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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】耐熱性と耐水性に優れるアクリルゴム
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20240806BHJP
   C08C 1/15 20060101ALI20240806BHJP
   C08C 1/16 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20240806BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240806BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08F220/18
C08C1/15
C08C1/16
C08K3/011
C08L33/08
C08K3/013
C08F2/24 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019237215
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105121
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩文
(72)【発明者】
【氏名】川中 孝文
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/208821(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/188525(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079783(WO,A1)
【文献】特開2019-119772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08C 19/00- 19/44
C08C 1/00- 4/00
C08F 2/00- 2/60
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステル由来の結合単位(A)10~98.9重量%、メタクリル酸エステル由来の結合単位(B)1~50重量%、反応性基含有単量体由来の結合単位(C)0.1~10重量%及びその他の単量体由来の結合単位(D)0~30重量%からなるアクリルゴムであって、製造時に使用した乳化剤及び凝固剤に由来する全灰分量が1重量%以下で、前記灰分中にはアクリルゴム製造時に使用した乳化剤及び凝固剤に由来するリン及びマグネシウムを含み、灰分中の前記マグネシウムと前記リンの合計量が全灰分量に対する割合で60重量%以上であり、且つ、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10~150の範囲であるアクリルゴム。
【請求項2】
アクリル酸エステル由来の結合単位(A)が、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアクリル酸エステル由来の結合単位である請求項1に記載のアクリルゴム。
【請求項3】
ゲル量が、50重量%以下である請求項1又は2に記載のアクリルゴム。
【請求項4】
重量平均分子量(Mw)が、1,000,000以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のアクリルゴム。
【請求項5】
リン酸エステル塩を乳化剤として使用し乳化重合したものである請求項1~4のいずれか一項に記載のアクリルゴム。
【請求項6】
乳化重合した重合液をマグネシウム塩を凝固剤として使用することにより凝固させ、乾燥したものである請求項1~5のいずれか一項に記載のアクリルゴム。
【請求項7】
凝固後にスクリュー押出機を用いて乾燥されたものである請求項1~6のいずれか一項に記載のアクリルゴム。
【請求項8】
前記スクリュー押出機を用いた乾燥が、減圧下で行われたものである請求項7に記載のアクリルゴム。
【請求項9】
前記スクリュー押出機を用いた乾燥後に、50℃/hr以上の冷却速度で冷却されたものである請求項7又は8に記載のアクリルゴム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のアクリルゴムの製造方法であって、
アクリル酸エステル(a)、メタクリル酸エステル(b)、反応性基含有単量体(c)、及び必要に応じて共重合可能なその他の単量体(d)とからなる単量体成分を、水とリン酸系乳化剤とでエマルジョン化した後に重合触媒存在下に乳化重合して乳化重合液を得る乳化重合工程と、
得られた乳化重合液を撹拌されているマグネシウム塩水溶液中に添加することにより含水クラムを生成させる凝固工程と、
生成した含水クラムを40℃以上の温水で洗浄する洗浄工程と、
洗浄した含水クラムを乾燥する乾燥工程と、
を含むアクリルゴムの製造方法。
【請求項11】
凝固工程において、乳化重合液を0.5m/s以上の周速で撹拌されているマグネシウム塩水溶液中に添加することにより含水クラムを生成させる請求項10に記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項12】
洗浄工程と乾燥工程の間に、含水クラムから水分を絞り出す脱水工程を設ける請求項10に記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項13】
含水クラムの脱水と乾燥をスクリュー型押出機で行う請求項12に記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項14】
前記乾燥が、実質的に水分を含まない状態で行われる請求項13に記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載のアクリルゴムからなるシート状又はベール状のアクリルゴム成形体。
【請求項16】
比重が、0.8以上である請求項15に記載のアクリルゴム成形体。
【請求項17】
請求項1~9のいずれか一項に記載のアクリルゴムを含むゴム成分、充填剤及び架橋剤を含んでなるゴム組成物。
【請求項18】
請求項17に記載のゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム及びその製造方法、アクリルゴム成形体、ゴム組成物及びゴム架橋物に関し、さらに詳しくは、耐熱性と耐水性に優れるアクリルゴム及びその製造方法、該アクリルゴムを成形してなる成形体、該アクリルゴムを含む架橋性のゴム組成物及びそれを架橋してなるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とする重合体であり、一般に耐熱性、耐油性及び耐オゾン性に優れたゴムとして知られ、自動車関連の分野などで広く用いられている。
【0003】
かかるアクリルゴムとしては、例えば、特許文献1(国際公開第2018/101146号パンフレット)には、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸エステルに由来する構成単位及び/又は炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸エステルに由来する構成単位45~89.5重量%、炭素数3~16のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位10~50重量%、カルボキシ機を有する架橋性モノマーに由来する構成単位0.5~5重量%を含有する耐熱性に優れるアクリル共重合が開示され、具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチル、フマル酸モノエチルからなる単量体、水、乳化剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルを仕込み、アスコルビン酸ナトリウムと過硫酸カリウムを加えて常圧、常温下で乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続し、ヒドロキノンを添加して重合を停止した乳化重合液を硫酸ナトリウム水溶液で凝固させて含水クラムを生成し、次いで生成した含水クラムを水洗、乾燥してムーニー粘度38のアクリルゴムを製造することが記載されている。しかしながら、本方法では、得られるアクリルゴムは耐水性に劣る問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/101146号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の実状に鑑みてなされたものであり、耐熱性と耐水性の両方に優れるアクリルゴム及びその製造方法、該アクリルゴムを成形してなるアクリルゴム成形体、該アクリルゴムを含むゴム組成物及びそれを架橋してなるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、メタクリル酸エステルを含む特定組成の構造単位からなり、ゴム中に含まれる灰分量が特定範囲内にあり、しかも灰分中にマグネシウムとリンを特定量含み且つムーニー粘度(ML1+4,100℃)の特定範囲にあるアクリルゴムは、耐熱性と耐水性が格段に優れることを見出した。
【0007】
本発明者らは、また、特定の単量体成分を特定のリン酸系乳化剤でエマルジョン化した後に乳化重合して得られた乳化重合液を特定の凝固剤で凝固し洗浄乾燥することで容易に耐熱性と耐水性に優れるアクリルゴムが得られることを見出した。
【0008】
本発明者らは、また、凝固反応を激しく撹拌している凝固液中に乳化重合液を添加すること、洗浄した含水クラムを乾燥する前に水分を絞り出すこと、又は、含水クラムの脱水及び乾燥をスクリュー型押出機で行うことで更に灰分量を低減した耐水性に優れるアクリルゴムが製造できることを見出した。
【0009】
本発明者らは、更に、上記アクリルゴムをシート状又はベール状にすることで耐熱性と耐水性に優れ且つ操業性、加工性、保存安定性などのその他の特性にも優れることを見出した。
【0010】
本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
かくして、本発明によれば、アクリル酸エステル由来の結合単位(A)10~98.9重量%、メタクリル酸エステル由来の結合単位(B)1~50重量%、反応性基含有単量体由来の結合単位(C)0.1~10重量%及びその他の単量体由来の結合単位(D)0~30重量%からなるアクリルゴムであって、製造時に使用した乳化剤及び凝固剤に由来する全灰分量が1重量%以下で、前記灰分中にはアクリルゴム製造工程での乳化剤及び凝固剤に由来するリン及びマグネシウムを含み、全灰分中の前記マグネシウムと前記リンの合計量が全灰分量に対する割合で60重量%以上であり、且つ、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10~150の範囲であるアクリルゴムが提供される。
【0012】
本発明のアクリルゴムにおいて、アクリル酸エステル由来の結合単位(A)が、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアクリル酸エステル由来の結合単位であることが好ましい。
【0013】
本発明のアクリルゴムにおいて、ゲル量が、50重量%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のアクリルゴムにおいて、重量平均分子量(Mw)が、1,000,000以上であることが好ましい。
本発明のアクリルゴムにおいて、リン酸エステル塩を乳化剤として使用し乳化重合したものであることが好ましい。
本発明のアクリルゴムにおいて、乳化重合した重合液をマグネシウム塩を凝固剤として使用することにより凝固させ、乾燥したものであることが好ましい。
本発明のアクリルゴムにおいて、凝固後にスクリュー押出機を用いて乾燥されたものであることが好ましい。
本発明のアクリルゴムにおいて、前記スクリュー押出機を用いた乾燥が、実質的に水分を含まない状態で行われたものであることが好ましい。
本発明のアクリルゴムにおいて、前記スクリュー押出機を用いた乾燥が、減圧下で行われたものであることが好ましい。
本発明のアクリルゴムにおいて、前記スクリュー押出機を用いた乾燥後に、50℃/hr以上の冷却速度で冷却されたものであることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、また、上記のアクリルゴムを製造する方法として
アクリル酸エステル(a)、メタクリル酸エステル(b)、反応性基含有単量体(c)、及び必要に応じて共重合可能なその他の単量体(d)とからなる単量体成分を、水とリン酸系乳化剤とでエマルジョン化した後に重合触媒存在下に乳化重合して乳化重合液を得る乳化重合工程と、
得られた乳化重合液を撹拌されているマグネシウム塩水溶液中に添加することにより含水クラムを生成させる凝固工程と、
生成した含水クラムを40℃以上の温水で洗浄する洗浄工程と、
洗浄した含水クラムを乾燥する乾燥工程と、
を含むアクリルゴムの製造方法が提供される。
【0016】
本発明のアクリルゴムの製造方法では、凝固工程において、乳化重合液を0.5m/s以上の回転速度で撹拌されているマグネシウム塩水溶液中に添加することにより含水クラムを生成させることが好ましい。
【0017】
本発明のアクリルゴムの製造方法において、洗浄工程と乾燥工程の間に、含水クラムから水分を絞り出す脱水工程を設けることが好ましい。
【0018】
また、本発明のアクリルゴムの製造方法において、含水クラムの脱水と乾燥スクリュー型押出機で行われることが好ましく、前記乾燥工程における含水クラムの乾燥がスクリュー押出機を用いて実質的に水分を含まない状態で行われることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、また、上記アクリルゴムからなるシート状又はベール状のアクリルゴム成形体が提供される。
【0020】
本発明のアクリルゴム成形体において、比重が0.8以上であることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、また、上記アクリルゴムを含むゴム成分、充填剤及び架橋剤を含んでなるゴム組成物が提供される。
【0022】
本発明によれば、更に、上記ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、耐熱性と耐水性の両方に優れるアクリルゴム及びその効率的な製造方法、該アクリルゴムを成形してなるアクリルゴム成形体、該アクリルゴムを含んでなるゴム組成物及びそれを架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るアクリルゴム製造システムの一例を模式的に示す図である。
図2図1のスクリュー型押出機の構成を示す図である。
図3図1の冷却装置として用いられる搬送式冷却装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のアクリルゴムは、アクリル酸エステル由来の結合単位(A)10~98.9重量%、メタクリル酸エステル由来の結合単位(B)1~50重量%、反応性基含有単量体由来の結合単位(C)0.1~10重量%及びその他の単量体由来の結合単位(D)0~30重量%からなり、全灰分量が1重量%以下で、且つ全灰分中のマグネシウムとリンの合計量が全灰分量に対する割合で60重量%以上であり、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10~150の範囲であることを特徴とする。
【0026】
<単量体成分>
本発明のアクリルゴムを構成する結合単位(A)は、アクリル酸エステル(a)由来の結合単位であり、好適には、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアクリル酸エステル由来の結合単位である。
【0027】
アクリル酸アルキルエステルとしては、格別な限定はないが、例えば炭素数が1~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが挙げられ、好ましくは炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、より好ましくは炭素数2~6のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルである。
【0028】
アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチルが好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルがより好ましい。
【0029】
アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、格別な限定はないが、例えば炭素数が2~12のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられ、好ましくは炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキルエステル、より好ましくは炭素数2~6のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシエステルである。
【0030】
アクリル酸アルコキシアルキルエステルの具体例としては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸メトキシプロピル、アクリル酸メトキシブチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸プロポキシエチル、アクリル酸ブトキシエチルなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸メトキシメチルなどが好ましく、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチルがより好ましい。
