(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】基板を保持するための研磨ヘッドおよび基板処理装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/32 20120101AFI20240805BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240805BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B24B37/32 Z
H01L21/304 622G
H01L21/304 622T
H01L21/68 G
(21)【出願番号】P 2023019855
(22)【出願日】2023-02-13
(62)【分割の表示】P 2019067207の分割
【原出願日】2019-03-29
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】柏木 誠
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-048149(JP,A)
【文献】特開平06-254763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨装置の研磨対象である角形の基板を保持するためのヘッドであって、
基板を保持するための基板保持面と、
前記基板保持面の外側に位置するリテーナと、を有し、
前記リテーナは端部領域を有し、前記端部領域は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置され、且つ、前記端部領域の前記基板保持面側の端面は、前記リテーナの長手方向の端部に向かうにしたがって前記基板保持面から離れるように構成され、
前記端部領域は曲線部分を有し、前記曲線部分は、前記リテー
ナの長手方向の寸法以上の曲率半径を備え
、且つ、前記端部領域の曲線部分は、前記ヘッドに保持される基板の角部が前記リテーナに接触しないように構成されている、
ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドであって、
前記ヘッド内における前記リテーナの位置を決めるための位置決め部材を有し、
前記位置決め部材は、基板の辺から垂直に前記リテーナの方を見た場合に前記リテーナの前記端部領域に位置する、
ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヘッドであって、
前記リテーナの曲線部分は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置されている、
ヘッド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のヘッドであって、
前記リテーナは中央領域を有し、前記リテーナの前記端部領域は前記中央領域から延在している、
ヘッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のヘッドであって、
複数の前記リテーナを有し、
前記複数のリテーナの各々は、前記ヘッドに保持される基板の各辺に沿って配置されている、
ヘッド。
【請求項6】
角形の基板を研磨するための研磨装置であって、
研磨パッドを保持するテーブルと、
請求項1から5のいずれか一項に記載のヘッドと、有し、
前記ヘッドに保持された基板を、前記研磨パッドに押し当てて、基板と前記研磨パッドとを相対的に運動させて、基板を研磨するように構成されている、
研磨装置。
【請求項7】
研磨装置の研磨対象である角形の基板を保持するためのヘッドに使用されるリテーナであって、
前記リテーナは端部領域を有し、前記端部領域は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置され、且つ、前記端部領域の基板側の端面は、前記リテーナの長手方向の端部に向かうにしたがって基板から離れるように構成され、
前記端部領域は曲線部分を有し、前記曲線部分は、前記リテー
ナの長手方向の寸法以上の曲率半径を備え
、且つ、前記端部領域の曲線部分は、前記ヘッドに保持される基板の角部が前記リテーナに接触しないように構成されている、
リテーナ。
【請求項8】
請求項7に記載のリテーナであって、
ヘッド内における前記リテーナの位置を決めるための位置決め部材を取り付けるための位置決め特徴を有し、前記位置決め特徴は、前記リテーナの端部領域に位置する、
リテーナ。
【請求項9】
