(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】容器入り多層発酵乳製品、その製造方法及び発酵乳製品用のソース
(51)【国際特許分類】
A23C 9/137 20060101AFI20240802BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20240802BHJP
【FI】
A23C9/137
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2019070259
(22)【出願日】2019-04-01
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018181400
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018183009
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 良尚
(72)【発明者】
【氏名】小川 一平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 朋美
(72)【発明者】
【氏名】清水 信行
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-104436(JP,A)
【文献】特開2002-112703(JP,A)
【文献】SALAMON R V et al.,Preliminary observations on the effects of milk fortification with conjugated linoleic acid in yogurt preparation,Journal of Physics,Conference Series 602,[Online],2015年,012017,https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1742-6596/602/1/012017/pdf
【文献】上野川修一 編,シリーズ<食品の化学>乳の化学,第3刷,東京:株式会社朝倉書店,1998年03月25日,p.167の10.4.a欄,ISBN 4-254-43040-X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C1/00-23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後発酵型の発酵乳の層と、
前記発酵乳の層の下に隣接する、糖液の層と、
を容器内に有し、
前記発酵乳の硬さの指標である貯蔵弾性率G’が、1200Pa以上であり、
前記発酵乳の層の固形分が、20.0質量%以上である、
容器入り多層発酵乳製品
(ただし、前記糖液が微細繊維状セルロースを含有する場合を除く)。
【請求項2】
前記発酵乳の層の固形分が、21.4質量%以上である、請求項1に記載の容器入り多層発酵乳製品。
【請求項3】
横倒し試験により、前記発酵乳の層が崩壊するまでの崩壊時間が、2時間以上である、請求項1または2に記載の容器入り多層発酵乳製品。
【請求項4】
容器入り多層発酵乳製品の製造方法であって、
容器内に、スターターが添加された原料乳と、糖液とを、混合しないように充填する工程であって、
このとき前記糖液の量が、前記原料乳と前記糖液との全量の15.0質量%以上であり、かつ前記糖液の固形分が20.0質量%以上であり、前記原料乳の固形分が、17.6質量%以上である、工程;及び
充填された前記容器内の前記原料乳を発酵させる工程であって、
固形分が前記原料乳より高い発酵乳の層が形成され、前記発酵乳の硬さの指標である貯蔵弾性率G’が、1200Pa以上であり、前記発酵乳の層の固形分が、20.0質量%以上である、容器入り多層発酵乳製品を得る工程
を含む、製造方法
(ただし、前記糖液が微細繊維状セルロースを含有する場合を除く)。
【請求項5】
充填する前記糖液の固形分が、前記原料乳の固形分より2.0~40.0質量%高い、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
充填する前記糖液の量が、前記原料乳と前記糖液との全量の20.0~40.0質量%である、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料乳の固形分が、20.0質量%未満である、請求項4~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記発酵乳の層の固形分が、前記原料乳の1.10倍以上である、請求項4~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記発酵乳の層の固形分が、21.4質量%以上である、請求項4~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の容器入り多層発酵乳製品の前記発酵乳の層の下側にあるソース層を形成する発酵乳製品用のソースにおいて、
加工デンプンを0.25重量%以上含み、ペクチンを0.15重量%以上含む、
発酵乳製品用のソース。
【請求項11】
前記加工デンプンがヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンである、
請求項10に記載の発酵乳製品用のソース。
【請求項12】
前記ペクチンがLMペクチンである、
請求項10又は11に記載の発酵乳製品用のソース。
【請求項13】
発酵乳層の下側にソース層がある発酵乳製品において、
前記ソース層を形成するソースが、請求項10~12のいずれか1項に記載の発酵乳製品用のソースである、
発酵乳製品。
【請求項14】
前記発酵乳は、ビフィズス菌を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の容器入り多層発酵乳製品。
【請求項15】
前記発酵乳は、ビフィズス菌を含まない、請求項4~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
容器入り多層発酵乳製品の製造方法であって、
容器内に、スターターが添加された原料乳と、糖液とを、混合しないように充填する工程であって、
このとき前記糖液の量が、前記原料乳と前記糖液との全量の15.0質量%以上であり、かつ前記糖液の固形分が20.0質量%以上であり、前記原料乳の固形分が、17.6質量%以上20.0質量%未満である、工程;及び
充填された前記容器内の前記原料乳を発酵させる工程であって、
固形分が前記原料乳より高い発酵乳の層が形成され、前記発酵乳の硬さの指標である貯蔵弾性率G’が、1200Pa以上であり、前記発酵乳の層の固形分が、20.0質量%以上である、容器入り多層発酵乳製品を得る工程
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入り多層発酵乳製品、その製造方法及び発酵乳製品用のソースに関し、より詳細には、多層型である濃厚発酵乳、その製造方法及びソースに関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は、原料乳(ヨーグルトベース、またはヨーグルトミックスということもある。)をタンク内で発酵させ、形成されたカードを破砕して容器に充填する前発酵タイプと、原料乳を容器に充填し、容器内で発酵させる後発酵タイプとに大別される。一般に、濃厚な味わいに特徴がある濃厚ヨーグルトは、工業的にはカード破砕後にセパレーターまたは膜濃縮により水分を除去して濃縮することにより製造される前発酵タイプが主流である。一方、ヨーグルトの本場、ブルガリアには、素焼きの壺の中で牛乳を発酵させるという、後発酵タイプの伝統的なヨーグルトの製法がある。この製法では発酵中に素焼きの壺が牛乳から水分を吸収し、また壺の表面から水分が蒸発するため、牛乳が濃縮される。また水分が蒸発する際に気化熱を奪うため、低温発酵となる。このような製法により得られるヨーグルトはなめらかで濃厚感がある。
【0003】
他方、ヨーグルトとソースで構成された容器入り二層ヨーグルトが開発されている。ソースを上層、ヨーグルトを下層とする後発酵タイプの二層ヨーグルトの製造方法として、特許文献1は、乳を主要成分とするヨーグルトミックスを容器に充填し、その上面にヨーグルトミックスの比重よりも小さいソースを充填し、発酵させることを特徴とする製造方法を提案する。
【0004】
また、特許文献2においても、発酵乳を上層とし、フルーツソース等のソースを下層として含む容器入り発酵乳製品は、発酵乳ミックス(原料乳を含む、発酵乳の原料)を容器内に収容した後、この発酵乳ミックスの上に、発酵乳ミックスよりも大きな比重を有するソースを収容し、次いで、発酵乳ミックスとソースとの比重の差を利用して、ソースを発酵乳ミックスの下方に沈下させ、その後、容器内の発酵乳ミックスを発酵させる方法(後発酵)によって製造されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-269113号公報(特許第4012663号公報)
