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特許7532753レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240806BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240806BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240806BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240806BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L69/00
C08K3/013
C08K5/521
C08K3/04
C08J7/00 302
C08J7/00 CFD
B29C65/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019155779
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021031633
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 史浩
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/088073(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117493(WO,A1)
【文献】特開2019-038879(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146196(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069840(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08L 69/00
C08K 3/013
C08K 3/04
C08K 5/521
C08J 7/00
B29C 65/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂50~70質量部と(B)ポリカーボネート樹脂30~50質量部の合計100質量部に対し、(C)無機充填材を20~100質量部、(D)リン酸エステル化合物を0.05~1質量部、(E)離型剤を0.1~2.5質量部、及び(F)カーボンブラックを0.1~3質量部含有し、(D)リン酸エステル化合物がリン酸エステル金属塩であることを特徴とするレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(E)離型剤の酸価が2~40mgKOH/gである請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体。
【請求項4】
請求項に記載の成形体と、アクリル樹脂からなる成形体をレーザー溶着してなる複合成形体。
【請求項5】
アクリル樹脂がポリメチルメタアクリレート樹脂である請求項に記載の複合成形体。
【請求項6】
自動車用の部品として搭載される請求項に記載の複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関し、詳しくは、高い耐熱性を有し、レーザー溶着強度に優れ、またレーザー溶着時のガス発生やフォギングの発生がないレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用のランプ(灯体)は、プラスチック化が進んでおり、樹脂製レンズ部と樹脂製のハウジング部とを接合して製造することが行われている。接合方法としては、レンズとハウジング部とを直接当接させて接合する方法が知られており、具体的方法としては、熱版溶着や超音波溶着等もあるが、レーザー溶着による方法が複雑な接合面にも対応できる等の理由から注目されている。
【0003】
一般に、レーザー溶着は、同種の樹脂部材同士は十分強固に接合させることができるが、種類の異なる樹脂部材では溶融温度が異なり強固な接合が困難な場合がある。例えば、レンズ部とハウジング部が同じポリカーボネート樹脂であればレーザー溶着により強固な接合が可能である。
【0004】
しかし、近年、自動車用のランプは高度化しており、平面-非球面の表面をレンズとして使用する多楕円面ヘッドランプ(PESランプ)が、高級車向けを中心に装着されるようになってきている。PESランプは対向車の眩惑防止のためや、その配光パターン、照度等について、高度な様々な仕様が設定される。こうようなPESランプ等では、レンズ部にポリメチルメタアクリレート樹脂(PMMA樹脂)を用い、これを保持するハウジング側(筐体側、レーザー吸収用部材)にはポリカーボネート樹脂が使用されることが多いが、PMMA樹脂とポリカーボネート樹脂の組み合わせはレーザー溶着性に優れているので、レーザー溶着により接合可能である。
【0005】
しかしながら、最近ではハウジングにより高度な意匠性を希求するため、黒色等に着色することが求められつつある。ポリカーボネート樹脂を黒色化すると、PESレンズから集光した光によりポリカーボネート樹脂を溶融させてしまう可能性があり、より耐熱性の高い樹脂材料を用いることが必要となる。
【0006】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、ポリカーボネート樹脂より高い耐熱性を有するが、PMMA樹脂とは融着しにくく、レーザー溶着が困難という課題がある。
また、PESランプ等に適用する場合には、溶着強度が高いことは勿論であるが、レーザー溶着時にガス発生したり、発生ガスによりレンズ部やハウジング側が曇りを生じないことが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、高度の耐熱性と上記したような優れたレーザー溶着性を同時に達成するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねてきた結果、ポリブチレンテレフタレート系樹脂とポリカーボネート樹脂を特定の質量比でアロイ化した上で、さらに無機充填材、リン酸エステル化合物及び離型剤をそれぞれ特定の量で含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下のレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関する。
