(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】水処理装置の貸出提案システム、水処理装置の貸出提案方法、予測システムおよび予測方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20240806BHJP
G06Q 30/0645 20230101ALI20240806BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240806BHJP
C02F 1/00 20230101ALI20240806BHJP
【FI】
G06Q50/04
G06Q30/0645
G06Q10/04
C02F1/00 V
C02F1/00 A
(21)【出願番号】P 2020043210
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田中 一平
【審査官】松田 岳士
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-134697(JP,A)
【文献】特開2003-114989(JP,A)
【文献】特開2003-245653(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0316309(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 -99/00
C02F 1/00
G05B 19/418
G05B 23/00 -23/02
G08B 19/00 -31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、
前記データ解析手段による解析結果から、コンピュータを用いて、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる水処理装置を決定する装置決定手段と、
前記必要となる水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備え、
前記解析結果は、前記工場施設内およびその周囲のうち少なくともいずれかにおける、降水量および降水確率のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定手段は、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、追加の水処理装置の種類および数を決定する追加装置決定手段である、
水処理装置の貸出提案システム。
【請求項2】
前記要因データは、地理データおよび工場データをさらに含む、請求項1に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項3】
前記予測情報は、冠水により生じる損失予測情報および貸出による提供メリット予測情報をさらに含む、請求項1または2に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項4】
前記追加装置決定手段は、他の工場施設の水処理実績情報もさらに考慮する、請求項1、2または3に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項5】
前記追加装置決定手段は、前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、請求項1~4いずれか1項に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項6】
複数の水処理装置を備える工場施設における前記水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、
前記データ解析手段による解析結果から、コンピュータを用いて、前記水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる水処理装置を決定する装置決定手段と、
前記必要となる水処理装置に相当する水処理能力を有する代替の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備え、
前記解析結果は、前記工場施設が保有する水処理装置の設置時期、使用頻度および稼働負荷のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定手段は、前記工場施設が保有する水処理装置の中から更新すべき水処理装置を決定し、かつ前記更新のために必要となる水処理装置を決定する更新装置決定手段である、
水処理装置の貸出提案システム。
【請求項7】
前記要因データは、前記工場施設が保有する水処理装置の仕様または統計的特徴に関する一般装置データおよび排水データをさらに含む、請求項6に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項8】
前記予測情報は、前記工場施設が保有する水処理装置の故障により生じる損失予測情報および貸出による提供メリット予測情報をさらに含む、請求項6または7に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項9】
前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、請求項6、7または8に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項10】
時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する前記製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、
前記データ解析手段による解析結果から、コンピュータを用いて、前記工場施設が保有する前記製造装置から排出される排水の水質および前記排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる水処理装置を決定する装置決定手段と、
前記必要となる水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備え、
前記解析結果は、前記排水の量、水質、放流規制値、排水処理設備の運転条件および発生汚泥量のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定手段は、前記時期が変わるときに必要となる、追加の水処理装置の種類および数を決定する追加装置決定手段である、
水処理装置の貸出提案システム。
【請求項11】
前記要因データは、前記工場施設における気象データ、前記工場施設における現在の製造データおよび前記工場施設における過去の製造データをさらに含む、請求項10に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項12】
前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、請求項10または11に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項13】
貯槽または沈殿槽を備える工場施設における前記貯槽または前記沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、
前記データ解析手段による解析結果から、コンピュータを用いて、前記貯槽または前記沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる水処理装置を決定する装置決定手段と、
前記必要となる水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備え、
前記解析結果は、前記貯槽または前記沈殿槽における、流入水および流出水に含まれる懸濁物質の化学種、前記懸濁物質の濃度、流入水および流出水の水量のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定手段は、必要となる追加の水処理装置を決定する追加装置決定手段である、
水処理装置の貸出提案システム。
【請求項14】
前記要因データは、前記貯槽または前記沈殿槽の仕様情報データおよび過去の沈殿物の洗浄データをさらに含む、請求項13に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項15】
前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、請求項13または14に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【請求項16】
工場施設における気象データを少なくとも含む要因データ
の解析
をコンピュータが実行するデータ解析工程と、
前記データ解析工程による解析結果から、
前記コンピュータ
が、冠水エリアの予測を実行して、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を
生成するとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、
前記コンピュータが必要となる水処理装置を決定する装置決定工程と、
前記必要となる水処理装置の一時的な貸出を、
前記コンピュータが前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、
を備え、
前記解析結果は、前記工場施設内およびその周囲のうち少なくともいずれかにおける、降水量および降水確率のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定工程は、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、水処理装置の種類および数を決定する、水処理装置の貸出提案方法。
