(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】飛行時間型質量分析方法、飛行時間型質量分析装置、および飛行時間型質量分析プログラム
(51)【国際特許分類】
H01J 49/40 20060101AFI20240805BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H01J49/40 800
H01J49/00 360
H01J49/00 310
(21)【出願番号】P 2023533563
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2022026006
(87)【国際公開番号】W WO2023282149
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2021114594
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】豊田 岐聡
(72)【発明者】
【氏名】本堂 敏信
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-116343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、
T=f(m,n) …式(1)
で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する第1飛行時間取得工程と、
取得された飛行時間Taが、前記式(1)から得られる、周回数n
1を周回した
質量電荷比が既知のイオンiの飛行時間T
i,n1に一致するか否かに応じて、
1つの条件下で得られた飛行時間Taのみを用いて、前記イオンiの有無を判定する判定工程とを含むことを特徴とする飛行時間型質量分析方法。
【請求項2】
イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、前記イオンの質量電荷比m、半周モードの飛行距離Lk、周回数n、周回距離Lc、原子質量定数Kamc、電気素量e、加速電圧Vacc、および定数t
0
、を用いて、
【数1】
で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する第1飛行時間取得工程と、
取得された飛行時間Taが、前記式(2)から得られる、周回数n
1
を周回したイオンiの飛行時間T
i,n1
に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する判定工程とを含むことを特徴とする飛行時間型質量分析方法。
【請求項3】
前記第1飛行時間取得工程では、一回のみの測定における前記イオンの飛行時間Taを取得し、
前記判定工程では、一回のみの測定における前記イオンの飛行時間Taを用いて、前記イオンiの有無を判定する、請求項1または2に記載の飛行時間型質量分析方法。
【請求項4】
前記第1飛行時間取得工程では、前記第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、周回数が互いに異なる複数のイオンが混在した状態での複数のイオンの飛行時間を取得し、
前記判定工程では、取得された前記複数のイオンの各飛行時間が、前記式(1)
または前記式(2)から得られる、周回数n
1を周回したイオンiの飛行時間T
i,n1に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する、請求項
1または2に記載の飛行時間型質量分析方法。
【請求項5】
前記第1取出開始時刻は、前記イオンiが周回数n
1を周回して取り出されるタイミングである、請求項1または2に記載の飛行時間型質量分析方法。
【請求項6】
n
1≠n
2として、
前記判定工程では、さらに、取得された前記飛行時間Taが、前記式(1)
または前記式(2)から得られる、周回数n
2を周回したイオンjの飛行時間T
j,n2に一致するか否かに応じて、前記イオンjの有無を判定する、請求項1または2に記載の飛行時間型質量分析方法。
【請求項7】
n
1≠n
3として、
前記イオンiが周回数n
3を周回して取り出されるタイミングである第2取出開始時刻に前記閉軌道からイオンを取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Tbを取得する第2飛行時間取得工程を含み、
前記判定工程では、取得された前記飛行時間Tbが、前記式
(2)から得られる、周回数n
3を周回したイオンiの飛行時間T
i,n3に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する、請求項
2に記載の飛行時間型質量分析方法。
【請求項8】
前記閉軌道は、多重周回型軌道または多重反射型軌道である請求項1、2または
7に記載の飛行時間型質量分析方法。
【請求項9】
前記飛行時間型質量分析装置において、質量電荷比が所定範囲外であるイオンを除外することなくイオンを周回させる請求項1、2または
7に記載の飛行時間型質量分析方法。
【請求項10】
イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、
T=f(m,n) …式(1)
で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する飛行時間取得部と、
取得された飛行時間Taが、前記式(1)から得られる、周回数n
1を周回した
質量電荷比が既知のイオンiの飛行時間T
i,n1に一致するか否かに応じて、
1つの条件下で得られた飛行時間Taのみを用いて、前記イオンiの有無を判定する判定部とを備えることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項11】
イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、前記イオンの質量電荷比m、半周モードの飛行距離Lk、周回数n、周回距離Lc、原子質量定数Kamc、電気素量e、加速電圧Vacc、および定数t
0
、を用いて、
【数2】
で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する飛行時間取得部と、
取得された飛行時間Taが、前記式(2)から得られる、周回数n
1
を周回したイオンiの飛行時間T
i,n1
に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する判定部とを備えることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項12】
請求項
