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特許7532315渦電流センサの検出信号処理装置および検出信号処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】渦電流センサの検出信号処理装置および検出信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/20 20060101AFI20240805BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20240805BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20240805BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
G01D5/20 Q
B24B49/10
B24B49/04 Z
H01L21/304 622S
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021106668
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023005009
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 太郎
(72)【発明者】
【氏名】澁江 宏明
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-96117(JP,A)
【文献】特開2007-225303(JP,A)
【文献】特開2009-287930(JP,A)
【文献】特開昭54-34278(JP,A)
【文献】特開2000-88507(JP,A)
【文献】特開2011-138399(JP,A)
【文献】特開2005-241594(JP,A)
【文献】特開平10-253470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/20
G01B 7/06
B24B 49/04
B24B 49/10
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な第1の検出コイルと、前記渦電流を検出可能なダミーコイルまたは第2の検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置であって、前記装置は、
前記第1の検出コイルが出力する第1のアナログ信号を第1のデジタル信号に変換する第1の変換部と、
前記ダミーコイルが出力する第2のアナログ信号を第2のデジタル信号に変換する第2の変換部、または前記第2の検出コイルが出力する第3のアナログ信号を第3のデジタル信号に変換する第3の変換部と、
前記第1のデジタル信号と、前記第2のデジタル信号または前記第3のデジタル信号とを検波するデジタル信号処理回路である検波部とを有
前記検波部は、参照信号を用いて同期検波を行って、得られたインピーダンスを出力し、
前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記参照信号との位相差に応じた補正を、前記同期検波により得られた前記インピーダンスに対して行うことが可能な補正部を有し、
2つの直交座標軸を有する座標系の各軸に、前記インピーダンスの抵抗成分とリアクタンス成分をそれぞれ対応させたインピーダンス平面において、前記位相差は、基準状態において得られた前記インピーダンスの位相角度に対応し、
前記補正部は、前記検波部によって得られた前記インピーダンスに対応する前記インピーダンス平面上の点を、前記インピーダンス平面上で所定の方向に前記位相角度に応じて回転させた点に対応するインピーダンスを補正後のインピーダンスとして出力する、
ことを特徴とする検出信号処理装置。
【請求項2】
記装置は、前記第1のデジタル信号と前記参照信号との位相差を検出可能な位相差検出部と、位相が互いに異なる複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能な信号出力部とを有し、
前記信号出力部は、前記位相差検出部が検出した前記位相差に基づいて、複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能であることを特徴とする請求項1記載の検出信号処理装置。
【請求項3】
前記第1の変換部と、前記第2の変換部または前記第3の変換部のうち少なくとも1つはオーバーサンプリングを行うことを特徴とする請求項1または2に記載の検出信号処理装置。
【請求項4】
ジッタが所定値以下である励磁信号を前記励磁コイルに供給可能である励磁部を有することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の検出信号処理装置。
【請求項5】
前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号の差を求める差分部を有することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の検出信号処理装置。
【請求項6】
前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号との間で位相調整および/または振幅調整を行う調整部を有し、
前記差分部は、前記調整部が出力する前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号の差を求めることを特徴とする請求項記載の検出信号処理装置。
【請求項7】
前記第1のデジタル信号と前記第3のデジタル信号とを加算する加算部を有することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の検出信号処理装置。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の検出信号処理装置を有する、前記検出対象物を研磨する研磨装置であって、前記研磨装置は、
前記検出対象物の研磨が可能な研磨部と、
前記検出対象物の膜厚を測定するために、前記検出対象物に前記渦電流を形成するとともに、形成された前記渦電流を検出可能な前記渦電流センサと、
前記検波部が出力する信号から前記膜厚を求める膜厚算出部とを有することを特徴とする研磨装置。
【請求項9】
前記第1のアナログ信号と、前記第2のアナログ信号または前記第3のアナログ信号とのうち少なくとも1つの信号は差動信号である、ことを特徴とする請求項8に記載の研磨装置。
【請求項10】
検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な第1の検出コイルと、前記渦電流を検出可能なダミーコイルまたは第2の検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理方法であって、前記方法は、
前記第1の検出コイルが出力する第1のアナログ信号を第1のデジタル信号に変換し、
前記ダミーコイルが出力する第2のアナログ信号を第2のデジタル信号に変換し、または前記第2の検出コイルが出力する第3のアナログ信号を第3のデジタル信号に変換し、
前記第1のデジタル信号と、前記第2のデジタル信号または前記第3のデジタル信号とをデジタル信号処理回路により検波し、
前記検波は、参照信号を用いて同期検波を行って、得られたインピーダンスを出力し、
前記第1のデジタル信号と前記参照信号との位相差に応じた補正を、前記同期検波により得られた前記インピーダンスに対して行い、
2つの直交座標軸を有する座標系の各軸に、前記インピーダンスの抵抗成分とリアクタンス成分をそれぞれ対応させたインピーダンス平面において、前記位相差は、基準状態において得られた前記インピーダンスの位相角度に対応し、
前記補正は、前記検波によって得られた前記インピーダンスに対応する前記インピーダ
ンス平面上の点を、前記インピーダンス平面上で所定の方向に前記位相角度に応じて回転させた点に対応するインピーダンスを補正後のインピーダンスとして出力する、
ことを特徴とする検出信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流センサの検出信号処理装置および検出信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
渦電流センサは膜厚測定、変位測定等に使用される。以下では、膜厚測定を例にして渦電流センサを説明する。膜厚測定用渦電流センサは、例えば半導体デバイスの製造工程(研磨工程)で用いられる。研磨工程において渦電流センサは、以下のように用いられる。半導体デバイスの高集積化が進むにつれて回路の配線が微細化し、配線間距離もより狭くなりつつある。そこで、被研磨物である半導体ウェハの表面を平坦化することが必要となるが、この平坦化法の一手段として研磨装置により研磨(ポリッシング)することが行われている。
【0003】
研磨装置は、研磨対象物を研磨するための研磨パッドを保持するための研磨テーブルと、研磨対象物を保持して研磨パッドに押圧するためにトップリングを備える。研磨テーブルとトップリングはそれぞれ、駆動部(例えばモータ)によって回転駆動される。研磨剤を含む液体(スラリー)を研磨パッド上に流し、そこにトップリングに保持された研磨対象物を押し当てることにより、研磨対象物は研磨される。
【0004】
研磨装置では、研磨対象物の研磨が不十分であると、回路間の絶縁がとれず、ショートするおそれが生じ、また、過研磨となった場合は、配線の断面積が減ることによる抵抗値の上昇、又は配線自体が完全に除去され、回路自体が形成されないなどの問題が生じる。このため、研磨装置では、最適な研磨終点を検出することが求められる。
