(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法、該製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液、および該ヒドロキシエチルセルロース溶液を含む半導体用濡れ剤ならびに研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C08B 11/08 20060101AFI20240802BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240802BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240802BHJP
【FI】
C08B11/08
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2020101764
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】丹所 久典
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 恵
(72)【発明者】
【氏名】須賀 裕介
(72)【発明者】
【氏名】向井 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】秋月 麗子
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 雄彦
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-034509(JP,A)
【文献】特開2003-012535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、アルカリと、ヒドロキシエチルセルロースと、を含むヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法であって、
前記水、前記アルカリ、および原料ヒドロキシエチルセルロースを含む溶液を準備する第一工程と、
前記第一工程で得られた溶液を酸性にする第二工程と、
前記第二工程で得られた溶液を15分以上放置する第三工程と、
前記第三工程で得られた溶液をアルカリ性にする第四工程と、
を含む、ヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第二工程は、前記第一工程で得られた溶液のpHを5以下にすることを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第四工程は、前記アルカリ性にする工程を経て得られた溶液を、ろ過する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液
であって、
前記ヒドロキシエチルセルロース溶液はアルカリ性であり、
下記方法により測定される前記ヒドロキシエチルセルロース溶液の相対ろ過速度は、
前記原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量が750,000未満のときは3.67以上であり、前記原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量が750,000以上のときは1.90以上である、ヒドロキシエチルセルロース溶液:
〔原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量が750,000未満のときの相対ろ過速度〕
1.作製したヒドロキシエチルセルロース溶液を一部取り出し、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)の濃度が0.82質量部となるように脱イオン水(DIW)を用いて希釈し、ヒドロキシエチルセルロース希釈液を得る
2.得られたヒドロキシエチルセルロース希釈液100gを、ろ過フィルター(孔径0.2μm)を用いて吸引ろ過を行い、ろ過開始から10分経過後に通液した液の質量(単位:g)を測定し、下記式に従って、HEC流速を算出する。ろ過試験時真空圧力は0.0175MPaとする
HEC流速=(通液した液の質量(g))/10(min))
3.脱イオン水100gについても、同様のフィルターを用いて吸引ろ過を行い、通液時間を測定し、下記式に従ってDIW流速を算出する
DIW流速=100(g)/通液時間(sec)
4.得られたDIW流速に対するHEC流速の比を、相対ろ過速度として算出する:
〔原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量が750,000以上のときの相対ろ過速度〕
1.作製したヒドロキシエチルセルロース溶液を一部取り出し、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)の濃度が0.36質量%となるように脱イオン水(DIW)を用いて希釈し、ヒドロキシエチルセルロース希釈液を得る
2.得られたヒドロキシエチルセルロース希釈液500gを、ろ過フィルター(孔径3μm)を用いて吸引ろ過を行い、ろ過開始から全量通液するまでの時間を計測し、下記式に従って、HEC流速を算出する。ろ過試験時真空圧力は0.0175MPaとする
HEC流速=(500(g))/(全量通液するまでの時間(min))
3.脱イオン水500gについても、同様のフィルターを用いて吸引ろ過を行い、通液時間を測定し、下記式に従ってDIW流速を算出する
DIW流速=500(g)/通液時間(sec)
4.得られたDIW流速に対するHEC流速の比を、相対ろ過速度として算出する。
【請求項5】
請求項4に記載のヒドロキシエチルセルロース溶液を含む、半導体用濡れ剤。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体用濡れ剤と、砥粒とを含む、研磨用組成物。
【請求項7】
シリコンウェーハの研磨に用いられる、請求項6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項4に記載のヒドロキシエチルセルロース溶液と砥粒を混合する工程を含む、請求項6または7に記載の研磨用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法、該製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液、および該ヒドロキシエチルセルロース溶液を含む半導体用濡れ剤ならびに研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子は、分散剤、増粘剤、乳化重合安定剤、保護コロイド、塗料、化粧品、保水剤、医薬製剤、研磨助剤などの種々の用途に利用されている。これらの中でも、半合成高分子化合物であるヒドロキシエチルセルロースは、特に、分散性、増粘性などの特性に優れる。ヒドロキシエチルセルロースは、特に、シリコンウェーハなどに代表される半導体基板など種々の基板のリンス工程や研磨工程において、基板表面の保護や濡れ性を向上させる助剤として利用されている。
【0003】
特許文献1には、砥粒と組み合わせて研磨除去速度を向上できる研磨助剤として有用な、乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1は、合成された未乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースを乾燥させた後に粉砕して、乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースを得ることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヒドロキシエチルセルロース溶液は、濃度を低下させ、粘度を低下させて十分なろ過性を得た後ろ過を行っており、ろ過工程に起因する生産性の低下が問題となっていた。
【0006】
そこで本発明は、ろ過性が向上し、種々の製品に用いた際に製品性能を向上させうるヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その結果、水と、アルカリと、ヒドロキシエチルセルロースと、を含むヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法であって、前記水、前記アルカリ、および原料ヒドロキシエチルセルロースを含む溶液を準備する第一工程と、前記第一工程で得られた溶液のpHを酸性に調整する第二工程と、前記第二工程で得られた溶液を15分以上放置する第三工程と、前記第三工程で得られた溶液をアルカリ性にする第四工程と、を含む、ヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法によって上記課題が解決することを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ろ過性が向上し、種々の製品に用いた際に製品性能を向上させうるヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0010】
