(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】漁具シミュレーション装置、漁具シミュレーションシステム、および、漁具シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
A01K 75/00 20060101AFI20240805BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240805BHJP
【FI】
A01K75/00 Z
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2020126126
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591018877
【氏名又は名称】日東製網株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520276763
【氏名又は名称】エフネットダイナミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 薫
(72)【発明者】
【氏名】高木 力
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 弘恵
(72)【発明者】
【氏名】広上 駆
(72)【発明者】
【氏名】五味 伸太郎
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-245207(JP,A)
【文献】特開平02-207370(JP,A)
【文献】特開平11-219349(JP,A)
【文献】特開2014-010645(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0024347(US,A1)
【文献】棚田法男、高木力、鈴木駿介、鳥澤眞介、鈴木勝也、西山義浩、白木里香、浅海茂,旋網漁具の水中動態のリアルタイムシミュレーションシステムの開発とその性能評価,平成28年度公益社団法人日本水産学会春季大会講演要旨集,2016年03月26日,pp. 10
【文献】棚田法男、五味伸太郎、高木力、米山和良、鳥澤眞介、鈴木勝也、白木里香、西山義浩、浅海茂,異なる操業環境下での施網漁具の動態特性とEKFを用いた網地動態推定精度の向上,平成29年度公益社団法人日本水産学会春季大会講演要旨集,2017年03月26日,pp. 2
【文献】五味伸太郎、高木力、棚田法男、米山和良、鈴木勝也、白木里香、西山義浩、浅海茂,データ同化手法を用いた網地の水中形状制御技術に関する研究 水槽実験による制御システムの検証,平成30年度公益社団法人日本水産学会春季大会講演要旨集,2018年03月26日,pp. 2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 75/00
G06F 30/20
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漁具の種類を含む操業条件から、シミュレーションにおける時間別解像度または前記漁具内での領域別解像度を設定する解像度モデルを決定する解像度決定部と、
前記解像度モデルを用いて、解像度に応じたシミュレーションを実行するシミュレーション実行部と、
を備え
、
前記解像度決定部は、
運用漁具を用いる動的な漁具、漁法であるか、固定漁具を用いる静的な漁具、漁法であるかによって、前記解像度モデルの決定方法を異ならせる、
漁具シミュレーション装置。
【請求項2】
前記解像度決定部は、
前記操業条件に、前記漁具が配置される環境を含んで、前記解像度モデルを決定する、
請求項1に記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項3】
前記解像度決定部は、前記時間別解像度および前記領域別解像度の両方を設定した前記解像度モデルを用いる、
請求項1または請求項2に記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項4】
前記シミュレーション実行部は、
低解像度が設定されたとき、前記シミュレーションに用いる複数の第1質点の個数を第1個数とし、前記複数の第1質点の間隔を第1間隔として、
高解像度が設定されたとき、前記シミュレーションに用いる複数の第2質点の個数を第2個数とし、前記複数の第2質点の間隔を第2間隔とし、
前記第2個数は前記第1個数よりも多く、前記第2間隔は前記第1間隔よりも短い、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項5】
前記シミュレーション実行部は、
前記低解像度から前記高解像度に切り替えられると、
前記複数の第1質点を、それぞれに第2質点に置き換え、
前記高解像度のシミュレーションのみに用いる第2質点を、この第2質点に隣接する複数の第1質点またはこの第2質点を囲む複数の第1質点を用いて設定する、
請求項4に記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項6】
前記シミュレーション実行部は、
前記高解像度のシミュレーションに用いる第2質点の初期値に、前記低解像度のシミュレーションで用いられた前記複数の第1質点のシミュレーション結果の補間値を用いる、
請求項5に記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項7】
前記シミュレーション実行部は、
前記漁具が配置される環境の潮流または波浪のパラメータを参照した曲面補間を用いて、前記第2質点の初期値を設定する、
請求項6に記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項8】
前記解像度決定部は、
前記動的な漁具、漁法の場合、前記漁法の工程を用いて、前記解像度モデルを決定する、
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項9】
前記解像度決定部は、
前記静的な漁具、漁法の場合、前記漁具が設置される環境の潮流または波浪に対する漁具の挙動を用いて、前記解像度モデルを決定する、
