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特許7531621リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20240802BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20240802BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240802BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/489
H01M50/44
H01M50/491
H01M50/451
H01M50/446
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/457
H01M50/403 E
H01M50/403 D
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2022573741
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 KR2021016475
(87)【国際公開番号】W WO2022103184
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0150262
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソン・シク・ムン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ソン-ジェ・ハン
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0343506(US,A1)
【文献】国際公開第2015/166949(WO,A1)
【文献】特開2008-115264(JP,A)
【文献】特開2008-222913(JP,A)
【文献】特開2017-203145(JP,A)
【文献】国際公開第2020/179101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性ポリオレフィン基材を含むリチウム二次電池用分離膜であって、
下記の条件下で、前記分離膜が含むポリオレフィンの数式1によるtan(δ)が0.3以下である、リチウム二次電池用分離膜。
[数式1]
tan(δ)=前記分離膜に含まれるポリオレフィンの粘性応力(G’’、loss modulus)(B)/前記分離膜に含まれるポリオレフィンの弾性応力(G’、storage modulus)(A)
(ここで、tan(δ)は、温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で測定される。)
【請求項2】
前記数式1は、横軸が前記分離膜に含まれるポリオレフィンの弾性応力(G’、storage modulus)(A)であり、縦軸が前記分離膜に含まれるポリオレフィンの粘性応力(G’’、loss modulus)(B)である弾性-粘性応力曲線での傾きを意味する、請求項1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項3】
前記数式1のtan(δ)が0.1~0.3である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項4】
下記の条件下で、前記分離膜が含むポリオレフィンの数式2による「a」値が0.03~0.25である、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
[数式2]
a=d(log(G’))/d(log(角周波数))、
(ここで、「a」値は、温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で測定される。)
【請求項5】
前記数式2は、横軸がログスケールに変換された、前記分離膜が含むポリオレフィンの角周波数であり、縦軸はログスケールに変換された、前記分離膜が含むポリオレフィンの弾性応力(G’、storage modulus)である振動数-弾性応力曲線の傾きを意味する、請求項4に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項6】
前記数式2の「a」値が0.04~0.23である、請求項4または5に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項7】
前記多孔性ポリオレフィン基材は、複数のフィブリル、及び前記複数のフィブリル同士が絡み合って生成された気孔を含み、前記フィブリルを構成しているポリオレフィン鎖が互いに直接架橋した、請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項8】
前記フィブリルの表面が架橋している、請求項7に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項9】
前記弾性応力が1.0×10~1.0×10Paである、請求項1から8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項10】
前記粘性応力が1.0×10Pa以下である、請求項1から9のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項11】
前記分離膜のメルトダウン温度が160℃以上である、請求項1から10のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項12】
前記分離膜の気孔度が40%以上である、請求項1から11のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項13】
前記分離膜の通気度が500秒/100ml以下である、請求項1から12のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項14】
前記分離膜が160℃以上のメルトダウン温度及び40%以上の気孔度を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項15】
前記分離膜が、前記多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及びバインダー高分子を含む無機物複合空隙層をさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項16】
前記分離膜が、前記多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及び第1バインダー高分子を含む無機物複合空隙層と、
前記無機物複合空隙層上に位置し、第2バインダー高分子を含む多孔性接着層と、をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法であって、
(S1)非架橋多孔性ポリオレフィン基材を用意する段階と、
(S2)タイプII光開始剤を含むタイプII光開始剤組成物を前記多孔性ポリオレフィン基材上に適用する段階と、
(S3)前記タイプII光開始剤組成物が適用された多孔性ポリオレフィン基材にUVを照射する段階と、を含
前記タイプII光開始剤組成物のうちタイプII光開始剤の濃度が0.01~0.3重量%であり、
前記(S3)段階での前記UVの光量は10mJ/cm 以上500mJ/cm 以下である、リチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項18】
前記(S1)段階の非架橋多孔性高分子基材が15m/g以上のBET表面積を有する、請求項17に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項19】
温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で、前記(S1)段階の多孔性ポリオレフィン基材を構成するポリオレフィンのtan(δ)が0.5以上である、請求項17または18に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項20】
前記タイプII光開始剤が、イソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン誘導体、チオキサントン、ベンゾフェノン、ベンゾフェノン誘導体、4-ヒドロキシベンゾフェノン、またはこれらのうち二つ以上を含む、請求項17から19のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項21】
前記(S2)段階のタイプII光開始剤組成物が、タイプI光開始剤をさらに含む、請求項17から2のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項22】
前記タイプI光開始剤が、ベンゾイン系開始剤、ヒドロキシケトン系開始剤、アミノケトン系開始剤、ホスフィンオキシド系開始剤、またはこれらのうち二つ以上を含む、請求項2に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項23】
正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜が請求項1から16のうちいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜である、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法に関し、具体的には、高温でも弾性が維持されるリチウム二次電池用分離膜及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2020年11月11日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0150262号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が益々具体化されている。電気化学素子はこのような面から最も注目されている分野であり、なかでも充放電可能な二次電池の開発には関心が寄せられている。
【0004】
現在適用されている二次電池のうち1990年代初頭に開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来の電池に比べて、作動電圧が高くてエネルギー密度が格段に高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
このようなリチウム二次電池は正極、負極、電解液、分離膜を備えて構成され、そのうち分離膜は、正極と負極とを分離して電気的に絶縁させるための絶縁性、及び高い気孔度に基づいてリチウムイオンの透過性を高めるために高いイオン伝導度が求められる。
【0006】
一方、リチウム二次電池が電気自動車(EV)用に適用されるためには、安全性及び単価に対する画期的な改善が必要である。
【0007】
代表的なポリオレフィン分離膜であるポリエチレン(PE)分離膜の場合、融点(Tm)が低いため、電池の誤使用環境でバッテリー温度がポリエチレンの融点以上に上昇する場合、メルトダウン(meltdown)現象が発生して発火及び爆発を引き起こし得る。
【0008】
分離膜の安全性を強化するための一方法として、ポリエチレン単層分離膜の代わりに、ポリエチレンよりも融点が相対的に高いポリプロピレン(PP)を混合して、PE/PP/PEの3層分離膜を使用する試みがあった。このようなPE/PP/PEの3層分離膜は、ポリエチレン単層分離膜よりもメルトダウン温度を高められる長所があるが、単層の湿式ポリエチレン分離膜に比べて製造工程が複雑であるという限界がある。また、分離膜の安全性を強化するためのさらに他の方法として、架橋剤を使用してポリエチレンフィブリルの内部に架橋結合を形成する試みがあったが、このような方法は、副産物の生成によって工程効率性が低く、望ましくない異物が分離膜に形成されるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、高温でも弾性が維持される分離膜及びそれを含む電気化学素子を提供することである。
【0010】
また、本発明によれば、高温で分離膜の強度が維持されることで、高温に晒された状況で外力に対する抵抗が十分に確保されるため、電気化学素子の安全性を確保することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、下記の具現例によるリチウム二次電池用分離膜を提供する。
【0012】
第1具現例によれば、
多孔性ポリオレフィン基材を含むリチウム二次電池用分離膜であって、
下記の条件下で、前記分離膜が含むポリオレフィンの数式1によるtan(δ)が0.3以下であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
[数式1]
tan(δ)=粘性応力(G’’、loss modulus、損失弾性率)(B)/弾性応力(G’、storage modulus、貯蔵弾性率)(A)
(ここで、tan(δ)は、温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で測定される。)
【0013】
第2具現例によれば、第1具現例において、
前記数式1は、横軸が前記分離膜に含まれるポリオレフィンの弾性応力(G’、storage modulus)(A)であり、縦軸が前記分離膜に含まれるポリオレフィンの粘性応力(G’’、loss modulus)(B)である弾性-粘性応力曲線(貯蔵-損失弾性率曲線)での傾きを意味し得る。
【0014】
第3具現例によれば、第1具現例または第2具現例において、
前記数式1のtan(δ)が0.1~0.3であり得る。