【0005】
このような技術としては、特開2020-11314号に記載のものがある。この技術においては、3個のコイルを用いた渦電流センサが研磨終点を検出するために用いられている。特開2020-11314号の図7に示すように、3個のコイルのうちの検出コイルとダミーコイルは直列回路を構成し、その両端は可変抵抗を含む抵抗ブリッジ回路に接続されている。抵抗ブリッジ回路でバランスの調整を行うことで、膜厚がゼロのときに、抵抗ブリッジ回路の出力がゼロになるようにゼロ点の調整が可能である。抵抗ブリッジ回路の出力は、特開2020-11314号の図8に示すように、同期検波回路に入力される。同期検波回路は、入力された信号から、膜厚の変化に伴う抵抗成分(R)、リアクタンス成分(Q)、振幅出力(Z)および位相角度(tan-1Q/R)を取り出す。
【0006】
従来のブリッジ回路を使用した検出方法に関しては、ゼロ点調整時の抵抗値調整量はブリッジ回路を構成する抵抗値全体の大きさに比べて非常に小さい。その結果、抵抗値全体の温度変化量は、ゼロ点調整時の抵抗値調整量と比べると、無視できない量である。温度変化による抵抗値の変化や、抵抗が有する浮遊容量の変化等のために、抵抗の周囲環境の変化に対してブリッジ回路の特性が敏感に影響を受ける。この結果、上述のゼロ点がシフトしやすく、膜厚の測定精度が低下するという問題があった。また、ブリッジ回路は検出信号とダミー信号を相殺してバランス状態にする。この信号処理によって、ブリッジ回路からの出力信号は小さくなるため、信号を大きく増幅する必要がある。しかし、信号を大きく増幅すると、ノイズが大きくなってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-11314号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一形態は、このような問題点を解消すべくなされたもので、その目的は、周囲環境の変化に対して従来よりも影響を受けにくい渦電流センサの検出信号処理回路および検出信号処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第1の形態では、検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な第1の検出コイルと、前記渦電流を検出可能なダミーコイルおよび/または第2の検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置であって、前記装置は、前記第1の検出コイルが出力する第1のアナログ信号を第1のデジタル信号に変換する第1の変換部と、前記ダミーコイルが出力する第2のアナログ信号を第2のデジタル信号に変換する第2の変換部、および/または前記第2の検出コイルが出力する第3のアナログ信号を第3のデジタル信号に変換する第3の変換部と、前記第1のデジタル信号と、前記第2のデジタル信号および/または前記第3のデジタル信号とを検波するデジタル信号処理回路である検波部とを有することを特徴とする検出信号処理装置という構成を採っている。
【0010】
本実施形態では、第1の検出コイルが出力する第1のアナログ信号、ダミーコイルが出力する第2のアナログ信号、および/または第2の検出コイルが出力する第3のアナログ信号を直接、デジタル信号に変換する。そしてデジタル信号に対してデジタル信号処理回路により検波を行う。このため、アナログ回路である従来のブリッジ回路や検波回路を用いていない。アナログ回路を用いていないため、アナログ回路に起因する不安定性やノイズを低減できる。結果的に、周囲環境の変化に対して従来よりも影響を受けにくい渦電流センサの検出信号処理回路を提供できる。また第1、第2、第3のアナログ信号をデジタル化して、その後の処理を行うことにより、回路の簡素化、高安定化、低ノイズ化、調整の簡素化が達成できる。
【0011】
第2の形態では、前記検波部は、参照信号を用いて同期検波を行って、得られたインピーダンスを出力し、前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記参照信号との位相差に応じた補正を、前記同期検波により得られた前記インピーダンスに対して行うことが可能な補正部を有し、2つの直交座標軸を有する座標系の各軸に、前記インピーダンスの抵抗成分とリアクタンス成分をそれぞれ対応させたインピーダンス平面において、前記位相差は、基準状態において得られた前記インピーダンスの位相角度に対応し、前記補正部は、前記検波部によって得られた前記インピーダンスに対応する前記インピーダンス平面上の点を、前記インピーダンス平面上で所定の方向に前記位相角度に応じて回転させた点に対応するインピーダンスを補正後のインピーダンスとして出力することを特徴とする第1の形態記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0012】
第3の形態では、前記検波部は、参照信号を用いて同期検波を行い、前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記参照信号との位相差を検出可能な位相差検出部と、位相が互いに異なる複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能な信号出力部とを有し、前記信号出力部は、前記位相差検出部が検出した前記位相差に基づいて、複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能であることを特徴とする第1の形態記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0013】
第4の形態では、前記第1のアナログ信号と、前記第2のアナログ信号および/または前記第3のアナログ信号のうち少なくとも1つの信号は差動信号である、ことを特徴とする第1ないし第3の形態のいずれかに記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0014】
第5の形態では、前記第1の変換部と、前記第2の変換部および/または前記第3の変換部のうち少なくとも1つはオーバーサンプリングを行うことを特徴とする第1ないし第4の形態のいずれかに記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0015】
第6の形態では、ジッタが所定値以下である励磁信号を前記励磁コイルに供給可能である励磁部を有することを特徴とする第1ないし第5の形態のいずれかに記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0016】
第7の形態では、前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号の差を求める差分部を有することを特徴とする第1ないし第6の形態のいずれかに記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0017】
第8の形態では、前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号との間で位相調整および/または振幅調整を行う調整部を有し、前記差分部は、前記調整部が出力する前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号の差を求めることを特徴とする第7の形態記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0018】
第9の形態では、前記第1のデジタル信号と前記第3のデジタル信号とを加算する加算部を有することを特徴とする第1ないし第6の形態のいずれかに記載の検出信号処理装置という構成を採っている。
【0019】
第10の形態では、検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置であって、前記装置は、前記検出信号を検波する検波部であって、参照信号を用いて同期検波を行って、得られたインピーダンスを出力する検波部と、前記出力信号と前記参照信号との位相差に応じた補正を、前記同期検波により得られた前記インピーダンスに対して行うことが可能な補正部とを有し、2つの直交座標軸を有する座標系の各軸に、前記インピーダンスの抵抗成分とリアクタンス成分をそれぞれ対応させたインピーダンス平面において、前記位相差は、基準状態において得られた前記インピーダンスの位相角度に対応し、前記補正部は、前記検波部によって得られた前記インピーダンスに対応する前記インピーダンス平面上の点を、前記インピーダンス平面上で所定の方向に前記位相角度に応じて回転させた点に対応するインピーダンスを補正後のインピーダンスとして出力することを特徴とする検出信号処理装置という構成を採っている。
【0020】
第11の形態では、検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置であって、前記装置は、前記検出信号を検波する検波部であって、参照信号を用いて同期検波を行う検波部と、前記出力信号と前記参照信号との位相差を検出可能な位相差検出部と、位相が互いに異なる複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能な信号出力部とを有し、前記信号出力部は、前記位相差検出部が検出した前記位相差に基づいて、複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能であることを特徴とする検出信号処理装置という構成を採っている。