【0009】
[1](A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂50~70質量部と(B)ポリカーボネート樹脂30~50質量部の合計100質量部に対し、(C)無機充填材を20~100質量部、(D)リン酸エステル化合物を0.05~1質量部、及び(E)離型剤を0.1~2.5質量部含有することを特徴とするレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[2](D)リン酸エステル化合物がリン酸エステル金属塩である上記[1]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3](E)離型剤の酸価が2~40mgKOH/gである上記[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[4]さらに、(F)カーボンブラックを、前記(A)と(B)の合計100質量部に対し、0.1~3質量部含有する上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体。
[6]上記[5]に記載の成形体と、アクリル樹脂からなる成形体をレーザー溶着してなる複合成形体。
[7]アクリル樹脂がポリメチルメタアクリレート樹脂である上記[6]に記載の複合成形体。
[8]自動車用の部品として搭載される上記[7]に記載の複合成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、高い耐熱性を有し、レーザー溶着強度に優れ、またレーザー溶着時のガス発生やフォギングの発生がない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例で作製した吸収側部材IIを示した図である。
図2】実施例で作製した透過側部材Iを示した図である。
図3】実施例で作製した部材I及びIIをレーザー溶着する状態の一例を示した斜視図である。
図4】実施例における溶着強度の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明のレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂50~70質量部と(B)ポリカーボネート樹脂30~50質量部の合計100質量部に対し、(C)無機充填材を20~100質量部、(D)リン酸エステル化合物を0.05~1質量部、及び(E)離型剤を0.1~2.5質量部含有することを特徴とする。
【0014】
[(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂を含有する。
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーと当該共重合体との混合物を含む。
【0015】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよく、他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
【0016】
ジオール単位としては、1,4-ブタンジオールの外に他のジオール単位を含んでいてもよく、他のジオール単位の具体例としては、炭素原子数2~20の脂肪族又は脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0017】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましい。
【0018】
また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上及び/又はジオール単位として、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよく、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類、特にはポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。
なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満であることが好ましい。中でも、共重合量が好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、特に好ましくは5~20モル%である。このような共重合割合とすることにより、流動性、靱性が向上しやすい傾向にあり、好ましい。
【0019】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂が共重合体である場合、特にポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂が低比重であるので、より好ましい。
ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いる場合は、共重合体中のテトラメチレングリコール成分の割合は3~40質量%であることが好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。
【0020】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。60eq/tonを超えると、耐アルカリ性及び耐加水分解性が低下し、また樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/tonである。
【0021】
なお、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリアルキレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂の固有粘度は、0.5~2dl/gであるのが好ましい。成形性及び機械的特性の点からして、0.6~1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
