(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20240802BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240802BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240802BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2023504614
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 KR2021010946
(87)【国際公開番号】W WO2022039491
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0103341
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウ・ラム・イ
(72)【発明者】
【氏名】ナ・リ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ドン・リョン・カン
(72)【発明者】
【氏名】サン・スン・チェ
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/055198(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/153701(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/1391
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル含有量が70atm%以上である遷移金属前駆体とリチウム原料物質を混合し、一次焼成して、仮焼成品を形成するステップと、
前記仮焼成品を二次焼成して、リチウム複合遷移金属酸化物を形成するステップとを含み、
前記一次焼成は、仮焼成品のスピネル相(spinel phase)の比率が7~16%になるように行われ
、
前記仮焼成品を形成するステップの後、仮焼成品の結晶相(crystalline phase)情報を測定するステップを含む、正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記仮焼成品を形成するステップの後、前記仮焼成品を粉砕または分級するステップをさらに含む、請求項
1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属前駆体と前記リチウム原料物質は、リチウム:遷移金属のモル比が1.04:1~1.1:1になるようにする量で混合される、請求項1
または2に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属前駆体は、下記化学式1または化学式2で表される化合物である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法:
[化学式1]
Ni
aCo
bMn
c(OH)
2
[化学式2]
Ni
aCo
bMn
cOOH
前記化学式1および化学式2中、0.7≦a<1、0.01≦b<0.3、0.01≦c<0.3である。
【請求項5】
前記リチウム原料物質は、LiOH・H
2Oである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記一次焼成は、580℃~680℃の温度で行われる、請求項1から
5のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記二次焼成は、一次焼成温度より100℃~200℃高い温度で行われる、請求項1から
6のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記二次焼成は、700℃~850℃の温度で行われる、請求項
7に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記一次焼成時に、M
1原料物質(ここで、M
1は、Al、Si、B、W、Mo、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Ta、Sn、Sr、La、Ce、PrおよびZrからなる群から選択される1種以上の元素である)をさらに混合する、請求項1から
8のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記M
1原料物質は、水酸化アルミニウムである、請求項
9に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式3で表される化合物である、請求項1から
10のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法:
[化学式3]
Li
1+x[Ni
aCo
bMn
cM
1
d]O
2
前記化学式3中、0≦x≦0.1、0.7≦a<1、0.01≦b<0.3、0.01≦c<0.3、0≦d<0.3、a+b+c+d=1であり、M