【0015】
第4具現例によれば、第1具現例~第3具現例のうちいずれか一具現例において、
下記の条件下で、前記分離膜が含むポリオレフィンの数式2による「a」値が0.03~0.25であり得る。
[数式2]
a=d(log(G’))/d(log(角周波数))、
(ここで、「a」値は、温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で測定される。)
【0016】
第5具現例によれば、第4具現例において、
前記数式2は、横軸がログスケールに変換された、前記分離膜が含むポリオレフィンの角周波数(angular frequency)であり、縦軸がログスケールに変換された、前記分離膜が含むポリオレフィンの弾性応力(G’、storage modulus)である振動数-弾性応力曲線の傾きを意味し得る。
【0017】
第6具現例によれば、第1具現例~第5具現例のうちいずれか一具現例において、
前記数式2の「a」値が0.04~0.23であり得る。
【0018】
第7具現例によれば、第1具現例~第6具現例のうちいずれか一具現例において、
前記多孔性ポリオレフィン基材は、複数のフィブリル、及び前記複数のフィブリル同士が絡み合って生成された気孔を含み、前記フィブリルを構成しているポリオレフィン鎖が互いに直接架橋し得る。
【0019】
第8具現例によれば、第7具現例において、
前記フィブリルの表面が架橋し得る。
【0020】
第9具現例によれば、第1具現例~第8具現例のうちいずれか一具現例において、
前記弾性応力が1.0×10~1.0×10Paであり得る。
【0021】
第10具現例によれば、第1具現例~第9具現例のうちいずれか一具現例において、
前記粘性応力が1.0×10Pa以下であり得る。
【0022】
第11具現例によれば、第1具現例~第10具現例のうちいずれか一具現例において、
前記分離膜のメルトダウン温度が160℃以上であり得る。
【0023】
第12具現例によれば、第1具現例~第11具現例のうちいずれか一具現例において、
前記分離膜の気孔度が40%以上であり得る。
【0024】
第13具現例によれば、第1具現例~第12具現例のうちいずれか一具現例において、
前記分離膜の通気度が500秒/100ml以下であり得る。
【0025】
第14具現例によれば、第1具現例~第13具現例のうちいずれか一具現例において、
前記分離膜が160℃以上のメルトダウン温度及び40%以上の気孔度を有し得る。
【0026】
第15具現例によれば、第1具現例~第14具現例のうちいずれか一具現例において、
前記分離膜が、前記多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及びバインダー高分子を含む無機物複合空隙層をさらに含み得る。
【0027】
第16具現例によれば、第1具現例~第15具現例のうちいずれか一具現例において、
前記分離膜が、前記多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及び第1バインダー高分子を含む無機物複合空隙層と、
前記無機物複合空隙層上に位置し、第2バインダー高分子を含む多孔性接着層と、をさらに含み得る。
【0028】
本発明の他の一態様は、下記の具現例によるリチウム二次電池用分離膜の製造方法を提供する。
【0029】
第17具現例によれば、
リチウム二次電池用分離膜の製造方法であって、
(S1)非架橋多孔性ポリオレフィン基材を用意する段階と、
(S2)タイプII光開始剤を含むタイプII光開始剤組成物を前記多孔性ポリオレフィン基材上に適用する段階と、
(S3)前記タイプII光開始剤組成物が適用された多孔性ポリオレフィン基材にUV(紫外線)を照射する段階と、を含むことを特徴とする、第1具現例~第16具現例のうちいずれか一具現例に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法が提供される。
【0030】
第18具現例によれば、第17具現例において、
前記(S1)段階の非架橋多孔性高分子基材が15m/g以上のBET表面積を有し得る。
【0031】
第19具現例によれば、第17具現例または第18具現例において、
温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で、前記(S1)段階の多孔性ポリオレフィン基材を構成するポリオレフィンのtan(δ)が0.5以上であり得る。
【0032】
第20具現例によれば、第17具現例~第19具現例のうちいずれか一具現例において、
前記タイプII光開始剤が、イソプロピルチオキサントン(ITX:2-isopropyl thioxanthone)、イソプロピルチオキサントン誘導体、チオキサントン(TX:thioxanthone)、ベンゾフェノン(BPO:benzophenone)、ベンゾフェノン誘導体、4-ヒドロキシベンゾフェノン、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0033】
第21具現例によれば、第17具現例~第19具現例のうちいずれか一具現例において、
前記タイプII光開始剤組成物のうちタイプII光開始剤の濃度が0.01~0.3重量%であり得る。
【0034】
第22具現例によれば、第17具現例~第21具現例のうちいずれか一具現例において、
前記(S2)段階でタイプII光開始剤組成物はタイプI光開始剤をさらに含み得る。
【0035】
第23具現例によれば、第22具現例において、
前記タイプI光開始剤が、ベンゾイン系開始剤、ヒドロキシケトン系開始剤、アミノケトン系開始剤、ホスフィンオキシド系開始剤、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0036】
第24具現例によれば、
正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜が第1具現例~第16具現例のうちいずれか一具現例によるリチウム二次電池用分離膜であることを特徴とするリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0037】
本発明の一具現例によれば、高温でも粘性は低くて弾性は高いポリオレフィンを含む分離膜を提供することができる。これにより、高温で分離膜の強度が維持され、高温に晒された状況で外力に対する抵抗が十分に確保されるため、安全性が改善されたリチウム二次電池を提供することができる。
【0038】
本発明の一具現例によれば、従来と異なって、架橋ポリオレフィン分離膜を簡素化した方法で製造することができる。具体的には、分離膜の主成分であるポリオレフィンを簡便且つ効果的に架橋させ、粘性に対比した弾性が高い分離膜を提供することができる。これにより、架橋前のポリオレフィンに比べて高温でメルトダウンが発生して耐熱性を高めることができる。
【0039】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであって、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜を概略的に示した図である。
図2】本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜を概略的に示した図である。
図3】実施例1~4及び比較例1~6の分離膜に対して数式1で決定された、角周波数に応じたtan(δ)を示したグラフである。
図4】実施例1~4及び比較例1~6の分離膜に対して数式2で決定された、「a」値(ログスケールに変換された角周波数に対する弾性応力)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0042】
本明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されるとするとき、これは「直接的な連結」だけでなく、他の部材を介在した「間接的な連結」も含む。また、当該連結は物理的な連結だけではなく、電気化学的な連結を含む。
【0043】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0044】
また、本明細書で使用される場合、「含む(comprise、comprising)」は、言及した形状、数字、段階、動作、部材、要素及び/またはこれら群の存在を特定するものであり、一つ以上の他の形状、数字、段階、動作、部材、要素及び/または群の存在または付加を排除するものではない。
【0045】
また、本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0046】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0047】
本発明の一態様は、リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法に関する。
【0048】
リチウム二次電池に使用される分離膜はシャットダウン(shutdown) 温度とメルトダウン(meltdown)温度との差が大きい場合に優れた安全性を示す。このとき、これらの間の間隔を広げるためには、シャットダウン温度は減少する方向に、メルトダウン温度は増加する方向に調節しなければならない。
【0049】
分離膜の安全性を強化するための一方法として、ポリエチレン単層分離膜の代りに、ポリエチレンよりも融点が相対的に高いポリプロピレン(PP)を混合して、PE/PP/PEの3層分離膜を使用する試みがあった。このようなPE/PP/PEの3層分離膜は、ポリエチレン単層分離膜よりもメルトダウン温度を高められる長所があるが、単層の湿式ポリエチレン分離膜に比べて製造工程が複雑であるという点で限界がある。また、分離膜の安全性を強化するためのさらに他の方法として、架橋剤を使用してポリエチレンフィブリルの内部に架橋結合を形成する試みがあったが、このような方法は、副産物の生成によって工程効率性が低く、望ましくない異物が分離膜に形成されるという問題がある。
【0050】
そこで、本発明者等は、ポリオレフィンを従来と異なる方法で架橋させて流動学的弾性を大幅に増加させた。粘性対比弾性を高めることで、メルトダウンが発生する温度を高めた。これにより、高温での電池安全性を向上させることができる。特に、分離膜の主成分であるポリオレフィンを簡便且つ効果的に架橋させ、粘性に対比した弾性が高い分離膜を提供することができる。
【0051】
本発明の一態様によれば、多孔性ポリオレフィン基材を含むリチウム二次電池用分離膜であって、
下記の条件下で、前記分離膜が含むポリオレフィンの数式1によるtan(δ)が0.3以下であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
[数式1]
tan(δ)=粘性応力(G’’、loss modulus)(B)/弾性応力(G’、storage modulus)(A)
(ここで、tan(δ)は、温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で測定される。)
【0052】
本発明者等は、リチウム二次電池用分離膜において、高温でも安全性が確保された分離膜を開発しようとして研究を重ねた。これを解決するための手段として、高温での分離膜の粘性は下げ、分離膜の弾性は高めることで、結果的に高温安全性を改善させようとした。
【0053】
具体的には、高温での分離膜の粘性を下げて弾性を高めると、高温における分離膜の強度が維持されて分離膜自体に流動性が発生せず、正極と負極との間の短絡を防止することができ、結果的に分離膜の安全性を改善することができる。
【0054】
本発明の一具現例において、前記数式1は、横軸が前記分離膜に含まれるポリオレフィンの弾性応力(G’、storage modulus)(A)であり、縦軸が前記分離膜に含まれるポリオレフィンの粘性応力(G’’、loss modulus)(B)である弾性-粘性応力曲線での傾きを意味し得る。
【0055】
前記粘性-弾性応力曲線において、G’がG’’に比べて大きい場合、具体的にはtan(δ)が0.3以下である場合、安全性が向上した分離膜を提供することができる。tan(δ)が0.3よりも大きい場合は、分離膜の弾性に比べて粘性が大きくなって、高温で分離膜が破断し易くて正極と負極との短絡による電池発火のおそれがある。
【0056】
本発明において、弾性応力(G’、storage modulus)とは、エネルギーを貯蔵する物質の能力を意味し、下記の数式3のように表し得る。
[数式3]
G’=(応力(stress)/歪み(strain))cosδ
【0057】
本発明の一具現例において、前記弾性応力は、流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を使用して測定し得る。
【0058】
本発明の一具現例において、前記弾性応力は、温度230℃及び振動数0.1rad/s、線形粘弾性レジーム(linear viscoelastic regime)で周波数スイープ(frequency sweep)テストを通じて流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を使用して測定し得る。ただし、グラフには0.1~100rad/s範囲をすべて示し得る。
【0059】
本発明の一具現例において、前記弾性応力は、温度230℃及び振動数0.1rad/sで1.0×10~1.0×10Paであり得、具体的には、1.0×10Pa以上、2.0×10Pa以上、5.0×10Pa以上、及び2.0×10Pa以下、5.0×10Pa以下、1.0×10Pa以下であり得る。前記弾性応力が上記の数値範囲である場合、高温での分離膜強度を維持できて有利である。
【0060】
本発明の一具現例において、粘性応力(G’’、loss modulus)とは、変形によりエネルギーを失う物質の能力を意味し、下記の数式4のように表し得る。
[数式4]
G’’=(応力(stress)/歪み(strain))sinδ
【0061】
