(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】加硫状態分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/06 20060101AFI20240802BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G01N30/06 G
G01N30/88 G
G01N30/88 P
(21)【出願番号】P 2020143400
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】海野 祐馬
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】大谷 肇
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-108559(JP,A)
【文献】特開2013-057641(JP,A)
【文献】特開2018-066680(JP,A)
【文献】特開2000-309665(JP,A)
【文献】特開2012-173093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0328563(US,A1)
【文献】熱分解ガスクロマトグラフィによる加硫ゴムの架橋構造の解析,日本ゴム協会誌,71巻2号,1998年,P78-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
B01D 15/00 -15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて、熱分解生成物のチオフェン類を分析することにより
、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムと、ブタジエンゴム及び/又はスチレンブタジエンゴムとを含むゴムの加硫状態を分析する加硫状態分析方法であって、
天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴム相の架橋密度を評価し、
天然ゴム相及び/又はイソプレン系ゴム相からなるゴム相1、並びに、ブタジエンゴム相及び/又はスチレンブタジエンゴム相からなるゴム相2、からなる群より選択される少なくとも1つのゴム相の架橋構造の生成過程及び/又は架橋構造の劣化状態を分析する加硫状態分析方法。
【請求項2】
前記チオフェン類は、チオフェン、メチルチオフェン、ジメチルチオフェン及びトリメチルチオフェンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の加硫状態分析方法。
【請求項3】
前記チオフェン類のピーク面積又はピーク高さを用いてゴムの加硫状態を分析する請求項1又は2記載の加硫状態分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫状態分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物の構成成分であるゴム成分(ポリマー)の加硫状態は、ポリマーのみならず、ゴム組成物の物性にも大きな影響を与える因子であり、その分析は重要である。例えば、従来からポリマー全体の架橋密度を測定する方法として、架橋ポリマーのトルエン膨潤度を調べる方法などが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この方法は、架橋構造以外の要因(フィラー量やゴム硬度)に大きく影響を受ける、ゴム配合物全体の架橋密度の平均値として算出され、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムを含むゴムの場合、いずれかのゴム相を抜き出して、架橋構造を評価できない、等の問題がある。またそのため、加硫工程により、どのようにポリマーが架橋構造を形成していくのかが分からないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、ゴムの加硫状態(各ゴム相における架橋状態、架橋構造の生成過程、架橋構造の劣化状態など)を分析する加硫状態分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム成分を含む測定用試料の熱分解生成物のうち、チオフェン類を分析することで、ゴムの加硫状態(各ゴム相における架橋状態、架橋構造の生成過程、架橋構造の劣化状態など)の分析が可能となるという知見を見出し、本発明を完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて、熱分解生成物のチオフェン類を分析することによりゴムの加硫状態を分析する加硫状態分析方法に関する。
【0008】
前記加硫状態分析方法において、前記チオフェン類は、チオフェン、メチルチオフェン、ジメチルチオフェン及びトリメチルチオフェンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
前記加硫状態分析方法は、前記チオフェン類のピーク面積又はピーク高さを用いてゴムの加硫状態を分析することが好ましい。
【0010】
前記加硫状態分析方法は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴム相の架橋構造を評価することが好ましい。
【0011】
