(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ホエイ加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 21/00 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
A23C21/00
(21)【出願番号】P 2024534344
(86)(22)【出願日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2024011449
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2023048482
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 淳美
(72)【発明者】
【氏名】出口 千尋
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0084364(US,A1)
【文献】特表平11-508124(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114097893(CN,A)
【文献】国際公開第2023/182501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C21/00
C12P19/00
A23J 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の工程を有するホエイ加工食品の製造方法:
(1)乳糖含量が固形分換算で36~74質量%のホエイ含有液について、ホエイ含有液中に含まれる乳糖のうち10~20質量%を加水分解する工程、
(2)前記加水分解処理後のホエイ含有液を加熱濃縮して、固形分濃度55~90質量%のホエイ濃縮液を調製する工程、及び
(3)60℃~90℃に調整した前記ホエイ濃縮液に粉砕乳糖を添加し、撹拌後冷却する工程;
ここで、前記ホエイ加工食品は、下記A~Cの特性を有するものである;
A:乳糖を15質量%以上の割合で含有する、
B:ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%である、
C:ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶中に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上である;
前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
【請求項2】
前記(1)工程においてホエイ含有液が、たんぱく質を固形分換算で5~21質量%の割合で含有するものである、請求項1に記載する製造方法。
【請求項3】
前記(1)工程においてホエイ含有液が、脂質を固形分換算で9~60質量%の割合で含有するものである、請求項1又は2に記載する製造方法。
【請求項4】
前記(3)工程において、ホエイ濃縮液への粉砕乳糖の添加量が0.01質量%以上である、請求項1又は2に記載する製造方法。
【請求項5】
前記(3)工程において、ホエイ濃縮液への粉砕乳糖の添加量が0.01質量%以上である、請求項3に記載する製造方法。
【請求項6】
固形分濃度が55質量%以上であるホエイ加工食品であって、
ホエイ加工食品の固形分100質量%中のたんぱく質含量が5~21質量%、乳糖含量が29~70質量%、及び脂質含量が9~60質量%であり、
たんぱく質の総量100質量%中のホエイたんぱく質含量が73~97質量%であり、
下記A~Cの特性を有する、ホエイ加工食品;
A:乳糖を15質量%以上の割合で含有する、
B:ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%である、
C:ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶中に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上である;
前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
【請求項7】
ホエイ加工食品の不溶解物含量が0.4ml以下である、請求項6に記載するホエイ加工食品。
【請求項8】
たんぱく質の総量100質量%中のα-ラクトアルブミン含量が10~14質量%、及びβ-ラクトグロブリン含量が31~42質量%である、請求項6又は7に記載するホエイ加工食品。
【請求項9】
ホエイ加工食品100gの製造に使用されるホエイ使用量が、ホエイ乾燥物の量に換算して30g以上である、請求項
7に記載するホエイ加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホエイ加工食品の製造方法に関する。また本発明はホエイ加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
生乳は加工技術によって、牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、又はクリームなど、多彩な乳製品へと加工され、人々に食されている。しかし、チーズの製造工程において、生乳からチーズになるのは約10%のみであり、残りの約90%がホエイ(乳清)として排出される。ホエイは、チーズの製造工程における副生物であるため、各種の必須アミノ酸、タンパク質、ビタミン類、及び糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材でもある。しかしながら、ホエイは変質しやすく保存性が低いことや、特有の風味を有することから、食品分野で十分に利用されていない。このため、工業利用されているホエイは世界中で排出されるホエイ全体の59%に留まり、残り41%は家畜飼料や農業肥料として利用されるか、若しくは産業廃棄物として処理されているのが実情である。このため、ホエイの有効活用や活用先の拡大を図ることは、未利用乳資源の有効利用、廃棄物を減少して環境保全を図るなど、サステナブルな社会の実現を目指すうえで、特に乳製品を製造する会社の責務として重要な課題である。
【0003】
ホエイの変質の一つとして、ホエイに含まれる乳糖の変質が挙げられる。一般に、乳糖濃度の高い飲食物中では、乳糖の結晶が生成し、巨大化することで、舌にザラツキを感じ、滑らかな食感を失うことが知られている。この現象は、乳糖濃度が高くなるほど顕著に発生する。乳糖濃度が高いホエイ加工食品の一つであるブラウンホエイチーズについても、乳糖結晶が食感に及ぼす影響が指摘されており、理想的な結晶サイズは20-30μmであること、結晶サイズが100μmを超えると舌にザラツキを感じるようになることが知られている(非特許文献1)。このため、乳糖を多く含むホエイを食品素材として有効利用するためには、ホエイに含まれる乳糖の結晶化やその巨大化を防止し、良好な食感を保つことが求められる。
【0004】
ホエイ中の乳糖の結晶化を抑制する方法として、ホエイをナノフィルトレーションにより脱塩処理し、のち乳糖分解酵素で乳糖分解処理をする方法が知られている(特許文献1)。この方法によると、脱塩することで風味がよく、乳糖を分解することで濃縮した場合も粘度が低く、また濃縮液の輸送時等に乳糖の結晶化が惹起されない特徴を有する乳糖分解脱塩ホエイを得ることができる。また、乳糖の結晶化抑制方法ではないものの、マンニトールの結晶化抑制方法として、非結晶性糖質を結晶析出調整剤として用いることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-129579号公報
【文献】特開2007-215450号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Siv Skeie, Roger K. Abrahamsen, “Chapter 45: Brown Whey Cheese”, Cheese 4th edition: Chemistry, Physics and Microbiologys
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ホエイの有効活用や活用先の拡大を図るために、食感が良好なホエイ加工食品を提供することを課題とする。より詳細には、本発明は、舌でのザラツキが少なく舌触りが滑らかで、且つ、歯への付着性が少なく、食感が良好なホエイ加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、乳糖を15質量%以上もの高濃度で含むホエイ加工食品において、乳糖結晶の含有量を低減するとザラつきを感じず舌触りが滑らかになる一方で、歯への付着性が高くなるという問題があることを知見した。このため、滑らかさと歯付着感低下を両立した、食感良好なホエイ加工食品を得るべく、さらに研究を重ねた。その結果、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の含有割合を3~5%まで低減するとともに、乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶の割合と微細乳糖結晶の割合を適当量に調整することで、これが実現できることを見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見と更なる研究に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(I)ホエイ加工食品の製造方法
