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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】肺炎球菌表層タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/315 20060101AFI20240802BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240802BHJP
   A61K 39/09 20060101ALI20240802BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C07K14/315 ZNA
C12N15/31
A61K39/09
A61P37/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021511975
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013929
(87)【国際公開番号】W WO2020203731
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019065362
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518277343
【氏名又は名称】株式会社HanaVax
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100178571
【弁理士】
【氏名又は名称】関本 澄人
(72)【発明者】
【氏名】幸 義和
(72)【発明者】
【氏名】中橋 理佳
(72)【発明者】
【氏名】清野 宏
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151375(JP,A)
【文献】国際公開第2014/045621(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/113584(WO,A1)
【文献】野口修治,蛋白質におけるアスパラギン酸の異性化,日本結晶学会誌,日本,1998年,Vol.40,272-278
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質、
(b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列の配列中、1~30個のアミノ酸が欠失(254位のアスパラギン酸は除く)、置換(254位のアスパラギン酸は除く)、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、当該タンパク質が肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質。
【請求項2】
以下の(a)または(b)のタンパク質。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列を含み、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質、
(b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列の配列中、1~30個のアミノ酸が欠失(254位のアスパラギン酸は除く)、置換(254位のアスパラギン酸は除く)、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、当該タンパク質が肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
請求項1または2に記載のタンパク質を抗原または抗原の一部として含む肺炎球菌ワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺炎球菌表層タンパク質A(PspA)およびPspAを含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
肺炎球菌は、インフルエンザウイルスと並んで臨床上重要な上気道感染病原体であり、中耳炎から肺炎、菌血症および髄膜炎などを併発し、死亡を含む重篤な疾病を小児、成人で発症させる。
このような肺炎球菌による感染を防御する手段として、近年、成人向けの7価-、10価-、および13価-多糖結合型肺炎球菌ワクチン(PCV(pneumococcal conjugate vaccine)7、PCV10およびPCV13)が開発され、筋肉内注射によって投与されている。しかし、この多糖体ベースのワクチンは、T細胞非依存的な多糖の免疫原性が弱いため、小児に対する免疫応答をほとんど誘導せず、また、莢膜血清型の肺炎球菌にしか感染防御効果を示さない。さらに、ワクチンの筋肉内注射は、主として、全身性の抗IgG抗体を誘導するため、これらのワクチンは肺炎球菌に対して、粘膜免疫の応答を誘導することができないなどの問題点を有している。
【0003】
