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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】発火防止装置付き蓄電ユニット
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/204 20210101AFI20240806BHJP
   H01G 11/14 20130101ALI20240806BHJP
   H01G 11/10 20130101ALI20240806BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
H01G11/14
H01G11/10
H01M50/342 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019221092
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021089885
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】金子 淳
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110881(JP,A)
【文献】特開2013-187089(JP,A)
【文献】国際公開第12/029669(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016102969(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/20-50/298
H01G11/10
H01G11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス及び前記蓄電デバイスの内部ガス放出口と向かい合う位置に設置され蓄電デバイスの発火防止装置を備え
前記発火防止装置は、ケーシングと、前記ケーシングに充填された、前記蓄電デバイスの内部ガス放出口から吐出する可燃性ガスの発火及び/又は火炎の抑制剤とを含み
前記ケーシングの上面及び下面は金属製のメッシュ部材で形成されており、
前記ケーシングの下面は、前記内部ガス放出口と向かい合っており、
前記蓄電デバイスが、2つ以上の蓄電デバイスの集合体であり、1つの蓄電デバイスの前記発火防止装置が、複数の蓄電デバイスの前記内部ガス放出口の上にわたって設置されている、発火防止装置付き蓄電ユニット
【請求項2】
前記蓄電デバイスから発生する可能性のある可燃性ガスが、メタン、一酸化炭素、エチレン、エタン又はプロパンを含有する、請求項1に記載の発火防止装置付き蓄電ユニット
【請求項3】
前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものである、請求項1又は2に記載の発火防止装置付き蓄電ユニット
【請求項4】
前記抑制剤が、無機多孔質材料である、請求項1~3のいずれか1項に記載の発火防止装置付き蓄電ユニット
【請求項5】
前記無機多孔質材料がゼオライトである、請求項4に記載の発火防止装置付き蓄電ユニット
【請求項6】
前記抑制剤が、炭素系材料である、請求項1~3のいずれか1項に記載の発火防止装置付き蓄電ユニット
【請求項7】
前記抑制剤が1~30mmの平均粒子径を有する多孔質素材である、請求項1~6のいずれか1項に記載の発火防止装置付き蓄電ユニット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスのモジュールから噴出するガスに起因する発火の防止装置に関し、特に複数の蓄電デバイスからなるモジュールから噴出するガスに起因する発火を効率的に抑制することの可能な発火防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力用途の携帯機器、パソコン、電気自動車等の電源として、非水電解質を用いた蓄電デバイスをケーシングに収容してなる二次電池、リチウムイオンキャパシタ及び電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスが用いられている。
【0003】
このような蓄電デバイスは、通常、上限電圧が定められており、適切な保護回路と組み合わせることで上限電圧を超えないよう制御されている。しかしながら、保護回路が誤動作を起こし上限電圧を超えた場合、充放電の繰り返した場合、あるいは外的要因により短絡した場合等には、蓄電デバイスは過充電状態に陥り、電解液が電極材料等と反応してガスが発生し、この発生したガスによって内圧が上昇する。この発生するガスは、メタン、一酸化炭素、エチレン、エタン、プロパン等の可燃性ガスを含むことがあり、蓄電デバイス外部に放出された際に、発火、爆発等を起こす危険性がある。
【0004】