10または11に記載の飛行時間型質量分析装置としてコンピュータを機能させるための飛行時間型質量分析プログラムであって、前記飛行時間取得部、および、前記判定部としてコンピュータを機能させるための飛行時間型質量分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉軌道を周回するイオン混合物に係る飛行時間型質量分析方法、飛行時間型質量分析装置、および飛行時間型質量分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
分析対象であるイオンが同一の軌道を周回または往復運動する飛行空間を有する飛行時間型質量分析装置が従来技術として知られている(特許文献1)。
【0003】
飛行時間型質量分析装置では、一般的に、電場により加速したイオンの検出器に到達するまでの飛行時間に応じて各種イオンを質量電荷比毎に分離する。或る質量電荷比の差を有する2種類のイオンに対する飛行時間の差はイオンの飛行距離が長いほど大きくなるから、質量分解能を高くするためには、できるだけ飛行距離を長く確保することが好ましい。しかしながら、一般に、装置のサイズなどの制約によって直線的な飛行距離を長くとることは困難であるため、従来より、飛行距離を実効的に長くするような各種の構成が提案されている。
【0004】
例えば、8の字状の閉じた周回型軌道を形成することで、飛行距離を実効的に長くしている飛行時間型質量分析装置が知られている。このような飛行時間型質量分析装置では、イオンが周回型軌道を周回する回数(周回数)が多いほど飛行距離が長くなり、それに伴って飛行時間も全体として長くなるため、一般的には、周回数を多くするほど質量分解能が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように周回型軌道を周回させる構成では、質量電荷比の小さなイオンほど速い速度で軌道を周回するため、周回を繰り返す間に質量電荷比の小さなイオンが周回遅れを生じた質量電荷比の大きなイオンに追いついたり追い越したりしてしまう。こうして異なる周回数を以て周回したイオンが混在して検出器に到達した場合、イオンの周回数が分からない限りそのイオンの質量電荷比を推定することができない。
【0007】
こうした問題を避けるために、従来、周回型軌道を周回させるイオンの質量電荷比範囲を制限し、上記のように周回遅れになるほど質量電荷比に差があるような複数種のイオンを同時に測定しないようにしている。そのため、低質量電荷比から高質量電荷比まで広い範囲に亘って分析を行いたい場合には、質量電荷比範囲を細かく区分して多数回の分析を行わなければならず、全体の測定時間が長くなって測定スループットが低下し、分析効率が悪いという問題があった。また、分析対象の試料が微量であって多数回の分析を行うことが困難である場合には、そもそも上記のような広い質量範囲に亘っての分析が不可能であるという問題があった。
【0008】
本発明の一態様の目的は、従来よりも少ない測定回数で以て幅広い質量電荷比範囲に亘る分析を行うことができる飛行時間型質量分析方法、飛行時間型質量分析装置、および飛行時間型質量分析プログラムを実現することにある。
【0009】
本発明の一態様の他の目的は、質量電荷比範囲を細かく区分して分析を行う必要のない飛行時間型質量分析方法、飛行時間型質量分析装置、および飛行時間型質量分析プログラムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析方法は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する第1飛行時間取得工程と、取得された飛行時間Taが、前記式(1)から得られる、周回数n1を周回したイオンiの飛行時間Ti,n1に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する判定工程とを含む。
【0011】
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析方法は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する第1飛行時間取得工程と、前記イオンについて飛行時間Taとは異なる飛行時間が得られる第2取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Tbを取得する第2飛行時間取得工程と、前記式(1)から、飛行時間Taについて複数の周回数候補[na1,…nav]に対応する複数の質量電荷比候補A1[ma1,…mav]を得て、前記式(1)から、飛行時間Tbについて複数の周回数候補[nb1,…nbw]に対応する複数の質量電荷比候補A2[mb1,…mbw]を得る候補算出工程と、複数の質量電荷比候補A1および複数の質量電荷比候補A2から値の一致する質量電荷比候補m1を得ることで、質量電荷比候補m1を前記イオンの質量電荷比として決定する決定工程とを含む。
【0012】
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析装置は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する飛行時間取得部と、取得された飛行時間Taが、前記式(1)から得られる、周回数n1を周回したイオンiの飛行時間Ti,n1に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する判定部とを備える。
【0013】
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析装置は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得し、前記イオンについて飛行時間Taとは異なる飛行時間が得られる第2取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Tbを取得する飛行時間取得部と、前記式(1)から、飛行時間Taについて複数の周回数候補[na1,…nav]に対応する複数の質量電荷比候補A1[ma1,…mav]を得て、前記式(1)から、飛行時間Tbについて複数の周回数候補[nb1,…nbw]に対応する複数の質量電荷比候補A2[mb1,…mbw]を得る候補算出部と、複数の質量電荷比候補A1および複数の質量電荷比候補A2から値の一致する質量電荷比候補m1を得ることで、質量電荷比候補m1を前記イオンの質量電荷比として決定する決定部とを備える。
【0014】
本発明の各態様に係る飛行時間型質量分析装置に設けられた飛行時間取得部、判定部、候補算出部、および、決定部は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記飛行時間型質量分析装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記飛行時間型質量分析装置に係る演算をコンピュータにて実現させる前記飛行時間取得部、前記判定部、前記候補算出部、および、前記決定部の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、従来よりも少ない測定回数で以て幅広い質量電荷比範囲に亘る分析を行うことができる飛行時間型質量分析方法、飛行時間型質量分析装置、および飛行時間型質量分析プログラムを実現することができる。