肺炎球菌の表層に存在する肺炎球菌表層タンパク質A(pneumococcal surface protein A:PspA)は、高い免疫原性を有するタンパク質として知られており、ワクチンの候補として有望であると考えられている(非特許文献1および非特許文献2)。PspAは、ほぼ全ての種類の肺炎球菌上に存在しており、PspAベースのワクチンは、マウスおよびヒトにおいて、交差反応を惹起する抗体を誘導する(非特許文献3~非特許文献5)。さらに、PspA特異的な粘膜性および全身性の抗体が、仔マウス(母体を通じて)および成体マウスに誘導され、この抗体の誘導は、CD4+T細胞によるTh1およびTh2型サイトカインの応答によってメディエートされている。以上の知見から、PspAは、成人のみならず、小児においても有効な肺炎球菌ワクチン候補であることが示唆されている。
【0004】
PspAは3つのファミリー(ファミリー1~3)に分類され、さらに、6つのクレード(クレード1~6)と呼ばれる亜群に分類される。なかでも、ファミリー1に分類されるPspAを有する肺炎球菌株は、これまでに確認されている菌株の約95 %を占めており、ファミリー1に分類されるPspAは、ワクチン候補として特に重要である。
肺炎球菌のユニバーサル抗原として知られているD39株由来のPspAは、ファミリー1、クレード2に分類される代表的なワクチン抗原であり、高い抗原性と肺炎球菌中和抗体誘導能を持つ。しかし、D39株由来のPspAは中性付近のpHで脱アミノ化されやすく、安定性に問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Berryら, Infect Immun 57:2037-2042 1989
【文献】McDanielら, J Exp Med 165:381-394 1987
【文献】Brilesら, Infect Immun 68:796-800 2000
【文献】Nguyenら, Vaccine 29:5731-5739 2011
【文献】McCoolら, J Exp Med 195:359-365 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、中性付近のpHにおいても脱アミノ化を受けず、分子としての安定性を保持するD39由来PspA変異体の提供を解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者ら、脱アミノ化されたD39由来PspAのアミノ酸配列をMS/MS法で解析したところ、野生型D39由来PspAの1アミノ酸に変異が生じていることを見いだした。
このアミノ酸の位置は、配列番号1で表される野生型D39由来成熟PspAの全アミノ酸配列中、254位のアスパラギン(Asn)のみが特異的にアスパラギン酸(Asp)に変わっていることが明らかとなった。D39由来成熟PspAの254位がアスパラギン酸に変化したPspA(N254D)は、極めて安定なPspAであって、抗原性、中和抗体誘導能にも変化がない。そして、このようなアミノ酸の変化は、例えば、ファミリー2、クレード3のEF3296肺炎球菌株のPspAや、ファミリー2、クレード4のEF5668肺炎球菌株のPspAには見られなかった。
以上の知見に基づいて本発明は完成された。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(5)である。
(1)以下の(a)または(b)のタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質、および当該タンパク質と実質的に同一のタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部であって、当該一部には254位のアスパラギン酸が含まれており、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質、および当該タンパク質と実質的に同一のタンパク質
(2)前記配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部がα-ヘリックス領域であることを特徴とする上記(1)に記載のタンパク質。
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列の全部または一部であることを特徴とする上記(2)に記載のタンパク質。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のタンパク質をコードするDNA。
(5)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のタンパク質を抗原または抗原の一部として含む肺炎球菌ワクチン。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、分子として安定な肺炎球菌ワクチン抗原が提供される。具体的には、従来のD39肺炎球菌由来のPspAの医薬品グレードの製造におけるイオン交換クロマトグラフィー等での精製過程においては、溶出ピークが2つに割れることがあり、後のピークは脱アミノ体であった。本発明によって提供される抗原は、精製過程、およびその後の保存状態でも非常に安定な製剤の調製が可能であることを示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】PspA蛋白質の構造を模式的に示した図である。