なお、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0023】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分又はこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式又は連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレクタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下又は減圧下固相重合させることにより、重合度(又は分子量)を所望の値まで高めることもできる。(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0024】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0025】
[(B)ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂に加えて、(B)ポリカーボネート樹脂を含有する。
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。
【0026】
原料のジヒドロキシ化合物は、実質的に臭素原子を含まないものであり、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち、ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。更には、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、例えば、m-及びp-メチルフェノール、m-及びp-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0029】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、さらに好ましくは23000以上、特に好ましくは25000以上、特に28000を超えるものであることが最も好ましい。粘度平均分子量が20000より低いものを用いると、得られる樹脂組成物が耐衝撃性等の機械的強度の低いものとなりやすい。またMvは60000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましく、35000以下であることがさらに好ましい。60000より高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
【0030】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、25℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定し極限粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値を示す。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0031】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂も好ましい。
【0032】
(B)ポリカーボネート樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部基準で、30~50質量部であり、好ましくは35質量部以上であり、好ましくは50質量部未満、45質量部以下である。
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部基準で、50~70質量部であり、好ましくは50質量部超、55質量部以上であり、65質量部以上であり、である。
【0033】
[(C)無機充填材]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(D)無機充填材を、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、20~100質量部の範囲で含有する。このような範囲で含有することで、安定した寸法精度が得られ、かつ高い材料強度と融着強度を発現することが可能となる。無機充填材の含有量は、25質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、さらには35質量部以上、中でも40質量部以上が好ましく、また95質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、さらには85質量部以下、中でも75質量部以下が好ましい。
【0034】
本発明において、無機充填材とは、樹脂成分に含有させて強度及び剛性を向上させるものをいい、繊維状、板状、粒状、無定形等いずれの形態ものであってもよい。
無機充填材の形態が繊維状である場合、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維、ワラストナイト等の無機繊維が含まれる。無機充填材が繊維状の場合、特に好ましいのはガラス繊維である。無機充填材は1種でも2種類の混合物であってもよい。
【0035】
無機充填材の形態が繊維状である場合、その平均繊維径や平均繊維長並びに断面形状は特に制限されないが、平均繊維径は例えば1~100μmの範囲で選ぶのが好ましく、平均繊維長は例えば0.1~20mmの範囲で選ぶのが好ましい。平均繊維径はさらに好ましくは1~50μm、より好ましくは5~20μm程度である。また平均繊維長は、好ましくは0.12~10mm程度である。また、繊維断面が長円形、楕円形、繭形等の扁平形状である場合は、扁平率(長径/短径の比)が1.4~10が好ましく、2~6がより好ましく、2.5~5がさらに好ましい。このような異形断面のガラス繊維を用いることにより、成形体の反り、収縮率の異方性等の寸法安定性が改善されやすいので好ましい。
【0036】
上記した繊維状無機充填材以外に、板状、粒状又は無定形の他の無機充填材を含有することもできる。板状無機充填材は、異方性及びソリを低減させる機能を発揮するものであり、ガラスフレーク、タルク、マイカ、雲母、カオリン、金属箔等が挙げられる。板状無機充填材の中で好ましいのは、ガラスフレークまたはタルクである。
【0037】
粒状又は無定形の他の無機充填材としては、セラミックビーズ、アスベスト、クレー、ゼオライト、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0038】
なお、無機充填材と樹脂成分との界面の密着性を向上させるために、無機充填材の表面を集束剤等の表面処理剤によって処理するのが好ましい。表面処理剤として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂や、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物が挙げられる。