【0031】
これらのアクリル酸エステル由来の結合単位(A)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせることができ、アクリルゴム中の結合量は、10~98.9重量%、好ましくは32~97.7重量%、より好ましくは50~96.5重量%、特に好ましくは62~94重量%の範囲である。アクリルゴム中の結合単位(A)量が、過度に少ないと耐候性、耐熱性、及び耐油性が低下するおそれがあり、また過度に多いと強度特性や耐圧縮永久歪み特性が低下するおそれがあり好ましくない。
【0032】
本発明のアクリルゴムを構成する結合単位(B)は、メタクリル酸エステル(b)由来の結合単位である。
【0033】
メタクリル酸エステル(b)としては、格別な限定はなく、例えば、メタクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種のメタクリル酸エステルが好適な例として挙げられ、特にメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0034】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数が1~14のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられ、好ましくは炭素数2~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル、より好ましくは炭素数2~6のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルである。
【0035】
メタクリル酸アルキルエステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソトリデシルなどが挙げられ、好ましくはメタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、より好ましくはメタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチルである。
【0036】
メタクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、炭素数が2~14のアルコキシアルキル基を有するメタクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられ、好ましくは炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するメタクリル酸アルコキシアルキルエステル、より好ましくは炭素数2~6のアルコキシアルキル基を有するメタクリル酸アルコキシアルキルエステルである。
【0037】
メタクリル酸アルコキシアルキルエステルの具体例としては、メタクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシプロピル、メタクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸プロポキシエチル、メタクリル酸ブトキシエチルなどが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸エトキシエチルなどが好ましく、メタクリル酸メトキシエチルメタクリル酸エトキシエチルがより好ましい。
【0038】
これらのメタクリル酸エステル由来の結合単位(B)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせることができ、アクリルゴム中の結合量は、1~50重量%、好ましくは2~40重量%、より好ましくは3~30重量%、特に好ましくは5~25重量%の範囲である。
【0039】
本発明のアクリルゴムを構成する結合単位(C)は、反応性基含有単量体(c)由来の結合単位である。
【0040】
反応性基含有単量体(c)としては、格別な限定はないが、例えば、カルボキシル基、エポキシ基及びハロゲン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体などが挙げられ、好ましくはカルボキシル基を有する単量体、エポキシ基を有する単量体であり、特に好ましくはカルボキシル基を有する単量体である。
【0041】
カルボキシル基を有する単量体としては、格別な限定はないが、エチレン性不飽和カルボン酸を好適に用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルなどが挙げられ、これらの中でもエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルが、得られるアクリルゴムの耐圧縮永久歪み特性をより高めることができ好ましい。
【0042】
エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、格別な限定はないが、炭素数3~12のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などを挙げることができる。
【0043】
エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、格別な限定はないが、炭素数4~12のエチレン性不飽和ジカルボン酸が好ましく、例えば、フマル酸、マレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸などを挙げることができる。なお、エチレン性不飽和ジカルボン酸には、無水物として存在しているものも含まれる。
【0044】
エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、格別な限定はないが、通常、炭素数4~12のエチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1~12のアルキルモノエステル、好ましくは炭素数4~6のエチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数2~8のアルキルモノエステル、より好ましくは炭素数4のブテンジオン酸の炭素数2~6のアルキルモノエステルである。
【0045】
エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルの具体例としては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn-ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn-ブチル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシルなどのブテンジオン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn-ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;などが挙げられ、好ましくはフマル酸モノn-ブチル、マレイン酸モノn-ブチルで、特に好ましくはフマル酸モノn-ブチルである。
【0046】
エポキシ基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有ビニルエーテル;などが挙げられる。なお、ここでいう「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を総称する語として用いられ、以下においても同様である。
【0047】
ハロゲン基を有する単量体としては、例えば、ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステル、(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステル、ハロゲン含有不飽和エーテル、ハロゲン含有不飽和ケトン、ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物、ハロゲン含有不飽和アミド、ハロアセチル基含有不飽和単量体などが挙げられる。
【0048】
ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステルとしては、例えば、クロロ酢酸ビニル、2-クロロプロピオン酸ビニル、クロロ酢酸アリルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸1-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸1,2-ジクロロエチル、(メタ)アクリル酸2-クロロプロピル、(メタ)アクリル酸3-クロロプロピル、(メタ)アクリル酸2,3-ジクロロプロピルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-(クロロアセトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(クロロアセトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(クロロアセトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-(クロロアセチルカルバモイルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3-(クロロアセチルカルバモイルオキシ)プロピルなどが挙げられる。ハロゲン含有不飽和エーテルとしては、例えば、クロロメチルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、3-クロロプロピルビニルエーテル、2-クロロエチルアリルエーテル、3-クロロプロピルアリルエーテルなどが挙げられる。ハロゲン含有不飽和ケトンとしては、例えば、2-クロロエチルビニルケトン、3-クロロプロピルビニルケトン、2-クロロエチルアリルケトンなどが挙げられる。ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物としては、例えば、p-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチル-α-メチルスチレンなどが挙げられる。ハロゲン含有不飽和アミドとしては、例えば、N-クロロメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。ハロアセチル基含有不飽和単量体としては、例えば、3-(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルアリルエーテル、p-ビニルベンジルクロロ酢酸エステルなどが挙げられる。
【0049】
これらの反応性基含有単量体由来の結合単位(C)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせることができ、アクリルゴム中の結合量は、0.1~10重量%、好ましくは0.3~8重量%、より好ましくは0.5~5重量%、特に好ましくは1~3重量%の範囲である。
【0050】
本発明のアクリルゴムを構成する結合単位(D)は、必要に応じて共重合されるその他の単量体(d)由来の結合単位である。
【0051】
その他の単量体(d)としては、上記単量体(a)(b)(c)以外であって且つこれらと共重合可能であれば格別な限定はなく、例えば、芳香族ビニル、エチレン性不飽和ニトリル、アクリルアミド系単量体、その他のオレフィン系単量体などが挙げられる。芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。エチレン性不飽和ニトリルとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。その他のオレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0052】
これらのその他の単量体由来の結合単位(D)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせることができ、アクリルゴム中の結合量は、0~30重量%、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0~15重量%、特に好ましくは0~10重量%の範囲である。したがって、本発明のアクリルゴムは、その他の単量体由来の結合単位(D)を含まないものや上記範囲内で含むものがあり、前者の場合は、上記のようなその他の単量体(d)は使用されない。
【0053】
<アクリルゴム>
本発明のアクリルゴムは、上記アクリル酸エステル由来の結合単位(A)、メタクリル酸エステル由来の結合単位(B)、反応性基含有単量体由来の結合単位(C)、及び必要に応じてその他の単量体由来の結合単位(D)からなり、それぞれの割合は、結合単位(A)が、10~98.9重量%、好ましくは32~97.7重量%、より好ましくは50~96.5重量%、特に好ましくは62~94重量%の範囲であり、結合単位(B)が、1~50重量%、好ましくは2~40重量%、より好ましくは3~30重量%、特に好ましくは5~25重量%の範囲であり、結合単位(C)が、0.1~10重量%、好ましくは0.3~8重量%、より好ましくは0.5~5重量%、特に好ましくは1~3重量%の範囲であり、結合単位(D)が、0~30重量%、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0~15重量%、特に好ましくは0~10重量%の範囲である。すなわち、本発明のアクリルゴムは上記各結合単位を上述した特定の重量割合で含み、且つ各結合単位の合計が100重量%になるように含む共重合体であり、アクリルゴム中のそれぞれの単量体結合単位がこの範囲にあるときにアクリルゴムの架橋物としたとき、耐熱性、耐水性及び耐圧縮永久歪み特性を高度にバランスさせることができるので好適である。
【0054】
本発明のアクリルゴムの反応性基含有量は、格別な限定はなく上記反応性基含有単量体由来の結合単位割合の中で適宜選択されればよく、反応性基自体の重量割合で、通常0.001~5重量%、好ましくは0.01~3重量%、より好ましくは0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~0.5重量%の範囲にあるときに加工性、強度特性、耐圧縮永久歪み特性、耐油性、耐寒性、及び耐水性などの特性が高度にバランスされるので好適である。
【0055】
本発明のアクリルゴム中の全灰分量は、1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下、最も好ましくは0.15重量%以下であり、全灰分量がこの範囲にあるときアクリルゴムとしての耐水性が格段に優れ好適である。
【0056】
本発明のアクリルゴム中の全灰分量の下限値は、格別限定されるものではないが、通常0.0001重量%以上、好ましくは0.0005重量%以上、より好ましくは0.001重量%以上、特に好ましくは0.005重量%以上、最も好ましくは0.01重量%以上であるときに、アクリルゴムの金属付着性が低減され作業性に優れるようになり好適である。
【0057】
したがって、本発明のアクリルゴムの耐水性と金属付着耐性とが高度にバランスされる全灰分量としては、通常0.0001~1重量%、好ましくは、0.0005~0.5重量%、より好ましくは0.001~0.3重量%、特に好ましくは0.005~0.2重量%、最も好ましくは0.01~0.15重量%の範囲である。
【0058】
本発明のアクリルゴムにおける灰分中のマグネシウムとリンの合計量は、全灰分中の60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上を占めるときに、アクリルゴムの耐水性が高度に優れるので好適である。
【0059】
本発明のアクリルゴムの灰分中のマグネシウムとリンとの比([Mg]/[P])は、格別な限定はないが、重量比で通常0.4~2.5、好ましくは0.45~1.2、より好ましくは0.5~0.7の範囲であるときに、アクリルゴムの耐水性が高度に優れたものとなり好適である。
【0060】
ここで、アクリルゴム中の灰分は、単量体成分をエマルジョン化して乳化重合する際に用いる乳化剤及び乳化重合液を凝固する際に用いる凝固剤に主として由来するものであるが、全灰分量や灰分中のマグネシウムとリンの含有量などは、乳化重合工程や凝固工程の条件だけでなく、その後の各工程の諸条件によっても変化するものである。
【0061】
本発明のアクリルゴムのゲル量は、格別な限定はないが、メチルエチルケトンの不溶解分で、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下であるときにアクリルゴムの加工性が高度に改善され好適である。
【0062】
本発明のアクリルゴムのガラス転移温度(Tg)は、格別な限定は無く、通常20℃以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは0℃である。
【0063】
本発明のアクリルゴムのpHは、格別な限定はないが、通常7以下、好ましくは6以下、より好ましくは2~6、特に好ましくは2.5~5.5、最も好ましくは3~5の範囲がよく、この範囲にあるときに保存安定性が高度に改善され好適である。
【0064】
本発明のアクリルゴムの含水量は、通常1重量%未満、好ましくは0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下であるときにスコーチ特性を最適にでき好適である。
【0065】
本発明のアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、10~150、好ましくは20~100、より好ましくは25~80の範囲である。
