(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】感染防護カプセル
(51)【国際特許分類】
A61G 10/02 20060101AFI20240802BHJP
A61G 10/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
A61G10/02 M
A61G10/00 K
(21)【出願番号】P 2020132373
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 利克
(72)【発明者】
【氏名】新田 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 武彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 幸一
(72)【発明者】
【氏名】高田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】大山 英明
(72)【発明者】
【氏名】沼野 智一
(72)【発明者】
【氏名】原 秀剛
(72)【発明者】
【氏名】新井 知大
(72)【発明者】
【氏名】小林 智哉
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/212118(WO,A1)
【文献】特開2003-299674(JP,A)
【文献】特開平11-290383(JP,A)
【文献】特表2016-531701(JP,A)
【文献】特開2004-351123(JP,A)
【文献】特開2005-013547(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0303691(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111184612(CN,A)
【文献】独国実用新案第202019104175(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 10/02
A61G 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者を収容し、医用画像撮影に用いる感染防護カプセルであって、
患者を覆う身体カバー部と、患者が横たわる底面部と、患者の頭上に位置する頭上カバー部と、患者の足元に位置する足底カバー部と、前記頭上カバー部または前記足底カバー部のどちらか一方に開口部とフィルターを介して流体連通する排気機構と、を備え、
前記排気機構は、前記感染防護カプセル内を陰圧にし、
前記身体カバー部は、前記底面部と開閉可能に係合
し、
前記感染防護カプセルは、前記感染防護カプセルの内部の少なくとも一部が光触媒でコーティングされていることを特徴とする感染防護カプセル。
【請求項2】
前記身体カバー部は、長手方向に平行な端部を有し、前記身体カバー部の端部と
前記底面部の端部とが係合することを特徴とする請求項1に記載の感染防護カプセル。
【請求項3】
前記身体カバー部および前記底面部は
、前記医用画像撮影
の撮影時のX線や電磁波に影響を
及ぼさない素材からなることを特徴とする請求項1または2に記載の感染防護カプセル。
【請求項4】
前記素材は、熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項3に記載の感染防護カプセル。
【請求項5】
前記素材は、ポリカーボネートまたはPETであることを特徴とする請求項3または4に記載の感染防護カプセル。
【請求項6】
前記フィルターは、HEPAフィルターであることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項7】
前記排気機構は、バッテリ駆動であることを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項8】
前記医用画像撮影は、X線CT装置またはMRI装置による撮影であることを特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項9】
前記感染防護カプセルは、前記身体カバー部を
シート状に展開することを特徴とする請求項1~
8のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項10】
前記感染防護カプセルは、前記感染防護カプセル内を紫外線によって照射されることを特徴とする請求項1~
9のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項11】
前記頭上カバー部または前記足底カバー部の少なくともどちらか一方には、アイソラインマーカーが設けられていることを特徴とする請求項1~
10のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項12】
前記身体カバー部は、少なくとも1つの端部周辺に厚さ50μm以下の銅箔テープまたは銅の厚さ1μm以下の銅蒸着テープを設け、前記銅箔テープまたは銅蒸着テープは、前記医用画像撮影に影響を及ぼさないことを特徴とする請求項1~
11のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項13】
前記身体カバー部は、身体カバー開口部を設け、前記身体カバー開口部を覆うようにフィルターが形成されていることを特徴とする請求項1~
12のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項14】
前記身体カバー部は、前記感染防護カプセル内での作業用グローブのためのグローブポートをさらに備えることを特徴とする請求項1~
13のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【請求項15】
前記身体カバー部は、前記感染防護カプセル内に管を通すためのポートをさらに備えることを特徴とする請求項1~
14のいずれか一項に記載の感染防護カプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症の患者等を隔離して画像診断可能な感染防護カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基礎疾患や肺炎などを患う患者に対して、CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影法)やMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)による画像診断法が知られている。
【0003】
これらの装置で、感染症陽性または陽性疑いの患者を診断する場合には、医療従事者や院内の一般患者への感染を防ぐため、通路の確保、医療従事者の防護着や手袋、マスク、フェイスカバー等の頻繁な交換、接触部位の消毒、検査室の換気などを徹底して行うため、検査数が通常の半分程度になるという現状がある。
【0004】
一方、感染症陽性および陽性疑いの患者に対して、飛沫接触感染防止手段を施して患者を隔離搬送する装置として、特許文献1のように、カプセル内部の空気を浄化排出する排気ユニットを備える患者搬送装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のような構成では、CTやMRIによる画像診断法を用いた測定をするように想定されておらず、CTやMRIのガントリ開口部に入る大きさに作られてはいない。また、ステンレスなどの金属によって構成されているため、X線や電磁波に影響を及ぼし、感染症を患う患者を隔離したまま画像診断をすると異常を来す恐れがある。また、特許文献1の構成では、利用後に滅菌消毒処理をして廃棄処分するが、近年医療防護具や医療資材逼迫の観点から、カプセル内部を殺菌し、再利用することが望まれている。
【0007】
これらを鑑み、本発明は、感染症患者または感染症疑いの患者をCTやMRIによる画像診断法を用いた測定および測定後の再利用を容易にする感染防護カプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、感染症または感染症疑い患者を収容し、医用画像撮影に用いる感染防護カプセルであって、患者を覆う身体カバー部と、患者が横たわる底面部と、患者の頭上に位置する頭上カバー部と、患者の足元に位置する足底カバー部と、頭上カバー部または足底カバー部のどちらか一方に開口部とフィルターを介して流体連通する排気機構と、を備え、排気機構は、感染防護カプセル内を陰圧にし、身体カバー部は、底面部と開閉可能に係合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、医療従事者や一般患者への感染症の感染を回避しながら、CTやMRIによる画像診断法を用いた測定を行うことができ、さらに使用した感染防護カプセルの測定後の再利用するために感染防護カプセル内を容易に除菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルを模式的に示す全体概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルの使用例を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルの
図1(c)の部分的拡大図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る感染防護カプセル内の陰圧に関するグラフおよび図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る感染防護カプセル内のUV照射による消毒結果を表すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態による感染防護カプセルの消毒結果を表すグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態による感染防護カプセル内にウイルスを噴霧したときの模式的断面図と、溶菌プラークを測定した結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態による感染防護カプセルに用いる素材にウイルスを噴霧し時間経過によってプラーク数の測定結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルの変形例である。
【発明を実施すための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
[感染防護カプセルの概要]
(カプセルの構造)
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルの模式的な側面図であり、
図1(b)は、本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルの模式的な上面図である。
図1(c)は、紙面上、
図1(a)の感染防護カプセルを右側から見たときの模式図であり、
図1(d)は、
図1(a)の感染防護カプセルを左側から見たときの模式図である。
【0013】
本発明の感染防護カプセル1は、感染防護カプセル1内に患者が横たわれるように構成されており、患者を覆う身体カバー部2と、患者が横たわる底面部3と、患者の頭上に位置する頭上カバー部4と、患者の足元に位置する足底カバー部5と、頭上カバー部4の近傍に排気機構6(不図示)と、を備えている。
【0014】
身体カバー部2は、患者の一方の側面から他方の側面を覆うものであり、患者を収容する空間の一部を形成している。身体カバー部2は、底面部3と着脱可能に形成されている。身体カバー部2は、例えば、長手方向に平行な両端部が底面部3の端部3A、3Cと係合していてもよい。また、身体カバー部2は、身体カバー部2の長手方向の端部が底面部3の端部3Aと係止し、身体カバー部2の長手方向の他端部が底面部3の端部3Cと係合していてもよい。なお、身体カバー部2と底面部3との着脱可能な構造については、後述する。
【0015】
身体カバー部2の形状は、1枚のシート状でもよく、或いは、複数のシートの端部同士を接合するようにして一体化したものでもよい。また、内部が陰圧でも変形しないように、波板構造のシートを接合してもよい。
【0016】
身体カバー部2の材料は、CTスキャンやMRIなどの医用画像処理装置10の撮影時のX線や電磁波に影響を及ぼさない素材であって、透過性を有するものであればよい。また、身体カバー部2の材料は、カプセル内を陰圧にした時に変形しにくい剛性を有するものである。さらに、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、アルコールなどの殺菌剤、および紫外線(UV:Ultra Violet)照射に対する耐久性を有することが好ましい。
【0017】
身体カバー部2に用いられる材料としては、例えば、ポリカーボネート、PET(PolyEthylene Terephthalate)、Mylar(登録商標)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。好ましくは、ポリカーボネートである。身体カバー部2の厚さは、0.5mm以上であればよい。これにより、身体カバー部2は、感染防護カプセル1内を陰圧にした際に変形しにくく、陰圧に対する剛性を有することができる。
【0018】
本発明の感染防護カプセルの身体カバー部2は、好ましくは、上述したように、ポリカーボネートで形成されている。ポリカーボネートは、剛性を有する素材であり、感染防護カプセル内を陰圧にしたとしても、ほとんど変形しない。また、ポリカーボネートのように透明であると、カプセル内に収容された患者は、圧迫感を感じにくく、感染防護カプセル1外にいる医療従事者なども内部の状況などを確認することができる。さらに、使用後の感染防護カプセル1内をアルコールなどにより消毒する際に清拭することが容易である。感染防護カプセル1内の消毒は、アルコールによる清拭に限られない。
