(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】揚げ菓子用ミックス
(51)【国際特許分類】
A21D 10/00 20060101AFI20240802BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20240802BHJP
A21D 13/60 20170101ALI20240802BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D2/36
A21D13/60
(21)【出願番号】P 2024521802
(86)(22)【出願日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2023045392
【審査請求日】2024-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2022208981
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直人
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-202773(JP,A)
【文献】特開2010-263869(JP,A)
【文献】特開2011-036212(JP,A)
【文献】特開2008-278786(JP,A)
【文献】特開2004-033139(JP,A)
【文献】特開2009-017802(JP,A)
【文献】特開2013-099294(JP,A)
【文献】山來 けい子 et al.,デンプンの特性を活かしたヘルシードーナツ -吸油,血糖値-,月刊フードケミカル,2015年,Vol.367, No.11,pp.19-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 10/00
A21D 2/36
A21D 13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類を含有し、該穀粉類は、α化穀粉類として、α化澱粉を20~60質量%と、α化穀粉を10~40質量%とを含有する、揚げ菓子用ミックス。
【請求項2】
前記穀粉類における前記α化穀粉類の含有量が50質量%以上である、請求項1に記載の揚げ菓子用ミックス。
【請求項3】
前記α化穀粉類のα化度が80%以上である、請求項1又は2に記載の揚げ菓子用ミックス。
【請求項4】
前記穀粉類における非α化穀粉類の含有量が20~50質量%である、請求項1
又は2に記載の揚げ菓子用ミックス。
【請求項5】
前記穀粉類100質量部に対して、油脂を10~30質量部を含有する、請求項1
又は2に記載の揚げ菓子用ミックス。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の揚げ菓子用ミックスを用いて生地を調製する生地調製工程と、該生地を油ちょうする工程とを有する、揚げ菓子の製造方法。
【請求項7】
請求項1
又は2に記載の揚げ菓子用ミックスを用いて製造された揚げ菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーナツ等の揚げ菓子の製造に用いる揚げ菓子用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ソフトで歯切れ良い食感のドーナツの製造方法として、(A)α化ハイアミロース澱粉(実施例ではα化ハイアミロースコーンスターチ)と、(B)α化ハイアミロース澱粉以外の澱粉(実施例では小麦澱粉)と、(C)α化ハイアミロース澱粉を含むα化澱粉及び/又はα化穀以外の穀粉及び/又は澱粉(実施例ではα化小麦澱粉)とをそれぞれ特定量含有する原料を使用し、且つ生地の調製において全卵を特定量使用することを特徴とするものが記載されている。特許文献1に記載の実施例では、原料としてα化穀粉を使用していない。
【0003】
特許文献2には、たい焼きのような、液状又はペースト状の生地から製造されるフィリング入りの焼き菓子において、該生地にα化澱粉又はα化穀粉が含有される場合に、生地の焼成中に生地からフィリングがはみ出す不都合が生じることに鑑みて、これを防止した焼き菓子用ミックスが記載されている。この焼き菓子用ミックスは、非α化穀粉及び/又は非α化澱粉と、α化澱粉及び/又はα化穀粉と、昇温ゲル化熱可逆性ゲル化剤とをそれぞれ特定量含有することを特徴とする。特許文献2には、揚げ菓子に関する技術事項は記載されていない。
【0004】
特許文献3には、高品質のシュー皮を容易に製造することが可能なシュー皮用ミックス粉として、α化澱粉とα化架橋澱粉との重量比率が15~85:85~15であり、且つその合計量40~80重量部とα化穀粉60~20重量部とからなる組成物を用いることが記載されている。シュー皮は焼き菓子であり、特許文献3には、揚げ菓子に関する技術事項は記載されていない。
【0005】