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項10】
前記シミュレーションの結果を用いて、前記漁具の挙動の三次元画像を生成する画像生成部を備える、
請求項1乃至
請求項9のいずれかに記載の漁具シミュレーション装置。
【請求項11】
請求項10に記載の漁具シミュレーション装置と、
前記漁具シミュレーション装置に対して、前記漁具の種類と前記漁具が配置される環境とを与え、前記漁具の挙動の三次元画像を受ける情報処理端末と、
前記漁具シミュレーション装置と前記情報処理端末とを接続する通信ネットワークと、
を備える、漁具シミュレーションシステム。
【請求項12】
漁具の種類を含む操業条件から、シミュレーションにおける時間別解像度または前記漁具内での領域別解像度を設定する解像度モデルを、
運用漁具を用いる動的な漁具、漁法であるか、固定漁具を用いる静的な漁具、漁法であるかによって異ならせて決定し、
前記解像度モデルを用いて、解像度に応じたシミュレーションを実行する、
処理をコンピュータが実行する、漁具シミュレーション方法。
【請求項13】
前記操業条件に、前記漁具が配置される環境を含んで、前記解像度モデルを決定する、
請求項12に記載の漁具シミュレーション方法。
【請求項14】
前記時間別解像度および前記領域別解像度の両方を設定した前記解像度モデルを用いて、前記シミュレーションを実行する、
請求項12または
請求項13に記載の漁具シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漁具の挙動を模擬演算する漁具シミュレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、網地形状のシミュレーション、漁具シミュレーションの方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の方法では、網に関する網条件、および、流体に関する環境条件を用いて、網の節部および脚部に質点を設定し、これら質点に対する運動方程式を設定する。特許文献1に記載の方法では、この運動方程式を演算することによって、網の挙動をシミュレーションする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、網に設定された質点の個数が多くなるほど、演算の負荷が増大し、演算時間が大幅に増加してしまう。すなわち、大規模な網のシミュレーションや、網の高精度な挙動を得るためのシミュレーションを行うと、演算時間が大幅に増加してしまう。
【0006】
一方で、網に設定する質点の個数を単純に少なくすると、網の挙動のシミュレーション結果の精度は低下してしまう。
【0007】
したがって、本発明の目的は、シミュレーション結果の精度の低下を抑制しながら、高速な演算を行うことが可能な漁具シミュレーション技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の漁具シミュレーション装置は、解像度決定部、および、シミュレーション実行部を備える。解像度決定部は、漁具の種類と漁具が配置される環境とによって決まる操業条件から、シミュレーションにおける時間別解像度または漁具内での領域別解像度を設定する解像度モデルを決定する。シミュレーション実行部は、解像度モデルを用いて、解像度に応じたシミュレーションを実行する。
【0009】
この構成では、漁具を用いた操業条件に応じて、高精度なシミュレーション結果が必要な時間帯または領域に対しては高精度なシミュレーション結果を得られ、それ以外の時間帯または領域では演算時間の増大化が抑制される。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、シミュレーション結果の精度の低下を抑制しながら、高速な演算を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る漁具シミュレーションシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る漁具シミュレーション方法のメインフローを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、解像度モデルの決定処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、動的な漁具、漁法(運用漁具)を用いた操業条件と解像度モデルとの関係を示す図である。
【
図5】
図5は、静的な漁具、漁法(固定漁具)を用いた操業条件と解像度モデルとの関係を示す図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)は、旋網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
【
図7】
図7(A)、
図7(B)は、底曳網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、刺網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、定置網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、養殖網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、漁具の全体が低解像度のシミュレーションにおける質点の設定例を示す図である。
【
図13】
図13は、漁具の全体が高解像度のシミュレーションにおける質点の設定例を示す図である。
【
図14】
図14は、漁具において低解像度の領域と高解像度の領域とが混在する場合のシミュレーションにおける質点の設定例を示す図である。
【
図15】
図15は、シミュレーションの実行処理を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、低解像度のシミュレーションから高解像度のシミュレーションに切り替える際の処理を示すフローチャートである。
【
図17】
図17(A)は、時間的要素のみを用いる場合の処理を示すフローチャートであり、