本発明においては、表面処理のために、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ化合物や、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂が好ましい。中でも、ノボラック型エポキシ化合物とビスフェノール型エポキシ樹脂を併用することが好ましく、フェノールノボラック型エポキシ化合物とビスフェノールA型エポキシ樹脂を併用することが、耐アルカリ性、耐加水分解性及び機械的特性の点から好ましい。
【0039】
官能性化合物としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシランカップリング剤が好ましく、中でも、アミノシラン系化合物が好ましい。
アミノシラン系化合物としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく、中でも、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0040】
本発明においては、いわゆる集束剤としてノボラック型エポキシ樹脂及びビスフェノール型エポキシ樹脂とを用い、加えてカップリング剤としてアミノシラン系化合物で表面処理された無機充填材を用いることが、耐アルカリ性及び耐加水分解性の点から、特に好ましい。表面処理剤をこのような構成とすることにより、アミノシラン系化合物の無機官能基は無機充填材表面と、アミノシランの有機官能基はエポキシ樹脂のグリシジル基とそれぞれ反応性に富み、また、エポキシ樹脂のグリシジル基は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂とそれぞれ適度に反応することにより、無機充填材とエポキシ樹脂との界面密着力が向上する。この結果、本発明の樹脂組成物の耐アルカリ性、耐加水分解性、機械的特性が向上しやすくなる。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、帯電防止剤、潤滑剤及び撥水剤等を表面処理剤中に含めることもでき、これらその他の成分を含める場合は、ウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0041】
無機充填材の表面処理は、従来公知の方法により処理することができ、例えば、上記表面処理剤によって予め表面処理してもよく、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を調製する際に、未処理の無機充填材とは別に表面処理剤を添加して表面処理してもよい。
無機充填材に対する表面処理剤の付着量は、0.01~5質量%が好ましく、0.05~2質量%がさらに好ましい。0.01質量%以上とすることにより、機械的強度がより効果的に改善される傾向にあり、5質量%以下とすることにより、必要十分な効果が得られ、また、樹脂組成物の製造が容易になる傾向となり好ましい。
【0042】
[(D)リン酸エステル化合物]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(D)リン酸エステル化合物を含有する。リン酸エステル化合物を含有することにより、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂のエステル交換反応を効果的に抑制することができ、熱安定性やレーザー溶着時の発ガス性、耐衝撃性等の機械的特性が良好となる
【0043】
リン酸エステル化合物としては、有機リン酸エステル化合物が好ましい。
有機リン酸エステル化合物は、リン原子にアルコキシ基又はアリールオキシ基が1~3個結合した部分構造を有するものである。なお、これらのアルコキシ基やアリールオキシ基には、さらに置換基が結合していてもよい。好ましくは、有機リン酸エステル化合物の金属塩であり、金属としては、周期律表第Ia、IIa、IIb及びIIIaから選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、中でも、マグネシウム、バリウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムがさらに好ましく、マグネシウム、カルシウム又は亜鉛が特に好ましい。
【0044】
本発明においては、下記一般式(1)~(5)のいずれかで表される有機リン酸エステル化合物を用いることが好ましく、下記一般式(1)~(4)のいずれかで表される有機リン酸エステル化合物を用いることがより好ましく、下記一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸エステル化合物を用いることがさらに好ましい。有機リン酸エステル化合物は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
【化1】
一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0046】
【化2】
一般式(2)中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0047】
【化3】
一般式(3)中、R~R11は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。
【0048】
【化4】
一般式(4)中、R12~R14は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
【化5】
一般式(5)中、R15はアルキル基又はアリール基を表す。nは0~2の整数を表す。なお、nが0又は1のとき、2つのR15は同一でも異なっていてもよい。
【0050】
一般式(1)~(5)中、R~R15は、通常は炭素数1~30のアルキル基又は炭素数6~30のアリール基である。滞留熱安定性、耐薬品性、耐湿熱性等の観点からは、炭素数2~25のアルキル基であるのが好ましく、更には炭素数6~23のアルキル基であるのが最も好ましい。アルキル基としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。また、一般式(1)、(2)のMは亜鉛であるのが好ましく、一般式(3)、(4)のM’はアルミニウムであるのが好ましい。
【0051】