【請求項17】
複数の水処理装置を備える工場施設における前記水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データ
の解析
をコンピュータが実行するデータ解析工程と、
前記データ解析工程による解析結果から、
前記コンピュータ
が、前記水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を含む予測を実行して、前記水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を
生成するとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する前記複数の水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、
前記コンピュータが必要となる水処理装置を決定する装置決定工程と、
前記必要となる水処理装置に相当する水処理能力を有する代替の水処理装置の一時的な貸出を、
前記コンピュータが前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備え、
前記解析結果は、前記工場施設が保有する水処理装置の設置時期、使用頻度および稼働負荷のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定工程は、前記工場施設が保有する水処理装置の中から更新すべき水処理装置を決定し、かつ前記更新のために必要となる水処理装置を決定する更新装置決定工程である、水処理装置の貸出提案方法。
【請求項18】
時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する前記製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データ
の解析
をコンピュータが実行するデータ解析工程と、
前記データ解析工程による解析結果から、
前記コンピュータ
が、前記工場施設が保有する前記製造装置から排出される排水の水質および前記排水を処理するための最適処理法を含む予測を実行して、前
記排水の水質および前記排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を
生成するとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、
前記コンピュータが必要となる水処理装置を決定する装置決定工程と、
前記必要となる水処理装置の一時的な貸出を、
前記コンピュータが前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備え、
前記解析結果は、前記排水の量、水質、放流規制値、排水処理設備の運転条件および発生汚泥量のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定工程は、前記時期が変わるときに必要となる、追加の水処理装置の種類および数を決定する、
水処理装置の貸出提案方法。
【請求項19】
貯槽または沈殿槽を備える工場施設における前記貯槽または前記沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データ
の解析
をコンピュータが実行するデータ解析工程と、
前記データ解析工程による解析結果から、
前記コンピュータ
が、前記貯槽または前記沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を含む予測を実行して、前記貯槽または前記沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を
生成するとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、
前記コンピュータが必要となる水処理装置を決定する装置決定工程と、
前記必要となる水処理装置の一時的な貸出を、
前記コンピュータが前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備え、
前記解析結果は、前記貯槽または前記沈殿槽における、流入水および流出水に含まれる懸濁物質の化学種、前記懸濁物質の濃度、流入水および流出水の水量のうち少なくともいずれかの情報を少なくとも含み、
前記装置決定工程は、必要となる追加の水処理装置を決定する、
水処理装置の貸出提案方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置の貸出提案システム、水処理装置の貸出提案方法、予測システムおよび予測方法に関し、特に工場施設ごとに、一時的な水処理装置の拡充の必要性を事前に予測して、水処理装置の貸出を提案することができる水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法、ならびにその貸出提案システムおよび貸出提案方法に用いることができる予測システムおよび予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の工場施設において、一時的に水処理装置を拡充する必要が生じることがある。例えば、製鉄所などでは、屋外に配置した原料などが豪雨時に、雨水に接触してその雨水に分散、溶解して排水が生じたり、製麺工場などでは、特定の時期に需要が増加する製品の製造によって排水の性質や量が変化したり、また、通常使用している水処理装置の老朽化により故障して残りの水処理装置では処理することができない排水が生じたりすることなどが挙げられる。
【0003】
このような場合に備えて、従来、各種の工場施設では、想定し得る最大の水処理量に合わせて水処理装置を設置したり、不足が生じるごとに水処理装置を増設したりしていることが多い。
【0004】
しかしながら、このようにして想定される水処理量や過去の不足量に基づいて水処理装置を設置した場合に、余剰の水処理装置を抱えることとなり、使用頻度は低いにもかかわらずメンテナンスや保管場所など、費用が増大する可能性がある。
【0005】
そのため、近年では、水処理装置を貸出(レンタル)する業者も増えており、また、貸出のための水処理装置の小型化も進んでいる。例えば、特許文献1には、排水中に含まれる懸濁物質を除去するために、2つの撹拌反応槽を設け、一方の撹拌反応槽に凝集剤を添加して撹拌した後、加圧状態でもう一方の撹拌反応槽に搬送して撹拌し、次いでそこから加圧状態で排出する技術が開示されている。そして、このような水処理装置によれば、大型の沈殿槽が必要なく、少ない凝集剤でより多くの固形物を固液分離し、水処理装置の小型化にも寄与し得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、水処理装置を貸出(レンタル)する場合、基本的には、工場施設側で必要な水処理装置の種類や数を判断する必要がある。しかしながら、工場施設の多くは、水処理のノウハウに乏しいため、現在必要な水処理装置の種類や数を適正に見積もることができず、過不足が生じることがあった。特に、工場施設において、貯留槽が少ないなど排水を保管する能力が乏しい場合には、排水が多量に発生してから水処理装置を貸出するのでは十分ではなく、事前に排水が多量に発生することを予測して、水処理装置の貸出を提案するシステムが望まれている。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、工場施設ごとに、一時的な水処理装置の拡充の必要性を事前に予測して、水処理装置の貸出を提案する水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法、ならびにそれらに用いることができる予測システムおよび予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、特定の性質を有する工場施設ごとに、排水の量に影響を与える要因データを解析するデータ解析手段と、得られたデータ解析結果から、排水の量に関連する予測情報を得るとともに、少なくとも、その予測情報および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力を考慮して、必要となる種類および数の水処理装置を決定する装置決定手段と、決定した種類および数の水処理装置の一時的な貸出を工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備える水処理装置の貸出提案システムによれば、工場施設ごとに一時的な水処理装置の拡充の必要性を事前に予測して水処理装置の貸出を提案することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1)工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、前記データ解析手段による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定する追加装置決定手段と、前記追加の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備える、 水処理装置の貸出提案システム。
【0011】
(2)前記要因データは、地理データおよび工場データをさらに含む、上記(1)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0012】
(3)前記予測情報は、冠水により生じる損失予測情報および貸出による提供メリット予測情報をさらに含む、上記(1)または(2)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0013】