1は、Al、Si、B、W、Mo、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Ta、Sn、Sr、La、Ce、PrおよびZrからなる群から選択される1種以上の元素である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年8月18日付けの韓国特許出願第10-2020-00103341号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、正極活物質の製造方法に関し、より詳細には、容量維持率および抵抗特性に優れた高含量のニッケル正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、モバイル機器および電気自動車に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化し、広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く容量特性に優れたLiCoO2などのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に使用されている。しかし、LiCoO2は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が劣っている。また、前記LiCoO2は、高価であるため、電気自動車などの分野における動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoO2の代わりに使用するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO4など)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO2など)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有することから大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究開発がより活発になされている。しかし、前記LiNiO2は、LiCoO2に比べて熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解し、電池の破裂および発火を引き起こす問題があった。そのため、前記LiNiO2の優れた可逆容量は維持し、且つ低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をMn、CoまたはAlで置換したリチウム遷移金属酸化物が開発されている。
【0006】
このようなリチウム遷移金属酸化物、特に、高含量のニッケル(Niリッチ(rich))を含むリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として使用するリチウムイオン電池の場合、高いニッケルの含量によって同一電圧帯でニッケルの酸化量が多くなってリチウムイオンの移動量が多くなり、そのため、正極の安定性が低下し、二次電池の寿命特性が低下する問題がある。
【0007】
したがって、寿命特性に優れた高含量のニッケル正極活物質の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためのものであり、高含量のニッケル正極活物質の製造時に、焼成条件を調節して寿命特性を改善することができる高含量のニッケル正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一具現例によると、本発明は、ニッケル含有量が70atm%以上である遷移金属前駆体とリチウム原料物質を混合し、一次焼成して、仮焼成品を形成するステップと、前記仮焼成品を二次焼成して、リチウム複合遷移金属酸化物を形成するステップとを含み、前記一次焼成が仮焼成品のスピネル相(spinel phase)の比率が7~16%になるように行われる正極活物質の製造方法を提供する。
【0010】
必要に応じて、前記仮焼成品を形成するステップの後に、仮焼成品の結晶相(crystalline phase)情報を測定するステップおよび/または前記仮焼成品を粉砕または分級するステップをさらに含むことができる。
【0011】
前記遷移金属前駆体とリチウム原料物質は、リチウム:遷移金属のモル比が1.04:1~1.1:1になるようにする量で混合することが好ましい。
【0012】
好ましくは、前記遷移金属前駆体は、下記化学式1または化学式2で表される化合物であることができ、前記リチウム原料物質は、LiOH・H2Oであることができる。
[化学式1]
NiaCobMnc(OH)2
[化学式2]
NiaCobMncOOH
前記化学式1および化学式2中、0.7≦a<1、0.01≦b<0.3、0.01≦c<0.3である。
【0013】
一方、前記一次焼成は、580℃~680℃の温度に行われることが好ましく、前記二次焼成は、700℃~850℃の温度で行われることが好ましい。
【0014】
前記一次焼成時に、M1原料物質(ここで、M1は、Al、Si、B、W、Mo、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Ta、Sn、Sr、La、Ce、PrおよびZrからなる群から選択される1種以上である)をさらに混合することができ、この際、前記M1原料物質は、水酸化アルミニウムであることができる。
【0015】
本発明の製造方法により製造されるリチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式3で表される化合物であることができる。
[化学式3]
Li1+x[NiaCobMncM1
d]O2
前記化学式3中、0≦x≦0.1、0.7≦a<1、0.01≦b<0.3、0.01≦c<0.3、0≦d<0.3、a+b+c+d=1であり、M1は、Al、Si、B、W、Mo、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Ta、Sn、Sr、La、Ce、PrおよびZrからなる群から選択される1種以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明による正極活物質の製造方法は、一次焼成条件を調節して仮焼成品のスピネル相の含有量を特定の範囲になるようにすることで、リチウムと遷移金属前駆体の反応性および最終品の結晶性を向上させることにより、優れた寿命特性を有する高含量のニッケル正極活物質を製造可能にする。