【0016】
また、本発明の一態様によれば、質量電荷比範囲を細かく区分して分析を行う必要のない飛行時間型質量分析方法、飛行時間型質量分析装置、および飛行時間型質量分析プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る飛行時間型の質量分析装置の要部の概略構成図である。
【
図2】上記飛行時間型の質量分析装置において、24周モード、30周モード、および50周モード、で測定した飛行時間のスペクトル波形を示すグラフである。
【
図3】上記飛行時間型の質量分析装置の半周モードの動作を説明するための概略構成図である。
【
図4】一実施形態に係る飛行時間型質量分析方法のフローチャートである。
【
図5】一実施形態に係る飛行時間型質量分析方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0019】
(質量分析装置1の構成)
図1は本実施形態に係る飛行時間型の質量分析装置1の要部の概略構成図である。
図2は、質量分析装置1において24周モード、30周モード、および50周モード、で測定した飛行時間のスペクトル波形W1・W2・W3を示すグラフである。
図2の横軸は飛行時間、縦軸は単位時間に検出されたイオン数を示す。なお、
図2の横軸の目盛りはW1とW2とW3とで揃っていない。
【0020】
質量分析装置1は、飛行装置5、情報処理装置6、イオン源10、およびイオン検出器9を備える。飛行装置5は、注入部7および取出部8を備える。また、飛行装置5は、旋回角度が180°よりも小さい4つの扇形電場(扇形経路)E1・E2・E3・E4を備える。この扇形電場E1・E2・E3・E4が8の字の湾曲部分に配置されることにより、8の字状の閉じた周回型軌道2(閉軌道)が形成される。この周回型軌道2は、4つの扇形電場E1・E2・E3・E4の円周軌道A1・A2・A3・A4と、扇形電場間を結ぶ4つの直進軌道A12・A23・A34・A41とから構成されている。質量分析装置1は、この周回型軌道2を周回するイオンの質量電荷比(質量を電荷で除したもの)を分析する。
【0021】
イオン源10は、試料に含まれる1つの種類のイオンを供給する、または複数種類のイオンを含むイオン混合物を供給する。注入部7は、扇形電場を生じさせて、イオン源10から供給されたイオンまたはイオン混合物を周回型軌道2に導入する。注入部7の出口は、扇形電場E1・E4の間の直進軌道A41に配置される。取出部8は、所定のタイミングで扇形電場を生じさせて、周回型軌道2を周回するイオンまたはイオン混合物を周回型軌道2の外部に取り出す。取出部8は、扇形電場E2・E3の間の直進軌道A23に配置される。イオン検出器9は、取出部8により周回型軌道2から取り出された1つまたは複数種類のイオンを検出する。イオン検出器9は、検出したイオンの飛行時間のスペクトル波形を情報処理装置6に出力する。
【0022】
なお、注入部7および取出部8は、扇形電場E1・E2・E3・E4の何れかと共有するように構成してもよい。
【0023】
情報処理装置6は、飛行時間測定部3、判定部4、候補算出部11、および決定部12を備える。情報処理装置6の各部の詳細な処理は後述する。
【0024】
飛行時間測定部3(飛行時間取得部)は、検出したイオンの飛行時間のスペクトル波形から、各イオンの飛行時間を測定(特定)する。飛行時間測定部3は、各イオンの測定された飛行時間を取得するものであればよい。飛行時間測定部3は、測定した飛行時間を判定部4および候補算出部11に出力する。
【0025】
判定部4は、測定された飛行時間が、後述の式(1)から得られるイオンiの飛行時間に一致するか否かに応じて、イオンiの有無を判定する。判定部4は、予め決定された式(1)を記憶している。
【0026】
候補算出部11は、後述の式(1)から、飛行時間Taについて複数の質量電荷比候補A1[ma1,…mav]を得て、式(1)から、別の飛行時間Tbについて複数の質量電荷比候補A2[mb1,…mbw]を得る。候補算出部11は、複数の質量電荷比候補A1と複数の質量電荷比候補A2とを決定部12に出力する。
【0027】
決定部12は、複数の質量電荷比候補A1および複数の質量電荷比候補A2から値の一致する質量電荷比候補m1を得ることで、質量電荷比候補m1を測定対象のイオンの質量電荷比として決定する。
【0028】
以下では、閉軌道は周回型軌道(多重周回型軌道)として形成されている例を用いて説明するが、これに限らず、閉軌道は、イオンが往復する多重反射型軌道として形成されていてもよい。
【0029】
(質量分析装置1の動作)
このように構成された質量分析装置1の動作を説明する。イオン源10からイオン混合物が、電極電位がオンになっている注入部7に向かって出射されると、イオン混合物は注入部7を通って周回型軌道2に導入される。イオン混合物は、電極電位がオンの扇形電場E1の円周軌道A1、直進軌道A12、電極電位がオンの扇形電場E2の円周軌道A2をこの順番に飛行する。そして、イオン混合物は、電極電位がオフになっている取出部8に形成された孔を通って、直進軌道A23、電極電位がオンの扇形電場E3の円周軌道A3、直進軌道A34、電極電位がオンの扇形電場E4の円周軌道A4をこの順番に飛行する。次に、電極電位がオフになった注入部7に形成された孔を通って直進軌道A41を飛行し、周回型軌道2を繰り返し周回する。
【0030】
イオン混合物を周回型軌道2から取り出すときは、取出部8の電極電位がオンにされ、イオン混合物は取出部8を通ってイオン検出器9に到達する。
【0031】
図3は飛行時間型の質量分析装置1の半周モードの動作を説明するための概略構成図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、それらの詳細な説明は繰り返さない。
【0032】
イオン源10から供給されたイオン混合物は、電極電位がオンになっている注入部7を通って周回型軌道2に導入される。そして、イオン混合物は、直進軌道A41、円周軌道A1、直進軌道A12、円周軌道A2、および直進軌道A23を通って、電極電位がオンになっている取出部8を通って周回型軌道2から取り出されてイオン検出器9に到達する。このようにして、イオン混合物は、周回型軌道2を半周してイオン検出器9に到達する。例えば、イオン混合物がH
2、He、CH
4、およびN
2のイオンを含む場合、
図3に示す半周モードでは周回型軌道2を1周しないので追い越しは発生しない。
【0033】
しかしながら、
図1に示すように、N
2のイオンが周回型軌道2を1周して取出部8の入り口に到達するとき、N
2のイオンを追い越した4周目のH
2、3周目のHeのイオンがN