(4)前記追加装置決定手段は、他の工場施設の水処理実績情報もさらに考慮する、請上記(1)、(2)または(3)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0014】
(5)前記追加装置決定手段は、前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、上記(1)~(4)いずれかに記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0015】
(6)複数の水処理装置を備える工場施設における前記水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、
前記データ解析手段による解析結果から、前記水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する前記複数の水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、更新すべき前記水処理装置を決定する更新装置決定手段と、更新すべき前記水処理装置に相当する水処理能力を有する代替の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備える、水処理装置の貸出提案システム。
【0016】
(7)前記要因データは、前記水処理装置の仕様または統計的特徴に関する一般装置データおよび排水データをさらに含む、上記(6)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0017】
(8)前記予測情報は、前記水処理装置の故障により生じる損失予測情報および貸出による提供メリット予測情報をさらに含む、上記(6)または(7)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0018】
(9)前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、上記(6)、(7)または(8)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0019】
(10)時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する前記製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、前記データ解析手段による解析結果から、前記工場施設が保有する前記製造装置から排出される排水の水質および前記排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、前記時期が変わるときに必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定する追加装置決定手段と、前記追加の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備える、水処理装置の貸出提案システム。
【0020】
(11)前記要因データは、前記工場施設における気象データ、前記工場施設における現在の製造データおよび前記工場施設における過去の製造データをさらに含む、上記(10)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0021】
(12)前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、上記(10)または(11)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0022】
(13)貯槽または沈殿槽を備える工場施設における前記貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、前記データ解析手段による解析結果から、前記貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる追加の水処理装置を決定する追加装置決定手段と、前記追加の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備える、水処理装置の貸出提案システム。
【0023】
(14)前記要因データは、前記貯槽または前記沈殿槽の仕様情報データおよび過去の沈殿物の洗浄データをさらに含む、上記(13)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0024】
(15)前記予測情報に対応する、前記工場施設における実際の結果を収集して学習し、前記データ解析手段にフィードバックする、上記(13)または(14)に記載の水処理装置の貸出提案システム。
【0025】
(16)工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、種類および数の水処理装置を決定する装置決定工程と、前記追加の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備える、水処理装置の貸出提案方法。
【0026】
(17)複数の水処理装置を備える工場施設における前記水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、前記水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する前記複数の水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、更新すべき前記水処理装置を決定する更新装置決定工程と、更新すべき前記水処理装置に相当する水処理能力を有する代替の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備える、水処理装置の貸出提案方法。
【0027】
(18)時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する前記製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、前記工場施設が保有する製造装置から排出される排水の水質および前記排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、前記時期が変わるときに必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定する装置決定工程と、前記追加の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備える、水処理装置の貸出提案方法。
【0028】
(19)貯槽または沈殿槽を備える工場施設における前記貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、前記貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、前記予測情報、および前記工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる追加の水処理装置を決定する装置決定工程と、前記追加の水処理装置の一時的な貸出を、前記工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備える、水処理装置の貸出提案方法。
【0029】
(20)工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、前記データ解析手段による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備える、予測システム。
【0030】
(21)複数の水処理装置を備える工場施設における前記水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、前記データ解析手段による解析結果から、前記水処理装置の故障リスクまたは更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備える、予測システム。
【0031】
(22)時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する前記製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、前記データ解析手段による解析結果から、前記工場施設が保有する前記製造装置から排出される排水の水質および前記排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備える、予測システム。
【0032】
(23)貯槽または沈殿槽を備える工場施設における前記貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、前記データ解析手段による解析結果から、前記貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備える、予測システム。
【0033】
(24)工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備える、予測方法。
【0034】
(25)複数の水処理装置を備える工場施設における前記水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、前記水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備える、予測方法。
【0035】
(26)時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する前記製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、前記工場施設が保有する前記製造装置から排出される排水の水質および前記排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備える、予測方法。