本発明の一具現例において、前記粘性応力は、流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を使用して測定し得る。
【0062】
本発明の一具現例において、前記粘性応力は、温度230℃及び振動数0.1rad/s、線形粘弾性レジームで周波数スイープテストを通じて流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を使用して測定し得る。ただし、グラフには0.1~100rad/s範囲をすべて示し得る。
【0063】
本発明の一具現例において、前記粘性応力は、温度230℃及び振動数0.1rad/sで1.0×10Pa以下であり得、具体的には、1.0×10Pa以上、2.0×10Pa以上、及び3.0×10Pa以下、1.0×10Pa以下であり得る。前記粘性応力が上記の数値範囲である場合、分離膜に流動性が発生せず有利である。
【0064】
本発明におけるtan(δ)の意味は、粘性寄与対比弾性寄与の相対的な尺度である。具体的には、上記の比率が1以上である場合は液体と類似の特性を呈し、上記の比率が1以下である場合は固体と類似の特性を呈する。
【0065】
特に、本発明では、tan(δ)が小さくなることは、粘性応力対比弾性応力が高くてメルトダウン温度が高くなることを意味する。
【0066】
本発明において、前記分離膜の振動数が0.1rad/sを示す範囲で、前記弾性応力(G’、storage modulus)(A)に対する前記粘性応力(G’’、loss modulus)(B)の比(B/A)、すなわちtan(δ)は0.3以下である。本発明の一具現例によれば、前記tan(δ)は0.1以上、0.14以上、0.17以上、0.18以上、0.23以上、及び0.17以下、0.18以下、0.23以下、0.25以下、0.3以下であり得る。前記tan(δ)が0.3以下の範囲を満足する場合、高温で分離膜の強度を維持しながら分離膜が隔離機能を維持することができて有利である。
【0067】
本発明の一具現例によれば、下記の条件下で、前記分離膜が含むポリオレフィンの数式2による「a」値が0.03~0.25であり得る。
[数式2]
a=d(log(G’))/d(log(角周波数))、
(ここで、「a」値は、温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で測定される。)
【0068】
このとき、数式2は、横軸がログスケールに変換された、前記分離膜が含むポリオレフィンの角周波数(angular frequency)であり、縦軸がログスケールに変換された、前記分離膜が含むポリオレフィンの弾性応力(G’、storage modulus)である振動数-弾性応力曲線の傾きを意味し得る。
【0069】
このとき、弾性応力については上述した記載を参照できる。
【0070】
本発明の一具現例において、前記分離膜の弾性を適切に向上させる水準の安定性を確保しながらも、過剰に架橋して伸び特性など機械的物性が低下しないUV架橋条件で、前記aは、0.03~0.25、0.04~0.23、0.05~0.23、0.09~0.23、0.09~0.19、0.05~0.15、または0.19~0.23であり得る。また、前記aは、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.09以上、0.19以上、及び0.15以下、0.19以下、0.23以下、0.25以下であり得る。前記aが0.03~0.25の範囲を満足する場合、高温で分離膜が隔離機能を維持することができて有利である。
【0071】
本発明の一具現例において、前記分離膜は、複数のフィブリル、及び前記複数のフィブリル同士が絡み合って生成された気孔を含み、前記フィブリルを構成しているポリオレフィン鎖が互いに直接架橋し得る。このとき、前記分離膜はUVによって架橋し得る。
【0072】
このとき、「フィブリル(fibril)」とは、ポリオレフィン多孔性基材を構成する高分子鎖が多孔性基材の製造過程で長手方向に延伸及び配向されることで、隣接する分子鎖同士の結合力が大きくなり、長手方向に集合して形成されたものを意味する。その結果、本発明の一具現例による架橋ポリオレフィン多孔性基材は、基材の表面と平行に配列された複数のフィブリルが層状で積層された構造を有し得る。
【0073】
このとき、「直接架橋」とは、実質的にポリオレフィンからなるフィブリル、より望ましくはポリオレフィンのみからなるフィブリルが、タイプII光開始剤の添加によって反応性を有するようになり、前記フィブリルを構成するポリオレフィン鎖の間に直接架橋が行われた状態を意味する。したがって、追加的な架橋剤が投入されて架橋剤同士で生じた架橋反応は、本発明で指す「直接架橋」に該当しない。
【0074】
前記「直接架橋」とは、タイプII光開始剤によって行われる架橋である。
【0075】
一般に、光開始剤は、タイプI光開始剤とタイプII光開始剤とに分類されると知られている。
【0076】
タイプI光開始剤は、光を吸収した後、単分子が開裂(unimolecular bond cleavage)され、反応性化合物種になるものである。これらの光開始剤が作用するためには、他の化合物種が不要である。このようなタイプI光開始剤と硬化剤を使用してポリオレフィンの鎖、例えば、ポリエチレンを架橋させる場合には、ポリエチレンの鎖から形成されたラジカルに開始剤または硬化剤が結合して架橋が発生すると知られている。
【0077】
これに対し、タイプII光開始剤は、二分子が反応するものであって、光を吸収した後にさらに他の分子(例えば、共開始剤または相乗剤(synergist))と反応して反応性化合物を形成すると知られている。
【0078】
しかし、本発明では、タイプII光開始剤が使用されるにもかかわらず、前記タイプII光開始剤は、さらに他の共開始剤、相乗剤の補助なく、光吸収のみで水素引き抜き反応(hydrogen abstraction)によって水素原子が除去されながらラジカルを形成して反応性化合物に形成され、また、ポリオレフィン自体を反応性にすることを特徴とする。これにより、本発明の一態様によれば、ポリオレフィン化合物からなるフィブリルのポリオレフィン鎖が直接架橋した架橋ポリオレフィン多孔性基材を提供することができる。この場合、直接架橋前と架橋後のポリオレフィン多孔性基材で気孔構造がそのまま維持できる。これにより、熱的安全性を改善することができる。
【0079】
本発明の一具現例による分離膜は、UVによって直接架橋され、このとき、架橋反応は分離膜に含まれるポリオレフィンのフィブリル表面のみに直接的に架橋が行われる表面架橋反応であり得る。一方、従来のシランによるシラン水架橋方式はフィブリルの内部まで架橋される方式であって、本発明による架橋方法とは相違する。例えば、気孔が全くないか、または、著しく少ないポリオレフィン基材上にUV架橋を適用する場合、架橋率が著しく低下するようになる。
【0080】
本発明の一具現例による分離膜は、タイプII光開始剤の単独使用から得られたUV架橋構造、タイプII光開始剤とタイプI光開始剤との混合使用から得られたUV架橋構造、タイプII光開始剤とエチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体との混合使用によるUV架橋構造、または、タイプII光開始剤とタイプI光開始剤とエチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体との混合使用から得られたUV架橋構造を有し得る。このとき、タイプII光開始剤の単独使用から得られたUV架橋構造、及びタイプII光開始剤とタイプI光開始剤との混合使用から得られたUV架橋構造は、上述したように分離膜のフィブリルを構成するポリオレフィン鎖同士が直接架橋した構造である。一方、タイプII光開始剤単独に、または、タイプII光開始剤とタイプI光開始剤との混合に、追加的にエチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体をさらに混合して使用することから得られたUV架橋構造は、分離膜のフィブリルを構成するポリオレフィン鎖同士が直接架橋した構造も含み、さらに、エチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体がポリオレフィンのフィブリルを囲みながら自己架橋重合されて前記フィブリルの外側を架橋高分子でコーティングする構造を形成し得る。このように直接架橋構造に追加して、エチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体の自己重合による架橋構造もさらに含む場合、分離膜の架橋構造をさらに堅固にして分離膜のメルトダウン温度をさらに上昇させることで、高温に晒された状況で外力に対する抵抗を十分に確保して安全性をさらに改善させることができる。
【0081】
前記エチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体としては、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート(TEICTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレン基の数が2~14であるポリエチレングリコールジアクリレートまたはポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、プロピレン基の数が2~14であるプロピレングリコールジアクリレートまたはプロピレングリコールジメタクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサメタクリレートなどの多価アルコールとβ-不飽和カルボン酸とをエステル化して得られる化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物などのグリシジル基を含む化合物に、アクリル酸またはメタクリル酸を付加して得られる化合物;β-ヒドロキシエチルアクリレートまたはβ-ヒドロキシエチルメタクリレートのフタル酸エステル、β-ヒドロキシエチルアクリレートまたはβ-ヒドロキシエチルメタクリレートのトルエンジイソシアネート付加物などの、ヒドロキシ基またはエチレン性不飽和結合を有する化合物と多価カルボン酸とのエステル化合物、またはポリイソシアネートとの付加物などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されることはない。勿論、列挙された物質は単独でまたは二つ以上の物質が一緒に使用され得る。
【0082】
本発明の一具現例によれば、前記分離膜のメルトダウン温度は160℃以上であり得る。
【0083】
前記リチウム二次電池用分離膜は、非架橋の多孔性ポリオレフィン基材を含む分離膜のメルトダウン温度に比べて高いメルトダウン温度を有し得る。例えば、分離膜のメルトダウン温度は、160℃以上、170℃以上、または180℃~230℃であり得る。
【0084】
本明細書において、「非架橋の多孔性ポリオレフィン基材を含む分離膜」とは、架橋していない架橋構造不包含多孔性ポリオレフィン基材からなる分離膜;架橋していない架橋構造不包含多孔性ポリオレフィン基材、及び前記架橋構造不包含多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及びバインダー高分子を含む無機物複合空隙層を含む分離膜;または架橋していない架橋構造不包含多孔性ポリオレフィン基材、前記架橋構造不包含多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及び第1バインダー高分子を含む無機物複合空隙層、及び前記無機物複合空隙層上に位置し、第2バインダー高分子を含む多孔性接着層を含む分離膜を称する。
【0085】
前記メルトダウン温度は、熱機械分析方法(Thermomechanical Analysis、TMA)で測定し得る。例えば、機械方向(machine direction)と横方向(transverse direction)におけるサンプルをそれぞれ採取した後、TMA装置(TAインスツルメント、Q400)に幅4.8mm×長さ8mmのサンプルを入れて0.01Nの張力を加えた状態で、昇温速度5℃/分で温度を30℃から220℃まで変化させながら、長さが急増してサンプルが切れる温度をメルトダウン温度とし得る。
【0086】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、非架橋の多孔性ポリオレフィン基材を含む分離膜と比べて、シャットダウン温度の増加が大きくなく、その変化率も小さい。本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、非架橋の多孔性ポリオレフィン基材を含む分離膜と比べて、分離膜のメルトダウン温度は増加する一方で、シャットダウン温度の増加は大きくないため、シャットダウン温度による過充電安全性を確保できるとともに、分離膜の高温安全性が大幅に増大することができる。
【0087】
本発明の一実施形態において、前記リチウム二次電池用分離膜は、シャットダウン温度が145℃以下、140℃以下、または133℃~140℃であり得る。前記リチウム二次電池用分離膜が上述したシャットダウン温度を有する場合、過充電による安全性を確保できるとともに、電池組み立て時の高温、加圧工程で架橋構造を含む多孔性ポリオレフィン基材の気孔が損傷されて抵抗が上昇する問題を容易に防止することができる。
【0088】
前記シャットダウン温度は、通気度試験装置を用いて1分に5℃ずつ昇温させたとき、0.05Mpaの一定圧力で100mlの空気が分離膜を通過するのにかかる時間(秒)を測定し、分離膜の通気度が急激に増加する温度をシャットダウン温度とし得る。
【0089】
本発明の一具現例による分離膜の気孔度は、40%以上、45%以上、または50%以上であり得る。
【0090】