特許文献4には、しっとりとしていてもちもちとした焼菓子が得られる焼菓子用プレミックスとして、小麦粉45~70重量部と、α化小麦粉及び/又はα化澱粉10~30重量部と、エーテル化澱粉10~30重量部とからなる澱粉系原料を含有するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-202773号公報
【文献】特開2019-180242号公報
【文献】特開平9-37706号公報
【文献】特開平8-38028号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の課題は、吸油が少なく、揚げ色が鮮やかで、ボリュームがあり、且つ保形性に優れ、製造後の縮みが抑制された揚げ菓子を製造し得る技術を提供することである。
【0008】
本発明は、穀粉類を含有し、該穀粉類は、α化穀粉類として、α化澱粉を20~60質量%と、α化穀粉を10~40質量%とを含有する、揚げ菓子用ミックスである。
また本発明は、前記の本発明の揚げ菓子用ミックスを用いて生地を調製する生地調製工程と、該生地を油ちょうする工程とを有する、揚げ菓子の製造方法である。
また本発明は、前記の本発明の揚げ菓子用ミックスを用いて製造された揚げ菓子である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の揚げ菓子用ミックス(以下、単に「ミックス」とも言う。)は、穀粉類を含有する。本発明において「穀粉類」とは、穀物由来の常温常圧で粉体の物質であり、穀粉及び澱粉を含む概念である。また、本発明において「澱粉」とは、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を指し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。
穀粉には、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉等の小麦粉;米粉、トウモロコシ粉、馬鈴薯粉、タピオカ粉、甘藷粉等の未加工穀粉と、未加工穀粉に熱処理等の加工処理を施した加工穀粉とが含まれる。
澱粉には、穀粉を由来とする澱粉及びその加工澱粉が含まれる。具体的には例えば、澱粉としては、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の未加工澱粉が挙げられる。加工澱粉としては、未加工澱粉にα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化澱粉には、ヒドロキシプロピル化澱粉が含まれる。
【0010】
本発明のミックスは、穀粉類として、α化穀粉類を含有する。本発明において「α化穀粉類」とは、含有されている澱粉がα化(糊化)されている穀粉類を指す。α化穀粉類の具体例として、α化澱粉及びα化穀粉が挙げられる。α化澱粉は、原料澱粉をα化処理することで得られる。α化穀粉は、原料穀粉をα化処理することで得られる。ここで言う「α化処理」とは、原料澱粉又は原料穀粉を水分の存在下で加熱する処理である。原料澱粉としては、例えば、前記の未加工澱粉を用いることができる。原料穀粉としては、例えば、前記の未加工穀粉を用いることができる。
【0011】
本発明で用いるα化穀粉類(α化澱粉、α化穀粉)は、α化処理以外の加工処理の1種又は2種以上が施されていてもよい。α化処理以外の加工処理としては、例えば、架橋処理、リン酸化処理、アセチル化処理、エーテル化処理、酸化処理が挙げられる。本発明のα化穀粉類が、α化処理を含む複数の加工処理が施されたものである場合、該α化穀粉類の製造時における該複数の加工処理の順序は特に制限されない。
【0012】
本発明のミックスは、該ミックスに含有される穀粉類が、α化澱粉を20~60質量%と、α化穀粉を10~40質量%とを含有する点で特徴付けられる。この特徴により、本発明のミックスを用いて製造された揚げ菓子は、吸油が少なく、揚げ色が鮮やかで、ボリュームがあり、且つ保形性に優れ、製造後の縮みが抑制されたものとなる。α化澱粉及びα化穀粉の含有量が前記の特定範囲から外れると、斯かる本発明の所定の効果は奏されない。
α化澱粉及びα化穀粉は、それぞれ、原料となる澱粉又は穀粉の種類を問わないが、好ましくはアミロース含量30質量%未満の澱粉又は穀粉である。また、それぞれ、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。すなわち本発明では、α化穀粉類として、アミロース含量が好ましくは30質量%未満のα化澱粉(以下、「低アミロースα化澱粉」とも言う。)及び/又はアミロース含量が30%未満のα化穀粉(以下、「低アミロースα化穀粉」とも言う。)を用い得る。これにより、本発明のミックスを用いて得られる揚げ菓子の食感が一層良好になり得る。アミロース含量は常法に従って測定することができる。
本発明のミックスに含有される穀粉類において、α化澱粉の含有量(穀粉類中に複数種類のα化澱粉が含有されている場合はそれらの総含有量)は、該穀粉類の全質量に対して、好ましくは20~50質量%、より好ましくは25~45質量%である。