【0017】
また、本発明の正極活物質の製造方法によると、一次焼成時に水分および不要な気体を除去した後、二次焼成が行われることから、正極活物質の密度が増加し、結晶性が向上する効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義し得るという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0019】
本発明者らは、高含量のニッケル正極活物質の初期容量および寿命特性を改善するために鋭意研究を重ねた結果、高含量のニッケル正極活物質の製造時に一次焼成により仮焼成品を形成してから二次焼成を行い、この際、前記仮焼成品の結晶相(crystalline phase)のうちスピネル相の比率が特定の範囲を満たすように一次焼成を行う場合、高含量のニッケル正極活物質の初期容量および寿命特性を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0021】
本発明による正極活物質の製造方法は、(1)ニッケル含有量が70atm%以上である遷移金属前駆体とリチウム原料物質を混合し、一次焼成して、仮焼成品を形成するステップと、(2)前記仮焼成品を二次焼成して、リチウム複合遷移金属酸化物を形成するステップとを含み、この際、前記一次焼成は、仮焼成品のスピネル相(spinel phase)の比率が7~16%になるように行われる。一方、前記仮焼成品を形成するステップの後に、必要に応じて、仮焼成品の結晶相(crystalline phase)情報を測定するステップおよび/または前記仮焼成品を粉砕または分級するステップをさらに含むことができる。
【0022】
以下では、本発明による正極活物質の製造方法の各ステップについて具体的に説明する。
【0023】
(1)ステップ:一次焼成ステップ
先ず、遷移金属前駆体とリチウム原料物質を混合し、一次焼成して、仮焼成品を形成する。
【0024】
この際、前記遷移金属前駆体は、ニッケル、マンガンおよびコバルトを含有する水酸化物またはオキシ水酸化物であることができ、この際、全体の遷移金属のうちニッケル含有量が70atm%以上、好ましくは80atm%~99atm%、より好ましくは80atm%~95atm%であることができる。
【0025】
具体的には、前記遷移金属前駆体は、下記化学式1または化学式2で表される化合物であることができる。
【0026】
[化学式1]
NiaCobMnc(OH)2
【0027】
[化学式2]
NiaCobMncOOH
【0028】
前記化学式1および化学式2中、0.7≦a<1、0.01≦b<0.3、0.01≦c<0.3である。
【0029】
前記aは、遷移金属前駆体内の全体の遷移金属のうちニッケルの原子比率であり、0.7≦a<1、好ましくは0.8≦a≦0.99、さらに好ましくは0.8≦a≦0.95であることができる。
【0030】
前記bは、遷移金属前駆体内の全体の遷移金属のうちコバルトの原子比率であり、0.01≦b<0.3、好ましくは0.01≦b<0.2、さらに好ましくは0.01≦b≦0.15であることができる。
【0031】
前記cは、遷移金属前駆体内の全体の遷移金属のうちマンガンの原子比率であり、0.01≦c<0.3、好ましくは0.01≦c<0.2、さらに好ましくは0.01≦c≦0.15であることができる。
【0032】
前記リチウム原料物質としては、例えば、リチウム含有炭酸塩(例えば、炭酸リチウムなど)、水和物(例えば、水酸化リチウム水和物(LiOH・H2O)など)、水酸化物(例えば、水酸化リチウムなど)、硝酸塩(例えば、硝酸リチウム(LiNO3)など)、塩化物(例えば、塩化リチウム(LiCl)など)などが使用されることができるが、中でも、特に、LiOH・H2Oであることが好ましい。
【0033】
一方、前記遷移金属前駆体とリチウム原料物質は、リチウム:遷移金属のモル比が1.04:1~1.1:1、好ましくは1.05:1~1.1:1、より好ましくは1.06:1~1.1:1になるようにする量で混合されることが好ましい。リチウム:遷移金属のモル比が1.04:1未満である場合には、カチオン混合(cation mixing)度合がひどくなり、格子構造(lattice structure)のヘキサゴナルオーダリング(hexagonal ordering)が崩壊し、正極活物質の電気化学的性能が低下し得る。一方、リチウム:遷移金属のモル比が1.1:1を超える場合には、過量のリチウムが正極活物質の格子構造の中に挿入されず、表面に残って不純物として作用し、正極スラリーの製造時にゲル化(gelation)して、均一なスラリーの形成を困難にするだけでなく、電池の作動時にガス発生量が高くなって安定性と長期寿命能力が阻害され得る。
【0034】
一方、本発明において、一次焼成は、仮焼成品内のスピネル相の比率が7~16%、好ましくは8~15%になるように行われる。本発明者らの研究によると、仮焼成品のスピネル相の比率が前記範囲を満たす場合、優れた寿命特性の改善効果を得ることができ、特に、抵抗特性の改善効果が著しく示されている。
【0035】
仮焼成品のスピネル相の比率は、焼成温度、焼成時間、使用された原料物質の種類および原料物質の配合比などの複合的な要素に応じて変化する。したがって、仮焼成品のスピネル相の比率を前記範囲で調節するためには、使用された原料物質の種類および配合比を考慮して、焼成温度や焼成時間を適切に調節する必要がある。