図17(B)は、領域的要素のみを用いる場合の処理を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、複合的な判断を行う場合の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る漁具シミュレーション技術について、図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る漁具シミュレーションシステムの概略構成を示す図である。
【0013】
図1に示すように、漁具シミュレーションシステム10は、シミュレーション装置20、情報処理端末30、および、通信ネットワーク100を備える。シミュレーション装置20と情報処理端末30とは、通信ネットワーク100を介して接続される。シミュレーション装置20が、本発明の「漁具シミュレーション装置」に対応する。
【0014】
通信ネットワーク100は、汎用のネットワークであってもよく、このシステムに専用に設定されたネットワークでもよい。
【0015】
(シミュレーション装置20の概略構成および処理)
シミュレーション装置20は、データ処理部21、インタフェース22(
図1ではIF22)、および、データベース23(
図1ではDB23)を備える。シミュレーション装置20は、例えば、サーバ装置によって実現される。このようなサーバ装置は、情報処理端末30よりもデータ処理能力が高いコンピュータを備える。データ処理部21は、インタフェース22およびデータベース23に接続する。
【0016】
インタフェース22は、通信ネットワーク100を介して、情報処理端末30のインタフェース33に接続する。インタフェース22は、情報処理端末30からの操業条件を受信して、データ処理部21に出力する。また、インタフェース22は、データ処理部21で生成された三次元画像を、情報処理端末30のインタフェース33に送信する。
【0017】
データベース23は、本発明で実行するシミュレーション結果、このシミュレーションで得られる追加情報等を記憶する。追加情報とは、シミュレーションの実行を操作入力したユーザの傾向、各シミュレーションに対する具体的な指定情報の傾向等である。
【0018】
なお、データベース23は、少なくともシミュレーション結果を記憶できればよい。ただし、データベース23が追加情報を記憶することで、過去のシミュレーション結果を参照したシミュレーションを実現することが可能になり、ユーザの要望に対するシミュレーション結果の確度を向上できる。
【0019】
(データ処理部21の概略構成および処理)
データ処理部21は、解像度モデル決定部211、シミュレーション実行部212、および、画像生成部213を備える。
【0020】
解像度モデル決定部211には、通信ネットワーク100、インタフェース22を介して、情報処理端末30から操業条件が入力される。操業条件には、シミュレーションを実行したい漁具を用いた漁法の種類と、シミュレーションによって模擬される環境(漁具が配置される環境)のパラメータ等が含まれる。
【0021】
解像度モデル決定部211は、操業条件から、シミュレーションに利用する解像度モデルを決定する。解像度モデルは、シミュレーションにおける時間別解像度、または、漁具内での領域別解像度を設定したものである。すなわち、解像度モデルには、時間別解像度、領域別解像度の少なくとも一方が設定されている。時間別解像度には、時系列に、高解像度の時間と低解像度の時間とが設定されている。領域別解像度には、漁具の領域別に、高解像度の領域と低解像度の領域とが設定されている。解像度モデル決定部211は、解像度モデルをシミュレーション実行部212に出力する。
【0022】
シミュレーション実行部212は、解像度モデルを用いて、シミュレーションを実行する。シミュレーション実行部212は、解像度モデルから時間別解像度および領域別解像度の設定を読み出す。シミュレーション実行部212は、時間別解像度および領域別解像度に応じて、シミュレーションを実行する。シミュレーション実行部212は、シミュレーション結果を、画像生成部213に出力する。
【0023】
このように、漁具のシミュレーションに対して、時間別または領域別の解像度の差を設定することによって、ユーザの所望する箇所、時間帯に対するシミュレーション結果の精度の低下を抑制しながら、シミュレーションの全体としては高速な演算を行うことができる。これにより、シミュレーション装置20は、ユーザが所望する精度の漁具シミュレーションを、高速に演算し、ユーザに提供できる。
【0024】
画像生成部213は、シミュレーション結果から、漁具の挙動の三次元画像を生成する。画像生成部213は、三次元画像を、インタフェース22に出力する。
【0025】
(情報処理端末30の概略構成および処理)
情報処理端末30は、演算部31、操作入力部32、インタフェース33(
図1ではIF33)、および、表示器34を備える。情報処理端末30は、汎用のパーソナルコンピュータ、タブレット端末等によって実現される。
【0026】
演算部31は、情報処理端末30の全体制御を実行する。操作入力部32は、シミュレーション装置20に与える操業条件の入力を受け付ける。操作入力部32は、入力された操業条件を、演算部31に出力する。演算部31は、操業条件の入力支援画像を表示器34に出力する。また、演算部31は、確定された操業条件を、インタフェース33に出力する。
【0027】
インタフェース33は、通信ネットワーク100を介して、シミュレーション装置20のインタフェース22に接続する。インタフェース33は、演算部31からの操業条件を、シミュレーション装置20のインタフェース22に送信する。また、インタフェース33は、シミュレーション装置20からの三次元画像を、演算部31に出力する。
【0028】
表示器34は、演算部31からの操業条件の入力支援画像を表示する。また、表示器34は、演算部31からの三次元画像を表示する。
【0029】