(I-1)下記(1)~(3)の工程を有するホエイ加工食品の製造方法:
(1)乳糖含量が固形分換算で36~74質量%のホエイ含有液について、ホエイ含有液中に含まれる乳糖のうち10~20質量%を加水分解する工程、
(2)前記加水分解処理後のホエイ含有液を加熱濃縮して、固形分濃度55~90質量%のホエイ濃縮液を調製する工程、及び
(3)60℃~90℃に調整した前記ホエイ濃縮液に粉砕乳糖を添加し、撹拌後冷却する工程;
ここで、前記ホエイ加工食品は、下記A~Cの特性を有するものである;
A:乳糖を15質量%以上の割合で含有する、
B:ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%である、
C:ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶中に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上である;
前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
(I-2)前記(1)工程のホエイ含有液が、タンパク質を固形分換算で5~21質量%の割合で含有するものである、(I-1)に記載する製造方法。
(I-3)前記(1)工程のホエイ含有液が、脂質を固形分換算で9~60質量%の割合で含有するものである、(I-1)又は(I-2)に記載する製造方法。
(I-4)前記(3)工程において、ホエイ濃縮液への粉砕乳糖の添加量が0.01質量%以上である、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する製造方法。
【0010】
(II)ホエイ加工食品
(II-1)固形分濃度が55質量%以上であるホエイ加工食品であって、
ホエイ加工食品の固形分100質量%中のたんぱく質含量が5~21質量%、乳糖含量が29~70質量%、及び脂質含量が9~60質量%であり、
たんぱく質の総量100質量%中のホエイたんぱく質含量が73~97質量%であり、
下記A~Cの特性を有する、ホエイ加工食品;
A:乳糖を15質量%以上の割合で含有する、
B:ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%である、
C:ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶中に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上である;
前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
(II-2)ホエイ加工食品の不溶解物含量が0.4ml以下である、(II-1)に記載するホエイ加工食品。
(II-3)たんぱく質の総量100質量%中のα-ラクトアルブミン含量が10~14質量%、及びβ-ラクトグロブリン含量が31~42質量%である、(II-1)又は(II-2)に記載するホエイ加工食品。
(II-4)ホエイ加工食品100gの製造に使用されるホエイ使用量が、ホエイ乾燥物の量に換算して30g以上である、(II-1)~(II-3)のいずかに記載するホエイ加工食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、舌でのザラツキが少なく舌触りが滑らかで、且つ、歯への付着性が少なく、食感が良好なホエイ加工食品の製造方法、及びホエイ加工食品を提供することができる。本発明の製造方法によれば、従来、栄養学的に優れながらも有効活用できてなかったホエイの問題を解決することにより、ホエイを食品素材として有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実験例1で調製したホエイ加工食品A~EのX線回折像を示す。2θ=5~40°の範囲に検出されるピークが、乳糖一水和物結晶のピークであり、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される最も大きいメインピークを乳糖結晶の割合の算出に用いた。
【
図2】実験例1で調製したホエイ加工食品O(乳糖分解率20%、シーディング処理有・80℃)をスライスした物の断面組織を位相差顕微鏡(対物倍率×10)で観察した画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(I)ホエイ加工食品
本発明のホエイ加工食品(以下、「本食品」とも称する)は、ホエイを原料として製造される食品である。
ホエイは、哺乳動物の乳から脂肪及びカゼインがほぼ除去されたものであって、チーズ製造の際に副生物として生じるものである。ホエイには、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)、及びその凍結物が含まれる。乳の由来となる哺乳動物としては、牛、水牛、山羊、及び羊等が例示されるが、好ましくは牛、特に乳用牛(ホルスタイン、ジャージー牛)である。
【0014】
本食品は、前述するホエイを原料として製造されるものであって、且つ、下記の特性を有することを特徴とする:
(1)乳糖の含有量:15質量%以上、
(2)乳糖結晶の割合:3~5%、
(3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶の割合:10%以下
ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める微細乳糖結晶の割合:70%以上。
【0015】
以下、これらの特性について説明する。
本発明において「固形分」とは水分を除いた成分を意味する。
本明細書において「固形分濃度」とは、対象物(例えば、ホエイ加工食品)に含まれる固形分の割合を意味し、対象物の総量(湿質量)を100質量%とした場合に、当該総量に占める固形分の割合(質量%)で示される。
【0016】
また、本明細書において、対象物(例えば、ホエイ加工食品)中の成分の固形分換算による含有量(これを「固形分換算量」ともいう)は、当該対象物に含まれる成分の割合を固形分で換算した値を意味する。具体的には、対象物の固形分の総量(乾質量)を100質量%とした場合に、当該固形分総量に占める成分の割合(質量%)で示される。
【0017】
対象物に含まれる固形分の質量及びその濃度(固形分濃度)は、常圧加熱乾燥法(混砂法)により求めることができる。具体的には、秤量皿に海砂及びガラス棒を入れた状態で恒量を求めたのち、これに被験試料及び蒸留水を加え、99℃で4時間、乾燥器内で乾燥させる。その後、被験試料の乾燥前後の質量差から被験試料中の水分含量を求める。斯くして測定した水分含量から、被験試料(乾燥前)に含まれている固形分の質量を求め、それから固形分濃度を算出することができる。
【0018】
(1)乳糖の含有量
ホエイ加工食品の乳糖の含有量は、15質量%以上であればよい。下限値としては、制限されないものの、例えば30質量%、35質量%、39質量%、又は40質量%を例示することができる。その上限値は、制限されないものの、例えば60質量%程度、51質量%、又は49質量%を例示することができる。なお、これらの下限値及び上限値は各々任意に組みあわせて範囲を設定することができる(以下、本明細書の記載において同様に適用される)。ホエイ加工食品の乳糖の含有量は、15~60質量%の範囲で適宜設定することができる。制限されないものの、好ましくは20~51質量%、より好ましくは30~51質量%、さらに好ましくは35~51質量%、特に好ましくは39~49質量%の範囲を例示することができる。
【0019】
前記乳糖の含有量は、固形分換算、つまりホエイ加工食品の固形分100質量%における乳糖の含有量に換算すると、27質量%以上であることができる。下限値は29質量%以上、好ましくは45質量%、より好ましくは47質量%以上、さらに好ましくは49質量%以上である。上限値は70質量%以下、好ましくは68質量%以下、より好ましくは67質量%以下である。かかる範囲としては、例えば27~70質量%、29~68質量%、29~67質量%、49~70質量%、49~68質量%、及び49~67質量%を挙げることができる。
【0020】
本発明において乳糖の含有量は、酵素電極法を用いて測定することができる。その具体的な測定方法は、実験例2において詳細に説明する。本食品における乳糖の固形分換算量は、本食品中の乳糖含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0021】
