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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】吸水性共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/06 20060101AFI20240802BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20240802BHJP
   C08F 218/04 20060101ALI20240802BHJP
   C08F 222/02 20060101ALI20240802BHJP
   C08F 222/04 20060101ALI20240802BHJP
   C08F 220/02 20060101ALI20240802BHJP
   C08F 220/04 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C08F216/06
C08F8/12
C08F218/04
C08F222/02
C08F222/04
C08F220/02
C08F220/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021527642
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2020024619
(87)【国際公開番号】W WO2020262382
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019122056
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正博
(72)【発明者】
【氏名】三枝 裕典
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利典
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-014689(JP,A)
【文献】特開平02-079911(JP,A)
【文献】特開平07-268165(JP,A)
【文献】特開昭62-270606(JP,A)
【文献】特開2002-308940(JP,A)
【文献】特開昭56-008619(JP,A)
【文献】特開平01-101379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール構成単位xと、ビニルアルコール構成単位xおよびビニルエステル構成単位y以外の構成単位zとを含んでなる吸水性共重合体であって、構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量の比率は50.0モル%以下であり、前記構成単位zはイオン性基またはイオン性基の誘導体を有し、イオン性基またはイオン性基の誘導体は、カルボキシル基、スルホン酸基、アンモニウム基またはその塩である、吸水性共重合体。
【請求項2】
前記構成単位zの含有量は、前記吸水性共重合体を構成する全構成単位の総モル数に対して50.0モル%以下である、請求項1に記載の吸水性共重合体。
【請求項3】
前記構成単位zは、カルボキシル基の塩、スルホン酸基の塩またはアンモニウム基の塩を有する、請求項1または2に記載の吸水性共重合体。
【請求項4】
前記構成単位zは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの誘導体からなる群から選択される1種以上のモノマーに由来する、請求項1~のいずれかに記載の吸水性共重合体。
【請求項5】
前記吸水性共重合体は架橋構造を有する、請求項1~のいずれかに記載の吸水性共重合体。
【請求項6】
前記吸水性共重合体は前記構成単位z部分で架橋されていない、請求項に記載の吸水性共重合体。
【請求項7】
前記吸水性共重合体に含まれる未反応モノマーの合計量は1000ppm以下である、請求項1~のいずれかに記載の吸水性共重合体。
【請求項8】
農業用である、請求項1~のいずれかに記載の吸水性共重合体。
【請求項9】
育苗用である、請求項に記載の吸水性共重合体。
【請求項10】
前記構成単位zを形成するモノマーを、前記構成単位xおよびyを形成するモノマーに分割添加または連続添加して共重合させる工程を含む、請求項1~のいずれかに記載の吸水性共重合体の製造方法。
【請求項11】
前記工程における共重合反応系において、前記構成単位xおよびyを形成するモノマーに対する、前記構成単位zを形成するモノマーのモル比率は0.1以下である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアルコール系吸水性共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、慢性的な水資源の枯渇に伴い、農業用水を有効にかつ適切に利用すること、および従来よりも少量の灌漑水量でも農産物の収穫量を維持若しくは増大させる試みが、いわゆる農業用保水材を用いて検討されている(例えば、特許文献1~2を参照)。これらの農業用保水材は高吸水性樹脂(SAP)を主要構成成分としており、例えば、土壌全体の保水性の改善に用いられるピートモス等と比べると、極めて少量で保水効果を発現することから、農家が用いる際の負担が少ないという利点がある。
【0003】
一方、吸水性樹脂としては、例えば、デンプン-アクリロニトリルグラフト重合体の中和物、デンプン-アクリル酸グラフト重合体のけん化物、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体のけん化物、およびポリアクリル酸部分中和物架橋体(特許文献1~2)等が知られている。
【0004】
上記のような従来の吸水性樹脂には、吸水ゲルの日光または紫外線に対する安定性が低いという問題がある(特許文献3)。即ち、吸水性樹脂に吸水させて得られる吸水ゲルが日光または紫外線に暴露されると、短時間(例えば数時間以内)で劣化して流動化し、ゲル形態を保持できなくなることが多い。従って、このような吸水性樹脂を耐光性の要求される用途(例えば、農園芸用保水材、芳香ゲル化剤、消臭ゲル化剤および人工雪等)で使用することは困難である。
【0005】
この課題を解決する手段として、先行技術文献には、水不溶性の酸化鉄若しくは酸化チタン微粉末を水性分散媒に分散させてなる分散液を吸水性樹脂に施して水性分散媒を吸収させた吸水ゲル(特許文献3)、光遮蔽材としての水への自己分散機能を有するカーボンブラックおよび吸水性樹脂を含んでなる保水材(特許文献4)、および水溶性紫外線吸収剤および吸水性樹脂を含んでなる保水材(特許文献5)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第1998/005196号パンフレット
【文献】特表2013-544929号公報
【文献】特開平2-135263号公報
【文献】国際公開第2009/072232号パンフレット
【文献】特開2009-185117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献3に開示された吸水ゲルの製造方法では、酸化鉄若しくは酸化チタン微粉末を均一に分散させることが難しく、また、十分な耐光性を得るためには酸化鉄若しくは酸化チタン微粉末の添加量を増加させる必要があるといった課題がある。また、特許文献4および5に開示された保水材では、カーボンブラック若しくは紫外線吸収剤がそれぞれ水分散性若しくは水溶性であるため、時間の経過とともにカーボンブラック若しくは紫外線吸収剤が溶出し、吸水性樹脂の耐光性が低下するという課題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は上記課題を解決することであり、耐光性が高い重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために、重合体について詳細に検討を重ねたところ、ビニルアルコール構成単位xと、ビニルアルコール構成単位xおよびビニルエステル構成単位y以外の構成単位zとを含んでなる吸水性共重合体において、構成単位zの連鎖が耐光性(特に耐紫外線性)を決める要因であろうとの考えに至り、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕ビニルアルコール構成単位xと、ビニルアルコール構成単位xおよびビニルエステル構成単位y以外の構成単位zとを含んでなる吸水性共重合体であって、構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量の比率は50.0モル%以下である、吸水性共重合体。