上述のように、シミュレーション装置20によって、必要な箇所(時間帯、領域)は高解像度で、その他の箇所(時間帯、領域)は低解像度のシミュレーション結果が得られる。したがって、三次元画像も、必要な箇所(時間帯、領域)では高解像度で、その他の箇所(時間帯、領域)では低解像度となる。すなわち、三次元画像におけるユーザが必要な箇所のデータ量は大きいが、それ以外の箇所のデータ量は小さくできる。したがって、三次元画像は、ユーザの所望する精度を実現しながら、全体としてのデータ量が圧縮されたものとなる。これにより、通信ネットワーク100に対する三次元画像のデータ通信負荷を抑制でき、例えば、三次元画像を情報処理端末30に、より確実に送信できる。
【0030】
(データ処理部21におけるより処理の説明)
以下、
図2から
図10を用いて、データ処理部21で実行する処理を、より具体的に説明する。
【0031】
(データ処理部21で実行されるメインフロー)
図2は、本発明の実施形態に係る漁具シミュレーション方法のメインフローを示すフローチャートである。
図2に示すように、シミュレーション装置20のデータ処理部21は、メインフローとして、次のような処理を実行する。なお、各処理において、上述の構成の説明において説明済の箇所(説明が重複する箇所)は、以下、記載を適宜簡略化または省略する。
【0032】
データ処理部21の解像度モデル決定部211は、操業条件を受け付ける(S11)。解像度モデル決定部211は、操業条件から解像度モデルを決定する(S12)。
【0033】
データ処理部21のシミュレーション実行部212は、解像度モデルを用いたシミュレーションを実行する(S13)。データ処理部21の画像生成部213は、シミュレーション結果から、漁具の三次元画像を生成し、出力する(S14)。
【0034】
(解像度モデルの決定処理)
図3は、解像度モデルの決定処理を示すフローチャートである。
図4は、動的な漁具、漁法(運用漁具)を用いた操業条件と解像度モデルとの関係を示す図である。
図5は、静的な漁具、漁法(固定漁具)を用いた操業条件と解像度モデルとの関係を示す図である。
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)は、旋網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
図6(A)は、投網工程を示し、
図6(B)は、環巻工程を示し、
図6(C)は、揚網工程を示す。
図7(A)、
図7(B)は、底曳網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
図7(A)は、打ち廻し工程を示し、
図7(B)は、遅巻工程を示す。
図8は、刺網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
図9は、定置網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。
図10は、養殖網の場合における低解像度の領域と高解像度の領域との分布の一例を示す図である。なお、
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)、
図7(A)、
図7(B)、
図8、
図9、
図10では、高解像度領域はハッチングを施し、低解像度領域はハッチングを施していない。なお、以下の説明に記載されていない他の漁具、漁法についても同様に、解像度の設定が可能である。
【0035】
解像度モデル決定部211は、操業条件を解析する(S21)。より具体的には、解像度モデル決定部211は、操業条件に設定されている漁具、漁法を抽出する。例えば、解像度モデル決定部211は、設定された操業条件から、
図4、
図5に示すような、旋網、底曳網(かけまわし式)、底曳網(オッタートロール・二艘びき)、表中層トロール、刺網、定置網、および、養殖網等を抽出する。
【0036】
解像度モデル決定部211は、抽出した漁具、漁法に基づいて、時間別解像度および領域別解像度を決定する(S22)。言い換えれば、データ処理部21は、操業条件として抽出した漁具、漁法に応じて、漁法の工程(時間的要素)別でのシミュレーションの解像度、漁具内の領域(領域的要素(位置的要素))別でのシミュレーションの解像度を決定する。この際、解像度モデル決定部211は、動的な漁具、漁法(運用漁具)と、静的な漁具、漁法(固定漁具)とによって、設定を異ならせることができる。
【0037】
(動的な漁具、漁法(運用漁具)の場合:
図4、
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)、
図7(A)、
図7(B)参照)
動的な漁具、漁法の場合、解像度モデル決定部211は、漁法の過程(工程)を用いて、解像度モデルを決定する。
【0038】
解像度モデル決定部211は、漁具、漁法として「旋網」を抽出すれば、旋網の過程(工程)別に設定された解像度、旋網用の漁具内の領域別に設定された解像度を決定する。また、解像度モデル決定部211は、「底曳網(かけまわし式)」を抽出すれば、底曳網(かけまわし式)の過程(工程)別に設定された解像度、底曳網用の漁具内の領域別に設定された解像度を決定する。また、解像度モデル決定部211は、「底曳網(オッタ―トロール・二艘びき)」を抽出すれば、底曳網(オッタ―トロール・二艘びき)の過程(工程)別に設定された解像度、底曳網用の漁具内の領域別に設定された解像度を決定する。また、解像度モデル決定部211は、「表中層トロール」を抽出すれば、表中層トロールの過程(工程)別に設定された解像度、表中層トロール用の漁具内の領域別に設定された解像度を決定する。
【0039】
より具体的な一例として、漁具、漁法が「旋網」の場合を、
図4、
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)を参照して説明する。漁具、漁法が「旋網」であれば、解像度モデル決定部211は、投網工程において漁具の全体を低解像度する(
図4、
図6(A)参照)。解像度モデル決定部211は、環巻工程において漁具の身網部(
図6(B)の高解像度領域ReC1)を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図4、
図6(B)参照)。解像度モデル決定部211は、揚網工程において漁具の魚捕部(
図6(C)の高解像度領域ReC2)を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図4、
図6(C)参照)。
【0040】
漁具、漁法が「底曳網(かけまわし式)」の場合を、
