRF電力を印加する。これにより、ステップaと同様に、プラズマ生成空間201a内に誘導プラズマが励起される。誘導プラズマの励起により、水素及び酸素を含有する第2処理ガスが活性化され、ステップaと同様に、酸化種を含む反応種が生成される。ただし、本ステップは、第1処理ガスに比べて水素の比率が小さい第2処理ガスをプラズマ励起するため、生成される反応種に含まれる水素(原子)の比率は、ステップaにおいて生成される反応種のものよりも低くなるものと考えられる。
【0073】
本ステップにおける処理条件としては、
第2処理ガス中の酸素に対する水素の比率:0~20%、好ましくは5~20%
第2処理ガス供給流量:0.1~10slm、好ましくは0.2~0.5slm
第2処理ガス供給時間:60~400秒、好ましくは120~400秒
が例示される。
【0074】
処理温度はステップaと実質的に同一、又はそれ未満とする。特に、ステップ間の温度変更に掛かる時間を省略するという点や、第1の酸化層に対する改質効果を促進するという点からは、処理温度はステップaにおける処理温度未満とするよりも、実質的に同一とすることが好ましい。また、処理温度をステップaよりも高くすることも可能であるが、その場合、ウエハ200上のデバイス構造への熱履歴の影響などを考慮して許容される温度以下の範囲から選択される。
【0075】
また、供給時間は、例えば、ステップaにおける第1処理ガスの供給時間と同等とすることができる。ただし、第2の酸化層に残留する水素(原子)の濃度の許容値によって、第2の処理ガスの供給時間を調整することが好ましい。例えば水素の濃度の許容値が高い場合は、供給時間を短くするように調整し、水素の濃度の許容値が低い場合は、供給時間を長くするように調整することにより、スループットを向上させることができる。
【0076】
他の処理条件は、ステップaにて窒素含有ガスを供給する際における処理条件と同様にする。
【0077】
上述の処理条件下でウエハ200に対して第2処理ガスをプラズマで励起させて供給することにより、ウエハ200上の第1の酸化層に対して酸化種を含む反応種が供給される。供給された反応種により、第1の酸化層は第2の酸化層へと改質される。
【0078】
具体的には、本ステップでは、ステップaにおいて生成される反応種に比べて、含まれる水素の比率が小さい反応種を第1の酸化層に供給する。これにより、第1の酸化層中に水素が取り込まれるのを抑制しながら、第1の酸化層中に取り込まれていた水素(原子)を、酸化種等によって層中から脱離させ、第1の酸化層を、その層中から水素の濃度を低減させた第2の酸化層へと改質する。改質により形成された第2の酸化層は、第1の酸化層に比べて、加工耐性(ウェットエッチング耐性やドライエッチング耐性等)や電気特性などの酸化層の特性が向上する。例えば、第2の酸化層は、第1の酸化層に比べて、ウェットエッチングレート(WER(Å/分))が小さくなる。WERの評価には、例えば1%に希釈したフッ化水素水溶液(DHF溶液)を用いてエッチングした際のエッチングレートなどが用いられる。
【0079】
本ステップでは、第2処理ガス中に含有される水素の比率である第2の比率として、ステップaの改質処理において処理温度が増大するほどウエハ200の表面の酸化速度が大きくなる水素の比率が選択されることが好ましい。このような水素の比率を選択することにより、低い温度条件を維持したまま、第1の酸化層中に含まれる水素を効率的に脱離させることができる。
【0080】
より具体的には、本ステップでは、第2処理ガス中の水素の比率を0%以上20%以下、好ましくは5%以上20%以下としている。第2処理ガス中の水素の比率を0%以上20%以下とすることにより、低い温度条件を維持したまま、第1の酸化層中に含まれる水素を脱離させることができる。第2処理ガス中の水素の比率を20%超とした場合、第1の酸化層中に含まれる水素を脱離させることが困難となることがある。さらに、第2処理ガス中の水素の比率を5%以上とすることにより、低い温度条件を維持したまま、第1の酸化層中に含まれる水素を効率的に脱離させることができる。5%未満の場合、特にOHラジカルの生成量が低下し、第1の酸化層中に含まれる水素を脱離させる効率が低下することがある。
【0081】
上述の改質処理が完了した後、バルブ253a,253bを閉じ、処理室201内への水素含有ガス及び酸素含有ガスの供給を停止するとともに、共振コイル212へのRF電力の供給を停止する。
【0082】
(アフターパージ、大気圧復帰)
ステップbが終了したら、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する。そして、上述のパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気がパージガスに置換され、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0083】
(ウエハ搬出)