〔2〕前記構成単位zの含有量は、前記吸水性共重合体を構成する全構成単位の総モル数に対して50.0モル%以下である、前記〔1〕に記載の吸水性共重合体。
〔3〕前記構成単位zはイオン性基またはイオン性基の誘導体を有する、前記〔1〕または〔2〕に記載の吸水性共重合体。
〔4〕前記構成単位zはイオン性基の誘導体を有する、前記〔3〕に記載の吸水性共重合体。
〔5〕前記構成単位zは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの誘導体からなる群から選択される1種以上のモノマーに由来する、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の吸水性共重合体。
〔6〕前記吸水性共重合体は架橋構造を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の吸水性共重合体。
〔7〕前記吸水性共重合体は前記構成単位z部分で架橋されていない、前記〔6〕に記載の吸水性共重合体。
〔8〕前記吸水性共重合体に含まれる未反応モノマーの合計量は1000ppm以下である、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の吸水性共重合体。
〔9〕農業用である、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の吸水性共重合体。
〔10〕育苗用である、前記〔9〕に記載の吸水性共重合体。
〔11〕前記構成単位zを形成するモノマーを、前記構成単位xおよびyを形成するモノマーに分割添加または連続添加して共重合させる工程を含む、前記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の吸水性共重合体の製造方法。
〔12〕前記工程における共重合反応系において、前記構成単位xおよびyを形成するモノマーに対する、前記構成単位zを形成するモノマーのモル比率は0.1以下である、前記〔11〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐光性が高い重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施態様について説明するが、本発明は、本実施態様に限定されない。
【0012】
[吸水性共重合体]
本発明の吸水性共重合体は、ビニルアルコール構成単位xと、ビニルアルコール構成単位xおよびビニルエステル構成単位y以外の構成単位zとを含んでなる。すなわち、本発明の吸水性共重合体は、構成単位xと、構成単位zとを含んでなる。構成単位xはビニルアルコール構成単位である。構成単位zは、ビニルアルコール構成単位x以外の構成単位であり、かつ、ビニルエステル構成単位y以外の構成単位である。以下において、本発明の吸水性共重合体を「ビニルアルコール系共重合体(A)」と称することがある。
【0013】
ビニルアルコール系共重合体(A)において、構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量の比率〔(構成単位zの平均連鎖の含有量/構成単位zの含有量)×100〕は50.0モル%以下である。上述の通り、本発明者らは、構成単位zの連鎖部分が光(特に紫外線)により切断されやすく、その結果、構成単位zの平均連鎖の含有量が多いとビニルアルコール系共重合体(A)は耐光性に劣ることを見出した。従って、上記比率が50.0モル%より大きいと、ビニルアルコール系共重合体(A)について所望の耐光性を得ることは困難である。
【0014】
構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量の比率は、好ましくは40.0モル%以下、より好ましくは30.0モル%以下、より好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下、より好ましくは10モル%以下、より好ましくは7モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。上記比率の下限値は特に限定されない。上記比率は、通常は0.02モル%以上である。上記比率が前記上限値以下、または前記下限値以上かつ前記上限値以下であると、ビニルアルコール系共重合体(A)のより優れた耐光性を得やすい。また、土壌中に含まれるカルシウムイオンによる吸水量阻害の影響を受けにくい観点からは、上記比率は、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.02モル%以上、より好ましくは0.05モル%以上、より好ましくは0.08モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.3モル%以上、特に好ましくは0.5モル%以上である。上記比率は、構成単位zを形成するモノマーの種類の選択、ビニルアルコール系共重合体(A)における構成単位zの含有量の調整、共重合反応系における構成単位xおよびyを形成するモノマーに対する構成単位zを形成するモノマーの比率の選択、および/または重合率により、前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。
【0015】
ビニルアルコール系共重合体(A)において、構成単位zの含有量は、ビニルアルコール系共重合体(A)を構成する全構成単位の総モル数に対して、好ましくは50.0モル%以下、より好ましくは40.0モル%以下、より好ましくは35.0モル%以下、より好ましくは30.0モル%以下、より好ましくは25.0モル%以下、より好ましくは25.0モル%未満、より好ましくは20.0モル%以下、更に好ましくは15.0モル%以下、特に好ましくは10.0モル%以下であり、好ましくは1.0モル%以上、より好ましくは1.5モル%以上、更に好ましくは2.0モル%以上、特に好ましくは4.0モル%以上である。構成単位zの含有量が前記上限値以下であると、所望の耐光性を得やすく、前記下限値以上であると、所望の吸水性を得やすい。構成単位zの含有量は、例えば、構成単位zを形成するモノマーと構成単位xおよびyを形成するモノマーとの配合比、反応時のそれらの消費率若しくは反応性比、反応温度、またはアルカリ量等の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。
【0016】
ビニルアルコール系共重合体(A)中の、ビニルアルコール構成単位xの含有量は、ビニルアルコール系共重合体(A)を構成する全構成単位の総モル数に対して、好ましくは50.0モル%以上、より好ましくは80.0モル%以上、更に好ましくは85.0モル%以上、特に好ましくは90.0モル%以上であり、好ましくは98.0モル%以下、より好ましくは97.0モル%以下、更に好ましくは96.0モル%以下、特に好ましくは95.0モル%以下である。構成単位xの含有量が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、ビニルアルコール系共重合体(A)はより高い吸水能を有しやすい。構成単位xの含有量は、例えば、構成単位zを形成するモノマーと構成単位xおよびyを形成するモノマーとの配合比、反応時のそれらの消費率若しくは反応性比、反応温度、またはけん化度等の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。
【0017】