【0021】
第12の形態では、第1ないし第11の形態のいずれかに記載の検出信号処理装置を有する、前記検出対象物を研磨する研磨装置であって、前記研磨装置は、前記検出対象物の研磨が可能な研磨部と、前記検出対象物の膜厚を測定するために、前記検出対象物に前記渦電流を形成するとともに、形成された前記渦電流を検出可能な前記渦電流センサと、前記検波部が出力する信号から前記膜厚を求める膜厚算出部とを有することを特徴とする研磨装置という構成を採っている。
【0022】
第13の形態では、検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な第1の検出コイルと、前記渦電流を検出可能なダミーコイルおよび/または第2の検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理方法であって、前記方法は、前記第1の検出コイルが出力する第1のアナログ信号を第1のデジタル信号に変換し、前記ダミーコイルが出力する第2のアナログ信号を第2のデジタル信号に変換し、および/または前記第2の検出コイルが出力する第3のアナログ信号を第3のデジタル信号に変換し、前記第1のデジタル信号と、前記第2のデジタル信号および/または前記第3のデジタル信号とをデジタル信号処理回路により検波することを特徴とする検出信号処理方法という構成を採っている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、研磨装置の全体構成を模式的に示す図である。
図2図2は、研磨テーブルと渦電流センサと研磨対象物との関係を示す平面図である。
図3図3は、渦電流センサの電気的接続を示す図である。
図4図4は、膜厚の測定値の時間変化を示す図である。
図5図5は、従来のアナログ信号処理回路に用いられているブリッジ回路を示す図である。
図6図6は、従来のアナログ信号処理回路と、デジタル化した検出信号処理装置と示す図である。
図7図7は、図6(b)に示す本願の実施形態をさらに詳細に示す図である。
図8図8は、集積回路の構成を示すブロック図である。
図9図9は、第2のデジタル信号の利用方法を説明する図である。
図10図10は、第3のデジタル信号の利用方法を説明する図である。
図11図11は、ブリッジ演算回路を説明する図である。
図12図12は、補正部の動作を説明する図である。
図13図13は、位相関係を修正する別の方法を説明する図である。
図14図14は、図7図8を同一図面に表示したものである。
図15図15は、従来の装置による処理フローと、本願の一実施形態の処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同一または相当する部材には同一符号を付して重複した説明を省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0025】
図1に示すように、検出対象物を研磨する研磨装置100は、研磨対象物102を研磨するための研磨パッド108を上面に取付け可能な研磨テーブル110と、研磨テーブル110を回転駆動する第1の電動モータ112と、研磨対象物102を保持可能なトップリング116と、トップリング116を回転駆動する第2の電動モータ118と、を備える。研磨対象物102が検出対象物である。検出対象物は、例えば、半導体ウェハなどの基板、又は基板の表面に形成された各種の導電膜である。研磨パッド108、研磨テーブル110、第1の電動モータ112、トップリング116、第2の電動モータ118は、検出対象物の研磨が可能な研磨部を構成する。
【0026】
また、研磨装置100は、研磨パッド108の上面に研磨材を含む研磨砥液を供給するスラリーライン120を備える。また、研磨装置100は、研磨装置100に関する各種制御信号を出力する研磨装置制御部140を備える。
【0027】
研磨装置100は、研磨対象物102を研磨するとき、研磨砥粒を含む研磨スラリーをスラリーライン120から研磨パッド108の上面に供給し、第1の電動モータ112によって研磨テーブル110を回転駆動する。そして、研磨装置100は、トップリング116を、研磨テーブル110の回転軸とは偏心した回転軸回りで回転させた状態で、トップリング116に保持された研磨対象物102を研磨パッド108に押圧する。これにより、研磨対象物102は研磨スラリーを保持した研磨パッド108によって研磨され、平坦化される。
【0028】
研磨装置100は、検出対象物に渦電流を形成するとともに、形成された渦電流を検出可能な渦電流センサ210と、渦電流センサ210に接続された検出信号処理装置220と、を備える。検出信号処理装置220が出力する膜厚150は、ロータリージョイント・コネクタ160,170(またはスリップリング)を介して終点検出部240に出力される。
【0029】
渦電流センサ210について説明する。研磨テーブル110及び研磨パッド108には、渦電流センサ210を研磨テーブル110の裏面側から挿入できる穴が形成されている。渦電流センサ210は、研磨テーブル110に形成された穴に挿入される。本実施形態では検出信号処理装置220は、研磨テーブル110内に配置される。検出信号処理装置220は、渦電流センサ210と一体化してもよい。
【0030】
図2は、研磨テーブル110と渦電流センサ210と研磨対象物102との関係を示す平面図である。図2に示すように、渦電流センサ210は、トップリング116に保持された研磨中の研磨対象物102の中心Cwを通過する位置に設置されている。符号Ctは研磨テーブル110の回転中心である。例えば、渦電流センサ210は、研磨対象物102の下方を通過している間、通過軌跡258(走査線)上で連続的に研磨対象物102の厚さを検出できるようになっている。
【0031】
図3は、渦電流センサ210の電気的接続を示す図である。図3(a)は渦電流センサ210の電気的接続を示すブロック図であり、図3(b)は渦電流センサ210の等価回路図である。
【0032】
図3(a)に示すように、渦電流センサ210は、研磨対象物102内の金属膜等の近傍に配置されるセンサコイル260を備える。センサコイル260には、交流信号源262が接続される。センサコイル260と、交流信号源262及び検出信号処理装置220との詳細な接続については後述する。研磨対象物102は、例えば半導体ウェハ上に形成されたCu,Al,Au,Wなどの薄膜を有する。センサコイル260は、研磨対象物102に対して、例えば0.5~5.0mm程度の近傍に配置される。
【0033】
渦電流センサ210には、研磨対象物102に渦電流が生じることに起因する交流信号源262の発振周波数の変化に基づいて導電膜を検出する周波数タイプがある。また、渦電流センサ210には、研磨対象物102に渦電流が生じることに起因する交流信号源262から見たインピーダンスの変化に基づいて導電膜を検出するインピーダンスタイプがある。すなわち、周波数タイプでは、図3(b)に示す等価回路において、渦電流Iが変化することによって、インピーダンスZが変化し、その結果、交流信号源(可変周波数発振器)262の発振周波数が変化する。渦電流センサ210は、検出信号処理装置220でこの発振周波数の変化を検出し、導電膜の変化を検出することができる。インピーダンスタイプでは、図3(b)に示す等価回路において、渦電流Iが変化することによって、インピーダンスZが変化し、その結果、交流信号源(固定周波数発振器)262から見たインピーダンスZが変化する。渦電流センサ210は、検出信号処理装置220でこ
のインピーダンスZの変化を検出し、導電膜の変化を検出することができる。
【0034】
インピーダンスタイプの渦電流センサでは、インピーダンスZの実数部I(抵抗成分)、虚数部Q(リアクタンス)、位相、合成インピーダンスZ、が取り出される。周波数F、またはインピーダンスの各成分Q、I等から、導電膜の測定情報が得られる。渦電流センサ210は、図1に示すように研磨テーブル110の内部の表面付近の位置に内蔵することができ、研磨対象物102に対して研磨パッドを介して対向するように位置している間は、研磨対象物102に流れる渦電流から導電膜の変化を検出することができる。
【0035】
以下に、インピーダンスタイプの渦電流センサについて図3(b)により具体的に説明する。交流信号源262は、1~50MHz程度の固定周波数の発振器であり、例えば水晶発振器が用いられる。そして、交流信号源262により供給される交流電圧により、センサコイル260に電流Iが流れる。研磨対象物102の近傍に配置されたセンサコイル260に電流が流れることで、センサコイル260から発生する磁束が研磨対象物102と鎖交する。その結果、センサコイル260と研磨対象物102の間に相互インダクタンスMが形成され、研磨対象物102中に渦電流Iが流れる。ここでR1はセンサコイル260を含む一次側の抵抗であり、L1は同様にセンサコイル260を含む一次側の自己インダクタンスである。研磨対象物102側では、R2は渦電流損に相当する抵抗であり、L2は研磨対象物102の自己インダクタンスである。交流信号源262の端子a,bからセンサコイル260側を見たインピーダンスZは、渦電流Iによって発生する磁力線の影響で変化する。
【0036】
渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置220は、デジタル信号処理回路である。従来のアナログ信号処理回路と、本実施形態のデジタル信号処理回路の終点検出への影響の違いを図4に比較して示す。図4(a)は、従来のアナログ信号処理回路による膜厚の測定値の時間変化を示す。図4(b)は、本実施形態のデジタル信号処理回路による膜厚の測定値の時間変化を示す。図4の横軸は時間(秒:s)であり、縦軸は膜厚(ナノメートル:nm)である。横線30は、研磨の終点である指定された膜厚を示す。図4(a)に示すように、従来のアナログ信号処理回路はノイズが大きく、渦電流センサの検出信号を処理して得られた膜厚32は不安定である。図4(c)は、図4(a)のA部の拡大図である。図4(c)に示すように、指定された膜厚での膜厚32に幅がある。膜厚32が複数の線になっている理由は、同一の渦電流センサで同一組成の複数の基板を研磨したときに、ノイズが大きい等の理由により、終点検出精度のばらつきが大きく、1本の線にならなかったためである。このように検出結果がばらつくと、終点検出精度に影響がある。
【0037】
一方、図4(b)に示すように、デジタル信号処理回路による膜厚32は、ほぼ1本の線である。膜厚32が1本の線になっている理由は、同一の渦電流センサで同一組成の複数の基板を研磨したときに、ノイズが小さい等の理由により、終点検出精度のばらつきが小さく、1本の線になるためである。デジタル信号処理回路ではノイズが小さく、研磨時に安定したセンサ出力が得られる。終点検出性能を改善するためには、同一の渦電流センサについて出力が同一研磨対象に対しては同一である、すなわち安定性した出力であることと、複数の渦電流センサについてセンサ間の個体差が低減することが望ましい。デジタル信号処理回路は、アナログ信号処理回路と比較して、これらの点について改善することができる。
【0038】
アナログ信号処理回路において、出力が安定しない理由の一例を図5により説明する。図5は、従来のアナログ信号処理回路に用いられているブリッジ回路を示す。センサコイル260は、検出コイル34とダミーコイル36と励磁コイル(図示しない)を有する。3個のコイルのうちの検出コイル34とダミーコイル36は直列回路を構成し、その両端
は可変抵抗38を含む抵抗ブリッジ回路40に接続されている。抵抗ブリッジ回路40でバランスの調整を行うことで、膜厚がゼロのときに、抵抗ブリッジ回路40の出力42がゼロになるようにゼロ点の調整が可能である。
【0039】
従来のブリッジ回路40を使用した検出方法に関しては、ゼロ点調整時の抵抗値調整量はブリッジ回路40を構成する抵抗値全体の大きさに比べて非常に小さい。その結果、抵抗値全体の温度変化量は、ゼロ点調整時の抵抗値調整量と比べると、無視できない量である。温度変化による可変抵抗38や固定抵抗44の抵抗値の変化や、抵抗が有する浮遊容量46の変化等のために、抵抗の周囲環境の変化に対してブリッジ回路40の特性が敏感に影響を受ける。この結果、上述のゼロ点がシフトしやすく、膜厚の測定精度が低下するという問題があった。
【0040】
本願の実施形態との比較のために、抵抗ブリッジ回路40を用いた従来のアナログ信号処理回路を図6(a)に示す。センサコイル260の励磁コイル48は交流信号源203に接続され、交番磁束を生成することで、渦電流センサ210の近傍に配置される研磨対象物102に渦電流を形成する。研磨対象物102の近傍に配置されたセンサコイル260に、交流信号を供給する信号源203は、水晶発振器からなる固定周波数の発振器である。交流信号源203は、例えば、1~50MHzの固定周波数の電圧を供給する。信号源203で形成される交流電圧は、励磁コイル48に供給される。
【0041】
センサコイルの端子から出力される信号128,130は、抵抗ブリッジ回路40を経て出力42として出力される。出力42は高周波アンプ303を経て、cos同期検波回路305およびsin同期検波回路306からなる同期検波部に入力される。同期検波部により検出信号のcos成分(Q成分)とsin成分(I成分)とが取り出される。ここで、信号源203で形成される発振信号から、位相シフト回路304により、信号源203の同相成分(0゜)と直交成分(90゜)の2つの信号が形成される。これらの信号は、それぞれsin同期検波回路306とcos同期検波回路305とに導入され、上述の同期検波が行われる。
【0042】
同期検波された信号は、ローパスフィルタ307,308により、信号成分以上の不要な例えば5KHz以上の高周波成分が除去される。同期検波された信号は、cos同期検波出力であるQ成分出力309と、sin同期検波出力であるI成分出力310である。また、演算回路311によりベクトル演算を行い、Q成分出力309とI成分出力310とから、インピーダンスZの大きさ、(Q+ I1/2、が得られる。また、演算回路311によりθ処理を行い、同様にQ成分出力309とI成分出力310とから、位相出力(θ = tan-1Q/I)、が得られる。ここで、これらフィルタ307,308は、センサ信号の雑音成分を除去するために設けられ、各種フィルタに応じたカットオフ周波数が設定されている。
【0043】
図6(b)に示す本願の実施形態は、図6(a)に点線で示すアナログ信号処理回路50および演算回路311をデジタル化した検出信号処理装置220である。なお図6(a)に示す演算回路311はデジタル信号処理装置である。検出信号処理装置220は、演算回路311の機能も有し、さらに、膜厚を算出する機能も有する。検出コイル34とダミーコイル36の出力はローパスフィルタ54,56を介して検出信号処理装置220に入力される。
【0044】
図6(b)に示す本願の実施形態をさらに詳細に示したものを図7に示す。検出信号処理装置220は、研磨対象物102(特に、研磨対象物102内の導電膜)に渦電流を形成可能な励磁コイル48と、研磨対象物102に形成される渦電流を検出可能な検出コイル34(第1の検出コイル)と、渦電流を検出可能なダミーコイル36とを有する渦電流
センサ210の信号128、130(検出信号)を処理する。検出信号処理装置220は、検出コイル34が出力する信号128(第1のアナログ信号)を第1のデジタル信号58に変換する変換器60(第1の変換部)と、ダミーコイル36が出力する信号130(第2のアナログ信号)を第2のデジタル信号62に変換する変換器64(第2の変換部)を有する。第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62は、検出信号処理装置220内の集積回路66に入力される。
【0045】
ローパスフィルタ54、56の前段には増幅器70,72を設ける。増幅器70,72は、増幅率が例えば1倍のアンプで、入力回路(この場合はコイル34,36側)と出力回路(この場合はローパスフィルタ54、56側)のインピーダンス変換のために配置される。なお増幅器70,72の増幅率は1倍に限られるものではない。バッファアンプである増幅器70,72は、高い入力インピーダンスと低い出力インピーダンスという特性があり、前段回路と後段回路のアイソレーションをおこなう、すなわちインピーダンス変動による影響を絶縁する。ローパスフィルタ54、56からコイル34,36側を見たときのインピーダンスがバッファアンプの有り無しで変わって見えるので、インピーダンス変換という。バッファアンプが入ることで、検出コイル34のインピーダンスが変動したときの影響をローパスフィルタ54、56が受けないのでアイソレーションという。影響を受けないとは、検出コイル34のインピーダンスが変動しても、ローパスフィルタ54、56からコイル34,36側を見たときのインピーダンスの変動が少ないということである。ローパスフィルタ54、56は、入力インピーダンスが変動すると、利得が変動するという特性があるため、バッファアンプを設ける。
【0046】
このように検出コイル34とダミーコイル36の出力信号を最短でデジタル化することで、アナログ信号処理回路で検出コイル34とダミーコイル36の出力信号を処理する場合と比較して、安定性が向上し、ノイズが低減する。
【0047】
検出コイル34が出力する信号128は、2本の信号線74を差動信号として流れる。ダミーコイル36が出力する信号130は、2本の信号線76を差動信号として流れる。すなわち2本の信号線を一対の伝送線路として用いる方法で、互いに逆向きに電流を流す。そのため、磁束が、打ち消されるので、EMIノイズが低減される。また外部から印加されたノイズはキャンセルされるので、信号振幅が小さくても誤動作しにくい。このようにセンサコイルからの信号を差動信号で扱うことでコモンモードのノイズを低減できる。
【0048】
変換器60、64はオーバーサンプリングを行う。オーバーサンプリングとは、必要とするサンプリング周波数の整数倍(4倍、8倍など)でサンプリングを行い、得られたデータを間引いたり補間したりして必要なデータや信号を得ることである。例えば励磁コイル48に印加される励磁信号の周波数が16MHzであり、32MHzでサンプリングを行えばよい場合に、8倍の128MHzでサンプリングを行う。変換器60、64は、信号128、130を高サンプリングレート、かつ高分解能で、アナログデジタル変換する。オーバーサンプリングをすることで、信号128、130をサンプリングする時の量子化ノイズを低減できる。オーバーサンプリングのダイナミックレンジ(DR:Dynamic Range)への影響については、DRの増加分(ΔDR)が、ΔDR=10log10(OSR)である。ここでOSRは、オーバーサンプリングレシオである。オーバーサンプリングレシオとは、サンプリングレートと出力データレートの比であり、上記の例では、128MHz/16MHz=8である。
オーバーサンプリング後には、ノイズ除去のために平均処理が行われる。平均処理のDRへの影響については、その平均処理によるDRの増加分(ΔDR)が、ΔDR=20log102^(SP^0.25))である。ここで、SPは、オーバーサンプリングにより得られるデータの数であり、128MHzの場合、SP=128M個である。
【0049】
なお、アナログデジタル変換の精度(ビット数:n)がDRに及ぼす影響は次式で表される。
20log10(2^n)
この式より、精度が12bitのとき、DRは72dBであり、精度を16bitにすると、DRは96dBに向上する