【0066】
本発明のアクリルゴムの重量平均分子量(Mw)は、GPC-MALSで測定される絶対分子量で、格別な限定はないが、通常100,000~5,000,000、好ましくは500,000~4,000,000、より好ましくは700,000~3,000,000、最も好ましくは1,000,000~2,500,000の範囲であるときにアクリルゴムの混合時の加工性、強度特性、及び耐圧縮永久歪み特性が高度にバランスされるので好適である。
【0067】
本発明のアクリルゴムの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、格別な限定はないが、GPC-MALSで測定される絶対分子量分布で、通常1.1~8、好ましくは1.2~7、より好ましくは1.4~6の範囲であるときにアクリルゴムの加工性、強度特性及び耐圧縮永久歪み特性が高度にバランスされるので好適である。
【0068】
<アクリルゴムの製造方法>
上記アクリルゴムの製造方法は、格別限定されるものではないが、例えば、アクリル酸エステル(a)、メタクリル酸エステル(b)、反応性基含有単量体(c)、及び必要に応じて共重合可能なその他の単量体(d)とからなる単量体成分を水とリン酸系乳化剤とでエマルジョン化した後に重合触媒存在下に乳化重合して乳化重合液を得る乳化重合工程と、
得られた乳化重合液とマグネシウム塩水溶液を接触させて含水クラムを生成する凝固工程と、
生成した含水クラムを洗浄する洗浄工程と、
洗浄した含水クラムを乾燥する乾燥工程と、
を含む製造方法で容易に製造できる。
【0069】
以下、上記各工程の実施形態について説明する。
【0070】
(乳化重合工程)
本発明のアクリルゴムの製造方法における乳化重合工程は、アクリル酸エステル(a)、メタクリル酸エステル(b)、反応性基含有単量体(c)、及び必要に応じて共重合可能なその他の単量体(d)とからなる単量体成分を水とリン酸系乳化剤とでエマルジョン化した後に重合触媒存在下に乳化重合して乳化重合液を得ることを特徴とする。
【0071】
アクリルゴムの乳化重合工程で使用される単量体成分(a)~(d)は、既に述べたアクリルゴム結合単位(A)~(D)に対応した単量体成分の例示及び好ましい範囲と同じである。単量体成分の使用量についても、既に述べたとおりであり、乳化重合工程では、各単量体を本発明のアクリルゴムの上記組成になるように適宜選択すればよい。
【0072】
乳化重合工程で乳化剤として使用されるリン酸系乳化剤としては、乳化重合反応において乳化剤として使用可能なものであれば、格別限定されるものではないが通常リン酸エステル塩が用いられる。リン酸エステル塩としては、好適には、2価リン酸エステル金属塩が用いられ、それらの中で、特に2価リン酸エステルナトリウム塩が好ましい。
【0073】
好適な2価リン酸エステル塩の具体的としては、アルキルオキシポリオキシアルキレンリン酸エステル塩、アルキルフェニルオキシポリオキシアルキレンリン酸エステル塩などが挙げられ、これらの中でもこれらの金属塩が好ましく、これらのアルカリ金属塩がより好ましく、これらのナトリウム塩が最も好ましい。
【0074】
上記アルキルオキシポリオキシアルキレンリン酸エステル塩としては、例えば、アルキルオキシポリオキシエチレンリン酸エステル塩、アルキルオキシポリオキシプロピレンリン酸エステル塩などが挙げられ、これらの中でも、アルキルオキシポリオキシエチレンリン酸エステル塩が好ましい。
【0075】
アルキルオキシポリオキシエチレンリン酸エステル塩の具体例としては、オクチルオキシジオキシエチレンリン酸エステル、オクチルオキシトリオキシエチレンリン酸エステル、オクチルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、デシルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、トリデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、テトラデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、オクタデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、オクチルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、デシルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、トリデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、テトラデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、オクタデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、オクチルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、デシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、トリデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、テトラデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、オクタデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、オクチルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、デシルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、トリデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、テトラデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、オクタデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステルなどの金属塩が挙げられ、これらの中でも、それらのアルカリ金属塩、とりわけナトリウム塩が好適である。
【0076】
アルキルオキシポリオキシプロピレンリン酸エステル塩の具体例としては、オクチルオキシジオキシプロピレンリン酸エステル、オクチルオキシトリオキシプロピレンリン酸エステル、オクチルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、デシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、トリデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、テトラデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、オクタデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、オクチルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、デシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、トリデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、テトラデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、オクタデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、オクチルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、デシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、トリデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、テトラデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、オクタデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、オクチルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、デシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、トリデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、テトラデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキサデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、オクタデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル及びそれらの金属塩などが挙げられ、これらの中でも、それらのアルカリ金属塩、特にナトリウム塩が好適である。
【0077】
アルキルフェニルオキシポリオキシアルキレンリン酸エステル塩の具体例としては、アルキルフェニルオキシポリオキシエチレンリン酸エステル塩、アルキルフェニルオキシポリオキシプロピレンリン酸エステル塩などが挙げられ、これらの中でも、アルキルフェニルオキシポリオキシエチレンリン酸エステル塩が好ましい。
【0078】
アルキルフェニルオキシポリオキシエチレンリン酸エステル塩の具体例としては、メチルオキシオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、オクタデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸エステル、メチルフェニルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシペンタオキシエチレンリン酸エステル、メチルフェニルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、メチルフェニルオキシヘキサオキシエチレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステルなどの金属塩が挙げられ、これらの中でも、それらのアルカリ金属塩、特にナトリウム塩が好適である。
【0079】
アルキルフェニルオキシポリオキシプロピレンリン酸エステル塩の具体例としては、メチルフェニルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシテトラオキシプロピレンリン酸エステル、メチルフェニルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシペンタオキシプロピレンリン酸エステル、メチルフェニルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸エステル、メチルフェニルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、エチルフェニルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、ブチルフェニルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、ヘキシルフェニルオキシオクタオキシエチレンリン酸エステル、ノニルフェニルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステル、ドデシルフェニルオキシオクタオキシプロピレンリン酸エステルなどの金属塩が挙げられ、これらの中でも、それらのアルカリ金属塩、特にナトリウム塩が好適である。
【0080】
上記2価リン酸エステル塩以外のリン酸系乳化剤としては、ジ(アルキルオキシポリオキシアルキレン)リン酸エステルナトリウム塩などの1価リン酸エステル塩などが挙げられる。
【0081】
これらのリン酸系乳化剤は、それぞれ単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その使用量は、単量体成分100重量部に対して、通常0.01~10重量部、好ましくは0.1~5重量部、より好ましくは1~3重量部の範囲である。
【0082】
本発明の方法においては、乳化剤として上記リン酸系乳化剤とそれ以外のその他の乳化剤を組み合わせて用いてもよい。上記リン酸系乳化剤と組み合わせて用いることができるその他の乳化剤としては、例えば、その他のアニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤などが挙げられ、好ましくはノニオン性乳化剤である。
【0083】
その他のアニオン性乳化剤としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸などの脂肪酸の塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩などを挙げることができる。これらのアニオン性乳化剤の中でも、硫酸エステル塩が好ましい。
【0084】
カチオン性乳化剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライドなどを挙げることができる。
【0085】
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルなどのポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンドデシルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル;ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなどを挙げることができ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテルが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルがより好ましい。
【0086】
上記のようなその他の乳化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択されればよい。その他の乳化剤を使用する場合、その量は少量とするのがよく、単量体成分100重量部に対して、通常0.01~10重量部、好ましくは0.1~5重量部、より好ましくは1~3重量部の範囲とする。
【0087】
単量体成分と水と乳化剤との混合方法(混合方式)は、常法に従えばよく、例えば、単量体と乳化剤と水とをホモジナイザーやディスクタービンなどの撹拌機を用いて撹拌する方法などが挙げられる。水の使用量は、単量体成分100重量部に対して、通常1~1,000重量部、好ましくは5~500重量部、より好ましくは4~300重量部、特に好ましくは3~150重量部、最も好ましくは20~80重量部の範囲である。
【0088】
使用する重合触媒としては、乳化重合で通常使われるものであれば格別な限定はないが、例えば、ラジカル発生剤と還元剤とからなるレドックス触媒を用いることができる。
【0089】
ラジカル発生剤としては、例えば、過酸化物、アゾ化合物などが挙げられ、好ましくは過酸化物である。過酸化物としては、無機系過酸化物や有機系過酸化物が用いられる。
【0090】
無機系過酸化物としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、過硫酸アンモニウムなどが挙げられ、これらの中でも、過硫酸カリウム、過酸化水素、過硫酸アンモニウムが好ましく、過硫酸カリウムが特に好ましい。
【0091】
有機系過酸化物としては、アクリルゴムなどの乳化重合で使用されるものであれば格別な限定はなく、例えば、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1-ジ-(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)吉草酸n-ブチル、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラエチルブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジコハク酸パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジイソブチリルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブイチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンなどが挙げられ、これらの中でもジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどが好ましい。
【0092】
上記アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソプチロニトリル、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン、2,2'-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、2,2'-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}、2,2'-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)及び2,2'-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド}などが挙げられる。