図2】所定のpH(pH 6.5、pH 7.0、pH 7.5、pH 8.0およびpH 8.5)下におけるPspA 1-3の経時的な分子変化を、Native-PAGEで確認した結果を示す。A:マーカー(500 mg) B:pH 7.0(0日のコントロール) C:pH 6.5 D:pH 7.0 E:pH 7.5 F:pH 8.0 G:pH 8.5
図3】PspA 1-3およびPspA 1-3LBのペプチドマップによる分析結果を示す。矢印は、PspA 1-3LBに特異的に生じたピークである。
図4】PspA 1-3LBのナノゲル経鼻ワクチン効果を他のPspA抗原を用いたナノゲル経鼻ワクチンの効果と比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、野生型D39由来PspAタンパク質と同等の抗原性および中和抗体誘導能を保持し、分子としての安定性(例えば、アミノ酸変異が生じにくいなど)においては、野生型D39由来PspAよりも優れているタンパク質(以下「本発明のPspAタンパク質」とする)を提供する。
すなわち、本発明の第1の実施形態は、本発明のPspAタンパク質であって、以下の(a)または(b)のタンパク質である。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質、および当該タンパク質と実質的に同一のタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部であって、当該一部には254位のアスパラギン酸が含まれており、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質、および当該タンパク質と実質的に同一のタンパク質
【0012】
PspAタンパク質は、そのN末端側から、シグナル配列(Signal sequence)(例えば、GenBank accession no.:ABJ54172(D39株由来)のアミノ酸位置1~31)、α-ヘリックス(α-Helix)領域(例えば、GenBank accession no.:ABJ54172のアミノ酸位置32~319)、プロリンリッチ(Proline-rich)領域(例えば、GenBank accession no.:ABJ54172のアミノ酸位置320~402)、コリン結合(Choline binding)領域およびC末端テイル(C-terminal tail)領域から構成される(図1を参照のこと)。シグナル配列は切断されて成熟PspA(α-ヘリックス領域、プロリンリッチ領域、コリン結合領域およびC末端テイル領域から構成される)になる。
【0013】
本発明の実施形態において、「肺炎球菌ワクチン抗原活性」とは、肺炎球菌による攻撃から生体を防御するための免疫(液性免疫および/または細胞性免疫)を誘導する活性のことである。あるタンパク質が「肺炎球菌ワクチン抗原活性」を有するか否かは、当業者であれば容易に確認することができる(例えば、実施例の「4.マウス経鼻免疫」の記載の方法などで確認できる)。
上記(a)における「当該タンパク質」とは、「配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質」のことであり、上記(b)における「当該タンパク質」とは、「配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部であって、当該一部には254位のアスパラギン酸が含まれており、肺炎球菌ワクチン抗原活性を有するタンパク質」のことである。
【0014】
本発明の実施形態において、「当該タンパク質と実質的に同一なタンパク質」とは、「当該タンパク質」のアミノ酸の配列中、1または数個(好ましくは、1~30個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~5個)のアミノ酸が欠失(254位のアスパラギン酸は除く)、置換(254位のアスパラギン酸は除く)、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、当該タンパク質が肺炎球菌ワクチン抗原としての活性を有するタンパク質である。
【0015】
あるいは、本発明の実施形態において、「当該タンパク質と実質的に同一なタンパク質」とは、254位のアミノ酸はアスパラギン酸であって、「当該タンパク質」のアミノ酸の配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、当該タンパク質が肺炎球菌ワクチン抗原としての活性を有するタンパク質である。
【0016】
上記(b)における、「配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部」とは、例えば、α-ヘリックス領域(ただし、254位のアスパラギン酸を含む)の一部もしくは全部とプロリンリッチ領域の一部もしくは全部を含む領域が好ましく、例えば、配列番号3で表されるアミノ酸からなるタンパク質を挙げることができる。
【0017】
本発明の第2の実施形態は、「本発明のPspAタンパク質」をコードする核酸(DNAなど)である。本発明のPspAタンパク質は、これをコードする核酸をcDNAライブラリーなどから取得し、適当な発現用ベクターに組込み、該発現ベクターによって適当な宿主細胞を形質転換または形質移入し、これを適当な培地中で培養し、本発明のPspAタンパク質を発現させ、精製することで調製することができる。
【0018】