図4、
図7(A)、
図7(B)を参照して説明する。漁具、漁法が「底曳網(かけまわし式)」であれば、解像度モデル決定部211は、投網工程から網待ち工程において漁具の全体を低解像度とする(
図4、
図7(A)参照)。解像度モデル決定部211は、曳網工程から巻上げ(遅巻)工程において漁具のコッドエンド(
図7(B)の高解像度領域ReC31)または袖網(
図7(B)の高解像度領域ReC32)を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図4、
図7(B)参照)。解像度モデル決定部211は、巻上げ(速巻)工程から揚網工程において漁具の全体を低解像度とする(
図4参照)。
【0041】
漁具、漁法が「底曳網(オッタ―トロール・二艘びき)」の場合を、
図4を参照して説明する。漁具、漁法が「底曳網(オッタ―トロール・二艘びき)」であれば、解像度モデル決定部211は、投網工程から着底工程において漁具の全体を低解像度とする(
図4参照)。解像度モデル決定部211は、着底工程から曳網工程において漁具のコッドエンドまたは袖網を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図4参照)。解像度モデル決定部211は、巻上げ工程から揚網工程において漁具の全体を低解像度とする(
図4参照)。
【0042】
漁具、漁法が「表中層トロール」の場合を、
図4を参照して説明する。漁具、漁法が「表中層トロール」であれば、解像度モデル決定部211は、投網工程から曳網(網沈降)工程において漁具の全体を低解像度とする(
図4参照)。解像度モデル決定部211は、曳網(網深度安定)工程において漁具のコッドエンドまたは袖網を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図4参照)。解像度モデル決定部211は、巻上げ工程から揚網工程において漁具の全体を低解像度とする(
図4参照)。
【0043】
(静的な漁具、漁法(固定漁具)の場合:
図5、
図8、
図9、
図10参照)
静的な漁具、漁法の場合、解像度モデル決定部211は、漁具が設置される環境の潮流または波浪に対する漁具の挙動を用いて、解像度モデルを決定する。
【0044】
漁具、漁法が「刺網」の場合を、
図5、
図8を参照して説明する。漁具、漁法が「刺網」であれば、解像度モデル決定部211は、漁具が潮流に対して非定常または波浪に対して非同期である期間、漁具の全体を低解像度とする(
図5参照)。解像度モデル決定部211は、漁具が潮流に対して定常かつ波浪に対して同期する期間、漁具の身網中央部(
図8の高解像度領域ReC4)を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図5、
図8参照)。
【0045】
漁具、漁法が「定置網」の場合を、
図5、
図9を参照して説明する。漁具、漁法が「定置網」であれば、解像度モデル決定部211は、漁具が潮流に対して非定常または波浪に対して非同期である期間、漁具の全体を低解像度とする(
図5参照)。解像度モデル決定部211は、漁具が潮流に対して定常かつ波浪に対して同期する期間、漁具の箱網(
図9の高解像度領域ReC51)、昇り運動場(
図9の高解像度領域ReC52)、または、垣網(
図9の高解像度領域ReC53)を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図4、
図9参照)。
【0046】
漁具、漁法が「養殖網」の場合を、
図5、
図10を参照して説明する。漁具、漁法が「養殖網」であれば、解像度モデル決定部211は、漁具が潮流に対して非定常または波浪に対して非同期である期間、漁具の全体を低解像度とする(
図5参照)。解像度モデル決定部211は、漁具が潮流に対して定常かつ波浪に対して同期する期間、漁具の生簀1基(
図10の高解像度領域ReC6)を高解像度とし、他の領域を低解像度とする(
図5、
図10参照)。
【0047】
なお、漁具が潮流に対して非定常または波浪に対して非同期である期間(第1期間)と、漁具が潮流に対して定常かつ波浪に対して同期する期間(第2期間)との切り替えは、例えば、次に示すように判断できる。
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)は、最大質点変位量の時間変化を示すグラフである。なお、最大質点変位量とは、漁具を構成する複数の質点の変位における最大値を意味する。これらの最大質点変位量の経時変化は、例えば、漁具が設置される環境に応じて設定されている。そして、これらの最大質点変位量の経時変化は、例えば、データ処理部21に記憶されている。
【0048】
(潮流に対する判断)
図11(A)は、潮流の影響を考慮したときの最大質点変位量の時間変化を示す。すなわち、
図11(A)では、潮流のみが漁具に作用し、波浪が無い場合を示す。
【0049】
潮流に対して漁具が非定常であると、漁具は、変位が生じる力を、潮流から受ける。したがって、漁具は、変位し易く、最大質点変位量は大きくなる。潮流に対して漁具が定常であると、漁具は、変位が生じる力を、潮流から殆ど受けない。したがって、漁具は変位し難く、最大質点変位量は小さくなる。
【0050】
また、漁具が潮流に対して非定常な状態から定常な状態へは、徐々に遷移する。例えば、
図11(A)に示すように、漁具が潮流に対して非定常な状態から定常な状態に遷移するのにしたがって、最大質点変位量は、小さくなっていき、小さな値に収束する。
【0051】
これを利用し、データ処理部21は、漁具が設置される環境に応じた最大質点変位量に対して、潮流用の閾値THtを設定する。データ処理部21は、最大質点変位量が潮流用の閾値THt以下になる切替時間t1(シミュレーションの開始時刻から経過時間)を検出する。データ処理部21は、切替時間t1を、解像度モデル決定部211に与える。解像度モデル決定部211は、切替時間t1を、漁具が潮流に対して非定常である期間と、漁具が潮流に対して定常である期間との切り替えに利用する。
【0052】
(波浪に対する判断)
図11(B)は、波浪の影響を考慮したときの最大質点変位量の時間変化を示す。
図11(C)は、
図11(B)に示す最大質点変位量の移動平均値の時間変化を示す。