前記加硫状態分析方法は、架橋構造の生成過程及び/又は架橋構造の劣化状態を分析することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて、熱分解生成物のチオフェン類を分析することによりゴムの加硫状態を分析する加硫状態分析方法であるため、ゴムの加硫状態(各ゴム相における架橋状態、架橋構造の生成過程、架橋構造の劣化状態など)を分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】熱分解ガスクロマトグラフィーの装置(Py-GC装置)の概要の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<加硫状態分析方法>
本発明は、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて、熱分解生成物のチオフェン類を分析することによりゴムの加硫状態を分析する加硫状態分析方法である。
【0015】
本発明においては、先ず、天然ゴム(NR)及び/又はイソプレンゴム(IR)と、ブタジエンゴム(BR)及び/又はスチレンブタジエンゴム(SBR)とを含む測定用試料(ゴム組成物など)を熱分解ガスクロマトグラフィーに供すると、チオフェン類(熱分解生成物)として、NRやIRにおける架橋構造からはメチルチオフェン類(2―メチルチオフェン、3-メチルチオフェン)、ジメチルチオフェン類(2,3-ジメチルチオフェン、2,4―ジメチルチオフェン)、トリメチルチオフェン類(2,4,5-トリメチルチオフェン)などが生成する一方で、BRやSBRにおける架橋構造からはチオフェン、メチルチオフェン類(2-メチルチオフェン)、ジメチルチオフェン類(2,5-ジメチルチオフェン)などが生成するという知見を見出した。従って、これらのチオフェン類のピーク面積及び/又はピーク高さを評価することにより、NR相やIR相における架橋構造や架橋密度、BR相やSBR相における架橋構造や架橋密度など、各ゴム相における架橋構造や架橋密度をそれぞれ評価できる。
【0016】
熱分解ガスクロマトグラフィーに供するゴム(測定用試料)としては、例えば、ゴム分野で使用されている各種ゴム成分を含むゴム組成物を使用できる。
【0017】
ゴム(測定用試料)に使用可能なゴム成分としては特に限定されず、例えば、NR、IR、BR、SBRなど、ゴム工業において一般的なものを使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等が挙げられる。IRとしては、例えば、IR2200等が挙げられる。BRとしては、例えば、高シス含量のハイシスBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)等が挙げられる。SBRとしては、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等が挙げられる。
【0018】
ゴム(測定用試料)は、ゴム成分以外に、通常この分野で使用される添加剤を配合して製造できる。そのような添加剤としては、充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカなど)、シランカップリング剤、ワックス、プロセスオイル、老化防止剤、加硫剤(例えば、硫黄など)、加硫促進剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0019】
ゴム(測定用試料)は、例えば、加硫剤及び加硫促進剤以外の薬品を混練後、得られた混練物に加硫剤及び加硫促進剤を添加して混練して未加硫のゴム組成物を作製し、所望により、常法により加熱・加圧(加硫)することにより、加硫後のゴム組成物等の測定用試料を作製できる。
【0020】
本発明では、ゴム(測定用試料)を熱分解ガスクロマトグラフィーに供するが、該測定用試料の作製方法としては特に限定されず、例えば、加硫ゴムから測定用試料を採取し、秤量する。加硫ゴムから測定用試料を採取する方法は、特に限定されず、ハサミ、カミソリによる切削等、公知の方法を使用できる。
【0021】
ゴム(測定用試料)を所定温度で熱分解させると、熱分解生成物として、チオフェン類が生成する。生成するチオフェン類としては、チオフェン、メチルチオフェン類(2―メチルチオフェン、3-メチルチオフェン)、ジメチルチオフェン類(2,3-ジメチルチオフェン、2,4―ジメチルチオフェン)、トリメチルチオフェン類(2,4,5―トリメチルチオフェン)等が挙げられる。
【0022】
ゴム(測定用試料)を熱分解ガスクロマトグラフィーに供し、得られるパイログラムのピーク面積又はピーク高さから、チオフェン量、メチルチオフェン量、ジメチルチオフェン量、トリメチルチオフェン量などの各チオフェン類の量を求めることができる。ここで、熱分解ガスクロマトグラフィーとは、測定用試料を瞬間的に熱分解させ、その熱分解生成物をガスクロマトグラフへ導入し、カラムでの保持時間の差により分離する方法である。
【0023】
熱分解ガスクロマトグラフィーに供する測定用試料は、予め、ソックスレー抽出に付しておくことが好ましい。これにより、加硫反応に関与しなかった加硫剤を予め除去できるので、ゴム成分の硫黄架橋量の定量をより正確に行うことが可能となる。
【0024】
ソックスレー抽出は、常法により実施できる。抽出溶媒としては、通常、使用可能任意の溶媒を使用できる。該溶媒としては、ヘキサン、アセトンなどが挙げられ、なかでも、アセトンが好ましい。