2のイオンの前に現れる。このため、従来はイオンゲートを配置して特定の周回数のイオン(すなわち特定の質量電荷比の範囲のイオン)のみがイオン検出器9に導入されるよう制御しなければならなかった。イオンゲートは、質量電荷比が所定範囲外であるイオンを除外するものである。なお、注入部または取出部によって導入または周回させるイオンを制限することもできる。
【0034】
(質量分析装置1による質量分析方法)
本実施形態は、多重周回型の質量分析装置1の新しいデータ収集・ピークアサインアルゴリズム並びにそのアルゴリズムを搭載した装置に関するものである。
【0035】
多重周回型の質量分析装置1は、質量電荷比の異なるイオン混合物を閉軌道(周回型軌道2)で分離し、所定の取出開始時刻に周回するイオンを閉軌道からイオン検出器9に取り出し開始する。取り出し開始してから取出部8の入口に到達したイオンから順次取り出され、取り出されたイオンは順次イオン検出器9に到達する。このため、得られる飛行時間のスペクトル波形の幅は、イオン混合物中の最大質量電荷比のイオンが閉軌道を1周する時間以下になる。
【0036】
従来は、スペクトル波形から得られるそれぞれのイオンピークが、何周したイオンに対応するかを特定することができないと思われていたため,イオンゲートを利用して特定の周回数のイオンのみが検出器に導入されるよう制御するなどの測定方法がとられてきた。
【0037】
しかしながら、多重周回型の質量分析装置1のイオンの飛行時間は極めて正確に下記の式(2)に従うことがわかった。
【数1】
ここで、
T: 飛行時間、
Lk:半周モードの飛行距離、
n: 周回数、
Lc: 周回距離、
m: 質量電荷比、
Kamc: atomic mass constant(原子質量定数)、
e: elemental charge(電気素量)、
Vacc:加速電圧、
t
0:予め決定された定数(装置による遅延時間)、
である。
【0038】
式(2)の加速電圧Vaccは、任意の1種類のイオンの2以上の異なる周回数でのそれぞれの飛行時間、もしくは複数種類のイオンでの任意の飛行時間を計測すると、式(2)を用いて求めることができる。
【0039】
同様に、式(2)の半周モードの飛行距離Lkは、周回距離Lcが既知であることから、単一イオンの異なる周回数から得られる飛行時間から正確に計算可能なイオンの周回時間と、得られた飛行時間との差を用いて容易に算出することができる。この半周モードの飛行距離Lkは、質量分析装置1に固有でありイオン源10やイオン検出器9の交換といった作業を行わない限り変化することはない。半周モードの飛行距離Lkは正確に閉軌道の半分を飛行する距離でなくてよく、閉軌道を周回することなくイオン源10からイオン検出器9までイオンが飛行する距離を意味する。
【0040】
このようにして、特定の分析条件における半周モードの飛行距離Lkおよび加速電圧Vaccが既知である場合、指定した質量電荷比mをもつイオンが閉軌道を特定の周回数nを周回した場合の飛行時間は、数学的に一意に決定することが可能である。したがって、可能性のある全てのイオン種について計算された飛行時間と得られた飛行時間とを比べることによって、試料に含まれるイオン種を特定することが可能である。また現在、通常市販されている計算機の能力であれば、例えば得られた飛行時間と想定される飛行時間精度に対応する質量数2000以下程度のすべての可能なイオン種(化学組成)を計算することは容易である。
【0041】
実際の測定系では、イオンの取り出しを制御する電場の印加の時間遅延または取り出し前後の電場のゆらぎなどの影響により、イオン取り出し時点で電極に近い位置を飛行しているイオンに対して測定値と計算値との相違、もしくはイオンを未検出とするなどの影響が起こり得る。また、計算上のあるいは実際の飛行時間について、2種以上のイオンが接近する場合において単一の測定波形では正確に判定することが困難な場合が考えられる。この問題は、現在測定した周回数とは異なる周回数のスペクトル波形を用いることで回避することができる。
【0042】
試料となるイオン混合物中に存在するイオン種が既知、もしくは推定できる場合、そのイオンの理論上の質量電荷比から、特定の周回測定条件におけるそのイオンの飛行距離Lおよびそのイオンの周回数nは、以下の式(3)および式(4)の計算により一意に決定できる。
【数2】
ここで、
K:定数、
V、t
0:予め決定された定数、
t:存在すると考えられるイオンの理論上の飛行時間、
m’:存在すると考えられるイオンの理論質量数、
である。
【0043】
この理論上の飛行時間tは、前述した式(2)により求めることができる。すなわち、飛行時間型の質量分析装置1におけるイオンの飛行時間Tは、閉軌道の周回数n、イオンの質量電荷比mを用いて、下記のように関数fで表現される。
【0044】
T=f(m,n) …式(1)
それゆえ、質量電荷比mを有する特定のイオンiが閉軌道をある周回数nを周回した条件下での飛行時間Tは、式(1)から計算によって得られる。また、所定のタイミングで取り出し開始したときに、周回数n1のイオンiと共に計測される、周回数n2のイオンjの飛行時間も式(1)から計算により得られる。
【0045】
周回型軌道を周回させる構成では、質量電荷比の小さなイオンほど速い速度で軌道を周回するため、周回を繰り返す間に質量電荷比の小さなイオンが周回遅れを生じた質量電荷比の大きなイオンを追い越し得る。このようにして、互いに異なる周回数を周回した複数種のイオンが混在した状態でイオン検出器に到達する。
【0046】
飛行時間型質量分析装置の属する技術分野の当業者の本願出願時の技術常識は、イオンの飛行時間は、誤差が大きく式(2)に正確に従うものではない、というものであった。それゆえ、従来は、質量分析装置で測定された試料中のイオンが特定のイオンiであるかを判別するために、質量分析装置でサンプルとしてイオンiの飛行時間を予め測定しておく必要があった。そして、測定された試料中のイオンの飛行時間と、同じ周回数で飛行したサンプルのイオンiの飛行時間とを比較することで、試料中のイオンがイオンiであるか否かを判別していた。この従来の方法では、別のイオンjであるかを判別するためには、別のイオンjをサンプルとして実際に測定した飛行時間が必要になる。つまり、特定しようとする各イオン種について、実際の飛行時間の測定が予め必要になると考えられていた。また、比較対象のサンプルの飛行時間を得るために、異なる周回数のイオンを同時に検出しないよう、質量電荷比が所定範囲外であるイオンを除外する必要があった。
【0047】
また従来は、1回の測定で周回数の異なる複数種のイオンを検出してしまうと、正確にイオンを特定できないと当業者に考えられていた。複数種のイオンを含むイオン混合物については、異なる周回数のイオンを検出しないようにイオンゲートを用いて質量範囲を細かく区分して多数回の分析を行うことが当業者の技術常識であった。周回数の異なる複数種のイオンを含む飛行時間のスペクトル波形を用いて、各イオンの質量電荷比を特定する構成に想到した当業者はこれまで存在しなかった。