【0036】
(27)貯槽または沈殿槽を備える工場施設における前記貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、前記データ解析工程による解析結果から、前記貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備える、予測方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、特定の性質を有する工場施設ごとに、一時的な水処理装置の拡充の必要性を事前に予測して、水処理装置の貸出を提案する水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施形態について、特定の性質の工場施設ごとに、4つの具体的な実施形態に分けて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0039】
具体的に、4つの実施形態とは、以下のとおりである。
1.通常レベルを超える水量の雨水処理
2.水処理設備の更新予測と更新の際の水処理
3.季節ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設の排水処理
4.貯槽または沈殿槽の沈殿物清掃の際の排水処理
【0040】
なお、4つの実施形態のうち「1.通常レベルを超える水量の雨水処理」、「3.季節ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設の排水処理」および「4.貯槽または沈殿槽の沈殿物清掃の際の排水処理」の3つの項は、いずれも要因データおよび予測情報ならびにそれらの具体的な決定方法が異なるのみであり、それ以外の構成要素は共通する。そこで、「1.通常レベルを超える水量の雨水処理」の項において全ての構成要素を説明し、それ以外の「3.季節ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設の排水処理」および「4.貯槽または沈殿槽の沈殿物清掃の際の排水処理」の項では、要因データおよび予測情報ならびにそれらの具体的な決定方法以外の構成要素については記載を省略するが、この省略する部分については、「1.通常レベルを超える水量の雨水処理」の項の記載を援用することができるものとする。
【0041】
ここで、「水処理能力」とは、水処理を行う主体(例えば、以下に示す「製鉄所または製油所の雨水処理」の項における製鉄所または製油所)が、除去すべき対象ごとに分けて、特定の期間に処理できる最大の水の量(水処理を行う主体が有する特定の処理装置が処理することができる水の総量)をいう。
【0042】
〔1.通常レベルを超える水量の雨水処理〕
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案システムは、工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定する追加装置決定手段と、追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0043】
近年、日本では、梅雨前線の停滞や台風の接近などを原因する集中豪雨や、夏から初秋にかけて大気の不安定さなどを原因とする局地的大雨(いわゆるゲリラ豪雨)が多数発生し、各地に甚大な被害をもたらしている。このようにして発生した雨水は、例えば河川を通じて海へと流れたり、地面にしみ込んで地下へと流れたり、空気中に蒸散したりするなどして自然界の水循環へと戻る。
【0044】
一方、通常レベルを超える大量の降雨やそれによる浸水被害によって、一部の雨水は汚染され、そのまま水循環に戻すことが好ましくないものもある。例えば、製鉄所や石炭火力発電所では、ヤードに石炭が雨曝しの状態で置かれており、このヤードに雨水が流れ込むと、石炭を含んだ汚水が発生する。そして、既存の水処理能力がヤードに流れ込んだ雨水を短時間で処理するのに十分ではないと、ヤードに備えられた石炭を用いることができず、生産等を行うことができなくなることがある。
【0045】
また、製油所では、場内に雨水が流れ込むと、場内の微量油分と混合して汚染水が発生することがある。そして、この製油所の水処理能力が、場内の微量油分と混合して生成した汚染水を短時間で処理するのに十分ではないと、汚染水をタンクに一時的に保存する必要が生じることがある。空のタンクの状況や水貯留の緊急性によっては、油分などを含むタンクに汚染水を投入することもあり、このような場合、高濃度の油分や硫化水素を処理する必要が生じ、処理コストの増大が起こるだけでなく、タンクの数が不足し、タンク繰りが逼迫する場合もある。
【0046】
このような不測の事態に備えた水処理能力を担保すべく、通常の経済活動で必要な量よりも余剰に水処理装置を備えると、メンテナンスや保管場所などの費用が増大し、非経済的である。そこで、上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて、事前にその工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析して、その解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得て、少なくとも、予測情報および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる種類および数の追加の水処理装置を決定する。そして、この情報に基づいて、追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する。
【0047】
(データ解析手段)
データ解析手段は、工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するものである。
【0048】
要因データの解析方法としては、特に限定されないが、各種シミュレーションを含む、IT技術や人工知能(AI)技術を用いることができる。
【0049】
要因データとしての気象データは、工場施設における気象に関するデータであり、また、それらの周辺地域の気象データを含んでいてもよい。気象データとしては、特に限定されないが、気象衛星データに基づく天気予報、GSMAP(衛生全球降水マップ)に基づく降水量、WBGT(暑さ指数)に基づく降水確率、過去および現在の水リスクに関するデータ(降雪量、雨雲レーダー、最高気温、最低気温、湿度、風向、風速、日照時間、海水温)、SYNOP(地上実況気象通報)に基づく津波、台風、波浪、雷、豪雨および竜巻に関する注意報・警報などが挙げられる。これらは1つを単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、要因データとしては、上述した気象データ以外に、かかる製鉄所または製油所の地理に関する地理データおよびかかる製鉄所または製油所の個別の特徴に関する工場データを含むことが好ましい。
【0051】
地理データとしては、特に限定されないが、かかる製鉄所もしくは製油所内またはそれらの周囲の等高線地図、標高地形図、水脈の位置(土壌中の地下水脈、地下水マップなど)、河川の位置、その他河川の情報(温暖化シミュレーションに基づく河川水量、地形データに基づく河川水温、潮汐データに基づく河川水位)、雨水側溝の位置、コンクリート舗装の位置などが挙げられる。これらは1つを単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
工場データとしては、特に限定されないが、かかる製鉄所または製油所の製造データ(原料品目、生産品目、入荷量、出荷量、操業記録、操業計画、品質記録、トラブル事例、歩留り、製造原単位)、水処理能力、汚染水の貯留能力(タンクの数や配置など)、災害(洪水、浸水)の予測シミュレーション、災害(洪水、浸水)速報、災害(地震、噴火、洪水、浸水など)による過去被害データ、過去の災害または運転停止による損害情報などが挙げられる。これらは1つを単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
なお、具体的な解析方法については、予測情報ごとに異なるため、追加装置決定手段の項において、予測情報ごとに具体的に説明する。
【0054】
(追加装置決定手段)
追加装置決定手段は、データ解析手段による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定するものである。
【0055】
予測情報は、上述したとおり、少なくとも予測される冠水エリアを含むものであり、上述した気象データから、IT技術や人工知能(AI)技術を用いて予測されるものである。
【0056】
例えば製鉄所の場合には、予測された冠水エリアに原料ヤードが含まれるか否かを判断する。また、例えば製油所の場合には、油分を扱うエリア(浸水などが起こった場合の屋内も含む)が予測された冠水エリアに含まれるか否かを判断する。これらに例示されるような汚染水(水処理装置を用いて処理を施すことが必要な水)が生じ得るエリア(例えば、製鉄所の原料ヤードや製油所の油分を扱うエリア)が、冠水エリア内に含まれると判断される場合、この予測情報および工場施設が保有する水処理装置の現在の水処理能力を考慮して、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、種類および数(同種類内での処理量違いを含む)の追加の水処理装置を決定する。
【0057】
なお、「通常レベルを超える水量」とは、かかる工場施設が現在保有する水処理装置を設置した時点での想定雨量を超える場合の降雨量をいう。
【0058】