【0019】
身体カバー部2には、酸素マスクや点滴のためのポート、患者をサポートするためにグローブなどを入れられるポートを設けるようにしてもよい。その際のポートは、開閉可能である。
【0020】
底面部3は、患者の背面に位置するものであり、患者を収容する空間の一部を形成している。底面部3は、患者が横たわるように構成されており、底面部3の端部3Bに頭上カバー部4と、底面部3の端部3Dに足底カバー部5とが接合している。底面部3の断面形状は、四角形状、患者側に凹部を形成する凹部形状であってもよい。
【0021】
底面部3の材料は、CTスキャンやMRIの撮影時のX線や電磁波に影響を及ぼさない素材であり、患者が横たわる際の耐久性を有するものであればよい。例えば、底面部3の材料は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)板、木材、ベークライト板、MCナイロン板、テフロン(登録商標)板、ポリスチレン板、グラファイト板、ポリプロピレン板、ABS型樹脂板、ポリペンコアセタール(POM)板であってもよい。好ましくは木材であり、患者側にポリカーボネートを張り合わせてもよい。これにより、感染防護カプセル内を消毒しやすくすることができる。
【0022】
頭上カバー部4は、患者の頭上に位置し、患者を収容する空間の一部を形成するものである。また、頭上カバー部4は、
図1(c)に示すように、身体カバー部2と底面部3との間に位置し、半円形状を形成している。頭上カバー部4は、開口部を有している。頭上カバー部4の開口部は、排気用フィルター4aを介して、外部またはその他の排気処理装置に流体連通している。排気用フィルター4aは頭上カバー部4に設置されてもよく、また開口部からの通じる配管に設置してもよい。頭上カバー部4の形状は、半円形状としたが、これに限られることなく、四角形状などの多角形状でもよい。
【0023】
頭上カバー部4の材料は、CTスキャンやMRIの撮影時のX線や電磁波に影響を及ぼさない素材であればよい。例えば、頭上カバー部4の材料は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)板、木材、ベークライト板、MCナイロン板、テフロン板、ポリスチレン板、グラファイト板、ポリプロピレン板、ABS型樹脂板、ポリペンコアセタール(POM)板であってもよい。好ましくは木材であり、患者側にポリカーボネートを張り合わせてもよい。これにより、感染防護カプセル内を消毒しやすくすることができる。
【0024】
排気用フィルター4aは、感染防護カプセル1から排出される空気からウイルスなどの感染性微生物を濾過し、除去するものである。排気用フィルター4aは、粒径0.3ミクロンの粒子の捕集効率が99.97%以上のHEPAフィルターとしている。排気用フィルター4aは、HEPAフィルターに限られることなく、ULPAフィルターなどを用いてもよい。これにより、感染防護カプセル1内の感染性微生物を濾過除去することができる。
【0025】
足底カバー部5は、患者の足底に位置し、患者を収容する空間の一部を形成するものである。足底カバー部5は、
図1(d)に示すように、頭上カバー部4と対向し、身体カバー部2と底面部3との間に位置し、半円形状を形成している。足底カバー部5は、開口部を有し、その開口部を給気用フィルター5aによって覆われている。足底カバー部5の開口部は、外部から感染防護カプセル1内に空気などの流体を入れるためである。足底カバー部5の形状は、半円形状としたが、これに限られることなく、身体カバー部2と接合可能な形状であればよく、頭上カバー部4と同様の形状であればよい。
【0026】
足底カバー部5の材料は、CTスキャンやMRIの撮影時のX線や電磁波に影響を及ばさない素材であればよい。足底カバー部5の材料は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)板、木材、ベークライト板、MCナイロン板、テフロン板、ポリスチレン板、グラファイト板、ポリプロピレン板、ABS型樹脂板、ポリペンコアセタール(POM)板であってもよい。好ましくは木材であり、患者側にポリカーボネートを張り合わせてもよい。これにより、感染防護カプセル内を消毒しやすくすることができる。
【0027】