本発明の一形態は、水と、アルカリと、ヒドロキシエチルセルロースと、を含むヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法であって、前記水、前記アルカリ、および原料ヒドロキシエチルセルロースを含む溶液を準備する第一工程と、前記第一工程で得られた溶液のpHを酸性に調整する第二工程と、前記第二工程で得られた溶液を15分以上放置する第三工程と、前記第三工程で得られた溶液をアルカリ性にする第四工程と、を含む、ヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法である。かような製造方法により得られたヒドロキシエチルセルロース溶液は、ろ過性が向上し、種々の製品に用いた際に製品性能を向上させることができる。
【0011】
本発明の製造方法により製造されるヒドロキシエチルセルロース溶液のろ過性が向上するメカニズムについて、詳細は不明であるが、以下のように考えられる。
【0012】
一般に、原料となる粉末のヒドロキシエチルセルロース(原料HEC)は、過溶解を防止するために、その表面に疎水化物(本明細書では、「ママコ防止剤」とも称する)が付加されている。そのため、原料HECを水に溶解させると、ママコ防止剤に由来する原料HECの未溶解物が一部生じる。そして、その未溶解物がHEC溶液のろ過性を低下させる。ここに開示される製造方法においては、第一工程で溶液をアルカリ性に調整することで、原料HECからママコ防止剤を脱離しやすくさせることに加え、第二工程で溶液を酸性に調整すること、第三工程で15分以上溶液を放置すること、および第四工程で溶液をアルカリ性に調整することにより、原料HECからママコ防止剤の脱離がさらに進み、原料HECがより水に溶解できる状態となる。これにより、溶液中の未溶解物が減少し、得られるヒドロキシエチルセルロース溶液は、ろ過性が向上し、種々の製品の性能も向上させることが可能になると考えられる。
【0013】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本願の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
<ヒドロキシエチルセルロース溶液およびその製造方法>
[第一工程]
本工程では、水、アルカリ、およびヒドロキシエチルセルロース(原料HEC)を含む溶液を準備する。
【0016】
なお、本明細書において、「溶液」とは、ヒドロキシエチルセルロースが完全に溶解している状態の液のみならず、ヒドロキシエチルセルロースの少なくとも一部が溶解している状態の液をも包含するものである。この際、残りのヒドロキシエチルセルロースは、溶媒に分散している状態(未溶解)であってもよい。また、本明細書において、「溶解させる」とは、溶解させることまたは分散させることを表す。
【0017】
(水)
本発明で用いられる水は、不純物をできる限り含有しないことが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0018】
水に加えて任意で有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0019】
溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、溶媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%(水のみ)であることがさらに好ましい。
【0020】
(アルカリ)
アルカリとは、溶液に添加されることによって該溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。当該アルカリは、疎水性である上記ママコ防止剤の脱離を促進させる。
【0021】
本発明で使用されるアルカリとしては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。第2族金属の水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。これらアルカリは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0022】
アルカリは、ママコ防止剤の除去等の観点から、アンモニア、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、炭酸塩または炭酸水素塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、なかでも、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0023】
アルカリの添加量は、特に制限されず、溶液のpHが、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上、さらに好ましくは9.0以上、さらにより好ましくは9.5以上、特に好ましくは10.0以上となる量であればよい。また、溶液のpHが、好ましくは13.0以下、より好ましくは12.5以下、さらに好ましくは12.0以下、さらにより好ましくは11.5以下、特に好ましくは11.0以下となる量であればよい。
【0024】
なお、本発明において、溶液のpHはpHメーターで測定することができる。より詳細には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
(ヒドロキシエチルセルロース)
本工程で準備される原料のヒドロキシエチルセルロース(「原料ヒドロキシエチルセルロース」、または「原料HEC」とも称する)は、市販品でもよいし合成品でもよい。合成方法としては、アルカリセルロースとエチレンオキシドとを溶媒中で混合し反応させる方法等、従来公知の方法が挙げられる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る原料HECとしては、粉体を用いることが好ましい。上述したように、一般に、粉体の原料HECは、過溶解を防止するためのママコ防止剤を含んでいる。
【0027】
上記ママコ防止剤の種類は特に限定されず、分子内にCHO基を有するものであれば特に限定されない。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリセリンアルデヒド等のモノアルデヒド;シュウ酸ジアルデヒド(エタンジアール)、マロン酸ジアルデヒド(プロパンジアール)、コハク酸ジアルデヒド(ブタンジアール)、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド、オクタンジアルデヒド、フタルアルデヒド等のジアルデヒド;トリホルミルメタン、トリホルミルエタン等のトリアルデヒド;等が挙げられる。これらのママコ防止剤は、単独であることも、2種以上が組み合わされている場合もありえる。
【0028】
本発明で用いられる原料HEC中のママコ防止剤の割合は、例えば0.03~0.3質量%である。ママコ防止剤の割合が少なすぎると、架橋の程度が小さすぎて、水中でダマになる虞があり、逆に多すぎると、架橋の程度が大きすぎて、水に対する溶解性が低下する虞がある。なお、本明細書において、ママコ防止剤の割合は、ヒドラジンで誘導体化した化合物を分光光度計で吸光度測定することにより評価できる。
【0029】
本発明で用いられる原料HECの質量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、ろ過性の向上効果がより顕著になるとの観点から、1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましく、例えば150,000以上であってもよく、200,000以上であってもよい。また幾つかの態様においては、350,000以上であることが好ましく、500,000以上であることがさらに好ましく、700,000以上であることがよりさらに好ましく、900,000以上であることが特に好ましく、例えば1,250,000以上であってもよい。また、原料HECの質量平均分子量(Mw)は、ろ過性の観点から、4,000,000以下であることが好ましく、3,000,000以下であることがより好ましく、2,800,000以下であることがさらに好ましく、1,500,000以下であることがよりさらに好ましく、1,000,000以下であることが特に好ましく、例えば750,000以下であってもよく、450,000以下であってもよい。すなわち、原料HECの質量平均分子量(Mw)は、1,000以上4,000,000以下が好ましく、10,000以上3,000,000以下がより好ましく、100,000以上2,800,000以下がさらに好ましい。また、原料HECの質量平均分子量(Mw)は1,000以上1,000,000以下(例えば100,000以上800,000以下、典型的には150,000以上750,000以下、具体的には200,000以上450,000以下)であってもよく、650,000以上4,000,000以下(例えば700,000以上3,000,000以下、典型的には750,000以上2,800,000以下)であってもよい。