ビニルアルコール系共重合体(A)中の、ビニルエステル構成単位yの含有量は、ビニルアルコール系共重合体(A)を構成する全構成単位の総モル数に対して、好ましくは20.0モル%以下、より好ましくは10.0モル%以下、更に好ましくは5.0モル%以下、特に好ましくは2.0モル%以下である。上記含有量の下限値は特に限定されない。上記含有量は、通常は0.2モル%以上である。構成単位yの含有量が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、ビニルアルコール系共重合体(A)はより高い吸水能を有しやすい。構成単位yの含有量は、例えば、構成単位zを形成するモノマーと構成単位xおよびyを形成するモノマーとの配合比、反応時のそれらの消費率若しくは反応性比、反応温度、またはけん化度等の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。
【0018】
本発明の吸水性共重合体であるビニルアルコール系共重合体(A)は、任意に、構成単位x、yおよびz以外の他の構成単位を更に含んでいてもよい。前記他の構成単位の例としては、エチレン、1-ブテンおよびイソブチレン等のオレフィンに由来する構成単位;アクリルアミドおよびその誘導体、メタクリルアミドおよびその誘導体、並びにマレイミド誘導体等に由来する構成単位;等が挙げられる。本発明のビニルアルコール系共重合体(A)が前記他の構成単位を含む場合、本発明のビニルアルコール系共重合体(A)は前記他の構成単位を1種含んでいても複数種含んでいてもよい。前記他の構成単位の含有量は、本発明のビニルアルコール系共重合体(A)を構成する全構成単位の総モル数に対して、好ましくは20.0モル%以下、より好ましくは10.0モル%以下、更に好ましくは5.0モル%以下であり、0モル%であってもよい。従って、本発明の一実施態様では、本発明の吸水性共重合体は、構成単位x、yおよびzからなる。前記他の構成単位の含有量が前記上限値以下であると、本発明のビニルアルコール系共重合体(A)のより優れた吸水能を得やすい。
【0019】
構成単位x、yおよびzそれぞれの含有量、構成単位x、yおよびz以外の他の構成単位を含む場合の当該他の構成単位の含有量、および構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量の比率は、従来公知の方法で測定できる。そのような方法の例は、固体13C-NMR(核磁気共鳴分光法)、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)、酸塩基滴定(一定量の無水酢酸と反応させた際の無水酢酸の消費量から算出する方法)および溶液H-NMRを包含する。ビニルアルコール系共重合体(A)が架橋構造を有する場合、上記測定は、一般的な方法(例えば、酸若しくはアルカリを用いた加水分解、過ヨウ素酸を用いた分解、または過マンガン酸カリウム等の酸化剤を用いた分解)により架橋構造を切断した後に行うことができる。また、上記測定は、例えばビニルアルコール系共重合体(A)が架橋構造としてアセタール構造またはエステル構造を有する場合、例えば後述の実施例に記載の方法で架橋構造を切断した後に行うことができる。なお、本発明において「構成単位」とは共重合体を構成する繰り返し単位のことを意味し、例えばビニルアルコール構成単位は「1単位」、2単位のビニルアルコール構成単位がアセタール化された構造は「2単位」と数えることとする。
【0020】
優れた吸水性または吸水速度を発現させやすい観点から、ビニルアルコール系共重合体(A)において構成単位zは、好ましくはイオン性基またはイオン性基の誘導体を有する。即ち、好ましい一実施態様では、構成単位zはイオン性基およびイオン性基の誘導体を有する。別の好ましい一実施態様では、構成単位zはイオン性基の誘導体を有する。別の好ましい一実施態様では、構成単位zに含まれるイオン性基の半数以上が誘導体の形態であり、より好ましい一実施態様では、構成単位zに含まれるイオン性基のほとんどが誘導体の形態であり、特に好ましい一実施態様では、構成単位zに含まれるイオン性基の全ては誘導体の形態である。
イオン性基またはその誘導体は、好ましくはカルボキシル基、スルホン酸基、アンモニウム基またはその塩であり、より好ましくはカルボキシル基またはその塩である。
【0021】
ビニルアルコール系共重合体(A)の構成単位zがイオン性基としてカルボキシル基、スルホン酸基またはアンモニウム基を有する場合、ビニルアルコール系共重合体(A)としては、例えば(i-1)カルボキシル基、スルホン酸基またはアンモニウム基を有するモノマーおよび該モノマーの誘導体からなる群から選択される1種以上とビニルエステルとの共重合体のけん化物等が挙げられる。
【0022】
上記(i-1)において、カルボキシル基を有するモノマーとしては特に制限はないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、およびマレイン酸等が挙げられる。また、上記カルボキシル基を有するモノマーの誘導体としては、該モノマーの無水物、エステル化物、および中和物等が挙げられ、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、イタコン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、および無水マレイン酸等が用いられる。従って、好ましい一実施態様では、構成単位zは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの誘導体からなる群から選択される1種以上のモノマーに由来する。
【0023】
上記(i-1)において、スルホン酸基を有するモノマーとしては特に制限はないが、例えばビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびp-スチレンスルホン酸等が挙げられる。また、上記スルホン酸基を有するモノマーの誘導体としては、該モノマーのエステル化物、および中和物等が挙げられ、例えば、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、およびp-スチレンスルホン酸ナトリウム等が用いられる。
【0024】
上記(i-1)において、アンモニウム基を有するモノマーとしては特に制限はないが、例えばジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ビニルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、p-ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、および3-(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。また、上記アンモニウム基を有するモノマーの誘導体としては、該モノマーのアミン等が挙げられ、例えば、ジアリルメチルアミン、ビニルアミン、アリルアミン、およびp-ビニルベンアミン3-(メタクリルアミド)プロピルアミン等が用いられる。
【0025】
上記(i-1)において、ビニルエステルとしては特に制限はないが、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、およびピバル酸ビニル等が挙げられ、酢酸ビニルが好ましい。
【0026】