また、本発明の一具現例による分離膜は、160℃以上のメルトダウン温度及び40%以上の気孔度をすべて満たし得、この場合、前記分離膜は高温で優れた安定性を有すると同時に、高温ではない正常作動区間では十分な気孔度を確保することで、リチウムイオンの移動通路としての分離膜の機能を発揮できるという点でさらに有利である。
【0091】
このとき、分離膜の気孔度は、一定面積の試片を採取した後、重さを測定して下記の式で計算し得る。
気孔度(%)=100-[(分離膜の重さ)/(試片の面積×試片の厚さ×分離膜材料の密度)]×100
【0092】
また、本発明の一具現例による分離膜の通気度は、500秒/100ml以下、200秒/100ml以下、100秒/100ml以下、または79秒/100ml以下であり得る。
【0093】
前記通気度(ガーレー)はASTM D726-94方法によって測定し得る。ここで使用されるガーレーは空気の流れに対する抵抗であって、ガーレーデンソメーターによって測定される。ここで説明された通気度の値は、100mlの空気が12.2 in HOの圧力下で、サンプル多孔支持体1inの断面を通過するのにかかる時間(秒)、すなわち通気時間として示す。
【0094】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、通気度、坪量、引張強度、引張伸度(tensile elongation)、突刺し強度、電気抵抗などが、架橋前の多孔性ポリオレフィン基材を含む分離膜の通気度、坪量、引張強度、引張伸度、突刺し強度、電気抵抗などと比べて格段に劣化することはなく、その変化率も小さい。
【0095】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、架橋前のリチウム二次電池用分離膜と比べて、通気度の変化率が10%以下、0%~10%、0%~5%、または0%~3%であり得る。
【0096】
通気度の変化率は、下記の式で計算し得る。
通気度の変化率(%)=[(架橋後のリチウム二次電池用分離膜の通気度)-(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の通気度)]/(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の通気度)×100
【0097】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、架橋前のリチウム二次電池用分離膜と比べて、坪量の変化率が5%以下、または0%~5%であり得る。
【0098】
坪量の変化率は、下記の式で計算し得る。
坪量の変化率(%)=[(架橋後のリチウム二次電池用分離膜の坪量)-(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の坪量)]/(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の坪量)×100
【0099】
前記坪量(g/m)は、縦横がそれぞれ1mであるサンプルを用意し、その重さを測定して示す。
【0100】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、架橋前のリチウム二次電池用分離膜と比べて、機械方向及び横方向における引張強度の変化率が20%以下、0%~20%、0%~10%、0%~9%、0%~8%、または0%~7.53%であり得る。
【0101】
引張強度の変化率は、下記の式で計算し得る。
機械方向における引張強度の変化率(%)=[(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の機械方向における引張強度)-(架橋後のリチウム二次電池用分離膜の機械方向における引張強度)]/(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の機械方向における引張強度)×100
横方向における引張強度の変化率(%)=[(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の横方向における引張強度)-(架橋後のリチウム二次電池用分離膜の横方向における引張強度)]/(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の横方向における引張強度)×100
【0102】
前記引張強度は、ASTM D882に準じて、前記試片をUniversal Testing Systems(Instron(登録商標) 3345)を用いて50mm/分の速度で機械方向及び横方向にそれぞれ引っ張ったとき、試片が破断する時点における強度を意味し得る。
【0103】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、架橋前のリチウム二次電池用分離膜と比べて、機械方向及び横方向における引張伸度の変化率が20%以下、または0%~20%であり得る。
【0104】
引張伸度の変化率は、下記の式で計算し得る。
機械方向における引張伸度の変化率(%)=[(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の機械方向における引張伸度)-(架橋後のリチウム二次電池用分離膜の機械方向における引張伸度)]/(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の機械方向における引張伸度)×100
横方向における引張伸度の変化率(%)=[(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の横方向における引張伸度)-(架橋後のリチウム二次電池用分離膜の横方向における引張伸度)]/(架橋前のリチウム二次電池用分離膜の横方向における引張伸度)×100
【0105】
前記引張伸度は、ASTM D882に準じて、前記試片をUniversal Testing Systems(Instron(登録商標) 3345)を用いて50mm/分の速度で機械方向及び横方向にそれぞれ引っ張ったとき、試片が破断するまで伸びた最大長さを測定し、下記の式で計算し得る。
機械方向における引張伸度(%)=(破断直前試片の機械方向の長さ-伸び前試片の機械方向の長さ)/(伸び前試片の機械方向の長さ)×100
横方向における引張伸度(%)=(破断直前試片の横方向の長さ-伸び前試片の横方向の長さ)/(伸び前試片の横方向の長さ)×100
【0106】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜は、前記多孔性ポリオレフィン基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及びバインダー高分子を含む無機物複合空隙層をさらに含み得る。これを図1に示した。
【0107】
図1を参照すると、本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜1は、ポリオレフィン多孔性基材10、及び前記ポリオレフィン多孔性基材10の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及びバインダー高分子を含む無機物複合空隙層20を含み得る。
【0108】
前記無機物複合空隙層20は、前記ポリオレフィン多孔性基材10の一面または両面に形成され得る。前記無機物複合空隙層20は、無機フィラー、及び前記無機フィラー同士が互いに結着した状態を維持するようにこれらを互いに付着(すなわち、バインダー高分子が無機フィラー同士の間を連結及び固定)させるバインダー高分子を含み、前記バインダー高分子によって無機フィラーとポリオレフィン多孔性基材10とが結着した状態を維持できる。前記無機物複合空隙層20は、無機フィラーによってポリオレフィン多孔性基材10が高温で甚だしい熱収縮挙動を見せることを防止して分離膜の安全性を向上させることができる。例えば、120℃で30分間放置してから測定した機械方向及び横方向における分離膜の熱収縮率がそれぞれ20%以下、2%~15%、または2%~10%であり得る。
【0109】
本明細書の全体において、「機械方向(machine direction、MD)」は、分離膜が連続生産されるときの進行方向であって、分離膜の長手方向を指し、「横方向(transverse direction、TD)」は、機械方向の横方向、すなわち、分離膜が連続生産されるときの進行方向に垂直な方向であって、分離膜の長手方向と垂直な方向を指す。
【0110】
前記無機フィラーは、電気化学的に安定さえすれば特に制限されない。すなわち、本発明で使用する無機フィラーは、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li基準で0~5V)で酸化及び/または還元反応が起きないものであれば特に制限されない。特に、誘電率の高い無機フィラーを使用すると、液体電解質内の電解質塩、例えばリチウム塩の解離度増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0111】
上述した理由から、本発明の一実施形態において、前記無機フィラーは誘電率定数が5以上、望ましくは10以上の高誘電率無機フィラーを含み得る。誘電率定数が5以上である無機フィラーの非制限的な例としては、BaTiO、Pb(Zr,Ti)O(PZT)、Pb1-xLaZr1-yTi(PLZT、0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PMN-PT)、ハフニア(HfO)、SrTiO、SnO、CeO、MgO、Mg(OH)、NiO、CaO、ZnO、ZrO、SiO、Y、Al、AlOOH、Al(OH)、SiC、TiOまたはこれらの混合体などが挙げられる。
【0112】
また、本発明の他の実施形態において、前記無機フィラーとしては、リチウムイオン伝達能力を有する無機フィラー、すなわちリチウム元素を含むもののリチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有する無機フィラーを使用し得る。リチウムイオン伝達能力を有する無機フィラーの非制限的な例としては、リチウムホスフェート(LiPO)、リチウムチタンホスフェート(LiTi(PO、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LiAlTi(PO、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14LiO-9Al-38TiO-39Pなどのような(LiAlTiP)系ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LiLaTiO、0<x<2、0<y<3)、Li3.25Ge0.250.75などのようなリチウムゲルマニウムチオホスフェート(LiGe、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、LiNなどのようなリチウムナイトライド(Li、0<x<4、0<y<2)、LiPO-LiS-SiSなどのようなSiS系ガラス(LiSi、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI-LiS-PなどのようなP系ガラス(Li、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0113】
本発明の一実施形態において、前記無機フィラーの平均粒径は、0.01μm~1.5μmであり得る。前記無機フィラーの平均粒径が上述した範囲を満足する場合、均一な厚さ及び適切な気孔度を有する無機物複合空隙層20を容易に形成でき、無機フィラーの分散性が良好であり、所望のエネルギー密度を達成することができる。
【0114】
このとき、前記無機フィラーの平均粒径とは、D50粒径を意味し、「D50粒径」は、粒径に応じた粒子個数累積分布の50%地点における粒径を意味する。前記粒径は、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定し得る。具体的には、測定対象粉末を分散媒中に分散させた後、市販のレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac S3500)に導入し、粒子がレーザービームを通過するとき、粒子の大きさに応じた回折パターンの差を測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径に応じた粒子個数累積分布の50%になる地点での粒子直径を算出することで、D50粒径を測定できる。
【0115】
前記バインダー高分子は、ガラス転移温度(glass transition temperature、T)が-200~200℃であり得る。前記バインダー高分子のガラス転移温度が上述した範囲を満足する場合、最終的に形成される無機物複合空隙層20の柔軟性及び弾性などのような機械的物性が向上できる。前記バインダー高分子はイオン伝導能力を有するものであり得る。前記バインダー高分子がイオン伝導能力を有する場合、電池の性能を一層向上させることができる。前記バインダー高分子は、誘電率定数が1.0~100(測定周波数=1kHz)または10~100であり得る。前記バインダー高分子の誘電率定数が上述した範囲を満足する場合、電解液における塩の解離度を向上させることができる。
【0116】
本発明の一実施形態において、前記バインダー高分子は、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレン、アクリル系共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシメチルセルロース、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0117】