【0053】
波浪に対して漁具が非同期であると、漁具は、大きな変位が生じる力を、波浪から受ける。したがって、漁具は、変位し易く、最大質点変位量は大きくなる。波浪に対して漁具が同期していると、漁具は、小さな変位が生じる力を、波浪から受ける。したがって、漁具は変位し難く、最大質点変位量は小さくなる。
【0054】
また、漁具が波浪に対して非同期な状態から同期した状態へは、徐々に遷移する。例えば、
図11(B)に示すように、漁具が波浪に対して非同期な状態から同期した状態に遷移するのにしたがって、最大質点変位量は、小さくなっていき、小さな値に収束する。しかしながら、波浪は、周期性を有するので、
図11(B)に示すように、最大質点変位量は、全体としては小さく収束していきながらも、局所的には大きくなったり小さくなったりする。
【0055】
したがって、波浪に対しては、最大質点変位量の移動平均値を利用する。移動平均値を用いることによって、
図11(C)に示すように、周期性ノイズが抑圧される。なお、ここでは、移動平均値を用いる態様を示したが、他の低域通過フィルタ、帯域阻止フィルタ等を用いた演算を採用してもよい。
【0056】
これを利用し、データ処理部21は、漁具が設置される環境に応じた最大質点変位量に対して、波浪用の閾値THwを設定する。データ処理部21は、最大質点変位量が波浪用の閾値THw以下になる切替時間t2(シミュレーションの開始時刻から経過時間)を検出する。データ処理部21は、切替時間t2を、解像度モデル決定部211に与える。解像度モデル決定部211は、切替時間t2を、漁具が波浪に対して非同期である期間と、漁具が波浪に対して同期する期間との切り替えに利用する。
【0057】
以上から、解像度モデル決定部211は、経過時間が切替時間t1未満または切替時間t2未満であれば、第1期間とし、経過時間が切替時間t1以上且つ切替時間t2以上であれば、第2期間とする。
【0058】
なお、この第1期間と第2期間との切り替えは、ユーザからの設定を用いることも可能である。
【0059】
(シミュレーションの実行処理)
図12は、漁具の全体が低解像度のシミュレーションにおける質点の設定例を示す図である。
図13は、漁具の全体が高解像度のシミュレーションにおける質点の設定例を示す図である。
図14は、漁具において低解像度の領域と高解像度の領域とが混在する場合のシミュレーションにおける質点の設定例を示す図である。
図15は、シミュレーションの実行処理を示すフローチャートである。
【0060】
シミュレーション実行部212は、概略処理として、漁具に対して複数の質点を設定し、複数の質点(より具体的には、質点の三次元座標)に対する運動方程式を解くことによって、漁具の挙動をシミュレーションする。なお、複数の質点に対する運動方程式の設定および解法は、概ね既知の設定、方法であり、説明は省略する。低解像度のシミュレーションと高解像度のシミュレーションとは、漁具に設定する複数の質点の数、複数の質点の間隔が異なる。具体的には、
図12、
図13に示すように設定される。
【0061】
(低解像度のシミュレーションの場合)
図12に示すように、低解像度のシミュレーションでは、漁具90に対して、複数の第1質点Mが設定される。複数の第1質点Mは、漁具90の複数の節部(後述の高解像度のシミュレーションの第2質点mに対応)において、所定の間隔を空けて配置された節部に設定される。例えば、
図12に示す黒丸印に示すように、第1質点Mは、漁具90の第1方向(
図12の横方向)と第2方向(
図12の縦方向)に対して、所定個数の節部を飛ばして、設定される。
【0062】
そして、第1質点Mには、低解像度のシミュレーション用の配列番号が設定されている。例えば、
図12に示すように、特定の第1質点M(A
0,B
0)を基準にして、第1方向に順にAの添え字の数が増加し、第2方向に順にBの添え字の数が増加するように配列番号が設定される。これにより、
図12に示すように、第1質点Mは、漁具90に対して二次元配列される(
図12の第1質点M(A
0,B
0)、第1質点M(A
II,B
0)、第1質点M(A
0,B
JJ)、第1質点M(A
II,B
JJ)等を参照)。
【0063】
この際、
図12の第1質点M(A
0,B
0)、第1質点M(A
0,B
1)、第1質点M(A
1,B
0)に示すように、第2方向に隣り合う第1質点Mは、第1方向における位置が異なるとよい。なお、複数の第1質点Mの設定は、これに限るものでなく、適宜設定可能である。
【0064】
シミュレーション実行部212は、低解像度が設定されている場合、この複数の第1質点Mを用いて、シミュレーションを実行する。
【0065】
(高解像度のシミュレーションの場合)
図13に示すように、高解像度のシミュレーションでは、漁具90に対して、複数の第2質点mが設定される。複数の第2質点mは、漁具90の複数の節部に設定される。例えば、
図13に示す黒丸印に示すように、第2質点mは、漁具90の節部の全てに対して設定される。
【0066】
そして、第2質点mには、高解像度のシミュレーション用の配列番号が設定されている。例えば、
図13に示すように、特定の第2質点m(a
0,b
0)を基準にして、第1方向に順にaの添え字の数が増加し、第2方向に順にbの添え字の数が増加するように配列番号が設定される。これにより、
図13に示すように、第2質点mは、漁具90に対して二次元配列される(
図13の第2質点m(a
0,b
0)、第2質点m(a
i,b
0)、第2質点m(a
0,b
j)、第2質点m(a
i,b
j)等を参照)。
【0067】
シミュレーション実行部212は、高解像度が設定されている場合、この複数の第2質点mを用いて、シミュレーションを実行する。
【0068】
なお、第2質点mと第1質点Mとは、漁具90における位置が同じであれば、関連付けされている。例えば、
図12、
図13の例であれば、第2質点m(a
0,b
0)と第1質点M(A
0,B
0)とは同じ質点を表すものとして設定されており、第2質点m(a
i,b
j)と第1質点M(A
II,B
JJ)とは同じ質点を表すものとして設定されている。
【0069】
(低解像度のシミュレーションと高解像度のシミュレーションとが混在する場合)