【0030】
原料HECの質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には、実施例に記載の測定方法により測定できる。
【0031】
原料HECの添加量(濃度)は、特に制限されないが、溶液の全質量に対して、0.00001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましく、0.1質量%以上がさらにより好ましく、0.25質量%以上が特に好ましい。また、原料HECの添加量(濃度)は、溶液の全質量に対して、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、2.5質量%以下がさらに好ましく、2.0質量%がさらにより好ましく、例えば1.5質量%以下であってもよい。
【0032】
本工程では、上記で説明した水、アルカリ、および原料HECを混合して溶液を得る。混合方法は特に制限されないが、アルカリおよび原料HECを水に添加し、混合攪拌する方法が好ましい。攪拌する方法は特に制限されず、従来公知の液の攪拌方法を用いることができる。混合温度は特に制限されないが、一般的には20℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。混合時間も特に制限されない。
【0033】
[第二工程]
本工程では、上記第一工程で得られた溶液のpHを酸性に調整する。本工程を行うことにより、ママコ防止剤の脱離をさらに促進させる。
【0034】
溶液のpHを酸性に調整する方法としては、特に制限されず、例えば、溶液に酸を添加する方法、溶液を陽イオン交換樹脂で処理する方法等が挙げられる。
【0035】
酸としては、無機酸、有機酸のいずれも用いることができる。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、安息香酸、p-アミノ安息香酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、シトラコン酸、リンゴ酸、グルタル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等が挙げられる。これら酸は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0036】
なかでも、ママコ防止剤の脱離を促す観点から、硝酸、硫酸および塩酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0037】
酸の添加量は、特に制限されず、下記の好ましい溶液のpHの範囲になる量であればよい。
【0038】
第二工程を行う際の溶液の温度は、特に制限されないが、10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがより好ましい。また、第二工程を行う際の溶液の温度は、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。すなわち、第二工程を行う際の溶液の温度は、10℃以上40℃以下であることが好ましく、15℃以上35℃以下であることがより好ましく、20℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本工程を行った後の溶液のpHの上限は、5以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。例えば、3.5以下であり、3.0以下が特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、第二工程において、溶液のpHを5以下にすることを含む。
【0040】
また、本工程を行った後の溶液のpHの下限は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。したがって、本工程を行った後の溶液のpHは、1.0以上5.0以下が好ましく、1.5以上4.0以下がより好ましく、2.0以上3.5以下がさらに好ましいく、2.0以上3.0以下が特に好ましい。
【0041】
なお、第二工程を行う際には、必要に応じて溶液を攪拌してもよい。攪拌方法は特に制限されず、従来公知の攪拌方法を適宜採用することができる。
【0042】
[第三工程]
本工程は、上記第二工程で得られた溶液を15分以上放置する工程である。本工程を行うことにより、ママコ防止剤の脱離をさらに促進させる。
【0043】
本工程は、非加熱で行うことが好ましい。ここで、本明細書において、「非加熱」とは、意図的な加熱を行わずに、溶液が40℃以下の状態であることを意味する。非加熱で本工程を行うことにより、加水分解等によるHEC分子の切断が起こらず、原料HECが有する特性をほとんど変化させずに、ママコ防止剤の脱離を進行させることができるという利点を有する。具体的には、放置する際の溶液の温度(放置温度)の上限は、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。また、放置温度の下限は、10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。すなわち、放置温度は、10℃以上40℃以下であることが好ましく、15℃以上35℃以下であることがより好ましく、20℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本工程における溶液の放置時間は、15分以上である。放置時間が15分未満の場合、ママコ防止剤が付加した形態のHECが溶液中に残存しやすく、ろ過性が低下する。当該放置時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは6時間以上、さらにより好ましくは12時間以上である。また、当該放置時間は、好ましくは144時間以下、より好ましくは72時間以下、さらに好ましくは36時間以下である。すなわち、放置時間は、好ましくは3時間以上144時間以下、より好ましくは6時間以上72時間以下、さらに好ましくは12時間以上36時間以下である。ここで、放置時間の起算点は、第二工程が終了した時点、すなわち所望の溶液のpHが得られた時点とする。
【0045】
なお、第三工程を行う際には、必要に応じて溶液を攪拌してもよい。攪拌方法は特に制限されず、従来公知の攪拌方法を適宜採用することができる。
【0046】
[第四工程]
本工程は、上記第三工程の後に得られる溶液をアルカリ性にする工程である。本工程を行うことにより、HECからママコ防止剤が脱離し、原料HECがほとんどまたは完全に水に溶解し、未溶解の原料HECもほとんど残らないため、ろ過性が向上する。また、得られたヒドロキシエチルセルロース溶液を種々の製品に使用しても、その性能を向上させることができる。
【0047】
溶液をアルカリ性にする方法としては、特に制限されないが、溶液にアルカリを添加する方法が好ましい。アルカリの具体例としては、上記第一工程のアルカリの項で例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。アルカリは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0048】
かようなアルカリの中でも、アンモニア、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、炭酸塩または炭酸水素塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、なかでも、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0049】
アルカリの添加量は、特に制限されないが、下記の好ましいpHの範囲になる量であることが好ましい。
【0050】
第四工程を行う際の溶液の温度は、特に制限されないが、10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがより好ましい。また、第四工程を行う際の溶液の温度は、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。すなわち、第四工程を行う際の溶液の温度は、10℃以上40℃以下であることが好ましく、15℃以上35℃以下であることがより好ましく、20℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
【0051】
溶液をアルカリ性にする工程を行った後の溶液のpHの下限は、特に限定されないが、9.0以上が好ましく、9.5以上がより好ましく、10.0以上がさらに好ましい。また、本工程を行った後の溶液のpHの上限は、12.0以下であることが好ましく、11.5以下がより好ましく、11.0以下がさらに好ましい。したがって、本工程を行った後の溶液のpHは、9.0以上12.0以下が好ましく、9.5以上11.5以下がより好ましく、10.0以上11.0以下がさらに好ましい。
【0052】
なお、第四工程を行う際には、必要に応じて溶液を攪拌してもよい。攪拌方法は特に制限されず、従来公知の攪拌方法を適宜採用することができる。
【0053】