本発明の一実施態様において、ビニルアルコール系共重合体(A)の構成単位zがイオン性基(例えばカルボキシル基)を有する場合、イオン性基の一部または全部がイオン性基の誘導体の形態、例えば塩(イオン性基がカルボキシル基の場合はカルボン酸塩)の形態であってもよい。塩のカウンターカチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、およびセシウムイオン等のアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、およびバリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アルミニウムイオン、および亜鉛イオン等のその他金属イオン;アンモニウムイオン、イミダゾリウム類、ピリジニウム類、およびホスホニウムイオン類等のオニウムカチオン;等が挙げられる。中でも、所望の吸水性を得やすい観点から、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびアンモニウムイオンが好ましい。また、本発明の吸水性共重合体を農業に用いる場合、土壌中または培地中に含まれる二価イオンとの接触時の吸水性を維持しやすい観点からはカルシウムイオンがより好ましく、植物の生育の観点からはカリウムイオンがより好ましい。従って、本発明の好ましい一実施態様では、ビニルアルコール系共重合体(A)は、イオン性基のカウンターカチオンとしてカリウムイオンまたはアンモニウムイオン、好ましくはカリウムイオンを有する。
【0027】
本発明の一実施態様において、ビニルアルコール系共重合体(A)の構成単位zがイオン性基、またはイオン性基およびその誘導体を有する場合、イオン性基の量、またはイオン性基およびその誘導体の量は、ビニルアルコール系共重合体(A)を構成する全構成単位に対して好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、特に好ましくは3モル%以上、最も好ましくは5モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは25モル%以下、特に好ましくは20モル%以下、最も好ましくは18モル%未満である。上記イオン性基の量、またはイオン性基およびその誘導体の量が前記下限値以上であると、ビニルアルコール系共重合体(A)の吸水性がより優れ、前記上限値以下であると、本発明の吸水性共重合体を農業に用いる場合、土壌中または培地中に含まれる二価イオンとの接触時にも吸水性を維持しやすい。イオン性基の量、またはイオン性基およびその誘導体の量は、例えば、構成単位zの含有量、けん化時のアルカリの量、またはイオン化時のアルカリの量等の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。ビニルアルコール系共重合体(A)中のイオン性基の量、またはイオン性基およびその誘導体の量は、例えば固体13C-NMR、FTIR、または酸塩基滴定によって測定できる。
【0028】
ビニルアルコール系共重合体(A)のビニルアルコール構成単位の含有量は、ビニルアルコール系共重合体(A)を構成する全構成単位に対して好ましくは20モル%超、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上であり、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。上記ビニルアルコール構成単位の含有量は、例えばFTIR、固体13C-NMR等により測定できるほか、一定量の無水酢酸と反応させた際の無水酢酸の消費量から算出することもできる。
【0029】
ビニルアルコール系共重合体(A)の粘度平均重合度に特に制限はないが、製造容易性の観点から、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、更に好ましくは4000以下、特に好ましくは3000以下である。一方、ビニルアルコール系共重合体(A)の力学特性および水への耐溶出性の観点からは、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは400以上である。ビニルアルコール系共重合体(A)の粘度平均重合度は、例えばJIS K 6726に準拠した方法により測定できる。ビニルアルコール系共重合体(A)が架橋構造を有する場合、例えばビニルアルコール系共重合体(A)が架橋構造としてアセタール構造またはエステル構造を有する場合、粘度平均重合度の測定は、先に述べたように、架橋構造を切断した後に行うことができる。
【0030】
本発明の吸水性共重合体であるビニルアルコール系共重合体(A)は、農業に用いる場合(例えば育苗のための培地において用いる場合)に溶出を防ぐ観点から、架橋構造を有することが好ましい。ビニルアルコール系共重合体(A)が架橋構造を有する場合、吸水時にゲル形態となって、例えば育苗箱の底面に設けられた排水孔からビニルアルコール系共重合体(A)が溶出しにくくなる。架橋構造の形態に特に制限はなく、例えばエステル結合、エーテル結合、アセタール結合、および炭素-炭素結合等による架橋構造が挙げられる。
【0031】
上記エステル結合の例としては、ビニルアルコール系共重合体(A)がイオン性基としてカルボキシル基を有する場合に、ビニルアルコール系共重合体(A)が有する水酸基とカルボキシル基との間で形成されるエステル結合が挙げられる。上記エーテル結合の例としては、ビニルアルコール系共重合体(A)が有する水酸基間の脱水縮合により形成されるエーテル結合が挙げられる。上記アセタール結合の例としては、ビニルアルコール系共重合体(A)の製造においてカルボキシル基を有するアルデヒドを用いた場合に、2つのビニルアルコール系共重合体(A)が有する水酸基同士が上記アルデヒドとアセタール化反応することにより形成されるアセタール結合が挙げられる。上記炭素-炭素結合としては、例えば活性エネルギー線をビニルアルコール系共重合体(A)に照射したときに生じる、ビニルアルコール系共重合体(A)の炭素ラジカル間のカップリングにより形成される炭素-炭素結合が挙げられる。
これらの架橋構造は単独で含まれていても、複数種が含まれていてもよい。中でも、製造容易性の観点からエステル結合またはアセタール結合による架橋構造が好ましく、育苗時における保水性維持および耐光性の観点から、アセタール結合による架橋構造がより好ましい。
【0032】
別の好ましい一実施態様では、本発明の吸水性共重合体であるビニルアルコール系共重合体(A)は、構成単位z部分で架橋されていないことが好ましい。この実施態様では、耐光性または水への耐溶出性といった利点を得やすいため好ましい。また、特に、構成単位zがイオン性基、またはイオン性基およびその誘導体を有する場合に、構成単位zが架橋により消費されないことから、上記利点に加えて、より優れた吸水性または吸水速度を得やすいため好ましい。ビニルアルコール系共重合体(A)が構成単位z部分で架橋されていないことは、例えば、架橋構造を切断する前のビニルアルコール系共重合体(A)における構成単位zの含有量と、架橋構造を切断した後のビニルアルコール系共重合体(A)における構成単位zの含有量との差が-0.5モル%~+0.5モル%であることにより評価できる。例えばビニルアルコール系共重合体(A)が架橋構造としてアセタール構造またはエステル構造を有する場合は、例えば後述の実施例に記載の方法に従って架橋構造を切断し、その前後の構成単位zの含有量の差が-0.5モル%~+0.5モル%であることにより評価できる。
【0033】
別の好ましい一実施態様では、本発明の吸水性共重合体であるビニルアルコール系共重合体(A)に含まれる未反応モノマーの合計量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは100ppm以下である。未反応モノマーの合計量が前記上限値以下であると、本発明の吸水性共重合体を農業に用いた場合に植物のより良好な生育が達成されやすい。未反応モノマーの合計量は、構成単位zを形成するモノマーと構成単位xおよびyを形成するモノマーとの配合比、反応時のそれらの消費率若しくは反応性比、ビニルアルコール系共重合体(A)の調製における洗浄条件、または乾燥温度若しくは時間等を調整することにより、前記上限値以下に調整することができる。未反応モノマーの合計量は、従来公知の方法により測定できる。そのような測定方法には、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーおよび溶液H-NMRが包含される。未反応モノマーの合計量の下限値は、それらの測定方法の検出限界である0.01ppmである。
【0034】