そして、近年、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスにおいては、さらなる高出力及び高容量化が求められてきており、蓄電デバイス単体や、複数の蓄電デバイスをスタックしたモジュール構成のもと大電流で使用する機会が増えてきている。例えば、複数の蓄電デバイスをスタックしたモジュールにおいて、一つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合には、ガスが電解液と共に放出された後も、その他の蓄電デバイスが機能しているため、大電流を流し続けることがある。そのため短絡により、激しく過熱される場合があり、上述したような発火、爆発等を起こす危険性は大きくなる。
【0005】
このような蓄電デバイスの発火を防止し得る技術として、例えば、リチウムイオン電池の内部で発生したガスを可燃性ガス吸収材によって吸収し、電池の破裂を防止する方法が提案されている(特許文献1,2)。
【0006】
一方、リチウムイオン電池内部に消火剤を配置することにより、電池内部でのガスの発生による内圧上昇により安全弁が開放した際に外部に放出されるガスの温度を低下する方法も提案されている(特許文献3)。
【0007】
また、リチウムイオン電池において発火が発現するには、火花(火種)と空気(酸素)、可燃性ガスの三つの要因が関係する。ここで可燃性ガスは、発火が発現するための所定のガス濃度と引火温度と発火温度とがそれぞれ決まっている(例えば、発火温度はメタンで537℃、一酸化炭素で605℃、水素で530℃、エタンで520℃等)。このため、可燃性ガスの温度が発火点以下で発火が発現するためには、酸素と火花が必要となる。そこで、特許文献4には、蓄電デバイスから発生して可燃性ガスに関し、該可燃性ガスを吸着してその濃度を低下させるとともに、水分の蒸発潜熱を利用して、可燃性ガスの温度を低下させて発火を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-155790号公報
【文献】特開2003-77549号公報
【文献】特開2010-287488号公報
【文献】特許第5966457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、蓄電デバイスでは、電気的異常時や、熱暴走時は瞬間的に大量のガスが発生するが、特許文献1及び2に記載されているようなガス吸着材を蓄電デバイス内に配置する方法では、蓄電デバイスという限られた空間に対しては、ガス吸着量及びガス吸着速度ともに不十分であり、蓄電デバイスからのガスの噴出を抑制しきれない、という問題点があった。また、特許文献3に記載されているようにリチウムイオン電池の内部の温度を低下させるために消火剤や、多孔質素材の細孔内及び表面に不燃性ガスあるいは水系溶媒または不燃性溶媒を吸着される材を蓄電デバイス内に配置する方法では、ガス吸着量が不十分だと、その効果が十分に発揮されず、さらにガスの噴出を抑制しきれない、という問題点があった。
【0010】
さらに、特許文献4に記載されている可燃性ガスの温度を低下させて発火を抑制する技術においても、やはり蓄電デバイスという限られた空間に設けられるものであるので、ガス吸着量及びガス吸着速度ともに不十分であり、可燃ガスの燃焼するする濃度以下にできなければ、火種が存在すると発火点より低い温度でも発火してしまうおそれがある、という問題点があった。さらに、破損による発火、加熱による発火、過充電による発火等、発火条件により発生する可燃性ガス成分が相違するため、吸着剤のガス吸着特性によって、発火抑制効果が大きくことなる、という問題点もある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、蓄電デバイス、特に複数の蓄電デバイスの集合体のいずれかの蓄電デバイスの破損や過充電等の異常時に発火するリスクを火種や火花にも作用して抑制することが可能な蓄電デバイスの発火防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、蓄電デバイスの内部ガス放出口の外側に設置される蓄電デバイスの発火防止装置であって、通気性を有するケーシングに前記蓄電デバイスの内部ガス放出口から吐出する可燃性ガスの発火及び/又は火炎の抑制剤を充填した、蓄電デバイスの発火防止装置を提供する(発明1)。
【0013】
上記発明(発明1)によれば、蓄電デバイスの内部ガス放出口の外側に可燃性ガスの吸収能、温度低下能、火炎消火能の少なくともいずれかを有する素材を可燃性ガスの発火及び/又は火炎の抑制剤として、通気性を有するケーシングに充填してやることで、蓄電デバイスの内部ガス放出口から放出された可燃性ガスは、この通気性ケーシン内で抑制剤に接触することにより、該可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体の消火の効果により、可燃性ガスの発火や火炎を抑制することができる。
【0014】
上記発明(発明1)においては、前記蓄電デバイスから発生する可能性のある可燃性ガスが、メタン、一酸化炭素、エチレン、エタン又はプロパンを含有することが好ましい(発明2)。
【0015】