有機リン酸エステル化合物の好ましい具体例としては一般式(1)の化合物としてはビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、一般式(2)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩、一般式(3)の化合物としてはトリス(ジステアリルアッシドホスフェート)アルミニウム塩、一般式(4)の化合物としては1個のモノステアリルアッシドホスフェートと2個のモノステアリルアッシドホスフェートアルミニウム塩との塩、一般式(5)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェートやジステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。中でも、ビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、モノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩がより好ましい。これらは単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0052】
有機リン酸エステル化合物としては、エステル交換抑制効果が非常に高く、成形加工時の熱安定性がよく成形性に優れ、射出成形機での計量部の設定温度を高めに設定することが可能となって成形が安定すること、また耐加水分解性、耐衝撃性が優れる観点から、前記一般式(1)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、前記一般式(2)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩等のステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩を用いるのが好ましい。これらの市販のものとしては、城北化学工業製「JP-518Zn」等がある。
【0053】
(D)リン酸エステル化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、0.05~1質量部である。(D)リン酸エステル化合物の含有量が0.05質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、レーザー溶着時の発生ガスが増加する他、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると過剰量となり、耐加水分解性が低下することに加え、添加剤を由来とした発生ガスによる問題を生じ易くなる。(D)リン酸エステル化合物の含有量は、好ましくは0.08質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部であり、好ましくは0.5質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以下である。
【0054】
[(E)離型剤]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、離型剤を含有する。離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、耐アルカリ性が良好な点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物が好ましく、特に、ポリオレフィン系化合物が好ましい。
【0055】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。
【0056】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0057】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0058】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ぺンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリストールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0059】
離型剤としては、酸価が2~40mgKOH/gのものが、離型抵抗が小さく離型性の改良効果が著しく、揮発分が少なく、レーザー溶着時のガス発生やフォギングの発生が少ない点から好ましい。酸価は、より好ましくは5~35mgKOH/g、さらに好ましくは10~32mgKOH/gである。酸価が2~40mgKOH/gの範囲となれば、酸価が10mgKOH/g未満のものと40mgKOH/gを超えるものを併用してもよく、複数種類の離型剤全体としての酸価が、2~40mgKOH/gとなればよい。
【0060】
酸価が2~40mgKOH/gの離型剤としては、上記した脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルであって酸価が2~40mgKOH/gのものや、上記した脂肪族炭化水素化合物、好ましくはポリオレフィンワックスに、カルボキシル基(カルボン酸(無水物)基、即ちカルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を表す。以下同様。)、ハロホルミル基、エステル基、カルボン酸金属塩基、水酸基、アルコシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等の、ポリエステル樹脂と親和性のある官能基を付与した変性ポリオレフィンワックスが好ましい。
【0061】
ポリオレフィンワックスの変性に用いるカルボキシル基としては、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸などのカルボン酸基を含有する低分子量化合物、スルホン酸などのスルホ基を含有する低分子量化合物、ホスホン酸などのホスホ基を含有する低分子量化合物などを挙げることができる。これらの中でもカルボン酸基を含有する低分子量化合物が好ましく、特にマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸などが好ましい。これらのカルボン酸は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
変性ポリオレフィンワックスにおける酸の付加量としては、変性ポリオレフィンワックスに対して、通常、0.01~10質量%、好ましくは0.05~5質量%である。