請求項7または8に記載のリテーナであって、
前記リテーナの曲線部分は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置されている、
リテーナ。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載のリテーナであって、
前記リテーナは中央領域を有し、前記リテーナの前記端部領域は前記中央領域から延在している、
リテーナ。
【請求項11】
請求項10に記載のリテーナであって、
前記リテーナの中央領域は直線部分を有し、前記リテーナの前記直線部分は、前記ヘッドに保持される基板の辺に沿うように配置されている、
リテーナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、基板を保持するための研磨ヘッドおよび基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造に、基板の表面を平坦化するために化学機械研磨(CMP)装置が使用されている。半導体デバイスの製造に使用される基板は、多くの場合、円板形状である。また、半導体デバイスに限らず、CCL基板(Copper Clad Laminate基板)やPCB(Printed Circuit Board)基板、フォトマスク基板、ディスプレイパネルなどの四角
形の基板の表面を平坦化する際の平坦度の要求も高まっている。また、PCB基板などの電子デバイスが配置されたパッケージ基板の表面を平坦化することへの要求も高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-183820号公報
【文献】特開2000-94308号公報
【文献】特開平11-99471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、円形の半導体基板は規格(たとえばSEMI規格)により寸法が定まっているが、上述のCCL基板(Copper Clad Laminate基板)やPCB(Printed Circuit Board)
基板、フォトマスク基板、ディスプレイパネルなどの四角形の基板は、規格などにより寸法が決まっていないので、様々な寸法の基板が存在し得る。近年、デバイスの製造効率の点から基板の寸法が大きくなる傾向にある。大きく重量のある基板はそりや変形が生じやすく、従来の円形の基板の処理装置と同様の技術を適用できるとは限らない。
【0005】
一般に、CMP装置は、基板を保持する研磨ヘッドと、研磨パッドを保持するテーブルと、を備える。基板を研磨するときは、研磨ヘッドに保持された基板をテーブル上の研磨パッドに押圧し、基板を保持する研磨ヘッドと研磨パッドを保持するテーブルとをそれぞれ回転させることで、基板と研磨パッドとを相対的に移動させて基板を研磨する。研磨ヘッドは、研磨ヘッドが回転しているときに基板が研磨ヘッドから飛び出すことを防止するためのリテーナを備える。リテーナにより基板が研磨ヘッドから飛び出すことをある程度は防止することができるが、研磨ヘッドの回転中に基板が研磨ヘッド内で移動して、リテーナに衝突することがある。基板の寸法や重量によっては、基板がリテーナに衝突すると、基板にダメージを与えることがあり、基板を破損するリスクがある。また、基板の寸法や重量によっては、基板がリテーナに衝突すると、基板が研磨ヘッドから飛び出すリスクもある。本願は、基板がリテーナに衝突する際のリスクを軽減することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、研磨装置の研磨対象である角形の基板を保持するためのヘッドが提供され、基板を保持するための基板保持面と、前記基板保持面の外側に位置するリテーナと、を有し、前記リテーナは端部領域を有し、前記端部領域は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置され、且つ、前記端部領域の前記基板保持面側の端面は、前記リテーナの長手方向の端部に向かうにしたがって前記基板保持面から離れるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態による、基板処理装置である基板研磨装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】一実施形態による、研磨ヘッドの模式的な断面図である。
【
図3】一実施形態による、研磨ヘッドを研磨テーブル側から見た図である。
【