【0048】
(質量分析方法1)
図4は本実施形態に係る飛行時間型質量分析方法のフローチャートである。この飛行時間型質量分析方法は、試料に含まれる1つまたは複数種類のイオンの飛行時間を測定し、測定された飛行時間から特定のイオンが試料の中に含まれているか否かを判定する。以下では試料から複数種類のイオンを含むイオン混合物を供給する場合について説明するが、供給される(測定される)イオンは1種類であってもよい。
【0049】
前提条件として、質量分析装置1は、予め較正済みであるものとする。例えば、式(2)の加速電圧Vacc、定数t0が決定済みである。すなわち、式(1)の関数fが既知である。較正は、例えば任意の1種類のイオンの2以上の異なる周回数での各飛行時間、もしくは複数種類のイオンの各飛行時間を測定することで、行うことができる。
【0050】
飛行装置5は、閉軌道を周回する複数種類のイオンを、イオン源10が複数種類のイオンを供給してから第1期間経過した第1取出開始時刻に閉軌道から取り出し開始する。イオン検出器9は、複数種類のイオンを検出する。例えば、第1取出開始時刻が、CO
2
+が24周回してから取り出されるようなタイミングであった場合、
図2のW1に示す飛行時間のスペクトル波形が得られる。
図2において、各ピークに対応する飛行時間の数値(μs)が示されている。
【0051】
飛行時間測定部3は、飛行時間のスペクトル波形から、各イオンの飛行時間を測定(取得)する(第1飛行時間測定工程、S1)。
【0052】
判定部4は、特定のイオンiの飛行時間を式(1)から得る。判定部4は、イオンiの質量電荷比から、第1取出開始時刻で取り出し開始した場合のイオンiの閉軌道の周回数n1を特定することができる。または、第1取出開始時刻は、イオンiが予め決められた周回数n1を周回して取り出されるタイミングに設定されていてもよい。判定部4は、式(1)から、周回数n1を周回したイオンiの飛行時間Ti,n1を求める。判定部4は、測定されたイオンの各飛行時間がイオンiの飛行時間Ti,n1に一致するか否かを判定する。測定されたあるイオンの飛行時間Taがイオンiの飛行時間Ti,n1に一致する場合、判定部4は、試料中にイオンiが有ると判定する(判定工程、S2)。測定されたいずれのイオンの飛行時間Taもイオンiの飛行時間Ti,n1に一致しない場合、判定部4は、試料中にイオンiが無いと判定する。
【0053】
また、判定部4は、同じ飛行時間のスペクトル波形から別のイオンjの有無を判定してもよい。第1取出開始時刻は、イオンjが予め決められた周回数n2を周回して取り出されるタイミングであるとする(n1≠n2)。判定部4は、式(1)から、周回数n2を周回したイオンjの飛行時間Tj,n2を求める。判定部4は、測定されたイオンの各飛行時間がイオンjの飛行時間Tj,n2に一致するか否かを判定する。測定されたあるイオンの飛行時間Taがイオンjの飛行時間Tj,n2に一致する場合、判定部4は、試料中にイオンjが有ると判定する(判定工程、S2)。測定されたいずれのイオンの飛行時間Taもイオンjの飛行時間Tj,n2に一致しない場合、判定部4は、試料中にイオンjが無いと判定する。
【0054】
例えば、測定によって
図2のW1の飛行時間のスペクトル波形が得られたとする。このスペクトル波形は、CO
2
+イオンiが24周回して取り出されるようなタイミング(条件)で取り出し開始することで得られたものである。式(1)より、この質量分析装置1で24周回したCO
2
+イオンiの飛行時間として125.643μsを得ることができる。測定された飛行時間のスペクトル波形W1の中に125.643μsに対応する(一致する)ピークがあれば、判定部4は、試料の中にCO
2
+イオン(もしくはイオン化される前のCO
2)が含まれていたと判定することができる。またこの条件下では、例えば、O
2
+イオンjは、28周回して取り出される。式(1)より、この質量分析装置1で28周回したO
2
+イオンjの飛行時間として124.477μsを得ることができる。測定された飛行時間のスペクトル波形W1の中に124.477μsに対応する(一致する)ピークがあれば、判定部4は、試料の中にO
2
+イオン(もしくはイオン化される前のO
2)が含まれていたと判定することができる。同様に、判定部4は、任意のイオンについて、該イオン(またはイオン化される前の物質)が試料の中に含まれていたか否かを判定することができる。
【0055】
本実施形態では、質量分析装置1の較正(式(1)または式(2)の決定)は、特定のイオンを用いて行うことができ、必ずしも判定対象の各イオンi,jの飛行時間を予め測定しておく必要はない。各イオンi,jの飛行時間Ti,n1、Tj,n2は式(1)または式(2)から計算によって求めることができる。それゆえ、判定対象の各イオンについて予めサンプルを飛行させて飛行時間を測定しておく必要はない。すなわち、質量分析装置1は、計算によって広範なイオン種について判定を行うことができる。
【0056】
なお、上記の説明では、判定部4は、飛行時間Taと飛行時間Ti,n1とが互いに一致するか否かを判定したが、周回数n1および飛行時間Taを用いて式(1)から得られた質量電荷比と、イオンiの質量電荷比とが互いに一致するか否かを判定してもよい。両者の判定は同義である。
【0057】
表1は、
図2に示す24周モード、30周モード、および50周モード毎に測定した飛行時間のスペクトル波形W1・W2・W3に係るイオン混合物に含まれる各イオンの飛行時間(TOF)等を示す。なお、24周モードは、CO
2
+イオンが閉軌道を24周して閉軌道から取り出されるように、取出部8が所定の時刻に取り出しを開始する測定モードである。30周モード、50周モードについても同様である。
【表1】
TOFはイオンの測定された飛行時間、lapはイオンの周回数、exact massはイオンの正確な質量数、ionはイオン種を表す。assigned massは飛行時間および周回数から式(1)を用いて計算されたイオンの質量数である。
【0058】
測定された飛行時間から式(1)を用いて計算された各イオンの質量数(assigned mass)の、該イオンの正確な質量数(exact mass)に対する誤差(error)は概ねプラスマイナス0.5mDa(ミリダルトン)以下である。式(1)から得られた各イオンの質量数(または質量電荷比)は、該イオンの正確な質量数(または質量電荷比)に概ね一致している。
【0059】
なお、第1の条件(例えば24周モード)での測定では飛行時間のスペクトル波形におけるピークが、他のイオンのピークと重なってイオン種の判定が難しい場合がある。その場合、第1の条件とは異なる周回数の第2の条件(例えば30周モードまたは50周モード)で飛行時間を測定することで、より正確にイオンiの有無を判定することができる。
【0060】
例えば、飛行装置5は、閉軌道を周回する複数種類のイオンを、イオン源10が複数種類のイオンを供給してから第2期間経過した第2取出開始時刻に閉軌道から取り出し開始する。例えば、第2取出開始時刻が、CO