(2)乳糖結晶の割合
本食品中の乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(α型)(標準品)のメインピークの面積を基準として、対象とするホエイ加工食品について同方法により得られる、前記メインピークに該当する位置におけるピークの面積から求められる割合である。その測定及び算出方法の詳細は、後述する実験例1にて説明する。
【0022】
測定に供する被験試料(測定試料)の調製方法としては、固形分濃度が例えば80質量%以上の硬い固形状のホエイ加工食品については実験例1と同様に厚さ0.5mmにスライスすることで調製することができる。一方、固形分濃度が例えば55~80質量%未満の半固形状又は柔らかい固形状のホエイ加工食品については、粉末X線回折測定法に用いられる試料調製法のうち、フロンド・ローディング法に従って調製することができる。具体的には、深さ0.5mm、底面20mm×20mmの正方形柱状のくぼみ(試料充填部)を有するガラス製試料ホルダーの当該試料充填部に、被験試料を充填し、別のガラス板の縁を用いて表面を擦り切ることで、X線回折に供する被験試料の表面を面一に(平滑に、均一に)仕上げた後、5℃で冷却することで調製することができる。
【0023】
本食品の乳糖結晶の割合は3~5%であることが好ましく、この範囲で適宜設定することができる。
【0024】
(3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合
本食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、位相差顕微鏡観察により求められる、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。その測定及び算出方法の詳細は、後述する実験例1にて説明する。測定用のプレパラートは、ホエイ加工食品1mg程度をスライドガラス上に載せ、カバーガラスで試料を押しつぶして試料を薄く延ばすことで作製することができる(押し潰し法)。
【0025】
本発明において、粗大乳糖結晶とは、ホエイ加工食品を位相差顕微鏡で観察した際に認められる粒子(乳糖結晶の粒子)の水平投影面積から求められる円相当径が30μm以上である結晶をいう。また微細乳糖結晶とは、同様にホエイ加工食品を位相差顕微鏡で観察した際に認められる粒子(乳糖結晶の粒子)の水平投影面積から求められる円相当径が10μm以下である結晶をいう。位相差顕微鏡による粒子の水平投影面積の測定方法、及び円相当径の算出方法の詳細も、後述する実験例1にて説明する。
【0026】
乳糖結晶全体に占める粗大乳糖結晶の割合は、それぞれに該当する結晶粒子の総面積換算で10%以下である。10%以下であれば特に制限されないものの、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下、さらに好ましくは0%である。
【0027】
乳糖結晶全体に占める微細乳糖結晶の割合は、それぞれに該当する結晶粒子の総面積換算で70%以上である。70%以上であれば特に制限されないものの、好ましくは72%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0028】
本食品は、前述する特性を有する固形状又は半固形状の食品であればよく、その限りにおいて、ホエイ以外の原料成分として、他の成分を配合して調製されるものであってもよい。乳糖の原料(乳糖源)としては、前述するホエイ以外に、脱塩ホエイ、WPC、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、及びWPIを用いることもできる。その他、たんぱく質濃縮物の副産物であるパーミエート粉、ホエイまたはパーミエートを濃縮、精製することによって得られる食品用乳糖等、乳糖を含む原料等を、由来の別を問わず、任意に用いることもできる。他の成分としては、生乳、牛乳または乳製品(脱脂乳、濃縮乳、還元乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、バター、バターオイル、カゼイン等の乳蛋白質等)、山羊乳、還元糖、ゼラチン、安定剤などを例示することができる。
【0029】
本発明において固形状とは、25℃、大気圧の条件下に、少なくとも24時間そのまま静置した場合であっても自重によって変形しない形状をいう。また半固形状とは、前記の場合に自重によって変形する形状をいう。本発明のホエイ加工食品は、固形分濃度が55質量%以上であるものであればよく、これらには、ペースト状(半流動状、非成形状)のもの、柔らかい固形状のもの、及び硬い固形状のものが含まれる。なお、制限されないものの、ペースト状、柔らかい固形状、及び硬い固形状のホエイ加工食品の固形分濃度としては、それぞれ55~75質量%未満程度、75~80質量%未満程度、及び80~90質量%程度を例示することができる。
【0030】
(4)ホエイ加工食品中のたんぱく質含量
本食品において、乳糖以外の成分として含まれるたんぱく質の含有量は、制限されないものの、2質量%以上10質量%未満の範囲を挙げることができる。好ましくは4~8質量%、より好ましくは6~8質量%の範囲を挙げることができる。
【0031】
前記たんぱく質の含有量は、固形分換算、つまりホエイ加工食品の固形分100質量%におけるたんぱく質の含有量に換算すると、5~21質量%の範囲であることができる。下限値は5質量%以上、好ましくは6質量%以上、より好ましくは7質量%以上であり、上限値は21質量%以下、好ましくは13質量%以下、より好ましくは11質量%以下である。かかる範囲としては、例えば7~21質量%、5~11質量%、7~11質量%、及び8~9質量%を挙げることができる。
【0032】
本食品中に含まれるたんぱく質の総量は、ケルダール法を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品におけるたんぱく質の固形分換算量は、本食品中のたんぱく質総含量と、前述する常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0033】
本食品中のたんぱく質には、ホエイたんぱく質、及びカゼイン等の乳由来たんぱく質が含まれる。本食品に含まれるたんぱく質総量100質量%中のホエイたんぱく質の割合は、制限されないものの、73~100質量%、好ましくは73~97質量%の範囲を挙げることができる。またその残部はカゼインにより構成することができる。
【0034】
ホエイたんぱく質は、ホエイに含まれるたんぱく質成分であり、代表的な成分として、α-ラクトアルブミン(α-LA)、β-ラクトグロブリン(β-LG)、免疫グロブリンおよびラクトフェリンが挙げられる。本発明においては、たんぱく質の一部および全部をホエイたんぱく質として用いることができる。なお、ホエイたんぱく質100質量%中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、制限されないものの、α-LAは12~28質量%、好ましくは13~15質量%;β-LGは37~74質量%、好ましくは42~44質量%の範囲を挙げることができる。このように、ホエイたんぱく質中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、乳の種類に応じてほぼ定まっている。例えば、乳用牛由来のホエイたんぱく質の場合、ホエイたんぱく質中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、総量で約49~90質量%である。
制限されないものの、本食品中のたんぱく質総量100質量%中のα-LA含量及びβ-LG含量はそれぞれ10~14質量%及び31~42質量%を挙げることができる。
【0035】
本食品中に含まれるホエイたんぱく質の固形分換算量は5~21質量%の範囲から選択することができる。下限値は5質量%以上、好ましくは7.6質量%より多く、より好ましくは8質量%以上であり、上限値は21質量%以下、好ましくは13質量%以下、より好ましくは11質量%以下である。かかる範囲としては、例えば5~11質量%、7.6質量%より多く11質量%以下、及び8~11質量%を挙げることができる。
【0036】
また、制限されないものの、本食品中に含まれるα-LAの固形分換算量は0.7~2質量%の範囲から選択することができる。下限値は0.7質量%以上、好ましくは1.0質量%より多く、より好ましくは1.1質量%以上であり、上限値は2質量%以下、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。かかる範囲としては、例えば0.7~1.8質量%、0.7~1.5質量%、1.1~1.8質量%、及び1.1~1.5質量%を挙げることができる。
【0037】