(ろ過工程)
本発明の好ましい一実施形態において、第四工程はろ過工程を含む。上記の、溶液をアルカリ性にする工程の後に、得られた溶液をろ過する工程を含むことが好ましい。このろ過工程を行うことにより、本発明の効果がさらに効率よく奏される。
【0054】
本ろ過工程で使用されるフィルターの材質としては、特に制限されず、例えば、セルロース混合エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、再生セルロース、ポリアミド、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ナイロン、ナイロン66、ポリスルホン、ポリエステル、ポリプロピレン/ポリエチレン、アクリル共重合体、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシブチレート、ポリブタジエン、ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
【0055】
フィルターの構造も、特に制限されず、デプス構造、プリーツ構造、メンブレン構造等が挙げられる。
【0056】
フィルターの孔径は、特に制限されないが、0.03μm以上であることが好ましく、0.04μm以上であることがより好ましく、0.05μm以上であることがさらに好ましく、0.1μm以上であることがさらにより好ましく、0.2μm以上であることが特に好ましい。フィルターの孔径が0.03μm以上であると、高いろ過速度が得られることから好ましい。また、フィルターの孔径は、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。具体的には20μm以下であり、10μm以下であってもよく、さらに5μm以下であってもよく、1μm以下であってもよい。フィルターの孔径が100μm以下であると、ろ過の精度が向上することから好ましい。
【0057】
ろ過方法としては、常圧で行う自然ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過のいずれであってもよい。
【0058】
なお、上記ろ過工程は、必要に応じて、上記の、溶液をアルカリ性にする工程の後に替えて前に行ってもよく、上記第四工程の、溶液をアルカリ性にする工程の後に加えて前に行ってもよい。
【0059】
以上説明した本発明の製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液は、ろ過性に優れ、種々の製品に用いた際に製品性能を向上させうる。すなわち、本発明の一形態によれば、上記の製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液を提供する。
【0060】
ここに開示されるヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液、または、ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物に用いられるヒドロキシエチルセルロース溶液の相対ろ過速度は、本発明のヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法を行っていない原料ヒドロキシエチルセルロース溶液の相対ろ過速度と比べて、大きいという傾向を有する。すなわち、上記相対ろ過速度は、特に制限されないが、原料ヒドロキシエチルセルロース溶液に含まれる原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)が750,000以下のときは3.67以上であることが好ましい。また、原料ヒドロキシエチルセルロース溶液に含まれる原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)が750,000以上のときは1.90以上であることが好ましい。なお、相対ろ過速度は、実施例に記載の測定方法により測定できる。
【0061】
ここに開示されるヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法により製造された溶液に含まれるヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)は、原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)と比べて、ほとんど変化しないという特長を有する。具体的には、原料ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)を100としたとき、本発明の製造方法により得られた溶液に含まれるヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量の相対値は、好ましくは90以上110以下、より好ましくは92以上108以下、さらに好ましくは93以上107以下である。このように、本発明の製造方法は、原料ヒドロキシエチルセルロースが有する特性にほとんど影響を与えずに、ヒドロキシエチルセルロース溶液を製造することができるという利点を有する。
【0062】
ここに開示されるヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液、または半導体用濡れ剤および研磨用組成物に用いられるヒドロキシエチルセルロース溶液、に含まれるヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、研磨工程後の表面品質の向上の観点から、1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましく、例えば150,000以上であってもよく、200,000以上であってもよい。また幾つかの態様においては、350,000以上であることが好ましく、500,000以上であることがさらに好ましく、700,000以上であることがよりさらに好ましく、900,000以上であることが特に好ましく、例えば1,250,000以上であってもよい。また、上記ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)は、半導体用濡れ剤の表面処理能の向上および研磨用組成物の研磨除去速度の向上の観点から、4,000,000以下であることが好ましく、3,000,000以下であることがより好ましく、2,800,000以下であることがさらに好ましく、1,500,000以下であることがよりさらに好ましく、1,000,000以下であることが特に好ましく、例えば750,000以下であってもよく、450,000以下であってもよい。すなわち、上記ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)は、1,000以上4,000,000以下が好ましく、10,000以上3,000,000以下がより好ましく、100,000以上2,800,000以下がさらに好ましい。また、上記ヒドロキシエチルセルロースの質量平均分子量(Mw)は1,000以上1,000,000以下(例えば100,000以上800,000以下、典型的には150,000以上750,000以下、具体的には200,000以上450,000以下)であってもよく、650,000以上4,000,000以下(例えば700,000以上3,000,000以下、典型的には750,000以上2,800,000以下)であってもよい。
【0063】
<半導体用濡れ剤、研磨用組成物およびその製造方法>
本発明のその他の一形態は、上記の製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液を含む、半導体用濡れ剤および研磨用組成物に関する。本形態に係る半導体用濡れ剤は欠陥の因子となり得る原料ヒドロキシエチルセルロースの未溶解物が低減されているため、基板表面を好適に処理できる。また、該半導体用濡れ剤を含む研磨用組成物は、研磨後の基板表面で観察される欠陥の一種である、LPD-N(Light Point Defect Non-cleanable)が有意に低減される。
【0064】
(ヒドロキシエチルセルロース)
半導体用濡れ剤中のヒドロキシエチルセルロースの含有量は、特に制限されない。総質量に対して、0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がより好ましく、0.001質量%以上がさらに好ましい。また、ヒドロキシエチルセルロースの含有量は、1質量%以下とすることが好ましく、0.7質量%以下とすることがより好ましい。半導体用濡れ剤中のヒドロキシエチルセルロースの含有量が上記範囲内であると、基板表面を好適に処理することができる。研磨用組成物中のヒドロキシエチルセルロースの含有量は、特に制限されない。ヘイズ低減等の観点から、総質量に対して、0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がより好ましく、0.001質量%以上がさらに好ましい。また、研磨除去速度等の観点から、ヒドロキシエチルセルロースの含有量は、1質量%以下とすることが好ましく、0.7質量%以下とすることがより好ましい。
【0065】