本発明の吸水性共重合体は粒子状であることが好ましい。吸水性共重合体が粒子状であるとき、該粒子の体積平均粒子径は好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは80μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下である。上記体積平均粒子径が前記下限値以上であると優れた取扱い性および粉塵抑制効果を得やすく、前記上限値以下であると優れた吸水速度を得やすい。前記体積平均粒子径は、例えばレーザー回折/散乱で測定できる。
【0035】
本発明の吸水性共重合体の純水吸収量は、好ましくは10g/g以上、より好ましくは20g/g以上、より好ましくは30g/g以上、より好ましくは40g/g以上、より好ましくは50g/g以上、更に好ましくは80g/g以上、特に好ましくは100g/g以上であり、好ましくは1000g/g以下、より好ましくは800g/g以下、更に好ましくは500g/g以下、特に好ましくは300g/g以下である。純水吸収量が前記下限値以上であると、培地の保水性向上効果が高くなりやすい。純水吸収量が前記上限値以下であると、吸水性共重合体の耐候性が向上し、植物の生育が良好になりやすい。純水吸収量は、例えば、構成単位x、yおよびzそれぞれの含有量、構成単位zの種類、架橋構造の含有量によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。純水吸収量は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0036】
[吸水性共重合体の製造方法]
本発明の吸水性共重合体は、例えば、構成単位zを形成するモノマーを、構成単位xおよびyを形成するモノマーに分割添加または連続添加して共重合させる工程を含む方法により製造できる。構成単位zを形成するモノマーを、分割添加または連続添加することにより、構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量を50.0モル%以下にすることができる。構成単位zを形成するモノマーとしては、特に制限はないが、[吸水性共重合体]の項において例示したモノマーを使用できる。構成単位xおよびyを形成するモノマーとしては、特に制限はないが、[吸水性共重合体]の項において例示したビニルエステルを使用できる。
【0037】
好ましい一実施態様において、前記工程における共重合反応系において、構成単位xおよびyを形成するモノマーに対する、構成単位zを形成するモノマーのモル比率(構成単位zを形成するモノマーのモル数/構成単位xおよびyを形成するモノマーのモル数)は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.01以下である。構成単位zを形成するモノマーを分割添加する場合は、添加と添加の間に時間的間隔が存在するため、上記モル比率の下限値は0である。共重合工程では、公知の重合開始剤を用いることができる。
別の好ましい一実施態様において、構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量を50.0モル%以下に低下させるためには、前記共重合工程において、構成単位xおよびyを形成するモノマーに対する、構成単位zを形成するモノマーのモル比率が一定になるように、構成単位zを形成するモノマーを、構成単位xおよびyを形成するモノマーに連続添加することが好ましい。前記モル比率は、好ましくは0.0005以上、より好ましくは0.001以上であり、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.01以下である。
【0038】
構成単位x、yおよびzに加えて、それら以外の他の構成単位も有する吸水性共重合体を製造する場合は、前記共重合工程において、他の構成単位を形成するモノマーを構成単位xおよびyを形成するモノマーと混合して用いることができる。そのような場合、共重合反応系において、構成単位xおよびyを形成するモノマーと構成単位x、yおよびz以外の他の構成単位を形成するモノマーとの総モル数に対する、構成単位zを形成するモノマーのモル数のモル比率は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.01以下である。構成単位x、yおよびz以外の他の構成単位を形成するモノマーとしては、[吸水性共重合体]の項において例示した他の構成単位を形成するモノマーを使用できる。
【0039】
共重合反応系における重合率は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、特に好ましくは20%以上であり、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下、特に好ましくは40%以下である。重合率が前記下限値以上かつ前記上限値以下であると、共重合反応が好適に進行しつつも共重合反応系の粘度が上昇しすぎることを回避しやすく、好適な粘度平均重合度を得やすい。重合率は、例えば重合溶液のモノマーと溶媒を揮発させて固形分(重合体分)濃度を測定する方法または残存するモノマー濃度を滴定により測定する方法により求めることができる。
【0040】
次いで、得られた共重合体を公知の方法でけん化することができる。共重合体のけん化度は特に限定されない。本発明の吸水性共重合体の耐光性は、当該共重合体中の構成単位zの連鎖の含有量に大きな影響を受けており、また、本発明の吸水性共重合体の吸水能は、当該共重合体中の構成単位zの含有量および架橋構造の量に大きな影響を受けており、前記けん化度が吸水性共重合体の耐光性または吸水能に及ぼす影響は極めて小さい。従って、前記けん化度は、例えば、30モル%以上または60モル%以上(例えば70モル%以上)であってよく、98モル%以上(例えば100モル%)であってもよい。
【0041】
続いて、吸水性共重合体が架橋構造を有する場合、得られたけん化物を架橋反応に付すことができる。けん化物と架橋剤との反応は、公知の方法により実施すればよい。架橋剤は特に限定されない。架橋構造としてアセタール構造を有する吸水性共重合体を製造する場合の架橋剤の例としては、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、1,9-ノナンジアール、アジポアルデヒド、マレアルデヒド、タルタルアルデヒド、シトルアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、およびテレフタルアルデヒド等が挙げられる。所望の吸水能を得やすい観点から、架橋剤は、吸水性共重合体中の架橋構造の量が、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.005モル%以上、更に好ましくは0.01モル%以上、より更に好ましくは0.03モル%以上であり、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.4モル%以下、更に好ましくは0.3モル%以下となるような量で使用すればよい。架橋構造の量は、吸水性共重合体を構成する全構成単位に対する、架橋構造を構成する構成単位の量を意味する。
【0042】
好ましい一実施態様では、前記した吸水性共重合体の製造方法は、前記けん化物を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、当該溶媒で膨潤したけん化物と架橋剤とを反応させる工程を含む。
【0043】