2
+が30周回してから取り出されるようなタイミングであった場合、
図2のW2に示す飛行時間のスペクトル波形が得られる。
【0061】
飛行時間測定部3は、飛行時間のスペクトル波形から、各イオンの飛行時間を測定(取得)する(第2飛行時間測定工程、S1)。
【0062】
判定部4は、特定のイオンiの飛行時間を式(1)から得る。判定部4は、イオンiの質量電荷比から、第2取出開始時刻で取り出し開始した場合のイオンiの閉軌道の周回数n3を特定することができる(n1≠n3)。または、第3取出開始時刻は、イオンiが予め決められた周回数n3を周回して取り出されるタイミングに設定されていてもよい。判定部4は、式(1)から、周回数n3を周回したイオンiの飛行時間Ti,n3を求める。判定部4は、測定されたイオンの各飛行時間がイオンiの飛行時間Ti,n3に一致するか否かを判定する。第2の条件下で測定されたあるイオンの飛行時間Tbがイオンiの飛行時間Ti,n3に一致する場合、判定部4は、試料中にイオンiが有ると判定する(判定工程、S2)。測定されたいずれのイオンの飛行時間Tbもイオンiの飛行時間Ti,n3に一致しない場合、判定部4は、試料中にイオンiが無いと判定する。
【0063】
第2の条件下では、第1の条件下とは各イオンの周回数が異なる。そのため、第1の条件下では接近していた飛行時間の2つのピークが、第2の条件下では離れて測定され得る。このように、周回数の異なる複数(2つ以上)の条件下で測定することで、特定のイオンの有無をより正確に判定することができる。
【0064】
質量分析装置1は、周回数の異なる複数種類のイオンを、除外することなく同時に1つの飛行時間のスペクトル波形として計測する。そして、イオンの質量電荷比と取り出し開始時刻に応じた周回数とを用いて式(1)から得られる飛行時間を、判定に用いる。そのため、質量電荷比が所定範囲外であるイオンを除外することなく得られた飛行時間のスペクトル波形から、特定のイオンの有無を正確に判定することができる。
【0065】
測定対象イオンが予め定められているケースは少なくない。例えば、水道法では16種類の揮発性有機化合物(VOC)の測定が定められている。測定対象イオンが既知であるので、式(1)を用いれば容易に、任意に選択した条件(取出開始時刻)で、各イオンの周回数、および飛行時間を、一意に計算することができる。それゆえ、各種の法律で規定されている特定の物質の測定/検出について、質量分析装置1を好適に使用することができる。
【0066】
(質量分析方法2)
質量分析装置1における別の質量分析方法について説明する。以下に説明する質量分析方法2は、検出されたイオン種、質量電荷比が共に不明であるような場合に特に有用である。
【0067】
図5は本実施形態の質量分析方法2に係る飛行時間型質量分析方法のフローチャートである。
【0068】
飛行装置5は、閉軌道を周回する測定対象のイオンを、イオン源10がイオンを供給してから第1期間経過した第1取出開始時刻に閉軌道から取り出し開始する。ここでは簡単のために測定対象のイオンは1種類であるとする。イオン検出器9は、イオンを検出する。
【0069】
飛行時間測定部3は、第1取出開始時刻に対応して得られた飛行時間のスペクトル波形から、第1取出開始時刻に対応するイオンの飛行時間Taを測定(取得)する(第1飛行時間測定工程、S4)。
【0070】
次にイオン源10は、再度同じ測定対象のイオンを供給する。飛行装置5は、閉軌道を周回する測定対象のイオンを、イオン源10がイオンを供給してから第2期間経過した第2取出開始時刻に閉軌道から取り出し開始する。第2期間および第2取出開始時刻は、それぞれ第1期間および第1取出開始時刻とは異なる。イオン検出器9は、イオンを検出する。
【0071】
飛行時間測定部3は、第2取出開始時刻に対応して得られた飛行時間のスペクトル波形から、第2取出開始時刻に対応するイオンの飛行時間Tbを測定する(第2飛行時間測定工程、S4)。第2取出開始時刻は、測定対象のイオンについて、飛行時間Taとは異なる飛行時間Tbが得られるようなタイミングである。
【0072】
飛行時間Taと飛行時間Tbとは互いに異なる。すなわち、飛行時間Taが得られたときのイオンの閉軌道の周回数naと、飛行時間Tbが得られたときのイオンの閉軌道の周回数nbとは互いに異なる。ただし、イオン種が不明であるので、各周回数na、nbも不明である。
【0073】
候補算出部11は、式(1)から、飛行時間Taについて、周回数がna1であると仮定した場合の質量電荷比の候補ma1を計算によって得る。また、候補算出部11は、式(1)から、飛行時間Taについて、別の周回数がna2であると仮定した場合の質量電荷比の候補ma2を計算によって得る。このように、候補算出部11は、式(1)から、飛行時間Taについて、複数の周回数候補[na1,…nav]に対応する複数の質量電荷比の候補A1[ma1,…mav]を得る(候補算出工程、S5)。[na1,…nav]は、na1,…navを要素とするリストまたは集合を表す。複数の周回数候補[na1,…nav]の中には、測定対象のイオンの正しい周回数に一致するものが含まれている可能性がある。それゆえ、複数の質量電荷比の候補A1[ma1,…mav]の中には測定対象のイオンの正しい質量電荷比に一致するものが含まれている可能性がある。複数の周回数候補[na1,…nav]の数を増やせば、複数の質量電荷比の候補A1[ma1,…mav]の中に測定対象のイオンの正しい質量電荷比に一致するものが含まれている可能性は高くなる。周回数候補[na1,…nav]として、例えば1周(重いイオンの場合)からX周(最も軽いH+の場合)迄が考え得る。それゆえ、質量分析装置1について、有限個の周回数候補に対応する質量電荷比の候補を計算すれば、質量電荷比の候補A1の中に測定対象のイオンの正しい質量電荷比に一致するものが必ず含まれる。
【0074】
同様に、候補算出部11は、式(1)から、飛行時間Tbについて、周回数がnb1,nb2…であると仮定した場合の質量電荷比の候補mb1,mb2…を計算によって得る。このように、候補算出部11は、式(1)から、飛行時間Tbについて、複数の周回数候補[nb1,…nbw]に対応する複数の質量電荷比の候補A2[mb1,…mbw]を得る(候補算出工程、S5)。計算する周回数の候補は、飛行時間Taと飛行時間Tbとで異なっていてもよい。すなわち、v=wでも、v≠wでもよい。A1と同様に、複数の質量電荷比の候補A2[mb1,…mbw]の中には測定対象のイオンの正しい質量電荷比に一致するものが含まれている可能性がある。
【0075】