また、制限されないものの、本食品中に含まれるβ-LGの固形分換算量は2.2~5質量%の範囲から選択することができる。下限値は2.2質量%以上、好ましくは3.2質量%より多く、より好ましくは3.3質量%以上であり、上限値は5質量%以下、好ましくは4.8質量%以下、より好ましくは4.6質量%以下である。かかる範囲としては、例えば2.2~4.8質量%、2.2~4.6質量%、3.3~4.8質量%、及び3.3~4.6質量%を挙げることができる。
【0038】
本食品中に含まれるα-LA及びβ-LGの量は、いずれもSDS-PAGE法を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。なお、SDS-PAGEに供する被験試料は、加熱濃縮する前のものであることが好ましい。本食品におけるα-LA又はβ-LGの固形分換算量は、本食品中のα-LA又はβ-LGの含有量と、前述する常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
前述するようにホエイたんぱく質中のα-LA及びβ-LGの含有割合はほぼ決まっていることから、本食品中に含まれるホエイたんぱく質の量は、本食品中に含まれるα-LA及びβ-LGの総量から計算により求めることができる。例えば、ホエイ粉を用いて本食品を製造する場合、当該本食品中に含まれるホエイたんぱく質の量は、α-LA及びβ-LGの総量の1.75倍の量として計算することができる。
【0039】
本食品中のカゼインの固形分換算量は0~5質量%の範囲から選択することができる。下限値は0質量%以上、好ましくは0.1質量%より多く、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。上限値は5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。かかる範囲としては、例えば0~5質量%、0~3質量%、0~2質量%、0.3~5質量%、0.3~3質量%、0.3~2質量%を挙げることができる。
【0040】
本食品中に含まれるカゼインの量は、差し引き法(全たんぱく質―非カゼイン態たんぱく質)を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品におけるカゼインの固形分換算量は、本食品中のカゼイン総含量と、前述する常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。なお、カゼインの種類として、αs-1カゼイン、αs-2カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、及びγ-カゼインを挙げることができる。
【0041】
(5)ホエイ加工食品中の脂質含量
また、本発明のホエイ加工食品には、前述する乳糖含有量及び乳糖結晶の特性を損なわないことを限度として、乳糖及びたんぱく質以外の成分として、脂質を配合することもできる。脂質の含有量としては、制限されないものの、5質量%以上の範囲から適宜選択することができる。
【0042】
前記脂質の含有量は、固形分換算、つまりホエイ加工食品の固形分100質量%における脂質の含有量に換算すると、9~60質量%であることができる。下限値は9質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは28質量%以上、さらに好ましくは39質量%以上である。上限値は60質量%以下、好ましくは58質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。かかる範囲としては、例えば9~55質量%、25~55質量%、28~55質量%、39~60質量%、39~55質量%を挙げることができる。
本食品中の脂質含量は、レーゼゴットリーブ法により測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品における脂質の固形分換算量は、本食品中の脂質含量と、前述する常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0043】
(6)ホエイ加工食品中の不溶解物含量
本食品中に含まれる不溶解物の量は、0.4ml以下であることが好ましい。好ましくは0.3~0.35ml、より好ましくは0.25~0.30mlの範囲である。
不溶解物含量の測定方法の詳細は、実施例の欄において説明する。なお、本発明において不溶解物とは、後述する測定方法で測定される物であり、不溶解物含量は当該測定方法で測定することができる。
【0044】
後述するように、本食品はホエイを主原料として製造される。制限されないものの、本食品100gの製造に使用されるホエイ使用量は、ホエイ乾燥物の量に換算して30g以上であることが好ましい。
【0045】
本発明が対象とするホエイ加工食品には、制限されないものの、下記に記載するブラウンホエイチーズ、イェトスト、及びキャラメル等が含まれる。制限されないものの、これらのホエイ加工食品は以下の食品であることが知られている。
【0046】
ブラウンホエイチーズ:
ホエイにミルク、クリームを加えて、加熱濃縮して得られる、固形分濃度55~85質量%、脂質含量4~30質量%の食品。なお、ブラウンホエイチーズは、国や地域によっては、ブラウンチーズやブルノストといった名称で呼称されるが、いずれも同じホエイ加工食品である。
【0047】
イェトスト:
ホエイにミルク、クリームを加えて、加熱濃縮して得られる、固形分濃度55~85質量%、脂質含量4~30質量%の食品であって、使用する乳の全部または一部が山羊乳由来である食品。
【0048】
キャラメル:
乳原料を使用し、乳感のある風味付けのなされたソフトキャンデ―様構造物であって、乳原料の一部にホエイ加工食品を使用した食品。
【0049】
また、本食品には、ホエイにミルク又は乳脂肪を加えた物品で濃縮又は乾燥をして得たものもの含まれ、これらには、下記の特性を有するものが含まれる:
(a)乳脂肪分が全乾燥重量の5質量%以上(固形分換算量)である。
(b)乾燥固形分が全重量の50質量%以上85質量%以下である。
(c)成型したもの又は成型が可能なものである。
【0050】
(II)ホエイ加工食品の製造方法
前述するホエイ加工食品は、ホエイを主原料として調製されるたんぱく質、乳糖、及び脂質を含有するホエイ含有液を、下記処理に供することで製造することができる。
(1)乳糖加水分解処理、
(2)濃縮処理、及び
(3)シーディング処理。
以下、ホエイ含有液、及び前記処理について説明する。
【0051】
ホエイ含有液
本発明において「ホエイ」とは、乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分(乳清)を意味する。但し、ホエイには、除去しきれなかった脂肪、カゼイン、及び/又は脂溶性ビタミン等が含まれていてもよい。ホエイとしては、例えば、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に副産物として得られるチーズホエイおよびレンネットホエイ(スイートホエイとも呼ばれる)や、発酵乳やクワルクなどを製造した際に得られるカゼインホエイ、酸ホエイおよびクワルクホエイが挙げられる。
【0052】
ホエイ含有液の原料として、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)、及びその凍結物を用いることができる。また、脱塩ホエイ、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、及びホエイたんぱく質精製物(WPI)を用いることもできる。なお、一般的に、WPCは固形分の約25質量%~約80質量%がホエイたんぱく質であるものの総称であり、WPIは固形分の約80質量%以上がホエイたんぱく質であるものの総称である。原料として好ましくは、ホエイの濃縮物、及び乾燥物(ホエイ粉など)であり、より好ましくはホエイ乾燥物である。制限されないものの、本食品100gの製造に使用されるホエイ使用量は、ホエイ乾燥物の量に換算して30g以上であることが好ましい。
【0053】
ホエイ含有液は、ホエイを主原料とし、少なくとも乳糖を固形分換算で36~74質量%の割合で含有するものであることが好ましい。当該乳糖の固形分換算量は、好ましくは46~70質量%であり、より好ましくは56~60質量%である。
【0054】
また、ホエイ含有液中に含まれるたんぱく質含量は、固形分換算で、5~21質量%の範囲である。当該たんぱく質の固形分換算量は、好ましくは7~20質量%、より好ましくは9~10質量%である。
制限されないものの、ホエイ含有液中に含まれるたんぱく質含量10質量部に対する乳糖の割合は、30~68質量部の範囲で選択することができ、好ましくは63~67質量部、より好ましくは63~66質量部である。
【0055】
ホエイ含有液中には、乳糖及びたんぱく質以外に、脂質も含まれていてもよい。ホエイ含有液中に含まれる脂質含量は、固形分換算で、9~60質量%の範囲である。当該脂質の固形分換算量は、好ましくは20~40質量%、より好ましくは25~30質量%である。制限されないものの、ホエイ含有液中に含まれるたんぱく質含量10質量部に対する脂質の割合は9~79質量部の範囲で選択することができる。好ましくは12~31質量部、より好ましくは17~31質量部である。