【文献】特開2013-13339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
濃厚発酵乳を製造する場合、前発酵タイプとすると、製造工程において機械的に水分を除くことで固形分が高い発酵乳を実現できる一方で、カードを破砕する段階で発酵乳の組織を壊すことになり、発酵乳本来の硬さや緻密な食感等が損なわれる。一方、後発酵タイプに関する前掲特許文献1には濃厚発酵乳に関する記載はなく、むしろこの製造方法ではヨーグルトミックスよりも比重の小さいソースを充填して発酵することからソースからヨーグルトミックスへの水分の移行が生じ、固形分が高い濃厚発酵乳の製造方法としては適さないと考えられる。
【0007】
固形分の高い発酵乳を得るとの観点からは、原料乳または発酵乳からの水分の除去に着眼すべきであるが、原料乳から水分を減じ、原料乳の糖濃度が高くなると、発酵初期の乳酸菌の誘導期(菌が培養条件に順応し、活発に増殖するための準備を行う時期。乳酸菌の増殖は比較的遅い。)がうまく進行せず、発酵が遅延するという問題があることが分かった。
【0008】
そして、このような後発酵タイプの容器入り多層発酵乳製品では、発酵が遅延し、発酵乳本来の硬さ等が損なわれていると、搬送中等に横倒しの状態に置かれたとき、容器内で発酵乳の層が崩壊してしまう恐れも生じるため、製品品質が著しく低下してしまうという問題もあった。
【0009】
また、後発酵タイプの容器入り多層発酵乳製品では、発酵乳の層の下側にソースの層を設けた場合、店頭においても、作製時における発酵乳層及びソース層の層状態がそのまま維持されていることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、後発酵タイプの濃厚な発酵乳を製造する方法を鋭意検討した。その結果、発酵前に高糖度の糖液やジャム等を原料乳と混ざり合わないように容器内に充填して発酵させた、後発酵タイプでありながら、濃厚感のある発酵乳が得られる、容器入り多層発酵乳製品を見出した。また、本発明の製造方法で得られた、容器入り発酵乳自体が、従来の容器入り発酵乳とは異なる特徴を有することを見出した。
【0011】
本発明は、以下を提供する。
[1] 後発酵型の発酵乳の層と、
前記発酵乳の層の下に隣接する、糖液の層と、
を容器内に有し、前記発酵乳の硬さの指標である貯蔵弾性率G’が、1200Pa以上である、容器入り多層発酵乳製品。
[2] 前記発酵乳の層の固形分が、20.0質量%以上である、1に記載の容器入り多層発酵乳製品。
[3] 横倒し試験により、前記発酵乳の層が崩壊するまでの崩壊時間が、2時間以上である、1または2に記載の容器入り多層発酵乳製品。
[4] 容器入り多層発酵乳製品の製造方法であって、
容器内に、スターターが添加された原料乳と、糖液とを、混合しないように充填する工程であって、
このとき糖液の量が、原料乳と糖液との全量の15.0質量%以上であり、かつ糖液の固形分が20.0質量%以上である、工程;及び
充填された容器内の原料乳を発酵させる工程であって、
固形分が原料乳より高い発酵乳の層が形成され、発酵乳の硬さの指標である貯蔵弾性率G’が、1200Pa以上である容器入り多層発酵乳製品を得る工程
を含む、製造方法。
[5] 充填する糖液の固形分が、原料乳の固形分より2.0~40.0質量%高い、4に記載の製造方法。
[6] 充填する糖液の量が、原料乳と糖液との全量の20.0~40.0質量%である、4または5に記載の製造方法。
[7] 原料乳の固形分が、20.0質量%未満である、4~6のいずれか1項に記載の製造方法。
[8] 発酵乳の層の固形分が、原料乳の1.10倍以上である、4~7のいずれか1項に記載の製造方法。
[9] 発酵乳層の固形分が、20.0質量%以上である、4~8のいずれか1項に記載の製造方法。
また、本発明は、発酵乳製品の発酵乳層の下側にあるソース層を形成する発酵乳製品用のソースにおいて、加工デンプンを0.25重量%以上含み、ペクチンを0.15重量%以上含む、発酵乳製品用のソース、についても提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、発酵乳の組織が維持された、多層の濃厚発酵乳製品を得ることができる。
また、本発明によれば、横倒しの状態に置かれても、容器内の発酵乳の層が従来よりも崩壊し難く、作製時の製品品質をそのまま維持することができる。
また、本発明のソースによれば、発酵乳層の下側にソースが配置された作製時の状態を、従来よりも維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】横倒し試験で用いた容器の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明による容器入りの発酵乳製品の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.第1実施形態>
本発明は、下記の工程を含む、容器入り多層発酵乳の製造方法を提供する。
(1)容器内に、原料乳と、固形分が比較的高く、かつ有効量の糖液とを、混合しないように充填する工程;及び
(2)充填された容器内の原料乳を発酵させ、固形分が原料乳より高い発酵乳の層と、糖液の層とを有する容器入り多層発酵乳製品を得る工程。
【0015】
<充填工程>
本発明の製造方法は、容器内に、原料乳と、固形分が比較的高い有効量の糖液とを、混合しないように充填する工程を含む。
【0016】
[原料乳]
本発明に用いられる原料乳(ヨーグルトベース、またはヨーグルトミックスということもある。)は、生乳、クリーム、濃縮脱脂乳、乳タンパク質濃縮物、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛、及び加工乳からなる群より選択されるいずれかと、必要に応じ、水、糖、甘味料、安定化剤を混合して調製される。
【0017】
原料乳の乳脂肪の濃度は、原料乳の全体に対して、8.0質量%以下が例示され、0.01~8.0質量%が好ましく、0.01~7.0質量%がより好ましく、0.01~6.0質量%がさらに好ましい。原料乳全体に対する乳脂肪の濃度が上記範囲内であることにより、得られる発酵乳において風味が適したものとなるからである。
【0018】
原料乳の無脂乳固形分(SNF)の濃度は、原料乳の全体に対して、20.0質量%以下が例示され、1.0~20.0質量%が好ましく、3.0~19.0質量%がより好ましく、5.0~18.0質量%がさらに好ましい。原料乳全体に対する無脂乳固形分(SNF)の濃度が上記範囲内であることによって、得られる発酵乳において風味が良好となるからである。なお、無脂乳固形分(SNF)とは、乳成分のうち、乳脂肪を除いた成分を意味する。原料乳のタンパク質の濃度は、原料乳の全体に対して、12.0質量%以下が例示され、1.0~11.0質量%が好ましく、1.5~10.0質量%がより好ましく、2.0~9.0質量%がさらに好ましい。
【0019】
原料乳は、ホモミキサーやホモジナイザー等を用いた均質化工程を経たものであってもよい。均質化により、脂肪球が微粒化され、生乳やクリームに含まれる乳脂肪分の分離や浮上が抑制される。生乳やクリームを配合しない場合には、均質化工程を省略してもよい。
【0020】
原料乳は、間接加熱装置や直接加熱装置や通電加熱装置等による殺菌工程を経たものであってもよい。原料乳を殺菌する方法や設備には、食品分野において通常使用される方法や設備を使用すればよい。このとき、原料乳を殺菌する方法として、例えば、低温保持殺菌法(LTLT、60~70℃、20~40分間等)、高温保持殺菌法(HTLT、80~90℃、5~20分間等)、高温短時間殺菌法(HTST、100~110℃、1~3分間等)、超高温瞬間殺菌法(UHT、120~150℃、1~10秒間等)等が例示される。原料乳を殺菌する前に、必要に応じて、原料乳のpHを調整してもよい。そして、原料乳を殺菌した後には、原料乳を発酵温度の近くまで冷却してから、発酵のためのスターターを添加するとよい。
【0021】
本発明の製造方法においては、原料乳の固形分は、後述するように、容器内に充填する糖液の固形分が比較的高いことが重要である。原料乳に関し、固形分というときは、特に記載した場合を除き、容器に充填する際の、発酵前の原料乳の固形分をいう。
【0022】
本発明に関し、原料乳または発酵乳に関し、固形分というときは、原料乳または発酵乳の液体部分に含まれる固形の成分の割合(質量%)をいう。原料乳の固形分は、計算により求めることができる。また、発酵乳に固体が含まれる場合は、固形分は液体の部分についてのものである。
【0023】
固形分の測定は、この分野で用いられる通常の方法、すなわち一定の温度、時間で乾燥して残った残量に基づき、固形分を求めることができる(すなわち、サンプルの固形分(質量%)=サンプルの乾燥後の質量÷サンプルの質量×100)。