決定部12は、複数の質量電荷比の候補A1[ma1,…mav]と、複数の質量電荷比の候補A2[mb1,…mbw]との中から、互いに値が一致する(共通する)質量電荷比候補m1を得る。例えば、複数の質量電荷比の候補A1および複数の質量電荷比の候補A2の両方に測定対象のイオンの正しい質量電荷比に一致する候補が含まれていれば、複数の質量電荷比の候補A1のいずれか1つの候補と、複数の質量電荷比の候補A2のいずれか1つの候補とが一致するはずである。逆に、値が一致する2つの候補が存在しない場合、複数の質量電荷比の候補A1および複数の質量電荷比の候補A2の少なくとも一方に、測定対象のイオンの正しい質量電荷比に一致する候補が含まれていないと考えられる。決定部12は、複数の質量電荷比の候補A1[ma1,…mav]のそれぞれと、複数の質量電荷比の候補A2[mb1,…mbw]のそれぞれとを比較し、互いに値が一致する質量電荷比候補m1を得る。決定部12は、質量電荷比候補m1を測定対象のイオンの質量電荷比として決定する(決定工程、S6)。なお、質量電荷比の候補mavとmbwとが互いに一致した場合、それぞれの周回数navとnbwとは互いに異なる。
【0076】
値が一致する2つの候補が存在しない場合、候補算出部11は、飛行時間Taおよび/または飛行時間Tbについて、さらに別の周回数の候補に対応する別の質量電荷比の候補を得る。決定部12は、追加された質量電荷比の候補と値が一致する質量電荷比の候補があれば、その候補を測定対象のイオンの質量電荷比として決定する。候補算出部11は、互いに値が一致する質量電荷比の候補が得られるまで、周回数の候補を追加して計算してもよい。このように、候補算出部11は、段階的に質量電荷比の候補を増やしていってもよい。
【0077】
また、予め設定された周回数の候補の範囲において、互いに値が一致する質量電荷比の候補が得られなければ、決定部12は、所定の範囲の質量電荷比を有する物質は検出されなかったと判断してもよい。
【0078】
測定対象のイオンが複数種類であっても同様に判定を行うことができる。第1取出開始時刻に対応して得られた飛行時間のスペクトル波形に複数のピークが現れる場合、飛行時間測定部3は、複数のイオン種に対応する複数の飛行時間Ta、Tc…を得る。同様に、飛行時間測定部3は、第2取出開始時刻に対応して得られた飛行時間のスペクトル波形からも、複数のイオン種に対応する複数の飛行時間Tb、Td…を得る。この時点で、飛行時間Taのイオンと飛行時間Tbのイオンとが同じイオンなのか、飛行時間Taのイオンと飛行時間Tdのイオンとが同じイオンなのかは不明である。
【0079】
候補算出部11は、式(1)から、各飛行時間Ta、Tb、Tc、Td…について、周回数を仮定して、複数の質量電荷比の候補A1,A2,A3,A4…を得る。決定部12は、第1取出開始時刻に対応して得られた候補A1のいずれかと一致する候補を、第2取出開始時刻に対応して得られた候補A2,A4…の中から探す。決定部12は、第1取出開始時刻に対応して得られた候補A3のいずれかと一致する候補を、第2取出開始時刻に対応して得られた候補A2,A4…の中から探す。決定部12は、飛行時間のスペクトル波形の複数のピークに対応して、複数の“互いに値が一致する質量電荷比の候補”m1、m2…を得ることができる。決定部12は、複数の質量電荷比候補m1、m2…を測定対象の複数のイオンの質量電荷比として決定する。
【0080】
このように、本実施形態の質量分析方法2によれば、互いに周回数が異なる複数のイオン種が混在した状態で検出され、かつ、周回数が不明であっても、取出開始時刻が異なる2回の測定結果から、複数のイオン種の質量電荷比を決定することができる。また、質量分析装置1は、未知のイオン種について、質量電荷比を決定することができる。
【0081】
なお、上記の各部において、2つの値の差の絶対値が所定値以下であれば、2つの値は互いに一致すると判定してよい。
【0082】
質量分析装置1では、飛行時間の測定に当たって、質量電荷比が所定範囲外であるイオンを除外する必要がない。質量分析装置1では、従来よりも格段に少ない測定回数で以て幅広い質量電荷比範囲に亘る分析を行うことができる。このため、質量分析装置1は、医療(医学、歯学、法医学)、食品(食品加工、残留農薬)、環境(温暖化モニター、環境モニター)、安全・安心(危険物質検知、違法薬物検知)、および惑星探査等に係る現場(オンサイト)に持ち込むことが容易であり、現場で容易に質量分析を行うことができる。
【0083】
なお、周回型軌道2を備えた質量分析装置1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。質量分析装置は閉軌道を備えていればよく、例えば、イオンミラー(リフレクトロン)を互いに対向させて配置してイオン混合物を往復(周回)飛行させる反射型軌道を備えた質量分析装置に対しても本発明を適用することができる。
【0084】
また、情報処理装置6は、有線または無線の任意の伝送媒体を介してイオン源10、飛行装置5、およびイオン検出器9に接続されてもよい。この場合、イオン源10、飛行装置5、およびイオン検出器9の較正情報、注入および取り出しのタイミング情報、およびイオン混合物の飛行時間のスペクトル情報が、有線または無線の任意の伝送媒体を介して、情報処理装置6に伝送される。情報処理装置6は、有線または無線の任意の伝送媒体を介して伝送されたこれらの情報に基づいてイオン混合物の質量を分析するように動作する。
【0085】
また、情報処理装置6の飛行時間測定部3は、測定された飛行時間を他の装置から取得してもよい。例えば、情報処理装置6は、サーバであってもよく、ネットワークを介して他の装置から、測定された飛行時間、および、イオン源10、飛行装置5、並びにイオン検出器9の較正情報(式(1)を決定するための情報)等を取得してもよい。
【0086】
〔ソフトウェアによる実現例〕
飛行時間型の質量分析装置1に設けられた情報処理装置6(以下、「装置」とも呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に、飛行時間測定部3、判定部4、候補算出部11、および、決定部12)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0087】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0088】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0089】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0090】
〔まとめ〕
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析方法は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する第1飛行時間取得工程と、取得された飛行時間Taが、前記式(1)から得られる、周回数n1を周回したイオンiの飛行時間Ti,n1に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する判定工程とを含む。
【0091】