本発明において、「けん化物を膨潤させることが可能な溶媒」としては、けん化物を膨潤させることが可能であり、かつ反応時の温度にて溶解させない限り特に制限されない。そのような溶媒の例としては、アセトン、2-ブタノン等のジアルキルケトン;アセトニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、tert-ブタノール等のアルコール;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル;エチレングリコール、トリエチレングリコール等のジオール化合物;アセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のカルボン酸アミド;ジメチルスルホキシド、フェノール等の有機溶媒および水が挙げられる。中でも、不均一架橋反応後に得られた架橋物からの溶媒の除去の容易さ、溶媒に対するカルボニル化合物および酸触媒の溶解性、および溶媒の工業的入手性を考慮すると、上記溶媒は、ジアルキルケトン、ニトリル、アルコール、エーテルおよび水からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、アセトン、2-ブタノン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランおよび水からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましく、アセトン、2-ブタノン、アセトニトリル、メタノール、2-プロパノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランおよび水からなる群から選択される少なくとも1つであることが更に好ましい。これらの有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0044】
この実施態様では、前記けん化物を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、当該溶媒で膨潤したけん化物と架橋剤とを反応させるため、析出工程を必要とせずに架橋物を容易に取り出すことができる。
【0045】
膨潤前のけん化物は、粒子状であることが好ましい。粒子状けん化物の体積平均粒子径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、特に好ましくは80μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、特に好ましくは300μm以下である。前記体積平均粒子径が前記下限値以上であると優れた取扱い性を得やすく、前記上限値以下であると優れた溶媒吸収速度を得やすい。前記体積平均粒子径は、例えば、けん化条件および/または粉砕条件の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。前記体積平均粒子径は、例えばレーザー回折/散乱で測定できる。
【0046】
吸水性共重合体の構成単位zがイオン性基としてカルボキシル基を有し、当該カルボキシル基の一部または全部がカルボン酸塩である吸水性共重合体を製造する場合、その方法としては、例えば、前記共重合工程において、構成単位zを形成するモノマーとしてカルボキシル基を有するモノマーの中和物を用いる方法;および上述の架橋剤との反応後に得た架橋物を中和する方法;等が挙げられる。
【0047】
架橋物を中和する方法は特に限定されない。例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよびアンモニアからなる群から選択される1種以上の中和剤を用いて中和することができる。
【0048】
吸水性共重合体が構成単位z部分で架橋されていない吸水性架橋共重合体を製造する場合、その方法としては、例えば、上述の架橋剤を用いて構成単位x部分で架橋する方法;および共重合反応系に重合性官能基を2つ以上含有するモノマーを添加する方法;等が挙げられる。
【0049】
けん化物、架橋物および中和物は、必要に応じて洗浄および/または乾燥工程に付してよい。未反応モノマーが溶解しやすい溶媒(通常は共重合工程で用いる溶媒と同一)で洗浄することにより、けん化物、架橋物および中和物に含まれる未反応モノマーの合計量を低減させることができる。また乾燥温度を高く、乾燥時間を長くすることによっても、未反応モノマーの合計量を低減させることができる。洗浄および/または乾燥工程に付す場合、けん化物、架橋物および中和物が粒子状、特に粒子径の小さい粒子状であると、洗浄および/または乾燥を短時間で行うことができる。
【0050】
本発明の製造方法により製造される吸水性共重合体は、ビニルアルコール構成単位xと、ビニルアルコール構成単位xおよびビニルエステル構成単位y以外の構成単位zとを含んでなり、構成単位zの含有量に対する構成単位zの平均連鎖の含有量の比率は50.0モル%以下である。
【0051】
本発明の吸水性共重合体は、自体が優れた耐光性を有するため、耐光性の要求される用途に使用できる。従って、本発明の一実施態様において、本発明の吸水性共重合体は農業用であり、別の一実施態様では、本発明の吸水性共重合体は育苗用である。
本発明の吸水性共重合体を農業用または育苗用に用いる場合、植物の培地として使用できる。その場合、本発明の吸水性共重合体は、必要に応じて任意成分と組み合わせて使用してよい。
【0052】
[任意成分]
そのような任意成分の例としては下記成分が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる:デンプン、変性デンプン、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、セルロースおよびその誘導体等の多糖類;ポリエチレン、ポリプロピレン、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリコハク酸、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、ポリノナメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸塩、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸塩共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、およびエチレン-メタクリル酸塩共重合体等の樹脂類;天然ゴム、合成イソプレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、およびアミド系熱可塑性エラストマー等のゴム・エラストマー類;紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、有機溶媒、消泡剤、増粘剤、界面活性剤、滑剤、防カビ剤および帯電防止剤等。
培地が上記成分を含む場合、その合計含有量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、培地の総質量に対して通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、例えば5質量%以下である。
なお、培地が任意成分を含む場合の任意成分の好ましい含有量等の記載において、培地における固体の構成成分の質量は、乾燥状態の質量である。また、本発明において「乾燥状態」とは、当該構成成分が水または有機溶媒等の揮発成分を含んでいない状態のことを言う。例えば、当該構成成分それぞれの質量が恒量となるまで40℃で真空乾燥を行うことで、それらを乾燥状態とすることができる。
【0053】
別の任意成分として、培地は培土を含むこともできる。培地が培土を含む場合、培土の間隙に根が生長することで適当に根が互いに絡み合いやすくなり、また、培地の優れた排水性および通気性を得やすくなる。培土は特に限定されず、市販の培土の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、培土に、培土以外の任意成分を常法(例えば、任意成分の溶液または分散液を培土に噴霧した後に乾燥させる方法)で付着させ、用いることもできる。
【0054】
より優れた排水性および通気性を得やすい観点から、培土は粒状であることが好ましい。粒状培土の粒径は、好ましくは0.2~20mm、より好ましくは0.5~10mm、特に好ましくは1~5mmである。粒状培土の粒径を前記範囲内に調整するため、市販の粒状培土を篩過して用いることもできる。粒状培土の製造には圧縮造粒法、押し出し造粒法、転動造粒法、流動層造粒法等の造粒法を用いることができる。粒状培土の粒径は、例えば次の方法で測定できる。粒状培土から粒子をランダムに30個選び、ノギスを用いて各粒子の直径を測定し、その平均値を粒状培土の粒径とする。なお、粒子が球状ではない場合、最も長い辺と最も短い辺の平均値をその粒子の直径とする。