冠水エリアは、上述した気象データのうち、工場設備内またはそれらの周囲の降水量および降水確率の少なくともいずれか1以上に基づき予測することが好ましい。また、これらの情報に加えて、地形データとして、工場設備内またはそれらの周囲の等高線地図、標高地形図、水脈の位置、河川の位置、その他河川の情報、雨水側溝の位置、コンクリート舗装の位置などの少なくとも1つ以上を考慮することが好ましい。このように工場施設内およびその周囲の地形と降水量を考慮して、かかる工場設備内(特に、汚染水が生じ得るエリア)に流入する水量も予測することにより、より正確に冠水エリアを予測することができる。
【0059】
また、予測情報としては、予測される冠水エリア以外に、水処理量予測情報、水質予測情報、冠水により生じる損失予測情報、水処理の貸出による提供メリット情報のうち1以上を含むことが好ましい。
【0060】
水処理量予測情報は、汚染水が発生し得るエリアに降雨するか、または、汚染水が発生し得るエリアに他のエリアから流れ込む水によって生じる汚染水の総量である。必要とされる水処理量は、例えば、上述した気象データのうち、工場施設内またはそれらの周囲の降水量および降水確率に基づき予測することが好ましい。また、これらの情報に加えて、地形データとして、工場施設内またはそれらの周囲の等高線地図、標高地形図、水脈の位置(土壌中の地下水脈、地下水マップなど)、河川の位置、その他河川の情報、雨水側溝の位置、コンクリート舗装の位置などを考慮することが好ましい。このように周囲の地形と降水量を考慮して、かかる工場設備(特に、汚染水が生じ得るエリア)に流入する水量も予測する。水処理量予測情報を考慮して、必要となる種類および数の追加の水処理装置を決定することにより、より正確な決定を行うことができる。
【0061】
水質予測情報(汚染物質の種類や濃度などの情報)は、工場施設内の汚染水が発生し得るエリアにおいて冠水などによって雨水に汚染物質が混合して汚染水が発生した場合の処理すべき対象である水質である。水質予測情報は、例えば上述した工場データのうち原料品目、生産品目などを考慮して汚染物質の種類や濃度を特定することができる。水質予測情報を考慮して、必要となる種類および数の追加の水処理装置を決定することにより、より正確な決定を行うことができる。
【0062】
損失予測情報は、冠水により生じる金銭的損失を主とする損失、具体的には水処理を行うことができず操業停止となった場合などの金銭的損失を含むものである。損失予測情報は、例えば上述した冠水エリアや水処理量予測情報を予測するとともに、工場データのうち災害(洪水、浸水など)の予測シミュレーション、災害速報、災害による過去被害データ(例えば、どの程度の降水でどの程度の冠水が起こったかなどのデータ)を用いて冠水により生じる現象を予測する。次いで、災害による過去被害データのうち、過去冠水や他の災害により生じた操業停止などによる金銭的損失のデータや、製造データ(製品単位数あたりの利益)などのうち1以上を基に金銭的損失を予測する。損失予測情報を考慮して、必要となる種類および数の追加の水処理装置を決定することにより、例えば、損失が最小となるか、または、損失の大きさにより優先度の高い順に処理を行うための種類および数の追加の水処理装置を貸し出すことができる。
【0063】
提供メリット予測情報は、損失予測情報として予測した損害が起こり得る場合において、さらに、所定の水処理の貸出を行った場合の損害の減少額であり、損失予測情報のうち、追加の水処理装置の貸出によって低減できる損失をいう。提供メリット予測情報を考慮して必要となる種類および数の水処理装置を決定することにより、例えば、提供メリットが最大となるか、または、損失の大きさにより優先度の高い順に処理を行うための種類および数の追加の水処理装置を貸し出すことができる。
【0064】
この追加装置決定手段においては、さらに他の工場施設の水処理実績情報を考慮して必要となる種類および数の追加水処理装置を決定してもよい。特に、同業種で、同様の製品を扱う工場施設の水処理実績情報は有用である。なお、工場施設の規模や降水量が相違する場合、これらの相違を考慮して追加水処理装置を決定してもよい。
【0065】
追加装置決定手段は、上述した予測情報に対応する、工場施設における実際の結果を収集して学習し、データ解析手段にフィードバックすることが好ましい。ここでいう(予測情報に対応する)「実際の結果」とは、例えば、予測情報が冠水エリアである場合には、その予測対象の期間の実際の冠水エリアをいう。
【0066】
学習方法としては、特に限定されず、例えば機械学習などを用いることができる。学習の方法としては、例えば、予測情報が実際の結果と相違した場合には、その原因を特定しそれについて補正することができる。例えば、要因データに誤りがあった場合(例えば、気象予報が誤りであった場合)には要因データについて補正し、一方で、決定方法に誤りがあった場合には決定方法について補正することができる。
【0067】
学習の回数としては、特に限定されず、1回または2回以上であってよいが、回数を繰り返すほど、予測情報の精度は高まる。
【0068】
(貸出提案手段)
貸出提案手段は、上述した追加装置決定手段において、決定した種類および数の追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案するものである。
【0069】
ここで、「工場施設の責任者」とは、かかる工場施設において、水処理装置の一時的な貸出の要否を判断および決定できる者をいう。
【0070】
工場施設の責任者への提案は、直接その責任者へ行ってもよいし、責任者に水処理装置の一時的な貸出について提案できる者(例えば、かかる工場施設の従業員など)を経由して間接的に行ってもよい。
【0071】
なお、貸出する水処理装置としては、排水中に含まれる各成分のうち除去すべき成分(例えば排出基準が設けられている成分)を除去可能であるものを適宜選択することができ、例えば凝集沈殿装置、凝集加圧浮上装置、ろ過装置、脱水装置、好気生物処理装置、嫌気生物処理装置、イオン交換装置、MF膜分離装置、UF膜分離装置、RO膜分離装置、UV処理装置、オゾン処理装置、反応槽、処理水槽、原水槽などが挙げられる。これらは1つを単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
(水処理装置の貸出提案方法)
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案方法は、例えば上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて行うことができる方法である。具体的に、この水処理装置の貸出提案方法は、工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、通常レベルを超える水量の雨水処理に必要となる、種類および数の水処理装置を決定する装置決定工程と、追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備えることを特徴とする。各工程の具体的な操作などは上述したので、ここでの説明は省略する。
【0073】
(予測システムおよび予測方法)
本実施形態に係る予測システムは、工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備えることを特徴とする。また、本実施形態に係る予測方法は、工場施設における気象データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、予測される冠水エリアを少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備えることを特徴とする。本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、データ解析手段およびデータ解析工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法のデータ解析手段およびデータ解析工程と同一である。また、本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、予測手段および予測工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法の装置決定手段および装置決定工程の予測情報を得る手段および工程と同一である。したがって、ここでの説明は省略する。
【0074】
なお、これらにより得られた予測結果は、水処理装置の貸出に使用してもよいし、他の用途に使用してもよい。水処理装置の貸出に使用する場合において、工場施設のオペレータなどが、得られた予測結果に基づきコンピュータなどを用いずに水処理装置のレンタルを検討してもよい。
【0075】
〔2.水処理設備の更新予測と更新の際の水処理〕
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案システムは、複数の水処理装置を備える工場施設における水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する複数の水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、更新すべき水処理装置を決定する更新装置決定手段と、更新すべき水処理装置に相当する水処理能力を有する代替の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0076】
例えば製鉄所や製油所などの工場施設は、複数の水処理装置を保有しているが、それらの水処理装置の多くは、現在老朽化が進行しており、突発的な故障が頻発している。このようにして水処理装置が故障すると、一時的に、その工場施設が保有する水処理設備の水処理能力が低下して、本来処理できていた量の水を処理できなくなることがある。一定期間に工場施設から排出される排水の量が、その工場施設が貯留できる水の量および処理できる水の量を超える場合などには、排水を抑えるため、工場などでは製品の製造を停止するなど、その工場施設の経済活動に深刻な損害をおよぼし得る。