【0093】
これらのラジカル発生剤は、それぞれ単独であるいは2種類以上組み合わせて用いることができ、その使用量は、単量体成分100重量部に対して、通常0.0001~5重量部、好ましくは0.0005~1重量部、より好ましくは0.001~0.5重量部の範囲である。
【0094】
還元剤としては、乳化重合のレドックス触媒で使用されるものであれば限定なく用いることができるが、本発明においては、特に少なくとも2種の還元剤を用いることが好ましい。少なくとも2種の還元剤としては、例えば、還元状態にある金属イオン化合物とそれ以外の還元剤の組み合わせが好適である。
【0095】
還元状態にある金属イオン化合物としては、特に限定されないが、例えば、硫酸第一鉄、ヘキサメチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、ナフテン酸第一銅などが挙げられ、これらの中でも硫酸第一鉄が好ましい。これらの還元状態にある金属イオン化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、単量体成分100重量部に対して、通常0.000001~0.01重量部、好ましくは0.00001~0.001重量部、より好ましくは0.00005~0.0005重量部の範囲である。
【0096】
それらの還元状態にある金属イオン化合物以外の還元剤としては、特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムなどのアスコルビン酸又はその塩;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウムなどのエリソルビン酸又はその塩;ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムなどのスルフィン酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルデヒド亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムの亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素カリウムなどのピロ亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウムなどのチオ硫酸塩;亜燐酸、亜燐酸ナトリウム、亜燐酸カリウム、亜燐酸水素ナトリウム、亜燐酸水素カリウムの亜燐酸又はその塩;ピロ亜燐酸、ピロ亜燐酸ナトリウム、ピロ亜燐酸カリウム、ピロ亜燐酸水素ナトリウム、ピロ亜燐酸水素カリウムなどのピロ亜燐酸又はその塩;ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートなどが挙げられる。これらの中でも、アルコルビン酸又はその塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートなどが好ましく、特にアスコルビン酸又はその塩が好ましい。
【0097】
これらの還元状態にある金属イオン化合物以外の還元剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、単量体成分100重量部に対し、通常0.001~1重量部、好ましくは0.005~0.5重量部、より好ましくは0.01~0.1重量部の範囲である。
【0098】
還元状態にある金属イオン化合物とそれ以外の還元剤との好ましい組み合わせは、硫酸第一鉄とアスコルビン酸若しくはその塩及び/又はナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートの組み合わせであり、より好ましくは硫酸第一鉄とアスコルビン酸塩及び/又はナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートの組み合わせ、最も好ましくは硫酸第一鉄とアルコルビン酸塩の組み合わせである。このときの硫酸第一鉄の使用量は、単量体成分100重量部に対して、通常0.000001~0.01重量部、好ましくは0.00001~0.001重量部、より好ましくは0.00005~0.0005重量部の範囲であり、アスコルビン酸若しくはその塩及び/又はナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートの使用量は、両成分100重量部に対し、通常0.001~1重量部、好ましくは0.005~0.5重量部、より好ましくは0.01~0.1重量部の範囲である。
【0099】
乳化重合反応における水の使用量は、単量体成分エマルジョン化時に使用した量だけでもよいが、重合に用いる単量体成分100重量部に対して、通常10~1,000重量部、好ましくは50~500重量部、より好ましくは80~400重量部、最も好ましくは100~300重量部の範囲になるように調整される。
【0100】
乳化重合反応の方式は、常法に従えばよく、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。重合温度及び重合時間は、特に限定されず、使用する重合開始剤の種類などから適宜選択できる。重合温度は、通常0~100℃、好ましくは5~80℃、より好ましくは10~50℃の範囲であり、重合時間は通常0.5~100時間、好ましくは1~10時間である。
【0101】
乳化重合反応の重合転化率は、格別限定はないが、通常80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上であり、このときに製造されるアクリルゴムは強度特性に優れ且つ単量体臭も無く好適である。重合停止に当たっては、重合停止剤を使用してもよい。
【0102】
(凝固工程)
本発明のアクリルゴムの製造方法における凝固工程は、上記の乳化重合工程で得られた乳化重合液とマグネシウム塩水溶液を接触させて含水クラムを生成する工程である。
【0103】
凝固工程で使用される乳化重合液の固形分濃度は、格別な限定はないが、通常5~50重量%、好ましくは10~45重量%、より好ましくは20~40重量%の範囲に調整される。
【0104】
凝固剤として使用されるマグネシウム塩としては、格別な限定はないが、例えば、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの無機マグネシウム塩、ギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどの有機マグネシウム塩などが挙げられ、これらの中でも無機マグネシウム塩が好ましく、硫酸マグネシウムが特に好ましい。
【0105】
これらのマグネシウム塩は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その使用量は、単量体成分100重量部に対し、通常0.01~100重量部、好ましくは0.1~50重量部、より好ましくは1~30重量部の範囲である。マグネシウム塩がこの範囲にあるときに、アクリルゴムの凝固を充分なものとしながら、アクリルゴムを架橋した場合の耐圧縮永久歪み特性や耐水性を高度に向上させることができるので好適である。本発明においては、マグネシウム塩以外の凝固剤を本発明の効果を損ねない範囲で併用してもよい。
【0106】
使用するマグネシウム塩水溶液のマグネシウム塩濃度は、通常0.1~20重量%、好ましくは0.5~10重量%、より好ましくは1~5重量%の範囲であるときに、生成する含水クラムの粒径を均一に且つ特定領域に集束できるので好適である。
【0107】
使用するマグネシウム塩水溶液の温度は、格別限定はないが、通常40℃以上、好ましくは40~90℃、より好ましくは50~80℃の範囲であるときに均一な含水クラムが生成され好適である。
【0108】
本発明のアクリルゴムの製造方法では、凝固工程における乳化重合液とマグネシウム塩水溶液との接触が、乳化重合液を撹拌しているマグネシウム塩水溶液中に添加する方法、マグネシウム塩済溶液を乳化重合液中に添加する方法などがあるが、乳化重合液を撹拌しているマグネシウム塩水溶液中に添加する方法であるときに極大及び微細な含水クラムの生成を抑制し、乳化剤や凝固剤の洗浄効率を格段に向上できるので好適である。
【0109】
撹拌されているマグネシウム塩水溶液の撹拌速度(撹拌数)は、凝固槽内に設けた撹拌装置の毎分当りの回転数(具体的には撹拌翼の回転数)で表されるが、乳化重合液を凝固槽中に添加するときに一定程度激しく撹拌されている方が生成する含水クラム粒径を小さく且つ均一にする上で好適であるため、上記回転数は、通常100rpm以上、好ましくは200~1,000rpm、より好ましくは300~900rpm、特に好ましくは350~850rpm、最も好ましくは400~800rpmの範囲である。マグネシウム塩水溶液の撹拌速度(回転数)が過度に低いと、大きいクラム粒径のものと小さいクラム粒径のものが生成してしまい、過度に高いと凝固反応の制御が困難になるため、いずれも好ましくない。
【0110】
また、撹拌されているマグネシウム塩水溶液の周速は、上記撹拌装置の撹拌翼の外周の速度で表されるが、既に述べたように、マグネシウム塩水溶液が一定程度激しく撹拌されている方が生成する含水クラム粒径を小さく且つ均一にできるので好適であり、そのため凝固槽中のマグネシウム塩水溶液の周速は、少なくとも0.5m/s以上とするのが適当である。この周速が0.5m/s以上、好ましくは1m/s以上、より好ましくは1.5m/s以上、特に好ましくは2m/s以上、とりわけ2.5m/s以上であるときに、洗浄工程や脱水工程での凝固剤及び乳化剤の除去性に優れるクラム形状及びクラム径を有する含水クラムを生成できるので好適である。
【0111】
撹拌されているマグネシウム塩水溶液の周速の上限値は、格別な限定はないが、通常30m/s以下、好ましくは25m/s以下、より好ましくは20m/s以下、特に好ましくは15m/s以下であるときに凝固反応の制御が容易となり好適である。
【0112】
本発明のアクリルゴム製造方法では、凝固反応の上記条件(接触方法、乳化重合液の固形分濃度、マグネシウム塩水溶液の濃度、温度、回転数、周速など)を適宜選定することで、生成する含水クラムの形状及びクラム径が均一で且つ集束化され、洗浄工程及び脱水工程における含水クラム中の乳化剤や凝固剤の除去効率が格段に向上し、好適である。
【0113】
このようにアクリルゴム製造時に生成される含水クラムの粒度(サイズ)と粒度分布を特定範囲に調整することによって、洗浄時及び脱水時における含水クラム中の乳化剤及び凝固剤の除去効率を大幅に改善できる。
【0114】
(洗浄工程)
本発明のアクリルゴムの製造方法における洗浄工程は、上記凝固工程で生成した含水クラムを洗浄する工程である。
【0115】
洗浄方法としては、格別限定されるものでなく常法に従えばよく、例えば、生成した含水クラムを多量の水と混合して行うことができる。
【0116】
洗浄のため加える水の量は、特に限定されないが、乳化重合で仕込んだ単量体成分100重量部に対して、水洗1回当たりの量が、通常50重量部以上、好ましくは50~15,000重量部、より好ましくは100~10,000重量部、さらに好ましくは500~5,000重量部の範囲であるときに、アクリルゴム中の灰分量を効果的に低減することができるので好適である。
【0117】
使用する水の温度は、格別限定されないが、温水を使われるのが好適で、通常40℃以上、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~90℃であり、特に60~80℃のときに洗浄効率を格段に上げることができ最適である。使用する温水の温度を上記した下限以上とすることにより、乳化剤や凝固剤が含水クラムから遊離して洗浄効率がより向上する。
【0118】
洗浄時間は、格別な限定はないが、通常1~120分、好ましくは2~60分、より好ましくは3~30分の範囲である。
【0119】
洗浄工程での洗浄(水洗)の回数についても、特に限定されず、通常は1~10回、好ましくは1~5回、より好ましくは2~3回である。なお、最終的に得られるアクリルゴム中の凝固剤の残留量を低減させるという観点からは、水洗回数が多い方が望ましいが、上記のように含水クラムの形状及び含水クラム径を特定範囲にすること、及び/又は洗浄温度を上記の範囲にすることで、水洗回数を格段に低減できる。
【0120】
(脱水工程)
本発明のアクリルゴムの製造方法において、上記洗浄した含水クラムから乾燥工程に移す前に水分を絞り出す脱水工程を設けることがアクリルゴム中の灰分を格段に低減でき好適である。特に乳化剤としてリン酸系乳化剤を用い且つ凝固剤としてマグネシウム塩を用いて生成する灰分は、脱水工程を設けることにより格段に低減できるので好適である。
【0121】
含水クラムの脱水手段は、格別限定されず常法に従えばよく、例えば、遠心分離機、スクイザー、スクリュー型押出機などの脱水機を用いて含水クラムから水分を排出させることができる。これらの脱水機の中でも、本発明のアクリルゴムは粘着性が強く、遠心分離機などでは含水量45~50重量%程度までしか脱水できないので、強制的に含水クラムから水分を絞り出すスクイザーやスクリュー型押出機が好ましく、これらの中でもスクリュー型押出機が最も好ましい。
【0122】
脱水後の含水クラムの含水量は、1~50重量%、好ましくは3~40重量%、より好ましくは5~35重量%、最も好ましくは10~35重量%であるときに、乳化剤や凝固剤の除去が格段に向上し、且つ乾燥工程での乾燥が効率化し好適である。
【0123】
(乾燥工程)
本発明のアクリルゴムの製造方法における乾燥工程は、上記洗浄後の含水クラム、好ましくは洗浄後に脱水した含水クラムを、乾燥してアクリルゴムを得る工程である。
【0124】
含水クラムの乾燥方法は、常法に従えばよく、例えば、熱風乾燥機、減圧乾燥機、エキスパンダー乾燥機、ニーダー型乾燥機、スクリュー型押出機などの乾燥機を用いて乾燥することができる。含水クラムの乾燥温度は、格別限定されるものではないが、通常80~250℃、好ましくは100~200℃、より好ましくは120~180℃の範囲である。
【0125】
乾燥後のアクリルゴムの含水量は、通常1重量%未満、好ましくは0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下である。
【0126】
(スクリュー型押出機による脱水・乾燥工程)
本発明のアクリルゴムの製造方法においては、上記の脱水工程と乾燥工程とを、スクリュー型押出機、特に、脱水スリットを有する脱水バレルと減圧下で乾燥する乾燥バレルと先端部にダイとを備えてなるスクリュー型押出機を用いて連続的に行うことが格段にアクリルゴム中の灰分と水分を低減でき好適である。以下にその具体的な実施態様を示すが、これによって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0127】
脱水バレル部での脱水・乾燥
含水クラムの脱水は、スクリュー型押出機内に設けた、脱水スリットを有する脱水バレルで行われる。脱水スリットの目開きは、使用条件に応じて適宜選択されればよいが、通常0.01~5mm、好ましくは0.1~1mm、より好ましくは0.2~0.6mmの範囲であるときに、含水クラムの損失が少なく且つ含水クラムの脱水が効率的にできるため好適である。
【0128】
スクリュー型押出機における脱水バレルの数は、格別限定されるものではないが、通常複数個、好ましくは2~10個、より好ましくは3~6個であるときに粘着性のアクリルゴムの脱水を効率よく行う上で好適である。
【0129】
脱水バレルにおける含水クラムからの水の除去は、脱水スリットから液状で除去するもの(排水)、蒸気状で除去するもの(排蒸気)の二通りがあるが、本発明においては、排水は脱水、排蒸気は予備乾燥と定義して区別する。
【0130】
脱水バレルを複数個備えるスクリュー型押出機を用いて行う場合は、排水(脱水)及び排蒸気(予備乾燥)を組み合わせることで、粘着性アクリルゴムの脱水と含水量低下を効率よく実施できるため特に好適である。脱水バレルを3個以上備えるスクリュー型押出機において、各脱水バレルを排水型脱水バレルにするか排蒸気型脱水バレルにするかの選択は、アクリルゴムの使用目的に応じて適宜行えばよい。通常製造されるゴム中の灰分量を少なくする場合は排水型バレルを多くし、例えば脱水バレルが3個ある場合は排水型バレルを2個、脱水バレルが4個ある場合は排水型バレルを3個などと適宜選択する。
【0131】
脱水バレルの設定温度は、アクリルゴムの種類、灰分量、含水量、及び操業条件などにより適宜選択されるが、通常60~150℃、好ましくは70~140℃、より好ましくは80~130℃の範囲である。排水状態で脱水する脱水バレルの設定温度は、通常60~120℃、好ましくは70~110℃、より好ましくは80~100℃である。排蒸気状態で予備乾燥を行う脱水バレルの設定温度は、通常100~150℃、好ましくは105~140℃、より好ましくは110~130℃の範囲である。
【0132】
含水クラムの脱水後の含水量、すなわち排水型バレル通過後の含水量は、格別限定されないが、通常1~50重量%、好ましくは3~40重量%、より好ましくは5~35重量%、最も好ましくは10~35重量%であるときに、乳化剤と凝固剤の除去を効率よく行うことができ好適である。スクリュー型押出機で乳化剤や凝固剤の除去と含水量の低減を効率的に行う場合の脱水後の含水量は、5~40重量%、好ましくは10~40重量%、より好ましくは15~35重量%の範囲である。
【0133】
上記の特定組成で架橋性基を有する粘着性のアクリルゴムの脱水は、遠心分離機などを用いて行うと脱水スリット部にアクリルゴムが付着してしまい殆ど脱水できないが(含水量は約45~55重量%程度までしか低減しない)、本発明において、脱水スリットを有しスクリューで強制的に絞られる脱水バレルを備えるスクリュー型押出機を用いることにより、それ以下の含水量まで効率的に低減できるため特に好適である。
【0134】
上記脱水後に排蒸気型脱水バレルで予備乾燥した含水クラムの含水量は、通常1~30重量%、好ましくは3~20重量%、より好ましくは5~15重量%である。
【0135】