【0024】
原料乳の固形分は、例えば15.0質量%以上であり、16.0質量%以上であることがより好ましく、17.0質量%以上であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、それより固形分が高い糖液を調製することが容易であり、かつ得られる発酵乳において、十分な濃厚感が得られるからである。原料乳の固形分の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、21.4質量%未満とすることができ、21.0質量%未満としてもよく、20.0質量%未満としてもよい。
【0025】
[乳酸菌等]
充填工程で充填される原料乳には、スターター(発酵の主体となる微生物の集団を含み、発酵開始のために加えられるもの)が添加される。スターターに含まれる微生物としては、発酵乳を製造可能なものであれば特に限定されず、例えば、乳酸菌、ビフィズス菌、酵母等が例示される。乳酸菌の場合、発酵乳の製造において使用の実績があるブルガリア菌、サーモフィラス菌、ラクチス菌、クレモリス菌、カゼイ菌、ビフィズス菌が例示され、ヨーグルトの製造において一般的な使用の実績があるブルガリア菌とサーモフィラス菌の組合せ(混合物)が好ましい。以下、乳酸菌を例に、原料乳の発酵について具体的に説明するが、本発明においては原料乳の発酵に使用できる微生物は乳酸菌に限られるものではない。
【0026】
[糖液]
充填工程では、原料乳のほか、糖液(以下、ソースとも称する)が容器に充填される。糖液とは、用いる乳酸菌が資化することができる糖類(糖分ということもある。)が溶解しており、かつ得られる容器入り発酵乳においては発酵乳の層とは別の層を構成することとなる液を指す。糖類には、単糖、二糖、オリゴ糖が含まれる。
【0027】
糖液に含まれる糖類は、乳酸菌が資化可能であり、かつ発酵乳と一緒に喫食するのに適したものであれば特に限定されない。甘味のある糖類の例として、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、高糖化還元水あめ、低糖還元水あめ、パラチノース、フラクトオリゴ糖、乳糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、蜂蜜、メープルシロップ、果汁、濃縮果汁、ソルビトール、マルチトース、パラチニット、エリスリトール、トレハロース等が挙げられる。
【0028】
糖液は、糖類以外の成分を含んでいてもよい。糖類以外の成分の例としては、糖類以外の甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、酸味料、香料等が挙げられる。糖液はまた、固体のものと混合されていてもよい。固形のものの例としては、果物・野菜(いちご、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、白桃、黄桃、すもも、プルーン、いちじく、マンゴー、みかん、レモン、キウイフルーツ、ざくろ、りんご、なし、洋なし、パイナップル、バナナ、アロエ、等)、果物・野菜加工品(ジャム、ピュレ、等)、ナタデココ、ムース、チョコレート、ゼリー、グミ、マシュマロ、キャンデー、ガム、寒天、コンニャク、シリアル等が挙げられる。
【0029】
本発明の製造方法においては、容器内に充填する原料乳の固形分より、糖液の固形分(糖液の固形分を特に、糖度ということもある。)が高い。糖液に関し固形分というときは、特に記載した場合を除き、糖液(液体)に溶解している固形分を指し、上述した固体のものは考慮しない。また糖液に関し、固形分(糖度)というときは、特に記載した場合を除き、容器に充填する際の、発酵前の糖液の固形分(糖度)をいう。糖液の糖度は、特に記載した場合を除き、デジタル糖度計(例えば、アズワン社のIPR-201α)により測定した測定値をいう。糖度は「°」で表されることもあり、本発明に関連した説明においては、°は質量%と読み替えることができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、充填する糖液の固形分が発酵乳より高いことにより、後述する発酵工程において、固形分が原料乳よりも高い発酵乳を形成することができる。充填する糖液の固形分は、糖液の量にもよるが、固形分が原料乳よりも高い発酵乳が形成できる限り特に限定されない。固形分が原料乳よりも高い発酵乳が形成される観点から、充填する糖液の固形分は、充填する原料乳の固形分より2質量%以上高いことが望ましい。その中でも特に、充填する糖液の固形分は、例えば、充填する原料乳の固形分より7.0質量%以上高くすることができ、10.0質量%以上高いことが好ましく、11.0質量%以上高いことがより好ましく、12.0質量%以上高いことがさらに好ましい。
【0031】
充填する糖液の固形分の下限値がいずれの場合であっても、充填する糖液の固形分の上限値は、充填する原料乳の固形分+40質量%以下であることが望ましい。その中でも特に、充填する糖液の固形分の上限値は、充填する原料乳の固形分+33.0質量%以下であり、好ましくは発酵乳の固形分+30.0質量%以下であり、より好ましくは発酵乳の固形分+25.0質量%以下であり、さらに好ましくは発酵乳の固形分+20.0質量%以下である。このような範囲であれば、発酵初期の乳酸菌の誘導期を阻害せず、発酵が遅延することなく十分に進むと考えられるからである。
【0032】
糖液の固形分はまた、原料乳の固形分が18.0質量%以下である場合は、糖液の量にもよるが、例えば20.0質量%以上とすることができ、22.0質量%以上とすることが好ましく、25.0質量%以上とすることがより好ましく、28.0質量%以上とすることがさらに好ましい。原料乳の固形分が18.0質量%以下である場合の糖液の固形分の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、50.0質量%以下であり、45.0質量%以下であることが好ましく、41.0質量%以下であることがより好ましく、38.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の製造方法においては、糖液の有効量が容器に充填される。有効量とは、後述する発酵工程において、固形分が原料乳よりも高い濃厚な発酵乳を達成できるのに十分な量をいい、当業者であれば、糖液の固形分、原料乳の固形分、得られる発酵乳において目的とする濃厚感等を勘案し、適宜設計することができる。
【0034】
糖液の有効量は、具体的には糖液の固形分が原料乳の固形分+2.0~40.0質量%である場合は、原料乳と糖液との全質量の10.0質量%以上とすることができ、13.0質量%以上とすることが好ましく、15.0質量%以上とすることがより好ましく、20.0質量%以上とすることがさらに好ましい。糖液の固形分が原料乳の固形分+2.0~40.0質量%である場合の糖液の有効量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、原料乳と糖液との全質量の45.0質量%以下であり、42.5質量%以下であることが好ましく、40.0質量%以下であることがより好ましく、35.0質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、発酵工程において、固形分が原料乳よりも高い発酵乳を形成でき、目的の濃厚感を達成することができる一方で、発酵工程初期の乳酸菌の増殖を阻害せず、発酵が遅延することなく進むと考えられるからである。糖液の充填量は、有効量の範囲内である限り、発酵乳とともに喫食するのに適しているとの観点から定めてもよい。
【0035】
糖液は、常法により調製することができる。例えば、糖類等の原料を水に混合・溶解させ、必要に応じ加熱殺菌し、脱気することにより調製することができる。
【0036】
[充填]
本発明の製造方法においては、原料乳と糖液が混合しないように容器に充填される。混合しないようにするためには、原料乳より固形分の高い糖液を下層に、原料乳をその上層に充填するとよい。固形分がより高く、比重が大きい糖液を下層とすることにより、発酵中においても糖液と原料乳の混濁を抑制することができる。また混合しないことにより、後発酵タイプの伝統的なヨーグルトの製法のように、発酵中に原料乳が濃縮されうる。混合しないことにより、さらに、発酵中には、発酵初期の乳酸菌の増殖が高い糖濃度によって阻害されることを抑制でき、発酵が適切に進行しうる。
【0037】
充填される容器の素材は、食品容器として許容され、発酵工程、保存、および流通に耐えるものであればよく、例として、紙、プラスチック等が挙げられる。容器の大きさは、発酵を均一に行うことができればよく、具体的には、内容量は50~1000gとすることができ、好ましくは70~800gであり、より好ましくは70~500gであり、さらに好ましくは90~450gである。容器の大きさは、発酵乳の一回あたりの摂取量を考慮して定めてもよい。