本発明のミックスに含有される穀粉類において、α化穀粉の含有量(穀粉類中に複数種類のα化穀粉が含有されている場合はそれらの総含有量)は、該穀粉類の全質量に対して、好ましくは15~35質量%、より好ましくは20~30質量%である。
【0013】
本発明の所定の効果を一層確実に奏させるようにする観点から、本発明のミックスに含有される穀粉類において、α化澱粉の含有量とα化穀粉の含有量との比率は、前者/後者として、好ましくは0.57~3.30、より好ましくは0.83~2.25である。
【0014】
本発明の所定の効果を一層確実に奏させるようにする観点から、本発明のミックスに含有される穀粉類におけるα化穀粉類(α化澱粉、α化穀粉)の含有量は、好ましくは50質量%以上である。また本発明では、本発明のミックスに含有される穀粉類におけるα化穀粉類の含有量が100質量%、すなわち該穀粉類の全部がα化澱粉類でもよいが、安定製造の観点から、本発明のミックスに含有される穀粉類におけるα化穀粉類の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0015】
本発明で用いるα化穀粉類(α化澱粉、α化穀粉)のα化度(糊化度)は特に制限されないが、本発明の所定の効果を一層確実に奏させるようにする観点から、α化澱粉及びα化穀粉それぞれ、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
α化穀粉類のα化度の調整は、α化穀粉類の製造工程で穀粉類に施されるα化処理の条件(加熱手段、加熱条件)を適宜調整することで調整可能である。 本発明において「α化穀粉類のα化度」は、BAP法(β-アミラーゼ・プルラナーゼ法)で測定されたα化度を指す。BAP法によるα化度の測定は、既報(家政学雑誌32(9),653-659,1981)に準じて、以下のとおりに実施することができる。
【0016】
〔β-アミラーゼ・プルラナーゼ法によるα化度の測定方法〕
(A)試薬
使用する試薬は、以下のとおりである。
1)0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液
2)10N水酸化ナトリウム溶液
3)2N酢酸溶液
4)酵素溶液:β-アミラーゼ(ナガセケムテックス株式会社、#1500S)0.017g及びプルラナーゼ(林原生物化学研究所、No.31001)0.17gを前記0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液に溶かして100mLとしたもの。
5)失活酵素溶液:前記酵素溶液を10分間煮沸させて調製したもの。
6)ソモギー試薬及びネルソン試薬(還元糖量の測定用試薬)
【0017】
(B)測定方法
B-1)サンプル(α化穀粉類)をホモジナイザーで粉砕し、100メッシュ以下とする。この粉砕したサンプル穀粉0.08~0.10gをガラスホモジナイザーに取る。
B-2)ガラスホモジナイザーの内容物に脱塩水8.0mLを加え、該ガラスホモジナイザーを10~20回上下させて該内容物の分散を行い、分散液を得る。
B-3)2本の25mL容目盛り付き試験管に前記B-2)の分散液を2mLずつとり、その2本のうちの1本は、0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、試験区とする。
B-4)前記2本のうちの他の1本に、10N水酸化ナトリウム溶液0.2mLを添加し、50℃で3~5分間反応させ、前記B-2)の分散液を完全に糊化させる。その後、該他の1本に2N酢酸溶液1.0mLを添加し、pHを6.0付近に調整した後、0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、糊化区とする。
B-5)前記B-3)及びB-4)で調製した試験区及び糊化区の試験液をそれぞれ0.4mLとり、それぞれに酵素溶液0.1mLを加えて、40℃で30分間酵素反応させ、反応済液を得る。同時に、ブランクとして、酵素溶液の代わりに失活酵素溶液0.1mLを加えたものも調製する。酵素反応は途中で反応液を時々攪拌させながら行う。
B-6)前記反応済液及びブランクそれぞれの0.5mLにソモギー試薬0.5mLを添加し、沸騰浴中で15分間煮沸する。煮沸後、流水中で5分間冷却した後、ネルソン試薬1.0mLを添加・攪拌し、15分間放置する。
B-7)その後、前記反応済液及びブランクそれぞれに脱塩水8.00mLを加えて攪拌し、500nmの吸光度を測定する。
【0018】
(C)α化度の算出
下記式によりα化度を算出する。
α化度(%)={(試験液の分解率)/(完全糊化試験液の分解率)}×100
={(A-a)/(A’-a’)}×100
前記式中、A、A’、a、及びa’は下記のとおりである。
A =試験区の吸光度
A’=糊化区の吸光度
a =試験区のブランクの吸光度
a’=糊化区のブランクの吸光度
【0019】
本発明のミックスに含有される穀粉類は、α化穀粉類(α化澱粉、α化穀粉)に加えて更に非α化穀粉類を含有してもよい。本発明のミックスが非α化穀粉類を含有することで、本発明の所定の効果が一層確実に奏されるようになる。