乾燥バレルでの乾燥
上記脱水バレルで脱水・乾燥した含水クラムは、さらに同じスクリュー型押出機内の下流側(押出側)に設けた減圧下の乾燥バレルで乾燥される。
【0136】
乾燥バレル内部の減圧度は、適宜選択されればよいが、通常1~50kPa、好ましくは2~30kPa、より好ましくは3~20kPaであるときに効率よく含水クラムを乾燥でき好適である。
【0137】
乾燥バレルの設定温度は、適宜選択されればよいが、通常100~250℃、好ましくは110~200℃、より好ましくは120~180℃の範囲であるときに、アクリルゴムのヤケや変質がなく、効率よく乾燥ができ且つアクリルゴムのゲル量を低減できるので好適である。
【0138】
スクリュー型押出機における乾燥バレルの数は、格別限定されるものではないが、通常複数個、好ましくは2~10個、より好ましくは3~8個である。乾燥バレルが複数個有する場合の減圧度は、全ての乾燥バレルで近似した減圧度にしてもよいし、変えてもよい。乾燥バレルを複数個有する場合の設定温度は、全ての乾燥バレルで近似した温度にしてもよいし変えてもよいが、導入部(脱水バレルに近い方)の温度よりも排出部(ダイに近い方)の温度を高くすると、乾燥効率を上げることができ好適である。
【0139】
乾燥バレル部での乾燥後のアクリルゴムクラムの含水量は、通常1重量%未満、好ましくは0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下である。本発明においては、特にスクリュー型押出機内でアクリルゴムの含水量がこの値(殆ど水が除去された状態)になって溶融押出しされることが、アクリルゴムのゲル量を低減し、またシート状にアクリルゴムを成形して押し出す上でも巻き込む気泡を低減し且つ比重を大きくでき好適である。
【0140】
アクリルゴムの形状(ダイ部)
上記脱水バレル及び乾燥バレルのスクリュー部で脱水及び乾燥されたアクリルゴムは、スクリュー型押出機の先端部付近に設けられた、スクリューの無い整流のダイ部に送られる。スクリュー部とダイ部の間には、ブレーカープレートや金網を設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0141】
スクリュー型押出機のダイ部から押し出されるアクリルゴムは、ダイのノズル形状により、粒状、ペレット状、柱状、丸棒状、シート状など種々の形状のものとなる。
【0142】
ダイ部における樹脂圧は、格別限定されないが、通常0.1~10MPa、好ましくは0.5~5MPa、より好ましくは1~3MPaの範囲としたときに、空気の巻き込みが少なく(比重が大きい)且つ生産性にも優れるので好適である。
【0143】
スクリュー型押出機の操業条件
使用されるスクリュー型押出機のスクリュー長(L)は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常3,000~15,000mm、好ましくは4,000~10,000mm、より好ましくは4,500~8,000mmの範囲である。
【0144】
使用されるスクリュー型押出機のスクリュー径(D)は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50~250mm、好ましくは100~200mm、より好ましくは120~160mmの範囲である。
【0145】
使用されるスクリュー型押出機のスクリュー長(L)とスクリュー径(D)との比(L/D)は、格別限定されるものではないが、通常10~100、好ましくは20~80、より好ましくは30~60の範囲であるときに乾燥ゴムの分子量低下や焼けを起こさずに含水量を1重量%未満に出来好適である。
【0146】
使用されるスクリュー型押出機の回転数(N)は、諸条件に応じて適宜選択されればよいが、通常10~1,000rpm、好ましくは50~750rpm、より好ましくは100~500rpm、最も好ましくは120~300rpmであるときに、アクリルゴムの含水量とゲル量を効率よく低減でき好適である。
【0147】
使用されるスクリュー型押出機の押出量(Q)は、格別限定されないが、通常100~1,500kg/hrが適当であり、好ましくは300~1,200kg/hr、より好ましくは400~1,000kg/hr、最も好ましくは500~800kg/hrの範囲である。
【0148】
使用されるスクリュー型押出機の押出量(Q)と回転数(N)の比(Q/N)は、格別限定されるものではないが、通常1~20、好ましくは2~10、より好ましくは3~8、特に好ましくは4~6の範囲であるときに、粘着性のアクリルゴムの脱水・乾燥・成形を効率よくでき好適である。
【0149】
以上のように本発明のアクリルゴムの製造方法によれば、上述したアクリル酸エステル由来の結合単位(A)10~98.9重量%、メタクリル酸アルキルエステル由来の結合(B)1~50重量%、反応性基含有単量体由来の結合単位(C)0.1~10重量%、並びにその他の単量体由来の結合単位(D)0~30重量%とからなり、全灰分量が1重量%以下で、該灰分中のマグネシウムとリンの合計量が全灰分量に対する割合で60重量%以上であり、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10~150の範囲であるアクリルゴムを、効率的に製造することができる。
【0150】
<アクリルゴム成形体>
(シート状又はベール状アクリルゴム成形体)
本発明のアクリルゴム成形体は、上記アクリルゴムからなりシート状又はベール状であることを特徴とする。
【0151】
本発明のシート状又はベール状のアクリルゴム成形体の比重は、格別な限定はないが、通常0.7以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、特に好ましくは0.95以上、最も好ましくは1.0以上であり、特に0.7~1.5、好ましくは0.8~1.4、より好ましくは0.9~1.3、特に好ましくは0.95~1.25、最も好ましくは1.0~1.2の範囲であるときに保存安定性が高度に優れ好適である。
【0152】
本発明のシート状又はベール状のアクリルゴム成形体のpHは、格別な限定はないが、通常7以下、好ましくは6以下、より好ましくは2~6、特に好ましくは2.5~5.5、最も好ましくは3~5の範囲であるときに保存安定性が高度に改善され好適である。
【0153】
本発明のシート状又はベール状のアクリルゴム成形体の60℃における複素粘性率([η]60℃)は、格別限定されるものではないが、通常15,000Pa・s以下、好ましくは2,000~10,000Pa・s、より好ましくは2,500~7,000Pa・s、最も好ましくは2,700~5,500Pa・sの範囲にあるときに加工性、耐油性及び形状保持性に優れ好適である。
【0154】
本発明のシート状又はベール状のアクリルゴム成形体の100℃における複素粘性率([η]100℃)は、格別限定されるものではないが、通常1,500~6,000Pa・s、好ましくは2,000~5,000Pa・s、より好ましくは2,500~4,000Pa・s、最も好ましくは2,500~3,500Pa・sの範囲であるときに加工性、耐油性、及び形状保持性に優れ好適である。
【0155】
本発明のシート状又はベール状のアクリルゴム成形体の100℃における複素粘性率([η]100℃)と60℃における複素粘性率([η]60℃)との比([η]100℃/[η]60℃)は、格別限定されないが、通常0.5以上、好ましくは0.6~0.98、より好ましくは0.7~0.96、特に好ましくは0.8~0.95、最も好ましくは0.83~0.93であるときに加工性、耐油性、及び形状保持性が高度にバランスされ好適である。
【0156】
本発明のシート状又はベール状のアクリルゴム成形体の灰分量、灰分中のマグネシウムとリン合計量及び比率、ゲル量、含水量、及びムーニー粘度(ML1+4,100℃)の特性値は、前記アクリルゴムのそれぞれの特性値と同様である。
【0157】
本発明のシート状のアクリルゴム成形体の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1mm~45mm、好ましくは2~40mm、より好ましくは3~25mm、特に好ましくは3~20mmの範囲である。特に、生産性を格段に向上させて廉価のアクリルゴムシートを製造する場合の厚みは、通常1~15mm好ましくは2~10mm、より好ましくは3~8mmの範囲である。
【0158】
本発明のシート状のアクリルゴム成形体の幅は、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常300~1,200mm、好ましくは400~1,000mm、より好ましくは500~800mmの範囲であるときに、特に取り扱い性に優れ好適である。本発明のシート状のアクリルゴム成形体の長さは、格別限定されるものではないが、通常300~1,200mm、好ましくは400~1,000mm、より好ましくは500~800mmの範囲であるときに、特に取り扱い性に優れ好適である。
【0159】
本発明のベール状のアクリルゴム成形体の大きさは、格別限定されるものではないが、幅が通常100~800mm、好ましくは200~500mm、より好ましくは250~450mmの範囲で、長さが通常300~1,200mm、好ましくは400~1,000mm、より好ましくは500~800mmの範囲で、高さが通常50mmを超え500mm以下、好ましくは100~300mm、より好ましくは150~250mmの範囲である。
【0160】
(シート状アクリルゴム成形体の製造方法)
上記シート状のアクリルゴム成形体の製造方法は、格別限定されるものではないが、例えば、前記脱水スリットを有する脱水バレルと減圧下で乾燥する乾燥バレルと先端部にダイとを備えてなるスクリュー型押出機を用いてアクリルゴムを製造するにあたりダイの形状を略長方形にして連続的に押し出すことで容易に製造することができる。
【0161】
スクリュー型押出機のダイ部から押し出されるアクリルゴムは、ダイ形状を略長方形状にしてシート状に押し出すことにより、空気の巻き込みが少なく比重の小さい保存安定性に優れる乾燥ゴムが得られるので好適である。
【0162】
ダイ部における樹脂圧は、格別限定されないが、通常0.1~10MPa、好ましくは0.5~5MPa、より好ましくは1~3MPaの範囲としたときに、空気の巻き込みが少なく(比重が大きい)且つ生産性にも優れるので好適である。
【0163】
スクリュー型押出機から押し出されるシート状のアクリルゴム成形体は、このときに空気を巻き込まず比重を大きくでき、得られるシート状アクリルゴム成形体の保存安定性が高度に改善され好適である。スクリュー型押出機から押し出されるシート状アクリルゴム成形体は冷却された後、必要に応じて、所定の寸法に切断され、シート状アクリルゴム成形体となる。
【0164】
スクリュー型押出機から押し出されるシート状アクリルゴム成形体の厚さは、格別な限定はないが、通常1~40mm、好ましくは2~35mm、より好ましくは3~30mm、最も好ましくは5~25mmの範囲であるときに作業性、生産性に優れ好適である。特にシート状アクリルゴム成形体の熱伝導度が0.15~0.35W/mKと低いために冷却効率を上げ生産性を格段に向上させる場合のシート状アクリルゴム成形体の厚さは、通常1~30mm、好ましくは2~25mm、より好ましくは3~15mm、特に好ましくは4~12mmの範囲である。
【0165】
スクリュー型押出機から押し出されるシート状アクリルゴム成形体の幅は、使用目的に応じて適宜選択されるが、横が通常300~1,200mm、好ましくは400~1,000mm、より好ましくは500~800mmの範囲である。
【0166】
スクリュー型押出機から押し出されるシート状アクリルゴム成形体の温度は、格別限定されるものではないが、通常100℃以上、好ましくは100~200℃、より好ましくは110~180℃、特に好ましくは120~160℃の範囲である。
【0167】
スクリュー型押出機から押し出されるシート状アクリルゴム成形体の含水量は、1重量%未満、好ましくは0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下である。
【0168】
スクリュー型押出機から押し出されるシート状アクリルゴム成形体の100℃における複素粘性率([η]100℃)は、格別限定されるものではないが、通常1,500~6,000Pa・s、好ましくは2,000~5,000Pa・s、より好ましくは2,500~4,000Pa・s、最も好ましくは2,500~3,500Pa・sの範囲であるときに、シートとしての押出性とシートとしての形状性が高度にバランスされ好適である。100℃における複素粘性率([η]100℃)の値を下限以上とすることにより押出性においてより優れたものとすることができ、上限以下とすることによりシート状アクリルゴム成形体の形状の崩れや破断を抑制できる。
【0169】
シート状アクリルゴム成形体の冷却方法としては、格別限定はなく室温に放置してもよいが、シート状アクリルゴム成形体の熱伝導度が0.1~0.4と非常に小さいために、送風あるいは冷房下での空冷方式、水を吹き付ける水かけ方式、水中に浸漬する浸漬方式などの強制冷却が生産性を上げるために好ましく、特に送風あるいは冷房下での空冷方式が好適である。
【0170】
シート状アクリルゴム成形体の空冷方式では、例えば、スクリュー型押出機からベルトコンベアなどの搬送機上にシート状アクリルゴム成形体を押し出し、冷風を吹き付ける中で搬送し冷却することができる。冷風の温度は、格別限定されるものではないが、通常0~30℃、好ましくは5~25℃、より好ましくは10~20℃の範囲である。冷却される長さは、格別限定はないが、通常5~500m、好ましくは10~200m、より好ましくは20~100mの範囲である。シート状アクリルゴム成形体の冷却速度は、格別限定されるものではないが、通常50℃/hr以上、より好ましくは100℃/hr以上、より好ましくは150℃/hr以上であるときに切断が特に容易になり好適である。
【0171】
シート状アクリルゴム成形体を切断する場合の温度は、格別な限定はないが、通常60℃以下、好ましくは55℃以下、より好ましくは50℃以下であるときに、切断性と生産性が高度にバランスされ好適である。
【0172】
シート状アクリルゴム成形体の60℃における複素粘性率([η]60℃)は、格別限定されるものではないが、通常15,000Pa・s以下、好ましくは2,000~10,000Pa・s、より好ましくは2,500~7,000Pa・s、最も好ましくは2,700~5,500Pa・sの範囲にあるときに空気を巻き込まずに且つ連続的に切断ができ好適である。
【0173】
また、上記シート状アクリルゴム成形体の100℃における複素粘性率([η]100℃)と60℃における複素粘性率([η]60℃)との比([η]100℃/[η]60℃)は、格別限定はないが、通常0.5以上、好ましくは0.6~0.98、より好ましくは0.75~0.95、特に好ましくは0.8~0.94、最も好ましくは0.83~0.93の範囲であるときに空気巻き込み性が少なく、且つ切断と生産性が高度にバランスされ好適である。
【0174】
シート状アクリルゴム成形体の切断長さは、格別な限定はなく、ゴムシートの使用目的に応じて適宜選択すればよいが、通常100~800mm、好ましくは200~500mm、より好ましくは250~450mmの範囲である。
【0175】
かくして得られる本発明のシート状アクリルゴム成形体は、クラム状アクリルゴムに比べて操作性、保存安定性に優れ、そのまま、あるいは、複数枚を積層しベール化して使用することができる。
【0176】
(ベール状アクリルゴム成形体の製造方法)
本発明のベール状アクリルゴム成形体の製造方法は、格別限定されるものではないが、例えば、上記シート状アクリルゴム成形体を複数枚積層する方法、クラム状アクリルゴムをベーラでベール化する方法などがあるが、シート状アクリルゴム成形体を複数枚積層する方法が製造されるベール状アクリルゴム成形体の保存安定性を高度に改善でき好適である。シート状アクリルゴム成形体の複数枚積層化は、スクリュー型押出機から押し出されるシート状アクリルゴム成形体を冷却後、切断し、複数積層して一体化することにより行うことができる。
【0177】
シート状アクリルゴム成形体の積層温度は、格別限定はないが、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上であるときに積層時に巻き込まれる空気を逃がすことができ好適である。積層枚数は、ベール状アクリルゴム成形体の大きさ又は重量に応じて適宜選択される。
【0178】
かくして得られるベール状アクリルゴム成形体は、クラム状アクリルゴムに比べ操作性や保存安定性に優れ、ベール状アクリルゴム成形体をそのまま、あるいは必要量を切断してバンバリー、ロールなどの混錬機に投入して用いることができる。
【0179】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、前記本発明のアクリルゴムを含むゴム成分、充填剤及び架橋剤を含むことにより耐熱性と耐水性が高度にバランスされ好適である。
【0180】
主たる成分となるゴム成分としては、本発明のアクリルゴム単独で用いてもよく、あるいは必要に応じて、本発明のアクリルゴムとその他のゴム成分とを組み合わせて用いてもよい。使用される本発明のアクリルゴムの形状は、使用目的又は使用混合機などの種類により適宜選択されればよく、シート状又はベール状のアクリルゴム成形体を用いることができる。ゴム成分中における本発明のアクリルゴムの含有量は、使用目的に応じて選択されればよく、例えば、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。
【0181】
本発明のアクリルゴムと組み合わせるその他のゴム成分としては、格別な限定はなく、例えば、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリシロキサン系エラストマーなどを挙げることができる。
【0182】