【0038】
容器内に、スターターが添加された原料乳と固形分が原料乳よりも高い有効量の糖液とを、混合しないように充填した後、容器の開口部を蓋材でシールすることができる。
【0039】
<発酵工程>
[発酵条件]
充填された容器内の原料乳を発酵させる条件は、本発明の効果が得られれば、特に制限されないが、発酵温度及び/又は発酵時間を適宜調整することが好ましい。このとき、本発明において、発酵温度は、実際に使用する乳酸菌の種類や乳酸菌の活動の至適温度等に依存するが、例えば、30~50℃が例示され、35~48℃が好ましく、38~45℃がより好ましい。具体的に例えば、ブルガリア菌とサーモフィラス菌の組合せ(混合物)では、30~45℃が例示され、32~44℃が好ましく、34~44℃がより好ましく、36~43℃がさらに好ましく、38~43℃が特に好ましい。発酵温度が前記範囲であることによって、適正な発酵時間で風味良好な発酵乳ができる。
【0040】
また、発酵時間は、実際に使用する乳酸菌の種類や乳酸菌の添加量や発酵温度等に依存するが、具体的には、例えば、ブルガリア菌とサーモフィラス菌の組合せ(混合物)を用いる場合、1~20時間が例示され、1.5~15時間が好ましく、2~12時間がより好ましく、2.5~10時間がさらに好ましい。発酵時間が前記範囲であることによって、製造適性も良好で、風味良好な発酵乳ができる。
【0041】
発酵工程は、pHが適切な値となるまで行うことができる。発酵終了時のpHは、3.0~5.2が例示され、3.2~4.9が好ましく、3.4~4.8がより好ましく、3.6~4.5がさらに好ましく、3.8~4.3が特に好ましい。原料乳の発酵終了時のpHが前記範囲であることによって、風味が良好な発酵乳が得られるからである。原料乳の発酵終了時のpHは、例えばpH計で測定する。本発明に関し、pHの値を示すときは、特に記載した場合を除き、10℃における値である。
【0042】
所定の条件での発酵工程を経ることにより、容器入であり、かつ後発酵タイプの、濃厚な多層発酵乳が製造できる。製造された容器入り発酵乳は、発酵乳の層の固形分が原料乳より高い。具体的には発酵乳の層の固形分は、原料乳の1.10倍であり、好ましくは1.15倍であり、より好ましくは1.20倍であり、さらに好ましくは1.25倍である。
【0043】
製造された容器入り発酵乳における発酵乳の層の固形分はまた、20.0質量%以上、好ましくは21.0質量%以上であり得る。さらに、発酵乳の層の固形分は、好ましくは21.8質量%以上であり、より好ましくは22.1質量%以上であり、さらに好ましくは22.4質量%以上である。
【0044】
発酵乳の層はまた、後発酵タイプであるために発酵により形成された組織(ネットワーク構造)が維持されており、一定の硬さを有する。また維持された組織は、喫食した際の濃厚感に寄与している。
【0045】
製造された容器入り発酵乳は、多層を有する。多層とは、糖液の層と発酵乳の層との二つの層を少なくとも有することをいう。糖液の層と発酵乳の層以外の層は、例えば、発酵後に発酵乳の層の上面に、さらにフルーツソース等の層を積層することにより形成できる。
【0046】
<後発酵の多層発酵乳>
上述した本発明の製造方法により製造される発酵乳は、下記の特徴を有する:
・後発酵型の発酵乳の層と発酵乳の層の下に隣接する糖液の層とを有する。
・容器入りの後発酵型である。
・発酵乳の層が、濃厚感を有する。(濃厚発酵乳である。)
従来、後発酵型の容器入り二層ヨーグルトは知られていたが(前掲特許文献1)、発酵乳の上面にソースが充填された形態のものであった。また濃厚発酵乳とは認められないものであった。
【0047】
本発明及びその実施態様に関し、発酵乳に関して濃厚というときは、特に記載した場合を除き、喫食時(製造後、0~数日後のいずれかの日、典型的には製造8日後)において発酵乳の層の貯蔵弾性率G’が、1200Pa以上である場合をいう。また、下記の項目うちの少なくとも一つ、好ましくはすべてを満たしていることが望ましい。
・発酵乳の層の固形分が20.0質量%以上であること。
・専門家による官能評価(1点~5点の5段階)により、濃厚(5点)またはやや濃厚(4点)だと評価されるものであること。
【0048】
喫食時は、製造直後のものである場合もあり、製造1日後のものである場合もあり、また製造後2~30日後のものである場合もある。製造後の保存は10℃以下で行うとよい。
【0049】
本発明の後発酵型の容器入り発酵乳における発酵乳の層の固形分は、20.0質量%以上であり、好ましくは21.0質量%以上であり、より好ましくは21.8質量%以上であり、さらに好ましくは22.1質量%以上であり、最も好ましくは22.4質量%以上である。
【0050】
[貯蔵弾性率G’]
貯蔵弾性率G’は、発酵乳の硬さ(構造が維持される度合い)を表すものであり、この値が高いときは、より硬い(発酵により形成されたネットワーク構造がより崩れにくい)ことを表す。本発明者らの検討によると、貯蔵弾性率G’は、後述する「濃厚感」と相関する値でもある。多層の発酵乳製品における発酵乳の層の貯蔵弾性率G’を測定する際は、糖液の層から最も遠い部分を代表する箇所について測定するとよい。例えば、下層が糖液の層であり、下層が発酵乳の層である場合は、発酵乳の層の上面の中心部分について、測定するとよい。
【0051】
発酵乳の貯蔵弾性率G’の測定は、市販のレオメータを使用して測定することができる。具体的には、Anton Paar社製の粘弾性測定装置Physica MCR301を使用することができる。本明細書に示す貯蔵弾性率G’は、この装置を用い、温度18℃、周波数1Hz、ひずみγ=1.0の測定条件で測定したときの数値である。
【0052】
本発明の後発酵型の容器入り発酵乳における発酵乳の層の貯蔵弾性率G’は、発酵工程によって、容器内の原料乳を発酵させて、固形分が原料乳よりも高い発酵乳が作製された日を作製日とし、作製日から8日後(作製8日後)に測定した値であり、1200Pa以上であることが望ましい。発酵乳の層の貯蔵弾性率G’は、その中でも特に、1300Pa以上であり、好ましくは1400Pa以上であり、より好ましくは1500Pa以上であり、さらに好ましくは1600Pa以上であり、さらに好ましくは2000Pa以上であり、最も好ましくは2100Pa以上である。
【0053】
作製8日後の発酵乳の層の貯蔵弾性率G’の上限値は、発酵乳が硬くなり過ぎず、後発酵による滑らかな食感を実現するために、5000Pa以下であることが望ましい。また、発酵乳の層の貯蔵弾性率G’は、発酵乳が硬すぎずに、一段と滑らかな食感を実現するために、2500Pa以下であることが、より好ましい。
【0054】
[横倒し試験]
「横倒し試験」では、容器入り多層発酵乳製品の発酵乳の横倒し耐性を評価することができる。「横倒し試験」は、発酵工程を経て作製した容器入りの発酵乳製品を10℃以下で冷蔵保存し、3日後、常温下に取り出した直後に、容器の開口部を密封している蓋材を開口部から外し、水平を保っている机上において、衝撃を与えない程度に容器の天面縁が、机面に接地するまで、容器を穏やかに横倒する。そして、横倒しした容器内の発酵乳が、容器の天面の開口部から漏れ出る最初の瞬間までの時間(発酵乳の層が横倒しにより耐えられずに崩壊するまでの時間であり、以下、崩壊時間と称する)を評価する試験である。
【0055】
このような横倒し試験は、店頭などで蓋材がある状態で横倒ししたときの発酵乳の保形性を評価する促進試験となる。ここで、崩壊時間が長く横倒し耐性が高い発酵乳は、容器への発酵乳の付着性が高いことを示していると言える。そのため、横倒し耐性が高い発酵乳は、横倒しの状態に置かれても、容器内の発酵乳の層が従来よりも崩れ難く、上層に位置する発酵乳と、発酵乳の下層に位置する糖液(ソース)との2層でなる作製時の製品品質をそのまま維持することができる。
【0056】
ここで、崩壊時間を測定する横倒し試験に用いる容器は、紙材からなり、
図1に示すように、円錐台で有底筒状に形成されている。この場合、容器21は、円形状の底部22の直径φ1が49mm、天面にある円形状の開口部23の直径φ2が58.0mm、底部22から開口部23までの容器21の高さH1が63.9mmに形成されている。天面の開口部23の周囲には、開口部23から横外方に突出した天面縁25がある。なお、ここでは、開口部23から横外方に突出した天面縁25の幅Wを、6.0mmとした。横倒し試験では、容器21を机上で横倒しした際に、底部22の角部と、天面縁25の周壁と、が机上に当接して、容器21が傾斜した状態で横倒しとなる。
【0057】
また、この容器21には、底部22から高さH2(10.0mm)の位置に、容器内部に湾曲状に膨出した底面24がある。容器21は、底面24から天面の開口部23までの内部空間の満杯容量は約100gであるが、横倒し試験では、容器21内の充填物の容量が合計約80g程度になるように、所定量の糖液及び原料乳(後述する比較例4では原料乳のみ)を充填し、容器内で原料乳を発酵させたものを用いる。