【0055】
培地が培土を含む場合、培土の含有量は、培地の総質量に対して、好ましくは20~99.9999質量%、より好ましくは70~99.95質量%、特に好ましくは80~99.9質量%、最も好ましくは90~99.8質量%である。
【0056】
更に別の任意成分としては、泥炭、草炭、ピート、ピートモス、ココピート、籾殻、腐植酵質資材、木炭、珪藻土焼成粒、貝化石粉末、貝殻粉末、カニ殻、VA菌根菌、微生物資材等の動植物質;バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、天然ゼオライト、合成ゼオライト、石こう、フライアッシュ、ロックウール、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、クロライト、グローコナイトおよびタルク等の鉱物質;肥料およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらは、必要に応じて消毒または殺菌して用いてもよく、pH調整剤または農薬と一緒に用いてもよい。培地がこれらの任意成分を含む場合、その合計含有量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、培地の総質量に対して通常は50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0057】
肥料の例としては、窒素系肥料、リン系肥料およびカリウム系肥料の三大肥料;カルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、銅、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ニッケル等の植物に必須の要素を含む肥料;バーク堆肥、牛糞、豚糞、鶏糞、生ごみおよび剪定クズ等の堆肥等が挙げられる。窒素系肥料としては、硫安、塩安、硝安、硝酸ソーダ、硝酸石灰、腐植酸アンモニア肥料、尿素、石灰窒素、硝酸アンモニア石灰、硝酸アンモニアソーダ、硝酸苦土肥;リン系肥料としては、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、熔性リン肥、腐植酸リン酸肥、焼リン、重焼リン、リンスター、苦土過リン酸、混合リン酸肥料、副産リン酸肥料、高濃度リン酸;カリウム系肥料としては、硫酸カリ、塩化カリ、硫酸カリ苦土、炭酸カリ、重炭酸カリ、ケイ酸カリ等が挙げられる。これらの肥料は固形、ペースト、液体、溶液等の状態として用いてもよく、被覆肥料として用いてもよい。
農薬の例としては、殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、防腐剤、植物生長調整剤等が挙げられる。
【0058】
本発明の吸水性共重合体を肥料と組み合わせて培地を作製する場合、好ましい一実施態様では、肥料は被覆肥料として用いられる。被覆肥料は肥料を樹脂でコートしたものである。樹脂としては例えばポリオレフィンが挙げられる。被覆肥料を用いる場合、樹脂の分解に伴い継時的に土壌へ肥料を供給できる。また、粒状の被覆肥料を用いてマット苗を作製した場合、得られるマット苗の強度が高くなる傾向がある。被覆肥料の粒径は好ましくは1mm~10mm、より好ましくは3mm~6mmである。被覆肥料を用いる場合、培地における被覆肥料の含有量は、好ましくは10~99.99質量%、より好ましくは15~90質量%、特に好ましくは20~80質量%、最も好ましくは30~60質量%である。
【0059】
本発明の吸水性共重合体を任意成分と組み合わせて用いる場合、吸水性共重合体と任意成分とを混合して用いることが好ましい。混合方法は特に限定されない。一般的な方法により吸水性共重合体と任意成分とを混合することで、農業用または育苗用の培地を作製できる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
【0061】
[吸水性共重合体の合成に用いた原料]
メタノール、酢酸ビニル、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アクリル酸メチル、マレイン酸ジメチル、メタクリル酸メチル、イタコン酸ジメチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、アゾビスイソブチロニトリル、25質量%グルタルアルデヒド水溶液、アセトニトリル:以上、和光純薬工業株式会社製
【0062】
[測定項目および測定方法]
<構成単位zの含有量zおよび平均連鎖の含有量z
吸水性共重合体1gと1質量%硫酸水溶液1000gとを混合し、加熱環流下で吸水性共重合体が溶解するまで混合物を撹拌した。次いで、水酸化ナトリウムを添加して混合物を中和し、混合物を乾燥させることで脱架橋状態の共重合体を得た。
得られた共重合体を溶液H-NMRに付し、当該共重合体を構成する全構成単位の総モル数に対する構成単位zの含有量z、並びに構成単位zの含有量zに対する構成単位zの平均連鎖の含有量zを求めた。
【0063】
<架橋部位の検出>
吸水性共重合体を固体13C-NMRに付し、当該共重合体を構成する全構成単位の総モル数に対する構成単位zの含有量zを求めた。
次いで、上記<構成単位zの含有量zおよび平均連鎖の含有量z>の項に記載の脱架橋操作と同様の操作を行うことで、脱架橋状態の共重合体を得た。得られた脱架橋状態の共重合体を固体13C-NMRに付し、当該共重合体を構成する全構成単位の総モル数に対する構成単位zの含有量zを求めた。
吸水性共重合体の上記含有量zと脱架橋状態の吸水性共重合体の上記含有量zとの差が-0.5モル%~+0.5モル%であれば、吸水性共重合体は構成単位z部分で架橋されていないと判断した。
【0064】
<吸水性共重合体に含まれる未反応モノマーの合計量>
吸水性共重合体0.1gと純水100gとを混合し、23℃にて48時間撹拌した。未反応モノマーが抽出された水層を液体クロマトグラフィーにより分析し、未反応モノマーの合計量を測定した。
【0065】
<純水吸収量>
JIS K 7223に準じて、実施例および比較例で得られた吸水性共重合体の純水吸収量を測定し、下記式に基づいて、試料の単位質量当たりの純水吸収量X[g/g]を算出した。
【数1】

【0066】
<耐光性>
紫外線を照射する前後に、吸水性共重合体の純水への溶出率を測定し、その差により吸水性共重合体の耐光性を評価した。
まず、紫外線照射前の吸水性共重合体の純水への溶出率を測定した。具体的には、吸水性共重合体0.10gと純水100gとを混合し、23℃で16時間静置した。次いで、テトロン280メッシュを用いて混合物をろ過し、ろ取した固形物を40℃で16時間真空乾燥させた後、質量w(g)を測定した。
【数2】


測定を3回行い、その平均値を溶出率1(単位:質量%)として採用した。
次いで、紫外線照射後の吸水性共重合体の純水への溶出率を測定した。具体的には、吸水性共重合体0.10gと純水100gとを混合し、得られた混合物を9mL容のガラス製スクリュー瓶(アズワン株式会社、ラボランパック)に入れ、密閉した。密閉したスクリュー瓶を、キセノンウェザーメーターSX75(スガ試験株式会社)に取り付け、スクリュー瓶放射照度130W/m(測定波長300~400nm)、槽内温度25℃、槽内湿度50%RH、ブラックパネル温度60℃の条件で、積算放射照度が14.4MJ/m(屋外における太陽光の約3週間分に相当する照度)となるまで照射した。照射後の吸水性共重合体に純水95mLを添加し、23℃で16時間静置した。次いで、テトロン280メッシュを用いて混合物をろ過し、ろ取した固形物を40℃で16時間真空乾燥させた後、質量w(g)を測定した。
【数3】


測定を3回行い、その平均値を溶出率2(単位:質量%)として採用した。
吸水性共重合体の耐光性(単位:質量%)を、下記式により求めた。
【数4】


上記式で算出された耐光性の数値が小さいほど、耐光性が良好と言える。
【0067】
<植物の生育>