これらのその他のゴム成分は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのその他のゴム成分の形状は、ベール状、シート状、粉体状などいずれであっても構わない。ゴム成分全体におけるその他のゴム成分の含有量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択され、例えば、通常90重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。
【0183】
ゴム組成物に含まれる充填剤としては、格別な限定はないが、例えば、補強性充填剤、非補強性充填剤などが挙げられ、好ましくは補強性充填剤である。
【0184】
補強性充填剤としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック及びグラファイトなどのカーボンブラック類;湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカなどのシリカ類;などを挙げることができる。非補強性充填剤としては、石英粉末、ケイソウ土、亜鉛華、塩基性炭酸マグネシウム、活性炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、タルク、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。
【0185】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択され、ゴム成分100重量部に対して、通常1~200重量部、好ましくは10~150重量部、より好ましくは20~100重量部の範囲である。
【0186】
ゴム組成物に含まれる架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、ジアミン化合物などの多価アミン化合物、及びその炭酸塩;硫黄化合物;硫黄供与体;トリアジンチオール化合物;多価エポキシ化合物;有機カルボン酸アンモニウム塩;有機過酸化物;多価カルボン酸;四級オニウム塩;イミダゾール化合物;イソシアヌル酸化合物;有機過酸化物;トリアジン化合物;などの従来公知の架橋剤を用いることができる。これらの中でも、多価アミン化合物、トリアジン化合物が好ましく、多価アミン化合物が特に好ましい。
【0187】
多価アミン化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N'-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミンなどの脂肪族多価アミン化合物;4,4'-メチレンジアニリン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4'-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2'-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3,5-ベンゼントリアミンなどの芳香族多価アミン化合物;などが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、2,2'-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどが好ましい。これらの多価アミン化合物は、特に、カルボキシル基含有のアクリルゴムと組み合わせて好適に用いられる。
【0188】
トリアジン化合物としては、例えば、6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-アニリノ-4,6-ジチオール-s-トリアジン、1-ジブチルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジチオール-s-トリアジン、1-フェニルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジン、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、1-ヘキシルアミノ-3,5-ジメルカプトトリアジンなどが挙げられる。これらのトリアジン化合物は、特に、ハロゲン基含有のアクリルゴムと組み合わせて好適に用いられる。
【0189】
これらの架橋剤は、それぞれ単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は、ゴム成分100重量部に対し、通常0.001~20重量部、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。架橋剤の配合量をこの範囲とすることにより、ゴム弾性を充分なものとしながら、ゴム架橋物としての機械的強度を優れたものとすることができ好適である。
【0190】
ゴム組成物としては、必要に応じて老化防止剤を配合することができる。老化防止剤の種類は、特に限定されないが、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-α-ジメチルアミノ-p-クレゾール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノール、2,2'-メチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-6-メチルフェノール、2,2'-チオビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス-(6-t-ブチル-o-クレゾール)、2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノールなどのその他のフェノール系老化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジホスファイトなどの亜燐酸エステル系老化防止剤;チオジプロピオン酸ジラウリルなどの硫黄エステル系老化防止剤;フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)-ジフェニルアミン、4,4'-(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン、ブチルアルデヒド-アニリン縮合物などのアミン系老化防止剤;2-メルカプトベンズイミダゾールなどのイミダゾール系老化防止剤;6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンなどのキノリン系老化防止剤;2,5-ジ-(t-アミル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン系老化防止剤;などが挙げられる。これらの中でも特にアミン系老化防止剤が好ましい。
【0191】
これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その配合量は、ゴム成分100重量部に対して、0.01~15重量部、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは1~5重量部の範囲である。
【0192】
本発明のゴム組成物は、前記本発明のアクリルゴムを含むゴム成分、充填剤及び架橋剤を必須成分として、及び必要に応じて老化防止剤を含み、さらに、必要に応じて当該技術分野で通常使用される他の添加剤、例えば、架橋助剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、シランカップリング剤、可塑剤、加工助剤、滑材、顔料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤などを任意に配合できる。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0193】
ゴム組成物の製造方法としては、本発明のアクリルゴムを含むゴム成分、充填剤、架橋剤及び必要に応じて含有できる老化防止剤やその他の配合剤を混合する方法が挙げられ、混合には、従来のゴム加工分野において利用されている任意の手段、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類などを利用することができる。各成分の混合手順は、ゴム加工の分野において行われている通常の手順で行えばよく、例えば、熱で反応や分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応や分解しやすい成分である架橋剤などを、反応や分解が起こらない温度で短時間に混合することが好ましい。
【0194】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物としては、上記ゴム組成物を架橋してなるものである。
【0195】
ゴム架橋物は、上記ゴム組成物を用い、所望の形状に対応した成形機、例えば、押出機、射出成形機、圧縮機又はロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、ゴム架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常10~200℃、好ましくは25~150℃である。架橋温度は、通常100~250℃、好ましくは130~220℃、より好ましくは150~200℃であり、架橋時間は、通常0.1分~10時間、好ましくは1分~5時間である。加熱方法としては、プレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱、及び熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる方法を適宜選択すればよい。
【0196】
ゴム架橋物は、形状、大きさなどによっては、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋は、加熱方法、架橋温度、形状などにより異なるが、好ましくは1~48時間行う。加熱方法、加熱温度は適宜選択すればよい。
【0197】
本発明のアクリルゴムを使用したゴム架橋物は、引張強度、伸び、硬さなどのゴムとしての基本特性を維持しながら、優れた耐熱性と耐水性を有するものである。
【0198】
本発明のアクリルゴムを使用したゴム架橋物は、上記特性を活かして、例えば、O-リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、メカニカルシール、ウエルヘッドシール、電気・電子機器用シール、空気圧縮機器用シールなどのシール材;シリンダブロックとシリンダヘッドとの連結部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダヘッドあるいはトランスミッションケースとの連結部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板及び負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着された燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;緩衝材、防振材;電線被覆材;工業用ベルト類;チューブ・ホース類;シート類;などとして好適に用いられる。
【0199】
本発明のアクリルゴムを使用したゴム架橋物は、また、自動車用途に用いられる押し出し成形型品及び型架橋製品として、例えば、燃料ホース、フィラーネックホース、ベントホース、ペーパーホース、オイルホースなどの燃料タンクなどの燃料油系ホース、ターボエアーホース、ミッションコントロールホースなどのエアー系ホース、ラジエターホース、ヒーターホース、ブレーキホース、エアコンホースなどの各種ホース類に好適に用いられる。
【0200】
<アクリルゴムの製造に用いられる装置構成>
次に、本発明の一実施形態に係るアクリルゴムの製造に用いられる装置構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るアクリルゴムの製造に用いられる装置構成を有するアクリルゴム製造システムの一例を模式的に示す図である。本発明に係るアクリルゴムの製造には、例えば、図1に示すアクリルゴム製造システム1を使用することができる。
【0201】
図1に示すアクリルゴム製造システム1は、不図示の乳化重合反応器、凝固装置3、洗浄装置4、水切り機43、スクリュー型押出機5、冷却装置6、ベール化装置7により構成されている。
【0202】
乳化重合反応器は、上述した乳化重合工程に係る処理を行うように構成されている。図1には不図示であるが、この乳化重合反応器は、例えば重合反応槽、反応温度を制御する温度制御部、モータ及び撹拌翼を備えた撹拌装置を有する。乳化重合反応器では、アクリルゴムを形成するための単量体成分に水とリン酸系乳化剤とを混合して撹拌機で適切に撹拌しながらエマルジョン化し、重合触媒存在下において乳化重合することで乳化重合液を得ることができる。乳化重合反応器は、回分式、半回分式、連続式のいずれであってもよく、槽型反応器、管型反応器のいずれであってもよい。
【0203】
図1に示す凝固装置3は、上述した凝固工程に係る処理を行うように構成されている。図1に模式的に図示されているように、凝固装置3は、例えば撹拌槽30、撹拌槽30内を加熱する加熱部31、撹拌槽30内の温度を制御する不図示の温度制御部、モータ32及び撹拌翼33を備えた撹拌装置34、撹拌翼33の回転数及び回転速度を制御する不図示の駆動制御部を有する。凝固装置3では、乳化重合反応器で得られた乳化重合液を、凝固液と接触させて凝固させることにより含水クラムを生成することができる。
【0204】
凝固装置3では、例えば、乳化重合液とマグネシウム塩水溶液との接触は、乳化重合液を撹拌しているマグネシウム塩水溶液中に添加する方法が採用される。すなわち、凝固装置3の撹拌槽30にマグネシウム塩水溶液を充填しておき、このマグネシウム塩水溶液に乳化重合液を添加及び接触させて乳化重合液を凝固させることによって含水クラムが生成される。
【0205】
凝固装置3の加熱部31は、撹拌槽30に充填されたマグネシウム塩水溶液を加熱するよう構成されている。また、凝固装置3の温度制御部は、温度計で計測された撹拌槽30内の温度を監視しながら加熱部31による加熱動作を制御することで、撹拌槽30内の温度を制御するように構成されている。撹拌槽30内のマグネシウム塩水溶液の温度は、温度制御部によって、通常40℃以上、好ましくは40~90℃、より好ましくは50~80℃の範囲となるよう制御される。
【0206】
凝固装置3の撹拌装置34は、撹拌槽30に充填されたマグネシウム塩水溶液を撹拌するように構成されている。具体的には、撹拌装置34は、回転動力を生み出すモータ32と、モータ32の回転軸に対して垂直方向に広がる撹拌翼33を備えている。撹拌翼33は、撹拌槽30に充填されたマグネシウム塩水溶液内で、モータ32の回転動力により回転軸を中心として回転することでマグネシウム塩水溶液を流動させることができる。撹拌翼33の形状や大きさ、設置数などは特に限定されない。
【0207】
凝固装置3の駆動制御部は、撹拌装置34のモータ32の回転駆動を制御して、撹拌装置34の撹拌翼33の回転数及び回転速度を所定値に設定するように構成されている。マグネシウム塩水溶液の撹拌数が、例えば、通常100rpm以上、好ましくは200~1,000rpm、より好ましくは300~900rpm、特に好ましくは400~800rpmの範囲となるように、駆動制御部によって撹拌翼33の回転が制御される。マグネシウム塩水溶液の周速が、通常0.5m/s以上、好ましくは1m/s以上、より好ましくは1.5m/s以上、特に好ましくは2m/s以上、最も好ましくは2.5m/s以上となるように、駆動制御部によって撹拌翼33の回転が制御される。さらに、マグネシウム塩水溶液の周速の上限値が、通常50m/s以下、好ましくは30m/s以下、より好ましくは25m/s以下、最も好ましくは20m/s以下となるように、駆動制御部によって撹拌翼33の回転が制御される。
【0208】
図1に示す洗浄装置4は、上述した洗浄工程に係る処理を行うように構成されている。図1に模式的に図示されているように、洗浄装置4は、例えば洗浄槽40、洗浄槽40内を加熱する加熱部41、洗浄槽40内の温度を制御する不図示の温度制御部を有する。洗浄装置4では、凝固装置3で生成された含水クラムを多量の水と混合して洗浄することにより、得られるアクリルゴム中の灰分量を効果的に低減することができる。
【0209】
洗浄装置4の加熱部41は、洗浄槽40内を加熱するよう構成されている。また、洗浄装置4の温度制御部は、温度計で計測された洗浄槽40内の温度を監視しながら加熱部41による加熱動作を制御することで、洗浄槽40内の温度を制御するように構成されている。上述したように、洗浄槽40内の洗浄水の温度は、通常40℃以上、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~90℃、最も好ましくは60~80℃の範囲となるよう制御される。
【0210】
洗浄装置4で洗浄された含水クラムは、脱水工程及び乾燥工程を行うスクリュー型押出機5(図2参照)に供給される。このとき、洗浄後の含水クラムは、遊離水を分離することが可能な水切り機43を通ってスクリュー型押出機5に供給されることが好ましい。水切り機43には、例えば金網、スクリーン、電動篩機などを用いることができる。
【0211】
また、洗浄後の含水クラムがスクリュー型押出機5に供給される際、含水クラムの温度は40℃以上、更に60℃以上であることが好ましい。例えば、洗浄装置4における水洗に用いられる水の温度を60℃以上(例えば70℃)とすることで、スクリュー型押出機5に供給された際の含水クラムの温度を60℃以上に維持することができるようにしてもよく、洗浄装置4からスクリュー型押出機5に搬送する際に含水クラムの温度が40℃以上、好ましくは60℃以上となるよう加温してもよい。これにより、後工程である脱水工程及び乾燥工程を効果的に行うことが可能となり、最終的に得られる乾燥ゴムの含水量を大幅に低減させることが可能となる。
【0212】