【0058】
このような横倒し試験では、発酵乳の貯蔵弾性率G’を1200Pa以上5000Pa以下とすることで、容器を密封している蓋材を外してから容器を横倒しさせ、そのまま横倒し状態を保持して、横倒しの開始時間から発酵乳が容器の開口部から漏れ出てくる瞬間までの崩壊時間を、2時間~12時間とさせることができ、横倒し耐性が高い発酵乳を実現できる。
【0059】
例えば、貯蔵弾性率G’が1200Pa以上の本発明の発酵乳では、容器を密封している蓋材を外してから容器を横倒しさせ、そのまま横倒し状態を保持して、横倒しの開始時間から発酵乳が容器の開口部から漏れ出てくる瞬間までの崩壊時間を計測すると、崩壊時間は2時間程度となり、横倒し耐性が高いことが確認できた。
【0060】
貯蔵弾性率G’が2100Pa以上の本発明の発酵乳は、同様に崩壊時間を計測すると、崩壊時間は5時間程度となり、横倒し耐性が一段と高いことが確認できた。
【0061】
[官能評価]
本発明の後発酵型の容器入り発酵乳は、専門家による官能評価(1点~5点の5段階)により、濃厚(5点)またはやや濃厚(4点)だと評価されるものである。官能評価は、下記の方法及び基準に基づき、行われる。
方法:3名以上の発酵乳評価の専門家からなるパネルによる。
基準:5段階(5点:濃厚、4点:やや濃厚、3点:普通、2点:やや軽い、1点:軽い)による。必要に応じ、糖液の層を充填しないかまたは充填量が少ないこと以外は同様の製造方法で製造した後発酵型の固形分20.0~21.0質量%の発酵乳を3点:普通の標準発酵乳として比較評価してもよい。また、官能評価は、発酵乳の層は糖液の層と混合せず、ネットワーク構造が維持された状態のまま、喫食して評価する。
【0062】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、これら実施例では乳原料の配合において、タンパク質濃度が高くなるように設定した。この理由は、本発明による効果を明確にするためである。特に、乳タンパク質に関しては、カゼインの等電点であるpH4.6に近づくほどタンパク質の凝集が生じやすいことから、実施例では乳タンパク質を高く配合した。しかし、上述の理由から実施例の配合に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
<試験例>
乳酸菌スターター添加ヨーグルトベースの作製
脱脂粉乳115g、クリーム105g、砂糖30g、スクラロース0.5g、原料水719.5gを混合し、ヨーグルトベースを970g調製した。
調製したヨーグルトベース970gを95℃、5分間殺菌した後、ブルガリア菌Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(寄託番号:NITE BP-01569)とサーモフィラス菌Streptococcus thermophilus OLS3615(寄託番号:NITE BP-01696)を混合し、10.0質量%脱脂粉乳培地で培養した乳酸菌スターターを30g添加した、固形分17.7質量%のヨーグルトベース(以下、スターター添加ベース)を1,000g調製した。
【0064】
貯蔵弾性率G’の測定
貯蔵弾性率G'はヨーグルトの硬さ(濃厚感)の指標である。
粘弾性測定装置Physica MCR301(Anton Paar社)を用いて、以下の後発酵ヨーグルトの、温度18℃、周波数1Hz、ひずみγ=1.0の際の貯蔵弾性率G'(Pa)を測定した。
【0065】
固形分の測定
ヨーグルト部の固形分は、ヨーグルト部の液体部分をサンプリングし、マイクロ波水分分析計CEM Smart System, SMART 5 Turbo(CEM Corporation)を用いて測定した。
以下の表1において、「糖液固形分(質量%)」、「発酵前固形分計算値(質量%)」、「試作品固形分実測値(質量%)(作製1日後)」及び「試作品固形分実測値(質量%)(作製8日後)」は、上述した固形分の測定方法により測定した結果を示す。
【0066】
官能評価
専門家であるパネラー5名により、以下の後発酵ヨーグルトの官能評価(5段階)を行った。
(5点:濃厚、4点:やや濃厚、3点:普通、2点:やや軽い、1点:軽い)
【0067】
崩壊時間の測定
以下の後発酵ヨーグルトについてそれぞれ横倒し試験を行い、後発酵ヨーグルトを作製した容器を横倒しさせ、そのまま横倒し状態を保持して、横倒しの開始時間からヨーグルトが容器の開口部から漏れ出る瞬間までの崩壊時間(時分)を計測した。なお、横倒し試験は、上述した[横倒し試験]の項目欄で説明した内容と同じ条件にて行った。
【0068】
糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値
発酵前のヨーグルト部の液体部分をサンプリングし、マイクロ波水分分析計CEM Smart System, SMART 5 Turbo(CEM Corporation)を用いて、発酵前のヨーグルト部の固形分(ヨーグルト部発酵前固形分)(質量%)を測定した。また、容器に充填する前に糖液をサンプリングし、マイクロ波水分分析計CEM Smart System, SMART 5 Turbo(CEM Corporation)を用いて、糖液の固形分(糖液固形分)(質量%)を測定した。そして、糖液固形分と、ヨーグルト部発酵前固形分との差である「糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値」を求めた。
【0069】
<実施例1>
プラカップに入った糖度30.0°のフルーツソース20gの上に上記スターター添加ベースを80g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。
実施例1のヨーグルトの作製日から1日後の貯蔵弾性率G’は2006 Paであり、作製8日後の食感はとても濃厚であった。
実施例1のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は1942 Paであった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、12.3質量%であった。
【0070】
<実施例2>
プラカップに入った糖度40.0°のフルーツソース20gの上に上記スターター添加ベースを80g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。なお、表1中の「g」は「質量%」に読み替えることができる。
実施例2のヨーグルトの作製日から1日後の貯蔵弾性率G’は1046 Paであり、作製8日後の食感はとても濃厚であった。
実施例2のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は1557 Paであった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、22.3質量%であった。
【0071】
<実施例3>
プラカップに入った糖度50.0°のフルーツソース20gの上に上記スターター添加ベースを80g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。
実施例3のヨーグルトの作製日から1日後の貯蔵弾性率G’は968 Paであり、作製8日後の食感はとても濃厚であった。
実施例3のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は1627 Paであった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、32.3質量%であった。
【0072】
<実施例4>
プラカップに入った糖度20.0°のフルーツソース20gの上に上記スターター添加ベースを80g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。
実施例4のヨーグルトの作製日から1日後の貯蔵弾性率G’は1362 Paであり、作製8日後の食感はやや濃厚であった。
実施例4のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は1359 Paであった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、2.3質量%であった。
【0073】
<実施例5>
プラカップに入った糖度20.0°のフルーツソース16gの上に上記スターター添加ベースを64g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。
実施例5のヨーグルトの作製日から1日後の貯蔵弾性率G’は1535 Paであり、作製8日後の食感はとても濃厚であった。