給気用フィルター5aは、感染防護カプセルの外部からの空気を清浄にするためのものである。給気用フィルター5aは、圧力損失が少ない空気清浄フィルターなどを用いてもよい。これにより、感染防護カプセル1内に清浄された空気を取り入れることができる。
【0028】
上述した底面部3、頭上カバー部4、足底カバー部5は、それぞれ、材料が木材の場合、カプセルの内側に対して薄い(0.5mm以上)ポリカーボネートを接着するようにしてもよい。これにより、カプセルの内側が清拭などの消毒がしやすくすることができる。また、感染防護カプセル1の内部に、光触媒コーティングを塗布してもよい。これにより、カプセルの内側をUV照射によってUV照射単独よりも効果的に消毒することができる。
【0029】
排気機構6は、感染防護カプセル1内の空気を排気するものである。排気機構6は、頭上カバー部4または足底カバー部5のいずれかの近傍に形成されてもよい。好ましくは、頭上カバー部4である。頭上カバー部4の近傍に排気機構6を形成することによって、患者の飛沫に含まれる感染性微生物を患者の足底に飛散しにくくすることができる。排気機構6は、感染防護カプセル1の内部または感染防護カプセル1の外部のどちらか一方に形成されていればよい。また、排気機構6は、頭上カバー部4または足底カバー部5の開口部を覆うノズルを有し、ノズル内にフィルターを配置するようにしてもよい。さらに、排気機構6は、バッテリ駆動のものでもよく、これにより移動しながら感染防護カプセル1内の空気を排気することができる。MRI撮影の場合には、磁性体金属や電磁波ノイズ発生源がMRI装置近傍にあると、画像に悪影響を及ぼすため、樹脂やアルミなどの非磁性排気ダクトを感染防護カプセルに接続して、MRI画像に影響を与えない位置に排気装置を設置する。
【0030】
(感染防護カプセル1の開閉)
感染防護カプセル1の使用例の詳細については、後述するが、
図2(a)に示すように、身体カバー部2を開けて、患者を底面部3に横たわらせ、
図2(b)に示すように、身体カバー部2を閉めることによって、感染防護カプセル1内に患者を収容することができる。
【0031】
図3は、本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルの
図1(c)の部分的拡大図である。感染防護カプセル1において、身体カバー部2は底面部3と係合し、閉鎖している。身体カバー部2には、端部に可撓性材料から形成されたラッチ2aと、カプセル外側のラッチ2a近傍に把手2bとが、それぞれ形成されている。底面部3には、開口部3aと、板部3bと、ストッパ部3cとが形成されている。ストッパ部3cは、身体カバー部2と係合した際に、簡単に外れるものでなければよく、例えばEPDM(Ethylene-Propylene-Diene Methylene linkage)ゴムシールなどでもよい。
【0032】
感染防護カプセル1を閉状態とするときには、身体カバー部2を底面部3の開口部3aに挿入し、ストッパ部3cと係合させる。これにより、感染防護カプセル1を密閉状態とすることができる。
【0033】
一方、感染防護カプセル1を閉状態から開状態とするときには、身体カバー部2の把手2bを持ち引き上げることにより、身体カバー部2とストッパ部3cとの係合が外れる。さらに、患者が不快感を感じた場合、内部から身体カバー部2を持ち上げることにより、身体カバー部2が底面部3からはずれ、感染防護カプセル1から出ることが可能となる。
【0034】
感染防護カプセル1の開閉構造は、一方を身体カバー部2と底面部3のストッパ部とし、他方を蝶番構造としてもよい。また、上述した開閉構造に限られることなく、従来の技術を用いてもよく、例えば、マジックテープ(登録商標)などでもよい。これにより、感染防護カプセル1内の密封性を維持することができる。
【0035】
(感染防護カプセル内の陰圧)
次に、本発明の一実施形態に係る感染防護カプセル内の陰圧について、
図4を用いて説明する。
図4(a)~(c)は、それぞれ、吸引速度Uを変化させたときのグラフである。また、
図4(a)~(c)は、縦軸に差圧(Pa)、横軸に感染防護カプセルに長さを示している。
【0036】
図4(d)は、感染防護カプセルの測定条件を示す模式図である。紙面上、物体が患者を示し、左側が足底カバー部、右側が頭上カバー部を示している。頭上カバー部側から吸引(排気)することにより感染防護カプセル1内を陰圧にしている。
図4(a)~(c)は、それぞれ、吸引速度を1.0m/s、2.0m/s、4.0m/sと変化させ、長さが1.05mの位置から1.8mの位置の間の差圧が大きく、全体的に陰圧状態が得られている。
【0037】
このように、頭上カバー部から吸引(排気)することにより感染防護カプセル内を陰圧にすることができ、感染防護カプセル外に感染性微生物を排出することがない。