【0036】
具体的には、本発明において、前記一次焼成は、580℃~680℃、より好ましくは600℃~650℃の温度で、1~15時間、さらに好ましくは3~10時間行われることが好ましい。一次焼成温度および焼成時間が前記範囲を満たす時に、スピネル相の比率が所望の範囲で形成される。
【0037】
また、前記一次焼成は、大気(air)雰囲気または酸素雰囲気で行われることが好ましい。一次焼成が大気雰囲気や酸素雰囲気で行われる場合、不活性雰囲気で焼成する場合に比べて、前駆体の酸化反応が促進される効果がある。
【0038】
一方、必須ではないが、前記一次焼成時に遷移金属前駆体とリチウム原料物質以外に、Al、Si、B、W、Mo、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Ta、Sn、Sr、La、Ce、PrおよびZrからなる群から選択される1種以上の元素(M1元素)を含有するM1原料物質をさらに混合することができる。一次焼成時にM1原料物質をさらに混合する場合、M1原料物質に含まれたM1元素でドーピングされた正極活物質を製造することができる。前記M1原料物質は、例えば、M1元素、すなわち、Al、Si、B、W、Mo、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Ta、Sn、Sr、La、Ce、PrおよびZrからなる群から選択される1種以上の金属元素を含有する酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであることができる。一方、前記M1がAlである場合、前記M1原料物質は、水酸化アルミニウムであることができる。
【0039】
一方、前記のような過程により仮焼成品を形成した後、必要に応じて、仮焼成品の結晶相(crystalline phase)情報を測定するステップをさらに実施することができる。
【0040】
前記仮焼成品の結晶相情報を測定するステップは、例えば、仮焼成品のサンプルを採取した後、X線回折(XRD)分析を実施して結晶相のうちスピネル相の比率を測定する方法で行われることができる。すなわち、前記仮焼成品に対して測定されたXRDデータをリートベルト解析(Rietveld refinement)により解析(refinement)立方相(cubic phase、NiO/LiN2O4)と層相(layered phase、LiNiO2)をともに使用して、各相の強度(intensity)寄与率を測定することで、スピネル相の比率を計算することができる。
【0041】
前記のように仮焼成品の結晶相情報を測定した後、仮焼成品のスピネル相の比率が7~16%である場合に二次焼成を行うことで、初期容量および寿命特性に優れた正極活物質を製造することができる。
【0042】
また、本発明の製造方法は、必要に応じて、前記一次焼成の後に、前記仮焼成品を粉砕および/または分級するステップをさらに含むことができる。仮焼成品を粉砕および/または分級するステップをさらに行う場合、粉砕および/または分級過程で、一次焼成時に発生した水分および気体などを除去することができ、仮焼成品の混合がより効果的に行われて、二次焼成時に焼成均一性が向上し、最終的に生産される正極活物質の品質均一性が改善する効果を得ることができる。
【0043】
(2)ステップ:二次焼成ステップ
次に、前記仮焼成品を二次焼成して、リチウム複合遷移金属酸化物を形成する。
【0044】
前記二次焼成は、仮焼成品のスピネル相を層相に相変化させるためのことであり、一次焼成温度より100℃~200℃高い温度、好ましくは、一次焼成温度より100℃~180℃高い温度で行われることができる。
【0045】
二次焼成温度と一次焼成温度との差が100℃未満である場合には、スピネル相の層相変換がスムーズに行われず、200℃を超える場合には、正極活物質粒子同士がひどく凝集して、正極スラリーの製造時に分散が困難であり、均一な厚さで正極スラリーを塗布することが難しく、工程性が低下し得る。
【0046】
具体的には、前記二次焼成は、700℃~850℃、好ましくは700℃~800℃、より好ましくは720℃~800℃の温度で行われることができる。
【0047】
一方、前記二次焼成は、1~15時間、好ましくは3~10時間行われることができる。
【0048】
また、前記二次焼成は、大気雰囲気または酸素雰囲気で行われることが好ましい。二次焼成が大気雰囲気または酸素雰囲気で行われる場合、不活性雰囲気で焼成する場合に比べて、前駆体の酸化反応、結晶成長および相変化が促進される効果がある。
【0049】
本発明の製造方法により製造されるリチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式3で表される化合物であることができる。
【0050】
[化学式3]
Li1+x[NiaCobMncM1
d]O2
【0051】
前記化学式3中、M1は、Al、Si、B、W、Mo、Mg、V、Ti、Zn、Ga、In、Ru、Nb、Ta、Sn、Sr、La、Ce、PrおよびZrからなる群から選択される1種以上の元素である。
【0052】
前記1+xは、全体の遷移金属に対するリチウムの原子比率であり、0≦x≦0.1、好ましくは0.04≦x≦0.1、より好ましくは0.05≦x≦0.1、さらに好ましくは0.06≦x≦0.1である。
【0053】
前記aは、リチウム複合遷移金属酸化物内の全体の遷移金属のうちニッケルの原子比率であり、0.7≦a<1、好ましくは0.8≦a≦0.99、さらに好ましくは0.8≦a≦0.95であることができる。
【0054】
前記bは、リチウム複合遷移金属酸化物内の全体の遷移金属のうちコバルトの原子比率であり、0.01≦b<0.3、好ましくは0.01≦b<0.2、さらに好ましくは0.01≦b≦0.15であることができる。