実施例5のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は2126 Paであった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、17.3質量%であった。実施例5のヨーグルトについて、横倒し試験によりヨーグルトの層が崩壊するまでの崩壊時間を調べたところ、5時間20分までプラカップ内のヨーグルトは崩壊せずにプラカップ内に留まっていた。これにより、実施例5のヨーグルトは、横倒し耐性が高いことが確認できた。
【0074】
<実施例6>
実施例6で用いるヨーグルトベース(スターター)は、上記の実施例1~5のヨーグルトベースより脂肪分を低めにした。具体的には、脱脂粉乳114g、クリーム62g、砂糖45g、原料水749gを混合し、ヨーグルトベースを970g調製した。そして、このヨーグルトベースを基に、上記同様にスターター添加ベースを作製した。
プラカップに入った糖度20.0°のフルーツソース16gの上に上記スターター添加ベースを64g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。
実施例6のヨーグルトの作製日から1日後の貯蔵弾性率G’は1101 Paであり、作製8日後の食感はとても濃厚であった。
実施例6のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は1524 Paであった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、17.4質量%であった。実施例6のヨーグルトについて、横倒し試験によりヨーグルトの層が崩壊するまでの崩壊時間を調べたところ、2時間20分まではプラカップ内のヨーグルトは崩壊せずにプラカップ内に留まっていた。これにより、実施例6のヨーグルトも、横倒し耐性が高いことが確認できた。
【0075】
<比較例1>
プラカップに入った上記スターター添加ベース100gを40℃で3~5時間発酵させ、後発酵ヨーグルトを作製した。この比較例1では、プラカップにフルーツソースを充填しなかった。
比較例1のヨーグルトの作製日から1日後の貯蔵弾性率G’は931 Paであり、作製8日後の食感は、実施例1、2、3、5より濃厚感に欠けるものであった。
比較例1のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は1049 Paであり、1200 Pa未満であった。
【0076】
<比較例2>
プラカップに入った糖度30.0°のフルーツソース10gの上に上記スターター添加ベースを90g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。この比較例2では、プラカップにフルーツソースを充填したが、当該フルーツソースの充填量を少なくした。
比較例2のヨーグルトの製造日から1日後の貯蔵弾性率G’は676 Paであり、作製8日後の食感は、実施例1、2、3、5と比べると濃厚感が物足りなかった。
比較例2のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は913 Paであり、1200 Pa未満であった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、12.3質量%であった。
【0077】
<比較例3>
プラカップに入った糖度60.0°のフルーツソース20gの上に上記スターター添加ベースを80g積層し、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵二層ヨーグルトを作製した。この比較例3では、フルーツソース内の固形分、すなわち糖液固形分を多くした。
比較例3のヨーグルトの製造日から1日後の貯蔵弾性率G’は854 Paであり、作製8日後の食感は、実施例1、2、3、5と比べると濃厚感が物足りなかった。
比較例3のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は854 Paであり、1200 Pa未満であった。また、糖液固形分-ヨーグルト部発酵前固形分実測値は、42.3質量%であった。
【0078】
<比較例4>
脱脂粉乳104g、クリーム105g、砂糖60g、スクラロース0.2g、原料水700.8gを混合し、ヨーグルトベースを970g調製し、実施例1と同様にスターターを添加したベース1,000gのうち100gをプラカップに入れ、40℃で3~5時間発酵させ、後発酵ヨーグルトを作製した。この比較例4では、ヨーグルト部の固形分を若干多くし、かつ、プラカップにフルーツソースを充填しなかった。
比較例4のヨーグルトの製造日から1日後の貯蔵弾性率G’は1182 Paであり、作製8日後の食感は、実施例1、2、3、5と比べると濃厚感が物足りなかった。
比較例4のヨーグルトの作製日から8日後の貯蔵弾性率G’は1190 Paであり、1200 Pa未満であった。
【0079】
【0080】
本発明は、発酵乳と糖液ソースなどを接触した状態で発酵させることで、後発酵タイプで形成されるヨーグルトのネットワーク構造を維持しながら、発酵乳の固形分を高めることができ、結果として、貯蔵弾性率G’が大きくなり、横倒し耐性が高く、かつ、濃厚感の向上が図れることを見出した。
【0081】
<2.第2実施形態>
(1)<本発明の発酵乳製品>
図1は、本発明の容器入りの発酵乳製品1を示す。発酵乳製品1は、後発酵型であり、発酵乳層3とソース層4とを有し、容器本体2aと蓋2bからなる容器2の中に収容される。容器本体2aには、上層として発酵乳層3が収容され、下層としてソース層4が収容される。ソース層4を形成する発酵乳製品用のソースは、発酵乳層3の中に巻き上げられて入り込むことがなく、発酵乳層3とソース層4との間には明瞭な境界面が存在している。
【0082】
(2)<本発明の発酵乳製品用のソース>
次に、発酵乳製品1におけるソース層4を形成する発酵乳製品用のソースについて説明する。発酵乳製品用のソースは、加工デンプン、ペクチン、甘味料及び他の材料からなる。本実施形態では、ソースに加工デンプン及びペクチンを所定量含有させることを特徴とする。ソースに加工デンプン及びペクチンを所定量含有させることにより、最終製品時である発酵乳製品1において、発酵乳層3の下側にソースが配置された作製時の状態を、従来よりも維持することができる。
【0083】
ここで、加工デンプンとしては、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化デンプン(酢酸デンプン)、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムが挙げられる。
【0084】
特に、発酵工程における、発酵乳層3及びソース層4の層状態の維持の観点から、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンを適用することが望ましい。加工デンプンは、発酵工程における、発酵乳層3及びソース層4の層状態の維持の観点から、ソースの中に0.25重量%以上含むことが望ましく、さらには、0.30重量%以上含むことが望ましく、特に0.35重量%以上含むことが望ましい。
【0085】
なお、上述した第1実施形態では、組成物の含有量を質量%で表記し、一方、第2実施形態では重量%と表記しているが、第2実施形態において表記した重量%は質量%と読み替えることもできる。また、第2実施形態における「ソース」は、上述した第1実施形態の「糖液」のことであり、「糖液」とも読み替えることができる。
【0086】
ペクチンとしては、LMペクチン、HMペクチンを挙げることができる。特に商品輸送における、発酵乳層3及びソース層4の層状態の維持の観点から、LMペクチンを適用することが望ましい。ペクチンは、商品輸送における、発酵乳層3及びソース層4の層状態の維持の観点から、ソースの中に0.15重量%以上含むことが望ましく、さらには、0.20重量%以上含むことが望ましく、特に0.25重量%以上含むことが望ましい。
【0087】
加工デンプンの含有量は、デンプン定量キットを用いた比色検定(過酸化水素)(含有でん粉を酵素でグルコースに分解し、当該グルコースを酵素で酸化し、発生した過酸化水素を比色検定であり、コスモ・バイオ株式会社のウェブサイト(https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/starch-assay-kit-colorimetric-cbl.asp?entry_id=16763)参照)により測定した測定値である。また、ペクチンの含有量は、プロスキー法と高速液体クロマトグラフ法により測定した測定値である(一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC:http://www.mac.or.jp/mail/161101/03.shtml)。
【0088】
甘味料としては、砂糖、果糖、ブドウ糖、異性化糖等の糖類や、トレハロース等の糖アルコールや、アスパルテーム、ステビア等の人工甘味料や、蜂蜜や、メープルシロップ等が挙げられる。
