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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】炊飯米の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240802BHJP
【FI】
A23L7/10 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020215983
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022101736
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 一晃
(72)【発明者】
【氏名】夏目 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 明日香
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-132297(JP,U)
【文献】特開平06-237860(JP,A)
【文献】特開2006-087347(JP,A)
【文献】特開2011-030558(JP,A)
【文献】特開2011-030511(JP,A)
【文献】特開2007-049953(JP,A)
【文献】特開2019-180829(JP,A)
【文献】特開2000-060459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米としてうるち米の生米を用い、原料米に80~100℃の水蒸気をあてて加熱する蒸気加熱工程と、
原料米に処理液を接触させる液処理工程とを有し、
前記蒸気加熱工程及び前記液処理工程よりも前に、原料米を水に浸漬させる工程を有さず、
前記処理液は、増粘剤及び水からなり、品温25℃における粘度が0.9mPa・sよりも大きく且つ80mPa・s以下である、炊飯米の製造方法。
【請求項2】
前記蒸気加熱工程において原料米に水蒸気をあてる時間が10~60分間である、請求項1に記載の炊飯米の製造方法。
【請求項3】
前記液処理工程では原料米に前記処理液を噴霧し、該処理液の噴霧時間が1~60分間である、請求項1又は2に記載の炊飯米の製造方法。
【請求項4】
前記増粘剤が三糖以上の多糖類である、請求項1~3の何れか1項に記載の炊飯米の製造方法。
【請求項5】
前記液処理工程によって、原料米の全質量に対して前記増粘剤を固形分として0.05質量%以上添加する、請求項4に記載の炊飯米の製造方法。
【請求項6】
前記蒸気加熱工程の実施中に前記液処理工程を実施する、請求項1~5の何れか1項に記載の炊飯米の製造方法。
【請求項7】
前記液処理工程を複数回に分けて実施する、請求項1~6の何れか1項に記載の炊飯米の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の炊飯方法に関し、詳細には、水に浸漬させていない生米の炊飯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに陳列される、おにぎりやお弁当の需要が増加するとともに、メーカーで大量炊飯され、常温、冷蔵、又は冷凍状態で比較的長時間保持される炊飯米(米飯)の需要が高まっている。米を炊飯する場合、炊飯を開始する前の処理として、米を水に漬ける水浸漬工程を設けるのが一般的である。炊飯米の製造効率を高める観点からは浸漬時間は短い方が好ましいが、浸漬時間が短すぎると、少ない水分含量のために米に芯が残った硬い炊飯米になってしまう。特許文献1には、浸漬時間が大幅に短縮された米飯の製造方法として、水分に浸漬させていない生米を、散水しながら過熱水蒸気雰囲気下におく工程を有するものが記載されている。
【0003】
特許文献2には、水浸漬、水切り、炊き上げ、真空冷却の各工程を有するおこわおにぎりの製造方法において、炊き上げ工程の後で真空冷却の前に、炊き上げ工程で得られた蒸米の米粒の表面を海藻由来の多糖類を含む調味液でコーティングすることが記載されている。特許文献2に記載の製造方法によれば、前記調味液の作用により、真空冷却による蒸米からの過剰な水分の蒸発が抑えられるため、製造されたおこわおにぎりはパサつきがないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-226062号公報