上記発明(発明2)によれば、これらの可燃性ガスを抑制剤に接触させることで、当該可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体の消火の効果により、可燃性ガスの発火や火炎を抑制して、外部にまで延焼するリスクを大幅に低減することができる。
【0016】
上記発明(発明1,2)においては、前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものであることが好ましい(発明3)。
【0017】
上記発明(発明3)によれば、非水電解質は加熱により、可燃性ガスを発生する虞があるので、この可燃性ガスを抑制剤に接触させることで、該可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体の消火の効果により、可燃性ガスの発火や火炎を抑制して、外部にまで延焼するリスクを大幅に低減することができる。
【0018】
上記発明(発明1~3)においては、前記抑制剤が、無機多孔質材料であることが好ましい(発明4)。特に上記発明(発明4)においては、前記無機多孔質材料がゼオライトであることが好ましい(発明5)。
【0019】
かかる発明(発明4,5)によれば、無機多孔質材料、特にゼオライトは、可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体を消火する能力を有するので、可燃性ガスの発火や火炎を抑制して、外部にまで延焼するリスクを大幅に低減することができる。
【0020】
また、上記発明(発明1~3)においては、前記抑制剤が、炭素系材料であることが好ましい(発明6)。
【0021】
かかる発明(発明6)によれば、炭素系材料は、可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体を消火する能力を有するので、可燃性ガスの発火や火炎を抑制して、外部にまで延焼するリスクを大幅に低減することができる。
【0022】
上記発明(発明1~6)においては、前記抑制剤が1~30mmの平均粒子径を有する多孔質素材であることが好ましい(発明7)。
【0023】
上記発明(発明7)によれば、抑制剤をある程度の粒径を有する多孔質素材とすることにより、可燃性ガスの流通抵抗を小さくすることができ、効果的に可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体を消火する能力を発揮することができる。
【0024】
上記発明(発明1~7)においては、前記蓄電デバイスが、2つ以上の蓄電デバイスの集合体であり、1つの前記蓄電デバイスの発火防止装置が、複数の蓄電デバイスの内部ガス放出口上にわたって設置可能となっていることが好ましい(発明8)。
【0025】
上記発明(発明8)によれば、蓄電デバイスを複数備えた集合体は、1つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合であってもその他の蓄電デバイスが機能しているため大電流を流し続けるので、激しく過熱され、可燃性のガスが発火温度以上となりやすい。このとき、いずれかの蓄電デバイスから可燃性ガスが噴出してケーシングの空間に流出したとしても、抑制剤と接触するように構成することで、可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体を消火する能力を発揮することができるので、可燃性ガスの発火や火炎を抑制して、外部にまで延焼するリスクを大幅に低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、蓄電デバイスの内部ガス放出口から吐出する可燃性ガスの発火及び/又は火炎の抑制剤を、通気性を有するケーシングに充填した蓄電デバイスの発火防止装置を、蓄電デバイスの内部ガス放出口の外側に設置するので、蓄電デバイスの内部ガス放出口から放出された可燃性ガスは、この通気性ケーシング内で抑制剤に接触することにより、該可燃性ガスの濃度の低下、温度の低下、あるいは火炎自体の消火の効果により、可燃性ガスの発火や火炎を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態による蓄電デバイスの発火防止装置を示す斜視図である。
図2】同実施形態による蓄電デバイスの発火防止装置を概略的に示す縦断面図である。
図3】実施例1~3の試験装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の蓄電デバイスの発火防止装置について、以下の実施形態に基づき詳細に説明する。
【0029】
[蓄電デバイスの発火防止装置]
本実施形態の蓄電デバイスの発火防止装置1は、図1に示すように蓄電デバイス11に形成された内部ガス放出口12上に設置されるものである。この蓄電デバイスの発火防止装置1は、図2に示すように図示しない耐熱性プラスチックあるいは金属製の側周枠部材の上面及び下面に金属製のメッシュ部材22をそれぞれ貼設した通気性を有するケーシング21内に粒状(ペレット)の可燃性ガスの発火及び/又は火炎の抑制剤23を充填した構造を有する。そして、本実施形態においては、蓄電デバイス11は複数の集合体であり、蓄電デバイスの発火防止装置1は、これら複数の蓄電デバイス11の内部ガス放出口12をそれぞれ覆うように設置されている。