続いて、サセプタ217を所定の搬送位置まで下降させ、ウエハ200を、サセプタ217上から支持ピン266上へと移載させる。その後、ゲートバルブ244を開き、図示しない搬送ロボットを用い、処理後のウエハ200を処理室201外へ搬出する。以上により、本態様に係る基板処理工程を終了する。
【0084】
(3)変形例
本態様における基板処理シーケンスは、以下に示す変形例のように変更することができる。これらの変形例は、任意に組み合わせることができる。特に説明がない限り、各変形例の各ステップにおける処理手順、処理条件は、上述の基板処理シーケンスの各ステップにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0085】
(変形例1)
本変形例では、ステップbでは、第2処理ガス中に含まれる水素の比率を0%、すなわち水素を非含有とする。具体的には、ステップbでは、水素含有ガス供給系からの水素含有ガスの供給は不実施とし、酸素含有ガス供給系からの酸素含有ガスの供給のみを行う。また、この場合、酸素含有ガスとしては、O2ガスやO3ガス等の水素を非含有とするガスが用いられる。
【0086】
本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例によれば、ステップbにおける第2処理ガスを水素非含有としているので、ステップbにおいて第1の酸化層への新たな水素の取り込みが実質的に起きないようにして、第1の酸化層からの水素の脱離を促進できる可能性がある。
【0087】
(変形例2)
上述の実施形態では、ステップaにおいて、水素含有ガス供給系と酸素含有ガス供給系のそれぞれから供給されるガスの混合ガスを第1処理ガスとして処理室201内に供給し、同様に、ステップbにおいて、水素含有ガス供給系と酸素含有ガス供給系のそれぞれから供給されるガスの混合ガスを第2処理ガスとして処理室201内に供給する例について説明した。これに対して、本変形例に係る基板処理装置は、含有する水素の比率が第1の比率である第1処理ガスを供給する第1処理ガス供給系と、含有する水素の比率が第2の比率である第2処理ガスを供給する第2処理ガス供給系と、を備える。
【0088】
より具体的には、例えば、
図6に示す構成のように、上述の実施形態における水素含有ガス供給源250aに替えて第1処理ガス供給源250a´を有する第1処理ガス供給系と、上述の実施形態における酸素含有ガス供給源250bに替えて第2処理ガス供給源250b´を有する第2処理ガス供給系とを備える構成とすることができる。そして、ステップaにおいては、第1処理ガス供給系から第1処理ガスを処理室201内に供給し、ステップbにおいては、第2処理ガス供給系から第2処理ガスを処理室201内に供給するように、コントローラ121による制御が行われる。
【0089】
また、変形例1のように、第2処理ガス供給系から供給される第2処理ガスを、特に水素非含有の酸素含有ガスとしてもよい。
【0090】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0091】
上述の態様では、Si単体の下地を改質処理対象とする例について説明した。しかし、本開示はこれに限定されない。改質処理対象は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、炭酸窒化シリコン(SiOCN)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、炭化シリコン(SiC)等のSi含有物(Si化合物)により構成されていてもよい。また、酸化処理対象は、例えば、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、またはジルコニウム(Zr)を含有する金属、またはこれらの化合物により構成されていてもよい。ただし、これらの酸化物以外であることが好ましい。
【0092】
上述の態様では、ステップa及びステップbを単一の処理室(すなわち処理室201)内において連続的に行う例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、基板に対してステップaを行った後、当該処理が行われた処理室内から大気開放されていない搬送室へ基板を搬出する。その後、他の処理室内へ基板を搬入して、ステップbを行うようにしてもよい。
【0093】
上述の態様では、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて基板処理を行う例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いる場合にも好適に適用できる。
【0094】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様や変形例における処理手順、処理条件と同様な処理手順、処理条件にて各処理を行うことができ、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0095】
200 ウエハ(基板)
201 処理室
212 共振コイル
250a 水素含有ガス供給源
250b 酸素含有ガス供給源