(分散媒)
半導体用濡れ剤および研磨用組成物に含まれる分散媒は、ヒドロキシエチルセルロース溶液が水を含むため、水を含む分散媒であることが好ましい。分散媒中の水の含有量は、特に制限されないが、分散媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%(水のみ)であることがさらに好ましい。水は、洗浄対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0066】
半導体用濡れ剤および研磨用組成物に使用される分散媒は、各成分の分散性または溶解性を向上させることができる場合、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、特に制限されず公知の有機溶媒を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒とする場合は、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が好ましく用いられる。
【0067】
(砥粒)
研磨用組成物には、砥粒が含まれる。砥粒の種類は特に制限されず、例えば、無機粒子、有機粒子、有機無機複合粒子等が挙げられる。これらの中でも、無機粒子が好ましい。無機粒子としては、特に制限されないが、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。これらの中でも、シリカ粒子がより好ましく、コロイダルシリカ粒子、フュームドシリカ粒子がさらに好ましく、コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。砥粒は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。半導体用濡れ剤には、砥粒が含まれない。
【0068】
砥粒の平均一次粒子径は、特に制限されないが、研磨効率等の観点から、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。ヘイズの低減や欠陥の除去等の効果を得る観点から、上記平均一次粒子径は、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、例えば20nm超とすることができる。また、砥粒が基板表面に与える局所的なストレスを抑制する観点から、砥粒の平均一次粒子径は100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましい。ここに開示される技術は、より高品位の表面が得られやすいこと等から、平均一次粒子径が50nm以下、典型的には40nm未満、より好ましくは35nm以下の砥粒を用いる態様でも好ましく実施されうる。
【0069】
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0070】
砥粒の平均二次粒子径は、特に制限されないが、研磨効率等の観点から、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらにより好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。ヘイズの低減や欠陥の除去等の効果を得る観点から、上記平均二次粒子径は、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。また、砥粒が基板表面に与える局所的なストレスを抑制する観点から、砥粒の平均二次粒子径は300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、125nm以下であることがさらにより好ましい。ここに開示される技術は、より高品位の表面が得られやすいこと等から、平均二次粒子径が100nm以下、例えば80nm未満(典型的には45nm以下)の砥粒を用いる態様でも好ましく実施されうる。砥粒の平均二次粒子径の減少によって、研磨用組成物の安定性は向上する。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA-UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0071】
砥粒の含有量は、特に制限されないが、研磨除去速度向上等の観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%以上とすることが好ましく、0.1質量%以上とすることがさらに好ましく、例えば0.2質量%以上、典型的には0.3質量%以上とすることがより好ましい。また、表面品位向上等の観点から、上記濃度は、25質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがさらに好ましく、例えば10質量%以下、典型的には5質量%以下、さらには1質量%以下、具体的には0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0072】
(アルカリ)
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、アルカリを含有してもよい。アルカリの種類は、特に制限されないが、具体例としては、上記第一工程のアルカリの項で例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。アルカリは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0073】
かようなアルカリの中でも、基板表面を好適に処理する観点や研磨除去速度を向上する観点から、アンモニア、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、炭酸塩または炭酸水素塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、なかでも、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0074】
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物がアルカリを含む場合、半導体用濡れ剤および研磨用組成物におけるアルカリの含有量は特に制限されない。基板表面を好適に処理する観点や研磨除去速度を向上する観点から、通常は、上記濃度を研磨液の0.0001質量%以上とすることが好ましく、0.0005質量%以上、例えば0.001質量%以上、典型的には0.002質量%以上とすることがより好ましい。また、表面品位向上等の観点から、上記濃度は、15質量%未満とすることが適当であり、10質量%未満とすることが好ましく、5質量%未満とすることがより好ましく、1.0質量%未満とすることがさらに好ましく、0.5質量%未満とすることがさらにより好ましい。
【0075】
(酸化剤)
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。半導体用濡れ剤および研磨用組成物に酸化剤が含まれていると、当該半導体用濡れ剤および研磨用組成物が基板に供給されることで該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより基板の表面品位や研磨除去速度が低下してしまうことがあり得るためである。上記基板は、例えばシリコンウェーハである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、半導体用濡れ剤および研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。
【0076】
(任意成分)
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、任意成分として、セルロース誘導体以外の水溶性高分子(以下、任意ポリマーという。)を含有してもよい。そのような任意ポリマーとしては、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられる。任意ポリマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、このような任意ポリマーを実質的に含有しない態様であり得る。
【0077】
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、任意成分として、界面活性剤(以下、任意界面活性剤という。)を含有してもよい。そのような任意界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。通常は、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体;複数種のオキシアルキレンの共重合体;等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。ポリオキシアルキレン誘導体は、例えば、ポリオキシアルキレン付加物である。複数種のオキシアルキレンの共重合体は、例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体である。界面活性剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、このような界面活性剤を実質的に含有しない態様であり得る。