【0038】
(感染防護カプセルの消毒)
図5は、本発明の一実施形態による感染防護カプセル1のUV照射による消毒結果を表すグラフである。また、
図5は、縦軸にメチレンブルーの吸光度、横軸にポリカーボネートに対する各処置条件を示し、消毒方法として、ポリカーボネートに光触媒を塗布し、UV照射90分(UV強度 5μW/cm
2)による消毒が行われる。メチレンブルーの色素分解が進むほど、消毒の効果が強く、波長644nmでの吸光度が低下する。
【0039】
図5は、ポリカーボネートに対して、UVによる照射をしなかった場合(No UV)、UVによる照射のみの場合(UV Only)、光触媒を×1/125を塗布しUVを照射した場合(×1/125)、光触媒を×1/25を塗布しUVを照射した場合(×1/25)、光触媒を×1/5を塗布しUVを照射した場合(×1/5)、光触媒を×1を塗布しUVを照射した場合(×1)を示している。ここで、x1とは、光触媒(NanoPhos社 SurfaShield)の塗布濃度74μL/cm
2で、他はその希釈倍率を示している。消毒結果が示すように、ポリカーボネートに対して、光触媒の塗布濃度を×1/5と×1としたときに消毒の効果が得られている。
【0040】
このように、ポリカーボネートに対して、光触媒を塗布してUVを照射することにより一定の消毒効果を得られる。
【0041】
図6は、本発明の一実施形態による感染防護カプセル1の消毒結果を表すグラフである。UV単独、UV+光触媒、0.05%次亜塩素酸ナトリウム、75%消毒用エタノール、それぞれで消毒した場合の、φX174ファージウイルスの大腸菌感染による溶菌プラークを測定した結果である。これによれば、UV単独よりも、光触媒併用の方が、プラーク数が少ない、すなわち、残留ウイルスが少なく、消毒効果が高いことを示している。次亜塩素酸ナトリウムや消毒エタノールでの清拭は、これ以上に効果が高い。つまり、防護カバー内部は、清拭による消毒が効果的であるが、感染リスクを減らすために、UV等で非接触に消毒することもできる。
【0042】
なお、φX174ファージウイルスは、核酸としてDNAを持ち、サイズも30nm程度のため、核酸としてRNAをもつ100nmのコロナウイルスよりも消毒耐性が高く、浸透しやすいと考えられる。φX174の大腸菌感染を使う試験は、日本工業規格 JIS. T 8061:2015. 「血液及び体液の接触に対する防護服-防護服材料の. 血液媒介性病原体に対する耐浸透性の求め方-」に規定される試験方法で、本実験ではその実験系を応用している。
【0043】
図7は、本発明の一実施形態による感染防護カプセル内にウイルスを噴霧したときの模式的断面図と、溶菌プラークを測定した結果を示すグラフである。感染防護カプセル内の5か所に、ポリカーボネート板のサンプルプレートを設置する。排気装置6を稼働して、感染防護カプセルの頭上カバー部4付近の内側に、吸気状態で直上方向にφX174ファージウイルスを含む培養液を噴霧した。このうち、1枚には光触媒(酸化チタン)が塗布してある。その後、UV照射および0.05%次亜塩素酸ナトリウム清拭で消毒した後、サンプルプレートに付着したウイルスを回収して、大腸菌に感染させたところ、いずれの消毒方法でも、残留ウイルスは検出できず、十分な消毒効果が認められた。
【0044】
図8は、本発明の一実施形態による感染防護カプセルに用いる素材にウイルスを噴霧し時間経過によってプラーク数の測定結果を示すグラフである。感染防護カプセルに用いる素材として、ポリカーボネート板、アルミ板、銅板、を比較する。各板に、マスク上に、φX174ファージウイルスを含む培養液をスプレー噴霧し、1時間、2時間、3時間、6時間、16時間後に回収した培養液に含まれる生存ウイルスによるプラーク数を測定した結果である。時間とともに、残留ウイルスを示すプラーク数は減少し、約12時間でほぼ死滅した。すなわち、ポリカーボネート板、アルミ板、マスク上では、温度25℃、湿度65%の状態ではほぼ一晩で、ファージウイルスは死滅した。しかし、銅だけは、最初からウイルスの生存は認められなかった。銅は容易にカチオン性イオンとして溶出しやすいため、抗菌効果を示すと推察される。つまり、銅の薄膜は、その表面で殺菌効果があるため、消毒しにくい、防護カバーの辺縁部に貼付しておくことで、消毒効果を発揮する。そこで、防護カバーの辺縁部に、厚さ50μm以下、幅10mm以下の銅箔テープや、厚さ1μ以下より望ましくは0.1μm以下、幅10mm以下の銅蒸着テープなどを貼り付けておくことで、それ自体が消毒効果を発揮できる。また、この厚さは、CT撮影時の画質に影響を与える厚さではない。