前記アクリル系共重合体は、エチルアクリレート-アクリル酸-N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体、エチルアクリレート-アクリル酸-2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート共重合体、エチルアクリレート-アクリル酸-N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体、エチルアクリレート-アクリル酸-2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート共重合体、またはこれらのうち二つ以上を含み得るが、これらに制限されない。
【0118】
本発明の一実施形態において、前記無機フィラーとバインダー高分子との重量比は、最終的に製造される無機物複合空隙層20の厚さ、気孔の大きさ及び気孔度を考慮して決定されるが、50:50~99.9:0.1、または60:40~99.5:0.5であり得る。前記無機フィラーとバインダー高分子との重量比が上述した範囲である場合、無機フィラー同士の間に形成される空き空間を十分に確保して無機物複合空隙層20の気孔の大きさ及び気孔度を容易に確保できる。また、無機フィラー同士の接着力も容易に確保することができる。
【0119】
本発明の一実施形態において、前記無機物複合空隙層20は、分散剤及び/または増粘剤のような添加剤をさらに含み得る。本発明の一実施形態において、前記添加剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、シアノエチレンポリビニルアルコール、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0120】
本発明の一実施形態において、前記無機物複合空隙層20は、前記無機フィラーが充填されて互いに接触した状態で前記バインダー高分子によって互いに結着し、これにより無機フィラー同士の間にインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)が形成され、前記無機フィラー同士の間のインタースティシャル・ボリュームは空き空間になって気孔を形成する構造を有し得る。
【0121】
本発明の他の実施形態において、前記無機物複合空隙層20は、前記無機フィラー、及び前記無機フィラーの表面の少なくとも一部を被覆するバインダー高分子を含む複数のノード(node)と、前記ノードの前記バインダー高分子から糸(thread)状に形成された一つ以上のフィラメントと、を含み、前記フィラメントは前記ノードから延びて他のノードを連結するノード連結部分を備え、前記ノード連結部分は、前記バインダー高分子から由来した複数のフィラメント同士が互いに交差して3次元網状構造体を成す構造を有し得る。
【0122】
本発明の一実施形態において、前記無機物複合空隙層20の平均気孔大きさは、0.001μm~10μmであり得る。前記無機物複合空隙層20の平均気孔大きさは、キャピラリーフローポロメトリー(Capillary flow porometry)方法によって測定し得る。キャピラリーフローポロメトリーは、厚さ方向で最も小さい気孔の直径を測定する方式である。したがって、キャピラリーフローポロメトリーによって無機物複合空隙層20のみの平均気孔大きさを測定するためには、無機物複合空隙層20をポリオレフィン多孔性基材10から分離し、分離した無機物複合空隙層20を支持可能な不織布で囲んだ状態で測定しなければならず、このとき、前記不織布の気孔の大きさは無機物複合空隙層20の気孔の大きさに比べて遥かに大きくなければならない。
【0123】
本発明の一実施形態において、前記無機物複合空隙層20の気孔度(porosity)は、5%~95%、10%~95%、20%~90%、または30%~80%であり得る。前記気孔度は、前記無機物複合空隙層20の厚さ、横長及び縦長から計算した体積から、前記無機物複合空隙層20の各構成成分の重さと密度から換算した体積を引き算(subtraction)した値に該当する。
【0124】
前記無機物複合空隙層20の気孔度は、走査電子顕微鏡(SEM)イメージ、または、水銀ポロシメーター(mercury porosimeter)や細孔分布測定装置(porosimetry analyzer;Bell Japan、Belsorp-II mini)を使用して窒素ガス吸着フローによってBET6点法で測定し得る。
【0125】
本発明の一実施形態において、前記無機物複合空隙層20の厚さは、ポリオレフィン多孔性基材10の一面で1.5μm~5.0μmであり得る。前記無機物複合空隙層20の厚さが上述した範囲を満足する場合、電極との接着力に優れながらも電池のセル強度を容易に増加させることができる。
【0126】
本発明の他の実施形態によるリチウム二次電池用分離膜は、前記ポリオレフィン多孔性基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及び第1バインダー高分子を含む無機物複合空隙層と、前記無機物複合空隙層上に位置し、第2バインダー高分子を含む多孔性接着層と、をさらに含み得る。これを図2に示した。
【0127】
図2を参照すると、本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜1’は、高分子鎖同士が直接的に連結された架橋構造を有するポリオレフィン多孔性基材10’、前記ポリオレフィン多孔性基材10’の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及び第1バインダー高分子を含む無機物複合空隙層20’、及び前記無機物複合空隙層20’上に位置し、第2バインダー高分子を含む多孔性接着層30’を含み得る。
【0128】
前記無機物複合空隙層20’は、前記ポリオレフィン多孔性基材10’の一面または両面に形成され得る。前記無機物複合空隙層20’は、無機フィラー、及び前記無機フィラー同士が互いに結着した状態を維持するようにこれらを互いに付着(すなわち、第1バインダー高分子が無機フィラー同士の間を連結及び固定)させる第1バインダー高分子を含み、前記第1バインダー高分子によって無機フィラーとポリオレフィン多孔性基材10’とが結着した状態を維持することができる。前記無機物複合空隙層20’は、無機フィラーによってポリオレフィン多孔性基材10’が高温で甚だしい熱収縮挙動を見せることを防止して分離膜の安全性を向上させることができる。例えば、150℃で30分間放置してから測定した機械方向及び横方向における分離膜の熱収縮率がそれぞれ20%以下、2%~15%、または2%~10%であり得る。
【0129】
前記無機フィラーについては上述した記載を参照できる。
【0130】
前記第1バインダー高分子はガラス転移温度(T)が-200~200℃であり得る。前記第1バインダー高分子のガラス転移温度が上述した範囲を満足する場合、最終的に形成される無機物複合空隙層20’の柔軟性及び弾性などのような機械的物性が向上できる。前記第1バインダー高分子はイオン伝導能力を有するものであり得る。前記第1バインダー高分子がイオン伝導能力を有する場合、電池の性能を一層向上させることができる。前記第1バインダー高分子は、誘電率定数が1.0~100(測定周波数=1kHz)または10~100であり得る。前記第1バインダー高分子の誘電率定数が上述した範囲を満足する場合、電解液における塩の解離度を向上させることができる。
【0131】
本発明の一実施形態において、前記第1バインダー高分子は耐熱性に優れたバインダー高分子であり得る。優れた耐熱性の第1バインダー高分子が使用されると、無機物複合空隙層の耐熱特性がさらに向上できる。例えば、150℃で30分間放置してから測定した機械方向及び横方向における分離膜の熱収縮率がそれぞれ20%以下、2%~15%、2%~10%、2%~5%、0%~5%、または0%~2%であり得る。本発明の一実施形態において、前記第1バインダー高分子は、アクリル系重合体、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0132】
具体的には、前記アクリル系重合体は、アクリル系単量体のみを重合したアクリル系単独重合体を含み得、アクリル系単量体と他の単量体との共重合体も含み得る。例えば、前記アクリル系重合体は、エチルヘキシルアクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0133】
本発明の一実施形態において、前記第1バインダー高分子は粒子状であり得る。
【0134】
本発明の一実施形態において、前記無機フィラーと第1バインダー高分子との重量比は95:5~99.9:0.1、96:4~99.5:0.5、または97:3~99:1であり得る。前記無機フィラーと第1バインダー高分子との重量比が上述した範囲である場合、分離膜の単位面積当り分布する無機フィラーの含量が多くなって、高温における分離膜の熱的安全性が改善できる。例えば、150℃で30分間放置してから測定した機械方向及び横方向における分離膜の熱収縮率がそれぞれ20%以下、2%~15%、2%~10%、2%~5%、0%~5%、または0%~2%であり得る。以下では、上述した無機物複合空隙層20と異なる無機物複合空隙層20’の特徴のみを説明することにする。
【0135】
本発明の一実施形態において、前記無機物複合空隙層20’は、前記無機フィラーが充填されて互いに接触した状態で前記第1バインダー高分子によって互いに結着し、これにより無機フィラー同士の間にインタースティシャル・ボリュームが形成され、前記無機フィラー同士の間のインタースティシャル・ボリュームは空き空間になって気孔を形成する構造を有し得る。
【0136】
前記多孔性接着層30’は、第2バインダー高分子を含むことで、前記無機物複合空隙層20’を備える分離膜と電極との接着力を確保できるようにする。また、前記多孔性接着層30’には気孔が形成されており、分離膜の抵抗が高くなることを防止することができる。
【0137】
本発明の一実施形態において、前記多孔性接着層30’は、ポリオレフィン多孔性基材10’の表面及び/または内部に第2バインダー高分子が浸透しないため、分離膜の抵抗が高くなる現象を最小化することができる。
【0138】
前記第2バインダー高分子は、接着層の形成に通常使用されるバインダー高分子であり得る。前記第2バインダー高分子は、ガラス転移温度(T)が-200~200℃であり得る。前記第2バインダー高分子のガラス転移温度が上述した範囲を満足する場合、最終的に形成される接着層の柔軟性及び弾性などのような機械的物性が向上できる。前記第2バインダー高分子はイオン伝導能力を有するものであり得る。イオン伝導能力を有するバインダー高分子を第2バインダー高分子として使用する場合、電池の性能を一層向上させることができる。前記第2バインダー高分子は、誘電率定数が1.0~100(測定周波数=1kHz)または10~100であり得る。前記第2バインダー高分子の誘電率定数が上述した範囲を満足する場合、電解液における塩の解離度を向上させることができる。
【0139】
本発明の一実施形態において、前記第2バインダー高分子は、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチルヘキシルアクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0140】
本発明の一実施形態において、前記多孔性接着層30’は、前記第2バインダー高分子を含む一つ以上の接着部と前記接着部が形成されていない一つ以上の無地部(non-coating region)とを含むパターンを有するものであり得る。前記パターンは、ドット型、ストライプ型、斜線型、波型、三角形、四角形、または半円型であり得る。前記多孔性接着層がパターンを有する場合、分離膜の抵抗が改善され、多孔性接着層が形成されていない無地部を通じて電解液が含浸可能であるため、分離膜の電解液含浸性が改善できる。
【0141】
本発明の一実施形態において、前記多孔性接着層30’の厚さは、0.5μm~1.5μm、0.6μm~1.2μm、または0.6μm~1.0μmであり得る。前記多孔性接着層の厚さが上述した範囲である場合、電極との接着力に優れ、その結果、電池のセル強度が増加できる。また、電池のサイクル特性及び抵抗特性の面で有利である。
【0142】
本発明の一態様によれば、リチウム二次電池用分離膜の製造方法であって、
(S1)非架橋多孔性ポリオレフィン基材を用意する段階と、
(S2)タイプII光開始剤を含むタイプII光開始剤組成物を前記多孔性ポリオレフィン基材上に適用する段階と、
(S3)前記タイプII光開始剤組成物が適用された多孔性ポリオレフィン基材にUV(紫外線)を照射する段階と、を含むことを特徴とする、上述したリチウム二次電池用分離膜の製造方法が提供される。
【0143】
本発明によるリチウム二次電池用分離膜の製造方法は、上述した方法に制限されない。
【0144】
本発明は、G’とG’’との間の関係、G’の傾きを有する架橋ポリオレフィン分離膜を提供し、このような相関関係を有する分離膜は、上述したように、高温で強度を維持しながら隔離機能を果たすことができる。換言すれば、外部の異常環境によってリチウム二次電池の温度が急激に上昇した場合であっても、分離膜が固体性質を呈する弾性応力が液体性質を呈する粘性応力よりも高く維持されながら形態を維持することができ、隔離機能を喪失しない。
【0145】
具体的には、まず、非架橋多孔性ポリオレフィン基材を用意する。
【0146】
本発明の一具現例によれば、前記(S1)段階の非架橋多孔性高分子基材は、BET表面積が15m/g以上または18m/g以上であり得る。
【0147】
温度230℃及び角周波数0.1rad/sの条件下で、前記(S1)段階の多孔性ポリオレフィン基材を構成するポリオレフィンのtan(δ)は0.5以上、0.56以上、または0.5~0.56であり得る。
【0148】
本発明の一具現例による分離膜の製造方法は、UV架橋を用いたものであり、ポリオレフィンを構成するフィブリルの表面から主に架橋が行われる。すなわち、非架橋多孔性高分子基材の比表面積が広いほど効果的にUV架橋を行うことができる。