【0078】
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、任意成分として、キレート剤(以下、任意キレート剤という。)を含有してもよい。そのような任意キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、任意成分として、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩を含有してもよい。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の例としては、有機酸のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩等やアンモニウム塩等が挙げられる。無機酸の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。無機酸塩の例としては、無機酸のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩等やアンモニウム塩が挙げられる。有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に制限されず、例えば、pH調整剤、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、還元剤等の公知の半導体用濡れ剤および研磨用組成物に用いられる成分が挙げられる。ここに開示される半導体濡れ剤および研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含有しない態様であり得る。
【0081】
(pH)
ここに開示される半導体用濡れ剤のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。また、半導体用濡れ剤のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.5以下であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましく、10.8以下であることがさらに好ましく、例えば10.5以下である。半導体用濡れ剤のpHが上記範囲内にあると基板の表面を好適に処理できる。
【0082】
ここに開示される研磨用組成物のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上、例えば10.0以上である。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨除去速度が向上する傾向にある。一方、砥粒の溶解を防いで機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.5以下であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましく、10.8以下であることがさらに好ましく、例えば10.5以下である。
【0083】
pHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。pHメーターとしては、例えば、堀場製作所製のLAQUA(登録商標)またはその相当品を用いることができる。標準緩衝液としては、フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃)を用いることができる。
【0084】
(用途)
ここに開示される技術における半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する基板の処理や研磨に適用され得る。基板の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された基板であってもよい。
【0085】
ここに開示される技術における半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、シリコンからなる表面の処理や研磨、典型的にはシリコンウェーハの処理や研磨に特に好ましく使用され得る。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、シリコンからなる表面を有する基板の処理や研磨に好適に使用され得る。
【0086】
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、例えばシリコンウェーハ等ののリンス工程やポリシング工程に好ましく適用することができる。基板には、ここに開示される半導体用濡れ剤や研磨用組成物によるリンス工程やポリシング工程の前に、ラッピングやエッチング等の、リンス工程やポリシング工程より上流の工程において基板に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0087】
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.01nm~100nmの表面状態に調製された基板(例えばシリコンウェーハ)のリンスやポリシングにおいて好ましく用いられ得る。基板の表面粗さRaは、例えば、SchmittMeasurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。ファイナルポリシング(仕上げ研磨)、その後のリンスまたはファイナルポリシングの直前のポリシングでの使用が効果的であり、ファイナルポリシング、その後のリンスにおける使用が特に好ましい。ここで、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程、すなわちその工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程を指す。ここに開示される研磨用組成物は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程で行われるポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。ここに開示される半導体用濡れ剤は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程の後に行われるリンス工程に用いられてもよい。
【0088】
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、典型的には該半導体用濡れ剤および研磨用組成物を含む濡れ剤液および研磨液の形態で基板に供給されて、その基板の処理や研磨に用いられる。上記濡れ剤液および研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの半導体用濡れ剤、研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。上記希釈は、典型的には、水による希釈である。あるいは、該半導体用濡れ剤、研磨用組成物をそのまま濡れ剤液、研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における半導体用濡れ剤および研磨用組成物の概念には、基板に供給されて該基板の処理や研磨に用いられる濡れ剤液や研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して濡れ剤液や研磨液として用いられる濃縮液、すなわち濡れ剤液や研磨液の原液との双方が包含される。ここに開示される半導体用濡れ剤や研磨用組成物を含む濡れ剤液や研磨液の他の例として、該濡れ剤や組成物のpHを調整してなる濡れ剤液や研磨液が挙げられる。
【0089】
(濃縮液)
ここに開示される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、基板に供給される前には濃縮された形態であってもよい。すなわち、半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、濡れ剤液および研磨液の濃縮液の形態であり、濡れ剤液および研磨液の原液としても把握され得る。このように濃縮された形態の半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。
【0090】
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して濡れ剤液や研磨液(ワーキングスラリー)を調製し、該濡れ剤液や研磨液を基板に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0091】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50質量%以下とすることができる。上記濃縮液の取扱い性、例えば砥粒の分散安定性や濾過性等の観点から、通常、上記濃縮液における砥粒の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5質量%以上とすることができ、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、例えば3質量%以上である。好ましい一態様において、砥粒の含有量は、4質量%以上としてもよく、5質量%以上としてもよい。