PspAタンパク質発現用の宿主細胞としては、例えば、細菌細胞(例えば、Escherichia coli B strain, E. coli Kl2 strain, Corynebacterium ammoniagenes, C. glutamicum, Serratia liquefaciens, Streptomyces lividans, Pseudomonas putidaなど)、カビ(例えば、Penicillium camembertii, Acremonium chrysogenumなど)、動物細胞、植物細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞(例えば、Saccharomyces cerevisiae およびPichia pastorisなど)を使用し、これらの細胞内で発現させることができる。
【0019】
PspAタンパク質を発現させるための発現用ベクターは、各種宿主細胞に適したベクターを用いることができる。発現用ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pETなど(大腸菌宿主)、pEGF-C、pEGF-Nなど(動物細胞宿主)、pVL1392、pVL1393など(昆虫細胞宿主、バキュロウイルスベクター)、pG-1、Yep13またはpPICZなど(酵母細胞宿主)を使用することができる。これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカーおよびプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位およびポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。さらに、発現ベクターには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグおよびGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
発現用ベクターの作製は、当業者に公知の手法により実施することができ、適宜、市販のキットなどを使用して行うこともできる。
【0020】
発現させたPspAタンパク質を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。特に、培養細胞を宿主として用いる場合は、培養上清中に発現させたPspAタンパク質を、上清を回収する事により取得する方が望ましい。得られた抽出液または培養上清から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的のタンパク質を取得することができる。公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法(例えば、GSTタグと共にポリペプチドを発現させた場合にはグルタチオンを担体に結合させた樹脂を、Hisタグと共にポリペプチドを発現させた場合にはNi-NTA樹脂やCoベースの樹脂を、HAタグと共にポリペプチドを発現させた場合には抗HA抗体樹脂を、FLAGタグと共にポリペプチドを発現させた場合には、抗FLAG抗体結合樹脂などを使用する方法)、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0021】
本発明の第3の実施形態は、本発明のPspAタンパク質を抗原として含む、肺炎球菌による感染を抑制するためのワクチン(以下「本発明の肺炎球菌ワクチン」とも記載する)である。
本発明の肺炎球菌ワクチンに含まれる本発明のPspAタンパク質は、単独で含まれていてもよいが、本発明のPspAタンパク質とは異なるPspAタンパク質(異なるファミリーおよび/またはクレードに属するPspAタンパク質を含む)の全部または一部と融合された形態で含まれていてもよい(例えば、WO2018102774などを参照のこと)。
【0022】
本発明の肺炎球菌ワクチンは、1または複数種類のアジュバント、例えば、完全フロイントもしくは不完全フロイントアジュバント、コレラトキシン、易熱性大腸菌毒素、水酸化アルミニウム、カリウムミョウバン、サポニンもしくはその誘導体、ムラミルジペプチド、鉱物油または植物油、ノバソームまたは非イオン性ブロック共重合体、DEAEデキストラン等を含むことができる。また、医薬上許容される担体を含んでいてもよい。医薬上許容される担体は、ワクチン接種される動物の健康に悪影響を及ぼさない化合物であることが必要である。医薬上許容される担体は、例えば、無菌水またはバッファーである。
本発明の肺炎球菌ワクチンは、通常の能動免疫法で投与することができ、注射により投与しても、経口、または経鼻などの経粘膜方法で投与してもよい。また、肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌感染の予防または治療に対して、有効な量(肺炎球菌による攻撃に対し、生体内において免疫を誘導するに足りる量)で、剤形に適合した方法による単回または複数回投与することができる。肺炎球菌ワクチンは、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口的に、または、粘膜(鼻腔内または舌下など)に投与することができる。また、本発明の肺炎球菌ワクチンは、他の抗原成分と混合して用いることもできる。
肺炎球菌ワクチンの投与量、投与回数は投与対象により変わり得るが、抗原を数10μg 含むワクチンを1週間から数週間に一度の頻度で、数回投与することによりに防御免疫を誘導し得る。