【文献】特開2010-284139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、炊飯前の水浸漬を必要とせず、適度な硬さと粘りを有する高品質の炊飯米を効率よく製造し得る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、原料米として生米を用い、原料米に80~100℃の水蒸気をあてて加熱する蒸気加熱工程と、原料米に処理液を接触させる液処理工程とを有し、前記処理液は、品温25℃における粘度が0.9mPa・sよりも大きく且つ80mPa・s以下である、炊飯米の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炊飯前の水浸漬を必要とせず、適度な硬さと粘りを有する高品質の炊飯米を効率よく製造し得る、炊飯米の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の炊飯米の製造方法は、原料米に水蒸気をあてて加熱する蒸気加熱工程と、原料米に処理液を接触させる液処理工程とを有する。前記蒸気加熱工程は、原料米を炊飯する工程であり、前記液処理工程は、炊飯米の食感向上を目的として実施される工程である。
【0009】
本発明では、原料米として生米を用いる。本発明において「生米」とは、水に浸漬させていない未処理の生米を指す。また、ここでいう「水に浸漬させていない」とは、実質的に吸水していない生米を指し、例えば、炊飯米の製造に供する直前に水を用いた洗米処理を行なった生米は含まれない。
生米の種類は特に制限されず、製造する炊飯米の種類等に応じて適宜選択し得る。本発明で使用可能な生米として、例えば、うるち米、糯米又はこれらの組合せなどが挙げられる。うるち米としては、低アミロース米、高アミロース米、通常のうるち米などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。典型的には、うるち米が用いられる。
また、生米の精米歩合も特に制限されず、製造する炊飯米の種類等に応じて適宜選択し得る。本発明で使用可能な生米として、例えば、白米、無洗米、玄米、七分づき米、胚芽米、風で糠等を除去した生米などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0010】
前記蒸気加熱工程では、原料米(生米)に80~100℃の水蒸気をあてて加熱する。水蒸気の温度が80℃未満では、炊飯が十分に行えず、米が硬くなりすぎるおそれがあり、水蒸気の温度が100℃を超える(すなわち原料米に過熱水蒸気をあてる)と、加熱温度が高すぎるために米の表面の乾燥や米の過加熱を招くおそれがある。水蒸気の温度は、好ましくは85~100℃、より好ましくは90~100℃である。
【0011】
前記蒸気加熱工程において原料米に水蒸気をあてる時間(水蒸気処理時間)は特に制限されず、原料米の種類等に応じて適宜選択すればよい。水蒸気処理時間が短いと、少ない水分含量のために米に芯が残った硬い炊飯米となり、炊飯米の食感がパサつきのある好ましくないものとなりやすい。水蒸気処理時間が長すぎると、多い水分含量のために炊飯米の食感がべたつきのある好ましくないものとなりやすい。水蒸気処理時間は、炊飯米の食感の一層の向上等の観点から、好ましくは10~60分間、より好ましくは15~50分間、更に好ましくは20~45分間である。なお、ここでいう「水蒸気処理時間」は、処理対象の原料米に水蒸気をあてた時間の合計を意味し、例えば、原料米に水蒸気をあてる処理を複数回に分けて実施した場合は、その複数回の処理の時間の合計を意味する。
【0012】
前記蒸気加熱工程において原料米に水蒸気をあてる方法は特に制限されない。原料米にあてる水蒸気は、飽和水蒸気でもよく、飽和水蒸気でなくてもよい。例えば、非密閉空間に置かれ、大気に開放された状態の原料米に水蒸気をあてる方法でもよく、あるいは、密閉空間に置かれた状態の原料米に水蒸気をあてる方法でもよい。原料米に水蒸気をあてる方法の一例として、原料米を密閉又は非密閉空間に静置し、該空間に水蒸気を供給する、いわゆるバッチ式の方法が挙げられる。原料米に水蒸気をあてる方法の他の一例として、非密閉空間に配置されたベルトコンベアのような搬送路で原料米を連続的に送りながら、水蒸気を該空間に供給する、いわゆる連続式の方法が挙げられる。
【0013】
前記蒸気加熱工程の実施中に、しゃもじなどの攪拌器具を用いて、処理対象の原料米を攪拌してもよい。斯かる攪拌操作により、炊飯米の炊き加減にムラが出ることを抑制することができる。
また、前記蒸気加熱工程において、原料米に水蒸気をあてる処理と並行して、原料米を加熱する処理を行ってもよい。
【0014】
前記蒸気加熱工程の如き生米の水蒸気処理によれば、米を水に漬ける水浸漬工程無しで炊飯が可能となるため、炊飯米の製造時間が短縮されて製造効率が向上する。しかしながら、従来の水蒸気処理によって得られた炊飯米は、パサついている、粘りが弱い等、食感の点で問題があることが判明した。