【0149】
本発明で使用可能な多孔性ポリオレフィン基材の種類は、以下のようなものであるが、これらに制限されることはない。
【0150】
本発明の一具現例において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレン;ポリペンテン;ポリヘキセン;ポリオクテン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、4-メチルペンテン、ヘキセン、ヘプタン及びオクテンのうち二種以上の共重合体;またはこれらの混合物であり得る。
【0151】
特に、前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などが挙げられ、このうち結晶度が高くて樹脂の融点が高い高密度ポリエチレンが最も望ましい。
【0152】
本発明の一具現例において、前記ポリエチレンの重量平均分子量は、200,000~1,000,000、220,000~700,000、または250,000~500,000であり得る。本発明の一具現例では、200,000~1,000,000の重量平均分子量を有する高分子量のポリオレフィンを分離膜製造の出発物質として使用することで、分離膜フィルムの均一性及び製膜工程性を確保するとともに、最終的に強度及び耐熱性に優れた分離膜が得られる。
【0153】
次いで、タイプII光開始剤組成物を非架橋ポリオレフィン多孔性基材に適用する。
【0154】
本発明の一具現例によれば、前記タイプII光開始剤は、イソプロピルチオキサントン(ITX)、イソプロピルチオキサントン誘導体、チオキサントン(TX)、チオキサントン誘導体、ベンゾフェノン(BPO)、4-ヒドロキシベンゾフェノン、またはこれらのうち二種以上を含み得る。
【0155】
本明細書において、「誘導体」とは、「ベンゼン環のうちの一つの水素原子が線状または分岐したC1-C4アルキル鎖で置換された誘導体」を意味すると理解する。
【0156】
本発明の一具現例によれば、前記タイプII光開始剤を含む組成物は、前記タイプII光開始剤を溶媒に溶解して収得したものであり得る。前記溶媒は、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、N-メチルピロリドン(NMP)、メチルアルコールまたはこれらの二種以上の混合物であり得る。前記タイプII光開始剤は、前記組成物中に0.01~0.4重量%の濃度、0.01~0.3重量%の濃度、0.03~0.3重量%の濃度、または0.05~0.2重量%の濃度で含まれ得る。前記タイプII光開始剤の含量がこのような範囲を満足する場合、UV照射時の急激な架橋反応によって分離膜が収縮する問題を防止でき、ポリエチレンの主鎖切断(main chains cission)が発生して機械的強度が低下する恐れがなく、架橋収縮なく適切な架橋反応を行うことができる。
【0157】
本発明の一具現例によれば、前記(S2)段階でタイプII光開始剤組成物にタイプI光開始剤をさらに含み得る。
【0158】
例えば、タイプI光開始剤は、ベンゾイン系開始剤、ヒドロキシケトン系開始剤、アミノケトン系開始剤、ホスフィンオキシド系開始剤、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0159】
具体的には、タイプI光開始剤は、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、a,a-メトキシ-a-ヒドロキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-2-(ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]、トリメチルベンゾイルフェニルホスフィナート、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、またはこれらのうち二つ以上を含み得るが、これらに制限されることはない。
【0160】
このように、タイプI開始剤を追加的にさらに含むことで、より効果的にUV直接架橋を行うことができる。
【0161】
また、上述したように、タイプII光開始剤単独、またはタイプII光開始剤とタイプI光開始剤との混合使用に追加して、エチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体をさらに使用し得る。このとき、前記エチレン性不飽和結合を含む多官能性単量体は、前記組成物中に0.1~1.0重量%の濃度、0.2~0.8重量%の濃度、または0.3~0.6重量%の濃度で含まれ得る。
【0162】
本発明の一具現例によれば、前記タイプII光開始剤を含む組成物(タイプII光開始剤組成物)をポリオレフィン多孔性基材に適用する具体的な方法としては、前記タイプII光開始剤組成物にポリオレフィン多孔性基材を浸漬するか、または、前記タイプII光開始剤組成物をポリオレフィン多孔性基材の少なくとも一面にスプレー噴射のような方法で塗布する方法があるが、ここに限定されない。タイプII光開始剤組成物をポリオレフィン多孔性基材に適用する時間は、例えば、0.1秒~5分間であり得るが、これに制限されない。その後、前記タイプII光開始剤組成物が適用されたポリオレフィン多孔性基材を乾燥し得る。前記乾燥は、例えば、常温で30秒~10分間行われ得る。
【0163】
光開始剤溶液を前記ポリオレフィン多孔性基材にコーティングする方法の非制限的な例としては、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、マイクログラビアコーティング法、ドクターブレードコーティング法、リバースロールコーティング法、マイヤーバー(Mayer bar)コーティング法、ダイレクトロールコーティング法などが挙げられる。
【0164】
前記光開始剤溶液を前記ポリオレフィン多孔性基材にコーティングした後の乾燥段階は、当業界で公知の方法が使用可能であり、使用された溶剤の蒸気圧を考慮した温度範囲でオーブンまたは加熱式チャンバを使用してバッチ式または連続式で行い得る。前記乾燥は、前記光開始剤溶液内に存在する溶剤をほとんど除去することであり、生産性などを考慮して可能な限り速いことが望ましく、例えば1分間以下または30秒間以下の時間で行われ得る。
【0165】
本発明のさらに他の実施形態において、光架橋用組成物は無機フィラー、バインダー高分子、前記タイプII光開始剤、及び前記溶剤を含む無機物複合空隙層形成用スラリーであり得る。
【0166】
前記光架橋用組成物が前記無機物複合空隙層形成用スラリーである場合、前記光架橋用組成物がポリオレフィン多孔性基材にコーティングされながらタイプII光開始剤がポリオレフィン多孔性基材の表面に導入されて、紫外線の照射時にポリオレフィン多孔性基材を架橋させるとともに、ポリオレフィン多孔性基材の少なくとも一面に無機物複合空隙層を形成することができる。これにより、含架橋構造ポリオレフィン多孔性基材、及び前記含架橋構造ポリオレフィン多孔性基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及びバインダー高分子を含む無機物複合空隙層を含むリチウム二次電池用分離膜を製造することができる。
【0167】
前記光架橋用組成物が無機物複合空隙層形成用スラリーとして使用される場合、前記タイプII光開始剤をポリオレフィン多孔性基材に直接適用するための設備、例えば前記タイプII光開始剤を含む溶液をポリオレフィン多孔性基材に直接コーティング及び乾燥するための設備などを追加的に必要とせず、無機物複合空隙層形成工程を用いてポリオレフィン多孔性基材を架橋させることができる。
【0168】
また、前記無機物複合空隙層形成用スラリーは、ポリオレフィン多孔性基材内の高分子鎖を直接架橋させるために前記タイプII光開始剤の外に他のモノマーなどを必要としないため、タイプII光開始剤が無機フィラー及びバインダー高分子とともに無機物複合空隙層形成用スラリーに含まれても、タイプII光開始剤がポリオレフィン多孔性基材の表面に到達することをモノマーなどが妨害することがなく、タイプII光開始剤をポリオレフィン多孔性基材の表面に十分に導入することができる。
【0169】
一般に、ポリオレフィン多孔性基材自体及び無機フィラーが高い紫外線遮断効果を持つため、無機フィラーを含む無機物複合空隙層を形成してから紫外線を照射すると、ポリオレフィン多孔性基材に達する紫外線の照射光量が減少するおそれがあるが、本発明では、無機物複合空隙層が形成された後に紫外線を照射しても、ポリオレフィン多孔性基材内の高分子鎖同士が直接的に架橋できる。
【0170】
前記溶剤は、バインダー高分子の種類に応じてバインダー高分子を溶解させる溶媒の役割をしてもよく、バインダー高分子を溶解させずに分散させる分散媒の役割をしてもよい。また、前記溶剤は、前記タイプII光開始剤を溶解させ得る。前記溶剤は、使用しようとするバインダー高分子と溶解度指数が類似し、沸点が低いものを使用し得る。この場合、均一な混合、及び以降の溶剤除去が容易になる。このような溶剤の非制限的な例としては、上述した溶剤についての記載を参照する。
【0171】
前記無機フィラー及びバインダー高分子については上述した記載を参照する。
【0172】
前記バインダー高分子は、バインダー高分子の種類に応じて前記溶剤に溶解されるものであってもよく、前記溶剤に溶解されず分散するものであってもよい。
【0173】
本発明の一実施形態において、前記光架橋用組成物が前記無機物複合空隙層形成用スラリーであるとき、前記タイプII光開始剤としてイソプロピルチオキサントン(ITX)、イソプロピルチオキサントン誘導体、チオキサントン(TX)、ベンゾフェノン(BPO)、ベンゾフェノン誘導体、またはこれらのうち二つ以上を含み得、具体的には、2-イソプロピルチオキサントン、チオキサントン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、またはこれらの混合物を含み得る。2-イソプロピルチオキサントンまたはチオキサントンは、透過率の高い長波長でも光架橋が可能である。これにより、無機フィラー及びバインダー高分子などを含む無機物複合空隙層形成用スラリーにタイプII光開始剤が含まれても、ポリオレフィン多孔性基材を容易に架橋できる。
【0174】
前記無機物複合空隙層形成用スラリーは、前記バインダー高分子を前記溶剤に溶解または分散させた後、前記無機フィラーを添加し、これを分散させて製造し得る。前記無機フィラーは、予め所定の平均粒径を有するように破砕された状態で添加されてもよく、あるいは、前記バインダー高分子が溶解または分散したスラリーに前記無機フィラーを添加した後、前記無機フィラーをボールミル法などを用いて所定の平均粒径を有するように制御しながら破砕して分散させてもよい。このとき、破砕は1~20時間行われ得、破砕された無機フィラーの平均粒径は上述した通りである。破砕方法としては通常の方法が使用可能であって、ボールミル法が使用され得る。
【0175】
本発明の一実施形態において、前記無機物複合空隙層形成用スラリーの固形分の含量は5重量%~60重量%、または30重量%~50重量%であり得る。前記無機物複合空隙層形成用スラリーの固形分の含量が上述した範囲である場合、コーティング均一性を容易に確保でき、スラリーが流れてムラが発生するか又はスラリー乾燥に多大なエネルギーが必要となることを防止することができる。
【0176】
本発明の一実施形態において、前記光架橋用組成物が前記無機物複合空隙層形成用スラリーである場合、前記光架橋用組成物を前記ポリオレフィン多孔性基材にコーティングした後、相分離過程が行われ得る。前記相分離は、加湿相分離または浸漬相分離方式で行われ得る。
【0177】
以下、前記相分離のうち加湿相分離について説明する。
【0178】
まず、加湿相分離は、15℃~70℃の温度範囲または20℃~50℃の温度範囲、及び15%~80%の相対湿度範囲または30%~50%の相対湿度範囲の条件で行われ得る。前記無機物複合空隙層形成用スラリーが乾燥過程を経ながら、当業界で公知の相分離(vapor-induced phase separation)現象によって相転移特性を有するようになる。
【0179】
前記加湿相分離のため、前記バインダー高分子に対する非溶媒が気体状態で導入され得る。前記バインダー高分子に対する非溶媒は、バインダー高分子を溶解させることなく、前記溶剤と部分相溶性を有するものであれば、特に制限されず、例えば、25℃の条件でバインダー高分子の溶解度が5重量%未満であるものが使用され得る。例えば、前記バインダー高分子に対する非溶媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、またはこれらのうち二つ以上であり得る。
【0180】
前記相分離のうち浸漬相分離について説明すれば、以下のようである。
【0181】
前記無機物複合空隙層形成用スラリーを前記ポリオレフィン多孔性基材の外側にコーティングした後、前記バインダー高分子に対する非溶媒を含む凝固液に所定の時間だけ浸漬する。これにより、コーティングされた無機物複合空隙層スラリーで相分離現象が誘発されながらバインダー高分子を固化させる。この工程で多孔化した無機物複合空隙層が形成される。その後、水洗することで凝固液を除去し、乾燥する。前記乾燥は、当業界で公知の方法が使用可能であり、使用された溶剤の蒸気圧を考慮した温度範囲でオーブンまたは加熱式チャンバを使用してバッチ式または連続式で行い得る。前記乾燥は、前記スラリー内に存在する溶剤をほとんど除去することであり、これは生産性などを考慮して可能な限り速いことが望ましく、例えば1分間以下または30秒間以下の時間で行われ得る。
【0182】
前記凝固液としては、前記バインダー高分子に対する非溶媒のみを使用するか、または、前記バインダー高分子に対する非溶媒と上述したような溶剤との混合溶媒を使用し得る。前記バインダー高分子に対する非溶媒と溶剤との混合溶媒を使用する場合は、良好な多孔構造を形成し、生産性を向上させるという点から、凝固液100重量%に対して前記バインダー高分子に対する非溶媒の含量が50重量%以上であり得る。