【0030】
(蓄電デバイス)
本実施形態において、蓄電デバイス11としては、特に制限はなく、一次電池、二次電池のいずれも用いることができるが、好ましくは二次電池である。この二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛畜電池、ニッケル・水素畜電池、ニッケル・カドミウム畜電池、ニッケル・鉄畜電池、ニッケル・亜鉛畜電池、酸化銀・亜鉛畜電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサ、キャパシタ等を用いることができる。これらの中では、非水電解質を用いたものを好適に用いることができる。これらの二次電池の中でも、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムイオンキャパシタ等に好適に適用することができる。
【0031】
上記蓄電デバイス11における非水電解質としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートと、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネートとの混合溶液等を用いることができる。また、上記非水電解質は、必要に応じて、電解質として六フッ化リン酸リチウム等のリチウム塩が溶解したものであってもよい。例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:1:1の割合で混合した混合液、あるいはプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を1:1:1の割合で混合した混合液に、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウムを添加したものを用いることができる。
【0032】
(可燃性ガスの発火及び/又は火炎の抑制剤)
このような蓄電デバイス11の非水電解質等に起因して発生する可燃性ガスの発火及び/又は火炎を抑制する抑制剤23は、可燃性ガスの吸収能、温度低下能及び火炎消火能の1又は2以上を備えたものであればよく、多孔質素材を好適に用いることができる。本実施形態において多孔質素材としては、有機系、無機系、あるいは有機・無機複合素材を用いることができ、特に、無機多孔質素材料、炭素系多孔質素材、有機ホスト化合物、多孔質有機金属複合材料等を好適に用いることができる。
【0033】
無機多孔質材料としては、多孔質シリカ、金属ポーラス構造体、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ゼオライト、活性アルミナ、酸化チタン、アパタイト、多孔質ガラス、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等を用いることができる。炭素系材料としては、粉末状活性炭、粒状活性炭、繊維状活性炭、シート状活性炭等の活性炭、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンモレキュラシーブ、フラーレン、ナノカーボン等を用いることができる。また、ケイ酸マグネシウムとしては、二酸化ケイ素等の酸化ケイ素とアルカリ土類金属酸化物として酸化マグネシウムとを混合したものを用いることができる。
【0034】
これらの無機多孔質材料及び炭素系材料は単独で用いてもよいし、二種類以上の素材を併用してもよいが、ゼオライト、活性炭、二酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの混合 これらの無機多孔質材料及び炭素系材料は単独で用いてもよいし、二種類以上の素材を併用してもよいが、ゼオライト、活性炭、ケイ酸マグネシウム(二酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの混合物を含む)が特に有効である。
【0035】
上述したような抑制剤23の形態は特に制限はなく、粉末状、顆粒状もしくはペレット状(チップ状、粒状を含む)とすることができるが、メッシュ部材22を通過しない大きさとする。具体的には、メッシュ部材22のふるいの大きさ以上で、1~30mm、特に3~20mm程度の平均粒子径とすればよい。抑制剤の大きさが1mm未満では、蓄電デバイス11の気体透過性が低いため、可燃性ガスや火炎が通過しにくくなり、蓄電デバイス11を回避しやすくなる一方、30mmを超えると可燃性ガスの吸収能、温度低下能及び火炎消火能を効率的に発揮しにくくなる。これらのことからペレット状とすることが好ましい。
【0036】