【0092】
(半導体用濡れ剤および研磨用組成物の調製)
ここに開示される技術において使用される半導体用濡れ剤および研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
【0093】
半導体用濡れ剤および研磨用組成物の調製方法は、特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、半導体用濡れ剤および研磨用組成物を構成する各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0094】
半導体用濡れ剤の製造方法は、特に制限されない。本発明の一実施形態において、上記で説明したヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法によってヒドロキシエチルセルロース溶液を製造することと、得られたヒドロキシエチルセルロース溶液と、必要な他の成分とを混合することと、を含むことが好ましい。
【0095】
研磨用組成物の製造方法は、特に制限されない。本発明の一実施形態において、上記で説明したヒドロキシエチルセルロース溶液の製造方法によってヒドロキシエチルセルロース溶液を製造することと、得られたヒドロキシエチルセルロース溶液と、砥粒とを混合すること、を含むことが好ましい。このように研磨用組成物を製造することで、砥粒を酸性環境下に置かずに済み、砥粒の凝集を防ぐことができるため、研磨性能も向上する。
【0096】
また、本発明の一実施形態においては、ここに開示されるアルカリおよび/またはその他の任意成分を、必要に応じて、前記のヒドロキシエチルセルロース溶液と砥粒との混合の前に添加してもよく、混合の後に添加してもよい。さらに、アルカリおよび/またはその他の任意成分を添加した後に、必要に応じてろ過工程を行ってもよい。なお、このろ過工程の詳細は、上記第四工程のろ過工程と同様である。
【実施例】
【0097】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0098】
なお、溶液のpHは、株式会社堀場製作所製のLAQUA(登録商標)を用いて測定した。
【0099】
[ヒドロキシエチルセルロース溶液の製造]
(実施例1)
原料ヒドロキシエチルセルロースとして、質量平均分子量(Mw)が約40万のヒドロキシエチルセルロース1 1.64質量部を、4Lの容器内に準備した溶媒である脱イオン水(DIW)98.3質量部中に添加し、攪拌した。その後、29%のアンモニア水を添加し、25±5℃で3時間攪拌混合して、溶液を得た(第一工程)。なお、アンモニアは、溶液のpHが10.0になるまで加えた。
【0100】
第一工程で得られた溶液に対して、攪拌しながら、溶液のpHが2.3になるまで硫酸を加えた(第二工程)。得られた溶液を25℃±5℃で24時間放置した(第三工程)。その後、溶液の温度を25℃±5℃の状態で、攪拌しながら、溶液のpHが10.0になるまで、アンモニアを加えた(第四工程)。このようにして、得られた溶液をヒドロキシエチルセルロース溶液(HEC溶液)とした。なお、第一工程から第四工程において、溶液の温度制御は実施していないが、溶液の温度はおよそ25±5℃に保たれた状態であった。
【0101】
(実施例2)
実施例1の第一工程で、硫酸の代わりに硝酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして、HEC溶液を得た。
【0102】
(実施例3)
第二工程で溶液に硫酸を加える代わりに、溶液に陽イオン交換処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、HEC溶液を得た。陽イオン交換処理について、より詳細には、第一工程で得られた溶液を、強酸性カチオン交換樹脂(交換基:スルホン酸基、製品名:UBK16、三菱ケミカル株式会社製)が充填されたカラムに通すことで、溶液を酸性にした。
【0103】
(実施例4)
第三工程の放置時間を3時間に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、HEC溶液を得た。
【0104】
(実施例5)
第三工程の放置時間を1時間に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、HEC溶液を得た。
【0105】
(実施例6)
第三工程の放置時間を15分に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、HEC溶液を得た。
【0106】
(比較例1)
第二工程の酸処理を実施しないこと以外は、実施例1と同様にして、HEC溶液を得た。
【0107】
(比較例2)
第三工程の放置時間を5分に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、HEC溶液を得た。
【0108】
(比較例3)
第三工程の放置時間を10分に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、HEC溶液を得た。
【0109】
(実施例7)
原料ヒドロキシエチルセルロースとして、質量平均分子量(Mw)が約261万のヒドロキシエチルセルロース2 1.46質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、HEC溶液を得た。
【0110】
(実施例8)
硫酸の代わりに、酸として硝酸を用いたこと以外は、実施例7と同様にして、HEC溶液を得た。
【0111】
(実施例9)
第二工程で溶液に硫酸を加える代わりに、溶液に陽イオン交換処理を行ったこと以外は、実施例7と同様にして、HEC溶液を得た。陽イオン交換処理について、より詳細には、第一工程で得られた溶液を、強酸性カチオン交換樹脂(交換基:スルホン酸基、製品名:UBK16、三菱ケミカル株式会社製)が充填されたカラムに通すことで、溶液を酸性にした。
【0112】
(比較例4)
第二工程を実施しない以外は、実施例7と同様にして、HEC溶液を得た。
【0113】
(比較例5)
第三工程を5分とした以外は、実施例7と同様にして、HEC溶液を得た。
【0114】
(比較例6)
第三工程を10分とした以外は、実施例9と同様にして、HEC溶液を得た。
【0115】
[ヒドロキシエチルセルロース溶液の評価]
<ヒドロキシエチルセルロースの分子量測定>
上記で得られたHEC溶液を一部取り出し、HECの濃度が0.1質量%となるように脱イオン水(DIW)を用いて希釈し、GPC測定用サンプルを得た。このサンプルに含まれるHECの質量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を用い、以下の測定条件によって測定した:
〔GPC測定条件〕
測定装置:東ソー株式会社製 HLC-8320 GPC
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel GMPWXL
分子量マーカー:アジレント・テクノロジー社製 ポリエチレンオキシド-ポリエチレングリコール
溶離液:0.1M NaNO3
流速:1.0ml/min。
【0116】
実施例1~6および比較例2~3のHECについては、比較例1のHECの質量平均分子量を100とした場合の質量平均分子量の相対値を算出し、下記表1中の「Mw比」の欄に示した。
【0117】
また、実施例7~9および比較例5~6については、比較例4のHECの質量平均分子量を100とした場合の質量平均分子量の相対値を算出し、下記表2中の「Mw比」の欄に示した。
【0118】
<実施例1~6、および比較例1~3のHEC溶液のろ過試験>
上記で作製したHEC溶液を一部取り出し、HECの濃度が0.82質量部となるように脱イオン水(DIW)を用いて希釈し、ヒドロキシエチルセルロース希釈液(HEC希釈液)を得た。
【0119】
このHEC希釈液100gを、ろ過フィルター(アドバンテック東洋株式会社製、ナイロン66メンブレンフィルター、孔径0.2μm)を用いて吸引ろ過を行い、ろ過開始から10分経過後に通液した液の質量(単位:g)を測定し、下記式に従って、HEC流速を算出した。なお、吸引ろ過は、株式会社アルバック製、アスピレーター(製品名)、MDA-015(型式)を用い、ろ過試験時真空圧力を0.0175MPa程度で行った。:
HEC流速=(通液した液の質量(g))/10(min)。
【0120】
また、脱イオン水(DIW)100gについても、同様のフィルターを用いて吸引ろ過を行い、通液時間を測定し、下記式に従ってDIW流速を算出した:
DIW流速=100(g)/通液時間(sec)。
【0121】
得られたDIW流速に対するHEC流速の比を、相対ろ過速度として評価した。なお、相対ろ過速度は、値が大きいほどろ過性が良好であることを示す。
【0122】