図4】一実施形態による、研磨ヘッドと研磨テーブルとを互いに回転させながら、研磨ヘッドに保持された基板WFを研磨テーブル上の研磨パッドに押し当てて、基板WFを研磨しているところを概略的に示す上面図である。
【
図5】
図4の矢印5の方向からみた断面を概略的に示す断面図である。
【
図6】一実施形態による、基板WFの研磨中の様子を研磨パッドの方から見た様子を概略的に示す下面図である。
【
図7】基板WFにダメージが発生する場合を模式的に示す断面図である。
【
図8】一実施形態による、基板の研磨中の様子を研磨パッドの方から見た様子を概略的に示す下面図である。
【
図9】
図8中の符号9で示される領域を拡大して示す図である。
【
図10】一実施形態による、リテーナ部材の端部付近を示す図である。
【
図11】一実施形態による、研磨ヘッドのリテーナ部材の近くを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明に係る研磨ヘッドおよび研磨ヘッドを備える基板処理装置の実施形態を添付図面とともに説明する。添付図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0009】
図1は、一実施形態による基板処理装置である基板研磨装置の構成を概略的に示す斜視図である。
図1に示される研磨装置300は、研磨テーブル350と、研磨対象物である基板を保持して研磨テーブル350上の研磨面に押圧する研磨ヘッド302と、を備えている。研磨テーブル350は、テーブルシャフト351を介してその下方に配置される研磨テーブル回転モータ(図示せず)に連結されており、そのテーブルシャフト351周りに回転可能になっている。研磨テーブル350の上面には研磨パッド352が貼付されており、研磨パッド352の表面352aが基板を研磨する研磨面を構成している。一実施形態において、研磨パッド352は、研磨テーブル350からの剥離を容易にするための層を介して貼り付けられてもよい。そのような層は、たとえばシリコーン層やフッ素系樹脂層などがあり、例えば特開2014-176950号公報などに記載されているものを使用してもよい。
【0010】
なお、市場で入手できる研磨パッドとしては種々のものがあり、例えば、ニッタ・ハース株式会社製のSUBA800(「SUBA」は登録商標)、IC-1000、IC-1000/SUBA400(二層クロス)、フジミインコーポレイテッド社製のSurfin xxx-5、Surfin 000等(「surfin」は登録商標)がある。SUBA800、Surfin xxx-5、Surfin 000は繊維をウレタン樹脂で固めた不織布であり、IC-1000は硬質の発泡ポリウレタン(単層)である。発泡ポリウレタンは、ポーラス(多孔質状)になっており、その表面に多数の微細なへこみまたは孔を有している。
【0011】
研磨テーブル350の上方には研磨液供給ノズル354が設置されており、この研磨液供給ノズル354によって研磨テーブル350上の研磨パッド352上に研磨液が供給さ
れるようになっている。また、
図1に示されるように、研磨テーブル350およびテーブルシャフト351には、研磨液を供給するための通路353が設けられている。通路353は、研磨テーブル350の表面の開口部355に連通している。研磨テーブル350の開口部355に対応する位置において研磨パッド352は貫通孔357が形成されており、通路353を通る研磨液は、研磨テーブル350の開口部355および研磨パッド352の貫通孔357から研磨パッド352の表面に供給される。なお、研磨テーブル350の開口部355および研磨パッド352の貫通孔357は、1つであっても複数でもよい。また、研磨テーブル350の開口部355および研磨パッド352の貫通孔357の位置は任意であるが、一実施形態においては研磨テーブル350の中心付近に配置される。
【0012】
図1には示されていないが、一実施形態において、研磨装置300は、液体、又は、液体と気体との混合流体、を研磨パッド352に向けて噴射するためのアトマイザを備えてもよい。アトマイザから噴射される液体は、例えば、純水であり、気体は、例えば、窒素ガスである。
【0013】
研磨ヘッド302は、シャフト18に接続されており、このシャフト18は、上下動機構により揺動アーム360に対して上下動するようになっている。このシャフト18の上下動により、揺動アーム360に対して研磨ヘッド302の全体を上下動させ位置決めするようになっている。シャフト18は、図示しない回転モータの駆動により回転するようになっている。シャフト18の回転により、研磨ヘッド302がシャフト18を中心にして回転するようになっている。
【0014】