【0183】
本発明の他の実施形態において、前記タイプII光開始剤及び溶剤を含む光架橋用組成物を前記ポリオレフィン多孔性基材の外側にコーティング及び乾燥する段階は、
無機フィラー、第1バインダー高分子、及び分散媒を含む無機物複合空隙層形成用スラリーを前記ポリオレフィン多孔性基材の少なくとも一面にコーティング及び乾燥して無機物複合空隙層を形成する段階と、
第2バインダー高分子、前記タイプII光開始剤、及び前記溶剤を含む多孔性接着層形成用コーティング液を前記無機物複合空隙層の上面にコーティング及び乾燥する段階と、を含み得る。
【0184】
これにより、含架橋構造ポリオレフィン多孔性基材、前記含架橋構造ポリオレフィン多孔性基材の少なくとも一面に位置し、無機フィラー及び第1バインダー高分子を含む無機物複合空隙層、及び第2バインダー高分子を含む多孔性接着層を備えるリチウム二次電池用分離膜を製造することができる。
【0185】
前記無機フィラーについては上述した記載を参照できる。
【0186】
前記分散媒は、第1バインダー高分子の種類に応じて第1バインダー高分子を溶解させる溶媒の役割をしてもよく、第1バインダー高分子を溶解させずに分散させる分散媒の役割をしてもよい。前記分散媒は、使用しようとする第1バインダー高分子と溶解度指数が類似し、沸点が低いものを使用し得る。この場合、均一な混合、及び以降の分散媒除去が容易になる。
【0187】
本発明の一実施形態において、前記分散媒は水系分散媒であり得る。前記分散媒が水系分散媒である場合、環境にやさしく、無機物複合空隙層を形成してからの乾燥過程で過度な熱量を必要とせず、追加的な防爆設備が要らないため、無機物複合空隙層をより容易に形成することができる。
【0188】
本発明の一実施形態において、前記第1バインダー高分子は、前記溶剤及び後述する前記第2バインダー高分子に対する非溶媒に溶解されないものであり得る。この場合、無機物複合空隙層を形成した後、多孔性接着層を形成するために後述するコーティング液を塗布しても、第1バインダー高分子が溶解されないため、溶剤及び/または第2バインダー高分子に対する非溶媒に溶解された第1バインダー高分子が気孔を塞ぐ現象を防止することができる。
【0189】
本発明の一実施形態において、前記第1バインダー高分子は、水系バインダー高分子であり得る。このとき、前記第1バインダー高分子は、水系溶媒に溶解されるか又は水系分散媒によって分散するものであり得る。前記第1バインダー高分子が水系分散媒によって分散するものである場合、前記第1バインダー高分子は粒子状であり得る。
【0190】
前記無機物複合空隙層形成用スラリーについては、上述した内容を参照できる。
【0191】
前記無機物複合空隙層形成用スラリーは、通常の分離膜製造時の乾燥方法によって乾燥され得る。例えば、前記コーティングされたスラリーの乾燥は、空気によって10秒間~30分間、30秒間~20分間、または3分間~10分間行われ得る。上記の時間範囲内で乾燥される場合、生産性を阻害しないとともに、残留溶剤を除去できるという効果を奏する。
【0192】
前記第2バインダー高分子については、上述した内容を参照できる。
【0193】
前記溶剤は、25℃で前記第2バインダー高分子を5重量%以上、15重量%以上、または25重量%以上溶解させるものであり得る。
【0194】
前記溶剤は、前記第1バインダー高分子に対する非溶媒であり得る。例えば、前記溶剤は、25℃で前記第1バインダー高分子を5重量%未満で溶解させるものであり得る。
【0195】
前記溶剤の種類については、上述した内容を参照できる。
【0196】
本発明の一実施形態において、前記第2バインダー高分子は、前記多孔性接着層形成用コーティング液100重量%を基準にして3重量%~30重量%または5重量%~25重量%で含まれ得る。
【0197】
前記タイプII光開始剤が多孔性接着層形成用コーティング液に含まれることで、多孔性接着層形成用コーティング液を前記無機物複合空隙層の上面にコーティングするとき、タイプII光開始剤がポリオレフィン多孔性基材の表面に導入されると同時に多孔性接着層を形成することができる。
【0198】
多孔性接着層形成用コーティング液をコーティングする過程でポリオレフィン多孔性基材が前記溶剤に濡れるが、このとき、前記多孔性接着層形成用コーティング液に含まれたタイプII光開始剤がポリオレフィン多孔性基材の表面に導入され、紫外線の照射時にポリオレフィン多孔性基材の表面に存在するタイプII光開始剤によってポリオレフィン多孔性基材が光架橋される。
【0199】
これにより、本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜の製造方法は、ポリオレフィン多孔性基材を光架橋させるためにポリオレフィン多孔性基材にタイプII光開始剤を直接適用するための設備、例えばタイプII光開始剤を含む溶液をポリオレフィン多孔性基材に直接コーティング及び乾燥するための設備などを追加的に必要とせず、多孔性接着層形成工程を用いてポリオレフィン多孔性基材を光架橋できるという点で、工程を単純化可能である。
【0200】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池用分離膜の製造方法は、ポリオレフィン多孔性基材内の高分子鎖を直接架橋させるためにタイプII光開始剤の外にラジカルを形成するためのモノマーなどの他の構成要素を必要としないため、タイプII光開始剤が多孔性接着層形成用コーティング液に添加されても、タイプII光開始剤がポリオレフィン多孔性基材の表面に到達することを他の構成要素が妨害することがなく、タイプII光開始剤をポリオレフィン多孔性基材の表面に十分に導入することができる。
【0201】
また、一般にポリオレフィン多孔性基材自体及び無機フィラーが高い紫外線遮断効果を持つため、無機物複合空隙層及び多孔性接着層を形成してから紫外線を照射すると、ポリオレフィン多孔性基材に達する紫外線の照射光量が減少するおそれがあるが、本発明では少量の紫外線の照射光量でも架橋可能であるため、無機物複合空隙層及び多孔性接着層が形成された後に紫外線を照射しても、ポリオレフィン多孔性基材内の高分子鎖同士が架橋して直接的に連結できる。
【0202】
本発明の一実施形態において、前記多孔性コーティング層形成用コーティング液は、前記タイプII光開始剤としてイソプロピルチオキサントン(ITX)、イソプロピルチオキサントン誘導体、チオキサントン(TX)、ベンゾフェノン(BPO)、ベンゾフェノン誘導体、またはこれらのうち二つ以上を含み得、具体的には、2-イソプロピルチオキサントン、チオキサントン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、またはこれらの混合物を含み得る。2-イソプロピルチオキサントンまたはチオキサントンは、透過率の高い長波長でも光架橋が可能である。これにより、無機形成空隙層及び多孔性接着層が形成された後に紫外線を照射しても、ポリオレフィン多孔性基材を容易に架橋できる。
【0203】
本発明の一実施形態において、前記多孔性接着層形成用コーティング液を前記無機物複合空隙層の上面にパターンコーティングすることで、最終的に製造される多孔性接着層にパターンを形成し得る。
【0204】
本発明の一実施形態において、前記多孔性接着層形成用コーティング液が無機物複合空隙層の上面にコーティングされた後、相分離過程が行われ得る。前記相分離は、浸漬相分離方式で行われ得る。
【0205】
前記多孔性接着層形成用コーティング液を前記無機物複合空隙層の上面にコーティングした後、前記第2バインダー高分子に対する非溶媒を含む凝固液に所定の時間だけ浸漬する。これにより、コーティングされた多孔性接着層形成用コーティング液で相分離現象が誘発されながら第2バインダー高分子を固化させる。この工程で多孔性接着層が形成される。その後、水洗することで凝固液を除去し、乾燥する。前記乾燥は、当業界で公知の方法が使用可能であり、使用された溶剤の蒸気圧を考慮した温度範囲でオーブンまたは加熱式チャンバを使用してバッチ式または連続式で行い得る。前記乾燥は、前記多孔性接着層形成用コーティング液内に存在する溶剤をほとんど除去することであり、これは生産性などを考慮して可能な限り速いことが望ましく、例えば1分間以下または30秒間以下の時間で行われ得る。
【0206】
前記凝固液としては、前記第2バインダー高分子に対する非溶媒のみを使用するか、または、前記第2バインダー高分子に対する非溶媒と上述したような溶剤との混合溶媒を使用し得る。前記第2バインダー高分子に対する非溶媒と溶剤との混合溶媒を使用する場合は、良好な多孔構造を形成し、生産性を向上させるという点から、凝固液100重量%に対して前記第2バインダー高分子に対する非溶媒の含量が50重量%以上であり得る。
【0207】
第2バインダー高分子が固化する過程で第2バインダー高分子が凝縮し、それによってポリオレフィン多孔性基材の表面及び/または内部に第2バインダー高分子が浸透することを防止でき、分離膜の抵抗が増加する現象を防止することができる。また、第2バインダー高分子を含む接着層が多孔化することで分離膜の抵抗を改善することができる。
【0208】
前記第2バインダー高分子に対する非溶媒は、25℃で第2バインダー高分子に対する溶解度が5重量%未満であり得る。
【0209】
前記第2バインダー高分子に対する非溶媒は、前記第1バインダー高分子に対しても非溶媒であり得る。例えば、前記第2バインダー高分子に対する非溶媒は、25℃で第1バインダー高分子に対する溶解度が5重量%未満であり得る。
【0210】
本発明の一実施形態において、前記第2バインダー高分子に対する非溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、またはこれらのうち二つ以上を含み得る。
【0211】
本発明の一実施形態において、前記浸漬は3秒間~1分間行われ得る。浸漬時間が上述した範囲を満足する場合、相分離が適切に起きて無機物複合空隙層と多孔性接着層との間の接着力が確保され、接着層の脱離を防止することができる。
【0212】
本発明の一実施形態において、多孔性接着層形成用コーティング液は、通常の分離膜製造時の乾燥方法によって乾燥され得る。例えば、空気によって10秒間~30分間、30秒間~20分間、または3分間~10分間乾燥され得る。上記の時間範囲内で乾燥される場合、生産性を阻害しないとともに、残留分散媒を除去できるという効果を奏する。
【0213】
上述した製造方法によって、無機物複合空隙層と多孔性接着層とが別途の段階を経て形成されることで、多孔性接着層を多様な形態で形成することができる。例えば、多孔性接着層をパターン形態で容易に形成可能である。
【0214】
次いで、前記組成物が適用されたポリオレフィン多孔性基材にUVを照射する段階を行う。
【0215】
UV照射は、UV硬化装置を用いて、光開始剤の含量比のような条件を考慮してUV照射時間及び照射光量を適切に調節して行い得る。例えば、前記UV照射時間及び照射光量は、ポリオレフィンフィブリルが十分に架橋してポリオレフィン多孔性基材のメルトダウン温度が160℃以上または170℃以上になる程度になり、且つ、UVランプで発生する熱によってポリオレフィン多孔性基材が損傷しない条件に設定され得る。また、前記UV硬化装置に使用されるUVランプは、使用する光開始剤に応じて、高圧水銀ランプ、メタルランプ、ガリウムランプなどから適切に選択して使用し得、UVランプの発光波長及び容量は、工程に合わせて適切に選択し得る。
【0216】
本発明の一具現例によれば、タイプII組成物が適用されたポリオレフィン多孔性基材にUVが照射され、このときのUVの光量は10mJ/cm以上、100mJ/cm以上、200mJ/cm以上、及び2,000mJ/cm以下、2,200mJ/cm以下、2,500mJ/cm以下であり得る。
【0217】
本発明の一具現例によれば、「UV光量」は、Miltec社製の携帯用光量測定器「UV power puck」を使用して測定され得る。
【0218】
本発明において、「UV光量」の測定方法は、UV power puckをサンプルと同じ条件で光源下にコンベヤー上で通過させ、このときUV power puckに示されるUV光量数値を「UV光量」と称する。
【0219】
光開始剤を使用してフィブリルを架橋させることで、高温でも弾性応力を高く維持できる一方、粘性応力の変化は僅かである。また、周波数変化による光開始剤を使用する前は、マクスウェル(Maxwell)モデルに従うと一般的な高分子は理論的に約2の傾きを有すると知られているが、架橋の進行によって弾性が急激に上昇する場合は、傾き変化が非常に緩くなる特性がある。
【0220】
一方、本発明の他の一態様によれば、正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在され、上述した本発明の一具現例による分離膜を含むリチウム二次電池が提供される。
【0221】
本発明の分離膜とともに適用される正極と負極の両電極は、特に制限されず、当業界で周知の通常の方法で電極活物質を集電体に結着した形態で製造され得る。前記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の正極に使用される通常の正極活物質が使用可能であり、特にリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物、またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を使用し得る。前記リチウム複合酸化物は、Li[NiCoMnM1M2]O(M1及びM2は、互いに独立して、Al、Ni、Co、Fe、Mn、V、Cr、Ti、W、Ta、Mg及びMoからなる群より選択されたいずれか一つであり、a、b、c、d及びeは、互いに独立した酸化物組成元素の原子分率であって、a≧0.5、a+b+c+d+e1、b>d>eである)であり得る。
【0222】