本発明において「非α化穀粉類」とは、含有されている澱粉がα化(糊化)されていない穀粉類を指す。非α化穀粉類の具体例として、非α化澱粉及び非α化穀粉が挙げられる。非α化澱粉としては、例えば、前記の未加工澱粉、又は未加工穀粉にα化処理以外の加工処理が施された加工澱粉を用いることができる。非α化穀粉としては、例えば、前記の未加工穀粉、又は未加工穀粉にα化処理以外の加工処理が施された加工穀粉を用いることができる。非α化澱粉及び非α化穀粉は、それぞれ、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
本発明のミックスに含有される穀粉類において、非α化穀粉類の含有量(穀粉類中に複数種類の非α化穀粉類が含有されている場合はそれらの総含有量)は、該穀粉類の全質量に対して、好ましくは20~50質量%、より好ましくは25~45質量%である。
【0020】
本発明のミックスは、穀粉類に加えて更に油脂を含有してもよい。これにより、本発明の所定の効果が一層確実に奏されるようになる。
本発明で用いる油脂としては、食品の製造に使用可能な油脂を特に制限なく用いることができ、例えば、サラダ油、硬化パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂等の植物油脂;牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂;各種動植物油脂に水素添加、分別、エステル交換などの処理を施した加工油脂等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明で用いる油脂は、常温常圧で流動性を有する液状油脂でもよく、常温常圧で固形又は半固形の固形油脂でもよく、常温常圧で粉体の粉末油脂でもよい。
本発明の所定の効果を一層確実に奏させるようにする観点から、油脂としては、固形油脂が特に好ましく、その具体例として、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングを例示できる。
本発明のミックスにおける油脂の含有量は、該ミックス中の穀粉類100質量部に対して、好ましくは10~30質量部である。
【0021】
本発明のミックスは、前記の穀粉類(α化穀粉類、非α化穀粉類)及び油脂以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、揚げ菓子に使用可能なものを用いることができ、例えば、ショ糖脂酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、麦芽糖、トレハロース、果糖等の糖類;全卵粉、卵黄粉、卵白粉等の卵粉;ベーキングパウダー等の膨張剤;生クリーム、濃縮乳、牛乳、発酵乳、粉乳等の乳製品;カゼインナトリウム、カゼインカルシウム等のカゼイン塩、大豆たん白、乳たん白等のたん白素材;その他、酒やアルコール類、豆乳、食塩等の調味料;イースト;デキストリン等の糖質;香辛料、ドライフルーツ、ナッツ類、酵素、香料、増粘剤、食物繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて適宜の量で用いることができる。
【0022】
本発明のミックスは、α化穀粉類を含む穀粉類をはじめとする前述の成分を混合することによって得られる。本発明のミックスの常温常圧下での形態は、典型的には、粉末状、顆粒状などの粉体である。
【0023】
本発明のミックスは、揚げ菓子の製造に使用されるものである。本発明において「揚げ菓子」とは、穀粉類を含む生地を油ちょうして得られる食品を指し、該生地の油ちょう物に加えて更に他の食材(例えばフィリング)を含むものを包含する揚げ菓子の具体例としては、ドーナツ、チュロス、ピロシキ、サーターアンダーギー、揚げ饅頭が挙げられる。
【0024】
本発明の揚げ菓子の製造方法は、前述の本発明のミックスを用いて生地を調製する工程(生地調製工程)と、該生地を油ちょうする工程(油ちょう工程)とを有する。
前記生地調製工程は、常法に従って実施することができる。典型的には、本発明のミックスに水性液体を添加して混合物を得、該混合物をミキサーによって攪拌することで、生地を調製する。水性液体としては、水、油、調味料、卵液(全卵、卵白、卵黄)、牛乳等を含んだ水性液体を例示できる。前記生地調製工程における水性液体の使用量は、製造する揚げ菓子の種類等に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、典型的には、本発明のミックス中の穀粉類100質量部に対して、好ましくは100~600質量部である。前記油ちょう工程は、常法に従って実施することができる。必要に応じ、前記生地調製工程の後で前記油ちょう工程の前に、生地を発酵させてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1~22、比較例1~4:揚げ菓子用ミックス〕
下記表1及び2の「ミックス組成」の欄に記載の配合で原材料を混合して、揚げ菓子用ミックスを製造した。使用した原料の詳細は下記のとおりである。