研磨ヘッド302は、その下面に四角形の基板を保持できるようになっている。揺動アーム360は支軸362を中心として旋回可能に構成されている。研磨ヘッド302は、揺動アーム360の旋回により、基板受け渡し位置と研磨テーブル350の上方との間で移動可能である。シャフト18を下降させることで、研磨ヘッド302を下降させて基板を研磨パッド352の表面(研磨面)352aに押圧することができる。このとき、研磨ヘッド302および研磨テーブル350をそれぞれ回転させ、研磨テーブル350の上方に設けられた研磨液供給ノズル354から、および/または、研磨テーブル350に設けられた開口部355から研磨パッド352上に研磨液を供給する。このように、基板を研磨パッド352の研磨面352aに押圧して基板の表面を研磨することができる。基板WFの研磨中に、研磨ヘッド302が研磨パッド352の中心を通過するように(研磨パッド352の貫通孔357を覆うように)、アーム360を固定あるいは揺動させてもよい。
【0015】
一実施形態による研磨装置300は、研磨パッド352の研磨面352aをドレッシングするドレッシングユニット356を備えている。このドレッシングユニット356は、研磨面352aに摺接されるドレッサ50と、ドレッサ50が連結されるドレッサシャフト51と、ドレッサシャフト51を回転自在に支持する揺動アーム55とを備えている。ドレッサ50の下部はドレッシング部材50aにより構成され、このドレッシング部材50aの下面には針状のダイヤモンド粒子が付着している。
【0016】
揺動アーム55は図示しないモータに駆動されて、支軸58を中心として旋回するように構成されている。ドレッサシャフト51は、図示しないモータの駆動により回転し、このドレッサシャフト51の回転により、ドレッサ50がドレッサシャフト51周りに回転するようになっている。また、ドレッサシャフト51は、上下動可能に構成されており、ドレッサシャフト51を介してドレッサ50を上下動させ、ドレッサ50を所定の押圧力で研磨パッド352の研磨面352aに押圧することができる。
【0017】
研磨パッド352の研磨面352aのドレッシングは次のようにして行われる。ドレッ
サ50はエアシリンダなどにより研磨面352aに押圧され、これと同時に図示しない純水供給ノズルから純水が研磨面352aに供給される。この状態で、ドレッサ50がドレッサシャフト51周りに回転し、ドレッシング部材50aの下面(ダイヤモンド粒子)を研磨面352aに摺接させる。このようにして、ドレッサ50により研磨パッド352が削り取られ、研磨面352aがドレッシングされる。
【0018】
図2は、一実施形態による、研磨ヘッド302の模式的な断面図である。
図2おいては、研磨ヘッド302を構成する主要構成要素だけを模式的に図示している。
図3は、一実施形態による、研磨ヘッド302を研磨テーブル350側から見た図である。
【0019】
図2に示されるように、研磨ヘッド302は、基板WFを研磨面352aに対して押圧する本体2と、研磨面352aを直接押圧するリテーナ部材3とを有する。本体2は概略四角形の平板状の部材からなり、リテーナ部材3は本体2の外側に取り付けられている。一実施形態において、リテーナ部材3は、
図3に示さるように細長い長方形の板状の部材である。
図3に示される実施形態においては、リテーナ部材3は、4本の板状の部材が研磨ヘッド302の四角形の本体2の各辺の外側に設けられている。また、一実施形態において、
図3に示されるようにリテーナ部材3は複数の溝3aを備えている。
図3に示されるリテーナ部材3は、研磨ヘッド302の内側から外側に延びる溝3aが形成されている。
図3に示されるリテーナ部材3は、細長いリテーナ部材3の端部が扇形になった形状である。そのため、
図3に示されるように4個のリテーナ部材3を組み合わせることで、研磨ヘッド302の本体2の角部も含めてほぼ全体をリテーナ部材3で囲むことができる。本体2は、ステンレス鋼(SUS)などの金属や、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。本体2の下面には、基板の裏面に接触する弾性膜(メンブレン)4が取り付けられている。一実施形態において、弾性膜(メンブレン)4は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成される。一実施形態において、弾性膜(メンブレン)4は、金型を使用してゴム材から形成することができる。なお、本体2は、複数の部材を結合させて構成されてもよい。
【0020】