【0050】
検出信号処理装置220は、ジッタが所定値以下である励磁信号を励磁コイル48に供給可能である励磁部520を有する。なお、図6,7では励磁部520は、検出信号処理装置220の外部に図示しているが、励磁部520は検出信号処理装置220に含まれる。励磁部520は、超低ジッタ性能の発振器(図示せず)と、発振器が生成する信号から所定周波数(たとえば16MHz)を生成する超低ジッタ分周器を使用し、ジッタが所定値以下である励磁信号を生成する。ジッタを最小限に抑えることで、信号128、130を量子化したときのノイズを低減する。DRへのジッタの影響は、20log10(2πf*σ)である。ここでσは、ジッタの大きさの分布が統計的にばらついていることに伴う分布の幅である。この式から励磁信号の周波数fが数MHz以上になると、ジッタ影響が大きくなる。DR改善には数ps以下のジッタ性能が求められるため、所定値は例えば数psである。
【0051】
このように、図6,7に示す本実施形態は、オーバーサンプリング手法、超低ジッタ励磁回路、差動伝送、平均化処理の組み合わせにより、量子化ノイズをこれらの方法を用いない場合と比較して、より低く抑え、デジタル分解能を、より大きくすることができる。
【0052】
次に集積回路66について図8により説明する。図8は、集積回路66の構成を示すブロック図である。集積回路66は、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62とを検波するデジタル信号処理回路である検波部68を有する。変換器60と変換器64からそれぞれ出力される第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62の処理過程は図8の実施形態では、ローパスフィルタ80,82から補正部84,86までの過程において同一である。
【0053】
第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62はローパスフィルタ80、82を経て、検波部68に入力される。検波部68は、cos同期検波回路88,92、sin同期検波回路90,94と、平均回路122,124,126,128と、参照信号生成部96とを含む。検波部68により第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62のcos成分(Q成分)とsin成分(I成分)とが取り出される。ここで、参照信号96から、位相シフト回路98により、参照信号96の同相成分(0゜)と直交成分(90゜)の2つの信号が形成される。これらの信号は、それぞれcos同期検波回路88,92とsin同期検波回路90,94とに導入され、上述の同期検波が行われる。cos同期検波回路88,92およびsin同期検波回路90,94は、入力された2つの信号の乗算を行って、得られた積を出力するデジタル乗算器である。
【0054】
乗算された信号は、平均回路122,124,126,128(一種のローパスフィルタである。)により、不要な高周波成分が除去される。高周波成分が除去された信号が、cos同期検波出力であるQ成分出力130,134と、sin同期検波出力であるI成分出力132,136である。cos同期検波回路88とsin同期検波回路90と、平均回路122,124の動作を数式で説明する。以下では、回路の出力信号と、回路の参照符号を同一とする。例えば、同期検波回路88の出力信号を出力信号88と呼ぶ。
ローパスフィルタ80の出力信号80をAsin(ωt+θA)、参照信号生成部96の出力信号96をBsin(ωt+θB)とする。位相シフト回路98の出力信号98はBcos(ωt+θB)である。
同期検波回路88の出力信号88は、Asin(ωt+θA)・Bcos(ωt+θB)
= 1/2AB・sin(ωt+θA +ωt+θB)+ 1/2AB・ sin(ωt+θA -ωt-θB)
平均回路122によって上式のうちω(f)に関する項、1/2AB・sin(2ωt+θA +θB)が除去されるため、出力信号122は、
1/2AB・ sin(θA -θB)
参照信号96の振幅・位相が一定であるとすれば、Cos参照信号である出力信号98との位相情報、振幅情報が取り出せる。こうして、Q:直交位相成分が検波により得られる。同期検波回路90の出力信号90は、
Asin(ωt+θA)・Bsin(ωt+θB)
= 1/2AB・cos(ωt+θA +ωt+θB)+ 1/2AB・ cos(ωt+θA -ωt-θB)
平均回路124によって上式のうちω(f)に関する項、1/2AB・cos(ωt+θA +ωt+θB)が除去されるため、出力信号122は、
1/2AB・ cos(θA -θB)
参照信号96の振幅・位相が一定であるとすれば、Sin参照信号である出力信号96との位相情報、振幅情報が取り出せる。こうして、I:同位相成分が検波により得られる。
Q成分出力130,134と、I成分出力132,136に対して補正部84により位相キャリブレーションが行われる。位相キャリブレーションの方法については後述する。
【0055】
位相キャリブレーションにより得られた信号142,144、146,148に対して、従来と同一である演算回路311によりベクトル演算を行い、Q成分出力142,146とI成分出力144、148とから、それぞれ第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62に対するインピーダンスZの大きさ、(Q+ I1/2、が得られる。また、演算回路311によりθ処理を行い、同様にQ成分出力142,146とI成分出力144,148とから、それぞれ第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62に対する位相出力(θ = tan-1Q/I)、が得られる。インピーダンスZの大きさ、または位相出力等から、膜厚150を求めるための膜厚演算が行われる。演算回路311は、検波部68が出力する信号130~134から膜厚を求める膜厚算出部である。
【0056】
膜厚演算の方法は種々ある。例えばインピーダンスZの大きさまたは位相出力等と、膜厚150との関係を表す式または表等のデータを事前に求めておく。インピーダンスZの大きさまたは位相出力等が演算回路311内で演算された後に、演算回路311は、式または表等のデータから膜厚150を演算して膜厚150を求める。得られた膜厚150は、終点検出部240に出力される。終点検出部240は、得られた膜厚から研磨の終点を検出する。また膜厚は研磨装置制御部140に送られて研磨装置各部の制御に使用される。
【0057】
図8に示す実施形態では、第2のデジタル信号62(ダミー信号)は、研磨対象物102に生成される渦電流の影響が第1のデジタル信号58よりも少ないことを利用して以下のような利用がされる。例えば、第2のデジタル信号62が研磨中に変化したとき、その変化は励磁コイル48が生成する励磁信号の温度シフトに起因すると考えられる。そこで、励磁信号に対する自動利得制御(AGC)に第2のデジタル信号62を利用する。また、研磨開始前の温度が上昇していないときに、第1のデジタル信号58の出力と第2のデジタル信号62の出力の差が、過去の研磨開始前の出力の差と比較して変化しているときは、研磨対象物102までの距離(パッド厚)が変化していると考えられる。従って、第2のデジタル信号62を利用してパッド厚さのモニタが可能であり、必要なときは、パッドの交換などを行う。
【0058】
次に、図8とは異なる第2のデジタル信号62の利用方法について図9により説明する。図9の実施形態では、集積回路152は、図8の実施形態の集積回路66と同様に第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62を入力される。しかし図8と異なって、図9の実施形態では、図9(b)に示すように第1のデジタル信号58と第2のデジタル信
号62の差分154を取る。これにより研磨対象物102の影響による信号の変化分のみを取り出すことができる。変化分以外の一定である成分はダイナミックレンジを無駄に消費している余計な成分である。
【0059】
変化分の検出方法について説明する。第1のデジタル信号58(検出信号)は、図9(b)に示すように、研磨対象物102があるときの信号156と、研磨対象物102がないときの信号158が異なる。一方、第2のデジタル信号62(ダミー信号)は、図9(b)に示すように、研磨対象物102があるときと、無いときでほぼ変化が無い。従って、研磨対象物102の影響を受けない第2のデジタル信号62と、研磨対象物102の影響を受ける第1のデジタル信号58の差分を取ると、変化分が検出できる。図9(a)に示す集積回路152(差分部)は、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62が入力されると、最初に第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62の差を求める。次に差に対して集積回路152は、図8に示すローパスフィルタ80、同期検波回路88、90、平均回路122、124、補正部84による処理と同様の処理を行う。集積回路152は、得られたQ成分出力142、I成分出力144に対して、図8に関して説明した演算回路311が行う演算と同様の処理を実施して、膜厚150を算出する。
【0060】
図9(b)では、図9(c)に示す渦電流センサ210を用いる。この渦電流センサ210において、励磁コイル48から見て、研磨対象物102側に検出コイル34があり、研磨対象物102と反対側にダミーコイル36がある。すなわち検出コイル34とダミーコイル36との間に励磁コイル48がある。
【0061】