特に、前記正極活物質の例として層状構造を有するニッケルリッチ(Ni-rich)系正極活物質は、200mAh/g以上の高容量を発現できるという点で有利である。一方、このような正極活物質を含む正極は、自己発熱温度が低くて安全性の面で相対的に不安定である。本発明の一具現例によるリチウム二次電池において、上述した分離膜をニッケルリッチ正極活物質を含む正極と同時に使用する場合、安全性を著しく改善することができる。
【0223】
負極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の負極に使用される通常の負極活物質が使用可能であり、特にリチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コーク(petroleum coke)、活性化炭素、グラファイトまたはその他の炭素類、ケイ素、ケイ素酸化物などのようなリチウム吸着物質などが望ましい。
【0224】
正極集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがあり、負極集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケルまたは銅合金、またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがある。
【0225】
本発明の一具現例による電気化学素子で使用される電解液は、Aのような構造の塩であり、AはLi、Na、Kのようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、BはPF 、BF 、Cl、Br、I、ClO 、AsF 、CHCO 、CFSO 、N(CFSO 、C(CFSO のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩を、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものであるが、これらに限定されることはない。
【0226】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0227】
実施例1
アセトンに、タイプI開始剤としてフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート(TEICTA、Sigma Aldrich社製)、タイプII開始剤としてチオキサントン(Sigma Aldrich社製)をそれぞれ0.3重量%、0.6重量%、0.1重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した。
【0228】
用意した多孔性ポリオレフィン基材上に前記光開始剤組成物をディップコーティング方式で塗布した。その後、60℃の温度条件でアセトンを乾燥した。
【0229】
次いで、前記光開始剤組成物が適用された多孔性ポリオレフィン基材の上面に、積算光量、すなわちUVの照射光量が200mJ/cm(UVA基準)になるようにUVを照射し、このとき、UVの照射強度(intensity)はUV光源の80%にし、工程ライン速度(line speed)は10m/分にした。これによって架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0230】
実施例2
アセトンに、タイプII開始剤としてチオキサントン(Sigma Aldrich社製)を0.1重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した。
【0231】
用意した多孔性ポリオレフィン基材上に前記光開始剤組成物をディップコーティング方式で塗布した。その後、60℃の温度条件でアセトンを乾燥した。
【0232】
次いで、前記光開始剤組成物が適用された多孔性ポリオレフィン基材の上面に、積算光量、すなわちUVの照射光量が200mJ/cm(UVA基準)になるようにUVを照射し、このとき、UVの照射強度はUV光源の80%にし、工程ライン速度は10m/分にした。これによって架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0233】
実施例3
アセトンに、タイプII開始剤として4-ヒドロキシベンゾフェノン(Sigma Aldrich社製)を0.1重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した点を除き、実施例1と同様の方法で架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0234】
実施例4
アセトンに、タイプII開始剤として2-イソプロピルチオキサントン(Sigma Aldrich社製)を0.1重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した点を除き、実施例1と同様の方法で架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0235】
比較例1
厚さ9.6μmのポリエチレン多孔性フィルム(東レ社製、気孔度:51%)を如何なる処理もせず、そのままリチウム二次電池用分離膜として使用して比較例1にした。
【0236】
比較例2
アセトンに、タイプI開始剤としてフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート(TEICTA、Sigma Aldrich社製)、タイプII開始剤としてチオキサントン(Sigma Aldrich社製)をそれぞれ0.3重量%、0.6重量%、0.1重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した。
【0237】
用意した多孔性ポリオレフィン基材上に前記光開始剤組成物をディップコーティング方式で塗布した。その後、60℃の温度条件でアセトンを乾燥してリチウム二次電池用分離膜を製造した。すなわち、比較例2は、UV照射を行っていない場合である。
【0238】
比較例3
アセトンに、タイプI開始剤としてフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート(TEICTA、Sigma Aldrich社製)をそれぞれ0.3重量%、0.6重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した点を除き、実施例1と同様の方法で架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0239】
比較例4
アセトンに、タイプII開始剤としてチオキサントン(Sigma Aldrich社製)を2重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した点を除き、実施例1と同様の方法で架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0240】
比較例5
アセトンに、タイプII開始剤として4-ヒドロキシベンゾフェノン(Sigma Aldrich社製)を2重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意した点を除き、実施例3と同様の方法で架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0241】
比較例6
アセトンに、タイプII開始剤として4-ヒドロキシベンゾフェノン(Sigma Aldrich社製)を5重量%の濃度で溶解させて光開始剤組成物を用意し、UVの照射光量が1,000mJ/cm(UVA基準)になるようにUVを照射した点を除き、実施例3と同様の方法で架橋されたリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0242】
実験例
実施例1~4及び比較例1~6で用意した分離膜に対し、下記の特性評価を行い、その結果を表1、表2、図3及び図4に示した。
【0243】
流動特性(rheological property)
実施例1~4及び比較例1~6で用意した分離膜に対し、流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を用いて230℃の温度条件で周波数スイープテストを行い、振動数0.1rad/sでの弾性応力(G’、storage modulus)、1rad/sでの粘性応力(G’’、loss modulus)、及び振動数10-1~1rad/s範囲での弾性応力(G’、storage modulus)の傾きを測定した。一方、G’、G’’から製造された分離膜の流動性を確認することができる。また、下記の数式1を用いてtan(δ)を求めた。
[数式1]
tan(δ)=粘性応力(G’’、loss modulus)(B)/弾性応力(G’、storage modulus)(A)
【0244】
弾性応力は、流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を用いて測定した。具体的には、前記弾性応力は、温度230℃及び振動数0.1rad/s、線形粘弾性レジームで周波数スイープテストを通じて流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を使用して測定した。ただし、グラフには0.1~100rad/s範囲をすべて示した。
【0245】
粘性応力は、流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を用いて測定した。具体的には、前記粘性応力は、温度230℃及び振動数0.1rad/s、線形粘弾性レジームで周波数スイープテストを通じて流動特性測定装置(ARES-G2、TAインスツルメント社製)を使用して測定した。
【0246】
厚さの測定
高分子多孔支持体及び分離膜の厚さは、厚さ測定器(ミツトヨ社製、VL-50S-B)を用いて測定した。
【0247】
通気時間(通気度)
実施例1~4及び比較例1~6の分離膜の通気時間(通気度、ガーレー)は、ASTM D726-94方法によって測定した。ここで使用されるガーレーは空気の流れに対する抵抗であって、ガーレーデンソメーターによって測定される。ここで説明された通気度の値は、100ccの空気が12.2 in HOの圧力下で、分離膜1inの断面を通過するのにかかる時間(秒)、すなわち通気時間として示す。
【0248】
分離膜の気孔度
実施例1~4及び比較例1~6の分離膜の気孔度は、一定面積の試片の重さを測定して下記の式で算定した。
気孔度(%)=100-[(分離膜の重さ)/(試片の面積×試片の厚さ×分離膜材料の密度)]×100
【0249】
機械的強度(MD方向)
実施例1~4及び比較例1~6の分離膜を15mm×100mmに裁断して試片を用意した。用意した試片をASTM-D882によって500mm/分の速度でMD方向に引っ張ったとき、試片が破断する時点の強度を測定した。
【0250】
最大引張荷重(MD方向)
実施例1~4及び比較例1~6の分離膜を15mm×100mmに裁断して試片を用意した。用意した試片をASTM-D882によって500mm/分の速度でMD方向に引っ張ったとき、最大に伸びる荷重を測定した
【0251】
突刺し強度の測定
突刺し強度は、実施例1~4及び比較例1~6の分離膜を、直径1mm(曲率半径0.5mm)の針を使用して2mm/秒の速度で刺して破断したときの強度を測定し、これを分離膜の厚さで除した値で計算した。突刺し強度の測定のため、Instron 3342(Instron社製)装置を使用した。前記実施例1~実施例3及び比較例1~比較例7に対するそれぞれの突刺し強度の測定値を下記表2に示した。
【0252】
坪量
坪量(g/m)は、実施例1~4及び比較例1~6の分離膜の横長及び縦長をそれぞれ1mにしたサンプルを用意し、その重さを測定して評価した。
【0253】
メルトダウン温度の測定
メルトダウン温度とは、TMA(熱機械分析、Thermomechanical Analysis)を使用して分離膜に0.01Nの荷重を加え、5℃/分の速度で昇温させる場合、分離膜が収縮してから再び伸び、切れる温度を意味する。TMA装置としてTAインスツルメント社のQ400モデル装置を使用して実施例1~4及び比較例1~6の分離膜のメルトダウン温度を測定した。
【0254】
【表1】
【0255】
【表2】
【0256】
表1、表2、図3及び図4を参照すると、多孔性高分子基材に如何なる処理も施していない比較例1の場合は、数式1によるtan(δ)が0.63であり、数式2の「a」値が0.35であった。この場合、分離膜のメルトダウン温度が145℃と非常に低かった。
【0257】
一方、実施例1~4のように、タイプII開始剤を使用してUV直接架橋した場合は、それぞれ204℃、198℃、189℃、192℃と非常に高いメルトダウン温度を見せた。
【0258】
一方、比較例2のように、タイプII開始剤を適用したものの、UVを照射していない場合は、依然として架橋が起きず、分離膜のメルトダウン温度が145℃と非常に低かった。
【0259】
また、比較例3は、光開始剤組成物にチオキサントンを含まないため、200mJ/cmの低い光量では架橋反応を十分に誘導し難く、分離膜のメルトダウン温度が低かった。
【0260】
比較例4及び比較例5は、光開始剤組成物にチオキサントンまたは4-ヒドロキシベンゾフェノン2重量%のみを使用することで、ラジカル反応が過剰に発生するため、高分子鎖同士の架橋反応だけでなく、鎖が開裂する反応も同時に起きて、数式1によるtan(δ)は0.3を超過し、数式2の「a」値は0.03~0.25の範囲内に含まれなかった。また、過度な反応による熱発生により、気孔が塞がって非常に低下した通気度特性を示した。
【0261】
比較例6は、光開始剤組成物として4-ヒドロキシベンゾフェノン5重量%を使用し、光照射量を5倍に増加させた結果、比較例5で観察された鎖開裂反応がさらに過度に発生し、熱も発生して通気度特性が著しく低下し、メルトダウン温度も167℃と低い値を見せた。
図1
図2
図3
図4