図14に示すように、低解像度のシミュレーションと高解像度のシミュレーションとが混在する場合、シミュレーション実行部212は、高解像度のシミュレーションが設定された領域ReCに対して、上述の第2質点mを用いて、シミュレーションを実行する。シミュレーション実行部212は、低解像度のシミュレーションが設定された領域、言い換えれば、高解像度のシミュレーションが設定された領域ReC以外に対して、上述の第1質点Mを用いて、シミュレーションを実行する。
【0070】
(シミュレーションの実行フロー:
図15参照)
シミュレーション実行部212は、解像度モデル決定部211から解像度モデルを受けると、シミュレーション初期値を設定する(S31)。例えば、初期値として全体が低解像度であれば、上述の複数の第1質点Mを用いて、シミュレーション初期値を設定する。また、シミュレーション実行部212は、解像度モデルから、低解像度のシミュレーションを実行する時間および領域、高解像度のシミュレーションを実行する時間および領域を取得する。
【0071】
シミュレーション実行部212は、シミュレーションを実行することで、所定の時間間隔で質点の位置を推定算出する。そして、シミュレーション実行部212は、質点の位置の推定算出対象の時間が、注目時間でなければ(S32:NO)、漁具90の全体に対して、上述の低解像度のシミュレーションを実行する。なお、注目時間は、解像度モデルによって設定される高解像度のシミュレーションを漁具90の少なくとも一部に採用する時間である。
【0072】
シミュレーション実行部212は、注目時間であり(S32:YES)、且つ、注目領域であれば(S34:YES)、注目領域に対して、上述の高解像度のシミュレーションを実行する(S36)。なお、注目領域は、解像度モデルによって設定される高解像度のシミュレーションを採用する領域である。質点が注目領域にあるか否かは、上述の配列番号によって設定されている。したがって、各質点の配列番号を用いることによって、その質点が注目領域内にあるか注目領域外にあるかは、判断できる。
【0073】
シミュレーション実行部212は、注目領域でなければ(S34:NO)、注目時間であっても、上述の低解像度のシミュレーションを実行する(S35)。
【0074】
シミュレーション実行部212は、同じ時間の高解像度のシミュレーション結果と低解像度のシミュレーション結果とを合成する(S37)。
【0075】
シミュレーション実行部212は、各タイミングにおいて得られたシミュレーション結果を逐次的に出力する(S38)。
【0076】
シミュレーション実行部212は、シミュレーションの終了トリガが得られるまでは(S39:NO)、上述のシミュレーションを逐次的に実行する。シミュレーション実行部212は、シミュレーションの終了トリガが得られれば(S39:YES)、シミュレーションを終了する。なお、終了トリガは、例えば、設定された漁具、漁法における全工程が終了したタイミング、ユーザからシミュレーションを終了させる操作を受けたタイミング等によって設定される。
【0077】
上述のフローでは、シミュレーション実行部212は、各タイミングでシミュレーション結果が得られる毎に、そのシミュレーション結果を出力していた。しかしながら、シミュレーション実行部212は、設定された終了のタイミングにおいてシミュレーションが終了した後に、シミュレーション結果をまとめて出力してもよい。
【0078】
このような処理を採用することによって、シミュレーション装置20のデータ処理部21は、漁具90における高精度な挙動を得たい領域および時間帯(工程)に対しては、高精度なシミュレーション結果を得ることができる。また、シミュレーション装置20のデータ処理部21は、高精度な挙動が必要でない領域および時間帯(工程)に対しては、シミュレーションを高速で実行できる。これにより、シミュレーション装置20は、シミュレーション結果の精度の低下を抑制しながら、高速な演算を行うことができる。
【0079】
(低解像度のシミュレーションと高解像度のシミュレーションとの切り替え時の処理)
上述の処理では、低解像度のシミュレーションから高解像度のシミュレーションへの切り替え、高解像度のシミュレーションから低解像度のシミュレーションへの切り替えが必要である。低解像度のシミュレーションと高解像度のシミュレーションとでは、共通の質点も存在するが、高解像度のシミュレーションにしか存在しない質点もある。
【0080】
このような場合、例えば、次の方法を用いることで、切り替え前のシミュレーション結果を用いて、切り替え後のシミュレーションを実行できる。
【0081】
(高解像度のシミュレーションから低解像度のシミュレーションに切り替える場合)
シミュレーション実行部212は、高解像度のシミュレーションと低解像度のシミュレーションの両方に存在する質点を用いる。具体的には、シミュレーション実行部212は、高解像度から低解像度への切り替えを検出すると、これら両方のシミュレーションに存在する質点(漁具90における同じ位置に設定された第1質点Mと第2質点m)にてシミュレーション結果を引き継ぐ。そして、シミュレーション実行部212は、高解像度のシミュレーションから低解像度のシミュレーションに切り替える。
【0082】
(低解像度のシミュレーションから高解像度のシミュレーションに切り替える場合)
シミュレーション実行部212は、低解像度のシミュレーションには設定されていない複数の第2質点mを設定し、これら複数の第2質点mの初期値を設定する。具体的には、シミュレーション実行部212は、高解像度用に今回設定する第2質点mの初期値を、この第2質点mを囲む位置に配置した複数の第1質点Mのシミュレーション結果を用いて算出する。例えば、
図14の例であれば、新たに高解像度のシミュレーションが実行される領域ReCC内の第2質点m(a
ix,b
iy)の初期値は、第2質点m(a
ix,b
iy)を囲む第1質点M(A
I,B
0)、第1質点M(A
IF,B
JF)、第1質点M(A
I,B
J)、および、第1質点M(A
IE,B
JF)のそれぞれのシミュレーション結果を用いて算出される。この初期値の算出は、例えば、各第1質点Mのシミュレーション結果の線形補間等を用いて実現可能である。
【0083】