渦電流センサは、図10(b)に示す構成でもよい。図10(b)に示すように渦電流センサ162において、励磁コイル48(第1の検出コイル)から見て、研磨対象物102側に検出コイル34があり、検出コイル34と励磁コイル48との間に第2の検出コイル164がある。渦電流センサ162はダミーコイル36を有しない。すなわち、図9(a)において、ダミーコイル36の代わりに第2の検出コイル164があり、第2の検出コイル164が出力する第3のアナログ信号172が図9(a)に示すように増幅器72、ローパスフィルタ56、変換器64(第3の変換部)によって同様に処理されて第3のデジタル信号174に変換される。第3のデジタル信号174は集積回路166(検波部)に入力されて、検波される。
【0062】
図10の実施形態では、集積回路166は、第1のデジタル信号58と第3のデジタル信号174を入力される。図10の実施形態では、図10(a)に示すように第1のデジタル信号58と第3のデジタル信号174の加算が集積回路166(加算部)で行われる。これにより研磨対象物102の影響による渦電流の変化分を2個の検出コイル34,164で取り出し、これらを加算して全体的な検出信号のレベルを上げる。
【0063】
加算の効果について図10(a)により説明する。第1のデジタル信号58は、図10(a)に示すように、研磨対象物102があるときの信号156と、研磨対象物102がないときの信号158は異なる。同様に第3のデジタル信号174も図10(a)に示すように、研磨対象物102があるときの信号176と、研磨対象物102がないときの信号178は異なる。第1のデジタル信号58と第3のデジタル信号174を加算すると、研磨対象物102があるときの信号156、176と、研磨対象物102がないときの信号158、178との変化分(差)が加算された信号180が得られる。
【0064】
図9(a)に示す集積回路166(加算部)は、第1のデジタル信号58と第3のデジタル信号174が入力されると、最初に第1のデジタル信号58と第3のデジタル信号174を加算して、これらの和を求める。次に和に対して、図8に示すローパスフィルタ80、同期検波回路88、90、平均回路122、124、補正部84による処理と同様の
処理を行う。得られたQ成分出力142、I成分出力144に対して、図8に関して説明した演算回路311が行う演算と同様の処理を実施して、膜厚150を算出する。
【0065】
次に、図11により、別の実施形態について説明する。図11の実施形態では、集積回路66はブリッジ演算回路182を有する。ブリッジ演算回路182は、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62との間で位相調整および/または振幅調整を行う調整部184を有する。調整部184は、抵抗ブリッジ回路40と同様に、校正時(膜厚が0である等のとき)に、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62の位相および/または振幅が同じになるように、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62との間で位相調整処理や振幅調整処理を行う。
【0066】
位相調整や振幅調整処理は例えば、研磨前の校正時に行う。位相調整は、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62の位相差を検出して、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62のうちの少なくとも1つの位相を、検出した位相差に相当する分ずらして位相差を0にすることにより行われる。位相差は、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62に対して、既述の同期検波回路88と平均回路122と同様の回路を用いて、乗算して、得られた積を平均回路で処理することにより得られる。第1のデジタル信号58をAsin(ωt+θA)とし、第2のデジタル信号62をBsin(ωt+θB)とすると、積は、Asin(ωt+θA)・Bsin(ωt+θB)である。
【0067】
このとき平均回路の出力は、1/2AB・ sin(θA -θB)である。平均回路の出力が1/2AB・ sin(θA -θB)である場合、位相差として、逆三角関数を用いてθA -θB が得られる。振幅調整処理は例えば、位相調整の前または後に第1のデジタル信号58の振幅の最大値Aに対する第2のデジタル信号62の振幅の最大値Bの比B/Aを求めて、得られた比の逆数A/Bを第2のデジタル信号62(Bsin(ωt+θB))に乗算すればよい。
【0068】
ブリッジ演算回路182は、調整部184が出力する第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62の差を求める差分部186を有する。得られた差分188は増幅器190に入力されて増幅される。増幅器190を設けた理由は、差分188は、振幅が小さい信号であるためである。ブリッジ演算回路182は、既述のアナログ回路である抵抗ブリッジ回路40と同様の機能を有する。図9に示す差分演算と、図11に示すブリッジ演算との違いは、ブリッジ演算では、調整部184を設けて位相調整および/または振幅調整を行う点である。単に差分を求める方式よりもブリッジ演算の方が、信号の変化分をより正確に、かつ、より大きく検出することができる。
【0069】
増幅器190の出力信号は、図8に示すローパスフィルタ80、同期検波回路88、90、平均回路122、124、補正部84による処理と同様の処理を行う。得られたQ成分出力142、I成分出力144に対して、図8に関して説明した演算回路311が行う演算と同様の処理を実施して、膜厚150を算出する。ブリッジ演算回路182を設けたメリットとしては、渦電流センサ210が検出した出力信号の変化量をより多く取れる、すなわちダイナミックレンジが向上することがある。ブリッジ演算回路182が無い場合、図11に示す信号158(第1のデジタル信号58)の振幅の大きさ自体がデジタル処理のフルレンジを制限してしまう。一方、ブリッジ演算回路182がある場合、変化量である差分188(図11に示す信号192)のみを取り出して増幅することで、最大変化量をフルレンジに等しくすることができる。すなわち、ダイナミックレンジを有効に使うことができる。これにより分解能が向上する。
【0070】
この点を数値例で示す。集積回路66が処理できる振幅の最大値が65536(16bit)であって、第1のデジタル信号58の変化量が500である場合、
ブリッジ演算回路182が無いときは、振幅が65536に制限されて、変化量は655
36内の500である。
ブリッジ演算回路182が有るときは、変化量の500を取り出して増幅することで、変化量の500を65536まで広げられる。従って、概算として理論的には分解能が65536/500=約131倍に拡大する。
【0071】
次に図12により、図8に示す補正部84、86が行う位相キャリブレーションについて説明する。補正部84と補正部86は同一の機能を有するため、図8,12により補正部84についてのみ説明する。集積回路66が有する補正部84は、第1のデジタル信号58と参照信号96との位相差Θiに応じた補正を、同期検波回路88、90の同期検波により得られたインピーダンスQ、Iに対して行う。2つの直交座標軸194,196を有する座標系の各軸に、インピーダンスの抵抗成分Iとリアクタンス成分Qをそれぞれ対応させたインピーダンス平面206において、位相差Θiは、基準状態において得られたインピーダンスの位相角度Θiに対応する。
【0072】
位相差Θiについて説明する。既述のように変換器60の8倍サンプリングにより取り込んだデータに対して、集積回路66内の参照信号96との間で位相検波演算を、同期検波回路88、90を用いて行い、I値、Q値を算出する。しかし、入力された第1のデジタル信号58と参照信号96は通常、位相がずれている。位相のずれは、研磨装置100の電源を入れた直後の渦電流センサ210による検出を行っていない状態(すなわち基準状態)において決定され、その後、電源をオフにするまで一定である。研磨装置100の電源を入れた直後、すなわち基準状態における位相差Θiを図12に示す。図12において位相差Θiは、研磨装置100の電源をオンにするごとに、0度から360度の間の任意の値を取りうる。
【0073】
基準状態は、研磨装置100の電源を入れた直後の渦電流センサ210による検出を行っていない状態に限られない。基準状態は、膜厚が0である状態、研磨対象物102が研磨テーブル110の外部にある状態、膜厚が既知のある一定値である状態、渦電流センサ210の校正を実施している状態等のように、渦電流センサ210の出力値の基準を得ることができる状態を意味する。
【0074】
位相差Θiは、研磨装置100の電源を入れる毎に変化する。位相差を補正しない場合、インピーダンスと膜厚の関係や、得られた膜厚に基づいた制御が不可能になる。そのため、位相差Θiの無い状態、すなわち位相差Θiを同じにする必要がある。そのため、第1のデジタル信号58と参照信号96との位相関係を下記の方法で校正する。基準状態において第1のデジタル信号58を同期検波回路88、90によって検波した得られた結果が図12の(Ii,Qi)であるとすると、位相差Θiは、インピーダンス平面206において(Ii,Qi)を示す点208の位相角度Θiである。基準状態は通常、研磨開始前の渦電流センサ210の校正時であるが、基準状態を研磨中に設けて、位相差Θiの検出を行ってもよい。
【0075】