・α化澱粉A:α化以外の加工処理が施されていないα化小麦澱粉、α化度95%、アミロース含量24質量%
・α化澱粉B:α化以外の加工処理が施されていないα化コーンスターチ、α化度85%、アミロース含量70質量%
・α化澱粉C:α化以外の加工処理が施されていないα化小麦澱粉、α化度80%、アミロース含量24質量%
・α化澱粉D:α化以外の加工処理が施されていないα化小麦澱粉、α化度80%、アミロース含量24質量%
・α化穀粉A:α化以外の加工処理が施されていないα化小麦粉、α化度90%、アミロース含量24質量%
・α化穀粉B:α化以外の加工処理が施されていないα化トウモロコシ粉、α化度80%、アミロース含量70質量%
・α化穀粉C:α化以外の加工処理が施されていないα化小麦粉、α化度80%、アミロース含量24質量%
・α化穀粉D:α化以外の加工処理が施されていないα化小麦粉、α化度75%、アミロース含量24質量%
・非α化澱粉:酢酸小麦澱粉
・非α化穀粉:米粉
・油脂:ショートニング(固形油脂、非粉末油脂)
【0027】
〔製造例:ドーナツの製造〕
各実施例及び比較例のミックスを用いて、揚げ菓子の一種であるドーナツを製造した。具体的には、まず、ミックス100質量部と水160質量部とを市販のミキサーに投入し、低速で3分間、中低速で3分間、中高速で2分間の順で撹拌して生地を調製した(生地調製工程)。次に、得られた生地をドーナツ1個当たり60gに分割し、分割した生地を円盤状に成形して成形生地を得た。次に、前記成形生地を、油温175℃の菜種油を満たした油槽に投入し、30秒ごとに該成形生地の上下を反転させながら合計2分30秒間油ちょうして、ドーナツを製造した
【0028】
〔評価試験〕
評価対象の揚げ菓子を油ちょう直後に雰囲気温度25℃の環境に1時間静置した後、油っぽさ(吸油の少なさ)、揚げ色、ボリューム及び保形性を下記評価基準(5点満点)に従って評価した。評価は10名の専門パネラーが実施した。10名の専門パネラーの評価点の算術平均値を表に示す。
【0029】
<油っぽさの評価基準>
5点:油ちょう時の生地の吸油量が非常に少なく、手指で触れたときの該手指への油の付着量が非常に少ない。
4点:油ちょう時の生地の吸油量が少なく、手指で触れたときの該手指への油の付着量が少ない。
3点:油ちょう時の生地の吸油量がやや少なく、手指で触れたときの該手指への油の付着量がやや少ない。
2点:油ちょう時の生地の吸油量が多く、手指で触れたときの該手指への油の付着量がやや多い。
1点:油ちょう時の生地の吸油量が非常に多く、揚げ菓子の表面に油がにじんでおり、手指で触れたときの該手指への油の付着量が非常に多い。
<揚げ色の評価基準>
5点:揚げ色が極めて鮮やかである。具体的には、揚げ色が白っぽいクリーム色を呈している。
4点:揚げ色が鮮やかである。具体的には、揚げ色が薄黄色を呈している。 3点:揚げ色がやや鮮やかである。具体的には、揚げ色が薄黄色よりもやや濃い黄色を呈している。
2点:揚げ色が鮮やかにやや劣る。具体的には、揚げ色が薄黄色よりも濃い黄色を呈している。
1点:揚げ色が鮮やかさに劣る。具体的には、揚げ色が薄黄色よりもかなり濃い黄色(きつね色)を呈している。
<ボリューム及び保形性の評価基準>
5点:油ちょう前の成形生地と比較して十分に膨らんでおり、且つ油ちょう直後と比較して縮みがほとんど見られない。
4点:油ちょう前の成形生地と比較して十分に膨らんでいるが、油ちょう直後と比較して若干の縮みが見られる。
3点:油ちょう前の成形生地と比較して膨らんでいるが、油ちょう直後と比較して縮みが見られる。ただし、その縮みの程度は許容範囲である。
2点:油ちょう前の成形生地と比較して膨らみが弱い。
1点:油ちょう前の成形生地と比較してほとんど膨らんでいない。
【0030】
【0031】
表1に示すとおり、各実施例のミックスは、α化澱粉を20~60質量%とα化穀粉を10~40質量%とを含有するため、これを満たさない比較例に比べて、揚げ菓子の油っぽさが低減され、揚げ色、ボリューム及び保形性に優れていた。
【0032】
【0033】
表2において、実施例12~15どうしは、ミックスにおける油脂の含有量が互いに異なる。また、実施例16~22どうしは、α化穀粉類(α化澱粉、α化穀粉)のα化度が互いに異なる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、吸油が少なく、揚げ色が鮮やかで、ボリュームがあり、且つ保形性に優れ、製造後の縮みが抑制された揚げ菓子が得られる。
【要約】
本発明の揚げ菓子用ミックスは、穀粉類を含有する。前記穀粉類は、α化穀粉類として、α化澱粉を20~60質量%と、α化穀粉を10~40質量%とを含有する。前記穀粉類における前記α化穀粉類の含有量は50質量%以上が好ましい。前記穀粉類における非α化穀粉類の含有量は20~50質量%が好ましい。本発明の揚げ菓子用ミックスは、前記穀粉類100質量部に対して、油脂を10~30質量部を含有してもよい。また本発明の揚げ菓子の製造方法は、前記の本発明の揚げ菓子用ミックスを用いて生地を調製する生地調製工程と、該生地を油ちょうする工程とを有する。