上記の特徴によれば、例えば互いに異なる周回数の複数のイオン種の飛行時間を同時に測定していたとしても、特定のイオンの有無を正確に判定することができる。そのため、質量電荷比範囲を細かく区分せずに得られた飛行時間のスペクトル波形から、特定のイオンの有無を正確に判定することができる。それゆえ、従来よりも少ない測定回数で以て幅広い質量電荷比範囲に亘る分析を行うことができる。
【0092】
前記第1飛行時間取得工程では、前記第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、周回数が互いに異なる複数のイオンが混在した状態での複数のイオンの飛行時間を取得し、前記判定工程では、取得された前記複数のイオンの各飛行時間が、前記式(1)から得られる、周回数n1を周回したイオンiの飛行時間Ti,n1に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定してもよい。
【0093】
前記第1取出開始時刻は、前記イオンiが周回数n1を周回して取り出されるタイミングであってもよい。
【0094】
n1≠n2として、前記判定工程では、さらに、取得された前記飛行時間Taが、前記式(1)から得られる、周回数n2を周回したイオンjの飛行時間Tj,n2に一致するか否かに応じて、前記イオンjの有無を判定する構成であってもよい。
【0095】
上記の特徴によれば、1つの測定結果を用いて、複数種類のイオンの有無を判定することができる。
【0096】
前記飛行時間型質量分析方法は、n1≠n3として、前記イオンiが周回数n3を周回して取り出されるタイミングである第2取出開始時刻に前記閉軌道からイオンを取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Tbを取得する第2飛行時間取得工程を含み、前記判定工程では、取得された前記飛行時間Tbが、前記式(1)から得られる、周回数n3を周回したイオンiの飛行時間Ti,n3に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する構成であってもよい。
【0097】
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析方法は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する第1飛行時間取得工程と、前記イオンについて飛行時間Taとは異なる飛行時間が得られる第2取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Tbを取得する第2飛行時間取得工程と、前記式(1)から、飛行時間Taについて複数の周回数候補[na1,…nav]に対応する複数の質量電荷比候補A1[ma1,…mav]を得て、前記式(1)から、飛行時間Tbについて複数の周回数候補[nb1,…nbw]に対応する複数の質量電荷比候補A2[mb1,…mbw]を得る候補算出工程と、複数の質量電荷比候補A1および複数の質量電荷比候補A2から値の一致する質量電荷比候補m1を得ることで、質量電荷比候補m1を前記イオンの質量電荷比として決定する決定工程とを含む。
【0098】
上記の特徴によれば、2つの測定結果から周回数候補を仮定して得られる複数の質量電荷比の候補を比較することで、飛行時間が測定されたイオンの質量電荷比を決定することができる。それゆえ、判定対象のイオン種の質量電荷比が広範に渡る場合でも、効率よく正確に質量電荷比を決定することができる。また、例えば互いに異なる周回数の複数のイオン種の飛行時間を同時に測定していたとしても、イオンの質量電荷比を決定することができる。そのため、質量電荷比範囲を細かく区分せずに得られた飛行時間のスペクトル波形から、イオンの質量電荷比を決定することができる。それゆえ、従来よりも少ない測定回数で以て幅広い質量電荷比範囲に亘る分析を行うことができる。
【0099】
前記閉軌道は、多重周回型軌道または多重反射型軌道であってもよい。
【0100】
前記飛行時間型質量分析装置において、質量電荷比が所定範囲外であるイオンを除外することなくイオンを周回させてもよい。
【0101】
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析装置は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得する飛行時間取得部と、取得された飛行時間Taが、前記式(1)から得られる、周回数n1を周回したイオンiの飛行時間Ti,n1に一致するか否かに応じて、前記イオンiの有無を判定する判定部とを備える。
【0102】
本発明の一態様に係る飛行時間型質量分析装置は、イオンの飛行時間Tが、閉軌道の周回数n、および前記イオンの質量電荷比mを用いて、「T=f(m,n) …式(1)」で表現される飛行時間型質量分析装置において、前記閉軌道を周回するイオンを、第1取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Taを取得し、前記イオンについて飛行時間Taとは異なる飛行時間が得られる第2取出開始時刻に前記閉軌道から取り出し開始することで得られる、前記イオンの飛行時間Tbを取得する飛行時間取得部と、前記式(1)から、飛行時間Taについて複数の周回数候補[na1,…nav]に対応する複数の質量電荷比候補A1[ma1,…mav]を得て、前記式(1)から、飛行時間Tbについて複数の周回数候補[nb1,…nbw]に対応する複数の質量電荷比候補A2[mb1,…mbw]を得る候補算出部と、複数の質量電荷比候補A1および複数の質量電荷比候補A2から値の一致する質量電荷比候補m1を得ることで、質量電荷比候補m1を前記イオンの質量電荷比として決定する決定部とを備える。
【0103】
本発明の各態様に係る飛行時間型質量分析装置に設けられた飛行時間取得部、判定部、候補算出部、および、決定部は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記飛行時間型質量分析装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記飛行時間型質量分析装置に係る演算をコンピュータにて実現させる前記飛行時間取得部、前記判定部、前記候補算出部、および、前記決定部の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0104】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1 質量分析装置(飛行時間型質量分析装置)
2 周回型軌道(閉軌道)
3 飛行時間測定部(飛行時間取得部)
4 判定部
5 飛行装置
6 情報処理装置
7 注入部
8 取出部
9 イオン検出器
10 イオン源
11 決定部
12 候補算出部
A1~A4 円周軌道
A12、A23、A34、A41 直進軌道
E1~E4 扇形電場