基準状態で得られた位相角Θiを補正部84内に保持する。研磨中に渦電流センサ210による測定値を同期検波回路88、90によって処理して、インピーダンスのQ成分出力130とI成分出力132としてiと、qが得られたとする。補正部84は、インピーダンス平面206において座標(i、q)に対応する点212を、インピーダンス平面206上で時計方向に(所定の方向に)位相角度Θiに応じて回転させた点214に対応する座標(I,Q)を補正後のインピーダンス(I,Q)として出力する。座標(i、q)から座標(I,Q)を求める演算は、回転行列処理であり、具体的な回転行列の演算は下式による。
I=icos(-Θi)-qsin(-Θi)
Q=isin(-Θi)+qcos(-Θi)
この補正は、研磨装置100の電源をオンにするごとに、位相差Θiを同じにするために、位相差Θiを0(ゼロ)にすることに相当する。なお、研磨装置100の電源をオンにするごとに位相差Θiを同じにすることが、補正部84の目的であるため、位相差Θiを0(ゼロ)以外の他の位相差、例えば90度、180度、270度にしてもよい。また、所定の方向は時計方向に限られない。所定の方向は反時計方向でもよい。反時計方向に回転させても、位相差Θiを同じにすることができるからである。
【0076】
既述のように、位相差Θiの無い状態、すなわち位相差Θiを同じにする必要がある。そのため、第1のデジタル信号58と参照信号96との位相関係を修正する別の方法を図13,14により説明する。図13は、位相関係を修正する別の方法を説明する図である。図14は、図7図8を同一図面に表示したものである。ただし図14では、クロック回路222を追加してある。本方法では、デジタル位相検波演算で使用する既述の参照信号96を、位相が45degずつ異なる0eg~315degの8個、テーブル形式のデータとして用意する。8個それぞれと、ローパスフィルタ80の出力信号80との間で同期検波回路88、90、平均回路122、124において位相検波演算を行い、8個のI値、Q値を得る。次に8個の角度Arctan(Q/I)を算出する。
【0077】
得られた8個の角度Arctan(Q/I)が最も小さくなる点を参照信号96の位相0点に決定する。このように処理する理由は以下の通りである。図14に示すように変換器60、64の8倍オーバーサンプリングにより取り込んだ第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62を、集積回路66内の参照信号96と位相検波演算を行うことにより、I値、Q値を算出する。しかし、第1のデジタル信号58と第2のデジタル信号62と参照信号96との間の初期の、すなわち電源オン時の位相差により、I-Q平面上での初期位置が不特定である。図13、14によりこれを説明する。
【0078】
研磨装置100が起動すると、クロック回路222(図14参照)からのクロック信号222と、ローパスフィルタ54が出力する検出信号54は、直ちに出力される。一方、参照信号96を作るまでには時間を要し、参照信号96は、クロック信号222と検出信号54に対しては時間的遅延がある。8倍オーバーサンプリングのため検出信号54と参照信号96との間の位相関係に45degずつ8ポイント(図12に示す8個の点218)のランダムな位相のずれが生じてしまう。この結果、電源をオンにするごとに、膜厚を計算するための初期位置(位相差、座標基準点と呼んでもよい。)が変化する。図12では位相差を正確に求めて、回転行列演算を行う。しかし回転行列演算は演算に時間を要する。図13では、位相差を、45degずつ異なる0eg~315degの8個のうちのいずれかに近似するといってよい。これにより演算の負担を軽減する。
【0079】
検出信号処理装置220の同期検波回路88、96と、平均回路122と、補正部84は、第1のデジタル信号58と参照信号96との位相差を基準状態において既述のようにして検出可能である。補正部84は、8個のI値、Q値を得るごとに1個ずつ、計8個の角度Arctan(Q/I)を算出する。得られた8個の角度Arctan(Q/I)のうち、角度が最も小さくなる参照信号96を決定する。決定した参照信号96に関するデータ224を参照信号生成部96に出力する。参照信号96を生成する参照信号生成部96はデータ224を入力されて、位相が互いに異なる8個の参照信号96のうちの少なくとも1つを基準状態以外のときに出力可能な信号出力部である。なお、参照信号生成部96は基準状態において位相差を検出するために、位相が互いに異なる8個(45degずつ異なる0eg~315degの8個)の参照信号96を順次、出力する。第1のデジタル信号58と参照信号96との位相差を検出可能な位相差検出部は、同期検波回路88、96と、平均回路122と、補正部84から構成される。参照信号生成部96は、位相差検出部が基準状態において検出した位相差に基づいて、第1のデジタル信号58と、参照信号生成部96が出力する参照信号96との位相差が最小となるように、複数の前記照信
号96のうちの1つを出力する。すなわち参照信号生成部96は、複数の参照信号96のうち参照信号96との位相差が最小となる参照信号96を基準状態以外のときに出力可能である信号出力部である。参照信号生成部96は基準状態以外のときに、複数の参照信号96のうちの2個以上を出力してもよい。例えば、位相差が最小となる上述の参照信号96と、この参照信号96に対して90度位相が進んだ参照信号96又は90度位相が遅れた参照信号96とを出力してもよい。90度位相が進んだ参照信号96又は90度位相が遅れた参照信号96を出力する場合、位相シフト回路98を不要とすることができる。
【0080】
次に、従来の図6に示す装置の処理フローと、図7,8に示す実施形態の処理フローとの比較を図15により示す。図15(a)は従来の処理フローである。最初に、検出コイル34とダミーコイル36で信号128、130を検出する(S10)。次に、抵抗ブリッジ回路40により、金属を有する研磨対象物102が渦電流センサ210に近接していない状態における検出信号128とダミー信号131の重ね合わせ(差分)が0となるようにバランス調整する(S12)。その後、研磨が始まると、検出信号128とダミー信号131を高周波アンプ303で増幅する(S14)。次に、同期検波回路305、306による同相成分と直交位相成分の切り出し(検出)を行う(S16)。検出結果をローパスフィルタ307、308により直流に変換する(S18)。
【0081】
次に、直流を演算回路311に入力し、ここで初めてアナログ信号がデジタル信号にデジタル変換される(S20)。QI測定値を上位機器である終点検出部240へ送信する(S22)。終点検出部240は、校正段階におけるQI測定値と膜厚との関係を表す補正値が取得済みであるかどうか、すなわち校正が終了しているかどうかを判断する(S24)。校正済みでないときはS26を実行する。S26では、校正ウェハによる校正を行い、膜厚が0であるときのQI値が一定値になるような調整も行う。この調整は、ソフトウェア上の利得調整といってもよい。その後S10に戻る(S26)。S24において校正済みであるときは、S28を実行する。S28では、演算回路311がQI値を補正した後に、演算回路311が膜厚等を算出し、終点検出部240にQ,I,Z,Θ等を出力する。Q,I,Z,Θにより終点検出部240は研磨の終点を検出する。検出方法は、研磨対象物102の膜種による(S30)。
【0082】
次に、図7,8に示す実施形態の処理フローを図15(b)により説明する。最初に、検出コイル34とダミーコイル36で信号54、56を検出する(S50)。次に変換器60、64によりアナログ信号をデジタル信号にデジタル変換する(S52)。同期検波回路88~94による同相成分と直交位相成分の切り出し(検出)を行う。この段階で検出信号とダミー信号の既述の差分演算やブリッジ演算を含むこともできる(S16)。検出結果をローパスフィルタ80,82により、正弦波成分のような振動成分を含まない直流に変換する(S56)。
【0083】
次に補正部84で位相キャリブレーションのための補正値(初期位相差、すなわち参照信号96との位相差)を取得済みであるかどうかを判断する(S58)。校正済みでないときはS60を実行する。S60では、校正ウェハによる校正を行い図12に示す初期座標(初期位相差)を取得する、または図13に示す参照信号96の位相を決定する(S60)。次に、決定された補正値を用いて位相キャリブレーションを行う。(S62)
【0084】
QI測定値を上位機器である終点検出部240へ送信する(S64)。終点検出部240は、校正段階におけるQI測定値と膜厚との関係を表す補正値が取得済みであるかどうかを判断する(S66)。校正済みでないときはS68を実行する。S68では、校正ウェハによる校正を行い、膜厚が0であるときのQI値が一定値になるように調整する。これは、ソフトウェア上の利得調整といってもよい。その後S50に戻る(S68)。S66において校正済みであるときはS70を実行する。S70では、演算回路311がQI
値を補正した後に、演算回路311が膜厚等を算出し、終点検出部240にQ,I,Z,Θ等を出力する。Q,I,Z,Θにより終点検出部240は研磨の終点を検出する。検出方法は、研磨対象物102の膜種による(S72)。
【0085】
図15(a)と図15(b)を比較すると、従来は、デジタル信号への変換(S20)は、抵抗ブリッジ回路40による調整(S12)と、同期検波回路305、306による同相成分と直交位相成分の検出(S16)後である。一方、本願の実施形態では、デジタル信号への変換(S52)は、抵抗ブリッジ回路40による調整に相当する処理や検波処理を行うステップ(S54)を行う前に実施される。本願の実施形態では、デジタル信号への変換(S52)は、可能な限り早い段階で実施されている。
【0086】