【0089】
他の材料としては、果汁、果肉、ナッツ、ココアパウダー、チョコレート、カカオエキス、pH調整剤、香料、色素等が挙げられる。果汁の例としては、レモン、桃、メロン、キウイ、ぶどう、オレンジ、バナナ、ブルーベリー、いちご及びこれらをミックスしたもの等が挙げられる。果肉の例としては、桃、メロン、キウイ、ぶどう、オレンジ、バナナ、ブルーベリー、いちご等が挙げられる他、果肉と同様に扱えるアロエやナタデココ等も挙げられる。
【0090】
本発明において、発酵乳製品用のソースの好ましい一例として、加工デンプン、ペクチン、糖類(甘味料)及び果汁を含むソースベースと、果肉とからなる果肉入りフルーツソースが挙げられる。また、その他の発酵乳製品用のソースの好ましい一例としては、加工デンプン、ペクチン、糖類(甘味料)、ココアパウダー、チョコレート及びカカオエキスを含むソースベースと、果肉とからなるチョコレートソースが挙げられる。
【0091】
この場合、ソース中の糖類の含有量は、風味の観点から、好ましくは40~60重量%であり、より好ましくは42~58重量%であり、特に好ましくは45~55重量%である。
【0092】
また、ソースの糖度は、発酵乳層3及びソース層4の層状態の維持の観点から、好ましくは40°以上であり、より好ましくは42°以上であり、特に好ましくは45°以上である。また、ソースの糖度は発酵乳層の色の混濁防止の観点から、好ましくは60°以下であり、より好ましくは58°以下であり、特に好ましくは55°以下である。
【0093】
ソースの糖度は、デジタル糖度計(アズワン社のIPR-201α)により測定した測定値である。
【0094】
ソースの粘度(10℃)は、発酵乳層3及びソース層4の層状態の維持の観点から、好ましくは9000cP以上であり、より好ましくは10000cP、特に好ましくは11000cP以上である。
【0095】
なお、ソースの粘度は、回転式B型粘度計(例えば、東機産業社製の「TVB10形粘度計」)を用いて、測定温度10℃で、No.4ローター(コードM23)を測定対象物中に侵入及び回転(60rpm、30秒間)させた後の測定値である。
【0096】
(3)<本発明の発酵乳製品における発酵乳>
発酵乳層3を形成する発酵乳は、発酵乳ミックス(原料乳を含む、発酵乳の原料)を発酵させてなるものである。発酵乳ミックスは、原料乳及び他の成分を含む混合物であり、例えば、原料乳、水、及び他の任意成分(例えば、砂糖、糖類、香料等)からなる発酵乳原料を加温して溶解し、混合することによって得ることができる。
【0097】
発酵乳ミックスの原料の1つである原料乳の例としては、牛乳等の獣乳や、その加工品(例えば、脱脂乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、乳のろ過濃縮物又は透過物、れん乳、乳清(ホエイ)、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、バターミルク、生クリーム等)、大豆由来の豆乳等の植物性乳等が挙げられる。
【0098】
発酵乳又は発酵乳ミックスの中の乳たんぱく質や乳脂肪等の含有量は特に限定されるものでなく、公知の発酵乳又は発酵乳ミックスのものを適用することができる。
【0099】
(4)<本発明の発酵乳製品の製造方法>
次に、本発明の容器入りの発酵乳製品1の製造方法の一例について以下説明する。ここでは、発酵乳製品用のソースの製造方法、発酵乳ミックスの製造方法、及び、発酵乳製品1の製造方法の順に以下説明する。
【0100】
(4-1)<発酵乳製品用のソースの製造方法>
まず、発酵乳製品1のソース層4を形成するソースの製造方法について下記説明する。この場合、加工デンプンを0.25重量%以上、ペクチンを0.15重量%以上配合するとともに、甘味料及び他の材料を配合してソース原料を作製する。この際、加工デンプン、ペクチン、安定剤の含有量を調整することで、10℃におけるソースの粘度を調整することができる。また、甘味料や果汁等の含有量を調整することで、ソースの糖度を調整することができる。
【0101】
次いで、このようにして作製したソース原料を攪拌しながら加熱する。攪拌しているソース原料の温度が95℃以上になったら、加熱及び攪拌を終了して冷却する。これにより、発酵乳製品用のソースを製造することができる(ソース製造工程)。
【0102】
(4-2)<発酵乳ミックスの製造方法>
次に、発酵することで、発酵乳製品1の発酵乳層3となる発酵乳ミックスの製造方法について下記説明する。この場合、例えば、生乳や、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、生クリーム、バター、乳たんぱく質濃縮物、原料水等を所定量加えて混合することにより発酵乳ベースを作製する。なお、発酵乳ベースに砂糖や、果汁等を添加してもよい。
【0103】
次いで、作製した発酵乳ベースを、約90℃~120℃の間で30秒以上、加熱殺菌した後、乳酸菌スタータを添加する。これにより、発酵乳ミックスを製造することができる(発酵乳ミックス製造工程)。なお、乳酸菌スタータとしては、例えば、ブルガリア菌や、サーモフィラス菌等の乳酸菌が用いることができる。
【0104】
(4-3)<発酵乳製品の製造>
次に、上述のようにして製造したソースを容器本体2aに収容する(ソース収容工程)。これにより、容器本体2a内に、ソースが層状になったソース層4が形成される。次いで、ソース層4が形成された容器本体2aに、発酵乳ミックスを収容する(発酵乳ミックス収容工程)。これにより、ソース層4の上に発酵乳ミックスによる発酵乳ミックス層が形成される。なお、本実施形態では、ソース収容工程の後に発酵乳ミックス収容工程を行う場合について述べたが、本発明はこれに限らず、始めに、容器本体2aに発酵乳ミックスを収容(発酵乳ミックス収容工程)した後に、ソースを容器本体2aに収容(ソース収容工程)するようにしてもよい。
【0105】
そして、容器本体2aに収容された発酵乳ミックスを、例えば、40℃前後で3~5時間発酵させる(発酵工程)。これにより、発酵乳からなる発酵乳層3がソース層4の上に形成された、容器入りの発酵乳製品1を製造することができる。なお、発酵温度、発酵時間等の条件は、発酵乳の製造における通常の条件を採用すればよい。
【0106】
(5)<作用及び効果>
以上の構成において、発酵乳製品用のソースでは、加工デンプンを0.25重量%以上含み、かつペクチンを0.15重量%以上含むようにした。このように、発酵乳製品用のソースでは、加工デンプン及びペクチンの両方を含有させ、さらにこれらの含有量を調整することにより、発酵乳製品1において、発酵乳層3及びソース層4の層状態を、従来よりも維持することができる。
【0107】
例えば、チョコレート等の種々の原材料を含有させた発酵乳製品用のチョコレートソース等、白色系の発酵乳に比べて色彩が濃いソースを用いても、発酵乳層3及びソース層4の層状態を維持させることができるので、製品開封時、消費者に対して白色系の発酵乳層3の表面のみを視認させることができ、良好な品質状態が保たれているとの印象を与えることができる。
【0108】
[実施例]
以下、本発明の第2実施形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。ここでは、発酵乳製品用のソースとして、下記の表2に示す原材料を調合して、実施例1~3及び比較例1~3に示すような、発酵乳製品用のチョコレートソース(以下、単にソースと称する)を作製した。なお、下記の表2に示す実施例1~3及び比較例1~3は、上述した第1実施形態の表1に示した実施例1~6及び比較例1~4とは異なるものであり、ここでは、説明の便宜上、実施例1~3及び比較例1~3として説明する。
【0109】
【0110】
<実施例1>
実施例1では、上記の表2に示すように、チョコレート原料13.5g、オレンジ果肉8.0g、砂糖32g、乳化剤1.0g、安定剤0.255g、pH調整剤0.6g、香料0.3g及び原料水43.645gに加え、さらに、LMペクチン(ユニー社製)を0.2重量%、コーン由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン(Purity660:イングレディオン社製)を0.5重量%加えて混合し、ソース原料を作製した。
【0111】
なお、実施例1や、後述する実施例2、3、比較例1~3におけるヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの含有量は、デンプン定量キット(コスモ・バイオ社製)を用いた比色検定(過酸化水素)により測定した測定値である。また、LMペクチンの含有量は、プロスキー法と高速液体クロマトグラフ法により測定した測定値である。
【0112】
次いで、ソース原料を攪拌しながら加温し始め、ソース原料が95℃に達温した時点で冷却し、実施例1のソースを製造した。
【0113】