【0025】
ゴム(測定用試料)を熱分解する熱分解装置としては、通常、当該分野で使用可能な任意の装置を使用できる。測定用試料を熱分解する際の温度(熱分解温度)は、通常、450~700℃の範囲であり、好ましくは550~650℃の範囲である。この温度範囲内であれば、チオフェン類を効率よく生成させることができる。
【0026】
熱分解により生成するチオフェン類は、高分解能質量分析計で検出できる。高分解能質量分析計としては、例えば、飛行時間型質量分析計(Tof:Time of flight)などが挙げられる。なお、検出器は、チオフェン類を定量できる限りその目的を達し得るものが使用可能で、上記のような一般的な質量分析計の他、硫黄検出器なども使用できる。
【0027】
以上の工程を経て、ゴム(測定用試料)の熱分解生成物についてのパイログラムが得られる。該パイログラムにおけるチオフェン類のピーク面積又はピーク高さを用いて、ゴムの加硫状態を分析できる。例えば、該パイログラムから、各チオフェン類(チオフェン、メチルチオフェン、ジメチルチオフェン、トリメチルチオフェン等)の各ピーク面積又は各ピーク高さを算出することにより、NRやIRに結合している硫黄架橋量を代表する値、BRやSBRに結合している硫黄架橋量を代表する値が得られる。そして、例えば、各チオフェン類の各ピーク面積又は各ピーク高さと、トルエン膨潤度から求まるポリマー全体の架橋密度との検量線を用いることで、NR相、IR相、BR相、SBR相の各ゴム相の架橋密度を評価できる。
【0028】
具体的には、前記のとおり、NRやIRにおける架橋構造からは2-メチルチオフェン、3-メチルチオフェン、2,3-ジメチルチオフェン、2,4―ジメチルチオフェン、2,4,5―トリメチルチオフェン等が、BRやSBRにおける架橋構造からはチオフェン、2-メチルチオフェン、2,5-ジメチルチオフェン等が生成するので、これらの成分の量を評価することで、NR相やIR相における架橋構造や架橋密度、BR相やSBR相における架橋構造や架橋密度を分析できる。例えば、NRやIRに結合している硫黄架橋量を代表する値として2,4,5―トリメチルチオフェン量、BRやSBRに結合している硫黄架橋量を代表する値としてチオフェン量を用いると、NRやIRに結合している硫黄架橋量、BRやSBRに結合している硫黄架橋量を、より正確に各ゴム相別に分析することが可能となり、更に検量線を用いることで、各ゴム相の架橋密度を分析できる。
【0029】
なお、「NRやIRに結合している硫黄架橋量を代表する値」、「BRやSBRに結合している硫黄架橋量を代表する値」とは、必ずしも硫黄架橋量そのものに相当する値である必要はない。チオフェン量、トリメチルチオフェン量等のチオフェン類の量は、それぞれ、NR、IR、BR、SBR等の各ゴム成分の硫黄架橋量に相関する値であれば充分だからである。
【0030】
ここで、本発明に使用する熱分解ガスクロマトグラフィーの装置(Py-GC装置)の概要の一例を
図1に示す。Py-GC装置10は、キャリアガス容器12、熱分解装置14、ガスクロマトグラフ16及び検出器18を備えている。ガスクロマトグラフ16は、分離カラム20を内蔵する。検出器18には、出力装置22が接続されている。図示しないが、ガスクロマトグラフ16は、通常、キャリアガス流量制御手段及び温度制御手段を備えている。
【0031】
使用可能なPy-GC装置10として、Frontier Lab社製熱分解装置「EGA/PY-3030D」、Agilent社製ガスクロマトグラフ「7890」及びWaters社製飛行時間型質量分析計「XevoG2-XS」から構成された装置が例示されるが、これらの機種に限定されない。
【0032】
Py-GC測定に供された測定用試料は、熱分解装置14に投入される。測定用試料は、熱分解装置14で加熱・分解されて、ガスを発生する。このガスには、測定用試料中の有機物に由来する複数の成分が、分解生成物として含まれている。
【0033】
測定用試料から発生したガスは、キャリアガス容器12から供給されたキャリアガスによって、分離カラム20に導入される。分離カラム20は、このガスに含まれる複数の成分を分離する。分離カラム20によって分離された各成分は、順次、検出器18で検知される。検出器18は、検知した各成分の量を電気信号に変換し、パイログラムとして出力装置22から出力する。パイログラムの横軸は、検出時間であり、縦軸は、信号強度である。
【0034】
出力されたパイログラム上には、複数のピークが示されている。それぞれのピークは、測定用試料中から発生したガス中の成分に対応する。各ピークの面積又は各ピークの高さは、それぞれの成分の量と相関する。特に限定されないが、各成分の量を算出する方法として、ピークの面積又はピークの高さに基づく内部標準法が好適に用いられる。
【0035】
また、本発明の方法において、架橋構造の生成過程を分析できる。例えば、配合が同一で加硫時間が異なる各測定用試料(各ゴム)について、それぞれPy-GC測定から得られるパイログラムの各チオフェン類に帰属される各ピーク面積や各ピーク高さを評価することにより、加硫状態の進行(加硫時間の増加)による架橋構造や架橋状態の経時的な変化を分析でき、架橋構造の生成過程や架橋構造の劣化状態の分析が可能となる。更に加硫温度や加硫時間が異なる各測定用試料を評価することで、加硫温度や加硫時間が架橋構造に及ぼす影響を分析することもできる。
【0036】