【0077】
このような突発的な故障を防止するためには、リスクの高い水処理装置を事前に更新することが好ましい。そこで、上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて、事前にその工場施設における水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析して、その解析結果から、水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得て、少なくとも、予測情報および工場施設が保有する複数の水処理装置の現状の水処理能力を考慮して、更新すべき水処理装置を決定する。そして、この情報に基づいて、更新すべき水処理装置の停止による水処理能力を補うための代替の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する。
【0078】
なお、本実施形態における水処理装置についての「更新」とは、水処理装置全体を更新(取り換え)するだけではなく、水処理装置を構成する特定の部品の更新(取り換え)も含まれる。
【0079】
(データ解析手段)
データ解析手段は、複数の水処理装置を備える工場施設における水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するものである。
【0080】
要因データとしての個別装置データは、水処理装置個別の使用または設備に関するデータである。個別装置データとしては、特に限定されないが、設置時期、使用頻度および稼働負荷(発停回数(ON/OFFの切換え回数)、連続稼働時間、消費電力量(稼働における過酷さの指標)などをいう。また、振動計を設置し、それによる振動数から故障予測をする方法などを用いてもよい。)などのうち1以上が挙げられる。
【0081】
また、要因データとしては、上述した個別装置データ以外に、水処理装置の仕様または統計的特徴に関する一般装置データ、排水データ、工場データをさらに含むことが好ましい。
【0082】
一般装置データは、複数の水処理装置(それらを構成する部品を含む)それぞれの仕様または統計的特徴に関するものである。一般装置データとしては、特に限定されないが、装置の仕様(例えば、耐用年数など)、ユーザーから得た統計的な使用年数、水処理装置メーカーなどにより提供される一般的な故障事例などのうち1以上が挙げられる。
【0083】
排水データは、複数の水処理装置それぞれによって処理を施す予定の排水およびこれまで処理を施した排水に関するものである。排水データとしては、特に限定されないが、それらの排水の種類(懸濁物質の粒径、形状、濃度及び硬度、溶存物質の濃度、並びに排水の水温、pH、腐食性及び酸化性/還元性)、流量、流速などのうち1以上が挙げられる。
【0084】
工場データとしては、特に限定されないが、かかる工場施設の製品の製造データ(原料品目、生産品目、入荷量、出荷量、操業記録、操業計画、品質記録、トラブル事例、歩留り、製造原単位)、水処理能力、汚染水の貯留能力(タンクの数や配置など)、過去の災害または運転停止による損害情報などが挙げられる。これらは1つを単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
なお、具体的な解析方法については、予測情報ごとに異なるため、更新装置決定手段の項において、予測情報ごとに具体的に説明する。
【0086】
(更新装置決定手段)
更新装置決定手段は、データ解析手段による解析結果から、水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する複数の水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、更新すべき水処理装置を決定するものである。
【0087】
予測情報は、上述したとおり、少なくとも水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を含むものであり、上述した個別装置データから、IT技術や人工知能(AI)技術を用いて予測されるものである。
【0088】
具体的に、水処理装置の故障リスクは、要因データとしての設置時期、使用頻度および稼働負荷などのうち1以上を考慮して、将来の所定の時点でどの程度高いかを予測する。この際、一般装置データとしてのユーザーから得た統計的な使用年数、水処理装置メーカーなどにより提供される一般的な故障事例や、排水データとしての、排水の種類、流量、流速などのうち1以上を用いて更新すべき水処理装置を決定することにより、より正確な決定を行うことができる。
【0089】
更新優先順位は、かかる工場施設が保有する複数の水処理装置それぞれについて、上述した手法により故障リスクを予測し、そのリスクの高い順に更新優先順位をつける。
【0090】
また、予測情報としては、水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位以外に、水処理装置の故障により生じる損失予測情報および代替の水処理装置の貸出による提供メリット予測情報のうち1以上を含むことが好ましい。
【0091】
損失予測情報は、水処理装置の故障により生じる金銭的損失を主とする損失、具体的には、現在工場施設が保有する水処理装置が突然故障した場合または代替の水処理装置を用いない場合であって、それらによってその工場施設の製造により排出される水の水処理を行うことができず(全部または一部)の製造が停止となった場合などの金銭的損失を含むものである。損失予測情報は、例えば上述した故障リスクを予測するとともに、工場データのうち災害時の操業停止による過去被害データ(例えば、どの程度の期間の製造の停止でどの程度の損失が起こったかなどのデータ)など考慮して金銭的損失を予測する。損失予測情報を考慮して更新すべき水処理装置を決定することにより、例えば、突然の故障による損失を最小限に抑える水処理装置の更新を行ったり、損失の大きさを考慮して優先度の高い順に水処理装置の更新を行ったりすることができる。
【0092】
提供メリット予測情報は、損失予測情報として予測した損害が起こり得る場合において、さらに、水処理装置の更新を事前に行い、かつ事前に代替の水処理装置の一時的な貸出を行った場合の損害の減少額であり、損失予測情報のうち、水処理装置の更新および代替の水処理装置の貸出によって低減できる損失をいう。このように提供メリット予測情報を基に必要な種類および数の水処理装置を決定することにより、例えば、提供メリットを最大限に得られる代替水処理装置の貸出を行ったり、提供メリットの大きさを考慮して優先度の高い順に代替水処理装置の貸出を行ったりすることができる。
【0093】
更新装置決定手段は、上述した予測情報に対応する、工場施設における実際の結果を収集して学習し、データ解析手段にフィードバックすることが好ましい。
【0094】
学習方法としては、特に限定されず、例えば機械学習などを用いることができる。学習の方法としては、例えば、予測情報が実際の結果と相違した場合には、その原因を特定しそれについて補正することができる。例えば、要因データに誤りがあった場合(例えば、気象予報が誤りであった場合)には要因データについて補正し、一方で、決定方法に誤りがあった場合には決定方法について補正することができる。
【0095】
学習の回数としては、特に限定されず、1回または2回以上であってよいが、回数を繰り返すほど、予測情報の精度は高まる。
【0096】
(貸出提案手段)
貸出提案手段は、上述した更新装置決定手段において、決定した更新すべき水処理装置に相当する水処理能力を有する代替の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案するものである。
【0097】
ここで、「工場施設の責任者」とは、かかる工場施設において、水処理装置の一時的な貸出の要否を判断および決定できる者をいう。
【0098】
工場施設の責任者への提案は、直接その責任者へ行ってもよいし、責任者に水処理装置の一時的な貸出について提案できる者(例えば、かかる工場施設の従業員など)を経由して間接的に行ってもよい。
【0099】
なお、貸出する水処理装置としては、更新すべき水処理装置に相当する水処理能力を有するものを適宜選択することができ、例えば凝集沈殿装置、凝集加圧浮上装置、ろ過装置、脱水装置、好気生物処理装置、嫌気生物処理装置、イオン交換装置、MF膜分離装置、UF膜分離装置、RO膜分離装置、UV処理装置、オゾン処理装置、反応槽、処理水槽、原水槽などが挙げられる。これらは1つを単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
(水処理装置の貸出提案方法)
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案方法は、例えば上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて行うことができる方法である。具体的に、この貸出提案方法は、複数の水処理装置を備える工場施設における水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する複数の水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、更新すべき水処理装置を決定する更新装置決定工程と、更新すべき水処理装置に相当する水処理能力を有する代替の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備える。各工程の具体的な操作などは上述したので、ここでの説明は省略する。
【0101】
(予測システムおよび予測方法)