前記液処理工程は、このような生米の水蒸気処理の問題を解決するために採用されたものであり、品温25℃における粘度が0.9mPa・sよりも大きく且つ80mPa・s以下の処理液を原料米に接触させることを特徴とする。前記蒸気加熱工程に加えて前記液処理工程を採用することで、適度な硬さと粘りを有する高品質の炊飯米を効率よく製造することが可能となる。前記処理液の粘度が0.9mPa・s未満又は80mPa・s超であると、炊飯米の食感の改善効果に乏しいため好ましくない。ここでいう「粘度」は、JIS Z 8803「液体の粘度-測定方法」に準拠し、B型粘度計を用いて測定された値である。前記処理液の粘度は、好ましくは70mPa・s以下、より好ましくは60mPa・s以下である。前記処理液の粘度の下限0.9mPa・sは、水温25℃の水の粘度よりもやや高い粘度である。すなわち前記処理液の粘度は水温25℃の水の粘度よりも大きいことを前提として、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは1.5mPa・s以上である。
【0015】
前記処理液は、品温25℃における粘度が前記特定範囲にあればよく、その組成は特に制限されないが、典型的には、水を主体とし、更に、水よりも高い粘性を付与する、具体的には品温25℃における粘度が0.9mPa・s超となるようにするために、増粘剤を含有する。
前記増粘剤としては、水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子物質で食用のものを特に制限無く用いることができ、例えば、ゲル化剤及び増粘多糖類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることできる。
前記ゲル化剤としては、例えば、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチンが挙げられる。
前記増粘多糖類としては、加工澱粉;ショ糖等の二糖類;三糖以上の多糖類が挙げられる。前記加工澱粉は、原料となる澱粉に、物理的、酵素的又は化学的な加工を施したものの総称である。加工澱粉の原料となる澱粉としては、例えば、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、米澱粉が挙げられる。加工澱粉を得るための澱粉の加工方法は特に制限されず、例えば、架橋処理、エステル化処理、エーテル化処理、酸化処理が挙げられ、2種類以上の加工方法を組み合わせてもよい。
【0016】
前記増粘剤の中でも、炊飯米の食感向上効果に優れることから、増粘多糖類が好ましく、特に三糖以上の多糖類が好ましい。すなわち前記液処理工程で用いる処理液は、増粘多糖類、特に三糖以上の多糖類を含有していることが好ましい。三糖以上の多糖類としては、例えば、グァーガム、白キクラゲ多糖体、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガムが挙げられる。
前記の白キクラゲ多糖体は、白キクラゲ由来の多糖類を含む白キクラゲ抽出物、又は該白キクラゲ抽出物を主成分とする組成物である。白キクラゲ多糖体は、主鎖にα-1,3-マンノースを含み且つ側鎖にD-フコース、D-キシロース及びD-グルクロン酸を含む多糖ポリマーであり得る。白キクラゲ多糖体としては、例えば特開2019-41735号公報に記載のものを用いることができる。白キクラゲ多糖体としては市販品を用いることができ、その一例として、ユニテックフーズ株式会社製の「トレメルガム」が挙げられる。
【0017】
前記処理液における増粘剤の含有量は、処理液の品温25℃における粘度が前記特定範囲になるように調整すればよいが、増粘剤による作用効果(炊飯米の食感向上効果)を一層確実に奏させるようにする観点から、処理液における増粘多糖類の含有量は、該処理液の全質量に対して、好ましくは0.01~0.2質量%、より好ましくは0.02~0.15質量%である。
【0018】
前記処理液に増粘剤が含有されている場合、増粘剤による作用効果を一層確実に奏させるようにする観点から、前記液処理工程によって、原料米(生米)の全質量に対して増粘剤を固形分として、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.11~0.7質量%、とりわけ好ましくは0.15~0.6質量%添加することが好ましい。増粘剤の添加量が少なすぎると増粘剤を使用する意義に乏しく、増粘剤の添加量が多すぎると、炊飯米の食味食感の低下を招くおそれがあり、また、処理液の粘度増大によって処理液の散布が困難になるなどして、原料米に処理液を接触させることが困難になるおそれがある。前記液処理工程では、増粘剤の原料米への固形分としての添加量が斯かる好ましい範囲となるように、処理液における増粘剤の含有量、処理液の原料米への接触方法及び接触時間、原料米に処理液を噴霧する場合はその噴霧時間及び噴霧量等を調整することが好ましい。
【0019】