シミュレーション結果の補間は、線形補間に限らない。例えば、操業条件における環境のパラメータに含まれる潮流または波浪の方向、より具体的には、第2質点m(aix,biy)を含む領域ReCCに衝突する潮流または波浪の大きさおよび方向から、領域ReCCに係る力を推定する。なお、潮流と波浪の両方を用いて、領域ReCCに係る力を推定してもよい。そして、この推定された力によって、領域ReCCが動く方向を推定し、この推定方向を考慮した曲面補間を行ってもよい。曲面補間は、例えば、スプライン補間、ベジェ補間等を用いることも可能である。
【0084】
図16は、低解像度のシミュレーションから高解像度のシミュレーションに切り替える際の処理を示すフローチャートである。
【0085】
シミュレーション実行部212は、算出対象の質点(第2質点m)を設定する(S361)。シミュレーション実行部212は、設定した質点に、直前の時間のデータ(シミュレーション結果)があるか否かを検出する。具体的には、設定した第2質点mと同じ位置に設定された第1質点Mがあるか否かを検出する。
【0086】
シミュレーション実行部212は、低解像度のシミュレーションで実行された直前の算出タイミングのデータが有れば(S362:YES)、直前の算出タイミングのデータ(シミュレーション結果)を、その質点における高解像度のシミュレーションの初期値として利用する(S363)。シミュレーション実行部212は、低解像度のシミュレーションで実行された直前の算出タイミングのデータが無ければ(S362:NO)、近傍質点(第1質点M)のデータを利用して、初期値を算出する(S364)。シミュレーション実行部212は、初期値が設定されると、高解像度のシミュレーションを実行する(S365)。近傍質点とは、例えば、上述のように、第2質点mを囲む複数の第1質点Mであったり、第2質点mに隣接する第1質点Mである。
【0087】
このような処理を行うことで、低解像度のシミュレーションと高解像度のシミュレーションとでの各質点のシミュレーション結果の連続性を担保し、不連続性を抑制できる。これにより、シミュレーション装置20は、誤差がより低減されたシミュレーションを実現できる。
【0088】
なお、上述の説明では、シミュレーション装置は、時間的要素および領域的要素の両方を用いて、シミュレーションの解像度を設定した。しかしながら、シミュレーション装置は、時間的要素のみ、領域的要素のみ、または、複合的な判断によって、シミュレーションの解像度を設定することも可能である。
図17(A)は、時間的要素のみを用いる場合の処理を示すフローチャートであり、
図17(B)は、領域的要素のみを用いる場合の処理を示すフローチャートである。
図18は、複合的な判断を行う場合の処理を示すフローチャートである。なお、
図17(A)、
図17(B)、
図18に示す各処理の具体的な内容は、上述のものと同様であり、新たに説明が必要な箇所以外は、説明を省略する。
【0089】
図17(A)に示すように、時間的要素のみを用いる場合、シミュレーション装置は、操作条件を解析し(S21)、シミュレーションに対する時間別解像度を決定する(S22A)。
図17(B)に示すように、領域的要素のみを用いる場合、シミュレーション装置は、操作条件を解析し(S21)、シミュレーションに対する領域別解像度を決定する(S22B)。
【0090】
図18に示すように、時間別解像度のみを用いる態様、領域別解像度のみを用いる態様、および、時間別解像度と領域別解像度の両方を用いる態様とを使い分ける場合、シミュレーション装置は、操作条件を解析し(S21)、解像度モデルを設定する(S231)。
【0091】
シミュレーション装置は、時間的要素のみ用いる設定であれば(S232:時間のみ)、シミュレーションに対する時間別解像度のみを決定する(S22A)。シミュレーション装置は、領域的要素のみを用いる設定であれば(S232:領域のみ)、シミュレーションに対する領域別解像度のみを決定する(S22B)。シミュレーション装置は、時間的要素と領域的要素とを用いる設定であれば(S232:時間と領域)、シミュレーションに対する時間別解像度と領域別解像度を決定する(S22)。
【0092】
また、上述の説明では、質点が平面構造で配列される態様を示したが、底曳網のような質点が立体構造で配列される態様にも、上述の構成および処理は適用できる。
【0093】
また、上述の解像度モデルは、情報処理端末30で確認でき、情報処理端末30から設定変更できる。この場合、データ処理部21は、インタフェース22、通信ネットワーク100を介して、決定した解像度モデルを、情報処理端末30に与える。情報処理端末30は、ユーザにより設定変更された解像度モデルを、通信ネットワーク100、インタフェース22を介して、解像度モデル決定部211に返す。このように、解像度モデルの変更を可能にすることで、ユーザの要望を、より的確に反映したシミュレーションを実行できる。
【0094】
また、上述の構成および処理では、解像度を二段階に設定する態様を示した。しかしながら、解像度を三段階以上に設定することも可能である。解像度の段階数を多くすることで、シミュレーションの精度および速度を、より詳細に設定できる。一方、解像度の段階数を少なくすることによって、シミュレーションのプログラム構成を、より簡素化できる。
【0095】
また、上述の説明では、シミュレーション装置は、三次元画像を情報処理端末に送信する態様を示した。しかしながら、シミュレーション装置は、シミュレーション結果を情報処理端末に送信してもよい。
【0096】
また、上述の説明では、三次元画像やシミュレーション結果を、情報処理端末に送信する具体的なタイミングを記載していない。三次元画像やシミュレーション結果の情報処理端末への送信は、シミュレーションの要求を行ってシミュレーションが終了したタイミングでもよく、別途、情報処理端末からシミュレーション結果の取得要求を受けてからでもよい。
【符号の説明】
【0097】
10:漁具シミュレーションシステム
20:シミュレーション装置
21:データ処理部
22:インタフェース
23:データベース
30:情報処理端末
31:演算部
32:操作入力部
33:インタフェース
34:表示器
90:漁具
100:通信ネットワーク
211:解像度モデル決定部
212:シミュレーション実行部
213:画像生成部
M:第1質点
m:第2質点