図2に示されるように、弾性膜(メンブレン)4は同心状の複数の隔壁4aを有し、これら隔壁4aによって、弾性膜4の上面と本体2の下面との間に円形状のセンター室5、センター室5を囲う四角の環状のリプル室6、リプル室6を囲う四角の環状の中間室7、中間室7を囲う四角の環状のアウター室8、アウター室8を囲う四角の環状のエッジ室9が形成されている。すなわち、本体2の中心部にセンター室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室6、中間室7、アウター室8、エッジ室9が形成されている。
図2に示されるように、本体2内には、センター室5に連通する流路11、リプル室6に連通する流路12、中間室7に連通する流路13、アウター室8に連通する流路14、エッジ室9に連通する流路15がそれぞれ形成されている。そして、センター室5に連通する流路11、リプル室6に連通する流路12、中間室7に連通する流路13、アウター室8に連通する流路14、エッジ室9に連通する流路15は、ロータリージョイントを介して流体供給源および/または真空源に接続されている。また、リテーナ部材3の上にも弾性膜からなるリテーナ部材加圧室10が形成されており、リテーナ部材加圧室10は、研磨ヘッド302の本体2内に形成された流路16およびロータリージョイントを介して流体供給源および/または真空源に接続されている。
【0021】
図2に示されるように構成された研磨ヘッド302においては、上述したように、本体2の中心部にセンター室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室6、中間室7、アウター室8、エッジ室9が形成され、これらセンター室5、リプル室6、中間室7、アウター室8、エッジ室9およびリテーナ部材加圧室10に供給する流体の圧力をそれぞれ独立に調整することができる。このような構造により、基板WF
を研磨パッド352に押圧する押圧力を基板WFの領域毎に調整でき、かつリテーナ部材3が研磨パッド352を押圧する押圧力を調整できる。なお、弾性膜4には、基板WFを研磨ヘッド302に真空吸着させるための複数の真空吸着孔が設けられていてもよい。
【0022】
図4は、一実施形態による、研磨ヘッド302と研磨テーブル350とを互いに回転させながら、研磨ヘッド302に保持された基板WFを研磨テーブル350上の研磨パッド352に押し当てて、基板WFを研磨しているところを概略的に示す上面図である。
図4において、リテーナ部材3および基板WFは破線で示してある。
図5は、
図4の矢印5の方向からみた断面を概略的に示す断面図である。
図4に示されるように、研磨パッド352および基板WFは回転しているので、基板WFと研磨パッド352との間の摩擦力により、基板WFには平面方向に力が作用する。
図5において、基板WFに水平方向に作用する力、弾性膜4から基板WFに下方向に与えられる力、およびリテーナ部材3に下方向に与えられる力が矢印で示されている。基板WFの研磨中は、リテーナ部材加圧室10へ流体を供給することでリテーナ部材3にも下方向に力が与えられている。そのため、リテーナ部材3は、基板WFが研磨ヘッド302から飛び出すことを防止する。
【0023】
図6は、一実施形態による、基板WFの研磨中の様子を研磨パッド352の方から見た様子を概略的に示す下面図である。上述のように、研磨中は基板WFに平面方向に力が作用するので、
図6に示されるように、リテーナ部材3で囲われる領域内で基板WFが移動して、基板WFがリテーナ部材3に衝突することがある。図示のように、基板WFが四角形の場合、基板WFの角部がリテーナ部材3に衝突することがあり、リテーナ部材3および基板WFに局所的に大きな力が与えられることになる。基板WFの寸法や重量によっては、衝突によって非常に大きな力が発生し、基板WFやリテーナ部材3にダメージを与えたり、場合によっては基板WFやリテーナ部材3を破損したりすることもあり得る。また、研磨ヘッド302に保持された基板WFが、リテーナ部材3と研磨パッド352との間をすり抜けて、基板WFが研磨ヘッド302から飛び出すこともあり得る。
【0024】
図7は、基板WFにダメージが発生する場合を模式的に示す断面図である。
図7に示されるように、基板WFの研磨中に、基板WFに平面方向に力が作用し、基板WFに座屈が発生することがある。基板WFに座屈が発生すると、基板WFが破断することがあり得る。基板WFが破断すると、破断した基板の一部がリテーナ部材3と弾性膜4との間に入り込み、研磨ヘッド302の内部に配置された弾性膜4やその他の部品にダメージを与えることがある。また、座屈により基板WFが破断しなかったとしても、