<実施例2>
実施例2では、実施例1とは配合する原材料は同じであるが、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの含有量を変えて0.25重量%とした。なお、原料水は43.895gとした。そして、得られたソース原料を攪拌しながら加温し始め、ソース原料が95℃に達温した時点で冷却し、実施例2のソースを製造した。
【0114】
<実施例3>
実施例3では、実施例1とは配合する原材料は同じであるが、LMペクチンの含有量を変えて0.15重量%とした。なお、原料水は43.695gとした。そして、得られたソース原料を攪拌しながら加温し始め、ソース原料が95℃に達温した時点で冷却し、実施例3のソースを製造した。
【0115】
<比較例1>
比較例1では、実施例1と異なり、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンに換えて生デンプン(コーンスターチ)を0.5重量%含有させ、その他の原材料は実施例1と同様にした。なお、原料水は43.645gとした。そして、得られたソース原料を攪拌しながら加温し始め、ソース原料が95℃に達温した時点で冷却し、比較例1のソースを製造した。
【0116】
<比較例2>
比較例2では、実施例1と異なり、LMペクチンの含有量を0.15重量%未満の0.1重量%として、その他の原材料は実施例1と同様にした。なお、原料水は43.745gとした。そして、得られたソース原料を攪拌しながら加温し始め、ソース原料が95℃に達温した時点で冷却し、比較例2のソースを製造した。
【0117】
<比較例3>
比較例3では、実施例1と異なり、LMペクチンを含有させずに、その他の原材料は実施例1と同様にした。なお、原料水は43.845gとした。そして、得られたソース原料を攪拌しながら加温し始め、ソース原料が95℃に達温した時点で冷却し、比較例3のソースを製造した。
【0118】
<ソースの粘度及び糖度>
次に、上述した実施例1~3及び比較例1~3の各ソースを10℃以下で冷蔵保管し、翌日、10℃における各ソースの粘度の測定と、糖度とを測定した。その結果、上記の表2の「粘度(cP:10℃)」と「Brix(°)」とに示すような結果が得られた。
【0119】
ここで、各ソースの粘度は、回転式B型粘度計(例えば、東機産業社製の「TVB10形粘度計」)を用いて、測定温度10℃で、No.4ローター(コードM23)を測定対象物であるソース中に侵入及び回転(60rpm、30秒間)させた後の測定値である。
【0120】
実施例1~3の粘度は、9000cP以上、より具体的には10000cP以上、11000cP以上となったが、比較例1のソースの粘度は、9000cP未満となった。また、比較例3のソースの粘度は、10000cP未満、比較例2のソースの粘度は、11000cP未満となった。
【0121】
また、各ソースの糖度は、デジタル糖度計(アズワン社のIPR-201α)による測定値である。
【0122】
実施例1~3のソースと、比較例1~3のソースとでは、上述したようにそれぞれ異なる粘度となったが、糖度はそれぞれ40°以上となり、最適な糖度となった。
【0123】
<発酵乳ミックスの製造>
次に、発酵乳層3及びソース層4を有する後発酵型の発酵乳製品を製造するために、まず、発酵乳層3となる発酵乳ミックスを作製した。ここでは、脱脂粉乳115g、クリーム105g、砂糖30g、スクラロース0.5g、原料水719.5gを混合して、970gの発酵乳ベースを作製した。次いで、発酵乳ベースを95℃で、5分間殺菌した。
【0124】
ブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(寄託番号:NITE BP-01569))とサーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus OLS3615(寄託番号:NITE BP-01696))を混合し、10%脱脂粉乳培地で培養した乳酸菌スタータを作製した。そして、30gの乳酸菌スタータを上記の発酵乳ベース970gに添加して、固形分17.7%の発酵乳ミックスを1000g調製した。
【0125】
<容器入りの発酵乳製品の製造とその評価>
次に、上述した実施例1~3及び比較例1~3の各ソース16gをそれぞれ容器本体2aに充填してソース層4を形成した。その後、容器本体2a毎に各ソース層の上に上記の発酵乳ミックスを64g充填して、ソース層4上に発酵乳ミックス層を形成した。次いで、発酵乳ミックスを40℃前後で3~5時間発酵させ、容器本体2a内において、ソース層4の上に発酵乳層3を有する容器入りの発酵乳製品1を製造した。
【0126】
次いで、実施例1~3及び比較例1~3のソースを用いた発酵乳製品について、発酵終了時、容器内を上から見たとき、発酵乳層3の表面が作製時のままの状態であるか否かについて確認した。
【0127】
その結果、加工デンプンを0.50重量%以上含み、かつペクチンを0.20重量%以上含む実施例1のソースと、加工デンプンを0.25重量%以上含み、かつペクチンを0.20重量%以上含む実施例2のソースと、加工デンプンを0.50重量%以上含み、かつペクチンを0.15重量%以上含む実施例3のソースと、については、発酵終了時点で、容器内を上から見ると、発酵乳層3の表面が作製時のままの状態であった。このことは、発酵乳層3及びソース層4の層状態が維持されていることを示す。一方、加工デンプン及びペクチンを所定含有量含んでいない比較例1~3のソースでは、発酵終了時点で、発酵乳層3及びソース層4の層状態が維持されず、発酵乳層3の表面にソースが見えていた。
【0128】
次に、各容器入りの発酵乳製品1を作製後に10℃以下で冷蔵したまま1日保管し、その後、トラックに積載して冷蔵状態のまま1日運行することで、最終製品である容器入りの発酵乳製品1を店舗に搬送するまでの状況を疑似的に再現した。そして、このような振動評価試験を行い、製品搬送終了時、容器内を上から見たとき、発酵乳層3の表面が作製時のままの状態であるか否かについて確認した。
【0129】
なお、発酵終了時点で既にいくつかの発酵乳製品において、比較例1~3については、発酵終了時点で発酵乳層3の表面が作製時のままの状態であったものだけを選び、10℃以下で冷蔵したまま1日保管し、その後、トラックに積載して冷蔵状態のまま1日運行した(振動評価試験)。
【0130】
その結果、加工デンプンを0.50重量%以上含み、かつペクチンを0.20重量%以上含む実施例1のソースと、加工デンプンを0.25重量%以上含み、かつペクチンを0.20重量%以上含む実施例2のソースと、加工デンプンを0.50重量%以上含み、かつペクチンを0.15重量%以上含む実施例3のソース、については、振動を与えた後でも、容器内を上から見ると、全ての発酵乳製品1について、発酵乳層3の表面が作製時のままの状態であり、発酵乳層3及びソース層4の層状態が維持されていた。
【0131】
また、加工デンプンを0.25重量%以上含んだ比較例2,3のソースでも、振動を与えた後に、全ての発酵乳製品1について、発酵乳層3の表面が作製時のままの状態であった。一方、加工デンプンに換えて生デンプンを含有している比較例1のソースでは、振動を与えた後に、発酵乳層3の表面にソースが現れていた。
【0132】
以上より、加工デンプン(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン)を0.25重量%以上含み、かつペクチン(LMペクチン)を0.15重量%以上含む発酵乳製品用のソースを用いることで、発酵終了時点と、製品搬送終了時点と、の両方で、全ての発酵乳製品1について、発酵乳層3及びソース層4の層状態を維持できることが確認できた。
【0133】
<3.他の実施形態>
なお、上述した第1実施形態の容器入り多層発酵乳製品と、第2実施形態のソース(糖液)とは、適宜組み合わせるようにしてもよい。例えば、上述した第1実施形態の容器入り多層発酵乳製品に、第2実施形態のソース(糖液)を適用してもよい。この場合、第1実施形態における糖液には、第2実施形態で説明した加工デンプン及びペクチンを含有させる。
【0134】
具体的には、第1実施形態における糖液(ソース)として、固形分が20.0質量%以上であり、かつ、加工デンプンを0.25重量%以上含み、ペクチンを0.15重量%以上含む、糖液を用いることができる。これにより、第1実施形態における容器入り多層発酵乳製品においても、第1実施形態の効果に加えて、さらに、発酵乳の層及び糖液の層の層状態を、従来よりも維持させることができる。
【0135】
なお、この際、第1実施形態における糖液は、第2実施形態で説明したように、加工デンプンがヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンであることが望ましく、また、ペクチンがLMペクチンであることが望ましい。
【符号の説明】
【0136】
1 発酵乳製品
2 容器
3 発酵乳層
4 ソース層