スクリュー型押出機5は、上述した脱水工程及び乾燥工程に係る処理を行うように構成されている。なお、ここでは好適な例としてスクリュー型押出機5が図示されているが、脱水工程に係る処理を行う脱水機として遠心分離機やスクイザーなどを用いてもよく、乾燥工程に係る処理を行う乾燥機として熱風乾燥機、減圧乾燥機、エキスパンダー乾燥機、ニーダー型乾燥機などを用いてもよい。
【0213】
スクリュー型押出機5は、脱水工程及び乾燥工程を経て得られる乾燥ゴムを所定の形状に成形して排出するように構成されている。具体的には、スクリュー型押出機5は、洗浄装置4で洗浄された含水クラムを脱水する脱水機としての機能を有する脱水バレル部53と、含水クラムを乾燥する乾燥機としての機能を有する乾燥バレル部54とを備えており、さらにスクリュー型押出機5の下流側に含水クラムを成形する成形機能を有するダイ59を備えて構成されている。
【0214】
以下、図2を参照しながら、スクリュー型押出機5の構成について説明する。図2は、図1で示したスクリュー型押出機5として好適な一具体例の構成を示している。このスクリュー型押出機5により、上述した脱水・乾燥工程を好適に行うことができる。
【0215】
図2に示すスクリュー型押出機5は、バレルユニット51内に不図示の一対のスクリューを備えてなる二軸スクリュー型の押出乾燥機である。スクリュー型押出機5は、バレルユニット51内の一対のスクリューを回転駆動する駆動ユニット50を有する。駆動ユニット50は、バレルユニット51の上流端(図2で左端)に取り付けられている。また、スクリュー型押出機5は、バレルユニット51の下流端(図2で右端)にダイ59を有する。
【0216】
バレルユニット51は、上流側から下流側(図2で左側から右側)にわたり、供給バレル部52、脱水バレル部53、乾燥バレル部54を有する。
【0217】
供給バレル部52は、2つの供給バレル、すなわち、第1の供給バレル52a及び第2の供給バレル52bにより構成されている。
【0218】
また、脱水バレル部53は、3つの脱水バレル、すなわち、第1の脱水バレル53a、第2の脱水バレル53b及び第3の脱水バレル53cにより構成されている。
【0219】
また、乾燥バレル部54は、8個の乾燥バレル、すなわち、第1の乾燥バレル54a、第2の乾燥バレル54b、第3の乾燥バレル54c、第4の乾燥バレル54d、第5の乾燥バレル54e、第6の乾燥バレル54f、第7の乾燥バレル54g、第8の乾燥バレル54hにより構成されている。
【0220】
このようにバレルユニット51は、分割された13個の各バレル52a~52b,53a~53c,54a~54hが上流側から下流側にわたり連結されて構成されている。
【0221】
また、スクリュー型押出機5は、上記各バレル52a~52b,53a~53c,54a~54hを個別に加熱して、各バレル52a~52b,53a~53c,54a~54h内の含水クラムをそれぞれ所定温度に加熱する不図示の加熱手段を有する。加熱手段は、各バレル52a~52b,53a~53c,54a~54hに対応する数を備える。そのような加熱手段としては、例えば、各バレル52a~52b,53a~53c,54a~54h内に形成されたスチーム流通ジャケットにスチーム供給手段から高温スチームを供給するなどの構成が採用されるが、これに限定はされない。また、スクリュー型押出機5は、各バレル52a~52b,53a~53c,54a~54hに対応する各加熱手段の設定温度を制御する不図示の温度制御手段を有する。
【0222】
なお、バレルユニット51における各バレル部52、53、54をそれぞれ構成する供給バレル、脱水バレル及び乾燥バレルの設置数は、図2に示す態様に限定されるものではなく、乾燥処理するアクリルゴムの含水クラムの含水量などに応じた数に設定することができる。
【0223】
例えば、供給バレル部52の供給バレルの設置数は例えば1~3個とされる。また、脱水バレル部53の脱水バレルの設置数は、例えば2~10個が好ましく、3~6個とすると、粘着性のアクリルゴムの含水クラムの脱水を効率よく行うことができるのでより好ましい。また、乾燥バレル部54の乾燥バレルの設置数は、例えば2~10個が好ましく、3~8個であるとより好ましい。
【0224】
バレルユニット51内の一対のスクリューは、駆動ユニット50に格納されたモータなどの駆動手段によって回転駆動される。一対のスクリューはバレルユニット51内の上流側から下流側にわたって延在しており、回転駆動されることで、供給バレル部52に供給された含水クラムを混合しながら下流側に搬送することができるようになっている。一対のスクリューとしては、互いに山部と谷部とが噛み合わされる状態とされた二軸噛合型であることが好ましく、これにより、含水クラムの脱水効率及び乾燥効率を高めることができる。
【0225】
また、一対のスクリューの回転方向は、同方向でも異方向でもよいが、セルフクリーニングの性能面からは同方向に回転する形式のものが好ましい。一対のスクリューのスクリュー形状としては、特に限定されず、各バレル部52、53、54において必要とされる形状であればよく、特に限定されない。
【0226】
供給バレル部52は、含水クラムをバレルユニット51内に供給する領域である。供給バレル部52の第1の供給バレル52aは、バレルユニット51内に含水クラムを供給するフィード口55を有する。
【0227】
脱水バレル部53は、含水クラムから、凝固剤などが含まれる液体(セラム水)を分離し排出する領域である。
【0228】
脱水バレル部53を構成する第1~第3の脱水バレル53a~53cは、含水クラムの水分を外部に排出する脱水スリット56a、56b、56cをそれぞれ有する。各脱水スリット56a、56b、56cは、各脱水バレル53a~53cにそれぞれ複数形成されている。
【0229】
各脱水スリット56a、56b、56cのスリット幅すなわち目開きは、使用条件に応じて適宜選択されればよく、通常で0.01~5mmとされ、含水クラムの損失が少なく、且つ含水クラムの脱水が効率的にできる点から、好ましくは0.1~1mmであり、0.2~0.6mmであればより好ましい。
【0230】
脱水バレル部53の各脱水バレル53a~53cにおける含水クラムからの水分の除去は、それぞれの脱水スリット56a、56b、56cから液状で除去する場合と、蒸気状で除去する場合との二通りがある。本実施形態の脱水バレル部53においては、水分を液状で除去する場合を排水と定義し、蒸気状で除去する場合を排蒸気と定義して区別する。
【0231】
脱水バレル部53においては、排水及び排蒸気を組み合わせることで、粘着性アクリルゴムの含水量を低下させることが効率よくできるので好適である。脱水バレル部53では、第1~第3の脱水バレル53a~53cのうち、どの脱水バレルで排水又は排蒸気を行うかは、使用目的に応じて適宜に設定すればよいが、通常製造されるアクリルゴム中の灰分量を少なくする場合は、排水を行う脱水バレルを多くするとよい。その場合、例えば図2に示すように、上流側の第1及び第2の脱水バレル53a、53bで排水を行い、下流側の第3の脱水バレル53cで排蒸気を行う。また、例えば脱水バレル部53が4つの脱水バレルを有する場合には、例えば上流側の3つの脱水バレルで排水を行い、下流側の1つの脱水バレルで排蒸気を行うといった態様が考えられる。一方、含水量を低減する場合には、排蒸気を行う脱水バレルを多くするとよい。
【0232】
脱水バレル部53の設定温度は、上述の脱水・乾燥工程で述べたように、通常60~150℃、好ましくは70~140℃、より好ましくは80~130℃の範囲であり、排水状態で脱水する脱水バレルの設定温度は、通常60℃~120℃、好ましくは70~110℃、より好ましくは80~100℃であり、排蒸気状態で脱水する脱水バレルの設定温度は、通常100~150℃、好ましくは105~140℃、より好ましくは110~130℃の範囲である。
【0233】
乾燥バレル部54は、脱水後の含水クラムを減圧下で乾燥させる領域である。乾燥バレル部54を構成する第1~第8の乾燥バレル54a~54hのうち、第2の乾燥バレル54b、第4の乾燥バレル54d、第6の乾燥バレル54f及び第8の乾燥バレル54hは、脱気のためのベント口58a、58b、58c、58dをそれぞれ有する。各ベント口58a、58b、58c、58dには、不図示のベント配管がそれぞれ接続されている。
【0234】
各ベント配管の末端には不図示の真空ポンプがそれぞれ接続されており、それら真空ポンプの作動により、乾燥バレル部54内が所定圧力に減圧されるようになっている。スクリュー型押出機5は、それら真空ポンプの作動を制御して乾燥バレル部54内の減圧度を制御する図示せぬ圧力制御手段を有する。
【0235】
乾燥バレル部54での減圧度は適宜選択されればよいが、上述したように、通常1~50kPa、好ましくは2~30kPa、より好ましくは3~20kPaに設定される。
【0236】
また、乾燥バレル部54内の設定温度は適宜選択されればよいが、上述したように、通常100~250℃、好ましくは110~200℃、より好ましくは120~180℃に設定される。
【0237】
乾燥バレル部54を構成する各乾燥バレル54a~54hにおいては、全ての乾燥バレル54a~54h内の設定温度を近似した値にしてもよいし、異ならせてもよいが、上流側(脱水バレル部53側)の温度よりも下流側(ダイ59側)の温度の方を高温に設定すると、乾燥効率が向上するので好ましい。
【0238】
ダイ59は、バレルユニット51の下流端に配置される金型であり、所定のノズル形状の吐出口を有する。乾燥バレル部54で乾燥処理されたアクリルゴムは、ダイ59の吐出口を通過することで、所定のノズル形状に応じた形状に押出成形される。本発明において、ダイ59を通過するアクリルゴムの形状は、ダイ59のノズル形状を略長方形にしてシート状に押出成形することができる。スクリューとダイ59との間には、ブレーカープレートや金網を設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0239】
本実施形態に係るスクリュー型押出機5によれば、以下のようにして、原料のアクリルゴムの含水クラムがシート状の乾燥ゴムに押出成形される。
【0240】
洗浄工程を経て得られたアクリルゴムの含水クラムは、フィード口55から供給バレル部52に供給される。供給バレル部52に供給された含水クラムは、バレルユニット51内の一対のスクリューの回転により、供給バレル部52から脱水バレル部53に送られる。脱水バレル部53では、前述したように第1~第3の脱水バレル53a~53cにそれぞれ設けられた脱水スリット56a、56b、56cから、含水クラムに含まれる水分の排水や排蒸気が行われて、含水クラムが脱水処理される。
【0241】
脱水バレル部53で脱水された含水クラムは、バレルユニット51内の一対のスクリューの回転により乾燥バレル部54に送られる。乾燥バレル部54に送られた含水クラムは可塑化混合されて融体となり、発熱して昇温しながら下流側へ運ばれる。そして、このアクリルゴムの融体中に含まれる水分が気化し、その水分(蒸気)が各ベント口58a、58b、58c、58dにそれぞれ接続された不図示のベント配管を通じて外部へ排出される。
【0242】
上記のように乾燥バレル部54を通過することで含水クラムは乾燥処理されてアクリルゴムの融体となり、そのアクリルゴムはバレルユニット51内の一対のスクリューの回転によりダイ59に供給され、シート状の乾燥ゴムとしてダイ59から押し出される。
【0243】
ここで、本実施形態に係るスクリュー型押出機5の操業条件の一例を挙げる。
【0244】
バレルユニット51内の一対のスクリューの回転数(N)は、諸条件に応じて適宜選択されればよく、通常で10~1,000rpmとされ、アクリルゴムの含水量とゲル量を効率よく低減できる点から、好ましくは50~750rpm、より好ましくは100~500rpmであり、120~300rpmが最も好ましい。
【0245】
また、アクリルゴムの押出量(Q)は、格別限定されないが、通常で100~1,500kg/hrとされ、好ましくは300~1,200kg/hr、より好ましくは400~1,000kg/hrであり、500~800kg/hrが最も好ましい。
【0246】
また、アクリルゴムの押出量(Q)とスクリューの回転数(N)との比(Q/N)は、格別限定されないが、通常で1~20とされ、好ましくは2~10、より好ましくは3~8であり、4~6が特に好ましい。
【0247】
図1に示す冷却装置6は、脱水機による脱水工程及び乾燥機による乾燥工程を経て得られた乾燥ゴムを冷却するように構成されている。冷却装置6による冷却方式としては、送風あるいは冷房下での空冷方式、水を吹き付ける水かけ方式、水中に浸漬する浸漬方式などを含む様々な方式を採用することが可能である。また、室温下に放置することで、乾燥ゴムを冷却するようにしてもよい。
【0248】
以下、図3を参照しながら、冷却装置6の一例として、シート状に成形されたシート状アクリルゴム成形体10を冷却する搬送式冷却装置60について説明する。
【0249】
図3は、図1で示した冷却装置6として好適な搬送式冷却装置60の構成を示している。図3に示す搬送式冷却装置60は、スクリュー型押出機5のダイ59の吐出口から排出されたシート状アクリルゴム成形体10を搬送しながら、空冷方式によって冷却するよう構成されている。この搬送式冷却装置60を用いることで、スクリュー型押出機5から排出されたシート状アクリルゴム成形体を好適に冷却することができる。
【0250】
図3に示す搬送式冷却装置60は、例えば、図2に示したスクリュー型押出機5のダイ59に直結するか、又はダイ59の近傍に設置して使用される。
【0251】
搬送式冷却装置60は、スクリュー型押出機5のダイ59から排出されるシート状アクリルゴム成形体10を図3中矢印A方向に搬送するコンベア61と、コンベア61上のシート状アクリルゴム成形体10に冷風を吹き付ける冷却手段65とを有する。
【0252】
コンベア61は、ローラ62、63と、これらローラ62、63に巻架され、シート状アクリルゴム成形体10がその上に載せられるコンベアベルト64とを有する。コンベア61は、コンベアベルト64上にスクリュー型押出機5のダイ59から排出されたシート状アクリルゴム成形体10を連続して下流側(図3で右側)に搬送するよう構成されている。
【0253】
冷却手段65は、特に限定されないが、例えば、不図示の冷却風発生手段から送られてくる冷却風をコンベアベルト64上のシート状アクリルゴム成形体10の表面に吹き付けることができるような構成を有するものなどが挙げられる。
【0254】
搬送式冷却装置60のコンベア61及び冷却手段65の長さ(冷却風の吹き付けが可能な部分の長さ)L1は、特に限定されないが、例えば10~100mであり、好ましくは20~50mである。また、搬送式冷却装置60におけるシート状アクリルゴム成形体10の搬送速度は、コンベア61及び冷却手段65の長さL1、スクリュー型押出機5のダイ59から排出されるシート状アクリルゴム成形体10の排出速度、目標とする冷却速度や冷却時間などに応じて適宜調整すればよいが、例えば10~100m/hrであり、より好ましくは15~70m/hrである。
【0255】
図3に示す搬送式冷却装置60によれば、スクリュー型押出機5のダイ59から排出されるシート状アクリルゴム成形体10をコンベア61にて搬送しつつ、シート状乾燥ゴム10に対し冷却手段65から冷却風を吹き付けることにより、シート状アクリルゴム成形体10の冷却が行われる。
【0256】
なお、搬送式冷却装置60としては、図3に示すような1つのコンベア61及び1つの冷却手段65を備える構成に特に限定されず、2つ以上のコンベア61と、これに対応する2つ以上の冷却手段65とを備えるような構成としてもよい。その場合には、2つ以上のコンベア61及び冷却手段65のそれぞれの総合長さを上記範囲とすればよい。
【0257】
図1に示すベール化装置7は、スクリュー型押出機5から押出成形され、さらに冷却装置6で冷却された乾燥ゴムを加工して、一塊のブロックであるベールを製造するよう構成されている。ベール化装置7によって製造されるベール状アクリルゴム成形体の重さや形状などは特に限定されないが、例えば約20kgの略直方体形状のベール状アクリルゴム成形体が製造される。
【0258】
また、スクリュー型押出機5によって製造したシート状アクリルゴム成形体10は、積層してベール状アクリルゴム成形体を製造してもよい。例えば、図3に示す搬送式冷却装置60の下流側に配置されるベール化装置7に、シート状アクリルゴム成形体10を切断するカッティング機構が設けられていてもよい。具体的には、ベール化装置7のカッティング機構は、例えば、冷却されたシート状アクリルゴム成形体10を連続的に所定の間隔で切断して、所定の大きさのカットシート状アクリルゴム成形体16に加工するように構成されている。カッティング機構により所定の大きさに切断されたカットシート状アクリルゴム成形体16を複数枚積層することで、カットシート状アクリルゴム成形体16を積層したベール状アクリルゴム成形体を製造することができる。
【0259】
カットシート状アクリルゴム成形体16を積層したベール状アクリルゴム成形体を製造する場合には、例えば40℃以上のカットシート状アクリルゴム成形体16を積層することが好ましい。40℃以上のカットシート状アクリルゴム成形体16を積層することで、更なる冷却及び自重による圧縮によって良好な空気抜けが実現される。
【実施例
【0260】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の「部」、「%」及び「比」は、特に断りのない限り、重量基準である。なお、各種の特性(物性を含む)などについては、以下の方法に従って評価した。
【0261】
[単量体組成]
アクリルゴムにおける単量体組成に関して、アクリルゴム中の各単量体単位の単量体構成はH-NMRで確認し、アクリルゴム中に反応性基の活性が残存していること及びその各反応性基含有量を下記方法で確認した。また、各単量体単位のアクリルゴム中の含有割合は、各単量体の重合反応に用いた使用量及び重合転化率から算出した。具体的には、重合反応は乳化重合反応でその重合転化率は、未反応の単量体がいずれも確認できない略100%であったことから、ゴム中の各単量体単位の含有割合は各単量体の使用量と同一とした。