図7に示されるように、基板WFが屈曲することで基板WFの端部に下方向の力が発生し、基板WFがリテーナ部材3と研磨パッド352との間に潜り込み、基板WFが研磨ヘッド302から飛び出すことがあり得る。
【0025】
上述のような、基板WFがリテーナ部材3へ衝突することに起因する基板WFやリテーナ部材3へのダメージを防止するための1つの解決策として、リテーナ部材3と基板WFとの間の隙間を小さくすることが考えられる。リテーナ部材3と基板WFとの間の隙間を小さいと、基板WFがリテーナ部材3へ衝突したときの衝撃が小さくなる。しかし、リテーナ部材3と基板WFとの間の隙間を小さくすると、研磨ヘッド302へ基板WFを保持させることが困難になる。一般に、基板研磨装置において、研磨ヘッド302に基板WFを保持させるときは、所定の位置に基板WFを配置し、その上に研磨ヘッド302を移動させて、真空吸着などの方法により、基板WFをリテーナ部材3で囲まれた所定の位置に保持させる。リテーナ部材3と基板WFとの間の隙間が小さいと、研磨ヘッド302へ基板WFを受け渡す際の研磨ヘッドの位置決めに高い精度が必要となる。そのため、研磨ヘッド302の移動機構が複雑になり、製造コストが増大する。
【0026】
また、研磨中におけるリテーナ部材3の研磨パッド352への押しつけ圧力を大きくす
ることで、基板WFが研磨ヘッド302から飛び出すことを防止できる。しかし、リテーナ部材3の押しつけ圧力は、研磨レートに影響を与えるので、基板WFが研磨ヘッド302から飛び出すことを防止するという観点だけからリテーナ部材3の押しつけ圧力を大きくすることはできない。たとえば、リテーナ部材3の押しつけ圧力を大きくすると、リテーナ部材3付近の研磨レートが下がり、基板WFを均一に研磨できなくなる可能性がある。
【0027】
本開示は、上記の問題の少なくとも一部を解決または緩和することができるリテーナ部材を提供する。
図8は、一実施形態による、基板WFの研磨中の様子を研磨パッド352の方から見た様子を概略的に示す下面図である。
図9は、
図8中の符号9で示される領域を拡大して示す図である。
図8に示される実施形態において、リテーナ部材3は、細長い略長方形の板状の部材である。
図8に示される実施形態においては、リテーナ部材3は、4本の板状の部材が研磨ヘッド302の四角形の本体2の各辺の外側に設けられている。
図8に示される各リテーナ部材3は、中央領域3bおよび端部領域3cを備える。中央領域3bは、リテーナ部材3の長手方向の中心を含む所定の領域である。端部領域3cは、リテーナ部材3の中央領域3bから長手方向の外側に配置する領域であり、中央領域3bの両側に位置している。また、リテーナ部材3の端部領域3cは、研磨ヘッド302に保持された基板WFの角部に隣接するように位置している。端部領域3cの基板WF側の端面は、リテーナ部材3の長手方向の端部に向かうにしたがって基板WFから離れるように構成されている。
【0028】
図8、9に示される実施形態において、リテーナ部材3の中央領域3bは直線部分を備える。また、リテーナ部材3の端部領域3cは曲線部分を備える。リテーナ部材3の直線部分は、基板WFに対向する辺が直線となっている部分である。中央領域3bの直線部分は、研磨ヘッド302に正しく保持された基板WFの対向する辺に平行に延びる。リテーナ部材3の曲線部分は、基板WFに対向する辺が曲線となっている部分である。また、リテーナ部材3の曲線部分は、研磨ヘッド302に保持された基板WFの角部に隣接するように位置している。なお、リテーナ部材3は、厚さ方向(
図8、9の紙面に垂直な方向)の寸法を備えているので、基板WFに対向するのは、実際は一次元の「線」および「辺」ではなく二次元の「面」であるが、本明細書においては既述のように「直線部分」、「曲線部分」のように記載している。
【0029】
図8、9は、研磨中に基板WFが研磨ヘッド302内で回転してリテーナ部材3に衝突した状態を模式的に示している。本実施形態によるリテーナ部材3は、基板WFの角部に隣接した曲線部分を備えているので、基板WFの角部がリテーナ部材3に接触しない。逆にいえば、リテーナ部材3の曲線部分は、基板WFが研磨ヘッド302内で回転した場合にでも、基板WFの角部がリテーナ部材3に接触しないように設けられている。本実施形態によるリテーナ部材3を備える研磨ヘッド302においては、基板WFの角部がリテーナ部材3に衝突しないので、基板WFの角部に局所的に大きな力が加わることを防止でき、基板WFやリテーナ部材3へダメージを与えるリスクを軽減することができる。また、研磨中に基板WFが研磨ヘッド302から飛び出すリスクも軽減することができる。
【0030】