本実施形態に係る予測システムは、複数の水処理装置を備える工場施設における水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、水処理装置の故障リスクまたは更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備えることを特徴とするものである。また、本実施形態に係る予測方法は、複数の水処理装置を備える工場施設における水処理装置の個別の使用または設置に関する個別装置データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備える、ことを特徴とするものである。本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、データ解析手段およびデータ解析工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法のデータ解析手段およびデータ解析工程と同一である。また、本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、予測手段および予測工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法の装置決定手段および装置決定工程の予測情報を得る手段および工程と同一である。したがって、ここでの説明は省略する。
【0102】
なお、これらにより得られた予測結果は、水処理装置の貸出に使用してもよいし、他の用途に使用してもよい。水処理装置の貸出に使用する場合において、工場施設のオペレータなどが、得られた予測結果に基づきコンピュータなどを用いずに水処理装置のレンタルを検討してもよい。
【0103】
〔3.季節ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設の排水処理〕
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案システムは、時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、工場施設が保有する製造装置から排出される排水の水質および排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、時期が変わるときに必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定する追加装置決定手段と、追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0104】
例えば、コンビニエンスストア向けの麺類は、時期ごとに需要が大きく変動するものである。夏季は、うどん、そば、冷やし中華などのいわゆる冷やし麺の売上が増加する。この冷やし麺の製造により排出される排水では、水量は多いが、その中の油分の量は少ない。これに対し、冬季は、ラーメンの売上が増加する。このラーメンの製造により排出される排水では、水量は少ないが、その中の油分の量は多い。
【0105】
また、例えば洋菓子メーカーでは、1~2月にはバレンタインデー向けのチョコレートの需要が、12月にはクリスマスケーキの需要がそれぞれ高まり、洋菓子メーカーはそれに合わせて製品を製造するので、そこから排出される排水の量や性質もそれぞれ異なる。
【0106】
以上のように、時期によって需要が変動し、それにともなって工場施設で製造する種類や量も変動し、これにより、その製造により排出される排水の量や性質が変動する製品は多い。以上の例では、食品の例を説明したが、他にはレジャー(プールの水など夏場のみ稼働)、土木工事(工事期間のみ掘った土を含む濁水発生)、農業排水(食品と同等)など多種の製品で見られる現象である。
【0107】
そして、このように特定の工場施設から排出される排水の量や性質が時期によって変動することは、すなわち、特定の工場施設において必要な水処理装置の種類や数が時期によって変動することを意味する。
【0108】
しかしながら、それぞれの最大需要時期に排出される排水の負荷に備えた水処理能力を担保すべく、通常の経済活動に必要な能力よりも過剰な能力の水処理装置を備えると、費用対効果面で好ましくない。そこで、上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて、事前にその工場施設が保有する当該製品の製造装置から排出された過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析して、その解析結果から、工場施設が保有製造装置から排出される排水の水質および排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得て、少なくとも、予測情報および工場が保有する水処理装置の現状の水処理能力を考慮して、時期が変わるときに必要となる種類および数の追加の水処理装置を決定する。そして、この情報に基づいて、水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する。
【0109】
(データ解析手段)
データ解析手段は、時期ごとに需要が変動する製品を製造する製造装置を保有する工場施設における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するものである。
【0110】
要因データとしての過去の排水データは、かかる工場の時期または季節ごとの一定期間における排水データである。過去の排水データとしては、特に限定されないが、排水の量、水質(水処理を行う上で処理性能に影響し得る性質や物質濃度)、放流規制値、排水処理設備の運転条件(曝気量、DO、薬注量、pHなど)、発生汚泥量などのうち1以上が挙げられる。
【0111】
また、要因データとしては、上述した過去の排水データ以外に、工場の商圏における気象データ、工場における現在の製造データおよび工場における過去の製造データのうちいずれか1以上をさらに含むことが好ましい。
【0112】
気象データは、かかる工場の商圏における気象に関するデータであり、例えば上述したコンビニエンスストアの麺類などの、特に気象(例えば、温度や天候など)の影響を受けて需要が変動する製品の製造に有効である。気象データとしては、気象衛星データに基づく天気予報、GSMAP(衛生全球降水マップ)に基づく降水量、WBGT(暑さ指数)に基づく降水確率、過去および現在の水リスクに関するデータ(降雪量、雨雲レーダー、最高気温、最低気温、湿度、風向、風速、日照時間、海水温)、SYNOP(地上実況気象通報)に基づく津波、台風、波浪、雷、豪雨および竜巻に関する注意報・警報などのうち1以上が挙げられる。
【0113】
工場における現在の製造データまたは工場における過去の製造データとしては、かかる工場において、現在製造しているか、過去製造した製品の種類、数、製造ラインの稼働状況(ON/OFFの頻度や、連続稼働時間など)などのうち1以上が挙げられる。
【0114】
なお、具体的な解析方法については、予測情報ごとに異なるため、追加装置決定手段の項において、予測情報ごとに具体的に説明する。
【0115】
(追加装置決定手段)
追加装置決定手段は、上述したデータ解析手段による解析結果から、工場施設が保有する製造装置から排出される排水の水質および排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、時期が変わるときに必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定するものである。
【0116】
予測情報は、上述したとおり、少なくとも製造装置から排出される排水の水質および排水を処理するための最適処理法を含むものであり、上述した過去の排水データから、IT技術や人工知能(AI)技術を用いて予測されるものである。
【0117】
かかる工場から排出される排水の水質は、過去の排水データとしての排水の量、水質(水処理を行う上で処理性能に影響し得る性質や物質濃度)、放流規制値、排水処理設備の運転条件(曝気量、DO、薬注量、pHなど)、発生汚泥量などのうち1以上を考慮して予測する。例えば、過去の同時期と同程度の製品を生産するならば、その過去の同時期と同じ排水の量、水質とすることができる。この際、かかる工場の商圏における気象データ、工場における現在の製造データ、工場における過去の製造データなどのうち1以上を用いて、時期が変わるときに必要となる種類および数の水処理装置を決定することにより、より正確な決定を行うことができる。
【0118】
その排水を処理するための最適処理法は、上述とおり予測した工場から排出される排水の水質を考慮して決定することができる。
【0119】
(水処理装置の貸出提案方法)
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案方法は、例えば上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて行うことができる方法である。具体的に、この水処理装置の貸出提案方法は、時期ごとに需要が変動する製品を製造する製造装置を保有する工場施設における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、工場施設が保有する製造装置から排出される排水の水質および排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、時期が変わるときに必要となる、種類および数の追加の水処理装置を決定する装置決定工程と、追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備えることを特徴とするものである。各工程の具体的な操作などは上述したので、ここでの説明は省略する。
【0120】
(予測システムおよび予測方法)