【0062】
ハロホルミル基としては具体的には例えば、クロロホルミル基、ブロモホルミル基等が挙げられる。これらの官能基を、ポリオレフィンワックスに付与する手段は、従来公知の任意の方法によれば良く、具体的には例えば、官能基を有する化合物との共重合や、酸化などの後加工など、いずれの方法でもよい。
【0063】
官能基の種類としては、ポリエステル樹脂と適度な親和性があることから、カルボキシル基であることが好ましい。変性ポリオレフィンワックスにおけるカルボキシル基の濃度としては、適宜選択して決定すればよいが、低すぎるとポリエステル樹脂との親和性が小さく、揮発分の抑制効果が小さくなり、また離型効果が低下する場合がある。逆に濃度が高すぎると、例えば、変性の際にポリオレフィンワックスを構成する高分子主鎖が過度に切断さて、変性ポリオレフィンワックスの分子量が低下し過ぎることで揮発分の発生が多くなり、ポリエステル樹脂成形体表面に曇りが発生する場合がある。
変性ポリオレフィンワックスとしては、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
【0064】
(E)離型剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して、0.1~2.5質量部であり、0.15質量部以上が好ましく、より好ましくは0.2質量部以上、特に0.3質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以下、さらに1.5質量部以下が好ましく、特に1質量部以下が好ましい。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、2.5質量部を超えると、レーザー溶着時に成形品内面に曇りを生じ易く、またフォギング性が悪化する。
【0065】
[(F)カーボンブラック]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、さらに(F)カーボンブラックを含有することが好ましい。
レーザー光吸収用の色素材としては、カーボンブラックなどの黒色系着色剤、酸化チタンや硫化亜鉛等の白色系着色剤などを挙げることができる。また、レーザー光吸収性染料として、ニグロシン、アニリンブラック、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体及びインモニウム等が挙げられる。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、これらの中でも、レーザー溶着性及び耐候性に優れることと、意匠性のための黒色化も可能である点からカーボンブラックが好ましい。
【0066】
カーボンブラックとしては、例えばファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック及びアセチレンブラック等のうちの少なくとも一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
カーボンブラックは、分散を容易にするため、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂を構成する樹脂成分あるいはその他の樹脂と予めマスターバッチ化されたものを使用することも好ましい。
【0067】
カーボンブラックの一次粒子径は、分散性の観点から、10nm~30nmであることが好ましく、15nm以上、25nm以下であることがさらに好ましい。分散性が良いと、レーザー溶着時の溶着ムラが減少する。
また、カーボンブラックは、漆黒性の観点から、JIS K6217で測定した窒素吸着比表面積が30~400m/gであることが好ましく、中でも50m/g以上、その中でも80m/g以上であることがさらに好ましい。
【0068】
さらに、カーボンブラックは、分散性の観点から、JIS K6221で測定したDBP吸収量が20~200cm/100gであることが好ましく、より好ましくは40~170cm/100g、さらには50~150cm/100gが好ましい。分散性が良いと、レーザー溶着時の溶着ムラが減少する。
【0069】
(F)カーボンブラックの含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましい。カーボンブラックの含有量が0.1質量部以上であればレーザー照射時に樹脂が発熱して溶融し、3質量部以下であればカーボンの凝集による材料強度の低下を防ぐことができ、好ましい。
【0070】
カーボンブラック以外の他の成分としては、例えばニグロシン等のレーザー光吸収色素材を含有してもよい。ニグロシン等のレーザー光吸収色素材を含有する場合の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して、0.001~0.6質量部であることが好ましい。
【0071】
[他の安定剤]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、前記した(D)リン酸エステル化合物に加えて、その他の安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性や色相の悪化をさらに防止する効果を有するという点で好ましい。その他の安定剤としては、フェノール系安定剤が好ましい。
【0072】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0073】
その他の安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0074】
その他の安定剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~2質量部であり、より好ましくは0.01~1.5質量部であり、更に好ましくは、0.1~1質量部である。
【0075】
[その他成分]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記した以外の各種樹脂添加剤を含有することもできる。各種樹脂添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、滑剤、染顔料等の着色剤(前記カーボンブラックを除く)、触媒失活剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、結晶核剤、結晶化促進剤等が挙げられる。