【0056】
ホエイ含有液中に含まれる水分含量は制限されないが、例えば25~90質量%の範囲を挙げることができる。好ましくは25~50質量%、より好ましくは25~40質量%の範囲である。ホエイ加工食品中の水の含有量は、常圧加熱乾燥法により求めることができる。水の原料(水分源)としては、制限されないが、前述するホエイたんぱく質源、乳糖源及び脂質源として使用する各種原料(例えばホエイの原液、その濃縮物、生乳、牛乳、又は乳製品)を例示することができる。
【0057】
(1)乳糖加水分解処理
乳糖加水分解処理は、ホエイ含有液中に含まれる乳糖を加水分解し、低分子化する処理である。本発明で採用される乳糖加水分解処理は、ホエイ含有液中に含まれる乳糖の一部、好ましくは乳糖全量100質量%のうち10~20質量%を加水分解する処理である。こうすることで、実験例1に示すように、製造されるホエイ加工食品中の乳糖含量や乳糖結晶の割合等を所定の範囲に調整することができ、その結果、食感(舌触り、歯付着感の低下)が良好なホエイ加工食品を調製することができる。
【0058】
この限りにおいて、加水分解処理の方法やその条件は特に制限されるものではない。好ましくは、乳糖分解酵素、たとえばラクターゼを用いてホエイ含有液中に含まれる乳糖の一部を加水分解し、グルコース及びガラクトースにする処理である。
【0059】
例えば、乳糖分解酵素を用いて、ホエイ含有液中に含まれる乳糖全量100質量%のうち10~20質量%を加水分解する方法は、その酵素活性に応じて、配合割合、反応温度、酵素処理時間等を適宜調整することで設定することができる。例えば、ホエイ含有液に乳糖分解酵素を配合して50℃程度の温度で10~20分程度処理する方法が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0060】
ホエイ含有液中に含まれる乳糖全量100質量%のうち10~20質量%が加水分解されているか否かは、加水分解処理前後でホエイ含有液中の乳糖濃度を測定し、下記式から乳糖分解率を求めることで評価することができる。なお、乳糖濃度は、前述するように酵素電極法により測定することができる。
【0061】
[式]
乳糖分解率%=
100-〔(加水分解処理後の乳糖濃度/加水分解処理前の乳糖濃度)×100〕
【0062】
(2)濃縮処理
濃縮処理は、加水分解処理後のホエイ含有液を、固形分濃度が55~90質量%程度になるまで濃縮してホエイ濃縮液を調製する処理である。かかる処理であれば、その具体的な方法や条件は特に制限されないものの、好ましくはホエイ含有液を、撹拌加熱しながら固形分濃度が55~90質量%程度になるまで減圧濃縮、若しくは、大気圧下にて加熱濃縮する方法を例示することができる。
【0063】
加熱条件としては、本発明の効果を妨げないことを限度として制限されないものの、例えば減圧濃縮の場合は、50~80℃の範囲を挙げることができる。好ましくは60~70℃の範囲である。減圧条件としても、本発明の効果を妨げないことを限度として制限されないものの、例えば真空圧力(ゲージ圧力[相対圧力])-20kPa~-80kPaの範囲を挙げることができる。好ましくは-40kPa~-80kPaの範囲である。大気圧下での加熱濃縮の場合は、100~130℃の温度範囲を挙げることができる。好ましくは100~110℃の範囲である。
【0064】
(3)シーディング処理
シーディング処理は、前記処理により調製したホエイ濃縮液を、60~90℃に調整し、この温度条件で粉砕乳糖を添加して撹拌し、微細結晶を析出させる処理である。
温度条件としては、前記60~90℃の範囲で設定できるが、好ましくは60~85℃、より好ましくは70~80℃の範囲である。
【0065】
粉砕乳糖としては、通常、日本薬局方のα-含水結晶乳糖であって、ボールミルやハンマーミル等で10μm以下に粉砕し、130℃で1~2時間乾熱滅菌又はオゾン殺菌されたものが使用される。好ましくは、粒子径D50が3μm以下、及びD90が5μm以下の粉砕乳糖である。
【0066】
ホエイ濃縮液中への粉砕乳糖の添加量は、前述する乳糖結晶の特性を有する本食品が製造できる範囲であればよく、その範囲で制限されないものの、ホエイ濃縮液中の粉砕乳糖の濃度が0.01質量%以上から設定することができる。好ましくは0.02~0.5質量%の範囲である。
【0067】
撹拌条件及びその時間も、前述する乳糖結晶の特性を有する本食品が製造できる条件及び時間であればよく、その範囲で制限されないものの、撹拌条件としては、二軸混錬機(株式会社入江商会製、直径60mm、軸間距離50mm、長さ120mm、ねじれ角60°の羽根をもつ、回転方向は同方向)にて0~100rpmの範囲の回転条件が挙げられる。撹拌時間としては、15~30分の範囲の回転条件が挙げられる。
【0068】
前述する(1)~(3)の処理後、5℃程度まで冷却することで、本食品を調製することができる。
本発明のホエイ加工食品が得られているか否かは、前述する方法でホエイ加工食品中の乳糖含量や乳糖結晶の割合、並びに乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合を測定することで確認することができる。また必要に応じて、前述する方法でホエイ加工食品中のたんぱく質含量、脂質含量、及び不溶解物含量を測定することもできる。
【0069】
斯くして製造される本食品は、乳糖を15質量%以上の割合で含有するホエイ加工食品であって、舌触りが滑らかで、且つ、歯への付着性が少なく、食感良好なホエイ加工食品である。このため、本発明の製造方法は、かかる食感良好なホエイ加工食品を製造する方法として有用である。
【0070】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【0071】
(持続可能な開発目標(SDGs)への寄与)
本発明は、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための手段として活用し得る。本発明を利用することにより、持続可能な開発目標(SDGs)とターゲットの達成に寄与することができる。
【0072】
具体的には、持続可能な開発目標(SDGs)は以下のとおりである(「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」、外務省、インターネット〈URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf〉)。
目標1.あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる。
目標2.飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する。
目標3.あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
目標4.すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する。
目標5.ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワーメントを行う。
目標6.すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。
目標7.すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する。
目標8.包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する。
目標9.強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る。
目標10.各国内及び各国間の不平等を是正する。
目標11.包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。
目標12.持続可能な生産消費形態を確保する。
目標13.気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。
目標14.持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。
目標15.陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する。
目標16.持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
目標17.持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。
【0073】
本発明は、特に、目標2(飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する)および目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)の達成に寄与できる。すなわち、各種の必須アミノ酸、タンパク質、ビタミン類、糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材であるホエイをホエイ加工食品として提供することにより、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者を含むすべての人々に安全で十分な食料を供給することに寄与できる。