【0023】
また、本発明の肺炎球菌ワクチンには、経鼻投与に適するようにナノゲルを含んでいてもよい。本発明の実施形態において、ナノゲルとは、親水性の多糖(例えば、プルラン)に、側鎖として疎水性のコレステロールが付加された、高分子ゲルナノ粒子のことである。ナノゲルは公知の方法、例えば、WO2000012564に記載された方法などに基づいて製造することができる。
具体的には、まず、炭素数12~50の水酸基含有炭化水素またはステロールと、OCN-R1 NCO(式中、R1は炭素数1~50の炭化水素基である)で表されるジイソシアナート化合物を反応させて、炭素数12~50の水酸基含有炭化水素またはステロールが1分子反応したイソシアナート基含有疎水性化合物を製造する。得られたイソシアナート基含有疎水性化合物と多糖類とを反応させ、炭素数12~50の炭化水素基またはステリル基を含有する疎水性基含有多糖類を製造する。次に、得られた生成物をケトン系の溶媒で精製することにより、純度の高い疎水性基含有多糖類を製造することができる。
ここで、多糖類としては、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカンまたは水溶性セルロース等が利用可能であり、特に、プルランが好ましい。
【0024】
本発明の第3の実施形態で使用されるナノゲルとしては、カチオン性コレステロール置換プルラン(cationic cholesteryl-group-bearing pullulan:cCHPと称する)およびその誘導体を挙げることができる。cCHPは、分子量3万から20万、例えば分子量100,000のプルランに100単糖あたりコレステロールが1~10個、好ましくは1~数個置換された構造を有する。なお、本発明で使用されるcCHPは、抗原のサイズや疎水性の度合いにより、コレステロール置換量を適宜変更してもよい。また、CHPの疎水性の度合いを変更するために、アルキル基(炭素数10~30、好ましくは、炭素数12~20程度)を付加させてもよい。本発明で使用されるナノゲルは、粒径10~40 nm、好ましくは20~30 nmである。ナノゲルは既に広く市販されており、これら市販品を使用してもよい。
【0025】
本発明の実施形態で使用されるナノゲルは、ワクチンが負に帯電する鼻粘膜表面へ侵入できるように、正電荷を有する官能基、例えばアミノ基を導入したナノゲルである。アミノ基のナノゲルへの導入の方法としては、アミノ基を付加したコレステロールプルラン(CHPNH2)を用いる方法を挙げることができる。具体的には、減圧乾燥したCHPをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、これに1-1’カルボニルジイミダゾールを窒素気流下に加え数時間、室温で反応させる。その反応溶液にエチレンジアミンを徐々に添加し、数時間から数十時間程度攪拌する。得られた反応溶液を蒸留水に対して、数日間透析する。透析後の反応溶液を凍結乾燥し、乳白色の固体を得る。エチレンジアミンの置換度は元素分析やH-NMRなどを用いて評価することができる。
【0026】
本発明の肺炎球菌ワクチンは、薬学的に許容できる公知の安定剤、防腐剤、酸化防止剤等を含ませても良い。安定剤としてはゼラチン、デキストラン、ソルビトール等が挙げられる。防腐剤としてはチメロサール、β-プロピオラクトン等が挙げられる。酸化防止剤としてはαトコフェロール等が挙げられる。
【0027】
本発明の第4の実施形態は、本発明の肺炎球菌ワクチンを患者に投与することを含む、肺炎球菌による感染症の予防方法である。
ここで、「予防」とは、肺炎球菌に感染するおそれがある患者において、その感染を予め阻止することを意味し、これによって肺炎球菌感染症の発症を予め阻止することを目的とする処置のことである。
【0028】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、参照により、その全体が本明細書の一部として取り込まれる。また、本明細書が英文に翻訳された場合であって、単数形の「a」、「an」および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0029】
1. Native PAGE
各種PspAタンパク質、PspA 1-1(配列番号5)、PspA 1-2(配列番号6)、PspA 1-3(配列番号4)およびPspA 1-3LB(配列番号3)を大腸菌発現系等発現させた(詳細は、WO2018102774を参照のこと)。発現したPspAタンパク質を定法により非変性法で抽出しイオン交換クロマト、ブチルセファロース等を使用し、LDS(Lithium Dodecyl Sulfate)-PAGEで均一になるまで精製した。
【0030】
まず、PspA 1-3分子は、精製後すぐに2mg/ml PBSに懸濁し、0.5M NaH2PO4または0.5M Na2HP4でpHを所定のpH(pH 6.5、pH 7.0、pH 7.5、pH 8.0およびpH 8.5)に調整し、25 ℃で所定時間(1日、2日および5日)保存した。各サンプル、10μl(1.0 μg/lane)用いてNative PAGEで、200V、60分電気泳動を行い、Coomassie Blue(BioRad)染色を行った。なお、使用したゲルは、7.5% Mini-Protein TGX Gel 12 well (BioRad)、処理液はNative Sample Buffer for Protein Gels(BIoRad)、泳動緩衝液は10 x Premixed electrophoresis buffer(BioRad)を用いた。