【0076】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、前記した必須成分の樹脂以外の、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を含有することができる。他の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種でも2種類以上であってもよい。
【0077】
ただし、前記した必須成分の樹脂以外の、他の樹脂を含有する場合の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、40質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらには20質量部以下、中でも10質量部以下、特には5質量部以下、2質量部以下とすることが最も好ましい。
【0078】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する方法は、特定の方法に限定されるものではないが、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、(C)無機充填材を20~100質量部、(D)リン酸エステル化合物、及び(E)離型剤、並びに必要に応じて配合されるその他の成分を、混合し、次いで溶融・混練する方法が挙げられる。溶融・混練方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について通常採用されている方法によることができる。
【0079】
溶融・混練方法としては、例えば、前記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、タンブラー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で溶融・混練する方法が挙げられる。要すれば(D)無機充填材を混錬押出機のサイドフィーダーより供給することにより、無機充填材の折損を抑制し、分散させることが可能になり好ましい。溶融・混練する際の温度と混練時間は、樹脂成分を構成する成分の種類、成分の割合、溶融・混練機の種類等により選ぶことができるが、溶融・混練する際の温度は200~300℃の範囲が好ましい。300℃を超えると、各成分の熱劣化が問題となり、成形体の物性が低下したり、外観が悪化したりすることがある。
【0080】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から、目的の成形体を製造する方法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について従来から採用されている成形法を採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形法が好ましい。
【0081】
レーザー吸収用成形体を製造する方法は、特に限定されず、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用でき、上記した成形法が適応でき、中でも射出成形法が好ましい。
【0082】
本発明のレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物より成形された成形体は、レーザー溶着に供される。レーザー溶着する方法は、特に制限はなく、通常の方法で行うことができる。好ましくは、本発明のレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られたレーザー吸収用成形体を吸収側(吸収側部材)とし、相手材の樹脂成形体(透過側部材)とを面接触または突合せ接触させ、透過側部材側からレーザー光を照射することにより二種の成形体を溶着、一体化して複合成形体とする。
【0083】
レーザー光吸収剤を含有する相手側の部材としては、レーザー光を吸収することができ、レーザー光が吸収されることにより、溶融される熱可塑性樹脂組成物からなる部材であれば、特に限定されない。レーザー光を吸収可能とし、レーザー溶着性能を向上するためにレーザー吸収性染料を含有した樹脂組成物からなる部材を用いることもできる。
【0084】
照射するレーザー光の種類は、近赤外レーザー光であれば任意であり、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶)レーザー(波長1064nm)、LD(レーザーダイオード)レーザー(波長808nm、840nm、940nm)等を好ましく用いることができる。
【0085】
レーザー溶着により一体化された複合成形体の形状、大きさ、厚み等は任意であり、複合成形体としては、自動車用の電装部品、電気電子機器部品、OA機器部品、家電機器部品、産業機械用部品、機械機構部品、精密機器用部品、建築資材部品、その他民生用部品等に好適であり、特に自動車用の部品に好適である。
【0086】
自動車の車両用部品としては、例えば、ヘッドライト用のインナーレンズ(プロジェクターレンズ、PESレンズ等)、リアランプアウターカバー、ランプソケット、リアランプ内部の光学部材、メーターカバー、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチドアミラーハウジング等が挙げられる。
【0087】
特に、本発明のレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体は、相手材として、通常、レーザー溶着性が悪いとされた、PMMA樹脂等のアクリル樹脂からなる成形体に対し、優れたレーザー溶着性を有する。前記したPESランプ等では、レンズ部にはアクリル樹脂が使用され、これを保持するハウジング側(レンズホルダー側)として本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を使用し、アクリル樹脂側からレーザー光を照射しレーザー溶着することにより、高い溶着強度で両者を接合することができる。溶着の際にはポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からのガス発生は起きにくく、それによりレンズ側にフォギングが生起することを回避することができる。
【実施例
【0088】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載例に限定して解釈されるものではない。
実施例及び比較例で使用した原料成分は、下記の表1の通りである。
【0089】
【表1】