【0074】
また、本発明は、特に、目標9(強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る)の達成に寄与できる。すなわち、ホエイの変質を抑える本技術により、ホエイの付加価値を新たに創出したことにより、産業の多様化や商品への付加価値創造などの技術開発、研究及びイノベーションを促進させることで、資源利用効率を向上させたり、産業プロセスの拡大や効率を向上させしたりして、持続可能かつ強靱(レジリエント)に、イノベーションを促進させることができる。
【0075】
また、本発明は、特に、目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)の達成に寄与できる。すなわち、チーズ製造メーカがチーズの製造工程において廃棄されることが多くあったホエイをホエイ加工食品として有効活用することにより、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることができる。また、食料の廃棄を半減させるなどして、持続可能な開発及び自然と調和した開発を行うことにより、持続可能な生産消費形態を確保することができる。
【0076】
さらに、本発明は、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されているそれぞれの目標に付随するターゲットの達成にも寄与できる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。
【0078】
実験例1
21種類のホエイ加工食品A~Uを製造して、各ホエイ加工食品の乳糖含量(質量%)、及び乳糖結晶の割合(%)を測定した。また、ホエイ加工食品G~Uについては、乳糖結晶中に含まれる粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合を測定した。さらに、これらのホエイ加工食品A~Uの食感(舌触り、歯付着感)を評価した。
【0079】
(1)原材料
なお、ホエイ加工食品の製造に使用した原料は以下の通りである:
ホエイ粉:ホエイを噴霧乾燥した粉(ホエイ100%)、乳糖含量80%、タンパク質含量12%(株式会社 明治製)、
クリーム:脂肪分47%、乳糖含量3%(株式会社 明治製)、
なお、クリームは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)の規定「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの」に該当する。
ラクターゼ:Saphera(登録商標)2600L(ノボザイムズ ジャパン株式会社製)
粉砕乳糖:(株式会社 ラクトジャパン製)
また、乳糖含量、及び乳糖結晶の割合の測定に使用した標準品は以下の通りである:
乳糖一水和物結晶(α型):ラクトース一水和物(100質量%)、富士フイルム和光純薬工業株式会社製。以下、「乳糖結晶(標準品)」と称する。
【0080】
(2)試験・評価方法
下記の実験例で使用した試験及び評価方法は、以下の通りである。
(2-1)ホエイ加工食品中の乳糖含有量(質量%)の測定
ホエイ加工食品中の乳糖含有量は、酵素電極法を用いて測定した。
ホエイ加工食品2.5gを蒸留水で100mLに定容したものを被験試料として、下記条件の測定装置に供した。また、事前に、乳糖結晶(標準品)を蒸留水で希釈し、0.25、0.50、1.0及び1.5g/100mLに調製し、これを検量線用の標準液とし、下記条件の測定装置に供して検量線を作成した。この検量線に基づいて、被験試料について得られた測定値から、被験試料中の乳糖含量を求め、次いでホエイ加工食品中の乳糖含量を算出した。
【0081】
[測定装置及び条件]
装置:酵素電極法バイオセンサBF-7(王子計測機器社製)
バッファー::BF用緩衝液pH7.0(王子計測機器社製)
電極:ラクトース電極(王子計測機器社製)
【0082】
(2-2)ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合(%)
ホエイ加工食品を厚さ0.5mmにスライスしたものを被験試料として、X線回折測定装置(SmartLab X-ray DIFFRACTOMETER:リガク製)を用いて乳糖結晶量を求めた。
具体的には、前記被験試料(1片)の厚さ0.5mmが上下面になるように、前記装置付属のガラスセルに乗せ、当該X線回折測定装置でX線回折像を測定した。なお、X線回折測定装置で、乳糖結晶(標準品)のX線回折像を測定すると、2θ=19.9~20.4°の範囲に乳糖結晶に由来するピークが複数検出されるが、そのうち、最も大きいピークをメインピークとして設定する。次いで、被験試料について得られたX線回折像について、平滑化処理とベース部分を差し引く処理をした後、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出されるピークのうち、乳糖結晶(標準品)の前記メインピークに相当するピークを対象として、その面積値を求めた。
【0083】
次いで、下式に従って、乳糖結晶(標準品)について同様に測定した上記メインピークの面積値を基準として、各ホエイ加工食品について得られた前記ピークの面積値の割合を求め、各ホエイ加工食品中に含まれる乳糖結晶の割合(%)を算出した。
【0084】
[式]
ホエイ加工食品中に含まれる乳糖結晶の割合(%)
= B/A × 100
A:乳糖結晶(標準品)の2θ=19.9~20.4°のメインピークの面積値
B:ホエイ加工食品(被験試料)について前記メインピークに相当するピークの面積値
【0085】
(2-3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合
前記で製造したホエイ加工食品1mg程度をスライドガラス上に載せ、カバーガラスで試料を押しつぶすようにして作成した(押し潰し法)プレパラートを、位相差顕微鏡(対物倍率×10、総合倍率10倍)により15視野を観察した。15視野の観察において取得した画像を2値化により背景と粒子(乳糖結晶の粒子)とに区分した後、粒子の総数を数えた。次いで、各粒子(各乳糖結晶)の水平投影面積を計測し、それぞれについて円相当径を算出した。円相当径が30μm以上である粒子を粗大乳糖結晶、10μm以下である粒子を微細乳糖結晶として、各粒子を分類し、粗大乳糖結晶の粒子数、及び微細乳糖結晶の粒子数を求めた。
【0086】
次いで、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)について各粒子の水平投影面積を積算することで、乳糖結晶粒子すべての総面積を求めた。これを本発明では「乳糖結晶総面積」とも称する。また、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち粗大乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、粗大乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを本発明では「粗大乳糖結晶総面積」とも称する。さらに、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち微細乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、微細乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを本発明では「微細乳糖結晶総面積」とも称する。
【0087】
乳糖結晶総面積を100%(基準)として、それに対する粗大乳糖結晶総面積の割合(%)及び微細乳糖結晶総面積の割合(%)を算出し、それぞれを乳糖結晶中に占める粗大乳糖結晶の割合(%)及び微細乳糖結晶の割合(%)とした。
【0088】
(2-4)ホエイ加工食品中のたんぱく質含量:ケルダール法
前記で製造したホエイ加工食品約1.5gを精秤して、温湯にて希釈または溶解した後、100ml容メスフラスコへ移し、冷却後に水で定容した。この希釈液20mlを分解フラスコに入れた。これに分解促進剤(ケルタブC)と硫酸12mlを徐々に加え混合した後、過酸化水素8mlを入れ混合した。次いで、分解装置で加熱分解して窒素をアンモニアに変換した。分解フラスコ中の液が透明となり、硫酸銅による青色を呈した後、冷却し、水50mlを徐々に加えて希釈した。その後、ケルダール蒸留装置で蒸留した。
具体的には、上記の分解液((NH4)2SO4を含むH2SO4)に、過剰量の水酸化ナトリウムを加えてアルカリ性にしてから蒸気で加熱して再びアンモニアを放出させ、遊離したアンモニアを水蒸気蒸留してホウ酸水溶液に捕集した。得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求め、窒素たんぱく質換算係数(6.38)を乗じてたんぱく質量を算出した。