次に、図1に示す終点検出部240と研磨装置制御部140について説明する。終点検出部240は、検出信号処理装置220により得られた膜厚150を受信する。終点検出部240は、膜厚150の変化に基づいて研磨の終点を監視する。終点検出部240は、膜厚150が所定値に達したことにより、研磨の終点を検出することができる。
【0087】
終点検出部240は、研磨装置100に関する各種制御を行う研磨装置制御部140と接続されている。終点検出部240は、膜厚150に基づいて研磨対象物102の研磨終点を検出すると、その旨を示す信号を研磨装置制御部140へ出力する。研磨装置制御部140は、終点検出部240から研磨終点を示す信号を受信すると、研磨装置100による研磨を終了させる。
【0088】
なお本発明の実施形態の動作は、以下のソフトおよび/またはシステムを用いて行うことも可能である。例えば、システム(研磨装置100)は、全体を制御するメインコントローラ(研磨装置制御部140)と、各部(駆動部112、118、保持部116、検出信号処理装置220)の動作をそれぞれ制御する複数のサブコントローラとを有する。メインコントローラおよびサブコントローラは、それぞれ、CPU,メモリ、記録媒体と、各部を動作させるために記録媒体に格納されたソフトウェア(プログラム)を有する。
【0089】
次に、研磨対象物102に渦電流を形成可能な励磁コイル48と、研磨対象物102に形成される渦電流を検出可能な検出コイル34と、渦電流を検出可能なダミーコイル36とを有する渦電流センサ210の検出信号を処理する検出信号処理方法について図7により説明する。本方法は、検出コイル34が出力する第1のアナログ信号54を変換器60によって第1のデジタル信号58に変換する。ダミーコイル36が出力する第2のアナログ信号56を第2のデジタル信号62に変換器64によって変換する。第1のデジタル信号58と、第2のデジタル信号62とを検出信号処理装置220内の集積回路66により検波する。
【0090】
以上、本発明の実施形態の例について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
以上説明したように、本発明は以下の形態を有する。
形態1
検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な第1の検出コイルと、前記渦電流を検出可能なダミーコイルおよび/または第2の検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置であって、前記装置は、
前記第1の検出コイルが出力する第1のアナログ信号を第1のデジタル信号に変換する第1の変換部と、
前記ダミーコイルが出力する第2のアナログ信号を第2のデジタル信号に変換する第2の変換部、および/または前記第2の検出コイルが出力する第3のアナログ信号を第3のデジタル信号に変換する第3の変換部と、
前記第1のデジタル信号と、前記第2のデジタル信号および/または前記第3のデジタル信号とを検波するデジタル信号処理回路である検波部とを有することを特徴とする検出信号処理装置。
形態2
前記検波部は、参照信号を用いて同期検波を行って、得られたインピーダンスを出力し、
前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記参照信号との位相差に応じた補正を、前記同期検波により得られた前記インピーダンスに対して行うことが可能な補正部を有し、
2つの直交座標軸を有する座標系の各軸に、前記インピーダンスの抵抗成分とリアクタンス成分をそれぞれ対応させたインピーダンス平面において、前記位相差は、基準状態において得られた前記インピーダンスの位相角度に対応し、
前記補正部は、前記検波部によって得られた前記インピーダンスに対応する前記インピーダンス平面上の点を、前記インピーダンス平面上で所定の方向に前記位相角度に応じて回転させた点に対応するインピーダンスを補正後のインピーダンスとして出力することを特徴とする形態1記載の検出信号処理装置。
形態3
前記検波部は、参照信号を用いて同期検波を行い、
前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記参照信号との位相差を検出可能な位相差検出部と、位相が互いに異なる複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能な信号出力部とを有し、
前記信号出力部は、前記位相差検出部が検出した前記位相差に基づいて、複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能であることを特徴とする形態1記載の検出信号処理装置。
形態4
前記第1のアナログ信号と、前記第2のアナログ信号および/または前記第3のアナログ信号のうち少なくとも1つの信号は差動信号である、ことを特徴とする形態1ないし3のいずれか1項に記載の検出信号処理装置。
形態5
前記第1の変換部と、前記第2の変換部および/または前記第3の変換部のうち少なくとも1つはオーバーサンプリングを行うことを特徴とする形態1ないし4のいずれか1記載の検出信号処理装置。
形態6
ジッタが所定値以下である励磁信号を前記励磁コイルに供給可能である励磁部を有することを特徴とする形態1ないし5のいずれか1項に記載の検出信号処理装置。
形態7
前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号の差を求める差分部を有することを特徴とする形態1ないし6のいずれか1項に記載の検出信号処理装置。
形態8
前記装置は、前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号との間で位相調整および/または振幅調整を行う調整部を有し、
前記差分部は、前記調整部が出力する前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号の差を求めることを特徴とする形態7記載の検出信号処理装置。
形態9
前記第1のデジタル信号と前記第3のデジタル信号とを加算する加算部を有することを特徴とする形態1ないし6のいずれか1項に記載の検出信号処理装置。
形態10
検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置であって、前記装置は、
前記検出信号を検波する検波部であって、参照信号を用いて同期検波を行って、得られたインピーダンスを出力する検波部と、
前記出力信号と前記参照信号との位相差に応じた補正を、前記同期検波により得られた前記インピーダンスに対して行うことが可能な補正部とを有し、
2つの直交座標軸を有する座標系の各軸に、前記インピーダンスの抵抗成分とリアクタンス成分をそれぞれ対応させたインピーダンス平面において、前記位相差は、基準状態において得られた前記インピーダンスの位相角度に対応し、
前記補正部は、前記検波部によって得られた前記インピーダンスに対応する前記インピーダンス平面上の点を、前記インピーダンス平面上で所定の方向に前記位相角度に応じて回転させた点に対応するインピーダンスを補正後のインピーダンスとして出力することを特徴とする検出信号処理装置。
形態11
検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理装置であって、前記装置は、
前記検出信号を検波する検波部であって、参照信号を用いて同期検波を行う検波部と、
前記出力信号と前記参照信号との位相差を検出可能な位相差検出部と、
位相が互いに異なる複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能な信号出力部とを有し、
前記信号出力部は、前記位相差検出部が検出した前記位相差に基づいて、複数の前記参照信号のうちの少なくとも1つを出力可能であることを特徴とする検出信号処理装置。
形態12
形態1ないし11のいずれか1項に記載の検出信号処理装置を有する、前記検出対象物を研磨する研磨装置であって、前記研磨装置は、
前記検出対象物の研磨が可能な研磨部と、
前記検出対象物の膜厚を測定するために、前記検出対象物に前記渦電流を形成するとともに、形成された前記渦電流を検出可能な前記渦電流センサと、
前記検波部が出力する信号から前記膜厚を求める膜厚算出部とを有することを特徴とする研磨装置。
形態13
検出対象物に渦電流を形成可能な励磁コイルと、前記検出対象物に形成される前記渦電流を検出可能な第1の検出コイルと、前記渦電流を検出可能なダミーコイルおよび/または第2の検出コイルとを有する渦電流センサの検出信号を処理する検出信号処理方法であって、前記方法は、
前記第1の検出コイルが出力する第1のアナログ信号を第1のデジタル信号に変換し、
前記ダミーコイルが出力する第2のアナログ信号を第2のデジタル信号に変換し、および/または前記第2の検出コイルが出力する第3のアナログ信号を第3のデジタル信号に変換し、
前記第1のデジタル信号と、前記第2のデジタル信号および/または前記第3のデジタル信号とをデジタル信号処理回路により検波することを特徴とする検出信号処理方法。
【符号の説明】
【0091】
34…検出コイル
36…ダミーコイル
48…励磁コイル
58…第1のデジタル信号
60、64…変換器
62…第2のデジタル信号
66…集積回路
68…検波部
84…補正部
88、90…同期検波回路
96…参照信号
100…研磨装置
102…研磨対象物
152…集積回路
154…差分
164…第2の検出コイル
174…第3のデジタル信号
182…ブリッジ演算回路
184…調整部
186…差分部
206…インピーダンス平面
210…渦電流センサ
220…検出信号処理装置
260…センサコイル
264…検波回路
305…同期検波回路
306…同期検波回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15