【0090】
〔実施例1~4、比較例1~4、参考例1〕
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造>
表1に記載のガラス繊維以外の各成分を、下記の表2に示される割合(全て質量部)にて、ブレンドし、これを30mmのベントタイプ二軸押出機(日本製鋼所社製、二軸押出機「TEX30α」)を使用して、ガラス繊維はサイドフィーダーより供給し、シリンダー設定温度260℃、吐出量40kg/h、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、ストランドに押し出した後、ストランドカッターによりペレット化し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
【0091】
測定評価方法
実施例及び比較例における各種の物性・性能の測定評価は、以下の方法により実施した。
【0092】
[比重]
ISO 1183に準拠して測定を行った。
[引張破断強度、引張破断伸び率]
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼社製射出成形機(型締め力85T)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO527に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用いて、引張破断強度(単位:MPa)、引張破断伸び率(単位:%)を測定した。
[曲げ最大強度、曲げ弾性率]
ISO178に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で、曲げ最大強度(単位:MPa)と曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
[ノッチ付シャルピー衝撃強度]
ISO179に準拠して、上記ISO多目的試験片(4mm厚)にノッチ加工を施したノッチ付き試験片について、23℃の温度でノッチ付シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
【0093】
[レーザー溶着性の評価]
レーザー溶着強度の測定は、図1に示すコップ状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物製の吸収側部材IIと、図2に示す円形で蓋状のポリメチルメタアクリレート樹脂製の透過側部材Iを作製し、コップ状の吸収側部材IIの上を、透過側部材Iで蓋をし、レーザー溶着してレーザー溶着体を得、その溶着強度を測定することにより行った。
(a)吸収側部材1の作製
上記実施例及び比較例により得られたペレットを、120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、射出速度60mm/s、保圧70MPa、保圧時間5s、冷却時間15sの条件で、図1(A)、(B)に示すコップ状(上部の内径41mm、外径45mm)の吸収側部材IIを射出成形した。
(b)透過側部材2の作製
市販のポリメチルメタアクリレート樹脂(三菱ケミカル社製、「アクリペットVHS」)を用い、射出成形機(日本製鋼所社製「J55」)にて、シリンダー温度270℃、金型温度60℃、射出速度45mm/s、保圧60MPa、保圧時間4.5s、冷却時間15sの条件で、図2(A)、(B)に示す円形で蓋状(外径48mm、厚さ1.5mm)の透過側部材Iを作成した。
【0094】
(c)レーザー溶着
図3及び図4に示すように、吸収側部材II及び透過側部材Iにそれぞれ穴21、22をあけて、溶着強度測定用の冶具23,24を内部に入れた状態で、吸収側部材IIに透過側部材Iを重ね、ガラス板を用いて吸収側部材II及び透過側部材Iの重なり部分、すなわち両者の当接面に対して厚み方向両側から内側方向に740Nの押し力(溶着時押し圧)を掛けつつ、ファインディバイス社製ガルバノスキャナ式レーザー装置(レーザー波長:1064nm、レーザースポット径φ2.0mm)を用い、出力150W、速度900mm/sの条件で、透過側部材I上の周縁部の溶着予定ライン1にレーザー光を走査(周回走査数3)して、レーザー溶着を行った。
【0095】
(d)レーザー溶着時の発ガス性の評価
レーザー溶着時の発ガス性の評価として、ポリメチルメタアクリレート樹脂の透過側部材2の下側面に、白粉の付着があるかどうかを目視で判定した。
○:白粉の付着 無し
×:白粉の付着 有り
(e)レーザー溶着強度の測定(単位:N)
レーザー溶着された溶着体のレーザー溶着強度の測定は、図4に示すように、吸収側部材1及び透過側部材2からなる箱体の上面及び下面からそれぞれに測定用冶具25,26を挿入して、内部に収納した冶具23,24とそれぞれ結合させ、上下に引っ張って(引張速度:5mm/min)、部材I及び部材IIが離れる強度(溶着強度)を測定した。
【0096】
(f)レーザー溶着適性の総合判定
上記の結果を踏まえ、以下の基準で、レーザー溶着適性を総合的に判定した。
○:レーザー溶着強度が700N以上で、発ガス性も○
×:レーザー溶着強度が700N未満、または、発ガス性が×
【0097】
[フォギング性の評価]
上記で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、試験管(φ20×160mm)に5g入れ、160℃に温度調節したフォギング試験機(GLサイエンス社製 中型恒温槽L-75改良機)にセットした。さらに、上記試験管に、耐熱ガラス(テンパックスガラスφ25×2mmt)の蓋をした後、耐熱ガラス部を25℃雰囲気に温度調節し、160℃で24時間、熱処理を実施した。熱処理終了後、耐熱ガラスプレート内側には樹脂組成物より昇華した分解物等による付着物が析出した。
熱処理終了後の耐熱ガラスプレートのヘイズ(単位:%)を、東京電色社製ヘイズメーター「TC-HIIIDPK」で測定した。
フォギング性の評価として、以下の基準で判定した。
○:ヘイズが10%未満
×:ヘイズが10%以上
【0098】
以上の結果を以下の表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のレーザー吸収用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、高い耐熱性を有し、レーザー溶着強度に優れ、またレーザー溶着時のガス発生やフォギングの発生がないので、レーザー溶着用のレーザー吸収用部材として、各種の用途分野において極めて有用である。
図1
図2
図3
図4