本実施形態に係る予測システムは、時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、工場施設が保有する製造装置から排出される排水の水質および排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備える。また、本実施形態に係る予測方法は、時期ごとに需要が変動する製品を製造する工場施設が保有する製品の製造装置における過去の排水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、工場施設が保有する製造装置から排出される排水の水質および排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備えることを特徴とするものである。本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、データ解析手段およびデータ解析工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法のデータ解析手段およびデータ解析工程と同一である。また、本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、予測手段および予測工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法の装置決定手段および装置決定工程の予測情報を得る手段および工程と同一である。したがって、ここでの説明は省略する。
【0121】
なお、これらにより得られた予測結果は、水処理装置の貸出に使用してもよいし、他の用途に使用してもよい。水処理装置の貸出に使用する場合において、工場施設のオペレータなどが、得られた予測結果に基づきコンピュータなどを用いずに水処理装置のレンタルを検討してもよい。
【0122】
〔4.貯槽または沈殿槽の沈殿物清掃の際の排水処理〕
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案システムは、貯槽または沈殿槽を備える工場施設における貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる追加の水処理装置を決定する追加装置決定手段と、追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0123】
各種の水や溶液などを貯留するための貯槽や、汚水中の懸濁物質を凝集沈殿するために用いる沈殿槽の底部には沈殿物が堆積している。これらの槽の機能を維持するために、沈殿物は少なくとも一定量が堆積された時点で除去する必要がある。この沈殿物の除去に際しては、これらの槽を洗浄するための洗浄水が多量に排出されるため、一時的に、工場施設が通常の経済活動のために備える水処理能力を超えてその洗浄水を処理する必要が生じることもある。
【0124】
このような槽の清掃は、通常、内部の沈殿物量にかかわらず略一定の期間を置いて定期的に、決まった種類や量の水処理装置を借りるか、または、かかる工場施設が有する水処理設備の空きを調整するなどして行っている。ただし、所定の期間に堆積した沈殿物の量が通常よりも多い場合などには、予想外に多くの量の水処理が必要となることもある。
【0125】
しかしながら、このような不測の事態に備えた水処理能力を担保すべく水処理装置を、通常の経済活動で必要な量よりも余剰に備えると、メンテナンスや保管場所など、費用が増大し、非経済的である。なお、所定の期間に堆積した沈殿物の量が通常よりも少なく、その時点では必ずしも清掃が必要ない場合もあり、この場合でも非経済的である。そこで、上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて、事前に貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む要因データを解析して、水処理装置の故障リスクおよび更新優先順位を少なくとも含む予測情報を得て、少なくとも、予測情報および工場施設の水処理能力に基づき、必要な種類および数の水処理装置を決定する。そして、この情報に基づいて、水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する。
【0126】
(データ解析手段)
データ解析手段は、貯槽または沈殿槽を備える工場施設における貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するものである。
【0127】
要因データとしての貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データは、かかる貯槽に貯留する水または沈殿槽内で沈殿処理を施す水の流入水および流出水に関するデータである。流入・流出水データとしては、特に限定されないが、流入水および流出水中に含まれる懸濁物質の化学種、懸濁物質の濃度、流入・流出水量、貯槽内の形状、貯槽の有効容積、貯槽内の流入水の滞留時間、貯槽内の流速分布、貯槽内の温度分布などのうち1以上が挙げられる。
【0128】
また、要因データとしては、上述した流入・流出水データ以外に、貯槽または沈殿槽の仕様情報データ、過去の沈殿物の洗浄データのうちいずれか1以上をさらに含むことが好ましい。
【0129】
貯槽または沈殿槽の仕様情報データは、貯槽または沈殿槽の仕様に関するデータである。貯槽または沈殿槽の仕様情報データとしては、特に限定されないが、槽の形状、槽の大きさ、流入水の滞留時間、槽内の流速分布などのうち1以上を含むものである。
【0130】
過去の沈殿物の洗浄データとしては、貯槽または沈殿槽の特定の期間において、過去にかかる貯槽または沈殿槽の内部に堆積した沈殿物(汚泥など)の量や化学種、含水率、それを清掃するために発生した洗浄排水の量などのうち1以上が挙げられる。
【0131】
なお、具体的な解析方法については、予測情報ごとに異なるため、追加装置決定手段の項において、予測情報ごとに具体的に説明する。
【0132】
(追加装置決定手段)
追加装置決定手段は、上述したデータ解析手段による解析結果から、貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる追加の水処理装置を決定するものである。
【0133】
予測情報は、上述したとおり、少なくとも貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を含むものであり、上述した流入・流出水データから、IT技術や人工知能(AI)技術を用いて予測されるものである。
【0134】
貯槽または沈殿槽内に発生する堆積物量は、流入・流出水データとしての流入水および流出水中に含まれる懸濁物質の化学種、懸濁物質の濃度、水量などを考慮して予測される。具体的には、懸濁物質の化学種、懸濁物質の濃度および流入・流出水量について、量的関係から、貯槽または沈殿槽内に堆積している沈殿物の量が予測できる。
【0135】
また、洗浄排水を処理するための最適処理法は、流入水および流出水中に含まれる処理対象物質(懸濁物質、有機物、重金属など)の化学種、その量及びその濃度を考慮して特定できる。なお、流入水に含まれる懸濁物質について、何らかの化学反応が生じ得る場合、それによる化学変化を考慮してもよい。
【0136】
なお、以上のような水処理装置の貸出提案システムによれば、堆積物の量を予測できるので、貯槽または沈殿槽の掃除を行う適時なタイミングも予測できる。これにより、清掃費用を低減することもできる。
【0137】
(水処理装置の貸出提案方法)
本実施形態に係る水処理装置の貸出提案方法は、例えば上述した水処理装置の貸出提案システムを用いて行うことができる方法である。具体的に、この水処理装置の貸出提案方法は、貯槽または沈殿槽を備える工場施設における貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得るとともに、少なくとも、予測情報、および工場施設が保有する水処理装置の現状の水処理能力情報を考慮して、必要となる追加の水処理装置を決定する装置決定工程と、追加の水処理装置の一時的な貸出を、工場施設の責任者に提案する貸出提案工程と、を備えることを特徴とするものである。各工程の具体的な操作などは上述したので、ここでの説明は省略する。
【0138】
(予測システムおよび予測方法)
本実施形態に係る予測システムは、貯槽または沈殿槽を備える工場施設における貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析手段と、データ解析手段による解析結果から、貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測手段と、を備えることを特徴とするものである。また、本実施形態に係る予測方法は、貯槽または沈殿槽を備える工場施設における貯槽または沈殿槽内の流入・流出水データを少なくとも含む要因データを解析するデータ解析工程と、データ解析工程による解析結果から、貯槽または沈殿槽内に発生する沈殿物量およびそれを洗浄して発生する洗浄排水を処理するための最適処理法を少なくとも含む予測情報を得る予測工程と、を備えるものである。本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、データ解析手段およびデータ解析工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法のデータ解析手段およびデータ解析工程と同一である。また、本実施形態に係る予測システムおよび予測方法は、予測手段および予測工程が、上述した水処理装置の貸出提案システムおよび水処理装置の貸出提案方法の装置決定手段および装置決定工程の予測情報を得る手段および工程と同一である。したがって、ここでの説明は省略する。
【0139】
なお、これらにより得られた予測結果は、水処理装置の貸出に使用してもよいし、他の用途に使用してもよい。水処理装置の貸出に使用する場合において、工場施設のオペレータなどが、得られた予測結果に基づきコンピュータなどを用いずに水処理装置のレンタルを検討してもよい。