【0055】
前記cは、リチウム複合遷移金属酸化物内の全体の遷移金属のうちマンガンの原子比率であり、0.01≦c<0.3、好ましくは0.01≦c<0.2、さらに好ましくは0.01≦c≦0.15であることができる。
【0056】
前記dは、リチウム複合遷移金属酸化物内のM1元素の原子比率であり、0≦d<0.3、好ましくは0≦d≦0.2であることができる。
【0057】
また、前記化学式3中、a+b+c+d=1である。
【0058】
本発明の方法により製造された前記正極活物質は、従来の高含量のニッケル正極活物質に比べて、優れた容量維持率および抵抗特性を有する。
【0059】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例をあげて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものと解釈してはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0060】
実施例1
遷移金属前駆体Ni0.88Co0.05Mn0.07(OH)2とLiOH・H2OをLi:遷移金属のモル比が1.07:1になるように添加し、Al(OH)3を混合した後、酸素雰囲気で600℃で5時間一次焼成して仮焼成品を製造し、空気分級ミル(ACM:Air Classifying Mill)を使用して粉砕した。
【0061】
前記仮焼成品に対してX線回折分析(Bruker D4 Endeavor)を実施して測定されたXRDデータを、ハイスコア(HighScore)ソフトウェアを用いて、リートベルト解析(Rietveld refinement)で分析することで、スピネル相の比率を測定した。
【0062】
測定結果、仮焼成品の結晶相のうちスピネル相の比率は13.5%と示された。
【0063】
次に、前記仮焼成品を酸素雰囲気で765℃で5時間二次焼成してリチウム複合遷移金属酸化物LiNi0.86Co0.05Mn0.07Al0.02O2を製造した。前記リチウム複合遷移金属酸化物粉末を粉砕、水洗および乾燥した後、H3BO3 0.1重量%を混合し、大気雰囲気で295℃で5時間熱処理して、Bコーティングされた正極活物質粉末を製造した。
【0064】
実施例2
仮焼成品の製造時に、一次焼成温度を650℃にした以外は、実施例1と同一の方法で仮焼成品および正極活物質粉末を製造した。仮焼成品の結晶相のうちスピネル相の比率は9.0%と示されている。
【0065】
実施例3
仮焼成品の製造時に、Li:遷移金属のモル比を1.09:1にした以外は、実施例1と同一の方法で仮焼成品および正極活物質粉末を製造した。仮焼成品の結晶相のうちスピネル相の比率は12.0%と示されている。
【0066】
比較例1
仮焼成品の製造時に、一次焼成温度を550℃にした以外は、実施例1と同一の方法で仮焼成品および正極活物質粉末を製造した。仮焼成品の結晶相のうちスピネル相の比率は18.2%と示されている。
【0067】
比較例2
仮焼成品の製造時に、一次焼成温度を700℃にした以外は、実施例1と同一の方法で仮焼成品および正極活物質粉末を製造した。仮焼成品の結晶相のうちスピネル相の比率は6.2%と示されている。
【0068】
比較例3
仮焼成品の製造時に、Li:遷移金属のモル比を1.03:1にした以外は、実施例1と同一の方法で仮焼成品および正極活物質粉末を製造した。仮焼成品の結晶相のうちスピネル相の比率は16.2%と示されている。
【0069】
実験例
前記実施例1~3および比較例1~3でそれぞれ製造した正極活物質と、導電材(FX35)およびバインダー(KF9700とBM730Hを1.35:0.15重量比で混合した混合物)を97.5:1:1.5の重量比でN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒の中で混合して正極スラリーを製造した。前記正極スラリーをアルミニウム集電体の一面に塗布し、130℃で乾燥した後、孔隙率(porosity)が24%になるように圧延して正極を製造した。
【0070】
負極としては、リチウムメタルディスク(Li metal disk)を使用した。
【0071】
前記正極と負極との間にセパレータを介在して電極組立体を製造した後、電池ケースの内部に位置させてから前記ケースの内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。この際、電解液としては、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネートを3:3:4の体積比で混合した有機溶媒に1MのLiPF6を溶解させた電解液を使用した。
【0072】
前記のように製造された各リチウム二次電池に対して、25℃で0.1Cの定電流で4.25VまでCC/CVモードで充電(終止電流0.05C)した後、3.0VになるまでCCモード放電を実施し、初期放電容量を測定した。この際、1C=200mA/gと設定した。
【0073】
また、45℃で0.33Cの定電流で3.0~4.25Vの範囲で充放電サイクルを30回繰り返して実施し、容量維持率および各サイクル放電の開始後、60秒間の抵抗に対する抵抗増加率を測定した。測定結果は、下記表1に示した。
【0074】
【0075】
前記[表1]を参照して、仮焼成品のスピネル相の比率が7~16%になるように一次焼成を行って製造された実施例1~3の正極活物質を適用した二次電池の場合、仮焼成品のスピネル相の比率が7%未満または16%超えるように製造された比較例1~3の正極活物質を適用した二次電池に比べて、30サイクル遂行後、容量維持率が高く、抵抗増加率が低いことを確認することができる。