前記処理液には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記増粘剤以外の添加剤を含有させてもよい。増粘剤以外の添加剤としては、例えば、塩、砂糖、甘味料、酢、醤油、味噌、だし、コンソメ、グルタミン酸ナトリウム、ケチャップ、カレ-粉、サフラン等の調味料;アミラーゼ、トランスグルタミナーゼ等の酵素;サラダ油、大豆油、菜種油、コ-ン油、ごま油、バター等の油脂;ビタミンE等の酸化防止剤;着色料、香料、保存料、日持ち向上剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることできる。
【0020】
前記液処理工程において原料米に処理液を接触させる方法は特に制限されず、例えば、原料米に処理液を散布する方法、処理液中に原料米を浸漬する方法が挙げられ、複数種類の方法を組み合わせてもよい。製造効率の向上の観点から、原料米に処理液を散布する方法が好ましい。処理液の散布方法は特に制限されないが、処理液を原料米全体に均一に付着させる観点から、スプレー等の噴霧手段を用いた噴霧が好ましい。
【0021】
前記液処理工程において、原料米に処理液を噴霧するなどして接触させる際の処理液の品温は特に制限されないが、特に前記蒸気加熱工程の実施中に前記液処理工程を実施する場合には、原料米の水蒸気による加熱を阻害しない観点から、斯かる加熱温度又はそれに比較的近い温度が好ましく、具体的には、好ましくは30~90℃、より好ましくは50~80℃である。
【0022】
原料米に処理液を噴霧する場合の噴霧時間は、処理液の粘度、処理液に増粘剤が含有されている場合はその含有量等に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、好ましくは分間である。斯かる処理液の噴霧時間の1~60分間、より好ましくは2~50分間、更に好ましくは3~40分間である。斯かる処理液の噴霧時間の好ましい範囲は、処理液に増粘剤が前記の好ましい範囲で含有されている場合に特に有効である。噴霧時間が短すぎると、前記液処理工程を設ける意義に乏しく、噴霧時間が長すぎると、原料米と処理液との接触時間が長すぎることになり、炊飯米の食感がべたつきのある好ましくないものとなるおそれがある。なお、ここでいう「噴霧時間」は、原料米に処理液を噴霧した時間の合計を意味し、例えば、前記液処理工程を複数回に分けて実施した場合、その複数回の液処理工程の時間の合計を意味する。
【0023】
原料米に処理液を噴霧する場合の噴霧量は、処理液の粘度、処理液に増粘剤が含有されている場合はその含有量等に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、原料米100質量部に対して、好ましくは50~500質量部、より好ましく100~300質量部である。斯かる処理液の噴霧量の好ましい範囲は、処理液に増粘剤が前記の好ましい範囲で含有されている場合に特に有効である。なお、ここでいう「噴霧量」は、原料米に噴霧した処理液の総量を意味し、例えば、前記液処理工程を複数回に分けて実施した場合、各液処理工程における処理液の噴霧量の合計を意味する。
【0024】
前記液処理工程の実施中、具体的には例えば、原料米に処理液を噴霧している最中、あるいは原料米に処理液を噴霧した後に、しゃもじなどの攪拌器具を用いて、原料米を攪拌してもよい。斯かる攪拌操作により、原料米に添加された処理液(処理液中の増粘剤)が原料米の全体に均一に分布するようになるため、処理液による作用効果(炊飯米の食感向上効果)が一層確実に奏され得る。
【0025】
本発明では、前記の蒸気加熱工程及び液処理工程の実施順序は特に制限されず、両工程を同時に実施してもよく、あるいは順次実施してもよい。後者の場合、蒸気加熱工程、液処理工程の順に実施してもよく、その逆でもよい。
本発明の炊飯米の製造方法の好ましい一実施形態として、両工程を同時に実施する、すなわち前記蒸気加熱工程の実施中に前記液処理工程を実施する形態が挙げられる。より具体的には、原料米に80~100℃の水蒸気をあてて加熱しつつ、適当なタイミングで該原料米に処理液を噴霧する形態が挙げられる。
【0026】
本発明では、前記液処理工程を連続的に実施してもよく、あるいは複数回に分けて実施してもよい。後者の一例として、前記蒸気加熱工程の実施中に前記液処理工程を実施する場合に、該液処理工程を複数回に分けて実施する形態が挙げられる。
【0027】
本発明は例えば、内部に水蒸気が供給される蒸気室と、該蒸気室の内部に配され、原料米を移送するベルトコンベアと、該ベルトコンベアによって移送される原料米の上方から該原料米に向けて処理液を散布するノズルとを備えた炊飯米製造装置を用いて実施することができる。その場合、前記蒸気室の内部に80~100℃の水蒸気を供給することで、該蒸気室の内部を前記ベルトコンベアによって移送中の原料米を該水蒸気で加熱しつつ(蒸気加熱工程)、前記ノズルから該原料米に向けて処理液を散布する(液処理工程)。前記ノズルの配置を工夫することで、前記液処理工程を連続的に実施することもできるし、複数回に分けて実施することもできる。
【0028】