【0089】
(2-5)α-LA、β-LGの定量:SDS-PAGE法
α-LA及びβ-LGの定量は、下記のSDS-PAGE法により実施することができる。
【0090】
(i)試薬の調製
(a)還元試薬の組成
50mM Tris-HCl緩衝液(pH6.8)、20%グリセリン、1%SDS、50mM DTT、0.005%BPB
【0091】
(b)試料溶液の調製
α-LA又はβ-LGの推定値約75mg/100gに調製した被験試料(ホエイ加工食品)100μlと還元試薬900μLを混合し、これを試料溶液とする(α-LA又はβ-LGの推定値約7.5mg/100gに調製)。
【0092】
(c)検量線用標準溶液の調製
α-LA又はβ-LGが、25、50、100、150μg/mlの濃度になるように、検量線用標準溶液を調製する。使用した標準品は以下の通りである。
α-LA標準品:α-Lactalbumin from bovine milk-type1 lyophilized powder(Sigma-Aldrich製)
β-LG標準品:β-Lactoglobulin from bovine milk-type1 lyophilized powder(Sigma-Aldrich製)
【0093】
(ii)還元及び電気泳動
試料溶液をマイクロチューブに採取し、100℃で5分間加熱した後に、冷却する(還元)。
検量線用標準溶液についても、同様に還元処理をする。
【0094】
次いで、各溶液を、それぞれ下記条件の電気泳動に供する。
(電気泳動条件)
ゲル:SPG520L(アトー株式会社)
緩衝液:EzRunC+(アトー株式会社)
試料溶液注入量:10μL
通電:一定電流40mA(20mA/ゲル)約70分間。
【0095】
通電後、ゲルを染色液(AE-1340 EzStain Aqua:アトー株式会社)に3時間浸漬し、その後蒸留水ですすぎ、24時間浸漬することで、脱色した。
脱色後、ゲルを透明性の高いガラス板に載せ、スキャナで読み取り、画像解析ソフトを用いてバックグラウンド補正をした後、バンドを検出し、シグナル強度を算出した。
【0096】
検量線用標準溶液を用いて作製した検量線をもとに、試験溶液について得られたα-LA又はβ-LGのバンドのシグナル強度から、試験溶液中のα-LA又はβ-LG濃度を求め、被験試料中の濃度を換算する。
【0097】
(2-6)カゼインの定量:差し引き法
前記で製造したホエイ加工食品約1.5gを精秤して、温湯にて希釈または溶解した後、100ml容メスフラスコに入れ、全液量を約80mlとする。これを40℃に保ち、10%酢酸1mlを加えて混和した後、約10分間放置する。さらに1N酢酸ナトリウム1mlを加え再び混和する。冷却後、水で定容し、乾燥ろ紙(東洋ろ紙NO.6)を用いてろ過し、ろ液20mlをとり、これを分解フラスコに入れる。その後は、前記(2-4)と同様にして、これに分解促進剤、硫酸及び過酸化水素を入れて分解装置で加熱分解した後、ケルダール蒸留装置で蒸留し、得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求め、たんぱく質含量を求める。このたんぱく質含量を「非カゼイン態たんぱく質含量」として、下式からカゼイン含量を算出する。
【0098】
[式]
カゼイン含量=全たんぱく質含量―非カゼイン態たんぱく質含量
【0099】
(2-7)ホエイ加工食品中の脂質含量:レーゼゴットリーブ法
前記で製造したホエイ加工食品約1gをアンモニア水2mlに分散させ、次いでエタノールを10ml添加した後、ジエチルエーテル25mlと石油エーテル25mlで抽出する。2回目の抽出として、ジエチルエーテル15mlと石油エーテル15mlで抽出する。回収した全抽出液を乾燥乾固させて、乾固物の質量を測定し、これを被験試料中の脂質含量とした。
【0100】
(2-8)ホエイ加工食品中の不溶解物含量
ADPI(American Dairy Products Institute)の STANDARDS for GRADES of DRY MILKS including Methods of ANALYSIS(Bulletin916)で開発された乳由来たんぱく質の溶解度指数の測定方法をアレンジして、ホエイ加工食品中の不溶解物含量を測定した。
具体的には、ホエイ加工食品を60℃程度に温めた水に溶解し、ホエイ加工食品含量が1%の水溶液(被験試料溶解液)を作製した。被験試料溶解液を室温に戻した後、先細りの50ml目盛り付き遠沈管(2本)に、前記被験試料溶解液を約50gずつ入れ、遠心分離(720xg、5min、20℃)した。遠心分離後、すぐに、沈殿層をかき乱さないようにして、上層を駒込ピペットで除去した。水(室温)を50mlのメモリまで加え、ミクロスパーテルで撹拌し、再度前記と同条件で遠心分離した。遠沈管のメモリから沈殿物の容積(mL)を読み取り、2連の平均値を、ホエイ加工食品(被験試料)の不溶解物含量とした。
【0101】
(2-9)ホエイ加工食品の食感評価
社内で訓練した4名の分析型官能評価専門パネル(訓練期間:5~15年間)を用いて、ホエイ加工食品について、「舌触り」と「歯付着感」を評価した。なお、ホエイ加工食品Iは、食感評価に供する前に温度10℃、湿度50%の恒温恒湿条件下に1時間保存したものを使用した。
【0102】
ホエイ加工食品について、「舌触り」と「歯付着感」を下記の基準に基づいて評価した。
(i)舌触り:喫食時において、舌のうえで感じるザラつきの有無や滑らかさ
下記の5段階評価により評価
5(最良):まったくザラつきはなく、非常に滑らか
4(良):ほとんどザラつきはなく、とても滑らか
3(佳):ややザラつきはあるが、滑らか
2(悪):ザラつきを感じ、滑らかでない
1(最悪):著しくザラつきが多く、まったく滑らかでない。
【0103】
(ii)歯付着感:噛んだ際に歯に付着することにより感じる抵抗感
5(最良):まったく歯に付着せず、歯への抵抗感がない
4(良):ほとんど歯に付着せず、歯への抵抗感がほとんどない
3(佳):やや歯に付着し、歯への抵抗感がややある
2(悪):歯に付着して、歯への抵抗感がある
1(最悪):著しく歯に付着して、歯への抵抗感が強くある。
【0104】
なお、食感評価を実施するにあたり、パネル全体で、各評価項目の特性について摺り合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。各評価は、各パネル毎に行い、次いでその結果をもとにパネル全体で話し合い、その結果をパネル全体の総合評価として、最終結果とした。
【0105】
また、舌触りと歯付着感の両方の結果から、下記の基準で総合評価を行った。
[総合評価]
◎:舌触りは5、歯付着感は4以上
○:舌触りと歯付着感の両方とも4
△:舌触りと歯付着感の少なくともいずれか一方に3以下の評価がある
×:舌触りと歯付着感の少なくともいずれか一方に2以下の評価がある
【0106】
(3)ホエイ加工食品A~Fの製造とその評価
(3-1)ホエイ加工食品A~Fの製造方法
表1に記載する割合で各原料を混合してホエイ含有液を調製した。ホエイ含有液100%中に含まれているたんぱく質含量は7%(固形分換算量9%)、乳糖含量は42%(固形分換算量58%)、及び脂質含量は21%(固形分換算量29%)である。
【0107】
【0108】
得られたホエイ含有液をそのまま(乳糖分解率0%)、又はこれにラクターゼを添加し、50℃で10~90分間保持して、ホエイ含有液に含まれる全乳糖100%のうち10~60%を分解した(対応するホエイ加工食品A~Fの乳糖分解率については表2参照)。これらをそれぞれ連続加熱式バキュームクッカー装置(株式会社ミハマ製)にて、20~60rpm、回転半径0.175m、0.37~1.1m/sで撹拌しながら、70℃条件で、真空(減圧)圧力(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:-20kPa~-50kPa、絶対圧力:約80kpa~50kpa)の条件下で、固形分濃度が80%になるまで5~60分間減圧濃縮した。固形分濃度80%まで濃縮した後、加圧条件下(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:10kPa~20kPa、絶対圧力:約110kpa~120kpa)で110~120℃に加熱し、濃縮物(ホエイ濃縮物A~F)が褐変化するまで処理した。その後、ホエイ濃縮物A~Eについては、5℃以下に冷却して、固形分濃度84%の固形状のホエイ加工食品A~Eを得た。
【0109】
ホエイ濃縮物F(乳糖分解率:0%)については、品温を80℃に調整した後に粉砕乳糖を0.5%の割合で添加し、二軸混錬機(株式会社入江商会製、直径60mm、軸間距離50mm、長さ120mm、ねじれ角60°の羽根をもつ、回転方向は同方向)を用いて、同温度条件下で15分間撹拌した(シーディング処理)。シーディング処理後、10℃以下に冷却して、固形分濃度84%の固形状のホエイ加工食品Fを得た。
【0110】