また、本実施形態によるリテーナ部材3は、直線部分を備えているので、基板WFが研磨ヘッド302内で、中央領域3bの直線部分と隣接する基板WFの辺とが平行な状態で直線的に移動した場合は、基板WFの辺がリテーナ部材3の直線部分に接触するので、基板WFおよびリテーナ部材3に局所的に大きな力が加わることがない。
【0031】
図8、9に示される実施形態によるリテーナ部材3の曲線部分は、基板WFの角部がリテーナ部材3に接触しない形状であれば任意の形状とすることができる。たとえば、曲線部分は、円弧形状を備えるものとすることができる。一例として、曲線部分は、リテーナ
部材3の長手方向の寸法と同程度、あるいはそれ以上の曲率半径を備える円弧の一部としてもよい。
【0032】
なお、
図8、9に示される実施形態によるリテーナ部材3において、
図3に示されるような溝3aを備えるように構成してもよい。
【0033】
図10は、一実施形態による、リテーナ部材3の端部付近を示す図である。
図10に示される実施形態においては、リテーナ部材3は、
図8、9に示されるリテーナ部材3と同様に中央領域3bおよび端部領域3cを備える。
図10に示される実施形態においては、中央領域3bは直線部分を備え、端部領域3cも直線部分を備える。
図10に示されるように、中央領域3bの直線部分と端部領域3cの直線部分とは鈍角θをなす。
図10に示される実施形態によるリテーナ部材3は、
図8、9に示される曲線部分を備えるリテーナ部材3と同様の効果を備える。なお、
図10に示される実施形態において、中央領域3bの直線部分と端部領域3cの直線部分とが鈍角θで結合される部分は、角を持たないように面取りされていることが望ましく、特に丸く面取りされていることが望ましい。なお、
図10に示される実施形態によるリテーナ部材3において、
図3に示されるような溝3aを備えるように構成してもよい。
【0034】
一実施形態によるリテーナ部材3は、研磨ヘッド302内においてリテーナ部材3を位置決めするための位置決め特徴3dを有する。位置決め特徴3dは、リテーナ部材3に形成された凹部とすることができる。研磨ヘッド302の本体2の所定位置にも凹部を設け、リテーナ部材3の凹部3dと研磨ヘッド302の本体2の凹部とに位置決めピンを配置することで、リテーナ部材3を研磨ヘッド302の所定位置に位置決めすることができる。リテーナ部材3の位置決め特徴3dの少なくとも1つは、端部領域3cに設けられていることが望ましい。また、研磨中に、基板WFが研磨ヘッド302内で回転して、基板WFがリテーナ部材3に接触する場合において、接触位置が位置決め特徴3dよりもリテーナ部材3の中央領域3b側になるように構成されることが望ましい。リテーナ部材3の位置決め特徴3dは、端部領域3cだけでなく中央領域3bにも設けてもよく、複数の位置決め特徴3dを等間隔で設けてもよく、また、複数の位置決め特徴3dを任意の配置で設けてもよい。
【0035】
図11は、一実施形態による、研磨ヘッド302のリテーナ部材3の近くを模式的に示す断面図である。
図11に示される研磨ヘッド302は、
図2に示される研磨ヘッド302と概ね同様の構成とすることができる。ただし、
図11に示される実施形態による、研磨ヘッド302において基板WFを保持する弾性膜4により形成される最も外側に位置する圧力室の高さ21が小さくなるように構成されている。
図11に示される研磨ヘッド302においては、最も外側に位置する圧力室は、エッジ室9であるので、エッジ室9の高さ21が小さくなるように構成されている。圧力室の高さ21は、圧力室内の圧力と圧力室外の圧力が同一の条件(たとえば大気圧)における、圧力室の基板WFに垂直な方向の寸法である。基板WFを保持する弾性膜4の最も外側の領域において圧力室の高さ21が小さいので、圧力室の上面21aと研磨パッド352の研磨面352aとの間の距離が小さくなる。そのため、研磨中に基板WFがリテーナ部材3に接触したときに、
図7に示されるような基板WFの座屈を抑制することができる。研磨中の基板WFの座屈を抑制することで、基板WFの破損や、研磨ヘッド302からの飛び出しのリスクを低減することができる。なお、基板WFを保持する弾性膜4の最も外側の領域において圧力室の高さ21は、基板WFの座屈を抑制することができる程度に設定する。
【0036】
なお、
図11に示される実施形態においては、最も外側に位置する圧力室であるエッジ室9の高さ21を他の圧力室よりも小さくしているが、全ての圧力室の高さをエッジ室9の高さと同様に小さくしてもよい。また、
図11に示される実施形態においては、弾性膜