【0262】
[反応性基含有量]
アクリルゴム中の反応性基であるカルボキシル基量は、ゴム試料(アクリルゴム又はアクリルゴム成形体)をアセトンに溶解し水酸化カリウム溶液で電位差滴定を行うことにより算出した。
【0263】
[灰分量]
ゴム試料の灰分量(%)は、JIS K6228 A法に準じて測定した。
【0264】
[灰分成分量]
ゴム試料の灰分中の各成分量(ppm)は、上記の灰分量測定の際に採取した灰分をΦ20mmの滴定濾紙に圧着し、ZSX Primus(Rigaku社製)を用いてXRF測定した。
【0265】
[比重]
ゴム試料の比重は、JIS K6268架橋ゴム-密度測定のA法に準じて測定した。
【0266】
[ゲル量]
ゴム試料のゲル量(%)は、メチルエチルケトンに対する不溶解分の量であり、以下の方法により求めた。
ゴム試料0.2g程度を秤量(Xg)し、100mlメチルエチルケトンに浸漬させて室温で24時間放置後、80メッシュ金網を用いてメチルエチルケトンに対する不溶解分を濾別した濾液、すなわち、メチルエチルケトンに溶解するゴム成分のみが溶解した濾液を蒸発乾燥固化させた乾燥固形分(Yg)を秤量し、下式により算出した。
ゲル量(%)=100×(X-Y)/X
【0267】
[分子量]
ゴム試料の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてジメチルホルムアミドに塩化リチウムが0.05mol/L、37%濃塩酸が0.01%の濃度でそれぞれ添加された溶液を用いたGPC-MALS法により測定される絶対分子量である。具体的には、GPC(Gel Permeation Chromatography)装置に多角度レーザ光散乱光度計(MALS)及び示差屈折率計(RI)を組み入れ、GPC装置でサイズ分別された分子鎖溶液の光散乱強度及び屈折率差を、溶出時間を追って測定することにより、溶質の分子量とその含有率を順次計算し求めた。GPC装置による測定条件及び測定方法は、以下のとおりである。
カラム:TSKgel α-M 2本(φ7.8mm×30cm、東ソー社製)
温度:カラム 40℃
流速:0.8ml/mm
試料調整:試料10mgに溶媒5mlを加え、室温で緩やかに撹拌した(溶解を視認)。その後0.5μmフィルターを用いてろ過を行った。
注入量:0.200ml
【0268】
[ガラス転移温度(Tg)]
ゴム試料のガラス転移温度(Tg)は、示差走査型熱量計(DSC、製品名「X-DSC7000」、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて測定した。
【0269】
[pH]
ゴム試料のpHは、6g(±0.05g)のゴム試料をテトラヒドロフラン100gで溶解後、蒸留水2.0mlを添加し完全に溶解したことを確認後にpH電極で測定した。
【0270】
[含水量]
ゴム試料の含水量(%)は、JIS K6238-1:オーブンA(揮発分測定)法に準じて測定した。
【0271】
[ムーニー粘度]
ゴム試料のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、JIS K6300の未架橋ゴム物理試験法に従って測定した。
【0272】
[耐水性評価]
ゴム試料の耐水性は、JIS K6258に準拠してゴム試料の架橋物を温度85℃の蒸留水中に100時間浸漬させて浸漬試験を行い、浸漬前後の体積変化率を下記の式に従って算出し、比較例1を100とする指数で評価した(指数が小さいほど耐水性に優れる)。
浸漬前後の体積変化率(%)=((浸漬後の試験片体積-浸漬前の試験片体積)/浸漬前の試験片体積)×100
【0273】
[加工性評価]
ゴム試料の加工性は、ゴム試料を50℃に加温されたバンバリーミキサーに投入し1分間素練り後、表1記載のゴム混合物配合の配合剤Aを投入して1段目のゴム混合物が一体化して最大トルク値を示すまでの時間、すなわちBIT(Black Incorporation Time)を測定し、比較例1を100とする指数で評価した(指数が小さいほど加工性に優れる)。
【0274】
[保存安定性評価]
ゴム試料の保存安定性は、ゴム試料のゴム混合物を45℃×80%RHの恒温恒湿度槽7日間投入し、試験前後のゴム試料をゴム混合物としてゴム加硫試験機(ムービングダイレオメータMDR;アルファテクノロジー社製)を用いて180℃で10分間の架橋試験を行い、最大トルク(MH)と最小トルク(ML)との差(MH-ML)である架橋密度の変化率を算出し、比較例1を100とする指数で評価した(指数は小さいほど保存安定性に優れる)。
【0275】
[耐熱性評価]
ゴム試料の耐熱性評価は、ゴム試料の架橋物を175℃で250時間静置する加熱試験を行い、試験前後のゴム架橋物の引張強度をJIS K6251、硬さをJIS K6253に準じて測定し、切断伸びの変化及び硬さの変化を下記の基準で評価した。
切断伸びの変化は、破断伸び変化率が20%以下である場合は「◎」とし、破断伸び変化率が20%を超える場合は「×」として評価した。硬さの変化は、硬さ変化率が20ポイント以下の場合は「◎」とし、硬さ変化率が20ポイントを超えた場合は「×」として評価した。
【0276】
[実施例1]
ホモミキサーを備えた混合容器に、純水46部、単量体成分としてアクリル酸エチル63.25部、アクリル酸n-ブチル17部、アクリル酸メトキシエチル7部、メタクリル酸ブチル11部及びフマル酸モノエチル1.75部、乳化剤としてオクチルオキシジオキシエチレンリン酸エステルナトリウム塩1.8部を仕込み撹拌して単量体エマルジョンを得た。
【0277】
温度計、撹拌装置を備えた重合反応槽に、純水170部及び上記で得られた単量体エマルジョン3部を投入し、窒素気流下で12℃まで冷却した。次いで、重合反応槽中に、単量体エマルジョンの残部、硫酸第一鉄0.00033部、アスコルビン酸ナトリウム0.264部、及び過硫酸カリウム0.22部を3時間かけて連続的に滴下した。その後、重合反応槽内の温度を23℃に保った状態にて反応を継続し、重合転化率が略100%に達したことを確認し、重合停止剤としてのハイドロキノンを添加して重合反応を停止し、乳化重合液を得た。
【0278】
次いで、温度計と撹拌装置を備えた凝固槽で、撹拌装置の撹拌翼回転数600回転(周速3.1m/s)で激しく撹拌し且つ80℃に加温した2%硫酸マグネシウム水溶液(凝固剤として硫酸マグネシウムを用いた凝固液)350部中に、上記得られた乳化重合液を80℃に加温して連続的に添加して重合体を凝固させ、凝固物であるアクリルゴムのクラムと水を含む凝固スラリーを得た。得られたスラリーからクラムを濾別しつつ凝固層から水分を排出して含水クラムを得た。
【0279】
濾別された含水クラムの残った凝固槽内に194部の温水(70℃)を添加して15分間撹拌して含水クラムを洗浄した後に水分を排出させ、再び194部の温水(70℃)を添加して15分間撹拌して含水クラムの洗浄を行った(合計洗浄回数は2回)。洗浄後の含水クラム(クラム温度65℃)をスクリュー型押出機に供給し、脱水・乾燥・成形して幅300mmで厚さ10mmのシート状乾燥ゴム(シート状アクリルゴム成形体)を押し出した。次いで、スクリュー型押出機に直結して設けた搬送式冷却装置を用いて、シート状乾燥ゴムを冷却温度200℃/hrで冷却した。
【0280】
なお、本実施例1で用いたスクリュー型押出機は、1つの供給バレル、3つの脱水バレル(第1~第3の脱水バレル)、5つの乾燥バレル(第1~第5の乾燥バレル)で構成されている。第1の脱水バレルは排水を行い、第2及び第3の脱水バレルは排蒸気を行うようになっている。スクリュー型押出機の操業条件は、以下のとおりとした。
【0281】
含水量
・第1の脱水バレルでの排水後の含水クラムの含水量:20%
・第3の脱水バレルでの排蒸気後の含水クラムの含水量:10%
ゴム温度
・供給バレルに供給する含水クラムの温度:65℃
・スクリュー型押出機から排出されるゴムの温度:140℃
各バレルの設定温度:
・第1の脱水バレル:100℃
・第2の脱水バレル:120℃
・第3の脱水バレル:120℃
・第1の乾燥バレル:120℃
・第2の乾燥バレル:130℃
・第3の乾燥バレル:140℃
・第4の乾燥バレル:160℃
・第5の乾燥バレル:180℃
運転条件:
・スクリューの直径(D):132mm
・スクリューの全長(L):4620mm
・L/D:35
・スクリューの回転数:135rpm
・ダイからのゴムの押出量:700kg/hr
・ダイにおける樹脂圧:2MPa
【0282】
スクリュー型押出機から押し出されたシート状乾燥ゴムを、50℃まで冷却してからカッターで切断し、アクリルゴム(A)(シート状アクリルゴム成形体)を得た。得られたアクリルゴム(A)の反応性基含有量、灰分量、灰分成分量、比重、ゲル量、ガラス転移温度(Tg)、pH、含水量、重量平均分子量、及びムーニー粘度(ML1+4,100℃)を測定して表2に示した。
【0283】
次いで、アクリルゴム(A)の温度が40℃以下にならないうちに、切断後の複数枚のアクリルゴム(A)を20部(20kg)になるように積層してベール状アクリルゴム成形体(A)を得た。得られたベール状アクリルゴム成形体(A)の反応性基含有量、灰分量、灰分成分量、比重、ゲル量、ガラス転移温度(Tg)、pH、含水量、重量平均分子量、及びムーニー粘度(ML1+4,100℃)を測定した。ベール状アクリルゴム成形体(A)の各特性値は、表2に示した上記アクリルゴム(A)(シート状アクリルゴム成形体)の特性値と同様であった。
【0284】
次いで、アクリルゴム(A)(ベール状アクリルゴム成形体)100部と表1に記載した「配合1」の配合剤Aをバンバリーミキサーに投入し50℃で5分間混合した(1段目混合)。このときのBITを測定してアクリルゴム(A)の加工性を評価しその結果を表2に示した。
【0285】
さらに、1段目混合で得られた混合物それぞれを、50℃のロールに移して、「配合1」の配合剤Bを配合して混合(2段目混合)し、ゴム混合物を得た。保存安定性試験前後のアクリルゴム(A)を用いたゴム混合物の架橋試験を行い架橋密度(MH-ML)の変化を測定しその結果を表2に示した。
【0286】
【表1】
【0287】
こうして得られたゴム混合物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら180℃で10分間プレスすることにより一次架橋し、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに180℃、2時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のゴム架橋物を得た。そして、得られたシート状のゴム架橋物から3cm×2cm×0.2cmの試験片を切り取って耐水性試験及び耐熱性試験を行い、その結果を表2に示した。
【0288】
[実施例2]
単量体成分をアクリル酸エチル4.5部、アクリル酸n-ブチル53.5部、アクリル酸メトキシエチル29.5部、メタクリル酸ヘキシル11部及びフマル酸モノエチル1.5部に変更する以外は実施例1と同様に行い、アクリルゴム(B)を得て各特性(配合剤は「配合2」に変更した)を評価した。それらの結果を表2に示した。
【0289】
[実施例3]
単量体成分をアクリル酸エチル48.6部、アクリル酸n-ブチル39部、メタクリル酸ブチル11部及びフマル酸モノエチル1.4部に変更する以外は実施例2と同様に行い、アクリルゴム(C)を得て各特性を評価した。それらの結果を表2に示した。
【0290】
[実施例4]
単量体成分をアクリル酸エチル42.3部、アクリル酸n-ブチル45.3部、メタクリル酸ブチル11部、及びフマル酸モノエチル1.4部に変更する以外は実施例2と同様に行い、アクリルゴム(D)を得て各特性を評価した。それらの結果を表2に示した。
【0291】
[実施例5]
含水クラムのスクリュー型押出機での脱水後の含水量(排蒸気を行う予備乾燥前までに行われる排水後の含水クラムの含水量)を30%までとする以外は実施例4と同様に行い、アクリルゴム(E)を得て各特性を評価した。それらの結果を表2に示した。
【0292】
[実施例6]
洗浄後含水クラムをスクリュー型押出機にかけず直接熱風乾燥機で含水量0.4%まで乾燥する以外は実施例4と同様に行い、得られたクラム状のアクリルゴム20部(20kg)を、300×650×300mmのベーラに充填し3MPaの圧力で30秒間押し固め、アクリルゴム(F)(ベール状アクリルゴム成形体)を得た。得られたアクリルゴム(F)の各特性を評価し、それらの結果を表2に示した。
【0293】
[比較例1]
温度計、撹拌装置を備えた重合反応槽に、窒素気流下で、純水200部、単量体成分としてアクリル酸エチル42.3部、アクリル酸n-ブチル45.3部、メタクリル酸ブチル11部及びフマル酸モノエチル1.4部、乳化剤としてオクチルオキシジオキシエチレンリン酸エステル2.5部とポリオキシエチレンドデシルエーテル0.5部を投入し、過硫酸カリウム0.1部、アスコルビン酸ナトリウム0.1部を仕込み、次いで、過硫酸カリウム0.1部とアスコルビン酸ナトリウム0.1部を添加して反応を開始した。常温で反応を継続し、重合転化率が略100%に達したことを確認し、重合停止剤としてのハイドロキノンを加え重合反応を停止し、乳化重合液を得た。
【0294】
次いで、撹拌装置の撹拌翼回転数100回転(周速0.5m/s)で撹拌している乳化重合液に0.4%硫酸ナトリウム水溶液(凝固剤として硫酸ナトリウムを用いた凝固液)を添加して重合体を凝固させ、凝固物であるアクリルゴムのクラムと水を含む凝固スラリーを得た。得られたスラリーからクラムを濾別しつつ凝固層から水分を排出して含水クラムを得た。
【0295】
濾別された含水クラムの残った凝固槽内に194部の25℃の水を添加して15分間撹拌して含水クラムを洗浄した後に水分を排出させ含水クラムの洗浄を行った。洗浄後の含水クラムを熱風乾燥機で乾燥して含水量0.4重量%のクラム状のアクリルゴム(G)を得た。このアクリルゴム(G)について、反応性基含有量、灰分量、灰分成分量、比重、ゲル量、ガラス転移温度(Tg)、pH、含水量、重量平均分子量、及びムーニー粘度(ML1+4,100℃)を測定し、その結果を表2に示した。
【0296】
次いで、アクリルゴム(G)100部と表1に記載した「配合2」の配合剤Aをバンバリーミキサーに投入し50℃で5分間混合した(1段目混合)。このときのBITを測定してアクリルゴム(G)の加工性を評価しその結果を表2に示した。さらに、1段目混合で得られた混合物それぞれを、50℃のロールに移して、「配合2」の配合剤Bを配合して混合(2段目混合)し、ゴム混合物を得た。保存安定性試験前後のアクリルゴム(G)を用いたゴム混合物の架橋試験を行い架橋密度(MH-ML)の変化を測定しその結果を表2に示した。
【0297】
得られたゴム混合物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら180℃で10分間プレスすることにより一次架橋し、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに180℃、2時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のゴム架橋物を得た。そして、得られたシート状のゴム架橋物から3cm×2cm×0.2cmの試験片を切り取って耐水性及び耐熱性評価を行い、その結果を表2に示した。
【0298】
【表2】
【0299】
表2から、アクリル酸エステル由来の結合単位(A)10~98.9重量%、メタクリル酸エステル由来の結合単位(B)1~50重量%、反応性基含有単量体由来の結合単位(C)0.1~10重量%及びその他の単量体由来の結合単位(D)0~30重量%からなり、全灰分量が1重量%以下で、且つ全灰分中のマグネシウムとリンの合計量が全灰分量に対する割合で60重量%以上であり、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10~150の範囲である本発明のアクリルゴム(A)~(F)は、アクリルゴム(G)の耐熱性を損なうことなく高度に耐水性が改善されていることがわかる(実施例1~6と比較例1との比較)。
【0300】
アクリルゴムの耐水性は、リン酸系乳化剤と凝固剤としてナトリウム塩を用いた比較例1に対して、リン酸系乳化剤と凝固剤としてマグネシウム塩を用い、且つ、凝固反応を激しく撹拌しているマグネシウム塩水溶液に乳化重合液を添加して行い且つ含水クラムの洗浄を温水で行うことにより格段にアクリルゴム中の灰分量が低減し高度に改善されていることがわかる(比較例1と実施例6との比較)。更に、洗浄後の含水クラムをスクリュー型押出機を用いて脱水を行うことによりアクリルゴムの耐水性が改善され(実施例6と実施例1~5との比較)、特により含水クラムから絞り出す脱水量が多い方が耐水性の高くなること(実施例1~4と実施例5との比較)がわかる。また、含水クラムをスクリュー型押出機を用いて脱水することでアクリルゴム中のリンとマグネシウムの量を大幅に低減し耐熱性を改善していることがわかる。
【0301】
表2から、また、メチルエチルケトン不溶解分のゲル量が少ない本発明のアクリルゴム(A)~(E)は、耐熱性を損なうことなく加工性が高度に改善されていることがわかる(実施例1~5と比較例1との比較)。これは、洗浄したアクリルゴムの含水クラムをスクリュー型押出機内で実質的に水分を含まない状態まで回転して脱水乾燥したことによるものであり、これによりアクリルゴム中のゲル量を殆ど消滅させBITの加工性を大幅に改善していることがわかる。
【0302】
表2からは、更に、比重が大きく空気の含まない本発明のアクリルゴム(A)~(F)は、耐熱性を損なうことなく保存安定性が高度に改善されていることがわかる(実施例1~6と比較例1との比較)。特に、クラム状アクリルゴムをベーラで圧縮したアクリルゴム(実施例6)よりもスクリュー型押出機を用いてシート状で押し出し積層してベール化したアクリルゴム(実施例1~5)の方が空気の除去率が高く比重が大きく保存安定性が大幅に改善されていることがわかる。
【符号の説明】
【0303】
1 アクリルゴム製造システム
3 凝固装置
4 洗浄装置
5 スクリュー型押出機
6 冷却装置
7 ベール化装置
図1
図2
図3