本発明の炊飯米の製造方法は、前記の蒸気加熱工程及び液処理工程に加えて更に、両工程を経て得られた炊飯米の冷却工程及び/又は成型工程を有していてもよい。
前記冷却工程において炊飯米の冷却方法は特に制限されず、例えば、しゃもじを用いて炊飯米をほぐすことによる放冷、差圧冷却、真空冷却、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
前記成型工程は、炊飯米を所定の形状に成型する工程であり、型、容器等を用いて常法に従って実施できる。前記成型工程では、弁当に炊飯米を盛り付けるための盛り付け装置、おにぎり成型機、寿司ロボット等の公知の成型手段置を用いることもできる。
【0029】
本発明の炊飯米の製造方法は、前記液処理工程とは別に、原料米に水を接触させる水処理工程を有していてもよい。前記水処理工程を採用することで、前記蒸気加熱工程と相俟って、炊飯をより一層確実に行うことが可能となる。
前記水処理工程は、前記蒸気加熱工程の実施中に実施することが好ましい。前記水処理工程は、連続的に実施してもよく、複数回に分けて実施してもよい。前記水処理工程において原料米に水を接触させる方法は特に制限されないが、製造効率の向上の観点から、原料米に処理液を噴霧する方法が好ましい。原料米に水を噴霧する場合の噴霧量は特に制限されず、所望の炊飯米の硬さとなるように適宜調整すればよい。
例えば、前記蒸気加熱工程の実施中に、前記液処理工程を処理液の噴霧により実施するとともに、前記水処理工程を水の噴霧により実施することができる。この場合、処理液の噴霧と水の噴霧とは同時に実施してもよく、異なるタイミングで実施してもよい。
【実施例
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1~8、比較例1~3、参考例1〕
原料米として新潟県産コシヒカリ(生米、無洗米)を用い、炊飯米を製造した。具体的には、上部開口を有する蒸気透過性の容器に原料米300gを入れ、該原料米を該容器ごと蒸気室に静置し、該蒸気室に所定温度(表1、2の「水蒸気の温度」の欄参照)の飽和水蒸気を所定時間(表1、2の「水蒸気処理時間」の欄参照)供給し続けることで、大気に開放された状態の該原料米に該水蒸気をあてて加熱する、蒸気加熱工程を実施した。この蒸気加熱工程の実施中、原料米に表1、2に示す処理液(水と増粘剤との混合物である「増粘剤含有水」)を接触させる液処理工程を2回に分けて実施した。液処理工程を実施後、次の液処理工程を実施するまでの時間間隔は1~12分とした。各液処理工程では、前記容器の上部開口から該容器内の原料米に向けて処理液を噴霧し、各液処理工程における処理液の噴霧量は原料米100質量部に対して35~45mL/分とした。表1、2の「原料米100質量部に対する処理液の噴霧量(質量部)」は、すべての液処理工程における噴霧量の合計であり、表1、2の「処理液の噴霧時間」は、すべての液処理工程における噴霧時間の合計である。表1、2に掲載した処理液の粘度は、JIS Z 8803「液体の粘度-測定方法」に準拠した方法で、B型粘度計(東機産業株式会社製、TVB-20L)を用いて、ローターM1、回転数60rpmの条件で、ローターの回転開始から1分後に測定した値である。
【0032】
〔評価試験〕
各実施例、比較例及び参考例について、炊飯米の製造時における処理液の噴霧性を下記評価基準に従って評価した。また、各実施例、比較例及び参考例で製造された炊飯米を、製造直後に15℃の冷風で20分冷却した後、専門パネラーに食してもらい、食感(粘り、硬さ)を下記評価基準に従って評価してもらった。結果を表1、2に示す。
【0033】
<処理液の噴霧性の評価基準>
A:処理液が米に均一に噴霧できるため、良好。
B:処理液が米に噴霧できるため、やや良好。
C:処理液の粘度が高く噴霧できないため、不良。
<炊飯米の粘りの評価基準>
A:適度な粘りがあり、良好。
B:パサつきは無いが粘りは少ないため、やや良好。
C:パサつきを感じるため、不良。
<炊飯米の硬さの評価基準>
A:適度に軟らかく、良好。
B:少し硬さが残るため、やや良好。
C:硬すぎる又は軟らかすぎるため、不良。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すとおり、各実施例は、液処理工程で用いた処理液の品温25℃における粘度が0.9mPa・sよりも大きく且つ80mPa・s以下であるため、これを満たさない各比較例に比べて処理液の噴霧性及び炊飯米の食感(粘り、硬さ)に優れていた。比較例1は、処理液として水を使用したため、各実施例に比べて炊飯米の品質に劣る結果となり、比較例2、3は、処理液の品温25℃における粘度が80mPa・sを超えていたため、処理液を噴霧できず、炊飯米の評価不可という結果となった。
【0036】
【表2】
【0037】
表2の各実施例どうしは処理液中の増粘剤が互いに異なる。表2の実施例の中では実施例4、5が特に高評価であったことから、増粘剤としては、三糖以上の多糖類が特に有効であることがわかる。