また、抑制剤23のケーシング21内への充填率(抑制剤23が満たされている領域によるみかけの充填率)は、少なすぎると可燃性ガスの吸収能、温度低下能及び火炎消火能を効率的に発揮しにくくなる一方、多すぎると抑制剤23のケーシング21内での流動性が損なわれることにより、可燃性ガスや火炎の流通抵抗となり、かえって可燃性ガスの吸収能、温度低下能及び火炎消火能を効率的に発揮しにくくなることから、20~70容積%程度とすればよい。また、ケーシング21の大きさ、及び抑制剤23の充填量は、発火防止装置1が設置される蓄電デバイス11の個数と、想定される可燃性ガスの量と、抑制剤23の能力とに応じて、適宜設定すればよい。
【0037】
[蓄電デバイスの発火防止方法]
上述したような発火防止装置1による蓄電デバイス11の発火防止方法について、以下説明する。まず、図1に示すように複数の蓄電デバイス11,11・・・の各内部ガス放出口12上を覆うように蓄電デバイスの発火防止装置1を設置する。この状態で蓄電デバイス11を使用すると、使用中にいずれかの蓄電デバイス11が破損したり、過充電されたり、あるいは充放電の繰り返しに伴い劣化したりすると、可燃性のガスが発生することがある。この可燃性ガスは、内部ガス放出口12から放出し、この際回路の短絡や過熱により火花が存在すると、可燃性ガスに引火して火炎となる。
【0038】
そして、蓄電デバイスの発火防止装置1の上面及び下面は通気性を有する金属製のメッシュ部材22であるので、図2に示すようにこれら可燃性ガスG及び火炎Fは、発火防止装置1内に侵入し、抑制剤23に接触する。このとき抑制剤23は、可燃性ガスGの吸収能及び/又は可燃性ガスGの温度低下能及び/又は火炎消火能を有するので、可燃性ガスGの濃度の低下あるいは温度の低下により火炎は鎮火するか、あるいは火炎Fが直接消火されることになる。なお、可燃性ガスGの燃焼に伴い発生する煤塵も蓄電デバイス11内に侵入し、捕捉されることになる。これらにより、可燃性ガスG及び火炎Fは蓄電デバイスの発火防止装置1より外部環境に拡散することがなくなるので、蓄電デバイス11の障害にともなう火災を防止することができる。
【0039】
以上、本発明の蓄電デバイスの発火防止装置について一つの実施形態に基づき説明してきたが、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、蓄電デバイスの発火防止装置1の大きさ、形状、通気性を付与するための手段等は特に制限されず、スマートフォンから車載用等、幅広い大きさの蓄電デバイス11に適用可能である。また、発火防止装置は、蓄電デバイス11の内部ガス放出口12上に密着して設ける必要はなく、5cm以下程度内部ガス放出口12の先端から離間していてもよい。
【実施例
【0040】
以下の具体的実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(試験装置)
試験装置として、図3に示すように直径13mmΦの内部ガス放出口32を形成した容積1.7Lの密閉容器31内に蓄電デバイスとしてリチウムイオン電池33(PL-703562-2C,3.7V,1500mAh)を収容し、正極34及び負極35をそれぞれ充放電装置(図示せず)接続した。
【0042】
(発火防止装置)
外寸300mm×150mmで内寸250mm×110mm×30mmの金属製の枠体42の上面及び下面に7~12メッシュの金属製の網43,44を貼設し、この内部に抑制剤23を充填して、発火防止装置41とした。
【0043】
(参考例)
発火防止装置41に抑制剤23を充填せずに、内部ガス放出口32から3cm離間して設置し、リチウムイオン電池33を5C(15V,7.5Ah)で過充電状態として、リチウムイオン電池33を爆発・発火させ、この際のリチウムイオン電池33の温度(LiB温度)と、内部ガス放出口32の最高出口温度と、発火防止装置41の最高上面温度とを測定した。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例1~3)
参考例において、発火防止装置41に、抑制剤23にゼオライト系ペレット(栗田工業(株)製 イプシガードEP-102)、ゼオライト系ペレット(栗田工業(株)製 栗田工業(株)製 イプシガードEP-103)、及び二酸化ケイ素と酸化マグネシウムの混合物のペレットとを表1に示す量で充填し、リチウムイオン電池33を過充電状態として、リチウムイオン電池33を爆発・発火させ、この際のリチウムイオン電池33の温度と、内部ガス放出口32の最高出口温度と、発火防止装置41の最高上面温度とを測定した。結果を抑制剤及び充填量とともに表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなように、参考例では、リチウムイオン電池33から発生する可燃性ガスに引火し、可燃性ガスの放出する間は発火が持続したのに対し、実施例1~3の発火防止装置41によれば、可燃性ガスが吸着されるととともに温度が低下するため、発火が抑制されることが確認できた。
【符号の説明】
【0047】
1 蓄電デバイスの発火防止装置
11 蓄電デバイス
12 内部ガス放出口
21 ケーシング
22 金属製のメッシュ部材
23 抑制剤
31 密閉容器
32 内部ガス放出口
33 リチウムイオン電池(蓄電デバイス)
34 正極
35 負極
41 発火防止装置
42 枠体
43,44 網(メッシュ部材)
図1
図2
図3