吸水性共重合体30gと粒状培土(肥料としてN-P-KO=0.5-1.5-0.5g/kgを含む、平均粒径2.7mm)1500gとを均一に混合し、培地を作製した。この培地の60質量%を、内寸58cm×28cmの水稲育苗箱に敷き詰め、1000mLの水をじょうろで5秒間かけて潅水した。催芽籾(品種:コシヒカリ)200gを均一に撒いた後、その上に残りの培地(作製した培地の40質量%)を均一に敷き詰め、培地、催芽籾および水が導入された水稲育苗箱を作製した。以上の操作をさらに2回行い、同じ水稲育苗箱を3個作製した。30℃、湿度100%の出芽庫にて2日間かけて出芽を行った後、出庫調査を行った。調査は3個の育苗箱それぞれで行い、出芽率はその平均値を採用した。
出芽して覆土の上に出てきている芽の数(N1)を目視により数えた。播種した催芽籾の数(N2)を用い、下記式に従い出芽率(単位:%)を算出した。
【数5】
【0068】
実施例1
[共重合]
撹拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、モノマー滴加口および重合開始剤添加口を備えた3L容の反応器に、酢酸ビニル640g、メタノール250g、および構成単位zを形成するモノマーとしてのアクリル酸メチル1.1gを導入し、30分間のアルゴンガスバブリングにより反応器内をアルゴン置換した。これとは別の容器内で、ディレー溶液としてアクリル酸メチルをメタノールに溶解して濃度40質量%とした溶液を調製し、アルゴンガスバブリングにより容器内をアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し、反応器内部の温度が60℃となったところで、重合開始剤としての2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.150gを添加し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルとの共重合反応を開始させた。共重合反応の進行中は、調製したディレー溶液を共重合反応系に滴加により連続添加することで、共重合反応系において酢酸ビニルに対するアクリル酸メチルのモル比率が0.1以下となるようにした。共重合反応は60℃で205分間進行させた。その後、共重合反応系を冷却し、共重合を停止させた。共重合を停止させるまでに加えたアクリル酸メチル溶液の総量は29.7mLであり、共重合停止時の重合率は35%であった。
次に、減圧下30℃でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーを除去し、共重合体のメタノール溶液(濃度23質量%)を得た。
[けん化]
次に、得られた当該メタノール溶液65g(溶液中の共重合体は15g)に8.5gのメタノールを添加し、1.3gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を更に添加して、40℃でけん化を行った。アルカリ溶液を添加してから約10分後にゲル状物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、更に40℃で1時間放置してけん化を進行させた。その後、酢酸メチル200gを添加して残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が完了したことを確認した後、ろ過を行い、白色固体をろ取した。次に、得られた白色固体にメタノール500gを添加し、室温で1時間放置することで当該白色固体を洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心分離によって脱液を行い、得られた白色固体を真空乾燥機を用いて40℃で24時間乾燥させて、アクリル酸メチルに由来する構成単位を有するポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコールa」と称する)を得た。ポリビニルアルコールaのけん化度は98.6モル%であった。
[架橋]
還流冷却管および撹拌翼を備えた三つ口セパラブルフラスコに、アセトニトリル58.9g、イオン交換水6.28g、25質量%グルタルアルデヒド水溶液0.31g、およびポリビニルアルコールa20gを導入し、混合物を23℃で撹拌し、ポリビニルアルコールaを分散させた。得られた分散体に16.9質量%硫酸水溶液12.38gを15分かけて滴加し、65℃に昇温して6時間反応させた。反応後、ろ過によりポリマーを取り出した後、ろ取したポリマーを160gのメタノールで6回洗浄した。
[イオン化]
洗浄後のポリマーを、還流冷却管および撹拌翼を備えた三つ口セパラブルフラスコに導入し、そこにメタノール71g、イオン交換水13.3gおよび水酸化カリウム5.7gを添加し、65℃で2時間反応させた。反応後、ろ過によりポリマーを取り出した後、ろ取したポリマーを160gのメタノールで6回洗浄し、40℃で12時間真空乾燥を行い、目的の吸水性共重合体(以下、「吸水性共重合体a」と称する)を得た。吸水性共重合体aに対して、上記評価項目の測定を行った。結果を表1に示す。なお、吸水性共重合体aは、アクリル酸メチルに由来する構成単位部分で架橋されていなかった。
【0069】
実施例2~9、比較例1~4
共重合、けん化、架橋およびイオン化の条件を下記表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、各種の吸水性共重合体(以下、それぞれ「吸水性共重合体b」~「吸水性共重合体m」と称する)を製造し、評価した。結果を表1に示す。なお、反応時間は、目的の重合率になるように調整した。また、吸水性共重合体b~mはいずれも、構成単位z部分で架橋されていなかった。
【0070】
比較例5
共重合、けん化、架橋およびイオン化の条件を下記表1に示すように変更したこと、およびディレー溶液の滴加を205分間に代えて30分間行い、その後はディレー溶液の滴加を伴わずに共重合反応を進行させたこと以外は実施例1と同様にして、吸水性共重合体(以下、「吸水性共重合体n」と称する)を製造し、評価した。結果を表1に示す。なお、反応時間は、目的の重合率になるように調整した。また、滴加工程における共重合反応系において、酢酸ビニルに対するアクリル酸メチルのモル比率は0.1より大きく、吸水性共重合体nは、アクリル酸メチルに由来する構成単位部分で架橋されていなかった。
【0071】
比較例6
共重合、けん化、架橋およびイオン化の条件を下記表1に示すように変更したこと、およびけん化、架橋およびイオン化の工程における洗浄回数をそれぞれ1回に変更したこと以外は実施例1と同様にして、吸水性共重合体(以下、「吸水性共重合体o」と称する)を製造し、評価した。結果を表1に示す。なお、反応時間は、目的の重合率になるように調整した。また、吸水性共重合体oは、アクリル酸メチルに由来する構成単位部分で架橋されていなかった。
【0072】
【表1】
【0073】
表1から分かるように、構成単位zの含有量zに対する構成単位zの平均連鎖の含有量zの比率が50.0モル%以下である場合(実施例1~9)、紫外線照射前後の吸水性共重合体の水への溶出率の差(溶出率2-溶出率1)が小さいことから、吸水性共重合体は高い耐光性を有していた。また、吸水性共重合体に含まれる未反応モノマーの合計量が1000ppm以下である場合(実施例1~9)、出芽率が高く、植物の生育が良好であった。
一方で、構成単位zの含有量zに対する構成単位zの平均連鎖の含有量zの比率が50.0モル%より大きい場合(比較例1~5)、吸水性共重合体の耐光性は低かった。また、吸水性共重合体に含まれる未反応モノマーの合計量が1000ppmより大きい場合(比較例6)、出芽率が低く、植物の生育は不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の吸水性共重合体は、それ自体が耐光性に優れるため、耐光性の要求される用途(例えば、農園芸用保水材、芳香ゲル化剤、消臭ゲル化剤および人工雪等)で使用することができる。また、光に暴露される条件下であっても、長期間、その特性(吸水量、吸水速度およびゲル強度等)を保持することができる。