4が複数の圧力室を形成しているが、他の実施形態として1つの圧力室だけを備えるようにし、圧力室の高さを小さくしてもよい。このとき、1つの圧力室の最も外側の領域だけ高さを小さくしてもよい。さらに、
図11に示される実施形態においては、圧力室の高さ21は、研磨ヘッド302の本体2の下面と弾性膜4の上面との間により画定されているが、研磨ヘッド302の本体2に取り付けられる他の剛体部材と弾性膜4の上面との間により画定されてもよい。他の剛体部材は、たとえば弾性膜4を本体2に取り付けるためのホルダであってもよい。
【0037】
以上、いくつかの例に基づいて本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【0038】
上述の実施形態から少なくとも以下の技術的思想が把握される。
[形態1]形態1によれば、研磨装置の研磨対象である角形の基板を保持するためのヘッドが提供され、かかるヘッドは、基板を保持するための基板保持面と、前記基板保持面の外側に位置するリテーナと、を有し、前記リテーナは端部領域を有し、前記端部領域は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置され、且つ、前記端部領域の前記基板保持面側の端面は、前記リテーナの長手方向の端部に向かうにしたがって前記基板保持面から離れるように構成される。
【0039】
[形態2]形態2によれば、形態1によるヘッドにおいて、前記ヘッド内における前記リテーナの位置を決めるための位置決め部材を有し、前記位置決め部材は、基板の辺から垂直に前記リテーナの方を見た場合に前記リテーナの前記端部領域に位置する。
【0040】
[形態3]形態3によれば、形態1または形態2によるヘッドにおいて、前記リテーナの端部領域は曲線部分を有し、前記リテーナの曲線部分は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置されている。
【0041】
[形態4]形態4によれば、形態1から形態3のいずれか1つの形態によるヘッドにおいて、前記リテーナは中央領域を有し、前記リテーナの前記端部領域は前記中央領域から延在している。
【0042】
[形態5]形態5によれば、形態1から形態4のいずれか1つの形態によるヘッドにおいて、複数の前記リテーナを有し、前記複数のリテーナの各々は、前記ヘッドに保持される基板の各辺に沿って配置されている。
【0043】
[形態6]形態6によれば、角形の基板を研磨するための研磨装置が提供され、かかる研磨装置は、研磨パッドを保持するテーブルと、形態1から形態5のいずれか1つの形態によるヘッドと、有し、前記ヘッドに保持された基板を、前記研磨パッドに押し当てて、基板と前記研磨パッドとを相対的に運動させて、基板を研磨するように構成されている。
【0044】
[形態7]形態7によれば、研磨装置の研磨対象である角形の基板を保持するためのヘッドに使用されるリテーナが提供され、かかるリテーナは、前記リテーナは端部領域を有し、前記端部領域は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置され、且つ、前記端部領域の基板側の端面は、前記リテーナの長手方向の端部に向かうにしたがって基板から離れるように構成される。
【0045】
[形態8]形態8によれば、形態7によるリテーナにおいて、ヘッド内における前記リテーナの位置を決めるための位置決め部材を取り付けるための位置決め特徴を有し、前記位置決め特徴は、前記リテーナの端部領域に位置する。
【0046】
[形態9]形態9によれば、形態7または形態8によるリテーナであって、前記リテーナの端部領域は曲線部分を有し、前記リテーナの曲線部分は、前記ヘッドに保持される基板の角部に隣接するように配置されている。
【0047】
[形態10]形態10によれば、形態7から形態9のいずれか1つの形態によるリテーナにおいて、前記リテーナは中央領域を有し、前記リテーナの前記端部領域は前記中央領域から延在している。
【0048】
[形態11]形態11によれば、形態10によるリテーナであって、前記リテーナの中央領域は直線部分を有し、前記リテーナの前記直線部分は、前記ヘッドに保持される基板の辺に沿うように配置されている。
【符号の説明】
【0049】
2…本体
3…リテーナ部材
3a…溝
3b…中央領域
3c…端部領域
3d…位置決め特徴
4…弾性膜
4a…隔壁
5…センター室
6…リプル室
7…中間室
8…アウター室
9…エッジ室
10…リテーナ部材加圧室
18…シャフト
300…研磨装置
302…研磨ヘッド
350…研磨テーブル
352…研磨パッド
352a…研磨面
WF…基板