この条件の処理で、LDS-PAGEではすべての検体で単一バンドを示し見かけの分子量には変化がなかったが(データは示さない)、Native-PAGEでは、処理5日でpHによらず、移動度が大きいバンドが生じた(図2の矢印)。このバンドに対応するタンパク質をPspA 1-3LBとした。データは示さないが、この現象は精製直後のPspA 1-1およびPspA 1-2においても同様に観察されたが、PspA 2(EF3296株由来)およびPspA 3(EF5668株由来)では観察されず、肺炎球菌D39株由来のPspAに特異的に起こる現象であると考えられた。
【0031】
2.ペプチドマップ
PspA 1-3からPspA 1-3LBへの分子変化を特定するために、精製直後のPspA 1-3およびPspA 1-3LB、各々、0.5 mg/mlに対し、10 μgのトリプシン(sigma、Sequence grade)を加え、37℃、24時間、pH 8.5で消化処理を行い、処理したサンプルの50 μlを逆相HPLC(Waters C18 1.7 μm 2.1 x 100mm)に導入し、分離温度50℃、0.1% TFA (100%)、0.1%TFA-40% acetonitrile(55%)の110 min Linear-Gradient溶出、0.2ml/min、220nm(Detection)で分析した。
その結果、溶出時間が異なるピークが検出された(図3)。そこで、本ピークを分取しPPSQ-21A Protein sequencer(Shimadzu)によりN-末分析を行ったところ、AAEENDNVE(配列番号7)という配列がPspA 1-3LBに観測された。この結果から、PspA 1-3LBアミノ酸配列において、特異的な脱アミノ化が起きている可能性が示唆された。
【0032】
3.PspA 1-3LBのアミノ酸配列の決定
次に、PspA 1-3LBの全アミノ酸配列分析を行うため、上記2.と同様にtrypsin消化を行い、LC-MS/MS(HPLC acquity UPLC (Waters:C4-1.7 μm、2.1 x 100mm)-MS: Orbitrap Fusion Tribrid(Thermo)MS1:Orbitrap, MS2: Ion Trapを用いて配列分析を実施した。
その結果、302アミノ酸残基中、208残基(69%)のアミノ酸の配列を同定し、さらにwhole-MS分析も実施し(Intact体33569.03および1脱アミノ体33569.93)、各理論値と一致したのでN254D以外に脱アミノ化が起きている可能性は極めて低いと結論した。
【0033】
4.マウス経鼻免疫
4-1.方法
4-1-1.抗原のナノゲル化(ワクチンの準備)
cCHPナノゲルと各PspAタンパク質(PspA 1-1、PspA 1-2、PspA 1-3および PspA 1-3LB)を分子比1:1で混合し、40℃のヒートブロックで1時間インキュベーションした。
4-1-2.マウスへの経鼻免疫
各cCHP-PspA溶液を、Balb/cマウスの7週齢メスにそれぞれ経鼻投与した。投与抗原量は、1匹、1回あたり各PspAタンパク量として10 μgを投与した。経鼻免疫は1週間隔で計3回実施した。
4-1-3.免疫マウスからの血清サンプル調製
最終投与から1週間で上昇してくる血清中のPspA特異的IgGを測定するために、免疫マウスの眼窩静脈から採血を行った。採取した血液サンプルを4℃、7,000rpmで遠心後、上清を回収し血清サンプルとした。
4-1-4.抗原特異的IgGの測定
ELISAプレートに各抗原を終濃度1 μg/mlでコーティングし、一晩反応後、ウェルを洗浄した。非特異的反応を避けるため、1% BSA含有PBSで25℃、1時間ウェルをブロッキングし、さらに洗浄後、28から段階希釈した血清サンプルを作製し、それぞれウェルに添加し、25℃で2時間反応させた。ウェルを洗浄後、HRP標識の抗マウスIgGを加えて25℃で1時間半反応させた。さらに洗浄後、HRPの基質であるTMB(3, 3', 5, 5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色させた。2N 硫酸で反応停止後、直ちにマイクロプレートリーダーで吸光度(450nm)を測定し、エンドポイント法で抗体価を算出した。
【0034】
4-1.結果
cCHP-PspA 1-1、cCHP-PspA 1-2、cCHP-PspA 1-3またはcCHP-PspA 1-3LBの経鼻投与により、マウス血清中において、それぞれの抗原に特異的なIgGが誘導されてくることが分かった。また、各PspA抗原間での抗体価に大きな差異はなかった(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の肺炎球菌表層タンパク質およびその一部は、肺炎球菌ワクチンの抗原として使用することができる。従って、本発明は、感染症の予防医学の分野において、利用されることが期待される。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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