(3-2)ホエイ加工食品A~Fの評価
乳糖分解率及びシーディング処理有無が異なるホエイ加工食品A~Fについて、乳糖含量(%)、乳糖結晶の割合(%)、及び食感評価の結果を表2に示す。なお、これらのホエイ加工食品A~Fの固形分100質量%中の、たんぱく質含量(固形分換算量)は8%、脂質含量(固形分換算量)は24%、不溶解物含量は0.25~0.35mLであった。また、ホエイ加工食品A~EについてX線回折像を測定した結果を
図1に示す(上から、ホエイ加工食品A~EのX線回折像)。
【0111】
【0112】
表2のホエイ加工食品A~Eの結果に示すように、乳糖分解を行うことにより、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶の割合が低減すると舌の上で感じるザラつきが改善され舌触りが滑らかになる傾向が得られた。しかし、乳糖分解率が10~20%であると、乳糖結晶の割合の低減により一定の舌触りの改善がみられるものの、ザラつきは残ることがわかった(ホエイ加工食品B及びC)。乳糖分解率を30%以上とすることで乳糖結晶の割合が極端に低くなると、舌触りは滑らかではあるが、歯で噛んだ際に歯に付着しやすくなることがわかった(ホエイ加工食品D及びE)。また、ホエイ加工食品Fのように、乳糖分解は行わずシーディング処理した場合は、シーディング処理しないホエイ加工食品Aと比較して、乳糖結晶の割合が2倍に増加するものの、舌触り(舌の上で感じるザラつき)は若干改善され、一方、歯付着感の悪化はみられなかった。このことから、舌触りは乳糖結晶の割合(量)だけでなく、乳糖結晶のサイズも合わせて評価する必要があることがわかった。
【0113】
この結果から、乳糖分解処理とシーディング処理を組み合わせることで、舌触りが滑らかで歯付着感(歯付着性の低下)が良好な、つまり、滑らかさと歯付着感の低下が両立したホエイ加工食品が調製できることが期待できた。
【0114】
(4)ホエイ加工食品G~Uの製造とその評価
前記ホエイ加工食品A~Fの評価結果を踏まえて、乳糖分解とシーディング処理の組み合わせ効果を検証した。ここでは、当該乳糖分解処理後に濃縮し、次いでシーディング処理を行って、ホエイ加工食品H~K,M~P及びR~Uを製造し、これらのホエイ加工食品について、乳糖含量(%)、乳糖結晶の割合(%)、粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合(%)、並びに食感を評価した。また、比較のため、前記(3)で調製したホエイ加工食品B~Dと同様に、乳糖分解処理後に濃縮し、シーディング処理をすることなくホエイ加工食品G、L及びQを調製し、同様に評価した。
【0115】
(4-1)ホエイ加工食品G~Uの製造方法
表1に記載する割合で各原料を混合して調製したホエイ含有液を前記(3-1)に記載する方法で、ホエイ含有液に含まれる全乳糖100%のうち10%、20%又は30%を分解した(乳糖分解率:10%、20%又は30%)。次いで、前記(3-1)に記載する方法で固形分濃度84%になるまで減圧濃縮した。調製したホエイ濃縮物B、C及びD(乳糖分解率:10%、20%及び30%)を、そのまま5℃以下に冷却し、固形分濃度84%の固形状のホエイ加工食品G、L及びQを得た。また、調製したホエイ濃縮物B、C及びD(乳糖分解率:10%、20%及び30%)を、それぞれ品温を60℃、70℃、80℃、及び90℃に調整し、各温度条件下で、各ホエイ濃縮物に対して粉砕乳糖を0.5%の割合で添加し、二軸混錬機(株式会社入江商会製、直径60mm、軸間距離50mm、長さ120mm、ねじれ角60°の羽根をもつ、回転方向は同方向)を用いて、同温度条件下で15分間撹拌した(シーディング処理)。シーディング処理後、10℃以下に冷却して、固形分濃度84%固形状のホエイ加工食品H~K(乳糖分解率:10%)、ホエイ加工食品M~P(乳糖分解率:20%)、及びホエイ加工食品R~U(乳糖分解率:30%)を得た。
【0116】
(4-2)ホエイ加工食品G~Uの評価
乳糖分解率、シーディング処理の有無、及びシーディング処理温度が異なるホエイ加工食品G~Uについて、乳糖含量(%)、乳糖結晶の割合(%)、粗大結晶の割合、微細結晶の割合、及び食感評価の結果を表3に示す。なお、これらのホエイ加工食品の固形分100質量%中の、たんぱく質含量(固形分換算量)は8%、脂質含量(固形分換算量)は24%、不溶解物含量は0.3~0.35mLであった。ホエイ加工食品O(乳糖分解率20%、シーディング処理有・80℃)の組織を位相差顕微鏡(対物倍率×10、総合倍率10倍)で観察した画像を
図2に示す。
【0117】
【0118】
前記表2に示すホエイ加工食品Fの食感評価結果から、シーディング処理による歯付着感の改善効果が期待されたが、期待に反して、乳糖分解率30%以上のホエイ濃出物をシーディング処理に供しても、歯付着感の低下は得られなかった(ホエイ加工食品R~U)。一方、乳糖分解率10~20%のホエイ濃出物をシーディング処理に供することで、予想以上に舌触りが改善され、また歯付着感の低下も維持改善され、滑らかな食感を有するとともに歯付着感の低下が両立したホエイ加工食品を得ることができることが確認された(ホエイ加工食品H~K、ホエイ加工食品M~P)。
特に表3に示す結果から、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶の割合を3~5%程度に調整し、且つ、シーディング処理(粉砕乳糖の添加)により、粗大乳糖結晶の割合を10%以下、微細乳糖結晶の割合を70%以上とすることで、歯付着感(歯付着性の低下)が良好であるとともに、舌触りが極めて滑らかさであり、滑らかさと歯付着感の低下が両立したホエイ加工食品が調製できることが確認された。
【0119】
また、前記表1に記載する処方のうち、クリーム配合量を1/4まで減量した割合で各原料を混合して調製したホエイ含有液を用いて、前記(4)のホエイ加工食品G~Uと同様にしてホエイ加工食品1~15を製造し、評価を行った。なお前記ホエイ含有液100%中に含まれているタンパク質含量は7%(固形分換算量11%)、乳糖含量は46%(固形分換算量74%)、及び脂質含量は6%(固形分換算量9%)である。
【0120】
その結果、前記表3に記載するホエイ加工食品G~Uと同様の結果が得られた。つまり、原料として用いるホエイ含有液中の脂質含量を減らした場合でも、乳糖分解とシーディング処理により、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶の割合を3~5%程度に調整し、且つ、シーディング処理(粉砕乳糖の添加)により、粗大乳糖結晶の割合を10%以下、微細乳糖結晶の割合を70%以上とすることで、歯付着感が低いとともに、舌触りが極めて滑らかさであり、滑らかさと歯付着性低下が両立したホエイ加工食品が調製できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための手段として利用することができ、持続可能な開発目標(SDGs)とターゲットの達成に寄与することができる。本発明は、持続可能な開発目標のうち、特に目標2および目標3の達成に寄与できる。すなわち、各種の必須アミノ酸、タンパク質、ビタミン類、糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材であるホエイをホエイ加工食品として提供することにより、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者を含むすべての人々に安全で十分な食料を供給することに寄与できる。また、本発明は、持続可能な開発目標のうち、特に目標9の達成に寄与できる。すなわち、ホエイの変質を抑える本技術により、ホエイの付加価値を新たに創出したことにより、産業の多様化や商品への付加価値創造などの技術開発、研究及びイノベーションを促進させることで、資源利用効率を向上させたり、産業プロセスの拡大や効率を向上させしたりして、持続可能かつ強靱(レジリエント)に、イノベーションを促進させることができる。また、本発明は、持続可能な開発目標のうち、特に目標12の達成に寄与できる。すなわち、チーズ製造メーカがチーズの製造工程において廃棄されることが多くあったホエイをホエイ加工食品として有効活用することにより、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることができる。また、食料の廃棄を半減させるなどして、持続可能な開発及び自然と調和した開発を行うことにより、持続可能な生産消費形態を確保することができる。
【要約】
本発明は、食感が良好なホエイ加工食品の製造方法を提供する。本発明の製造方法は、下記(1)~(3)の工程を有する:
(1)乳糖含量が固形分換算で36~74質量%のホエイ含有液について、ホエイ含有液中に含まれる乳糖のうち10~20質量%を加水分解する工程、
(2)前記加水分解処理後のホエイ含有液を加熱濃縮して、固形分濃度55~90質量%のホエイ濃縮液を調製する工程、及び
(3)60℃~90℃に調整した前記ホエイ濃縮液に粉砕乳糖を添加し、撹拌後冷却する工程。