【0045】
図9は、本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルの変形例である。
図1(b)に示すように、患者の足から肩にかけてほぼ同じ体積であるが、患者の肩から頭にかけて体積が減少するためこの部分において、空気の流れが乱れ停留領域が発生する可能性がある。そのため、
図9では、患者に対して、患者の肩から頭にかけて体積が減少しないように枕1aを設けるようにしている。これによって、患者の肩から頭にかけて発生する可能性のある停留領域を発生しにくくすることができ、感染防護カプセル内に安定した一方向の流れ場を作ることができる。
【0046】
また、
図1では、身体カバー部2の形状は、1枚のシート状であったが、
図9では、身体カバー部20の形状は、2枚のシート状21、22の端部同士を、シートBを介して接合する。これにより、感染防護カプセル内にいる患者が、内側から身体カバー部20を押すことによって緊急時にカプセルから脱出しやすくすることができる。
【0047】
さらに、身体カバー部20は、点滴などの管を通すためのラインポート1b、防護カプセル内にグローブを入れるためのグローブポート1c、測定者と患者とが会話をするための通気窓1dをさらに備えている。
【0048】
ラインポート1bは、管を通すためのものであり、使用しないときは密封性のあるゴム栓などで塞いでいる。これにより、点滴や酸素マスクが必要な患者も収容することができる。
【0049】
グローブポート1cは、グローブを通すためのものであり、使用しないときはラインポートを同様に密封性のあるゴム栓などで塞いでいる。これにより、感染防護カプセル内で介助が必要となったときに、身体カバー部20を開けることなく、患者を介助することができる。
【0050】
通気窓1dは、身体カバー部20に開口部を設け、開口部の周りにフィルターで開口部を覆うように接合している。これにより、測定者と患者とが会話をすることができる。
【0051】
本発明の一実施形態に係る感染防護カプセルを用いたCTスキャンの撮影方法について説明する。まず、CTスキャンの設置してある部屋とは別の陽性または陽性疑いの患者が待機している部屋で、感染防護カプセルに患者を収容する。このとき、患者の体形に応じて、頭上カバー部4または足底カバー部5のアイソラインマーカーAおよび身体カバー部2の仮想線A′に合うように、クッションなどを入れて、患者の撮影中心高さを調節する。酸素マスクや、点滴をしている患者は、身体カバー部2を貫通するラインポート1bから、外にラインを取り出して、酸素ボンベや点滴バッグに接続する。身体カバー部2をかぶせて密閉した後、感染防護カプセルの頭上カバー部から吸引(排気)して、感染防護カプセル内を陰圧にする。その後、CTスキャンの設置してある部屋に感染防護カプセルをストレッチャーなどに乗せて移動させる。そして、CTスキャンの測定台に感染防護カプセルのまま移乗させ、CTスキャンの測定を開始する。測定者は、感染防護カプセル内部を視認し、通気窓1dを介して会話することができるため、位置調整や患者の容体なども適宜、確認することができる。もし、患者の容体が急変したり、酸素マスクや点滴がずれるなど、防護カバー内で急な介助が必要となった場合、グローブポート1cから気密性の長手袋をつけて処置を行い、長手袋は患者が退出するまで留置する。CTスキャン測定後は、再びもとの患者待機室に移動させ、感染防護カプセルを開けて患者を退出させたあと、医療従事者は、感染防護カプセル内を消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水などで清拭または紫外線照射によって消毒をする。このような感染防護カプセルを複数個準備しておき、ローテーションして使用することで、感染患者の検査時間を短縮できる。
【0052】
このように、感染防護カプセル内に感染性微生物を留まらせることができ、感染性微生物の拡大を抑制することが可能となる。
【0053】
したがって、医療従事者や一般患者への感染症の感染を回避しながら、CTやMRIによる画像診断法を用いた測定を行うことができ、さらに使用した感染防護カプセルの測定後の再利用するために感染防護カプセル内を容易に除菌することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 感染防護カプセル
2 身体カバー部
2a ラッチ
2b 把手
3 底面部
3a 開口部
3b 板部
3c ストッパ部
3A~3D 底面部の端部
4 頭上カバー部
4a 排気用フィルター
5 足底カバー部
5a 給気用フィルター
6 排気機構
10 医用画像処理装置