また、比較例1の相対ろ過速度を100とした場合の、実施例1~3、および比較例2~3の相対ろ過速度の相対値を算出し、下記表1中の「ろ過性比」の欄に示した。
【0123】
<実施例7~9、比較例4~6のHEC溶液のろ過試験>
上記で作製したHEC溶液を一部取り出し、HECの濃度が0.36質量%となるように脱イオン水(DIW)を用いて希釈し、ヒドロキシエチルセルロース希釈液(HEC希釈液)を得た。
【0124】
このHEC希釈液500gを、ろ過フィルター(日本ポール株式会社製、Mixセルロースメンブレンフィルター、孔径3μm)を用いて吸引ろ過を行い、ろ過開始から全量通液するまでの時間を計測し、下記式に従って、HEC流速を算出した。なお、吸引ろ過は、株式会社アルバック製、アスピレーター(製品名)、MDA-015(型式)を用い、ろ過試験時真空圧力を0.0175MPa程度で行った:
HEC流速=(500(g))/(全量通液するまでの時間(min))。
【0125】
また、脱イオン水(DIW)500gについても、同様のフィルターを用いて吸引ろ過を行い、通液時間を測定し、下記式に従ってDIW流速を算出した:
DIW流速=500(g)/通液時間(sec)。
【0126】
得られたDIW流速に対するHEC流速の比を、相対ろ過速度として評価した。なお、相対ろ過速度は、値が大きいほどろ過性が良好であることを示す。
【0127】
また、比較例4の相対ろ過速度を100とした場合の、実施例7~9、比較例5~6の相対ろ過速度の相対値を算出し、下記表2中の「ろ過性比」の欄に示した。
【0128】
実施例1~6および比較例1~3の評価結果を下記表1に、実施例7~9および比較例4~6の評価結果を下記表2に、それぞれ示す。
【0129】
【0130】
【0131】
上記表1、2から明らかなように、実施例1~6および実施例7~9のHEC溶液は、第二工程を実施していない比較例1および比較例4のHEC溶液と比べて、ヒドロキシエチルセルロース1およびヒドロキシエチルセルロース2の質量平均分子量(Mw)からほとんど変動していないにもかかわらず、ろ過性が大幅に向上していることが分かった。これは、HEC溶液中のヒドロキシエチルセルロース1、およびヒドロキシエチルセルロース2の未溶解物がそれぞれ溶解したためと考えられる。また、実施例1、3~6および実施例7、9のHEC溶液は、第三工程にて一定時間放置していない比較例2、3および比較例5、6のHEC溶液と比べて、ヒドロキシエチルセルロース1およびヒドロキシエチルセルロース2の質量平均分子量(Mw)からほとんど変動していないにもかかわらず、ろ過性が大幅に向上していることが分かった。これは、HEC溶液中のヒドロキシエチルセルロース1あるいはヒドロキシエチルセルロース2の未溶解物を溶解させるために、第一工程で得られた溶液を、酸性の状態で一定時間放置すること(第三工程)、が必要であったためと考えられる。
【0132】
上記製造方法により得られたHEC溶液、および第三工程の放置時間を短くすることで得られたHEC溶液を用いて製造した研磨用組成物の研磨性能に関する評価を行った。
【0133】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1~6、比較例1~3)
上記で作製したHEC溶液、砥粒、アルカリおよび脱イオン水(DIW)を混合して、本例に係る研磨用組成物の濃縮液を調製した。砥粒としては平均一次粒子径42nm、平均二次粒子径62nmのコロイダルシリカを使用し、アルカリとしてはアンモニアを使用した。得られた研磨用組成物濃縮液を脱イオン水(DIW)で体積比20倍に希釈することにより、HECの濃度は0.043質量%、砥粒の濃度は0.46質量%、アンモニアの濃度は0.0045質量%とする研磨用組成物を得た。
【0134】
[シリコンウェーハの研磨]
直径12インチのシリコンウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を用意し、下記予備研磨条件により予備研磨を行った。予備研磨に使用した研磨液は、砥粒、アルカリおよび脱イオン水(DIW)を混合して調製した組成物の濃縮液を、脱イオン水(DIW)で体積比20倍に希釈することにより得た。砥粒としては平均一次粒子径42nmのコロイダルシリカを使用し、アルカリとしては水酸化カリウムを使用した。砥粒の濃度は0.89質量%、アルカリの濃度は0.06質量%とした。
【0135】
〔予備研磨条件〕
研磨装置:岡本工作機械製作所社製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:12kPa
定盤回転数:50rpm
ヘッド回転数:52rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製、製品名「FP55」
研磨時間:4分
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用)
上記で調製した各例に係る研磨用組成物を研磨液として使用し、上記予備研磨を経て得られたシリコンウェーハを下記研磨条件で研磨した。
【0136】
〔研磨条件〕
研磨装置:岡本工作機械製作所社製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:50rpm
ヘッド回転数:52rpm
研磨パッド:フジボウ株式会社製、製品名「POLYPAS27NX」
研磨時間:4分×2定盤
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用)。
【0137】
[LPD-N数測定]
上記の研磨で得られたシリコンウェーハの表面(研磨面)に存在するLPD-N(Light Point Defect Non-cleanable)の個数を、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「SURFSCAN SP2」を使用して、同装置のDCOモードで計測した。
【0138】
実施例1~6、および比較例1~3の評価結果を下記表3に示す。なお、表3中のLPD-Nの数値は、それぞれ比較例1のLPD-Nの数値を100%とした場合の相対値で示してある。
【0139】
【0140】
上記表3から明らかなように、実施例1~6のHEC溶液を含む研磨用組成物を用いてシリコンウェーハの研磨を行った場合、比較例1~3のHEC溶液を含む研磨用組成物を用いて研磨を行った場合と比べて、シリコンウェーハ表面の欠陥(LPD-N)が顕著に低減した。これは、HEC溶液のろ過性が改善されたことにより、欠陥が低減されたと考えられる。本メカニズムに限定されるものではないが、HEC溶液のろ過性改善と欠陥の低減との関係は以下のように考えられる。欠陥の因子はHEC溶液中の原料HECの未溶解物であり、未溶解物が存在することにより、HEC溶液のろ過性が悪くなるものと考えられる。本製法によりHEC溶液を製造することで、未溶解の原因であるママコ防止剤がヒドロキシエチルセルロースからはずれ、未溶解物が溶解してろ過性が向上し、欠陥が低減したものと考えられる。
【0141】
また、上記表3から明らかなように、実施例3~6のHEC溶液を含む研磨用組成物を用いてシリコンウェーハの研磨を行った場合、比較例3のHEC溶液を含む研磨用組成物を用いてシリコンウェーハの研磨を行った場合と比べて、シリコンウェーハ表面の欠陥(LPD-N)が顕著に低減した。このことから、欠陥低減には、HEC溶液を酸性にして一定時間放置することが必要であることが分かる。これは、HEC溶液を酸性にして一定時間を放置することで、上記ママコ防止剤がヒドロキシエチルセルロースからほとんどまたは完全にはずれ、未溶解物が溶解してろ過性が向上し、欠陥が低減したものと考えられる。なお、第四工程を経ない場合、所望の研磨性能が得られなかった。これは、本メカニズムに限定されるものではないが、未溶解物の溶解が不十分であること、およびシリカ粒子が酸性のHEC溶液と接触することにより、シリカ粒子が凝集し、欠陥の増加に繋がったものと考えられる。
【0142】
また、表2より、HEC溶液中の原料ヒドロキシエチルセルロースが高分子量(ヒドロキシエチルセルロース2)である場合も、ろ過性が向上していることが分かる。これは、HEC溶液中の原料ヒドロキシエチルセルロースの未溶解物が溶解したためであると考えられる。従って、欠陥を誘発する因子であるHECの未溶解物が減少したため、実施例7~9のHEC溶液を含む研磨用組成物においても、欠陥性能が改善されると想定される。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の製造方法により製造されたヒドロキシエチルセルロース溶液の用途は、特に制限されず、例えば、糊剤、食品添加剤、賦形剤、ゴム・プラスチック用配合材料、塗料・接着剤用添加剤、保形剤、ろ過助剤、泥水調整剤、溢泥防止剤、分散剤、増粘剤、乳化重合安定剤、保護コロイド、塗料、化粧品、保水剤、医薬製剤、研磨助剤などの種々の用途が挙げられる。有効な用途の一つとして、シリコンウェーハなどの半導体基板をはじめとする種々の研磨対象物の研磨工程において、研磨対象物表面の保護や濡れ性を向上させる目的で用いられる研磨助剤が挙げられる。本発明に係るヒドロキシエチルセルロース溶液は、シリコンウェーハの研磨で使用する研磨用組成物に、特に好適に用いられる。