従って、例えば、NR及び/又はIRと、BR及び/又はSBRとを含む同一配合の測定用試料について、加硫時間や加硫温度が異なる各測定用試料(各ゴム)を作製し、それぞれ、前述の方法でPy-GC測定することにより、NR相、IR相、BR相、SBR相の各ゴム相における架橋構造の生成過程や架橋構造の劣化状態を、それぞれ分析することが可能となる。また、加硫温度や加硫時間が各ゴム相の架橋構造に及ぼす影響を分析することもできる。
【0037】
本発明の加硫状態分析方法は、前述のゴム組成物等の測定用試料(ゴム)に適用可能であり、例えば、各種タイヤ部材(トレッド、サイドウォール等)を構成するゴム組成物(加硫後のゴム組成物)に好適に適用できる。タイヤ部材に適用することで、該部材を構成するゴム組成物の各ゴム相における架橋状態などを分析できる。
【実施例】
【0038】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0039】
<加硫ゴム組成物の製造>
(使用した各種薬品)
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含有量97質量%)
SBR:JSR(株)製のJSR1502(スチレン含有量25.2質量%)
硫黄:粉末硫黄(鶴見化学(株)製)
加硫促進剤:ノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製)
【0040】
下記配合に従い、硫黄及び加硫促進剤を除くポリマー(NR、BR、SBR)を、神戸製鋼(株)製の1.7Lバンバリーミキサーにて混練りし、混練り物を得た。得られた混練り物に、硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。表1に記載のキュラストカーブのトルク変化(Max-min)/minが5~100%の間で変化する間において、各未加硫ゴム組成物を異なる加硫時間で加硫し、各加硫ゴムスラブシート(同一配合)を得た。
【0041】
(配合)
NR :60質量部
SBR :20質量部
BR :20質量部
硫黄 :1.5質量部
加硫促進剤:0.7質量部
【0042】
得られた各加硫ゴムスラブシート(同一配合)について、以下の方法により、Py-GCの測定、全体の架橋密度(Swell)の測定、NR相の架橋密度の測定、BR相及びSBR相の架橋密度の測定を実施し、結果を表1に示した。
【0043】
<Py-GC測定>
各加硫ゴムスラブシートを、アセトンソックスレー抽出に付し、加硫反応に関与しない加硫剤を除去した。処理後の加硫ゴムスラブシートから、250μgの測定用試料を切り出した。該測定用試料を、下記条件の下、Py-GC測定し、得られたパイログラムから、熱分解生成物の内、2,3,5-トリメチルチオフェン及びチオフェンを検出し、それぞれのピーク面積を求めた。
【0044】
(条件)
熱分解装置:フロンティア・ラボ(株)製の縦型マイクロ電気炉型パイロライザー「EGA/PY-3030D」
熱分解温度:550℃
ガスクロマトグラフ:Agilent社製のガスクロマトグラフ「7890」(インターフェイスヒーターの温度及び試料注入口(試料入口端)の温度は340℃に設定し、オーブン温度を40℃で3分保持し、40℃から300℃まで毎分8℃で昇温し、300℃で15分保持する昇温プログラムで測定を行った。なお、定圧モードでヘッド圧83kPaとし、スプリット比は50:1とした。)
検出器:Waters社製の飛行時間型質量分析計「XevoG2-XS」(測定条件は、コロナ電流2.0μA、コーン電圧40Vとした。)
キャリアガス:ヘリウム
カラム:フロンティア・ラボ(株)製のキャピラリーカラム「Ultra Alloy+-5(MS/HT)」(5%ジフェニル95%ジメチルポリシロキサン、30m×0.25mm i.d.×1.0μm フィルム)
【0045】
<全体の架橋密度(Swell)>
加硫ゴムスラブシートから作製した各測定用試料(1×1cm、厚さ2mm)について、トルエンに25℃で24時間浸漬し、浸漬前後の体積変化(Swell(%))を測定した。Swellにより、各測定用試料全体の架橋密度の評価が可能で、値が小さいほど、架橋密度が高いことを示す。
【0046】
<NR相の架橋密度>
予め作製した2,3,5-トリメチルチオフェンのピーク面積と、トルエン膨潤度から求まるポリマー全体の架橋密度との関係を示した検量線を用いて、各測定用試料のNR相における架橋密度(×10-6mol/cm3)を算出した。
【0047】
<BR相及びSBR相の架橋密度>
予め作製したチオフェンのピーク面積と、トルエン膨潤度から求まるポリマー全体の架橋密度との関係を示した検量線を用いて、各測定用試料のBR相及びSBR相における架橋密度(×10-6mol/cm3)を算出した。
【0048】
【0049】
表1により、本発明の方法によれば、Swellによりゴム全体(測定用試料全体)の架橋密度を算出でき、また、各測定用試料中のNR相の架橋密度、BR相及びSBR相の架橋密度の算出も可能となった。更に、加硫時間が異なる各測定用試料を熱分解ガスクロマトグラフィーに供することで、Swell変化がどのポリマー相に由来するのかも分析可能であった。具体的には、今回の測定用試料では、T5~T30のSwellの大きな低下は、各ゴム相の架橋密度の変化から、主にNR相由来であることが判明し、架橋構造の生成過程や架橋構造の劣化状態の分析も可能であった。
【符号の説明】
【0050】
10 熱分解ガスクロマトグラフィー装置
12 キャリアガス容器
14 熱分解装置
16 ガスクロマトグラフ
18 検出器
20 分離カラム
22 出力装置